淋菌性関節炎/ライター症候群(反応性関節炎)(120328)

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淋菌性関節炎/ライター症候群(反応性関節炎)(120328)
尿道炎、関節炎などのキーワードが挙がると、淋菌性関節炎やライター症候群(反応性関節炎)
などが想起される。知識を整理しておく。
■ 淋菌性関節炎

淋菌性関節炎は N.gonorrhoeae 感染による菌血症から生じるか、あるいはより高頻度には
尿道、子宮頸部、咽頭粘膜における無症候性の淋菌の定着により引きおこされる。2)

淋菌性関節炎は、N.gonorrhoeae 感染によって引き起こされる関節炎であり、その病像は以
下の 2 つに大別される。1)
① 腱・腱鞘炎、皮膚炎、多関節痛をきたし、関節液からは N.gonorrhoeae が培養されない
もの
② 単関節の化膿性関節炎をきたし、関節液から N.gonorrhoeae が培養されるもの

上記 2 つの型は、かならずしもクリアに分類されるものではなく、①が先行してから
②を発症する場合もある。

関節炎をきたす N.gonorrhoeae 感染症を、「播種性淋菌感染症:disseminated gonococcal
infection」と一括することもある。1)

女性は月経または妊娠期間中に感染リスクが高く、男性の 2~3 倍も播種性淋菌感染症およ
び関節炎を起こしやすい。2)

淋菌性関節炎を発症するリスク因子として、女性であること(男女比 1:3 で女性に多い)、粘
膜の無症候性感染、月経直後・妊娠中・出産直後であること、補体欠損症、全身性エリテマト
ーデスに罹患していることなどがあげられる。1)

播種性淋菌感染症の主要症状は、発熱、悪寒、皮疹、関節症状である。出血性膿疹へと進
行していく少数の丘疹が体幹および遠位の四肢伸側に生じる。また、膝関節、手指関節、手
関節、足趾関節、足関節などに遊走性の関節炎と腱鞘炎が出現する。2)

皮膚所見と関節所見は、血中を循環する淋菌に対する免疫反応と、免疫複合体の組織への
沈着により生じると考えられている。したがって、関節液の培養は常に陰性であり、血液培養
が陽性となるのは 45%以下である。2)

淋菌による敗血症性関節炎は、常に播種性淋菌感染症に続発するがこれより頻度が低く、
播種性淋菌感染症の 3 分の 1 では敗血症性関節炎が認められない。通常、股関節、膝関節、
足関節、手関節などの単関節炎を来す。2)

急性の単関節炎では、化膿性関節炎(Staphylococcus aureus、Streptococcus spp.)の可
能性を考え、関節穿刺を行うことが原則であり、細胞数測定、グラム染色・培養などの検査が
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必要である。淋菌性関節炎における関節液中細胞数は、典型例では 50,000 個/mm3 前後で
あるが、10,000 個/mm3 の場合もある。1)

障害関節から関節液を採取するのは一般的に困難であり、関節液中の白血球はわずか
10000~20000/μL である。(淋菌による敗血症関節炎の場合は)関節液の採取は容易で、
白血球数は 50000/μL 以上である。関節液中の淋菌は、グラム染色ではときに陽性となる
のみであり、培養で陽性となるのは 40%以下である。血液培養は通常陰性である。2)

尿道口、子宮頸部、肛門部(直腸)からの培養(スワブ):上記 3 カ所から提出された新鮮な検
体を Thayer-Martin 培地で培養した場合、淋菌性関節炎の約 50%で陽性になったとする報
告がある。1)

関節液と血液から淋菌を分離するのは困難であるため、感染の可能性が高い粘膜部位の
検体を用いて培養を行うべきである。2)

尿培養:初尿を約 20ml 採取した場合に、培養陽性率が高いとされている。1)

子宮頸部、尿道口、直腸、咽頭、関節液、皮膚スワブなどの検体について、N.gonorrhoeae
PCR 検査を行うことによって、検出感度の上昇を期待することができる。1)

CDC の性行為感染症ガイドラインは、心内膜炎・髄膜炎徴候の有無を評価することを推奨し
ている。1)

播種性淋菌感染症と同様の関節症状が、髄膜炎菌血症においても見られることは注目に値
する。2)

治療については成書を確認
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■ ライター症候群(反応性関節炎)
最近、ライター症候群という言葉が使われなくなってきているようだ。その理由が文献 4 に紹介
されている。
Reiter はドイツの Reudnitz に生まれ、Leipzig および Breslau で医学を学んだ。ナチス政権の熱
狂的支持者であった彼は 1932 年に Adolf Hitler に忠誠を誓い、その後、急速に昇進していった。
Reiter は racial sterilization、Nazi euthanasia、精神病院患者の大量殺害などの非人道的な行
為に深く関与した。Buchenwald 収容所において数千名の人々を殺害した医学的実験を認可し、
200 名以上の人々にチフス菌ワクチンの接種実験を行い殺害するという残忍な医学的実験も監
督したといわれている。
このような Reiter の過去が明らかにされた結果 2003 年にはリウマチ学の雑誌編集者の会合
において、Reiter syndrome の名称を抹消することが合意された。Reitersyndrome という名称を
最初に提唱した EP.Engleman らは、2007 年に Arthritis and Rheumatism(vol.56,No2,
pp693-694)に Letter を投稿した。そのなかで、Reiter の第二次世界大戦中の犯罪行為に加え
て、尿道炎、関節炎、結膜炎の 3 徴をともなう症例は Sir Benjamin Collins Brodie(1783~1862)
によって最初に報告されており Reiter が最初の報告者ではなかったこと、用語と分類の不適切
性を挙げて、Reiter syndrome という用語の使用を拒絶し、反応性関節炎などの適切な用語に
置き換えることを強く主張した。
(参考文献 4 より引用)

最近、欧米では、「ライター症候群」の記載はなくなり、かわりに「反応性関節炎(reactive
arthritis=ReA)」と呼ばれるようになった。このため、ライター症候群ではない他の ReA は、
「感染症関連関節炎(infection related arthritis)」と呼ぶことが提唱された。3)

通常、18~40 歳までの成人に最も多く発症するが、5 歳以上の小児や高齢者にも発症しうる。
2)

わが国の HLA-B27 陽性者は 1%以下で、欧米の 7~14%に比べ少ないため、比較的まれ
である。3)

尿道感染後に発症するタイプは若い男性に多いが、女性では発見しづらい。このため、尿道
感染後に発症するタイプでは、男女比は約 5:1、細菌性腸炎後に発症するタイプでは男女約
同数と報告されている。3)

発症形式によって、「尿道炎後に発症する型」と「細菌性下痢後に起こる型」に分けられる。
どちらの型でも頻度に差はあるが、無菌性尿道炎、結膜炎、無菌性下痢、関節炎を起こす。
3)

関節炎、尿道炎、結膜炎の 3 徴は、反応性関節炎の広範な臨床像の一部にすぎない。(ハリ
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ソンでは)少なくとも先行感染の関連が推定される脊椎関節炎のみを反応性関節炎と呼ぶこ
とにしている。反応性関節炎の臨床像を示しながらも、先行感染が証明されない症例は、分
類不能型脊椎関節炎としている。2)

Chlamydia、Salmonella、Shigella(赤痢菌)、Yersinia、Campylobacter などの微生物感染が契
機となり、HLA-B27 陽性者に無菌性関節炎を引き起こす。最近、Chlamydia pneumoniae に
よる ReA が報告されている。関節内に菌体成分が確認される。HLA-B27 抗原と細菌菌体成
分との交叉反応性・分子相同性が証明され、自己免疫疾患と考えられる。病理は腱の骨移
行部の炎症(enthesopathy)によって起こる。進行例ではアキレス腱や足底部腱膜の骨化を
伴う。3)

HIV 感染の場合には、B27 と関連が見られないこともある。2)

クラミジアによる尿道炎または細菌性下痢後 1~3 週間に無菌性関節炎、皮膚粘膜症状が
起こる。関節炎は数週~6 ヵ月間続く。多くの症例は一過性に治癒する。約 15~50%は再発
性の関節炎を伴う。若い男性で、亜急性の膝関節炎、足底部・アキレス腱の痛みを伴い、仙
腸関節の圧痛を認める場合本症を疑う。3)

注意深い病歴聴取により、反応性疾患が発症する 1~4 週間前に何らかの感染症の既往が
あったことが明らかになる。2)

関節炎は通常非対称性であり、数日から 1~2 週間にわたって新しい関節が次々と炎症を起
こしてくる。下肢関節、特に膝関節、足関節、距骨下関節、中足趾関節、指節間関節などが
障害されることが多いが、手関節や指関節も侵される。2)

手指または足趾のびまん性の肥厚は、指炎または“ソーセージ指”とよばれ、反応性関節炎
およびその他の末梢性脊椎関節炎に特徴的であるが、多発性痛風関節炎やサルコイドーシ
スでもみられる。2)

尿生殖器の病変は、反応性関節炎の全経過を通して起こり得る。2)

特徴的な皮膚病変である脂漏性角皮症では、最初に小水疱が形成され、角質増殖を起こし、
痂皮を形成した後に消失する。これらは手掌や足底に好発するが、他の部位に生じることも
ある。2)

通常、輪状亀頭炎と呼ばれる陰茎亀頭の病変がみられる。まずは小水疱が形成され、これ
が破裂すると、無痛性の表層性糜爛を形成する。2)

尿道炎、細菌性下痢の既往の有無を必ず聞く。尿道炎は無症状のこともあり、性交渉の既往
を聞く。下着が汚れていなかったか聞く。家族歴を聞く。関節炎は非対称性に膝、足、手関節
などの大関節に起こる。指・趾はソーセージ状に腫脹し(ソーセージ様指趾:sausage digits)、
指趾炎(dactylitis)を呈する。脊椎炎は慢性化した症例に認められる。仙腸関節炎は約 20~
30%に認められる。B27 陽性者は脊椎炎や仙腸関節炎が進展しやすい。経過中に無菌性の
尿道炎、前立腺炎(80%)が起こる。排尿痛を訴える。無痛性の連環状亀頭炎(circinate
balanitis)、膿漏性角化症(keratoderma blennorrhagica)が起こる。無菌性の結膜炎、虹彩
炎のため羞明を訴える。結膜炎・虹彩炎は数週~数ヵ月間継続する。無痛性口内炎が起こ
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る。合併症として、大動脈弁閉鎖不全症、心臓の伝導障害、IgA 腎症、アミロイドーシスなど
の報告がある。3)

リウマトイド因子陰性、抗核抗体陰である。3)

HLA 検査では B27 が約 50~80%陽性であると報告されているが、B27 以外 B7、B22、B39、
B40、B42、B60 が多く、B27 と交叉反応性を示す。3)

淋菌性関節炎と鑑別する。3)

淋菌性関節炎や淋菌性腱鞘炎は上下肢を同等に障害する傾向があり、腰部所見を欠き、特
徴的な小疱性皮膚病変を伴う。2)

乾癬性関節炎とは、皮膚症状、感染の既往で鑑別する。3)

反応性関節炎は、感染性関節炎と多くの症状を共有している。しかし、感染性関節炎の場合
は、通常、発症は緩徐であり、関節炎は上肢の関節に多く、随伴する関節周囲の炎症は少
ない。また、口腔内潰瘍、尿道炎を合併せず、通常、腸管症状も示さない。2)

連鎖球菌に伴った反応性関節炎(poststreptococcal reactive arthritis:PSRA)と鑑別する。
日本では、PSRA または扁桃炎に伴う反応性関節炎が多い。3)

感染性関節炎と鑑別する。3)

反応性関節炎は臨床的に診断され、検査所見や X 線所見によって診断を確定することは出
来ない。2)

症状が明らかな症例については確定診断のために B27 タイピングを行う必要はないが、これ
により重症度、慢性化、あるいは脊椎炎やぶどう膜炎の発生傾向を予測することが出来る。
2)

感染が契機となった自己免疫性疾患のため、抗生剤は原則的に関節炎には無効である。た
だし、クラミジア感染は再発を繰り返すため、テトラサイクリン系薬剤をセックス・パートナーと
ともに 2 週間投与する。3)

関節炎の治療は、急性期には非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイドの関節注入、
少量・短期間のステロイド内服などがある。遷延例にはスルファサラジン、MTX など抗リウマ
チ薬を投与する。抗サイトカイン療法も試みられている。皮膚症状にはステロイド外用を行う。
関節炎に対するテトラサイクリン系薬剤の長期投与の効果は明確ではない。3)

NSAIDsは、ほとんどの反応性関節炎患者に対してある程度の効果を及ぼしうるが、急性関
節炎の症状が十分に改善することはまれであり、中には全く反応しない患者もいる。2)

抗生物質による治療については、いくつかのランダム化比較試験が行われたが、有効性を
証明することはできなかった。2)

遷延した反応性関節炎に対しては 1 日量 3g までの sulfasalazine の分割投与が有効である
ことが多施設試験により証明されている。2)

グルココルチコイドの局所注入が有効。2)

Self-limiting で、概して 20%が慢性持続性の関節炎、脊椎炎に移行する。3)

長期観察の結果、反応性関節炎患者の 30~60%に、何らかの関節症状が持続していた。急
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性症候群の繰り返しはよくみられ、25%に及ぶ患者が遷延する関節症状のために動けなくな
ったり、転職を余儀なくされたりする。2)
参考文献
1.
萩野昇.淋菌性関節炎.Medical Technology 39(2): 178-179, 2011.
2.
福井 次矢ら(監訳).ハリソン内科学 第 2 版.東京,MEDSI,2006.
3.
小林茂人. 反応性関節炎(reactive arthritis).Modern Physician 30(12): 1525-1528, 2010.
4.
針谷正祥.ライター症候群と反応性関節炎.Frontiers in Rheumatology & Clinical Immunology
4(2): 123-123, 2010.
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