「女が男と同じくらい強いと思ってんの?」 小学校で言われたけど。

「女が男と同じくらい強いと思ってんの?」
小学校で言われたけど。
文・眞鍋
映画の「大奥」の画面で、女たちが男たちと立場が逆転して籠や荷物運びをやっている姿
を見て、痛々しいと感じました。とてもつらそうな感じ。腕力では男性にはかなわないんだ
なとつくづくがっかりしたのを覚えています。「ミレニアム ドラゴン・タトウーの女」で
も作者がリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』をモデルとしたという凄腕ハッカーのリス
ベットも男たちに殴られ痛々しい姿を見せますが、そばにあったボトルを割って、振り回し
てその迫力で最後には男たちを威圧している。現実に物理的に弱い存在でも精神的な強さを
見せつけることで相手を圧倒している。
『彼女のためにぼくができること』クリス・コルファー著(あかね書房2011)はかわいい
話ではありません。現代はStaying Fat for Sarah Byrnes。サラ・バーンズのために太った
ままでいること。頭はいいけど太っていてみっともなくてみんなからのけものにされている
エリック・カルフーンは顔にひどいやけどを負ったサラ・バーンズと友人になります。唯一
同等に話の出来る女の子。そんなひどいやけどを負って、それを馬鹿にされても強気で毒舌
をはいて、男子をやりこめる根性のある子。そんな唯一の友だちがある日まったく口を利か
なくなってしまいました。何をいっても答えなくなった彼女は精神病院に入院させられてし
まいます。そしてエリックは毎日面会に行くのですが…。好きになった女の子のために男の
子が尽くす話ではありませんが(エリックはライバルの女の子が好きです)その分、ストレー
トに感情が共感できます。彼は結構水泳でいい線をいっていて、コーチに見込まれていまし
た。でも自分も楽しいと思っていながら水泳に力をいれるとやせてしまう。すると、のけも
のグループから普通の子グループにいってしまうことになって、そしたら精神病院に入って
しまったかわいそうなサラの友だちがだれもいなくなってしまう。サラを裏切ることはでき
ない、と水泳の後もガブ食いをしてやせることを食い止める、なかなか不健康な毎日でした。
いじめられているデブの主人公にひどい火傷の不屈の少女、意地悪な副校長、いけすかな
い優等生、何年も留年している不良と、その親たちが最初敵だった人が味方に、いい人だと
思っていた人が実は…と意外な展開をしていきます。現実でもそうですよね。結構人って話
してみないとわからなかったりします。福田恒存という人が「ひとはもともと善か悪かで別
れるものではなく、生きたいと思う心が環境によって善になったり悪になったりするのだ」
というようなことを言っています。自分が善でいられるのなら、その環境に感謝すべきかも
しれません。生まれながらの善なる人も悪なる人もいないのだと。
サラ・バーンズが口を利けなくなった秘密、その顔の火傷の秘密がわかったとき、彼らを
恐怖が、命の危険が襲います。頼りにすべき大人(親・先生)が臆病だったり、自分のこと
しか考えない犯罪者だったりしたら、子どもはどうすればいいのか?
思い悩むエリックに、救いの手を差し伸べる水泳の鬼コーチは、女性で議論の授業の先生
でもあります。彼女の授業もすごく魅力的なのですが、やはりこの本の一番印象に残ったの
はサラ・バーンズの、どんなにひどいめに遭わされても卑屈にならずに堂々としている態度
でした。その精神的な強さが、エリックという友だちを得て、レムリー先生という援助者を
得て、やがては大学にいけるほどの知性と生活環境を獲得することになりました。
女性は男性より腕力は弱い。けど、影響力で劣ることはない。そう思わせてくれるサラ・バー
ンズでした。