電力システム改革のロードマップとシナリオ

電力システムシリーズ①シナリオ・市場分析とビジネスモデル総覧
エグゼクティブサマリー
電力システム改革のロードマップとシナリオ
欧米に続き、日本でも電力システム改革が動き始めた。
(1)垂直一貫体制を見直して「発電」
「小
売り」
「送配電」に再編、
(2)一般電気事業者の地域独占を改め小売りと発電を全面自由化、
(3)総
括原価方式による電力料金設定方法を撤廃し送配電を除く全事業者が対等な競争環境の確保、という
3 つのポイントからなる骨格が決まった(第 1 章 1-1 電力システム改革のロードマップ)
。
この骨格に沿って政府は詳細な制度設計を詰めているが、今後の電力ビジネスで重要なものの一つ
が、需給調整の制度がこれまで一般電気事業者が持つ系統網を使う新電力に課されていた「30 分同
時同量」
(30 分ごとの需要量と供給量の差を±3%以下に抑えること)から「計画値同時同量」
(発
電・需要計画値を事前に提出し実績値との差でインバランス料金を精算)に変わることである。
計画値同時同量方式におけるインバランスを最小化するために、発電事業者と小売事業者間の相対
契約、先渡し市場、スポット市場、4 時間前市場に加えて、1 時間前市場の創設が決まっている。計
画値提出後の最終的な周波数調整は送配電事業者が担うが、電源を持たないためにリアルタイム市場
の創設が計画されている。こうして創立された各市場にどう対応するかが問われる。
参入小売事業が 4 つの強みを補完しあいながらグループ化
シナリオを考えるうえで重要になるのが、小売全面自由化後の各事業者の競争の行方である。先行
した欧米のように、一般電気事業者が法的分離により生まれる小売事業者間および新電力(PPS)と
の間で激しい競争が繰り広げられる。新電力が一般電気事業者のシェアを奪う形で競争が進むほか、
一般電気事業者同士が従来のエリアを超えて越境販売する(第 1 章 1-2 シナリオ分析)
。
競争力は、低価格の電源確保やインバランス料金の極小化によっていかに販売価格を下げられるか
と、魅力的な料金メニューや顧客サポート体制を構築できるかにかかっている。こうした競争力を決
める要因をすべて備える企業は存在しない。そこで、各小売事業者は、
(1)一般の顧客を持つ、
(2)
太陽光・風力の発電を持つ、
(3)調整電源を持つ、
(4)ベース電源を持つ、という 4 つの強みを生か
し、補完しあいながらグループ化していく(図 1)
。
図 1 電力小売全面自由化で予想される小売事業者の動向
各事業者が持つ 4 つの強みを生かしながら、補完する組み合わせでグループ化が進む。
(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
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電力システムシリーズ①シナリオ・市場分析とビジネスモデル総覧
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電力システム改革がもたらす市場ポテンシャル
電力システム改革によるビジネスの可能性を見通すうえで重要な電力販売高と IT 投資額を予測す
る。電力販売額の予測でポイントとなるのは発電容量、中でも一般電気事業者が申請している原子力
発電所の再稼働の行方である。ここでは、現在申請されている 19 基が再稼働すると見て、2016 年以
降一般電気事業者の発電容量は 1.8kW を超え、電力不足は回避される(第 1 章 1-3 市場ポテンシャ
ル)
。一方、固定価格買取制度(FIT)により太陽光発電も増え 2020 年には 65GW の発電容量になる。
電力不足が解消された状態で、前述したような小売事業者間の競争が激化するために、価格は下が
っていくが、一方で各種サービスが充実することから電力利用が活性化される。このため、電力販売
量は 2017 年にかけていったん落ちるものの 2018 年から反転し、2020 年には 22 兆円を超える。
電力システム改革による国内 IT 投資額は 2020 年に 1 兆円超
一方、電力システム改革により、家庭や事業所向けの EMS(エネルギー管理システム)周りおよび
電力会社の IT 投資が増え、国内市場は 2020 年に 1 兆円を超す(図 2)
。家庭向けの HEMS については、
これまでの「見える化」だけでなく、電力市場との取引や ADR(自動デマンドレスポンス)の制御な
どの高機能化が後押しする。事業所向けの EMS でも、卸市場の規制撤廃と活性化により、発電事業者
の選定や時間帯別料金に合わせた負荷制御、自家発電の活用、空調や照明、エレベーター、工場設備
の稼働時間のシフトなどで電力コストを下げる機運が高まり需要が拡大する。
電力会社関連の IT 投資では、一般電気事業者 10 社が、共通のインタフェースを持ち、それぞれの
中央給電指令所の電力量の情報を共有し、顧客が契約相手を変えた場合に速やかに移行できるように
するためのシステム投資が行われる。また、送配電部門の法的分離が 2018~2020 年に行われる予定
で、そのための IT 投資が膨らむ。電力市場に関わる中央給電指令所のような公共な立場の企業や電
力会社など電力市場に関わる企業の IT 投資は、2017 年に 4560 億円になる。
図 2 電力システム改革がもたらす国内 IT 投資(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
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電力システムシリーズ①シナリオ・市場分析とビジネスモデル総覧
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電力システム改革で生まれる新しいビジネスモデル
日本に先行して、欧米では 1990 年代から電力システムの構造改革がスタートしており、従来の垂
直統合型電力システムの構造分離(アンバンドリング)が進んでいる。それに伴い、新たなビジネス
モデルが登場している(第 2 章 欧米の市場設計とビジネスチャンス)
。
国内でも電気事業法の改正による電力システム改革に先行して、
「部分供給」や「常時バックアッ
プ」の環境整備、
「特定電気事業」と「特定供給」の要件緩和などの改革が進んでおり、そうした過
渡的な制度を活用した取り組みが始まっている。また、国内では当初は海外へのインフラ輸出を主目
的にしたスマートグリッド関連のプロジェクトがスタートしており、それらを国内の電力システム改
革を見据えた実証実験としてとらえ直す動きも活発化している。
こうして欧米で始まった新ビジネスや国内で試験的にスタートした新ビジネスの取り組みのうち重
要だと思われるもの 50 事例をピックアップしたところ、欧州 11、北米 17、国内 22 となった(第 4
章 重要プロジェクト・事例解説)
。欧米では 28 と海外事例に学ぶところは多いが、日本も 22 と先
行した取り組みは活発していることが分かる。
日米欧 50 事例の分析から見えてくる 15 のビジネスモデル
これらの 50 事例のビジネスモデルを分析したところ、
(1)小売セット販売、
(2)小売ワンストッ
プサービス、
(3)小売ポイントサービス、
(4)省エネコンサル、
(5)デマンドレスポンス(DR)アグ
リゲーション、
(6)バーチャルパワープラント(VPP)
、
(7)バランシングサービス、
(8)アンシラリ
ーサービス、
(9)ビッグデータ利活用、
(10)システムマネージドサービス、
(11)燃料電池電力供給、
(12)エネルギーストレージ、
(13)BCP 電力供給、
(14)地域産エネルギー電力小売り、
(15)再生
可能エネルギー電力小売り、という 15 種に類型化できる(表 1、第 3 章 ビジネスモデル分析)
。
このうち、
(1)~(3)の小売関連サービスについては、日本でも 2016 年から小売り全面自由化を
見据えて電力需要家向けに様々なサービスが検討されていることから、国内事例を中心に先行の取り
組みを紹介した。
(7)バランシングサービスと(9)ビッグデータサービスについても国内でユニー
クな取り組みがスタートしている。
(13)BCP 電力供給、
(14)地域産エネルギー電力小売り、
(15)
再生可能エネルギー電力小売りについては、東日本大震災後の BCP へのニーズの高まりや固定価格買
取制度(FIT)による再エネ導入の活発化を背景にして日本でも取り組みが活発化している。
一方、
(5)デマンドレスポンス、
(6)バーチャルパワープラント、
(8)アンシラリー、
(12)エネ
ルギーストレージは、構造分離が進んで給電指令部門が中立化されて、さまざまな電力市場が設立さ
れて外部調達が進行しないと成立することが難しいビジネスモデルであることから欧米でビジネスな
広がりつつある。
(10)システムマネージドサービスについては、欧米の自治体が ICT によって高度
化したスマートグリッドを導入するために活用する事例が増えており、今後 M2M(Machine to
Machine)や IoT(Internet of Things)の重要性が高まるにつれ、日本でも採用事例が増えていく。
表 1 電力システム改革で登場または活性化する 15 のビジネスモデル
名称
定義
主要事例
シナリオ
小売セット販
電力を他のエネルギー
電力・ガスのセット販売、通信サービスとの
ガス、通信などとのセット販売が
売
や商品、サービスと併せ
セット割引、ポイント活用の電力販売、
進み、IoT の進歩で電力料金
て販売
FIT 併用サービス
込みの家電販売も
小売ワンスト
電力調達をワンストップ
加盟店への代理サービス・省エネコンサル、
電力融通、エネマネ、分散電
ップサービス
化して効率性と利便性
需要家 PPS への代理サービス・需給管理
源、ネガワット取引等総合サー
を提供
など複合化
ビスに
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小売ポイント
電力小売りの顧客囲い
高圧一括受電や太陽光の顧客向けに実
独自ポイントが増え、既存流通
サービス
込みの一環としてポイン
ビジネスとして開始、CEMS 実証でも需要
系ポイントと変換可能になること
トを付与
家に提供
で融合へ
省エネコンサ
需要家への省エネやピ
ESCO 家庭版、小売会社の依頼による
自治体の電力小売り参入で、
ル
ークカット手法をアドバ
省エネ意識向上、エネルギー設備の運営・
省エネレポーティングサービスのニ
イス
保守の付帯サービス
ーズも顕在化
デマンドレス
電力会社の要請で複
商業・工業施設、一般家庭の削減量を
容量市場向けビジネス活性化。
ポンスアグリゲ
数需要家の削減量を
取りまとめ、相対取引や容量市場、アンシ
小口向け もス タート 。将来は
ーション
まとめて提供
ラリー市場で販売
DER と統合へ
バーチャルパ
自家発電などの DER
風力、太陽光などの自家発電、冷蔵倉
VPP が対象とする DER、容量
ワープラント
を取りまとめ仮想発電
庫、EV 蓄電池、ヒートポンプなどを取りま
市場などが拡大し、DR やマイク
所として取引
とめて仮想発電所化
ログリッドと融合
バランシング
小売市場事業者など
複数新電力をグループ化して需給調整効
需要家 PPS、特定電源からの
サービス
向けに電力需給調整
率化、地域新電力向け地域再エネ活用
調達が増え、マイクログリッドにも
業務を代行
の需給調整を提供
対応へ
アンシラリーサ
周波数調整、瞬動予
蓄電池、フライホイールに加え DR や VPP
再エネ拡大で市場拡大。VPP
ービス
備力供給などの系統
を使い、周波数調整や瞬動予備力を提
や DER と統合管理進み、他サ
安定力を提供
供
ービスと融合へ
ビッグデータ
電力消費や発電、蓄
HEMS 経由で電力使用情報を収集し、
収集情報、サービス共に拡大
利活用
電などの情報を蓄積、
見守りやライフスタイルに合わせたサービス
し、将来は情報共有・融合によ
分析、活用
を提供
る新サービス登場
システムマネ
自治体など向けに SLA
米国中小電力会社向けに AMI 提供。欧
電力、ガス、水道、街灯な向け
ージドサービ
契約を結び SaaS でサ
州自治体向けに街灯向けサービスも開
に拡大し、スマートシティ化が進
ス
ービス提供
始。国内でも実証スタート
む
燃料電池電
電力購入契約を結び、
SOFC を使ったデータセンターなど事業者
低コスト化進み、水素タウン、系
力供給
資金調達、施工、運
向け、MCFC を使った電力会社向けビジ
統安定サービス、マイクログリッド
営管理提供
ネスがスタート
対応進む
エネルギース
電力会社向けに需給
米国の周波数調整市場や再生可能エネ
小型分野では EV、定置が普
トレージ
調整力提供。レンタル
ルギーの出力変動の抑制サービスを提
及し VPP 統合管理へ。大型は
も開始
供。欧州、日本でも実証
各種技術棲み分けへ
BCP 電力供
BCP の観点から自営
特定電気事業により六本木ヒルズに電
特定電気事業の区分なくなり、
給
線を活用して電力を供
力・熱を供給。トヨタ系工場で特定供給に
マイクログッド内で自営線による
給
より電力・熱を供給
供給へ
地域産エネ
再エネなど地域由来エ
欧州では地域エネルギー会社が地域経済
省エネコンサル、見守り、ガスや
ルギー電力
ネルギーを地域需要家
と温暖化対策に貢献。日本でも自治体や
水道とのワンストップなどの新サ
小売り
に供給
ガス会社が事業開始
ービスへ
再生可能エ
系統網や自営線を使
欧州では 100%再エネを売る事業者登
再エネ、蓄電池の低コスト化進
ネルギー電力
い再エネ電力を需要家
場。国内でも生協が再エネ電力を供給し
み、系統に加えて自営線による
小売り
に小売り
始め、実証もスタート
再エネ供給が進む
(作成:日経 BP クリーンテック研究所)
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