2008年度ニューガラス大学院テキスト - 分子科学講座

5. シリカガラスの製造方法と性質
福井大学
葛生 伸
1. はじめに
1.1 シリカガラスの特徴
シリカガラスとは,非晶質 SiO 2 のうち塊状のものをいう。シリカガラスの特長として,
(1) 金属などの不純物量が極めて少ない。
(2) 遠紫外線~近紫外線まで広い波長領域の光を通す。
(3) 熱に強い。
(4) 薬品に対する耐性に優れている。
などがあげられる 1) 。これらの性質を利用して,半導体製造装置用の構造材料や紫外線用
光学材料,通信用光ファイバー母材などさまざまな用途に用いられている
1, 2)
。
シリカとは二酸化ケイ素 (SiO 2 ) のことである。地殻の 55 %がシリカからできている 3) 。
このことは,シリカが岩石の主要構成成分であることによる。シリカからなる鉱物の代表
例は石英である。天然の石英の単結晶として水晶がある。シリカガラスは本来,石英の粉
末を高温で溶融したものである。そのため,石英ガラスともよばれる。本講義では,石英
ガラスの名称は,天然の石英紛を溶融した“溶融石英ガラス”に対してのみ用いることにす
る。
2. シリカガラス
2.1. シリカガラスの分類
シリカガラスは,他の材料には無い優れた性質を持つ。応用にあたっては,極限の性質
が要求されることが多い。そのため,それぞれの用途に応じた性質をもったシリカガラス
を用いる必要がある。図 1 にシリカガラスの分類を,表 1 に各種シリカガラスの特徴を示
す。シリカガラスは,天然の石英粉を溶融した溶融石英ガラスと液体原料から合成した合
成シリカガラスに大別できる
1,4 )
。
合成シリカガラスはその製造方法
電気溶融 ( I 型)
溶融石英ガラス
火炎溶融 ( II 型)
により,気相合成法,液相合成法
直接法 ( III 型)
に 分 類 で き る 5) 。 溶 融 石 英 ガ ラ ス
は 電 気 溶 融 石 英 ガ ラ ス (I 型 )と 火
炎溶融石英ガラス(II 型)に分類さ
れる
1,4)
気相
スート再溶融法
プラズマ法 ( IV 型)
合成シリカガラス
。前者は,OH 含有量が少
ゾル・ゲル法
液相
なく,後者は OH 量が比較的多い
のが特徴である。いずれも,耐熱
LPD 法
図 1 シリカガラスの分類。
性に優れ,比較的廉価であるので,
-1-
MCVD法
OVD法
VAD法
PCVD法
半導体製造装置の炉心管やシリコンウェーハを乗せるボートなどの材料として用いられて
いる 6) 。
気相合成法には,直接法(III 型),スート法,プラズマ法(IV 型)などがある。かっこ内の
I~IV 型は,1960 年代初頭にイギリスの Thermal Syndicate Limited の Hetheringhton によっ
て分類されたものである 7) 。その後いくつかの新しい合成法が開発された。それら新しい
合成法に対しては,I~IV 型のような呼び方はされていない。
直接法は,四塩化ケイ素(SiCl 4 )を酸水素火炎中で加水分解し,直接堆積・ガラス化する
ことによりシリカガラスを合成する方法である 5) 。このタイプのシリカガラスは,OH 基を
500~1500 ppm 程度含む。光学的に均質なものを比較的容易に合成することができ,紫外
線耐性にも優れている。したがって,紫外線用光学材料として使用される。
通信用の光ファイバー用としては,OH を含まないシリカガラスが必要である 8) 。そのた
めのシリカガラス製造方法として開発されたのが,スート法である
5)
。スート法では最初
にシリカの微粒子を生成して多孔質体を形成する。次に適当な雰囲気中での熱処理により,
OH 量を制御する。最後に,高温で透明ガラス化する。この合成方法は,複数の工程から
なっているため,性状を制御しやすい。
プラズマ法は,スート法よりも古くから無水のシリカガラスの合成法として用いられて
表 1 シリカガラスの分類・製造方法・特性および主な用途。
分
類
別 (型)
種
原
料
製
造
方
法
多孔質
体合成
不
純
物
OH
(ppm)
金属
(ppm)
紫外域吸
収帯
赤外域吸
収帯
(2.7μm)
ガラス化
光
学
的
性
質
用
途
溶融石英ガラス
電気溶融
(I)
石英
火炎溶融
(II)
石英
気相合成法
直接法
(III)
SiCl4
プラズマ法
(IV)
SiCl4
液相法
スート
再溶融法
SiCl4
スート合成
ゾル・ゲル
法
アルキルシ
リケート
ゾル→ゲル
化→乾燥
・電気炉
( 真空ま た
は不活性ガ
ス中)
・アークプラ
ズマ
~10
酸水素火炎
溶融
酸水素火炎
加水分解に
よる直接ガ
ラス化
高周波誘導
プラズマ
(O2,
Ar+O2)
電 気 炉
(He 中)
電気炉
100~300
500~1500
<5
< 1~200
<2
10~100
<100
<1
<1
< 0..1
<1
あり
あり
なし
あり
なし
小
やや大
大
なし
低 OH 品の
みであり
なし~やや
大
・半 導 体 製
造用
・ランプ材
・半 導 体 製
造用
・シリカガラ
ス繊維
・ フォトマスク
・光学材料
(レンズ,
プリズム)
・光 ファイバー
-2-
・光ファイバー
・光学材料
(真空紫外
~近赤外)
・TFT 基板
・フォトマスク
LPD 法
H2SiF6,
シリカゲル
SiO2+H2SiF6
水溶液から
の析出
なし
・シリカガラ
ス繊維
・ガラス,プ
ラスティック
の表面コー
ティング
きた
5,9)
。主に光ファイバー用母材として用いられている。
液相中で合成する方法として,ゾル・ゲル法がある
5)
。これは,金属アルコキシドの重
縮合により,シリカの多孔質体を合成したのち,乾燥,焼結ガラス化する方法である。こ
の方法により,大きな塊をつくることは,焼結中にクラックが入るので困難である。しか
しながら,ガラスや金属の表面コーティング方法としては有効である。また,低温でのシ
リカガラス薄膜の生成方法として,液相析出(LPD)法がある 5) 。
2.2. シリカガラスの名称
シリカガラスは,石英ガラスという名称でも知られている。石英ガラスという名称は,
1900 年代初頭,ドイツのヘラウスが石英の結晶である水晶を粉砕したものを溶融したシリ
カガラスを Qarzglas という商品名で発売したのに由来する 10) 。俗にシリカガラスのことを
石英ということがあるが,正しくない。学問的には,シリカガラスというべきである 11) 。
そこで,本講義では,原則としてシリカガラスの名称を用いる。シリカガラスのうち,天
然の石英を粉砕した粉末を溶融して作ったものを溶融石英ガラスとよぶことにする
4)
。溶
融シリカガラスという言葉も使われるが,英語の Fused quartz ということばの意味合いを
残して溶融石英ガラスとよぶことにする。また,液体原料から化学的に合成したものを合
成シリカガラスとよぶ。
シリカガラスの英語名称について,しばしば誤解や誤訳が見受けられる。そこで,英語
名について簡単にふれておく
10)
。表 2 にシリカガラスの名称をまとめた
10)
。シリカガラス
の総称名として,vitreous silica または,silica glass が用いられる。後者はラテン系の言葉
である。溶融石英ガラスは,fused quartz とよばれている。合成シリカガラスは,synthetic
fused silica とよばれる。単に fused silica とよぶこともある。時々,fused silica を溶融石英
と訳している例を見受けるが,誤りである。なお,不透明の溶融石英ガラスを fused silica
とよぶ場合もある。このよう
表 2 シリカガラスの名称
に,混乱があるので,翻訳し
た技術資料やレーザーや測定
機器などのマニュアル類を読
名
称
英語名
対応する日本語名
Vitreous Silica
Silica Glass
シリカガラス
(ガラス状シリカ)
シリカガラス
Fused Silica
(溶融シリカ)
Synthetic Fused Silica
合成シリカガラス
すべての種類のシリカガラ
スに対する総称名。
すべての種類のシリカガラ
スに対する総称名であるが,
シリカ系ガラスの名称と紛
らわしい。
本来は溶融法で作られるす
べてのシリカガラスを示す。
合成シリカガラスのことを
さす場合が多い。不透明なシ
リカガラスをさす場合もあ
る。
合成シリカガラス
Fused Quartz
Quartz Glass
溶融石英ガラス
溶融石英
石英ガラス
石英粉を溶融して作ったシ
リカガラス。
Fused Quartz と同義。
Quartz
石英
シリカの結晶形の一つ。俗に
シリカガラスのことを言う
場合もある。
むときには,十分注意する必
要がある。
10)
-3-
3. シリカガラスの構造
シリカガラスの製造方法を説明する前に,シリカガラスの構造について述べる。シリカ
の結晶には多くの種類があることが知られている 12,13) 。組成式は SiO 2 であるが,その結晶
型は 20 数種類,計算機シミュレーションにより存在が予言されているものも含めると 40
種類以上にのぼる
13)
。結晶の例を図 2 に示す
13)
。これらの結晶は,SiO 4 の正四面体構造か
らなっている。すなわち,Si を中心として,正四面体の頂点に O 原子があり,O 原子を他
の正四面体構造が共有する形で 3 次元網目構造を形成している。例外は高圧下で生成する
スティッショバイトである。これは,SiO 6 の八面体構造を基礎としている。シリカガラス
はシリカの大部分の結晶と同様,正四面体構造を基本としている。
シリカガラスの構造 14) については,
古くからランダムネットワークモデ
ル 15) ,微結晶モデル 16) が提案されて
いる。これらのモデルおよび結晶に
対する 2 次元模式図を図 3 に示す 17) 。
微結晶モデルは,X 線回折で特定で
石 英
トリディマイト
クリストバライト
きない微小な結晶からなっていると
いうものである。どちらも,シリカ
ガラスを理想化したモデルである。
現実はもっと複雑であり,どちらの
モデルが現実に近いとも言えない。
シリカガラスは結晶のような規則
コーサイト
キータイト
スティショバイト
(SiO6 8面体構造)
的な構造がない。そのため,それぞ
図 2 シリカ結晶構造の例
れの構造解析手段によって異なる情
13)
。
SiO 4 正四面体のつながり方を示す。
報が得られる。中性子線回折や X 線
図 3 結晶とガラス構造の 2 次元模式図 17)。
-4-
図 4 中性子回折から求めた動径分布関数 18)。
図 5 シリカガラスのラマンスペクトル 20)。D1, D2 は
下に示す環状構造に対応している。黒丸は Si 原子,
白丸は O 原子を表す。
図 6 X 線照射したシリカガラスの
ESR スペクトルの例 22)。
回折によって隣接する原子との距離および配
位数がわかる。このような結合の状態による
構造を近距離構造という。図 4 に中性子線回
折により求めた動径分布関数を示す 18) 。最初
のピークは最近接の Si-O を示す。次のピーク
は再近接の Si-Si を示す。これらのピーク位
置の比から SiO 4 正四面体構造が形成されて
いることがわかる。
図 7 ガラスシリカガラスの
常磁性欠陥の構造 23)。
X 線回折によって,数原子分離れた原子間の結合角分布を求めた報告がある 19) 。このよ
うに数原子先までの構造を中距離構造という。ラマンスペクトルも中距離構造と関係付け
られる。図 5 のピーク D 1 , D 2 はグラフの下に示すリング構造に対応している 20) 。以上述べ
た短距離構造,中距離構造のほかに,結合の切断などによる構造も存在する。点欠陥とよ
-5-
Abs orption / cm-1
300
Wavelength / nm
250
200
ED-B
Soot Remelted, OH free
2
7.6 eV tail
1
5.02 eV
4
5
6
Energy / eV
7
図 8 反磁性欠陥≡Si・・・Si≡による
5.02 eV にピークを持つ吸収帯。
図 9 反磁性欠陥≡SiSi≡による
7.6 eV にピークを持つ吸収帯 24)。
ばれるものがそれである 21) 。一つは,不
対電子をもった常磁性欠陥とよばれるも
ので,電子スピン共鳴法 (ESR) により観
測される (図 6) 22) 。常磁性欠陥の構造の
例を図 7 に示す 23) 。その他の点欠陥とし
て,≡Si・・・Si≡や≡Si-Si≡などが知られ
ている
21)
。これらは反磁性欠陥とよばれ
る。反磁性欠陥は,ESR では観測されな
いが,光吸収帯が観測されるものもある。
反磁性欠陥 による吸収 帯の例を 図 8,9 24)
に示す。
ガラスの性質として重要なものに仮
想温度とよばれる概念がある 25) 。仮想温
度はガラスの構造が凍結されたと考えら
れる温度である。シリカガラスの密度を
仮想温度に対してプロットすると,図 10
に示すような極大値を持つ
25)
図 10 シリカガラス密度の仮想温度依存性 25)。
。
仮想温度は,薄手の試料片を作成して,ある温度 T F で熱処理後室温まで急冷したとき,
それ以上熱処理時間を長くしても物性が変化しなくなれば,そのサンプルの仮想温度は T F
になったと考える。このような手段で決めた仮想温度が別の手段によって測定できれば,
便利である。実際,仮想温度をラマンスペクトル
求める方法が提案されている。
-6-
20)
および赤外吸収スペクトル 26) によって
図11 図5に示すラマンバンドD1, D2 の面積強
度の熱処理時間依存性 20)。
図 12 ラマンバンド D1, D2 の面積強度の仮想温度
依存性 20)。
図 13 1122 cm - 1 赤外反射および 2260
cm - 1 吸収ピーク 26) 。
図 11,12 にラマン分光による仮想温度の測
定方法を示す
20)
。図 5 に示すラマンバンド
D 1 ,D 2 の面積強度は,一定の温度で十分長時
間熱処理を行うと,急冷した後にシリカガラ
スの種類に依らず一定値に近づく(図 11)。
面積強度を仮想温度に対してアレニウスプロ
ット(温度の逆数に対して,強度の対数をプ
ロット)すると直線になる。別の方法として,
図 14 1122 cm - 1 および 2260 cm - 1 ピ
ークの仮想温度依存性 26) 。
図 13 に示す赤外吸収 1122 cm - 1 付近の赤外反射ピークまたは 2260 cm - 1 付近の赤外吸収ピ
ークの位置から仮想温度を測定する方法が提案されている
26)
。このピーク位置は,図 14
に示すように,シリカガラスの種類に依らず仮想温度だけで決まる。
図 10 に示す密度の仮想温度依存性は,他の材料では見られないシリカガラス特有の体積
-7-
の温度依存性に起因している。ガラスや高分子のような非晶質物質の多くはその融液を冷
却していくと,図 15(a)に示すようにその融点に達しても結晶化せず,過冷却液体の状態で
収縮を続ける
数に近くなる
25)
25)
。さらに,ある温度 T g に達すると線膨張係数が急変し,結晶の線膨張係
。T g のことをガラス転移温度とよぶ。ガラス転移温度は冷却速度に依存し,
ゆっくり冷却した場合には低く,速く冷却した場合には高くなる。シリカガラスの場合に
は,図 15(b)に示すように高温で,体積の極小がみられる
25)
。そのため,図 10 で示すよう
に密度は仮想温度に対して極大値を持つ。
シリカガラスの仮想温度を直接測定した例として,図 16 に示すような光散乱強度の温度
依存性が報告されている 27) 。直線が折れ曲がっている点で,密度の揺らぎが凍結される。し
たがって,この温度がガラス転移温度に相当する。
(a)
(b)
図 16 レーリー散乱強度
の温度依存性 27) 。
図 15 一 般 の ガ ラ ス お よ び 高 分 子 の
体 積 の 温 度 依 存 性 (a), お よ び シ リ カ
ガラスの体積の温度依存性(b) 25) 。
-8-
4. 溶融石英ガラス
4.1 溶融石英ガラスの原料
溶融石英ガラスは,石英の粉末を高温で溶融することにより製造される。古くは石英と
して水晶が用いられていたが,現在では石英,長石,雲母からなるペグマタイトとよばれ
る鉱物から石英成分を浮遊選鉱によって分離したもの 28) が主に用いられている。後者の方
が純度の良い物が廉価に得られるからである。
石英の代わりにゾル・ゲル法などによって合成したシリカ粉末も原料として用いられて
いる。
4.2 電気溶融石英ガラス
溶融石英ガラスは,電気溶融石英ガラス (I 型シリカガラス) と火炎溶融石英ガラス(II 型
シリカガラス)に大別できる
5)
(図 1)。
電気溶融は図 17 に示すような真空または不活性ガス中,ルツボ内で溶融する方法 29) と,
図 18 に示すようなアークプラズマによる溶融方法
1)
がある。また,図 19 に示すように石
図 18 アークプラズマによる溶融法 1)。
図 17 電気溶融法 29)。
図 19 電気溶融管引き法 31)。
-9-
英紛を溶融して,そのまま管引きする連続溶融管引き法もある
5,30,31)
。直接管引き法によ
って,ランプの管球や半導体製造装置の内装材などの用途に用いられるシリカガラス管と
して比較的低コストの材料が供給されている。
4.3 火炎溶融石英ガラス
火炎溶融法は図 20,21 に示すように,酸水素バーナーの中央から石英紛を落下させて
溶融する
1,2)
。図 20 に示すように無接触で石英ガラスをつくるコラム方式 1) と,図 21 のよ
うに型枠を用いて大型のシリカガラスをつくるスラブ方式
2)
がある。溶融石英ガラスは主
として半導体製造装置などに用いられている。
図 20 火炎溶融石英ガラスの製造方法。
コラム方式 1 )。
図 21 火炎溶融石英ガラスの製造方
法。スラブ方式 2 )。
- 10 -
4.4 溶融石英ガラスの性質
溶融石英ガラスは,後で述べる合成シリカガラスに比べて耐熱性に優れている。図 22
に 各 種 シ リ カ ガ ラ ス の 1200℃ に お け る 粘 度
の OH 濃度依存性を示す
1)
。同じ OH 濃度で
も溶融石英ガラスの方が合成シリカガラスに
比べて粘度が高くなっている。因みに電気溶
融石英ガラス(I 型)では 0~50 ppm 程度,火炎
溶融石英ガラスでは 100~200 ppm 程度の OH
基を含んでいる。溶融石英ガラスの粘度が同
じ OH 濃度の合成シリカガラスに粘度よりも
高い原因として,Al 濃度が高いことが上げら
れる。表 3 に各種シリカガラスの分析結果を
示す
2,32)
。合成シリカガラスでは,Al を含ま
図 22 各種シリカガラス粘度の OH 含有量依
存性 1)。
ないのに対して,溶融石英ガラスでは,10~
20 ppm 程度の Al を含んでいる。図 23 は,合
成シリカ粉に Al を含ませて溶融したシリカ
ガラスの粘度の Al 濃度依存性を示す 33) 。Al
を 10 ppm 程度以上含むことによって粘度が
高くなる。
溶融石英ガラスでは,原料の石英粉が融着
した痕跡が光学的に観測される。平行な 2 面
を鏡面に磨いて点光源が出た光を透過させ,
スクリーンに投影すると図 24 に示すような
図 23 合成粉を溶融したシリカガラスの粘
度の Al 濃度依存性 33)。
粒状構造が観測される 1) 。
シリカガラスは,図 25 に示すように紫外線
表 3 各種シリカガラスの不純物濃度の例
種類
火炎溶融
火 炎 溶 融 (純 化 品 )
電気溶融
電 気 溶 融 (純 化 品 )
直接法合成
Al
Ca
8
a)
0.6
Cu
Fe
0.01
b)
0.2
Na
0.5
K
32)
b)
Li
0.2
0. 1
Mg
Mn
0.1 <0.05
Ti
1.6
8
0.5
0.01
0.1
0.1
0.1
0.1
0.1 <0.05
1.5
15
0.6
0.02
0.2
0.8
0.6
0.5
0.1 <0.05
1.4
15
0.6
0.01
0.2
0.2
0.6
0.2
0.1 <0.05
1.4
0.1
0.1
0.01
0.05
0.05
0.05
0.05 <0.01 <0.01 <0.01
VAD (OH=90ppm)
<0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01
VAD (OH, Cl <1ppm)
<0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01
VAD (OH<1ppm, Cl=1000ppm)
<0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01
VAD (OH=40ppm)
<0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01 <0.01
a) ICP 発 光 分 析 法
b) 原 子 吸 光 分 析 法
そ の 他 の 元 素 は ICP 質 量 分 析 法
- 11 -
Absorption / cm -1
300 280
0.5
Wavelength (nm)
260
240
220
200
Solid: Bef ore
Dashed: 1150゚C, 24 h
I
II
0
5
Energy / eV
6
図 25 溶融石英ガラスにみられる 5 eV 付
近の吸収帯。
図 24 溶融石英ガラスの粒状構造 1)。
領域の 5 eV(波長 240~245 nm)付近に光
吸収帯が観測される。電気溶融石英ガラス(I
型),火炎溶融石英ガラス(II 型)ともにほぼ
同じ位置に存在する。但し,熱処理に対する
変化は両者で異なる。I 型の溶融石英ガラス
B2α 帯
を熱処理した場合,吸収帯はほとんど変化し
ないが,II 型の溶融石英ガラスを熱処理する
とこの吸収帯が消滅する。5 eV 付近の吸収帯
は B 2 帯と呼ばれる。B 2 帯には少なくとも 2
種類あることが知られている。図 26 に示すよ
うに,それぞれ B 2 α帯および B 2 β帯と呼ばれ
ている 34) 。図中にそれぞれの吸収帯のピーク
位置と半値幅が示してある。尚,図中で横軸
は光子エネルギーで示してあるが,波長(nm)
B2β 帯
に換算するには,光子エネルギーを E,波長
をλとすると
λ=
1240 nm ⋅ eV
E
(1)
あるいは,
E=
1240 nm ⋅ eV
λ
図 26 5 eV 付近にみられる 2 種類の吸
収帯。(a) B2α帯,(b)B2β帯 34)。
(2)
によって換算することができる。
B 2 α帯と B 2 β帯は蛍光スペクトルによって明確に区別することができる(図 27)。図 28
に I 型および II 型溶融石英ガラスの蛍光および蛍光励起スペクトルを示す。この図は,B 2 β
によるスペクトルを示している。実際には,B 2 βに加えて僅かに B 2 α帯が存在している 35) 。
- 12 -
B2α 帯
Type I
青色蛍光
Intensity (arb. units)
500
B2β 帯
青紫色蛍光
PLE
Eex = 5.0 eV
Eobs
PL
3.2 eV
2.7 eV
4.3 eV
0
Type II
500
0
3
4
5
Photon energy (eV)
図28 I 型およびII 型溶融石英ガラス
の蛍光および蛍光励起スペクトル。
図 27 5 eV 付近にみられる 2 種類の吸
収帯(a)B2αおよび(b)B2β帯の蛍光および
蛍光励起スペクトル 34)。
4.5 溶融石英ガラスの用途
先にも述べたが,溶融石英ガラスは合成シリカガラスと比較して比較的廉価であるとと
もに耐熱性に優れている。そこで,半導体製造装置などに使用されている。また,ランプ
管球用としては電気溶融石英ガラスが用いられている。
- 13 -
5. 気相合成法
5.1. 直接法
5.1.1 製造方法
光学材料としては,均質で気泡や粒状構造な
どの無い材料が要求される。このような用途に
用いられる材料として直接法合成シリカガラス
(III 型)がある。四塩化ケイ素(SiCl 4 )を酸水素火
炎中で加水分解し,直接堆積・ガラス化する。
基本特許に示された方法は,図 29 に示すように
非常に小さな塊を作るものにすぎなかった 36) 。
現在では,複数本のバーナーを用いて,直径 1m
以上のスラブ状のものも合成されている。直接
図 29 コーニング社基本特許における直
接法合成シリカガラスの合成法 36)。
法に対しては,各社独自の方法が用いられてい
る。先に述べた複数のバーナーを用いた大型の
スラブ状のものもあるが,多くのメーカーでは
コ ラ ム 状 の イ ン ゴ ッ ト を 合 成 し て い る 。 図 30
に示すように縦に成長させるもの 5) と図 31 に示
すように水平方向に成長させるもの 37) がある。
合成反応は,
SiCl 4 +
H 2 O → SiO 2 + 2HCl + Cl 2
(3)
および
SiCl 4 + 2H 2 + O 2 → SiO 2 + 4 HCl
(4)
図 30 縦型合成法 1)。
による。バーナーはシリカガラス製のものを用
い,中央部に適当なキャリヤガスを用いて SiCl 4
を供給する。バーナーの形状やガスの供給条件
に対しては各社のノウハウがある。たとえ,特
許の実施例にガスの供給条件が記載されていて
も,バーナーの詳細な構造や炉の構造が異なる
図 31 横型合成法 37)。
と,最適な合成条件が異なる。
脈理のない材料を製造するためには,原料および燃料の流量を一定にする必要がある。
燃料はマスフローコントローラを用い,原料の供給は,ベーキングシステムを用いてマス
フローコントローラを通して原料の供給量を調整する。直接法シリカガラスの合成時には
(3), (4)式に示すように,塩素 (Cl) および塩化水素 (HCl) ガスが生じる。したがって炉か
- 14 -
らの排気が必要である。また,排気口にシリ
カのスート(すす状の微粒子)がつまることが
ある。安定した形状で脈理が無いものを合成
するためには,バーナーに供給する原料およ
び燃料の供給の安定化とともに,排気の安定
化が必要である。
ガス供給比もシリカガラスの性質に強く関
係している。一例としてバーナーに供給する
H 2 および O 2 量の比とエキシマレーザーを照
射時に発生する赤色発光強度の例を述べる。
過去に直接法合成シリカガラスをプラズマエ
図 32 プラズマエッチング,エキシマ
レーザー,X 線照射による吸収生成 1)。
ッチングしたあと,紫外線を照射すると赤色
に発光する問題が生じた 38 )。この材料の透過スペクトルを図 32 に示す
1)
。同様の吸収帯は,
X 線やエキシマレーザーを照射した場合にも生じる。工程解析の結果,赤色発光はバーナ
ーに供給する酸素の量が化学量論的必要量よりも多いときに生じることがわかった。そこ
で,供給する水素の比率を増やしたところ,赤色発光しない材料が得られた
38)
。
5.1.2 直接法合成シリカガラスの性質
直接法シリカガラス中の金属不純物は総計で数 10 ppb 程度以下と極めて高純度のものが
図 33 シリカガラスの光損失 21)。
- 15 -
得られている。各種シリカガラスの不純物の量を表 3 に示す
32)
。種々のシリカガラスには
≡Si-OH の形で OH が含まれている。直接法シリカガラスの OH 量は 400~1500 ppm の範
囲である。OH 量はメーカーによってかなり違う。また同一メーカーの製品でも,製造条
件によって異なる。
図 33 にシリカガラスの光損失を示す
21)
。この図から,光を透過する領域の両端(真空紫
外および近赤外線)付近に,OH による吸収が帯存在することがわかる。近赤外線領域では,
2.7 および 2.2 μm 付近に SiOH による吸収がある(図 34) 1) 。また,真空紫外での吸収端は,
OH 量が多いほど長波長側に移動する (図 35)
39)
。但し,OH を全く含まないものでは,酸
素欠乏欠陥による吸収帯が生じるため真空紫外透過率は却って悪くなる(図 35, ED-B)。詳
細は,5.2.2 節で述べる。
OH 基を含むシリカガラスは,一般に紫外線等による劣化が少ない。ここで,紫外線に
よる劣化とは,紫外線を照射したときに光吸収が生成することをいう。例えば,図 32 に示
す,260nm のピーク持つ吸収帯の生成が例としてあげられる。合成時に水素を化学量論的
必要量よりも過剰に供給することにより赤色発光防止したものでも,エキシマレーザーや
X 線の照射により 215~220 nm にピークを持つ吸収帯が生じることがある (図 36, 37)
39,40,41)
。ArF エキシマレーザー (波長 193 nm) 照射により生じる 220 nm 吸収帯のピーク強
100
Transmittance / %
ED-H
80
60
40
ED-A
ED-C ED-B
90
40
20
0
150
<1
1
ES
1000
160 N
Fused Quartz
2 HR
200
250
Wavelength / nm
図 34 各種シリカガラス紫外・可視・近赤
外透過スペクトル 1)
図 35 各種シリカガラス真空紫外透過ス
ペクトル 39)。図中の数値は OH 量(ppm)。
図 37 KrF エキシマレーザー誘起 5.8eV
(215 nm)吸収帯 41)。
図36 ArF エキシマレーザーにより生じる
5.6 eV (220 nm) 吸収帯 39)。
- 16 -
図 39 ArF エキシマレーザー誘起 215 nm
吸収帯強度の OH 量依存性 41)。
図 38 ArF エキシマレーザー誘起 220 nm
吸収帯強度の OH 量依存性 39)。
図 41 KrF レーザー耐性に及ぼす H2 含浸
効果 46) 。
図40 有機ケイ素化合物およびSiCl4 を原料
としたシリカガラスの KrF レーザー耐性の
比較 46)。
度の OH 含有量依存性を図 38 に示す
40)
。OH 含有量が 1200 ppm 程度になると,220 nm の
吸収が生じなくなる。同様に,KrF レーザー誘起吸収帯のピーク強度も OH 基濃度の増大
とともに弱くなる(図 39) 41) 。このように OH 量の多い材料は紫外線耐性に優れている。そ
のため,紫外線用の光学材料として用いられる 42) 。また,気泡が無いものが得られるため,
フォトマスクとしても用いられる 43) 。LCD 用の大型マスクにも直接法シリカガラスが用い
られている 44) 。SiCl 4 を原料として合成したシリカガラスは 30~200 ppm 程度の Cl を≡Si-Cl
の形で含む。SiCl 4 の他に,メチルトリメトキシシランやオクタメチルシクロテトラシロキ
サンなどの有機珪酸化合物を原料として,Cl を含まないものも合成されている 45,46) 。Cl を
無くすことにより,エキシマレーザーに対する耐性が向上することが報告されている (図
40) 46) 。
ArF および KrF レーザー (248 nm) 耐性の向上のためには,OH 含有量を増やすととも
に,H 2 分子を含浸することが有効である
46,47)
。H 2 分子の含浸効果を図 41 に示す
46)
。また,
ArF レーザーの次世代のリソグラフィー光源として F 2 レーザー (157 nm)が注目されてい
る。F 2 レーザー用の光学材料としては,シリカガラスにフッ素を加えることが有効とされ
- 17 -
ている。この材料は,直接法ではなくスート法をベースとしたものである。この材料につ
いては 5.2 節で述べる。
OH 基を持つことによる利点もあるが,短所もある。OH 基を含むと粘度が低くなるので,
耐熱性は悪くなる (図 22, 42) 1,2) 。そのため,半導体製造装置用など耐熱性が要求される用
途には適さない。また,OH 基があると近赤外領域に吸収帯が生じるために(図 33, 34)通信
用光ファイバー母材としては適さない。真空紫外波長領域において直接法シリカガラス(図
35 の ES)では 180 nm 付近から透過率が低下し始める。そのため最近注目されている Xe 2 *
エキシマランプ(ピーク波長 172 nm)や F 2 レーザー用光学材料としては適さない。
直接法シリカガラスでも通常は脈理が存在する
1)
。しかしながら,製造条件をうまく制
御することにより,脈理が無く均質性の良い材料も合成できる。これは,KrF
ーザーを光源とするステッパ用の光学材料として用いられている。
図 42 各種シリカガラスの粘度の温度依
存性 1)。
- 18 -
や ArF レ
5.2. スート法シリカガラス
5.2.1 製造方法
直接法シリカガラスは,気泡,異物などの巨視的な欠陥が少ない上に,エキシマレーザ
ーなどの紫外線耐性に優れている。さらに光学的に均質な材料が得られるなどの特長をも
っている。しかしながら, 400~1500 ppm と OH 基を比較的多く含んでいる。光ファイバ
ーとしての伝送効率は,OH 基が無け
れば 1.55μm で最大となる 8) 。≡ Si-OH
の倍振動による吸収帯が 1.4 μm に存
在するため,光ファイバー用材料とし
ては OH 基を含まないものが要求され
る。そのような材料の合成法として開
発されたのが,本節で述べるスート法
図 43 MCVD1)。
と次節で述べるプラズマ法である。
“ス ー ト ”と は 煤 (す す )の こ と で あ る 。
スート法には図 43~45 に示すような
ものがある 8) 。
MCVD
(Modified
Chemical
Vapor
Deposition) 法 ( 図 43) では , シ リ カ
ガラス管の内部に四塩化ケイ素などの
原料を酸素とともに流し,外からバー
ナーで加熱する。そうすると,熱酸化
により管内壁にスートが堆積する。そ
の後,ファイバーに線引きする。管内
に流したガスは,シリカガラス管の外
部 を バ ー ナ ー で 1300~ 1600℃ に 加 熱
することにより
SiCl 4 + O 2 → SiO 2 + Cl 2
(5)
の反応によってシリカガラス管の内部
図 44 VAD および OVD 法 1)。
にシリ カの 微粒子 (ス ート )が 堆 積する
(図 46) 8) 。スートが堆積したあと,
中心に空洞が残るが,1800~1900℃
に加熱すると熱収縮して空洞が無く
なる。MCVD 法は,すべて閉管系で
図 45 PCVD8)。
合成するため,不純物の混入が少な
- 19 -
く高純度の材料が得られる 8) 。
VAD (Vapor Axial-phase Deposition)法は,図 44 のように SiCl 4 の酸水素火炎加水分解法に
よってスートを堆積させるものである。温度が高すぎると,直接法のように直接ガラス化
してしまうので,比較的低温(1100℃程度)で合成する。合成したスートは,表面に水ある
いは OH 基が存在する。これを,塩素や塩素化合物を含む雰囲気の中で熱処理することに
よ り 脱 水 す る 。 さ ら に 高 温 (1500~ 1600℃ 程
度)でガラス化する。スートをガラス化すると,
直径が約 1/2 程度に縮まる。このとき気泡が
残らないように He 中でガラス化を行う。脱
水処理の替わりにさまざまな条件で熱処理す
ることにより,Si-OH や Si-Cl の濃度を制御で
きる。熱処理のガスを選択することによって,
OH も Cl も含まない材料を得ることもできる。
OVD (Outside Vapor Deposition)法は図 44 に
図 46 MCVD におけるスート堆積 8)
表 4 主なスート法の特徴
特
徴
基本プロセス
ガラス化反応
透明化
屈折率分布
脱 OH 処理
ファイバ対応
量産化
8)
。
MCVD
OVD
・シリカガラス支持管内 ・マンドレル棒外周にガ
壁にガラス層を半径
ラス微粒子 (スート)
方向に層状に堆積
層を半径方向に層状
に堆積
・加熱バーナが支持管軸 ・堆積バーナがマンドレ
方向に往復
ル軸方向に往復
・気相塩化物原料の高温 ・気相塩化物原料の火炎
熱酸化
加水分解
・堆積層毎に透明ガラス ・スート体からマンドレ
化
ルを除去
・ガラス層堆積後支持管 ・スート体の粘性焼結
を中実化
・層毎に原料ガス成分を ・層毎に原料ガス成分を
調整
調整
・屈折率分布形成の柔軟 ・屈折率分布形成の柔軟
性が大きい
性が大きい
・ガラス化反応雰囲気中 ・Cl 含有雰囲気中でス
に Cl を導入
ート体を透明化
・単一モード:合成シリ
カ管を用い堆積ガラ
ス堆積を減量
・多モード:堆積層数~
100 層
・支持管内径の拡大
・スート外付けまたはク
ラッド管にロッドイ
ンチューブ
VAD
・種棒先端にスート体を
軸方向に成長
・堆積バーナに対し種棒
は引き上げられる
・気相塩化物原料の火炎
加水分解
・スート体の粘性焼結
・スート堆積表面の温度
と温度分布による
・透明化に先立って Cl
含有雰囲気中でスー
ト体を脱水処理
・多モード:コア中心部 ・単一モード:コアスー
とクラッド部の膨張
トの小径化要,クラッ
差によるクラック
ドバーナによる厚い
クラッド層の同時堆
積
・マンドレル径,スート ・高速合成バーナ
径拡大
・複数バーナ
・高速合成バーナ
- 20 -
示すように,ガラス棒の外側に四塩化ケイ素の酸水素火炎加水分解法によってスートを堆
積させるものである。OVD 法は,中心に心棒を用いるので,これをガラス化前またはガラ
ス化後に引き抜く必要がある。心棒を引き抜いた後は MCVD と同様,中心部は全体の収縮
にともなって消失する。
MCVD 法は,シリカガラス管中に原料ガスを流し,外部からバーナーで加熱するもので
あ る 。 MCVD の バ ー ナ ー の 代 わ り に 非 平 衡 プ ラ ズ マ を 用 い る 方 法 が PCVD
(Plasma
8)
activated Chemical Vapor Deposition) 法である(図 45) 。シリカガラス管内を SiCl 4 ,O 2 とと
もに C 2 F 6 ,GeCl 4 などのドーパントを導入し,10~20 hPa 程度に減圧して,マイクロ波を
入射して管内にプラズマを発生させてガラス層を堆積させる。
主なスート法の特徴を表 4 に示す
作成 (図 47)
48)
8)
。その他のスート法の応用として,プレーナ光回路
で用いられる,FHD (Flame Hydrolysis Deposition) 法がある (図 48) 48) 。
スート法は,本来光ファイバー用の合成法として開発されたものである。MCVD 法は,
シリカガラス管内にスートを堆積したのち,ガラス化するものである。したがって,ファ
イバー以外の用途には適さない。OVD 法は,芯の痕跡が残る。それに対して,VAD 法で
は芯の無い材料ができる。そのため,光ファイバー以外の用途にも用いられている。
以下 VAD 法シリカを中心にその性質を簡単に述べることにする。
図 47 プレーナ光回路作成プロセス 48)。
図 48 FHD48)。
- 21 -
5.2.2 スート法シリカガラスの性質
VAD 法シリカガラスは,表 3 に示すように金属不純物が極端に少ない。また,スートを
焼結前あるいは,スート合成時に GeO 2 や F などをドープすることも可能である。ドープ
については,ここでは触れないが,熱処理雰囲気や条件を変えることにより OH 量や Cl
量を変えることができる。ガラス化を He 雰囲気中で行うことにより,気泡の無い材料が
得られる。また,脈理の無いものも作られている。
VAD 法は少なくとも 2 段階の製造プ
ロセスからなっている。そのため,OH を含まないものから,200 ppm 程度含むものまでの
合成が可能である。
VAD 法シリカガラスは,OH が少ないために,高温での粘度が直接法シリカガラスに比
べて高い値を示す(図 22)。さらに,気泡や異物がないため,高温で熱処理が必要でかつ加
熱・冷却を繰り返す熱サイクルに対して,形状が安定な材料が要求される多結晶 TFT 用基
板材料としても用いられている 1) 。OH も Cl も存在しない VAD 法シリカガラスは,高温で
の粘度が高いため溶融石英ガラスと同程度の高い耐熱性を持つ (図 22)。そのため,半導体
製造用構造材料として使用可能である。しかしながら,現状ではその分野では用いられて
いない。その理由は高価であるためと,溶融石英ガラスの純度が実用上問題にならない程
度に高くなっているためである。
OH 基を含むものは,図 34 に示すように赤外線領域に吸収帯がみられる。また,真空紫
外領域でも,OH 基があると吸収があるため,透過率が低くなる(図 35 の ED-A, ED-H)。塩
素ガスあるいは塩素化合物を使用して脱水したシリカガラスは,1000 ppm 程度の Cl 基を
含む。この材料では,真空紫外領域で Cl による吸収があるほか,Si-Si 構造による吸収帯
(163 nm) が見られる 49) (図 35 の ED-C)。OH も Cl も無い材料も合成されている。この材料
は,Si-Si による 163 nm 付近にピークを持つ強い吸収帯がある。そのため,真空紫外領域
の透過率が著しく悪くなる(図 35 の ED-B)。さらに,酸素空孔による 247 nm 付近の吸収帯
Transmittance (% )
100
t = 1 cm
50
ES, ED-A, ED-H, ED-C
(OH and/or Cl containing SFS)
ED-B(OH and Cl free SFS)
OX (w et FQ)
HR (dry FQ)
0
200
300
400
500
Wavelength (nm)
図 49 無水のシリカガラスに見られる吸
収帯の例。
- 22 -
図 50 無水のシリカガラスの蛍光および
蛍光励起スペクトルの例 50)。
が存在する(図 49) 50) 。この吸収帯を励起すると,図 50 に示すような蛍光が生じる
50)
。280
nm(4.3 eV)と 450 nm(2.7 eV)にピークを持っている。280 nm のピークは,紫外線領域であ
るので,目に見えないが,450 nm のピークは鮮やかなシアンブルーである。
真空紫外領域の透過率が一番高い材料は,OH 基を 30-40ppm 程度含む材料である (図 35
の ED-H)。この材料は, F 2 レーザーの波長 (157 nm) でも光を 5 mm の厚さで 60~80 %程
度透過する。そのため,F 2 レーザー用のフォトマスク材料として可能性がある。図 51 に
F 2 レーザー照射前後の透過率の一例を示す 51) 。この場合,F 2 レーザーを照射すると,157 nm
における透過率は照射前よりも高くなる。また,ArF レーザーの次世代のリソグラフィー
光源として F 2 レーザー (157 nm)が注目されている。F 2 レーザー用の光学材料としては,
シリカガラスにフッ素を加えて Si-F 構造を作ることが有効とされている。これは,F をド
ープすることにより,図 5 に示すような環状構造が壊れ,F 2 レーザーによって破壊される
不安定な構造が無くなるためといわれている。
OH または,Cl を含む VAD 法シリカガラスで脈理が無い材料が市販されている。Cl を
含み OH を含まない VAD 法シリカガラスは,近赤外線用の光学材料として利用される。ま
た,OH 基を含むシリカガラスは,真空紫外線領域の光透過率が高く,脈理が無いものも
できる。したがって,プリズム用の光学材料としても用いられる。
図 51 スート法シリカガラスに対する F2
レーザー照射効果 51)。
- 23 -
5.3. プラズマ法
OH を含まないシリカガラスの製造方法として,スート法の他にブラズマ法(IV 型)があ
る
5)
。この方法は,スート法よりも古くから実用化されたが,現在では光ファイバー用母
材の多くはスート法によって造られている。
プラズマ法も直接法と同様,直接合成シリカガラスを合成する方法である。プラズマ法
では,酸水素火炎の替わりに Ar や O 2 などの高周波誘導プラズマを用いて,SiCl 4 の反応さ
せるものである。プラズマ法合成装置の例を図 52, 53 に示す 52,53) 。この合成方法により,
OH 量の極めて少ないものが得られる。また,Nd, Al, Ce などの元素のドープが可能で
ある。さらに,反応時の Ar と O 2 の比を変えることにより,酸素過多や酸素欠乏のシリカ
ガラスを合成することができる。そのため,シリカガラス中の欠陥構造の研究に用いられ
てきた
21)
。そのように,欠陥構造ができやすいばかりでなく,酸素や塩素が残存するため
に,放射線や紫外線を照射すると容易に光吸収が生じる。
プ ラ ズ マ 法 の 応 用 と し て , 紫 外 線 用 光 フ ァ イ バ ー の ク ラ ッ ド 作 成 に 用 い ら れ る POVD
(Plasma activated Outside Vapor Deposition) 法がある (図 54) 54) 。この方法は,プラズマ火炎
でフッ素をドープしたシリカを合成し,合成シリカガラス製コア母材上に堆積させる方法
である。
図 53 プラズマ法合成装置の例 53)。
図 52 プラズマ法合成装置の例 52)。
図 54 POVD54)。
- 24 -
6. 液相合成法
液相合成法としては,ゾル・ゲル法や液相析出(LPD)法があげられる。
6.1 ゾル・ゲル法
図 53 にゾル・ゲル法の概略を示す 1) 。スート法がバーナーを用いた反応により,多孔質
体をつくるのに対して,溶液中でゲル体をつくり,それを乾燥させてから高温で焼き固め
てガラスにする方法である。シリコンテトラエキシド[Si(O 2 H 5 ) 4 ]などの金属アルコキシド
の液体に水と酸のアルコール溶液を加えながら攪拌した後放置するとバルクのゲルができ
る。これを 400~800℃程度の温度で加熱してガラス化する。ゾル・ゲル法では,バルクの
シリカガラスの他に図 54 のようにファイバーやコーテ
シリコンアルコキシド
9)
Si(OC2H5)4など
ィング薄膜を形成することができる 。
H2O
アルコール 添加
HCl
ゾル・ゲル法は大学の研究室などでも容易に合成でき
る数少ない製法の一つである。そのため,膨大な論文が
溶液
加水分解
重縮合
報告されてきた。また,型枠に入れてゲルを形成し,そ
ゲル体
れを乾燥させて大まかな形を作ってからガラス化するこ
加熱 ~800 ℃
とによって,効率的にシリカガラス製品が作られると考
ガラス
図 55 ゾル・ゲル法 1)。
え研究が進められてきた。実際に大型のガラス板をつく
ったと呼ばれる報告もある 55,56) 。しかしながら,実際に
Si(OC2H5)4
H2O および HCl の
アルコール溶液の添加
(室温)
Si(OC2H5)4,
H2O, HCl
C2H5OH
撹拌,反応
静置
(室温~70℃)
撹拌,反応
(室温~80℃)
粘性溶液
ファイバードローイング
(室温)
バルクゲル
加熱
(800℃ )
SiO2 バルク
ガラス
ゲルファイバー
加熱
(400~800℃)
SiO2
ガラスファイバー
コーティングゲルフィルム
加熱 (500℃)
コーティングガラス
フィルム
図 56 ゾルゲル法によるシリカガラスのバルク,繊維およびコーティング膜の製法 9)。
- 25 -
は乾燥時間がかかる,焼結時に割れるなどの理由からバルク状のガラスとしては商品化さ
れていない。ただし,ガラスや金属,セラミックスなどの表面のコーティングのような薄
膜形成技術としては広く用いられている。直接シリカガラスをつくるのではなく,ゾル・
ゲル法でシリカの粉末を合成してこれを溶融あるいは加圧成型後焼結するなどの方法によ
ってシリカガラスをつくる方法が報告されている
33,57)
。
6.2 液相析出(LPD)法
シリカガラスの製造は,一般に高温での熱処理を伴う。常温付近での非晶質シリカ薄膜
を形成する方法として液相析出 (LPD [Liquid Phase Deposition]) 法とよばれる方法が提案
されている 58,59,60) 。図 55 に LPD 法の概略を示す。この方法は,ケイフッ化水素酸 (H 2 SiF 6 )
水溶液に SiO 2 を溶解させて飽和させたものに,ホウ酸を加え基板上に SiO 2 を析出させて
薄膜をつくる方法である。LPD 法では,他のシリカガラスと違い約 40℃の低温で生成する
ことが可能である。ケイフッ化水素酸水溶液中では,
H 2 SiF 6 + 2H 2 O ⇄ 6HF + SiO 2
(6)
の平衡が成りたっている。この平衡を右にずらすことにより,SiO 2 が析出する。ホウ酸を
加えると HF と優先的に反応して安定なホウフッ化物となり,反応が右に進む。ホウ酸濃
度を制御することにより,緻密な SiO 2 薄膜を形成することが可能となる。
LPD 法は,低温での薄膜形成方法であるため,ガラス,セラミックス,金属などの無機
材料のみならず,プラスチックなどの有機材料表面へのコーティングにも適用できる
SiO2をケイフッ化水素酸に飽和
ホウ酸添加
基板上にSiO2析出
≈ 40 ℃
H2SiF6 + 2H2O → 6HF +SiO2
図 57 液相析出(LPD)法。
- 26 -
60)
。
7. おわりに
以上,シリカガラスの製造方法と主な性質について述べた。表 1 に各種シリカガラスに
ついてまとめてある。薄膜やドープドシリカガラスについてはほとんど触れなかった。こ
れらについての詳細は文献 2)を参照されたい。
- 27 -
参 考 文 献
1) 葛生 伸,「石英ガラスの世界」工業調査会 (1995).
2) 川副博司他編「非晶質シリカ材料応用ハンドブック」リアライズ社(1999).
3) 国立天文台編「理科年表
1997」丸善 (1997).
4) 葛生伸, 「シリカガラスの名称と種類」文献 2), p.3.
5) 野村滋, 福田永, 葛生伸, 「非晶質シリカの製造方法」文献 2), p.9.
6) 宮下明,「半導体製造用シリカガラス」,文献 2), p.417
7) G. Hetheringhton, and K. Jack, Phys. Chem. Glass, 3, 129 (1962).
8) 坂口茂樹,「光ファイバー」文献 2), p.517.
9) 作花済夫,「ゾル-ゲル法の科学」アグネ承風社(1988)
10) 林 瑛,ニューセラミックス 2, 87 (1989).
11) 林 瑛,セラミックス 20, 274 (1985).
12) 貫井昭彦, セラミックス, 20, 266 (1985).
13) 貫井昭彦, 耐火物, 44, 475, 533, 596, 728 (1992).
14) 葛生伸, 「シリカガラスの構造」文献 2), p.35.
15) W. H. Zachariasen, J. Am. Chem. Soc. 19, 202 (1932).
16) J. F. Radalln, H. R. Rooksby and B. S. Cooper, J. Soc. Glass Tech. 14, 219 (1930).
17) 作花済夫 編,「ガラスの辞典」朝倉書店 (1985).
18) M. Misawa, J. Non-Cristal. Solids, 37, 85 (1980).
19) R. L. Mozzi and B. E. Warren, J. Appl. Cryst. 2, 164 (1969).
20) F. L. Galeener, J. Non-Cryst. Solids, 71, 373 (1985).
21) D. L. Griscom, J. Ceram. Soc. Jpn. 99, 899 (1991).
22) D. L. Griscom, Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B1, 481 (1984).
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