ワクチンの今を伝え、明日を考える専門情報誌

9
ワクチンの今を伝え、明日を考える専門情報誌
第9号
感染症の流行を追う
乳幼児期のRSウイルス感染症と
ワクチン開発状況
札幌医科大学医学部小児科学講座 教授
堤裕幸 先生
R S ウイルスは 年齢を問わず 顕 性 感 染を起こしますが、特に重 症化しやすい 乳 幼児 期の
感 染に注 意が必 要なウイルスです。
今回は乳幼児期の RS ウイルス感染症の発症動向やワクチン開発について、札幌医科大学
医学部 小児 科 学講座 教 授の堤 裕 幸 先 生に伺いました。
有し、G タンパクの構造の違いにより遺伝子型が決定され、
早まる RS ウイルス感染症の流行時期
A と B のサブグループに大きく分類されます。遺伝子レベ
ルで流行をみると 2 ~ 3 年ごとにサブグループが入れ替わる
RS ウイルス感染症は、乳幼児期の最も頻度の高い呼吸器
感染症で、1 歳までに約 60%、2 歳までにほぼ 100%の児
ことが特徴ですが、遺伝子型の違いは流行の大きさや季節
性の変化に関係していないと考えられています。
が RS ウイルスに感染するといわれています 。
1)
RS ウイルス感染症の臨床像と治療
これまで沖縄県を除く日本では、11 月から 1 月の冬期に
流行していましたが、近年は流行開始時期が早まり、夏場
から流行がみられるようになっています(図 1)
。この変化
RS ウイルス感染症は、1 回の感染で終生免疫が獲得さ
の原因はよくわかっていませんが、亜熱帯では通年にわたっ
れず、何度も感染と発病を繰り返します。ほかの多くのウ
て流行が続くことから、温暖化の影響が考えられています。
イルス感染症と異なり、母体からの移行抗体で感染を防
また、RS ウイルスはウイルス表面のエンベロープに細胞
御できないため、新生児期でも感染します。初感染の 70
への吸着に関与する large glycoprotein(G タンパク)と
~ 80%は咳嗽や鼻汁などの上気道症状(感冒様症状)のみ
感染細胞の融合に関係する fusion protein(F タンパク)を
で治癒しますが、20 ~ 30%は細気管支炎や肺炎といった
図 1 RSウイルス検出状況(小児科定点)
(報告数)
9,000
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2015 年12 月11日報告数
21
23
25
27
29
31
33
35
37
39
41
43
45
47
49
51
53(週)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html
下気道炎を起こします。1 ~ 2%は入院加療が必要となり、
ハイリスク児の RS ウイルス感染症予防
その数はわが国で年間 2 万人前後と試算されています 1)。
RS ウイルスによる下気道炎を早期に鑑別するポイント
RS ウイルス感 染 症が 重 症 化しやすい未 熟 児や新 生 児
として、「臨床症状」、「季節」、「年齢」の 3 つが挙げられま
慢性肺疾患などの基礎疾患をもつ乳幼児を対象として、
す。臨床症状は、感冒様症状の後、呼吸困難、喘鳴などの
2002 年に予防薬のパリビズマブが登場しました。これは
兆候がみられたら、RS ウイルスによる下気道炎の可能性
RS ウイルスの F タンパクに対する単クローン抗体製剤で、
があります(表 1)。また、RS ウイルスの流行のピークは現
投与方法としては、流行期に月 1 回筋肉注射を行います。
在も冬期であるため、この期間であれば感染を強く疑います。
臨床試験では RS ウイルス感染による入院が 55%低下した
さらに、罹患年齢としては 1 歳未満の乳児が多いといえま
ことが確認されています 1)。
す。とくに生後 1 か月未満の新生児期に下気道炎になると、
期待される RS ウイルスワクチンの開発
呼吸困難とともに無呼吸がみられ、突然死の原因ともなる
ので注意が必要です。
RS ウイルスの抗原検査は、2011 年 10 月より外来の乳
RS ウイルス感染症に対しては、これまで数々のワクチン
児にも保険適用となりました。RSウイルス感染症には不顕
開発が行われてきましたが、臨床応用には至っていません。
性感染や潜伏感染がないため、急性の呼吸器症状を呈し、
最初は 1960 年代に不活化ホルマリンワクチンが開発され
疑わしい条件にあてはまる患児には積極的に検査を行い、
ましたが、重症例や死亡例がみられたため、発売中止とな
早期に確定診断することが大切です。
りました。その後、経鼻生ワクチンへ開発の方向性がシフ
RS ウイルス感染症の治療は、基本的に対症療法です。
気管支炎、細気管支炎や肺炎に対しては、適切な輸液や喀
トしましたが、鼻詰まりや哺乳不良などの副反応がみられ、
さらなる弱毒化によるワクチン開発が検討されています。
痰溶解剤などで痰の排出を促し、患児自らの免疫力による
RS ウイルス感染症は生後 2 ~ 6 か月に最も重症化しやす
回復を待ちます。呼吸困難があれば酸素吸入、無呼吸には
いため、乳幼児を対象とした場合、ワクチンは生後数週間
キサンチン製剤投与を行います。
以内に接種する必要があります。しかし、乳幼児のワクチ
ン開発には、免疫の未熟性や母体移行抗体によるワクチン
効果の減弱といった問題を克服しなければなりません。
表 1 RSウイルス感染症の臨床病型
そうした背景を踏まえ、近年、世界中で多角的なアプ
上気道感染症
鼻漏、せき、咽頭炎、熱
(熱はない場合もある)
喉頭気管支炎
喘鳴、クループぜき、ゼイゼイはなし
細気管支炎
ゼイゼイ、陥没呼吸、胸部 X 線で肺の過膨張
して、臨床試験のガイドライン整備を行っています 2)。こ
肺炎
ラ音、息切れ、X 線で肺硬変所見
うした取り組みや長年の研究が実を結び、近い将来、乳
ローチからワクチン開発が行われています(図 2)2)。また、
WHO では 5 ~ 10 年以内の RS ワクチンの臨床応用を目指
堤裕幸ほか. チャイルドヘルス. 2015; 18(2): 103-106.
幼児に福音がもたらされることが期待されます。
図 2 現在開発中のRSウイルスワクチンの種類
弱毒生
ワクチン
全粒子不活化
ワクチン
粒子ベース
ワクチン
病 原 体 を 弱 毒 化 し た ワ ク チ ン。 生 体
内で増殖する
ウイルス粒子全体を不活化し、精製し
たワクチン
ウイルス様粒子(VLP)、ビロソーム、
ナノ粒子などの技術を用いたワクチン
サブユニット
ワクチン
核酸
ワクチン
遺伝子組み換え
ベクターワクチン
タンパクなど、病 原 体 か ら 免 疫 誘 導
に 優 れ た 成 分 を 抽 出 し、 抗 原 とした
ワクチン
病原体の核酸(DNA/RNA)を宿主の
細 胞 内 に 送 り 込 む と、 宿 主 細 胞 内 で
抗 原 が 発 現 す る。 そ の 抗 原 に 対 す る
免疫を誘導するワクチン
弱 毒 化 ベ ク ターウ イ ル ス に 病 原 体 の
遺 伝 子 を 組 み 込 み、 抗 原 としたワク
チン
Modjarrad K, et al. Vaccine. 2015 Jun 20. [Epub ahead of print] より作成
参考文献 1)堤裕幸ほか. チャイルドヘルス. 2015; 18 (2): 103-106. 2)Modjarrad K, et al. Vaccine. 2015 Jun 20. pii: S0264-410X (15) 00767-7. [Epub ahead of print]
ワクチン行政
ペリネイタルビジット事業の取り組みと意義
「ワクチン行政Watching」では、政策としての感染症対策のポイントと現場に求められる課題について専門家に伺います。
今回は「ペリネイタルビジット事業」をテーマに、 大分県と北九州市の取り組みについてお伺いしました。
■ ペリネイタルビジット(PV)事業とは
■ PV 事業指導内容(大分県および北九州市の場合)
出産前後の妊産婦が産科医から紹介を
・対 象 者 :妊娠 28 週から産後 56 日までの妊産婦とその家族(初産婦
は全員、経産婦は指導を必要とする、もしくは希望する場合)
・指導時間:日祭日、夜間、健診・予防接種の時間帯など、妊産婦に感染
症のリスクが生じない時間帯に 30 分~ 1 時間(予約制)
・指導内容:小児保健指導
受け、小児医療機関で小児科医から個
別に保健指導を受ける事業。保護者が
早期にかかりつけ医を確保し、育児不
安を解消することを目的としている。
大分県の取り組み
石和こどもクリニック 院長
石和俊 先生
-大分県の事業開始の経緯と変遷につ
いて教えてください。
2001年度のモデル事業をきっかけに全
県事業へと広がり、現在では行政と医師
会が協力して事業に取り組んでいます。
※ 指導は小児科指導ガイドラインに基づいて実施。保護者にはパンフレットを渡し、指導内容の均一化を図っている。
拠出し、事業を継続しました。その際、
PV 事業では、30分~1時間かけて保健
婦に限らず産後 56 日までの産婦に拡大
指導を行うため、日常診療では把握でき
し、ペリネイタルビジット(周産期小児
ない家庭環境などについても詳細に情報
科指導)事業としました。
収集することができ、より的確な指導が
2003 年度に大分市・別府市が PV を
行えます。また、お互いの人柄を知るこ
事業化したのを始め、その後も事業化す
とができるため、保護者との信頼関係構
る市町村が増加し、現在では県内 18 市
築にも一役買っています。
町村のうち 11 市町村で事業化が達成さ
PV事業全利用者を対象としたアンケー
れています。これらの11市町村、大分県、
トでは、毎年約 95%の利用者が満足して
大分県医師会、大分県産婦人科医会、大
いるとの結果が出ており、子育てに不安を
分県小児科医会が協力して事業に取り組
抱える妊産婦に安心感を与えていること
んでいます(図 1)。
が証明されました。特にワクチン接種につ
図 1 大分県ペリネイタルビジッ
ト事業概念図、流れ図
産科
保健指導」のモデル事業を、米国の取り
月間の実施期間ではありましたが、研修
会を開催して事業の理解浸透を図り、多
くの成果を得ることができました。モデ
ル事業終了とともに助成はなくなりま
小児科面談
希望
説明
紹介状
2001 年度に医師会単位で全国的に行い
紹介
指導票送付
組みを参考に、1992 年度市町村単位で、
モデル事業に参加しました。わずか 7 か
の信頼関係を築くことができます。
事業を利用しやすいように、対象者を妊
保健指導を個別に受ける「出産前小児
大分県は 2001 年度に全県事業として
的確な保健指導を行える上、保護者と
科医会・大分県小児科医会から予算を
わが国では、妊婦が小児科医から育児
ました。
- PV 事業の意義を教えてください。
したが、大分県医師会・大分県産婦人
直接連携
紹
介
状
送
付
小児科
訪問
指導
面談
妊産婦
訪問
直接連携
指
導
票
送
付
支援
市町村(保健師)
直
接
支
援
PV・ヘルシー専門部会(月1 回)
大分市・別府市・杵築市
要支援例検討会
情報交換、事業の方向性の議論
日田市・日出町・由布市・豊後高田市
臼杵市・津久見市・玖珠町・九重町
大分県(その他市町村)
症例チェック
検討事例選択
大分県医師会
東保裕の介 . 母子保健情報 2013; (67): 51-57.
いては70%の利用者が「一番役に立った」
健指導終了時には小児科医が指導報告
と回答しており、当院でも PV 事業を利用
書を作成し、これらの情報を産科医・小
した妊産婦はワクチンのスケジュールや接
児科医、大分県医師会、行政が共有する
種意義について時間をかけて説明できる
体制を整えています。何らかの支援が必
らなる利用者の増加を目指します。
ため、予約から接種に至る流れが非常に
要と判断された妊産婦については、毎
ほとんどの妊産婦が「PV を受けてよ
スムーズであるとの実感があります。
月 開 催 される専門部会で、支援の方法
かった」と満足度が高い一方で、事業を
を検討しています。この専門部会には、
利用する妊産婦がまだ少ないという現
-大分県の PV 事業について教えてく
産科医や小児科医のほかに、精神科医、
状があります。小児科保健指導数は年間
産科医、小児科医、行政の連携により、
大分県健康対策課・子育て支援課、保
800 名程度で、これは大分県の初産婦の
健師、助産師、児童相談所職員などが
15 ~ 20%と推定されます。PV 事業の
参加し、これらのハイリスク事例への対
さらなる普及には、より覚えやすい事業
応 に つ い て 検 討 が 行われます。また、
名への改変や新たな PR 活動の検討が必
大分県の PV は、産科医や助産師から
年に一度、事業推進委員会、意見交換会
要だと考えられます。
の「 PV を受けてみませんか」との勧奨か
を開催し、PV 事業の推進や今後の事業
大分県で 15 年間、PV 事業が継続され
ら始まります。PV 事業を実施している
の方向性について意見交換する場を設
てきた背景には、産科医と小児科医の事
市町村では、母子手帳交付時に保健師も
けています。大分県と、事業化された市
業に対する理解と熱意、お母さん方の「受
勧奨を行っています。
町村の行 政 担当者も出席するため、課
けてよかった」との声があります。多くの
また連携して妊産婦を支援するために、
題への対応が短時間かつスムーズに行
関係者の協力の下に、事業のさらなる改
小児科訪問時には産科医が紹介状を、保
われるメリットがあります。
善・普及を図っていきたいと思います。
は小倉小児科医会より拠出し、2006 年
した結果と考えています。
ださい。
妊産婦が PV 事業を利用しやすい環境
を提供しています。
北九州市の取り組み
意義について教えてください。
大分県の PV 事業を参考にした結果、ワ
クチン接種率向上にも貢献しています。
吉田雄司先生
望について教えてください。
事業名や PR 方法の再検討により、さ
にスタートしました。
-北九州市小倉地区の PV 事業とその
よしだ小児科医院 院長
-大分県の PV 事業の今後の課題と展
-北九州市の PV 事業の課題と今後の
展望について教えてください。
2015 年 4 月から PV 事業が北九州市
全域に拡大されました。今後は公費助
成も受けられるよう尽力していきます。
北九州市小倉地区の PV 事業の取り組
PV 事業は 2015 年 4 月から、北九州市
みは、利用対象者、指導内容、産科や医
医師会、北九州市産婦人科医会、北九州
師会へのフィードバック方法など大分県
地区小児科医会の共同事業となりました。
を参考にしています。実施主体は小倉産
産科医と小児科医のより一層の連携強化
婦人科医会と小倉小児科医会であり、残
が望まれ、今後は全市で顔の見える関係
-北九州市の PV 事業開始の経緯につ
念ながら現時点で北九州市からの公費
を維持する必要があります。また、生後
2006年に北九州市小倉地区でパイロッ
助成はありません。
4 か月までの乳児がいる家庭を保健師な
いて教えてください。
ト的に事業を再開しました。
利用者を対象としたアンケートで「最も
どが全戸訪問する「のびのび赤ちゃん訪
役に立った」として挙げられているのは、
問」や妊娠期からの養育支援「ハローベ
北九州市では 1996 年に北九州市医師
大分県同様「ワクチン接種」です。2011
ビーサポート」という公的事業との情報共
会の事業として「出産前後小児保健指導
年ごろから接種可能なワクチンの数が増
有や連携を図ることも課題といえます。
事業」が実施されましたが、残念ながら
えたことで、ワクチン接種の説明に割く
そうした課題を解決しつつ、今後、PV
ほとんど普及せず自然消滅しました。
時間が増えました。ワクチン接種という
事業が北九州市全域に浸透し、公費助成
その後、2004 年の北九州地区小児科
具体的な話をすることで、いきなり子育
も受けられるよう尽力したいと思います。
医会例会で、当時の大分県小児科医会会
て全般について話すよりもスムーズな
妊娠中から母親と信頼関係を築き、出
長であった東保裕の介先生が大分県の
指 導 につながっていると感じています。
産直後から子どもの成長を見守ることが
PV 事業の取り組みについて講演されま
北九州市では B 型肝炎ワクチンやロタウ
できるPV事業は、小児科医として喜ばし
した。それをきっかけに、北九州市小倉
イルスワクチンに対して公費助成はあり
く、誇りにつながる事業です。大分県や
地区(北区・南区)でPV事業をパイロット
ませんが、両ワクチンとも高い接種率を
北九州市での取り組みが、少しでも全国
的に再開することになりました。事業費
誇っています。これも PV 事業が功を奏
の先生方の参考になれば幸いです。
B型
世界の標準と異なっていたわが国の B 型肝炎対策。B 型肝炎ワ
クチンの定期接種化を前に、遺伝子型 C 由来ワクチンの異なる
-遺伝子
遺伝子型ウイルスに対する予防効果があきらかにされた。この
エビデンスが示した臨床上の意義について解説する。
1
世界の B 型肝炎ウイルスの遺伝子
型分布とワクチン使用状況は?
とでHBVに対する中和活性を示します。遺伝子型の違い
によりA-loop 内のアミノ酸配列がわずかに異なり、遺伝子
4)
。
型AとCでは3か所、
異なることがわかっています
(図1)
アミノ酸配列が異なることで、他の遺伝子型の抗体との
B型肝炎ウイルス(HBV)は遺伝子型によってA~Hの8 種
結合力がわずかに低下し、中和活性に影響を及ぼすため、
類に大別され、その分布状況は地域ごとに偏りがあり 、
遺伝子型 C 由来のワクチンが遺伝子型 A の HBV の感染
わが国では遺伝子型 C の HBVが多いことが知られてい
防御にどの程度効果があるかを実験で検証しました。
1)
ます。国内の HBV感染対策は、HBVキャリアの母親から
産まれた新生児の垂直感染予防のためにグロブリン製剤
およびワクチンを接種する母子感染防止事業により、一定
の効果を示してきました。しかし、近年、海外から遺伝子
型 A の HBV が流入し、水平感染による急性肝炎が都市
圏を中心に増加しています 2)。遺伝子型 AのHBVは遺伝
子型 C よりも成人でも慢性化しやすく、10% が慢性肝炎
に移行し、肝硬変や肝臓がんのリスクが高まることから
図 1 HBV 抗原のA-loopの構造とアミノ酸配列
HBs 表面抗原の A-loop(抗体が認識する部位)
ウイルス表面の
HBs 抗原
抗体
A-loop
L1: 104-120
L2: 108-123
L3: 135-144
C1: 123-137
L4: 149-163
C2: 139-148
A-loop 内のアミノ酸配列(123-148)
ビームゲン ®
ヘプタバックス ®
問題視されています 3)。このような背景から、母子感染予
遺伝子型 A
防だけではなく水平感染対策の必要性が高まり、わが
国でもようやく、定期接種化が議論され始めました。
遺伝子型 C
遺伝子型AとCでは、A-loop 内のアミノ酸配列は3か所のみ異なる
2015年1月15日 第 6 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料一部改変
2
遺伝子型 C 由来ワクチンは、
遺伝子型 A ウイルスに有効か?
② 遺伝子型 C 由来ワクチンの遺伝子型 A ウイルスの
感染防御能の検討
遺伝子型 C 由来のワクチンを接種した人から得られ、
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基
最も中和活性が高いことが確認されている 2 種類のモノ
本方針部会では、その前身である感染症分科会予防接種
クローナル抗体(116 抗体、478 抗体)と、HBV 感染源
部会を含め、2010 年のファクトシート作成以降、HB ワ
とを混合したものを、ヒト肝細胞を持つ(置換)キメラマ
クチンの定期接種化を検討し、国内で使用可能な 2 種類
ウスに投与した時の感染防御反応を検討しました。使用
のワクチン、国内開発の遺伝子型 C 由来のワクチン(ビー
した HBV 感染源の遺伝子型は A と C、そしてワクチン
ムゲン 注 0.25mL・0.5mL)と海外で主に使用されてい
エスケープ株として知られる C-145R 変異株 *です。そ
る遺伝子型 A 由来のワクチン(ヘプタバックス® -Ⅱ)の異
の結果、遺伝子型 C 由来の 116 抗体、478 抗体は、遺伝
なる遺伝子型への予防効果について検討・審議を行って
子型 C のみならず遺伝子型 A の感染も 100% 防御する
きました。アジア諸国は遺伝子型Cの分布が多いものの、
ことが示されました。さらに、478 抗体では、エスケー
遺伝子型 C 由来のワクチンは、日本や韓国といった限ら
プ変異株 C-145R の感染も防御しました(図 2)4, 5)。
®
れた地域でしか使用されていないため、海外に多い遺伝
子型 A の HBV の感染予防効果については十分なエビデ
③ 感染防御が可能な HBs 抗体価の検討
ンスがありませんでした。このため、遺伝子型 C 由来の
さらに、HBs 抗体価がどの程度あれば異なる遺伝子
ワクチンの遺伝子型 A ウイルスに対する予防効果につい
型の感染を防御できるか、定量的な検討を in vitro で
て新たな検討を行い、効果を実証しました。
行いました。HBV と抗体を混合してから培養細胞に感
① HBV 抗体の中和活性に対する遺伝子型の影響
染させるキメラマウスの感染実験と同条件の場合と、
抗体と肝細胞を混合し、その後に HBV を感染させるヒ
HBワクチン接種によってできる抗体は、HBV表面抗原
トの体内での反応により近い条件で行った場合の 2 つ
の A-loopと呼ばれる部位を認識し、特異的に結合するこ
の方法で検討しました。どちらの方法でも遺伝子型 C
肝炎ワクチンの
定期接種化
に向けて
型が異なるウイルスに対する B 型肝炎ワクチンの有効性-
C-145R:ワクチン
エスケープ変異株
■キメラマウスの感染実験と同条件
116 抗体
478 抗体
抗体と感染源を混合
ヒト肝細胞に置換された
キメラマウスに感染 (10 4 copies/body)
HBV
HBV (( 感染源
感染源 ))
遺伝子型
遺伝子型
HBsAb ( 遺伝子型 C 由来 )
116
116 抗体
抗体
*
(1μg
(1μg */body)
/body)
n=3
n=3
100%
n=3
100%
A
A
n=3
n=3
100%
n=3
100%
0%
n=3
100%
n=3
n=3
抗体1μg あたり 689.3mIU、
*
**
37̊C
2 時間混合
■ヒト体内の再現条件
478 抗体
**
(1μg **
/body)
C
C
C-145R
C-145R
120
100
80
60
40
20
0
37̊C
2 時間
120
100
80
60
40
20
0
ヒト肝細胞培養+478 抗体混合→
HBV 遺伝子型 A、C の感染防御
818.6mIU ( 富士レビオルミパルスで測定 )
%
遺伝子型 C
遺伝子型 A
478 抗体
Hamada -Tsutsumi S. et al. PLoS One. 2015; 10 (2) e0118062.
5.5 mIU
0.55 mIU
*
{
防御作用
*
*
HBs 抗体
ビームゲン ® 遺伝子型 C由来
モノクローナル抗体
図 3 遺伝子型 C 由来ワクチン由来抗体によるHBV 感染
Ctrl
550 mIU *
55 mIU *
HBV 感染源
遺伝子型 C or A
or C-145R*
0.55 mIU
遺伝子型 C 由来抗体のHBV 感染防御作用
*
*
*
図 2 ヒト肝細胞キメラマウスにおける
Ctrl
550 mIU *
55 mIU *
5.5 mIU *
478 抗体
2015年1月15日 第 6 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料
で完全に防御、遺伝子型 A に対しては 5.5mIU で 90%
3
防御、55mIU で完 全 に 防 御 できることがわかりまし
定期接種の大きな目的の一つは、水平感染の予防で
た(図 3) 。この結果は、ある程度抗体価があれば遺
す。HBVは血液や唾液などあらゆる体液から感染する
伝子型 C 由来のワクチンでも遺伝子型 A のウイルスを
ため、HBV感染に気付いていない父親からの感染は年
防御できることを表しています。55mIU という抗体価
間500人に及ぶともいわれており6)、乳児への定期接種
は、一般的なワクチン接種で十分獲得できる量であり、
化が実現することで家族内感染や保育園での集団感染な
特に小児期では 3 回接種後の抗体価は 1,000mIU/mL
ど水平感染の予防が期待されています。
を超えることも珍しくありません。
現在検討されている定期接種の対象は乳児のみです
ワクチン由来の478 抗体を 10 倍ずつ希釈し、各濃度で
遺伝子型 C と A の HBV 感 染 を ど の 程 度 防 御 できるか
を示しました。その結果、遺伝子型 Cに対しては5.5mIU
4, 5)
定期接種化のメリットと
今後の課題は?
また、実際に遺伝子型 C 由来ワクチン接種者 13 人の
が、乳児期接種で予防効果と安全面で実績を作った上
遺伝子型 A と C ペプチドに対する反応性を検討したとこ
で、将来的には思春期以降のキャッチアップ接種の定期
ろ、接種されたワクチンの遺伝子型に依存せずに HBs
接種化や成人等への啓発に広げていく必要があると考え
抗原と反応することが示されました 。
ています。
4)
これら複数の検討により、予防接種基本方針部会では、
遺伝子型 C 由来ワクチンが遺伝子型 A にも十分な効果が
期待できるとし、仮に国民に対して広く接種機会を提供
する場合、遺伝子型 C 由来、A 由来のどちらのワクチン
の選択も可能と結論付け、2015 年 1 月に定期接種化の
方針を決定しました。ただし、引き続き、実施にあたっ
てのより具体的な検討などが必要とされています。
解説
名古屋市立大学大学院
医学研究科 教授
肝疾患センター 副センター長
中央臨床検査部 部長
田中靖人 先生
参考文献 1)Kurbanov F, Tanaka Y. et al. Hepatol. Res. 2010; 40(1): 14-30. 2)Tamada Y, et al. Gut. 2012; 61(5): 765-773 3)Ito K, et al. Hepatology.
2014; 59(1): 89 -97. 4)2015 年 1 月 15 日 第 6 回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会資料 5)Hamada-Tsutsumi S. et al. PLoS One. 2015; 10(2): e0118062.
6)田中靖人ほか . 肝臓 . 2009; 50(10): 598-604.
*C-145R 変異株:ワクチンを接種しても感染してしまう変異が入っている株のこと。A-loop のアミノ酸配列 C-145 の1か所だけに変異が起こっているだけだが構造が大きく変わり、抗体が結合しにくいことが知られている。
日常診療
Q
ワクチン接種に関する
日常の疑問に、
エキスパートが答えます。
四種混合ワクチン
(DPT-IPV)
についての Q&A
2015 年 12 月に新 し い 四 種 混 合 ワクチン(DPT-IPV)が
発売されました。その臨床上の意義を教えてください。
A: 2015 年 12 月 に 新 し く 発 売 さ
束したことに伴い、OP V 接 種によ
れた四種混合(DPT-IPV)ワクチン、
り数百万接種に 1 例程度の頻度でみ
スクエアキッズ ® は、不活化ポリオ
られるワクチン関 連 麻 痺 (VAPP)
ワクチン(IPV)として、世界各国で豊
の問題が相対的に大きくなり、世界
富な使用実績があるソークワクチン
各国で OPV から IPV へ の切り替え
を含有していることが特徴です。
が進んでいます。そ の 際、迅速な導
ソークワクチンは、1955 年に J.Salk
入に至るのは世界で豊富な使用実績
博士が野生株ポリオウイルスを不活
をもつソークワクチンです 2)。
化することによって、開発しました。
ワクチン接種は健康な子どもを病気
1961 年 に 経 口 生 ポ リ オ ワ ク チ ン
から守る手段です。臨床試験により
(OPV)が発売されると、免 疫 誘 導
長期にわたる有効性および安全性
に 優 れ、 集 団 接 種 が 容 易 で 安 価 な
が 確認されていることはもちろん、
OPV が 一 時 主 流 と な り ま し た が、
長年にわたり世界各国で接種され続
オランダや北欧諸国は、1980 年 代
けてきた実績から、安心感と信頼感
に強化・改良されたソークワクチン
を得られることの意義は大きいと考
(enhanced potency IPV/eIPV)
えます。安 定 供 給 の 面 か ら み て も 、
の導入を経て、一貫してソークワク
ソークワクチンを含む四種混合ワク
チンでポリオから国民を守り、発 症
チンが日本で発売されたことは、歓
数をゼロにした経緯があります 。
迎すべきことだといえます。
1)
回答
川崎医科大学
小児科学教室 教授
また、1980 年代にポリオ流行が収
中野貴司 先生
Q
DPT-IPV に続く混合ワクチンの
わが国での展望を教えてください。
A:米国や欧州諸国など海外では、すでに 5 種混合ワクチンや 6 種混合
ワクチン(DPT-IPV-Hib-HBV)が採用されている国もあります。混合
ワクチンは抗体価が上がりにくいコンポーネントがあること 4)や一時供
給が滞った 5)との課題も報告されていますが、少ない接種回数で複数の
免疫を獲得できるため、保護者や子どもたちの負担を軽減でき、接種率
が向上するとの報告もあります 6)。課題解決の方法は模索する必要があ
りますが、今後、わが国でも臨床上意義の大きい混合ワクチンの開発が
さらに進むことが期待されています。
Q
Q
D P T - I P V の 初 回 免 疫 時 の 注 意 点 を 教 えてください 。
A: 四種混合ワクチンで予防できる疾患
種 のワクチンだけでも、DPT-IPV の ほ
は、いずれも代表的な VPD です。特に
かにヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンな
百日せきは、低月齢の乳児で罹患した場
どがあり、接種スケジュールが立て込み
合に重症化のリスクが高い疾患です。ワ
ます。発症予防に十分な抗体価をより
クチン接種可能な生後 3 か月になったら、
早期に獲得するためにも、日本小児科学
できるだけ早く接種することが大切です。
会が推奨するように同時接種をすること
また、生後 3 ~ 5 か月の時期は、定期接
が望ましいと考えられます。
DPT-IPV の 1 歳児の追加免疫時の注意点を教えてください。
A:厚生労働科学研究による
など 1 歳から定期接種の対象
して、乳児健診や病気で受診
全国累積接種率調査 2014 年
となるワクチンとの同時接種
した際に母子手帳をチェック
度調査報告によると、DPT の
を提案し、通院の負担を軽減
し、未接種のワクチンがあれ
初回相当の接種率は生後 5 か
できるよう配慮するとよいと
ば接種を勧めることも有効と
月の時点で 86.87%であるの
考えられます。また、ワクチ
いえます。
に対し、追加免疫相当は生後
ン接種を理由に定期的に通院
最後に今回ワクチンが発売さ
24か月でようやく79.60%で、
し て もら う 方 法 も ありま す。
れるにあたって、覚えておき
ポリオ追加免疫相当も同様に
この方法であれば、医師と保
たいのは、新しい四種混合ワ
接種遅れがみられました 。
護者の信頼関係が築け、納得
クチンは既存のワクチンとの
追加免疫時の接種遅れを防ぐ
の上でワクチンを接種しても
互換性があると考えられてい
対策としては、保護者の事情
らえますし、小児科医として
る点です。接種遅れに気付い
に合わせたスケジュールを提
子どもの成長を細やかに見守
たら、既に接種しているワク
案するのがよいと考えられま
ることもできます。
チンの種類にとらわれること
す。例えば、両親が共働きで
さらに、追加免疫時の接種遅
なく、早めの接種をお勧めし
忙しい 場 合 に は、MR や 水 痘
れを防ぐもうひとつの対策と
ていただきたいと思います。
3)
参考文献 1)Murdin AD, et al. Vaccine. 1996; 14(8): 735-746. 2)WHO. Polio Eradication & Endgame Midterm Review July 2015. http://www.polioeradication.
org/Portals/0/Document/Resources/StrategyWork/GPEI-MTR_July2015.pdf 3)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「BCG ワ
クチン、3 種混合ワクチン(DPT)、4 種混合ワクチン(DPT-IPV)、ヒブワクチン(Hib)、小児用結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)、麻疹・風疹混合ワクチン(MR)1 期接種の全国
累積接種率調査 : 2014 年度調査報告」 4)Eskola J, et al. Lancet. 1999; 354(9195): 2063-2068. 5)UNICEF Supply Division, Pentavalent vaccine (DTwPHepBHib): Market & Supply Update, 2015 6)Baldo V, et al. Hum Vaccin Immunother. 2014; 10(1): 129-137.
ick
スペシャリスト
p
栃木県大田原市の乳幼児ワクチン接種率向上に向けた取り組み
けて働く母親が多く、子どもがロタウイル
と「接種ワクチン」のダブルチェックを実施
ス胃腸炎にかかると1 週間以上の登園停止
しています。また、接種前にお子さんを必ず
になるなど経済的・時間的負担が大きいと
フルネームで呼び、取り違え防止対策を行っ
考えたからです。その結果、2011 年のロタ
ています。次回予約時に接種年齢をしっか
ウイルスワクチン発売と同時に公費助成が
りチェックし、定期接種の対象から外れる
実現し、2014 年度の接種率(1 回目)は半
ような事態も避けています。
額自己負担にもかかわらず 87.3% を記録し
ました(表 1)
。当院でも、流行シーズンにロ
タウイルス胃腸炎の重症を疑う症例が著し
吉成小児科医院 院長
顔の見える関係で
医師会と行政が 連携
く減少し、ワクチン普及のインパクトの大
吉成仁見先生
きさを実感しています。
ワクチン接種を積極的に行っている
各領域のスペシャリストを取り上げ、
それぞれの具体的な取り組みを紹介します。
市内の各医 療 機関が 任意 接 種ワクチンの
関しても行政に公費助成を嘆願し、2012 年
啓 発を行ってきましたが、任意接種である
に公費助成が実現しています。
がゆえに保 護 者 へ 働きかけても接 種 率 は
吉成小児科医院での
今回は行政や医師会と連携を図り、
ワクチン接種に関する取り組み
向上に積極的に取り組んでいる
当院では、診察日の14~15時にワクチン
任意接種ワクチンなどワクチンの接種率
吉成小児科医院の吉成仁見先生に
お話をお聞きしました。
医師会からの働きかけで実現した
公費助成
大田原市で公費助成が行われる以前は、
その後、おたふくかぜ、水痘、B 型肝炎に
上がりませんでした。その経験から、公費
助成が何よりの PR であり、接種率向上に
つながると考え、医師会として行政へ情報
提供を懸命に行ってきました。
大田原市は市 民への情 報 提 供に熱心な
外来を設けています。近年はNPO法人「VPD
上、2014 年からは予防接種従事者を対象
を知って、子どもを守ろうの会」が提唱す
とした勉強会も開催しています。医師会と
る「ワクチンデビューは生後 2 か月の誕生日」
しても、年 1 回市長を招き合同で会議を実
が浸透したおかげで、お子さんが生後 2 か
施したり、医師会主催の講演会に行政担当
月前後で自主的にワクチン外来に来られる
者にも出席するように働きかけています。
保護者が増えました。初回接種時には、接
人口約 7 万 5 千人の大田原市は、我々医
大田原市は、2000 年に国に先駆けて高
種スケジュールを組み、ワクチンの接種意義
師と行 政 担当者が 顔を合わせる機 会も多
齢者にインフルエンザワクチンの公費助成
や助成の情報を提供しています。また、看
く、信頼関係を築きやすい恵まれた環境に
を行うなど、市民の健康管理に対して熱心
護師や事務スタッフもワクチンについて学び、
あるといえます。地域によって状況は異な
な自治体です。このような状況下で医師会は、
保護者への概要説明を担当しています。
ると思いますが、医師会と行政が共に考え
公費助成が得られやすい風土があると考え、
接種時に特に注意しているのは誤接種の
連携を図ることによって、子どもたちを守る
小児科領域で助成が望まれる任意接種ワク
防止です。当院では全例について「接種時期」
ワクチンが普及していくと考えています。
チンについて、積極的に行政に情報提供を
行ってきました。
まず、2009 年にはまだ任意接種であった
大田原市による任意接種を含めたワクチン普及・啓発の取り組み
ヒブワクチンについて、ワクチン導入によっ
て髄膜炎による死亡例が激減した米国のデー
行政から市民へのワクチン接種の情
員が直接保護者に接する機会にも、母
タを文書で提出し、公費助成の必要性を訴
報提供は、インターネットのほか、予防
子健康手帳の予防接種記録欄を確認
えました。それがきっかけとなり、2010 年
接種の概要を記載したリーフレットを
し、接種漏れを防ぐよう努めています。
の国主導による「子宮頸がん等ワクチン接種
出生届時に配布しています。その際に
緊急促進事業」開始前に、ヒブワクチンの公
任意接種のロタウイルスワクチンとB型
費助成を実現することができました。
肝炎ワクチンの公費助成についても案
続くロタウイルスワクチンについては、発
内しています。おたふくかぜワクチンの
売前から行政に働きかけを始めました。理由
公費助成については、1 歳から定期接
としては、大田原市は子どもを保育園に預
表 1 任意接種ワクチン接種状況
(2014年度)
種別
接種率(接種者/対象者)
ロタウイルス胃腸炎(1 回目)
87.3%(468/536)
おたふくかぜ(1 歳児)
81.2%(470/579)
B 型肝炎(0 歳児 1 回目)
84.1%(451/536)
種が始まる MR ワクチンの通知と一緒
にリーフレットを送付しています。
また新生児期に保健師や助産師が全
戸訪問するときや乳幼児健診時、保護
者が市役所を訪れたときなど、市の職
●任意接種ワクチンリーフレットと子育て支援券
子育て支援券は市が市民向けに販売。市内取
扱店で利用すると、取扱店と市が利用額の 1%
相当をそれぞれ積み立て、ワクチン接種をはじ
めとする子育て支援に利用されています。
特別記事
地方衛生研究所の
感染症サーベイランスに果たす役割
愛知県衛生研究所 所長 皆川洋子 先生
地方衛生研究所(地衛研)は、地域の公
立感染症研究所(感染研)は全国の医療
患 者 情 報 が 報 告され ています。過 去 情
衆衛生の科学的かつ技術的中核機関と
機関から保健所を介して報告される患者
報の蓄 積 が 流 行の立ち上がりや 規 模の
して、調査研究・試験検査・情報解析
等を実施しています。地衛研が感染症
対策に果たす役割について、愛知県衛
生研究所の皆川洋子先生に伺いました。
●
情報の把握・分析を行い、感染症の発生
予測に大変役立っています。さらに、患
状況について週報・月報・年報等の形で
者 数 データの 解 析 は 公 衆 衛 生 施 策 の 検
情報を発信しています。地衛研は、県・
証にも有用であり、例えばワクチンの導
市単位で患者情報の解析を行うとともに
入 効 果 の 判 断 根 拠 となりま す。最 近 の
病 原 体 の 検 査 を実 施し、地 域 に おけ る
例としては、水 痘 患 者 報 告 数 の 大 幅 な
流 行 状 況 情 報 等を発 信する役 割を担っ
減少があげられます。
ま た、 全 数 把 握 感 染 症 に つ い て は、
ています(図 1)。
専門的知識と技術で
地域保健を支える地方衛生研究所
2016 年 4 月の 改 正 感 染 症 法 全 面 施
医 療 機関から報 告され た患 者 情 報を分
行 後は、ウイル スの 分 離 同 定 検 査 で 得
析し、必要に応じて医療機関や地域に注
られ る病 原 体 情 報の 収 集 等において 地
意 喚 起 す ることで、感 染 拡 大 予 防 等 の
県と政令指定都市、全国 80 か所にあり
衛研の果たす役割はさらに増すことが予
対応につながることが期待されます。
ます。国の定める地方衛生研究所設置要
想されます。
地方衛生研究所(地衛研)は、各都道府
こ の よ うに 医 療 機 関、 地 域 の 保 健 所
迅 速 か つ 正 確 な 検 査 が 全 国で 実 施 さ
綱に基づき、感染症だけでなく食品、医
や 地 衛 研、感 染 研 が 協 力して 実 施 する
薬品、水などに関わる「調査 研究」、公
れるには、感 染 研 によ る 検 査 法 の 提 示
サーベイランスから得られるデータは、
衆 衛 生 行 政 の 基 盤となる科 学 的・技 術
と 地 衛 研 ネット ワーク の 連 携 が 不 可 欠
感染症対策に役立てられています。
的データを提供する「試験検査」、感染症
で す。 現 場にあたる地 衛 研では 従 来の
や食品衛生などの情報を収集・解析し、
検 査 法 をすり抜ける突 然 変 異ウイル ス
わかりやすい形で提供する「情報収集・
等を把 握した場 合 等は 迅 速に 感 染 研に
解析・提供」、地域保健関係職員や公衆
情報を送り、一方、感染研は変異株もカ
感染症の予防および拡散防止に
地衛研が果たす責務
感 染 症 には 毎 年 あ るい は 数 年 間隔 で
衛生を学ぶ学生等への「研修指導」とい
バーできる検査法を提示するなどして、
流行を繰り返すものがあり、サーベイラ
う 4 つの役割を担っています。
感染症対策において連携しています。
ンスは感染症のトレンドを読み取ったり
感染症サーベイランスに
地衛研が果たす役割
感染症サーベイランス実施の意義
定 点 把 握 対 象 の 感 染 症 のうち インフ
感染症発生動向調査(サーベイランス)
は、感染症対策の柱のひとつであり、国
病 原 体 変 遷 の 把 握に 有 用で す。例えば
肺炎球菌の血清型変化やオセルタミビル
耐性インフルエンザウイルスの把握等、
ルエンザについては、全国で 5,000 以
年 々 変 化 する病 原 体 の 情 報 収 集・発 信
上 の 定 点 医 療 機 関より、毎 週 欠 か さず
が行われています。
また、各地衛研がそれぞれ得意とする
病 原 体に関する調査 研 究の継 続も重 要
図 1 感染症サーベイランスに果たす地衛研の役割
IDWR・IASR 発信
厚生労働省
国立感染症研究所
検出情報等報告
①一類感染症の場合
②検出困難の場合
③集団発生の場合
地衛研
です。例えば、愛知県では長年ピコルナ
患者、一般市民
医療機関
病原体検索用検体
患者発生情報
ウイルス研究が行われ、アイチウイルス
病原体検出
患者発生情報
発信
報告
自治体本庁、保健所 による積極的疫学調査
衛生研究所(愛知県、名古屋市、三重県、岐阜県、・・・)
IDWR(感染症発生動向調査週報)
IASR(病原微生物検出情報)
やヒトパレコウイルス 3 型が発見されて
います。地衛研では、地域における10 年
単位の長期的な感染症の変遷を把握し、
対 策 を提 言 できる人 材を 確 保 すること
が理想です。
今後も全国の地衛研や感染研とのネッ
トワークを維持すると同時に、地域医師
会とも顔の見える関係を保ち、地域公衆
衛 生の立 場から感 染 症 予防 や 拡 散防 止
に役割を果たしていきたいと考えます。