イカ シンポジウム 要旨 日本の沿岸いか釣漁業の今 国際資源としての

イカ シンポジウム 要旨 日本の沿岸いか釣漁業の今 国際資源としての遠洋沖合いか釣漁業の今 兼業船の未来 イカの加工品開発のこれまでと今 今村 豊(青森県産業技術センター水産総合研究所) 沿岸いか釣漁業は国の統計上、漁船の総トン数が30ト
ン未満で日帰り操業が主体であり、主な漁獲物はスルメ
イカ、ヤリイカ等である。そのうちスルメイカが約7割を占
め重要な魚種となっている。日本の沿岸域で漁獲される
スルメイカは、主に日本海を回遊する秋季発生系群と日
本海及び太平洋を回遊する冬季発生系群の2つの群に
支えられている。両系群の平成27年度の資源評価は、
秋季発生系群が「高位・横ばい」、冬季発生系群が「中
位・減少」と共に比較的安定している。しかしながら、全国
の沿岸いか釣漁業の漁獲量は減少傾向にあり、青森県
も同様の傾向となっている。これは、近年の高水温により
(下図−右)、スルメイカの北上が早くなり、青森県沿岸域
での漁場形成期間が短くなっていることが考えられる。
加藤 慶樹(東北区水産研究所) アメリカオオアカイカ
FAO漁獲統計によると、2012年のアメリカオオアカイカ漁
獲量は95.1万トンとなり、本種漁業が始まってから最も高い
漁獲量を更新し、頭足類の中で最大の漁獲量を維持した。
そのうち、ペルーとチリがそれぞれ49.7万トンと14.5万トン
の漁獲を揚げた。さらに、特筆すべきことは、ペルー沖公海
での中国の漁獲量が26.1万トンに達したことである。本種
は近年の世界的な需要の高まりから国際原料となっている。 上野 康弘(水産工学研究所) イカ釣り漁船やサンマ棒受網漁船は、近年、専業船が多
くなってきている。浮魚資源には長期変動があり、これら
漁船の主漁獲対象となっているスルメイカ・サンマもその
一つであり、資源の低水準期がある。また、漁期中でも
豊漁による魚価の低下などが経営を圧迫することがある。
複数の漁業種類に従事することができれば、ある資源の
低水準期には、他の資源を利用することが出来る。また、
魚価が極端に低下した場合には、早めに当該漁業を切り
上げて、他の漁業に転換できる。漁業経営を安定させる
上で非常に有利である。このような観点から、イカ釣り・
サンマ棒受網・流し網などを兼業できる漁船の基本構造
を検討し、その概略設計を行った。
設計した漁船は200総トンで、第一にサンマ棒受網漁業
を行うことを念頭に魚倉の構造(小分け魚倉)と配置を決
定した。第二に流し網を兼業できるよう船尾に流し網の収
納スペースを取った。また、第三にイカ釣り漁業を行うた
め追加(仮)甲板を船橋前の上甲板上に十分高さを取っ
て(作業者が楽に立ってイカのパン立てができるよう)張
れるよう設計した。また、十分な冷凍能力を付与した。同
規模の専業船と比較すると積載量はやや少なくなった。
概略設計について関係者・専門家の意見を聞いたが、そ
の評価は分かれた。
長根 幸人(青森県産業技術センター食品総合研究所) 当研究所は、青森県水産試験場製造部(明治33年)を
前身とし、第2次大戦後のイカの大漁貧乏による慢性的
な魚価低迷で社会経済的な損失が大きかったことから、
昭和31年、全国的にも珍しい水産加工部門だけの試験
研究機関として八戸市に水産物加工研究所が開設され、
八戸のイカ釣り漁業及び加工業界の発展とともに歩んで
きた。
これまで、イカの各種加工方法について県内加工業者、
加工グループ等が利用できるよう製造マニュアルを制作
したほか、スルメイカ付加価値向上、サキイカ開発、アカ
イカ調味加工品、海外イカ等の新加工原料、イカ凍結粉
砕肉加工技術開発等の研究を行い、イカ加工業界を含む
関連分野にその成果を還元してきた。
中でも、アメリカオオアカイカを含む海外イカに関する各
種の試験研究は、その後のイカ原料の供給とその用途を
大きく広げる基礎となった。
現在、原料需給や消費者ニーズの変化する中、当研究
所が研究・開発し蓄積してきた学術的知見やノウハウを
活用することで、新たな動きに対し迅速かつ効率的な解
決に結びつくのではないかと考える。
アメリカオオアカイカを例とした世界のいか原
料流通 小売り店舗に出現するいか達 ニュージーランドスルメイカ
当海域で2015年に1隻の我が国いか釣り船が操業した。
資源量水準は、1987~2015年漁期の我が国いか釣り船の
CPUEデータから判断すると低位であると考えられる。また、
本資源の総漁獲量ベースで見ると、2013年の各国による
本資源の総漁獲量は約3.8万トンで2004年以降低迷してお
り、減少傾向が続いている。また、2016年より施行される、
外国チャーター船による操業禁止の法律をうけ、当該海域
における日本船の操業に関しては見通しがたっていない。
アルゼンチンマツイカ
2013年漁期における我が国いか釣り漁船は、2007年から
の南西大西洋からの完全撤退によって、引き続きアルゼン
チンEEZ内、公海域及び英国領フォークランドFICZ海域(暫
定保護海域)への入漁はなかった。2010年以降漁獲量は
増加し、2015年の資源は最高水準にある。
世界のイカタコ漁業は大盛況 スルメイカの原料供給と用途 酒井 光夫(東北区水産研究所) この11月6日から14日にかけて函館で国際頭足類諮問
委員会(CIAC)のシンポジウムとワークショップが開催され
ました。この国際学術集会は、世界中の頭足類(イカやタ
コ)の研究を中心に3年に1度、世界各国持ち回りで行わ
れるもので、日本では実に1991年以来24年ぶりです。当
時は日本のイカ漁業は世界の七つの海に展開して、他国
に追随を許さぬほどの全盛を迎えていました。しかし、そ
の後の世界の頭足類漁業、とくにイカ漁業の発展はめざ
ましく、日本も外国の漁業に多くを依存するようになりまし
た。 これを裏付けるように、近年の海外いか釣漁業や頭足
類の漁獲量が増えている。また、世界的に人気の高まっ
ているヤリイカやタコの漁業も順調に伸びているようであ
る。今回のCIACのワークショップでは、品質の良い南アフ
リカ共和国のヤリイカは日本では認知度が低く、ヨーロッ
パに輸出されているだけとのことである。 このような状況の中で、まだ利用度が低いのは大西洋
を除く世界の亜熱帯海域に生息するトビイカである。最近
年、インドではアラビア海のトビイカ資源開発のための調
査を開始した。日本の周辺の公海にも生息するこのイカ
の利用をできるように、世界に先駆けて日本でトビイカ漁
業開発と加工利用を推進できれば、わずかではあるが日
本のイカ関連水産業に貢献できるのではと考えています。
三木 克弘(中央水産研究所) スルメイカは供給漁業や漁獲物の供給形態によって生鮮
消費向けと加工原料向けに分けられる。前者は小型イカ釣
りが生産する発泡スチロール箱入りが中心で、後者はト
ロール、まき網、定置が生産するものと小型イカ釣りが生
産する木箱(コンテナ)入りとが中心である。中型イカ釣りが
生産する船凍スルメイカは生鮮消費向けと加工原料向け
の両方に用いられる。 加工原料向けについては、イカの品質やサイズ、価格帯
等によってアタリメやサキイカ等の乾燥珍味原料、塩辛原
料、開きやつぼ抜き、焼きイカ等の総菜原料に向けられる。
このうち、乾燥珍味では、1990年代以降、アメリカオオアカ
イカ(アメアカ)を主原料とする低価格の中国産サキイカが
大量に輸入される中で、国内加工ではアメアカからより付
加価値を高めたクンサキとスルメイカを原料としたアタリメ
や皮付サキイカ等によってすみ分けが図られてきた。塩辛
については、2000年代にはアメアカの耳とスルメイカのゴロ
から作られた低価格品が市場を拡大したが、近年アメアカ
の価格上昇によりスルメイカ製品に回帰している。イカ総菜
加工品については、アメアカやアルゼンチンマツイカを原料
とする製品も多いが、スルメイカを原料とする製品は高い競
争力を持っている。全てのスルメイカ製品に共通する問題
点としては、販売価格が固定的な中で、水揚減少に伴い原
料価格が上昇していることにある。
三木 克弘(中央水産研究所) アメリカオオアカイカ(アメアカ)は1990年頃、わが国が
世界に先駆けて利用を開始した新たなイカ資源である。
アメアカは、その後、資源量の増加や価格の安さ、供給
の安定性、利用における汎用性の高さから世界中で利
用が拡大した。現在、アメアカの漁獲を行っているのは、
ペルー、チリ、メキシコ等の沿岸漁業と中国等の遠洋漁
業である。前者が漁獲したアメアカは沿岸国で一次加工
されその大部分が輸出されている。中国やスペイン等で
は、沿岸国から輸入したアメアカ(中国では自国船による
漁獲物も合わせて)を最終加工し第三国に輸出する加工
貿易を行っている。
アメアカの用途は、乾燥珍味原料、イカリングや天ぷら
のようなイカ総菜原料、それ以外の用途である。アメアカ
を原料とした乾燥珍味の加工流通は、メキシコやペルー
等の沿岸国でボイルされた半製品(ダルマ)が韓国、中
国、日本でサキイカ等に二次加工されというルートが基
本である。しかし、近年ではペルーでサキイカまで加工さ
れ輸出されるケースが増えているという。一方、イカ総菜
加工品は、日本では天ぷら、フライ、イカステーキを始め、
多種多様な製品や具材として生産、利用されている。こ
れについては、中国で最終製品に近い段階まで加工され
輸入されるケースが多いが、一部生原料から日本で加工
されている。また、欧米ではリングとしての利用が多いが、
その加工流通に際しては、スペインが中国と同様の役割
を果たしている。また、アメアカは価格が低いことから、途
上国を含めて世界的で消費が拡大していることが特徴で
ある。
若林 敏江(水産大学校) 日本ではイカを様々な形に加工して消費しています。大
型スーパーやコンビニエンスストアに行くと、たくさんのい
か加工製品が販売されています。これらの製品にはどん
な種類のイカが使われているのでしょうか。製品には原材
料表示があります。ところが大半のイカ製品には「イカ」と
しか書かれていません。種類を調べようにも、加工製品は
元の姿を想像することができない形になってしまっていま
す。そこで原材料種を調べるために、いか加工製品の
DNA鑑定を行いました。スーパーやコンビニエンスストア
で売られている製品からは意外な種類のいかも出てきま
す。そしてこの結果からは、日本のいか漁業、流通だけで
なく、世界のいか漁業、流通の現状を垣間みることもでき
ます。今回は2008年と2013年に行ったいか加工製品の
DNA鑑定結果について「小売り店舗に出現するいか達」と
題してお話します。
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