中堅・中小企業における 人的承継の成功ポイント(下)

企業&Report
人的承継とはいわゆる世代交代である。物的承継は結局のところ相続税、つまりお金の問題である。
これに対して人的承継は人の問題である。人的承継の失敗は会社の倒産に直結するといっても過言で
はない。本稿では人的承継を成功に導くための、後継者に求められる必須条件をチェックポイント形
式で列挙する。
山田ビジネスコンサルティング㈱
代表取締役社長
増田慶作
1961年宮崎県生まれ。中央大学法学部卒1989
年東洋大学大学院修了。相馬司法書士事務所、
麻生会計事務所などを経て、1991年山田 & パー
中堅・中小企業における
人的承継の成功ポイント
(下)
会長のどちらの方を見ていいのかわか
いに役割を分担することが肝要だ。
らない」と社員が思い始めたら、会社
トナーズ会計事務所 ( 現税理士法人山田 & パー
は内向き組織になる。本来、外に意識
その他のチェックポイント
トナーズ ) 入社、2000年山田ビジネスコンサル
を向けて競合他社と戦うべき集団が
経営幹部の承継ができているか、も
内向きになっては勝てるわけがない。
しくは承継の準備ができているか。事
ティング株式会社代表取締役就任。税理士、司
法書士。
(2)人事権を後継者に渡しきってい
後継者に関するチェックポイント
るか
業承継は社長だけの承継ではない。顧
客やノウハウは人に帰属しがちだ。営
一般的に、人事権を持っている者の
業部長が引退したとたんに顧客が逃げ
言うことを部下は聞く。役職が上にな
た。工場長が引退したとたんに品質が
経営課題のない会社はない。どんな
るほどこの傾向が強いようだ。先代が
落ちた。よく聞く話である。営業部長
に業況のよい会社でも必ず課題が存在
人事権を握っていては、社長は人心を
や工場長など現場の要となっているメ
する。会社の成長は市場・競合の変化
掌握できない。自分が手塩にかけて育
ンバーの後継者がいるか、もしくは承
にどれだけ柔軟かつ適切に対応できる
てた組織を次世代に渡すのは、寂しい
継の準備ができているか。中堅・中小
かによる。市場・競合の変化を的確に
ものだ。ただ、
経営は個人事ではなく、
企業の場合、限られた人材で戦うしか
判断し、自社の現状を把握して課題を
会社事である。
ない。経営幹部の承継は「社長の承継」
(5)自社の経営課題を網羅的に把握
しているか
設定していく必要がある。
(3)自分の腹心であった者に対して
たとえば、これからの人口減少時代を
幹部としての役割を言い含んで
どう定義し、自社の課題をどう設定する
いるか
と同じくらい重要なテーマだ。
総括
か。そして課題克服のために具体的にど
先代に育てられた幹部は、どうして
後継者・先代・その他のチェック項
のように行動するか。足元の経営課題だ
も先代の方を見てしまう。先代ととも
目として、人的承継の重要事項を列挙
けではなく、将来に向けた経営課題の
に成功体験を経た幹部ほど社長の経営
した。会社の業績を下げたいと思って
把握、それに対する的確な施策の立案・
に懐疑的になりがちだ。社長より年長
いる社長は1人としていない。
実行管理能力は経営者の必須条件だ。
である経営幹部の役割は社長を育て、
一方、世代交代を機に業績が落ち込
かつ自らの後継者を育てることにあ
んでいる会社が多数ある。逆に世代交
る。彼らに自らの役割を自覚させ、行
代後も好業績を維持・拡大している会
動させるのは先代をおいて他にない。
社も多い。
先代に関するチェックポイント
(1)後継者の経営に口出ししていな
いか
先代にとって、社長になったとはい
(4)会社の経営課題について後継者
と共有できているか
人的承継の場合、会社ごとにさまざ
まな承継の仕方があると思う。これが
え、息子はいつまでたっても息子であ
先代が会社を成長させてきた時代と
「解」であると不遜なことを述べるつ
る。頼りなく、危なっかしいものに見
若い社長がこれから率いなければなら
もりはないが、人的承継を上手に乗り
える。だからつい社長の経営に口を出
ない時代とはまったく異なる。時代背
切っている会社は、先代・後継社長・
しがちになる。先代が社長を指導する
景の違いが先代と社長の会社の経営課
経営幹部のコミュニケーションが密
のは大切だが、まずいのは社長と違う
題の共有化を阻んでしまう。今後会社
で、それぞれの立場を尊重している。
ことを社員に指示すること。指揮命令
の成長を持続させるか、そのための課
決して独りよがりになっていない。読
系統が二分して困るのは社員。
「社長・
題は何かについて率直に話し合い、互
者の会社はいかがだろうか。
64 THE
BUSINESS SUPPORT 2006.04