第 5 回 平和主義ということの考え方

【 連 続 講 座 】『 憲 法 の 考 え 方 』
第5回
平和主義ということの考え方
◎ 日本国憲法の平和主義の意義
・ それまでの国際条約や諸国憲法における戦争放棄の宣言が実効性をもたなかった
ことをふまえ、戦争放棄を現実のものとするために軍備廃止を宣言。
・ 「全世界の国民」の「平和的生存権」を確認し、
「政策としての平和」ではなく「人
権としての平和」を追求。
・ 欧米帝国主義列強に伍して植民地争奪戦を展開してきた軍事大国日本が、「全世界
の国民」の「平和的生存権」を確認して戦争放棄・戦力不保持を宣言したことの意
味は、きわめて大きい。それは、日本が、帝国主義と決別して全世界の人々の平和
的生存の実現をめざすということを、全世界に対して宣言したものにほかならない。
・ だから、近時の「9 条改憲」の動きが、帝国主義への復帰を意味するものとして、
全世界の人々に警戒心を抱かせることとなるのは、当然のこと。
* 平和的 生存 権を認 めた 判決
◆ 長 沼 ナ イ キ 基 地 訴 訟 第 1 審 判 決( 札 幌 地 裁 1973.9.7)… … ミサイ ル基 地は一 朝有
事の際 には まず相 手国 の攻撃 の第 一目標 にな るから 、基 地周辺 住民 の「平 和 的
生存権 」が 侵害さ れる 危険が ある 。
◆ イ ラ ク 自 衛 隊 派 遣 違 憲 訴 訟 控 訴 審 判 決( 名 古 屋 高 裁 2008.4.17)…… 戦 争の遂 行、
武力の 行使 等や戦 争の 準備行 為等 によっ て、個人の 生命 、自由 が侵 害にさ ら さ
れ、あ るい は、現 実的 な戦争 等に よる被 害や 恐怖に さら される よう な場合 、ま
た、戦 争の 遂行等 への 加担・協力 を強制 され るよう な場 合には 、平 和的生 存 権
の侵害 を理 由に、 その 差止や 損害 賠償を 求め ること がで きる。
◎ 憲法 9 条の解釈
・ 9 条 1 項は「侵略戦争」の放棄ということをいっているのか、それとも「自衛戦争」
を含め て放 棄する とい ってい るの か (「 国 際 紛 争 を 解 決 す る 手 段 と し て は 」 と い う 語 句
の 意 味 )。
・ 9 条 2 項はいっさいの「戦力」の保持を禁じているのか、それとも「自衛のための
戦力」の保持は禁じていないのか。
・ 9 条は「自衛権」も放棄したと考えるべきか、それとも「自衛権」は独立国家に固
有の権利として放棄の対象にはならないと考えるべきなのか。
・ 政府解釈は、
「自衛戦争」も「自衛のための戦力」も認められないとするが、「自衛
権」は否定されていないから「自衛のための必要最小限度の実力」は憲法 9 条にい
う「戦力」にはあたらない、とする→「自衛隊の海外出動は許されない」、「集団的
自衛権は認められない」。
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◎ 「安全保障」の考え方
・ もしどこかの国が攻めてきたらどうする?「非武装」は理想かもしれないけれど、
それでは国民の生命を守ることはできないんじゃないの? ← 攻められたらおし
まい!軍隊は国民を守らない!
・ 従来の議論は国家にとっての安全保障論。
「国家を守る」ということは、
「国民を守
る」ということと同じではない。
・ こんにち国際社会では「国家の安全保障から人間の安全保障へ」というのが「安全
保 障 」 に つ い て の 主 流 の 考 え 方 。「 国 境 に 対 す る 脅 威 」 よ り も 「 人 び と の 日 常 生 活
に対する脅威」から人びとの安全を保障することが真の安全保障。貧困、飢餓、差
別、抑圧、環境破壊、食糧不足、水不足等々への対処こそ重要。これらの問題の解
決に、軍事力はなんの役にも立たない。
・ 国連開発計画 ( UNDP) が 1994 年に提唱した「人間の安全保障」論は、日本国憲
法の「平和的生存権」に通じる考え方。
・ 「人間の安全保障」は途上国だけの問題ではない!
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