中国における CBM 利用を取り入れた CCS の導入による エネルギー

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
中国における
中国における CBM 利用を
利用を取り入れた CCS の導入による
導入による
エネルギーシステム分析
エネルギーシステム分析
Energy systems analysis of CCS systems combining with CBM in China up to 2050
李 哲 松
*
Cheol Song Lee
村 田 晃 伸
Akinobu Murata
*
近 藤 康 彦
Yasuhiko Kondo
**
内 山 洋 司
***
Yohji Uchiyama
(原稿受付日 2008 年 6 月 11 日,受理日 2009 年 6 月 5 日)
This paper presents the result of analyzing the effects of carbon dioxide (CO2) capture and storage systems (CCS) combining
with coal bed methane (CBM) utilization on energy systems of China up to 2050 by using GOAL model. The model is a
linear programming optimal method, which covers the whole energy systems of seven Asian countries from mining,
transportation, and conversion to final demand. The authors assume seven-scenarios which consist of a Base scenario and six
CO2 reduction scenarios of with CCS and without CCS with 10%, 20%, and 30% reduction of CO2 emission per capita
against the level of Base scenario from 2010. Based on the result of the analysis, It is clarified that integrated gasification coal
power plant (IGCC) with CCS is the most economic technology among assumed technologies, such as pulverized coal power
plant (PC), IGCC and natural gas combined cycle power plant (NGCC), under the constraint of CO2 emissions in China. In
the case of non-CCS, the share of NGCC in 2050 becomes 10%, 50% and 68% in total electricity supply (TES). Introducing
CCS can reduce the amount of installation of NGCC and the share of IGCC with CCS in 2050 becomes 7%, 15% and 22%
in TES respectively.
Keywords: Energy systems analysis, Carbon Capture and Storage, Coal bed methane, China
1.まえがき
効率を大幅に上げ,石炭発電での汚染物質の排出をゼロに
近づけようとすることを目標としている.
地球レベルでの温室効果ガス削減の努力が様々な方法で
そこで,本研究では,中国における炭素地中隔離技術シ
実施されている中で,中国やインドを始めとする開発途上
ステム(CCS)と CBM 利用技術の導入によるエネルギー
国が経済発展しながら,いかに二酸化炭素(CO2)の排出を
システムへの影響を最適化モデルにより分析・評価するこ
削減できるかが重要な課題である.特に,中国は 2005 年時
とを目的とする.炭素地中隔離技術や CBM 利用技術に関
点で世界の CO2 排出量の 19%を占めている.中国では政府
して,これらの技術ごとの経済性や合理性などの分析は
が経済発展に伴うエネルギー政策としてエネルギー源の多
IPCC Special Report 2)を始め,様々な研究報告が出されてい
様化を図っている.しかし,旺盛なエネルギー需要に対応
るが,これらと比べて,本研究には中国における CCS 技術
するためには,今後とも,石炭と石油を中心としたエネル
と CBM 技術の導入の影響をエネルギーシステム全体の観
ギー供給形態を取らざるを得ない.そこで中国政府は国産
点から評価・分析した点に特徴がある.
石炭の有効利用と二酸化炭素排出量の削減を目的として,
Coal bed methane(CBM)に注目し,温室効果ガスの一つであ
2.モデルの概要
モデルの概要
る二酸化炭素を地中隔離すると同時に,この CBM を回収
2.1 アジア GOAL モデルと分析対象地域
モデルと分析対象地域
してガス化燃料として利用する計画を立案し,1980 年代か
ら 2004 年までに中国国内の約 287 箇所の炭素貯蔵庫につい
アジア GOAL モデルはアジア地域を対象とする線形計画
法に基づいた”Bottom-up”最適化モデルである 3).このモデ
1)
てテストを行ってきた .
また,近年に「中国エネルギー白書」や「中国 21 世紀議
ルの特徴は図1のように多国間におけるエネルギー資源の
定」(アジェンダ 21)に優先プロジェクトとして「グリー
流れを考慮し,各地域/国におけるエネルギーフローを燃料
ン石炭発電」プログラムの計画が発表されて,石炭発電の
採掘から,転換,輸送,利用に至るプロセスについて,入
出力,エネルギー価格,また導入される技術のコスト,設
備利用率,耐用年数,利用開始可能時期などの技術データ
*
(独)産業技術総合研究所
〒305-8568 茨城県つくば市梅園 1-1-1 つくば中央第二事業所
**
(独)産業技術総合研究所
〒305-8569 茨城県つくば市小野川 16-1 つくば西事業所
***
筑波大学システム情報工学研究科教授
〒305-8573 茨城県つくば市天王台 1-1-1
に基づいて動態的分析が可能な点である.
第 24 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスの
内容をもとに作成されたもの
1
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
2.2 環境負荷
他の地域・国へ / 他の地域・国から
環境負荷としては,採掘,転換,サブ地域間輸送および
地域の境界
国際エネルギー輸送,最終利用の各段階における CO2 とメ
輸送
一次エネルギー生産
石炭
石油
省エネルギー
転換
ャルを用いて CO2 排出量に換算し,地球温暖化ガス排出総
部門及び
精製
天然ガス
タンの排出量を計算する.メタン排出量は温暖化ポテンシ
量を CO2 排出換算値として表現する.
エネルギー
発電
2.3 目的関数
種別需要
再生可能
最適化の目的関数は,総システム費用であり,これを最
輸送
ウラン
輸送
小化する.式(2)で示すとおりに,総エネルギーシステム費
用は各地域内におけるエネルギーシステム費用とエネルギ
他の地域・国へ / 他の地域・国から
図 1.
ー輸出入の収支の総和とする.各技術のコストを第一期の
2000 年に合わせるために,2000 年基準の GDP デフレータ
エネルギーシステムフロー
ーを用いる.
­
½
TCOST = ¦ ®¦ λ (t ) × ( NC n (t ) + TC n (t ) )¾ ÷ GDFn
n ¯ t
¿
対象地域はアジア諸国 7 カ国(日本,中国,インドシア,
…(2)
マレーシア,フィリッピン,シンガポール,タイ)とし,
TCOST:総システム費用(百万 USD)
中国は表1で説明する 3 地域に,インドネシアは 2 地域に
λ(t):t 期の現在価値換算係数
分割している.分析期間は 1998 年∼2052 年とし,近未来
NCn(t):t 期,n 地域における年間システム費用
を詳細に分析するために 1998 年∼2022 年の間では一期を 5
TCn(t):t 期,n 地域におけるエネルギー輸出入収支費用
年とし,それ以降の 2023 年∼2052 年までは一期を 10 年間
GDFn:n 地域における GDP デフレーター
と設定して,全部を 8 期に分けている.
3 炭素有効利用システムのモデル
炭素有効利用システムのモデル化
システムのモデル化
表1.中国におけるサブ地域
サブ地域
東北・北部
華東・中南
西北・西南
3.1 炭素地中隔離と
炭素地中隔離と CBM の利用
省名
Heilongjiang, Jilin, Liaoning, Beijing, Tianjin, Hebei,
Shanxi, Neimenggu
Shanhai, Jiangsu, Zhejiang, Anhui, Fujian, Jiangxi,
Shandong, Henan, Hubei, Hunan, Guandong, Guangxi,
Hainan
Shaanxi, Gansu, Qinghai, Ningxia, Xinjiang,
Chongquing, Sichuan, Quizhou, Xizang
本研究が分析対象とする石炭有効利用システム(二酸化
炭素地中隔離+CBM 利用)のメカニズムは二酸化炭素隔離
技術を取り付けた発電設備により CO2 を隔離し,CBM を
包蔵している石炭層に CO2 を注入すると,吸着していたメ
タンは炭酸ガスと置換され,石炭表面からフラクチャ−部
の遊離ガスに変化し,生成井に排出される.そのメタンを
2.2 エネルギーバランス
発電用燃料として用いる.今回の分析は CBM に関する分
各地域のエネルギーシステムは図 1 に示す構造をもつ.
析で,地中に回収した炭酸ガスを注入することを前提とし
地域同士は,エネルギー輸送を介してお互いにつながり,
ており,炭鉱から出る CMM(Coal Mine Methane)は利用し
エネルギーフローは各種のバランス式で表現する.モデル
ていない.
では,期tにおけるエネルギー媒体(enc)に関して年数で平
CO2 回収技術は石炭火力発電(PC)と石炭ガス化複合サ
均化したフローのバランス式を立てる.全体のエネルギー
イクル発電(IGCC),および天然ガス複合火力発電(NGCC)
バランスを式(1)に示す.
¦
enc
=
­
® MIN ( enc ) + ¦ TRD ( enc , r ) + ¦ OUT ( enc , TCH
¯
r
TCH
­
¦ ®¯ ¦ INP ( enc , TCH ) + DEMAND
enc
TCH
を想定し,その発電技術の技術的・経済的データは文献 2)
½
) ¾ ...(1)
¿
に基づいて表 2 のように設定する.またそれぞれの技術に
½
( enc ) ¾
¿
表2. 回収型発電技術の特性
MIN(enc)=採掘による enc 生産量
INP(enc,TCH)=技術 TCH の設備量当たりの enc 消費量
CCS
無し
CCS
有り
DEMAND(enc)=enc の最終需要量の年平均値
共通
TRD(enc,r)=輸送ルート r による enc の供給量
OUT(enc,TCH)=技術 TCH の設備量当たりの enc 生産量
2
比較項目
発電効率(%)
設備コスト(USD/kW)
発電効率(%)
設備コスト(USD/kW)
耐用年数(年)
導入時期(年)
New PC
38
1286
33
2096
20
2000
IGCC
45
1326
35
1825
20
2010
NGCC
50
568
48
998
20
2005
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
おける CO2 地中隔離量は IPCC Special Report に基づき,発
を水力発電 375GW,風力発電 30GW,太陽光発電 20GW と
電設備ごとの CCS 技術導入有・無における CO2 排出量係数
設定し,それ以降は上限値を維持するように設定する.
の差分を適用して設定する.
その値は PC(0.650kg-CO2/kWh),
原子力に関しては中国政府が原子力発電設備容量を現在
IGCC(0.665kg-CO2/kWh),NGCC(0.315kg-CO2/kWh)である.
の 900kW から 2020 年には総発電設備量の 4%前後に相当
回 収 さ れ た CO2 の 貯 留 コ ス ト は IPCC 報 告 書 の 値
する 4000 万 kW 程度まで拡大する目標と,文献 7)所載の
(0.5-8US$/tCO2)の中間コストを取り,4US$/tCO2 と設定する.
データに基づき,累積上限値を 2010 年に 20GW,2030 年
に 50GW,2050 年に 120GW と設定する.
CO2 注入による CBM の生産量はリザーバー・シミュレ
ーション
4)
により CO2 注入無しの場合とありの場合での
4 シナリオ設定
シナリオ設定
CH4 生産量増分の関係を求めた結果,CO2 注入量は 4.6BCF
で,CO2 注入による CH4 生産量は 1.6BCF であり,メタン
4.1 最終エネルギー
最終エネルギー需要
エネルギー需要シナリオ
需要シナリオ
生産量の約 3 倍の炭酸ガスを注入が必要である.生産され
エネルギー需要部門は,産業,農業,運輸,商業,家庭
た CBM を利用する技術としてガスエンジン発電を想定し
であり,運輸部門は道路,鉄道,航空,船舶に分類する.
ており,その技術特性は発電効率を 35%,耐用年数を 15
さらに家庭部門も都市家庭と農村家庭と分類する.各部門
年と設定し,経済的データは中国の実態に合わせるために,
における石油,ガス,石炭,電力,バイオマスの需要量を
文献 5)のデータを用いる.
シナリオとして設定する.2030 年までの中国におけるエネ
3.2 二酸化炭素地中隔離量の
二酸化炭素地中隔離量の制約
ルギー需要シナリオは文献 6)の見通しに準拠し,それを
各地域における炭素貯蔵可能量は H.Yu et al 1)によると中
2050 年まで外挿して設定する.上記の見通しを GOAL モデ
国全体の炭素隔離可能量の中,北東地域が約 187Gt-C,南
ル用のエネルギー需要部門に設定するために,各部門のエ
部地域が約 80Gt-C,北西地域が約 4.5Gt-C,その他が約
ネルギー種別需要の時系列シェアトレンドを用いる.以下
10Gt-C であり,モデル上ではそれぞれを東北・華北,華東・
にその手順を説明する.
中南,西北・西南地域の炭素最大貯蔵可能量として設定す
1)エネルギーを電力と非電力,エネルギー需要部門を産業,
る.
運輸,農業・民生に分けて将来推計を行う.
3.3 発電設備量に
発電設備量に関する制約
する制約
2)電力 に関し ては各部 門別の 電力需要 シェア は時系列
本研究では CCS 技術導入によるエネルギーシステムの
(1980 年∼2005 年)を用いて計算する.将来電力需要シ
変動分析を中心としているため,再生可能エネルギー技術
ェアに関しては,産業部門のシェアを過去のトレンドシ
の導入による影響を最小限にするように再生可能発電設備
ェア平均値(70%)に固定し,産業部門以外のシェアは
や原子力発電設備に関する累積導入量の上限値を設ける.
時系列トレンドにより推計する.
GOAL モデル上での上限値設定はその期における期末年
3)非電力に関しては石炭系,石油系とガス系に分類し,時
の設備量を設定しているが,計算上の各技術設備導入量は
系列トレンド推計を用いて部門別・燃料種別のシェアを
各期における平均値を計算しているために各期における導
推計する.
入量と上限値の間に誤差が生じることもある.
4)アジア GOAL モデルの需要に合わせるために,各部門を
これを踏まえた上限値の設定は,中国の再生可能エネル
さらに詳細に分類して,2000 年∼2005 年のエネルギー需
最終エネルギー需要(Mtoe/年)
ギー中長期発展計画 6)に基づき,2020 年までの累積上限値
要年統計データ
8)
から算出した部門別の平均燃料消費シ
ェアを用いて部門別の将来の燃料需要を推計する.
2500
4.2 エネルギー価格
エネルギー価格シナリオ
価格シナリオ
家庭部門
2000
エネルギー価格シナリオは文献 9)に準拠し,2030 年ま
商業部門
農業部門
1500
でのエネルギー価格を設定し,2030 年以降の燃料価格に関
運輸部門
1000
500
しては 2020 年から 2030 年の価格上昇率を用いて推計し,
工業部門
表3. 燃料価格シナリオ
0
2000 2010 2020 2030 2040 2050
石炭
石油
天然ガス
熱
石油
天然ガス
石炭
電力
図3.中国における最終エネルギー需要シナリオ
3
2000
7.1
7.0
1.6
2010
12.9
9.3
2.3
2020
12.8
9.5
2.4
単位:百万 USD/PJ
2030
2040
2050
13.5
14.2
15.0
10.0
10.4
10.9
2.5
2.7
2.8
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
10%,20%,30%に対応して CCS-10,CCS-20,CCS-30 と
表4.一人当たり CO2 排出量シナリオ
2010
4.0
3.6
3.2
2.8
年
ベース
10%削減
20%削減
30%削減
2015
4.7
4.3
3.8
3.3
2020
5.4
4.8
4.3
3.8
2030
6.7
6.0
5.3
4.7
単位:tCO2/人
2040
2050
7.7
7.9
6.9
7.1
6.1
6.3
5.4
5.5
表現し,CCS 技術導入しないケースにおいては noCCS-10,
noCCS-20,noCCS-30 と表現する.
5.計算結果
5.1 シナリオ別電源構成
シナリオ別電源構成
外挿する.表 3 は 2000 年基準の現在価値換算(金利 5%/
図 4 は 2050 年までの各シナリオにおける電源構成変化を
年)を行ったものである.
表し,炭素有効利用システムの導入による電源構成変化を
4.3 シナリオ設定
シナリオ設定
一人当たり CO2 排出量削減量別に分析する.
CO2 排出量制約を掛けた場合,CCS 技術導入によるエネ
一人当たり CO2 排出量 10%削減ケース
ルギーシステムへの変化の分析を行う.CO2 排出量制約は
炭素有効利用システムの導入の有無に関わらず,二酸化
一人当たりの CO2 排出量を基準とし,その目標値を段階的
炭素回収型発電のうち,CCS 付き IGCC 発電の導入による
に強化するように設定する.CO2 排出量制約無しでの一人
二酸化炭素排出低減よりも,CCS のない IGCC 発電の導入
当たりトン CO2 排出量の 4.0 (2010 年),5.4 (2020 年),
による CO2 排出量の低減効果の方が優位である.その設備
6.7(2030 年),7.7(2040 年),7.9(2050 年)をベース(BAU ケ
容量を見ると,noCCS-10 シナリオにおいては IGCC 発電が
ース)とし,表 4 に示すように 2010 年から各年の一人当た
2010 年に 126GW から 2050 年には 993GW に拡大する.一
り CO2 排出量を BAU ケースの対比に 10%,20%,30%の
方,NGCC 発電は 2010 年に 69GW から 2050 年には 166GW
削減目標とする.
と設備容量は増加するものの,電源構成のシェアは電力系
CCS 技術導入ケースにおける一人当たり炭素削減量
統の 10%と優位性は見られない.
発電設備量(GW)
noCCS-10
2000
1500
1500
1000
1000
500
500
0
2000
2010
2020
2030
2040
2050
0
2000
1500
1000
1000
500
500
2010
2020
2030
2040
2050
0
2000
2010
発電設備量(GW)
2000
1500
1500
1000
1000
500
500
2010
2020
2030
2030
2040
2050
2020
2030
2040
2050
CCS-30
noCCS-30
2000
0
2000
2020
2000
1500
0
2000
2010
CCS-20
noCCS-20
2000
発電設備量(GW)
CCS-10
2000
2040
2050
0
2000
2010
2020
2030
図4.各シナリオにおける電源構成の変化
4
2040
2050
GE(CBM)
NGCC
LNG火力
原子力
太陽光
風力
水力
石油火力
IGCC(CCS)
IGCC
石炭火力
GE(CBM)
NGCC
LNG火力
原子力
太陽光
風力
水力
石油火力
IGCC(CCS)
IGCC
石炭火力
GE(CBM)
NGCC
LNG火力
原子力
太陽光
風力
水力
石油火力
IGCC(CCS)
IGCC
石炭火力
西北・西南 華東・中南 東北・北部
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
Base
CCS - 1 0
CCS - 2 0
CCS - 3 0
Base
CCS - 1 0
CCS - 2 0
CCS - 3 0
Base
CCS - 1 0
CCS - 2 0
CCS - 3 0
IGCC
IGCC(CCS )
GE(CBM)
NGCC
0
100
200
300
400
500
600
設 備 導 入 量 (GW)
図5.2023 年∼2032 年における地域別・シナリオ別の石炭利用技術と天然ガス利用技術の導入量
一人当たり CO2 排出量 30%削減シナリオ
原子力発電は 2010 年に 16GW から 2050 年には 98GW に
なり,文献 10)の予測値(120∼240GW)より少なく,2050
CO2 排出量削減がより厳しくなるにつれて,noCCS-30 シ
年における再生可能エネルギー利用技術は水力発電が
ナリオでの電源構成は,石炭火力発電より炭素排出原単位
268GW と大半を占め,風力発電の導入が 36GW と目立っ
が低い NGCC 発電が大半を占めて,2010 年に 312GW から
た.CCS-10 シナリオにおいては IGCC 発電が 2010 年に
2050 年には 1115GW まで増大して電源構成の 68%を占め
56GW から 2050 年には 822GW と設備容量が増加するもの
る.これに対して石炭火力発電と IGCC 発電を合わせた発
の,CCS 付き IGCC 発電の発電設備容量は 2010 年に 38GW
電設備容量とシェアは 2010 年の 31%(235GW)から 2050 年
から 2050 年に 112GW と増加し,電源構成の 7%のシェア
には 5%(90GW)まで減少する.
を占める.原子力発電および再生可能エネルギー発電を含
CCS-30 シナリオにおいては,CO2 削減対策として CCS
め,noCCS-10 シナリオと類似した電源構成となっている.
付き IGCC 発電設備の大幅な導入により,石炭の需要が増
一人当たり CO2 排出量 20%削減ケース
加するために,天然ガス利用への依存度が下がる.その設
炭素有効利用システムの導入がない noCCS-20 シナリオ
備導入容量を見ると CCS 付き IGCC 発電設備容量は 2010
の場合,2030 年から石炭利用から天然ガス利用への燃料転
年の 123GW から 2050 年には 404GW になる.
それに伴い,
換が生じ,電源構成が大きく変化する.電源構成の変化を
CBM 利用ガスエンジン発電設備容量も,2010 年に 51GW
見ると 2030 年に IGCC 発電が 731GW から 2050 年には
から 2050 年には 176GW になる.その影響で NGCC 発電設
358GW と減少し,NGCC 発電の設備容量が 102GW から
備導入量は noCCS-30 シナリオレベルの 30%に抑えること
818GW と,全体の電源構成の半分まで増大する.その他の
ができる.
原子力発電や再生可能エネルギー発電に関しては
CCS 付き IGCC やガスエンジン(CBM 利用)発電設備の増
NoCCS-10 シナリオとほぼ同様であり大きな差異は見られ
加に伴い,炭素固定に掛かる消費電力の増加や,他発電設
ない.
備より利用率が低い CBM 利用のガスエンジン発電の増加
CCS-20 シナリオにおいては,炭素有効利用システムの導
により,noCCS-30 シナリオに比べて総発電設備量は増加す
入により石炭利用発電設備が優位となり,天然ガスへの燃
る.
料転換による NGCC 発電設備の増加を抑制する.詳細な技
2050 年における,その他の発電技術設備容量は,水力発
術設備容量を見ると,2020 年の IGCC 発電設備容量が
電が 330GW,原子力発電 98GW と風力発電 36GW であり,
122GW から 2050 年には 605GW まで拡大し,CCS 付き IGCC
ベースシナリオとほぼ同じになる.なお,太陽光発電は風
発電設備が 80GW から 260GW まで拡大して,石炭利用発
力発電に比べて設備費用が約 3 倍と高コストであったため
電技術が 2050 年には電源構成の半分を占める.CCS 技術
導入されなかった.
の導入に伴い,CBM ガスエンジン発電の設備容量は 2020
5.2 地域別の
地域別の電源構成の
電源構成の変化
年の 29GW から 2050 年には 101GW に拡大する.これは
本節では各シナリオにおける炭素有効利用システムの導
CBM ポテンシャル量から見てそれぞれに全体の 0.7%と
入量を東北・華北,華東・中南と西北・西南地域に分けて
2.4%程度の利用であり,より多くの CBM 利用可能性を示
比較する.図 5 は 2023 年から 2032 年における地域別・シ
している.石炭利用技術の拡大により,NGCC 発電設備容
ナリオ別の IGCC 発電容量と炭素有効利用システムの設備
量を noCCS-20 シナリオの同時期に比べて大幅に減少でき,
容量を比較したものである.
2050 年時点で 60%削減できる.
東北・北部地域は石炭埋蔵量が中国で最も多く,石炭火
5
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
力発電設備のシェアも高い.エネルギーシステム費用の最
における CO2 隔離量は 0.9GtCO2,1.4GtCO2,2.0GtCO2 と増
小化を優先するベースシナリオでは従来型石炭火力発電設
加する.
備の代わりに IGCC 発電設備が導入されて 2030 年の時点で
華東・中南地域においては CCS-10 シナリオにおいて
の石炭火力発電設備容量の約 80%を占める.CO2 排出量削
IGCC 発電設備の発電効率向上による CO2 削減効果が充分
減を強化すると CCS 付き IGCC 発電が導入され,CCS-10
発揮でき,IGCC(CCS)発電設備が導入されず炭素地中隔
シ ナ リ オ に お い て は IGCC 発 電 設 備 量 の 約 3 割 を
離は行われなかった.CO2 排出制約値を 20%と 30%に強化
IGCC(CCS)発電設備が代替し,NGCC 発電設備はベースシ
すると IGCC 発電から CCS 付き IGCC 発電に代替されるこ
ナリオの約 25%増加する.さらに,CO2 排出削減目標値を
とで CO2 排出量の積極的な削減が進み,それぞれの CO2 隔
厳しくした CCS-30 シナリオになると IGCC(CCS)発電設備
離量は 1.1GtCO2,1.9GtCO2 と増加する.
が IGCC 発電技術の約 8 割を代替し,ガスエンジン(CBM
西北・西南地域においては地域の特性として再生可能エ
利用)も CCS-10 に比べて 3 倍増加する.
ネルギーの資源可採掘量が多く,電源構成の半分以上を水
華東・中南地域においては中国での電力需要量の約半分
力発電が占める.従って CCS 付き IGCC 発電設備の導入量
を消費するために他地域に比べて電力設備導入量が大きい.
は他地域に比べて少ない.しかし,石炭埋蔵量は中国全体
そのために,ベースシナリオにおいての技術向上によるエ
の 39%のシェアを占めて CCS-10 シナリオでも CO2 地中隔
ネルギーシステム総費用の削減が積極的に行われ,従来型
離 が 行 わ れ , CO2 隔 離 量 は 0.39GtCO2,0.45GtCO2 と
石炭火力発電から IGCC 発電への技術向上が積極的に行わ
0.53GtCO2 と増加する.
れ,代替率が約 95%となる.
5.4 経済性分析
CCS-10 シナリオでは炭素削減目標値を IGCC 発電によ
CO2 地中隔離の経済性を分析するために,エネルギーシ
る発電効率向上と炭素排出原単位の減少と他地域での地中
ステム全体の総費用と CO2 排出削減量を用いて,技術ごと
隔離技術の積極的な導入により達成できるため,IGCC 発
の削減コストではなく,エネルギーシステム全体における
電技術の導入が優先される.炭素排出削減目標値が厳しく
CO2 排出削減コストを計算して比較を行う.
なる CCS-20 と CCS-30 シナリオにおいて,炭素削減効果は
式(3)は平均炭素排出削減単価(AIC)計算に用いる式で
エネルギーシステム総費用から見て IGCC 発電をメインと
あり,ΔTESC は 2000 年基準に現在価値換算(割引率 5%)
する炭素削減効果により,CCS 付き IGCC 発電と NGCC 発
された各シナリオのエネルギーシステム総費用とベースシ
電を同時に導入することによる効果が最大になる.CCS−
ナリオのエネルギーシステム総費用との差分を表す.Δ
30 シナリオでの IGCC 発電設備から IGCC(CCS)発電設
2.5
CO2 地中隔離量(Gt-CO 2 )
備への代替率は約 50%となる.
西北・西南地域においては中国の電力需要量の約 15%と
再生可能エネルギーポテンシャルの豊富さから水力発電に
よる電力供給がメインであり,ベースシナリオでの水力発
電のシェアは 55%を占めて IGCC 発電のシェアは 25%と他
地域に比べて低い水準である.
2
∆ TESC
∆ TRCO 2
AIC =
1.5
・・・(3)
1
0.5
0
10%
石炭資源の埋蔵量は中国の 33%と豊富であり,炭素排出
20%
30%
10%
東北・華北
制約を厳しくするにつれて CCS 技術が積極的に導入され,
20%
30%
10%
華東・中南
20%
30%
西北・西南
地域別の一人あたり炭素削減シナリオ
IGCC 発電から CCS 付き IGCC 発電設備への代替率は
CCS-10 シナリオの時点で約 53%となり,CCS-30 シナリオ
図6.各地域の 2030 年における炭素地中隔離量
を見せる.図 6 に 2030 年における地域別・シナリオ別の炭
20
0
no
CC
S10
素隔離量表す.
60
40
東北・華北地域においては山西省や内モンゴル自治区を
中心とした石炭の資源可採掘量が最も多く,CO2 排出量の
図7.社会的炭素削減単価
削減目標値に従って,CCS-10,CCS-20,CCS-30 シナリオ
6
CC
S30
電設備容量が増加し,それに従って炭素地中隔離量も増加
80
no
CC
S30
10%,20%と 30%と強化するに従って,CCS 付き IGCC 発
100
CC
S20
それぞれの地域において一人当たり CO2 排出削減量を
120
no
CC
S20
5.3 各地域における
各地域における炭素隔離量
における炭素隔離量
CC
S10
CO2 削減単価(USD/tCO 2 )
では約 85%になる.
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 30, No. 4
TESC と同様な比較を行うために,ΔTRCO2 も 2000 年基準
力用燃料として大量に供給する必要がある中国国内外の天
に現在価値換算された各シナリオとベースシナリオの CO2
然ガス需要量を大幅に減らす効果があることを示した.例
排出削減量との差分を表す.
えば CO2 排出量をベースシナリオの 30%に削減する場合,
AIC =
∆ TESC
∆ TRCO 2
当該システムが導入できない場合は,天然ガス複合サイク
・・・(3)
ル発電(NGCC)の発電設備導入量は 2050 年において
1115GW であるが,当該システムが導入可能な場合は,こ
AIC : 二酸化炭素削減単価(USD/tCO2)
の発電設備導入量は 346GW で削減目標を達成できること
ΔTESC : 割引したエネルギーシステム総費用の差分
を示した.
(ベース基準,百万 USD)
さらに,炭素有効利用システムの経済性を,エネルギー
Δ TRCO2 : 割引した CO2 の総 削減量 (ベース基 準,
システム全体から評価した炭素削減単価(AIC)により評
103tCO2)
価を行った.この結果,二酸化炭素排出量の削減目標が高
図7に示すように一人当たりの CO2 排出量の削減目標量
まるにつれ,炭素有効利用システムの導入は経済的に有効
を 10%,20%,30% と増加することによって,発電部門
な対策の一つになることを示した.
における CO2 排出量の削減対策として,燃料価格が安価な
石炭から高価な輸入天然ガスへの燃料転換,また CO2 削減
謝 辞
単価が高い太陽光発電や風力発電の導入が進む.これによ
本研究の実施にあたり,
(独)産業技術総合研究所遠藤栄
っ て noCCS シ ナ リ オ に お け る 炭 素 削 減 単 価 (AIC) は
一氏に有意義なコメントを頂いた.記して謝意を表する.
36USD/tCO2,67USD/tCO2,107USD/tCO2 と AIC が増加す
る.一方 CCS シナリオにおいては,炭素有効利用システム
参 考 文 献
の導入により CCS-10,CCS-20,CCS-30 シナリオにおける
1) Hongguan Yu ら:Predicted CO2 enhanced coalbed methane
AIC は 14USD/tCO2,18USD/tCO2,20USD/tCO2 となり,二
recovery
酸化炭素排出量の削減目標の増加に伴う.単価の上昇は少
and
CO2
sequestration
in
China,
Coal
Geology,345-357, Vol.71, (2007)
なくなる.したがって,CO2 排出量の削減目標が一人当た
2)
り排出量を 10%,20%,30%に高めると,炭素有効利用シ
IPCC Special Report “ Carbon Dioxide Capture and
Storage”,P25,(2007).
ステムの導入による経済効果は,このシステムが導入され
3) 村田 晃伸,遠藤 栄一,加藤 和彦:東アジア/東南アジ
ないときの AIC と比較して 2.5 倍,3.8 倍,5.2 倍になるこ
ア地域を対象とする長期多地域エネルギーシステムモ
とが分かる.このことから CO2 排出量の削減目標が高くな
デルの構築,P337-342,第 15 回エネルギーシステム・経
るにつれ,炭素有効利用システムの導入は経済的に有効に
済・環境コンファレンス,(1999)
なる.
4) 島 田 荘 平 , 大 賀 光 太 郎 : コ ー ル ベ ッ ド メ タ ン
(CBM),IEEJ,P1053-1059,Vol.83,(2004)
6 まとめ
5) NEDO,共同実施等推進基礎調査“中国平頂山炭抗メタ
中国において 2010 年∼2050 年までの一人当たりの CO2
ンガス回収利用計画”,4-1,(2003)
排出量をベースシナリオから 10%,20%,30%と削減した
6) エネルギー経済研究所,“アジア/世界エネルギーアウ
場合の炭素有効利用システム(CCS 技術+CBM 利用発電)の
トルック 2007”,P81,(2007)
導入による,エネルギーシステムの発電部門における影響
7) 李 志東,伊藤 浩吉, 小宮山 涼:中国 2030 年エネルギ
分析と炭素削減単価分析を含めて経済性の評価を行った.
ー需要展望と北東アジアエネルギー共同体の検討−存
中国の発電部門においては今後も石炭火力発電が主流と
在感増す中国の自動車戦略と原子力戦略
なり,CO2 排出削減のために,在来型石炭火力発電は IGCC
−,IEEJ,(2005)
発電に代替が進み,石炭の利用効率の向上がみられた.
また,中国に存在する豊富な石炭資源がある石炭層のコ
ールベッドメタン(CBM)を利用した炭素有効利用システ
8)
IEA, Energy Balances of Non-OECD countries 2005
9)
IEA, World Energy Outlook 2007,P66, (2007)
10) 李 志東:中国における原子力発電開発の現状と中長期
ムの導入は,この技術システムが導入できない場合と比較
展望, IEEJ,(2003)
して,将来における CO2 排出削減目標を実現するために電
7