7.農業の必需品

7.農業の必需品
1.青いビニールシート
堆肥としては、落ち葉、できれば少し時間がたって、腐葉土状態に近いも
のがもっともよい。大きな竹の熊手で落ち葉かきをして、ビニールシートを広
げておいてその上に乗せ、それを両側から二人で持ち上げて、よっこらしょ
と軽トラックへ乗せる。
このビニールシートは農業をやるまでは全く知らない、気づかないものでし
た。都会では、建設現場の中が見えないように、ホコリが外へ飛ばないよう
に足場の鉄骨パイプに張りまわしてある、風でバタバタいうあの青のビニー
ルシートです。大きさはさまざまで、小さいのは4畳半くらい、大きいのにな
ると 30 畳くらいもあります。もともと工事現場用ですから周囲にはヒモが通
せるように穴が一定間隔で開いてます。
わが作業小屋の物置には大小さまざまのビニールシート(買い集めたとい
うよりは、何かと業者がはいる度に、これ下さい、と置いていってもらったも
の)があって、落ち葉集めのとき、堆肥小屋の堆肥をむらす、イキらせるた
めにピッチリおおいをするとき、サイコやウイキョウーや菜の花などの種子を
採取するとき、トラックでワラや落ち葉を運ぶときなど飛び散らない、雨でも
濡れない為のカバー、木材や鉄骨をいろいろもらい、屋外に保存しておくと
きこれを巻きつけて、ロープでガッチリ固定しておいておく、etc etc とても調
法します。
このシート、種子とりとか穴が開いていては困るときは新しいもの、シワの
ないものを使い、用途に合わせだんだん古いものを使い、最後、堆肥のフタ
になるようなビニールはもう、相当年代ものを使います。これらは約一年で
ボロボロになり処分します。
さてこのシート、30 畳くらいの大きさになるとたたむのが大変です。二人い
ればまだいいですが一人でやるとなると、特に風の強い畑では、半分に折っ
て四半分にたたむというやり方では、一人では届かないし、むこうへ走って
ゆく間にさっきの所がメクリ上がっちゃうからラチがあかない。できないかと
投げ出しそうになりましたが、やっているうちにちゃんと方法をみつけます。
それは、方形にたたんでいこうとしないで、細長く片方だけを半分、四半分と
いう風にすすめてゆき、そうとう細長い棒状になってからブロック二つ三つで
重しをし、向こうへ走っていって、同じそろえ方で形をととのえることです。こ
の書き方でわかります? 巾1メートル以内の棒状になってしまえばそれを
二ツ折り、四ツ折りにするのはわけなく、無事物置に整頓されるというわけ
です。
2. 防風ネット
郊外の畑を見ながらドライブすれば、畑全体、時に一部がブルーのネット
で囲われているのに気づくはずです。大切なナシ畑やブドー畑を部外者(人
間やイノシシなど)から守るという意味あいは勿論あるでしょうが、実は強風
から作物を守る防風ネットなのです。
ことの始まりは豆類の栽培をはじめた時。空豆は実ができきらないうちに
倒れはじめるし、グリーンピースやスナックエンドウは、竹の支柱ごと強風で
倒れてしまいます。隣地で蘭園を経営しているMさんが見かねて、これで囲
ってみなさいと、自分の温室で使っているネットの残りを下さいました。
早速、しっかりした杭を打ち込み囲ってみると、網の目は決して細かくもな
いのに確かに風は大分防げます。教えてもらって買いに出かけました。
伊豆の北部、ハウス苺で有名な場所ですから、大きな倉庫がいくつもある
ような会社で、温室用の各種の支柱、ビニール、防鳥ネット、マルチ用ビニ
ール、とりつけ用具など何でもあります。そしてこの防風ネット。巾2mで、長
さは一巻 50 メートルまで。一抱えもあるけっこう重いものです。
ちょうどその頃、トマトが赤づいてくると蝶々に吸われてしまい腐る、カラス
にエグられてしまう、といったことに悩んでいましたので、これで防風と防鳥
を兼ねたハウスを作ることにしました。というのは防鳥ネットはそれとして売
っているのですが、確かにこれで囲っておくとカラスがからまって死んでいた
りするのですが、何しろ糸が細いのでからまってしまって一人では作業にな
らない。そこでもっとしっかりしている防風ネットでかわりをしようと考えたの
です。
初めは、高さ2メートルで約三十畳くらいの大きさに柱を数本立て、四方の
側面と天井をネットでおおってみました。側面はやさしいですが、天井の部
分が難しい。そんなに長い横木がないし(何しろ全部ありあわせの廃材を利
用し、新しく買うわけではないので)、想像つくと思いますがネットが馬のお
腹のようにダランと垂れ下がってしまうのです。
数年後、こんどは別の場所にトマトを地這いでつくることにし、背の低いネ
ットハウスを作りました。トマトやキューリは本来カボチャと同じ地這いのウリ
類ですが、栽培家は小さな土地でたくさん収穫する、また、収穫作業が楽な
為に支柱を立てるのです。私は素人ですから、効率より丈夫さを選び地這
いにしてみたのです。こんどの背の低いネットハウスは風には強く丈夫でし
たが、這っているトマトを収穫する私どもも這ってするわけで、これも大変で
した。ずいぶんいろんなものを収穫しましたが。
そして、今年は久しぶりにネットハウスを作ろうと、やや長い柱がありまし
たので十畳くらいのを作りました。雨に弱いトマトの為、こんどは天井は丈夫
な大きなビニール袋を利用して、雨のかからない本格的なハウスです。四方
はこの青い防風ネットです。狭いですから地這いでなく支柱を 10 本立てトマ
トが元気に育ってます。8月には、久しぶりにトマトの大豊作となる筈なので
すが。
3. 軽トラック
畑仕事を週一回東京から車で2時間の函南ではじめた 12 年前。まず必要
だったのはトラック。つい最近畑の中に小屋ができるまでは歩いて5分ほど
離れた坂の上の農家をずっと借りて泊まってましたから、畑への往復に、農
具やら収穫物の運搬とか、どうしても小さなトラックが必要。道路から畑の通
路に入ってゆくのは乗用車では無理だし。
初めは、M自動車から 20 万円也で軽トラックの中古を購入しました。トラッ
クを運転するのは大好きですから口笛気分で、落葉とりや町への買い物な
どにとても調法しました。ところが四駆でない為、畑が雨で濡れるとスリップ
して下の畑から上の畑へ、また上の畑から道路へ上がらない、落葉とりの
山中で立ち往生、といったことが重なり四駆が欲しくなります。2年後の車検
のとき、四駆の中古はないか、できればダンプがいいと注文しておきました。
落葉や牛糞、草、しいたけのホダ木など集めてきて、堆肥小屋へ入れるとき、
ダンプならホントに便利だぞ、と畑の先輩からよく言われてたからです。四駆
のダンプという軽トラックは中古でもそう出ない。ようやく出た車は、ボロなの
に 60 万もするのです。農業をやるのには現金支出をケチるのが大原則です
から、60 万は高いと迷いましたが、結局便利という誘惑には勝てず購入しま
した。この四駆ダンプは2年ごとの車検を3回更新しましたから、計8年乗っ
たことになります。
この車には忘れられない思い出があります。ワラを畑で大量に使うように
なって、まだ近隣の農家からワラがもらえない頃。このあたりは、丹那牧場
が近いですから牧畜の方がワラを大量に使うのに、稲作の農家と契約して
ますから新参者はなかなか入手が難しい。たまたま患者さんの知人、千葉
の大網の方がワラならいくらでも上げるという耳よりなハナシ。思いきって軽
トラックでとりにいこう。高速なぞ走ったことのない軽トラックで東京へ帰り、
翌日千葉へとりに行きました。その帰り、高速の 料金所が近づき、渋滞情
報を見ていて少し目を離したら前がもうつまっている。あわててブレーキを
かけます。キュッと右へ車が寄り、ちょうど一車線分右へずれたのです。そ
の瞬間のしまったというかアゼンとした気持ち、全く幸運なことに右の車線
は少しあいてましたから、後続のあわててブレーキを踏んだ車に、何回もス
ミマセンの合図をしただけで済みました。冷や汗がどっと出ました。右側に
車が居たら完全に体当たり。そもそも高速を走るのが無理なくらいのガタ中
古軽トラで、ワラをうず高く満載し、事故ったら何といわれたでしょう。多分農
業もつづけていられなかったでしょう。冷静になって思い出しました、この車
を購入した5~6年前、M自動車は確かに言いました。「この車は急ブレー
キをかけると右へブレます。時速 50 キロ以上は決して出さないように。」 そ
ういう条件で購入したのでした。それで車検を通していたのですから事故っ
てたらM自動車も巻き込んだ大変なことになっていたでしょう。
こんど、つい最近この思い出の車がバーストしたのを機にずいぶん迷いま
したが、お金で安全を買いました。四駆のダンプの新車です。 100 万にまけ
てくれましたが、ウィークエンド農業にはあるまじき出費です。こんどは新車
だから大丈夫とばかり口笛でまた高速走ったりしてるんじゃないの?もう全く。
4. ホース[1]
アニマルファームのホースといえば、あの小説「アニマルファーム」の主役
の馬たち、ナポレオンやスノーボールと名づけられた馬たち、ついに石油に
頼る耕運機はやめて農耕馬までいれたか!!ではありません。水道栓につな
ぐホースです。なーんだツマンナイ。
畑にホースが必要だといえば、皆さんは水撒きを連想されるでしょうか。日
照りがつづき、畑へホースで水を撒いたのはこの 12 年で一夏だけ、それも1
~2回しかありません。散水設備でもない限り、ホースをたぐって畑中に水
を撒くなんてことはそもそもできません。植木鉢じゃないから、畑にはそんな
に水撒きは不要です。
必要なのは堆肥つくりのとき。堆肥小舎はこれまで何回も場所をかえまし
たが、三年前に現在の位置にブロックでやや恒久的なものをつくりました。
畑より数メートル高くなっている道路から、運んできた落葉,etc を放り込み、
下から軽トラックで運び出せる仕掛けです。落葉、刈草、牛糞、醸造会社か
ら袋づめでもらってくる発酵促進剤、その他を積んだあと、現在では 20 メー
トルほど離れた水道栓からホースをひき、水をかけます。このホースは途中
でへしゃげてしまい水が通らなくなり、走っていってなおしたり、間に合わな
いと水道栓からホースが水圧で抜けてしまったりと、結構やっかいです。(水
道栓にホースをしっかり止める、しめつける金具は何種類か知ってますが、
ネジまわしが必要なものはいちいち取りに行かなくてはならないし、ネジ回し
のいらないタイプは人の指の力ではうまく閉まらない。何やかやで、紛失す
るか壊すかでしょっちゅう買っているようで腹立たしいことです。) これでホ
ースの先を藁の中ほどに突っ込んでチョロチョロ水を出すこと 30 分、いつの
間にか下から水がにじんできますからそれまでたっぷり水をやり、それから
ビニールマットで覆います。
この 20 メートルのフニャフニャホース以外に、 畑の小舎に 50 メートルもあ
る,踏んでもつぶれない立派なホースが、これは「赤いホース巻き」(わかり
ますか?)に巻かれて置いてあるのは何故か?
もう8年くらい前の冬。現在「下の畑」と呼んでいる所はまだ斜面の雑木林
で、約 500 坪。冬の間、ブルが入れる程度までに開墾しようと一人でノコギ
リ、カマ、ナイフを腰バンドに下げて(こういうの好きです!子供の頃くり返し
見た西部劇の影響)雑木林に入りました。木を切っても倒れない。ツタがび
っしりからまっているからで、だから夏になると、こういう雑木林は木立が見
えなくてコンモリした大きな緑のフタをかぶせたように見えます。だいたい5
~6メートル四方の木を、「切り株」を残して切って、次にからんでいるツルを
切って引っ張って外してゆきます。クズやアケビ、そして痛い痛い野バラの
ツル。ツルを外し、ようやく一本一本倒れた雑木の枝を払ってツルといっしょ
に山にします。こうして空き地をつくっては刈った木やツルの山をつくってゆ
きます。一ヶ月くらいすると木やツルが乾燥しますから燃やします。(以下次
号)
5.ホース[2]
からんでいるツルを外し、雑木を倒し、ある程度まとめて火をつけても、パ
チパチパチと勢いよく一通り外かわの細い枝だけ燃えて中心部の太い所に
は火がつきません。柴の山の上に乗り体重でよくまとめてからでないと、全
部は燃えてくれません。
その日は、ふた山ありました。まずひと山に火をつけます。今日は一回で
火がまわりそうです。
やれやれ、と見ていると周辺の枯れ草に火がチョロチョロまわっています。
初めは気にも止めませんでしたが、オヤ、アレ、という感じになり、慌てます。
まずい、隣に積みあげた山に火が移ってしまうと、その周辺はまだ充分に
雑木林を倒していないので雑木林に火が移ってしまうかも、山火事だー、火
の不始末どころじゃない、自分でわざわざ火をつけたのだから。
チロチロ火が走っている柴の山の周辺を長靴で踏みはじめます。二本の
足だけでは足りない。四つんばい。四つんばいで、手でバタバタとやってい
てもとても追いつけないことが分かってくる。パニック、パニックです。自分で
アワアワ言って、ガクガクしているのが分かります。
俺はエライことをしている。ついに手で消すことをあきらめた私がとった行
動はホース、ホースでした。現地からは 100 メートルくらい離れている普段
人のいない別荘の納屋にホースがあったはずだ、そこへかけ上がります。
あったとしても水道栓からは 50 メートルくらい、そんな長いホースはある筈
ないのに。やっぱりナイ、ダメ。こんどはいつも何かと頼りにしている隣のM
さんに助けを求めにゆく。こういうわけで火がまわった、どうしよう。もうまっ
白な私。またホースを求めてあてもなく走りまわる。これでおしまい、これで
地元には居られなくなる。雑木林の上は別の人所有の雑木林、その上は民
家、別荘です。ダメだ。畑も漢方つくりも何もかもパー。
どれくらい走りまわったのか。精も根も尽き果てもとの現地に戻ったとき、
Mさんたち三~四人が座って一服している。シャベルで土をかけるんですっ
て。「あの電柱がチロチロ燃えていたから危なかった。」と林のヘリの使われ
ていない古い電柱を指さします。山火事にならないで済んだ、助かった、と
思った瞬間ヘナヘナと腰が抜けてしまって、しばらく立ち上がれない。皆が
「気をつけてな」とか言って帰ってゆく。
何分間ボーゼンとしていたろうか。よろよろと立ち上がって上の畑へ行くと、
白いオートバイに乗った人が、「消防署です、そうとうの炎だったので見に来
ました、大丈夫ですか?」もういちど、ゾーッとする。お手数かけ 現地に戻っ
たとき、Mさんたち三~四人が座って一服している。シャベルで土をかける
んですって。「あの電柱がチロチロ燃えていたから危なかった。」と林のヘリ
の使われていない古い電柱を指さします。山火事にならないで済んだ、助か
った、と思った瞬間ヘナヘナと腰が抜けてしまって、しばらく立ち上がれない。
皆が「気をつけてな」とか言って帰ってゆく。ましてありがとうございました。
こんな体験をしてすぐ長ーいホースを探しました。開墾している所までまあ
まあ届くホース。50 メートルは必要、こんな長いホースはなかなかありませ
ん。ようやく探して高価なものでしたが買いました。安心料です。以後、開墾
が終わるまで、このホースはずっと水道栓につないだまま斜面まで伸ばして
ありました。そしてこの斜面が「下の畑」になってから、日照りの夏、いちどだ
けこのホースを再び延ばして夏野菜に水をやったことがあります。
6.耕運機[1]
耕運機といえば、平らな広い畑をずっと向こうからこちらまできれいにウナ
って、またゆっくり向こうまで、といった大農場の大型耕運機を思い浮かべま
す。けれど、薬草園は、全体として斜面が多く、全部あわせれば広いですけ
れども、畑の面はコマ切れです。ですから大型のは入りません。いちど中型
の耕運機で、下の一面としてはいちばん広い畑を深めに耕してもらった(隣
のTさんに頼んで)ことがありましたが、普段使っているのは手押しの、ごく
小型のものです。
1986年ごろ、現在の小屋が建っている上の畑に薬草を初めて植えたとき
です。ウネとウネの間を、これで転がせば雑草取りにもなるし土に酸素を混
ぜることにもなるし、これは絶対必要だ、と教えてくれたのは、三九郎じいさ
んでした。それは巾 50cm くらい、土を掘り返す半径 10cm くらいの鉄の羽が
4枚ついた輪が左右2つづつ、小型エンジンでその輪が回転するものです。
排気量 50cc 以下のガソリンエンジン。三九郎じいさんが、使っていいよ、と
いうことでタダ同様でもらいうけ使い始めました。
ハンドルにあるクラッチを入れると先へはねるようにいっちゃいます。オヨヨ、
という感じですが、畑の中へ入り、少し踏ん張ってアクセルをふかしてゆくと、
こんどは土にめり込むように掘ってゆきます。エンジンの音がかなりうるさい。
踏ん張ると深くなるばかりで先へは進まない。力を抜くと、掘らないでトント
ン進むだけ。その中間くらいの力で少しづつ、ゆっくり歩きだすと、成程こう
いうものかという感じです。土を両側にとばしながら進ので、巾は 60cm くら
いの耕した跡ができます。
向こうに着くと回転を落としてUターンして、今できた 60cm の半分くらいを
ずらした状態でもどります。30cm づつ横にづらして二回づつ耕していること
になります。さてこれでどのくらいの深さが耕せるかといえば、羽がちょうど
全部埋まるくらいが限度です。ということは半径 10cm の倍で 20cm。せいぜ
いそのくらい。
はてさて、農業というものはずいぶん表面でやるものだなーというのが第
一の感想。大地の恵みというともっとずっと深いところからの恵みを何となく
連想していたんだけれども、微生物やミミズのような大地をつくってくれてい
る生物たちもせいぜい 50cm くらいまでしか生きていない。ゴボウ抜きじゃな
いけれど、やや深めの根を利用する食物はあるにはあるがそれでもまあ
50cm くらい。それ以上長いやつは、土を作物に寄せていってウネを高くする
ことによって長い根をつくります。そうか、そうだったんだ。こんな表面で農業
ってやってるんだ。これじゃ土を使いすぎたらすぐダメになるのは当たり前だ。
7.耕運機[2]
この単車でいうと 50cc クラスの耕運機は、よく手入れのしてある、雑草や
その根がないところを押してゆくのは楽なもんです。けれど畑を広げようとし
て周囲の雑草のあるところへ入ってゆくと、もう、ピョンピョンと跳ねかえされ
て使いものになりません。少なくとも地上部は次回登場する「草刈り機」でや
っつけてからでないと。その刈った草もそのままでは羽車にカラまってしまい、
動きがとれなくなり、結局エンジンを切って、カマやナイフで切りながら、ギッ
チリからまった茎を外すということになります。小休止としてちょうどよいよう
ですけど、そう簡単にはとれませんし、羽が曲がってますから軸に手が素直
に届くわけでもないのでけっこうタイヘンで、時にはヒステリーを起こします。
からまっているのは雑草だけでなく、畑の周辺に敷いたり、一部はタイヒに
入れてしまった古いタタミのビニール糸であったり、風で飛んできたビニール
片であったり、前の年に竹をたてる時使ったヒモ片であったり。気をとりなお
して、又押しはじめると、昨年堀り残しのイモや薬草の根が飛び出してきた
り、失くした移植ゴテや子供の長靴なども出てきたりして、これは心なごむひ
ととき。
根が少しくらい残っていても上手にやればこの耕運機で起こしてゆけるけ
れど、どうもパワー不足。そこで三年目くらいには、ひとまわり大型、単車で
いうと 90cc クラスのに買い換えました。羽の直径も 15cm くらいとやや大きく、
巾も 75cm くらいあります。これは 10 年後の今でも使っていていちばん活躍
しています。いちどは軸が折れて捨てようかと思いましたが、農協でなおし
てもらいまだ現役です。実は三代目、もう少し大きく重いやつ、を2~3年前
に購入したのですが、使い勝手がいまひとつわるく二代目の方を多く使って
ます。
二代目のいちばんの思い出は私の足を刈ってしまったことです。
その日は、張りきって朝から夕方まで耕運していました。音がうるさいので
耳栓は欠かせませんが、それでも長時間やっているとボーッとしてきます。
それから草の多いところは腰に力が入り腕力も使いますから、エンジンでや
ってくれるといってもすごい力仕事なのです。耕運機の疲れは、水泳のよう
な全身運動の疲れです。腰は全体がはってきて重くなる疲れです。
その日も夕方になり疲れたのでやめようと思っていたのですが、切りがい
いからもうちょっとと思ったのが間違い。いつの間にか私の長靴が羽車に近
づき、あっと思ったら右足首がまき込まれ倒れてしまいました。小さなエンジ
ンですからエンストしてくれたからよかったものの。ずっと正気でしたが倒れ
て身動きできない。近くに居たカミさんを呼んで、クラッチを切り、羽車を手で
まわしてくれと頼みます。「そっちじゃないよ。反対だ!!」ぐっと喰い込む方へ
廻すんだからね。かんべんしてよ、日頃の恨み!!
外れてホッとし、長靴、靴下を脱ぐと血だらけだ。隣のMさんを呼んでもら
い、おんぶされて彼の車で外科へ直行。傷は深かったけれど腱も上手に縫
ってくれて、後遺症もなく治りましたが、その晩、帰りの東名で麻酔が切れて
からまる二日間くらいは地獄でしたネ。患者さんには何くわぬ顔して診療し
ていましたけれど。
8.鍬(クワ)、鎌(カマ)
自然農法という言葉は本来は無農薬、無化学肥料で作物をつくることの総
称です。有機農法というのは、有機肥料を使い化学肥料を使っていないとい
う意味で、農薬の有無は本来関係ありません。実際は、いろんな生産者が
いろんな意味で自然だの有機だのを唱え、消費者も、何となく自然だの有機
だのをありがたがっているといった按配で、まだまだレッテルのムードの時
代です。
当院の附属薬草園は開園以来 12 年、いちども農薬と化学肥料を使ってま
せん。厳密にいえば、化学肥料で育ち、農薬のかかった牧草(特に最近は
輸入の牧草が多く、農薬がたくさんかかっている。)を食べ、抗生物質などの
薬をたんと服用させられている牛の糞を堆肥に入れてますから、その分自
然とはいいにくいですけれど。
農薬の第一の役割は除草、雑草を殺してしまうこと。第二の役割は防虫。
作物を食べてしまう虫退治です。この二つの主な役割をする農薬を使わな
いということは、どういうことか。一年中雑草とり(くさとり)に追われ、虫の発
生には、何とか農薬ではない方法でとり除くことはできないものかと、いろい
ろ努力するということです。
今回は「くさとり」の主役、鍬(クワ)と鎌(カマ)。
作物はたいがい畝を立てるとき、人が作業できる間隔くらいの距離をあけ
ます。鍬を使いますが私などいまだにきれいな畝が立たない。狭くて 50cm,
例えば、薬草の芍薬のように根を張らすことが目的の場合は1メートル。芍
薬は2月には(もうそろそろですね)真紅の芽をのぞかせます。春がきたなー
という合図。その次には雑草(くさ)が緑の芽をボチボチ。そして五センチくら
いの高さにくさがなったとき、鍬で、削りとってやるのが正しい。鍬のもうひと
つの使い方で先端は包丁のように切れなくてはいけない。よく研いだ鍬は表
面の土を削りながら草の茎を切ってしまいます。これで、たいした力も使わ
ず、しゃがみ込むこともせずにきれいな畑を維持できます。といっても、鍬は
動かす方向と身体の向きがどうしても斜めになりますから、腰にきます。長
時間つづけるのはまだまだ私にはたいへん。
できれば、毎朝畑を1/7づつ一週間かかってローテートしてれば、畑は
一年中きれいなはず。でも、そのチャンスに畑仕事をサボッていたらどうな
るか。週末にしか居ない畑。用事や雨つづきで畑仕事が進まず一ヶ月、チャ
ンスを逃してしまった、もう草は大分伸びている。こうなったら仕方ありませ
ん、こんどはしゃがみ込んで鎌で切ってゆきます。根ごと引き抜く必要はあり
ませんが、これは大変な仕事になります。刈った草は小さなバケツに入れな
がら進み、畑のへりへ着くとガバッと明けるのが普通。ときどき別のバケツ
に入れた少量の水と砥石で鎌を研ぎます。こうした作業は5月から夏のあい
だずっと続きます。しゃがみ込むといってもいろいろのスタイルあり。手伝っ
てくれる隣の千代子さんはいわゆるウンチングスタイルで一日疲れを知りま
せん。スゴイ。私などは膝をつき正座と四つんばいのくりかえしで進みます。
服装の汚れ具合で慣れているかどうかすぐ分かってしまいます。
9.鍬(クワ)、鎌(カマ)の(2)
鎌は、学生時代、友人の実家の田んぼの稲刈りのバイトに行ったとき、見
事に稲でなく自分の指を刈った経験があります。右手で刈ってゆくとして、ど
うしても左手で刈る草を束として握ったり、実りものの茎を切っては何にもな
らないから左手でそれを分けたりしますから、つい左手に鎌の刃が近づく。
疲れてくるとボーッとして左手で身体を支えたりもしてしまうから、とても危な
い。薬草園に遊びに来る人たちで鎌を持ちたい方は、少なくとも手袋をして
やること、ときどき砥石でよく切れるようにしておくことが事故防止の第一歩
です。
鎌といってもこのように草刈りに使う小さな鎌から、立って振り回して、例え
ばカヤ場を刈り込んでゆく大きな長さ1メートルくらいの大鎌もあります。薬
草園は畑といっても山の斜面ですから、周囲からカヤやクズや小笹やらが
遠慮なく侵入してきます。これを刈り払うのに、また山を刈って畑にするとき、
そして畑に敷く為の、又は堆肥に入れる為のカヤを山へ刈りに行くときなど、
この大鎌を振るいます。これは足場がよくて、均一にそろってはえているカ
ヤなどの場合は、まあ何とか刈りながらすすめるので恰好もいいし手応えも
いいし、何しろ普段生きものを斬ってはいけない私たちが、鋭い刃物を振り
回してバサバサ斬り倒してゆくのですから、はっきりいって爽快な気分。スト
レス発散にうってつけです。でもこれも足場がわるかったり地面にデコボコ
があったりするともうメロメロになり、さっぱり進まなくなります。大鎌は結局、
次回登場する草刈り機にとってかわられることになり、錆びついたままという
ことになっています。
鍬は、日曜大工店で売っている5~6千円のものは結局使いものになりま
せん。畑の近くの函南町大場には、10 年前には鍛冶屋が二軒、今でも一軒
残っていて、老夫婦がトンテンカンテンやってます。ほとんどは注文の鍬を
つくっているのです。鍛冶屋というのは今の若い人たちに分かるでしょうか。
私どもの子供の頃には「村の鍛冶屋」という小学唱歌があって、都会っ子の
私などは頭で想像していました。その後この歌は時代にそぐわないと、小学
唱歌から消えたときいています。それがこんなところでお目にかかれるとは。
私は店先でジーッと眺めているのが好きですが、ここの鍬は2~3万円しま
す。どっしりとした程よい重さと、切れ味と、カシの木の柄と鉄との接合部の
仕事が安物とはちがう。初めは重くとも馴れれば安物は使えなくなります。
10.草刈り機[1]
附属薬草園は、畑といっても見渡す限り水平な畑の中の一区画、という畑
ではなく、いってみれば山の斜面です。周辺は一部を除き、まさに山、雑木
林ですから、放っておくと周囲から、葛のつるやカヤや小笹が侵入してきて、
たちまちこちらの畑も「山」になってしまいます。(山というのは手入れしない
で自然のなすままになってしまった元畑を表すコトバ。「じいさんが一生懸命
やってた畑だったが、じいさんが亡くなり、若い衆は誰も畑やらないから、も
うとっくに山になっちまったよ。」というふうに使います。)そこでこちらの畑を
キープ(専守防衛?)する為に大汗をかくのですが、これが前回の大鎌。大
鎌を振るっていて限界を感じたら、今回の草刈り機の登場です。
草刈り機を見かけるのは、道路の傍らの草刈り。高速道路でもやってるし、
一般県道の山道なんかでも夏に2~3回やってますね。車で通りすぎちゃう
とわかりませんが、ギーンキーンという、すさまじい音を立ててやってます。
広場でロープをつけた模型飛行機を飛ばしていた人たちを以前よく見かけ
ましたが、あれと同じか少し大きいくらいのエンジンですから、音がけたたま
しい。本号3ページのマタニティーさんにはあの音だけでも赤ちゃんの耳が
こわれてしまいます。混合ガソリンを使う2サイクルエンジンで、一回の給油
で約一時間草刈りできます。径 20cm ほどの円盤状のノコギリが高速回転す
るというアクセルがあるだけのシンプルな道具です。
これは畑にくる人たちには使ってもらいません。堅い石などに刃が当たり、
破片が散って顔に飛んだらタイヘン。シールドで顔を覆って作業しますが、
暑いので実際は外してしまいます。もしくは円盤それ自体がはずれて飛んで
自分の足をカットしたり。絶対長靴をはいてやります。まあそんな事故はこ
の 15 年、いちどもありませんけど。やはり人には使ってもらう気にはならず、
こればかりは私ひとりでやります。というのは、畑の周辺、草に隠れて見え
ないけれど、何処にどういう堅い石や枕木や電柱の土止めがあるかとか、
全部私には頭に入っているから私がやる分にはそう危くないのです。刃は
以前は軟らかいもの、まあひと夏使えば刃が丸く減ってしまうようなものを使
っていました。一枚4~500 円です。春の柔らかい草のときは刃の数が4~
5枚の図のような形の刃。夏~秋の茎が堅くなった草には、いわゆるノコギ
リ状のものを使います。これらを使い分け、減るとやすりで刃立てして何回も
使っていました。
11.草刈り機 [2]
草刈り機など、初めのころ要領をつかむのが難しいが、使っているうちにコ
ツがどんどんわかってくる道具は、とても楽しい。
雑草の茎と土の間を切る、というか少々土をはね飛ばしながら切るくらい
地面スレスレに切ると、切ったあとがきれいで、草も完全に枯れてくれます。
平らな何の障害物もないところなら難しくないが、斜面だったり、デコボコだ
ったり、小石がまざっている所は難しい。
初期の頃、粗大ゴミ回収業者にお願いして古ダタミを大量にもらったことが
あります。タタミには昔と違ってビニールの糸がいっぱい入っているから堆
肥にも使えないし、畑にも入れられません。これはよく承知していたのです
が、何とも勿体ない。タタミをほぐしてみるとよくわかるのですが、あれだけ
のワラを集めるのはたいへんなくらいギッシリつまってますから。それで畑
へ直接でなくても、草が侵入してくる畑のヘリに敷きつめようと考えました。
古ダタミをエッチラオッチラ背中に負って、畑のヘリに並べて敷きました。き
れいだ、これで草の侵入も食い止められる・・・・。ところーが、草というのは
アスファルトの舗装を破ってでも出てくるもの。タタミなぞは朝メシ前もいいと
こ。半年でタタミは草と土の中に埋もれ何が何だかわからなくなりました。そ
の後は草刈り機で周辺をやると、キュルンと止まってしまう。タタミ中のくさら
ないビニール部分が巻きついてしまうのです。
これでずいぶん作業の能率が落ちました。最近ではビニールはからまりま
せんから、もうほとんど巻きついて棄てたことになり、結局残ったワラは畑へ
入ったわけでマイナスにはならなかったのですが。
こんな作業を一日していると、アレっ、聴こえない。そうです、エンジン音で
一時的な難聴になります。(耕運機の音も同じです。)あわてて薬局で耳栓
を買います。これもいろいろなものを使いましたが、結局黄色のスポンジ状
の円筒形のもの、いちばんシンプルなやつが耳に馴染みます。汚れると洗
ってまた使えますが、物が軽くて小さいだけによく失くしてしまう消耗品です。
前回、草刈り機は危ないから他の人にはやらせないと書きましたが、本号
3ページにエッセイを連載している佐保さんのパートナーの東尾崇さんが、
いちど畑へ遊びに来たとき草刈りをしてもらいました。こちらは山の草刈りの
プロですから。はじめに書いたように、上手な人は草と地面をぎりぎりカット
するのでよく枯れる。次の草が生えてくるまでの時間が長い。彼がやってく
れた一区画は私のやる他のところと違っていつまでも次の草が生えずきれ
いなので、さすがプロと感嘆したことでした。
12.石油
タイトルは書き違えではありません。有機農業をやっていて地球温暖化の
元凶である石油が助っ人とは何事か、とお叱りをうけそうですが、現代農業
はどんな農業でも、どんな意図があってもなくても石油抜きにはできません。
因みに私の農業のスタイルは、週末になると車を飛ばして畑へ行きます。電
車で行った方が石油を浪費しなくて済むことは百も承知ですが、荷物の多さ
(収穫した野菜や漢方薬を東京へ運ぶ)や電車の時刻に制約されない便利
さにはとてもかてません。車なしの週末農業はまず考えられない。
畑では、堆肥の為に落葉や刈り草や牛糞や米ヌカ等々のものを集める、
下の畑へ堆肥をおろす、町へ買い物に行く、その他その他軽トラックで走り
回ります。軽トラックで排気ガスをまきちらさない農業をやろうとすれば、堆
肥なんか作らない使わない、化学肥料だけの農業をやった方がずっと気が
利いているという皮肉な現実に直面します。まあ化学肥料や殺虫剤はたい
てい石油から作られるものですから、多少はこちらの得点になりますが。で
もまあ、口に入れる安全性を考える有機農法とは意外にたくさんの石油が
要るんだなあ、いう皮肉は現にあるわけです。
それから耕運機。これも<助っ人>で登場した鍬(クワ)で耕したらいいじ
ゃないかはその通りですが、50 代なかばの私の週末の体力にそれは無理
というものでしょう。家庭菜園の大きさじゃないんだから。私の農業の時間の
うち大きな割合を占める土起こし土ならしはこの耕運機ですが、以前に書い
たように、耳栓をして、排気ガスを吸いながら一日やってるのです。富士山
を見上げながら一日の畑仕事、いいですネー、理想的な週末ライフですネ
ー、の現実は、一日中騒音の中、排気ガスを吸っているのです。グッタリ。
その次に多い時間は前回登場の草刈り機、これまたとびきりの騒音と排気
ガス。 こうして、畑でもっともよく使い、なくてはならない軽トラック、耕運機、
草刈り機、の私の三種の神器は、すべて石油さまさまなのです。それに東
京との往復の車。
農業のプロたちの耕運機はもっと大きいからガソリンの使用量も桁が違う。
それからプロたちは、ハウスの温度と照明と風と湿気の調節でこれまた大
量の石油を使っています。 こうして現代農業は、プロは勿論、私のようなア
マチュア週末農業でさえ、有機農法であろうがなかろうが、石油に依存しなく
ては成立しません。
有機農法ー自然ー健康ー地球にやさしい、といった安直な認識はいいか
げんにやめてほしいものです。
13.マンノー、シャベルなど
秋が深まると、いよいよ芋類、そして根ものの漢方薬の収穫の季節です。
函南は温暖なところですから、12 月に入ってからも行います。このとき活躍
する助っ人が、マンノーやシャベルです。
シャベルで掘り起こせるものは、まずサツマ芋、里芋、山芋。漢方薬でも根
の張り方の広くないものならシャベルで可能です。枯れた、枯れかかった葉
や茎をまとめて、茎を目印に少し残して刈り、それから大きさを予想して周
囲 40~50cm くらいにぐるりとシャベルを体重を使って切り込みを入れ、最後
にグイっと起こします。里芋はたいがい大きさを予想できるのですが、山芋
(畑の山芋は長芋でも手掌状のものでもなく、ゲンコツのような丹波の山芋
です)は時にとても深かったり不規則で、シャベルで切ってしまい泣くことも
あります。
漢方薬では当帰,黄ごん、桔梗くらいはシャベルでも可能ですが、やはりし
っかり育った根はマンノーの方がやり易い。三本鍬とか四本鍬といわれる先
が3~4本に分かれている鍬です。当地ではこれを「マンノー」と呼んでいる
ようです。マンノーは「万能」のことで、土起こしにも使うしいろいろ便利という
ことでしょう。これが絶対必要なのは芍薬や牡丹の根を収穫するとき。深く、
長く、たくさんの根を張ってますから、根を切らないように深く掘るにはこの
三本~四本鍬が必需品です。
ところで、当地で「草かき」と呼ぶ普通の鍬より鉄の部分が薄くて軽い、雑
草が生えてきたとき、サッサッとかいてしまう鍬の一種があります。どうも一
般にはこの方をマンノーと呼んでいる地方が多いようです。以前京都で農業
をやっているF先生の畑を見学した帰り、便利だからとプレゼントされ、この
マンノーをかついで新幹線で帰ったことを思い出します。
ついでに、竹の子を掘るのは小型で金属部分が細くて厚く重くしっかりした
「とぐわ」。山の中の野生の山芋(自然薯:ジネンジョ)を掘るときに使うのは
「突き鍬」。これは柄と金属部分が直線になっていて、縦に深く細く掘れるよ
うになってます。
一般の鍬、そして「三~四本鍬」、「草かき」は勿論、季節ものの「とぐわ」、
「つきぐわ」などは使う前日から、柄と金属部分の接合部を一晩水に漬けて
おかなくてはいけません。乾燥して細くなった柄の部分を水で膨張させ、金
属部分との接合部のガタつきをなくす為です。これをしないと時々金属部分
がスポッと飛んでいき危険です。以前薬草の収穫のとき、四本鍬を振り上げ
たら金属部分が抜けて飛んでいき、冷やっとしたことが実際にありました。
偶然、人に当たらなくて大事には至りませんでしたが。
14.電柱と枕木
農業の必需品に電柱と枕木。一体何事ですか? 我らがアニマルファーム
の畑は斜面にありますから、この二つはとても頼もしいのです。
枕木に気づいたのは、東京の自宅の隣の方が庭や駐車場や塀の外側な
どに、枕木を並べて素敵なガーデンをつくっているのを見てから。畑ではそ
れまで普通の廃材を土止めなどに利用していましたが、しっかりしているし、
太いし重いし、腐らないし、タダなら枕木がいいなーと思っていました。たま
たま畑の東側にお住まいのOさんは、JR職員。雑談の中で聞いてみました。
最近では鉄道の枕木がコンクリートに換えられてきている。用済みの枕木を
入手できないだろうか。そこでOさんが運んでくれたのが、大小軽重いろい
ろの枕木 30 本余り。庭などに利用する人が多く、JRから業者が引き取って
一般に売っているので、なかなかタダでは入手しにくいことなども聞きました。
畑が斜面だと、表土が低い方へ流れ、柵(さく)で止めないと、つまり段々
畑にしないといつまでも畑が豊かにならない。手に入った枕木をタテに並べ
て柵をつくろうかと思ってましたが、これはいかにも大変すぎる。そこで次回
登場する鉄棒を打ち込んで支えにし、枕木を横に3~5段重ねることにしま
した。枕木は油がしみ込んだり、鉄の太い釘を打ち込んであったりして異様
に重いので一人では運べません。若い助っ人と二人で一日がかりで、20 メ
ートルほどの柵をつくりました。作った当座はその上の斜面との間にすき間
がありましたが、もう4~5年たって気づいてみると土が流れてすき間を埋め、
柵の高さまで土がきて、その高さでかなり水平に近い畑に生まれかわりまし
た。こうした作業は畑のあらゆる所で行っているのですが、枕木でやったこ
の部分が一番しっかりしていることは言うまでもありません。
一方電柱は、これも同じような土止めとして便利です。「下の畑」は広くて
水平のようだけど、やはりここも実は斜面になっていて土が流れて困る。大
きく三面くらいに区分しようと思い立ちました。東京電力(三島あたりも東電
管轄内です)に電話します。コンクリート製の電柱にとってかわられてた木製
の電柱は業者が引き取ってゆくとのこと。業者に電話すると、「そちらまで運
んで1メートルあたり 1000 円です」。ウーム、長い電柱は6~7千円もするわ
けだ。
これも油を含んで重い重い。数人で運んで畑に横たえます。重いですから
しっかりここに土がたまってきて、低いながらも仕切りになります。土が電柱
を越えるようになったら上にもう一本横たえればいいのです。
こうして、重くて腐らない枕木と電柱の第二の人生は、再び縁の下の力も
ち。我らが畑を文字通り支えてくれているのです。
15.鉄パイプ、鉄柱
また凄いものが出てきましたが、これらは畑でとても役立っています。両方
とも畑の隣で、ラン園をやっているみのるさんに頂戴したものです。
ひとつは、工事現場で足場に使う径5cm ほどの中空の鉄パイプ。何に使
ったと思いますか?もう5年くらい前になりますが、漢方薬の栽培の私の師
匠であるT先生から大型のカッターを頂戴しました。収穫した漢方薬、主とし
て根ですが、それを細かに刻む機械です。昔から薬種業の人が使っていた
機械で、単純に言えばギロチン。大きな重い刃がカタンカタンとまな板の上
に落ちて、その間、カットする厚さの分だけ切られる漢方薬の根が押し出さ
れるようになってます。手動のワラ切りも畑にありますが、それと同じ素朴な
仕掛けが大型の電動になっているわけです。
この機械全体をトラックで運んだのですが、何しろベラボーに重い。全部で
500 キロくらいはあります。若い衆が 10 人くらいでトラックからおろそうとした
とたんに、あまりの重さにケガ人が出る始末。これを土間に入れるのはどう
しよう。不可能だ、と思っていたらみのるさんの登場、鉄パイプを2、3本、機
械の巾に切って持ってきてくれます。2本の角材をレールにし、その上にこ
の円いパイプを横にわたして、コロでこの機械をズラしてゆく。10 人でもどう
しようもなかった大型機械を、みのるさんと私の二人で土間の中へ入れてし
まいました。全く頭の使いよう。この機械を所定の位置に立てるのは建物の
梁に滑車をかけてやりました。5年後の先日、この機械の場所を移すとき、
大丈夫か? と言われながらも、再びみのるさんに鉄パイプを借りにゆき、
若者が集まって今度は成功。やれやれ。
もうひとつの鉄棒。これはL字になったやや軽めの長い鉄棒です。もともと
何に使うのか私にはよくわかりませんが、みのるさんは、これを業者から大
量にもらい受け、ご自分のラン園の台や、大きな温室、キューイの棚などど
んどん作ってしまいます。
そこで、漢方薬の乾燥棚をつくるとき、このL字鉄柱は使えないだろうか?
と相談しました。鉄を切るカッターと発電機つきの溶接道具の使い方を教え
てくれて、これでやってみなさい。
こんなことは、ふつう体験できないよ。港からもらってきた魚の干物を乾燥
するエビラの大きさにあわせ、それが何枚もさし込めるような枠を作ります。
カットして、溶接して、あの火花から目を守るお面をつけてやるんだよ。何日
かかったでしょうか。20 枚くらいのエビラが差し込める乾燥棚を二つつくりま
した。今でも立派に役立っています。
さらに別の使い方。このL字型の鉄柱は前回話した枕木や電柱の土止め
の支えとして、畑の各所に打ち込んであります。
これからも何かあれば、みのるさーん、と頼りになる有難い隣人です。
16.竹
畑をやっていると何かと杭を立てる必要が生じます。まず畝をつくり、種を
まく。何処から何処までがグリーンピースで、どの列がスナップエンドウか、
等々、ジャガイモは何処だったっけ、とか、芽が出てくるまでは失念してしま
うと大変。せっかく播いた所にもう一度耕運器を入れちゃったり。踏みつけた
り。そういうわけで、目印の杭を立てる必要がある。一番使いやすいのが竹
棒です。家庭菜園では、ビニールコーティングのちょっと竹の節がついてい
るように細工してあるグリーンの中空の軽い鉄棒を使っている方が多いと思
います。あれでもいいですが、アニマルファームのように広い畑では何十本
も必要でとても高価になります。また数年でポキリと折れ、鉄とビニールです
から始末にわるい。
こういうわけで、一年に2~3回はSさんの裏山へ入ります。もう 10 年以上、
勝手に採っていいよ、といわれている竹ヤブです。いつ行っても新しい竹が
伸びていますから、たいへん便利です。切り株がたくさんあるから足元はわ
るいけれど長靴で入れば大丈夫。体を屈めて左手で根元近くを握り、右手
の片刃ノコで一気に引き切ります。径1~2cm くらい、長さ4~5メートルのも
のを 50 本くらい。軽トラックで運びます。
冬を越す豆類が 10cm くらい育ったとき。霜にやられないように、強風にや
られないように。支柱にからみつく前の豆のツルのカラミつきように、何を用
いるかといえば、この竹の葉っぱのついている先端の方。バサバサしている
部分を 50cm くらいに切って、豆のわきに刺してゆきます。これが強風よけ、
そして初期のツルのカラミ用になります。
竹の棒の方は、豆用ならば、しっかりしたジャングルジムを麻ヒモでしばり
ながらつくります。三角帽子タイプでも真四角タイプでも。豆類は5~6月の
収穫時期になると繁茂して相当の重量になるし、風を受けるので、ヤワな竹
組みではドサッーと倒れてしまいます。また隣の畝のツルがこちらにからん
でくると収穫のとき列の間に入れなくなりますから、間隔もかなりあけて竹組
します。同様の竹組は秋のヤマイモのツルをはわせるときにも必要。
夏野菜のキュウリ、トマトの支柱には勿論この竹が必要。トマトもキュウリ
も重いですからしっかりと立てます。ピーマンやナスの添え木にもこの竹。
薬用樹の苗を植えるときの添え木もこの竹、というわけで、畑の目印にす
る短い竹から、支柱にする長い竹、霜除けの為の葉がついたブッシュの竹、
と、一年を通じて畑の必需品の中でももっとも活躍するのが竹です。
17.ベニヤ板、ブリキ板
ベニヤ板、Veneer と英語ではいいますが、薄い板という意味。「薄っぺらな
学問」とかいう形容詞にも使います。
最近はパネルという方が通りがよい。森林破壊で評判のわるいパネルで
すが、いろいろ重宝します。私はこのパネルを一枚も買った覚えはないので、
工事現場から、或いは廃品業者からもらいうけたのでしょう。片面が黄色く
塗られているのが多いのは、生コンの型枠として使われることが多いからで
す。一回使うと黄色い面にセメントがこびりついていたり、又はその一角に
切り込みがあったりすればなおさら、「持っていっていいよ」と気軽に入手で
きたのでした。分厚くて丈夫、重い。
これでまず作ったのが4代目の堆肥小屋。それまでは古材の柱を立て、波
板を打ちつけていただけだったのを、道路際に少しましなものを作ろうと、柱
を立て、堆肥の圧力で外側に倒れてしまわないように支えも細工して、この
パネルを内側から打ちつけました。黄色いペイントを内側にして腐りにくくし
て。道路から堆肥の材料を放り込みます。満杯になるとギーッと囲いが押し
広げられますが何とかもちこたえた。一箇所だけ外せるようにして、そこから
堆肥を軽トラにのせて畑の各所へ。こうして立派にできた堆肥小屋も3年くら
いたつと、柱もパネルも下から腐りはじめて、ボロボロになりました。補修し
ながら使ってましたが、4代目の堆肥小屋もこれでおしまい。意を決して、畑
をはじめて 12 年目にしてブロックで恒久的な堆肥小屋の囲いをつくりました。
畑の各所に前々回述べた鉄柱が立っており、土止めにこのパネルもたくさ
ん使われています。堆肥小屋の囲いほど腐りは早くはないがやはり数年で
ボロボロになります。その他パネルは落ち葉集めの軽トラックの荷台を深く
する囲いの為に使います。勿論戸外でバーベキューをやるときの即席のテ
ーブルにも。
ブリキの波板は、畑の初期、隣の牛小屋を解体した ときたくさんもらいま
した。廃品業者からもたくさんもらいました。いちばん初期の堆肥小屋はこ
れを支柱に打ちつけて作ったし、今の小舎ができるまでの畑の物置小屋は、
この波板で壁も屋根もつくりました。屋根を波板でつくるときは、釘は波山の
高い所にうたなければならない。低い方へ打てば流れる雨が漏れてしまう。
そんな簡単なこともやってみて教わったことです。この波板は畑の土止めと
しても各所に使われています。もう5~6年もっている所もありますが、やは
り、いずれ腐ります。
そういうわけで、これも前に書いた電柱や枕木が入手できれば、そのつど
ベニヤ板やブリキ板に引退してもらいます。
18.ノコギリ、ナイフ、ナタ
農業とは無縁そうですが、薬草園は広い平らな畑ではなく、いわば山の斜
面。畑を維持するには半分は林業をやらねばなりません。
ノコギリが一番活躍したのは畑の拡張で、もう 10 年くらい経ちましたか、
500 坪ほどの斜面の山林を切り開いたとき。剪(せん)定用の片手ノコギリが
便利で、友人が来ると手伝ってもらうので、ひとり一本、という具合に数を買
い、今でも5~6本あります。ノコギリの単位量詞は何ですか。「~本」でいい
ですか? 御教示を。片手で扱えるオノ(斧)も必要かと思いましたが、これ
はあまり役に立たない。枝から幹からツル・ツタまで、片手ノコが一番。茂み
の中に分け入るときも片手ノコを振りかざしながら踏み入ってゆきます。
そういう荒っぽい開墾とは別に本来の名前の「剪定」も重要な仕事。さまざ
まな薬用樹を植えてますから、数年たつと樹形を整えます。「庭樹・果樹の
剪定」とかいう本を見てもよくわからない。最近は「樹医」の資格をもつ高橋
さんによくお願いしています。剪定バサミでは切れない太さはすべてこれで
す。他には以前書いた支柱の為の竹取り物語に使います。こうしたノコギリ
は使用頻度が高くすぐに刃がナマってしまいます。安価なものですから買い
換えてもどうということはないけれど、研いでまた使いたい。これまでは足で
押さえて研いでいましたが、最近高橋さんにそれを言うと、あっという間に刃
をカチッと固定する仕掛けを作ってくれました。できた仕掛けを見れば簡単。
でも知らなくては絶対思いつかない。これでノコギリたちも当分捨てられず
再々利用されます。
ナイフは耕耘機や草刈り機が、ヒモやツルがまきついてキュンとエンストし
てしまったときに、それを外すのに不可欠です。エンストした草刈り器にまき
ついたヒモやツルを外すとき、ナイフを持っていなければいちいち小屋まで
とりにもどらなければ。そこで、そうした仕事をするときはナイフとノコを専用
ケースに入れバンドに通してぶら下げます。二丁拳銃というわけです。手ぬ
ぐいで首をまき、帽子を深めに被り、眼に飛びちった砂利など入らないよう
に顔面をおおうシールドをつけて、二丁拳銃に、ゴム長はいて、草刈り器を
肩にかけ、暑い盛りにいざ出陣と、畑の周辺に出ていく姿は、これは笑えま
す。ひとりの時は力が入らないのは、どうもこうした姿を皆に見て欲しいとい
う願望があるらしい。どうぞこれから雑草がふんだんに出る夏場に畑にいら
して、吹き出して下さい。