電力市場自由化評価のための 最適潮流計算プログラムの構築

電力市場自由化評価のための
最適潮流計算プログラムの構築
E00084
東出好弘
1. はじめに
電力市場への競争原理の導入が世界的潮流となってい
る。既に,欧米諸国では電力市場自由化を行なっており安
定度やコストを考慮した電力系統の計画・運用を行なって
いる。我が国でも電力自由化に伴い,新規事業者が参入し
託送の増加が予想される。それに伴い,電力系統の潮流状
況は複雑なものとなり系統の信頼性や環境への影響など
も考慮しなければならない。そこで,発電と送電を分離し
送電系統の信頼度を確保するためのサービス(アンシラリ
ーサービス)が重要になってくる。アンシラリーサービス
の中の1つとして,アンシラリーサービスコストが挙げら
れる。これは信頼性を保ちつつコスト削減をするものであ
る。そこで電力系統の経済的評価を効率的に行なうことの
重要性が高まってきており,その手法の1つとして最適潮
流計算手法(OPF: Optimal Power Flow)が注目されてきてい
る。また,送電線の複雑化により送電線の混雑が予想され
る。そこで地点別に価格を出せるノーダルプライスも注目
され始めている。
そこで本研究では,既存の最適潮流計算プログラムにさ
らに経済性を考慮し,ノーダルプライス(スポットプライ
ス)を考え,地点別にコストを算出し電力託送などの電力
取引が系統に与える影響を定量的かつ客観的に評価でき
るようにプログラムを作成し,シミュレーションを行いコ
スト計算を行なう。
2. 最適潮流計算
まず,潮流計算とは母線電圧や発電出力が指定された,
ある特定の潮流断面を計算するものである。P-V 指定の母
線の有効電力および母線電圧,P-Q 指定母線の有効無効電
力を指定した,未知関数と同じだけの連立非線形方程式を
Newton-Raphson 法により計算するものである。最適潮流計
算とは,電圧に対する上下限等の運用上の制約を満足し,
燃料費や送電損失等の目的関数を最もよくする潮流断面
の中から最適な潮流断面を検索するものである。母線に注
入可能な有効,無効電力や母線電圧の運用範囲を不等式制
約として表わしている。
本研究では昨年に研究されていた 2 次計画法を用いるこ
とにする。2 次計画法は,最適点において目的関数の 2 次
近似を用いて最適化を行なっている。今まで使用していた
線形計画法は目的関数,制約関数が線形にならなくてはい
けなく,もともと非線形である目的関数を線形近似計算す
ることが困難だった。しかし 2 次計画法を用いることによ
って 2 次関数以下の目的関数,制約関数であれば容易にで
き計算時間も短縮できる。
3. マージナルコスト
マージナルコストの 1 つとして,地点別電力供給コスト
(ノーダルプライス)があげられる。ノーダルプライスとは,
最適潮流計算を計算することにより得られる地点時刻別
限界費用(LMP: Locational Marginal Price)である。ノーダル
プライスを用いて電気料金や電力託送料金を算定する方
指導教員
藤田吾郎
法はノーダルプライシングと呼ばれており,アメリカの
PJM や New York ISO などで適用されている。日本でも電
力自由化に向けて注目を浴びてきている。
4. ノーダルプライスの求め方
ノーダルプライスはある地点の負荷(MW)が単位量 Δ yi
増加した際,最適な系統コスト C の変化量を意味する。C
は送電損失分を含む系統全体の燃料費であることが多い。
ρはノーダルプライスをあらわす。
∂C
ρi =
∂yi
ノーダルプライスの価格決定において,送電制約を考慮
した場合,電力価格は,発電限界コスト,送電線の混雑コ
スト,送電ロスを考慮した任意の地点における負荷 1MW
を増やすための供給コストの総合である。送電制約がなけ
れば,どの地点でも同じノーダルプライスとなるが,送電
制約がある場合,各地点のノーダルプライスに差異が生じ
るので,地点間の託送料金が発生する。
本研究では,2 次線形計画法を用い最適潮流計算を行な
う。そこでコスト(1)を出す。次に一定の電力を各ノードに
加える。そして,もう一度最適潮流計算をしてコスト(2)
を出す。これをノードの数だけ繰り返す。コスト(1)とコス
ト(2)の差分を求めその価格のことをノーダルプライスと
いう。図 1 にフローチャートを示す。
START
データ入力
最適潮流計算
コ ス ト ( 1)
一定の電力を加える
最適潮流計算
コ ス ト (2)
コ ス ト (2)- コ ス ト (1)
ノーダルプライス
END
図1
フローチャート
各ノード
ごとに
繰り返す
5. 系統モデル
6. 結果とまとめ
ここで使用した系統モデルとして,IEEE モデルではコス
トデータなどが無く,使用するにはデータが少ないので,
図 2 のような 3 機 6 母線モデルや図 3 のような IEEJ(電気
学会)標準系統モデルの WEST10 モデルを使用することに
する。
まず,3 機 6 母線モデルを用いてシミュレーションを行
なう。そうすると図 4 のような結果となる。その結果,3
機6母線モデルではノーダルプライスは変化しているが
とても微小なものとなる。この原因として考えられるもの
は,系統が小さいために変化があまり大きくならない。次
に WEST10 モデルを用いてシミュレーションを行う。各ノ
ードに加える P の値を 0.1 にすると計算を初期値が見つか
らず,値を 0.01 にした。そうすると図 5 のような結果が得
られた。このシミュレーション結果から3機6母線よりも
系統が大きいため前回よりも変化が大きくなった。
図 2 の 3 機 6 母線モデルにおける発電機の目的関数 F,
制制約関数 P は以下のようになる。
発電機 1
50.0 MW ≤ P1 ≤ 200.0 MW
F1 ( P1 ) = 213.1 + 11.669 P1 + 0.00533P12
ノーダルプライス
発電機 2
6.5E-07
37.5MW ≤ P2 ≤ 150.0 MW
6.0E-07
コスト(cost/h)
F2 ( P2 ) = 200.0 + 10.333P2 + 0.00899 P22
発電機 3
45.0 MW ≤ P3 ≤ 180.0 MW
5.5E-07
5.0E-07
4.5E-07
ノーダルプライス
4.0E-07
3.5E-07
F3 ( P3 ) = 240.0 + 10.333P3 + 0.00741P32
3.0E-07
1
BUS3
BUS2
2
3
4
5
6
ノード
発電機3
BUS6
図4
発電機2
3機6母線モデルのシミュレーション結果
ノーダルプライス
BUS5
70MW
発電機1
70MW
コスト(cost/h)
BUS1
BUS4
-0.206
-0.207 1
-0.208
-0.209
-0.21
-0.211
-0.212
6
11
16
21
26
ノーダルプライス
ノード
70MW
図2
図5
3機6母線モデル
WEST10 モデルのシミュレーション結果
参考文献
[1]
[2]
[3]
[4]
図3
west10 機モデル
電力系統モデル標準化調査専門委員会,
「電力系統の標
準モデル」,電気学会技術報告第 754 号,電気学会,
(1999)
横山隆一編,「電力自由化と技術開発」,東京電機大学
出版局,(2001)
関根泰次他「電力系統の最適潮流計算」,社会法人日本
電気協会,(2002)
A. J. Wood, B. F. Wollenberg, ‘ Power Generation
Operation and Control’,Wiley (1996)