戦後アメリカの金融システムの資金運用者化と金融危機 横川太郎(東京経済大学) 本論文の課題: 「資本主義経済の資金運用者化」の観点から 1990 年代以降のアメリカの金融仲介シ ステムを解明し,機関投資家と資金運用者がサブプライム金融危機にどう関係していたのか明らか にする →ミンスキーの資金運用者資本主義(Money Manager Capitalism)は,まだアイディアの段階であ り,1990 年代以降の OTD モデルとの関係を含め,現実の経済で生起したことを明らかにしてない ⇒ミンスキーの金融革新と制度進化の枠組みに依拠しながら,彼が論じた戦後アメリカ経済におけ るニューディール型銀行システムの衰退ではなく, 「金融市場の機関化」の進展における金融制度の 進化を分析の中心に据えることで,資金運用者化により金融システムがどのように変化したのか, サブプライム金融危機がこれまでの危機とどのような点で異なるのか明らかにする 本論文の章構成 第 1 章:戦後アメリカの金融構造の変化と機関化を巡る議論 第 2 章:ニューディール改革,戦時経済と戦後アメリカの経済構造 第 3 章:「株式市場の機関化」の進展と資金運用者化 第 4 章:アメリカにおける証券化の深化と投機化 第 5 章:「組成販売」型金融仲介システムの形成と金融市場の機関化 第 6 章:資本主義経済の資金運用者化とサブプライム金融危機 第 1 章 戦後アメリカの金融構造の変化と機関化を巡る議論 金融資産・負債の推移と金融システムの構造変化 1.1. 1. 金融部門の保有資産が預金金融機関から機関投資家へシフト 預金金融機関の保有資産:61.2%(1946 年)→26.1%(2009 年)→27.5%(2012 年) 投資会社(ミューチュアルファンド,MMMF) :0.2%(1946 年)→15.2%(2012 年) 年金基金:3.1%(1946 年)→5.0%(2012 年) 保険会社:21.5%(1946 年)→11%(2012 年) ※保有資産の対 GDP 比では 21%(1946 年)→1990 年代以降 26~27% ⇒投資会社の保有資産は急拡大しているが,年金基金や保険会社も依然大規模な資産の保有者 2. 家計部門の負債が大きく増大 1980 年代以降,企業部門の負債による蓄積が停滞 →対全負債比 18.2%/対 GDP 比 28.0%(1946 年)→34.0%/52.8%(1974 年)⇔20.6%/64.9% (2004 年) 1980 年代半ば以降,家計部門の負債比率が高まる →10.1%/15.6%(1946 年)→30.8%/49.0%(1965 年)⇒27.9%/93.4%(2006 年) 家計部門の住宅モーゲージ債務(対可処分所得) :約 40%(~1980s 半ば)→96.7%(2009 年)。 消費者信用も 24.2%(2009 年) 。 1 ⇒1980 年代以降,企業部門の負債を通じた資本蓄積の停滞と家計部門の負債による投資・消費の拡 大,証券化の拡大に伴う金融部門の負債の急増が特徴 3. 証券化関連資産のプールの拡大,機関投資家を通じた投資などで「金融の重層化」が進展 家計部門の年金基金への拠出→ミューチュアルファンド→証券化商品→裏付け資産の保有 ⇒金融機関間で金融資産・負債が両建てで増加 「金融市場の機関化」を巡る議論とその特徴 1.2. 1.2.1. 黎明期:第二次世界大戦後から 1965 年まで ゴールドスミス(1969) :1880 年代以降,多くの主要国で金融機関,特に機関投資家の金融資産の 発行と保有が大きく増大し,貯蓄と金融資産所有の「機関化」が進展 →主に長期の国債や社債,モーゲージなど債券で進展,株式は先進国で増加傾向 +商業銀行の比重が低下,貯蓄銀行や住宅金融組合,機関投資家などの保有が拡大 金融市場の機関化の資本主義経済への影響 →因果関係を示せないが経済発展にとって金融の発展はプラスの影響を与える =金融市場の機関化も肯定的 ⇒1965 年までは,機関投資家が配当と値上がり益の獲得を狙って株式を長期間保有したため妥当 1.2.2. 流通市場での活動拡大と「株式市場の機関化」を巡る議論の活発化 1966 年の転換:アメリカ経済は実質経済成長率の低下,消費者物価指数の高まり,それに伴う高金 利,金融機能障害の頻発という状況に 北條(1986) :参入増加で競争圧力が高まり,ミューチュアルファンドが短期パフォーマンス主義化 →株式売買の活発化で株式の売買回転率の上昇,取引単位の大口化が進展し,株式流通市場におけ る機関投資家の影響力が拡大 ⇒「株式流通市場の機関化」へ ⇒ニューヨーク証券取引所の取引空洞化を招き,1975 年に固定手数料制度を廃止させるほどの影響力 株主行動主義への転換:1980 年代後半以降,機関投資家は控えめな株主から転換 →「株式市場の機関化」は,最終的に単なる売買だけでなく企業経営への影響力行使を含めた「株 式運用過程の機関化」に進展 ⇒機関投資家が資本主義経済の運動を左右する決定的な存在になった Useem(1996)の「機関投資家資本主義(Investor Capitalism)」:短期利益主義,アクティブ運用に注目し て否定的な評価 1970~80 年代初めに株式を膨大に蓄積した機関投資家が,90 年代に経済的支配力を政治的影響 力として企業に行使 →株主価値の最大化を求め,企業により生産的で,より効果的で,より競争力を持つよう迫る +業績の悪い企業の経営者に圧力をかけて経営責任を取らせ,株価連動型の報酬やストックオ プションの導入で機関投資家と経営者の利害の一致を図る Hawley & Williams(2000)の「受託者資本主義(Fiduciary Capitalism)」:長期的な利益追求,インデック ス運用に注目して肯定的な評価 2 1960 年代末から株式が受託機関へ再集中され,受託者資本主義が形成 →インデックス運用が基本で株式を長期保有する一方,企業経営に影響力を行使 ⇒マクロ経済全体のパフォーマンスを重視するユニバーサルオーナーとして,準公共的な立場 から長期の社会全体の利益を追求し潜在成長力の発現,健康や精神的な充足をも実現 受託者資本主義の背景 1974 年の ERISA 法が年金資産の分散投資を規定,インデックス運用の採用を促した →1993 年の上位 25 年金基金の株式投資でのインデックス投資は平均 60.3%,対総資産 27.7% 公務員年金が持続的責任投資(社会的責任投資;SRI)の担い手として先導的な役割 ⇒CalPERS や TIAA/CREF などが主導的役割。株主行動に関わった機関投資家や運用会社の資産 総額は 4730 億ドル(1994 年)→1 兆 5360 億ドル(2011 年)に拡大。 受託者資本主義への批判 ERISA 法で年金積立の規制強化,1987 年以降,積立不足(10%以上)の場合は追加拠出義務 →雇用主が運用成績に敏感になり複数の資産運用機関に分散投資 ⇒小型株や特定の取引に特化した運用機関が出現,受託競争が激化し,短期的な投資収益を追求 するように。NYSE の売買回転率も高まり続ける。54%(1993 年)→105%(2002 年) 。 企業年金の株主行動は株主提案ではなく議決権行使中心(5%以下) +公務員年金とほぼ同水準で投資顧問会社や資産運用会社などによる株主提案 インデックス運用を行う投資家:インデックスの軌跡を追うことが目的 ⇔企業経営を改善し,より長期間,より多くの株式を保有することが目的ではない ⇒インデックス運用を行う機関投資家でもコストを伴う株主行動を起こす誘引が存在せず SRI も投資家の多くが利回りを犠牲にしてまで行わないとする ⇒ユニバーサルオーナーの議論に多くの反論が存在,短期利益最大化を中心とした Useem やケネディの 観点の方が現実に即している ⇔機関投資家の株式市場での支配力拡大と企業経営への影響力の拡大の背後で,証券化を中心とした Originate-to-Distribute(OTD)モデルの形成,その後のサブプライム金融危機など 2000 年代の金融シス テムについては十分に議論されていない 1.2.3. ミンスキーの金融不安定性仮説と資本主義経済の資金運用者化 ハイマン・ミンスキーの「金融不安定性仮説(Financial Instability Hypothesis) 」 →1966 年以降のアメリカ経済が不安定化する中で大恐慌の再来あるのか?と問う ⇒FRB による「最後の貸し手」としての介入と財政赤字を伴う大きな政府の存在が,金融恐慌の発 生を阻止し,経済が長期に渡る不況に陥るのを阻止することで再来はない 金融不安定性仮説:外部金融を伴う現代資本主義で,景気の上昇過程に資金の貸し手である投資家 もしくは銀行が,よりリスキーな投資や貸付を行うようになり,金利上昇や期待利潤が未達の場合 に資金の借り手が支払不能に陥りやすい脆弱な金融構造が内生的に作り出されることを説明 戦後アメリカ経済:適度以上の経済実績と国内外における銀行・金融システムの異例な安定 ⇔企業,金融機関,家計の利益追求行為による金融革新が生じ,累積的な金融・経済システムの変 化が 1966 年以降に金融システムを次第に変質させる 3 ⇒累積的な金融構造の変化の結果,年金基金,銀行の信託部門,ミューチュアルファンドなど専門 家が運用する巨額の資金が短期の高利回り資産を求めて頻繁に投資先を変更することで金利の浮動 性を増幅,企業の長期投資のための資金調達を大きく左右するように ⇒短期的な景気循環では,金融不安定性仮説のフレームワークを維持しつつ,より長期的な資本主義経 済の構造変化を「資本主義の金融的発展段階(The Stage of Capitalist Financial Development)」として 論じる 資本主義の金融的発展段階:「金融のあり方」を金融の主たる目的と主たる供給者に注目 →1980 年代以降を資金運用者資本主義(Money Manager Capitalism) 資金運用者資本主義:福祉国家政策の下で私的年金基金は膨大な資金を蓄積し,1970 年代以降の高 インフレで個人資産の多くがミューチュアルファンドや MMMF へ移転 ⇒大規模な資金運用ファンドが大手企業の株式や社債の多くを保有し,大きな影響力を持つように 資金運用者の投資行動:短期利益最大化に注目 →短期的な利率・株価の変動で行動し,受益者の利益のために 1980 年代の M&A ブームでは買収企 業の保有株を売り,資金調達のためのジャンクボンドの買い手に ⇔企業統治の新たな展開より,利潤機会を活用するために新たな制度進化が生じる側面を強調 +特定ファンドの目的に合わせオーダーメイドで精巧な証券を作り出すことが可能な証券化に注目 ⇔資金運用者資本主義の議論は発展途上で,2000 年代の証券化の深化を含め議論が深められていない まとめ 戦後のアメリカ経済では,(1)金融部門の資産の預金金融機関から機関投資家へのシフト, (2)家計 部門の負債の大幅な増大, (3)証券化や機関投資家による投資の拡大による金融の重層化の進展という 長期的な金融システムの構造変化が見られた。このうち,金融部門の保有資産が預金金融機関から機関 投資家へとシフトする現象を一般に「機関化」現象と呼ばれている。「金融市場の機関化」を巡っては, これまでにも断片的に議論がなされてきたが,その議論は時期により内容や対象に違いが存在していた。 金融市場の機関化に関する議論は,当初,主要国の金融市場で貯蓄と金融資産(特に債券)の金融機 関による保有が増大する現象としてゴールドスミスによって論じられた。株式に関しては近年(戦後) に先進国で金融機関による保有の拡大が見られ,さらに経済発展が進むに従い金融機関の中でも商業銀 行の比重が低下し,いわゆる機関投資家の比重が高まることが指摘されている。また,経済発展にとっ て金融の発展はプラスの影響を与えており,その結果としての金融市場の機関化も肯定的に捉えられて いたと考えられる。それに対し,1966 年以降の時期になると株式保有の拡大させた機関投資家,とりわ けミューチュアルファンドが,株式売買を活発化させたために売買回転率の上昇,取引単位の大口化が 進展し,株式流通市場における機関投資家の影響力が高まると共に,価格のボラティリティが高まるこ とで投機が発生する可能性が指摘されるようになる。さらに 1980 年代後半になると,機関投資家が物言 わぬ株主から物言う株主へと転換し,株主行動主義をとって企業経営に影響力を行使しはじめる。 機関投資家による企業支配力の行使は,彼らが金融市場を超えて資本主義経済の運動を左右する力を 発揮するようになったことを意味しており,そのことから「機関投資家資本主義(Investor Capitalism)」と 「受託者資本主義(Fiduciary Capitalism)」という対極的な議論が登場することになった。機関投資家資本 主義は,機関投資家の資産のアクティブ運用に注目し,彼らが短期利益主義をとることで企業に株主価 4 値を最大化するような経営をとるよう圧力を掛けるとする。一方,受託者資本主義は,機関投資家の資 産のインデックス運用に注目し,彼らが長期保有に基づく利益追求の観点から個別企業ではなくマクロ 経済全体のパフォーマンスを重視し,SRI などの担い手となって社会全体の利益を追求するとする。受託 者資本主義には多くの反論が存在しており,機関投資家資本主義の方が現実に即していると考えられる。 ただ,これらの議論は株式市場を舞台とした機関化を論じるものに留まっており,1980 年代以降の証 券化の進展やそれに伴う経済の変化などに関する観点が欠けていた。その点で,ハイマン・ミンスキー の「資金運用者資本主義」の議論は,資金運用者の短期利益追求を投資行動としつつ,証券化が彼らと 結び付くことを射程に収めていた。しかし,「資金運用者資本主義」の議論はアイディアの段階であり, 現実の経済で証券化が大きく拡大する 2000 年代については何ら明らかにしておらず,資金運用者が実際 に経済にどのような形で関わり,金融システムを変化させたのかについては明確になっていない。そこ で,本論文では「資本主義経済の資金運用者化」の観点から 1990 年代以降のアメリカの金融仲介システ ムを解明し,資金運用者化がサブプライム金融危機にどう関係していたのか明らかにすることを目標と する。 第 2 章 ニューディール改革,戦時経済と戦後アメリカの経済構造 ニューディール改革:厳格な金融規制と一般投資家保護,所得平等化の基礎 2.1. 2.1.1 ニューディール型銀行システムの構築 ニューディール型銀行システム:グラス・スティーガル法(1933 年銀行法) ,1935 年銀行法,1933 年証券法,1934 年証券所取引法の 4 法を中心に構成 グラス・スティーガル法(1933 年銀行法)の制定と決済システムの安定性の確保 →真正手形ドクトリンに基づき,商業銀行から投機性のある投資銀行業務を分離し,その貸付対象 を短期の資金供給に集中するよう奨励 第 16 条:商業銀行による自己勘定での証券の売買・引受けを禁止 第 20 条:銀行が投資銀行業務に「主として従事する」金融機関との系列関係を禁止 第 21 条:投資銀行などの類似する業務を行う金融機関が商業銀行業務を行うことを禁止 →商業銀行が規制により業務を制限される一方,類似する業態の金融機関との競争から保護 証券市場規制:一般投資家と投資銀行の間で大きな情報格差(情報の非対称性)が存在 ⇒企業情報の顧客への未開示,リスクを隠し相場操縦,特定業者や個人に不当に利益を供与 ⇒1933 年証券法,1934 年証券取引所法,1940 年投資会社法,1940 年投資顧問法 投資会社規制:1920 年代に一般投資家の資金を集めて証券投資を行うクローズド・エンド型投資会 社が急増 ⇔法整備がされておらず,規制が不十分で,大恐慌で多くの投資家に多大な損失 1940 年投資顧問法:一般投資家向けにアドバイスを行う投資顧問会社の SEC 登録を義務づけ 1940 年投資会社法:一般投資家に証券を販売する「投資会社」の SEC 登録を義務づけ 1. 総資産の 75%を現金等,政府証券,他の投資会社の証券,その他証券で構成すること 2. 社外議決権付き証券の保有を 10%以下にすること 3. 証拠金取引による買付の禁止とレバレッジを銀行借入の限定すること 4. ピラミッド構造の禁止などを規定 5 +登録投資会社に内国歳入法のサブチャプターM を適用し,課税上の「導管」として非課税に ⇒戦後に拡大する中所得層の貯蓄需要の受け皿としての役割を果たせるように サブチャプターM の適用範囲の拡大:1960 年に REIT(不動産投資信託),1985 年に REMIC(不 動産モーゲージ投資導管) →資本主義経済の資金運用者化が進展で不可欠な金融技術を普及させる,税制上の優位を確立 ⇒戦後の金融市場の機関化,資本主義経済の資金運用者化の基礎が形成される ニューディール型銀行システム下の商業銀行:安定的な決済システムの提供と短期資金の供給 →商業銀行業と投資銀行業の分離,預金金利上限規制,預金保険機構の整備などの仕組みを構築 ⇔長期の資金供給:預金保険制度非加入の投資銀行など資本市場で活動する金融機関に委ねられる ※資本市場で活動する金融機関も,一般投資家保護のための各種の規制や制度改革で,公募新規発 行が減少,機関投資家による私募と商業銀行のよる中期貸出(タームローン)が増加 ⇒企業の資金調達における社債,ノートの役割が相対的に縮小,商業銀行による融資が相対的に拡大し, 相対的に商業銀行が投資銀行の優位に立つ 2.1.2. ワグナー法の制定と所得水準の引き上げ 全国労働関係法(ワグナー法,1935 年):未熟練労働者を含む労働組織化が進展 ⇒家計部門の所得水準を引き上げる基礎を形成 ⇔ニューディール政策期の諸政策,第二次大戦後の「福祉国家」政策と比較すれば未成熟 →ニューディール政策自体には限界が存在 ⇒戦時経済,戦後を通じた家計部門の所得水準の上昇は,マクロの貯蓄率を増大させ,ミクロの少額貯 蓄者を大量に生み出す ※2.2.~2.3.3.は割愛 2.3.4. 中所得層の拡大と少額貯蓄者(small savers)の形成 ニューディール期,戦時期の労使政策で所得の平等化が進展したことで中所得層が増加し,マクロ としての貯蓄の増大とミクロとしての少額貯蓄が形成された マクロの個人貯蓄の増大 39 億ドル,対 GDP 比 3.9%,民間貯蓄の 51.3%(1929 年) →424 億ドル,対 GDP 比 18.9%,民間貯蓄の 85.8%(1944 年) 戦時期に大きくマイナスとなった政府財政収支(283 億ドル,対 GDP 比-12.6%,1944 年)を 穴埋め →戦時公債を直接保有 or 金融機関を通じて間接保有 ⇒家計貯蓄の 33.5%(84 億ドル)が連邦債,27.0%(67 億ドル)が商業銀行預金に(1939~1945 年) +他の非商業銀行金融機関による間接的な保有 ⇒不動産や社債,株式投資へと向かった資金は 5.1% 貯蓄率は戦後一時的に低下⇔1950~1975 年に対 GDP 比で平均 7.9%の高貯蓄率を維持 6 ミクロとしての少額貯蓄の形成 1. 労使間の協約関係の成立に伴う実質賃金の持続的な増加 毎年の生産性上昇率に対応する約 3%の自動的な賃上げとインフレに対応する生計費調整 (COLA)を長期協約として結び,実質的な賃金上昇を確保 +各種保険(健康・生命)や年金などのフリンジ・ベネフィットを獲得 2. 賃金分配における中所得層の拡大 表2-4 家計の所得分配(1929-1971, %) 最低所得層 低所得層 中位所得層 高所得層 最高所得層 最高所得層 最高所得層 1% 20% 20% 20% 20% 5% 20% 12.5 1929 13.8 19.3 54.4 30.0 18.4 1935-36 4.1 9.2 14.1 20.9 51.7 26.5 17.6 1941 4.1 9.5 15.3 22.3 48.8 24.0 15.0 1944 4.9 10.9 16.2 22.2 45.8 20.7 10.5 1950 4.8 10.9 16.1 22.1 46.1 21.4 11.4 1955 4.8 11.3 16.4 22.3 45.2 20.3 9.2 1960 4.6 10.9 16.4 22.7 45.4 19.6 8.4 1964 4.2 10.6 16.4 23.2 45.5 20.0 8.0 1967 4.0 10.8 17.3 24.2 43.8 17.5 8.4 1971 4.1 10.6 17.3 24.5 43.5 16.7 7.8 出典:U.S. Department of Commerce, 1975, p.301, G319-336(1929-1964); U.S. Census Bureau, Historical Income Tables, H-2(1967-); 最高所得層1%はPiketty and Saez, 2003(1935-36は1936). ⇒1971 年に中位所得層 20%の獲得所得が最高所得層 5%をを上回る 家計部門の中高所得層(第 3 五分位)の所得上限:28,144 ドル(1947 年,2007 年ドル換 算)→53,988 ドル(1971 年)…約 1.9 倍に 中高所得層の増大:当該家計に貯蓄を行う猶予を作り出す⇔家計当たりの貯蓄が少額化 →持続的な少額貯蓄の金融市場への流入と貯蓄手段への需要が金融市場での新たな金融商品の開発 に影響を及ぼす ⇒戦後アメリカの金融市場の構造変化=「金融市場の機関化」,ひいては資本主義の資金運用者化を引き 起こす上で重要な役割を果たす まとめ ニューディール改革,戦時期を通じて経済全体に占める政府部門の割合が増大し,戦後もそれが継続 した。そのため,政府・民間部門の負債の多くが安全な政府債務となり,家計・企業部門は多くの政府 債券を有するようになった。そのうえ,1930 年代の大恐慌の記憶が流動性の重要性を強く認識させたこ とで各経済主体は保守的になり,戦時中に蓄積された流動性が急速な投機には向かわなかった。また, ニューディール改革による業際規制と証券規制,さらに戦中,戦後を通じた企業の自己金融化の結果, 投資銀行・商業銀行に対する企業の経営者の独立性が以前より高まり,資本蓄積における投資銀行の支 配力も後退した。株式の多くが個人所有となり,広く分散することになった。その結果,順調な配当の 流れが続く限りにおいて,企業経営者は株主の圧力から開放された。企業は市場支配力を慎重に行使す ると共に,その恩恵を労働者と共有することで労働者の賃金の上昇することとなった。その下で,少額 貯蓄者(small savers)が形成され,次章でみる社会保障の拡充と合わせて機関投資家に継続的な資金流入 が引き起こされることになる。 7 第 3 章 「株式市場の機関化」の進展と資金運用者化 機関投資家と資金運用者 3.1. 「機関投資家(institutional investor, institutions)」の定義 ⇒一般大衆から相当額の資金を吸収 し,これを有価証券とりわけ普通株に運用して利益をあげ,そ の益を主たる収益源,またはその一つとする機関 ⇔資本主義経済は市場それ単体では機能せず,それを支える制度的基盤があって始めて機能する +同時に資本主義経済は常に様々な革新と規制・ルールの変更などで進化し続けている →利潤機会を求める経済主体は金融革新を引き起こし,その影響は金融システム全体ひいては資本主義 経済全体に波及 ⇒ミューチュアルファンドの短期利益追求型の有価証券投資が大きな利益を生むことで,その業務に参 入する既存の機関投資家,機関投資家以外の金融機関・部門が増加 資金運用業務を行う新たな金融主体=「資金運用者(Money Manager)」の登場 ⇔ミンスキー(Minsky, 1990, 1993)の資金運用者の定義は,年金,ミューチュアルファンド,保険会社, 銀行信託部のような金融機関,あるいはファンドマネージャーそのものと極めて曖昧 本稿の「資金運用者」の定義 ⇒短期利益追求型の有価証券投資を通じて資金運用業務を実施する部門・主体 「資本主義経済の資金運用者化」 ⇒金融市場の機関化が進展することで金融市場の構造が変化し,資金運用者の投資に合わせて市場 や金融機関の業務が展開されると共に,新たな資金運用者の形成,さらには金融市場を超えて実体 経済にも資金運用者の影響が波及する状態 →本稿での具体的な資金運用者 商業銀行の証券子会社によるトレーディング業務など自己勘定投資,セキュリティ・レンダー 投資銀行のプロップ取引,プライベートエクイティ投資,アセットマネジメント業務など アクティブ運用のミューチュアルファンド,ヘッジファンド 年金基金(基金のうちアクティブ運用部分),生命保険会社の分離勘定など 大企業のフリーキャッシュの運用 →本稿での具体的な機関投資家・資金運用者向け業務 銀行の証券化業務,オフバランス事業体による業務(ABCP 発行),カストディアン業務 投資銀行のプライムブローカー業務 ⇒資金運用者の活動が現代資本主義経済を形作っており,彼らの活動が金融システムひいては経済全体 に影響を与えている 3.2. 「株式保有の機関化」の進展 戦後アメリカ経済の繁栄:雇用の安定と実質賃金の継続的な上昇,社会保障制度の充実 →家計所得の平等化が進展,中所得層が増大し少額貯蓄が形成 +年金基金や保険会社などの機関投資家に恒常的に資金が流入するチャンネルが形成される →預金金融機関,国債,株式からミューチュアルファンドと年金基金へ資産シフト 8 3.2.1. 「国債・社債保有の機関化」と「株式保有の機関化」の状況 社債保有 (1946 年) :預金金融機関 13.3%,家計部門 26.7%,非預金金融機関 59.1%(保険会社 48.8%) →1965 年に非預金金融機関の保有が 88.5%に。保険会社は平均 57.7%(1946 年~65 年)を保有。 ⇒1933 年証券法で社債の私募発行が増加。生命保険会社が 8 割以上を引受け(1940~1950 年) 株式保有(1946 年) :預金金融機関 0.2%,家計部門 92.6%,非預金金融機関 4.8% →アームストロング委員会の調査報告以来の金融機関の産業支配抑制政策の結果 →非預金金融機関による株式保有が家計部門を逆転するのが 2001 年,2005 年に 49.7%に達する。 非預金金融機関による株式保有の拡大 オープンエンド型投資会社(ミューチュアルファンド) :競争は激しく,顧客のニーズに敏感に 反応するため,戦後アメリカの金融市場の変化を主導し,他の機関投資家の運用に強い影響 →機関投資家の株式保有の先導,運用における質的な変化を生み出す 年金基金:豊富な資金で,その変化の量的な拡大を作り出す 3.2.2. 少額貯蓄の形成と非預金金融機関への流入 家計部門の金融資産保有 1946 年:預金金融機関 17.7%,国債 10.5%,株式・社債 16.5%⇔非預金金融機関 8.8% 1966 年:17.7%,5.6%,24.8%⇔14.0% 2001 年:11.5%,4.2%,22.7%⇔39.5% →戦後一貫した国債保有の減少,1970 年代以降の株式・社債保有の減少,1990 年代以降の預金の減少 ⇔一貫した非預金金融機関の資産保有の増大 少額貯蓄需要と非預金金融機関を通じた投資の関係 少額貯蓄層は伝統的に短期のリターンや成長性より流動性と安全性を重要視する傾向 ⇔金融危機が遠退き,経済主体が高リターンを求めてリスク選好が高まる傾向も 金融市場のアクセスが困難,取引高が小さくコスト高なため,金融機関を利用 年金設立運動や医療保障制度の拡充による団体保険への加入などの社会保障制度の充実 1933 年証券法,1940 年投資会社法で一般投資家保護の仕組みの整備(+レギュレーション Q) 3.2.3. 相対的低金利の中で非預金金融機関による株式投資が拡大 1960 年代前半までの金融環境と機関投資家による株式保有 株式と社債の総利回りの対比(1952~1965 年):株式 16.25%⇔社債 3.84% 州・地方公務員年金の保有資産 1946 年:国債 90.7%,社債・外債 5.6%⇔株式 0.3% 1966 年:25.2%,53.0%⇔7.3% 1986 年:24.4%,25.0%⇔31.5% ERISA 法(1974 年)制定で「慎重人の原則」に準じた規制に移行した後に株式投資が拡大 企業年金(非保険型私的年金基金)の保有資産 アメリカの年金基金設立は,1950~60 年代の労働組合の「ペンション・ドライブ」によるもの 1946 年:国債 52.5%,社債・外債 50.0%⇔株式 0.0% 9 1966 年:2.8%,30.3%⇔47.4% 資産運用は 1930 年代半ば以降,社債への投資が増加し,戦時経済で国債の保有が増加 →平時に転換して低利回りの国債・地方債が減少する一方で株式の保有が増大 ミューチュアルファンドの保有資産 1950 年の 33 億ドルから 1970 年の 468 億ドルまで増大し,一貫して株式投資の比率が高い 商品性:一株当たり純資産額で換金が可能で流動性・安全性が高く,高利回り →戦後増加した中所得層の貯蓄需要に合致した金融商品 ⇔契約で一定量の資金流入が約束されている生命保険会社や各種の年金基金と違い,換金を防 ぐために運用法を模索する必要 ⇒短期の売買を活発化させて短期利益の最大化を目指す運用の原型に 3.2.4. 「株式保有の機関化」の進展 1965 年までのミューチュアルファンドの株式売買の特徴 1. 株式投資が優良株に集中:人気銘柄 30 種の保有比率は約 20%(1964 年) 2. 保有株式の売買回転率が低かった:平均 19.0%(1955~1965 年)⇔40.6%(1966~1980 年) 1950~1960 年代前半のミューチュアルファンドの活動 →順調な株価上昇の中で,長期保有から十分な配当と株価上昇による利益を得られる ⇒優良株を中心に株式を長期保有し,株価の継続的な上昇を下支え ⇒機関投資家はこの時期,金融不安定性を生み出したというより金融的な安定性を作り出す 3.3. 「株式流通市場の機関化」の進展 ニューディール型銀行システムの第 1 の転換点:1966 年の信用逼迫 →長期の安定的な経済成長の中で,金融政策による急速な景気後退の回避が資金供給を増大させ, 景気回復時のインフレの下地を作り出し,早期の金融引き締めが必要になることで金利が上昇 +企業部門の寡占的競争力も欧州の復興,日本のキャッチ・アップにより動揺 ⇒1966 年以降,実質経済成長率の低下,消費者物価指数の上昇,名目金利の上昇に直面 3.3.1. 1966 年の金融逼迫とディスインターミディエーションの発生 企業部門による自己金融化の逆転:1964 年以降,外部金融の比重が高まる →1966 年の信用逼迫で企業の資金需要増大に対する商業銀行の貸出が限界に ⇒1967 年以降,大企業による証券市場を通じた資金調達が活発化 機関投資家による対応の必要 →企業部門の社債発行の増加,1970 年代以降の財政赤字拡大による国債発行の増加 ⇒株式市場に集中していた資金をシフトさせ,株価が上昇し続ける前提条件が消滅 ⇒企業部門の寡占的競争力を背景とした配当と長期的な株価上昇を狙う投資戦略は 1966 年以降,困難に インフレの進行と家計部門 →金融資産の実質価値の低下,実質経済成長の鈍化による実質賃金の伸びの低下 +規制金利下にある銀行預金の魅力低下し,ディスインターミディエーションが発生 10 →流出した資金はミューチュアルファンドや MMMF,CMA へ流入 →ミューチュアルファンドにインフレ・ヘッジと高いリターンの金融商品の提供を求める +新規資金流入の鈍化:1950 年代 12.6%⇔60 年代前半 7.2%,後半 7.0% ⇒新規資金の獲得と顧客の解約を防ぐためキャピタルゲイン重視の短期売買(アクティブ運用)を行う 3.3.2. 機関投資家の競争圧力の増大 企業年金によるアクティブ運用の採用 確定給付型年金は,将来の給付時点での積立不足は企業側の負担に ⇒拠出企業は少しでも高い利回りを確保し,拠出を減らすインセンティブが存在 +1974 年の ERISA 法以降の積立不足への規制強化 1960 年代後半以降のインフレ率が高まる中で資産価値の維持が問題に +金融逼迫で高金利になると固定金利の低利回り債券に相当の含み損が発生 ⇒企業年金の運用を請け負う受託機関は受託競争を勝ち抜くために,インフレ・ヘッジを可能にし,企 業の拠出負担を軽くできる高い運用成績が必要 3.3.3. 「株式流通市場の機関化」と株式取引システムの空洞化 機関投資家のアクティブ運用へと転換で株式のトレードボリューム(取引高)が増大,金融市場で の支配力を強める(株式市場の取引占有率の増大) →ミューチュアルファンドで平均 22.8%,全機関投資家で平均 45.2%(1968~1971 年) ニューヨーク株式市場(NYSE)は売買取引手数料が規模に関係なく固定制 ⇒機関投資家の大口のブロック取引にも固定手数料が課される →機関投資家はコスト削減を目的に NYSE での取引を迂回,第三市場や第四市場が形成される ⇒NYSE のシェアが低下:平均 85%(1950 年代)→73%(1969 年) 機関投資家の行動により NYSE の流動性と厚みが損なわれ,株式取引システムの空洞化と取引所分 散による取引所上場銘柄の価格の分裂,価格情報の分断が惹起 →1975 年 5 月 1 日に SEC は NYSE の固定手数料制を廃止 ⇒機関投資家が金融システムを改変する交渉力を持つように 3.3.4. 1980 年代以降の機関投資家の活動と「株式運用過程の機関化」 1980 年代の M&A ブームと公務員年金による「株式運用過程の機関化」の開始(1980 年代末) 機関投資家は,受益者の利益最大化のため,高値で株を売却やジャンクボンドへ投資 +投資銀行もアレンジを通じて証券を供給,取引から多くの利益を得る ジャンクボンド保有(1988 年) :ミューチュアル 30%,保険 30%,年金 15% ⇒主要な機関投資家が 75%を保有,1989 年の市場崩壊で多大な損失 コーポレート・レイダーなどの TOB を防止するために経営者側が買収防止策などを導入 ⇔公務員年金などの大機関投資家が自己利益の確保のために株主の権利を行使し,株主行動主 義をとるように ⇒敵対的買収の防衛策の廃止や導入反対を行う 11 →M&A ブームでは「株式運用過程の機関化」と初期の資本主義経済の資金運用者化が見られる ⇔この段階ではジャンクボンド(非投資適格)の投資家が制限され,供給も買収対象企業数に上限 ⇒資金運用者化の深化には,多くの投資家が求める投資適格の資産を自由に供給できる証券化の拡大・ 進展が必要 ニューディール型銀行システムの終焉 3.4. 1966 年以降のアメリカ経済の金融不安定性の再現とその下で進展した「株式流通市場の機関化」 →金融市場の環境を大きく変化させたが商業銀行は抜本的な規制体系の見直し抜きには対応が困難 ⇒預金金利上限規制(1980 年 DIDMCA)や銀証分離規定の見直し(1987 年~)が必要 3.4.1. 投機的な金融活動の展開とその崩壊 商業銀行の収益性:1970 年代に証券市場との競争,1980 年代に企業部門の経営状態の悪化 ⇒企業倒産と銀行の貸倒償却が急増→財務状況の悪化→銀行破綻の増加 商業銀行による収益性を回復させる試みが数多くの投機的な貸付に繋がる +1970 年代以降の商業銀行は,調達での金利上昇と貸出での収益性の低下で鞘収入が低下 →短期金融手段を駆使して貸出を増加させ,利鞘減少を貸出量の増加で補う 商業銀行のレバレッジ率(全資産÷自己資本) :約 17 倍(1970~1980 年代)に ⇒1980 年代末にかけて銀行危機を多発 ニューディール型銀行システムのセーフティネットの破綻 →預金保険制度に大きな負担が発生,2 次に渡る S&L 危機で FSLIC は事実上の破綻状態に,1984 年の コンチネンタル・イリノイ破綻での Too Big to Fail 政策への批判 ニューディール型銀行システム:当初真正手形原理に基づき,投機性のある投資銀行業務を分離し, 貸付を短期の資金供給に集中することで,決済システムの安定性を維持できると考える ⇔「金融市場の機関化」の進展で商業銀行の競争上の優位は薄れ,銀行の収益性が低下 →投機的な貸出で補おうとする試みが 1980 年代の銀行危機を引き起こす ⇒安定的な決済システムを再構築には,商業銀行が過度のリスクエクスポージャを積み上げることを制 限する一方,低下した競争力を取り戻し,収益性を高める方策が必要 3.4.2. 新たな金融システムの構想と FDICIA の制定 1991 年連邦保険公社改善法(FDICIA)の制定:財務省報告の健全性規制改革を法制化 →早期是正措置の導入により商業銀行はリスクウェイト付きで 10%以上に自己資本比率を維持する必要 ⇒レバレッジ率に関してもリスクウェイト付きで 10 倍以内に維持する必要がある OTD モデルへの転換:FDICA の制定で銀行はレバレッジを高めない方法で利益を上げる必要 ⇒証券化業務やオフバランス事業体の設立を通じて機関投資家・資金運用者向けに金融商品を供給, 自らも証券子会社を通じてトレーディング業務から収益を上げる資金運用者として活動 まとめ 戦後アメリカ経済における「資本主義経済の資金運用者化」を論じるに当たり,本章ではまず機関投 12 資家と資金運用者の定義について論じた。本稿では「一般大衆から相当額の資金を吸収し,これを有価 証券とりわけ普通株に運用して利益をあげ,その益を主たる収益源,またはその一つとする機関」を機 関投資家の定義として採用した。ただ, 「金融市場の機関化」が進展し,ミューチュアルファンドが短期 利益追求型の有価証券投資を行うことで大きな利益を得ていくと,その業務に参入する金融機関・部門 が現れる。彼らは既存の機関投資家で運用資産の一部を任された部門だったり,機関投資家の定義に当 てはまらない金融機関だったり,さらには内部留保を溜め込んだ大企業だったりした。彼らのような資 金運用業務を行う金融主体を本稿では「資金運用者(Money Manager)」とし, 「短期利益追求型の有価証券 投資を通じて資金運用業務を実施する部門・主体」と定義した。そして,金融市場の機関化が進展する ことで金融市場の構造が変化し,資金運用者の投資に合わせて市場や金融機関の業務が展開されると共 に,新たな資金運用者の形成,さらには金融市場を超えて実体経済にも資金運用者の影響が波及する状 態を「資本主義経済の資金運用者化」とした。 戦後のアメリカ経済では株式市場の機関化が進展していったが,非預金金融機関による株式保有はミ ューチュアルファンドによって先導され,年金基金(企業年金)がその戦略を後追いする形で質的な変 化を量的な拡大として定着させていった。ミューチュアルファンドは,競争が激しく顧客のニーズに敏 感に反応したことに加え,一株当たり純資産額で換金が可能で流動性・安全性が高く,高利回りと戦後 増加した中所得層の少額貯蓄需要に合致した商品であった。そのため,ミューチュアルファンドは家計 部門からの資金流入の中で株式保有を増大させていった。当初, 「株式市場の機関化」は「株式保有の機 関化」という形で現れた。これは戦後の相対的低金利の中で株式市場に資金が集中し,株価が順調に上 昇することで配当とキャピタルゲインを合わせた総利回りで大きな利益を得られたためだった。そのた め,ミューチュアルファンドを初めとした機関投資家は購入した株式を長期保有し,そのことが株価の 継続的な上昇を下支えするという好循環が生まれていた。 しかし,1966 年以降の信用逼迫を契機に状況が変化する。アメリカ経済は,実質経済成長率の低下, インフレ率の上昇,それに伴う名目金利の上昇といった状況に次第に陥っていくのである。企業部門の 寡占的競争力も欧州の復興や日本のキャッチ・アップで揺らぎ,外部金融による資金調達を必要とする ようになった。さらに 1970 年代以降の財政赤字による国債発行が増加した。その結果,相対的低金利の 時代は終わり,株式市場が唯一の投資先でなくなったことでミューチュアルファンドは投資戦略の変更 を迫られることになる。特にインフレの高進と家計部門の実質賃金の伸び悩みは,インフレ・ヘッジを 可能にし,より高いリターンの金融商品の提供をミューチュアルファンドに求めると共に,新規の資金 流入を減少させた。そのため,ミューチュアルファンドは長期保有中心の株式投資戦略からキャピタル ゲイン重視の短期売買(アクティブ運用)へ転換し,新規資金の獲得と顧客の解約を防ぐための競争を 繰り広げることになった。年金基金もこの動きに追従することになる。年金基金は 1960 年代後半のイン フレ高進の中で保有する固定金利の低利回り債券に多くの含み損を出し,さらに 1974 年の ERISA 法制 定以降,基金の積立不足に対する規制が強化され,企業が追加拠出を負担しなくて良い高い利回りを提 供できる受託機関を求めるようになったためだった。その結果,多くの機関投資家でアクティブ運用が 採用されるようになり,株式取引高が増加して取引全体に占める割合が 1968 年から 71 年には平均 45.2% に達するなど市場支配力を発揮するようになる。すなわち, 「株式流通市場の機関化」が進展したのであ る。機関投資家による株式取引高の増加は,最終的に固定手数料制を採用するニューヨーク証券取引所 から取引を流出させ,同取引所の流動性と厚みが失われ,株式取引システムの空洞化と価格の分断を招 13 き改革を不可避にした。こうして機関投資家は金融システムを改変する交渉力を持つまでに影響力を拡 大したのである。 「金融市場の機関化」は 1980 年代に入るとさらに機関投資家が株主権を行使する「株式運用過程の機 関化」に進展した。1980 年代のアメリカでは企業部門のリストラクチャリングが活発化し,敵対的買収 や LBO を含む M&A ブームが起こっていた。ただ,ブームの中でコーポレート・レイダーなどが巨大企 業へ TOB を仕掛けるなど,敵対的な買収事案が増加した。それに対し,企業経営陣がポイズンピル条項 などの買収防止策を導入したが公務員年金などの大手機関投資家はこの動きに反発した。なぜなら,買 収防衛策は長期的には経営陣の既得権の保護に繋がり,短期的にも株式の大量発行による株価低下で投 資家に損失が生じる可能性があったからである。そのため,彼らは株主権を行使し,敵対的買収の防衛 策の廃止提案や導入に反対するようになった。 また,1980 年代の M&A ブームでは初期の資本主義経済の資金運用者化という変化も見られた。ブー ムで機関投資家は,保有する株式を高値で売却して利益を得る一方,LBO のための資金調達で発行され たジャンクボンドの主な買い手となっていた。短期利益を求める機関投資家にとって高株価と高利回り のジャンクボンドは格好の投資対象であり,それを機関投資家向けに提供した投資銀行も M&A アドバイ ザリーから多くの利益を得ていた。このように 1980 年代の M&A ブームでは,市場支配力を持つように なった資金運用者の存在を前提に,彼らの投資に合わせて金融業務が展開され,商品が供給されるとい う動きが現れ始めていた。ただ,この段階では供給された商品が非投資適格債(ジャンクボンド)であ るなど,投資家が限定され,その供給も買収対象となる企業数という上限が存在していた。資金運用者 化の深化には,多くの資金運用者が求める高利回りかつ投資適格の資産を自由に供給できる証券化の拡 大・進展が必要であった。 一方,1966 年以降,金融市場の環境変化が変化する中で商業銀行は次第に収益性を低下させていった が,その抜本的な是正はニューディール銀行システムの規制体系の見直しが必要だった。そのため,1970 年代以降,商業銀行による収益性を回復させる試みは数多くの投機的な貸付に繋がり,全資産を自己資 本で割ったレバレッジは 1970 年代から 80 年代末にかけて約 17 倍に達した。そして,投資的な貸付の破 綻で 1980 年代末にかけて銀行危機を多発させることになる。こうした商業銀行による高レバレッジの展 開に対する反省から 1991 年の連邦保険公社改善法(FDICIA)が制定され,その中で早期是正措置が導入 された。早期是正措置の導入によりが商業銀行はリスクウェイト付きで 10%以上に自己資本比率を維持 する必要が生まれ,レバレッジ率に関してもリスクウェイト付きで 10 倍以内に維持しなければならなく なった。こうして,商業銀行は貸出を拡張する形で収益を上げることが不可能になり,金利収入ではな く非金利収入で利益をあげる形にビジネスモデルを転換する必要が生じた。こうして,商業銀行は,債 券の証券化業務やオフバランス事業体の設立を通じて機関投資家・資金運用者向けに証券化商品や ABCP などの金融商品を供給すると共に,自らも証券子会社を通じてデリバティブなどのトレーディン グ業務から収益を上げる資金運用者として活動する金融機関へと変貌するのである。 第 4 章 アメリカにおける証券化の深化と投機化 アメリカにおける証券化(Securitization) :1960 年代半ば以降のインフレ高進と預金金利上限規制 の導入(1966 年)により,戦後の住宅金融を担ってきた S&L が逆鞘に陥ったことへの対応として, 1970 年に政府抵当金庫(GNMA)が発行したモーゲージ担保証券(パス・スルー証券)が原型 14 →政策的にモーゲージの流通市場を作り出そうとする試み =流動性のない金融資産を売買可能にするために,人為的に一定の投資家層を備えた流通市場を作 り出す公的支援と規制緩和の歴史 ⇔証券化は単なる住宅モーゲージの流動化策から投資家,特に機関投資家のための金融商品へと変化 ⇒機関投資家の求める高格付を得られるよう信用リスクを軽減 or コントロールする「仕組み(Structure)」 を有する「仕組み金融(Structured Finance)」へ深化 ※4.1.は割愛 4.2. 政府関連企業体による住宅モーゲージ証券化の開始 4.2.1. MBS の発行開始 S&L などの民間金融機関が保有するモーゲージ・プールをもとに,新種の証券であるモーゲージ担 保証券(MBS)を発行し,これに政府法人の GNMA と政府援助法人(GSE)の FNMA と FHLMC による元利支払への保証を与える →FHA 保険・VA 保証+GSE による期限通りの元利払いの保証=2 重の保証 →住宅モーゲージの本格的な流通市場の成立を可能に ⇔証券化は極めて人為的に多数の公的支援を導入することで初めて実現 4.2.2. 証券化商品発行円滑化のための規制緩和の進展 証券の公募発行:1933 年証券法による登録届出が必要 →1975 年に MBS を登録義務の例外扱いに +1982 年 3 月,SEC に対し 2 年以内に発行の予想される金額・発行方法・引受業者などを事前に 届出書として登録しておけば,その枠内で機動的な発行が可能になる「一括登録制度」の導入決定 ⇒1983 年に民間発行のパス・スルー型証券にも認められる 商業銀行による証券化商品の「引き受け」と「ディーリング」=投資銀行業務に該当 →グラス・スティーガル法で禁止されており,1987 年以降に緩和が進む(詳しくは第 5 章) 4.3. 証券化から仕組み金融へ 4.3.1 期限前償還リスクと CMO 初期のパス・スルー型証券は毎月の元利払いを受益権で等分して償還を行っていたため,モーゲー ジの繰り上げ返済も償還に充てられることに=期限前償還 期限前償還リスクが 1970 年代末の急激な金利上昇とその後の急激な金利低下で現実化 →元利払いのキャッシュフローをコントロールし,満期と最終利回りをある程度確定させた証券化の仕 組みを作り出す必要 ⇒ペイ・スルー型証券の CMO(Collateralized Mortgage Obligation;1983 年)とその発行体を税制上,非 課税とする REMIC の導入(1986 年) CMO の仕組み 1. 発行証券の償還期間を短期から長期まで複数の証券クラス(トランシュ)で発行 15 →元本と期限前償還を優先度の高いシニア→劣後するメザニンの順で支払い=優先劣後構造 +裏付けの資産プールの額面が発行証券の額面を上回る超過担保を採用 ⇒超過担保と発生する残余収入を受け取る残余クラス(エクイティ)を発行 2. CMO の裏付け資産は住宅モーゲージではなく MBS 中心 →90%がパス・スルー型証券を裏付けとして発行 ⇒既存の証券化商品を作り替えて投資家の需要に見合う商品を作り出す 3. 1986 年のレーガン税制改革で導入された不動産モーゲージ投資媒介体(REMIC)により,発行体 への課税の回避とオフバランス化の両立が可能 →CMO の発行と REMIC の導入 ⇒民間ベースの証券化商品の発行と派生型の新たな証券化商品へ 公的金融プログラムによる政策的な保護の下での証券化の進展は,証券の発行者にノウハウの蓄積 を可能にし,公的な保証を用いないモーゲージ以外の金融資産を裏付けとした資産担保証券(ABS) の発行など証券化の境界を押し広げていく契機に 4.3.2. ABS の発行と「仕組み金融」 モーゲージ以外の金融資産を裏付けとする資産担保証券(ABS)の導入(1985 年) ⇒コンピューター・リース債権,自動車ローン,クレジットカード債権,ホームエクイティローン, 学生ローンなどキャッシュフローを生む債権が対象に 発行額:12 億ドル(1985 年)→2555 億ドル(1995 年)→1 兆 9200 億ドル(2006 年) 図4-4 アメリカにおけるABS発行残高(1985-2012,10億ドル) 2000 80% 60% 1500 40% 1000 20% 500 0% -20% 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 0 自動車ローン クレジットカード債権 耐久消費財ローン HEL 組立住宅 その他 教育ローン 増加率 出所:US ABS Issuance and Outstanding ,SIFMAより作成。 ABS 発行の基本的な発想:資金調達コストの低減 →社債の調達費用:高格付の企業は低く,低格付けの企業は高い ⇔企業の保有する優良な金融資産をプールにして企業本体から分離,それを裏付けとして証券を発行 ⇒リスクをコントロールして高い格付を得られる「仕組み(structure) 」を創出→調達費用の低減 民間発行の ABS や MBS は各種のリスク,主に信用リスクに対応する必要 格付の役割:政府機関による二重の保証がある GSE 証券と違い,民間主導の ABS や MBS で は信用リスクはまちまちで,その支払の確実性を測る指標が必要 →S&P,Moody’s,FITCH Ratings の 3 社を中心に実施 証券化商品の格付の特徴:社債の格付とは違い,発行体がどの水準の格付けを取得するかを決 16 定し,それを達成できるように投資家保護の手段を考え,証券の構造を組成⇒ターゲット格付 の手法を取る 高格付を得るための仕組み:信用補完(Credit Enhancement)の利用 →内部信用補完:優先劣後構造,セラー・リザーブ,キャッシュ・リザーブ(スプレッド勘定) →外部信用補完:キャッシュ・コラテラル,金融保証(モノライン保険,CDS),オリジネーターへ のリコース(買い戻し) 政府機関による住宅モーゲージの証券化⇒民間発行 MBS,ABS へ →「証券化」が単なる金融資産(債権)の流動化⇒「仕組み金融」へと変化 4.3.3 仕組み金融と資産選択 仕組み金融:さまざまな既存 or 新たな仕組み技術を組み合わせ,償還期間,利回り,信用リスクを コントールし,原債権からより多くの高格付け証券を切り出す +通常の資金調達より低いクーポンレートで証券を発行する仕組みを作り出すこと →相対的に安全性が高く,利回りが良い証券を求める投資家のニーズと低金利で資金調達を行いたい発 行者のニーズを合致させることを目指す ⇔従来は「ある」もので「作り出す」ものではなかった信用力の操作を可能にする ⇒究極的には金銭債権ならニーズと十分な量があれば証券化可能に 1980 年代以降,アメリカでは高リスク or 低流動性の資産を流動化する機会が存在 ジャンクボンドブームを利用した銀行の不良債権の証券化 →1980 年代の M&A ブームの中で資金調達のためのジャンクボンド発行が増大 ⇒投資ブームを利用し,不良貸付と抵当流れの不動産を裏付けにペイ・スルー証券を発行 RTC による商業用不動産と不良債権の証券化 →1980 年代末の第 2 次 S&L 危機で,S&L の破綻が増加,その処理のために 1989 年金融機関 改革・救済及び執行法(FIRREA)で整理信託公社(RTC)が設置される →住宅モーゲージとその関連分野や商業用不動産の処理方法として証券化が利用される ⇒4585 億ドルの資産処分のうち健全債権 423 億ドル,不良債権 171 億ドルの証券化を実施 →80%以上が本来は証券化に適さない非伝統的な金融資産で必要な仕組みを作り上げる ⇒極めてコストの掛かる証券化の実験が公的金融プログラムの形で行われた RTC の活動が証券化対象資産の境界を押し広げ,投資家層を育成し,証券化と保有に必要となる分 析技術の開発に掛かる公的な費用で行う →より投機的な不良債権 or パフォーマンスの低い資産を証券化する技術蓄積を可能に ⇒2000 年代の CDO(Collateralized Debt Obligation)の発行に結び付く まとめ アメリカにおける証券化は,戦後の住宅金融プログラムが機能しなくなったことへの対応として導入 されたものであった。すなわち,預金金利上限規制とインフレ高進により「期間構造のミスマッチ」問 題が深刻化した S&L に対し,住宅金融プログラムを機能させるために,S&L が保有する住宅モーゲッ ジを連邦政府の支援で流動化し,急成長する年金基金などの機関投資家の資金を住宅金融市場に導入し 17 ようとした。そのため,当初発行されたパス・スルー型証券は,償還期間,利回りといった商品性の上 で買い手(投資家)の求めるものとなっておらず,期限前償還リスクという大きな問題を抱えていた。 また,公的金融プログラム下で実施され,二重の政府保証が存在するために,信用リスクのコントロー ルにも注意が払われていなかった。そのため,1983 年以降に期限前償還リスクに対応した CMO の発行 が開始されると共に,民間発行の証券化商品が広がりを見せるようになる。 1985 年には住宅モーゲージ以外の資産を証券化する ABS が発行開始され,証券化商品は単なる住宅 モーゲージの流動化策から次第に買い手,特に機関投資家のニーズに合わせた金融商品へと変化してい った。それには機関投資家の求める高格付を得られるよう信用リスクを軽減またはコントロールする「仕 組み(Structure) 」が必要であった。その結果,証券化は「仕組み金融(Structured Finance) 」として の側面を強くしていく。 1990 年代には,ニューディール型金融システムからの転換で証券化は急拡大していった。ただ,1980 年代のジャンクボンドブームや S&L 危機の不良債権処理での経験から,リスクの高い金融資産を裏付け とする証券化技術の蓄積と投資家層の形成が進んだ。こうした技術蓄積と投資家層の形成の結果,キャ ッシュフローが明確で安全な資産ではなく,CMBS や住宅モーゲージの第 2 抵当を対象とする HEL な ど高リスクの資産を裏付けとした証券化が可能になった。そして,これらの技術が 2001 年の IT バブル 崩壊後のアメリカの住宅市場に結び付くことで,サブプライム・モーゲージを対象とした民間 MBS とそ の再証券化商品である CDO の爆発的な発行増大に繋がり,2007 年 8 月以降の金融危機を招くのである。 第 5 章 「組成販売」型金融仲介システムの形成と金融市場の機関化 サブプライム金融危機を巡る議論 →OTD モデルの中核をなす投資銀行やマネーセンターバンクの活動に注目した議論が中心 ⇒投資銀行やマネーセンターバンクが証券化拡大を主導,オフバランス事業体での投資とレポ市場, ABCP などの短期金融市場での資金調達を駆使し,高レバレッジの投資を行って高利益をあげる 商業銀行・投資銀行のサブプライム関連投資:2006 年に残高 2639 億㌦,2007 年に損失 628 億㌦ ⇒OTD モデルの中核をなすマネーセンターバンクや大手の投資銀行に大きな損失が生じ,大手投資 銀行は破綻・救済合併・業態転換により事実上消滅 +破綻を免れたマネーセンターバンク・元投資銀行も公的資金注入が不可避なほど経営が悪化 ⇒サブプライム金融危機が 1990 年代以降の金融自由化が進み,投資銀行化したマネーセンターバンクと 大手投資銀行を中心に引き起こされた危機 サブプライム金融危機と機関投資家 →ミューチュアルファンドや年金基金は限定的に見える(2006 年に 182 億ドル) ⇔機関投資家は OTD モデルで 3 つの側面で影響 1. 利回り向上のために,保有有価証券の貸出(セキュリティ・レンディング)から貸出料を獲得, 担保証券を供給 2. 現金担保をレポ取引や MMMF へ投資し,安全で流動的な非公的金融資産の供給拡大を促す 3. ファンド・オブ・ヘッジファンズを通じた投資によりヘッジファンドに資金を供給 既存金融機関の「金融市場の機関化」への対応 機関投資家や資金運用者が求める金融資産を提供 18 自らが資金運用者化して高レバレッジ投資を展開し短期利益最大化を追求 1. 商業銀行:証券化,オフバランス事業体の ABCP 発行で金融資産を供給,保証から手数料収入 2. 投資銀行:機関投資家や資金運用者向けの事業を拡大+自らも自己勘定取引を拡大し資金運用者化 3. ヘッジファンド:2000 年以降,機関投資家の資金が流入増加+証券化商品のエクイティ部分への投 資など証券化を支える 5.1. ニューディール型銀行システムから「組成販売」型金融仲介システムへ 「組成販売」型金融仲介システム(OTD モデル) →1991 年の FDICIA,1999 年のグラム・リーチ・ブライリー法を経て 2000 年代初頭に形成 ⇒商業銀行の貸出債権を証券化により直接・間接に機関投資家や資金運用者に転売,銀行本体で原 債権の信用リスクを直接保持し続けない構造 アメリカの証券化商品の発行残高 (2007 年) :MBS と CMO8 兆 1556 億ドル,ABS と CDO2 兆 9722 億ドル(CDO1 兆 376 億ドル) ⇔資金の出し手である機関投資家は,市場流動性に欠けるサブプライム MBS や CDO ではなく,支払い 手段への転換が容易な金融資産を求める 5.1.1. Institutional Cash Pool の拡大と流動的な短期金融資産の不足 戦後アメリカの金融システムの変化:預金金融機関の保有資産の減少⇔機関投資家の増大 ⇒機関投資家の保有資産(対 GDP 比) :24%(760 億ドル,1951 年)→79%(12 兆 8578 億ドル, 2013 年) 短期の金融資産に対する需要増大 →機関投資家は,家計部門の長期貯蓄を受け入れ,長期の金融資産に投資することが使命 ⇔日々の運営に常に手元流動性の管理が不可欠 償還や解約による払い戻しに備える必要 投資判断や預かり資産のウェアハウジングなど一時的に短期金融資産への投資が必要 デリバティブやセキュリティ・レンディングで生じた現金担保の運用の必要 +大規模な内部留保を持つ大企業なども手元流動性の管理が必要 ⇒大規模で集中管理された短期のキャッシュ・バランス:“Institutional Cash Pools(ICP)” (Pozsar, 2011) 19 ICP の規模:最低 1000 億ドル(1990 年)→2 兆 2160 億ドル/推計 3 兆 8520 億ドル(2007 年) ICP が求める金融商品:元本の安全性と流動性,次点として利回り →公的な政府保証がある短期国債, 「暗黙の政府保証」がある GSE 債,政府機関債=“非 M2 通貨” ⇔供給が不十分。機関投資家の保有資産の増加(対 GDP 比)に対し,公的な短期金融資産が増加せず ※1994~2006 年:機関投資家の資産は 59%→69% ⇔公的な短期金融資産は 78%→82% ⇒民間の非 M2 通貨型の資産(ABCP,レポ,MMMF)が増加 ※安全性の高い担保資産が提供されているか,金融保証が与えられている民間の短期金融資産 →非 M2 通貨型の資産(対 GDP 非)の増加:31%(1994 年)→63%(2006 年) 非 M2 通貨型の資産の増加:1980 年代初めの歴史的高金利以降に増加 公的な短期金融資産の供給:1990 年代の財政赤字縮小,2000 年代の低金利で供給が停滞 民間の短期金融資産の供給:歴史的高金利の時期に大きく増大,1990 年代半ば以降の公的な短 期金融資産の供給が滞る中で急増し,2007 年に対 GDP 比 67%に ⇒非 M2 通貨型の民間金融資産の供給が増加することで ICP が必要とする短期金融資産需要を満たす 公的な短期金融資産の供給の不足:2005 年に 3850 億ドル,推計で 1 兆 7340 億ドル 2007 年に 7250 億ドル,2 兆 3610 億ドル →部分的には外国政府による需要増大だが極めて限定的 ⇒グローバル・インバランスによりも ICP 拡大が民間の短期金融資産の供給増大で重要な役割 図5-1-5 短期金融資産残高の対GDP比(%, 1960-2013) 120% 100% 80% 60% 40% 20% 1945 1947 1949 1951 1953 1955 1957 1959 1961 1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 0% 公的な短期金融資産(TB, GSE債など) 短期の銀行債務(預金など) 民間短期金融資産(CP, レポ, MMMFなど) 出典:Flow of Funds Accounts , L.4, L5 Board of Governors of the Federal Reserve System. 5.1.1. アメリカでの CP 発行残高:5659 億ドル(1991 年)→1 兆 9584 億ドル(2006 年) ABCP の発行拡大と機関投資家による保有 ABCP:5840 億ドル→1 兆 2140 億ドル 機関投資家と MMMF の CP 保有 機関投資家:21%(230 億ドル,1978 年)→49%(9255 億ドル,2007 年) MMMF:3%(37 億ドル)→38%(6746 億ドル) 満期 4 日以内の比率:平均 55%(2001Q1-2014Q2),平均 68%(2007Q3-2008Q4) 20 5.1.2. レポ取引の仕組みとその拡大 レポ取引の 2 形態 バイラテラル:取引の当事者同士が相対で証券と資金を同時に受け渡し →主にヘッジファンド等の資金運用者が投資銀行の提供するプライムブローカー業務を通じて 資金調達するために利用 トライパーティ:当事者間にカストディアン銀行(クリアリング・バンク)を挟んで決済 →カストディアン銀行は担保を管理 ⇒主にレポ取引の管理能力が低い MMMF やセキュリティ・レンダーが運用に利用。 取引は投資銀行,主としてプライマリーディーラーとの間で実施。 取引額:3581 億ドル(1991Q1)→2 兆 3680 億ドル(2007Q2) →主な資金の取り手は投資銀行(ブローカー・ディーラー)と商業銀行 ⇒2006Q3 に投資銀行が 9630 億ドル,商業銀行が約 4400 億ドル ⇔主な資金の出し手:機関投資家,特に MMMF →2006Q3 に機関投資家全体で 5370 億ドル(44%) ,MMMF が 3680 億ドル(31%),ミューチュ アルファンドが 1390 億ドル(12%)を供給 5.1.3. MMMF による短期金融資産の保有 資産残高:24 億ドル(1974 年)→2 兆 2963 億ドル(2006 年)→3 兆 7573 億ドル(2008 年) ⇒1998 年に家計部門の現金・決済性預金を上回り,2008 年に家計部門の金融資産の 3.4%を占める ⇒「安定的 NAV」の採用もあり,流動性が高く,安全性の高い預金代替資産として普及 ⇔銀行預金と違い元本保証が付された金融商品ではない 元本割れを防ぐ厳格な規制と回避手段:1940 年投資会社法 1. 総資産の 95%以上を格付機関 2 社から最上位格付を得た満期 397 日以内の証券 or 政府債で構成 2. 組み入れ証券の平均残存期間 90 日以内 3. 組み入れ証券の格下げ・デフォルト発生時は速やかに市場で売却 →親会社が「資産の買取り」 , 「資本注入」,「信用状の発行」などで元本割れを防ぐ ⇒高格付けで満期の短い資産(=ABCP やレポ取引,トリプル A の証券化商品など)で運用 MMMF の保有資産(2006 年) :レポ 17%(3498 億ドル),CP26%(6008 億ドル),ABS を含む社 債等 16%(3609 億ドル) →民間の短期金融資産で 43%(9957 億ドル) ⇔公的な短期金融資産の比重は 2003 年以降低下傾向にあり,2006 年に 9%(2165 億ドル) MMMF の保有主体:家計部門による保有が減少し,機関投資家と企業部門の保有が増加 家計部門:1980 年代に平均 83%→2000~2008 年に平均 47% 企業部門:平均 6%→平均 16% セキュリティ・レンダーを含むファンディング会社:平均 2%→平均 22% →機関投資家の平均 7%を加えると ICP の需要が平均 45%(2000~2008 年) ⇒MMMF には,リテール向けと機関投資家向けに民間の短期金融資産を供給する二側面が存在 21 5.1.4. 機関投資家による証券化商品の保有 CDO の保有状況(2007Q2) :機関投資家の保有残高の 30%未満 →ヘッジファンド 46.5%,投資銀行・商業銀行 24.9%⇔保険会社 9.8%,アセットマネージャー18.8% →ミューチュアルファンド・年金基金のサブプライム関連投資残高(2007 年)は,4.4%(143 億ドル) , 損失は 2.7%(-1.9 億ドル)で機関投資家がサブプライム投資に直接コミットせず ⇒銀行が貸出債権を証券化し,機関投資家が保有する OTD モデルの想定通りの構図にない 「組成販売」型金融仲介システム下の投資銀行業,商業銀行業 5.2. 5.2.1. 「金融市場の機関化」の投資銀行業への影響とその対応 伝統的投資銀行業務:引受け業務と M&A 等アドバイザリー,ブローカー業務とディーリング業務 →1975 年以降,アメリカの投資銀行は仲介業務中心の業態から機関投資家向け,資金運用者向けの業務 を拡大しつつ,自らリスクを取り積極的に投資を行う資金運用者へ変貌 A. 伝統的投資銀行業務の収益性低下と「金融市場の機関化」への対応 1975 年の株式売買手数料の自由化と 1982 年の一括登録制の導入決定 →競争激化によりブローカー業務,引受け業務の収益性を低下させる ブローカー手数料(1 株当たり) :機関投資家向け 53.8%が低下(1975.5~1979.6) ⇒証券会社の収入に占める手数料収入は 50%(1975 年)→20%程度(1985 年) 証券引受けの手数料:1990 年代前半の株式 3%,債券 0.6%→2000 年代半ばに 1%,0.1%以下 投資銀行の「金融市場の機関化」への対応 1980 年代,M&A アドバイザリー,機関投資家に買収に伴う高株価とジャンクボンドを提供 ⇒財務戦略アドバイスによる手数料収入,つなぎ融資やジャンクボンドの引受けで大きな利益 1990 年代,ヘッジファンドのバックオフィス機能を提供するプライムブローカー業務を活発化 →資金決済の管理,帳簿管理・記録,取引の執行・決済サービス,マージン・ローンや有価証 券の貸付サービスを提供 投資銀行のブライムブローカー業務 シェア (2006 年 4 月) :4 行で約 7 割。モルガン・スタンレー(23.2%) , ベア・スターンズ (20.6%), ゴールドマン・サックス(18.1%),UBS(7.1%) 利益(主要 10 行,2005 年) :全世界で 88 億ドル+トレーディング業務で 170 億ドル →業界全体の収益の約 25% リスクエクスポージャー(主要 10 行) →2006 年に 2 兆 9260 億ドル(レバレッジ 7.2 倍)に 2007 年で 3 兆 2673 億ドル(7.7 倍) バイラテラル・レポで資金を提供,ヘッジファンドの預かり資産を担保にトライパーティ・レ ポで資金調達(リハイポセケーション) +年金基金や生命保険会社などの機関投資家から有価証券を借入れ,ヘッジファンドに貸出 →2000 年以降のヘッジファンドのレバレッジ拡大や証券化商品のエクイティ部分の保有が可能に ⇒投資銀行のヘッジファンド向け業務の拡充が OTD モデルを支える 22 B. 投資銀行による資金運用業務の拡充 アセットマネジメント業務:ミューチュアルファンドの組成・運用や MMMF(含む CMA)の提供 など機関投資家業務へ参入 アメリカの大手投資銀行は 1980 年代以降,株式公開で資金調達して自己勘定投資を拡大 プロプライアタリー(プロップ)取引:ディーラー業務を積極的に展開し,預かり資産や自己 資金でポジションを形成,市場リスクやクレジットリスクを取って高リターンを追求 →デリバティブ取引なども含まれ,投資戦略はヘッジファンドとほぼ同じ プリンシパル・インベストメント業務:引受業務の延長上に存在,不動産分野と未公開企業等 への投資や M&A 取引への直接参加,証券化商品のエクイティ部分への投資など非流動的な資産 への投資を行う ⇒資本主義経済の資金運用者化に対応し,自らも自己資金を用いて投資を行う資金運用業務に進出 C. 1990 年代以降のアメリカ投資銀行の収益構造 伝統的投資銀行業務の収益が低下:1998 年→2006 年 ゴールドマン・サックス:40%(34 億ドル)→13%(56 億ドル) リーマン・ブラザーズ:35%(14 億ドル)→18%(32 億ドル) →実額ベースは増加しているので,伝統的投資銀行業務以外の業務からの収益がより大きく増大 自己勘定投資(プリンシパル・インベストメントとプロップ取引)からの収益拡大 ゴールマン・サックス:51 億ドル(構成比 60%)→256 億ドル(61%) リーマン・ブラザーズ:14 億ドル(33%)→98 億ドル(56%) アセットマネジメント業務から収益拡大 ゴールドマン・サックス:7 億ドル(同 8%)→43 億ドル(10%) リーマン・ブラザーズ:250 万ドル(0.6%)→21 億ドル(8%) プライムブローカー業務 ゴールドマン・サックス:7 億ドル(構成比 9%)→22 億ドル(5%)→34 億ドル(13%,2008 年) ⇒自己勘定投資が大きく拡大,さらに機関投資家向け,資金運用者向けの業務も着実に利益を拡大させ ており,投資銀行が金融環境の変化に対応して業務を変化させる 5.2.2 「金融市場の機関化」の商業銀行業への影響とその対応 A. 商業銀行による投資銀行業務への再参入 GS 法第 16 条:公債を除く証券を銀行本体の自己勘定で引受け・売買禁止 GS 法第 20 条:投資銀行業務に「主として従事する」金融機関と系列関係を持つことを禁止 →1987 年以降,FRB が非銀行子会社(20 条子会社)の業務範囲を広げることで規制緩和が進展 ⇒GS 法第 20 条の「主として従事する」の判断を再解釈し,実質的な規制緩和を進める 1987 年 4 月:総収入の 5%以内で MBS,CP,特定財源地方債の引受けとディーリングを許可。 同年 6 月,消費者ローンを裏付けとした ABS に拡大 1989 年 1 月:対象が全ての負債証券とエクイティ証券に拡大。同年 9 月,収入上限が 10%に。 1997 年 3 月:収入上限が 25%に 23 1999 年:グラム・リーチ・ブライリー法で,商業銀行の投資銀行業務参入が全面的に可能に B. オフバランス事業体の形成とその活動 1991 年の FDICIA による商業銀行のリスクエクスポージャー制限 →ABCP 導管体や SIV などのオフバランス事業体に資産売却や信用供与を通じ非金利収入の獲得 ⇒ABCP を発行して機関投資家向けに金融商品を供給 オフバランス事業体:トリプル A 格,あるいは同品質の格付を持たない金融資産を保有し,短期の ABCP 発行で資金調達。SIV は中期債(MTN)や劣後債も発行。 商業銀行によって組成された貸出債権 1. マルチセラー型導管体で直接保有 or シングルセラー型導管体を通じて SPV で証券化 2. 証券化商品の一部は証券投資型 ABCP 導管や SIV によって保有 3. ABCP 導管体と SIV は保有資産の資金調達のために ABCP 発行 4. ABCP は MMMF や機関投資家に販売 商業銀行によるオフバランス事業体を通じた活動 →ABCP 導管体は流動性の低い資産を裏付けに,機関投資家が求める短期の流動性の高い資産を供給 ←シンセティック CDO などは原債権がなくとも無尽蔵に発行可能,それを裏付けに ABCP を供給 ⇒不足する公的な短期金融資産や預金に代わる非 M2 通貨型の金融資産を弾力的に供給可能 「流動性補完」と「信用補完」の必要 →オフバランス事業体の保有資産は,実際には市場がほとんど存在せず流動性が低い資産 ⇒常に流動性リスクを伴うため,流動性逼迫や損失の発生に備えた親銀行から保証が必要 「流動性補完」 :導管体が ABCP の借り換えが出来ない状態に陥った場合にデフォルトしていな い資産を買い戻すバックアップの信用枠もしくはコミットメント 「信用補完」 :導管体の資産の損失を補填するための保険 商業銀行による流動性補完(未使用額) :2170 億ドル(2001 年)→3810 億ドル(2007 年) →自行設立事業体向けのうちマネーセンターバンク提供:51%(2001 年)→71%(2007 年) 商業銀行による信用補完(最大損失可能性) :318 億ドル(2002 年)→222 億ドル(2007 年) ⇔マネーセンターバンクの割合は 28%→73%と集中が進む →マネーセンターバンクは 2000 年代にオフバランス事業体を用いた投資に大きく拡大 ⇒オフバランス事業体を通じて証券化商品を保有し,ABCP を供給することで民間の短期金融資産の需 要に応じ,流動性の裁定に必要な信用を供与することで利益を得る C. 1990 年代以降のマネーセンターバンクの収益構造 1990 年代に商業銀行の非金利収入の割合が高まる →純金利収入と非金利収入の合計に対する非金利収入の割合:33%(1992 年)→43%(2000 年) ⇒シティと J.P.モルガンがトレーディングなどの資金運用業務を拡張し,利益を上げる 2001~2006 年に資産売却・証券化関連(期間平均 23.5%,439 億ドル)が新たな非金利収入の柱に +トレーディング業務(6.9%)や伝統的な投資銀行業務(5.4%) シティバンク:資産売却・証券化関連業務(平均 25.9%,44 億ドル)とトレーディング業務(平 24 均 20.3%,32 億ドル)から大きな利益 J.P.モルガン:トレーディング業務 (平均 28.0%, 49 億ドル)と伝統的投資銀行業務 (平均 16.1%, 28 億ドル)から大きな利益 ⇒商業銀行は証券化業務などの機関投資家・資金運用者向け業務に加え,1990 年代以降の投資銀行同様, トレーディング業務などの資金運用業務を展開 「組成販売」型金融仲介システムと機関投資家・資金運用者 5.3. 5.3.1. セキュリティ・レンディングによる担保証券の供給 OTD モデルでの金融仲介は,レポや ABCP など安全で流動性の高い裏付け資産や担保に強く依拠 ⇒債務不履行時に市場で売却可能な資産か,資金回収が保証された取引でなければ機能しない +投資銀行やヘッジファンドは空売りやデリバティブなどの投資戦略を駆使しており,取引の裏付けや 担保として差し入れる資産が不可欠 民間部門の債券は証券化,特に CDO のような二次証券化の技術で実現 ⇔国債や政府機関債,GSE 債,企業の株式・社債は投資家の需要に合わせ弾力的に供給できない +公的な短期金融資産は 1990 年代後半以降,供給が不足気味 ⇒市場の円滑な機能には国債や株式を融通するセキュリティ・レンディングが必要 A. セキュリティ・レンディングの仕組み セキュリティ・レンディング:機関投資家などが保有する有価証券を,有償でブローカー・ディー ラーに貸し出すもの 規模(2011Q3) :世界全体で貸出対象証券 9 兆 1589 億ドル,貸出残高 1 兆 651 億ドル アメリカで貸出対象証券 5 兆 8574 億ドル,貸出残高 7077 億ドル 有価証券の貸し手:主にインデックス運用を行う年金基金,保険会社,ミューチュアルファン ド,MMMF や大学基金などの機関投資家 有価証券の借り手:投資銀行やマネーセンターバンク マーケットメーカー:ディーラー業務で保有証券が不足し,フェイルするのを防ぐため キャッシュ/デリバティブトレーダー:自己勘定投資での決済や担保差し入れに利用 プライムブローカー:ヘッジファンドが各種トレード戦略で必要な証券を貸付け 貸出対象証券:アメリカでは主に国債と米国株式 貸出時の担保:主に現金担保,金額は一般的には借入対象の 102~105%。 セキュリティ・レンダー:主に機関投資家のカストディアン銀行が担当し,貸し手と借り手の間に エージェントとして入る →BNY メロン,ステート・ストリート,J.P.モルガンが大手,シティバンクや AIG なども実施 セキュリティ・レンディングの手順 1. カストディアン銀行は,機関投資家に代わって借り手と貸出条件の交渉,貸出を実施 2. 契約期間中,担保と貸出証券を日々値洗いし管理 ※株式の配当金や債券のクーポン収入は全て機関投資家に 3. 受け入れた担保はセキュリティ・レンダーが短期の金融商品などに再投資 25 ⇒レポや CP,MMMF などだが,現実には証券化商品にもかなり投資 ※運用益は貸し手・借り手・セキュリティ・レンダーで分配 4. 貸出契約が終了時に,借り手から証券を回収,担保を返還 ※レポと違い満期日は存在せず,貸し手も借り手も常時契約解除が可能 機関投資家にとってセキュリティ・レンディングは,保有有価証券の権利を保持したまま貸付料と 現金担保の再投資から追加的な利益を得られ,運用効率を高められる極めて魅力的な取引 →レンダーも機関投資家から固定の管理手数料,現金担保の運用手数料と運用益の一部を得る ⇒自らの収益を増やすため,より利回りのよい証券化商品に投資するインセンティブ B. 現金担保とその短期金融資産での運用 現金担保の蓄積:2007Q2 に 1 兆 9020 億ドル レポ取引での運用額:5040 億ドル(26%)…担保として ABS を 1200 億ドル分受け入れ ABS 投資:5020 億ドル(26%) ⇒6220 億ドルの ABS を直接・間接に保有(全 ABS 残高の約 12%) ←AIG も現金担保 760 億ドルの 60%を高格付のサブプライム/Alt-A MBS に投資 機関投資家の保有する有価証券は,セキュリティ・レンディングにより投資銀行やヘッジファンド などに供給され,それによりデリバティブ取引や空売りなどの各種投資戦略が可能性に ⇒機関投資家は,現代の金融システムが機能する上で欠かせない担保を供給する役割を担う +現金担保がレポや ABS 保有の形で投資銀行やマネーセンターバンクに資金供給 5.3.2. 機関投資家によるヘッジファンド投資の拡大 機関投資家のヘッジファンド投資:2000 年代に拡大,直接投資もしくはファンド・オブ・ヘッジフ ァンズ(HoHF)を通じた間接投資 →ヘッジファンドの運用資産が大きく拡大,運用戦略に変化が生じる ヘッジファンド:1940 年投資会社法に基づく SEC への登録義務を免除された私募ファンド 「絶対リターン追求」型の投資戦略を採用:市場環境に関わらずプラスの運用益確保を目指す ⇔相対リターン追求型の投資戦略(投資信託,年金基金など) :相場の下落局面で運用益がマイ ナスになってもインデックスとの相対的な優劣でパフォーマンスを評価 ⇒高レバレッジ,証券のショートポジション(空売り),高リスク証券や特定分野に投資を集中する など多様な投資戦略を採用 ファンドマネージャーの報酬体系も成功報酬中心 ⇒ファンドの純資産の 1~2%の管理手数料+成功報酬として純利益 20% A. 機関投資家によるヘッジファンド投資と運用資産の拡大 世界のヘッジファンドの総数と運用資産残高(AUM) :1990 年に 390 億ドル,610 本 →2000 年に 4900 億ドル,3,873 本→2007 年に 1 兆 8700 億ドル,10,096 本 →2002 年以降,年平均 1440 本の新設⇔清算は 2004 年 296 本,2005 年 848 本,2006 年 717 本 ⇒2000 年以降,競争が激化,新規のファンド乱立と大量の資金流入,市場からの退出が増加 26 ヘッジファンドは,富裕層を中心とした限られた個人投資家向けの私募ファンド ⇔2000 年代のヘッジファンド投資の活発化を牽引していたのは機関投資家 個人投資家の出資比率:62%(1997 年)→48%(2000 年)→31%(2007 年) ⇔年金基金:一貫して 10%内外,その他の機関投資家も 8%前後 FoHF の出資比率:16%(1997 年)→20%(2000 年)→31%(2007 年) ⇒機関投資家を対象にした複数のヘッジファンドへ分散投資を行うファンド B. ヘッジファンドの機関化と投資戦略の変化 機関投資家によるヘッジファンド投資拡大 投資の分散化 →運用ファンドが年々肥大化し,資産配分の多様化,各資産のエクスポージャー引下げの必要 +年金基金のオルタナティブ投資としてヘッジファンド投資を組み込めば非流動的な資産にハ イリスク・ハイリターンの投資を行いながら,ある程度の流動性を確保可能 ポートフォリオリターンの安定化 ⇒市場下落に対する「ヘッジ」として株式ロング・ショート戦略や株式マーケット・ニュート ラル戦略のファンド,債券投資に代わって債券アービトラージ戦略のファンドに投資 リターンの向上 →年金基金は積立不足が企業側の負担増を意味し,ファンドのリターンを予定利率に適合させ るためにヘッジファンド投資によりリターン向上を期待 機関投資家の投資拡大によるヘッジファンドの変化 運用戦略:グローバル・マクロから特定の資産・市場・投資手法など具体的なニーズに基づい た投資戦略へ グローバル・マクロ:71%(1990 年)→33.4%(1999 年)→11%(2005 年) ⇔ 株式ロング・ショート戦略:割安銘柄のロングと割高銘柄のショート ⇒6.6%(1990 年)→48%(1999 年)→42.9%(2005 年) レラティブ・バリュー戦略:個別銘柄の間の価格差,流動性のミスマッチ,金利差が本質 的な価値へ回帰する際に差益を確保 ⇒15.5%(1990 年)→6.6%(1999 年)→20.4%(2005 年) イベント・ドリブン戦略:個別企業のイベントで生じる証券の値動きからリターンを獲得 ⇒6.8%(1990 年)→7.4%(1999 年)→19.8%(2005 年) 変化の原因:機関投資家のニーズの問題+参入が容易な戦略と困難な戦略が存在 →グローバル・マクロは模倣が困難 ⇔イベント・ドリブンや株式ロング・ショート,レラティブ・バリューは基本コンセプトやモ デルが存在し模倣可能 各戦略のリターンの低下:平均年次リターン(1990 年代→2000~2007 年) 株式ロング・ショート 17.3%→7.9%,レラティブ・バリュー/イベント・ドリブン 15.1% →8.5%,グローバル・マクロ 19.7%→9.7% ⇒大量の資金流入の結果,限定的にしか存在しないαの獲得機会に多額の資金が集まり,裁定 27 の機会は汲み尽くされて収益性が低下 ヘッジファンド全体で株式インデックスとの相関の上昇 →株式のロングポジション増加で 2005 年 2 月以降,ヘッジファンドインデックスと株式インデ ックスの相関が 0.9 を超える水準に ⇒ロングポジションの拡大は市場価格変動を増幅させる可能性を高め,一部の資産保有が増加 してアロケーションの多様化とポートフォリオリターンの安定化も不十分に ヘッジファンド戦略間の相関が高まる →株式ロング・ショート,イベント・ドリブン,グローバル・マクロ,エマージング市場戦略 の 4 戦略間の月次収益率の相関は 2006 年に平均 0.8 程度に ⇒機関投資家の資産配分の多様化とポートフォリオリターンの安定化という目的に合致せず →機関投資家によるヘッジファンド投資の拡大は,大量の資金流入で収益性を低下させる ⇒収益性を高める努力は伝統的な投資との相関,投資戦略間の相関を高め,資産アロケーションの多様 化とポートフォリオリターンの安定化という当初の目的とは異なる結果に +ヘッジファンド市場への大量の資金流入はクレジット系ヘッジファンドが拡大する余地を作り,通常 のレバレッジ概念では計れない大きなリスクを抱える原因に まとめ OTD モデルは,商業銀行の視点を元に論じると自己資本比率規制の下で規制を満たすために銀行本体 で原債権の信用リスクを直接保持し続けない構造を作り出すものであった。しかし, 「金融市場の機関化」 を前提とした金融システムで,その主要な投資家である機関投資家を含む ICP が最も必要としていたの は,実は市場流動性に欠けるサブプライム MBS や CDO ではなく,市場流動性が確保され,元本の安全 が確保された金融資産だった。機関投資家は長期の資金運用が主な使命ではあるが,常に流動性の高い 資産を必要としており,このような家計部門以外の短期の資金運用に対する需要は年々高まり,その額 は 2007 年には推計で 3 兆 8520 億ドルに達していた。それに対し,短期国債などの政府保証の付いた安 全で流動性の高い非 M2 通貨は,1990 年代半ばから 2000 年代始めにかけ供給が停滞気味で,2007 年に はおよそ 2 兆 3610 億ドルの不足となっていた。その間隙を埋めたのが,民間の非 M2 通貨型の資産であ る ABCP やレポ,MMMF であった。さらに,現代の金融仲介システムの持つもう 1 つの側面として, システムが円滑に機能するために,担保もしくは裏付けとなる資産の供給が不可欠だったことがあげら れる。それを可能にしていたのが,年金基金や保険会社などの機関投資家が保有する有価証券をカスト ディアン銀行経由で貸し出すセキュリティ・レンディングであった。機関投資家は現代の金融システム が機能する上で欠かせない担保を供給し, さらに膨大な現金担保はレポ取引や ABS 投資の形で運用され, 投資銀行やマネーセンターバンクへ資金を供給し,OTD を支えていたのである。 このような短期の民間金融資産の供給という視点に立つと,1990 年代以降の投資銀行業の辿った道は, 主に機関投資家および資金運用者向け業務の拡充と自己勘定投資による自らの資金運用者化であった。 投資銀行は,1980 年代には M&A アドバイザリー業務を拡充して,機関投資家に M&A ブームによる高 株価とジャンクボンドを供給した。1990 年代以降は,資金運用者向け業務としてプライムブローカー業 務を拡大し,ヘッジファンドの活動を支える重要な役割を果たしていた。また,アセットマネジメント 業務に進出すると共に,1980 年代以降,株式公開を行って資本力を強化した上でプロップ取引,プリン 28 シパル・インベストメント業務などの自己勘定取引を拡充し,定取引や空売り,デリバティブ取引を行 うなどヘッジファンドに類似した投資を行う資金運用者に変貌していった。 また,マネーセンターバンクを中心とした商業銀行は,1990 年代以降,債券の証券化を活発化させて 証券化商品を供給すると共に,オフバランス事業体として ABCP 導管体や SIV を設立して証券化商品や 各種債権を保有し,それを裏付けに ABCP を発行して民間の短期金融資産の供給者としての役割を果た すなど,機関投資家および資金運用者向けの業務を拡充していった。さらに,1980 年代末以降,証券子 会社を通じてトレーディング業務に参入できるようになったことでデリバティブを含むトレーディング 業務を展開し,自らも資金運用者として活動するようになった。 最後に,2000 年代に入ると機関投資家はファンズ・オブ・ヘッジファンズ(FoHF)などへの間接的 な投資を含めてヘッジファンドに大量の資金を供給するようになった。ヘッジファンドの運用資産残高 は 2007 年に 1 兆 8700 億ドル,投資主体別での FoHF を含む機関投資家の比率は 55%に達した。機関投 資家によるヘッジファンド投資が増加したことで,収益率が低下したことに加え,株式投資を行うファ ンドでは株式インデックスとの相関が,ヘッジファンド戦略全体では投資戦略や投資行動の均質化から 戦略間の相関が高まるなどの弊害も生じた。 そのため,「資本主義経済の資金運用者化」という観点から論じると,「金融市場の機関化」の結果と して登場した OTD モデルでは,短期金融資産の供給,市場取引を支える担保資産の供給が必要とされて いた。そして,それを可能にするものとして,カストディアン銀行のセキュリティ・レンディング,投 資銀行のプライムブローカー業務,商業銀行のオフバランス事業体が展開されるようになった。その下 で,資金運用者としてのヘッジファンド投資,投資銀行のアセットマネジメント業務や自己勘定取引, マネーセンターバンクの自己勘定取引が短期利益最大化を目標に展開されるようになったのである。 これらの活動の背後には機関投資家が存在していた。すなわち,機関投資家の保有有価証券が供給さ れることでセキュリティ・レンディングは機能しており,セキュリティ・レンディングと機関投資家と のレポによってプライムブローカー業務は支えられていた。さらに商業銀行が発行した証券化商品はセ キュリティ・レンダーによって購入され,オフバランス事業体の ABCP も機関投資家によって需要され ていた。また,機関投資家による資金供給によってヘッジファンドの投資拡大が可能になっていた。そ のため,OTD モデルにおいて機関投資家は,金融資産の需要者や供給者として欠かせない存在であり, 彼ら無しには金融仲介が機能しないのである。 第 6 章 資本主義経済の資金運用者化とサブプライム金融危機 サブプライム金融危機の発生と民間の短期金融資産への「取り付け」 6.1. 6.1.1. ABCP 市場での流動性危機と商業銀行のオフバランス事業の実態 サブプライム住宅バブル:住宅価格が 2006 年 9 月に下落に転じることで転換 2007 年 6 月の大手格付機関による大規模なサブプライム MBS の格下げ実施 ⇒8 月~,MMMF など投資家が ABCP の新規発行・借換えを拒否,短期金融市場が機能不全に ABCP 発行残高:1 兆 2147 億ドル(2007 年 7 月)⇒7561 億ドル(2008 年 7 月,40%減) ABCP 導管体・SIV による親銀行の提供する流動性補完や信用補完の利用 オフバランスだった資産が実質的にオンバランスとなり,転嫁したはずのクレジット・リスク が銀行本体に戻ってくる 29 流動性補完の未使用額が急減:3807 億ドル(2007 年)→1534 億ドル(2009 年) ⇔ 取引に積極的に関与したマネーセンターバンクの保有資産が急増 商工業貸付:4520 億ドル(30%増,2007 年) 仕組み債(主に民間 MBS)の保有額:6960 億ドル(41%増,2007 年) 不動産担保貸出:金融危機が深刻化する中で 1 兆 124 億ドル(16%増,2008 年) 貸出増加は問題資産の増加を意味し,貸倒償却が急増 125 億ドル(2007 年)→285 億ドル(2008 年)→572 億ドル(2009 年) 商業銀行は 1990 年代以降,証券化を推し進める⇔オフバランス事業体を立ち上げ,流動性補完や信 用補完などの保証の提供から手数料収入を得る →裏付け資産の価格が安定しているときは継続的なプレミアムを獲得 ⇔資産価格が下落すると巨額の損失が商業銀行本体に発生 6.1.2. レポ市場とセキュリティ・レンディング市場の収縮 証券化商品の信用リスク,流動性リスクが想定よりも高いことが判明 バイラテラル・レポでヘアカット率が大きく上昇(2008 年 8 月) :CDO は拒絶,ABS は 50~60% ⇒ヘッジファンドはポジション解消を進めざるを得なくなり,レバレッジの巻き戻しが進む +追加証拠金の要求に応じられず破綻するヘッジファンドが 2008 年秋に急増 トライパーティ・レポ:資金調達をレポに依存した借り手への貸付拒否で借り手が破綻 →2008 年 3 月のベア・スターンズと同 9 月のリーマン・ブラザーズ ベア・スターンズ:証券担保付きの借入が 31%(2007 年) ,29%(2008 年 2 月) 証券担保の調達/保有証券:53%(2003 年)→108%(2007 年) リーマン・ブラザーズ:証券担保付きの借入が 39%(2007 年) ,34%(2008 年 5 月) 証券担保の調達/保有証券:86%(2007 年 12 月)→75%(2008 年 2 月)→71%(2008 年 5 月) セキュリティ・レンディング市場:デレバレッジの中で有価証券の借り手が現金担保の返還を請求 →現金担保の残高は,1 兆 7900 億ドル(2008Q2)→7790 億ドル(2009Q1) ⇒ABS や MBS などの証券化商品を現金担保の運用先としていたレンダーに困難(ex. AIG) 6.1.3. MMMF 市場における取り付けの発生と ICP 2007 年の冬頃から親会社による資産の買い取り,資本注入,信用状の発行の実施 ⇔リーマン・ショックで元本割れが発生,機関投資家に信用リスクが認識され,資金流出(2009 年 2310 億ドル,2010 年 4010 億ドル) ⇒解約請求に応じたために MMMF はレポ市場や CP 市場などで投資縮小→収縮がさらに進行 機関投資家を含む ICP の銀行預金と国債保有へ回帰 危機で ICP は推計 3 兆 8500 ドル(2007 年)→3 兆 4700 億ドル(2008 年) +政府支出の増加で公的な短期金融資産の供給が増加し,需給ギャップが大きく縮小 ⇒需給ギャップ:2 兆 3600 億ドル(2007 年)→1 兆 600 億ドル(2008 年) 民間の短期金融資産(対 GDP 比):67%(2007 年)→53%(2009 年) 30 ⇔短期の銀行債務:47%→58%,公的な短期金融資産:86%→110% サブプライム金融危機と資金運用者 6.2. 6.2.1. 資金運用者による短期利益の追求 機関投資家:1960 年代半ば以降の経済成長の失速とインフレの高進の中でアクティブ運用へ転換 →短期株式売買が拡大,1970 年代に市場支配力を有するように ⇒株価形成がキャピタルゲイン取得を目指した需給関係に規定されるように ⇒在来の金融機関や企業が資金運用業務へ参入,ヘッジファンドなどの投資ファンドの影響力が拡大 「資金運用者」の増加と投資拡大 他の資本資産市場でも裁定益を狙う投資資金が流入,資本市場全体でボラティリティが高まる ⇒1990 年代以降,ヘッジファンドと投資銀行の自己勘定投資部門が最も活発に活動 ヘッジファンドの報酬体系“2/20”:投資リターンと報酬を連動させる ⇔大きなリスクを取って短期的利益を追求するインセンティブ ファンドマネージャの報酬体系と投資行動 運用資産額(AUM)の規模拡大:投資家は高い運用リターンを実現した資金運用者にαを 生み出す能力があると判断して投資 ⇔一度投資された資金には慣性が存在 ⇒短期の運用リターンを高めて資金を集めようと試みる 運用成績の向上:運用リターンを高めるためにテール・リスクやレバレッジを利用 →テール・リスクは市場が安定していればプレミアムを提供して運用リターンを高めるが, 極めて低い確率で生じるレア・イベントが起こると極めて大きな損失が発生 ⇔リターン評価が短期で期間中にレア・イベントが発生しなければリスクは覆い隠さる ⇔損失時の責任回避のため,自らの運用成績が他のマネージャを大きく下回ることを回避する誘因 →類似した投資戦略や資産を選択する「群衆行動」をとる傾向 特定の資本資産への投資集中や投資行動の同一化 →価格がファンダメンタルから乖離しやすくなり,価格の上昇局面ではファンダメンタル を超える価格上昇を引き起こし大きなキャピタルゲインを生む ⇔下降局面ではファンダメンタルズを超える大幅な価格下落の可能性 ファンドマネージャの報酬と損失:未実現リターンを時価評価して成功報酬を算定し支払い ⇔将来的に資産価格が下落し,投資家に損失が発生しても支払済み報酬に影響がなく,マネー ジャが損失を投資家と共有しない 6.2.2. 「組成販売」型金融仲介システムのおけるレバレッジの拡大 2000 年代以降のヘッジファンドのリターン低下⇔低い収益を補うため,高レバレッジを採用 株式ロング・ショート戦略:1.3~2 倍の低レバレッジ ⇔レラティブ・バリュー型の債券アービトラージは 8~15 倍,転換社債アービトラージは 4~6 倍,株式マーケット・ニュートラルは 2.5~5 倍と比較的高レバレッジ + クレジット市場で投資行うヘッジファンドはより高レバレッジ(表 6-2) 31 表6-2 クレジット投資戦略のレバレッジ(倍) 債券裁定(レラティブ・バリュー型) クレジットのロング・ショート CDSのレバレッジ型ロング MBS/ABS裁定 クレジット現物債のロング・ショート 新興国債券のロング・ショート 破綻証券 出所:Fitch Ratings(2007, p.4). 2006 10-20 5-15 20 6-10 3-6 2-4 1.5-2 2005 10-15 10-15 20 6-8 5-6 3-4 1.5-2 OTD モデル下での実質レバレッジの上昇 →純粋な借入や証拠金取引に基づくレバレッジではリスクテイクの実態を十分に把握できない ←CDS などのクレジットデリバティブや証券化商品のエクイティへの投資が拡大 従来のレバレッジの概念:純資産 10,借入 190 でモーゲージ・プール 200 を保有 →レバレッジは 200÷10=20 倍。投資対象に 5 の損失が発生した場合,純資産の損失 50%と運 用資産の損失 2.5% MBS のエクイティ・トランシュへ投資した場合:純資産 10,MBS10 を保有 →資産プール 200 を裏付けにシニア 184,メザニン 6,エクイティ 10 を発行し,エクイティへ の投資からハイリターンを得られると仮定する。このときレバレッジは 1 倍。 ⇔裏付けに同じ 5 の損失が生じた場合,優先劣後構造からエクイティにまず損失 =純資産の損失 50%と裏付け資産の損失 2.5% ⇒レバレッジ 1 倍だが,実際にはレバレッジ 20 倍の投資と同じリスク ⇒証券化商品への劣後部分や CDS プロテクションはそれ自体にレバレッジ要素を内包 フィナンシャル・レバレッジ:借入や証拠金によるレバレッジ エコノミック・レバレッジ:クレジット商品が内包するレバレッジ要素 ⇒両者を掛け合わせたものを実効レバレッジとして実態を把握する必要 OTD モデルにおけるヘッジファンドによる高リスク投資の展開 サブプライム関連投資残高(2006 年)は 981 億ドル(全体の 19.0%) CDS の取引高(2006 年)の約 58%,ストラクチャード・プロダクトの 1/3,CDO の 46.5%, うちエクイティの 71.8%を保有 →クレジット系ヘッジファンドは 3000 億ドル規模(2005 年)に達しており,フィナンシャル・レバレ ッジで 1.5~1.8 兆ドルの資産を保有していたが,実効レバレッジはより大きい ⇒ヘッジファンドによる大きなリスクテイクにより証券化商品の発行拡大が可能に 6.2.3. サブプライム金融危機の資金運用者への影響 ヘッジファンドへの影響:破綻急増と運用資産残高の減少,デレバレッジの進行 ヘッジファンド数:10,096 本(2007Q4)→9284 本(2008Q4)→8946 本(2009Q2) 運用資産残高:1 兆 9300 億ドル(2008Q2)→1 兆 4100 億ドル(2008Q4) レバレッジ:2 倍~3 倍(2008Q2)→1.5 倍程度(2008Q4) →高レバレッジ投資は短期金融市場の機能不全で継続不能に。急速なデレバレッジと運用資産喪失。 ⇒OTD モデルで過剰なリスクを取り,金融危機で大きな損失を出す 投資銀行への影響:自己勘定投資で大幅な利益の縮小 or 損失⇒5 大投資銀行が全て消滅。 32 ゴールドマン・サックス:312 億ドル(2007 年)→91 億ドル(2008 年,71%減) リーマン・ブラザーズ:-27 億ドル(2008Q2) OTD モデルの下で資金運用者は短期利益最大化を追求 →資金運用者は,エコノミック・レバレッジを併用し大きなリスクをとり危機前に大きな利益 ⇔金融危機は投資が継続不能と示し,資金運用者のみならず経済全体にも大きなダメージ →問題は年金基金などの家計部門の中長期的な資本形成が,短期利益最大化を追求する資金運用者の影 響下にあること ⇒資金運用者による短期利益追求は,金融危機の発生とそれに伴う経済的不利益の発生という短期的な 問題ではなく,資本主義経済の中での家計部門の位置付けを変化させており事態はより深刻 資本主義経済の資金運用者化と家計部門 6.3. 家計部門の機関投資家を通じた貯蓄形成:1960 年代半ば以前,多くが株式を長期保有 →配当金でのキャッシュフロー確保,純資産価格増加から家計部門の中長期資産の形成上でも理に適う ⇔1960 年代半ば以降,短期の運用リターンを重視するアクティブ運用が拡大 →中長期の貯蓄形成と非整合的,家計部門の所得や消費にも影響 6.3.1. 短期利益最大化と家計部門の資産形成 資金運用者の短期利益最大化行動の家計部門への影響 1. 企業経営における短期利益最大による雇用や賃金の不安定化 ⇒経営者が業績を維持する上で最も効果的なコスト削減策として人件費の削減を選択 +長期的な企業価値が最大化されず,従業員の賃金が伸び悩む可能性 2. 年金などの中長期の貯蓄の形成が短期利益最大化により阻害される可能性 資金運用者が短期利益最大化を目指し,企業が株主価値最大化を目標に短期主義で経営を 行った場合,長期的な運用益や株主価値が最大化されない 最終的な受益者と運用資産の拠出者が異なる →DB 型年金の積立不足は企業側の追加拠出なため,短期利益を高める運用をアセット・マ ネージャーに指示する誘因 →FoHF 投資で,最終的な受益者の労働者と年金基金のマネージャ,FoHF を通じて投資し たヘッジファンドのマネージャと重層的に利害の不一致が形成される可能性 3. 家計部門の耐久消費財や消費などの負債の増加(→次項) 労働者層内部における社会的不平等拡大の可能性(アグリエッタ,2009) →年金基金などを通じ労働者が企業の株主なることが可能になり,彼らは企業利潤の増加に応じて 分け前が多くなる制度から新たな収入を得る ⇔その利潤増加が基本給の大幅引下げ,成果型賃金などによる賃金圧縮で達成される ⇒経済全体で見れば労働者が自らの労働環境を悪化させることに ←年金基金が短期利益最大化を目指す資金運用者として行動しなくとも生じる →運用資産の一部をヘッジファンドに投資し,保有有価証券をセキュリティ・レンディングでヘッ ジファンドや投資銀行に貸出 33 ⇒結果的に最終的な受益者である労働者にマイナスの結果をもたらす可能性 6.3.2. 証券化の深化・拡大と家計負債の増加 家計部門の耐久消費財や消費などの負債増加 →証券化の深化の結果,サブプライム金融危機では住宅金融が危機の直接の原因に ⇒投機的金融の対象が企業部門-金融部門間から金融部門-家計部門間に拡大 →1985 年以降,自動車ローン,クレジットカード債権,HEL,学生ローンなど家計部門の負債を証券化 ⇒証券化商品への需要の高まりは原債権市場への資金流入を促す アメリカの実質個人消費支出(対 GDP 比) :1990 年代後半に大きく増大,2007 年に 70.3% →家計部門の消費支出(対可処分所得)は 1982 年以降上昇,1990 年代半ば以降 99%近い水準 アメリカの家計部門の消費支出を支える消費者信用 リボルビングが 1980 年代半ばから,HEL が 1990 年代半ばから大きく増大 消費者信用の利用残高(対可処分所得比) :90 年代に 20%を超え,2000 年代に 25.0%に迫る クレジットカード債務を持つ家計:37.9%(1983 年)→43.6%(1986 年) クレジットカードを保有する家計:69.5%(1989 年)→76.3%(2001 年) →低所得層の世帯におけるクレジットカードの保有が増加 保有世帯(1989 年→2001 年) :全体 9.8%増⇔準低所得層 18.1%増,低所得層 46.5%増 ハイリスクな借り手への信用供与:クレジット・スコアリングと証券化で可能に クレジット・スコアリングの発達で貸し手が消費者の債務不履行の可能性を見積もれるように →リスク別の利率設定などリスク応じた細かな条件の適応が可能に リボルビング債権の証券化:10.5%(1990.1)→25.8%(1995.1)→51.8%(2000.1) HEL:住宅の評価価格から住宅ローン残高を差し引いた正味資産を担保に融資する消費者信用 +他にも住宅の売却や住宅ローンの借り換えによるキャッシュアウト・リファイナンスが存在 HEL 残高 (対可処分所得比,1990 年→2007 年) :2150 億ドル(5.0%) →1 兆 1300 億ドル(10.9%) →HEL の証券化残高(対 HEL 残高比):73 億ドル(3.4%)→1 兆 0397 億ドル(92%) モーゲージ貸付で生み出されたフリーキャッシュ:年平均 5322 億ドル(1991~2005 年) 直接,消費支出へ充当:年平均 661 億ドル(個人消費支出の 1%に相当) 間接的に個人消費支出を下支え:年平均 500 億ドル →フリーキャッシュによる支出は個人消費支出の 1.7%相当を直接・間接に下支え 証券化需要の増大による原債権市場への資金流入→消費者信用を利用促進 →家計部門に投機的な資金が供給され,投機に巻き込まれる ⇔景気後退の到来で家計部門は所得の減少と負債の支払いに苦しむことに まとめ OTD モデルは,2007 年 6 月のサブプライム MBS の大量格下げをきっかけに同年 8 月以降,ABCP で MMMF などの貸し手による借り換え拒否や資金の引き上げが生じた。その結果,資金繰りに窮した オフバランス事業体が流動性補完を利用し,銀行本体にオフバランス化した資産が戻り,保有資産の急 増,次いで貸倒れ償却の増加が引き起こされた。また,レポ市場でもバイラテラル・レポでは貸出マー 34 ジン要求量であるヘアカットが急上昇し,ヘッジファンドなどの資金運用者は投資の継続が不可能にな り,レバレッジの巻き戻しが進むことになる。この過程でプライムブローカー業務に注力し,自らも資 金調達でレポ市場の比重が高かったベア・スターンズやリーマン・ブラザーズが,トライパーティ・レ ポで資金供給を拒否され,事実上破綻した。また,セキュリティ・レンディング市場でもデレバレッジ が進行する中で証券を借り入れていたヘッジファンドが証券を返却したことで現金担保の返還請求が発 生し,リーマン・ショック前後の 3 四半期で 1 兆ドル近くの資金が引きあげられた。MMMF に関しても 証券化商品の格下げにより,証券の売却の必要やデフォルトが発生し,リーマン・ショックで元本割れ が発生したことで信用リスクが認識され,機関投資家による解約請求が殺到し,2 年間で 6000 億ドルを 超える資金が流出した。 このような事態の発生には,OTD モデルに資金を供給していた機関投資家を含む ICP の性質が関係し ていた。彼らは,銀行預金に代わる高い流動性と安全性を持った金融資産を求めていた。1990 年代以降, 公的な短期金融資産の供給が停滞する中で,その要請に応えていたのが高格付資産を裏付けあるいは担 保とする民間の短期金融資産であった。その大元である証券化商品が 2007 年 6 月に大量格下げされたこ とで,規制や制度上の問題と信用リスク認識の変化の両面で問題が発生し,投資の継続が不可能になり, 資金を引き上げたことで OTD モデルが機能停止状態に陥ったのである。 2007 年 8 月以降,OTD モデルは ICP が資金を引き上げていったことで機能停止状態に陥ったが,資 金運用者は危機以前,OTD モデルの下でテール・リスクや見えないレバレッジを駆使して,高リスク・ 高リターンの投資を展開し,高い収益をあげていた。1990 年代以降の金融市場において,資金運用者と して最も活発に活動していたのがヘッジファンドと投資銀行の自己勘定投資部門だった。彼らは投資リ ターンと報酬を連動させることで,ファンドマネージャが高い報酬を得るために高いリターンを獲得す る努力を促していたが,この報酬体系には同時に大きなリスクをとって短期利益を追求するインセンテ ィブが存在していた。これは資金運用者の運用リターンの評価が過去の四半期や 1 年などの短期を基準 とし,その時点でのポートフォリオの価値を時価評価して成功報酬を現金化して支払うという構造に由 来していた。その場合,ファンドマネージャの最適な行動は,サブプライム関連証券などの格付モデル の想定より高い可能性で大きな損失が出るが,相対的に高い金利が得られる金融資産に投資を行うこと だった。その投資をフィナンシャル・レバレッジに加え,優先劣後構造やクレジットデリバティブによ るエコノミック・レバレッジを併用して高い実効レバレッジで行い,期間中にレア・イベントが発生し ないことに賭ける。損失が発生しなければ,ファンドマネージャは高い運用リターンの見返りとして莫 大な成功報酬を現金で受け取ることができた。また,ファンドマネージャは損失を出したときの責任を 回避するため,類似した投資戦略,他のマネージャと同じ資産や投資行動を選択する群衆行動をとるこ とで,自らの運用成績が他者を大きく下回らないように行動する誘因があった。群衆行動は価格の上昇 局面ではファンダメンタルを超える価格上昇を引き起こして大きなキャピタルゲインを生み,運用リタ ーンを高める反面,下降局面ではファンダメンタルズを超える大幅な価格下落を生む構造になっていた。 こうして,ヘッジファンドや投資銀行の自己勘定取引部門は高リスクの資産を高い実効レバレッジで 保有し,サブプライム金融危機前には大きな利益をあげていた。しかし,2007 年 8 月以降の事態は,こ れらの投資が持続しないものであることを明らかにした。多くのヘッジファンドが清算され,運用資産 残高はリーマン・ショック前後の 6 ヶ月間で 5000 億ドル以上減少し,レバレッジも低下した。投資銀行 も自己勘定投資からの利益が大幅に減少したかマイナスとなり,資金運用者向けの業務からの損失もあ 35 って,最終的に 5 大投資銀行全てが消滅した。 サブプライム金融危機は,その金融仲介に関わった金融機関に多大な損失が生じると共に,景気後退 に伴う賃金の低下や雇用の削減など家計部門に対しても多大な経済的不利益をもたらした。ただ,問題 は経済の資金運用者化が進み,機関投資家向け,資金運用者向けに金融商品が供給されるようになった 経済では,従来型の株式ブームのような株式市場で投資を行えるごく一部の富裕層が金融的な利益を獲 得し,一般の家計部門は金融危機後の実体経済での景気後退で損失を蒙るという単純な構図にないこと に注意が必要である。 資本主義経済の資金運用者化の結果として生じていることは,家計部門の中長期的な貯蓄形成の不安 定化と負債の増大だと考えられる。貯蓄形成の面では家計部門の年金基金やミューチュアルファンドを 通じた投資は主として老後に備えた中長期的な投資であるが,その資金の一部もしくは全ての運用を委 ねられた資金運用者は短期利益を最大化するように行動している。そのため,資金運用者の求めに応じ て企業が株主価値最大化を最大化しようすれば,その企業は基本給の引下げや成果型賃金の導入で賃金 圧縮を行って利潤を高めたり,研究開発や従業員トレーニング,ブランド価値向上など長期的な利益に は結び付くが短期的な利益に結び付かない投資を抑制したりすることになる。年金基金のような労働者 のための組織が,彼ら自身の生活を脅かす投資は行わないとも考えられるが,企業年金の場合,DB 型で は最終的な受益者である労働者と資金の拠出し運用を指示する企業側という利害の不一致が起こりうる。 また,DC 型は労働者が運用先を指定するが,その多くがミューチュアルファンドを選択していることか らも分かる通り,運用成績で将来の給付が決まるため,よりリターンの高い運用者を選択する誘因が存 在する。さらに,インデックス運用を行う機関投資家でも保有証券をセキュリティ・レンディングでヘ ッジファンドや投資銀行に貸し出しており,彼らの投資行動を間接的に後押している。そのため,経済 全体でみた場合に,労働者が自らの労働環境を悪化させるという合成の誤謬が生じる可能性がある。 一方,証券化の深化の結果,家計部門の負債が機関投資家や資金運用者の格好の投資の対象となるこ とで,サブプライム層への住宅モーゲージの貸出と証券化のみならず,家計部門による負債に基づく耐 久消費財の購入や消費を増加させた。歴史的に家計部門の負債は GDP の 45%程度で安定していたが, 2007 年には 91%にまで拡大した。とりわけ,家計部門による消費の拡大を助長したのが,クレジットカ ード,自動車ローン,ホームエクイティローンであった。ホームエクイティローンやキャッシュアウト・ リファイナンスは 1990 年代から 2000 年代半ばの個人消費支出の 1.7%を直接・間接に下支えしていた が,住宅ブームが去った後には膨大な負債だけが残った。 資本主義経済の資金運用者化は,金融的なブームとその破綻により直接的に家計部門を巻き込むよう になっており,ブーム期には資金運用者の短期利益最大化行動により資産が大きく増大する。また,証 券化の深化・拡大により家計部門の負債が証券化され,OTD モデルを支える金融資産の裏付けや担保と して利用されることから原債権市場に資金が流入し,負債による消費拡大が促進された。しかし,金融 危機が起こると資産価格が急落して中長期の貯蓄形成が阻害され,消費や投資の結果として大きな負債 が累積し,実体経済が悪化し所得が減少する中で家計部門はその支払い負担に苦しむこととなる。この ように資金運用者化の拡大は金融における変化に留まらず,資本主義経済全体を大きく変貌させている のである。 36 略称一覧 略称 正式名称 日本名,説明 ABCP Asset-backed Commercial Paper 資産担保コマーシャル・ペーパー ABS Asset Backed Security 資産担保証券 AIG FP AIG フィナンシャル・プロダクツ Alt-A Alternative-A プライム層とサブプライム層の中間に位置づけられる層 AUM Asset Under Management 運用資産残高 BHC Bank Holding Company 銀行持株会社 CalPERS The California Public Employees' カリフォルニア州職員退職年金基金 Retirement System CBO Collateralized Bond Obligation 社債担保証券。社債を裏付けに証券化したもの。 CDO Collateralized Debt Obligation 債務担保証券。 CDS Credit default swap クレジット・デリバティブの一種で,企業や金融商品の債 務不履行にともなうリスクを対象とする金融派生商品。 金融保険に近い性格をもつ。 CLO Collateralized Loan Obligation ローン担保証券。銀行の貸出債権などを証券化したも の。 CMA Cash Management Account MMMF の総合口座版 CMBS Commercial Mortgage Backed 商業不動産担保証券。商業用不動産融資を裏付けとし Securities た MBS。 Collateralized Mortgage Obligation FHLMC により 1983 年にはじめて発行されたペイ・スルー CMO 型証券 CP Commercial Paper コマーシャル・ペーパー DB 型 Defined Benefit Plan 確定給付型年金 DC 型 Defined Contribution Plan 確定拠出型年金 DIDMCA Depository Institutions Deregulation 1980 年預金金融機関規制緩和・通貨統制法 and Monetary Control Act of 1980 ERISA Employee Retirement IncomeSecurity 従業員退職所得保障法 Act of 1974 ETF Exchange Traded Funds 上場投資信託 FDIC Federal Deposit Insurance Corporation 連邦預金保険公社 FDICIA Federal Deposit Insurance Corporation 1991 年連邦預金保険公社改善法 Improvement Act of 1991 FHA Federal Housing Administration 連邦住宅局 FHC Financial Holding Company 金融持株会社 FHLMC Federal Home Loan Mortgage フレディーマック。1970 年設立の GSE。 Corporation FNMA Federal National Mortgage Association 連邦抵当金庫。1938 年設立。 37 FoHF Fund of Hedge Funds ファンド・オブ・ヘッジファンズ FSLIC Federal Savings and Loan Insurance 連邦貯蓄貸付保険公社 Corporation FTC Federal Trade Commission 連邦取引委員会 GNMA Government National Mortgage 政府抵当金庫 Association GSE Government Sponsored Enterprises GSE 債 政府援助法人 政府援助法人が発行した債券(MBS, 社債など) GS 法 Glass-Steagall Act 1933 年銀行法の俗称 HEL Home Equity Loan ホームエクイティローン ICP Institutional Cash Pool LBO leveraged buyout LTV Loan-to-Value 被担保債権対資産価値比率 MBS Mortgage Backed Securities モーゲージ担保証券 MMC Money Market Certificate 市場金利連動型預金 MMMF Money Market Mutual Funds 1971 年に登場したミューチュアルファンドの一種。預金代 替商品として急成長した。 MTN Medium-term Note 中期(社)債 NAV Net Asset Value ミューチュアルファンドの純資産総額のこと NCD negotiable certificate of deposit 譲渡性預金証書 NYSE New York Stock Exchange ニューヨーク証券取引所 OTD モデル Originate-to-Distribute Model OTH モデル Originate-to-Hold Model REIT Real Estate Investment Trust 不動産投資信託 REMIC Real Estate Mortgage Investment 不動産モーゲージ投資導管 Conduit RMBS Residential Mortgage Backed 住宅モーゲージ担保証券 Securities RTC Resolution Trust Corporation 整理信託公社 S&L Savings and Loan association 貯蓄貸付組合 SEC Securities and Exchange Commission 証券取引委員会 SF CDO Structured Finance CDO MBS や ABS, CDO を裏付けとした CDO。本稿における CDO と同義。 SIV Structured Investment Vehicle SPV Special Purpose Vehicle 特別目的事業体。本稿では証券化商品の発行の際に裏 付け資産を真正譲渡するために設立される。 SRI Socially responsible investment 持続的責任投資,社会的責任投資 TARP Troubled Asset Relief Program 不良資産救済プログラム 38 TB Treasury Bills 米財務省短期証券 TIAA/CREF Teachers Insurance and Annuity 米国大学教職員退職年金/保険基金 Association of America-College Retirement Equities Fund TOB take-over bid 株式公開買付。敵対的買収と友好的買収に分かれる。 VA Veterans Administration 退役軍人省 ヘッジファンド Hedge Fund 1940 年投資会社法に基づく SEC への登録義務を免除さ れた私募ファンド。従来は主に富裕層を中心とした限ら れた個人投資家向けの金融商品だった。 モーゲージ mortgage 住宅取得者(債務者)が債権者に対し交付する約束手 形,契約証書,保険証書などの総称 参考文献 Acharya, Viral V. and Philipp Schnabel(2009a) “How Banks Played the Leverage Game,” In Restoring Financial Stability, ed. by Acharya, V. 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