第 90 回都市環境部会(平成 27 年 12 月 14 日開催) テーマ:「持続可能

第 90 回都市環境部会(平成 27 年 12 月 14 日開催)
テーマ:「持続可能な都市づくりのベストプラクティスを訪ねて」
講 師:関西大学環境都市工学部教授・大阪大学名誉教授 盛岡通 氏(本部会座長)
概要:当部会が関西の都市での持続可能なまちづくりを検討するうえで、注目すべき都市施策と、
それらを評価し紹介する動きについて説明いただきました。
・世界のサステナビリティに関わる都市施策の新しいトレンドとして、気候変動への適応
策、災害へのレジリエンシー強化、健康増進など福祉政策と連携等の動きが重視されて
いる。NY のブルームバーグ前市長の取組みはこれらの未来の都市政策を有機的に組み
合わせている。グリーンな都市へのアジェンダに続いて策定された気候変動適応を含む
ハリケーン サンディ後のより回復力のある都市への行動計画は、確かなレガシーとな
っている。
・気候変動政策の一つの根幹である低炭素型のエネルギー・システムを構築する上では、
米国のエネルギー省のエネルギー効率と国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が示
す 4 つの次元の区分が重要だ。「再編成か変容か」、「漸進的か急激か」の軸で 4 つの次
元が整理され、適応、進化、再構築、変革の4つの戦略が区別されている。このうち、
世界銀行の中の投資コーポレーション IFC のコミュニティー向け事業や RMI(ロビンス
のロッキーマウンテン研究所)の取組みは変革に位置づけられている。
・例えば都市間ネットワーク C40 では、100 のベストプラクティスを紹介し、メルボル
ンの気候変動適応計画とその意思決定支援システム、バンクーバーでのビル建設時の嵩
上げ措置、ワシントン DC での省庁横断型洪水対策などを紹介している。国際機関もシ
ンクタンクも、都市のエネルギー・イノベーションとともに、「コンパクトで歩けるま
ちづくり」を重要な評価軸にしている。また、都市活動に重要な働きをする事業所(企
業活動)にはハードな規制よりも自主的な取り組みを支援し、情報公開(コミュニケー
ション促進)を重視することで、持続可能なまちづくりに有効な政策を展開しうるとし
ている。
・エネルギー・イノベ―ション等のスマートシティを目指して整備を図るシンクタンクの
都市比較の試みも多い。特に中国への展開を意識して広州のある街区(開発地区)とハン
マルビ―ショースタットやフライブルグのヴォーバンを比較した例では、「歩いて楽し
める」「自転車で快適に走行できる」「自動車なしで動ける道路の密度と連結性が高い」
「広範囲で高質の公共交通を形成する」「買い物やサービスの混合土地利用をはかる」
「駅周辺に高密度形成を図る」
「開発の境界を厳密に規制する」
「駐車場と道路空間の規
制を行って動き回る回遊を誘導する」といった 8 項目の指標を準備して比較評価してい
る。例えばハンマルビーショースタットは 200ha で 130 人/ha の人口密度でトリップ
の 50%がトラム利用と言った明瞭な指標での評価を実施していて、情緒的になりやす
い国内の取組みにも参考になる。
・C40 の 100 の気候政策での事例集に示されたベストプラクティスの分野は、①グリー
ンなエネルギー、②都市廃棄物と資源管理、③適応計画とアセスメント、④気候変動適
応の実行、⑤炭素計測と低(脱)炭素計画、⑥ビルのエネルギー効率、⑦気候から見た
財政と経済計画、⑧スマートシティとスマートコミュニティの協働、⑨交通とモビリテ
ィ、⑩持続可能なコミュニティ、からなっている。このうち、今回の都市環境部会の報
告では、①のグリーンなエネルギーについての 10 の都市の実践が紹介された。
・欧州都市の EU による都市イニシアティブでは、低炭素都市への転換アジェンダ
(Transformation Agenda for LCCs)を展開する際に、スマートシティを①住み続け
られ、②レジリエントで、③包摂的であり、④気候変動に責任をもって、⑤未来の見通
しから導いて、⑦イノベーションを推進し、⑧持続可能な経済を有する、と定義してい
る。6 つの都市(アムステルダム、コペンハーゲン、ジェノバ、ハンブルグ、ウィーン、
リヨン)の取組みをモデルとして展開し、それぞれ、①アムステルダムでは 300ha の
混合的土地利用の場でエネルギーグリッドをスマート化する、②コペンハーゲンの北港
地区の荒廃地を再開発して 4 万人の居住と 4 万人の雇用を生み出しながら低炭素(省
エネ)のモデルとして運用する、③ジェノバの港湾地区の再開発で都市のステークホル
ダーの参画でビルに省エネ新規技術を導入し、太陽光発電と情報活用で電動モビリティ
を導入する、④ハンブルグで IBA の協力で気候対応地区の住民を 55000 人から 75000
人まで順調に増加させ、2025 年までにはリニューワブル電力での供給に切り替え、さ
らに 2050 年までは DHC の熱供給もすべて再生可能エネルギ-に切り替える、⑤ウィ
ーンの 2 つの地区(荒廃地と新規開発地)での環境モデル促進で 2 万戸の住戸開発と 2
万の事業所を生み出しながら新公共交通とスマートで社会的な技術インフラの開発を
促す、⑥リヨンでは 100 万㎡の新規開発と既存の 4 割のリノベーションで複合的な環
境都市を形成する、といった規模も狙いの幅も広い取り組みであり、第一フェイズの終
了後の進捗管理にガバナンスを必要とする。
・日本の環境モデル都市では、京都市が品位の高い和の文化と COP3 開催地であること
をブランドにし、市民と一体となったまちづくりで環境施策を継続的に展開している。
四条通りの歩道拡張への地域一体となった粘り強い取組みの成功を他の地域にも広げ
ていて、木造りのまちの相談ステーションを各地に設けて進めていて、京のエコライフ
とビジネススタイルを発信している。堺市では大規模太陽光発電施設やエコモデルタウ
ンを推進し、仁徳天皇陵の世界遺産化への取組みを活かした環境まちづくりを行ってい
る。北九州市は紫川の再生やエコタウン事業(循環産業形成)を手始めに、東田地区の
再開発とスマートコミュニティ事業、さらにはアジアへの低炭素社会づくりの展開を行
っている。横浜市はみなとみらい地区や金沢区でのスマート・エネルギ―の導入が特徴
的だが、他方で電鉄沿線の住宅地の成熟(高齢化)対応のリノベーションや生活支援が
先進的である。
・環境先進の都市圏をつくる上では、気候変動政策を国家レベルで展開しても、環境負荷
を誘発する活動が集積する都市での取組みが重要となる。特に消費者であり利用者であ
る市民の行動選択が生産や資源調達を左右するので、その施策は自ずと複合的かつ構造
的なものとならざるを得ない。その際には規制的手法のみでは行動の誘導を促せない。
また経済的手法に限定すると補助財源の確保や公平性担保に難があるので、都市活動の
複雑さやインターリンケージの面から、情報の公開とコミュニケーションを促し、価値
共有型の都市共創を図る動きが強まっている。
以上
※ 当日資料のコピーは、当フォーラム会員でご希望される方には事務局 平山
([email protected])に連絡いただければ送付いたします。