慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における 疫学

厚生労働科学研究費補助金
難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における
疫学・診断・治療の実態調査研究
平成 22 年度 総括・分担研究報告書
研究代表者
中島
淳
序
慢性特発性偽性腸閉塞症は食道から直腸までの全消化管を罹患対象とし時間的空
間的にその罹患部位を変化させながら罹患腸管において蠕動能の著明な低下をきたし、器
質的閉塞がないのに機械的腸閉塞様症状を呈する慢性の疾患である。腸閉塞症状の悪化で
繰り返す腸管切除を余儀なくされ短腸症候群による栄養障害に至ることや、罹患部位に小
腸が含まれる場合は長期わたる腸管拡張により腸管での機能異常、すなわち消化吸収症障
害が起こり、長期の中心静脈栄養を余儀なくされる状況に至るような疾患である。患者は
腸閉塞症状に苦しみ、増悪・再発により何回もの手術を受け、長期の中心静脈栄養管理下
に置かれ食事摂取ができない状況に至り、栄養障害による合併症で死亡することもある。
海外では小腸移植が行われる。これまでこのような文献的背景とは別に実際の患者を見る
機会は希少疾患ゆえに少なかったが、本研究班で慢性特発性偽性腸閉塞症の実態調査を進
めるにしたがい、多くの患者を診療する機会や症例提示を得て実に本疾患が難病であるか
をあらためて認識した。希少疾患ゆえに系統的調査研究が本邦では全くなされていなかっ
たことによる。
本研究班では平成21年度に不十分ながら診断基準(案)を作成し、消化器内科、
大腸肛門外科の我が国における専門家への実態調査を行い、内科系の調査では症状発現か
ら診断確定まで実に長期にわたることが明らかにされ、まず当該疾患の医師における認知
が急務であることが分かった。このため主に内科医を対象に本年度は慢性偽性腸閉塞とは
何かの紹介を邦文で啓蒙活動を行った。しかしながら本疾患の病態や、治療法に関しては
全くわかっておらず今後の重要な課題である。一方外科系の調査では、小腸を罹患部位に
含む症例の手術例は手術成績が有意に悪く外科治療は良好な予後に繋がらないことが明ら
かになった。以上の調査をもとに本年度は、1.国内の患者の疫学調査を科学的疫学手法
により、地域、病院規模別に全国調査を行い我が国の推定患者数などの実態を明らかにす
べく現在集計作業中である。来年度には結果を解析して我が国における疫学が明らかにな
る予定である。2.外科系の調査で協力いただいた施設から手術検体を供与いただき本邦
における手術症例の病理的解析を行った、具体的には筋原性、神経原生、カハール細胞の
消失による間質性の分類を特異的抗体を用いた免疫染色を行う手法である。これまで希少
疾患ゆえに病理診断の我が国における知見は無く、この結果により本邦で初めて病理学的
のどのような異常があるのかが明らかにされるものと思われる。海外、主に欧米では手術
前に腸管の全層生検を施行して診断を行っており、病理学的知見の蓄積は非常に豊富であ
る。一方我が国では全層生検などはほとんど行われないために本疾患の病理的解析が遅れ
てきた。3.平成21年に作成した診断基準は本邦の臨床現場に即して診断が容易にかつ
特異度高くできるように工夫したものであるが、この診断基準案を国内外の研究者の批判
に耐えられるように多くの方からご批判いただき改定を行った。これは本疾患の診断にお
いて海外などでは比較的小腸マノメトリーや消化管シンチグラフィーが臨床現場で容易に
使用可能であるが、本邦では不可能に近い状況であるために、このギャップを埋めるため
に本邦の臨床現場でも診断をつけるために作成を試みた経緯がある。しかしながら本邦独
自で、海外の研究者には通用しないものでは『ガラパゴス化』の危険もあると考え海外の
当該分野の専門家に意見を求めた。特に欧米の専門家より実に熱心な多くのコメントをい
ただき国際的批判に耐えられる診断基準の改定案を作成することができた。
来年度に向けては、診療のガイドラインおよび手引きの作成を目指すこと、小児
例の調査に着手すること、治療のアルゴリズムを作成することなどを行っていく予定であ
る。まず調査結果の発信を通して、特に内科医に対して本疾患の認知を高めることが最も
重要な仕事であると考えられる。我が国における現状は当該疾患のことを内科医で知る者
が非常に少ないことが明らかになったのである。治療に関してはその当面のゴールは今回
の調査から症状を除去する対症療法に加え、手術に至る腸閉塞状況の増悪、すなわち軸念
転や、レントゲン所見の悪化をきたさないこと、また小腸の消化吸収障害が起こらないよ
うに早期に適切な減圧および栄養療法の介入が重要であることがより本質的問題であるこ
と示唆された。特に小腸が罹患範囲に入っている症例では手術をできるだけ避けなければ
ならないことが本研究班の調査で明らかにされた以上、本疾患の治療で成分栄養療法や中
心静脈栄養などの栄養療法が予防・治療ともにおいて重要であると考えられた。海外では
TPNなどによる栄養療法を積極的に行っても腸管切除を余儀なくされ、あるいは切除が
避けられても長期の腸閉塞状態から重度の消化吸収障害に陥り小腸移植に至る例が多く認
められている。従って、私見ではあるが本疾患は診断された時点でクローン病のように予
防的に栄養療法を行うことが望ましいのかもしれない。また、外科的腸管切除がなされた
場合の再発予防の対策も重要である。
このような当面の治療のゴールとは別に内科的根治療法を開発することが急務で
あると考えられる。根治で無くても少なくとも外科治療に移行する率を劇的に減らす治療
が求められている。現状では国内外の研究でも本疾患の発症原因の解明につながる知見は
ほとんどないが、病因解明が根治療法の開発に必要であると考えられる。1-2年で解決
できる課題ではないが、本研究班を端緒として国内外のネットワークを通して情報交換を
行い、我が国の医学研究の英知を結集していつの日か病因を解明し、根治療法の確立がで
きるようになることを求めてやまない。今回の研究成果が少しでも実際の患者の治療へ寄
与されることを期待して来年度も継続して研究を継続予定である。今回の研究に際し、調
査協力いただいた先生方に改めて感謝申し上げます。最後に、本研究の開始より貴重なご
助言をいただきました癌研有明病院
武藤徹一郎先生にこの場を借りて感謝申し上げます。
平成23年3月
研究代表者 中島 淳
研究班構成
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学診断治療の実態調査研究班
区
分
氏
名
職
名
研究代表者
中島 淳
横浜市立大学大学院分子消化管内科学
教
授
研 究 分 担 者
本郷 道夫
東北大学医学部消化器内科、総合医療学
教
授
藤本 一眞
佐賀大学医学部消化器内科
教
授
大和 滋
国立精神・神経センター国府台病院・消化器内科
部
長
正木 忠彦
杏林大学医学部消化器外科
准
松橋 信行
NTT東日本関東病院・消化器内科
部
長
佐藤 元
東京大学大学院医学系研究科社会医学/公衆衛生学
講
師
杉原 健一
東京医科歯科大大学院医歯学総合研究科腫瘍外科学
教
授
稲森 正彦
横浜市立大学附属病院臨床研修センター
講
師
武藤 徹一郎
癌研究会付属有明病院
名誉院長
篠村 恭久
札幌医科大学
教
加藤 元嗣
北海道大学医学部
平石 秀幸
独協医科大学
草野 元康
群馬大学医学部付属病院
永瀬 肇
横浜労災病院
川口 実
国際医療福祉大学付属
古田 隆久
浜松医科大学臨床研究管理センター・消化器内科
准
城 卓志
名古屋市立大学大学院医学研究科
教
授
荒川 哲男
大阪市立大大学院医学研究科消化器器官制御内科学
教
授
春間 賢
川崎医科大学
教
授
松本 主之
九州大学病院 消化管内科
講
櫻井 宏一
熊本大学医学部附属病院消化器内科
助
教
山本 章二朗
宮崎大学医学部附属病院内科学講座
助
教
乾 明夫
鹿児島大学医学部付属病院心身医療科
教
授
千葉 俊美
岩手医科大学医学部消化器・肝臓内科
准
教
授
吉岡 和彦
関西医科大学香里病院
准
教
授
横山 正
横山胃腸科病院
院
大倉 康男
杏林大学医学部病理学教室
教
河野 透
旭川医科大学外科学講座消化器病態外科学講座
准
大宮 直木
名古屋大学医学部附属病院消化器内科
講
石黒 陽
弘前大学医学部附属病院光学医療診療部
准
山田 正美
県西部浜松医療センター消化器内科
科
柴田 近
東北大学大学院生体調節外科学
准
教
授
川原 央好
大阪府立母子保健総合医療センター小児科
副
部
長
渡部 祐司
愛媛大学大学院消化管・腫瘍外科
教
授
飯田 洋
横浜市立大学附属病院消化器内科
助
教
関野 雄典
横浜市立大学附属病院消化器内科
指導診療医
顧
問
研 究 協 力 者
第一内科
第三内科
光学診療部
消化器内科
准
教
授
授
教
授
教
光学医療診療部
消化器内科
熱海病院
消化器・代謝内科学
食道・胃腸内科
消化器血液学
准
授
教
授
部
長
院
長
教
授
師
長
授
教
授
師
教
授
長
目次
I.
慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における疫学・診断・治療の
実態調査研究班 総括研究報告書 (平成 22 年度)
・・・・・・・・・・・ 1
主任研究者:中島 淳(横浜市立大学附属病院消化器内科)
II.
分担研究報告書
1. 本疾患概念の確立と本邦初の診断基準案作成と改良・・・・・・・・・ 3
分担研究者:本郷道夫(東北大学医学部総合医療学)
2. 本疾患概念の適切な治療指針の検討・・・・・・・・・・・・・・・ 6
分担研究者:藤本一眞(佐賀大学医学部内科)
稲森正彦(横浜市立大学附属病院消化器内科)
3. 確定診断までの期間短縮方法の検討
分担研究者:稲森正彦(横浜市立大学附属病院消化器内科)
大和 滋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
(国立精神神経センター国府台病院 消化器内科)
4. 当該疾患の本邦における疫学調査
分担研究者:佐藤 元・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
(東京大学大学院医学系研究科社会医学/公衆衛生学)
5. 慢性偽性腸閉塞(CIP)の本邦における患者への発信・・・・・・・・ 18
分担研究者:大和 滋
(国立精神神経センター国府台病院 消化器内科)
6. 当該疾患の成果発信・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
分担研究者:藤本一眞(佐賀大学医学部内科)
本郷道夫(東北大学医学部総合医療学)
杉原健一(東京医科歯科大学腫瘍外科)
7. 慢性特発性偽性腸閉塞症に対する外科治療成績の実態・・・・・・ 28
分担研究者:正木忠彦(杏林大学消化器・一般外科)
8. 小児における当該疾患の状況の文献的調査解析 ・・・・・・・・・・30
分担研究者:杉原健一(東京医科歯科大学腫瘍外科)
松橋信行(NTT 東日本関東病院消化器内科)
9. 海外の専門家との交流 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
分担研究者 中島 淳(横浜市立大学附属病院消化器内科)
杉原健一(東京医科歯科大学腫瘍外科)
藤本一眞(佐賀大学医学部内科)
稲森正彦(横浜市立大学附属病院消化器内科)
III.
研究成果に関する刊行一覧表・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・44
IV.
研究成果の刊行物・別冊
I. 総括研究報告書
平成 22 年度 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)
慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究班
総括研究報告書
研究代表者 中島 淳 横浜市立大学附属病院 消化器内科 教授
研究要旨
慢性の経過で機械的な閉塞機転がないにもかかわらず腸管蠕動運動の低下による腸内容
輸送の障害で腸閉塞症状を引き起こす慢性偽性腸閉塞症は、これまで患者の希少性から系
統的調査研究がされておらず医師における認知が低く、診断・治療も何が適切なのかが調
査検討されてこなかった。また、その病態については未解明の部分が多く、明確な診断基
準や治療法も定まっていない。今回の研究では当該疾患の我が国における疫学実態の解明、
診断率向上を目指して診断基準作成、適切な外科、内科治療法を明らかにすること、病理
学的な異常の解明などを目的として研究を行った。H21 年度の本研究班では診断基準(案)
を作成し、国内の消化器内科、消化器外科などにアンケートを送り実態調査を行った。今
年度は H21 年度に引き続き、1.偽性腸閉塞症の診断基準案の改良、特に当該疾患の経験豊
富な海外の研究者からの本邦作成の診断基準案に対する批判をいただき国際的にも認めら
れるような診断基準の改定を行った。2.実態について、全国規模での厳密な疫学調査に着
手して来年度には結果がまとめられる予定である。3.外科の調査から小腸を罹患部位に含
む場合は手術成績は望ましいものではなくむしろ胃瘻や小腸瘻のほうが経過良好であっ
た。以上の調査結果は我が国における当該疾患に関する外科治療の適応を考える上で非常
に重要な調査結果であり、希少疾患ゆえに系統的調査がなされてこなかった問題を研究班
組織により解決した点は大きな進歩であると考えられた。従って今後、当該疾患の外科治
療に関しては小腸を含む場合は外科的腸管切除は避けるべきと考えられた。4.外科の調査
から切除標本を提出いただき病理学的検討を目下行っている。5.その他、患者への情報発
信をホームページなどの電子媒体を用いて行った。病態の解明から診断基準、治療法の確
立に結びつけるべく多角的、総合的な解析を行った。以上の結果より、今後の重要課題と
しては、本邦における当該疾患の疫学を明らかにすること、現在解析を進めている本邦手
術例の病理解析を進めること、小児例の調査を行うこと、現時点でできる適切な治療法と
は何かを調査により明らかにすること、特に治療のゴールを症状の寛解に加え、手術の回
避、消化管からの消化吸収障害による栄養障害の予防に向けどのようにすべきかを明確に
示す必要性が示唆された。来年度は最終的に患者に還元できるように診断治療の手引き作
成を目指す。
分担研究者:
slow-transit constipation(難治性慢性便
本郷道夫 東北大学医学部 総合医療学
秘)などの大腸限局の異常、排便障害によ
教授
る直腸肛門機能異常など消化管各セグメン
藤本一眞 佐賀大学医学部内科 教授
ト単独の異状を合併し、時に同一患者で複
大和 滋 国立精神・神経センター国府台
数の消化管部位の異常を合併することから
病院消化器内科 部長
intestinal pseudo-obstruction は広義に消
正木忠彦 杏林大学医学部消化器外科 准
化管全体に起こる蠕動運動の異常をさすよ
教授
うになった。わが国では慢性偽性腸閉塞症
松橋信行 NTT 東日本関東病院消化器内科
chronic intestinal pseudo obstruction
部長
(CIPO)は小腸および大腸の罹患範囲での
佐藤 元 東京大学大学院医学系研究科社
異状として使われることが多い。
会医学/公衆衛生学 講師
CIPO は,腸管筋系や腸管神経系の異常に
杉原健一 東京医科歯科大大学院医歯学総
よる特発性(原発性)のもの,全身性硬化
合研究科腫瘍外科学 教授
症(SSc)やミトコンドリア脳筋症等の基礎
稲森正彦 横浜市立大学医学部消化器内科
疾患の影響によるものや,抗精神病薬や抗
助教
うつ剤などの薬物使用の影響による続発性
のものに分類される.感染症に続発するも
のとしては世界的には Trypanosoma Cruzi
【背景】
pseudo
による Chagas 病が有名である。Chagas
obstruction)は,消化管運動が障害されるこ
病は南米に多く感染部位の神経節を破壊す
とにより蠕動運動が障害される結果消化管
る。感染部位により、食道単独、大腸単独、
内容物の輸送ができなくなり,機械的な閉
複数個所などの偽性腸閉塞症が惹起される
塞機転がないにもかかわらず腹部膨満,腹
とされている。
偽 性 腸 閉 塞 症 (intestinal
痛,嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こす症
候群である。消化管における罹患範囲は食
A.研究目的
道から直腸に至る全消化管に及ぶことが知
H21 年度は、本疾患概念(分類など)の
られている。元来は Pseudo-obstruction(邦
確立と本邦初の診断基準案作成、海外での
文では消化管偽性閉塞症とでも訳すべき
当該疾患の状況の文献的調査解析、当該疾
か)は繰り返す腸閉塞症状に限定して使わ
患の本邦における状況の文献的調査、当該
れていた、つまり小腸における異常として
疾患の本邦における疫学調査、当該疾患の
使 わ れ て い た 、 し か し な が ら
内科的診断治療の現状調査、当該疾患の外
pseudo-obstruction は蠕動運動の欠如によ
科的現状調査、本疾患の治療法のアルゴリ
ってアカラシア等の食道単独の異常や、
ズム提案、当該疾患の海外での治療法の調
Gastroparesis な ど の 胃 単 独 の 異 常 、
査につき調査を行い、研究初年度の端緒と
Chronic megacolon ( 巨 大 結 腸 症 ) や
なる総合的な解析を行った。H22 年度は H21
年度に引き続き、診断基準案の改良(本郷)、
ィーや、小腸マノメトリーが消化管蠕動障
治療指針の検討(藤本、稲森)
、確定診断ま
害の診断に用いられ、確定診断に寄与する
での期間短縮方法の検討(大和)
、疫学調査
が本邦ではこれらの診断モダリティーはほ
(佐藤)
、成果発信(藤本、本郷、杉原)
、
とんどの病院で使用できない。一方、鑑別
外科治療成績の実態(正木、杉原)
、小児に
診断のための消化管器質的病変の除外は内
おける文献的調査解析(杉原、松橋)
、国際
視鏡技術の高度に進んだ我が国では比較的
的批判に耐えられる診断基準を目指した検
容易である。また近年マルチスライス
討(中島、杉原、藤本、稲森)
、につき調査
CT(MDCT)が普及して消化管拡張の定量化な
を行った。
ども本邦では比較的容易である。以上より
平成21年度は慢性疾患であることより、
B.研究方法
症状と、脳病期間、器質的疾患の除外、消
H21 年度に作成した診断基準案を元に、
化管拡張の画像的客観所見、基礎となる全
本邦や海外における症例報告を分析、雑誌
身疾患の除外の5点の基づき診断基準を作
に報告、またホームページに当該疾患につ
成した。この診断基準を用いて、本邦で過
いて掲載し、医療関係者や患者に情報発信
去に症例報告された患者の診断感度は 90%
を行った。
以上であった。
疫学調査は、全病院の消化器科、内科、
この診断基準の目的は「慢性偽性腸閉塞症」
外科を対象として、大学病院/一般病院の
の名前と概念を知っている医師が容易に診
別、病院の病床数で層別化し層化無作為抽
断できることを目的としたもので、あくま
出による抽出調査を実施した。全病院のリ
で早期診断につなげることが目的である。
ストは、独立行政法人福祉医療機構 WAMNET
平成221年度の国内の消化器内科対象の
掲載情報より提供された「全国の病院診療
調査では診断確定までに数年から10年近
所情報」を、大学病院は「医育機関名簿
くが要したことが分かったことから、診断
2009-2010」を使用した。調査は郵送法によ
までの期間短縮が重要な課題であると考え
り施行した。2010 年 10 月に依頼状・診断
られたからである。平成22年度は国内外
基準・調査票を対象病院に送付し、2009 年
から多くのご批判を当診断基準案にいただ
10 月から 2010 年 9 月までの 1 年間の受療
き改定を行った。疾患概念に関しては『消
患者数(新患および再来)の報告を依頼し
化管蠕動の著明な低下』を盛り込みより病
た。
「患者あり」と報告
態を表すことにした。また、診断基準の症
された病院には、依頼状・診断基準ととも
状に関しては昨年の国内ない調査の結果よ
に第 2 次調査(患者個人用)を随時送付し
り頻度の高い順にそのパーセントも入れて
た。
提示を行った。海外からは実に多くのコメ
ントをいただいた。とくに St Marks 病院の
C.研究結果
[診断基準改定]
海外では基幹病院では消化管シンチグラフ
MA Kamm 教授(現在オールトラリア メルボ
ルン大学)からは腸管拡張のない症例も存
在することに注意すべきである指摘を受け
た。これはマノメトリーや消化管シンチグ
てこなかった問題を研究班組織により解決
ラフィーの検査を行える欧米だからこそ診
した点は大きな進歩であると考えられた。
断できる異常と考えられたが、本邦では診
慢性偽性腸閉塞は、その亜型として大腸に
断不可能である。画像上消化管拡張を除外
限局するタイプが知られている。成人型
すると単なる慢性便秘が多く混入してしま
Hirschsprung 病や限局性 aganngliosis、
うからである。また、イタリアボローニャ
Chagas 病などが鑑別となる。これらの大腸
大学の Vincenzo Stanghellini 教授からは
限局の疾患は慢性巨大結腸症と総称される
急性の偽性腸閉塞である Ogilvie 症候群と
ことが多い、大腸限局型であれば偽性腸閉
当初診断された症例の中に慢性例に移行し
塞は手術成績が良好であることが知られて
慢性偽性腸閉塞になる症例が欧州では散見
いる。
されることをコメント頂き、本邦でもその
可能性があると考えられた。いずれにして
[病理解析]
もこのような海外の専門家が非常に多くの
平成21年度の外科系調査で手術症例の多
熱心な、経験に基づいたコメント頂き本研
い施設より切除検体を提供していただき杏
究班で作成した診断基準案が海外の批判に
林大学の正木教授、大倉教授らが中心とな
少しでも耐えられるようにできたと考えら
り、免疫組織化学的手法を用いて、myopaty,
れた。診断基準の残されたもう一つの課題
neuropathy, カハール介在細胞の異常かな
が画像による腸管拡張の定義である。
どの解析を目下行っている。カハール細胞
の異常でマウスでは偽性腸閉塞に類似した
[厳密な疫学調査]
病態になることが知られているが、最近研
本年度は全国の各病院、診療所の、地域別、
究協力者の大阪大学の辻先生らは自家骨髄
規模別に当該疾患の調査依頼を発送した。
移植による再生医療でマウスモデルにて腸
現在調査改修中であるが、結果は我が国に
閉塞が改善されることを報告している。今
おける当該疾患の厳密な推定患者数などの
後我が国で病理解析が進むことで本疾患に
疫学状況が明らかになると思われる。
再生医療による新たな治療法が応用される
可能性があり、今回の病理解析はそのよう
[外科治療調査]
な未来の医療へ向けた大きな一歩である。
平成21年度に大腸肛門学会の会員向けに
行った手術症例の調査を杏林大学の正木教
D.考察
授らがまとめて解析を行った。これによる
慢性偽性腸閉塞症は、病態については未
と小腸を罹患部位に含む場合種々成績は望
解明の部分が多く、明確な診断基準や治療
ましいものではなくむしろ胃瘻や小腸瘻の
法も定まっておらず、認知度も高くないこ
ほうが経過良好であった。以上の調査結果
とが H21 年度の調査でわかった。今年度は
は我が国における当該疾患に関する外科治
H21 年度に引き続き、疫学調査と疾患概念
療の適応を考える上で非常に重要な結果で
の普及と発信を行った。医療関係者や患者
あり、希少疾患ゆえに系統的調査がなされ
への情報発信は、他院からの紹介患者や自
ら来院する患者が多く来院し、ある一定の
効果はあったと考えられる。
外科の調査から小腸を罹患部位に含む場合
E.結論
手術成績は望ましいものではなくむしろ胃
慢性偽性腸閉塞症の診断基準案と作成・
瘻や小腸瘻のほうが経過良好であった。従
改良し、普及につとめた。過去の報告の検
って小腸を含む場合は外科的腸管切除は避
討を行い、H21 年度に作成した診断基準案
けるべきと考えられた。この知見は本疾患
の有用性を示した。診断基準案は海外の専
の治療に腸管切除を避けることが治療の大
門家の批判を取り入れて改定を行った。ま
きな目標であることを提示してくれる重要
た全国規模の疫学調査を行い、引き続き行
な結果であると考える。すなわち内科的治
っていく予定である。本疾患は小腸をその
療のゴールは症状の緩和とともに腸管切除
罹患部位に含む場合、外科的な腸管切除は
を回避するための予防戦略はどのようなも
避けるべきであることが示唆された。
のであるかを検討しなければならないこと
を示してくれた。内科的には治療の目標は
今後の重要課題としては、本邦疫学を明ら
症状寛解に加え、手術回避、消化管消化吸
かにすること、現在解析を進めている本邦
収機能廃絶による吸収不良症候群の回避の
手術例の病理解析を進めること、小児例の
3点であると考える。あくまで個人的な考
調査を行うこと、現時点でできる適切な治
察であるが、クローン病の糸状狭窄でかつ
療法とは何かを調査により明らかにするこ
て成分栄養により、経管より長時間持続注
と、特に治療のゴールを症状の寛解に加え、
入を行うことで腸閉塞症状の緩和、吸収不
手術の回避、消化管からの消化吸収障害に
良障害の低減、さらには手術回避などが検
よる栄養障害の予防に向けどのようにすべ
討されてきたが、慢性偽性腸閉塞において
きかを明確に示す必要性が示唆された。来
もその重症度を考慮して上記の3点の改善
年度は最終的に患者に還元できるように診
予防を目指して成分栄養療法の確立が今後
断治療の手引き作成を目指す。
重要と考える。特に手術症例はその再発予
防に向けこのような予防対策が重要である
と考えられる。
F. 健康危険情報
該当なし
全国規模の厳密な疫学調査は、継続調査
中であり、H23 年度も引き続き行い結果を
出す予定である。
2年間の研究からおぼろげながら本疾患の
本邦における実態が垣間見えてきた。また
ホームページからの情報発信で全国からの
紹介患者を診断する機会を得て、改めて当
該疾患が非常に希少かつ難治性疾患である
ことを痛感した。
G. 研究発表
1. 論文発表
1) 坂本康成、稲森正彦、中島淳 第2章
各論 B その他の病変 2.偽性腸閉塞「
どう診る?小腸疾患-診断から治療まで」
編集発行 株式会社 診断と治療社
p.176-180 2010 年 10 月 10 日
2) 飯田洋、稲森正彦、坂本康成、大和滋、
中島淳 慢性偽性腸閉塞症の我が国の報告
例のまとめと新たに提唱された診断基準案
に つ い て の 検 討 診 断 と 治 療 vol.98
no.11 2010 p.137-141 発行所:診断と治療
社 編集委員:河邊博史、中島淳、林道夫
、廣井透雄
3) 坂本康成、稲森正彦、飯田洋、中島淳 各
論 便通の悩み(IBS から難病・偽性腸閉塞
まで)偽性腸閉塞(急性を除く)の診断と
治 療 の 実 際 診 断 と 治 療 vol.98 no.9
p.1461-1465 (2010)
診断と治療社 2010
年 9 月 1 日発行
(予定を含む。
)
1. 特許取得
該当なし
2. 実用新案登録
該当なし
3.その他
該当なし
H.知的財産権の出願・登録状況
平成22年度 慢性偽性腸閉塞の改定診断基準案
疾患概念
消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管蠕動障害(腸管内容物の
移送障害)を認めるもので,慢性の経過を経るもの.
診断基準
6 か月以上前から腸閉塞症状があり,そのうち 12 週は腹部膨満を伴うこと.
画像所見
1. 腹部単純エックス線検査,超音波検査,CT で腸管拡張または鏡面像を認める
2. 消化管エックス線造影検査,内視鏡検査,CT で器質的狭窄、あるいは閉塞が除外でき
る.
付記所見
1. 慢性の経過(6 ヶ月以上)で 15 歳以上の発症とする.*先天性・小児は別途定める。
2. 薬物性、腹部術後によるものは除く。
3. 原発性と続発性に分け,原発性は病理学的に筋性,神経性,カハールの介在神経の異状
による間質性、混合型に分けられる。続発性は,全身性硬化症、パーキンソン症候群、ミ
トコンドリア異常症、2型糖尿病などによるものがある.
4. 家族歴のあることがある。
5. 腸閉塞症状とは,腸管内容の通過障害に伴う腹痛(67%)
,悪心・嘔吐(51%)
、腹
部膨満・腹部膨隆(96%)
,排ガス・排便の減少を指す.食欲不振や体重減少、Bacteria
overgrowth による下痢・消化吸収障害などをみとめる。
6. 障害部位は小腸や大腸のみならず食道から直腸に至る全消化管に起こることが知られ
ており、同一患者で複数の障害部位を認めたり、障害部位の増大を認める。また、神経障
害(排尿障害など)
,及び精神疾患を伴う事がある.
II. 分担研究報告書
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
1. 本疾患概念の確立と本邦初の診断基準案作成と改良
分担研究者 本郷道夫(東北大学医学部総合医療学 教授)
研究要旨:昨年度、慢性偽性腸閉塞症の概念と診断基準案を策定し、1 年が経過した。
種々の問題点を出現してきた。問題点を把握し、診断基準案の改良に繋げていく。その
過程を概説する。
はじめに
偽性腸閉塞は,消化管に器質的な狭窄・
H21 年度の報告書で提唱された、偽性腸
閉塞の診断基準案を下記に示す。
閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管内
慢性偽性腸閉塞の疾患概念
容の通過障害を認めるものであるが、現在、
消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認め
本邦、海外とも診断基準が確立しておらず、
ないにもかかわらず腸管内容の通過障害を
なかなか診断が確定しないことが知られて
認めるもので,慢性の経過を経るもの.
いる。昨年、診断基準案を策定し 1 年経過
した。種々の問題点を出現してきた。問題
慢性偽性腸閉塞の診断基準(案)
点を把握し、診断基準案の改良に繋げてい
6 か月以上前から腸閉塞症状があり,そ
く。その過程を概説する。
A.背景
偽性腸閉塞は,消化管に器質的な狭窄・
のうち 12 週は腹痛,腹部膨満を伴うこと.
(1 週間に 1 回以上の腹痛がある週を腹
痛のある週とする)
閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管内
容の通過障害を認めるものであるが、現在、
画像所見
本邦、海外とも診断基準が確立しておらず、
1.
診断がつくまでに時間がかかり,多くの医
療機関を渡り歩いたり、必要の無い治療を
腹部単純エックス線検査,超音波
検査,CT で腸管拡張または鏡面像を認める
2.
消化管エックス線造影検査,内視鏡
受けられる症例が報告されている。今回全
検査,CT で器質的狭窄、あるいは閉塞が除
国調査を行うにあたり、統一された診断基
外できる.
準をもとに行いたいと考え、当該分野のエ
キスパートである分担研究者、研究協力者
付記所見
と共に診断基準(案)を H21 年度作成した。
1.
1 年経過し、
種々の問題点が出現してきた。
上の発症とする.*先天性は除く
2.
B.診断基準案
慢性の経過(6 ヶ月以上)で 15 歳以
急性偽性腸閉塞症(Ogilvie 症候群)
は除く.つまり,手術後(6 ヶ月以内)の
発症は除く.ただし本疾患の手術後は除外
しない.
3.
った症例の術後を除外しない。
・ 症状が出た時点の検査値などはどうか。
原発性と続発性に分け,原発性は原
・ 原発性は原則として筋性、神経性、特発
則として筋性,神経性,特発性に分ける。
性に分ける」とありますが、これを分け
続発性は,全身性硬化症続発性とその他に
るには消化管内圧所見や全層生検が必
分ける.
要ですので、実際には難しいでしょうか。
4. 家族歴の有無は問わない.
5.
腸閉塞症状とは,腸管内容の通過障
害に伴う腹痛,悪心・嘔吐、腹部膨満・腹
部膨隆,排ガス・排便の停止を指す.
6.
神経障害(排尿障害など)
,及び精神疾
患を伴う事がある.
・ 器質的病変の除外はどの程度まで検査
しますか?
・ と くに小 腸病 変の除 外は どうし ます
か?
・ 経 口小腸 造影 くらい でい いでし ょう
か?
・ ゾンデ法による小腸造影も必要でしょ
C.診断基準案に対するコメント
うか?
H22 年度に行った全国疫学調査、回答と同
時に診断基準案に対してコメントを頂いた
ので紹介する。
D.問題点
診断基準案を用いた場合の感度、特異度
1) 疾患概念について
が重要である。飯田らの調査では、過去の
・先天性も含めるべきである。
症例報告 121 例で検討したところ、感度は
2) 診断基準(画像所見)について
92%であった。
・ 症状を具体的に記載した方がよい。
診断基準案では 15 歳未満は入っていな
・ バクテリア・オーバーグロースを表す下
いが、小児での報告例は多い。小児の実態
痢、悪心、嘔吐を含めてはどうか。
を調査し、小児での診断基準案を作成する
・ 腸閉塞症状としてはどうか。
ことが必要である。
・ 腸閉塞を疑わせる腹痛、悪心・嘔吐、腹
部膨満・腹部膨隆、あるいは腸管内容の
通過障害に伴う腹痛、悪心・嘔吐、腹部
おわりに
本邦初となる、慢性偽性腸閉塞の診断基
膨満・腹部膨隆、としてはどうか。
準を策定してから 1 年が経過した。種々の
・ 排ガス・排便の停止、を加える必要はあ
問題点が出現してきた。今後の調査結果を
るか。
基に改良することが望ましい。
・ 腸管拡張は、どの程度から拡張とするか。
3) 付記所見について
E. 参考文献
・ PSS でなく進行性硬化症(SSc)である。
1) 吉田誠,多保孝典,林秀樹ほか:外科的
・ 排尿障害などの自律神経症状、精神症状
治療が奏功した全身性硬化症に伴う小腸偽
につき言及してはどうか。
・ 偽性腸閉塞症なのにわからず手術を行
性腸閉塞の 1 例.日消外会誌 37:595-599,
2004
2) 前田憲男,村井理恵,中澤敦ほか:慢性
偽性腸閉塞症を呈し、ネオスチグミン投与
が有効であった消化管アミロイドーシスの
1 例.日消誌 101:609-615,2004
3)
Bockus
GASTROENTEROOGY
5th
Editionchapter72 Pseudo-obstruction
4) 飯田洋、稲森正彦、坂本康成、大和滋、
中島淳
慢性偽性腸閉塞症の我が国の報告
例のまとめと新たに提唱された診断基準案
についての検討
診断と治療
vol.98
no.11 2010 p.137-141 発行所:診断と治療
社
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
H.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
2. 本疾患概念の適切な治療指針の検討
分担研究者
藤本 一眞
(佐賀大学医学部内科 教授)
稲森 正彦
(横浜市立大学附属病院 消化器内科)
研究要旨:これまで本疾患の治療法に関しては対症療法が中心に行われてきたが、その治療指
針に関する十分な検討はなされていない。今回、我々は国内外での現状から、現在選択される
内科的、外科的治療の現況把握と、段階的な治療指針の作成を行った。
いのが現状である。
A.はじめに
慢性偽性腸閉塞は、器質的な閉塞起点を認めな
第二段階
いにも関わらず、消化管内容の通過障害を認める
以前に本邦で唯一偽性腸閉塞の適応症があった
疾患群であり、再発緩寛を繰り返しつつ、長い期
シサプリドであるが、現在は販売中止になってい
間をかけて進行性に QOL の低下を引き起こすこと
る。従って、現状では患者の症状に応じて便秘症
を特徴とする。
その原因により特発性と、
強皮症、
あるいは下痢症としての一般的な治療を行うこと
糖尿病や薬剤性などの続発性に分類されるが、慢
が第一段階となる。
性偽性腸閉塞は異なる疾患群の総称であることか
具体的には
らも、これまで国内外で診断基準が確立しておら
下剤としてのマグネシウム製剤
ず、治療法についても十分な検討がなされていな
腸内細菌のコントロール目的の乳酸菌製剤
かった。
などが選択される。
B.治療指針
第三段階
上記の基礎治療に反応がない場合、消化器疾患
治療第一段階
慢性偽性腸閉塞の診断がなされた場合、当該患
者の併存疾患や投薬歴などから、特発性か続発性
の診療経験の豊富な専門医への転送あるいは相談
が望ましい。
第二段階で使用された薬剤に加えて、
症状に応じて下記薬剤の併用が行われる。
かを判断する。続発性慢性偽性腸閉塞の内、原疾
患の治療への対応で偽性腸閉塞症状の改善が期待
各種緩下剤
できる者は、その治療を最優先とする。具体的に
ジメチコン
は、糖尿病、甲状腺機能低下症や一部のアミロイ
消化管運動促進薬としてのモサプリド、
大建中湯、
ドーシス、感染症や腫瘍に併発したもの、薬剤性
パントテン酸、メトクロピロミド、イトプリド、
などは原疾患の治療や原因薬物の中止によって症
スルピリド
状改善が期待できる群である。ただし、多くの慢
などが選択される
性偽性腸閉塞患者は治療可能な基礎疾患を持たな
第四段階
第二、第三段階の治療が奏功しない多くの場合、
C.おわりに
慢性偽性腸閉塞の疾患概念が普及するに従い、
交代性の便秘下痢を認めるようになる。
この場合、
栄養療法、薬物治療、外科治療あるいは集学的治
薬剤コントロールに難渋することが多く、当該疾
療により患者管理が改善されつつあるが、より適
患の診療経験の豊富な消化器病専門医への転送が
切な治療指針の模索を継続および安全かつ有効な
望ましい。使用される薬剤としては第二、第三段
新規治療方法の作成が急務であると考える。
階の薬剤に加えて
D.参考文献
ポリカルボフィルカルシウム
1)Howard
DM.
Pseudo-obstruction.
th
Bockus
edition 1995; 1249-1267.
止痢薬としてのタンニン酸アルブミン、ロペラミ
Gastroenterology 5
ド
2)Dwight HS, Steven PH, John MW. Diagnosis and
消化管運動促進薬としてのエリスロマイシン
Management of Adult Patients With Chronic
などが選択される。
Intestinal Pseudoobstruction. Nutr Clin Pract.
2006; 21:16-22.
第五段階
3)Anras S, Baker CRF Jr. The colon in the
これらの治療に抵抗性を示す場合、当該疾患の診
pseudo-obstructive
療経験の豊富な消化器病専門医の管理のもと、時
Gastroenterol 1986; 15:745-762.
に入院加療が必要となる。これまでの薬剤に加え
4)Giorgio RD, Sarnelli G, Stanghellini V, et al.
て
Advances in our understanding of the pathology
syndrome.
Clin
of chronic intestinal pseudo-obstruction. Gut
腸内細菌のコントロール目的にポリミキシン B、
2004; 53:1549-1552.
メトロニダゾール、カナマイシン
5)Stanghellini V, Cogliandro RF, Corinaldesi R,
ソマトスタチンアナログ製剤
et al. Chronic intestinal pseudo-obstruction:
低残渣の経腸栄養剤
manifestations, natural history and management.
などが使用される。
Neurogastroenterol Motil. 2007;19:440-452.
6)Connor FL, Lorenzo CD. Chronic intestinal
上記治療に抵抗性を示す場合、
病変が範囲により、
Pseudo-obstruction:Assessment and Management.
外科的治療が検討される。病変が広範囲におよぶ
Gastroenterology.2006;130:S29-S36
大腸小腸型の慢性偽性腸閉塞では治療効果が乏し
い例が多いが、大腸型の慢性偽性腸閉塞ではその
原因疾患によらず比較的良好な治療成績が報告さ
れており、
外科的治療の適応となる。
具体的には、
結腸切除術あるいはストマ造設術が選択される。
海外では腸管移植が最終的な治療法として報告さ
れているが、合併症や長期予後の面から十分な治
療効果が見込まれるに至っていないのが現状であ
る。
E.健康危険情報
なし
F.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
G.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
3.確定診断までの期間短縮方法の検討
分担研究者
稲森 正彦
(横浜市立大学附属病院 消化器内科)
研究要旨
偽性腸閉塞は,消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管内容の
通過障害を認めるものであるが、様々な理由により確定診断までの期間が長くかかること
が平成 21 年の調査でわかってきている。この期間の短縮方法について検討を行った。
A.背景
る、と回答されている(2)。これは予想よ
偽性腸閉塞は,消化管に器質的な狭窄・
りも高い数値であるが、アンケート自体を
閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管内
おそらく地域において指導的立場にある、
容の通過障害を認めるものであるが、現在、
消化器病学会内科系評議員の施設に送付し
本邦、海外とも診断基準が確立しておらず、
ていること、複数の医師が所属する医療機
診断がつくまでに時間がかかり,複数の医
関への調査のため、一人の医師の認知があ
療機関を受診し、必要の無い検査、治療を
れば“知っている”という回答になってし
受けられる症例が報告されている。
まうこと、が考えられ、実際の認知はより
本邦における文献的検索による初発症状
低いのではないかと考える。
から診断までの期間は,0~60 年であり,
実際に医学部学生が使用する教科書や参
平均 7.3 年,中央値 2 年である(1)
。平成
考書には偽性腸閉塞に関する記載は無いか、
21 年度に我々が行った調査結果によっても、 あってもわずかであり、コアカリキュラム
診断までの病悩期間が 6 ヶ月以上かかった
への収載はなく、よって試験にも出題され
症例が 89%であった(2)
。
にくい。さらには他のメディカルスタッフ
このため効率的な確定診断を確立するこ
への啓蒙は殆ど行われていない現状がある。
とが、患者サイドの QOL を向上させ、医療
すなわち医師においても卒後教育により知
者サイドの仕事量を低減させ、医療コスト
識を獲得する以外ないため、この点を改善
を削減することとなる。
する余地がある。
B.疾患概念に関する問題
C.診断の手順に関する問題
偽性腸閉塞という病気があることを知っ
偽性腸閉塞の診断において厄介であるの
ているか?という調査では,内科系の医療
が、初発症状が腹痛、嘔吐、腹部膨満とい
機関においては 92%の施設で、認知してい
った普遍的な症状であることが多く、また
仮により重篤な腸閉塞症状をきたしても、
review of the reported cases of chronic
腸閉塞自体が日常診療においてよく遭遇す
intestinal pseudo-obstruction in Japan
る疾患のひとつであり、診断の決め手にな
and investigation of the newly proposed
らないことである。
diagnostic criteria. Clinical Journal of
こういった状況のなかで偽性腸閉塞を疑
Gastroenterology in press.
うためには、その疾患であることを疑う臨
2)
床兆候や症状、検査値、あるいはその組み
fiscal year 2009 (chief investigator:
合わせによって感度、特異度を算出し評価
Atsushi Nakajima), Research Group for
する研究が今後必要である.
the Survey of the Actual Conditions of
また H21 年度の報告書(2)で提唱され
the
Nakajima
group
Epidemiology,
research
report,
Diagnosis
and
た偽性腸閉塞の診断基準案には、消化管エ
Treatment of CIIP in Japan, Research
ックス線造影検査,内視鏡検査,CT で器質
Project
的狭窄、あるいは閉塞が除外できる、とい
Diseases,
う文言がある。すなわち、少なくとも診断
Research Grant
for
Overcoming
Health
Intractable
Labour
のためにこれらの検査をしなくてはならず、
CT だけでなく上部下部消化管造影、
内視鏡、
小腸造影、カプセル内視鏡、小腸鏡などの
検査に時間がかかることも一因である。仮
に診断がつかず転医した場合、その紹介先
でも検査が繰り返されることが多い。この
ような情報の共有化も診断までの時間を速
める可能性がある
おわりに
初発症状から確定診断までの期間と短く
する試みに関して考察した。今後すこし時
間をかけてこの試みを実施、検証していき
たい。
D. 参考文献 1) Iida H, Inamori M, Sekino
Y, Sakamoto Y, Yamato S, Nakajima A. A
E.健康危険情報
なし
F.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
G.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
Sciences
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
4. 当該疾患の本邦における疫学調査
分担研究者 佐藤 元(東京大学大学院医学系研究科社会医学/公衆衛生学 講師)
研究要旨:慢性偽性腸閉塞については現在、本邦、海外ともに病態も不明な点が多く、
診断基準、治療法も確立していない。偽性腸閉塞に関する文献調査からの実態は知り
得たとして、さらに現時点での疫学について、よりエビデンスのある結果が今後の病
態解明、ひいては診療にとって必要となる。昨年度に引き続き、全国疫学調査を行う
好機を得たため、以下に得られた知見を報告する。
A.研究目的
慢性偽性腸閉塞(CIP)については現在、本
使用した。
邦、海外ともに病態も不明な点が多く、診
2) 調査法
断基準、治療法も確立していない。偽性腸
調査は郵送法により施行した。2010 年 10
閉塞に関する文献調査からの実態は知り得
月に依頼状・診断基準・調査票を対象病院
たとして、さらに現時点での疫学について、
に送付し、2009 年 10 月から 2010 年 9 月ま
よりエビデンスのある結果が今後の病態解
での 1 年間の受療患者数(新患および再来)
明、ひいては診療にとって必要となる。今
の報告を依頼した。
「患者あり」と報告
回、厚生労働省難治性疾患克服研究事業の
された病院には、依頼状・診断基準ととも
一環として横浜市立大学消化器内科
に第 2 次調査(患者個人用)を随時送付し
中島
淳教授を主任研究者として研究班が組織さ
た。
れ、全国疫学調査を行う好機を得たため、
3) 倫理面への配慮
以下に得られた知見を報告する。
本調査は、横浜市立大学附属病院研究倫理
委員会の承認を得て施行した。プライバシ
B.研究方法
ー保護に万全の配慮を施した。
1) 調査対象施設・診療科および抽出率
4) 第 1 次調査による年間受療患者数の推
全病院の消化器科、内科、外科を対象とし
計には、難病の疫学調査研究班サーベイラ
て、大学病院/一般病院の別、病院の病床
ンス分科会の提唱する方法を用いた。
数で層別化し層化無作為抽出による抽出調
査を実施した。全病院のリストは、独立行
政法人福祉医療機構 WAMNET 掲載情報より
提供された「全国の病院診療所情報」を、
大学病院は「医育機関名簿 2009-2010」を
C.結果:
2011 年 2 月 28 日現在、1353 施設に送付
し、519 施設より回答を得た。回収率は約
38%である。報告患者数は 105 人(男性 47
名、女性 58 名)となっている。
回収率をあげるべく、現在第 1 次調査の
催促を行っている。
第 2 次調査(患者個人用)は報告患者 105
人中、28 名より回答を得た。
D.考察
2011 年 2 月 28 日現在、回収率は約 38%
と年間受療患者数の推計には低い値である。
現在、第 1 次調査の催促を電話、FAX、メー
ルにて依頼している。
第 2 次調査については現在、手元に返送
されている途中である。
第 1 次調査による年間受療患者数の推計
、第 2 次調査による患者のプロフィール、
QOL 調査の結果は次年度に報告する。
E.健康危険情報
なし
F.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
G.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
慢性偽性腸閉塞症疫学調査
1.慢性偽牲腸閉塞について
□
知らない。聞いたことない。
□(内容については不確かだが)病名は知っている。
□ (普段念頭には無いが)知識として知っている(概念、診断についてある程度明るい)。
□(具体的症例を前にした時)病名が鑑別診断にあがる。
□(ある程度)いつも念頭において診療している(未経験)。
□(ある程度)いつも念頭において診療している(自施設で症例あり)。
□(ある程度)いつも念頭において診療している(自験例あり)。
2.慢性偽性腸閉塞について必要な(より詳しい)情報を得たい場合、どこを参照しますか?
□教科書
□学会誌
□論文
□指導医
□その他(
)
3. 患者数推計のために、この 1 年間の患者数についてお尋ねします。2009.1 月から 12 月までの 1 年間
で慢性偽性腸閉塞の患者を診察されましたか?
□ 診察(確定診断)した
□ 診察(擬似症例)した
□ 診察(鑑別診断で疑ったが他病の診断)した
□ 経験なし(一応念頭にあった)
□ 経験なし(念頭になし)
1 年間(2009.1 月~12 月)の診察患者数(のべ人数ではなく、実数でお答えください)
男性
新患
(うち中断中
再来
(うち中断中
女性
名
名
名) (うち中断中
名)
名
名
名) (うち中断中
名)
4. おわかりになれば、貴院での担当科の 1 年間の外来人数をお書き下さい。
名(大体で結構です)
御施設名
御芳名
FAX 番号: 045-787-8988
こちらの表をご活用下さい。こちらの表も一緒に送っていただければ幸いです。
1
2
3
M ・F
M ・F
M ・F
イニシャル
年齢
性別
新患or再来
新患 ・再来 新患 ・再来 新患 ・再来
前医(紹介)
あり ・なし あり ・なし あり ・なし
後医(紹介先) あり ・なし あり ・なし あり ・なし
他医(併診など)あり ・なし あり ・なし あり ・なし
CIPと診断貴院
YES ・NO
YES or NO
CIPと診断され
た
年月日
通院頻度
FAX 番号: 045-787-8988
YES ・NO
YES ・NO
第 2 次調査
アンケート記入に際しまして,空欄部は埋める,もしくは○で選択してください.
記憶にある範囲で構いません.わからない部分は空欄のままご提出下さい.
Ⅰ
あなたの病気のことについて
問1.
現在のあなたのことについてお答えください
年齢
歳, 性別 男・女,既婚・未婚,住所
保険の種別 1.国保
(都・道・府・県)
2.社保 3.高齢者医療保険 4.その他
(何らかの障害により)身体障害者手帳を支給されているか 有(
介護保険の認定を受けていますか 有(
等級)
・無
等級)・無
問 2.病名は何ですか
(腹部症状について)主治医から告げられている病名
その他の病名(合併症)
(あればいくつでもご記入ください)
特に病名に~性,~型などの区別がある場合は,詳しくお書き下さい
問 3.①腹部症状が出現したのは何歳の時ですか、またその時の症状は何でしたか
満
歳(
年
月
日頃)
症状(腹痛・嘔吐・腹部膨満・腸閉塞・便秘・下痢・その他
)
腹部症状で最初に医療機関を受診した時期はいつですか
また,受診科とその際の告げられた病名をお書き下さい
満
歳(
年
月
日頃) 診断された診療科
科
診断された病名
②慢性偽性腸閉塞症と診断されたのは何歳の時ですか
また診断された際の診療科は何科ですか
満
歳(
年
月
日頃) 診断された診療科
科
診断された医療機関は,症状が出現してから何件目でしたか
件目
③慢性偽性腸閉塞症と診断された時の症状を教えて下さい
腹痛(有・無)
,
嘔吐(有・無),
腹部膨満(有・無),
腸閉塞(有・無)
,
便秘(有・無),
下痢(有・無)
④診断後の治療法
食事療法(有・無)
,薬物療法(有・無),手術療法(有・無),その他(
)
具体的な内服薬(定期的に服薬している薬をすべて記入してください
(
)
問 4.①発病から現在までの経過について最も近いものを一つだけ選んでください
症状の変化 1.変化はない 2.軽快傾向 3.増悪傾向 4.軽快と増悪の繰り返し
② 問 3④の治療の効果はありましたか(有・無)
効果があった場合、最も効果のあったと思われる治療法は何でしたか
食事療法・薬物療法・手術療法・その他(
)
問 5.現在,治療や通院に毎月どの程度の時間(通院時間を含む)や交通費がかかりますか
月
時間程度(1 時間未満は四捨五入、ゼロの場合は必ず 0 とご記入ください)
通勤時間(片道約
分)
交通費(約
円/月)
問 6.現在,平均的な医療費や保険外の医療・薬品代がかかりますか
医療費(約
円/月)
、保険外の医療・薬品代(約
円/月)
問 7.医師から次のような職業生活(家事遂行を含む)についての注意や指示を受けて
いますか
注意・指示事項
受けている
受けていない
就労は原則禁止
1
2
座ってできる仕事に限る
1
2
軽作業程度なら可
1
2
残業は避ける
1
2
勤務時間中の安静・休憩
1
2
ストレスを避ける
1
2
1
2
その他(
Ⅱ
)
仕事のことについて
問 8.現在,仕事についていますか
就いている(勤め,自営業,福
最近 1 ヶ月以内で 15 日以上働いた
1
祉的就労,在宅で内職,家事)
最近 1 ヶ月以内で 14 日以下だけ働いた
2
就いていない
仕事をしたいと思っている
3
仕事をしたいと思っていない
4
問 9.仕事の形態は何ですか(最も近いもの一つに○)
正社員
パート
アルバイト
自営業
福祉的就労
主婦(主夫)
その他
なし
1
2
3
4
5
6
7
8
問 10.これまで病気が原因で,転職または仕事内容の変化がありましたか
変化があった
1
変化はなかった
2
変化があったの場合
仕事を辞めた,仕事(勤務先)を変わった
1
業務・作業負担を減らした
2
変わらない
3
通勤の時間・経路を変えた
4
その他(
) 5
変化があった場合,腹部症状により 1 ヶ月で何日くらい休んだり,軽減したりしましたか
(1 日未満の場合は,1/2,1/3 などを記入してください.また通院に要した日数も含みます)
休んだ
軽減した
仕事
日
日
家事
日
日
外出
日
日
社交
日
日
1 ヶ月のうちに通院に要した日数(
日)
通勤・外出で普段と異なること(途中下車など)が必要だった日数(
収入に変化があった(有・無)有の場合(約
日)
%)
(増えた・減った)
仕事を休む等で失った収入機会(利益)などをお金に換算すると(約
円/月)
差しつかえなければ、昨年度の世帯年収を教えて下さい
[0(無収入) ・ -200 万円未満 ・
200-400 万円未満 ・
400-600 万円未満
・ 600-800 万円未満 ・ 1000 万円以上]
問 11.事業主(主婦・主夫の場合は家族)に病名・症状を告げていますか
告げている
1
告げていない
2
告げている場合→告知によって何らかの配慮・協力が得られましたか (はい・いいえ)
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
5.慢性偽性腸閉塞(CIP)の本邦における患者への発信
分担研究者 大和 滋(国立精神神経センター国府台病院 消化器内科 部長)
研究要旨:偽性腸閉塞は,腸管に機械的な通過障害がないにもかかわらず,臨床的に腸管閉
塞の症状を呈する臨床的症候群である.明確な診断基準がなく,臨床像が曖昧であるのが現
況である.慢性偽性腸閉塞症と正しく診断されていない患者も少なくないと考えられる.医
師への疾患概念の普及だけでなく、専門医療機関への受診を促すため患者への普及も必要で
あり,今回患者への情報発信を行った結果を報告する.
A.研究目的
B.研究方法
慢性偽性腸閉塞症(Chronic Intestinal
横浜市立大学附属病院のホームページの
Peudoobstruction, CIP)は,腸管に機械的
トップにお知らせを,横浜市立大学消化器
な通過障害がないにもかかわらず,臨床的
内科のホームページにて慢性偽性腸閉塞症
に腸管閉塞の症状を呈する臨床的症候群で
の専用のページにて一般市民,患者への周
ある.特徴的な経過として間欠的・慢性的
知を行った.
に腸閉塞症状(腹痛,腹部膨満感,嘔吐な
(http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~n
ど)を呈する.明確な診断基準がなく,臨
ai3syou/sub40.html)
床像が曖昧であるのが現況である.慢性偽
性腸閉塞症と正しく診断されていない患者
も少なくないと考えられる.
H21 年度の内科系調査では,慢性偽性腸閉
C.研究結果及び考察
2010 年 6 月 1 日から 2011 年 2 月末日ま
での集計では,横浜市立大学附属病院への
塞症の認知度は 92%,外科系調査では 80%
電話での問い合わせ多数あり,消化器内科
であった.この調査は,内科系は日本消化
へのメールでの問い合わせも多数あった.
器病学会に所属する施設,外科系は大腸肛
他院からの当該疾患の紹介は 2 名,当該疾
門病学会に所属する施設への調査となって
患疑いの紹介 2 名であった.また,ホーム
いる.消化器を専門とする医師での認知度
ページをみて当該疾患ではないかと疑って
が 80%から 90%であった,消化器を専門とす
直接来院した患者 10 名であった.
直接来院した患者 10 名の主訴は,便秘およ
び下痢が多かったが,研究班が提唱する診
断基準に該当する者は 0 名であった.患者
への疾患概念の正しい普及も大切と考えら
れる.当該疾患の潜在的な患者の掘り起こ
しのためにも,医師への疾患概念も普及と
同時に,一般市民への啓蒙活動は重要であ
る.
る医師の認知度は更に低いであろう.医師
でこのような認知度であることより,一般
市民の認知度は極端に低いと想定される.
医師への疾患概念の普及だけでなく、専
門医療機関への受診を促すため患者への普
及も必要であり,今回一般市民,患者への
情報発信を行った.
D.健康危険情報
なし
E.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
F.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査
~平成21年度厚生労働省科学研究補助金(難治性疾患克服研究事業)
研究代表者 中島 淳
研究課題 慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診
断・治療の実態調査
平成21年度厚生労働省科学研究補助金(難治性疾患克服研究
事業)に採択されました。難病である当該疾患の研究班は過去
になく、我が国初めての研究班です!
慢性特発性偽性腸閉塞症とは
食道から大腸までの全消化管運動機能障害で、物理的腸管の閉塞原因ないのにかかわらず腸閉塞様症状をきたす原因不
明の難治性疾患です。患者の方々は慢性的な腹痛、嘔気、腹部膨満、嘔吐で長期にわたって苦しみ、手術適応がないため
治療法はもっぱら保存療法のみです。生活の質は極端に悪化し、多くの合併症で苦労することが多く、多数の患者様は診
断に至るまでに長期間複数の医療機関を転々とすることが多くその間に複数回腸管切除を受けても治らないことも多い
疾患です。
なぜ調査研究が必要か
しかしながら、患者数は少ないものの、原因・病態・治療法の定かでない難治性疾患で、これまで本邦では当該疾患の
調査がされてきませんでした。本疾患は我が国における現状は不明であり、また診断方法や治療方法なども定まったもの
がありません。
国内外の現状
我が国における当該疾患の専門家はおらず、包括的調査報告もされていません。医師は当該疾患の我が国における情報
を得ることができず、その一方の患者の方々は電子媒体などで情報交換が活発におこなわれてきています。海外では包括
的調査が行われており、当該疾患が難治性疾患である認識あります。治療法に関しては小腸移植などが試みられています。
本研究の意義
当該疾患の我が国における疫学・診断・治療などの現状調査は全くされておらず、本研究は慢性特発性偽性腸閉塞症の
本邦初の調査研究です。得られる結果は、その後の診断や治療の指針の作成などにつながる重要な第一歩であり意義は大
きいと思われます。
臨床的には、現在、診断治療の指針の無い当該疾患において、将来指針が作成されることにより患者及び医師の享受す
るメリットは大きいと考えます。医学研究上も、今回の調査などの延長線上に、病態の解明や、再生医療などの研究成果
を難病治療に応用する道が開かれる可能性を秘めています。
研究の進め方
アンケート・調査項目の作成ののち消化器専門施設での調査を行い、調査解析の結果から診断治療に有益な情報が得ら
れ次第、指針の作成や消化器病学会等で成果を発信する事を目指していきます。
ただし研究に際して、アンケートや患者情報の調査に関しては個人情報の保護及び倫理面に対して、細心の注意を払っ
て行ってまいります。
~
ホーム /
教室紹介 /
患者様へ /
menu ~
臨床・研究 / 研修情報 / 業績 /
(http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~nai3syou/sub40.html)
リンク
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
6. 当該疾患の成果発信
分担研究者 藤本 一眞(佐賀大学医学部内科 教授)
本郷 道夫(東北大学医学部総合医療学 教授)
杉原 健一(東京医科歯科大学腫瘍外科 教授)
研究要旨:偽性腸閉塞は、消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないにもかかわらず
腸管内容の通過障害を認めるものであるが、現在、本邦、海外とも診断基準が確立してお
らず、なかなか診断が確定しないことが知られており、正しく診断されていない患者も少
なくないと考えられる。医師への疾患概念の普及だけでなく、専門医療機関への受診を促
すため患者への普及も必要である。今回疾患概念の普及のために行った成果を報告する。
A.背景
偽性腸閉塞は、消化管に器質的な狭窄・
書籍は研修医向けの雑誌であった。論文
は、研修医向け、内科医向け、消化器を
閉塞病変を認めないにもかかわらず腸管内
専門とする者向けなどの雑誌に掲載された。
容の通過障害を認めるものであるが、現在、
学会発表は消化器系の学会での発表が中心
本邦、海外とも診断基準が確立しておらず、
であった。社会活動は研修医や消化器を専
診断がつくまでに時間がかかり、多くの医
門とする医師を中心とした勉強会での講演
療機関を渡り歩いたり、必要の無い治療を
であった。
受けられる症例が報告されている。その理
由として、医師、一般市民への疾患概念が
D.考察
普及していないことが大きな要因のひとつ
偽性腸閉塞症は、診断基準が確立されて
である。今回疾患概念の普及のために行っ
いないだけでなく、推計患者数、男女比、
た成果を報告する。
年齢、予後など疫学データも不明である。
H21 年度の調査では、当該疾患の医師での
B.方法
偽性腸閉塞症の疾患概念を、書籍、論文、
学会発表、社会活動として発信した。
認知度の低さとともに、国内の文献検索で
発症から診断までに長い年月を要すること
は判明した。
疾患概念の普及が迅速な診断となり、不
C.結果
書籍は 1 報、論文は邦文 5 報と英文 4 報
の計 9 報、学会発表は 15 回、社会活動は 2
回であった。
要な診療、検査、治療の抑制となり、ひい
ては医療費の削減に繋がる。そのためには
疾患概念の普及が急務である。
おわりに
当該疾患の疾患概念の普及のために、行
った成果を報告した。
E.健康危険情報
なし
F.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
G.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
書籍
執筆者氏名
坂本康成
稲森正彦
中島淳
論文題名
偽性腸閉塞
書籍全体の編
集者名
上西紀夫
書籍名
どう診る?小腸疾患
-診断から治療まで
出版社名
診断と治療社
出版地
ページ 出版年
東京都 176-180
2010
論文
執筆者氏名
ページ
出版
年
31(3)
331-335
2011
便秘に伴う腹痛、腹部膨 Modern
満感と大健中湯
Physician
31(2)
265
2011
慢性偽性腸閉塞症の我が
国の報告例のまとめと新 診断と治
たに提唱された診断基準 療
案についての検討
98(11)
137-141
2010
座談会どのように対処す
るのか?-臨床で遭遇す Phama
る下部消化管運動障害へ Medica
の対処法を語る-
28
95-100
(9)
2010
偽性腸閉塞(急性を除
診断と治
く)の診断と治療の実際 療
146198
(9) 1465
2010
論文題名
雑誌名
中島淳、坂
本康成、飯
田洋、関野
Pseudo-obstruction
Modern
Physician
中島淳
飯田洋、稲
森正彦、坂
本康成、大
和滋、中島
淳
中島淳、藤
本一眞、大
和滋、洲崎
文男、稲森
正彦
坂本康成、
稲森正彦、
飯田洋、中
島淳
Sakamoto Y,
Kato S,
Sekino Y,
Sakai E,
Sakamoto Y,
Kato S,
Sekino Y,
Sakai E,
Nonaka T,
Kessoku T,
Ogawa Y,
Imajyo K,
Yanagisawa S,
Shiba T,
Iida H,
Inamori M,
Uchiyama T,
Endo H,
Hosono K,
Akiyama T,
Sakamoto Y
Change of gastric emptying
with chewing gum:
evaluation using a
continuous real-time 13C
Effects of domperidone on
gastric emptying: a
crossover study using a
continuous real-time 13C
Does postprandial itopride
intake affect gastric
emptying?: a crossover
study using the continuous
real time 13C breath test
(BreathID system).
Journal of
Neurogastr
oentrology
in press.
Hepatogast
roenterolog
y in press.
Hepatogast
roenterolog
y in press.
Early effects of oral
administration of lafutidine
Hepatogast
with peppermint oil,
roenterolog
compared with lafutidine
y in press.
alone, on intragastric pH
values.
巻
(号)
発表
発表者名
H Iida, M Inamori, T
Akiyama, Y Sakamoto,
and A Nakajima
演題名
学会名
EARLY EFFECTS OF ORAL
ADMINISTRATIONS OF OMEPRAZOLE 2010 NGM Joint
Meeting
WITH MOSAPRIDE ON
INTRAGASTRIC PH.
会場
日時
Boston 2010年8月27-29日
Y Sakamoto, M Inamori,
H Iida, T Akiyama, T
Ikeda, and A Nakajima
CAN WE DISCRIMINATE BETWEEN
“MANPUKU” (SATIETY) AND
“BOUMAN” (EPIGASTRIC
BLOATING)?
2010 NGM Joint
Meeting
Iida H, Inamori M,
Hosono K, Endo H,
Sakamoto Y, Koide T,
Tokoro C, Abe Y,
Nakajima A.
A New Noninvasive Modality
for Recording Sequential
Images and the pH of the
Small Bowel.
New
DIGESTIVE DISEASE
Orlean 2010年5月4日
WEEK 2010
s
酒井英嗣、高橋宏和、中
島淳
放射線不透過マーカーを用い
た,健常ボランティアにおける
クエン酸モサプリドによる大腸
通過時間改善効果の検討
第7回日本消化管
学会総会学術集会
京都
2011年2月18日
坂本康成、中島淳、稲森
正彦
慢性偽性腸閉塞症の内科的診
断・治療の現状-厚生省研究班
のちょうさ結果を踏まえて-
第7回日本消化管
学会総会学術集会
京都
2011年2月18日
坂本康成、中島淳、稲森
正彦
慢性偽性腸閉塞症の内科的診
断・治療の現状
第7回日本消化管
学会総会学術集会
京都
2011年2月18日
飯田洋、中島淳、稲森正
彦
酸分泌抑制薬の胃内pHの立ち上
第7回日本消化管
がりに関するmosaprideの効果に
学会総会学術集会
ついての検討
京都
2011年2月18日
飯田洋、大和滋、中島淳
本邦における慢性偽性腸閉塞の
121例の症例報告のまとめ
日本消化器関連学
会週間(JDDW
2010)
横浜
2010年10月13日
坂本康成、稲森正彦、中
島淳
慢性偽性腸閉塞症-内科的診
断・治療の現状
日本消化器関連学
会週間(JDDW
2010)
横浜
2010年10月13日
坂本康成、稲森正彦、中
島淳
ドンペリドンによる胃排出能の
変化について:Breath ID
systemを用いた連続呼気採取に
よる評価
日本消化器関連学
会週間(JDDW
2010)
横浜
2010年10月13日
坂本康成、稲森正彦、中
島淳
飲水・呼気試験による酸分泌抑
制薬と胃許容能、排出能の検討
第42回胃病態機能
研究会
札幌
2010年8月7日
関野雄典、稲森正彦、中
島淳
六君子湯の飲水許容量への効果
の検討
第42回胃病態機能
研究会
札幌
2010年8月7日
飯田洋、稲森正彦、中島
淳
非侵襲的かつ連続的に小腸の画
像とpHを同時に測定する機器
「pHカプセル」の開発
第96回日本消化器
病学会総会
新潟
2010年4月23日
坂本康成、稲森正彦、中
島淳
酸分泌抑制薬と胃許容能、胃排
第96回日本消化器
出能について-飲水試験、呼気試
病学会総会
験を用いた検討-
新潟
2010年4月23日
飯田洋、稲森正彦、中島
淳
当施設における無線式pHモニタ
リングの使用経験
当施設における無
線式pHモニタリン
グの使用経験
福岡
2010年2月20日
Boston 2010年8月27-29日
社会活動
活動者名
(所属施設)
会の名称および
講演演題等
会場および
新聞名等
活動年月日
中島淳(横浜市立 第11回東京消化管運
大学附属病院消化 動研究会、教育講
器内科)
演:偽性腸閉塞
東京ドームホテル
2011年2月
中島淳(横浜市立 第9回消化器病フォー
大学附属病院消化 ラム 教育講演:慢性
器内科)
偽性腸閉塞
品川プリンスホテル 2010年10月
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
7. 慢性特発性偽性腸閉塞症に対する外科治療成績の実態
研究分担者
氏名 正木忠彦
杏林大学 教授
研究要旨:昨年度集積された 86 例の原発性偽性腸閉塞症の内で、小腸から大腸にかけて広
範囲に腸管拡張のみられる 32 例について、外科治療の実態を詳細に検討した。その結果、21
例が外科的治療を受けていたが、症状の緩和に有効であったのは胃瘻や小腸瘻造設などの姑息
的術式であり,腸管切除はその範囲の多寡によらず有効とは言えなかった。
秘、下痢、腹痛、腹部膨満)の緩和についての関
共同研究者
杉原健一 東京医科歯科大学 教授
連性を表に示す。胃瘻ないし小腸瘻造設などの姑
大倉康男 杏林大学 教授
息的術式は症状緩和に有効であったが、腸管切除
(部分切除ないし大量切除)
は有効ではなかった。
A.研究目的
現在までのところ慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)
D.考察
に対する外科治療の適応についてのエビデンスは
腸管拡張が小腸から大腸にかけて広範囲に見ら
ない。昨年度施行した慢性偽性腸閉塞症について
れる症例は CIIP と考えられる。このような症例
の全国調査結果から、CIIP と考えられる症例にお
においては腸管切除の効果は期待できない。
ける外科治療成績を明らかにすることを目的とし
た。
E.結論
CIIP に対しては安易に腸管切除を行うべきで
B.研究方法
はないと考えられる。
平成 21 年 2 月日本大腸肛門病学会に所属する 421
施設にアンケート調査を行い、
集積された 86 例の
原発性偽性腸閉塞症の内で、小腸から大腸にかけ
て広範囲に腸管拡張のみられる 32 例を対象とし、
外科治療の実態を詳細に検討した。
(倫理面への配慮)
調査アンケート回収などの際には個人情報がわか
らないように、また漏洩しないように細心の注意
を払って行った。
C.研究結果
32 例中 21 例においてなんらかの外科的治療が
なされていた。術式と臨床症状(悪心、嘔吐、便
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
正木忠彦、杉原健一、中島淳:慢性偽性腸閉塞
症(CIP)の外科系施設における実態調査.第 52 回
日本消化器病学会大会、横浜、2010 年 10 月 13 日
H.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
Surgical procedures and effectiveness in probable CIIP cases
Procedures
Gastrostomy+Appendicostomy
Enterostomy
Enterostomy+Cecostomy
Colostomy
Partial resection
Small bowel
Small and large bowel
Large bowel
Unknown
Massive resection
Small bowel
Small and large bowel
Large bowel
Bypass
Probe laparotomy
Internal sphincterotomy
Unknown
Before
consultatio
n
After
consultation
Effectiveness
Ye
s
N
o
1
2
1
1
1
1
1
1
2
2
2
1
2
2
1
3
1
1
1
1
1
2
CIIP, Chronic idiopathic intestinal pseudo-obstruction
1
1
6
1
1
1
5
1
Unknow
n
1
2
1
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
8. 小児における当該疾患の状況の文献的調査解析
分担研究者 杉原健一(東京医科歯科大学 腫瘍外科学 教授)
松橋信行(NTT 東日本関東病院 消化器内科 部長)
研 究 要 旨 : 小 児 に お け る 慢 性 特 発 性 偽 性 腸 閉 塞 ( Chronic idiopathic intestinal
pseudo-obstruction:以下 CIIP)は,Hirschsprung 病類縁疾患の一つに位置付けられてい
る 1).消化管運動障害をおこすような器質的疾患がなく,食道から直腸末端まで腸管壁神経
細胞が認められるにもかかわらず,腸閉塞症状を呈する症候群である.
成人例を含め,診断基準が確立しておらず,治療に難渋していることが少なくない.ま
た文献検索によると,小児発症例も少なくないことがわかる.今回,小児発症の CIIP につ
き,本邦における文献調査を交えて報告する.成人と小児においては疾患名、疾患概念の
違いなど今後小児科医・小児外科医を交えてコンセンサスを得る必要性が示唆された。
A.分類
小児分野の文献によると,CIIP は,腸管
るべきである 4).
B.病因・病態
神経節細胞は存在するのに腸管蠕動不全を
病因は不明であるが,腸管運動の異常を
呈する疾患の総称である Hirschsprung 病
呈する.病変は胃腸管全域に及ぶこともあ
類縁疾患(以下 H 病類縁疾患)に位置付け
れば,胃や結腸に限局することもある
られる.一般的には,さらに腸管壁内神経
症状の経過は寛解と増悪を繰り返すものと
節細胞の異常により分類され,CIIP は壁内
継続するものがある
神経叢に形態学的異常を認めない疾患とし
報告もある 6).直腸肛門反射は正常であり,
て分類されている(表 1)2)3).英文報告では
病理組織学的には殆どの症例において腸管
全身疾患である neuropathy や myopathy が
壁内神経節細胞は正常である.しかし低形
含まれていることなどを考えると,定義と
成や未熟,過形成の報告もあり,筋細胞の
「H 病類縁
しては未だ曖昧なものである 3).
変化も指摘されている.AchE 染色性も正常
疾患」という表現を用いる場合は新生児期,
とされるが,神経線維については VIP を含
乳児期に発症する先天性の腸管疾患を指す
む神経線維の低下や Sub-P 神経線維の増生,
が,CIIP に関しては小児期から成人期に広
さらには C-kit 抗体を用いた免疫染色によ
く報告例がある 3).また成人例では糖尿病,
り同定される Cajal 細胞の減少も報告され
膠原病,筋ジストロフィーなどの基礎疾患
ている
に続発する続発性慢性偽性腸閉塞症が含ま
様の興奮性神経と抑制性神経の二相性の神
れ,小児期発症の狭義の CIIP とは区別され
経支配が存在するものの,興奮性神経イン
5)
.
2)
.また家族性発生の
5)
.電気生理学的には正常腸管と同
プットの減弱が指摘されている 5) 7).
フェリンなどを指す)も投与される 5).
予後についてはフランスの多施設研究で
C.臨床症状・診断
は,105 例中 11 例が,また北米の study で
ほとんどの症例で腹部膨満感・嘔吐を認
は CIIP の 87 例中 17 例が total parenteral
める.次いで便秘・腹痛・下痢,さらには
nutrition(TPN)の合併症または消化管由来
胎便排泄遅延,哺乳力不良を生じることも
の敗血症ショックで死亡している.
ある.合併症としては尿路系の異常があり,
術後癒着により腸閉塞を助長させる可能
巨大膀胱または神経因性膀胱として認めら
性があるため極力手術は避けるべきとされ
れる.頻度は一般的には 60%程度といわれ
るが,減圧が不十分な場合には胃瘻や腸瘻
ている
5)8)
.
の造設が必要となる.尿路閉塞症状や尿路
発症時期は出生後早期や乳児期以降など
感染を生じる場合には間欠的導尿を行う
様々であるが,新生児期と思春期にピーク
5)10)
.
があるという説もある 1)8).性差はあまりみ
2005 年の国際小腸移植シンポジウムによ
られない.腹部 X 線では全体に拡張した腸
ると,世界 14 カ国で行われた 1292 回の小
管を認める 5).
腸移植のうち CIIP に対して行われたもの
消化管内圧検査では,食道下部括約筋圧
は 9%であった.本邦では TPN による管理困
低下や,蠕動運動欠如を認めることが多い
難例が適応と考えられており,うち 1 例の
8)
み H 病類縁疾患に対して行われ,術後 2 年
.小腸内圧測定と MR シネを対応させて検
2)10)
.なお 2006 年の文
討した報告によると,CIIP を含む H 病類縁
を経て生着していた
疾患では空腹時でも常に腸管内容の停滞す
献によると,他疾患を含めると,本邦では
る部位が存在し,腸炎の原因になっている
小腸移植術は 8 例に対し 9 回行われ,生存
9)
ことが示唆された .
例は 8 例中 4 例である 2).
D.治療・予後
おわりに
対症療法により良好な臨床経過をとる症
以上,小児 CIIP について本邦の文献的考
例もみられるが,慢性的な腸閉塞症状が続
察を中心に報告した.今後の症例数の増加
き,予後不良である.症状に対しては栄養
と病態解明,治療法確立が望まれる.当面
管理,腸管減圧処置が重要となる.経腸栄
の重要な課題は成人における疾患概念、疾
養剤を併用した経口摂取療法や,消化管運
患名と、小児における疾患概念・疾患名な
動亢進薬の投与が行われるが,薬物療法の
どが異なっている点に関して議論していく
有効性は低く,多くの児で部分的あるいは
必要が急務であることで、来年度の当研究
5)
完全な中心静脈栄養を必要とする .
班の課題と考えられた。
腸管減圧処置としては,浣腸・洗腸が行
われる.腸炎の予防としてシンバイオティ
E.参考文献
クス(プロバイオティクスとプレバイオテ
1)佐藤宏彦:
【小児の症候群】消化管 慢性
ィクス,双方の働きをもつもので,ラクト
特発性偽性腸閉塞症.小児科診療;72 増:
302,2009.
8)浅部浩史,長崎
2)田口智章,増本幸二,林田
真,他:
彰,弘永由美子,他.
慢性特発性偽性腸閉塞症の経験と本邦報告
Hirschsprung 病類縁疾患の長期予後からみ
例の検討.小児内科;22:443-448,1990.
た小腸移植の適応.小児外科;38:771-777,
9) 渡 辺 芳 夫 . 腸 管 運 動 か ら み た
2006.
Hirschsprung 病類縁疾患.小児外科;38:
3)窪田昭男,川原央好,位田
忍,他:
688-693,2006.
Hirschsprung 病類縁疾患慢性期の治療戦略
10)漆原直人,古田繁行,長谷川史郎,他:
synbiotics の有用性.
小児外科;38:742-749,
Hirschsprung 病類縁疾患に対する外科的治
2006.
療.小児外科;38:701-707,2006.
4)関
保二,飯干泰彦,豊坂昭弘,他:比
較的栄養管理が容易な CIIPS について.小
児外科;38:720-728,2006.
5)小川絵里,伊川廣道,小沼邦男,他:
Chronic
idiopathic
intestinal
pseudo-obstruction syndrome (CIIPS) と
megacystis-microcolon-intestinal
hypoperistalsis syndrome(MMIHS).小児外
科;41:389-392,2009.
6)木戸訓一,藤井千穂,小浜啓次,他.家
族内発生を示した慢性特発性偽性腸閉塞症
の経験と本邦報告例の検討.日外誌;87:
1569-1575,1986.
7)窪田正幸.Hirschsprung 病類縁疾患の疾
患概念と病態
電気生理学的検討.小児外
科;38:666-671,2006.
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
1. 論文発表
なし
2. 学会発表
なし
H.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
なし
2. 実用新案登録
なし
3.その他
なし
表 1 Hirschsprung 病類縁疾患の分類 2)
Ⅰ.腸管神経節細胞異常群
(1) Immaturity of ganglia, Immature
ganglinosis
(2) Hypogenesis or Hypoplasia (of
ganglia)
(3) Hypoganglionosis
Congenital hypoganglionosis
Aquired hypoganglionosis
Ⅱ.腸管神経節細胞正常群
(1)
MMIHS
(Megacystis
microcolon
intestinal hypoperistalsis syndrome)
(2)
CIIPS
intestinal
syndrome)
(Chronic
idiopathic
pseudo-obstruction
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
慢性特発性偽性腸閉塞症の我が国における疫学・診断・治療の実態調査研究
分担研究報告書
9. 国際的批判に耐えられる診断基準を目指した検討
主任研究者
中島 淳(横浜市立大学病院消化器内科 教授)
分担研究者
杉原健一(東京医科歯科大学腫瘍外科学 教授)
藤本一眞(佐賀大学消化器内科 教授)
稲森正彦(横浜市立大学消化器内科 助教)
研究要旨:平成21年度の当研究調査班で作成した本邦初の慢性特発性偽性腸閉塞の診断基準(案)に関して
当該疾患の経験の多い欧米の研究者にご批判いただき国際的な批判にも耐えうる診断基準の改定を試みた。海
外の当該疾患の研究論文を多く発信している複数の研究者から多くのご批判をいただきまたこのような診断基
準の作成は世界的にも初めての試みで非常に価値が高いことを評価いただいた。一方我が国における消化管運
動機能異常(Motility Disorder)の診療においては欧米先進国に比べると診断設備が全く充足されていないな
どの問題点が改めて認識された。以上のような本邦の状況ではやはり診断基準による当該疾患の診断を行う方
法は最もコストと医療の質を担保するうえで重要なアプローチであることが再認識された。今後は臨床医現場
で使い勝手の良いものを目指して国内外の専門家とともに診断基準の改良を行う予定である。
きより有用性の高いかつ国際的批判にも耐えられ
るものに改定すること。
共同研究者
飯田 洋(横浜市大)
B.研究方法
坂本康弘(横浜市大)
以下に示す平成 21 年度作成の診断基準(案)
稲森正彦(横浜市大)
をイタリアボローニャ大学の Vincenzo
松橋信行(横浜市大)
Stanghellini 教授、スペインのマドリッド大学の
本郷道夫(東北大学)
Munoz Yague Teresa 教授、イギリスセントマー
クス病院 Michael Kamm 教授、スエーデンのカ
A.研究目的
平成 21 年の厚生労働省本研究班「慢性特発性
ロリンスカ研究所 Greger Lindberg 教授、ドイツ
ハンブルグ Oberärztin 病院 Jutta Keller 先生、
偽性腸閉塞の我が国における疫学・診断・治療の
米国アイオワ大学 Satish SC Rao 教授ら6名の欧
調査研究班」において東北大学の本郷らが中心と
米の専門家に批判いただいた。この6名の研究者
なって作成した当該疾患の診断基準(案)を当該
は過去10年で慢性偽性腸閉塞の臨床研究に関し
疾患の経験豊富な欧米の研究者に批判していただ
て PubMed 上で多くの論文を報告している研究
者を報告論文数の最も多い研究者から順番に依頼
をして承諾を得られた6人である。
C.研究結果
診断基準に関しての欧米の6名の研究者からはこ
平成21年度慢性偽性腸閉塞の診断基準(案)
疾患概念
のような試みは過去になく、高く評価したいなど
の好意的意見がある一方、どうして日本ではマノ
消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないに
メトリーの診断が行えないのか、腸管の全層生検
もかかわらず腸管内容の通過障害を認めるもの
が行えないのかなどの日本固有の診療上の問題点
で,慢性の経過を経るもの.
も指摘された。また、やはり小児例が重篤である
診断基準
ことから小児に関しての対応の必要を指摘された。
6 か月以上前から腸閉塞症状があり,そのうち
以下各人の意見を抜粋して掲載する。
12 週は腹痛,腹部膨満を伴うこと.
(1 週間に 1 回以上の腹痛がある週を腹痛のあ
る週とする)
研究者
Vincenzo Stanghellini(Ita)
小児を含
新生児や小児も疾患頻度が高いため定
画像所見
めるか
義に含めるべきだ
1. 腹部単純エックス線検査,超音波検査,CT
niveau の
で腸管拡張または鏡面像を認める
2.
表現
消化管エックス線造影検査,内視鏡検査,
CT で器質的狭窄、あるいは閉塞が除外できる.
付記所見
大腸限局性に発症し、口側に病変が進
定義
1. 慢性の経過(6 ヶ月以上)で 15 歳以上の発
診断
つまり,手術後(6 ヶ月以内)の発症は除く.ただ
し本疾患の手術後は除外しない.
3. 原発性と続発性に分け,原発性は原則として
行する例もあるので、
「Ogilvie 症候群
は除く.手術後 6 ヶ月以内の発症は除
く.
」という項目は削除すべき
症とする.*先天性は除く
2. 急性偽性腸閉塞症(Ogilvie 症候群)は除く.
air-fluid level と記す
分類
機械的閉塞ではないので「排ガスなし」
は診断基準から除く
原発性 CIP の亜分類にカハール細胞異
常型と神経筋混合型を加えた方がよい
その他
筋性,神経性,特発性に分ける。続発性は,全身
性硬化症続発性とその他に分ける.
4. 家族歴の有無は問わない.
5. 腸閉塞症状とは,腸管内容の通過障害に伴う
研究者
小児を含
めるか
腹痛,悪心・嘔吐、腹部膨満・腹部膨隆,排ガス・
niveau の
排便の停止を指す.
表現
6. 神経障害(排尿障害など)
,及び精神疾患を
伴う事がある.
Munoz Yague Teresa(Spa)
閉塞部位を伴わない腸閉塞を繰り返す
定義
/経腸栄養や中心静脈栄養が必要な程
の消化管神経筋障害
(倫理面への配慮)
診断
特に倫理的問題はないので特別な配慮は行わなか
った。
分類
画像所見が正常でも除外診断にはなら
ない
全身性硬化症続発性 CIP を、他の続発
性 CIP と分けるべきではない
その他
研究者
その他
Greger Lindberg(Swe)
研究者
小児を含 CIP に罹患した小児患者が成人する
小児を含
めるか
めるか
niveau の
表現
定義
(ので含めるべきだ)
air-fluid level と記す
表現
イレウスとは実際は小腸を指すため、
るため、
「器質的異常のないイレウス」
「慢性偽性小腸閉塞症」とすればどう
症状による診断は必ずしも必要なく、
定義
か。/腹痛は症状として重要ではなく、
徐々に増悪する膨満感(distention)
画像検査、生理検査(マノメトリーな
が重要。/症状に食欲不振、体重減少、
ど)
、組織学的検査を行えばよい
(頑固な)便秘を加える。
Ogilvie 症候群は大腸 CIP の一つの型で
あり除外すべきでない/特発性という
分類
niveau の
「イレウス」は腸緊張の欠落を意味す
では CIP の全型をカバーしていない
診断
Satish SC Rao(USA)
分類の意味が不明瞭/組織学的にはミ
オパチー型とニューロパチー型と ICC
型に分類可能/続発性の分類の仕方も
診断
分類
診断に際し、機械的閉塞に加え局所性
疾患も否定すべき
「家族性あり」ではなく「家族歴あり」
とすべし
その他
不明瞭
その他
ニューロパチーとして排尿障害もあり
うる/心理社会的問題も存在する
研究者
小児を含 時折先天的な症例や、幼少期発症例も
めるか
研究者
小児を含
めるか
Jutta Keller(Ger)
なぜ小児を外すのか?
niveau の
ある(から含めるべきであろう)
niveau の
表現
機械的閉塞部位のない腸管閉塞が特
定義
表現
徴」というのは始点としていまひとつ
である
なぜ有症状期間を 6 ヶ月以上とするの
か?/「最近 12 週の腹痛・膨満」は、
定義
Michael Kamm(UK, St Marks Hosp)
診断
間欠的な症状であったり、治療が有効
で症状が軽減されている場合を省くの
件として位置付けられてはいない
病理分類としては「ミオパチーかニュ
分類
か?/Ogilvie 症候群回復後の再発も
あるので定義から省くべきでない
腸管拡張は必ずしも確定診断の必要条
ーロパチー/変性か炎症/原発性か続
発性」ということが参考になる
その他
診断
分類
特発性のミオパチー型とニューロパチ
以上のコメントを勘案して以下のような診断基
ー型の区別はない/続発性 CIP の原因
準の改定を行い各分担研究者に意見を伺い同意を
に糖尿病やパーキンソン病も多くみら
得た。厚労省研究班では腹部単純 XP や CT など
れます
による消化管の拡張を診断の必須条件としたが海
外の研究者からの意見で消化管拡張所見のない症
4. 家族歴のあることがある。
例もあるとのご指摘を受けたが、そのような稀な
5. 腸閉塞症状とは,腸管内容の通過障害に伴う腹
症例まで考慮すると一般実地診療では有用性の低
痛(67%),悪心・嘔吐(51%)、腹部膨満・
い診断基準となるためこの項目は必須と考える。
腹部膨隆(96%)
,排ガス・排便の減少を指す.
一方症状に関しては診断基準作成時は腹痛を重視
食欲不振や体重減少、Bacteria overgrowth による
したが、国内調査の結果、腹部膨満が 96%に認め
下痢・消化吸収障害などをみとめる。
られ、腹痛の67%を大幅に上回った。診断基準
6.
から腹痛を除き腹部膨満のみとすると感度は上が
腸に至る全消化管に起こることが知られており、
るが、慢性便秘などが間違って本疾患と診断され
同一患者で複数の障害部位を認めたり、障害部位
てしまう危惧があるが「6カ月以上前からの腸閉
の増大を認める。また、神経障害(排尿障害など)
,
塞症状」と「画像診断での腸管の拡張および鏡面
及び精神疾患を伴う事がある.
障害部位は小腸や大腸のみならず食道から直
像」の項目で大半は除外できるものと考える。
平成22年度 慢性偽性腸閉塞の改定診断基準案
D.考察
平成21年度厚労省研究班で作成した本邦初の診
疾患概念
断基準案はわが国において実地医家が本疾患を認
消化管に器質的な狭窄・閉塞病変を認めないに
知できるよう、また容易に診断でき専門機関へ紹
もかかわらず腸管蠕動障害(腸管内容物の移送障
介できるよう作成されたものであるが、本邦での
害)を認めるもので,慢性の経過を経るもの.
国内調査をもとにより実態を反映し、かつ感度特
異度の高いものにしなければならない、また、い
診断基準
わゆる「ガラパゴス化」に陥らないように、本邦
6 か月以上前から腸閉塞症状があり,そのうち 12
独自の臨床実態を反映する診断基準ではあるが、
週は腹部膨満を伴うこと.
海外の当該領域の専門家委の批判を受けてより国
際的に通用するものに改定しなければならないと
画像所見
考えられ、今回は当該施設の欧米での専門家に意
1. 腹部単純エックス線検査,超音波検査,CT で
見をいただき本邦の診療現場でできる範囲で意見
腸管拡張または鏡面像を認める
を反映して改定を行った。今後は特に小児例の診
2. 消化管エックス線造影検査,内視鏡検査,CT
断をどうするかが残された問題であると思われる。
で器質的狭窄、あるいは閉塞が除外できる.
E.結論
付記所見
慢性特発性偽性腸閉塞の平成21年度に研究班で
1. 慢性の経過(6 ヶ月以上)で 15 歳以上の発症
作成した本邦初の診断基準案を海外の当該疾患の
とする.*先天性・小児は別途定める。
研究者にご批判いただき国際手にも批判に耐えら
2. 薬物性、腹部術後によるものは除く。
れる診断基準に改定を行った。
3. 原発性と続発性に分け,原発性は病理学的に筋
性,神経性,カハールの介在神経の異状による間
質性、混合型に分けられる。続発性は,全身性硬
化症、パーキンソン症候群、ミトコンドリア異常
症、2型糖尿病などによるものがある.
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
1. 論文発表
1) 坂本康成、稲森正彦、中島淳 第2章 各論
B その他の病変 2.偽性腸閉塞「どう診る?小
腸疾患-診断から治療まで」編集発行 株式会社
診断と治療社 p.176-180 2010 年 10 月 10 日
2) 飯田洋、稲森正彦、坂本康成、大和滋、中島淳
慢性偽性腸閉塞症の我が国の報告例のまとめと新
たに提唱された診断基準案についての検討 診断
と治療 vol.98 no.11 2010 p.137-141 発行所:診
断と治療社 編集委員:河邊博史、中島淳、林道
夫、廣井透雄
3) 坂本康成、稲森正彦、飯田洋、中島淳 各論 便
通の悩み(IBS から難病・偽性腸閉塞まで)偽性
腸閉塞(急性を除く)の診断と治療の実際 診断
と治療 vol.98 no.9 p.1461-1465 (2010) 診断と
治療社 2010 年 9 月 1 日発行
2. 学会発表
1
坂本康成、関野雄典、飯田洋、遠藤宏樹、
藤田浩司、米田正人、高橋宏和、古出智子、
所知加子、安崎弘晃、後藤歩、阿部泰伸、島
村健、小林規俊、桐越博之、窪田賢輔、斉藤
聡、前田愼、中島淳、稲森正彦 慢性偽性腸
閉塞症の内科的診断・治療の現状-厚生省研
究班の調査結果を踏まえて- 第7回日本
消化管学会総会学術集会 コアシンポジウ
ム3 機能性消化管疾患:病態にせまる ~
運動からみて~ 平成 23 年 2 月 18 日 京都
H.知的財産権の出願・登録状況
(予定を含む。
)
1. 特許取得
該当なし
2. 実用新案登録
該当なし
3.その他
該当なし
III. 研究成果に関する刊行一覧表
研究成果に関する刊行一覧表
書籍
論文題名
書籍全体の編集者名
書籍名
出版社名
東京
176180
2010
武藤徹一郎監修、杉原健一、
藤盛孝博、五十嵐正広、渡邉 大腸疾患NOW2010
聡明編
日本メディカルセン
東京
ター
123132
2010
大腸腺腫に対する大腸内視鏡治療後
武藤徹一郎監修、杉原健一、
の局所遺残再発と穿孔例の実態に関
藤盛孝博、五十嵐正広、渡邉 大腸疾患NOW2010
する多施設共同研究(多施設アン
聡明編集
ケート調査より)
日本メディカルセン
東京
ター
161169
2010
2010
偽性腸閉塞
上西紀夫
微小大腸病変の取扱い
Stage II 大腸癌に対する術後補助
杉原健一 編集
化学療法
どう診る?小腸疾患-診断から
診断と治療社
治療まで
出版地 ページ 出版年
大腸癌ガイドラインサポートハ
医薬ジャーナル
ンドブック.
東京
133134
本郷道夫
IBS診療の手引き
ヴァンメディカル
東京
37~42 2010
本郷道夫
IBS診療の手引き
ヴァンメディカル
東京
97~
102
過敏性腸症候群
泉 孝英
ガイドライン外来診療2011
日経メディカル開発 東京
過敏性腸症候群
山口徹、北原光夫、福井次矢
Mallory-Weiss症候群
渡辺純夫.
IBSによる腹痛・腹部不快症状
腹痛・腹部不快症状への内科的対応
特発性食道破裂(Boerhaave症候群) 渡辺純夫
食道癌
金澤一郎、永井良三
Azoxymethane-induced colon
Preedy VR and Watson RR
carcinogenesis through Wnt/betacatenin signaling and the
effects of the olive oil
鎮痙薬・制吐薬
矢崎義雄
食道アカラシア
渡辺純夫
食道・胃静脈瘤
渡辺純夫
食道憩室
渡辺純夫
転移・深達度診断
飯田三雄
今日の治療指針2010
医学書院
2010
145~
2011
150
東京
395396
2010
消化器内科学
シェプリンガー・
ジャパン
東京
119120
2010
消化器内科学
シェプリンガー・
ジャパン
東京
121122
2010
東京
701703
2010
今日の診断指針2010
医学書院
Academic Press
Olives and Olive Oil in
Health and Disease
Prevention
2010
Oxford
9971004
治療薬 UP-TO-DATA 2010
メディカルレビュー
東京
社
343- 2010
349
消化器内科学
シェプリンガー・
東京
ジャパン
109112
2010
消化器内科学
シェプリンガー・
ジャパン
東京
112117
2010
消化器内科学
シェプリンガー・
ジャパン
東京
117119
2010
東京
118125
2010
東京
1800- 2010
1805
胃癌(新しい診断と治療の
ABC)
病気とけがの知識、薬剤起因性腸 高久史麿、猿田享男、北村惣
家庭医学大全科(六訂版)
炎、慢性便秘、慢性下痢、大腸がん 一郎、福井次矢
最新医学社
法研
雑誌
執筆者氏名
論文題名
雑誌名
巻(号) ページ 出版年
中島淳、坂本康成、飯田洋、関野雄
典、稲森正彦
Pseudo-obstruction
Modern
Physician
31(3)
331-335 2011
中島淳
便秘に伴う腹痛、腹部膨満感と大健中湯
Modern
Physician
31(2)
265
飯田洋、稲森正彦、坂本康成、大和
滋、中島淳
慢性偽性腸閉塞症の我が国の報告例のまとめと
診断と治療
新たに提唱された診断基準案についての検討
98(11) 137-141 2010
中島淳、藤本一眞、大和滋、洲崎文
男、稲森正彦
座談会どのように対処するのか?-臨床で遭遇
Phama Medica
する下部消化管運動障害への対処法を語る-
28
95-100 2010
(9)
2011
坂本康成、稲森正彦、飯田洋、中島淳 偽性腸閉塞(急性を除く)の診断と治療の実際 診断と治療
146198
(9) 1465
Kobayashi H, Mochizuki H, Kato T,
Mori T, Kameoka S, Shirouzu K,
Is total mesorectal excision always
Saito Y, Watanabe M, Morita T, Hida
necessary for T1-T2 lowe rectal cancer?
J, Ueno M, Ono M, Yasuno M,
Sugihara K
17 (4) 973-980 2010
Ann Surg
Oncol.
2010
Kinugasa Y, Sugihara K.
Topology of the fascial structures in
Seminors in
rectal surgery: complete cancer resection
21(2)
Colon and
and the importance of avoiding autonomic
Rectal Surgery
nerve injury
Hashimoto H, Shiokawa H, Funahashi
K, Saito N, Sawada T, Shirouzu K,
Yamada K, Sugihara K, Watanabe T,
Sugita A, Tsunoda A, Yamaguchi S,
Teramoto T
Development and validation of a modified
fecal incontinence quality of life scale
for Japanese patients after
intersphincteric resection for very low
rectal cancer
Muro K, Boku N, Shimada Y, Tsuji A,
Sameshima S, Baba H, Satoh T, Denda
T, Ina D, Nishida T, Yamaguchi K,
Takiuchi H, Esaki T, Tokunaga S,
Kuwano H, Komatsu Y, Watanabe M,
Hyodo I, Morita S, Sugihara K
Irinotecan plus S-1 (IRIS) versus
fluorouracil and folic acid plus
randomized phase 2/3 non-inferiority study
Lancet Oncol. 11 (9) 853-860 2010
(FIRIS study)irrinotecan (FOLFIRI) as
second-line chemotherapy for metastatic
colorectal cancer:
Oka S, Tanaka S, Kanao H, Ishikawa
H, Watanabe T, Igarashi M, Saito Y,
Ikematsu H, Kobayashi K, Inoue Y,
Yahagi N, Tsuda S, Simizu S, Iishi
H, Yamano H, Kudo S, Tsunoda O,
Tamura S, Saito Y, Cho E, Fujii T,
Sano Y, Nakamura H, Sugihara K,
Muto T
Current status in the occurrence of
postoperative bleeding, perforation and
residual/local recurrence during
colonoscopic treatment in Japan
Ito N, Ishiguro M, Tanaka M,
Tokunaga K, Sugihara K, Kazuma K
Response shift in quality-of-life
Gastroenterol
assessment in patients undergoing curative
33 (6) 408-412 2010
Nurs.
surgery with permanent colostomy
95-101 2010
J
45 (9) 928-935 2010
Gastroenterol.
Dig Endosc.
22 (4) 376-380 2010
執筆者氏名
論文題名
Validation and clinical use of the
Kobayashi H, Enomoto M, Higuchi T, Japanese classification of colorectal
Uetake H, Iida S, Ishikawa T,
carcinomatosis: benefit of surgical
Ishiguro M, Sugihara K
cytoreduction even without hyperthermic
雑誌名
Dig Surg.
巻(号) ページ 出版年
27 (6) 473-480 2010
河合富貴子、大谷賢志、佐野智彦、水
集学的治療により長期生存が得られている直腸 日本消化器病学
107 (2) 241-247 2010
森美佐、倉田仁、檀直彰、植竹宏之、
癌の1例
会雑誌
杉原健一、渡辺守
腹腔鏡下幽門側胃切除後の順蠕動Roux-Y再-エ
小嶋一幸、山田博之、井ノ口幹人、加
ンドリニアステイプラーを用いた新しい簡便な 手術
藤敬二、河野辰幸、杉原健一
腹腔内再建法-
64(8)
11451151
2010
菊池章史、石川敏昭、植竹宏之、田中 化学療法後肝切除を施行し25ヶ月の生存を得た
癌と化学療法 37(12) 2539-41 2010
真二、有井滋樹、杉原健一
大腸癌同時性肝・肺転移の一例
山内慎一、植竹宏之、宮崎光史、菊池
2514章史、小野宏晃、加藤俊介、石黒めぐ 肝動注後CapeOX+Bevacizumab療法が有効であっ
癌と化学療法 37(12)
2516
み、石川敏昭、小林宏寿、飯田聡、樋 た大腸癌多発肝転移の1例
口哲郎、、榎本雅之、杉原健一
小林宏寿、、植竹宏之、樋口哲郎、、
榎本雅之、安野正道、飯田聡、吉村哲
規、石川敏昭、石黒めぐみ、加藤俊
介、小野宏晃、菊池章史、山内慎一、
杉原健一
青柳治彦、兼子順、小野宏晃、磯貝
純、吉田正史、染野泰典、勝田絵里
子、佐口盛人、高畑太郎、長谷川久
美、浜田節夫、樋口哲郎、杉原健一、
前島静顕
2010
メシル酸イマチニブ投与後に切除した直腸GIST
2620癌と化学療法 37(12)
の1例
2622
2010
切除不能な進行直腸S状部・胃重複癌に対して
2433集学的治療を行い胃病変の局所制御にFOLF 癌と化学療法 37(12)
2435
IRI療法が有効であった1例
2010
樋口哲郎、小林宏寿、石川敏昭、石黒
めぐみ、飯田聡、植竹宏之、榎本雅 大腸粘液癌の再発形式の検討
之、杉原健一
癌と化学療法 37(12)
樋口哲郎、小林宏寿、榎本雅之、飯田
聡、石川敏昭、石黒めぐみ、加藤俊 低前方切除術
介、植竹宏之、杉原健一
臨床外科
65
248-255 2010
(11)
菊池章史、樋口哲郎、杉原健一
消化器外科
NURSING
15(6)
イレウス
Ohkusa T, Kato K, Terao S, Chiba T,
Mabe K, Murakami K, Sugiyama T,
Newly developed antibiotic therapy for
Yanaka A, Takeuchi Y, Yamato S,
ulcerative colitis: A double-blind
Yokoyama T, Okayasu I, Watanabe S, placebo-controlled multicenter trial.
Tajiri H, Sato N.
天野 智文、大和 滋
大和 滋
Am J
105
Gastroenterol.
モダンフィジ
31
シャン
Functional Dyspepsia:ROME Ⅲのもたらした Medical
28
影響
Practice
過敏性腸症候群
25602562
2010
588-592 2010
1820-9 2010
322-325 2010
269-272 2010
執筆者氏名
論文題名
雑誌名
巻(号) ページ 出版年
98
14412010
1448
J
45
Gastroenterol
501-505 2010
J.
45
Gastroenterol
11932010
1200
J
45
Gastroenterol
618-624 2010
Ο Kusano K, Inokuchi A, Fujimoto
Coccoid Helicobacter pylori exists in the J
K, Miyamoto H, Tokunaga O, Kuratomi
palatine tonsils of patients with IgA
Gastroenterol. 45
Y, Shimazu R, Mori D, Yamasaki F,
nephropathy.
45
Kidera K, Tsunetomi K, Miyazaki J
406-412 2010
有賀 元、大和 滋
IBSの診断と治療の実際
Evaluation of hemostasis with soft
Arima S, Sakata Y, Ogata S,
coagulation using endoscopic hemostatic
Tominaga N, Tsuruoka N, Mannen K,
forceps in comparison with metallic
Shiraishi R, Shimoda R, Tsunada S,
hemoclips for bleeding gastric ulcers: a
Sakata H, Iwakiri R, Fujimoto K.
prospective, randomized trial.
The Japan Maintenance Study Group Risk
factors for relapse of erosive GERD during
Fujimoto K, Hongo M.
long-term maintenance treatment with
proton pump inhibitor: a prospective
multicenter study in Japan.
The Japan Maintenance Study Group.
Incidence and risk factor of fundic gland
Hongo M, Fujimoto K.
polyp and hyperplastic polyp in long-term
proton pump inhibitor therapy: a
prospective study in Japan.
Mannen K, Tsunada S, Hara M,
Yamaguchi K, Sakata Y, Fujise T,
Noda T, Shimoda R, Sakata H, Ogata
S, Iwakiri R, Fujimoto K.
Ο Nakashima M, Hamajima H, Xia J,
Iwane S, Kawaguchi Y, Eguchi Y,
Mizuta T, Fujimoto K, Ozaki I,
Matsuhashi S.
Shiraishi R, Iwakiri R, Fujise T,
Kuroki T, Kakimoto T, Takashima T,
Sakata Y, Tsunada S, Nakashima Y,
Yanagita T, Fujimoto K.
Takashima T. Yamaguchi K, Mhara M,
Fukuda T, Kuroki T, Furushima C,
Wakeshima R, Iwakiri R, Fujimoto K,
Inoue N. , 2010.
診断と治療
Risk factors for complications of
endoscopic submucosal dissection in
J Gastroenteol 45
gastric tumors: analysis of 478 lesions.
30-36 2010
Regulation of tumor suppressor PDCD4 by
Biophys. Acta. 1803
novel protein kinase C isoforms Biochem.
10202010
1027
Conjugated linoleic acid suppresses colon
carcinogenesis in azoxymethane-pretreated
rats with long-term feeding of diet
containing beef tallow.
Brief questioning by nursing staffs before
endoscopic examination may always pick up
clinical symptoms of endoscopic reflux
esophagitis.
J.
45
Gastroenterol
625-635 2010
J. Clin.
46
Biochem. Nutr
229-233 2010