人のいない国ラオスでの開発 - IDCJ

開 発の理 論と現 場をつなぐ
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I n t e r n a t i o n a l D ev e l o p m e n t C e n t e r o f J a p a n
財団法人
国際開発センター
全土が過疎地:人のいない国ラオスでの開発
ラオスはインドシナ半島の内陸国であ
ラオスと近隣諸国とのパフォーマンス
り、北を中国、東をベトナム、南・西を
の違いを説明する要因の一つは、人の数
ある。全県の全村に送電線を延ばしても、
タイと、経済成長が著しい国々に取り囲
の差ではなかろうか。ラオスには本当に
電力収入は微々たるものであろうし、有
まれている。近隣諸国の繁栄を受けて、
人がいない。首都でさえ人通りは少なく、
料道路で通行料を徴収しても大きな収入
ラオス経済も目覚しく発展しておかしく
車で30分も走ると風景はとたんに農村に
にはならないだろう。道路の補修費用が
ないのだが、首都ヴィエンチャンはビジ
なる。首都から中南部の主要都市に向か
捻出できないため、舗装しても数年たた
ネスマンの熱気が渦巻いているという状
う幹線道路を走っても、反対方向からの
ずして表面はボロボロである。人口過密
況ではない。確かに、2000年代後半の
車にはめったにあわない。沿道にも民家
な東アジア諸国であれば、道路を整備す
GDP成長率は8%程度と高く、近隣諸国の
はまばらである。ベトナムのハノイと南
れば、地域の商工業が活性化し、人々の
数値と比べ遜色はない。だが、これとい
部のホーチミン市をつなぐ国道1号線が、
所得が増加し、税収も増えるといったシ
って目立った外国投資案件があるわけで
昼夜を問わず混雑しており、沿線には民
ナリオが描けるかもしれないが、そもそ
もなく、鉱業以外には特に国際競争力の
家や商店が途切れないのとは好対照であ
もラオスには商工業活動を担うような民
あるような輸出産業もない。若者は職を
る。ラオスの人口は約600万人であり埼玉
家が沿道に存在しない。工業セクターを
求めてどんどんタイに出稼ぎに行ってし
県の人口に相当する。ラオスの国土面積
拡大しようにも労働力は希少であり、雇
まうらしい。教育、保健・医療といった
は意外に大きく、日本の本州とほぼ同じ
ってもすぐに賃金が上昇してしまうだろ
社会サービスは貧弱であり、主要指標を
である。埼玉県民が本州に散らばってい
う。あえて高賃金でも雇おうと思うほど
見るとまるでアフリカ諸国並みの低い数
ると考えると、ラオスでの人口の希薄さ
の質の高い労働力ではなく、そのための
値である。開発投資予算の8割をドナーに
が実感としてつかめるのではなかろうか。
基礎教育も受けていない。
依存しているところもアフリカに近い。
統計を見ても、ラオスの人口密度は26人
ラオスはアセアンの一員であり、社
一般に、東・東南アジア諸国は昔から人
/km であり、タイの126人/km 、ベトナム
会・経済開発のレベルをアフリカ並みか
的資源開発への意識が高く、所得水準が
の253人/km2、日本の343人/km2よりもずい
らアセアン並みにまで引き上げようとい
低いわりに社会指標は優れている。例え
ぶん低い。ちなみに、アフリカ大陸の人
う意向は、ラオス側にもドナー諸国側に
ば、ベトナムでは初等教育どころか中等
口密度は30人/km であるから、ラオスの人
も強い。だが、低い人口密度という地理
教育就学率でさえ100%を達成しそうな勢
口密度はアフリカ並みである。少ない人
的ハンディキャップを考えると容易なこ
いであり、こうした安価で優秀な労働力
口がどこかに集積していればまだしも、
とではなかろう。全国に教育、保健・医
を活用して、輸出指向型労働集約的工業
ラオスでは地理的に偏った人口集積はな
療のネットワークを展開し維持してゆく
化が進んでいることは周知のとおりであ
く、国民が全国の17の県に分散している。
のは、おそらくラオス政府だけでは無理
る。ラオスとベトナムはともに旧フラン
いわば全土が過疎地といった状況である。
であり、ドナーが技術的、資金的に支え
ス植民地であり、独立後は社会主義計画
社会サービスを提供する上で、これが
経済体制をとり、その後1985年ごろから
大きなハンディーであろうことは容易に
後の維持管理費用の捻出の問題を考える
経済改革に着手するなど、政治的、経済
想像がつく。学校を作っても周りに子供
と、徒に広範囲に手を伸ばさないことが
的に共通点が多い。なぜ両国の経済発展
は少なく、生徒から授業料を集めてもた
肝要であり、ドナーは財政支援等を通じ
や社会開発にこれほどの差が生じてしま
いした収入にならない。地方での教員給
て維持管理予算を補填してゆく必要があ
ったのだろうか。
与の遅配は恒常的な問題である。電力、
ろう。(文責:IDCJ主任研究員 三井久明)
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道路など経済インフラについても同様で
続ける必要があろう。インフラ開発は、
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