バイオケミカニュース 機器システムバージョン Vol.3

BIOCHEMICA 機器システムバージョン
BIOCHEMICA
機器システムバージョン
Vol.03
2003.September
LightCycler Corner
LightCycler を用いた Ki-ras 2 変異検出の
ための PNA Clamp 技術
Georgia Lahr
1st Medical Dep., Municipal and Teaching Hospital München
Harlaching, München, Germany
Corresponding author: [email protected]
モレキュラー・バイオサイエンス本部
目 次
LightCycler Corner
LightCycler を用いた Ki-ras 2 変異検出のための ………………… 1
PNA Clamp 技術
Ki-ras 2 遺伝子のコドン12におけるポイントミューテーションは、
ファストスタート DNAマスター SYBRグリーンⅠを用いた ……… 4
ACE 遺伝子多型の解析
大腸癌に関連していることが報告されている1)。このポイントミュー
テクニカルチップ 定量法∼絶対定量法∼ …………………………… 6
テーションを多数の野性型細胞の中から見つけ出すのは非常に困難
であり、これは癌発生における過程を重点に置いた多くの研究プロ
ジェクトの問題でもある。したがって、迅速、簡易かつ信頼性の高
いポイントミューテーションの検出法が望まれる。本稿では、ライ
トサイクラーでのペプチド核酸
(PNA)
オリゴマーとハイブリダイ
ゼーションプローブを組み合わせた応用例を示す。ここで、PNA は
デオキシリボヌクレオチドに比べより特異的かつ強力に核酸に結合
What’s New
New MagNA Lyser(マグナライザー)…………………………………… 7
組織ホモジナイゼーションの自動化∼サンプル核酸抽出の前処理に!
New ベルトールド デテクションシステムズ ……………………………… 8
ロボット化に対応−
プレートタイプルミノメーター
『オリオンⅡ』
し、かつ Taqポリメラーゼのプライマーとしては働かないため、コ
ドン12 の野性型 PCR 産物が抑制される。これらの性質によりPNA
は、野性型配列に起因する、バックグラウンドが高い状況でのポイ
ントミューテーション検出に使用することができる。
はじめに
Ki-ras 2 遺伝子における変異は、結腸腺癌の約 50%に見られること
が報告されている1)。この遺伝子は 21 kDa のGTP 結合タンパク質
(細
胞の成長と分化のメカニズムを制御)
をコードしている2)。Ki-ras 2 遺
伝子はコドン12、13、61
(GTP結合に関連すると考えられる領域)
にお
けるポイントミューテーションにより、活性型オンコジーンに変換
される。サンプル材料は通常変質していない正常な細胞を様々な量
で含んでいるため、これらポイントミューテーションの検出は、多
くの研究アプリケーションにおいて問題を生じる。微少残存病変
(MRD)
では、ほんの僅かな細胞の存在も検出しなければならない。
例えば、人工的制限酵素断片長多型
(aRFLP)
による Ki-ras 2 のコドン
12 の解析は、非常に時間のかかる方法である3)∼5)。したがって、
PNAオリゴマーとライトサイクラーのハイブリダイゼーションプロー
ブを組み合わせたアプリケーションは、この研究用サンプルのポイ
ントミューテーションを検出するのに迅速で簡便な方法である。
PNAはDNAやRNAよりも相補的配列に強固に結合し、かつTaq DNA
ポリメラーゼによる伸長を受けない。当初、Thiede らは野性型に特
異的なPNAオリゴマーを用いて、野性型Ki-ras 2 染色体DNA の PCR 増
幅を妨げる方法について報告していたが6)、最近この方法はライトサ
イクラーとハイブリダイゼーションプローブを組み合わせて使用する
7)
方法に変更された 。すなわちPNA は増幅された Ki-ras 2 配列に結合
し、野性型配列に対して変異型に特異的なハイブリダイゼーション
プローブプライマー
(センサー)
と競合させることで、相補的な野性型
配列の増幅を抑える
(図 1)
。この構成により、変異型に特異的なシグ
ナルだけが得られ、
サンプル中の変異を同定することができる。
ここで
は、ライトサイクラーを使用した PNA clamping とハイブリダイゼー
ションプローブの組み合わせによる、Ki-ras 2 遺伝子と mRNA のコド
図 1:Ki-ras 2 ターゲット配列の配列と位置(GenBank Accession # L00045)
。
エクソンの配列は大文字、イントロンの配列は小文字。PCRプライ
マーのセンス
(緑色)
とアンチセンス
(青色)
、ハイブリダイゼーション
プローブのセンサー
(黄色)
とアンカー
(赤)
、PNAオリゴマー、イント
ロン/エクソンの境界を示した。
材料および方法
DNA /トータルRNAの抽出と逆転写反応
生検(研究用)サンプルとSW 480 細胞株(Ki-ras 2 のコドン12 に
より染色体DNAとRNAを、そして
変異、コドン 13 は正常型 8)∼9))
糞便より染色体 DNA を市販のキットにて抽出した。トータル
RNA からcDNA を合成する際、25μl の反応溶液での 2 ステップ
プロトコール、トータルRNA、2μl の10 xランダムヘキサマーを
使用した。この反応液を42℃、60分インキュベートした5)。
ン12におけるポイントミューテーションの検出について述べる。
1
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BIOCHEMICA 機器システムバージョン
PCR増幅反応
PCRは LightCycler FastStart DNA Master Hybridization Probes
ミックス( 3 mM MgCl 2)を使用し、DNAおよびcDNA(10倍希釈)
を反応容量の 25 %のサンプル容量として行った。DNAとcDNAの
解析を同時に行うために、プライマーペア Ki-rasF と Ki-rasKEAa
(125 bpの PCR 断片を生じる)とanchor-38 を組み合わせて使用し
た。DNA解析だけであれば、プライマーペア Ki-rasFとKi-rasR
(165 bp)と anchor-43を組み合わせて使用した。
PCRプライマーは:Ki-rasF 5'-AAG GCC TGC TGA AAA TGA
CTG-3'(forward)、Ki-rasKEAa 5'-CTC TAT TGT TGG ATC ATA
TTC GTC-3'(reverse)、Ki-rasR 5'-GGT CCT GCA CCA GTA ATA
TGC A -3'(reverse)。一方のハイブリダイゼーションプローブは
5'末端に蛍光色素LightCycler Red 705がラベルされた5'-RED705TTG CCT ACG CCA CAA GCT CCA A(sensor;コドン12システ
イン変異型に相補的)
、他方は 3'末端にフルオレセインがラベルさ
れた 5'-CAC AAA ATG ATT CTG AAT TAG CTG TAT CGT CAA
GGC AC-F1
(anchor-38)
もしくは 5'-CGT CCA CAA AAT GAT TCT
GAA TTA GCT GTA TCG TCA AGG CAC TF1(anchor-43)であ
る。センサー
(sensor)
とアンカー
(anchor)
オリゴヌクレオチドの
終濃度は0.2μM、PCRプライマーは0.3μMである。PNAオリゴ
マー
(PNA-wt)
、NH-TACGCCACCAGCTCC-CONHは0.7μMの濃
度で加えている。すべてのプライマーとPNAオリゴマーはTIB
Molbiol
(Berlin, Germany)
で合成した。125(165)
bp の PCR フラグ
メントはライトサイクラーで、95℃で2(3)sec、56( 60)℃で10
(15)
sec、72℃で10
(15)
secを59サイクル
(開始時、95℃、10 minで
変性・活性化)で増幅した。メルティングカーブ解析は95℃で0
(20)
sec、52(40)
℃で20 sec のハイブリダイゼーション、その後52
(40)℃から95℃まで連続的に温度を上昇(変化率:0.1[ 0.3]℃/
sec)
させることにより行った。蛍光は F3 チャンネルで検出した。
結果とアプリケーション
変異型コドン12 Ki-ras 2 染色体DNAの検出
ハイブリダイゼーションプローブは、Ki-ras 2 のコドン12シス
テインバリアントに特異的なセンサープローブの特異的融解温度
特性を利用することにより一塩基の配列のバリアントのモニタリ
ングを感度よく行うことができる。165 bp の断片を増幅すること
で得られた野生型とバリン変異型 DNA の特異的PCR 解析の結果
を示す(図 2)。この PCR( PNA を使用、不使用)において、特異
的な増幅曲線が得られた(図 2a)。59サイクル後のメルティング
カーブ解析(PNA不使用)を図 2bで示しており、蛍光値の負の一
次微分(-dF/dT)が温度(℃;Tm)の関数としてプロットされてい
る。変異型DNAの解析では、融解温度66℃が得られた。野生型サ
ンプルでは融解温度68.5℃が示された。PNAオリゴマーを添加し
た場合の関数を図 2cに示す。0.7μMのPNA共存下で増幅させる
図 2:野生型(wt)とバリン変異型
(val)DNAのライトサイクラーPCR
のデータ解析。
DNA調製後、15-mer PNAオリゴマー使用、不使用で増幅した時の増
幅曲線を(a)に示す。メルティングカーブ解析(b, c)では、蛍光値(dF3/dT)の負の一次微分が温度(℃;Tm)の関数としてプロットされ
ている。青線は糞便より抽出した野生型DNAを示す。赤線は腫瘍細
胞株 SW480より抽出したコドン12バリン変異型DNAサンプルを示
し、黒線は陰性コントロール(H2O)を示す。
ことで、コドン12 野生型のアンプリコン生成が抑えられ
(完全な
阻害ではない)、その結果、クロッシングポイントが大幅に高い
変異型コドン12 Ki-ras 2 mRNAの検出
側にシフトしている
(図 2a)
。この結果は、アガロースゲル電気泳
野生型とバリン変異型 mRNA の125 bp PCR 断片の生成を例と
動でも確認した(データ不掲載)。
して、Ki-ras 2 特異的 RT-PCR の結果を図 3に示す。図 3a は PNA
不使用での59サイクル後のメルティングカーブ解析である。ここ
で、変異 mRNA と DNA の解析を行うと、融解温度が約 61℃であ
り、野生型サンプルは約 65℃であることが示された。ここでも、
0.7μMの PNA が融解温度 65℃のコドン 12 野生型 DNA と cDNA
の増幅を抑制している(図 3b)。Landtら7)の研究の追加として、
ここでは発現された遺伝子の mRNA 解析が PNA Clampアッセイ
に含まれていた。そこで記載された方法により、野生型による
バックグラウンド下で、マイナーな変異の mRNA と DNA配列の
2
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BIOCHEMICA 機器システムバージョン
特異的な検出を行うことができた。これは、野生型のバックグラ
参考文献
ウンドにスパイクした変異型SW480 細胞株を段階希釈したもの、
1)Vogelstein B et al.(1988)N Engl J Med 319:525-532
また同様にMRDサンプルについても示すことができた
(データ不
2)Barbacid M et al.(1987)Ann Rev Biochem 56:779-827
掲載)。本法は、PNAを介するPCRクランピングアプローチと、
3)Haliassos A et al.(1989)Nucl Acids Res 17:8093-8099
たった一塩基ペアの相違を含んだ配列に特異的なハイブリダイ
4)Schütze K and Lahr G(1998)Nat Biotechnol 16:737-742
ゼーションプローブを使用した配列感受性の高い同定を組み合わ
5)Lahr G(2000)Lab Invest 80:1477-1479
せたものである。ライトサイクラー装置を使用すれば、アッセイ
6)Thiede C et al.(1996)Nucl Acids Res 24:983-984
が70分以内で完了する。
7)Landt O et al.(2002)in press.
8)Verlaan-de Vries M et al.(1986)Gene 50:313 -320
9)Jiang W et al.(1989)Oncogene 4:923 -928
製品名
包 装 単 位
Cat. No.
LightCycler Instrument
1 instrument
2 011 468
www.lightcycler-online.com
ライトサイクラー クイックシステム 350S
リアルタイム PCR 定量装置
製品番号:2 011 468 特 長
超高速サイクリング
1 サイクル / 30 秒
20 ∼ 30 分 / 30 ∼ 40 サイクルを実現
● 融解曲線分析
PCR 増幅産物の Tm 値分析
●高感度
1 ゲノム相当からシングルコピー遺伝子を検出可能
●
図 3:正常型
(wt)
とバリン
(val)
変異型cDNAのライトサイクラーPCR
のデータ解析。
ここでは蛍光の負の一次微分
(-dF3/dT)
が温度の関数
(℃;Tm)
として
プロットされている。コドン12 wtとバリン変異型より逆転写された
トータル RNA は PNA 不使用(a)、使用(b)で増幅された。
サマリー
ハイブリダイゼーションプローブ、そしてライトサイクラー装
置を組み合わせた、PNA オリゴマーの応用例を示した。PNA は
本 体 仕 様
サ イ ズ 300 mm(W)× 450 mm(D)× 400 mm(H)
特異的な PCR 産物を抑制し、高い厳密性かつデオキシヌクレオチ
重 量 約 20 kg
ドに匹敵する特異性で核酸に結合し、さらに Taq DNA ポリメラー
電 源 AC 110 ∼ 240 V 800 W
ゼのプライマーにはならない。これらの特性により、PNA は野生
温 度 変 化 率 0.05 ∼ 20℃ / 秒
型 DNA と mRNA 配列のもたらす高いバックグラウンドの中で
温 度 精 度
± 0.4℃
光学ユニット
励起波長:LED 470 nm
検出波長:530 mm, 640 nm, 710 nm
の、研究用サンプルのシングルポイントミューテーションの検出
に使用することができるであろう。
◆ 付属品:コンピュータ / プリンター / カローセル遠心機 / プローブデザイン
ソフトウェア
製品に関する情報は…http://biochem.roche.com/lightcycler/
3
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ファストスタート DNA マスターSYBR
グリーンⅠを用いた ACE 遺伝子多型の解析
プライマー配列
Forward 5’-CTGGAGACCACTCCCATCCTTTCT-3’
Reverse 5’-GATGTGGCCATCACATTCGTCAGAT-3’
菊池 有純1)、倉本 裕子1)、大圓 修身1)2)、中北 武男1)2)
1)医療法人 大雄会第二医科学研究所
2)医療法人 大雄会総合大雄会病院
PCR条件
Denature
95℃
10 min
はじめに
高血圧症は先進国成人人口のおよそ15∼20 %に発症するcommon diseaseであり、わが国でも約 3000 万人以上の患者数が存在
すると言われている。際立った自覚症状のないまま、心筋梗塞や
脳梗塞などの致死性の高い疾患の危険因子となりうることから、
高血圧症における適切な治療と管理は予防医学において重要な課
題である。また、近年、多因子疾患に関連する遺伝子解析が進歩
し、遺伝素因と生活習慣をベースに、さらに個別化した予防策に
もとづいた生活指導や投薬が注目されている。今回、我々は高血
PCR
95℃
62℃
72℃
15 sec
15 sec
25 sec
40 cycles
Melting Curve
95℃
0 sec
60℃
15 sec
60℃→ 95℃(0.2 ℃/sec)
圧症の関連遺伝子のひとつとされているACE(angiotensin-converting enzyme)遺伝子の多型を、ファストスタートDNAマス
ターSYBRグリーンⅠを用い、ライトサイクラーにて測定し、
Cooling
40℃
30 sec
我々が従来行なっていた方法と比較した。
図 1:プライマー配列とライトサイクラー設定条件
対象および方法
A. 対 象
結 果
対象は当会職員 44 名
(男性 23 名、女性 21 名)から採血した全血
本法における melting curve と従来法でのアガロース電気泳動
(EDTA-2Na)
を用いた。採血後、High Pure PCR Template Prepa-
写真をそれぞれ図. 2、図. 3に示す。ACE遺伝子の多型は intron 16
ration Kit(Roche)
にて有核細胞より核酸抽出したものを測定に供
に存在する Alu 様配列の有無によって決定され、Alu 配列を有
した。
するものがI(insertion)allele、無いものがD(deletion)allele とな
る。したがって遺伝子型は II 型、DI 型、DD 型で表現される。得
B. 方 法
られた melting curve から、85℃前後と92℃前後にて著明な peak
本法で用いた primer、およびライトサイクラーにおける設定条
が確認でき、前者は D allele、後者は I allele の特徴的な peak と
件を図. 1 に示す。反応液は template 10 ng、primer 各 0.5μM、
してとらえることができた。また、この温度は計算された Tm 値
3 mM MgCl2、10 × Fast Start Master SYBR GreenⅠ2μlを加え
とほぼ一致した。
total 20μl としたものを使用した。
本法における 44 名の結果を表. 1 に示す。この結果は全例とも従
また、得られた結果は我々が従来行なっていたPCR法 1)2)と比
来法と一致した。
較検討した。
図 2:Melting Curve
4
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テクニカルチップ
定量法 ∼ 絶対定量法 ∼
はじめに
ライトサイクラーで行うようなリアルタイム PCR での遺伝子の
定量は、主に 2 つの方法に大別される
(図 1)。ある目的遺伝子に
対し、サンプル中のそのコピー数を計算する絶対定量法と、
mRNA 発現定量のように、ハウスキーピング遺伝子のようなリ
ファレンス遺伝子などの発現量を基準とし、それに対しどれくら
い発現しているのかを定量する相対的定量法である。ここでは絶
対定量法について説明する。
1
2
3
4
lane 1:DNA Molecular Weight Marker(100 bp ladder)
lane 2:II(Insertion homozygote)
lane 3:DI(heterozygote)
lane 4:DD(deletion homozygote)
図 3:アガロース電気泳動写真
図 1:PCR 定量の原理
絶対定量法とは
絶対定量法は、ライトサイクラーの基本ソフトウェアで通常行う
表 1. ACE 遺伝子多型の男女別分布(%)
おなじみの方法であり、スタンダード
(既知濃度の標準物質)
に基づ
ACE genotype(%)
き検量線を描き、それにより初期コピー数を算出する方法である。
DD
DI
II
リアルタイム PCR による定量では、エンドポイント、すなわ
Man
4.3
56.5
39.1
ちあるサイクル数でのシグナルの高さで定量するのではなく、
Woman
14.3
66.6
19.0
PCR 反応中期の対数直線
(ログニリア)
領域のシグナルを検出する
ことにより、化学反応速度論に基づいたより正確な定量を行う。
図 2のように、ある濃度のスタンダード
(希釈系列)を 4 本用意し
結 論
本法は今回測定した 44 例の全例において従来法の結果と一致し
た。また、従来法と比較し、測定・解析に要する時間が大幅に短
縮できることや、melting curveから、より客観的なデータ解析が
可能になったと考えられる。
当会では現在、高血圧関連疾患など一部の疾患に関して、いく
たとき、濃度の濃い順に増幅シグナルが立ち上がる。その立ち上
がりのサイクル数を決定し、そのサイクル数を検量線の縦軸に、
濃度(log 値)を横軸にしてプロットすると直線関係が得られる。
これを基に、未知検体のシグナルの立ち上がりのサイクルより濃
度を算出する。
つかの遺伝素因や環境要因を参考にした上での生活習慣や食事指
導の実施について検討しているが、その際においても、本法は有
用な方法であると考えられた。
参考文献
1)Teret L, Rigat B, Visvikis S, Breda C, Corvol F, Soubrier
F.Evidence, from combined segregation and linkage analysis,
that a variant of the angiotensin Ⅰ-converting enzyme(ACE)
gene controls plasma ACE levels.Am J Hum Genet.1992;51:
197-205.
2)Lindpaintner K, Pfeffer MA, Kreutz R,Stampfer MJ, Grodstein
図 2:絶対定量の考え方
F, LaMotte F, Buring J.N Engl J Med 1995;332:706-711
製 品 名
包装単位
Cat. No. 希望価格
LightCycler FastStart
96回反応用 3 003 230 29,600円
DNA Master SYBR Green I 480回反応用 2 239 264 118,400円
5
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BIOCHEMICA 機器システムバージョン
× 1:10、1:1000…)。
絶対定量における前提条件
● 検出レンジ限界における定量を行う場合、二重測定あるいは
この絶対定量において;
三重測定を行う。
効率スタンダード = 効率ターゲット
であることが真値に近づけるための配慮として必要である。
まとめ
なるべく本式に近づけるよう考慮頂きたい。
本法は、ダイナミックレンジの広さが利点であり、ある血液な
スタンダードは、基本的に濃度が分かっていれば何でも良いの
どのサンプル中の微生物あるいはウイルス量を定量するのに、よ
だが、これがターゲット遺伝子と同じ PCR 効率でないと、定量値
く使用される。ただし、本法だけでは限界がある。PCR 阻害物質
にズレが生じ、正確な定量結果が得られない。例えば同じ初期遺
やその他 PCR に影響を与える因子によるインパクトについての情
伝子数の場合、スタンダードの効率 E =1.95、ターゲットの効率
報が得られないのである。例えばある検体であるウイルス遺伝子
E=1.90の場合、PCRを30サイクルかけると;
の増幅の立ち上がりのシグナルが得られない、すなわち陰性の結
スタンダード:N = N0 ×(1.95)30 = N0 × 5.0 × 10 8
ターゲット:N = N0 ×(1.90)30 = N0 × 2.3 × 10 8
N:増幅された分子の数、N0:初期分子の数、
n:サイクル数、E:PCR効率
果が出たケースを想定する。この場合、果たしてその検体中に
ターゲット遺伝子(ウイルス)が本当に無かったのか、あるいは
Taq ポリメラーゼなどの PCR 反応コンポーネントの劣化によるも
のなのかが判断できない。
このように、差が約 2.2 倍となってしまう。
この効率を左右する因子として、フラグメント長、配列、サン
プルの精製度
(純度)
、RTプライマーとPCRプライマーの間隔
(RTPCRにおいて)等が挙げられる。
このPCR効率(E)を算出するためには、スタンダードの希釈系
列、ターゲットの希釈系列をそれぞれ作成し、各検量線を作成す
る。このときの検量線の傾き
(Slope)
により計算できる
(紙面の都
合により、ここでは詳細な計算法は省略する)。
1
E=10 −Slope
これを克服するためには、同じPCR反応液中にPCRのパフォー
マンスを確認する物質、内部コントロールを併用することになる。
例えばロシュの販売するパラメータキットで、LC Parvovirus B19
定量キットでは、図 3 のようにターゲット配列にインサートを入
れることで、内部コントロールとしており、これをサンプル核酸
(DNA)の精製時に添加するようになっている。図 4 は典型的結
果であるが、ネガティブコントロールのシグナルを見ると、F2
(Parvovirus特異シグナル)
は増幅の様子を呈していないが、F3
(内
部コントロール特異シグナル)
を見ることで、PCRの反応自体には、
反応阻害などの負の因子について問題が無いことが確認できる。
スタンダード作製のためのガイドライン
このPCR効率をそろえるための、スタンダード作製のガイドラ
インを示すのでご参考いただきたい。
● シーケンス
シーケンスは PCR 効率を同等にするため、できるだけターゲッ
トと同一のものを使用したほうが良い
(同じアンプリコンサイズ/
GC含有率)。
● 材 料
PCR:プラスミド DNA(直鎖化したものが望ましい)
精製した PCR 産物
リファレンス DNA(ゲノムDNA)
図 3:LC Parvovirus B19定量キットの内部コントロール
1 ステップ RT-PCR:in vitro 転写により調製したRNA
リファレンス RNA
(トータルRNA、mRNA)
● 精製度
(純度)
PCR に干渉するヌクレオチド、プライマー、塩の混入を防ぐた
め、精製キット
(弊社 HighPure PCR Product Purification Kit など)
を用い不純物を取り除く
● 濃 度
吸光度測定(OD 260 nm)より算出する。
ピペッティングによる誤差を最小限に抑えるため、インプット
容量が 2μl 以上となるように濃度を調節する。
● ハンドリング
シリコナイズ済みのチューブやエアロゾル耐性滅菌済みピペット
チップを使用する。
キャリア核酸を添加し、低濃度のスタンダードの安定化を図る
(例;10 ng /μl MS2RNA)。
F2
F3
図 4:Parvovirus B19 キット使用の典型例
F2(LC-Red 640)はParvovirus B19 特異的シグナル。
F3(LC-Red 705)は内部コントロール特異的シグナルを示す。
製品名
包装単位
Cat. No.
希望価格
HighPure PCR Product Purification Kit
小分けして−20 ℃(DNA)または−70 ℃(RNA)で保存する。
50 回精製
1 732 668
11,300 円
● スタンダードは少なくとも 3 ポイント
(3 濃度)で作製する。
250 回精製
1 732 676
49,800 円
10 A 260 ユニット
165 948
9,300 円
● スタンダードの希釈系列を調製するときは、1 オーダー
( 1 桁)
以上離れた段階希釈は行わない
(例:○ 1:10、1:100、1:1000…
6
MS2 RNA
What’s New
BIOCHEMICA 機器システムバージョン
凍結あるいはRNA-Later処理の組織:
What’s New
1 mg∼10 mgの生のあるいは凍結組織(−80℃)やRNA-Later
(Ambion)で前処理したマウス肝臓や脾臓を、キットに含まれて
New MagNA Lyser(マグナライザー)
いる細胞溶解バッファーに加え、MagNA Lyserでホモジナイズし
組織ホモジナイゼーションの自動化∼サンプル核酸
抽出の前処理に!
た。室温でインキュベートし、遠心した後、ライゼートの上清を
回収し、これを初期材料として使用した。
パラフィン包埋組織:
MagNA Lyserは自動で組織や細胞などを破砕するベンチトップ型
パラフィン包埋組織のサンプル
(5μmの切片)
は脱パラフィン処理
の装置で、核酸精製の前処理に最適な装置である。本装置は、多
をし、細胞溶解バッファー中でプロティナーゼ Kと共にホモジナ
様な組織や細胞などから核酸を容易に抽出するMagNA Pure LC
イズした。
Isolationキットと組み合わせて使用するようにデザイン、最適化
されている。またロシュでは、MagNA Pure LC Isolationキット
表 1:収量と純度(OD260 nm / 280 nm)の結果
の他に、マニュアル操作で高純度の核酸を精製するHigh Pureシ
リーズ
(シリカ吸着タイプ)
も提供しており、これとの組み合わせ
においても最適である。
MagNA Lyserは、ビーズ、組織、溶解バッファの入った特別な
チューブをセットしたローターを高速で相互に振動させることで
破砕する。この動作は哺乳動物組織、植物組織、細菌や酵母など
の細胞を破砕するのに適している。MagNA Lyserは、2 mLのサ
ンプルチューブの中でセラミックビーズ
(シリカ製)
を衝突させる
ことで細胞を破壊する。衝突の度合いとエネルギー(どちらも破
砕効率を決定する)は、速度の設定と使用するビーズの重量に依
存する。
FF
mouse
liver
FF
mouse
spleen
RNA
mouse
liver
FFPE
xenograft
FFPE
human
placenta
1.5
0.3
1.5
-
-
RNA yield
(μg / mg tissue)
RNA yield
(μg / 5μg section)
Purity
(OD 260 nm / 280 nm)
-
-
-
2.5
5.0
2.0±0.1
2.0±0.1
2.0±0.1
2.0±0.1
2.0±0.1
FF = fresh-frozen
FFPE = formalin-fixed, paraffin-embedded
凍結したマウス肝臓と脾臓、RNA-Laterで前処理したマウス肝臓、フォルマリン
固定異種植皮(Xenograft、LXFA 629)
の1 × 5μm切片、フォルマリン固定ヒト
胎盤の 1 × 5μm切片をMagNA Lyserで破砕後、トータルRNAを抽出した。
RNAは最終容量50μl あるいは100μl に溶出し、260 nmと280 nmでの光学密
度(OD)測定で解析した。
MagNA Lyser
グリーンピース
MagNA Lyser
MagNA Lyser 本体
ローラー冷却ブロック
図 1:前処理された、あるいは凍結サンプルより抽出されたトータル
RNA。
28 S-および18 S-バンドから、精製されたRNAは高い完全性を保ってい
ることが示された(MWM=分子量マーカー)
。
ワークフロー
組織 &
溶解用バッファー
DNA
RNA
mRNA
1∼2分
1. 溶解用チューブを用意
2. MagNA Lyserで破砕処理
1分
3. 遠心し、夾雑物をペレット化
4. ライゼートの上清を移す
製品名
包装単位
MagNA Lyser 本体
Cat.No.
希望価格
3 358 968
774,000円
3 358 941
42,000円
MagNA Lyser グリーンビーズ
【例】MagNA Lyserでホモジナイズした後、全自動核酸抽出装置
100チューブ
MagNA Pure LCと専用試薬MagNA Pure LC RNA Isolation Kit III
― Tissueを組み合わせてトータルRNAを抽出。
表 1 に収量と純度
(OD測定による)
、図 1 にRNAの完全性を示す。
7
What’s New
BIOCHEMICA 機器システムバージョン
ベルトールド D.S. ルミノメーター
プレートキャリアとロボット化
ベルトールド デテクションシステムズ社は、ルミノメーターの
プレートキャリアは、すべてのマイクロプレートハンドリング
専門メーカーです。
デバイスとコンパチブルです。ルミノメーターのソフトウェア
ドイツ、フォルツハイムに本社・工場を置き、たゆまないルミ
は、ロボットシステムとインターフェース可能です。定義済みプ
ノメーターの開発と製造・販売を行い、世界中で多くの実績を
ロトコールの実行はリモートでアクティブとなります。測定デー
持っています。日本国内においては、ロシュ・ダイアグノス
タは自動的に回収、あるいはExcelにエキスポートされます。
ティックス株式会社との業務提携により試薬から分析、データ出
しまで、最高品質試薬と最高性能システムの組合せで、トータル
ソリューションを提供しています。
New ロボット化に対応−
プレートタイプ ルミノメーター 登場
写真:Hamilton Bonaduz AG
シンプリシティ ソフトウェア
シンプリシティソフトウェアのベーシックモジュールは、標準
プロトコールより構成されています。測定時間は 0.1 秒刻みで
セットでき、結果は RLU/sで報告されます。データはスプレッド
シートで表され、測定完了後に印刷および各フォーマットで保存
できます。それに加え、シンプリシティは自動的に、評価と報告
のためのマクロを組んだ Excel シートに、データを転送します。
ORION II
実験の複合度に応じ、以下のプロトコールをベーシックモ
プレートタイプ ルミノメーター オリオン I、II
ジュールに組込む事が出来ます。
分注されたアッセイ試料の、96 もしくは 384ウェルマイクロプ
レートをルミノメーターにセットし、スタートキーをヒットする
だけで、各ウェルへの基質試薬のインジェクションから測定ま
で、全て PC 制御により自動的に行われます。データは接続 PC に
自動的に転送され、測定中の値を同時にモニターすることもで
−ファストカイネティックス
き、終了後は自動的に WindowsR プラットフォームの ExcelR へ
−デュアルメジャメント
転送させることもできます。また、microWIN2000も利用できます。
今回新発売のオリオンIIは、ハイスループットスクリーニング
に対応すべく、大変コンパクトで、サンプルセッティング部分が
各種のサンプルサプライロボットに対応するようにデザインされ
ています。
アプリケーション
オリオンIIは、マイクロプレートで行われるグローおよびフ
ラッシュタイプの発光を使用するアプリケーションに最適です。
−レポータージーンアッセイ
−ATPアッセイ
−キナーゼ活性アッセイ
−細胞増殖、障害性、アポトーシスアッセイ
−核酸の定量
−Ca 2+アッセイ
−発光イムノアッセイ
−バッチプロトコール
仕 様
機 能
検出方式
感 度
ダイナミックレンジ
プレートタイプ
インジェクタ
クロストーク
サンプルのセット
アプリケーション/
プロトコール
PCソフトウェア
内 容
フォトンカウンティング
ATP/HS
直線性
マイクロプレート/Well
増設可能、
分注量
隣接ウェル漏光極少化
スループット
ORIONⅡ
○
10 attomole
6桁
12 strip∼ 384
0 ∼ 4 基、
10 - 150μl
< 3x 10 -5
自動化可能
Raw/single/
slow/fast
kinetic/ batch
Stop & GloTM
Dual Luc
WindowsRプラットフォーム Simplicity
仕様は予告なく変更されますので予めご了承下さい。
03.09.B-25S
★ 製 品 情 報 HP:http://www.rochediagnostics.jp