フランス国ナント市の文化・まちづくり・観光施策概要及びラ・フォル・ジュルネ音楽祭と

海外調査依頼内容
1
回答日:平成 25 年2月1日
2
依頼者名:滋賀県支部
3
調査依頼事項:フランス国ナント市の文化・まちづくり・観光施策概要及びラ・フォ
ル・ジュルネ音楽祭との関わりについて
4
調査対象国又は対象地域等:フランス
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調査の趣旨(調査結果の利用目的・時期を含め具体的に):
行政側から見た音楽祭支援の考え方やその手法、支援規模などを把握することで、
音楽祭の今後の展開に向けた検討材料とする。
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調査内容
(1)概況
人口(年齢層含む)
、面積、歴史、市の財政状況、市の収支構造(歳入構成、目的別
歳出構成含む)
(2)文化・まちづくり・観光施策概要
重点施策、事業目的・内容・経費など
(3)市によるラ・フォル・ジュルネへの関わり
実施体制
財政面(出資先・出資規模・額の推移など、毎年の支援内容、国・州、他の自治体
などから市に対する垂直・水平的財政支援内容など)
人材面(市における支援体制など)
市の文化・まちづくり。観光施策における位置付けや今後の方向性
LFJ のペイ・ド・ラ・ロワール地域圏(広域行政組織含む)への展開と市の関わり
(4)その他特記事項
CLAIR パリ事務所
ナント市の文化・、まちづくり・観光施策概要及び
ラ・フォル・ジュルネ音楽祭との関わりについて
2013 年 1 月 25 日
ナント市の文化・まちづくり・観光施策概要及び
ラ・フォル・ジュルネ
ラ・フォル・ジュルネ音楽祭との関わりについて
ナント市の文化・まちづくり・観光施策概要及び
ナント市の文化・まちづくり・観光施策概要及びラ・フォル・ジュルネ音楽祭との関わりにつ
音楽祭との関わりにつ
いて下記の通り、回答します。
○概況
位置
ナント(Nantes)は、ロワール川が大西洋に注ぎ込む河口近くの町である。また、
ロワール川が大西洋に注ぎ込む河口近くの町である。また、
ロワール川が大西洋に注ぎ込む河口近くの町である。また、ペイ・ド・
ラ ・ ロ ワ ー ル (Pays
Pays de la Loire)
Loire 州 の 州 庁 所 在 地 で あ り 、 ロ ワ ー ル = ア ト ラ ン テ ィ ッ ク
(Loire-Atlantique)県の県庁所在地である。
県庁所在地である。
人口
282,047 人(2011 年、INSEE
INSEE 仏統計局より)
面積
65.2km²(2011 年、INSEE 仏統計局より)
歴史
ナントは、16 世紀にフランスに併合されるまでは、ブルターニュ公国の中心地であり、首都
世紀にフランスに併合されるまでは、ブルターニュ公国の中心地であり、
にもなり、華麗な宮廷文化が花開いた。
華麗な宮廷文化が花開いた。またユグノー戦争を終結させるため1598年に発せら
またユグノー戦争を終結させるため1598年に発せら
れた「ナントの勅令」でも知られている。16
れた「ナントの勅令」でも知られている。16~18世紀にかけてフランス最大の港となり、ア
世紀にかけてフランス最大の港となり、ア
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ナント市の文化・、まちづくり・観光施策概要及び
ラ・フォル・ジュルネ音楽祭との関わりについて
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フリカ、アメリカを結ぶ三角貿易により栄えた。19世紀に入り、ナントは工業都市へ変貌した。
最初の鉄道は 1851 年に建設され、多くの工場がつくられた。1940 年、ナントはナチス・ドイ
ツに占領された。その後、英米による反抗を経て、1944 年、アメリカ軍がナントを解放した。
1970 年代まで、ナント港はロワール川に浮かぶナント島にあったが、その後の役割はロワール
河口に近いサン・ナゼールへ移っている。また、多くの第三次産業がナント周辺へ組織を移して
いたが、不況から閉鎖に追い込まれていった。1990 年代以降は、ジャン=マルク・エロー元市
長(現在、オランド政権の下で首相を務めている。なお、現在市長を務めているのはパトリック・
ランベール(社会党)
。
)の強力なリーダーシップの下で、
「文化」を一つの柱とした都市再生の
ためのプロジェクトを次々と実施し、現在、ナントは文化都市として欧州の中でも注目を浴びて
いる。
市の財政規模、市の収支構造
2012 年予算:4 億 8220 万ユーロ
・経常収支
4 億 320 万ユーロ
・投資的収支 1 億 2280 万ユーロ
(※
403,2M + 122,8M – 43,8M(移転支出) = 482,2M ユーロ )
予算を 100 ユーロに換算した時の文化の割合 : 12.7 ユーロ
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(参考:ナント市の予算構造)
)
(参考:予算を 100 ユーロに換算)
○文化・まちづくり・観光施策概要
(2012 年 8 月末、篠田新潟市長とナント市
篠田新潟市長とナント市ジョシク文化担当助役の話し合い及び
の話し合い及び 2012 年 2 月
の沖縄県に同行したヒアリングより
の沖縄県に同行したヒアリングより)
ナント市は文化都市のみならず
文化都市のみならず、
、
「創造都市」分野でも世界のトップランナーである。
分野でも世界のトップランナーである さらに、
フランスのレクスプレス紙から「最も緑の多い都市」に選ばれ、環境政策にも先進的に取り組ん
でいることが評価されて、EU
EU の「2013 年グリーンキャピタル(欧州・緑の首都)」に選定が決
まっている。
ナントの文化政策
・「日仏都市・文化対話」を新潟市とナント市はこれまで
を新潟市とナント市はこれまで開催し、横浜、金沢、リヨンなどと文
し、横浜、金沢、リヨンなどと文
化対話を重ねている。
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・予算の 12.7%を文化政策に割き、4 つの目的を達成しようとしている。
① 「連帯」。地域や世代を超えて全市民が享受できる楽しみを生むことで、市民がつながって
いく。
② 「創造性」
。将来に向けて歩んでいくために芸術性と文化が大切との考え。
③ 「アトラクティヴィティ」。この都市に住んでみたい、ここで活動してみたい、と思わせる
楽しさが必要。
④ 「名声」。世界で知名度をアップし、市民が誇らしく思う気持ちを高める。例えばナントは
フランスの有名な作家であるジュール・ヴェルヌの出身地であることを活用して名声を高め
ている。
市民・団体との協働
・ナントは文化活動計画を設定。(1)連帯の前進、(2)アトラクティヴィティの充実、(3)文化の尊
重、(4)創造性の発揮、(5)歴史・文化遺産の活用という 5 点を基軸として、80 ほどの具体施策を
展開。
・文化が「連帯」という社会整合性を生み、それを市の魅力アップにつなげる正の循環をつくり
出すようにしている。市民に楽しさを感じてもらうよう、文化団体を支援し、それぞれの地域で
交流できる場をつくることで、連帯を生みだす。
・その基盤として学校教育でも文化に関われる人材を育成することを重視。ナント市の文化予算
は今年 7,700 万ユーロで、うち 3,000 万ユーロが運営管理、2,950 万ユーロが各種団体の助成。
残りの 1,800 万ユーロが建設や投資に充てられる(グラン・ムゼー(芸術大美術館)の増築工事)、
ベルビューのメディアセンター(建設工事)
、アーティストのための活動施設等)
。
・ナント市文化局は市の職員の約 10%、460 人ほど。ただ、職員だけで仕事をせずに、多くの
市民、団体を交えており、それが成功につながっている。博物館となっているブルターニュ大公
城など外郭団体にも 50 人が配置されている。
・文化にこれだけの予算や人を割けるのは、フランス、とりわけナントでは「文化が産業を生む」
「文化が都市をつくる」ということが常識だからである。
文化面の特徴
・荒れ果てたブルターニュ大公城を長い年月をかけて修復し、ナントの歴史を伝える博物館にし、
アイデンティティーを醸成。
・
「世界で最もエキサイティングなクラシックコンサート」と言われるラ・フォル・ジュルネ(La
Folle Journée)を世界に広め、機械仕掛けで動く巨大な象で話題を呼び、ナントに人を集める
工夫。
・ヴェルヌの「海底 2 万里」をモチーフにして巨大な深海魚や潜水艇が動き回るメリーゴーラン
ドが完成。
・フランスでは初めて文化庁と協定を締結。ナントのアーティストを多く国外に送り出している。
美術・芸術分野を中心に学生を世界に交換留学させている。
・ナントの独自性を活かす一方、サン・ナゼールやレンヌなど他都市とも連携。欧州レベルのネ
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ットワークがあり、欧州の枠を超えて、日本では新潟などと交流を開始。
・ナントの文化施策には EU からも資金が得られ、
「アトラクティヴィティ」の部分は広域行政
組織であるナント・メトロポールが担当。
2013 年欧州環境首都とエコシティ・サミットの開催
・ナントは交通政策なども広域行政組織のナント・メトロポールと市が一緒に政策を進めている。
・
「2013 欧州・緑の首都(グリーンキャピタル)
」の指定。
「緑の首都」は「環境首都」とも呼ば
れ、2010 年から欧州で 1 つの都市が選ばれ、環境政策文化政策、持続可能な都市づくりをモデ
ルとして考え、実践する制度。
・2013 年の環境首都にナントが選ばれた 4 つの理由。1 つは「欧州で最も暮らしやすい都市」
に選ばれるなど欧州を代表する都市であること。2 つ目は都市部と自然のバランスが良いこと。
3 点目は市民を巻き込んだ市民本位の政策推進。4 点目が市民との協働で創造と革新を続け連帯
やアトラクティヴィティを強化していることである。
・ナントが環境首都に積極的に取り組もうとするのは 2 つの理由からである。1 つはさらなる国
際的な知名度アップ。2 つには市民と共にさまざまなイベントに取り組みナントの活力を高める
こと。
・具体的には第 10 回目となるエコシティ・サミットを 9 月に開催。このサミットはエコやスマ
ートシティに先進的に取り組む世界的な都市を集め、9 回開かれていますが、欧州の開催は初め
てである。目的は環境や文化、持続可能な都市づくりの実践例や課題解決法の情報を共有し、今
後一緒に取り組む。実行することが最大の目的である。食料やエネルギー、都市開発、水の循環、
廃棄物処理など、大都市がどこも抱えている問題がテーマ。
音楽祭以外の文化芸術
・ラ・フォル・ジュルネは有名で日本ではそれだけに注目されがちだが、それ以外の文化芸
術の面でも力を入れている。
・特に、ナントは、アート、演劇、大道芸、コンテンポラリーダンス、ロックミュージック
などが強みであり、芸術家・音楽家が活躍している。ナントとしても、様々な人に機会を提
供しており、ナントから他の地域に移っている人もいる。またナント出身の芸術家らのネッ
トワークも強みとなっている。
○ナント市によるラ・フォル・ジュルネへの関わり
(2012 年 2 月の沖縄県に同行したヒアリングより)
ラ・フォル・ジュルネ(La Folle Journée)
・ラ・フォル・ジュルネは、フランスのナントで年に一度開催されるフランス最大級のクラ
シック音楽の祭典である。1995 年に創設。創設者であるルネ・マルタンが芸術監督を務め
る。
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・ナントでは国際ピアノフェスティバルなどが開催されていたが、これを運営していたのが
1987 年に設立された CREA(アソシアシオン法にもとづいて設立された協会)であるが、
ルネ・マルタンの発案により、ナント市からの助成を受けて 1995 年から開始され、地域密
着型音楽祭というコンセプトを打ち出し、この音楽祭を成功に導いている。
・1 月下旬から 2 月上旬頃にかけての 5 日間、ナント国際会議場(シテ・デ・コングレ)で
朝 9 時から夜 11 時頃まで、短時間のコンサートが数多く、一斉に開催される。
・新たなクラシックのファンを獲得するために、①低料金にすること、そのために②一回の
演奏時間を短くすること、③複数を同時に行うことで選択肢を広げることを行っている。
・年ごとに音楽祭のテーマやジャンルが指定され、世界中から一流のアーティストを迎えて
行われる。
(2012 年はロシア)
la SAEM La Folle Journée
・ラ・フォル・ジュルネ自体は SAEM( société anonyme d'économie mixte という場合には SAEM、
société anonyme d'économie mixte locale という場合には SAEML となる。)という半官半民の
組織が動かしている。
(出資比率の半数以上が自治体側。具体的には、ナント市 61%、州 15%、
県6%、CDC10%、ほか 8%。理事会の人数は 14 名。
)
・しかし、SAEM に常時いるのは2名(給与の受け取り人数は 2 人との記載あり)
。それ以
外は直前の準備の際に雇う人(500 名程度)がほとんどである。
・文化イベントを動かす場としてだけでなく、社会的なツールとしても考えている。具体的
には、研修生を受け入れたり、音楽イベントを福祉施設等で行ったりしている。社会的な連
帯につながっていると考えている。
・ラ・フォル・ジュルネを通して、地域住民を含め、多くの大衆を文化になじんでもらうこ
とこそが必要と考えている。さらに、ラ・フォル・ジュルネによって雇用を生み出し、経済
の活性化にもつながっている。
ラ・フォル・ジュルネに関する予算(出資先・出資規模・額の推移など、毎年の支援内容、国・
州・他の自治体などから市に対する垂直・水平的財政支援内容など)
・2011 年決算ベースで見ると、収入面では、チケット売上がラ・フォル・ジュルネに関する予
算全体のうち、45%を占める。一方、ナント市からは、23%、県からは 1%、州からは 4%とな
っている。メセナ(※1)や会員制クラブ(※2)など企業からの資金はあわせて 20%程度と
なっている。さらに、
「サービスの提供」(※3)という項目があるが、これは支出項目欄に
も同じ記載、同じ数値があることから、現物として対価が提供されたものであると考える。
※1
企業などからの資金提供(広告料収入など)
※2
企業に会員制のパッケージ型のチケットを提供し、代わりに収入を得るもの。
※3
企業の広告のかわりに、企業からサービスを受ける。そのサービスを金銭評価したもの。
・一方、支出面では、
「アーティストの人件費等」が全体の 65%となっている。さらに「ア
ーティストの人件費等」については、詳細が開示されており、宿泊、食事、楽器のレンタル
代等も含まれている。
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ラ・フォル・ジュルネ予算(収入)
(単位:千ユーロ)
2010 年
2011 年
2011 年
決算
予算
決算
チケット売上
1722
1702
1852
67
36
44
950
979
979
県からの補助金
49
49
49
州からの補助金
196
196
196
国(文化省・地方部局)からの補助金
100
100
100
3
3
8
メセナ
424
428
431
会員制クラブ(企業に渡す会員制チケット)
406
380
377
サービスの提供
101
99
93
4018
3972
4129
他の売上(ブティック、ショップなど)
ナント市からの補助金
大学・スポーツ省(地方部局)からの補助金
合計
ラ・フォル・ジュルネ予算(支出)
(単位:千ユーロ)
2011 年決算
アーティストの人件費等(※)
2494
プロモーション
158
売店等の人件費等
969
クラブなど提携先への支払
115
サービスの提供
合計
93
3829
※アーティストの人件費等(単位:千ユーロ)
2010 年
2011 年
2011 年
決算
予算
決算
1
契約
876
927
971
2
短期雇用契約
480
480
447
3
給与
131
131
126
4
税
14
30
32
1501
1568
1576
95
125
118
1-4のアーティストに係る合計
5
旅費
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6
車、タクシー代
7
食費、宿泊代
5-7の合計
8
講師
9
楽器のレンタル代
8-9の合計
1-9のラ・フォル・ジュルネの合計
74
74
75
379
379
441
548
578
634
5
5
8
108
108
103
113
113
111
2162
2259
2321
0
5
9
15
15
35
2177
2279
2365
129
129
129
2306
2408
2494
10事前演奏(10、11 月)
11オープニングセレモニー
1-11の合計
12芸術監督への支払
合計
参考文献
ラ・フォル・ジュルネ HP
http://www.follejournee.fr/index.php
ナント市予算 HP
http://www.nantes.fr/cache/offonce/mairie/actualites-mairie/2012_6/budget_2012
SAEM 報告書
http://www.nantes.fr/ext/rapports_annuels/rapan_2010/pdf/rapport_sems_2010.pdf
『ナント市の文化政策に学び新潟市を魅力的な創造都市に』
(2012 年新潟市長)
http://www.city.niigata.lg.jp/shisei/mayor/syokuin/2408.html