高級冷間ダイス鋼 SLD

高級冷間ダイス鋼 SLD
7 冷間鍛造用工具の事故原因と対策実例
8 熱処理の欠陥と対策実例集
焼入温度は高いために焼入れ中に発生した割れ
(焼入れ前に材料に表面脱炭がある場合もおこることがある。)
正しい焼入温度を守って焼入れすることが必要。
焼入れ品の研削によってひどく割れた例で、焼入温度が高すぎたため、
割れに対して敏感になったのが原因。
7 冷間鍛造用工具の事故原因と対策実例
7/1 冷間鍛造用工具の寿命に影響を与える因子
冷間鍛造用工具に限らず一般に工具には、圧縮、引張、剪断、摩擦な
どの応力が反復作用し、ときにはこれら応力が衝撃的に加わるこ
第 22 表に冷間鍛造用工具の寿命に影響を与える因子を紹介しま
す。
ともあります。
工具の性能を使用条件に適合させるということは、いざ実行し
工具がこれら応力に耐えるためには、圧縮強度、抗折力、耐摩
てみると意外にむずかしいものですが、これは第 22 表に示すよ
耗性、赤熱硬さ、じん性、疲労強度などの緒性質が優れているこ
うに圧造材料、工程設定、工具形式、加工速度、潤滑条件などの
とが必要ですが、これら諸性質のすべてを兼備しなければならな
圧造条件に関する要素が多岐にわたっていること、これら個々の
い工具はきわめてまれであり、また現実のいかなる工具材料と熱
要素が工具寿命に及ぼす影響はまだ技術的に十分解明されてない
処理技術をもってしても、得られる性能には限界があります。
こと、さらにこれら使用条件の細部にわたる情報を得てから工具
たとえば、圧縮強度とか耐摩耗性を重視するとすれば、硬くす
ればよいわけですが、しかし、そのためにじん性が犠牲になるわ
を制作するという時間的な余裕がないことなどの理由によるもの
であります。
けで、硬さとじん性という相反する性質の妥協点を、工具の使用
条件に応じて充分把握することが必要であります。
そこで従来から使用されてきた工具の事故原因を検討して、硬
さとじん性のいずれかが不足していたかを現象的に判断すること
が、より良い工具を作るための大事なポイントとなります。
つぎにパンチの事故原因と対策の一例について紹介致します。
工 具 に 関 す る 因 子
使 用 条 件 に 関 す る 因 子
工 具 設 計
●工程設定、各加工段階での加
工形状設
●工具間の関係寸法
●工具個々の形状、コーナーR
とエッジの面取り
工 具 材料
●鋼
種
●材料どり
●材料欠陥
品
圧 造 材 料
熱 処 理
●熱処理の種類(普通熱処理か
特殊熱処理か)
●熱処理欠陥
機 械 加 工
●表面粗さ、有害なツールマー
クの有無
●必要な面取り、Rをとってあ
るか
●加工精度
第 22 表
製
機
械
工 具 取 付 け
●寸法と形状
●寸法の許容差
●鋼
種
●変形抵抗
●表面状態
●形状(体積のばらつき、形の
いびつ)
●機械の精度
●加工速度
●潤滑剤と供給方法
●芯と直角度
●取付けのガタ
●工具相互の関係寸法
冷間鍛造用工具の寿命に影響を与える因子
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7/2 パンチの事故原因および対策の一例
第 23 表にパンチの事故原因と対策の一例を示します。冷間ダイス鋼より高速度工具鋼の方が概してすぐれた性能を発揮するのは、硬さ
が高いにもかかわらず、引張応力による破壊に対して強いことが原因としてあげられます。
事 故 状 況
ノーズ周囲の
チッピング剥離
原
因
●過応力の負荷
●材料の誤った選択
●加工法の不良
対
策
●製造工程の細部設計
のチェック
(ノーズ接ぎ部R)
●パンチのじん性向上
(硬さを下げる。
YXR3の使用)
●応力集中
シャンクとステ ●粗いツールマーク
ムの接ぎ目の横 ●粗い砥石による
スクラッチ
割れ
●小さなR
●機械加工と研削の
注意
●ポリシングRは可能
な限り大きくなめら
かにする。
●ノーズの機械的強さ
の熱による低下
ノーズ後の横割 ●大きな圧縮応力
●接ぎ部の小さなR
れ
●高速度鋼に比べ冷間
ダイス鋼に多く発生
●高速度鋼の使用
●製造方法のチェック
大きな曲り
ふ く ら み
歪
破損
●パンチ長さと径の比
が大きい
●パンチが軟らかい
(不十分な熱処理)
●工具取付け不良によ
る偏心荷重
●不正確なビレット
●工具取付けのチェック
●パンチ硬さのチェック
●可能ならステム長さを
小さくする
●前もってビテットの面
を正確にする
●ダイにパンチシャンク
ガイドをつける
●工具の過負荷
●不適当な熱処理
●取付運転の不注意
●機械的送り不良
●疲れ
●熱処理の正しい管理
●ビレットの正しい送
り(管理と訓練)
●工具材料の選択
●大きな応力
●材料欠陥
ステム表面の軸 ●針状炭化物
方向のクラック ●非金属介在物
●設計不良
●研削不良
●潤滑不良
●熱処理不良
ひどい摩耗焼付 ●悪い製造法
第 23 表
左項のチェック
●製造法の検討
●HAP40の試用
●表面処理(窒化、CV
D、PVD)
パンチの事故原因と対策の一例
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パンチの形状と名称
ーシャンク
ー肩 部
ーステム
ーノーズ
8 熱処理の欠陥と対策実例集
高すぎる温度から焼入れ
たために割れたもの。
この型の割れの主要原因は、焼入れ後、焼もどしをおこ
なわなかっため。
左の型は鋭い隅かどから割れが生じており隅かど部にはR
をつけることが必要、また右の型は孔部より割れが生じて
おり孔に詰め物をすることが必要。
焼入れ時に過度に冷却したため焼割れを
発生したもの。
焼入れ中に適当な温度から引き上げてマル
テンサイト変態付近を徐冷するように心が
けることが必要。
焼入温度は高いために焼入れ中に発生
した割れ
(焼入れ前に材料に表面脱炭がある場合
もおこることがある。)
正しい焼入温度を守って焼入れすること
が必要。
この型は、熱処理のとき外周部だけしか
硬化しなかったため、使用中に割れたもの
このゲージは断面には急激な変化が
ないにもかかわらず、焼入れ直後に焼
もどしを行なわなかったために割れた
もの。
焼入れ品の研削割れの例
で、研削方向に直角に、な
らんであらわれている。
浸炭された結果脆くな
り、端面が欠けたもの。
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焼入れ時過冷したことと、ただちに
焼もどしをしなかったために両方の鋭
い隅かどから割れが入ったもの。
焼入れ品の研削によってひどく割れ
た例で、焼入温度が高すぎたため、割
れに対して敏感になったのが原因。
この型は硬化中に割れたもの
で、高すぎる温度から焼入れた
結果である。
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