乳牛の周産期疾病の現状とその対策

乳牛の周産期疾病の現状とその対策
‐デンマークにおける臨床経験から‐
Aage Højbjerg, DVM, Denmark
アーゲ・ホイバーグ (デンマーク)
デンマークの酪農産業
他の欧州諸国と同様、デンマークの酪農産業はこの 25 年間で、急激な変革の過程にあった。
デンマークは 1972 年に EU 加盟したことによって酪農産業は新たな市場の脅威を経験することになった。
長年にわたり、EU は消費量を上回る乳製品を生産することができたため、第三諸国へそれらを輸出して
きた。これが EU が数年前に乳量生産調整を開始した理由である。つまりデンマークの酪農家は、生産し
たい量を生産できるわけでなく、言い換えれば、集乳所に牛乳を運んでも代金が支払われないことになる。
デンマークでは農場の数が減少する一方、1戸あたりの飼養頭数が増加しているのが乳生産の全般的な
構造である。そして乳牛1頭あたりの生産乳量は、グラフで示されるように急激に増加している。
産乳量の増加と牛群
1頭あたりの平均産乳量
の規模拡大は、これら
Cows per herd
の農場に対する臨床
Average milk yield
獣医師の業務内容を
変えてしまうことも意味
していた。2000 年を迎
え、デンマークでは、獣
医師の業務内容は個
体診療が依然重要で
あるとはいえ、個体診
療よりもカウンセリング業務が非常に増加している。おそらくこれはデンマークでは抗生物質に対する非常
に厳しい規制、とりわけ農家が勝手に乳房炎の治療を開始することを認めない法律を持っているという事
実によります。さらに農家は毎月の健康カウンセリングプログラムを受けていなければ、後の治療を行うこ
とも許されていない。
デンマークの乳牛頭数
Number of dairy cattle in
Denmark
1600000
1400000
1200000
1000000
800000
Number of cows
600000
400000
200000
0
1965
1975
1985
1995
1998
2005
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
Number of cows per
herd
Average milk yield x
100
1965
1975
1985
1995
1998
2005
産乳量の増加はまた、乳牛群における獣医師の業務内容が変わることも意味している。より高い産乳量
を得るためには給与飼料を最適にしなくてはならない。乳牛が高泌乳するためには、より消化のよい飼料
を必要とする。このことは、疾病予防と健康管理の仕事は、乳牛に対する飼料給与の実態に取り組むこと
から始めなければならないことを意味している。
演者略歴:
Aage Hojbjerg,DVM
コペンハーゲンの The Royal Veterinary and Agricultural University 卒業、
1971 年−ポーランド・Wroschlaw にある獣医大学にて研修、1972 年−USA・
ウィスコンシンにおいて臨床研修を経、1977 年−Grenaa で開業。さらに、
1982 年−Den Danske Dyrlaegeforening により牛専門獣医師の資格取得。
1983 年・1993 年に Hans Peter Christensen 記念賞受賞。
現在、デンマークで6人の獣医師による開業獣医師代表として活動中。
今回は特に牛の産褥期、低カルシウム血症とそれに関連する各種疾病の対
策についてこれまでの臨床経験を紹介。
デンマークの酪農産業は国内で最も重要な輸出産業の一つである。生産量と輸出品目のグラフに輸出さ
れている製品を示した。生乳を除いた品目の生産量のほとん
生産量と輸出量
どが輸出されている。
Production and export
80 0
7 44
70 0
60 0
1000 tons
チーズの輸出はチーズ市場において最も重要であることが示
されている。グラフではデンマークチーズの最重要市場はドイ
ツであるが、1998 年には日本も第 4 位の重要な輸出先市場で
あった。
50 0
40 0
2 89
30 0
24 9
1 79
20 0
10 0
15 5
48
43
32
0
Production
Export
1998
3日 8月, 2000年
Butter
Pres erved Milk
C he es e
Liquid Milk
乳熱の予防と治療における DCAB の重要性
近年、乳熱の予防については乾乳牛に対する飼料給与を中心に議論されている。初期の経験は、乾乳牛
へのカルシウム過剰給与が乳熱多発に結びついているということであった。。従って泌乳牛の要求量を充
足させるのに十分なカルシウム給与は、分娩直前のほんの数日前から開始しなければならないとされて
いる。
この論理を疑問視した Beede et al., 1992 らは、1 日に 1 頭あたり 150∼200g のカルシウムを与え、同時
に適当量の(酸性化作用を有する)陰イオンを与えると、なんら問題が生じないことを観察した。
1970 年代半ばにノルウェーの研究者らが AIV サイレージ(硫酸保存されたサイレージ)を与えたところ乳
熱の発生率が低いことを見出している。それらの牛が安定した陰イオンを豊富に含む飼料を摂取していた
ことは明らかである。
Goff, 1991 ら を含む多くの研究者が乳熱の予防に DCAB(飼料中の陽イオン陰イオンバランス)の重要性
を検証している。Goff らは 1991 年に、47 頭のジャージー種の牛を用い、基礎飼料である牧草サイレージ
に陽イオンと陰イオンを添加した 2 群による試験結果を公表した。
彼らは、陽イオン添加群(23 頭中 6 頭)は、陰イオン添加群(24 頭中 1 頭)よりも高率で乳熱が引き起こさ
れることを発見した。さらに分娩時と泌乳開始から 2 日間の血中カルシウム濃度は陰イオン添加群で有
意に高かったが、低カルシウム血症に応答する上皮小体ホルモンの分泌はどちらの群でも同様に見られ
た。血漿中ヒドロキシプロリン濃度(骨からのカルシウム再吸収の指標)は陰イオン添加群で高く、骨カル
シウムの効率的利用が示唆された。どちらの群でも血漿中 1,25-ジヒドロキシ-ビタミン D 濃度は血漿中カ
ルシウム濃度に反比例し、血漿中上皮小体ホルモン濃度と相関していた。しかしながら、応答の大きさ
(上皮小体ホルモン1ユニット増毎の 1,25-ジヒドロキシ-ビタミン D の生産量)は高陽イオン飼料群では大
きく減少した。上皮小体ホルモンはカルシウム再吸収と腎での 1,25-ジヒドロキシ-ビタミン D 生産を制御
する働きをすることから、これらのデータは陽イオンが高いの分娩前の飼料が、上皮小体ホルモン応答に
対する骨や腎組織の能力を減退させることを示唆している。したがって、分娩前の飼料への陰イオンの添
加は陽イオン過剰を緩和させることができ、そのことにより、上皮小体ホルモンに対する各組織の応答が
増強し、乳牛は泌乳時のカルシウム要求によりよく適応できる。
乾乳牛に対し適切に調製された飼料給与、特に DCAB を考慮することにより、大部分の乳熱は予防でき
ることは疑う余地がありません。しかしながら、このアプローチは集約生産農場では、乳牛に添加された飼
料を確実に摂取させることが難しいという大きな理由により、一般に無視された。課題はこの知識を異なっ
た形で予防的戦略の中に取り入れる可能性はないかということである。
参考文献:
Beede, D.K., C.A. Risco, G.A. Donovan, C. Wang, L.F. Archbald, & W.K. Sanchez, 1992. Nutritional
Management of the Late Pregnant Dry Cow with Particular Reference to Dietary Cation-Anion Difference
and Calcium Supplemation. Dairy Science Dept., Department of Large Animal Clinical Sciences; Institute
of Food and Agricultural Sciences; College of Veterinary Medicine; University of Florida, Gainesville, FL
32611. The Bovine Proceedings - no. 24, 1992.
Goff, J.P., R.L Horst, F.J. Mueller, J.K. Miller, G.A. Kiess, & H.H. Dowlen, 1991. Addition of chloride to a
prepartal diet high in cations increases1,25-dihydroxyvitamin D response to hypocalcæmia preventing milk
fever. J. Dairy Sci., 1991, 74 (11): 3863-3871.
Goff J. P. and L. Horst Ronald 1994. Calcium Salts for Treating Hpocalcemia: Carrier Effects, Acid-Base
Balance, and Oral Versus Rectal Administration. J. Dairy Sci 77; 1451-1456.
周産期の牛の血中マグネシウムおよびその乳熱の予防と治療に対する重要性
文献では数々の発見が報告されているが、マグネシウム(Mg)がカルシウムの代謝に影響を与え乳熱の
臨床的発現発生していることは研究者らの同意するところである。
Samson ら (1983)の研究では 高い頻度で乳熱を起す牛群中の妊娠牛でしばしば血中の Mg 濃度が平常
より低いことが報告されている。他の研究でも潜在的な低マグネシウム血症が低カルシウム血症への応
答としてのカルシウム動員、これは乳熱予防に重大な機能であるが、この機能を減退させることを示して
いる。これらの結果はカルシウムの代謝経路のいくつかの段階においてマグネシウムが関与していること
を反映するものである。
乳熱は、脂肪酸化作用におけるマグネシウムの役割を反映して、し、ばしば肥満牛症候群に併発している。
私は北ヨーロッパの臨床獣医師として急速に訪れる寒冷な気候が、牛において麻痺症状以外なんら臨床
症状を示さずにテタニーを生じるケースを多く見ている。これらの牛はたいていマグネシウムの投与後回
復する。Rayssiguier ら(1976) は、このマグネシウム欠乏は維持エネルギー要求量の増加に伴なう急速
な脂肪酸化によって起きたかもしれないと述べた。これについては私からも、デンマークの秋の気候が重
篤なマグネシウム欠乏を示す肉牛のテタニーをもたらすことがあることを申し述べておく。この状態に陥っ
た患畜を救うことは通常不可能である。
乳熱の牛の血液プロファイルの最も重要な変化は、急速かつ劇的なカルシウム濃度の低下であり、ほと
んどいつもリン濃度の平行した減少を伴なっている。マグネシウムの変化はより少ないことが明らかであ
る。通常マグネシウム量は若干増加するが、減少も見られることがある。
カルシウム動員が起こると消化管からの吸収要求が高まり、骨からのカルシウム再吸収も増加する。これ
らの過程は主に上皮小体ホルモンおよびそれとビタミンD3 誘導体との相互作用により調節される。
マグネシウムはカルシウム代謝にいくつかの経路で影響しているとされている。ラットでは上皮小体ホル
モンが上皮小体から分泌されるのにマグネシウムが必要であることが示されている。このホルモン分泌が
不充分な場合、カルシウム動員とリンの調節は抑制される。
ビタミンDがカルシウムの吸収を促進するのは肝臓で 25−ヒドロキシビタミンDに代謝され、さらに腎臓で
1,25-ジヒドロキシビタミンDに変換されてからである。何人かの研究者がマグネシウムはその最初のステ
ップで必要とされ、上皮小体ホルモンは二番目のステップで必須であることを示している。
このようにカルシウム代謝には多くのポイントがある。すなわち、低カルシウム血症に対する応答において
マグネシウムは、カルシウム調節様式のどこに作用するか、そしてマグネシウム濃度の低下がカルシウ
ム代謝の開始と維持を要求する過程のどこを遅延させるかなど、多くのポイントがある。
Samson ら (1983) はマグネシウム濃度が低くなればなるほどカルシウム代謝量が減ると述べている。乳
熱におけるマグネシウムの役割について彼らは、「上記に示した結果から、分娩牛の血漿マグネシウム濃
度が正常な平均値を下回ると乳熱に罹患しやすく、さらにマグネシウム濃度の低下が大きくなればなるほ
どそのリスクが高くなる。個々の結果だけを見る限り、決定的な証拠にはならないが、それらの結果を合
わせると、その考えを強く裏付けるものになる。」 と述べている。
van de Braak (1986) (オランダの文献)は分娩時の骨再吸収率におけるマグネシウムの重要性について
検討している。分娩前にマグネシウム供給が不適であった牛では、これを適量を与えられた牛よりも骨再
吸収が明らかに低下していた。
ステップワイズ重回帰分析により van de Braak (1986) は、骨再吸収とカルシウム代謝率の関係を検証し
た。若牛では有意な関係があったが、老齢牛ではなかった。これらの結果から、老齢牛においては、骨再
吸収は分娩時のカルシウム動員の総量に対し、小さな割合でしかないことが示唆された。
Parathyroid
上皮小体
Gland
( Mg nessesary for
releasing parathyroid hormone
マグネシウムは上皮小体ホルモン分泌に必須
from gland )
Mg
マグネシウム
ビタミン D3
Vitamin
D -3
ヒドロキシビタミン D
25 25
hydroxy
Vitamin D
肝臓
Liver
ジヒドロキシビタミン
D D
1,251,25
dihydroxy
vitamin
Kidney
腎臓
上皮小体ホルモン
Pararoid
hormone
骨
Bones
上皮小体ホルモン
Pararoid
hormone
Ca
血液
Blood
Ca
Guts
消化管
消化管吸収と骨再吸収によるカルシウム動員におけるマグネシウムの可能な役割
(作図: Aage Højbjerg 1997)
参考文献:
Adrianus Everardus van de Braak, 1986. Dutch thesis. Prepartal feeding of dairy cows and the rate of
calcium mobilisation at parturition.
Rayssiguier, P. & P. Lavor, 1976. 2nd International Symposium on Magnesium, Montreal.
Samson B.F. & R. Manson, 1983. Magnesium and milk fever. Institute for Research on Animal Diseases,
Compton, Newbury, Berkshire.
事例:デンマーク酪農における問題点:
近年 TMR(Total Mixed Ration)給与がデンマークの多くの酪農場で実施されてきている。それと同時にこ
れまでどこでも行われていた、多種類の飼料を次々に給与していく分離給与は、非常に手間がかかるた
めに減ってきた。
TMR 給与はミキシング機への多額の投資を必要とし、農家はその見返りに最大限の労力軽減を期待す
る。このことが牛への飼料内容を単純化させ、必ずしも効率のよいものではなくなっている。飼料構成は
泌乳牛に合うように最適化されるが、乾乳牛や育成妊娠牛には最適なものではなく、おそらく初産牛にと
っても最適ではない。ミキシング機に多額の投資をしたばかりの酪農家に 2、3 種類のミキシングを続ける
べきであることを説明するのは容易でない。それでは彼の期待した作業の単純化が得られないからであ
る。
ここで示すのは 2000 年初夏に取り組み、検討の末解決した事例である。その農場では 1999 年に 80 頭
のホルスタイン−フリージアン種のために牛舎を新築したばかりであった。1 頭あたりの年間平均乳量は
約 9,500kg、労働人員は適当であった。しかし調べると乾乳牛への飼料給与が適切でないことは即座に判
明した。これが分娩前後の第四胃変位やケトーシス、乳熱、や乳房炎を数例引き起こす原因となっていた。
TMR 飼料 内容:
大麦とエンドウの青刈りサイレージ - 主成分 – 全体の 50%
濃厚飼料
粉砕大麦
ビートパルプペレット、糖蜜
ミネラルとビタミン
当該農場における誤った管理:
分娩時に牛が肥満しすぎていた。
分娩前に搾乳舎で過ごす時間が短期間すぎた。
(分娩前 2∼3 週間が必要。)
牧草と TMR の粗飼料が牧草サイレージであったために DCAB
値が高すぎた。
(TMR: 200 Meg/FE - 牧草: 335 Meg/FE)
乳房炎とビタミンE
Mastitis and Vitamin E
40
% Clinical mastitis
35
30
25
Parity 1
Parity > 1
20
15
10
5
0
100
1000
4000
Vitamin E
ビタミン E 量の摂取が少なすぎた。
我々は肥満牛が分娩時に問題があることは充分解っているが、ビ
タミン E が乳房炎の発生頻度に関与することにあまり着目してい
ないようである。私はあえてこの点を強調しておきたい。
乾乳牛の飼料給与では、泌乳牛に最適なように調整した TMR 飼料の量を減量し、をワラを加えたものを
与えるのが一般的である。
こういった飼料給与はエネルギー量としては充分であるが、ビタミンやミネラルが少なすぎることが多い。
乾乳牛飼料を分析するとビタミン E の含有量は 400∼500mg 程度であることが多いが、デンマーク当局の
標準では 1000mg とされる。私個人的にはこれよりも高い量が必要と考える。
米国の研究者ら (Wiess et al.1997, J Dairy Sci 80: 1728-1737)が飼料中のビタミン E 量を増やすことによ
って乳房炎の発生率を下げることができることを示している。分娩前後には血中ビタミン E 量は通例下が
る。従って乾乳牛や育成妊娠牛に与えられるビタミン E が少なすぎると、分娩前後に乳房炎のリスクが高
くなり、ストレスの大きい状態の牛に更に負荷をかけることになる。
問題は単純に解決しそうに見え、実際難しいことではないのだが、コンサルタント獣医師は現場で同じ問
題に何度も直面する。
この事例では TMR 飼料が牧草と牧草サイレージにより高い DCAB 値を示していた。高い頻度で乳熱が
発生していたことや、おそらく第四胃変位についてもこれが原因であると説明できる。
産乳量の多い牛乳群では、高泌乳させるためだけではなく、疾病を回避するためにも飼料給与に対し多く
のことが要求される。ほんの小さな飼料給与の誤りが、大きな間違いにつながってしまうのである。
上記の牛群では、乾乳牛の飼料内容を変更後、第四胃変位は発生しておらず、疾病の発生状況は落ち
着いている。
分娩前後の低カルシウム血症がもたらす二次的問題
臨床獣医師にとって古典的な乳熱を診断することは難しくないが、実際に疾病に最初に直面するのは酪
農家である。
そこで疑問が生じるのは、我々臨床獣医師は潜在的なカルシウム欠乏を充分に理解しているかということ
である。
Daniel ら(1990)はほとんどの乳牛が泌乳初期の 6 週間は血漿カルシウム濃度が限界まで低下しているこ
とを記している。また Hove(1986)は同乳期で、「カルシウム サイクラー」すなわち分娩後 9 日、19 日そし
て 29 日目頃に緩慢な血漿カルシウム値の落ち込みが見られる牛について文献で示している。
臨床的な乳熱に結びついてもいなくても、カルシウム不足は重要な意味を持っている。Borsberry ら(1989)
はさまざまな周産期疾病の間の有意な関連性について記述し、乳熱は、その後の他の疾病を引き起こす
原因となり得ることが示されている。
興味深いことに 510 頭のホルスタイン種牛における分娩前後の低カルシウム血症の研究において
Massey ら(1993)は、第四胃左方変位(LDA)の発症リスクが、カルシウム不足の牛では 4.8 倍増加したこと
を見出している。
デンマークの乳用牛群の疾病登録分析(1990∼1993 年のデータ)によると、乳熱の発生はその牛を他の
疾病に罹患しやすくし、時にはそのリスクを数倍も高めることが確認されている。
他の疾病の罹患因子としての乳熱 (デンマークジャージー種)
疾病
2
産次数
3
4
ケトーシス
消化障害
肢蹄病
乳房炎
6,6
4,1
3,1
3,2
2,7
2,4
2,4
1,8
1,4
18
1,3
1,4
(J. Y. Blom の文献: ”分娩前後の低カルシウム血症後に生じる二次的疾病”より)
他の疾病の罹患因子としての乳熱(デンマーク ホルスタイン‐フリージアン種)
疾病
ケトーシス
消化障害
肢蹄病
2
3,5
2,9
1,8
1,5
産次数
3
2,1
2,4
1,4
1,3
4
2
2
1,2
1,2
乳房炎
(J. Y. Blom の文献: ”分娩前後の低カルシウム血症後に生じる二次的疾病”より)
同様の研究結果で、デンマークにおける乳熱発生率は 1969∼75 年の 12%から 1990 年には 5%に減少
したことが示されている。これには以下の3つの要因によるものと思われる。
z デンマーク乳牛の平均年齢が低くなったこと
z 乾乳期の飼料内容が改善されたこと
z カルシウム塩の経口投与による乳熱予防が行われていること
参考文献:
Blom, J.Y., Secondary problems following hypocalcæmia around calving. National Committee on Cattle
Husbandry.
Borsberry, S. & H. Dobson, 1989. Periparturient diseases and their effect on reproductive performance in
five dairy herds. Veterinary Record (1989) 124, 217-219.
Daniel, R.C.W. & D.R. Kerr, 1990. Sub-Clinical Hypocalcemia - Is it important?. Proceedings N.Z. Society
of Animal Production 1990.
Hove, K., 1986. Milk fever prevention and calcium homeostasis around calving in the dairy cow. Proc. 6th
International Conference on Production Diseases in Farm Animals. Belfast, September 1986.
Massey, C.D., C. Wang, G.A. Donavan & D.K. Beede, 1993. Hypocalcemia at parturition as a risk factor for
left displacement of the abomasum in dairy cows. JAVMA, 203, 852-853.
7 つのカルシウム製剤の比較試験
経口カルシウム補給製品は低カルシウム血症や乳熱を予防する目的で世界中で用いられている。
これらの製品の目的はもちろん牛の血中のカルシウムイオン Ca++を増やすことである。従ってこれら製品
に求められるのは Ca++イオンが水に溶けやすいカルシウム塩 として含まれることである。塩のなかでも最
も易溶性なのは塩化酸カルシウムである。この塩に限って、前胃の粘液膜に潰瘍を形成しやすく、この腐
食性を取り除かない限り、他の問題を引き起こす可能性がある。
この副作用を検討するため、獣医師である私、アーゲ・ホイバーグは 1999 年から 2000 年にかけての冬
季間に試験を行った。
方法
試験計画には 3∼5 頭ずつの健常な牛の群に各製品を投与、試験することとした。合計 38 頭、ホルスタ
イン−フリージアン種 4 牛群とデンマークレッド種 1 牛群からの牛を用いた。
と殺の 2 日前(−2 日)に獣医師によるすべての供試牛の観察が行われた。供試牛の選定条件(採用基
準)は正常なルーメン活性と食欲を示すこととした。さらに、それらの動物には最近、疾病の徴候がなかっ
たことを生産者から確認できることとした。
獣医師が-2 日の朝に各カルシウム製品を与え、その後は畜主によって、同日の夕方に投与、さらに翌日
の朝と夕(-1 日)に投与された。供試牛は 0 日にと殺された。
供試牛は Århus Abattoir Ltd. [Århus Slagtehus A/S]社においてと殺され、当社の獣医師である Peter
Dyekjær 氏により全ての肉眼的検査が行われた。氏には供試牛への処置、あるいは処置されているかど
うかについても全く知らされていなかった。本研究はこのように盲検で行われた。氏の肉眼観察による検
査は 0 から 5 までのスコアにより記録され、0 の組織変化の無いものから 5 の第二胃の粘膜面に変化が
見られたものとして記録された。
組織標本は組織学的検査のために検査室獣医師の Per Henriksen に送られ、氏はまたどの動物にカル
シウム製品が投与されたかは知らされいなかった(盲検)。組織変化の程度は以下の基準で定義された 0、
+、 ++、 +++、 ++++ のスコアを用いて評価した。
0
変化なし
+
正常な絨毛、単独の退化した上皮細胞、少数のリンパ球細胞
++
短縮し交差した絨毛、上皮細胞の壊死、上皮細胞の肥厚、少数のリンパ球細胞
+++
非常に短い、平坦な絨毛、亢進した上皮細胞の壊死、フィブリン滲出、多数の好中球細胞と
リンパ球
++++
ほとんど∼全面的な絨毛の萎縮、上皮細胞の完全な壊死、フィブリン滲出、多数の好中球
とリンパ球
材料
表1に示した内容は製品に表示されているものを引用している。
表 1 – 供試製品
内容 / カルシウム塩の種類
製品名
Bovikalc®
Calcikur®
Calol®
Correct calcium®
Calform®
Kalkgel®
Recovin calcium pasta®
製品の性状
塩化カルシウムと硫酸カルシウム
食塊(巨丸剤)
酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウ 液剤
ム、炭酸カルシウム
塩酸カルシウムと塩化マグネシウム
水溶活性物質内包型
油性懸濁液
塩化カルシウムと塩化マグネシウム
パスタ剤
塩化カルシウムと塩化マグネシウム
液剤
塩化カルシウムと塩化マグネシウム
ゲル剤
塩化カルシウムと塩化マグネシウム
パスタ剤、カルシウムは二
層の油成分に含まれる
結果:
表 2 – 試験結果の要約
製品名
肉眼的
検査スコア
1
Bovikalc®
1
2
1
Calcikur®
1
2
Calform®
Calol®
なし
Correct
1
calcium®
2
1
Kalkgel®
1
1
Recovin
2
calcium
3
pasta®
3
1
無投与
組織学的
スコア
++
++
++
0
++
++
0
++
++
0
0
+
+++
++++
+++
++
部位
食道溝
食道溝
第一胃前嚢
食道溝
食道溝
第二胃
食道溝の唇縁
食道溝
食道溝
食道溝
食道溝
第一胃前嚢
食道溝
食道溝
食道溝
個体識別
a-0984
a-0893
d-1012
a-1109
d-1644
d-1366
d-f-1147
d-1066
c-1522
f-1586
d-1516
f-1540
f-1267
e-1807
e-1795
変化あり /
試験数
3/5
3/5
1/4
0/5
2/6
3/5
3/5
1/3
全ての製品はホルスタイン−フリージアン種の牛群で試験を行い、牛群管理者は製品使用時の状況の詳
細を記録するよう要請された。その結果は備考としてそのままで表3として作成された。(ここでは省略。)
結論
個々の試験群における牛の頭数は限られていたものの、本試験で示された試験結果の傾向はかなり明
確であった。カロール Calol®以外の経口投与カルシウム製品は第二胃粘膜に変化をもたらしたのである。
ボビカルク Bovikalc®、コレクトカルシウム Correct calcium® 、レコビン カルシウムパスタ Recovin
calcium pasta® は第二胃粘膜に対し腐食作用のあることが示された。このように、塩化カルシウム以外
のカルシウム塩は第二胃粘膜を潰瘍化してしまい、塩化酸カルシウムで見られる腐食性の特性はカロー
ル Calol®においては避けられるようである。
この試験は、乳牛に対する潰瘍形成の重要性に関しては特定の情報を提供しない。