401Kプランについて(その1)

1998.7.
No.363
目 次
401Kプランについて(その1)
401Kプランについて(その1)
1.はじめに
本年2月20日、自民党は「第四次
2.
「給付建て制度」と「掛金建て制度」
緊急国民
「年金制度」を大別すると、「給付建て制度
経済対策」を発表し、「401Kプランとその投
(Defined Benefit Plan)」と「掛金建て制度
資運用の仕組みについて、年金制度全般の動向
(Defined Contribution Plan)」に分類できます。
をみつつ、早急に党内機関にて検討する」との
両制度の根本的な違いは「給付額が先に決まる
方策を盛り込みました。これにより我が国にお
か、後に決まるか」という点ですが、それぞれ
いても、米国の401Kプランに代表される「掛
メリット・デメリットを有しており、相互補完
金建て」や「個人別勘定」といった新しい枠組
の関係にあるといえます。すなわち、どちらか
みの導入へ向けた検討が開始されたと言えま
の制度が優れているということではなく、状況
す。具体的な導入方法は、まだ検討段階にあり
に応じて両制度を使い分けることが重要と考え
ますが、日本版401Kプランは企業年金制度に
られます。(
【図1】ご参照)
おける新しい枠組みとして大いに注目されてい
●給付建て制度(Defined Benefit Plan)
給与や勤続期間に応じて定まる給付額を基準とし
ます。
て、掛金を積み立てる制度。我が国の企業年金制
そこで、今月号と来月号の2回にわたり、米
度は、給付建て制度により運営されている。
国の401Kプランの現状と仕組み、我が国への
●掛金建て制度(Defined Contribution Plan)
制度へ払込む掛金額を先に決め、給付額は積立金
導入方法や検討状況などについて解説を行い
ます。
の運用実績に応じて定まる制度。
米国の401Kプランは、同制度の一部について税
制優遇を認められたプランのこと。
−1−
401Kプランについて(その1)
【図1】両制度のメリット・デメリット
対
象
企
給付建て制度
業
加
入
者
受
給
者
掛金建て制度
○メリット
・資産運用の効率化等による掛金軽減が可能。
●デメリット
・資産運用状況が良好でも、掛金軽減ができない。
・加入者毎に詳細な資産運用の記録・管理が必
要である。
●デメリット
・掛金の追加負担が生じる可能性がある。
(→積立不足が発生する可能性あり)
・投資リスクを負う。
・支払保証制度の必要性が高く、保険料負担を
伴う。
○メリット
・掛金の追加負担が生じない。
(積立不足が発生しない。)
・投資リスクを負わない。
・支払保証制度の必要性が低い。
○メリット
・投資リスクを負わない。
・退職後収入の安定性が高い。
●デメリット
・投資リスクを負う。
・退職後収入が不安定となる。
●デメリット
・転職時のポータビリティーが低い。
・加入者毎の年金資産残高が不明確。
・運用方法、資産構成割合等の選択が不可能。
○メリット
・転職時のポータビリティーが高い。
・加入者毎に年金資産の把握が容易。
(→個人別勘定)
・運用方法、資産構成割合等の選択が可能。
3.米国の掛金建て制度
米国の掛金建て制度は、制度の特徴によって
点で1兆ドルを突破しており(【図3】ご参照)、
大きく5つに分類されます(【図2】ご参照)。
その後も右肩上がりで増加を続けています。要
ただしこの分類は、あくまで掛金・給付の形態
因は言うまでもなく401Kプランの急成長にあ
に基づく分類にすぎず、実際は「税制適格」と
ります。米国労働省の推計では、401Kプラン
いう税法上の分類も加わり、複雑な体系となっ
の残高は1993年時点で約6,200億ドルですが、
ています。
1995年時点では約8,500億ドルに達したと見
込まれています。
(【図4】ご参照)
なお、掛金建て制度の資産残高は1993年時
【図2】制度の特徴による掛金建て制度の分類
制
度
種
制
類
度
の
概
要
★マネーパーチェス年金制度
(Money Purchase Plan)
・事業主掛金が、制度規約に定められた掛金算定式に基づき、定期的に拠出される制度。
~~~~~~~~~~~
★目標給付制度
(Target Benefit Plan)
・目標給付を定めた上で数理計算を行い、算定された掛金を払込むが、実際の給付は積
立金の運用実績に応じて変動する。
・給付建て制度に近いマネーパーチェス年金制度の一種とも言える。
★利益分配制度
(Profit Sharing Plan)
・事業主掛金が、企業の当期(又は累積)利益に応じて拠出される制度。
(→定期的な拠出が行われる保証のない制度。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・ただし、掛金は必ずしも利益と関連する必要がなく、実質的にはマネーパーチェス年
金制度と区別できない場合もある。
★節約貯蓄制度(従業員貯蓄制度)
(Thrift Plan)
★株式賞与制度
(Stock Bonus Plan)
・任意拠出の従業員掛金が主体となり、事業主が補助(マッチング拠出)を行う制度。
・従業員掛金が利益分配を基準とする場合は、利益分配制度の一形態となる。
・基本的な仕組みは、利益分配制度と同じ。ただし、給付が事業主の株式によって支給
される。
−2−
【図3】掛金建て制度の状況(1993年末)
制度形態
制度数
加入者数 資産合計
(千人)
利益分配制度
および節約貯蓄制度
477,054
33,013
マネーパーチェス年金制度
114,997
目標給付制度
株式賞与制度
その他
合
計
(出典)米国労働省
【図4】401Kプランの状況(1993年末)
制度形態
(億ドル)
制度数
加入者数 資産合計
(千人)
(億ドル)
9,138
利益分配制度
および節約貯蓄制度
152,506
22,262
5,926
3,753
959
マネーパーチェス年金制度(注)
1,487
19
29
8,955
192
71
目標給付制度
47
1
0
1,542
1,432
239
株式賞与制度
84
221
80
15,953
1,229
274
その他
609
457
128
618,501
39,619
10,681
154,733
22,960
6,163
合
計
(注)401Kプランとして認められるマネーパーチェス年金制度は、
エリサ法制定(1974年)以前に設立されたものに限られ
ている。
(出典)米国労働省
Private Pension Bulletin : Abstract of 1993 Form 5500 Annual Report
Private Pension Bulletin 'Winter 1995'
4.401Kプランについて
●税制適格制度との比較(【図5】ご参照)
そもそも企業年金制度は、掛金建て制度か給
を満たした場合に「401Kプラン」として認め
付建て制度かによらず、税法上の「税制適格制
られます。(「401Kプラン」とは、この内国歳
度」として認められた場合には、一定の課税優
入法の条項の頭文字から付いた名称です。)そ
遇措置が与えられます(税制適格に係る要件は、
して、401Kプランでは、税制適格制度の優遇
「内国歳入法401条(a)項」やエリサ法などに規
措置に加え、④課税前所得をベースとした従業
定されています)。具体的な優遇措置は、①事
員拠出を行い、その課税は給付時まで繰延べら
業主拠出金が一定限度まで損金算入できる、②
れます(税制適格制度では、従業員拠出はあく
運用収益が非課税、③事業主拠出金の従業員へ
まで課税後所得から行われます)。
米国では、「従業員拠出の課税控除」が非常
の課税が給付時まで繰延べられる、というもの
に画期的であったことに加え、給付建て制度と
です。
また、税制適格な制度のうち、「適格な利益
異なる様々な特徴が事業主・従業員の双方に受
分配制度、節約貯蓄制度および株式賞与制度」
入れられ、401Kプランの急増につながったと
については、さらに「内国歳入法401条(K)項」
考えられています。(
【図6】ご参照)
【図5】税制適格制度と401Kプランの税制優遇措置
税制適格制度
401Kプラン
優
遇
措
置
①事業主掛金が一定限度
②運用収益が非課税
まで損金算入できる
−3−
③事業主掛金の従業員へ
④従業員拠出が課税控除
の課税は給付時まで繰
され、課税は給付時ま
延べられる
で繰延べられる
401Kプランについて(その1)
【図6】401Kプランと給付建て制度の比較
項
目
給付建て制度
401Kプラン
資産の管理
年金プラン全体で管理
個人別勘定による管理
拠出
母体企業の拠出が中心
加入者の拠出が中心
投資リスク
母体企業が負う
加入者が負う
資産配分の決定
母体企業(受託者)
加入者
積立不足の発生
あり
なし
支払保証制度
あり(米国PBGC)
なし
企業BSへの反映
あり(年金債務と年金資産(時価)との差額) なし(年金債務そのものが認識されない)
数理計算
必要
不要
給付額
一般に在職年数の増加に伴い、増加する
積み立てられた資産額に依存
過去勤務期間に
対応する給付
提供可能
不可能
ポータビリティー
低い
高い
●401Kプランの仕組み
【図7】401Kプランの仕組み
一般的な401Kプランの仕組みを資金の流れ
企
③
④
マ
ッ
チ
ン
グ
拠
出
金
給与・ボーナス
(課税前所得)
任
意
企
業
拠
出
金
に基づいて説明します。
(【図7】ご参照)
業
★拠出金
所得税
課税
拠出金は【図7】のように、最大4種類(①
課税後所得
〜④)まで設定することができます。
①従業員の課税前拠出金
天引き積立
(課税控除)
→従業員拠出金のうち、課税控除の対象となる
②課税後拠出
①課税前
拠 出
IRA(個人退職勘定)
移管時は
非課税
他の401Kプラン
て拠出される。
②従業員の課税後拠出金
→従業員拠出金のうち、課税後の所得から従業
員が任意に払込む拠出金。
401Kプラン
(個人勘定)
移管時は
非課税
部分。給与天引き(ボーナスも含む)によっ
③企業のマッチング拠出
→従業員拠出金(①、②の合計)の一定割合
(50〜100%が約4割を占める)について、企
課税繰延べ
業が払込む拠出金。
給
④任意企業拠出金
付
→従業員拠出金の有無にかかわらず、一定の条
給付時課税
給付時課税
件を満たした従業員に対し、企業が任意に払
給付時課税
込む拠出金。
−4−
①プランスポンサーは、加入者に対し、少な
★給付金
401Kプランにおける個人勘定からの給付金
くとも3種類以上の、それぞれの投資性格
は、一括して支払われる(一時金給付)のが一
に大きな幅のある投資対象を提供しなけれ
般的です。そして、この給付金から従業員の課
ばならない。
税後拠出金を除いた部分は、通常の所得として
②プランスポンサーは、加入者に対し、少な
課税されます。ただし、プラン加入後5年以上
くとも3ヶ月に1度、投資対象を変更する
経過し、かつ59.5歳に達した従業員が給付金
機会を提供しなければならない。
を一括して受取った場合は、納税額を5年間に
③プランスポンサーは、加入者が投資決定を
平準して納付する税制優遇措置が適用できま
行うのに十分な情報を開示・提供しなけれ
す。一方、59.5歳到達前に支給を受けると、
ばならない。
通常の所得税に加え、10%のペナルティタッ
★拠出金の上限
クスが課せられます。なお、401Kプランの実
施企業から未実施企業へ転職したり、59.5歳
401Kプランでは、従業員の個人勘定に対し
未満で会社を中途退職した場合などは、60日
て、従業員、事業主のそれぞれが拠出を行いま
以内にIRA(Individual Retirement Account)と
すが、拠出額には上限が設けられています。こ
呼ばれる個人退職勘定へ給付額を移管すれば、
のため、プラン加入者に対して過度の税制優遇
引き続き課税を繰延べることができます。この
が行われることはありません。
ため、401Kプランはポータビリティーが高い
①個人勘定に拠出できる年間拠出額の上限
と言われています。
従業員の(課税前年収−課税前拠出金)×25%
と3万ドルの小さい方
≧
課税前拠出金+課税後拠出金 + マッチング拠出金+任意企業拠出金
(従業員の拠出)
(事業主の拠出)
●401Kプランに課せられる要件
401Kプランは、加入者へ多大の税制優遇を
②従業員の課税前拠出金の上限
年間9,500ドル(97年時点)
提供するため、その見返りに、満たさねばなら
98年1月からは、年間10,000ドル
ない要件も多数存在します。
→消費者物価指数に連動して改定される。
③企業の年間損金算入額の上限
従業員の(課税前年収−課税前拠出金)×15%
★資産運用
≧課税前拠出金+マッチング拠出金+任意企業
エリサ法404条(C)において、プランスポン
掛金
サーである事業主に対する受託者責任が定めら
れています。具体的な内容は次の①〜③ですが、
★加入に関する要件
事業主はこれを順守することによって、投資リ
勤続1年以上の従業員には、必ずプランへの
スクを負う義務が免除されます。(401Kプラ
加入を認めることとされています。
ンでは、投資リスクは従業員が負います)
−5−
401Kプランについて(その1)
○従業員が金銭的困難に陥った場合(事業主
★受給権付与
掛金よりも厳しい定義)
従業員拠出金(課税前拠出金、課税後拠出金
○従業員が59.5歳に達した場合
とも)は、拠出と同時に100%の受給権が発生
→「加入年数」は引出し条件にできない。
しますが、事業主拠出金の受給権付与について
[課税後拠出金]
は、次のどちらかを満たす必要があります。
すでに課税済みの所得から拠出されており、
①勤続5年未満は受給権なし、5年後に
就業中の引出しはいつでも可能です。
100%の受給権を付与する
②勤続3年未満は受給権なし、3年後に20%、
★差別禁止要件
以降20%ずつ増加させ7年後に100%の受
401Kプランの税制優遇措置は、従業員の給
給権を付与する
与に対する課税を繰延べるものです。そのため、
★就業中の引出し要件
高給従業員の方が低給従業員よりも大きなメリ
①事業主掛金(マッチング拠出金、任意企業拠出金)
ットを受けると考えられます。そこで、高給従
次の条件においては、就業中の引出しが認め
業員に極端に有利とならないよう、低給与の従
られますが、所得税に加えてペナルティータッ
業員が相当程度加入することを保証する審査基
クスが課せられる場合もあります。
準が導入されており、「ADP(実際繰延割合)
○従業員が金銭的困難に陥った場合
テスト」と呼ばれています。401Kプランは、
○従業員がプランに加入して5年経過した場合
毎年このテスト基準をクリアーする必要があり
○個人勘定に2年以上蓄積された持分
ます。
○一定の年令に達した場合
実際繰延割合(ADP; Actual Deferral Percentage)審査基準
②従業員拠出金
・ADP=対象者の課税前拠出金/対象者の報酬
・高給従業員とそれ以外の区分毎に、従業員毎の
[課税前拠出金]
ADPの平均値を算出し、次のいずれかを満たせ
ば良い。
401Kプランの税制優遇は、まさにこの「課
税前拠出金」にあります。そのため、課税後拠
(高給従業員のADP)≦(それ以外のADP)×1.25
出金や事業主掛金と比べて、就業中の引出しは
(高給従業員のADP)−(それ以外のADP)≦2%
厳しく制限されます。そして、この制限こそが
(注)高給従業員とは、その企業の株式を5%以上所有する者や、
年間75,000ドルを上回る報酬を受けた者のこと。
401Kプランを単なる貯蓄制度ではなく、退職
以上
後の生活に備えた制度と位置付けさせる要件で
あると言えます。引出しは、原則として次の場
[参考文献]
ダン・M・マックギル他「企業年金の基礎(改版)第12章」
(
(株)ぎょうせい)1998年
合に限られます。
企業年金ノート No.363
平成 10年 7月
大和銀行発行
年金信託部
〒541-0051 大 阪 市 中 央 区 備 後 町 2 ー 2 ー 1 TEL. 06
( 2 6 8)
1810
年金信託部(東京)
〒100-0004 東京都千代田区大手町 2 ー1 ー1 TEL. 03
(5202)
5401
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