特別養護老人ホームの待機者が施設に求めるニーズに関する調査 特別

特別養護老人ホームの待機者が
施設に求めるニーズに関する調査
特別養護老人ホームに求められる役割と機能に関する
一考察
鹿児島県社協老人福祉施設協議会
研修広報委員会
調査研究の目的
• 本調査研究は,地域包括ケアシステム
の整備が進む中で,特別養護老人
ホームの待機者が施設に求めるニー
ズについて,利用者へのアンケート調
査より明らかにする.その結果から今
後,特養が地域包括ケアシステム構築
の中で目指す役割や機能,ケアのあり
方を考察することを目的とする.
調査研究の概要
• 1.特養待機者の現状と状態の把握
⇒先行研究の検討
• 2.特養待機者が施設に求めるニーズの
把握
⇒アンケート調査
• 3.特養待機者の実態と特養に求められ
る ニーズの考察
先行研究の検討①
• 平成21年12月集計の全国の特養待機者数は,約42.1万人とされる.(厚
生労働省:2014)
• 在宅以外の居場所として介護老人保健施設が最も多く7万1,692人で,次
に医療機関が5万3,861人となっている.(厚生労働省HP:2014)
• 特養新規入所者の約半数が老人保健施設や医療施設で入所待ちをして
いる割合が高い(野村総研:2009)
• 特養申込者の平均年齢は全ての現在利用している施設種類全てにおい
て84 歳前後で,全施設平均の要介護度は3.45 であった.医療処置をみる
と,介護療養病床等の申込者のうち「経鼻栄養・胃ろう・経腸栄養」が30%
程度,「浣腸、摘便」,「吸入・吸引」が20%前後を占めており,医療ニーズ
の高さが目立つ.(医療経済研究機構:2012)
• 待機者の特徴として、①自宅以外が約半数、①80歳以上、②要
介護度が3以上、③医療ニーズが高いということが示唆された
先行研究の検討②
• 老人保健施設に入所している対象者が施設への入所を希
望する理由は,「介護者が介護することが難しい」,「介護者
がいない」,「家族との関係性」,「家の構造上の問題」が多
かった.申込施設では,特養が最も多かった.(西井:2013)
• 待機者の中には,将来への不安や必要な時に入所できな
いために手続きを進める傾向もあるとし,優先入所システム
の運用改善や在宅サービスの充実等を図る必要があるとし
た.(新宿区福祉部:2011)
• 「要介護等認定者が自宅や地域で暮らし続けるために必要
なこと」とは,「緊急時の短期入所サービス等の拡大」,「在
宅医療の充実」,「高齢者向け公営住宅の増加」となってい
る.(東京都足立区:2011)
• 待機者の多くは、在宅生活継続への不安を感じている。現
在の在宅サービスは、待機者ニーズに応えられていない
先行研究から得た知見
在宅生活を困難にする要因
① 特養申込者の上位者は,80歳以上の人
が多い.
⇒超高齢期世代の増大
① 自宅以外で待機している人が全体の6
割に上る.
⇒自宅の生活環境の限界
① 認知症および医療ニーズの増大
⇒重度者の増加
① 個別性に対応できない在宅サービス
⇒在宅サービスのインフラ未整備
① 単身者および老老介護の増加
⇒家族介護機能の限界
特養に求められる機能
ターミナルケア機能
居住環境機能
医療介護の専門的機能
個別ケア機能
24時間支援機能
アンケート調査
対象・・・鹿児島県内の特別養護老人ホームに入
所申請を行っている方で,入所判定会議を経て施
設の待機者リストにおける上位者10名の待機者
期間・・・平成25年8月5日より8月30日
有効回答数・・・有効回答数は105施設、有効回
答率は70.5% (回答頂いた待機者数1,013名)
アンケート調査は,先行研究を参考に現在の状態,
サービス利用状況,特養入所希望の理由、特養入所
後の期待等16項目実施
アンケート調査の概要
1) 性別内訳
2) 年齢構成
3) 要介護度
4)認知症高齢者の日常生活
自立度
5) 障害高齢者の日常生活自
立度
6)世帯構成
7) 現在の居場所
8)入院もしくは入居している
施設から退院・退所を求めら
れているか
9) 待機期間
10)サービス利用種類
11) サービスの利用頻度
12)介護保険の平均利用料金
13) 医療的な処置の必要性に
ついて
14) 医療的処置の種類について
15)入所希望理由
16)入所後の施設への希望
アンケート調査結果
1)男女比
(n=1013)
区 分
男性
女性
合計
人 数
327
686
1013
割 合
32.3%
67.7%
100%
男性, 327
女性, 686
2)年齢構成
平均年齢84.5歳
85歳以上が55.7%
年 50歳 50
齢 未満 -
54
55
-
59
60
-
64
65
-
69
70
-
74
75- 80- 85- 90- 95 100 合計
79
84
89
94
- -
99 104
集
計
4
6
40
57
120 218 287 205 66
1
2
7
1013
割 0.1 0.2 0.4 0.6 4.0 5.6 11.9 21.5 28.3 20.2 6.5 0.7 100%
合 %
% % % % %
%
%
%
% % %
3)介護度
要介護4及び5で,72.2%
要介護度
集計
要介護1
24(2.4%)
要介護2
64(6.3%)
要介護3
193(19.1%)
要介護4
379(37.4%)
要介護5
353(34.8%)
合計
1013(100%)
入所希望理由
n=1,013(2項目選択)
700
600
659
564
500
400
300
200
100
0
235
148
110
116
160
34
入所後の施設への希望
n=1,013(2項目選択)
700
598
517
600
500
400
300
296
247
200
100
0
50
138
142
38
入所希望理由及び入所後の希望
• 特養への入所希望理由
①「介護者がいない、もしくは主たる介護者が介護困難
なため」
②「障害や認知症により、自宅での生活が困難なため」
③「最期までみてもらえるため」
• 入所後の施設へ希望
①「途中で退居を迫ることなく最期までみてくれること」
②「緊急時においても24時間対応が可能で安心である
こと」
③「専門職が多い」
アンケート調査結果より
• 認知症高齢者の日常生活自立度では,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴで72%を占めて
いる.
• 障害高齢者の日常生活自立度では,ランクB,Cで76.4%となってい
る.
• 世帯構成では,単身および夫婦世帯で73.5%となっている.
• 現在の居場所では,自宅と子供宅以外が72.3%に上る.
• 入院もしくは入居している施設から,41.4%が退院もしくは退所を求
められている.
• 自宅で待機している人のサービス利用種類では,1種類が多くサー
ビス提供が単品化している.
• 利用されているサービスでは,ショートステイ,デイサービス,訪問介
護の順となっている.
• 医療的な処置の必要性についは,措置なしが約7割,1種類が約2割
で処置は胃ろう,痰の吸引,鼻腔栄養の順になっている.
分析結果
待機者の特徴
①85歳以上で超高齢期の方が多い
②認知症および疾患等による自立度の
低下が目立つ
③介護者がいない、いても介護できない
状況がある
④医療的処置の対応が必要である
⑤専門職によるケアの必要性がある
特養に求められる支援体制と機能
ターミナルス
テージを含む
支援体制
24時間支援機能
居住環境機能
医療介護の
専門的機能
まとめ
訪
問
系
サ
ー
ビ
ス
・
定
期
巡
回
・
随
時
対
応
型
訪
問
介
護
看
護
考察
特養が推進すべき取り組みの提言
①喀痰吸引が可能な職員増を図るため
の具体的な取り組み
②超高齢期のステージに応じた看取り研
修プログラムの構築
③重度化に対応するための人力以外の
介護方法の導入と積極的推進
提言に対する具体的取り組み(案)
①喀痰吸引が可能な介護職員を増やすための研
修体制の整備と事務処理の簡素化
②(仮称)全老施協認定専門介護士の創設
介護
職員
介護福
祉士
③ノーリフトの導入
認知症リー
ダー研修・
ファースト
ステップ研
修・喀痰吸
引研修・等
効果
測定
全老施
協認定
専門介
護士
まとめ
重度になってもターミナル期においても,その人の状態
やニーズに応じた生活支援が可能な一つの選択肢とし
て,特養が地域にあることは待機者にとって大きな安心
感と現実的なよりどころとなっていることを確認できたこと
は成果であった.
また,ターミナル支援体制の構築に向けた3つの提言を
示せたことは意義深いと考える.超高齢社会において,
特養に求められるニーズと果たすべき役割は大きい.
その実現のためにも,我々は利用者・家族・待機者・地
域の声に真摯に耳を傾け,ニーズに沿った取り組みを推
進していくことが肝要と考える.