DP:原則から実践へ - International Baccalaureate

ディプロマプログラム(DP)
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラム(DP)
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラム(DP)
DP:原則から実践へ
2009 年 4 月に発行の英文原本 The Diploma Programme: From principles into practice の日本語版
2014 年6月発行
本資料の翻訳・刊行にあたり、
文部科学省より多大なご支援をいただいたことに感謝いたします。
注:本資料に記載されている内容は、英文原本の発行時の情報に基づいています。
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International Baccalaureate Baccalauréat International
International Baccalaureate Organization
Bachillerato Internacional
目次
はじめに
1
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
3
はじめに
3
IBの使命
3
IBの学習者像
4
幅広さとバランス
5
専門的な学問領域と学際的な理解
6
多様な文化を理解するための教育
7
全人的な教育体験
8
学び方を学ぶ
8
アクセス
9
教師としての専門性の創造的発揮
実りあるプログラムの開発
10
11
はじめに
11
DP導入の決定
11
開発の段階
12
生徒への導入セッション――DPへの円滑な移行
18
DPコーディネーターの役割
19
アクセス可能なプログラムの構築
24
はじめに
24
DPか科目別修了証か
24
生徒の選考
24
スケジュールと開講科目
26
言語オプションと言語サポート
27
「特別な教育的ニーズ」がある生徒
27
教師および生徒への継続的な支援
28
DP:原則から実践へ
vii
カリキュラムデザインとスケジュール作成
29
はじめに
29
学校のDP科目選択
29
DPと学校スケジュール
30
DPのデザインとスケジュール作成の要素
31
「IBの学習者像」の開発
36
はじめに
36
学校文化
37
「IBの学習者像」を支え発展させるために学校は何ができるか
指導・学習・評価
37
42
はじめに
42
DP科目のコースデザイン
42
DP科目の「指導の方法」
44
言語学習の支援
46
学際的な視野の育成
46
評価 47
専門性の向上
「専門性を高める学びのコミュニティー」としての学校
49
49
IBが提供する教員研修の機会
50
専門性の向上に期待されること
50
参考文献
52
はじめに
本資料『DP:原則から実践』へは、国際バカロレア(IB)により作成されました。
以下の学校の管理職、ディプロマプログラム(DP)コーディネーター、そして教師を対
象としています。
•候補校
•新規にDPを提供することが認定されたIBワールドスクール(IB認定校)
•すでにプログラムの開発や評価のプロセスについての経験があるIB認定校
また、本資料の内容は、既存のIB認定校の生徒や保護者、DPの導入を検討している
学校にも有益であると考えています。ただし、本資料はDPについての入門書ではありま
せん。読者がプログラムに関してある程度の知識を有していることを前提としています。
DPを実りあるものにするためには、効率的な学校運営に加え、学校の強いリーダー
シップと協力的な学習環境が必要です。プログラムの運営に関連するプロセスは、IB資
料『DP手順ハンドブック』で包括的に説明しています。ハンドブックでは、プログラム
の実施における具体的な規則や要件を詳しく解説しています。
本資料では、プログラムを全体的な観点から捉え、学校で培うべき教育上の原則と実践
を取り上げます。こうした教育上の原則と実践を通じて、実りあるDPを支える確固とし
た基礎を構築、維持することができるのです。IBは基本的に、それぞれの学校が各自の
状況に即したDPを開発するのを支援する立場にあります。まず初めに、この意味を理解
することが重要です。学校が提供するプログラムの質に対して責任を負うのは学校です。
学校とIBは、「『IBの学習者像』の具現化を通じて、IBの使命を実現する」という共
通の目標に向かって協力し合う関係にあるのです。
本資料の活用にあたっては、IB資料『プログラムの基準と実践要綱』を併せてお読み
ください。『プログラムの基準と実践要綱』では、学校が実施しているプログラムの有効
性を測るための判断基準を示しています。本資料では、その「基準」に基づき、「基準」
が「実践」において何を意味するのかを解説します。学校を改善していくためには、自己
評価は欠かせません。本資料は『プログラムの基準と実践要綱』とともに、学校の自己評
価のプロセスにおけるガイダンスとサポートを提供しています。
DPを提供しているIB認定校は、それぞれ特定の環境や要求に合わせてさまざまな状
況の下で運営されています。本資料が示す原則やそれに伴う判断基準の中には、各校の状
況によっては、完全に実現することは困難な、「努力目標」として位置づけられるものもあ
ります。一方、プログラムを成功させるためには継続的な努力が必要であり、学校が改善
に向けて最善を尽くすことが最も重要なこととして期待されています。
また、本資料が参照している以下のIBの刊行物は、プログラムの導入と開発のプロセ
スに関する理解を深めるために役立ちます。これらの資料は、IBのオンラインカリキュ
DP:原則から実践へ
1
はじめに
ラムセンター(OCC)
(http://occ.ibo.org)およびIBのウェブサイト(http://www.ibo.org)
で入手することができます。
•『IB learner profile booklet(IBの学習者像パンフレット)』(英語版)
•『DP手順ハンドブック』
(英
•『Rules for IB World Schools: Diploma Programme(IB認定校のための諸規則:DP編)』
語版)
•『General regulations: Diploma Programme(総則:DP編)』(英語版)
•『プログラムの基準と実践要綱』
•『一貫した国際教育に向けて』
•『Diploma Programme: School guide to the authorization visit(DP:学校のための認定訪問
の手引き)』(英語版)
•『Diploma Programme assessment: Principles and practice(DPにおける評価:原則と実践)』
(英語版)
•『「知の理論」(TOK)指導の手引き』、『「創造性・活動・奉仕」
(CAS)指導の
手引き』、『「課題論文」(EE)指導の手引き』
•各DP科目の「指導の手引き」
•『母語以外の言語によるIBプログラム学習』
•『学内言語方針の策定ガイドライン』
•『受験上の配慮の必要な志願者について』
•『学問的誠実性』
2
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
はじめに
DPは、16 歳から 19 歳の生徒を対象としたチャレンジに満ちた教育課程です。国際的
な視野に立ち、幅広くバランスのとれた教育体験を提供しています。生徒は、2年間の課
程で6科目とカリキュラムの中核を成す「コア」
(必修要件)を履修することが求められま
す。DPでは、生徒が大学やその先の教育、そして将来選択する職業で必要とされる基本
的なアカデミックスキルのほか、充実した目標ある人生を送るために必要な価値観や生活
スキルを身につけることを目指しています。
DPの原動力となっているのは、教育の本質についての理念です。その理念は、
「IBの
使命」や「IBの学習者像」、そしてカリキュラムを根底で支え、発展を促す基本原則の中
に表れています。
IBの使命
国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より
良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富
んだ若者の育成を目的としています。
この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレン
ジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んで
います。
IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとし
て理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認
めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわ
たって学び続けるよう働きかけています。
「IBの学習者像」は、「IBの使命」を 10 の人物像で具体的に表現したものであり、
IBの3つのプログラムすべてに共通して育成を目指している学習者の人物像を定めてい
ます。また、
「IBの学習者像」は、IB認定校およびIB教師にとって最も重要なことは
何かを振り返るための指針となるよう、プログラムの中心に位置づけられています(図1
「DPのプログラムモデル」参照)。
[ 訳注 ] 2012 年には「IBキャリア関連教育サーティフィケイト」(IBCC)が設置され、IBが
提供する国際教育プログラムは4つになりました。本資料に記載されている内容は、英文原本の発行
時の情報に基づいています。
DP:原則から実践へ
3
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
IBの学習者像
[訳注]
「IBの学習者像」は 2013 年に改訂されました。以下は改定後の新しい「IBの学習者像」です。
すべてのIBプログラムは、国際的な視野をもつ人間の育成を目指しています。人類に
共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くこ
とに貢献する人間を育てます。
IBの学習者として、私たちは次の目標に向かって努力します。
探究する人
私たちは、好奇心を育み、探究し研究するスキルを身につけます。
ひとりで学んだり、他の人々と共に学んだりします。熱意をもって
学び、学ぶ喜びを生涯を通じてもち続けます。
知識のある人
私たちは、概念的な理解を深めて活用し、幅広い分野の知識を探究
します。地域社会やグローバル社会における重要な課題や考えに取
り組みます。
考える人
私たちは、複雑な問題を分析し、責任ある行動をとるために、批判
的かつ創造的に考えるスキルを活用します。率先して理性的で倫理
的な判断を下します。
コミュニケーションが
できる人
私たちは、複数の言語やさまざまな方法を用いて、自信をもって創
造的に自分自身を表現します。他の人々や他の集団のものの見方に
注意深く耳を傾け、効果的に協力し合います。
信念をもつ人
私たちは、誠実かつ正直に、公正な考えと強い正義感をもって行動し
ます。そして、あらゆる人々がもつ尊厳と権利を尊重して行動しま
す。私たちは、自分自身の行動とそれに伴う結果に責任をもちます。
心を開く人
私たちは、自己の文化と個人的な経験の真価を正しく受け止めると
同時に、他の人々の価値観や伝統の真価もまた正しく受け止めます。
多様な視点を求め、価値を見いだし、その経験を糧に成長しようと
努めます。
思いやりのある人
私たちは、思いやりと共感、そして尊重の精神を示します。人の役
に立ち、他の人々の生活や私たちを取り巻く世界を良くするために
行動します。
挑戦する人
私たちは、不確実な事態に対し、熟慮と決断力をもって向き合いま
す。ひとりで、または協力して新しい考えや方法を探究します。挑
戦と変化に機知に富んだ方法で快活に取り組みます。
4
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
バランスのとれた人
私たちは、自分自身や他の人々の幸福にとって、私たちの生を構成
する知性、身体、心のバランスをとることが大切だと理解していま
す。また、私たちが他の人々や、私たちが住むこの世界と相互に依
存していることを認識しています。
振り返りができる人
私たちは、世界について、そして自分の考えや経験について、深く
考察します。自分自身の学びと成長を促すため、自分の長所と短所
を理解するよう努めます。
この「IBの学習者像」は、IBワールドスクール(IB認定校)が価値を置く人間性を 10
の人物像として表しています。こうした人物像は、個人や集団が地域や国家、そしてグローバ
ルなコミュニティーの責任ある一員となることに資すると私たちは信じています。
幅広さとバランス
DPは、生徒一人ひとりの教育体験全体に関わることを際立った特徴とするプログラム
です。カリキュラムの枠組み(図1参照)と、それを支える構造および原則は、各生徒が
確実に幅広くバランスの良いカリキュラムを履修できるようにデザインされています。
「IBの学習者像」とカリキュラムの中核を成す「コア」は、プログラムの中心に位置し
ています。これはIBが、認知的発達とともに情意的発達を重視しており、アカデミック
な学習だけでなく、能力の高い意欲ある市民の育成に力を注いでいることを反映していま
す。生徒は、「コア」の必修3要件である「知の理論」(TOK:theory of knowledge)、「課
題論文」(EE:extended essay)、「創造性・活動・奉仕」(CAS:creativity, action, service)
を通じて教育体験の幅を広げ、知識と理解を実生活に結びつけて活用することに取り組み
ます。
図1
DPのプログラムモデル
DP:原則から実践へ
5
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
生徒は6科目を同時に学びます。言語を計2科目、「個人と社会」(グループ3)から1
科目、「理科」(グループ4)から1科目、「数学」(グループ5)から1科目、そして「芸
術」(グループ6)から1科目を学習します。ただし、「芸術」から1科目選ぶ代わりに、
グループ
他の教科で2科目選択することもできます(科目の選択および関連するその他の要件につ
いての詳細はIB資料『DP手順ハンドブック』を参照)。また、学際的な科目として「環
境システムと社会」を履修することもできます。「環境システムと社会」は1科目でグルー
プ3とグループ4の両方を履修したと見なされるため、合計履修科目を6科目とするため
に、グループ1~6からもう1科目を自由に選択することができます(グループ3または
グループ4に属する別の科目を履修することも可能です)。
大学やその後の職業において必要となる専門分野の知識やスキルを、大学入学前の段階
で準備しておくことは非常に重要です。DPでは、履修する6科目のうち、3科目(また
は4科目)を上級レベル(HL)科目とすることで、専門的な学習に取り組むことを奨励
しています。一方、残りの3科目(HLで4科目を選択した場合には2科目)は標準レベ
ル(SL)科目から幅広く履修することが要件となっているため、生徒はバランスのとれ
た学習をすることができます。
専門的な学問領域と学際的な理解
DPのカリキュラムは、専門的な学問領域に基づいています。各学問領域には、それぞ
れの方法論的枠組みがあり、生徒はその枠組みを理解し、活用することを学習します。枠
組みを理解することは、学問領域の本質を深く理解し、将来の大学レベルでの学びに向け
て確固とした基盤をつくるために不可欠です。
生徒は各科目をそれぞれ独立して学習するのではなく、学習する学問領域を相互に結び
つけることが期待されています。教師および学校は、指示を与え、授業計画(しばしば「タ
イムテーブル」と呼ばれる)を作成し、作業しやすい学習環境を提供することで、生徒が
学問領域間を相互に関係づける手助けをする責任があります。DPでは、学際的な学習の
1つの重要な手段として、同時並行的な学習(concurrency of learning)の実施が望まれて
います。
同時並行的な学習とは、生徒が2年間のプログラムの全期間を通じて、6つの全科目と、
「コア」の必修3要件を並行して履修するようカリキュラムのスケジュールを組むことを指
しています。そうすることで、生徒も教師も「コア」と科目での学習経験を相互に結びつ
けることができるのです。この考えは「統合された教育経験は、各部分を足し合わせた以
上のものである」との信念に基づいています。
「知の理論」(TOK)では、ディスカッションや説明の場を設けており、学際的理解の育
成を支えています。「知の理論」(TOK)で取り扱う内容は、各科目での生徒の学習経験
と直接に関係することを重要視しており、一方、各科目でも、適宜「知の理論」(TOK)
での論点に照らし合わせて学ぶことを大切にしています。
6
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
多様な文化を理解するための教育
「国際的な視野をもつ」とは、世界や多様な文化に対し、開かれた態度で好奇心を示すこ
とです。また、国際的な視野をもつことは、人間の行動や相互関係の複雑性、多様性、そし
て原動力を深く理解することに関係しています。1960 年代(DPが創設された当初)に比
べると、現代の情報化時代においては地理的な境界はもはやあまり障壁となっておらず、
生活のあらゆる側面でグローバル化の影響を見ることができます。多様な文化の理解と協
力がこれほど重要であったことはかつてありません。多様な文化の理解と協力は、
「IBの
使命」および「IBの学習者像」のまさに中核に位置づけられています。
DPでは、各科目のねらい、目標、内容、そして評価規準は、国際的な視野を育成する
ことを目指して設定されています。同時に、教師がそれぞれの地域に根ざした適切な形で
科目を指導できるよう十分な選択肢を用意しています。
言語学習および言語を通じた文化学習は、DPにおいて中枢的役割を担っています。「言
語と文学」(グループ1)では、自分が最も得意とする言語の学習を通じて、翻訳された幅
広い文学に触れ、文化間の比較を行います。また「言語の習得」(グループ2)での言語学
習では、多様な文化でのコミュニケーション能力育成に重点を置き、異なる社会や文化の
人々の架け橋となる能力の育成に注力しています(Byram 1997)。
「個人と社会」(グループ3)では、全科目において、人間性や、人間が下してきた判
断、人間に関わるできごとをそれぞれグローバルな文脈や地域的な文脈において理解し、
クリティカルシンキング
批判的思考や多角的なものの見方、建設的な比較の能力を育成することに重点を置いてい
ます。「理科」(グループ4)では、科学技術を、政治、宗教、国籍を超えた開かれた批判
的探究を共通基盤とする、重要で活気あふれる国際的な努力として捉えています。「数学」
(グループ5)では、数学が世界の共通言語であることを強調しています。また、世界の
さまざまな文明の中に数学の起源を見ることを重視しています。「芸術」(グループ6)で
は、自分の文化または他の文化の文脈の中で芸術を積極的に探究することを奨励していま
クリティカルシンキング
す。文化的、美学的相違を尊重し、理解することで批判的思考および課題解決力を育みま
す。「コア」を構成する「知の理論」(TOK)、「課題論文」(EE)、および「創造性・活
動・奉仕」(CAS)ではいずれも、多文化的なものの見方と、従来型の教室での授業の枠
をこえた経験的な学習についての振り返りと考察を後押ししています。
一方、授業カリキュラムに焦点を合わせるだけでは不十分です。IB資料『プログラム
の基準と実践要綱』(2005 年9月刊)の基準A第2項では「学校コミュニティーにおける
大人と生徒の国際的視野を育てる」ことを掲げています。また、同資料には、IB認定校
が育成しなければならない事項が実践要綱として列記されていますが、そのほとんどは授
業の正規カリキュラムにとどまらず、学校環境やそれを支える体制、方針についての本質
的な考慮を必要としています。
生徒、保護者、学校のスタッフなど、学校のすべての関係者で構成される学校コミュニ
ティーは、多様な文化の理解のための教育に関連した価値観や行動の規範とならなければ
なりません。学校環境が広い意味で協力的で充実していれば、国際的な環境はもちろん、
DP:原則から実践へ
7
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
国内に限定された環境でも国際的な視野の育成を達成することができます。国際的な視野
とは、個人が直接関わりをもつ環境の中で、自分や他の人々に対してどのような態度で向
き合うかという点から始まっています。生徒は、自分自身を理解し、人間であることの意
味を理解し、そして相互の関わり合いを深め、グローバル化する世界における自己の立場
を理解することを学ぶ必要があります。国際的な視野は自己認識から始まり、個人や地域
社会、国、学校における文化環境、そして、より広いグローバルなものの見方についての
探究を含んでいるのです。
多様な文化の理解の教育においては、生徒が文化によって異なるものの見方についての
クリティカル
知識を深めるだけでなく、
「なぜ異なる見方が存在するのか」についても批判的に考察する
必要があります。こうした考察は、生徒が自分自身の文化および国籍について理解し、認
識することから生まれたものであることが重要です。そうすることで、国際的理解や協力
が、地域社会および国への帰属意識を拡充することになるからです。理解することは、す
べての慣習を受け入れることと同じではありません。「IBの使命」が「自分と異なる考え
の人々にもそれぞれの正しさがあり得る」ことを主張する一方で、
「IBの学習者像」で
は、考察に基づく、思いやりと信念のある行動の重要性についても強調しています。
全人的な教育体験
IBの初代事務総長であるアレック・ピーターソンは、DPを、知識やスキルの習得をこ
ホリスティック
えたところにある「全人的」な教育を目指すものと説明しました。それは「自己の内的環
境と外的環境の両面おける、身体的、社会的、倫理的、美学的、精神的な側面を理解し、
修正し、享受するために、個人の能力を最大限に育てる」(Peterson 2003: 33)ためでした。
生徒が国際的な視点や理解を身につけるのを促すことは不可欠ですが、それだけでは十
分ではありません。生徒は、社会に望ましい貢献をするためのスキルや価値観、そして
「行動する意志」をも身につける必要があります。責任ある市民性とは、コミュニティー
に積極的に関わり、共感する心のある豊かな知性をもった市民によって形づくられるもの
です。若者が精一杯人生を楽しむよう促すこともまた重要であり、全人的な教育には、人
生体験を豊かにし得る芸術や娯楽、スポーツに触れることも含まれます。全人教育を完全
なものとするには、余暇を楽しむことも推奨されなければならないのです(Peterson 2003:
58)。
「創造性・活動・奉仕」(CAS)プログラムは、包括的で全人的な教育体験を提供する
にあたって、中心的役割を果たしています。また、「創造性・活動・奉仕」(CAS)は、
協力的な学習環境に根ざしたものでなければなりません。
学び方を学ぶ
DPは、1960 年代の創設当初より、生徒が新しい状況の下でも適用することが可能な、
自立した学習方法やスキルを身につけることの重要性を唱えてきました。つまり「学び方
8
DP:原則から実践へ
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
を学ぶ」(Peterson 2003: 41)ことに重点を置いてきたのです。現代の情報化時代では、情
報や知識の量が急激に増大するにつれ、ただ知識を獲得するだけではなく、知識を学び、
活用し、評価することが今までになく重要になっています。
DPでは、学び方を学ぶことを独立した科目として教えるわけではありません。「IBの
学習者像」に示された人物像の具現化を支える「指導」や「学習」のプロセスの一環とし
て、カリキュラムの中に自然に含まれるものと考えています。6つの教科のねらいや目標
の多くは、「知の理論」(TOK)と連携して、何かを「知っている」とする主張や、学問
的方法論をしっかりと検討し、評価することを求めています。「メタ認知」アプローチでの
学習を通じて、生徒は生涯にわたって自立した学習者となるために必要な高次な思考を発
達させます。
それぞれの科目からの異なる課題が生徒に与えられている場合、生徒が1つの科目や特
定の状況で獲得した知識を他の分野や状況に容易に転移できると考えることには無理があ
ります。DPの構造は、同時並行学習および「知の理論」(TOK)での学習経験により、
生徒が(教師のサポートを受けながら)「コア」とそれぞれの科目での経験の間に、意味の
ある関係性を見いだせるようデザインされています。生徒はそのプロセスを通じて、学習
者としての自分自身と、人間の知識についての本質をより良く理解できるようになること
が期待されています。
「課題論文」(EE)では、生徒は自立した学習能力を示すことを求められます。「課題論
文」(EE)は、高い水準の調査や論文執筆能力、知的発見および創造性を育成することを
意図しています。通常、生徒は学習する6科目のうちの1科目に関連する研究テーマを選
リサーチクエスチョン
択し、研究課題に的を絞った論文を完成させます。生徒は適切な方法論を見つけ、独自の
研究を行い、独自の結論に至らなければなりません。
アクセス
IBは、DPが幅広い能力や多様な背景をもつ生徒のために優れた教育的枠組みを提供
していると考えており、可能な限り幅広く利用されるべきであると信じています。したがっ
ア ク セ ス
て、IBはプログラムへの参加機会を拡大し、より多くの生徒がプログラムを享受できる
ようにすることを優先課題としています。
IB理事会は 2006 年に、IB資料(英語版)
『From Growth to Access: Developing an IBO
access strategy(成長からアクセスへ:IBOのアクセス戦略)』
(IBウェブサイト http://www.ibo.
org から入手可能)の中で「アクセス」を「個人の状況にかかわらず、より多くの生徒が
IBの教育を体験し、恩恵を享受するのを可能にすること」と定義しました。
アクセスには、以下のような概念が含まれます。
•経済的に困難な環境下にある、より多く学校が、DPに参加できるように奨励する。
•より多くの生徒が、単に科目別の修了証を取得するために学習するのではなく、
「国
ディプロマ
際バカロレア資格」(IB資格)の取得を目指す「フルディプロマ」としてDPに
参加するように奨励する。
DP:原則から実践へ
9
ディプロマプログラムの「理念」と「原則」
•DPの履修科目として選択できる科目を増やし、生徒のニーズに合った適切な科目
を学習できるように奨励する。
•さまざまな言語的背景をもつ生徒がDPにアクセスできるよう支援する。
•「特別な教育的ニーズ」(special educational needs) のある生徒がDPにアクセスでき
るような機会を提供する。
IBは常にアクセスを改善し、生徒がDPに参加することを妨げる障壁を取り除くため
に学校を支援する方法を探っています。学校がアクセスを支援する方法については、本資
料「アクセス可能なプログラムの構築」で詳細に説明しています。
教師としての専門性の創造的発揮
教師には、カリキュラムを解釈し、開発し、遂行するという重要な役割があります。
教師は自らコース内容を策定し、生徒が学習するカリキュラムが、定められた科目のねら
い、目標、内容に沿っているものであると同時に、地域の状況に適合したものであること
を保証しなければなりません。カリキュラムを効果的に遂行するには、自分自身の指導を
クリティカル
批判的に認識し、生徒に期待する思考やアプローチの模範を示すような、思慮深い存在であ
クリエーティブ・プロフェッショナリズム
る必要があります。
「教師としての専門性の創造的発揮」とは、コース内容の策定および遂行
に関して教師自身が自ら創造的に取り組み、中心的な責任を担うことを意味します。また、
それを実践するには、
継続的な専門性向上のための研修による支援を受ける必要があります。
コース内容の策定において出発点となるのは、IBが提供する「指導の手引き」や「教師
用参考資料」
(TSM:teacher support material)です。教師は、このほかにさらに幅広いリソー
スを検討し、使用することが求められるほか、独自の教材を作成することも求められます。
教師は、生徒や地域に関する知識をもとに、適切な独自教材を作成することができるでしょ
う。いくつかの科目では、学習を補完する補助教材(course companion)や参考資料がIBに
より認定されていますが、教科書通りに授業を進めることはプログラムの理念と矛盾します。
「教師としての専門性の創造的発揮」の別の側面として、教師がカリキュラム開発と評価
においてIBをサポートする、という責任が挙げられます。IBは、プログラムが継続的
に成果を上げるためには、IBと教師、そして学校管理職の間の協力が欠かせないと信じ
ています。すべての科目と、「コア」の各必修要件は、経験豊かな教師の支援を受けなが
ら定期的に見直され、改善されています。また、IB資格のための最終試験の評価を行う
IB試験官のほとんどは、IB認定校の経験豊かな教師です。カリキュラムの評価と見直
しに欠かせない重要な要素として、教師を対象に実施される調査への回答というプロセス
があります。こうすることで、カリキュラムの見直しや改善のどこかの段階で、すべての
教師が何らかの形で関われるようになっているのです。経験豊かな教師は、自分の学校だ
けでなく、試験官やワークショップリーダー、カリキュラム開発委員会メンバー、IB認
定校などで構成される地域組織(regional association)への参加などを通じてIBの活動に
関わることが奨励されています。
10
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
はじめに
本章では、DPの導入および開発に際して、学校が考慮すべき主要なポイントを説明し
ます。導入のプロセスにおいて、効果的なリーダーシップおよび学校運営は欠かせない前
提条件です。まず、変化に向き合う意志と覚悟が必要となります。プログラムの導入によ
る変化の規模と範囲、そして変化を実際に取り込むために必要な時間を軽視してはなりま
せん。いったんプログラムを完全に導入したら、変化のプロセスは止まらないことを学校
はよく認識するようにしてください。学校がプログラムの経験を重ねて、継続的に評価、
見直し、開発のサイクルを実施すると、改善の余地が生じてきます。それに伴い、学校は
評価と開発を継続しなければならないのです。
DPの開発において「すべてにあてはまる1つの処方箋」というアプローチは存在しな
いことを、学校は理解しておくべきです。学校にはそれぞれ異なる特徴があります。した
がって、各学校は最善の方法が何かを決定する前に、自校の固有の状況や学校コミュニ
ティーについて考慮する必要があります。一方、移行プロセスのマネジメント、組織的な
学習、および移行を受け入れる能力の構築については十分な研究がなされています〔例え
ば、フラン(Fullan 2001)、センジ(Senge 2000)、アルギリスとショーン(Argyris & Schön
1995)がこれらの3つの側面について取り上げています〕。DPに直接関係するケースス
タディーや学術研究は、IBウェブサイト上の「国際教育リサーチデータベース」(http://
research.ibo.org)を参照してください。OCC上にあるDPコーディネーター向けのフォー
ラムは実践的な情報源として非常に有用です。
DP導入の決定
DP導入の選択を決定するためには、徹底的な調査と、学校でのプログラムの持続可能
性に関するバランスのとれた評価が必要です。また学校は、理念や教育方法に深く関わる
ことが求められます。理念や教育方法は、学校の使命、あるいは、少なくとも今後、学校
が目指そうとしている学校像と合致していなければなりません。よくある誤解に「IBは
試験を提供する組織であり、プログラムを導入するためには、科目の内容に特化した限定
的な教員研修を実施するだけでよい」というものがあります。しかし、DPを提供してい
る経験豊かなIB認定校では、「IBの使命」と「IBの学習者像」を理解し、支持して
います。そして、このような理解と深い関わりは、学校の管理職の間だけでなく、学校コ
ミュニティーの全体で共有されているのです。
DPの導入に乗り出すことで、独自の伝統やアイデンティティーを失うことを危惧する
学校もあります。しかし現在、DPを提供している多種多様な学校を見れば、画一的なア
DP:原則から実践へ
11
実りあるプログラムの開発
プローチを適用することが要求されているわけではないことがわかります。実際、プログ
ラムを導入する際に、学校のアイデンティティーや特徴を保持しつつ、学校固有の状況に
適合するようにプログラムを実施することこそが、まさにチャレンジなのです。
地域や国の教育制度、あるいは別の国際的なプログラムや資格を保持しながら、学校が
提供するコース選択肢の1つとしてDPを導入している学校もあります。この方法がうま
く機能する場合もありますが、学校がDPと他の教育プログラムとの関係を吟味し、整合
性を確保することが重要です。あくまでも(校内の一部分としてではなく)学校全体とし
ての理念や実践が、「IBの使命」および「IBの学習者像」と矛盾しないようにすること
が大切です。
DPの導入には、時間がかかります。学校は、必須とされているすべてのプロセスを完了
しなければなりません。学校はプログラムの導入を決定する前に、検討段階(consideration
phase)として、実現可能性調査(feasibility study)などを実施します。次に候補校の段階
(candidate phase)では、IBによる認定訪問(authorization visit)が行われます([訳注]日本
語版発行時現在では、認定訪問は、確認訪問(verification visit)と呼ばれています)。認定訪問では、
プログラムの基準と実践に関わる本質的な要素が整備されているかどうか、また、学校が
継続的なプログラム開発に力を入れることができるか、という点が重要視されます。この
プロセスは、IB資料(英語版)『Diploma Programme: School guide to the authorization visit
(DP:学校のための認定訪問の手引き)』に示されています。認定を取得した後、校内の体制や
手順が軌道に乗るまでには一般的に、最終試験までのサイクルを2回経験する時間(3年
間)を必要とします。プログラムの成長に合わせ、スケジュールを見直し、方針や仕組み
を発展させるという作業は、その後も継続します。
開発の段階
学校におけるDPの開発には、3つの段階があります。そのすべての段階において、体
系的な計画が必要です。学校固有の状況や、他の優先事項を考慮に入れつつ、DPの開発
を学校の戦略プランとして位置づけるのです。DPの開発は、学校全体の開発計画と一体
となる必要があります。経験を重ねるにつれて注力するべき点や、優先事項は変化します
が、DPの開発は、最終目的地ではなく、むしろ旅の途上にたとえられるものであり、常
に継続していくものなのです。
3段階は、以下のように分けられます。
•準備および候補校段階(認定前)
•整備段階(認定後)
•継続的な改善段階(継続的に進行する)
準備および候補校段階
DPの導入および開発を効果的に導き、運営するための組織を構築することは、非常に
重要です。多くの学校では、階層構造があり、教頭や、教科主任、教務主任などが傑出し
12
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
た役割を担っています。DPコーディネーターには、教育内容上の指導をする教育的リー
ダーシップ(pedagogical leadership)の中核を担う役割があり、既存の管理職はその役割を
支援し、後押ししなければなりません。このことは、IB資料『プログラムの基準と実践
要綱』で強調しているほか、本章の「DPコーディネーターの役割」で詳細に取り上げて
います。
準備および候補校段階で期待される事項については、IB資料(英語版)『Diploma
Programme: School guide to the authorization visit(DP:学校のための認定訪問の手引き)』で取り
上げています。この段階で戦略的に優先するべきなのは、導入するDPと、学校の既存の
方針と実践との整合性を確実にすることです。場合によっては、学校の既存の方針と実践
を修正する必要があるかもしれません。
また、以下に関する事項を決定する必要があります。
•開講する科目の選択
•DPの規定とガイドラインを尊重したスケジュールの作成(本資料の「アクセス可
能なプログラムの構築」および「カリキュラムデザインとスケジュール作成」を参照)
•「コア」の必修3要件――「知の理論」(TOK)、「課題論文」(EE)、「創造性・活
動・奉仕」(CAS)――の運用
•評価方法についての事前の計画
支援が必要な場合には、IBの地域事務局およびIB認定校で構成される地域組織が必
要なサポートを行います。また既存のIB認定校に連絡し、訪問することも推奨されてい
ます。OCCおよびIBストア(http://store.ibo.org)では、サポートのための資料を入手で
きます。
学校コミュニティー全体における理解やサポートを強化するため、保護者や生徒との定
期的で明確なコミュニケーションを重点的かつ継続的に行う必要があります。また、方針
や図書リスト、カリキュラム計画書などで、他の学校で使われているものやOCCに掲載
されているものをそのまま借用し、適用することは認められません。学校は、専門性を創
造的に発揮し、学校の環境に適合した独自の教材を開発する必要があります。
DPを学校が提供するコース選択肢の1つとして開設している学校では、学校全体とし
ての認識、姿勢、および実践における変化が及ぼす影響についてモニタリングし、管理す
ることが重要となります。人材やスケジュール、教材で重複するところが出てくることで
しょう。多くの学校が、DPを導入することで学校内の他のコースの指導と学習に良い影
響が生じていると述べています。しかし、そのような結果を前提とすることはできません。
学校は導入を注意深く管理していく必要があります。IBプログラムを指導していない教
師が、DPが優遇されていると感じる場合もあるからです。DPの開発プロセスには、学
校全体を巻き込む必要があります。また、DPの境界をこえ、学校全体におけるカリキュ
ラムの見直しや変更をできるようにすることが重要です。
さらに、学校には、初期段階から、スケジュールに関する理念的あるいは実践的な課題
に対処することが求められます。具体的には以下のような問題が挙げられます。
•生徒の学習へのアクセスの最適化
DP:原則から実践へ
13
実りあるプログラムの開発
•幅広くバランスのとれたカリキュラムの構築
•学習の同時並行性
•「コア」の各必修要件のスケジュールおよびサポート
学校は認定プロセスにおいて、「学問的誠実性」(academic honesty)「評価」「言語」「特
別な教育的ニーズ」「情報コミュニケーション技術」(ICT)などを見直し、方針を策定
する必要があります。
学問的誠実性
(IB資料『学問的誠実性』も参照のこと)
DPでは、全科目において、生徒の学習成果物に対して学校内で評価を行う内部評価
(internal assessment)を評価の重要な要素として取り入れています。生徒をまず最初に直接
指導する教師によって行われる内部評価は、評価としての正しさを担保しています。した
がって、学校は提出された学習成果物が確かに生徒自身の手によるものであり、それが各
科目の「指導の手引き」で詳細に説明されている学習到達目標に沿って作成されているこ
とを確かめられるよう方針と具体的取り組みを備えている必要があります。また、
「IBの
学習者像」を支える学校文化づくりの一環として、
「学問的誠実性」に率先して取り組むこ
とが重要です(本資料「『IBの学習者像』の開発」を参照)。多くの学校や教師が、剽窃
や不正行為への対策を練ることになりますが、強固で一貫した方針をもってDPが求める
高い水準に対応しなければなりません。方針を通じて、どのような行為が不正行為にあた
るのかを生徒に示すほか、必要があれば厳格な措置を講じます。
学校は、各教室で一律に方針が適用されていることを監視する必要があります。各科目
における評価の正しさを監視し、確認する仕組みを確立するほか、この仕組みが学校の全
体的な方針に結びついているようにしなければなりません。学校がDPと並行して他のカ
リキュラムを実施している場合には、全生徒が同一基準に従う必要があるかどうかという
問題が提起されることになります。これこそがまさに、校内の一部分としてではなく、学
校全体としてプログラム開発に取り組むことの必要性を物語る1つの例といえるでしょう。
評価方針
IB資料(英語版)『Diploma Programme assessment: Principles and practice(DPにおける評
価:原則と実践)』では、DPの評価の背景にある考え方について解説しています。DPの
評価の実践の中には、現行の学校で行われている評価実践と大きく異なる場合もあり得ま
す。そのため、学校がIBの期待する内容を完全に理解し、それを学校の評価方針を通じ
て、学校全体に反映させることが不可欠となります。DPの評価には、主に以下のような
特徴があります。
•相対評価ではなく、絶対評価を重視します(絶対評価では、生徒の学習成果物を他
の生徒の学習成果物との比較ではなく、到達度に関連させて評価します)。
14
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
•IBによる最終評価(総括的評価。生徒のパフォーマンスをIBが評価する)と、
総括的評価を支える、学校が内部用に開発する形成的評価では、評価方法が異なり
ます。
•評価対象期間内の評点を単純に平均するのではなく、生徒のパフォーマンスを最も
的確に示すものを重視します。
成績通知表は、学校の評価実践のほか、保護者や生徒との関係にも影響を与えます。ま
た、成績通知表は指導および学習にも影響を与えるため、それがDPの評価原則を反映し
ていることが重要です。教師は、DPの評価原則に基づいた評価および成績通知を義務づ
けられない限り、自分自身の慣れた評価方法に頼りがちとなるため、プログラムの開発に
有害な影響を与えることになります。
言語方針
(IB資料『学内言語方針の策定ガイドライン』も参照のこと)
言語および母語の保持に関する方針は、DPの学習への参加を提供する上で中心に位置
づけられます。学校の指導言語が生徒の第一言語でない場合は、言語サポートが必要になる
場合があります(詳細はIB資料『母語以外の言語によるIBプログラム学習』を参照)。
IBは、生徒が学校のサポートの下、自分の最も得意な言語を自己学習(self-taught)する
機会を提供しています。もしDPの生徒が、履修可能な言語として提供されていない言語
を「言語A1」[現「言語A:文学」]の科目として学習することを求める場合には、IBに特
別な要請を提出することができます(詳細はIB資料『DP手順ハンドブック』を参照)。
学校は、生徒がDPの段階に達するまでの期間、母語を保持しながら、学校の指導言語に
習熟するよう何年にもわたって見守り続ける必要があります。
[訳注]2011 年のカリキュラム改訂に伴い、「言語A1」「言語A2」という区分は変更になりました。以
下、日本語版発行時現在の開講中の科目名を用います。
特別な教育的ニーズ
(IB資料『受験上の配慮の必要な志願者について』も参照のこと)
IBは、
「特別な教育的ニーズ」があるかどうかにかかわらず、どのような生徒も受ける
ことができる教育の実践を支援しており、すべての生徒ができる限り公正な評価条件の下
で能力を発揮できるべきであると信じています。通常の評価条件では、特別な教育的ニー
ズのある生徒が不利な状況に置かれる可能性がある場合には、特別措置を講じることを認
めます。関連情報は、IB資料『DP手順ハンドブック』、およびOCCで入手することが
できます。
情報コミュニケーション技術(ICT)
IB資料『プログラムの基準と実践要綱』(2005 年9月刊)では、プログラムでの指導
をサポートするために「適切な」インターネット環境を整備するよう言及しています。学
校が提供できるICTのインフラの規模は、学校の財政基盤に関わる問題であるため、認
DP:原則から実践へ
15
実りあるプログラムの開発
定および評価に際してIBが学校に期待する環境として明確な条件を示すことはしていま
せん。ただし、学校は、以下の点を考慮するようにしてください。
•広義での情報活用能力は、「学び方を学ぶ」プロセスの一環として生徒が身につけ
るべき能力です。
•ICTは、教室という学習空間を越えた豊かな学習環境をもたらします。教材への
アクセスを促進し、協働学習を拡大する手段として、バーチャルな学習環境は奨励
されるべきです。
•ICTは、生徒同士の協働作業やデジタルメディアの利用を通じて、創造的な学習
を行うユニークな機会を提供します。
•ICTは、学校の評価方針を効果的に支えます。特に、形成的評価や、生徒同士が
相互に評価し合う「生徒間評価活動」で有効です。
•ICTは、IB教育を実践している学校や教師などのネットワークやコミュニ
ティーにアクセスするために重要な役割を果たします。こうしたネットワークやコ
ミュニティーへのアクセスを増やすことは、プログラムの導入や、教師としての専
門性の創造的な発揮、生徒の学習の充実につながります。
整備段階
プログラムの導入後には、方針の修正や、うまく機能していない実践を是正するための行
動計画を伴う評価を継続的に行います。評価、および評価を踏まえた改善は、学校がIB
から認定を取得した直後に開始しなければなりません。IBが認定後5年ごとに実施する
公式の評価プロセスを待たずして実施してください。IBの認定チームが、すぐに取りか
かるべき事項を提言します。
整備段階では、教師がIBの各科目の「指導の手引き」や評価の実践を正しく理解する
よう特に注意を払う必要があります。そして、教師としての専門性が創造的に発揮される
ことに高い優先順位を置くべきです(本資料「専門性の向上」を参照)。専門性の創造的な
発揮を通じて、理解を深め、その理解を強化できるよう意図されているからです。生徒が
IBによる最終評価を完了すれば、科目成績表や内部評価に関するフィードバック、評価
結果への照会などを通じて、生徒のパフォーマンスについての詳細なフィードバックを収
集することができます(詳細は『DP手順ハンドブック』を参照)。
カリキュラムと授業の関係、単元計画、その他のカリキュラム関連文書は、定期的に見
直さなければなりません。試験結果のデータを分析し、単元計画を振り返り、協働で指導
計画を立案し、特定の指導目標を立てることはすべてカリキュラム開発の戦略として役立
ちます。
学校によっては、カリキュラム委員会を設置し、カリキュラムの枠組みや、開講する科
目の変更を決定しています。こうした委員会には、教師や管理職に加え、生徒や保護者が
参加することもしばしばあり、学校の教育プログラムの長所や限界についてオープンに検
討する場となっています。カリキュラムを見直すプロセスは、
「IBの学習者像」をさらに
発展させ、生徒の教育体験を一層良いものとするための方法について検討する場として活
16
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
用されるべきものです(本資料「『IBの学習者像』の開発」および「指導・学習・評価」
を参照)。
エビデンス
各プログラムの基準と実践についてファイルを整備し、根拠となるさまざまな証拠の収
集に長期的に取り組むことは有益です。これにより各基準について、準備段階から5年後
クリティカル
に実施される「5年目プログラム評価」までの進歩を、学校は批判的に評価することがで
きます。
継続的な改善
数年間にわたるプログラム実施を経て、導入初期に生じる問題や障壁を経験した後の段
階こそ、最も手腕を問われます。導入当初の変化に対する緊迫感や機動力が薄まる中、学
校は循環的な見直しやプログラム開発に対応するための長期的な体制を構築しなければな
らない段階を迎えるからです。学校は、以下の4つの分野についてモニタリングする体制
を構築する必要があります。
1. DPのねらいと理念に関する学校コミュニティー全体の継続的な理解と関わり
2. カリキュラムの指導に対して最善を尽くすことに関する学校の責任
3. カリキュラムへのアクセス(本資料「アクセス可能なプログラムの構築」を参照)
4. 専門性の向上のための継続的な教員研修
コミュニケーションは依然として重要な要素です。一方で、この段階では、学校コミュ
ニティーのニーズは以前より多様化しています。新しい教師や保護者は、DPの基礎につ
いて知る必要があります。また、経験豊かな教師には、評価および開発に直接携わる機会
があります。したがって、以下の点を考慮するようにしなければなりません。
•新任教師向け導入セッション――新任教師は、経験の蓄積された既存の部門に加わ
る場合もあれば、単独で仕事を進める場合もあります。学校は、経験豊かな教師を
指名し、単独で仕事を進めることになる新任教師の支援を担当してもらうようにし
てください。多くの学校では、このプロセスを支える一環として、新任教師用ハン
ドブックを作成したり、教員用ハンドブックの一部として必要事項を記載したりし
ています。
•DPに初めて触れる生徒や保護者とのコミュニケーション――DPの履修を検討
している生徒や、履修を開始したばかりの生徒、またその保護者を対象に、導入
セッションを行うことが義務づけられています。異なる保護者グループのニーズに
どう対応するのか、プログラムに初めて触れる生徒や保護者のニーズと、すでに十
分知識がある生徒や保護者のニーズのバランスをどのようにとるかを考える必要
があります。
学校は、生徒や保護者に対し、DPに関する意見を収集しつつ、対話を図り、学校のカ
リキュラムの見直しサイクルについて情報を提供するべきです。グループ対話形式の聞き
取り調査やアンケート調査を実施することは有益です。また、普段から保護者などと協力
関係をもつことは、プログラムへの支援や、学校コミュニティー内での役割づくりを促進
するのにも役立ちます。
DP:原則から実践へ
17
実りあるプログラムの開発
学校は、DPの新たな展開や変更に関する最新情報を常に把握するよう注意を払わなけ
ればなりません。DPコーディネーターが中心的役割を果たす一方で、教師全員がOCC
に定期的にアクセスし、各科目の教師支援のためのリソースやディスカッションフォーラ
ムを確認することが推奨されています。
学校は、自校の理念や使命を定期的に見直して、IBの使命および理念と一致している
ことを確認しなければなりません。また、学校全体として実際に何を実施しているかに照
らし合わせて考える必要があります。特に学校の管理職は、DPの「コア」の必修要件と
「IBの学習者像」、および生涯学習者の育成が、学校で提供されている他のカリキュラム
とどのように関係しているかを検討しなければなりません。
学校を教職員などの専門性を高める場として発展させ、維持していくことは、最優先事
項となります(本資料「専門性の向上」を参照)。これまでの段階でもそうした機会はあっ
たかもしれませんが、プログラム導入のための基礎作業に割く時間が少なくなることで、
振り返りや、革新的な教員研修および実践の機会が増えるでしょう。教師が、試験官をは
じめ、カリキュラムの改訂作業やその他の会議の参加者として、IBの仕事に直接関わる
ことは奨励されなければなりません。ワークショップのリーダーや、認定訪問[現・確認訪
問]
・ 評価訪問のチームメンバーとしての研修を受けることもできます。教師はこうした活
動への参加を通じて、IBのプロセスや実践に関する理解を深め、その経験を生かして他
の教師への指導や、プログラムの提供に関する改善で指導的役割を果たすことができるの
で、学校にとって非常に有益です。
教師同士が優れた手法を共有し、生徒の成長について話し合い、学際的な学習の機会に
目を向けて緊密かつ協力的に活動し続ける必要性は、常に重要視されるべきものです(「知
の理論」(TOK)での学際的な学習については本資料「指導・学習・評価」を参照)。
生徒への導入セッション――DPへの円滑な移行
IBは、DPの履修にあたって、資格などの条件を規定していないため、生徒はさまざま
な教育を経てDPへたどり着くことになります。そのうちの1つとして、IBの一貫教育が
挙げられます。IBの一貫教育は、各プログラムに円滑に移行できるようデザインされてい
ますが、学校がIB初等教育プログラム(PYP)やIB中等教育プログラム(MYP)
を導入しているか否かにかかわらず、DPの教師と、その前段階を指導する教師との間で
学年縦断的な計画を立てることは不可欠です。一貫性をもって学習を進められるようにカ
リキュラムの連続性を計画し、明文化することが必要です。
学校は、DPを履修する生徒がDPの学習に向けて十分な準備ができていることを確か
めなければなりません。各科目の「指導の手引き」には、生徒がDPの履修までに習得し
ているべき既習事項が明記されています。DPの各科目を通じて習得すべき学習内容につ
いては、シラバスと評価の詳細(各科目の「指導の手引き」に記載されているもの)を併
せて見ることで包括的に把握することができます。一方、生徒は、学習を実りあるものに
するために、科目に関する知識やスキルに加え、
「IBの学習者像」に適合した言語能力や
18
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
学際的な学習能力やスキル、手段、態度を身につけ、それを発揮しなければなりません。
こうした要素は「学び方を学ぶ」ための核となる能力を形成するもので、DPの2年間を
通じて強化し、発達させていきます。生徒によっては、コースの初期段階でこれらの要素
を発達させるために、特定の支援が必要になることもあります。「学び方を学ぶ」ための核
となる能力には、以下の要素が含まれます。
•自立的な学習スキル
•グループで協働する能力
•生徒の最も得意な言語での優れた読解力および記述力(学校での指導言語とは異な
る場合がある)
•学校の指導および試験で用いられる言語の十分な運用能力(IB資料『母語以外の
言語によるIBプログラム学習』で示されているガイドラインを順守する)
•リサーチスキル――幅広い分野のさまざまな情報源を見つけ、評価し、適切に利用
して、自らリサーチする能力
•記述力――適切な引用、参照の手法を一貫して用いて「学問的誠実性」を保持しつ
クリティカル
つ、自立的に批判的な論文を書く能力
•科学的な実験スキル――仮説を立てて実験を計画、実行し、データを分析する能力
•文学的スキル――文学的手法の分析に焦点を絞って、文章を精読する能力
•情報活用スキル――学習や課題に取り組むためにインターネットおよびその他の
媒体を効果的に利用する能力
•プレゼンテーションスキル――他人に対して口頭でプレゼンテーションを行う能力
•複数の科目のポートフォリオやプロジェクトに自立的に取り組む能力
•振り返りの実践――自発的に取り組む力を発揮し、自分自身および他人の学習成果
クリティカル
物を批判的に評価し、成長を振り返り、目標を設定する能力
DPでは、生徒に多くの時間を費やすことを要求します。したがって、コースの開始当
初から効果的な時間管理能力を身につけることが大切です。事前に生徒自身がこのことを
理解しているようにすることで、生徒は時間管理に取り組むことが可能になります。教師
は、自分が指導する科目が生徒の履修する6科目(および「コア」の必修3要件)の中の
1つであることを理解して、生徒がこなすことのできる形で課題を設定することにより、
生徒の時間管理をサポートします(本資料「カリキュラムデザインとスケジュール作成」
のスケジュール例を参照)。
DPコーディネーターの役割
DPコーディネーターは、プログラムの導入および開発において指導的役割を果たしま
す。コーディネーターの職務内容として、全般的なプログラムの運営とコミュニケーション
という管理的役割に加えて、指導的役割が含まれていることを明確にすることは重要です。
DPの導入には、移行プロセスのマネジメントに関する専門性と、DPの基準と実践に対
する詳細な理解が必要です。コーディネーターは学校管理職と協働してプログラムの開発
DP:原則から実践へ
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実りあるプログラムの開発
のために必要な移行プロセスを立案、管理する権限が与えられなければなりません。コー
ディネーターはまたIB資料『DP手順ハンドブック』と同(英語版)
『General regulations:
Diploma Programme(総則:DP編)』に記載されている規定と手順に関する深い知識を有して
いる必要があります。コーディネーターには、業務量の多い職務を遂行するための十分な
時間が配分されていなければなりません。また、コーディネーターは、DPの特性を最高
水準に高めるために、学校管理職チームの一員となる必要があります。多くの学校では、
「11・12 年生主任およびDPコーディネーター」などの役職名を付与しています。
コーディネーターは学校コミュニティーの全員に情報を伝達し、内部評価およびIBに
よる外部評価(external assessment)のすべてを管理し、学校とIBの間の窓口としての役
割を担う責任があります。以下の項目では、コーディネーターが担うその他の役割を説明
します。
1.学校コミュニティーへの案内
科目選択に関するガイダンスを行い、履修可能な科目についての学校コミュニティー
(生徒、保護者、教師など)の理解を確かなものにします。科目選択には、複雑な意思決
定が伴うことがあります。そのためにガイダンスでは、科目選択に関するIBの規定につ
いての確実な知識が要求されるだけでなく、適切なバランス、各科目の負担、生徒にかか
る負荷、高等教育機関への進学との適合性などの面から、科目選択の結果が各生徒へ与え
る影響を理解していることが必要となります。ほとんどの場合、科目選択ガイダンスは、
DPの1年目が開始するかなり前の時点で開始しなければなりません。コーディネーター
は、学校コミュニティー向けのガイダンス資料などの発行に携わることもあります。この
役割は、しばしば進路指導の部門と協働して担います。
2.DPの履修承認
コーディネーターは、生徒の面接や試験、教師からの推薦の評価などを通じて、生徒の
DPの履修承認プロセスの開発および運営に緊密に関わっていく必要があります。
3.DP教師との協働
DPの担当教師がプログラム全体を完全に理解するように手配するのもコーディネー
ターの重要な役割です。プログラムの導入段階では、コーディネーターは、教師が自分自
身の担当する科目の要件を完全に理解すること、そしてプログラムの全体像と要件を幅広
く認識することを確実にします。教師との日常的なミーティングを通じて、プログラムが
生徒に課す要求とその要求の形式について教師に十分な理解を促します。その結果、教師
は担当科目を大局的に捉えることができるようになります。また、このようなミーティン
グは、評価に関するスケジュールを教師間で調整し合う場としても重要です。複数の課題
の締め切りが一時期に重なることにより、生徒に不合理な負担がかかるのを避けることが
できます。さらに「学問的誠実性」を確保するための方法論を教師間で共有することもで
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DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
きます。教師の積極的なOCCの利用や、フォーラムへの参加を奨励することも重要な取
り組みです。
4.DP科目の時間割と年間予定の作成
DPコーディネーターは、学校の時間割や年間予定を単独で、または担当者とともに作
成する役割を担うこともあります。すべての科目がDPの要件を満たしていることを確認
し、生徒が複数の科目を同時並行的に学ぶことの恩恵を最大限に受けられるようにしま
す。国や地域が定める教育課程を組み入れる必要がある場合は、時間割や年間予定の作成
は特に複雑になることがあり得ます。また、スケジュールづくりは、内部評価および外部
評価の完了および提出の日程とも関わっています。DPコーディネーターは、学校の方針
がDPの開発を支援するものであり、優秀な教師が採用され、確保されるように校長を支
援する役割も担っています。
5.「コア」の支援
学校によっては、DPコーディネーターが「創造性・活動・奉仕」(CAS)の体制づく
りや「課題論文」
(EE)の指導監督をする責任を担っている場合があります。これは理想
的な状況とはいえず、これらの役割は他のスタッフに割りあてられることが望まれます。
「創造性・活動・奉仕」(CAS)の役割は、生徒が真に体験に基づく学習を行い、有意義
な形でその体験を振り返る機会をつくることです。これには時間がかかり、また、CAS
の支援に関わる同僚たちと緊密に協力することが求められます。CASコーディネーター
は、管理職として配置されるのでない場合は、校内でCASの活動が適切に支援され、認
められるようリーダーシップを発揮します。
DPコーディネーターの多くは、
「課題論文」(EE)を指導監督する責任を担っており、
生徒が論文の性格を十分に理解するようにするほか、生徒を指導する教師の研修や、論文
作成のための適切な日程の作成を行います。生徒数によっては、これも大規模な作業とな
り得ます。
また、DPコーディネーターは、「知の理論」(TOK)の担当教師と各科目の担当教師
が協働しながらDPにおけるTOKの要件について理解を深めるようにしなければなりま
せん。
6.DPへの接続
学校によっては、DPコーディネーターが、DPの前段階におけるカリキュラム内容の
精査に関わります。その場合、コーディネーターは部長職の教師や教育課程の専門家と協
力し、そのカリキュラムがDPで学ぶために十分に準備できている内容になっているか、
評価手順が適正であるかという観点から精査し、できるだけ多くの生徒に対してDPを履
DP:原則から実践へ
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実りあるプログラムの開発
修する機会を提供できるよう努めます。MYPを実施している学校では、コーディネー
ターは必然的にMYPコーディネーターと普段から連絡を取り合い、プログラムが一貫性
をもって接続するように連携を図ります。
7.全般的な運営
DPコーディネーターは、運営上、欠かすことのできない数多くの任務を遂行する責任
を担います。詳細はIB資料『DP手順ハンドブック』に記載されています。以下の項目
も、DPコーディネーターの任務です。
•生徒の最終試験の受験登録
•IBインフォメーションシステム(IBIS)へのデータ入力〔「予測スコア」
(predicted grade) の入力を含む〕
•生徒の内部評価の成績の入力
•評価で特別な配慮が必要な生徒の支援
DPコーディネーターには通常、試験を運営および管理する役割があり、全教師が正し
い手順と手法に従って評価課題およびサンプルをIBに提出していることを確かめなけれ
ばなりません。
8.IBコミュニティーのデータベースの作成
多くの学校で、DPの卒業生との連絡を維持し、試験結果や大学以降での経験、および
連絡先に関するデータベースを作成することを大切にしています。こうした経年的なデー
タ分析もコーディネーターが責任を担うことになるかもしれません。
9.DPの予算および教員研修の管理
コーディネーターは、DPに割りあてられる予算の管理に責任を負うことが少なくあり
ません。これには通信費、刊行物の購入、年会費および試験料の支払いなどが含まれます。
これに加え、コーディネーターは、教師がIBによって認定された適切な研修に参加する
ことを保証したいと考えることでしょう。研修費は、IB認定校にとって非常に重要な年
間予算項目といえます。
10.「5年目プログラム評価」の準備と完了
DPコーディネーターは、IB資料『プログラムの基準と実践要綱』に全関係者がアク
セスし、そこに明記されたIBによる期待事項を理解することに対しての主要な責任を担
います。この内容を理解することは、プログラムの見直しを行う「5年目プログラム評
価」を効果的に行う基礎となります。DPコーディネーターは、このプログラム評価を主
導し、IBへの提出期限までに作業が完了するようにします。
22
DP:原則から実践へ
実りあるプログラムの開発
11.生徒の大学進学
DPコーディネーターは、大学と連携し、進学に必要な手順や規定を生徒や保護者に説
明することを通じて、生徒の高等教育機関への進学を円滑にする役割を担います。大事な
要素として、生徒と保護者が大学が要求する特定の入学条件を認識し、その条件がDPで
の科目選択にどのようなに影響するかについてきちんと理解しているようにすることがあ
ります〔IB資料(英語版)『Rules for IB World Schools: Diploma Programme(IB認定校のた
めの諸規則:DP編)』の「University recognition( 大学による認知 )」を参照〕
。そして、すでに
連携のあるところだけではなく、大学や関係当局と積極的にコミュニケーションをとり、
IB資格の認知度を高める役割があります。DPコーディネーターは、所定の成績が大学
へ提出され、IB資格を入学者選抜のプロセスにきちんと乗せられるようにします。
DPの導入および開発におけるDPコーディネーターの役割は広範囲にわたります。
コーディネーターの役割のうち、漠然としていながらも最も重要なのは、DPを構築し導
入することで、学校がどのように「IBの使命」と「IBの学習者像」を取り入れ、深め
ることができるのかを明確に示せるようにすることです(本資料「『IBの学習者像』の
開発」を参照)。「IBの使命」と「IBの学習者像」の理解を促進することを通じて、
DPコーディネーターは、学校内で国際教育の精神を育みます。その精神は、現在、そし
て将来にわたって、私たちが直面するグローバルな重要課題に取り組むために必要となる
スキルや知恵、文化的な理解となって、卒業していく生徒の中で開花します。
DP:原則から実践へ
23
アクセス可能なプログラムの構築
はじめに
「アクセス」の概念については、本資料「ディプロマプログラム(DP)の『理念』と
『原則』」ですでに紹介しました。同章では、生徒のDPへのアクセスを改善する複数の方
法を述べています。一方、本章では既存のIB認定校内でのアクセス向上の方法について
考察します。既存のIB認定校では、しばしば、生徒のプログラムへのアクセスの障壁と
なる共通の問題を経験しているからです。
学校は、自校の状況に照らし合わせて以下のような課題を考慮し、DPへの参加者を増
やす方策を立てるよう奨励されています。
DPか科目別修了証か
DPは学習量の多いプログラムであるため、これを選択することが学校内の全生徒に
とって最善であるとは限りません。しかし、一般に考えられているよりかなり広範囲にわ
たる生徒がプログラムで成功を収めています。これはDPを全生徒に提供している学校の
経験に裏づけられています。最終的にIB資格を取得できなかった生徒も、多くの場合、
プログラムでの教育体験が、生活を豊かなものにしたと語り、その先の教育や職業生活、
そして人生において成功を収めるための準備となったと述べています。
IB認定校の生徒は、
各自の教育的ニーズに適合する限り、
ただ科目別修了証(certificate)
を取得するのではなく、IB資格の取得を目指してDPでの学習に取り組むことが奨励さ
れています。IB資格の取得を目指すDPは全体として、個々の科目の修了証を寄せ集め
た以上の、より幅広くより深い教育体験を提供しているからです。
生徒の選考
履修登録および入学許可の基準は、各校で大きく異なります。誰もが自由に履修を登録
できる方針の下では、プログラムへの最も幅広いアクセスを実現することができます。一
方、そうした方法は、学校によっては実施不可能または現実的でないかもしれません。誰
もが自由に登録できる方針をとらない学校は、以下の要素を考慮するようにしてください。
経済的事情は、生徒のIBプログラムへのアクセスを妨げる最大の障壁です。2006 年に
刊行されたIB資料(英語版)
『From Growth to Access: developing an IBO access strategy(成長
からアクセスへ:IBOのアクセス戦略)
』においてIB理事会は、可能な限り支払い能力では
なく、生徒自身の能力やプログラムへの適性に基づいてプログラムを履修する生徒を選択
することを推奨しています。プログラムの導入にあたり、国からの財政的な支援がある場
24
DP:原則から実践へ
アクセス可能なプログラムの構築
合には、学校にとって生徒の選考がより容易になるのは明らかですが、多くの学校では、
独自の財源を確保して奨学金制度を設置し、プログラムへのアクセスを支援しています。
政府によっては、試験料が支払えるように低所得家庭を支援する助成金や奨学金プログラ
ムを用意しています。奨学金制度の設置のほか、資金調達の活動の実施や、保護者団体に
よる寄付などの例が見られる地域もあります。学校は、生徒のためにできる限りの財源を
検討すべきです。生徒の負担となる費用や、それによるアクセスへの影響を認識すること
が重要です。
生徒の能力に基づいた選考方法は、支払い能力に基づいた選考よりも経済的な意味にお
いては公平であるといえますが、一方で、DPは学問的エリートのためのものではありま
せん。IBは、プログラムでの学びを自分自身のために役立て、実りあるものとすること
ができる生徒全員のためにあると信じています。DPでの成功は、IB資格の点数によっ
て示されるのではなく、各生徒の成長にもたらされた付加的な価値によって最も適切に測
ることができるのです。プログラム開始前から学力に恵まれ 45 点を獲得した生徒よりも、
学力的には厳しい面をもちながら、2年間にわたって大きな進歩を見せ 24 点を獲得した生
徒の方が、本人にとっても学校にとっても成功したということができます。
各学校における出願の手続きに際し、歴史的に過小評価されてきたグループの出身の生
徒が権利を剥奪されたと感じないように注意を払わなければなりません。アクセスを広げ
ようとする学校の中には、複数の情報源を使って生徒の背景に関する情報を集めて応募者
を全人的に捉えようとするところもあります。こうした取り組みにより、学校は、より幅
広い層の生徒を取り込むことができます。
各学校における入学者の選考プロセスは、透明性が確保されてたものでなければなりま
せん。合否の判断に使う規準が学校の入学者受け入れ方針(アドミッションポリシー)と
して明記されており、社会全体に公開されるものである必要があります。
その他、入学者受け入れ方針の策定では、以下の要素が考慮されるべきでしょう。
アクセスを考慮に入れながら、DPに入る前の複数の年次で、数々の入学時期や異なる
事前コースが設けれられていること。それぞれの事前コースでは、プログラムで成功を収
めるのに必要なスキルや知識が育成されているようでなければなりません。
DPにおける生徒の成功に、自発性、自律性、粘り強さが重要な役割を果たすことを学
校は意識しなければなりません。これらの能力を測定するのは簡単ではありません。生徒
の姿勢や能力を知るため、さまざまな記述課題や面接を実施する学校もあります。
学校は、IBの理念およびプログラムの利点や要求について学校コミュニティー全体に
周知させる義務があります。これにより生徒は詳細の情報を得た上で、能力や関心、知識
を考慮しながらDPへの登録を決断することができます。
プログラムへの登録に必要な書類は、容易に入手できるようにし、また広く配布されな
ければなりません。さらに、応募書類や説明は学校コミュニティーで使用されているすべ
ての言語で用意されている必要があります。
学校間および生徒、保護者との明確かつ包括的なコミュニケーションを取りながら、転
入学ができるだけ円滑に行われるよう努力しなければなりません。
DP:原則から実践へ
25
アクセス可能なプログラムの構築
スケジュールと開講科目
多くの学校において、通常の時間割編成そのものが、生徒がプログラムに参加するため
の障壁となることがあります。IB科目が同じ時間枠に重複することで生徒の選択肢に限
りが出たり、生徒が通常の授業時間外に授業を受ける必要が出てくる場合、生徒をプログ
ラムから排除することになりかねません。多くの場合、生徒がDPのすべての要素にアク
セスできるようにしつつ、国や地域が定める要件を満たすため、学校にある程度の柔軟性
が求められます。
開講科目の選択およびスケジュールの確定に関して、学校が直面する課題には以下のよ
うなものがあります。
•国や地域が定めるカリキュラムの要件を満たす――IB認定校の多くは地域、州、
地方、国の政府と緊密に連携し、卒業および修了のためのさまざまな要件について
代替措置および免除が認められるように努力しなければなりません。さらに、政府
機関などの外部の機関により設定されている到達基準を満たすことを示すIBの
コース概要を作成していく必要もあります。
•課外活動――生徒は、通常の授業時間外にスポーツや音楽プログラム、クラブ活動、
アカデミックなコンテスト、地域奉仕、その他の活動など、さまざな活動を行いま
す。生徒の豊かな「創造性・活動・奉仕」(CAS)体験を培うためにも、IBの
使命を推進するためにも、生徒がこうした活動に参加することは重要です。学校は
DPへのアクセスを可能としながら、このような課外活動への参加を支援するよう
なスケジュールを作成するべきです。
•開講科目――各IB認定校は、6つのグループから最大限に幅広い選択肢を生徒に
提供することが奨励されます。学校が直面する財政的、スケジュール的課題の中で、
生徒のスキルや関心、言語的背景や大学の入学要件に関連した学習プログラムを提
供できるよう、細心の注意を払わなければなりません。これは、開講科目の選択や
どのような科目が提供されるかの決定、そして各科目における文献リストの選定の
際にも考慮するべき点です。生徒のニーズや関心に合わないプログラムを提供する
ことは、アクセスを制限することになります。DPの一部として、生徒が学校では
開講されない科目をオンラインで修了する機会も増えてきています。オンラインの
利用は、生徒の選択肢を広げるための実践的な方法の1つです。詳細はOCCを参
照してください。
•科目選択――これは学校が開講するIB科目の中から生徒が履修する科目を選択
することを意味します。理想的には、生徒は、挑戦しがいがあると同時に自分の能
力に適した科目を履修するべきです。教師とカウンセラー、DPコーディネーター
が努力して、生徒と保護者に対して、評価について、科目のねらいについて、そし
て授業内容について、十分に知らせる必要があります。生徒の現時点での到達レベ
ル、関心および卒業後の進路希望が、科目選択を方向づけます。
26
DP:原則から実践へ
アクセス可能なプログラムの構築
•科目の提供可能性――DPコーディネーターは、IBにより提供される科目が将来
的に提供されるかどうかについて確認する必要があります。すべての科目が、将来
にわたって提供され続けると想定することはできません。詳細はIB資料『DP手
順ハンドブック』に記載されています。
•校内の締切日程――IB担当教師は毎年、DPコーディネーターと協力して、IB
の評価課題、「課題論文」(EE)、「創造性・活動・奉仕」(CAS)の活動のため
の校内での締切日を設定する必要があります。締切日を設定する際には、できる限
り生徒の課外活動への参加、重要な学校イベント、日々の宿題や家庭事情などが考
慮されるべきです。校内スケジュールには内部評価およびIBによる外部評価(試
験以外)のための学習成果物の提出期限、予測スコア、および内部評価サンプルの
DPコーディネーターへの提出期限が含まれていなければなりません。これにより
DPコーディネーターが試験官へ郵送するのに十分な時間を確保できます。教師
は、日々の宿題や教室での評価を設定する場合、これらの締切日を設定した年間予
定表を参照する必要があります。年間予定表の例は「カリキュラムデザインとスケ
ジュール作成」の章末の図2に示されています。
言語オプションと言語サポート
生徒の母語や、「言語A:文学」、「言語A:言語と文学」、「言語B」の選択肢、および学
校のサポートの下で行われる「自己学習コース」としての「言語A:文学」について整備
し、かつ維持することが、多くの学校において、生徒のDPへのアクセスに影響を与えま
す。学校により言語状況は大きく異なるため、各学校がこの問題に取り組むための言語方
針を策定しなければなりません(IB資料『学内言語方針の策定ガイドライン』を参照)。
学校の指導言語が生徒の第一言語、あるいは最も得意な言語ではない場合、その生徒の
ニーズを完全に理解し支援することで、アクセスを広げることができます。全科目の担当
教師が、生徒の言語育成を支援するという役割を担うことを理解する必要があります(詳
しくはIB資料『母語以外の言語によるIBプログラム学習』を参照)。
生徒は自分自身の最も得意な言語または母語を学習する機会が与えられるべきです。学
校がその言語の授業を開講できない場合でも、その生徒は学校のサポートの下で行われる
「自己学習コース」の履修生として登録することができます(IB資料『DP手順ハンド
ブック』を参照)。
「特別な教育的ニーズ」がある生徒
特別な教育的ニーズがある生徒に対しては、さまざまな機会が用意されています。教師
や学校管理職がその点について認識することが大切です。また、学校がアクセス増進の一
環として、積極的にこのような生徒の参加を促進することが重要です。DPでは、特別な
教育的ニーズがある生徒を支援する手法がしっかりと確立しており、IB資料『受験上の
DP:原則から実践へ
27
アクセス可能なプログラムの構築
配慮の必要な志願者について』で概要を説明しています。学習に関しての懸念事項がある
生徒については、DPを開始する前に特定しておく必要があります。特別なニーズに対応
するための手続きは2種類あり、「D1」および「D2」の申請書を通じていつでも申請す
ることができます。詳細は、IB資料『DP手順ハンドブック』を参照してください。
教師および生徒への継続的な支援
教師には、生徒に対応し、成長をモニタリングし、カリキュラム開発で協働するための
時間が必要です。教師が適切なレベルの研修と支援を受けられるよう、非常勤の教師の必
要性も考慮しなければなりません。
アクセスが拡大すると生徒も多様化します。生徒によっては、非常に意欲が高い一方
で、プログラムで成功するために必要な知識やスキルをまだ備えていないような場合があ
ります。ガイダンスカウンセラーと教師およびDPコーディネーターは、各生徒の成長を
注意深く見守り、学年が進むにつれて生徒がより成果を上げられるような方法で、必要に
応じて適切な関わりをもつようにしてください。生徒は科目の知識や読み書きのスキルに
加え、学習スキルの向上や時間管理の改善について継続的な支援と指導を受けることがで
きなくてはなりません。教師はスキャフォールディング(足場づくり)や生徒の多様性に
応じて差別化された指導の方法(differentiation of instruction)などについて研修する機会が
与えられなければなりません。教師は、指導言語が母語ではない学習者や、特別な教育的
ニーズがある学習者を含む学習者集団にDPのカリキュラムを教えることになるのです。
生徒によっては、プログラム修了の要件となっている6つの教科の科目のうち、特定分
野に弱点があると感じているかもしれません。科目に特化したスキルや知識、または読み
書きのスキルを強化するために課外で学習できる機会があることは、生徒がDPの学習に
参加するために必要な自信を得るのに役立ちます。
学校は、生徒と教師がIBのコースワークや評価課題を完了するのに必要なIT環境や
情報関連機器にアクセスでき、これらを効果的に用いるための知識があることを確かめる
必要があります。また、学校や生徒が意識しなければならない事項がいくつかあります。
例えば、グラフ電卓にはそれぞれ異なる機能がありますが、使用の許容についての詳細は
IB資料『DP手順ハンドブック』、および各科目の「指導の手引き」で規定されていま
す。OCCでもアップデートされた情報を入手することができます。
28
DP:原則から実践へ
カリキュラムデザインとスケジュール作成
はじめに
DPは柔軟性のあるプログラムです。幅広くバランスのとれたカリキュラムを同時並行
的に学習するという原則を保ちつつ、各生徒の関心やニーズを取り入れることができます。
プログラムは2年間のコースで、履修するすべての科目と「コア」の必修要件を同時並行
的に学習します。生徒には、学際的な理解とともに科目の専門的な理解を身につけること
が期待されます。生徒はプログラムを通じて、高等教育だけではなく、将来直面するであ
ろう実生活での課題と向き合う準備となる力強い全人的能力を身につけます。
学校のDP科目選択
DPのプログラムモデル(IB資料『DP手順ハンドブック』を参照)は柔軟性を内包し
ているため、各学校が自校で開講するDP科目を選択する際に、難しさが伴う場合もあり
ます。学校は教師の配置、設備、生徒たちの学習背景、その地域での大学入学要件などの
要素を考慮しなければなりません。学校の年間予定(および時間割)を策定する際には、
通常、考慮するべき点として、以下のような点が挙げられます。
•学校はどのようにして生徒の関心や能力を反映したスケジュールを編成し、更新す
るか。
•学校の指導言語でない「言語A:文学」の学習をどのようにプログラムの中で可能
にするか。
•生徒のこれまでの言語学習に照らし合わせた場合、
「言語の習得」(グループ2)で
はどの科目およびどのレベルが適切か。
•「理科」(グループ4)ではどの科目を、どのような組み合わせで、どのレベルで開
講すべきか。
•生徒集団のサイズや構成と照らし合わせた場合、IBの数学の4科目をすべて開講
するのは適切か。
•州、地方および国の教育課程の要件を満たすために開講が必要となるIB科目があ
るか。
•国および地域の大学入学要件は、特定科目を特定レベルで履修することを条件づけ
ているか。――多くの国や大学では、高等教育での学習を認めるにあたって、既習
科目の構成や成果について非常に詳細な要件を設けています。例えば、学校が開発
する「学校独自シラバス」(SBS:school-based syllabus)が、国公立の大学に認め
られないこともあるかもしれません。
DP:原則から実践へ
29
カリキュラムデザインとスケジュール作成
プログラムの初期に開講する科目は、生徒の能力とDPへアクセスに密接に関わってい
ることに注意を払う必要があります。どのような科目を生徒に提供するかによって、できる
だけ多くの生徒の参加を奨励することになるか、プログラムを修了する能力をそもそもも
ち合わせた特定の生徒たちのみに提供するものになるかを決定づける可能性があります。
DPの授業時間割も大きな影響を与える可能性があります。もしIB科目の授業が、生徒
の課外活動(例えばバンド練習、演劇のリハーサル、スポーツ)の時間と重なるような時
間割である場合、生徒に対して、プログラムの魅力を減らすことになります。
生徒は、高得点が見込める科目ではなく、適切なチャレンジに取り組める科目およびレ
ベルを履修することが期待されています。IB資格の最終評価での高得点が、必ずしも高
い到達度を示すことにはなりません。例えば、生徒がすでに学習したことのある言語科目
を履修し、易しいと感じるとします。この生徒は、この科目で最高点の7点を獲得するか
もしれませんが、より要求の厳しいレベルの言語科目に取り組み、結果として4点を獲得
した場合の方が、教育的には成功したといえます。
学校は、以下に示された「言語の獲得」(グループ2)の言語の「指導の手引き」に示さ
れたガイドラインに従わなければなりません。
DPコーディネーターと科目担当者は、生徒が履修する科目が、生徒の現在
および将来のニーズに最も適したものであり、
かつ学習意欲を引き出す適切
な科目であることを確かめなければなりません。
開講する現代言語の科目の
範囲内で、生徒に対して適切な科目の履修指導を行うには、生徒がすでに備
えているその言語での能力の程度と、
コース修了時に生徒が到達しようと希
望する習熟度の目標が最も重要な判断材料となります。
生徒に対する適切な
履修指導については、IBではなく、科目担当教師およびコーディネーター
の責任となります。
DPと学校スケジュール
スケジュールは、
「IBの使命」およびDPの原則を十分に支えるものであるよう努めな
ければなりません。スケジュールの構造は、IB認定校それぞれで大きく異なりますが、
どのスケジュールもメリットと制約の間で調整を図った結果として生まれたものです。完
璧なスケジュールというものは存在しません。このことを念頭に置いた上で、最低限、次
の各事項は尊重されなければなりません。
•6つの教科について、ガイドライン(IB資料『DP手順ハンドブック』を参照)
に沿った一定の時間が割りあてられなければなりません。ガイドラインでは、HL
科目が 240 時間、SL科目が 150 時間、
「知の理論」(TOK)が最低 100 時間であ
ることが推奨されています。さらに、「課題論文」(EE)と「創造性・活動・奉仕」
(CAS)のための十分な時間も考慮されなければなりません。
•すべてのHL科目および少なくともSL科目の1科目は、プログラムの2年間を通
じて授業を行わなければなりません。SL2科目までは、例外的に授業期間が1年
でも許容されます。この例外は、避けることのできないスケジュール上の制約があ
30
DP:原則から実践へ
カリキュラムデザインとスケジュール作成
る場合に、柔軟性を提供することで解決を図るための措置であり、DPの構築で常
態化することを意図したものではありません。すべての科目は、2年間の学習とし
てデザインされています。
•スケジュール作成において、教科ごとに時間の適切な割りあて方が異なることを理
解する必要があります。例えば、「理科」(グループ4)および「芸術」(グループ
6)の科目は一般的により長い時間枠が適しています。
•「コア」の必修要件は、2年間を通じて取り組まなければなりません。「知の理論」
(TOK)では、人間が獲得する知識の本質を検討しますが、他の授業での体験と
関連づけながら同時並行的に学ばなければなりません。学校によっては、生徒が最
終評価に対する準備を開始できるように、
「知の理論」(TOK)の授業を最終試験
の時期よりも多少早く終了するところもあります。同様に、「創造性・活動・奉仕」
(CAS)も2年間を通じて参加することが求められていますが、試験準備に集中
できるように最終評価の数カ月前に完了することを生徒に許可するのは妥当とい
えます。
•早く終了するために、DPを早く開始するというのは、同時並行で実施される全人
的な学習、という原則に反しています。一方で、学習は常に継続的な営みであるた
め、DPでの学習を実りあるものにするために必要なスキル、知識、態度をDPに
先立つ学年であらかじめ身につけておく必要があります。生徒がDPを開始する際
に、生徒に期待される事項やレベルに突然の飛躍があってはなりません。
•「創造性・活動・奉仕」(CAS)は、他の学習の成果と絡み合わされながら実施さ
れます。「IBの学習者像」と同様、DPで生徒が過ごす2年間の枠をこえて有益
なものです。一方、DPでの体験が幅広いものになるよう、「創造性・活動・奉仕」
(CAS)は科目の学習と同時並行的に完了しなければなりません。したがって、
DPを開始する前に得た経験は、たとえ貴重なものであったとしても、それを移行
したり、「創造性・活動・奉仕」(CAS)の一部として見なしたりすることはでき
ません。
DPのデザインとスケジュール作成の要素
修了証を取得する生徒
DPを実施する学校は、IB資格の取得を目指すフルディプロマとしてDPを提供しな
ければなりません。一方、学校によっては、全生徒にフルディプロマを要求するのは適切で
ないかもしれません。多くの学校が生徒に対してフルディプロマを修了するように義務づ
けていますが、科目別修了証の取得を許容している学校もあります。こうした学校では、
科目別修了証の取得の容認を、特色あるIBの理念に触れる生徒を増やす方法であると同
時に、いずれDPに応募する生徒を増やすための手段として捉えています。導入段階の学
校は、生徒に科目別修了証の取得を許容することが、どのような意味をもつことになるか
を注意深く考慮する必要があります。
DP:原則から実践へ
31
カリキュラムデザインとスケジュール作成
追加科目修了証
個人的な関心や、学校の規定、大学入学要件などのさまざまな理由により、学校は生徒が
IB資格の必修である6科目に加えて、さらに科目を履修することを認めることもできま
す。この場合、起こり得るスケジュール上の問題に加え、学業面での負荷が増す結果、生
徒が過度のストレスに苦しむことがないように注意しなければなりません。6科目と「コ
ア」の必修要件を十分に学習する方が、1科目を追加で履修して余分な負荷を負い、IB
資格の取得に配分できる時間が制限されてしまうよりも良いといえます。学校は、HL科
目を3科目ではなく4科目履修するという選択肢があることも覚えておかなければなりま
せん(IB資料『DP手順ハンドブック』を参照)。著しく能力の高い生徒(ギフテッド)
に対しては、追加科目修了証(extra certificate)を目指すことではなく、こうした方法で適
切なチャレンジを提供できるかもしれません。
非正規ディプロマ
まれに、学校が、DPの規定にある科目以外の科目を生徒に提供する「非正規ディプロ
マ」(non-regular diploma)を検討する場合があります。具体的には、高等教育機関への入
学条件によりプログラムを修正する必要が生ずる場合です。このような変更を要請するに
は、学校はIBに当該高等教育機関の募集要項のページなど、特定科目を代替する必要が
エビデンス
ある旨の明確な証拠を示さなければなりません。学校は非正規ディプロマの要請を提出す
る前に、生徒が追加科目修了証の科目を履修する可能性を検討する必要があります。この
ような要請の提出についての詳細はIB資料『DP手順ハンドブック』に記されています。
上級レベル(HL)と標準レベル(SL)科目の合同授業
科目によっては、HLとSLの生徒を合同で授業することが望ましい状況がしばしば生
まれます。このような取り扱いは理解できるものとして認められています。各科目のカリ
キュラム改訂では可能な限りにおいてこの点が検討されています。また、合同授業を円滑
に進めるために、多くの科目で、HLとSLに共通する核となる内容と、HLのみに適用
される発展的内容は分けて明記されています。措置が容易に適用できるかどうかは科目に
よって異なります。合同授業を計画する際には、特に学習する内容および評価日程につい
て細心の注意を払う必要があります。HLの生徒には、より多くの支援と時間が必要とな
ります。HLとSLの生徒は、同一のカリキュラムを修了するのではないからです。合同
授業は、SLの生徒にとって時間が多過ぎる、またはHLの生徒にとって時間が少な過ぎ
るという結果を招きかねません。効果的な解決策としては、授業内容のほとんどをHLと
SLの共通内容としながら、HL用の追加内容を加える方法と、HLのみの授業を行う時
間帯を別に設定する方法があります。学校によってはHLの発展的内容に関する活動を支
えるために、バーチャルな学習環境を用いている場合もあります。
32
DP:原則から実践へ
カリキュラムデザインとスケジュール作成
IBカリキュラムと
その他の学校・州・国のカリキュラムの混合クラス
学校が、DPの授業と他のカリキュラムの授業を混合して教える必要がある場合は、
DPのカリキュラムと評価の完全性が保持されることを保証し、生徒がこのことによって
不利益を受けることがないよう、細心の注意が払われなければなりません。
母語および指導言語の支援
多くのIB認定校では、生徒にDPを開始するための十分な力があるものの、指導言語
がその生徒の第二言語、第三言語である場合がみられます。こうした生徒に合ったDPを
デザインすることには、難しさが伴う場合もあります。この問題に関してはIB資料『母
語以外の言語によるIBプログラム学習』を参照してください。
DPの強みは、学校が複数の「言語A」科目を提供できる態勢が整っている点にありま
す。学校のサポートの下で行われる「自己学習コース」が提供される場合もあり、生徒が
母語を習熟させることを可能にしています。学校は、開講できない言語を「特別リクエス
ト」
(special request)のプロセスを通じて要請することができます(詳細は『DP手順ハン
ドブック』を参照)。学校はできる限り、生徒が母語を「言語A」として学習できるような
選択肢を提供するよう努めなければなりません。生徒が学校の指導言語にどの程度習熟し
ているかによっては、生徒はその学校の指導言語をもう1つの「言語A」、あるいは「言
語B」として履修することもできます。生徒は他の科目を学校の指導言語で学ぶ必要があ
るので、教師は科目の専門家であると同時に生徒の言語的発達を促す言語教師としての役
割も併せもっていることを認識することが不可欠です。
学校のサポートの下で行われる「自己学習コース」として「言語A:文学」を提供する場
合には、DPコーディネーターはすべての科目要件が満たされていることを確認する必要
があります。適切な課題の選択、世界文学の課題の承認や、口述課題の指導などの面で、
その言語の学習に関して生徒のサポートを行うために教師を配置する必要があります。こ
の教師はその言語を話すことができなくても構いませんが、すべての要件や到達目標を理
解している必要があります。
学校独自シラバス
「学校独自シラバス」(SBS)は、DPの一部として、特定の関心を取り上げる科目を新
しいSLコースとして開発する機会を学校に提供するものです。SBS提案書をIBに提
出するための要件は、IB資料『DP手順ハンドブック』に記載されています。提案に関す
る要件は多岐にわたります。シラバスがDPの6つの教科のうちのいずれかの要件を満た
し、かつ、適切に評価されることができると見なされない限り、IBが提案を承認するこ
とはありません。さらに、SBSは必ず国際的な視野を推進するというIBの使命を反映
したものである必要があります。また提案が既存のSBSに似ている場合は、そのシラバ
スを実施している学校に連絡し、協力し合うように推奨されます。IBはすべてのSL科
DP:原則から実践へ
33
カリキュラムデザインとスケジュール作成
目に同じ価値を認める一方で、すべての大学がこの判断に同意するかどうかをIBは保証
できないとしていることを学校は理解しておく必要があります〔IB資料(英語版)
『Rules
for IB World Schools: Diploma Programme(IB認定校のための諸規則:DP編)』の「University
recognition(大学による認知)」を参照〕。
学校の評価日程
適切に設定された内部評価の日程は、実現可能な作業量を見極め、現実的な計画を立て
るのに非常に役立ちます。生徒も教師も、最終評価の要件を一度にすべて完了させること
はできないからです。IB認定校は、それぞれ独自の環境に合った日程を作成しなければ
なりません。日程の作成は、教師からの提案、生徒からの反応などを取り込むことで初め
て達成されるものです。
日程が適切に設定されている場合、生徒への重圧が減るほか、教師は締切前に生徒の草
稿にフィードバックをしたり、本当に生徒本人が取り組んだ課題であるかどうかを確認し
たり、最終課題を採点したり、IBによるモデレーション(評価の適正化)のための学習
成果物のサンプルを準備したりすることができます。効果的な日程は、DPの教師相互の
協働文化を反映するものであり、教師はDPのプログラムデザインの「大局」や、互いの
科目の評価要件に関する基礎知識を理解することになります。コーディネーターは、多く
の場合、日程を適切な時期に設定して、教師が前記の理解を深められるようにする責任を
担っています。2年間にわたって通期的にDPの日程を組んでいる学校は、評価日程の作
成において柔軟性が高い場合が多いといえます。
図2では、日程に組み込むべき主要な予定のいくつかを示します。あくまでも日程の一
例です。実際に学校が日程を作成する際には、より具体的で正確な日付を示したもので、
学校の状況に直接関連するものである必要があります。
DP開始前の年次
後期
•DPを履修する予定の生徒および保護者にプログラムの要件を説明
•科目およびレベルの選択肢に関する生徒向け説明
•生徒による履修科目の選択希望
•DPに向けての日程作成
DP第1年次
開始時
34
•履修科目の最終選択
•教師によるDPの2年間の評価日程の確認
•生徒および保護者向け説明会を開催し、プログラムのねらい、および日程
の概要を説明
•
「創造性・活動・奉仕」(CAS)の期待事項の説明
•
「課題論文」(EE)の期待事項の説明
DP:原則から実践へ
カリキュラムデザインとスケジュール作成
前期
•
「創造性・活動・奉仕」(CAS)プログラム開始(学期の早い段階で)
•内部評価用コースワーク課題の開始(例えば、
「経済」のポートフォリオ)
•
「課題論文」(EE)に関する日程を含んだ詳細説明
•
「地理」の実地調査旅行
後期
•
「言語A:文学」個人口述プレゼンテーション
•
「言語A:文学」記述課題開始
•
「TOKプレゼンテーション」(「知の理論」の発表)
•
「課題論文」(EE)に関する研究課題の特定および指導教員の確定
•
「創造性・活動・奉仕」(CAS)での生徒との面談
•
「グループ4プロジェクト」の完了
•第1年次試験
•第1年次成績通知
DP第2年次
前期
•
「創造性・活動・奉仕」(CAS)プログラムおよび面談の継続
•当学期締切の内部評価課題の草稿作成(科目および課題を詳細に)
•当学期上旬に締切の「課題論文」(EE)の草稿作成
•学期末に「課題論文」(EE)の提出
•学期末に「TOKエッセイ」(「知の理論」の小論文)の草稿作成
•訪問試験官による「美術」の試験
後期
•模擬試験
•模擬試験の成績通知
•最終内部評価および試験以外のIBによる外部評価項目の締切
(科目およ
び課題を詳細に)
•
「言語A:文学」記述課題の完成、コピー、試験官への提出
•当学期上旬に「課題論文」(EE)の完成、コピー、試験官への提出
•
「TOKエッセイ」のコピー、試験官への提出およびカリキュラム修了
•
「言語A:言語と文学」記述課題の完成、コピー、試験官への提出
•
「言語A:文学」個人口述コメンタリーの実施
•
「言語B」最終口述録音のコピー、試験官への提出
•内部評価の完了、点数入力
•
「演劇」の実技評価の完了
•
「音楽」の研究論文の完了
•DPの最終筆記試験
図2
学校がそれぞれの状況に応じて適用するべき評価日程の例
DP:原則から実践へ
35
「IBの学習者像」の開発
はじめに
「IBの学習者像」には、IBがその教育プログラムを通じて育成を目指す児童生徒の人
物像が描かれています。当初、PYPが目指す児童像として作成されものが、現在の形に
発展しました。「IBの学習者像」が示す人物像は、DPが開発された 1960 年代当初から
DPの理念と着想に内包されています。「IBの学習者像」は、本資料の「指導・学習・評
価」で考察するように、「指導」および「学習」への取り組みの方向性を示しているほか、
本章で以下に取り上げる幅広い態度や能力の重要性を強調しています。
DPでは、教育というものが教室の中で始まり、また教室の中で完結するのではないこ
と、そして、全人教育には、アカデミックな学習に加えて、それぞれの生徒が直接的な体験
をすることが不可欠であるということを常に前提としてきました。ピーターソン(Peterson
2003: 45)によると、教育者クルト・ハーンの教育理念が、体験的学習および奉仕の重要
性を強調した「創造性・活動・奉仕」(CAS)と「課題論文」(EE)とを必修とするカ
リキュラムの開発に影響を及ぼしたとしています。ハーンは、教育とは自己を発見し、共
感する心をもち、目的と意味のある行動につながるものであると信じていました。これは
ハーンのモットー「あなたの中には、あなたが思っている以上のものがある」(Plus est en
vous)に表現されています。
このほかにも、DPで「IBの学習者像」の人物像が強調される理由は多くあります。
•認知科学により、情意的体験と認知的体験との関係が、以前に増して認識され、理
解されるようになっています。感情が、認知機能やパフォーマンスとどのように
関連しているか、効果的な学習にどのように関わっているのかについて解明され
てきています。例えば、インモルディーノ = ヤングとダマシオ(Immordino-Yang &
Damasio 2007)は、認知領域と情意領域は相互に深く関わり合っており、教育実践
に重要な意味をもつとしています。
•大学や雇用者は優秀な学問の成績に加え、実生活での経験に基づく幅広いスキルを
もった生徒や学生を求めています。
•教育の関連性、すなわち学習を人類規模あるいは世界規模の文脈の中で捉えること
の必要性が、ますます強調されています。情報社会により相互に関連し合う 21 世
紀の世界の現実を前に、多くの教育者は、何が重要なのか、何を学校で教えるべき
かを再考、再評価せざるを得ない状況になっています。私たちはまた、生徒たちが
このような複雑な世界における社会的、道徳的課題に対して向き合うための力を備
える必要性を認識しています。従来の学習分野だけでは、若者たちはこのような課
題に対処する備えはできません。生徒たちは、現代の世界の相互関連性や複雑性を
36
DP:原則から実践へ
「IBの学習者像」の開発
理解し、対処していくために必要なスキルや考え方、道徳的・倫理的価値を身につ
ける必要があります。
学校文化
「IBの学習者像」は、教室での授業や「創造性・活動・奉仕」(CAS)プログラムに
限定されるものではありません。学校生活全体に浸透するべきものです。意図された顕在
化したカリキュラムだけでなく、
「隠れたカリキュラム」においても考慮されなければなり
ません。意図されたカリキュラムとは、学校の日程に組み込まれた、学校の意図する教育
プログラムに関連するすべての活動と定義することができます。隠れたカリキュラムは、
正規のカリキュラムが実施される環境を説明する際に用いられる用語で、意図せずに、無
意識的に、計画されない形で行われる指導および学習の結果として表れます。例えば、ブ
ルマンとジェンキンス(Bulman & Jenkins 1988: 10)およびヴァランス(Vallance 1991: 40)
を参照してください。
「IBの学習者像」に基づいた学校文化を発展させるためにも、また意図したカリキュラ
ムと隠れたカリキュラムの整合性をもたせるためにも、学校の価値観および使命が、教育実
践および原則の面で「IBの学習者像」と合致していることが不可欠です。学校管理職、
教職員、そして保護者をも含む学校に関わる大人すべてが、
「IBの学習者像」で示された
信念、価値観、行動を模範として示す必要があります。生徒は、学校での日々の生活の中
で、この学習者像を体験し、自ら学習者像へ寄与する存在にならなければなりません。
IB資料『プログラムの基準と実践要綱』
(2005 年9月刊)では、基準A第1項で「学校
の教育上の信念と価値感が、IBプログラムのものと緊密に一致していること」を要求して
います。基準A第1項および他の基準で示されている多くの実践要綱では、学校が「IB
の学習者像」に合致した学習文化を積極的に奨励することを求めています。意図された授
業カリキュラムをこえた教育的要素に多くの注意が払われています。
[訳注]最新版(2014 年版)の『プログラムの基準と実践要綱』では、基準A第1項は「学校の掲げる
使命と理念が、IBの使命と理念に一致すること」とされています。
「IBの学習者像」を支え発展させるために
学 校 は 何 ができるか
「IBの学習者像」の存在は、学校コミュニティー(理事や教師、保護者、生徒)に対し
て、学校が何に価値を置くのか、また、何を教育の目的とするかについての議論をする機
会を提供します。「IBの学習者像」では、学校でどのようにすればそうした人物像を目
指して生徒を育成することができるかを並べ立てたり、実践しなければならない事項を列
記したりするようなことはしていません。学校コミュニティーがそれぞれの状況下におい
て、「IBの学習者像」の「意味づけ」をすることが非常に重要なのです。また、「意味づ
け」をすることは各学校の責任です。生徒が「IBの学習者像」をただ無条件に受け入れ
DP:原則から実践へ
37
「IBの学習者像」の開発
クリティカル
るのではなく、学習者像やそこに組み込まれている価値観に批判的に向き合うことが不可
欠なのです。
多くのIB認定校では、学校コミュニティー全体に対して「IBの学習者像」を目に見
える形で開発し、運用しています。本章では、2つの参考例を図3および図4に示してい
ます。ただし、この例はあくまでも参考であり、
「IBの学習者像」を自分たちのものとす
るには各学校が学習者像を独自に開発する必要があります。取り上げた例は、学校管理職
および教師に向けられたものです。学校によってはさらに学習者像を発展させ、特定の到
達指標を示したり、評価および入学判定のために利用するところもあります。保護者組織
の協力の下、「保護者像」を開発する学校もあります。保護者像は、全保護者に配布され、
保護者が学校の活動に積極的に参加するのを支援しています。
「IBの学習者像」が、学校生活の中心に位置づけられ、支援され、発展させられなけれ
ば、学習者像が可視化されていないことで学習者像への軽視を招く恐れがあります。一方
で、単に学習者像を複製し、壁に飾るだけでは、学校生活の一部とはなりません。
学校は、
「専門性を高める学びのコミュニティー」が発展するような環境を支えるリー
ダーシップやマネジメントを奨励しなければなりません(本資料「専門性の向上」参照)。
プロフェッショナル
教師は、創造的な専門職となるよう支援を受ける必要があります。信頼は、信頼を生みま
す。学校管理職は教師を力づけ、教師は生徒を力づけなければなりません。小さな事例が、
強力なメッセージを伝える重要な役割を果たす場合もあります。「創造性・活動・奉仕」
(CAS)の記録が良い例です。もし、活動の証明のための承認署名の収集や活動時間の計
エビデンス
上ばかりがプログラムの修了の証拠として重視され過ぎた場合、それは、暗黙に、生徒は
信頼されていないということと、「創造性・活動・奉仕」(CAS)は面倒な雑用であると
いうことを示しているといえます。
隠れたカリキュラムや、学校で行われる意図しない体験学習には、特に注意を払う必要
があります。生徒は学習だけに関与するのではなく、責任を担う機会や主体的に行動する
機会、また、学校生活において積極的な役割を果たす多くの機会が与えられなければなり
ません。大人たちは生徒に期待する行動の模範を示し、教育に携わる職に就く者として前
向きな関係性を見せる必要があります。大人たちは、教室や廊下で培われる学習の雰囲気
や学校文化に注意を払い、授業以外の学校の活動にも関わり、アカデミックな面、社会的
な面、および情緒的な面での支援を生徒に提供することが期待されています。
38
DP:原則から実践へ
「IBの学習者像」の開発
「IBの学習者像」
果たされるべき責任
指標となる事柄
探究する人
•教育的リーダーシップ
•生涯学習の体現
•効果的な学校教育、指導と学
習、変化のマネジメントに関す
る調査研究に情熱的である。
•常に改善に向けた視点で物事
を評価している。
知識のある人
•IBの原則と実践を理解して
いる。
•文化的な文脈や、地域的な文
脈を理解している。
•地域的文脈を理解するととも
に、グローバルな文脈に意識
的で関心をもっている。
考える人
•組織の集団的知性を高める。
•結論に至ったプロセスについ
エビデンス
ての明確かつ合理的な証拠を
示し、結論を裏づける。
•創造的に考える。
コミュニケーションが
できる人
•透明性
•協働的
•すべての議題をオープンに話
し合う。
•意思決定が協働的に行われる。
•複数の言語でコミュニケー
ションを図る。
信念をもつ人
•自己の行動に責任をもち、他
の人々を責めない。
•意思決定が倫理的根拠に基づ
いている。
•リーダーシップが誠実性、正
直さ、公平性、共感に基づい
ている。
心を開く人
•自分の視点とは違っていて
も、他の人々の視点の価値を
認める。
•オープンで批判的な議論を奨
励する。
•他の人々からの批評に肯定的
に反応する。
思いやりのある人
•学校環境に敏感
•思いやりのある行動
•教職員の能力向上を支援
•自己の関心より学校の利益を
優先する。
•倫理的行動の模範を示す。
•生徒および教職員に対して支
援を惜しまない。
DP:原則から実践へ
クリティカル
39
「IBの学習者像」の開発
「IBの学習者像」
果たされるべき責任
指標となる事柄
挑戦する人
•洞察力のあるリーダーシップ。 •プログラムの質と学習環境を
•他の人々にリーダーシップを
改善するための新しく多様な
委譲する準備ができている。
アイデアに対してオープンで
•勇気がある。
ある。
バランスのとれた人
•子どもの全人的な発達
•DPの「コア」を支援
•学校生活の全領域での成長と
エビデンス
向上の証拠を探す。
振り返りができる人
•建設的に自己批判的である。
•改善の努力する。
•学校コミュニティー全体(生
徒、教師、理事会)からの自
分に対する評価フィードバッ
クを奨励、促進する。
図3
学校管理職向け学習者像の例
注:運営上の指導者(校長、理事長、DPコーディネーター)に向けたものですが、これ
とは別に、状況に応じて、生徒、教師、保護者を含んだリーダーシップについても検討す
るとよいでしょう。
「IBの学習者像」
果たされるべき責任
指標となる事柄
探究する人
•生涯学習を体現する。
•生徒主導型の探究を奨励して
いる。
•専門性の向上の機会を模索。
•指導と学習や教科指導の開発
の研究に情熱的である。
•教室での指導以外の機会(例:
試験の実施)を進んで求める。
知識のある人
•DPの原則と実践を理解して
いる。
•文化的な文脈や、地域的な文
脈を理解している。
•科目に関する優れた知識およ
びDPのカリキュラムと評価
に関する知識を有する。
考える人
•優れた考え方の模範を示す。
•創造的に考える。
•答えや結論に至ったプロセス
を生徒に説明する。
コミュニケーションが
できる人
•聞く、そして生徒の発言を
促す。
•同僚と実践を共有する。
•生徒が意思決定に参加できる
ようにする。
•複数の言語でコミュニケー
ションを図る。
40
DP:原則から実践へ
「IBの学習者像」の開発
「IBの学習者像」
果たされるべき責任
指標となる事柄
信念をもつ人
•公正で一貫性をもって生徒と
接する。
•行動に責任をもつ。
•生徒が尊重されている。
•倫理的規律が適用されている。
•生徒や他の人々に正直である。
心を開く人
•自分の視点とは違っていて
も、他の人々の視点の価値を
認める。
•オープンで批判的な議論を奨
励する。
•生徒を含む他の人々からの建
設的批評に肯定的に反応する。
思いやりのある人
•学校環境に敏感。
•思いやりある行動の模範を
示す。
•同僚への支援を惜しまない。
•自己の関心より学校の利益を
優先する。
•倫理的行動の模範を示す。
•生徒の幸福に関心がある。
挑戦する人
•洞察力のあるリーダーシップ。 •プログラムの質と学習環境を
クリティカル
•他の人々にリーダーシップを
委譲する準備ができている。
•勇気がある。
改善するための新しく多様な
アイデアに対してオープンで
ある。
バランスのとれた人
•単に科目を指導する教師とし
てではなく、全人的に生徒と
関わる教師としての役割を考
える。
•
「創造性・活動・奉仕」(CA
S)、
「知の理論」(TOK)、お
よび他の包括的な学校のプロ
グラムに対し協力的である。
振り返りができる人
•建設的に自己批判的である。
•常に改善の努力をしている。
•生徒、教師、学校管理職から
の自分に対する評価フィード
バックを奨励、促進する。
図4
教師向け学習者像の例
DP:原則から実践へ
41
指導・学習・評価
一般教育の目標は、知識の獲得ではなく、多様な考え方で発揮できる知力を
育成することであるという理論は、
カリキュラムの策定および評価方法に多
大な影響を与えた。
ピーターソン(Peterson 2003: 41)
はじめに
DPは開発当初、以下の3つの点を原動力にして形づくられました。
――大学入学を円滑にする、さまざまな国で認識され
• 実用的であること(pragmatic)
る修了資格を提供する必要性
• 理想主義的であること(idealistic)――国際理解と平和を促進する、国際的な視野を
育てるという理想
クリティカル
• 教育的であること(pedagogical)――批判的で創造的な思考力と、学び方を学ぶ力
の育成
、フォックス
注:DP開発における歴史的側面についてはピーターソン(Peterson 2003)
(Fox 1998)、ヒル(Hill 2002)を参照。
これらの3つの原動力は互いに補完し合い、DPの発展を促し続けています。プログラ
ムが開発された当初の 1960 年代に比べて、世界ははるかに相互依存の度合いを高めていま
す。また、知識ベースの規模は拡大を続けており、知識をただ獲得するだけではなく、知
識を処理し、評価する能力はかつてないほどに重要となっています。大学や雇用者は、グ
ローバルな知見と順応性を併せもち、身につけたスキルや知識を新しい文脈の中で活用す
ることができる学習者を、これまで以上に求めるようになっています。
アプローチ
アプローチ
学校で用られる「指導の方法」(approaches to teaching)と「学習の方法」(approaches to
learning) が、DPの成功を決定づける重大な要素となります。本章では、適切な教育実践
について考察します。また、IB資料『一貫した国際教育に向けて』の「『指導』と『学
習』」を併せて読むことを推奨します。
DP科目のコースデザイン
DPの各科目の「指導の手引き」や「教師用参考資料」、その他のIBが刊行している資
料は、教師が独自の授業を立案し、準備するのを支援するために作成されていますが、授
42
DP:原則から実践へ
指導・学習・評価
業を規定することはしていません。本資料「ディプロマプログラム(DP)の『理念』と
『原則』」で紹介している「教師としての専門性の創造的発揮」という概念は、教師が独自
の授業をデザインし、効果的に指導する際に、教師が中心的役割を果たすということを理
解する上で非常に重要です。
出版されている教科書の中には役に立つものもあるでしょうし、IBプログラム用に特
別に執筆された補助教材も数多くあります。しかし一方で、IBの授業を教科書や補助教
材に沿って指導することは望ましくない上、効果的ではありません。教科書に書かれてい
るのはあくまでも一般的な説明にすぎませんが、教師は、指導する相手と、指導の文脈を
一番よく把握している専門職です。各生徒が、現状のレベルをこえていけるように、指導
はそれぞれの生徒に応じて差別化される必要があります。
IBの各「指導の手引き」は、非常に多様な教科にわたって刊行されていますが、その
構成には共通する特徴があります。「~の学習」と題された章では、その科目についての
一般的な説明をするほか、教科内での位置づけを解説します。HLとSLの区別、既習事
項(がある場合)に関する確認されるべき事項、MYPとの接続、「知の理論」(TOK)
との関連性についても説明しています。「ねらい」では、その科目の学習における到達目標
と目的が示されています。到達目標と目的は、科目によって、教科内の他科目と部分的に
共通するものと、すべてが共通するものがあります。
「評価目標」では、「シラバス概要」および「シラバス詳細」とともに、コース計画にお
いて教師に不可欠な情報を提供しています。目標の項目では、科目の履修終了時に生徒に
何が期待されおり、何が評価されるかが述べられています。さまざまな学習分野があるた
め、シラバスの内容や展開の仕方、評価目標の説明は、教科ごとに異なります。一方、以
下のような共通事項もあります。
•共通の「指示用語」(command term)が定義されています。科目のカリキュラム改
訂が行われると、新しい「指導の手引き」に指示用語リストが挿入されます。これ
は 2007 年以降に刊行された「指導の手引き」にはすべて適用されています。指示
用語とは、シラバスや試験問題で用いられる主要な用語や語句で、リストでは、そ
れぞれの指示用語が、生徒に何をすることを要求しているものなのかを定義してい
ます。また、期待される解答の種類や深度も示しています。授業を通じて望ましい
学習結果に到達するためには、それぞれの科目の文脈で指示用語をきちんと理解す
るよう指導することが不可欠です。指示用語は、ブルームの分類法(Bloom 1956)
など、既存の分類法を広くベースに用いて考案されています。
•教師は、試験問題の見本やマークスキーム(採点基準)に慣れておく必要がありま
す。試験問題の見本やマークスキーム(採点基準)では、異なる種類の解答例が示
され、生徒の課題に対する試験官のコメントが再現されています。
•設問ごとの配点は、生徒が解答する際に期待される具体的なレベルに関しての大ま
かな指標となります。
DP:原則から実践へ
43
指導・学習・評価
•「指導の手引き」内の「シラバス概要」では、授業時間数を示すことにより、シラ
バスを構成する各要素の比重を表しています。授業時間については、SLで合計
150 時間、HLで合計 240 時間を割りあてることが推奨されています。
•「理科」
(グループ4)および「数学」
(グループ5)の科目を含む「指導の手引き」
の多くは、教師向けの注記で、特定の内容の取り扱いについて詳しく明記してい
ます。
DPの各コースは、モジュールのように個別的に扱われるのではなく、それぞれが関係
するように意図的にデザインされています。これは、ほとんどのコースで、コース中に学
習した個別の要素についての理解を生徒に問うのではなく、コース修了時にコースの全体
にわたる生徒の理解を問う試験が課されるためです。生徒は、初めて見る新しい設問や文
脈に対して、知識や能力を思い出して適用できる必要があります。このことは、以下にも
挙げられているように、コースデザインおよび指導に重大な影響を与えます。
•スキルの発達および応用が、シラバスの内容範囲とともにコースデザインに組み込
まれている必要がある。
•スキルの発達は学習スパイラルの中で絶えず強化されるものである必要がある。ス
キルを学習し、身につけたら、これを異なる状況にあてはめることで強化していく
べきである。
•シラバスの学習内容量は非常に多い。そのためコースの初期段階で優れた学習スキ
ルや習慣を身につけ、強化することが特に重要となる。効果的なコース計画によ
り、生徒がコースワークで過重な負荷を負うことが避けられ、指導初日から効果的
な指導および学習が可能となる。
2人以上の教師が1つの科目に関わっている場合には、学習計画は協力的に作成されな
ければならず、教師同士の協働が不可欠となります。最終内部評価は教師ごとではなく、
科目ごとに実施され、クラスのサンプルとしてではなく学校のサンプルとしてIBによる
モデレーション(評価の適正化)に送られることになります。教師は同僚とアイデアを共
有し、教室を観察することでより良い協働ができるようになります。教師の協働は、専門
性の向上の重要な側面として捉えられるべきなのです。
DP科目の「指導の方法」
優れた教育実践は、IBあるいはその他の特定の教育プログラムにのみ根ざしているも
のではありません。しかし一方で、IBの理念と原則の下では、教師は自分自身が行って
いる指導実践を意識しなければならないという意味で、IB以外で経験した教育実践とは
異なるものであるかもしれません。
教室で用いられるべき指導方法やアプローチは多岐にわたります。個々の教師や生徒は、
それぞれ好みの学習や指導のスタイルがあり、文化や国によって、普及しているスタイル
は異なります。本質的なことは、各生徒が教室での学習活動に積極的に参加し、生徒と教
師、または生徒同士が活発にやり取りを交わしていることです。
44
DP:原則から実践へ
指導・学習・評価
学習においては、意味のある質問や流れが注目されるべきであり、学習者の声は教師の
声と同様に重要であると考えられます。教師は「知識の伝達者」ではなく、生徒の学習の
「支援者」と捉えられ、有用な発問や課題を駆使して「発達の最近接領域」における学習を
支援することになります。この用語は、ヴィゴツキー(Vygotsky 1962, 1978)によるもの
で、生徒が自分自身で達成できるものと、教師の支援があって達成できるものの間に存在
する達成領域のことを指しています。学習者が理解を深め、パフォーマンスを改善するた
めに、学習者の既存のメンタルモデルへの関わり、およびそれをこえていくことに重点が
置かれています。
開かれた議論を奨励し、教師が生徒の考えに挑みかかり、また適切な答えの模範を示す
ような、クラス全体を巻き込む取り組みは、極めて効果的です。これに対し、教師が講義
し、生徒は受動的で、積極的な参加をしていないような場合は、たいていの場合あまり効
果的ではありません。講義を重視し過ぎることは、DPのねらいと原則に沿いません。教
師はさまざまなタイミングで、多様で異なるアプローチを用い、クラス全体、グループ、
個人を単位として、
「IBの学習者像」に示されるような活動を織り交ぜるようにするべき
です。
「IBの学習者像」は、探究の重要性を強調しています。生徒は積極的な生涯学習者とな
るための方策やスキルを身につけるとともに、生来の好奇心を発展させることが期待され
クリティカル
ています。生徒はまた複雑な問題に取り組み、批判的かつ創造的に自身の知識とスキルを
応用し、合理的な結論または答えにたどり着くことができるように、自分自身で考えるこ
とが期待されています。DP科目では、かなりの量の学習内容に取り組むこととされてお
り、学習分野についても相当な細部に至るまで規定されています。この内容が教室でどの
ように提示されるかが重要です。各科目のねらい、および目標では、生徒が自分自身で答
えを検証することの重要性が強調されています。IBの評価は、その答えに至るまでのプ
ロセスにおいて示された生徒の考えに対して評価を与えるようにデザインされています。
そのため生徒があらゆる機会において自分自身の能力を発揮することが重要となります。
またさまざまな科目で、生徒が自分で「探究」をデザインする機会が与えられます。「課題
論文」(EE)が、その「探究」の最たるものといえます。
効果的な学習者となる方法を学ぶには、生徒が自己の学習および実績を現実的に評価し
管理する必要があります。「メタ認知」とは、学習をモニタリングし、コントロールするの
に用いられる「振り返り」を用いた思考法や態度およびその他の能力を指す用語です。メ
タ認知の方法やスキルは、
「IBの学習者像」に示されている情意的および認知的な能力に
取り組む協力的な学習環境の中で育まれるものです。自立した学習者となるには、生徒は
振り返りや、自信および自己認識の力をはじめ、体面を失うことを恐れずにアイデアを伝
達する意思や、リスクをとり、心を開く人となる意思を発達させることが必要です。
生徒は、以下の様な場合に最も良く学習することができます(IB資料『一貫した国際
教育に向けて』から引用)。
•これまでに身につけた知識が重要と見なされている時
•学習が文脈の中に位置づけられている時
DP:原則から実践へ
45
指導・学習・評価
•文脈が適切である時
•協働して学習できる時
•学習環境が刺激的である時
•学習に役立つ適切なフィードバックがなされる時
•多様な学習スタイルが理解され、考慮されている時
•安心でき、アイデアが重視、尊重される時
•価値観や到達目標が明確である時
•学校に好奇心を奨励する文化がある時
エビデンス
•学習に対する評価がどのようになされ、学習の証拠をどのように提示すればよいか
を理解している時
•自分の学び方について意識し、理解している時
クリティカルシンキング
•メタ認知、体系的探究、批判的思考が学校における指導の中心となっている時
•学習が意欲を喚起し、チャレンジに満ちていて、綿密であると同時に関連性と意味
があるものである時
•学校での全活動が、自律的な生涯学習者となることに結びつくものとして奨励され
ている時
言語学習の支援
すべての教師は「言語教師」です。各科目には特定の語彙があり、科目の内容を理解す
るためにも、考えを伝達するためにも、ツールとしての言語が必要です。生徒は言語を正
確に使用することを学ぶ必要があります。全科目の評価において、生徒が記述形式で自己
を表現することが求められています。加えて「言語と文学」(グループ1)、「言語の習得」
(グループ2)、「芸術」(グループ6)では、それぞれ口述評価課題があります。学校は、
教師が取り組むべき原則と実践を定めた「言語方針」を整備する必要があります(IB資
料『学内言語方針の策定ガイドライン』を参照)。
教師は、指導言語が母語ではない生徒には追加の支援をする必要があります。これに関
するガイダンスはIB資料『母語以外の言語によるIBプログラム学習』を参照してくだ
さい。
学際的な視野の育成
限りある時間の中で、教師はシラバスをあまねく取り扱い、コースのねらい、および目
標を教えることに集中する必要があります。一方、ねらいや目標、シラバス内容によって
は、他の科目を参照したり、他の科目と協力したりすることが奨励されます。異なる教科
間に自然と重複する事項があれば、重複事項を生産的に探究したり、専門的な知識や理
解、スキルを強化するために役立てることができます。数学的概念は多くの科目で用いら
クリティカル
れていますし、さまざまな形態の批判的で論理的な記述は互いに関連性があります。ある
46
DP:原則から実践へ
指導・学習・評価
教科で学んだ内容やスキルが他の教科と重複する場合もあるかもしれません。このような
関連性をもたせることは、生徒の知性に橋を架けるのに役立ち、メタ認知的理解およびパ
フォーマンスの育成を支援することにつながります。
「知の理論」
(TOK)コースでは、全教科にわたって人間の知識の本質を考察することを
求めており、学際的な理解を構築するための優れた基盤を提供します。さまざまな「知るた
めの方法」(ways of knowing)や、
「知識の領域」(areas of knowledge)で用いる異なる方法
論を比較し、対比することを通じて、生徒は人間であることの意味を熟考することを求め
られます。これを促進するため、各科目の「指導の手引き」には、「知の理論」(TOK)
との関連性が示されています。教師は、「知の理論」(TOK)との関連性を自ら探究する
ことが奨励されており、自分自身が行う授業の中でこうした学習体験ができるようにする
ことが求められています。
評価
DPの教師は、IBの正規評価がどのように実施されるかを理解する必要があります。
IBの正規評価とは、「最終的にIB資格の取得に直接関係する評価」と定義することがで
きます。正規評価の大部分はIBによる外部評価で、最終試験およびコース期間中に完了
して外部試験官に提出された課題で構成されます。また正規評価には一部内部で行われる
評価もあり、教師が採点した後、外部の担当者によりモデレーション(評価の適正化)が実
施されます。正規評価に関連する原則、実践および留意点は、IB資料(英語版)『Diploma
Programme assessment: Principles and practice(DPにおける評価:原則と実践)』で詳細に取り
上げています。
DPでの評価では、カリキュラムの目標を支え、生徒の適切な学習を奨励することを唯
一かつ最も重要なねらいとしています。これは強調されるべき重要な事項です。DPの評
価は、生徒の到達度を、コースのねらいと目標に基づく公表された規準にあてはめて測り
ます。生徒は評価では何が期待されるのか、そして、どのような基準で評価が行われるの
かを理解している必要があります。そのため、これらをコースの初期段階で説明し、授業
および宿題での焦点とするようにしてください。正規評価の要件を通じて、総括的評価が
どのように実施されるか、また、コース修了時に生徒がどのように評価されるかを明確に
理解することができます。
教師は、形成的評価の内容をデザインし、それがどのような構成でどのように実施され
るかを明らかにする責任があります。形成的評価は、何をもって優秀であるとされるか、
自分自身の学習成果物がその観点で見た場合にどこに位置しているかを生徒が理解するた
めの手助けとなります。形成的評価は、生徒の長所および限界についての詳細なフィード
バックを提供するため、教師にとっても重要です。生徒が自分自身のパフォーマンスに対し
て正しく判断し、改善策を策定する手助けをすることに重点を置くようにしてください。
これは「学び方を学ぶ」ための鍵となる要素です。形成的評価は、評価を学習のプロセス
DP:原則から実践へ
47
指導・学習・評価
に欠かせない要素として位置づけます。学校は、これを後押しするため、以下を含む多数
の実践や手法を用います。
•教師の支援の下に行う生徒の自己評価
•詳細な評価規準説明(評価指針を示すルーブリックやマトリックス)の体系的利用
•教師の指導の下に行う生徒同士による「生徒間評価活動」(対面式、またはブログ
などの情報コミュニケーション技術を用いた形態)
本来、コースの修了時の正規評価のためにデザインされた評価の手法も、学習のプロセ
スの一環として適用し、形成的に用いるようにするべきです。
48
DP:原則から実践へ
専門性の向上
「専門性を高める学びのコミュニティー」としての学校
本資料の「ディプロマプログラム(DP)の『理念』と『原則』」で述べられている「教
クリティカル
師としての専門性の創造的発揮」に関する原則は、教師が自分自身について批判的に振り
アプローチ
返ることの重要性を強調しています。自分の「指導の方法」の中で、生徒に期待する「学
アプローチ
習の方法」の模範を示していくことが求められているのです。専門性を高める専門職とし
ての学びは、これを促進、支援する上で重要な役割を果たしています。こうした専門職と
しての学びの目標は「教師の仕事の質を高めることで、生徒の学習を向上させることであ
る」(Calnin 2006: 3)といえます。
IBにおいては、専門職としての学びは、学校のサポートの下で行われる教師の継続的
な努力として解釈され、教師はその実践の中で「IBの学習者像」の人物像を具現化して
いきます。(本資料「『IBの学習者像』の開発」図4参照)。専門職としての学びでは、
クリティカル
批判的に自らを振り返るプロセスが含まれます。教師はこのプロセスを通じて、生徒がカ
リキュラムに示されている学習成果に到達するための支援ができる、国際的な視野をもっ
た効果的な教師とはどのような教師のことなのかということをより深く理解していきま
す。教員研修は、このプロセスに欠かせない要素です。
IB認定校は、自らを「専門性を高める学びのコミュニティー」として捉えることを奨
励されており、以下の特徴をもつことを期待されています。
•「IBの使命」および価値観と合致した学校の価値観および使命が共有されている。
•改善に対して持続的かつ継続的に責任をもって取り組んでいる。
•実践に組み込まれた協働の文化――信頼および挑戦が奨励され、教師は、現場での
実践をオープンに共有する。
•組織体制だけでなく学校文化を重視する。
•指導よりも学習に焦点を絞り、責任をもって取り組んでいる。
•リーダーシップが、支援的で、校長や管理職だけでなく教師にも共有され、培われ
ている――学校に関わるすべての大人、そして生徒が、生涯にわたって学び続ける
ことや「IBの学習者像」に責任をもって取り組み、模範を示している。学校内の
各個人だけでなく、学校全体が、改善に向けて継続的に現在の実践を振り返り、評
価を行う、「学習する組織」となっている。
継続的な改善への努力を伴う効果的で支援的な学びのコミュニティーの構築は、学校の
DPの導入および開発を成功させるために不可欠な要素です。
DP:原則から実践へ
49
専門性の向上
IBが提供する教員研修の機会
IBは、学校および教師の専門職としての学びを支援するため、専門性を向上するための
幅広い機会を提供しています。学校は、専門職としての学びに不可欠な振り返りと協働を
実践する文化をつくるよう努めなければなりません。学校は、教師がIBが提供するワー
クショップやその他の教員研修の機会にただ参加するだけで教師として向上すると想定す
べきではありません。IBでは、以下のような教員研修の機会を提供しています。
1. IBは、IB認定校がDPをより良く理解し運営するために、教師および学校
管理職を支援するワークショップや会議などのプログラムを提供しています。
IB主催のワークショップは世界中で開催されており、経験レベルの異なる教
師のニーズに合うようにできています。オンラインでの教員研修の機会も増え
てきており、教師はオンラインワークショップに登録することもできます(詳
細情報は http://www.ibo.org/events とOCCを参照)。
2. OCCは、オンラインを通じて国際的なレベルで専門職としての学びのコミュ
ニティーを形成し、発展させ、協働学習の文化を育むことを目的としたウェブ
サイトです。ディスカッションフォーラム、役立つ教材へのリンクや投稿、学
びのコミュニティーが協働を通じて知識を構築することを可能にするウィキ環
境、振り返りの実践者としての教師を支援するためのブログなどを提供してい
ます。OCCでは、刊行されているIB資料がすべて入手できます。
3. IB認定校によって構成される地域組織の多くが、教員研修の機会を提供して
います。これらの研修は、多くの場合、地域特有の状況下におけるDPの導入
と開発の課題を取り扱うことができるため、貴重な機会となっています。
4. IB教師のためのIB教員認定証(IB educator certificate)の授与制度を設ける大
学が世界中で増えています(http://www.ibo.org/programmes/pd/award 参照)。これ
は2つのレベルで授与されます。レベル1は、IBプログラムの実施と指導に
おけるカリキュラム、教育内容、評価に関連する要素について教師がもってい
る知識と理解を正式に認めるものです。一方、レベル2は、高水準の学問的研
究を修めることを通じてIBプログラムの原則と実践への理解をさらに深めた
教師の取り組みを認めるものです。研究では、1つまたは複数のIBプログラ
ムを取り上げ、国際教育に関する体系的かつ綿密な探究を行います。
専門性の向上に期待されること
IBは、DPを初めて指導する教師が、初任者向け教員研修に参加することを望んでい
ます。研修では、教師が指導することになる科目および「コア」の3つの必修要件を説明
します。専門性の向上は、教師の経験の多寡にかかわらず、学校の全教師を対象に継続的
に行われるようにしてください。専門性の向上は経験豊かな教師にとっても最新の授業開
発について知るために必要です。
50
DP:原則から実践へ
専門性の向上
カリキュラムが改訂のサイクルに入り、その結果、新しいカリキュラムが開発される際
には、学校は、最低限、ワークショップまたはオンラインワークショップに参加するよう
にしてください。IBのカリキュラム開発では、教師を対象に実施する調査の結果を体系
的に取り入れるため、科目担当教師が調査依頼に回答することは、調査サンプルが学習の
母集団を正確に反映するために極めて重要となります(また、調査を通じて全教師が少な
くともプログラムの開発に発言する機会をもつことができます)。
専門性の向上は、科目を担当する教師だけではなく、司書、管理職、カウンセラー、特
別支援教育担当教師、DPコーディネーター、CASコーディネーターなど、IBプログ
ラム実施のすべての要素に関わるスタッフのためのものです。すべての教師は、母語以外
の言語で学習する生徒を支援する責任を担っており、言語支援を提供できるように追加の
教員研修が必要となるかもしれません。
IBの教員向けワークショップは、経験豊かな教師にも提供されています。経験者向け
のワークショップでは、優れた実践が示され、またそれについての議論がなされ、専門職
としての学びをサポートしていきます。一方、IBは教師に対し、IBが提供するワーク
ショップやオンラインコースをこえて、専門性を向上させることを奨励しています。教師
は、IB教員認定証の授与制度を1つの道として選ぶことができますし、専門的なスキル
や理解を身につけるための別の手段を探すこともできます。対象となる研修や機会が教師
の個人的なニーズや経験だけでなく、学校の優先事項に直接関連したものとなるよう、教
員研修は、教師の評価に結びつけられた上で教師個人としてだけでなく、集団としての専
門性向上の計画の一環として位置づけられるべきです。
OCCは、学校がIBに支払う費用に含まれているリソースです。アクセスは簡単です。
広範囲にわたるリソースや情報があり、世界中の他の教師がどのようにIBの共通の課題
に取り組んでいるかを知る機会を提供しています。OCCは、全科目をカバーしています
ので、定期的に利用するようにしてください。
IBまたは他の組織が提供する専門性向上の機会を利用することは、専門性を高める学
びのコミュニティーを支える1つの側面でしかありません。正しい学習環境を創造するこ
との方が、はるかに重要です。本資料の「ディプロマプログラム(DP)の『理念』と『原
則』」で概説している「教師としての専門性の創造的発揮」の原則、およびプログラムの
基準と実践要綱では、専門性を高める学びのコミュニティーとしてのIB認定校を支える
期待事項を規定しています。すべてのIB教師は組織のビジョンおよび原則を理解、支援
し、自分自身の行動および指導の中に「IBの学習者像」の模範を示す必要があります。
経験豊かなIB教師は、IB試験官やモデレーション(評価の適正化)担当者、副主任
試験官、OCCのフォーラムモデレーター、ワークショップリーダー、認定チームメン
バー、IBカリキュラム開発委員会メンバーなど、多岐にわたるIBでの専門的職種に関
わることを奨励されます。全世界に広がるDPの支援や評価に積極的に関わることで、他
では経験のできない形態で、価値ある専門性の向上を行うことができるほか、学校はもち
ろん、より広いIBコミュニティーに貢献することができるのです。
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