会計処理めぐる株主代表訴訟、 役員らの賠償責任を認めず

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課徴金を命じた金融庁と異なる判断を示す
会計処理めぐる株主代表訴訟、
役員らの賠償責任を認めず
課徴金の納付命令を受けたビックカメラをめぐり、同社の株主が提起していた株主代表訴
訟で、役員らが勝訴する判決が下された(東京地裁平成 25 年 12 月 26 日判決)。本件では、
ビックカメラが信託受益権の譲渡取引を「売却取引」と判断したことが適法か否かが問題と
なっていた。この点、裁判所は、ビックカメラの会計処理は違法とはいえないと判断し、株
主側の役員らに対する損害賠償請求を斥けている。この裁判所の判断は、会計処理(売却取
引)を違法と判断した金融庁の課徴金納付命令と異なるもの。本事案の株主側は、課徴金の
是非を審判手続きで争わないことを選択した点について、役員らに対して損害賠償を求めて
いたが、裁判所はこれも棄却している。なお、敗訴した株主側は、控訴している。
裁判所、
「売却取引」とした会計処理は流動化実務指針に違反せず
本事案では、東証 1 部上場企業のビックカ
取り扱われることとなる(5 項、13 項)。ま
メラが上場前に行っていた SPC を利用した
た、譲渡人の子会社が負担するリスクを譲渡
不動産流動化を伴う信託受益権の譲渡取引
人が負担するリスクに加える旨が規定さてい
が、
「売却取引」と「金融取引(≠売却)」の
る(16 項)。
いずれかであるかが問題となっていた。
これを本事案でみると、SPC への出資(総
流動化実務指針では、譲渡人のリスク負担
額 290 億円)は、譲渡人であるビックカメ
割合が 5% を超えると、「金融取引」として
ラが約 15 億円、A 社(ビックカメラ創業者
【図】 譲渡取引の概要
100%支配
被告役員Y
100%支配
かつ大株主である被告役員 Y が 100% 支配)
が約 75 億円であった(図参照)。このとき、
ビックカメラ単体でみた場合のリスク負担割
貸主出国の4か月後、
合は 5% である。ただ、A 社がビックカメラ
❷ 貸主が「非居住者」に
の子会社に該当するのであれば、ビックカメ
なった旨を連絡
信託受益
ビックカメラ
A社
権を290
15億円
75億円
億円で譲 (出資)
(出資)
渡
特別目的会社
(SPC)
(注)信託受益権の譲渡および被告役員Yによる支配関係
は、ビックカメラが上場する前の平成14年当時のもの
である。
40
ラのリスク負担割合は約 31% になり、信託
受益権の譲渡は「金融取引」となる。
証取委は金融取引と判断、課徴金の納付命令
ビックカメラは、信託受益権の譲渡につい
て、A 社は子会社に該当しないため、「売却
取引」と判断していた。しかし、証取委が A
社は子会社に該当する旨を指摘したことを受
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No.537 2014.3.3
❹
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け、譲渡取引を「金融取引」に変更する過年
また、仮に A 社が子会社に該当するとして
度決算訂正を行った。このとき、ビックカメラ
も、ビックカメラと A 社を実質的に支配して
は、約 2 億円の課徴金納付命令を受けている。
いた被告役員 Y は、両社の親会社類似の立場
この処分を受け、ビックカメラの株主は、
にあり、A 社が負担するリスクは、被告役員
会計処理につき任務懈怠があったとして、同
Y が最終的に負担することになると指摘。A
社の役員らに対して損害賠償を請求する株主
社が負担するリスクをビックカメラが負担す
代表訴訟を提起していた。
るリスクに加算しないことも、流動化実務指
売却取引は適法、役員の任務懈怠を認めず
針上、許容されていると判断した。
株主の訴えに対して、裁判所は、ビックカ
そのうえで、信託受益権の譲渡を「売却取
メラがその大株主である被告役員 Y を通じて
引」とした会計処理は、流動化実務指針に反
A 社の意思決定機関を支配しているというこ
する違法なものとは認められないため、役員
とはできないなどと指摘し、A 社はビックカ
らに会計処理の違法を根拠とした任務懈怠は
メラの子会社には該当しないと判断した。
認められないと結論付けた。
課徴金の是非を審判手続きで争わなかった役員らの責任は?
ビックカメラは、当初は信託受益権の譲渡
令と異なるものだ。
を「売却取引」と処理していたが、証取委の
この点、本事案の株主側は、課徴金の是非
指導を踏まえ、
「金融取引」とする内容の過
を審判手続きで争わないことを選択した取締
年度決算訂正を行っている。このとき、ビッ
役らに対して、課徴金相当額の損害賠償を求
クカメラは、売却取引とした会計処理が適法
める主張も行っていた。
か否かを課徴金の審判手続き(今号 42 頁参
しかし、裁判所は、会計監査人の辞任や上
照)で争うことはなかった。
場廃止のリスクがあると考えたうえで課徴金
今回の判決は、信託受益権の譲渡を「売却
を支払うことにより問題の早期終結を図った
取引」としたビックカメラの会計処理を適法
役員らの判断に著しい不合理があったとまで
と判断している。これは、会計処理(売却取
はいえないと指摘し、役員への賠償責任を求
引)を違法と判断した金融庁の課徴金納付命
める株主側の主張を斥けている。
【参考】
「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」
(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第 15 号)
第 5 項 ……リスクと経済価値のほとんどすべてが、譲受人である特別目的会社を通じて他の者に移転し
ていると認められる場合には、譲渡人は不動産の譲渡取引を売却取引として会計処理する。
第 13 項 ……リスク負担割合がおおむね5%の範囲内であれば、リスクと経済価値のほとんどすべてが他
の者に移転しているものとして取扱う。
第 16 項 ……リスク負担割合の算定に当たっては、譲渡人の子会社または関連会社が負担するリスクを譲
渡人が負担するリスクに加えてリスク負担割合を算定して判断する。
第 40 項 ……なお、譲渡人の親会社及び子会社がリスクを負担する場合には、当該リスクを含めないで算
定する。
※ 一部省略化したうえで抜粋
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No.537 2014.3.3
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