平成 25 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業

平成 25 年度国際エネルギー使用合理化等対策事業
(再生可能エネルギー政策共同研究推進事業)
報告書
平成 26 年 3 月
みずほ情報総研株式会社
目次
1.
はじめに ........................................................................................................................ 1
2.
PV 認証制度構築にあたっての基礎情報 ....................................................................... 2
2.1.
3.
2.1.1.
概要 ................................................................................................................. 2
2.1.2.
PV の性能評価に関する規格 ........................................................................... 5
2.1.3.
PV の安全性評価に関する規格 ..................................................................... 21
2.1.4.
PV の出力評価に関する規格 ......................................................................... 28
2.1.5.
その他環境試験法等の関連規格 .................................................................... 35
2.2.
PV 認証試験に関する設備 .................................................................................... 37
2.3.
PV に関する国際規格および認証試験設備の分析 ................................................ 41
太陽光発電導入先進国の PV 導入状況と PV 認証サービス ........................................ 43
3.1.
PV 導入状況と政策 ....................................................................................... 43
3.1.2.
主な認証機関と PV 認証サービス ................................................................. 45
PV 導入状況と政策 ....................................................................................... 46
3.2.2.
主な認証機関と PV 認証サービス ................................................................. 48
ドイツ................................................................................................................... 50
3.3.1.
PV 導入状況と政策 ....................................................................................... 50
3.3.2.
主な認証機関と PV 認証サービス ................................................................. 52
3.4.
6.
米国 ...................................................................................................................... 46
3.2.1.
3.3.
5.
日本 ...................................................................................................................... 43
3.1.1.
3.2.
4.
既存の国際規格 ...................................................................................................... 2
各国の概況 ........................................................................................................... 55
モロッコの PV 認証制度構築に関する検討 ................................................................. 56
4.1.
経済産業状況 ........................................................................................................ 56
4.2.
投資環境 ............................................................................................................... 58
4.3.
太陽光発電導入に関する取り組み ........................................................................ 63
4.4.
認証制度 ............................................................................................................... 66
4.5.
PV 認証制度構築に関する検討............................................................................. 74
サウジアラビアの PV 認証制度構築に関する検討 ...................................................... 82
5.1.
経済産業状況 ........................................................................................................ 82
5.2.
投資環境 ............................................................................................................... 86
5.3.
太陽光発電導入に関する取り組み ........................................................................ 94
5.4.
認証制度 ............................................................................................................. 100
5.5.
PV 認証制度構築に関する検討........................................................................... 112
最後に ........................................................................................................................ 115
1. はじめに
世界的なエネルギー需要の増大に伴い、中長期的なエネルギー需給の逼迫・不安定化や、
化石燃料の消費による二酸化炭素排出量の増加がもたらす地球温暖化が懸念されている。
再生可能エネルギー・省エネルギー等(以下、再生可能エネルギー等)はこれを解決する
有力な手段として、世界各国が協力して推進する必要がある。日本は世界でも有数の先進
的な再生可能エネルギー等技術やそれら技術を育んだ政策・制度等のノウハウを有してお
り、世界的な再生可能エネルギー等の推進のため、率先して国際的イニシアティブを発揮
することが期待されている。
再生可能エネルギー等の推進については、特に政府の政策や制度によって左右される面
が大きいため、適切な政策実施、制度構築を行なうことが不可欠である。特に、経済成長
に伴ってエネルギー需要の急増が見込まれる新興国では、再生可能エネルギー等の推進が
喫緊の課題となっており、我が国の有する優れた技術や政策・制度に関するノウハウ等を
活用して、これらの国における再生可能エネルギー等推進のための政策実施、制度構築に
協力していくことが重要である。
MENA 地域に位置するモロッコ、サウジアラビアにおいては、大規模な太陽光発電事業
が計画されているが、持続的な太陽光発電の導入には、自国の砂漠等の環境を考慮して適
切に太陽光モジュールを評価し、認証することが必要となる。これらの国の環境において
最適な太陽光モジュールが採用されることは、再生可能エネルギーによる安定的な電力供
給の確保につながり、化石燃料消費の低減を通じた世界規模でのエネルギー需要安定化に
資する。さらに、日本企業の太陽光モジュールの高い信頼性・耐久性が適切に評価されれ
ば、これらの国における大規模な太陽光発電プロジェクトに我が国企業の太陽光モジュー
ルが採用される可能性を高め、我が国産業の競争力の強化につながることとなる。
本調査では、モロッコ及びサウジアラビアにおける太陽光モジュールの認証制度につい
ての研究を実施し、当該対象国において必要な太陽光モジュール認証制度に関する提言を
行うための情報を収集した。
1
2. PV 認証制度構築にあたっての基礎情報
モロッコ、サウジアラビアにおいて、PV(太陽光発電)認証制度を構築するにあたって
は、認証規格の策定と、認証試験装置の導入が必要となる。本項目では、それらの検討に
あたって、必要な情報について整理を実施した。
2.1.
既存の国際規格
モロッコ、サウジアラビアは、砂漠等の環境下にあり、そのような環境下においては、
太陽光発電システムは必ずしも従来の国際規格の下で適切に評価できない可能性がある。
そのため、モロッコやサウジアラビアにおいて、持続可能で健全な太陽光発電システムの
導入を進めるにあたっては、それらの環境を考慮した独自の認証規格を検討する必要があ
ると考えられる。本項目では、認証規格策定にあたっての基礎情報として、太陽電池モジ
ュールに関する従来の国際規格の概要、具体的な試験項目や試験条件、出力評価条件等を
調査した。
2.1.1. 概要
PV 評価に関する IEC 規格は、品質信頼性評価規格(以下、性能評価規格)、安全性評価
規格、出力評価規格、並びにその他環境試験法等の関連規格に分類される。これらの相互
関係を図 2.1 に、各規格の概要を表 2.1 に示す。PV の信頼性を評価するにあたり、基本と
なる規格は IEC 61215・IEC 61646(性能評価)および IEC 61730(安全性評価)である。
IEC 61215 と IEC 61646 は、温度サイクル試験をはじめとする環境ストレス試験により、
耐久性能を評価する。IEC 61730 の第 1 部は PV 設置方法をはじめ基本となる要求事項を
示す。第 2 部では感電危険試験や火災試験等により安全性の評価を行う。なお、当安全性
試験は実施前に、IEC 61215 と IEC 61646 の性能評価試験を行うことが前提とされている。
上記の性能および安全性評価をベースとして、IEC 61701(塩霧耐性)や IEC 62716(ア
ンモニア耐性)等を行うことで、臨海地域や農地等の特殊環境における性能を評価する。
なお、性能評価試験や安全性評価試験において、最大電圧やセル温度等の PV モジュール
に関する各種パラメーターが測定されるが、これらの測定方法や前提条件は、IEC 61853
や IEC 60904 等の出力評価規格によって規定されている。
2
IEC 60068‐2‐68 (砂塵環境)
IEC 61701
(塩霧耐性)
IEC 62716
(アンモニア耐性)
オプション
(特殊環境)
※電気・電子機器全般に
関する規格
前処理試験として使用
測定方法
を規定
前処理試験として使用
測定項目
・NOCTにおける特性把握
・最大電圧測定方法 等
基本となる性能試験
IEC 61215(結晶シリコン)
IEC 61646(薄膜シリコン)
前処理試験として使用
出力評価試験
IEC 61853
IEC 60904等
基本となる安全性試験
IEC 61730‐2
安全性のための基本要求事項
IEC 61730‐1
図 2.1 太陽光発電モジュールおよびセルに関する IEC 規格の相互関係
3
ベース
表 2.1 太陽光発電モジュールおよびセルに関する IEC 規格の概要
規格分類
品質信頼性評価規格
規格番号
標題仮訳
目的
主な試験内容/条件
IEC 61215
◆長期耐久性(温度サイクル試験、結露凍結試験、高温高湿試験)
水晶振動子地上光電(PV)モジュール-設計認定及び 地上設置太陽電池モジュール(結晶シリコンタイプ)が、一般の屋外気 ◆様々な運用ストレスに対する耐久性(バイパスダイオード温度試験、ホット スポット耐久試
形式承認
候における長期運転に耐えうることを確認する。
験、端子強度試験、機械的荷重試験、降雹試験)
◆予備的試験等(紫外線照射試験、屋外暴露試験)
IEC 61646
地上設置の薄膜太陽電池(PV)モジュール-設計適
格性確認及び形式認証
IEC 61345
光電(PV)モジュール用UV試験
IEC 61701
光電(PV)モジュールの塩霧腐食試験
IEC 62716
太陽電池モジュール-アンモニア腐食試験
◆アンモニア噴霧試験
太陽電池モジュールのアンモニアによる耐腐食性を評価し、家畜のい
①60℃の屋内チャンバー内で、濃度6,667ppmのアンモニア噴霧8時間、②チャンバー内(18~
る農地環境にも対応できる事を証明する。
28℃)放置16時間、①と②を4サイクル(480時間)
IEC 61730-1
光電池(PV)モジュール安全認定-第1部:構造の要
求事項
太陽電池モジュールが、その寿命の間、電気的にも機械的にも安全な
運転を達成するための、構造に関する基本的な要求事項について規 特になし
定する。
IEC 61730-2
光電池(PV)モジュール安全認定-第2部:試験の要
求事項
◆感電危険試験(接近性試験、切断性試験、接地連続性試験、インパルス電圧試験、耐電圧
試験、湿潤漏れ電圧試験、端子強度試験)
太陽電池モジュールが、その寿命の間、電気的にも機械的にも安全な ◆火災危険試験(温度試験、ホットスポット試験、火災試験、バイパスダイオード温度試験、逆
運転を達成するための、具体的な試験内容について規定する。
電流過負荷試験)
◆機械的応力試験(衝撃破壊試験、機械荷重試験)
◆部品試験(部分放電試験、配線管曲げ試験、端子箱ノックアウト試験)
IEC 61853-1
放射と温度範囲におけるPVモジュールの定格出力測定に関する要求
光電(PV)モジュール性能試験及びエネルギー定格-
事項を規定する。(試験項目はIEC 61853-2で示す)
特になし
第1部:放射照度及び温度性能測定及び電力定格
定格出力を算出する際の用語の定義(STC, NOCT(※1)等)
IEC 60904-1
光電装置-第1部:光電電流-電圧特性の測定
IEC 60904-3
異なるPV装置および材料の間での出力評価条件を同じにするため、
光電装置-第3部:スペクトル放射照度データを参照 各放射照度に対応する基準分光放射照度「AM1.5G(基準太陽光)」を
した地上光電(PV)装置の測定原理
規定している。
ソーラーシミュレーターの放射照度の調整等に利用。
◆基準分光放射照度AM1.5Gの前提条件
・太陽の傾斜角:37°
・傾斜面放射照度(直接光+散乱光):1,000W/m2
・大気条件:U.S.標準大気、CO2濃度370ppm、その他汚染考慮なし
・可降水量:1.4164cm
・オゾン含有量:0,3438atm-cm(or 343.8 DU)
・濁度(エアロゾル光学的深度):0.084 at 500nm
・大気圧:1013.25hPa
IEC 60904-5
光電装置-第5部:開放電圧法による光電(PV)装置
の等価セル温度(ECT)(※2)の測定
開放電圧を用いて、等価セル温度を算出する方法を規定する。
測定条件:放射照度200W/m2を超えること。
放射センサー、二次基準太陽電池、全天日射計等を用いて、温度係数や開放電圧等のパラ
メーターを基準状態にて測定。等価セル温度計算式を用いて算出。
環境試験-第2部:試験-試験L:粉じん及び砂じん
各種粉塵に対する電気・電子製品の構造上の安全性を検証する。
◆非研磨微細粉塵試験(反復空気圧力試験、一定空気圧力試験)
◆自由沈降粉塵試験
◆吹き込み粉塵および砂塵(再循環層試験、自由吹き込み粉塵試験)
安全性評価規格
地上設置太陽電池モジュール(薄膜シリコンタイプ)が、一般の屋外気
同上
候における長期運転に耐えうることを確認する。
◆UV照射試験
PVモジュールの使用材料(ポリマーやコーティング等)の紫外線(波長
環境試験装置内で、モジュールの表面および裏面それぞれに、UVビームを照射し、試験前後で
280nm~400nm)に対する耐性を評価する。
目視的欠陥、IV特性(最大電力)の変化、絶縁性能の変化が無いことを確かめる。
◆塩水噴霧試験
太陽電池モジュールの塩水による耐腐食性を評価し、海岸地域や融
①15~35℃の屋内チャンバー内で、濃度5%の塩水噴霧2時間、②チャンバー内(40℃)放置7日
雪剤を使用する積雪地域にも対応できる事を証明する。
間、①と②を4サイクル
測定不確実性を最小限にするため、自然太陽光または擬似太陽光の
下での光電装置の電流-電圧特性(IV特性)の測定手順を示す。
特になし
IEC61215およびIEC61646等でIV特性を測定する際は本規格を参照。
出力評価規格
その他環境試験法等の IEC 60068-2関連規格
68
4
2.1.2. PV の性能評価に関する規格
(1)IEC 61215
水晶振動子地上光電(PV)モジュール-設計認定及び形式承認
①規格の目的
IEC 61215 は一般的な屋外気候における長期運転に適した地上設置の結晶シリコン型
PV モジュールの設計適確性の確認および、形式認証に関する要求事項について規定する。
モジュールの電気および温度特性を確定して、費用と時間の妥当な制約の範囲内で、可能
な限りモジュールが適用範囲に記載する気候における長期暴露に耐えることができること
を示す。
②適用範囲
本規格は薄膜結晶シリコン型の地上設置用平板形モジュールのみを対象としている。た
だし、集光器付モジュールは適用されない。その他の形式の PV モジュールについては、後
述する IEC 61646 で対象とされている。
5
③試験プロセス
IEC 61215 における測定および試験項目のフローを図 2.2 に示す。本規格では、前処理
後、目視検査から湿潤漏れ電流試験等の機能チェックを行った後、図に示すように 4 つの
プロセスに分岐し、基準セル(1 つ)を含め、合計 8 つのセルが使用される。
前処理
太陽光照射量 5.0~5.5 kWh/m2
10.1 目視検査
10.2 最大出力の決定
機能チェック
10.3 絶縁試験
10.15 湿潤漏れ電流試験
1 モジュール
1 モジュール
10.4
温度係数の測定
10.5
公称セル温度(NOCT)の測定
10.6
基準状態(STC)およびNOCTに
おける特性
10.7
低放射照度における特性
10.8
屋外暴露試験 60 kWh/m2
10.18
バイパスダイオード温度試験
2 モジュール
10.10
紫外線前処理試験
15 kWh/m2
2 モジュール
10.13
高温高湿試験
1000h +85℃ 相対湿度85%
2 モジュール
10.11
温度サイクル試験
50サイクル(*)
‐40℃〜+85℃
10.11
温度サイクル試験
50サイクル ‐40℃〜+85℃
10.15
湿潤漏れ電流試験
10.12
結露凍結試験
10サイクル ‐40℃〜+85℃
相対湿度85%
1 モジュール
10.16
機械的荷重試験
1 モジュール
10.17
降雹試験
1 モジュール
1 モジュール
10.14
端子強度試験
10.9
ホットスポット耐久試験
1000 W/㎡の放射照度に
5 時間(*)暴露
10.15
湿潤漏れ電流試験
(繰り返す)
図 2.2
IEC 61215 の試験プロセス(IEC 61646 との相違箇所を(*)にて示す)1より作成
6
④測定項目
IEC 61215 における具体的な測定内容について以下に示す。本規格では、性能試験を実
施するにあたり、機能チェックと特性に関する測定が行われる。
機能チェックでは、破損や腐食等の欠陥を確認する目視検査、最大出力の測定を含む電
流-電圧特性の検査、絶縁試験、湿潤漏れ電流検査等が行われる。これらの検査は後述す
る性能試験を実施する前後で行われ、性能の変化の有無を確認する。
表 2.2
名称
IEC 61215 における機能チェック項目
概要
目視検査
目視的な欠陥(破損・腐食等)がないか確認。
最大出力の決定
放射照度および温度の特定の条件(推奨範囲は 25~50℃
のセル温度範囲、700~1,100W/m2 の放射照度)で、モジ
ュールの電流-電圧特性を決定。測定の手順や装置等は出
力評価規格である IEC 60904-1 または 60904-9 に基づく。
モジュールの通電部分とフレームが適切に絶縁されてい
るかを確かめる。
試験電圧 500 V または最大システム電圧のいずれか高い
方で 1 分間試験を実施する。面積が 0.1 ㎡未満のモジュー
ルの場合、絶縁抵抗は 400 MΩ 以上でなければならない。
面積が 0.1 ㎡超のモジュールでは、測定絶縁抵抗×モジュ
ールの面積は 40 MΩ・㎡以上でなければならない。
絶縁試験
湿潤漏れ電流
試験
7
備考
各試験後、目視検
査、最大出力測定、
絶縁試験を行い試
験前との変化を確
認する。
・噴霧装置
・直流電源
・絶縁抵抗計
特性チェックでは、温度係数や公称動作セル温度(NOCT)の測定が実施される。また、
基準状態(STC)および NOCT でのモジュールの電気特性、並びに低放射照度での特性チ
ェックが行われる。これらの特性は認証を得る際の報告書への記載が義務付けられている。
表 2.3
名称
温度係数の測定
公称動作セル温度
(NOCT)の測定
基準状態(STC)
および NOCT にお
ける特性
低放射照度におけ
る特性
IEC 61215 の特性チェック項目
概要
備考
自然光または IEC 60904-9 で規定されたソーラーシミュ
レーターを用いてモジュールの出力から温度係数を測定。
公称動作セル温度(NOCT)を測定する。
※NOCT は以下の標準基準環境(SRE)で、開放式架台
に取り付けたモジュール内の PV セルの接合部の平均温
度として定義される。
-傾斜角:水平面から 45°
-傾斜面放射照度:800W/m2
-周囲温度:20℃
認証報告書にお
-風速:1m/s
いて情報を記載
-電気負荷:なし(開放状態)
することが要求
NOCT は、屋外動作時のモジュール温度に対する指針と
されている。
してシステム設計者が使用することができ、様々なモジュ
ール設計のモジュール温度を比較するときに有用。
モジュールの電気特性が STC(1,000W/m2 、セル温度
25℃)、NOCT、および IEC 60904-3 の基準分光放射照度
をもつ 800W/m2 の放射照度において、負荷とともに特性
がどのように変化するかを調べる。
モ ジ ュ ー ル の 電 気 特 性 が セ ル 温 度 25 ℃ 、 放 射 照 度
200W/m2 において負荷に対する特性の変化を、自然光ま
たはソーラーシミュレーターにより調べる。
8
⑤試験項目
IEC 61215 における具体的な試験内容について以下に示す。本規格で実施される試験は、
大きく分けて、前処理/予備的試験、長期耐久性試験、各種運用ストレスに対する耐久性
試験に整理することができる。
前処理/予備的試験では、屋外暴露試験と紫外線照射試験が行われる。屋外暴露試験は、
屋外条件下でのモジュールの耐久性についての予備的な評価を行い、試験所のテストでは
見つからない可能性のある相乗的な劣化作用の有無を確認する。紫外線照射試験は、温度
サイクル試験および結露凍結試験の前に、モジュールを紫外線(UV)で予備調節し、UV
劣化を受け易い材料および接着剤を明らかにする。
表 2.4
名称
IEC 61215 における前処理/予備的試験の項目
試験概要
主な装置
屋外暴露試験
抵抗負荷下で 60 kWh/㎡の太陽放射量
・日射量測定装置
UV 予備調節試験
波長範囲 280 nm~385 nm で、15 kWh/㎡の
UV 放射量、抵抗負荷条件下の波長範囲 280
nm~320 nm で、5 kWh/㎡の UV 放射量
・UV 照射量を測定できる計器
・紫外線光源
・モジュールの温度調節設備
・温度計
長期耐久性試験は、温度サイクル試験、結露凍結試験、高温高湿試験が実施される。温
度サイクル試験では、熱的不整合・疲労の他、繰り返される温度変化に起因するストレス
に対するモジュールの耐久性を確認する。本試験では、環境試験槽(チャンバー)の中で、
温度サイクルを繰り返し、試験全体としては最も長い 1,200 時間の試験時間を必要とする。
結露凍結試験は、高温および高湿度環境と 0 度以下の温度環境への変化を繰り返すことで
モジュールの耐久力を確認する。本試験は温度サイクル試験の後に実施され、最大で 240
時間の試験時間を必要とする。高温高湿試験は、温度サイクルおよび結露凍結試験とは独
立したモジュールで実施され、+85 度、相対湿度 85%の条件下で 1,000 時間の耐久試験が
行われる。
表 2.5
IEC 61215 における長期耐久性試験の項目
名称
試験概要
温度サイクル試験
-40 度~+80 度で 50 サイクルおよび 200 サイ
クル。200 サイクル中、STC ピーク出力電流を
通電する(*)。
(6h/サイクル×200=1,200 時間(50 日)
主な装置
結露凍結試験
+85 度、85%RH~ -40 度で 10 サイクル
高温高湿試験
+85 度、85%RH で 1000 時間
※IEC 61646 との相違箇所を(*)にて示している。
9
・環境試験槽
・モジュール温度を記録する装置
・電流モニター
・電源
・環境試験槽
・モジュール温度を記録する装置
・モジュールの内部回路の導通状態
を監視する手段
・環境試験槽
各種運用ストレスに対する耐久性試験は、ホットスポット耐久試験、バイパスダイオー
ド温度試験、端子強度試験、機械的荷重試験、降雹試験が行われる。ホットスポット耐久
試験は、はんだの溶け出し等の装置不良、日陰や汚損に伴うホットスポット加熱効果に対
する耐久性を確認する。バイパスダイオード温度試験は、モジュールのホットスポット感
受性の悪影響を制限する部品であるバイパスダイオードの温度設計および、長期信頼性を
確認する。端子強度試験は、通常の組立または取り扱い作業中に加わる可能性が高いスト
レスに、端子およびモジュール本体の端子の接続部が耐えられることを確認する。機械的
荷重試験では、風や雪、氷荷重に対するモジュールの耐久力を確認する。降雹試験では、
直径 25 mm の氷球を発射し、雹の衝撃に対するモジュールの耐久性を検証する。
表 2.6
IEC 61215 における各種運用ストレスに対する耐久性試験の項目
名称
試験概要
主な装置
ホットスポット耐久試
験
最悪のホットスポット条件で 1000 W/
㎡の放射照度に 5 時間暴露(*)
端子強度試験
IEC 60068-2-21 による
機械的荷重試験
3 サイクルの 2,400 Pa 均一荷重を、正
面と背面に交互に 1 時間加える。最後の
正面のときに、オプションとして 5,400
Pa の雪荷重を加える。
直径 25 mm の氷球を、23.0 m/s で 11
箇所に当てる。
・ソーラーシミュレーター
・IV 特性測定設備
・不透明遮蔽版
・温度計
・トルク強さ試験設備
・引張試験及び曲げ強さ試験設備
・モジュール内部回路の導通状態
を監視する手段
・荷重(加圧)装置
降雹試験
バイパスダイオード
温度試験
・冷凍庫と貯蔵庫
・-10 度±5 度に調整された冷凍機
・氷球発射装置
・質量測定器
・速度センサー
モジュールの STC 短絡電流 Isc(75 度) ・モジュール用ヒーター
・ダイオード用温度モニター
で 1 時間
・電流モニター
1.25×Isc および 75 度で 1 時間
・定電流源
※IEC 61646 との相違箇所を(*)にて示している。
10
(2)IEC 61646
地上設置の薄膜太陽電池(PV)モジュール-設計適格性確認および形式
認証
①規格の目的
IEC 61646 は、一般的な屋外気候における長期運転に適した地上設置の薄膜シリコン型
PV モジュールの設計適確性の確認、および形式認証に関する要求事項について規定する。
モジュールの電気および温度特性を確定して、費用と時間の妥当な制約の範囲内で、可能
な限りモジュールが適用範囲に記載する気候における長期暴露に耐えることができること
を示す。
②適用範囲
本規格では、IEC 61215 で対象とする薄膜結晶シリコンを除く、全ての地上設置用平板
形モジュールを対象とする。ただし、集光器付モジュールについては適用外とする。
11
③試験プロセス
IEC 61646 における測定および試験項目のフローを図 2.3 に示す。本規格では、IEC
61215 と同様に、合計 8 つのセルが使用され、前処理および機能チェックを行った後、図
に示すように 4 つのプロセスに分岐する。IEC 61646 では、IEC 61215 の試験プロセスに
加えて、各試験後に薄膜モジュールの電気特性を安定されるための光照射が実施される。
前処理
太陽光照射量 5.0~5.5 kWh/m2
10.1 目視検査
10.2 最大出力の決定
機能チェック
10.3 絶縁試験
10.15 湿潤漏れ電流試験
1 モジュール
1 モジュール
10.4
温度係数の測定
10.5
公称セル温度(NOCT)の測定
10.6
基準状態(STC)およびNOCTに
おける特性
10.7
低放射照度における特性
10.8
屋外暴露試験 60 kWh/m2
10.18
バイパスダイオード温度試験
2 モジュール
10.10
紫外線前処理試験
15 kWh/m2
2 モジュール
10.13
高温高湿試験
1000h +85℃ 相対湿度85%
2 モジュール
10.11
温度サイクル試験
200サイクル(*)
‐40℃〜+85℃
10.11
温度サイクル試験
50サイクル ‐40℃〜+85℃
10.15
湿潤漏れ電流試験
10.12
結露凍結試験
10サイクル ‐40℃〜+85℃
相対湿度85%
1 モジュール
10.16
機械的荷重試験
1 モジュール
10.17
降雹試験
1 モジュール
1 モジュール
10.14
端子強度試験
10.9
ホットスポット耐久試験
1000 W/㎡の放射照度に
1 時間(*)暴露
10.19 (*)
光照射
10.15
湿潤漏れ電流試験
(繰り返す)
図 2.3
IEC 61646 の試験プロセス(IEC 61215 との相違箇所を(*)で示す)2より作成
12
④測定項目
IEC 61646 における具体的な測定内容について表 2.7 に示す。本規格で実施される測定
項目(機能チェックおよび特性に関する測定)は IEC 61215 と基本的には同じである。た
だし、IEC 61215 には含まれない項目として、試験実施後に薄膜モジュールの電気特性を
安定されるための光照射試験が実施される。
表 2.7
分類
機能チェック
概要
目視検査
(IEC 61215 と同一)
最大出力の決定
(IEC 61215 と同一)
絶縁試験
(IEC 61215 と同一)
湿潤漏れ電流試験
(IEC 61215 と同一)
Isc および 75 度で 1 時間
1.25×Isc および 75 度で 1 時間
(IEC 61215 と同一)
光照射試験(*)
温度係数の測定
特性
IEC 61646 の測定項目
名称
公称動作セル温度
(NOCT)の測定
基準状態(STC)
および NOCT にお
ける特性
低放射照度におけ
る特性
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
※IEC 61646 との相違箇所を(*)にて示している。
13
⑤試験項目
IEC 61646 における具体的な試験内容について、表 2.8 に示す。項目は IEC 61215 と同
様であるが、ホットスポット耐久試験、温度サイクル試験に異なる試験条件が要求されて
いる。本規格で実施される試験項目は IEC 61215 と同様である。ただし、ホットスポット
耐久試験および温度サイクル試験では、IEC 61215 と試験条件の若干の相違がある。
表 2.8
分類
前処理/予
備的試験
長期耐久性
試験
運用ストレ
ス耐性試験
名称
IEC 61646 の試験項目
試験概要
主な装置
屋外暴露試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
UV 予備調節
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
ホットスポット耐久
試験
最悪のホットスポット条件で 1000 W/
㎡の放射照度に 1 時間暴露(*)
(IEC 61215 と同一)
UV 予備調節
(IEC 61215 と同一)
結露凍結試験
(IEC 61215 と同一)
-40 度~+80 度で 50 サイクルおよび
200 サイクル。STC ピーク出力電流の
通電は不要。(*)
(IEC 61215 と同一)
高温高湿試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
ホットスポット耐久
試験
最悪のホットスポット条件で 1000 W/
㎡の放射照度に 1 時間暴露
・ソーラーシミュレーター
・IV 特性測定設備
・不透明遮蔽版
・温度計
端子強度試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
機械的荷重試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
降雹試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
バイパスダイオード
温度試験
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
温度サイクル試験
※IEC 61646 との相違箇所を(*)にて示している。
14
(IEC 61215 と同一)
(IEC 61215 と同一)
(3)IEC 62716
太陽電池モジュール-アンモニア腐食試験
①規格の目的
IEC 62716 は、PV モジュールのアンモニアに対する耐性を評価するための規格である。
本規格は主に家畜の存在する農地環境等における PV の耐久性能を証明する規格であるが、
現在は IEC 61215 と IEC 61646 と並び、 PV 性能を評価するための一般的な規格の一つと
して認識されている。バイパスダイオードの性能試験を除く全ての試験項目が、IEC 61215
と IEC 61646、並びに IEC 61730-2 に含まれている。
②試験プロセス
IEC 62716 における測定および試験項目のフローを図 2.4 に示す。本試験では、PV に関
する性能試験(IEC 61215 および IEC 61646 に基づく)を実施した後、同じモジュールを
用いてアンモニア噴霧試験を行う。試験後、再び性能試験を実施し、性能の変化を確認す
る。
IEC 61215における性能試験
(目視検査 ・最大出力測定 ・耐電圧試験 ・湿潤漏れ電流試験 ・接地導通試験)
20回繰り返し
Section 1
・試験時間:8h
・アンモニア濃度:0ppm
・温度:18~28℃
・相対湿度:75%
Section 2
・試験時間:16h
・アンモニア濃度:6,667ppm
・温度:60℃
・相対湿度:100%
アンモニア噴霧試験
・水道水で5分間洗浄
・蒸留水または脱イオン水ですすぎ
・室温で乾燥
IEC 61215における性能試験
(目視検査 ・最大出力測定 ・耐電圧試験 ・湿潤漏れ電流試験 ・接地導通試験)
バイパスダイオード機能試験
図 2.4
IEC 62716 の試験プロセス3より作成
15
表 2.9
IEC62716 の試験項目詳細
名称
試験概要
前処理
テストサンプルに、太陽光もしくはソーラーシミュレーターの光を照
射する。(薄膜の場合は前処理不要)
初期計測
結晶シリコンタイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電圧、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試験
薄膜タイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電流、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試験
アンモニア耐性試験
1 test section
試験時間:8h(冷却あり=チャンバー開放または換気)、アンモニ
ア濃度:0 ppm、温度:18~28 度、相対湿度:最大 75%
2 test section
試験時間:16h(加温あり)、アンモニア濃度:6,667 ppm、温度:
60±3 度、相対湿度:100%(飽和)
上記を 20 サイクル実施
クリーニングおよびリカバリー
アンモニア試験後、水でモジュールを洗浄する。その際、水圧の
かけられていない水道水で最大 5 分/㎡程度洗浄する。水温は 35
度以下の水を使用する。洗浄後は室温で乾燥させる。
最終計測
結晶シリコンタイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電圧、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試
験、f) バイパスダイオード試験
薄膜タイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電流、b)水漏れ電流(wet leakage)、c)
光照射
・IEC 61730-2 より d) 目視検査、e) 接地試験、f) 誘電耐性試
験、g) バイパスダイオード試験
バイパスダイオード機能性試験
バイパスダイオードのアンモニア耐性を評価することを目的とす
る。
DC 電源を用いて 1 時間にわたり 1~25 回の短絡を生じさせる。
試験終了後にバイパスダイオードが機能しているかを確認する。
要求性能
結晶シリコンタイプの場合
・目視できる欠陥(腐食、劣化、損傷等)がないこと
・アンモニア試験で、最大電力が 5%以上低下していないこと
・バイパスダイオードの機能試験項目を満足すること
・IEC 61646 および IEC 61730-2 の NOCT 測定、光照射試験、
接地連続性試験と誘電耐久試験を満たすこと
・バイパスダイオード機能性試験を満たすこと
薄膜タイプの場合
・目視できる欠陥(腐食、劣化、損傷等)がないこと
・STC における最大電力が 90%を下回っていないこと
・バイパスダイオードの機能試験項目を満足すること
・IEC 61646 および IEC 61730-2 の NOCT 測定、光照射試験、
接地連続性試験と誘電耐久試験を満たすこと
・バイパスダイオード機能性試験を満たすこと
16
(4)IEC 61701
光電(PV)モジュールの塩霧腐食試験
①規格の目的
IEC 61701 は、PV モジュールの塩霧腐食耐性を評価するための規格である。海岸のよう
な腐食性が高い環境で PV を設置する際、モジュールの金属部品の腐食、保護コーティング
やプラスチック等、非金属材料の性能低下が生じるため、IEC 61701 は耐腐食性を評価す
るための規格となっている。海岸地域だけでなく、融雪材を使用する積雪地域にも対応可
能である。現在は IEC 61215 と IEC 61646、IEC 62716 と並び、 PV 性能を評価するため
の一般的な規格の一つとして認識されている。
この試験は屋内チャンバーを用いて IEC60068-2-52(環境試験方法-電気・電子- 塩水
噴霧サイクル試験方法 )に基づき行われる。
17
②試験プロセス
IEC 61701 における測定および試験項目のフローを図 2.5 に示す。本試験では、PV に関
する性能試験(IEC 61215 および IEC 61646 に基づく)を実施した後、同じモジュールを
用いて塩霧試験を行う。試験後、再び性能試験を実施し、性能の変化を確認する。
IEC 61215における性能試験
(目視検査 ・最大出力測定 ・耐電圧試験 ・湿潤漏れ電流試験 ・接地導通試験)
4回繰り返し
・設置方法:受光面を垂直方向から 15°~30°
・チャンバー内温度:15℃~35℃
・溶液:5%の塩水
・噴霧時間:2 時間
・チャンバー内温度:40℃
・チャンバー内湿度:93%
・チャンバー内放置時間:7日間
塩水噴霧試験
・水道水で5分間洗浄
・蒸留水または脱イオン水ですすぎ
・室温で乾燥
IEC 61215における性能試験
(目視検査 ・最大出力測定 ・耐電圧試験 ・湿潤漏れ電流試験 ・接地導通試験)
バイパスダイオード機能試験
図 2.5
IEC 61701 の試験プロセス4より作成
18
表 2.10
名称
前処理
初期計測
塩霧耐性試験
IEC 61701 の試験項目詳細
試験概要
テストサンプルに、太陽光もしくはソーラーシミュレーターの光を照射する。
(薄膜の場合は前処理不要)
結晶シリコンタイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電圧、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試験
薄膜タイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電流、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試験
集光型(CPV)タイプの場合
・IEC 62108 より a) 目視検査、b) 電気的性能試験、c) 接地回路試験、d)
絶縁試験(Electrical)、e) 絶縁試験(Wet)
IEC 60068-2-52 に装置や塩分濃度等の条件が記載。試験中 PV モジュー
ルは、塩霧チャンバーの中で、15 度から 30 度傾けた状態で太陽光に暴露さ
れる必要がある。
クリーニングおよびリカ
バリー
アンモニア試験後、水でモジュールを洗浄する。その際、水圧のかけられて
いない水道水で最大 5 分/㎡程度洗浄する。水温は 35 度以下の水を使用す
る。洗浄後は室温で乾燥させる。
最終計測
結晶シリコンタイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電圧、b)水漏れ電流(wet leakage)
・IEC 61730-2 より c) 目視検査、d) 接地試験、e) 誘電耐性試験、f) バイ
パスダイオード試験
薄膜タイプの場合
・IEC 61215 より a) 最大電流、b)水漏れ電流(wet leakage)、c) 光照射
・IEC 61730-2 より d) 目視検査、e) 接地試験、f) 誘電耐性試験、g) バイ
パスダイオード試験
集光型(CPV)タイプの場合
・IEC 62108 より a) 目視検査、b) 電気的性能試験、c) 接地回路試験、d)
絶縁試験(Electrical)、e) 絶縁試験(Wet)、f) バイパスダイオード試験
バイパスダイオード機
能性試験
バイパスダイオードの塩霧耐性を評価することを目的とする。
DC 電源を用いて 1 時間にわたり 1~25 回の短絡を生じさせる。
試験終了後にバイパスダイオードが機能しているかを確認する。
要求性能
結晶シリコンタイプの場合
・目視できる欠陥(腐食、劣化、損傷等)がないこと
・アンモニア試験で、最大電力が 5%以上低下していないこと
・バイパスダイオードの機能試験項目を満足すること
・IEC 61646 および IEC 61730-2 の NOCT 測定、光照射試験、接地連続性
試験と誘電耐久試験を満たすこと
・バイパスダイオード機能性試験を満たすこと
薄膜タイプの場合
・目視できる欠陥(腐食、劣化、損傷等)がないこと
・STC における最大電力が 90%を下回っていないこと
・バイパスダイオードの機能試験項目を満足すること
・IEC 61646 および IEC 61730-2 の NOCT 測定、光照射試験、接地連続性
試験と誘電耐久試験を満たすこと
・バイパスダイオード機能性試験を満たすこと
集光型(CPV)タイプの場合
・目視できる欠陥(腐食、劣化、損傷等)がないこと
・塩霧試験の後、大量の水が内部に残っていないこと(水の量(深さ)の目安
は、内部のいかなる電気部品に達していないこと)
・IEC 62108 の要求項目(10.3、10.4、10.5)を満たすこと
・バイパスダイオード機能性試験を満たすこと
19
(5)IEC 61345
光電(PV)モジュール用 UV 試験
①規格の目的
IEC 61345 は、PV モジュールの使用材料(ポリマーやコーティング等)の紫外線(波長
280nm~400nm)に対する耐性を評価する規格である。主に、低緯度地域のように、紫外
線の強い環境下での PV モジュールの耐久性を評価することを目的としている。ただし、IEC
61215 および IEC 61646 の中に UV 耐性に関する試験内容が含まれており、これらの規格
をクリアした場合には、IEC 61345 を実施する必要はない。
②試験プロセス
IEC 61345 の試験プロセスは表 2.11 の通りである。
表 2.11
IEC 61345 の試験項目
分類
項目
試験手順
試験前測定
目視検査
電流-電圧特性
の測定
絶縁試験
(IEC61215 と同様)
IEC 60904-1 に従い、STC 条件での電
流-電圧特性を調べる。
(IEC61215 と同様)
校正した放射計の波長を 280nm~
400nm に校正する。試験の分光放射照
度は IEC60904-3 で示される基準分光
放射照度(AM1.5)の 5%以内とする。
モジュールを UV 放射装置に対して垂
直な面にセットし、表面に UV ビーム
を照射する。
手順 a)
手順 b)
手順 c)
UV 照射試験中、モジュール温度を規
定された範囲に維持しながら、モジュ
ールからの最低放射量は以下にする。
・280nm~320nm では 7.5kWh/m2
・320nm~400nm では 15kWh/m2
手順 d)
モジュールの向きを変え、UV ビーム
をモジュールの裏面に照射する。
UV 照射試験
手順 e)
目視検査
試験後測定
電流-電圧特性
の測定
絶縁試験
c)と同様(放射レベルは 10%以内に抑
える)
(IEC61215 と同様)
IEC 60904-1 に従い、STC 条件での電
流-電圧特性を調べ、最大電力が試験
前後で 5%以内であることを確かめ
る。
(IEC61215 と同様)
20
装置
(IEC61215 と同様)
電流-電圧特性測定設備
(IEC61215 と同様)
・環境試験装置
・分光放射計
・UV 放射装置
・モジュール温度を記録
する装置
(IEC61215 と同様)
・電流-電圧特性測定設
備
(IEC61215 と同様)
2.1.3.
PV の安全性評価に関する規格
(1)IEC 61730-1
光電池(PV)モジュール安全認定-第 1 部:構造の要求事項
①規格の目的
IEC 61730-1 では、PV モジュールの電気的・機械的な安全性を確認することを目的とす
る。主に、建設の際の要求事項などについて言及し、環境および機械的なストレスに伴う
電気的な事故や、火災、人身被害などを防止することを対象としている。なお、具体的な
試験内容については IEC 61730-2 にて示されている。
②適用範囲
IEC 61730-1 では結晶シリコン、薄膜などの形式を問わず、あらゆる PV のアプリケーシ
ョンへの適用を想定している。ただし、海上 PV および乗り物向けの PV については対象外
としている。
③要求項目
IEC 61730-1 における要求項目を表 2.12 に示す。本規格では、PV モジュールを設置す
る際の構造、重合材料、内部配線・通電部、接続部、結線および接地、沿面距離および空
間距離、カバー付きの配線区画、表示に関する基本的な要求事項が示されている。すなわ
ち、IEC 61730-1 は、安全性試験(IEC 61730-2)および、性能試験(IEC 61215 および
IEC 61646)を行う前の前提となる要求項目に関する規格となっている。
構造に関する要求事項では、工場からの出荷条件や、建設条件、並びに各種金属部品の
取り扱いが規定されている。重合材料に関する要求事項では、PV モジュールに使用される
ポリマー材料やガラス等の材料に関するルールが定められている。内部配線および通電部
に関しては、配線構造および継ぎ目に関する絶縁等の性能要件が定められている。また、
接続部に関しては、コネクタや出力リード・ケーブルに関して、要求される構造や性能が
規定されている。
21
表 2.12
IEC 61730-1 の要求項目5より作成
名称
試験概要
構造
○建設に関する一般的要求事項
・全てのモジュールは IEC 60364-5-51 の AB8 タイプの環境条件下で運転すること。
・モジュールは、工場出荷時に完成品または半組立品であること。
・最終組み立ての際は、モジュールに現物の評価フォームを付与すること。
・モジュールの建設は、接地連続性を遮断しない構造であること。
○金属部品
・火災や電気障害、人身事故を防ぐため、各部品は曲げたり(turning)しないこと。
・スプリング圧などの表面との摩擦は、部品の曲げ(turning)や緩みにつながるので、避けること。
・火災などの事故を避けるため、調整具または移動具は必ず固定すること。
・湿度のある場所での金属単体での使用、もしくは本規格に準拠しない製品との組み合わせは、劣
化を防ぐために禁ずる。
・部品の中の鉄や軟鋼でできた箇所は、大気中に 暴露せず、めっきやペイント、エナメル加工など
により腐食を抑えなくてはならない。
・単純せん断やカットエッジ、穴などは追加加工をしてはいけない。
重合材料
○一般
・全てのポリマー材料は、IEC 61730-2 の温度試験で実施する最大温度(計測値)より 20 度高い、
最低相対的熱的耐久性項目(IEC 60216-5)を満足する必要がある。
○充電部品の容器に適用する重合材料
・材料試験または最終製品の設計における試験は、燃焼性分類は 5V とする。等
○充電部の支えに適用する重合材料
・システム電圧が 600V 以下の場合、比較トラッキング指数が 250V 以上でなければならない。等
○外郭に適用する重合材料
○隔壁
○ガラス構造材料
内部配線および通電部
○内部配線
・モジュール内の配線は、絶縁の種類が最低 90℃定格に対応し、使用上受け入れ可能な線径およ
び電圧定格を満たさなければならない。
○継ぎ目
・導線の継ぎ目は、配線と同等の絶縁性能を満たさなければならない。
○機械的信頼性
・導線の接続部は、機械的に安全で、接続部および端子にひずみを生じさせることなく、通電性能
を確保しなければならない。
接続部
結線および接地
○一般
モジュールは、ワイヤーターミナル、コネクター、負荷回路の導電体で構成されている必要がある。
○現地接続の一般的要求事項
・モジュールは、負荷回路の通伝導体に接続する配線端子、コネクタまたは引き出し線を備えてい
なければならない。
○現地配線端子
・モジュールが現地配線端子台を含む場合、適用例に対して適切な電圧および電流定格をもたなく
てはならない。等
○コネクタ
・モジュールの出力回路用のコネクタは、IEC60130 シリーズによる適切な電圧および電流定格を
もっていなければならない。等
○出力リードまたはケーブル
・モジュールから伸びるケーブルは、適切なシステム電圧、容量、ぬれた場所、温度および日光に
対して耐えられなければならない。
・周囲フレームおよび据付に用いられる、人が接近可能な導電部があるモジュール、または設置後
2
に人が接近可能な導電部の表面積が 10cm を超えるモジュールは、接地の備えを持たなければ
ならない。等
沿面距離および空間距離
・充電部間および充電部と人が接触する可能性がある金属部との間の沿面距離および空間距離
は、規定値以上でなければならない。等
カバー付きの配線区画
○一般
・恒久的に屋外の配線系に接続するように設計したモジュールは、閉鎖形の配線隔室(端子箱な
ど)を備えていなければならない。等
○壁の厚さ ○内容積 ○開口部 ○ガスケットおよびシール ○応力の軽減 ○鋭利な縁
○金属配線管の使用 ○非金属配線管の使用
表示
○説明書類への要求事項 等
22
(2)IEC 61730-2
光電池(PV)モジュール安全認定-第 2 部:試験の要求事項
①規格および試験の目的
IEC 61730-2 では、PV モジュールの電気的・機械的な安全性などについて、環境および
機械的なストレスに伴う電気的な事故や、火災、人身被害などを防止することを目的とし、
そのための試験内容について示されている。性能試験規格である IEC 61215 および IEC
61646 と対応関係にあり、試験項目が重複している。
②適用範囲
IEC 61730-2 ではあらゆる PV のアプリケーションへの適用を想定しているが、海上 PV
および乗り物向けの PV については対象外としている。
23
③試験プロセス
IEC 61730-2 における測定および試験項目のフローを図 2.6 に示す。IEC 61215 と IEC
61646 と重複する項目については青色、IEC 61730-2 で実施される安全性試験については、
赤色のオブジェクトにて示してある。IEC 61730-2 は、性能試験規格である IEC 61215 お
よび IEC 61646 と完全な対応関係にあり、これらの性能試験を実施した後に、同じモジュ
ールを用いて各々の安全性試験を行うこととなっている。
前処理
太陽光照射量 5.0~5.5 kWh/m2
MST 01
目視検査
10.2
性能試験(IEC 61215)
1 モジュール
サイズに応じた
モジュール数
MST 23
火災試験
1 モジュール
部品試験
3 モジュール
1 ラミネート
MST 11
接近性試験
MST 32
衝撃破壊試験
1 モジュール
11個のはく
MST 15
部分放電試験
1個の接続箱
MST 17
湿潤漏れ試験
1 モジュール
MST 54
耐UV性試験
MST 51b
温度サイクル試験試験
50サイクル
MST 52
結露凍結試験
1 モジュール
MST 53
高温高湿試験
MST 33
配線管曲げ試験
1 モジュール、1 ラミネート
MST 51a
温度サイクル試験試験
200サイクル
1 ラミネート
MST 22
ホットスポット試験
MST 42
端子強度試験
MST 44
端子箱ノックアウト試験
MST 25
バイパスダイオード
温度試験
MST 17
湿潤漏れ電流試験
MST 34
機械荷重試験
6ノックアウトの試験
MST インパルス電圧
試験
MST 21
温度試験
MST 26
逆電流過負荷試験
MST 12
切断性試験
MST 11
接近性試験
MST 01
目視検査
図 2.6
IEC 61730-2 の試験プロセス6より作成
24
④試験項目
IEC 61730-2 における具体的な試験内容について、以下に示す。本規格で実施される安
全性試験は、感電危険性試験、火災危険性試験、機械的ストレス試験、部品試験の 4 項目
に分けられる。
感電危険性に関する試験には、近接性試験、切断性試験、接地連続性試験、インパルス
電圧試験、耐電圧試験が含まれている。近接性試験では、絶縁していない電気的結線が、
人に対する感電の危険とならないかを評価する。切断性試験は、重合材で作られたモジュ
ールのすべての受光面および裏面が、感電の危険が無く、設置および保守における通常の
取り扱いに耐え得るかを評価する。接地連続性試験では、PV システムにおいて、露出した
導電性の表面を適切に設置できるように、接地点との間に導通があることを調べる。この
試験は、金属筐体、金属の接続箱などの露出した導電部が存在する場合のみ実施される。
インパルス電圧試験は、モジュールの充填材などの固体絶縁物が、過電圧に耐える能力を
有するかを評価する。耐電圧試験は、モジュールが通電部分と筐体外部との間で十分に絶
縁しているかを評価する。
表 2.13
名称
近接性検査
IEC 61730-2 における感電危険性に関する試験項目
試験概要
PV モジュールの電気回路においてオーム計
または導電テスターを用いて通電試験を行
い、絶縁されていない接続部分がないかを確
認する。
装置
・円筒型試験固定具
・抵抗計または導電テスタ
切断性試験
PV モジュールの表面のポリマー材料が、電気
的な危険を及ぼさない十分な耐久性を有して
いることを、切断試験により確認する。
・所定の試験装置
接地連続性試験
金属フレーム等を有する PV モジュールにつ
いて、暴露されている導電部が、電気的に接
地されているか確認する。暴露されている導
電部と、その他の導電部の抵抗の差が 0.1Ω 以
下なら可。
・定電流源
・電圧計
インパルス電圧試験
大気による過電圧に対して、モジュールが絶
縁性能を有するかを確認する。
最大システム電圧の規模に応じたインパルス
電圧をかけ、誘電性の絶縁破壊が起きないこ
とを確認する。
・インパルス電圧発生器
・オシロスコープ
耐電圧試験
モジュールが外界に対して、十分な絶縁性能
を有するかを確認する。モジュール温度と外
界温度が同程度で、湿度が 75%以下で行う。
(IEC 61215 と同一)
25
火災危険性試験には、温度試験、火災試験、逆電流負荷試験が含まれている。温度試験
は、モジュールの構成に用いている様々な部品および材料の適切に取り扱うために、温度
限度を評価する。火災試験は、モジュールに適用する基本的な耐火性を確認するする。逆
電流負荷試験では、モジュールが含む絶縁した導電性部材に対し、逆電流故障条件におけ
る発火または火災の危険性を調べる。
表 2.14
IEC 61730-2 における火災危険性に関する試験項目
名称
試験概要
装置
温度試験
モジュールの継続的な使用のための各部品や材料
の最大基準温度を求める。
試験中の周囲温度
・周囲温度:20℃~55℃
・放射照度:700W/m2
・風速:1m/s
要求事項
PV モジュールの運転にあたり、各部品および材料
が表 2.15 の値を超えないことを確認する。
火災試験
PV モジュールおよび屋根材料の基本的な火災耐
性を確認する。
・所定の設備
逆電流負荷試験
逆電流下では、回路遮断に先立ちモジュール中の
セルから熱が発生する。本試験では、逆電流条件
下での発火し易さを確認する。
モジュールの過電圧保護率の 135%に相当する逆
電流をかけ、発火しないことを確認する。
・直流電源
表 2.15
・モジュール温度測定装置
・基準デバイス
IEC 61730-2 の温度試験の要求事項(温度限度)
部分、材料または部品
温度限度
重合材
相対温度指数(RTI)-20℃
ファイバー
90℃
フェノール積層品
125℃
フェノールモールド品
150℃
絶縁材料
現地配線端子および金属部分
周囲温度+30℃
皮膜電線
相対温度指数(RTI)-20℃
または胴体の定格温度以下
の大きい方
取り付け面(フレーム)および隣接構造材
90℃
26
機械的ストレスに関する試験については、衝撃破壊試験が実施される。本試験は、モジ
ュールが破損した場合、人体に対する切り傷および刺し傷を最小限にするための機能を確
認する。
表 2.16
IEC 61730-2 における機械的ストレスに関する試験項目
名称
衝撃破壊試験
試験概要
モジュールの切断や貫通による破壊の際の被
害を最小化する。
装置
・所定の試験装置
・重量計
・ノギス
部品試験は、部分放電試験、配線管曲げ試験、端子箱ノックアウト試験が含まれる。部
分放電試験は、受光面または裏面に用いる重合材の部分放電特性を調べ、感電危険性を評
価する。配線管曲げ試験では、配線管を用いる固定配線システムの取り付けを目的とする
接続箱を備えたモジュールに対し、接続箱の箱構造の耐久性を評価する。端子箱ノックア
ウト試験では、モジュールの端子箱が、通常の力が作用している状態では外れることが無
く、現場で配線作業を行う場合には、容易に除去・取り外しが可能なことを確認する。
表 2.17
名称
IEC 61730-2 における部品試験項目
試験概要
装置
部分放電試験
PV の受光面または裏面に使用される重合材
は、部分放電消滅電圧が、最大システム電圧
の 1.5 倍を超える必要がある。
所定の試験装置
配線管曲げ試験
配線管を用いる固定配線システムを目的とす
る接続箱を備えたモジュールは、据付後の荷
重に耐える構造を保証する必要がある。
所定の試験装置
端子箱ノックアウト試験
モジュールの端子箱において除去可能なノッ
クアウトは、通常の力が作用している状態で
は外れることなく容易に取り外しができるこ
とを確認する。
・所定の設備
・フォースメーター
・冷凍機
27
2.1.4. PV の出力評価に関する規格
(1)IEC 61853-1
光電(PV)モジュール性能試験及びエネルギー定格-第 1 部:放射照度
及び温度性能測定及び電力定格
①規格の目的
IEC 61853 シリーズは、太陽光モジュールの発電量の定格を規定する規格である。IEC
61853 の第1部では、放射と温度範囲における PV モジュールの定格出力測定に関する要求
事項を規定する。具体的な試験項目については、第2部で示されている。また、第3部は、
PV モジュールのエネルギー(Wh)を算出するための計算方法について、第4部では、定
格出力を求める際に前提となる基準時間および気象条件等について定めている。
先述の IEC 61215 および IEC 61646 では、性能試験の前後に最大電力を計測することが
要求されている。IEC 61853 は、この最大電力測定における測定手法および前提を規定す
るものとなっている。
②定格出力条件の定義
本規格では、PV の定格出力を測定する際の複数の条件について定義されている。IEC
61215 および IEC 61646 では、STC、NOCT、LIC が用いられている。なお、表中の放射
照度については、後述の IEC 60904-3 で示される基準分光放射照度(Air Mass 1,5:以下
AM 1,5)が前提とされている。
表 2.18 定格出力条件の定義
条件
放射照度
STC(Standard Test Condition)
温度
1,000 W/㎡
25℃(セル)
NOCT(Nominal Operating Cell Temperature)
800 W/㎡
20℃(周囲温度)
LIC(Low Irradiance Condition)
200 W/㎡
25℃(セル)
1,000 W/㎡
75℃(セル)
500 W/㎡
15℃(セル)
HTC (High Temperature Condition)
LTC(Low Temperature Condition)
③最大電力の測定手順
PV モジュールの定格出力は、モジュール温度と放射照度に依存するが、これらのパラメ
ータはセルの種類によって、線形関係にある場合と非線形の場合があり、必ずしも一般式
で表すことはできない。したがって、表 2.19 に示すとおり、各放射照度とモジュール温度
毎に、短絡電流、電圧、出力をそれぞれプロットしたグラフを作成することで、当該モジ
ュールの出力をはじめとする性能の評価を行う。
最大出力の測定は、照射源として自然太陽光もしくはソーラーシミュレーターを使用し、
次節で示す「IEC 60904-1 光電電流-電圧特性の測定」で定義された測定方法を用いて、電
28
流、電圧等を測定する。その際、各パラメーターごと放射照度およびモジュール温度の条
件を変え、表 2.19 を作成する。温度毎および放射照度毎にプロットした曲線に対し、線形
補正等の補正を行い、最大出力等の性能および特性を求める。
表 2.19 各放射照度およびモジュール温度に対応する短絡電流、開放電圧、最大電圧、
最大出力の測定表の例
放射照度
スペクトル
モジュール温度
W/㎡
-
15℃
1,100
AM 1.5
NA
1,000
AM 1.5
800
AM 1.5
600
AM 1.5
400
AM 1.5
200
AM 1.5
NA
NA
100
AM 1.5
NA
NA
25℃
50℃
75℃
NA
29
(2)IEC 60904-1
光電装置-第 1 部:光電電流-電圧特性の測定
①規格の目的
IEC 60904 は、PV モジュールの電流−電圧特性に関する測定要求事項および各種定義を
定め、測定における不確実性を最小限にすることを目的としている。
IEC 60904-1 では、自然太陽光または、疑似太陽光(ソーラーシミュレーター)の下で
の PV モジュールの電流−電圧特性の測定手順について規定している。
先述の IEC 61215 および IEC 61646 では、STC および NOCT 条件下において、モジュ
ールの電流−電圧特性を計測し、報告することが要求されている。IEC 60904 は、この電流
−電圧特性の計測における手順等を規定するものとなっている。また、IEC 61853-1 で示さ
れている最大出力等の測定についても IEC 60904 の電流−電圧特性の測定方法が用いられ
ている。
②測定方法
PV モジュールの電流−電圧特性について、IEC 60904-1 では、以下のように、自然太陽
光の下での測定方法、定常状態の疑似太陽光の下での測定方法、パルス状疑似太陽光の下
での測定方法の 3 種類が示されている。
表 2.20
PV モジュールの電流−電圧特性の測定方法7より作成
名称
試験概要
1.
2.
3.
自然太陽光の下での測定
4.
5.
6.
基準セルを 2 軸追跡装置上のサンプルの近く(同一平面上)
に設置する。
サンプルと基準セルに温度制御装置が装備されている場合
は、制御装置を目標水準の温度に設定する。
基準セルの目標温度での出力および温度の記録と同時に、サ
ンプルの電流−電圧特性と温度を記録する。
サンプルおよび基準セルの温度が安定していて±1℃の範囲
内で一定になるようにし、基準セルによって測定した日射照
度が、±1%の範囲内で一定にする。
全天日射計または不適合基準装置を基準セルとして使用する
場合は、スペクトル放射計を用いて、スペクトル日射強度の
同時測定も実施する。
測定した電流−電圧特性を IEC 60891 に従って、目標日射強
度および温度条件に合わせて補正する。
30
1.
2.
3.
定常状態の疑似太陽光の下での測定
4.
5.
6.
7.
1.
2.
3.
パルス状疑似太陽光の下での測定
4.
5.
6.
7.
基準セルの活性面が光線の中心線に対して±5℃の範囲内で
定位になるように、基準装置を試験面内に設置する。
基準装置が目標レベルで校正済み短絡電流または最大電流を
発生させるように、ソーラーシミュレーターの日射強度を設
定する。
基準セルを取り外し、サンプルを 1.で記述した通りに試験面
内に設置する。
試料を必要な計器装備に接続する。
試験配置に温度制御装置が装備されていれば、その制御装置
を目標レベルに設定する。
ソーラーシミュレーターの設定を変更せずに、サンプルの電
流−電圧特性および温度の読み取りを同時に行う。
サンプル温度が目標温度でない場合、IEC 60891 の手順に従
って、測定電流−電圧特性をこの温度に合わせて補正する。
基準セルの活性面が光線の中心に対して±5°の範囲内で定
位になるように、基準セルを試験面に配置する。
基準装置が目標日射強度レベルで校正済み短絡電流または最
大電力を発生させるように、試験面における日射強度を設定
する。
必要に応じて基準セルを取り外し、サンプルを 1. の通りに配
置する。
サンプルを必要な計器装備に接続する。
必要に応じて、試験モジュールおよび基準装置が大気温度の
±1℃の範囲内に安定するまでそのままにしておく。
サンプルの電流−電圧特性および温度を記録する。
サンプル温度が目標温度になっていない場合、測定電流−電圧
特性を IEC 60891 に従って、目標温度および日射強度の両方
に合わせて補正する。
31
(3)IEC 60904-3
光電装置-第 3 部:スペクトル放射照度データを参照した地上光電(PV)
装置の測定原理
①規格の目的
IEC 60904-3 は、PV に関する各種試験を行う際に、基準となる太陽の分光放射照度(ス
ペクトル)である「AM 1.5G」を規定した規格である。AM 1.5G は、異なる PV の出力を
評価する際に照射する光の条件を共通にすることを目的としている。
先述の出力評価規格である IEC 61853-1、性能規格である IEC 61215 および IEC 61646
では、擬似太陽光装置(ソーラーシミュレーター)を用いて放射照度の測定や出力評価を
行っている。IEC 60904-3 は、ソーラーシミュレーターの放射照度を規定するものとなっ
ている。
なお、AM は Air Mass の略で、太陽光が地表に達するまでの大気の量を示す。AM0 は
大気を通過しない大気圏外での太陽光スペクトルを示し、AM1 は赤道上のような、地表に
太陽光が垂直に入射した場合のスペクトルを意味する。赤道上以外のより緯度が高い地域
では、太陽光が通過する光の量は AM1 より多くなるため、AM1 を 1.5 倍した AM1.5(地
表に対して 41.8°の角度で入射する場合に相当)が地上の標準的な太陽光スペクトルとし
て使用されている。
表 2.21 基準分光放射照度 AM1.5G の前提条件
放射照度
温度
太陽の傾斜角
37°
傾斜面放射照度(直接光+散乱光)
1,000W/m2
U.S.標準大気、CO2 濃度 370ppm
大気条件
その他汚染考慮なし
可降水量
1.4164cm
オゾン含有量
0.3438atm-cm(or 343.8 DU)
濁度(エアロゾル光学的深度)
0.084 at 500nm
大気圧
1013.25hPa
32
図 2.7 基準分光放射照度 AM1.5G のスペクトル分布8
33
(4)IEC 60904-5
光電装置-第 5 部:開放電圧法による光電(PV)装置の等価セル温
度(ECT)の測定
①規格の目的
IEC 60904-5 では、開放電圧を用いて、等価セル温度(ECT)を算出する方法を規定す
る。等価セル温度は、PV 関連装置(セル、モジュール、架台等)の熱的特性を把握する際
および、NOCT や電流-電圧特性の測定の際に必要なパラメータとなっており、性能規格
である IEC 61215 および IEC 61646 の試験前測定において、本規格で算出した等価温度が
用いられる。
②測定手順
等価セル温度は、放射照度がコントロールされた環境下で測定する方法と、任意の放射
照度の環境下で測定する方法がある。いずれの測定方法においても、放射センサー、二次
基準太陽電池、全天日射計等を用いて、温度係数や開放電圧等を測定し、それらのパラメ
以下の計算式を用いて等価セル温度を算出する。
等価セル温度 ECT  T2  T1 
 G 
1 VOC 2
 1  a ln 2 

  VOC1
 G1 
※Voc1:放射照度管理環境での開放電圧、Voc2:任意の放射照度環境での開放電圧、T1:放射照度管理環境
でのセル温度、T2:任意の放射照度環境でのセル温度、G1:基準放射照度、G2:測定した放射照度
34
2.1.5. その他環境試験法等の関連規格
(1)IEC 60068-2-68
環境試験-第 2 部:試験-試験 L:粉塵および砂塵
①規格の目的
IEC 60068-2-68 は、電気・電子製品を対象に、大気中に浮遊している粉塵の影響や、砂
塵環境下での耐久性を評価する。複数のタイプの粉塵(非研磨微細粉塵、自由沈降粉塵、
吹き込み粉塵および砂塵)で試験を行うことで、様々な粉塵環境下における、製品の構造
上の安全性を検証することを目的とする。
②試験方法
IEC 60068-2-68 で実施される粉塵試験には、非研磨微細粉塵試験、自由沈降粉塵試験、
吹き込み粉塵試験の 3 種類がある(表 2.22)。
表 2.22
大分類
IEC 68-2-68 における粉塵試験の概要
小分類
試験概要
・
非研磨微細粉塵試験
非研磨微細粉塵
試験
・
・
一定空気圧力試験
・
・
自由沈降粉塵試験
・
・
再循環槽試験
吹き込み粉塵・
砂塵試験
・
・
自由吹き込み粉塵試験
・
非研磨微細粉塵試験は、電気・電子製品内部への微細粉
塵の侵入を防ぐ保護等級を評価することを目的とする。
粒径 75μm 以下の非研磨粉末を含む粉塵を満たした気
流(下向き)にサンプルを放置する。
一定空気圧力試験は、非研磨微細粉塵試験と同様に、電
気・電子製品内部への微細粉塵の侵入を防ぐ保護等級を
評価することを目的とする。
粉塵および気流に関する条件は非研磨微細粉塵試験と
同様であるが、粉がより製品内部に侵入しやすくするた
めに、周囲大気圧よりも低い内部空気圧力条件の下で試
験が行われる。
自由沈降粉塵試験は、電気・電子製品に微細粉塵が自由
に沈降した場合の影響を評価することを目的とする。本
試験は、粉塵が長期間にわたって積もることがある環境
を想定する場合に行われる。
一定のインターバルで試験槽中のサンプルの上に、低濃
度の粉塵を沈降させる。この時、粉塵の自由沈降を妨げ
ないように、気流の速度を限りなくゼロにする。
再循環槽試験は、空気の流れによって運ばれる粒子状物
質から電気・電子製品に起こりうる影響を評価する。
サンプルが規定の粒径の粉塵を含む気流に放置される。
気流の方向は横向きとなっている。
自由吹き込み粉塵試験は、空気の流れによって運ばれる
粒子状物質から電気・電子製品に起こりうる影響を評価
する。主に粉塵に満ちた屋外環境を想定している。
試験方法は再循環槽試験と同様であるが、気流速度を
50m/s および、100m/s の 2 種類で実施する。
35
非研磨微細粉塵試験は、電気・電子製品の内部への粉塵の侵入度合いを評価するための
試験である。標準的な圧力下での試験と、より製品内部に粉塵が侵入しやすい低内部空気
圧条件での試験が実施される。
自由沈降粉塵試験は、製品の上に粉塵が自然に沈降した場合の影響を評価する試験であ
る。チャンバーの中で、気流の速度を限りなくゼロにした条件を作り、一定間隔で粉塵を
降り積もらせる試験となっている。
吹き込み粉塵試験は、再循環槽試験と自由吹き込み粉塵試験の 2 つが実施される。再循
環槽試験では、空気の流れ(横向き)によって運ばれる粉塵が製品に及ぼす影響を評価す
る。自由吹き込み粉塵試験は、粉塵に満ちた屋外環境を想定した試験であり、50m/s および
100m/s の気流速度での粉塵環境下で実施される。
36
2.2.
PV 認証試験に関する設備
規格に基づき認証を実施するためには、認証試験設備が必要となる。本調査では、太陽
光発電の認証試験を実施するために必要な設備内容と参入メーカー等について、調査を実
施した。
(1)認証試験設備の内容
認証試験設備は大きく、屋外試験装置、屋内試験装置に分けられる。IEC 等の従来の国
際規格に基づく試験は、屋内試験装置によって実施されており、屋外試験装置による試験
実施は通常されない。しかしながら、対象国(モロッコ・サウジアラビア)の環境は、国
際規格で想定されている環境条件と大きくことなることが想定されるため、屋外でデータ
を取得する必要性が高く、屋外試験装置の重要性が高い。
また、屋外試験、屋内試験ともに、様々な機器が必要であり、それぞれ製造しているメ
ーカーが異なる。試験機関や研究機関が認証試験設備を導入するにあたって、顧客に技術
知識がない場合は、各機器を統合して提供するシステムインテグレータの役割が重要とな
る。しかしながら、顧客に技術知識があれば、各機器を別々に提供する場合もある。
①屋外試験装置
PV に関する屋外試験項目の概要を表 2.23 に示す。屋外装置は、PV 周辺機器に関する試
験装置と、気象に関する試験装置に分けられる。
1) IV カーブトレーサー
PV 周辺機器に関する屋外試験装置である IV カーブトレーサーは、オンサイトの PV の
電流-電圧特性(IV カーブ)を計測するための装置である。IV カーブの形状を調べること
で、PV の出力の確認および、出力低下要因等の特定が可能となる。主に要求される精度に
よって、装置価格は大きく異なり、数十万円~数百万円までの広い価格帯が存在する。
2) 気象データロガー
気象データロガーは、気象データロガーは試験によって得られたデータを記録する装置
であり、屋外装置の心臓部と言える機器である。現在、米国の Campbell Scientific 社が世
界的なシェアを有している。
3)日射計
日射計は、日射による波長域における全ての放射エネルギーを測定するための計測器で
あり、全天日射計や直達日射計がある。全天日射計は地表における全ての角度から入射し
た光のエネルギーを測定するのに対し、直達日射計は太陽から直接照射される光を計測す
37
る。日射計を製造できるメーカーは限られており、国内では英弘精機、海外では Kipp &
Zonen 社、Eppley 社、Hukseflux 社が挙げられる。
4)現在天気計
現在天気計は、前方散乱した光の強度、感雨計による降水強度、温度などを測定するこ
とにより、大気の見通し(視程)および現在天気等を測定する装置である。 国内外ともに
フィンランドの VAISALA 社が大きなシェアを占めている。国内企業では光進電気工業が製
造している。
5) 分光放射計
分光放射計は、測定対象物からの光(電磁波)の分光放射エネルギーを測定するための
計測器である。日射計は、日射による波長域における全ての放射エネルギーを測定するの
に対し、分光放射計は太陽放射の波長毎の放射エネルギーを測定する。分光放射計は、現
在世界で英弘精機しか装置を製造する技術をもっておらず、同社の独占状態にある。
6) A・B 領域紫外放射計
紫外放射計は、紫外線(A 波長・B 波長)を計測するための装置である。Kipp&Zonen
社と英弘精機が代表的企業である。
表 2.23
分類
アウトドア設備
(PV周辺機器)
PV に関する屋外試験装置の概要
主な装置
1) IV トレーサー
装置概要
主要メーカー
◆日本カーネルシステム
◆英弘精機
◆Dayster(米国)
◆HT Italia(イタリア)
・ IVカーブトレーサ―は、オンサイトのPVの電流-電圧特性(IVカーブ)を計測する。
日本カーネルシステム PVA 11270
2) 気象データロガー
◆日置電機
◆横川電機
◆Campbell Scientific(米国)
・ 気象データロガーは試験によって得られたデータを記録する装置であり、屋外装置
の心臓部と言える機器である。
Campbell Scientific社製 CR 1000
3) 日射計
アウトドア設備
(気象)
4) 現在天気計
・ 日射による波長域における全ての放射エネルギーを測定するための計測器であ
り、全天日射計や直達日射計がある。
・全天日射計は地表における全ての角度から入射した光のエネルギーを測定するの
に対し、直達日射計は太陽から直接照射される光を計測する。
◆英弘精機
◆Eppley(米国)
◆Kipp&Zonen(オランダ)
◆Hukseflux(オランダ)
英弘精機製 MS‐402
・ 現在天気計は、前方散乱した光の強度、感雨計による降水強度、温度などを測定
することにより、大気の見通し(視程)および現在天気等を測定する。
◆光進電気工業
◆Vaisala(フィンランド)
VAISALA社製 PWD52
5) 分光放射計
・測定対象物からの光(電磁波)の分光放射エネルギーを測定する。
◆英弘精機 のみ
英弘精機製 MS‐700
6) A・B領域紫外放射計
(UV meter (A・B))
・ 紫外放射計は、紫外線(A波長・B波長)を計測する。
◆英弘精機
◆Kipp&Zonen(オランダ)
Kipp & Zonen 製 CUV‐5
※製品画像は各社ウェブページより引用
38
②屋内試験装置
PV に関する屋内試験項目の概要を表 2.24 に示す。
1)高温高湿試験/温度サイクル試験/結露凍結試験チャンバー(環境試験チャンバー)
屋内試験チャンバーは、IEC 61215、IEC 61646 をはじめとする性能試験の際に必要と
なる。各種屋内環境試験について、発熱負荷や、温度上昇下降時間などの環境条件を与え
る装置である。本装置のメーカーは、エスペック、米国の Thermotoron、ドイツの Weiss
の 3 社が代表的である。
2)機械的荷重試験装置
機械的荷重試験装置は、IEC 61730-2 をはじめとする安全性試験の際に使用される。風、
雪、静荷重または氷荷重に対する太陽電池モジュールの耐久力を評価する装置である。国
内では、本田工業が製造しており、世界でも大手メーカーは 3 社程度となっている。
3)PID 評価装置
PID 評価装置は、太陽光発電システムの出力を低下させる要因の一つと考えられる PID
現象を評価するための装置である。
PID 現象は湿度により促進すると考えられているため、
本装置では、高温高湿環境下で高圧電流を印加し、リーク電流を測定する。現在、エスペ
ックのみが製造技術を有している。
4)砂塵装置
砂塵装置は、IEC 60068-2-68 等の塵埃試験を行う際に使用される。降塵や吹き付けの砂
塵等の各種塵埃環境を与えると共に、温度環境についても変化させる機能が求められる。
国内では、スガ試験機が製造している。
39
表 2.24
分類
PV に関する屋内試験装置の概要
主な装置
装置概要
主要メーカー
◆エスペック
◆Thermotoron(米国)
◆Weiss(ドイツ)
1) 高温高湿試験/温度サイクル試験/ ・PVに関する各種屋内試験について、発熱負荷や、温度上昇下降時間などの環境条
結露凍結試験チャンバー
件を与える。
エスペック製 FMチャンバー
2) 機械的荷重試験装置
◆本田工業
・耐風圧試験装置
(大手は世界に3社程度)
・風、雪、静荷重または氷荷重に対する太陽電池モジュールの耐久力を評価する。
本田工業製 機械的荷重試験装置
インドア設備
3) PID評価装置
・PID 現象の評価を正確に実施するために、高精度・再現性に優れた高温高湿環境
下で高圧電流を印加し、リーク電流を測定する。
◆エスペック のみ
エスペック製 FMS‐4050
4) 砂塵装置
・IEC 60068-2-68等の塵埃試験を行うにあたり、塵埃環境および温度環境を与える。
◆スガ試験機
スガ試験機製 降塵試験用 塵埃試験機
※製品画像は各社ウェブページより引用
40
2.3.
PV に関する国際規格および認証試験設備の分析
(1)国際規格と対象国における規格検討
太陽光発電システムに関する国際規格は、大きく性能評価規格、安全性評価規格、出力
評価規格に分けられるが、これらの規格では、必ずしも対象国特有の環境条件への適応が
なされていない。例えば、砂塵や昼夜温度差、UV などの過酷環境下における性能評価の方
法、また、高温環境や特有の太陽光スペクトルがもたらす出力評価への影響が、現行の国
際規格では考慮しきれていないと考えられる。
具体的には、IEC61215 等の性能評価規格では、前処理として UV 予備調節試験が実施さ
れることになっているが、対象国の UV 量はこの条件よりも非常に大きいことが考えられ
る。また、温度サイクル試験が-40℃から 80℃で実施されることになっているが、実際の対
象国のモジュール温度はこれ以上になる可能性がある。さらに、高温高湿試験では相対湿
度 85%で実施されることになるが、湿度が対象国環境下で適しているかの検討が必要であ
る。湿度が非常に高い地域の場合は、PID 試験実施する必要も考えられる。この他、砂塵
が、太陽光発電システムの安全性や性能に課題をもたらすと考えられるが、IEC60068-2-68
のような粉塵試験を太陽光発電システムに適応することなども想定される。
また、出力評価規格では、主に標準条件である STC 下(1,000W/m2、25℃)において太
陽光モジュールの出力評価がされるが、これは必ずしも対象国の屋外動作条件と一致して
いないため、年間発電量の評価が適切にできないものと考えられる。
詳細に検討するにあたっては、現地での実測データが必要となるが、これら様々な観点
で対象国の環境にあった、独自の規格策定を検討する必要がある。
砂漠等の気候環境
独自規格の検討例
太陽放射照度
UV前処理、
照射試験
温度
高温下の
温度サイクル試験
湿度
高湿度下の
PID 試験
砂塵
砂塵による安全性、
性能の低減評価
STC条件と
異なる環境
Non‐STC条件下における
年間発電量の適正評価
図 2.8 砂漠等の気候環境に適応した規格検討イメージ
41
(2)PV 認証試験設備の分析
ここでは、本項目で取り纏めた PV 認証試験設備の特徴と、その市場の国際的な位置づけ
について考察する。
屋外試験装置(PV 周辺機器)は、IV カーブトレーサ―が主要な装置であり、屋外試験
装置(気象)では、気象データロガー、日射計、現在天気計、分光放射計、紫外放射計が
主な装置である。
この内、屋外設備(気象)の日射計や、現在天気系、屋内設備については、ISO 等で機
器自体のスペックが規定されていることから、競争優位性を出しにくい市場と考えられる
(ただし、スペック以上が必要な場合には競争優位性が発揮されることになる)
。
また、各機器のうち、世界で日本企業しか製造していない機器があり、それらの競争優
位性は非常に高いと考えられる(現時点で、競争がないと言える)。具体的には、世界で屋
外設備(気象)の分光放射計は英弘精機社が、屋内設備の PID Evaluation System はエス
ペック社が市場をほぼ独占していると見られる。
その他の機器について、屋外設備(PV 周辺機器)の IV トレーサー、屋外設備(気象)
の日射計、紫外放射計が精度等の面で、日本に技術的優位性があるとみられる。
また屋内設備では、高温高湿試験、温度サイクル試験、結露凍結試験チャンバーに技術
的優位性があるとみられる。ただし、精度が上がればコストも上がるため、対象とする顧
客市場がどこまでの精度を必要とするかについては留意が必要である。
なお、認証設備市場の拡大を目指すためには、機器単体での販売ではなく、統合的なソ
リューションが重要になると考えられる。
例えば、屋外試験に関する IEC 等の既存国際規格は存在せず、屋外試験において、何を
計測すべきかについての国際的なコンセンサスがない。そのため、機器のみの提案ではな
く、計測内容を含めた、包括的な提案が必要となる。また、屋外試験では、機器によって
計測された様々なデータをどのように分析・評価するかについて確立した方法論がない。
そのため、日本の研究機関などが有する独自の PV 評価技術等を組み合わせて海外に提案す
ることが、日本の競争力を発揮する上で、非常に重要なポイントとなる。
42
3. 太陽光発電導入先進国の PV 導入状況と PV 認証サービス
これから太陽光発電の導入推進を開始する対象国(モロッコ、サウジアラビア)へ、太
陽光発電の導入政策や認証制度に関して、アドバイスが可能な主な国としては、世界の中
でも PV 導入および制度が進んでおり、主要な認証機関を持つわが国の他、米国、ドイツな
どが考えられる。本項目では、これら太陽光発電導入先進国の導入状況と政策、および認
証機関と PV 認証サービスについて整理した。
3.1.
日本
3.1.1. PV 導入状況と政策
日本での、累積導入量は近年大きく増加しており、2012 年時点で 6.5GW を超えている。
なお 2013 年度は 12 月末までで、導入量 5GW を超えており、2013 年度の累積導入量は少
なくとも 12GW を超えていると見られる。
また、JPEA が PV 導入見通しを 2013 年 12 月に発表しており、国内累積導入量は 2020
年で、49GW、2030 年で 102GW としている。
導入推進のための施策としては、2012 年 7 月から、固定価格買取制度(FIT)が開始し
ており、太陽光発電システムの認定設備容量は非常に増加している。FIT の他にも、過去に
実施してきた RPS 法や余剰買取制度など、様々な導入普及政策のノウハウを持っている。
FIT
(固定価格買取制度)
kW
7,000,000
系統連系形
(分散型+集中型)
6,000,000
5,000,000
余剰買取制度
4,000,000
3,000,000
RPS法
2,000,000
1,000,000
0
2003年
2004年
2005年
独立形住宅用
2006年
2007年
独立形非住宅用
2008年
2009年
系統連系形集中型
2010年
2011年
2012年
系統連系形分散型
図 3.1 日本における PV 累積導入量の推移と普及制度の導入9などより作成
43
図 3.2 日本 2030 年までの国内導入見通し10
44
3.1.2. 主な認証機関と PV 認証サービス
(1)JET
JET(一般財団法人 電気安全環境研究所)は、1963 年、国の試験業務を引き継ぎ、 電気
用品取締法(現在の電気用品安全法)に基づく指定試験機関として設立された第三者検査機
関である。電気製品をはじめとする各種製品や部品・材料等について、第三者の立場で規
格・基準への適合性評価を行うとともに、製造工場の品質管理体制も検証したうえで、製
品の認証サービスを行っている。JET では、電気用品安全法に基づく適合性検査業務など
の製品試験・認証業務の他、電気製品の安全性並びに品質向上を目的として、IEC や JIS
などの多様な基準に対する適合性評価を行っている。
太陽電池に関する認証サービスとしては、PV モジュールおよび部品に関する認証業務、
認証後のフォローアップサービス、二次基準セルの校正等を実施している。太陽電池モジュ
ールの認証業務については、国際整合規格(JISC8990, JISC8991 等)に基づいて性能及び安
全性を評価し、試験や調査に合格したものに対しては JETPVm 認証マークを付与してい
る。本マークは、製品が国際整合規格への適合を評価する製品試験だけでなく、製品試験
に合格したモデルと同じ仕様の製品を継続して製造する体制が確立していることを確認す
る「初回工場調査」に合格することで与えられる。認証後には、 認証モデルと同じ仕様の
製品が継続して 製造されていることを確認する「定期工場調査」が実施されている。
なお、日本の FIT の設備認定の要件として、10kW 未満の太陽光発電設備については、
「JIS
基準(JISC8990、JISC8991、JISC8992-1、JISC8992-2)又は JIS 基準に準じた認証(JET
による認証を受けたもの、又は JET 相当の海外の認証機関の認証)」という条件が課せられ
ている。
表 3.1
JET の PV 関連認証サービス11などより作成
小項目
大項目
①太陽電池モジュールの認証試験
①-1 太陽電池モジュール・部品の
試験・認証
①-2 認証ラベル(JETPVm認証マー
ク)の発行
②二次基準太陽電池セル校正・モ
ジュールの測定
JIS C8990/IEC 61215 Ed.2(2005): 結晶シリコン太陽電池モジュール-設計認定、型式承認
JIS C8991/IEC 61646 Ed.2(2008): 薄膜型太陽電池モジュール-設計認定、型式承認
JIS C8992/IEC 61730 Ed.1(2004): 太陽電池モジュールの安全性適合認定
二次基準セル校正(IV特性測定,分光感度特性測定含む)
太陽電池セル・モジュールの性能測定
標準試験条件(STC)における性能測定(IV 特性)
③太陽電池モジュール部品の認証試 S-JET認証:PV電線(太陽電池発電設備用1500V、JETST-CABL-001-1: JSC3665-1-2に適合していること)
験
S-JET認証:PV電線(太陽電池発電設備用低圧、JETST-CABL-002-1: JSC3665-1-2に適合していること)
部品登録:バックシート
部品登録:端子ボックス
部品登録:コネクタ
④フォローアップサービス
認証後に、製品を製造する工場施設において、認証された製品に代表性があることを保証するサービス
⑤JIS Q8901
信頼性認証
45
3.2.
米国
3.2.1. PV 導入状況と政策
米国の太陽光発電システムの導入量は、図 3.3 に示すように大きく拡大しており、2013
年には 4.7GW が導入され、累積導入量は 12.1GW となった。
MW
5,000 4,500 4,000 産業
非住宅
住宅
3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
図 3.3 米国
太陽光発電システム
年間導入量推移12より作成
米国では、電気事業者が一定量を再生可能エネルギーで調達することを義務付ける RPS
(Renewable portfolio standard)が州毎に導入されている。
RPS を導入している州について状況を図 3.4 に示す。2013 年 3 月時点で 29 州とワシン
トン DC が導入している。これらそれぞれの州によって定められた義務的な目標が、米国
での再生可能エネルギーを拡大するための大きな要因となっている。
また、図 3.5 に示すように太陽光発電または小規模分散型発電の導入割合を義務化して
いる州もある。再生可能エネルギー発電を行う需要家に対して余剰電力供給量と電気使用
量を相殺するネットメータリングなどの政策を採用している州も多い。
46
図 3.4 米国
図 3.5 米国
RPS 導入州と目標(2013 年 3 月時点)13
太陽光/分散型発電
RPS 導入州と目標(2013 年 3 月時点)
47
3.2.2. 主な認証機関と PV 認証サービス
(1)UL
UL(Underwriters Laboratories Inc.:アメリカ保険業者安全試験所)は、米国火災保険
協会の援助のもとに 1894 年に設立された非営利団体である。従業員数は 7,000 名程度であ
る。UL は、電気機器、火災防止用製品、ガス、石油製品、化学製品、盗難防止用製品など
について、不備な製品による火災や感電、または盗難その他の事故から人命、財産を保護
するための安全規格開発、研究、試験、検査を行っている。UL が策定する規格(UL 規格)
は、材料・装置・部品・道具類などから製品に至るまでの、機能や安全性に関する標準化を目
的としており、同機関が定める評価試験に合格したものは UL 認定マークの使用が認められ
る。UL 認定の取得は任意であるが、保険業者や州や地方自治体レベルで UL 認定を義務付
けている例も多く、アメリカの電気製品の多くは UL 認定品となっている。
UL 認可方式は LISTING と RECOGNITION の 2 つに大別される。LISTING は機器に
対する認定であり、無条件認定と換言することが可能である。RECOGNITION は、機器内
蔵用部品に対するものであり、条件付きの認定となっている。なお、RECOGNITION で認
定された製品には、図 3.6 右のマークが付与されるが、使用は任意となっている。
図 3.6 UL における認証マーク14
太陽電池に関しては、PV モジュールおよび部品に関する認証業務、認証後のフォローア
ップサービス等を実施、並びに PV に関する独自規格の策定を行っている。PV モジュール
については、JET と同様に、IEC 61215 や IEC 61730 等の性能および安全性に関する国際
規格(IEC)の認証が中心となっている。一方、PV の部品の認証については、電線(UL 4703)
や高分子材料(UL 94 他)等について、UL が独自に定めた規格の認証を行っている。
日本国内では、発電出力が 10 kW 未満の PV モジュールを対象とし、補助金や固定価格
買取制度適用のための JIS 規格の認証業務を行っている。また、米国のニュージャージー
州では、太陽光発電導入の普及推進政策として、RPS を採用しているが、その中の、Solar
renewable Energy Certificates(SRECs)の設備要求事項には「PV モジュールは UL(また
は全国的に認知されている試験機関)により認証されているものであること」、「インバー
ターは UL1741 と IEEE929 に準拠していること」という規定がなされている。
48
表 3.2 UL の PV 関連認証サービス 14 より作成
大項目
①太陽電池モジュールの認証試験
①-1 太陽電池モジュール・部品の
試験・認証
①-2 認証ラベル(UL mark)の発行
小項目
IEC 61215: 結晶シリコン太陽電池モジュール-設計認定、型式承認
IEC 61646: 薄膜型太陽電池モジュール-設計認定、型式承認
IEC 61730: 太陽電池モジュールの安全性適合認定
IEC 62108: コンセントレータ光電(CPV)モジュール及びアセンブリ-設計認定及び形式承認
IEC 61345: 太陽電池モジュールの紫外線試験
ANSI/UL 1703: フラットプレート太陽電池モジュールおよびパネルの規格
②太陽電池モジュール部品の認証試 PV電線(UL 4703)
験
タイプUSE-2ケーブル(UL 854)
PV高分子材料(UL 94, UL 746A, B, C, UL-SU 5703, UL 1703)
中継ボックス(UL 1703, UL 746C)
PVコネクター(UL 1703, UL 1977, UL 746C)
③フォローアップサービス
認証後に、製品を製造する工場施設において、認証された製品に代表性があることを保証するサービス
49
3.3.
ドイツ
3.3.1. PV 導入状況と政策
ドイツでは、再生可能エネルギー導入を進めており、図 3.7 に示すように、政府は、電
力生産における再生可能エネルギーシェアを 2050 年に 80%、2020 年に 35%にする目標を
立てている。太陽光発電の目標としては、国家再生可能エネルギー行動計画において、2020
年太陽光発電の累積導入目標量を 51.7GW としている。図 3.8 に示すように 2010 年から
2012 年に毎年 7GW を超える導入がされ、2013 年には固定買取制度の改訂などで、3.3GW
と増加導入量は減速しているものの、2013 年末時点では 35.7GW の太陽光発電システムが
導入されている。
90%
実績
目標
80%
80%
70%
65%
60%
50%
50%
40%
35%
30%
20%
10%
4%
4%
5%
5%
7%
7%
8%
8%
15% 16% 17%
12% 14%
9% 10%
20%
23%
0%
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2020 2030 2040 2050
図 3.7 ドイツ
エネルギー消費量における再生可能エネルギー割合と目標15より作成
MWp
8,000 7,600 7,400 7,500 ドイツにおける太陽光発電市場(2013年)
導入量:
3,300MWp
累積導入量: 35,700MWp
発電量:
29,700GWh
導入数:
140万件
7,000 6,000 5,000 3,800 4,000 3,300 3,000 1,940 2,000 660 1,000 45 115 113 147 2000
2001
2002
2003
1,270 930 850 2005
2006
0 2004
2007
2008
2009
2010
2011
図 3.8 ドイツにおける太陽光発電年間導入量推移16より作成
50
2012
2013
ドイツにおける、太陽光発電システムの主な導入施策には 2000 年に制定された再生可能
エネルギー法(EEG)による、固定買取制度(FIT)がある。2012 年 4 月から、制度の改
訂があり、10MW 以上は買取から対象から除外すること、買取価格の改定頻度を月ごとと
するなどの変更がなされている。2012 年 4 月の買取価格を表 3.3 に示す。また、累積設備
容量が 52GW に達した時点で、買取が終了する予定である。
表 3.3 ドイツにおける PV に係る FIT 価格(2012 年 4 月)17より作成
設置種類
屋根設置
フリースタンディング
出力
買取価格
10kW まで
19.5¢/kWh
40kW まで
18.5¢/kWh
1,000kW まで
16.5¢/kWh
10MW まで
13.5¢/kWh
10MW まで
13.5¢/kWh
51
3.3.2. 主な認証機関と PV 認証サービス
(1)TUV Rheinland
TUV Rheinland は、ドイツ公認の検査機関(民間企業)である。TUV(Technischer
Überwachungsverein:技術検査協会)は、1872 年にドイツで設立された蒸気ボイラー検
査機関を母体としており、以前は TUV Rheinland の他、TUV Köln、TUV Verein のよう
に各地方に存在していた。現在、ドイツにおける公共性のある団体は、ほとんど全て TUV
によって検査を行っている。同社は、独立した第三者検査機関として、EU のみならず、世
界的に高い評価を受けている。現在、従業員数 16,000 人、モロッコ、サウジアラビアを含
む、65 カ国に 500 の拠点があり、国際的に広く活動している。なお、売上のおよそ半分が
国外で、その中でも、インド、中東、アフリカを含むアジアが半数を占めている。アジア
での売上は増加傾向にあり、この 1 年で約 20%増加している。
TUV Rheinland は、玩具から最新のコンピュータ、大型産業機械まで、幅広い製品の安
全・品質について、評価・試験・認証を行っている。太陽光関連の安全性試験、認証につ
いては 30 年にわたる実績があり、現在世界の太陽電池モジュール試験サービス市場の 70%
のシェアを占めている。
太陽電池に関する認証サービスとしては、PV モジュールおよび部品に関する国際規格の
認証業務、二次基準太陽電池セル・モジュールの校正、太陽光発電所の評価・認証をはじ
めとするコンサルテーションサービスを実施している。
52
表 3.4 TUV Reinland の PV 関連認証サービス18などより作成
大項目
小項目
①太陽光発電システムの評価
太陽光発電インバータの電気的試験
①-1 試験・認証
②-2 認証ラベル(TUVdotCOMのID) 太陽電池ジャンクション・ボックスの電気的試験・環境試験
の発行
太陽電池ケーブル・コネクターの電気的試験・環境試験
太陽電池モジュールの認証試験
IEC 61215: 水晶振動子地上光電モジュール-設計認定及び形式承認
IEC 61646: 地上設置の薄膜太陽電池モジュール-設計適格性確認及び形式認証
IEC 61730: 光電池モジュール安全認定-第1部:構造の要求事項、第2部:試験の要求事項
ANSI/UL 1703: フラットプレート太陽電池モジュールおよびパネルの規格
IEC 62108: コンセントレータ光電(CPV)モジュール及びアセンブリ-設計認定及び形式承認
IEC 61701: 光電モジュールの塩霧腐食試験
IEC 62716: 光電モジュールのアンモニア耐性
②二次基準太陽電池セル・モジュー
ルの校正
②-1 校正
②-2 校正証明書の発行
二次基準セル校正(IV特性測定,分光感度特性測定含む)
二次基準モジュール校正(IV特性測定,分光感度特性測定含む)
太陽電池セル・モジュールの性能測定
標準試験条件(STC)における性能測定(IV 特性)
公称動作セル温度(NOCT)における性能測定(IV 特性)
低放射照度における性能測定(IV 特性)
温度係数の測定
分光感度特性測定
③太陽光発電所の評価・認証(コンサ エネルギー収量評価
ルテーション)
立地条件の評価
入札相談サービス
売買提案の評価
設計監理と立案サポート
受入試験と設計承認
発電所の監視、出力エネルギー量の確認と評価
損害評価と欠陥評価
53
(2)VDE
VDE(VERBAND
DEUTSCHER
ELECTROTECHNISCHER:電気・電子及び情報
技術協会)は、1893 年に結成されたドイツ電気技術者連合を母体とする非営利団体である。
IEC の立ち上げメンバーでもある VDE は、電気および電子機器に関する規格の標準化を進
めるとともに、安全認証機関として、国際的に広く認知されている。規格の標準化につい
ては、DKE と呼ばれる部門が担当し、ドイツの電気安全規格である“DIN EN 規格”(通
称 VDE 規格)を制定している。また、試験・認証については、VDE Testing and Certification
Institute と呼ばれる部門が担当し、DKE の制定した規格に基づき、数多くの安全認証を行
っている。
VDE 規格は、ドイツおよびスペインでは法律上、認定を強制されてはいないものの、感
電、火災などの事故が発生した時の罰則が厳しいため、実質上強制と同じ形になっている。
欧州のみならず、日本や韓国、中国などのアジアにも複数の拠点を構え、世界中で安全認
証が行われている。
許可方式は、「条件なし」(HOUSE
MARK)と「条件つき」(TRIANGLE
MARK)
の 2 つがある。前者の HOUSE MARK が付与された商品は、該当する VDE 基準を完全に
満たしていることを意味し、後者の TRIANGLE
MARK は、VDE 基準を完全には満足し
ていないが、セット商品に組み込んだとき、その取りつけ方法を考慮することにより、セ
ット商品に適用される VDE 基準を満足させうるものに対して与えられる。
太陽電池に関しては、
PV モジュールおよび部品に関する国際規格(IEC および EN 規格)
の認証業務、太陽光発電所や製造現場の評価・認証、二次基準太陽電池セル等の校正に加
え、PV モジュールや、部品、設置方法に関する独自規格の策定を行っている。VDE は、
最近 Fraunhofer ISE および PV メーカーと共同で、IEC/EN 規格よりもさらに厳しい基準
を要求する認証システムである VDE Quality Tested を開発している。また、2010 年、カ
ナダ最大の安全認証機関 CSA International 及び Fraunhofer ISE, Fraunhofer CSE と共
同で、米国ニューメキシコ州アルバカーキに PV 認証試験用の研究施設を設立している。
図 3.9
VDE における認証マーク(左:HOUSE MARK、右:TRIANGLE MARK)19
54
表 3.5
VDE の PV 関連認証サービス 19
小項目
大項目
①太陽光発電システムの評価
①-1 試験・認証
②-2 認証ラベル(TUVdotCOMのID)
太陽電池モジュールの認証試験
の発行
IEC / EN 61215:水晶振動子地上光電モジュール-設計認定及び形式承認
IEC / EN 61646:地上設置の薄膜太陽電池モジュール-設計適格性確認及び形式認証
IEC / EN 61730-1:光電池モジュール安全認定-第1部:構造の要求事項、第2部:試験の要求事項
UL 1703:フラットプレート太陽電池モジュールおよびパネルの規格
IEC / EN 61000-6-1; 6-2; 6-3; 6-4:電磁両立性(EMC)
IEC / EN 62109-1
IEC / EN(draft)62109-2
系統連系
インバーター
VDE 0126-1-1/A1(ENS)
VDE-AR-N 4105(Low Voltage Grid)
BDEW Directive(Medium Voltage Grid)
EMF
IEC / EN 62311:電磁界への人体曝露制限に対する電気電子機器の適合性評価規格
②二次基準太陽電池セル・モジュー
ルの校正
マウンティングシステム
DIN 1055; EN EC1
インストレーション
VDE 0100 Part 712; IEC 60364-7-712
コネクタ
EN 50521
ジャンクションボックス
EN 50548
ケーブル
VDE-AR-E 2283-4
二次基準セル校正
二次基準モジュール校正
③太陽光発電所の評価・認証
太陽光発電所の収益評価
エネルギー収量評価
基準および法的要求事項に関する評価
各種書類作成サポート
④製造現場における評価・認証
製造現場における初期検査
製造現場における年次検査
出荷前検査
3.4.
各国の概況
2013 年度では、日本の導入量は 12GW 以上、米国は 12.1GW、ドイツは、37.5GW とな
っており、各国 FIT 等の政策によって非常に増加している。PV 認証を実施している認証機
関には主なものに、日本は JET、米国は UL、ドイツは TUV Reinland、VDE がある。米
国の UL は非営利団体で従業員数が 7,000 名程度、ドイツの TUV Reinland は民間企業で
従業員数が 16,000 人、65 カ国に 500 の拠点をもつグローバル企業であり、モロッコ、サ
ウジアラビアへの拠点も保有している。PV 認証サービスについて、モジュール認証に関す
るサービスは各国大きく変わらないと見られるが、導入が進んでいるドイツでは、太陽光
発電所の認証サービスが行われているところが特徴的といえる。
55
4. モロッコの PV 認証制度構築に関する検討
モロッコにおいて PV 認証制度構築を検討するにあたって、経済産業状況、投資環境とい
った基礎的な情報をまとめ、太陽光発電システムへの取り組みや既存の認証制度について
調査を実施した。これらの情報および 2 章で検討した既存規格の情報や 3 章の太陽光発電
先進国における PV 認証機関のサービス等を踏まえ、認証制度の検討を実施した。
4.1.
経済産業状況
(1)基礎データ
表 4.1 モロッコの概要データ20,
21より作成
国名
モロッコ王国
面積
44.6万km2
人口
3,252万人(2012年)
首都
ラバト
民族
アラブ人(65%)、ベルベル人(30%)
主要言語
アラビア語(公用語)、ベルベル語(公用語)、
フランス語
宗教
イスラム教(国教)スンニ派がほとんど
GDP
959.8億米ドル(2012年)
一人当たり国民所得 2,950 USドル(2012年)
GDP成長率
3.0%(2012年)
消費者物価上昇率
1.3%(2012年)
失業率
9.0%(2012年)
通貨
モロッコ・ディルハム(MAD)
56
(2)経済概況
モロッコは自由市場経済を採用しており、農業を経済基盤としているが、近年産業の多
様化が進んでおり、製造業やサービス業の比重が高まりつつある。2012 年の GDP に占め
る製造業のシェアは 14.6%であり、農業・漁業のシェア(13.4%)と同程度の値となってい
る22。しかし、労働人口の約 40%(2012 年)が農業分野に従事しているなど、依然として
農業への依存度は高い。モロッコの農業は未だ伝統的手法を用いているケースが多く、気
候・降水量の影響を受け易いため、同国の経済に不安定さを与える要因となっている。
製造業は、繊維および電気・機械部門が主流となっており、衣類や電子部品・電気ケー
ブル等は、リン鉱石とあわせて主要貿易品目となっている。
モロッコの経済成長率は、変動はあるものの、近年概ね 4%~5%となっており、IMF の
予測によると、短期的にもこの傾向が継続するとしている。また、モロッコ政府はエネル
ギーや小麦などの価格上昇を抑制するための補助金を投入していることから、消費者物価
上昇率は 2%前後を維持している。
10.0%
9.0%
実質経済成長率
8.0%
7.0%
6.0%
5.0%
4.0%
3.0%
2.0%
消費者物価上昇率
1.0%
0.0%
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
図 4.1 モロッコにおける経済指標の推移23より作成
57
4.2.
投資環境
モロッコは、2000 年前後から、外国投資の促進を目的としたインセンティブや国内法制
度の整備を進めている。法人税については、自国企業、外資企業ともに 30%と、世界平均
と比較的してやや高い水準となっている。また、インフラについても、空港を中心に整備
がなされており、現在、高速道路や鉄道についても急速に開発が進められている。世界銀
行グループが 2014 年に発表した「ビジネスの行い易さ」に関する格付けでは、189 カ国・
地域のうち、87 位に位置づけられている。
表 4.2 モロッコにおける「ビジネスの行い易さ」に関する格付け24より作成
項目
2014 ランク
2013 ランク
順位変化
ビジネスの始め易さ
39
53
↑ 14
建設に関する許認可の得易さ
83
81
↓ -2
電力の得易さ
97
95
↓ -2
財産登録のし易さ
156
166
↑ 10
融資の得易さ
109
105
↓ -4
投資家に対する保護
115
113
↓ -2
税の負担
78
115
↑ 37
貿易のし易さ
37
34
↓ -3
契約手続きのし易さ
83
83
± 0
破産処理のし易さ
69
84
↑ 15
総合的な ビジネス の行い易さ
87
95
↑ 8
58
(1)外国投資促進政策
①法的枠組および税制優遇
モロッコでは、1995 年に制定された投資憲章により、政府の短中期的な投資政策、投資
促進政策を策定している。同憲章は、それまで産業別に定めていた投資法を 1 つにまとめ
たものであり、投資にかかわる行政手続きの簡略化が図られている。内容としては、投資
促進措置の統一化、投資に必要な設備材および投資関連の税制負担の軽減、地方開発のた
めの優遇政策の規定、輸出・雇用の振興など一連の措置を規定している。同憲章の中で、投
資支援を受けるための国籍条件が撤廃されたため(農業部門は除く)
、外資企業がモロッコ
で投資事業を自由に行うことができるようになった。
②外資優遇制度
1)ハッサン二世基金(Fonds Hassan II)
ハッサン二世基金は、2000 年に設立された、一定の産業部門の活性化を目的とした援助
基金である。繊維(衣料、皮革)産業、電子産業、自動車部品産業、航空部品産業、環境・
リサイクル産業、電子産業、バイオ産業等の新規投資プロジェクト に関し、土地取得や工
場建設の補助が行われる。具体的な内容としては、 不動産およびビジネス用の建物建設コ
スト(土地収用コストも含む)の最大 30%の補助、並びに新規設備・部品購入コストの最
大 15%の補助となっている。産業・商業・エネルギー・鉱山省、財務・民営化省の代表からな
る合同委員会がプロジェクトを審査し、補助対象となるプロジェクトを決定する。設立以
来、我が国の企業を含む多くの企業が当基金の補助金を受けている。
2)投資促進基金(Fonds de Promotion de l’Investissement)
投資促進基金は、上述の投資憲章第 17 条の中に規定された基金である。同基金は、雇
用の創出、産業の活性化、環境保護を目的としている。補助内容としては、投資総額が 2 億
DH 以上の大規模プロジェクト、または 250 人以上の正規社員雇用を創出可能なプロジェ
クトに対して、実施に際する土地収用の 20%、インフラ整備の 5%、人員養成費用の 20%
までの補助となっている。上記プロジェクト以外にも、同基金は技術移転や環境保護、あ
るいは指定地方都市での投資に関するプロジェクトも対象となっている。
3)フリーゾーン(税制優遇区域)の設置
モロッコでは、1995 年に輸出強化のためのフリーゾーン(税制優遇区域)の設置が規定
された。各フリーゾーンは政令により創設され、現在、タンジェ輸出フリーゾーン、タン
ジェ・地中海港ロジスティック・フリーゾーンの他、自動車部品産業を中心にしたアトラ
ンティックフリーゾーン(ケニトラ市)、農産・水産加工品中心のフリーゾーンである
Dahkla および Laâyoune の計 5 箇所のフリーゾーンが稼動している。
59
(2)税制
モロッコの主要な税は、付加価値税、法人税、所得税の 3 つである。付加価値税の一般
税率は 20%であり、物品・サービスによっては、14%、10%、7%、0%の低減税率が適用さ
れている。法人税については、一般税率 30%と国際平均(2012 年度 24.43%25)よりやや
高い税率となっている。業種や規模によって税率が異なり、金融機関や保険会社は 37%、
年間純利益 30 万 DH 未満の小企業は 10%となっている。
表 4.3 モロッコにおける税制概要26より作成
税の名称
付加価値税
法人税
個人所得税
概要
一般税率 20%
※物・サービスによっては低減税率(14%、10%、7%)を適
用
一般税率 30%(金融機関、保険会社等は 37%、年間純利益
30 万 DH 未満の小企業は 10%)
最大税率 38%
年 30,000DH 以下の収入に対して 0%
年 30,001 以上 50,000DH 以下の収入に対して 10%
年 50,001 以上 60,000DH 以下の収入に対して 20%
年 60,001 以上 80,000DH 以下の収入に対して 30%
年 80,001 以上 180,000DH 以下の収入に対して 34%
年 180,001DH 以上の収入に対して 38%
(3)インフラ整備状況
①物流インフラ
物流インフラについて、モロッコは運輸および物流のハブ拠点となることを目指してお
り、近年精力的にインフラ整備が実施されている。道路については、2015 年を目処に総延
長 1,800 km の高速道路を整備する予定であり、2012 年 2 月にはそのうちの 1,420 km が
開通している。鉄道については、2012 年 10 月時点で総延長 2,109 km の鉄道網が整備され
ている。2011 年には、フランスの支援のもと、カサブランカ-ラバト-タンジェ間を結ぶ
高速鉄道(LGV)の建設が開始され、2015 年の運転開始を目指している。航空について、
モロッコには 27 の空港があり、うち 11 は国際空港である(図 4.2)。2008 年の時点で、
44 の外国航空会社がモロッコへの直行便を運行しており、外国観光客の増加に貢献してい
る。海運については、2013 年時点で第 1 タンジェ地中海港(ターミナル 1 および 2)が稼
動している。2009 年より第 2 タンジェ地中海港の建設が進められており、2014 年中の完
成を目指している。
60
図 4.2 モロッコの物流インフラの概観27
②通信インフラ
通信環境については、外資系企業の参入により、比較的整備が進んでいる。モロッコの
主な通信会社はフランス系のモロッコテレコム社、モロッコ系(元スペイン・ポルトガル
系)のメディテレコム社、モロッコ系の INWI 社(旧 Wana 社)となっている。モロッコ
では、プリペイド型の GSM 方式携帯電話が急速に普及しており、2010 年時点での携帯電
話の人口普及率は 100%強となっている。一方、インターネットについては、2010 年時点
での契約者数は、前年比 57.3%増の 186 万人(人口の約 6%)となっており、普及途上で
はあるものの近年急速に整備が進められている。
表 4.4 モロッコにおける通信機器契約者数の推移28より作成
年次
携帯電話
契約者数(万人)
固定電話
契約者数(万人)
インターネット
契約者数(万人)
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
2010 年
572
736
934
1,236
1,601
2,003
2,281
2,531
3,198
113
122
131
134
127
239
299
351
375
6
6
11
26
40
53
76
118
186
61
③電力・水道インフラ
モロッコは、近年の経済発展および政府の積極的な政策により、電力インフラの整備が
進んでいる。1996 年に国立電力公社(ONE)によって発表された農村総合電化計画では、
2007 年までに地方電化率 98%を達成することを目標に、2003 年の間に 113 億 2 千万 DH
が 1999 年から投資された。その結果、2011 年時点でのモロッコ国内の電化率は 97.4%と
なっており、概ね目標が達成されている。なお、モロッコでは、経済発展に伴い電力等の
エネルギー需要の伸びが著しく、2020 年には 2010 年時点の電力需要量(287 億 kWh)の
約 2 倍、2030 年には約 4 倍となる見込みで、発電能力の増強が急務となっている。このよ
うな電力消費の増大を背景として、モロッコでは、太陽光や風力等の再生可能エネルギー
の導入に積極的であり(太陽光に関する政策の詳細は次節)、2020 年には発電容量のうち
42%を再生可能エネルギーで賄うことを目標としている。
水道インフラの整備については、水資源不足に悩むモロッコでは長年重要視されてきた。
1995 年に施行された「地方給水事業計画」を中心に、近年整備が進められているが、山間
部や砂漠地帯などの地方では、現在も給水事情が改善されていない村落も見られる。
62
4.3.
太陽光発電導入に関する取り組み
モロッコでは、2020 年までに太陽エネルギー発電(太陽光発電(PV)および太陽熱発電
(CSP))で 2,000MW の導入目標を掲げており、図 4.3 に示すように、モロッコ全体の発
電容量の 14%に拡大する計画を立てている。
モロッコでの太陽エネルギー発電 2,000MW の導入計画を図 4.4 に示す。2015 年までに
後に記載する Ouarzazate(ワルザザート)で 500MW、2016 年までに Ain Beni Mathar
で 400MW、2017 年までにさらに 500MW、2018 年までにさらに 500MW、2019 年までに
さらに 100MW の導入が計画されている。
100%
90%
9%
7%
7%
11%
その他
天然ガス
石炭
80%
70%
石油
26%
34%
水力
60%
風力
50%
40%
14%
24%
太陽エネルギー
14%
30%
14%
20%
10%
0%
24%
再生可能
エネルギー
14%
2%
2010年
2020年
図 4.3 モロッコにおける太陽エネルギー発電導入目標29より作成
63
図 4.4 モロッコにおける太陽エネルギー発電導入計画30
これらの太陽エネルギー導入計画を管理するため、モロッコ政府と ONE(Office National
de l’Electricite:国立電力公社)等による公的ファンドにより、2010 年 3 月に MASEN
(Moroccan Agency for Solar Energy)が設置された。
MASEN は、表 4.5 に示す、ミッションを掲げており、政府や ONE と連携しながら、
太陽エネルギー計画の実現に向けて動いている。
表 4.5
MASEN のミッションと政府等との連携 29 より作成
項目
ミッション
政府との連携
ONE との連携
内容

太陽エネルギー発電所の開発

地域専門家の育成への寄与

国家的スケールでの開発を進めるにあたってのトリガーとしての役割

各太陽エネルギープロジェクトの財務バランスを確保するための技術
要求事項やメカニズムの策定

発電電力の商業化と、送配電ルールの策定
64
現在、MASEN は Ouarzazate(ワルザザート)の北東 10km の 2,500Ha のサイトで、
太陽エネルギー発電所の開発プロジェクト(NOOR Solar Complex)を開始しており、総
計で 500MW の CSP と PV の設置を予定している。
表 4.6 に示すように、先行して実施されているものは NOORⅠからⅢの CSP であり、
PV は 2013 年からプロジェクト NOORⅣが立ち上がり、規模は 50MW 程度が想定されて
いる。
表 4.6
プロジェクト
NOORⅠ
MASEN の太陽エネルギー発電所プロジェクト 29 などより作成
開始(Launch)時期
2010 年末
(2014 年までに稼動)
技術
規模
CSP
160MW
NOORⅡ&Ⅲ
2012 年末
CSP
300MW 程度(予定)
NOORⅣ
2014 年始
PV
50MW 程度(予定)
なお、NOOR Solar Complex のプロジェクトサポートチームには既に以下のコンサルタ
ントが雇用されている。

WorleyParsons

Citi Group

Linklaters

Deloitte

Norton Rose
また、NOOR Solar Complex では、R&D Platform が併設される予定で、そこで CSP や
PV に関して、パフォーマンス試験や、日射データの測定などを含む、技術実証が計画され
ている。
65
4.4.
認証制度
モロッコが、PV 認証制度を構築するにあたっては、一般機器等の認証を実施しているモ
ロッコの既存の認証機関・制度を活用または参考にすると考えられる。本項目では、モロ
ッコにおける既存の認証機関である IMANOR および制度の状況を調査した。
(1)概要
IMANOR(Institut Marocain de Normalisation:モロッコ規格協会)は、モロッコにお
ける規格を策定する唯一の機関である。同機関は 2010 年に、工業貿易省(Ministry of
Industry and Trade ) の 下 部 組 織 で あ っ た SNIMA ( Service de la Normalisation
Industrielle Marocaine: モロッコ標準局)に代わり、行政的および経済的に自立した形で
設立された。
IMANOR は、経済競争力に関する政策支援、消費者保護、自然環境および生活環境の保
全により、モロッコ国内の企業の競争力を高めることを目的としており、以下の項目を責
務とする。
・ モロッコ標準の策定
・ 標準および規格に関する認証
・ モロッコ標準や関連製品に関する出版および広報
・ 標準および履行技法に関するトレーニング
・ 国際的な標準組織への加盟
①組織の実績および将来ビジョン
IMANOR は現在までに 5,500 の基準を策定している。策定された基準の大部分が IEC
や ISO 等の国際規格および EU の規格に基づいている。なお、IMANOR は ISO のメンバ
ーに加盟している。
IMANOR は、2006 年から 2010 年までに、認証を取得した製品の割合を 15%~20%まで
増加させることを目標としている。また、2010 年までに製品規格の総数を 5,000 まで増加
させることで、モロッコ国内外における貿易を促進すると共に、消費者に対して製品の品
質の保証をさらに徹底する意向を示している。
66
②関連組織
IMANOR は、以下の関連組織と共に基準策定および認証試験等の活動を行っている。
1)The Laboratory for Public Tests and Studies(LPEE)
LPEE はモロッコ最大の試験機関であり、モロッコの全ての主要都市に研究所を有して
いる。試験方法の確立を主要業務としており、電気試験および標準試験についても研究対
象としている。
2)産業技術センター
産業技術センターは、IMANOR が設立した認証試験に関する研究機関である。同機関で
は、機械、化学、輸送に関する試験に特化した研究が行われている。
(2)基準策定
IMANOR における標準策定ユニットは以下の 6 つの部門で構成されている。
・ 化学部門(Chemistry and Para chemistry)
・ 農産食品産業部門(Agri-food industry)
・ 繊維・皮革部門(Textiles and leather)
・ 機械・金属・電子部門(Mechanics, metallurgy and electricity)
・ 公共建物・業務部門(Public buildings and works)
・ 健康・安全・品質・環境部門(Health, security, quality and the environment)
図 4.5 に IMANOR における基準の策定プロセスを示す。なお、モロッコにおいて、基
準の策定は ISO および WTO の規定に従って進められている。
基 準 策 定 は IMANOR 内 の 技 術 基 準 策 定 委 員 会 ( The Technical Standard-setting
Committees: CTN)の主導による進められる。同委員会では、市場のニーズに対応するた
めの独自のプログラムに基づき基準策定を行っている。それぞれの技術委員会は互いに連
携体制が取れており、各分野における利害関係の調整を可能としている。
67
ステップ1
基準案の提案
ステップ2
年間基準策定基本
計画への組み込み
ステップ3
基準ドラフトの作成
ステップ4
技術基準策定委員会
(IMANOR内)
ステップ5
世論調査
ステップ6
省庁間協議会
ステップ7
公式文書の発行
ステップ8
基準の一般公開
図 4.5 モロッコにおける基準策定のプロセス
ステップ 1:提案
新たな基準案は、翌年の基準策定計画に位置づけられることで策定のプロセスに乗るこ
とができる。基準案は、最初に関連する分野の技術基準策定委員会で提案され、翌年の策
定計画に含める必要があるかが議論される。
ステップ 2:年間基準策定基本計画への組み込み
ステップ 1 で議論された基準案は、基準策定基本計画(General Standard-Setting Plan :
PGN)に組み込まれ、品質と生産性に関する上位の省庁間協議会(CSIQP)に提出される。
ステップ 3:ドラフト
基準案は、技術基準策定委員会の書記官(secretary)によって、関連する基礎資料(国
内の規制や海外および国際基準等)を基に推敲され、ドラフトが作られる。
68
ステップ 4:委員会
技術基準策定委員会の担当書記官は、委員会関係者全員が出席できるように会議日程の
調整を行う。ドラフトは、技術的な内容の合意が取れるまで、議論が行われる。内容に関
する合意が取れた後は、ステップ 5 の世論調査に向け、ドラフトの詳細化を行う。
ステップ 5:世論調査
IMANOR 内と一般市民との意見の一致を図るため、技術基準策定委員会の担当書記官に
よって、3 ヶ月間にわたる世論調査が行われる。世論調査実施後、回収された意見を必要に
応じて基準案に反映させる。
ステップ 6:承認
基準案は、技術基準策定委員会から省庁間協議会(CSIQP)に提出され、承認を得る。
なお、省庁間協議会の委員は政府によって終身的に立場が保証されている。
ステップ 7:公式文書の発行のための署名
省庁間協議会における承認後、IMANOR から関連省庁の大臣に基準案が提出され、公式
文書発行のための署名を得る。
ステップ 8:基準の公開
ステップ 7 において最終的な承認が得られた後、基準案はモロッコ基準として公開およ
び出版される。なお、基準は公表された後も関連組織からの要求により、再調査を受ける
ことができる。
69
(3)認証の実施
IMANOR は、国内および国際規格に関し、第三者機関として認証を行っている。IMANOR
における認証ユニットは経営管理システム認証部門と、製品認証部門の 2 つで構成されて
いる。経営管理システム認証部門では、品質管理システム、産業製品管理システム、環境
管理システム等の認証を行う。製品認証部門では、NM 認証と呼ばれる工業製品および農
産食品に関する認証、HACCAP 認証等の食料品のブランディング、エコラベリングについ
て認証を行っている。
表 4.7
IMANOR における認証部門および認証項目
部門
認証項目
経営管理システム認証部門
・ 品質管理(NM ISO 9001)
・ 産業製品管理(NM ISO 14001)
・ 環境管理その他のシステム管理
製品認証部門
・ 工業製品・農産食品認証(NM 認証)
・ 食料品ブランディング(HACCAP 認証)
・ エコラベリング
なお、モロッコにおける認証のリクエストは、規制当局(安全、金融的保証、衛生環境
保護等)、保険や流通業者等の包括的な事業を行う民間企業、並びに個人が行うことが可能
となっている。以下では、NM 認証、管理システム認証、NM HACCAP 認証を取得するた
めのプロセス等について述べる。
70
①NM 製品認証
NM 製品認証は、農産食品や工業製品を対象とした、安全性を証明するためのモロッコ
産業省による公式な登録制度である。NM 製品認証は国際規格である ISO/CEI 65 を準拠し
ている。認証試験および審査後、基準をクリアしたものについては NM マークが付与され
る。
表 4.8 NM 認証のプロセス
プロセス
1. NM 認証申請書の提出
2. IMANOR による書類審査
3. 審査チームの結成
4. 審査訪問
5. 製品認証審査
6. 審査判定
概要
農産食品工業や工場等から、IMANOR に対し、NM 認証を要
求する商品・製品について申請書が提出される。
提出された書類を基に、技術的観点から、以後の認証プロセ
スを実施すべきか否かを判定する。
書類審査を通過した製品ごとに、IMANOR 内の有識者による
審査チームが結成される。
審査チームは製品の製造現場を訪れ、IMANOR 内で規定され
ている製造プロセスや販売手続きに合致しているかを審査
する。
審査チームは、工場または販売現場からサンプルを受け取
り、独立系の研究機関による認証試験を実施する。試験項目
は国際基準等を基に IMANOR 内で独自に規定された試験内
容となっている。
製品認証試験を実施後、合格の是非が判定される。この際、
審査チームによって、現場の特定の課題を改善することを目
的とした追加訪問および要求尋問が実施されることもある。
71
②管理システム認証
IMANOR では 1993 年より、専門の認証組織(Management System Committee: CSM)
を設立し、管理システムの認証を実施している。管理システムの認証は、ISO をはじめと
する国際規格に基づき、品質基準(NM ISO 9001)、環境基準(NM ISO 14001)、労働衛
生基準(NM 00.5.801)が設けられている。
CSM は以下の 4 つのグループで構成される。
・ Group A:専門家組織
・ Group B:消費者組織
・ Group C:技術者・法律家組織
・ Group D:行政組織
また、CSM には以下のワーキンググループが存在する。
・ 農産食品認証委員会(CCIAA)
・ 化学製品認証委員会(CCICP)
・ 機械・金属・電気・電子製品認証委員会(CCIMME)
・ 公共建物・労働環境認証委員会(CCIBTP)
ワーキンググループは、CSM の関連分野の従事者から構成される。委員は、公平性を保
つように、複数のグループからバランス良く選出される。
72
③HACCP 認証
IMANOR では、食品製造プロセスにおける衛生管理やリスク評価を目的として、HACCP
(Hazard Analysis of Critical Control Points)と呼ばれる国際的な危機管理システムの認
証を採用している。IMANOR は、モロッコ国内の既存の規制や ISO 等の国際規格や欧州な
どの規格を参考にモロッコ向けの評価基準(NM HACCP)が設けられている。
NM HACCP は以下のプロセスで認証される。なお、認証を取得後は、1 年に 1 回システ
ムのレビューが行われ、3 年ごとに認証の更新が実施される。
表 4.9
プロセス
1. NM HACCP 認証申請書の提出
2. IMANOR による書類審査
HACCP 認証のプロセス
概要
農産食品工業 や工場等から 、IMANOR に対し、 NM
HACCP 認証を要求する商品・製品について申請書が提
出される。
提出された書類を基に、技術的観点から、以後の認証プ
ロセスを実施すべきか否かを判定する。
3. 審査チームの結成
書類審査を通過した製品ごとに、IMANOR 内の有識者に
よる審査チームが結成される。
4. 監査
審査チームは製品の製造現場の訪問や文献等の調査に
より、HACCAP で期待されている製造プロセスに合致
しているかを審査する。
5. 技術委員会における調査
審査チームによる監査レポートが、IMANOR 内の技術委
員会に提出され、詳細な調査・検討が行われる。
6. モロッコ工業省による審査
IMANOR 内の技術委員会による審議後、関連書類がモロ
ッコ工業省に提出され、審議を受ける。
73
4.5.
PV 認証制度構築に関する検討
本項目では、具体的なモロッコ認証制度構築に関する検討事項について、記載する。
(1)認証制度検討にあたって
モロッコは 2020 年に、最低 2GW という太陽エネルギー発電の導入を目指しており、
様々
な大規模プロジェクトの計画を立てている。これらを皮切りに、今後、太陽光発電システ
ムの普及が進むと想定される。健全な普及を進めるためには、太陽光発電の性能や安全性
を担保するための基盤として、認証制度の構築が必要となる。
特に、モロッコは高温や砂塵等の砂漠特有環境下にあるため、2.3 で記載したように、既
存の国際規格では、それらの環境下での性能、安全性、出力を担保することが難しい。そ
のため、それらの課題を克服した認証規格を策定することが認証制度構築にあたって重要
な点となる。
また、モロッコは、GDP が約 1,000 億ドルであり、認証機関である IMANOR において
は、採用規格は IEC 規格を踏襲するなど、独自規格策定の動きはそれほど見られない。PV
認証制度を構築しているわが国や他の導入先進国とは、現時点で経済的な事情、技術的な
事情が大きく異なると想定される。
そのため、モロッコへの PV 認証制度導入にあたっては、最初から、フルスケール、フル
スペックで進めるよりは、費用対効果のある範囲でステップバイステップで認証制度を導
入していく方がより適しているものと考えられる。
そのような想定のもと、本項目では、モロッコ特有環境を考慮した PV 評価を実施するた
めの認証制度の構築について、どのようなオプションが考えられるかを検討し、認証スキ
ームが経済的に妥当かどうかを検証するためのビジネスモデルの整理を行った。
PV認証制度の構築
砂漠気候に
適応した効果的なPV評価
高品質PVモジュールの普及
(2020年の導入目標に向けて)
図 4.6 モロッコにおける認証制度構築の目的
74
(2)認証制度案
モロッコで構築する具体的な認証制度は、モロッコ国内での PV モジュールの認証試験の
実施有無、PV モジュール認証にあたってモロッコの特有環境をどのレベルまで考慮するか
等によって、様々なオプションが考えられる。
モロッコへの導入を検討する認証試験は、屋外試験と、屋内試験に分けられる。屋内試
験では既存の IEC 規格に準拠した試験、さらにはモロッコ特有の環境を考慮した IEC プラ
スアルファの試験を実施する。また、屋外試験を導入することで、実際のモロッコ環境下
でのデータ取得によってモロッコでの特有の環境を精度高く反映した認証規格の策定が可
能となり、その規格に基づいた精度の高い認証試験の実施が可能となる。
本項目では、オプションの主な例として表 4.10 に示すオプション A、B、C を検討した。
オプション A は、屋外試験、屋内試験ともにモロッコ国内で実施をしないものである。
ただし、日本の有識者の指導によって、モロッコ特有環境を反映した、Non-STC 換算式を
作成し、海外の外部認証機関による測定結果とその換算式を用いて計算した Non-STC 換算
値に基づいて認証を与えることで、可能な範囲でモロッコ特有環境を反映した認証制度の
構築を図ることができる。
オプション B は、既存 IEC 規格に基づく屋内試験については、海外の外部認証機関に、
任しておき、屋外試験のみをモロッコ国内で実施するものである。モロッコ環境下での屋
外試験を実施することができるため、的確にモロッコ特有環境を反映した規格の構築およ
び認証試験の実施が可能となる。屋内試験では、
既存の IEC 規格(IEC61215 や IEC61730-2
等)で規定されている試験、具体的には、UV 前処理試験、温度サイクル試験、機械荷重試
験、光照射試験等を実施するためのチャンバーを導入する。屋外試験では、モロッコの環
境を測定する気象観測設備として全点日射計、UV メーター、風力センサー、湿度センサー、
土壌温度センサーやその他センサー、PV システムの計測設備として、PV モジュール、イ
ンバーター、IV トレーサー、データロガーなどを導入する。
オプション C は、屋内試験、屋外試験ともにモロッコ国内で実施するフルスペックの場
合である。海外の外部認証機関に頼らないモロッコ国内で完結した認証制度構築が可能と
なる。また、屋内試験では、既存 IEC 規格に基づく試験以外にもモロッコ特有環境を反映
した試験を実施するため、オプション B で設置する屋内試験設備に加え、砂塵設備や PID
試験設備なども設置する。屋外試験の設備はオプション B と同様のものを設置する。
75
表 4.10 モロッコにおける認証制度オプション例
モロッコに導入される認証制度
オプション
基本的考え方
屋外試験
(モロッコ国内)
屋内試験
(モロッコ国内)
モロッコ特有環境
の考慮
A
屋外試験・屋内試験ともに実施せず、
外部認証機関による測定結果を用いた
Non-STC値とIEC規格の認証に基づく
認証制度の構築を行う。
×
実施しない
×
実施しない
Non-STC換算式
作成根拠として
モロッコ特有環境を反映
B
屋外試験を実施し、屋外試験と外部認
証機関によるIEC規格の認証に基づく
認証制度の構築を行う。
○
実施する
×
実施しない
屋外
試験の反映
C
屋外試験・屋内試験(IEC規格及びモ
ロッコ特有環境下試験)を実施し、試
験に基づく認証制度の構築を行う。
○
実施する
○
実施する
屋外試験および
屋内試験の反映
76
それぞれのオプションの評価を表 4.11 に示す。オプション C では屋内試験設備、屋外試
験設備が共に必要となり、投資費用が非常に大きくなるが、IEC 規格に準拠した認証だけ
でなく、モロッコ環境に応じたプラスアルファの屋内試験による認証を実施することがで
き、さらに、モロッコ特有環境を反映できる屋外試験による独自認証の実施も可能となる。
モロッコ特有環境を精度高く反映したフルスペックの評価制度構築を目指すことができる。
一方、オプション A では、モロッコにおいては試験設備を一切導入しないため、投資を
あまり必要としないが、ソフト面での支援により Non-STC 換算式を策定することで、モロ
ッコの気象条件を反映した適切な発電量評価が可能となる。
オプション B はオプション A と C の間の位置づけで、屋内設備は導入せず、屋外設備の
みを導入するものである。海外の外部認証機関に IEC 規格試験を任せることで、屋外試験
に集中的に投資をし、モロッコ特有環境に対応した認証制度の構築が可能となる費用対効
果が比較的高い方法であると考えられる。
表 4.11 認証制度オプション案における評価
効果
オプション
A
B
C
モロッコ仕様
認証制度
評価
認証試験が可能な範囲
モロッコ特有環境
(砂漠環境)仕様
(換算式反映)
-
投資をあまり必要としないものの、モロッコ特有環
境(気象条件)を反映したNon-STC換算式を用いて
算出されたRating値に基づく認証制度を構築可能。
モロッコ特有環境
(砂漠環境)仕様
屋外試験
設備投資を多大に必要とする「IEC規格試験」を外部
認証機関に委託する一方で、モロッコ特有環境に対
応した認証制度を構築できるという、最も投資対効
果が高いオプションと考えられる。
モロッコ特有環境
(砂漠環境)仕様
屋内試験(IEC基本 投資を最も必要とするが、過酷環境下での屋内試験
規格準拠、過酷環境 が行えるため、効果も高い。
)、屋外試験
77
次に、モロッコに認証制度構築に向けた具体的ステップの検討を実施した。オプション
C における、認証制度構築のステップおよび内容について以下に示す。
認証制度構築のフェーズは大きく屋外試験、屋内試験、認証スキームに分けられる。屋
外試験では、試験設備の設置と、気象データの取得、その後、認証に必要な屋外試験のパ
イロット実施をする。
屋内試験では、IEC 規格に準拠した設備、さらにはモロッコ特有の環境を考慮した試験
に対応する設備を設置し、その後、認証に必要な屋内試験のパイロット実施をする。
認証スキームでは、モロッコ独自認証規格の策定と、その規格を使用した認証スキーム
の開発を実施する。認証規格の策定では屋外試験や屋内試験でのデータ分析をもとに、
IMANOR 内の技術基準策定委員会において、モロッコ特有の環境を考慮した独自の認証規
格を策定する。認証スキームの開発では、認証手順等の実務内容を含め、モロッコのメン
バーが実際の認証スキームを運営するための方法を検討する。
これらのフェーズ、ステップ各所で、日本の太陽光発電認証に関わる有識者が、モロッ
コ側にアドバイスやトレーニングを実施することが想定される。具体的には図 4.8 のよう
な日本を代表する認証機関である JET(一般財団法人電気安全環境研究所)や、規格策定、
計量標準に関する有識者を携える AIST(独立行政法人産業総合技術研究所)を中心とした
体制が考えられる。
フェーズ
屋外試験
ステップ
気象データ取得のための、
屋外試験サイトの設置
屋外発電電力量の測定と分析、OJT
PVシステムとモジュール挙動検証の
ための、屋外試験サイトの設置
フルスケール屋外試験サイトの設計
屋外設備を使用した測定方法のトレーニング
屋内試験
屋内試験サイトの設置
認証試験、OJT
(IECおよびモロッコ環境に応じた試験)
屋内設備を使用した測定
方法のトレーニング
認証スキーム
フルスケール屋内試験サイトの設計
気象データ取得
Non-STC下における屋内試験実施
換算式の策定
認証スキームの開発
標準化委員会の設置と運営
運営システムのトレーニング
モロッコ特有環境下におけるPVモジュール信頼性試験
橙色:日本で実施される研究項目
図 4.7 モロッコにおける認証制度構築ステップイメージ(オプション C)
78
モロッコ
日本
高品質モジュール
砂漠環境を踏まえた
高品質モジュールの導入推進
モロッコへの適応
(基準、認証)
MASEN
高品質モジュールのため
の認証スキーム
Japan Electrical Safety & Environment Technology Laboratories
*
人材育成
*AIST : National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
図 4.8 モロッコにおける認証制度構築支援のイメージ
79
(3)認証制度ビジネスモデル
モロッコで認証制度を実施する場合のビジネスモデルについて整理を実施した。既存の
認証機関の事例を参照すると、表 4.12 のようなサービスが実施されている。
表 4.12 認証機関におけるサービス例
実施サービス
項目
屋内試験
PV モジュール
試験・認証
内容
認証対象の PV モジュールが、IEC 規格*に準拠している
か検証するための試験の実施
工場監査
認証対象の PV モジュールを製造している工場の監査
認証維持・認証
認証対象の PV モジュールが認証されていることを示すた
マークの発行
めの認証維持の提供
PV モジュール部品認証試験
PV 電線、バックシート、端子ボックス、コネクターなど
の認証試験
二次基準 PV セル・モジュールの校
IV 特性測定、分光感度特性測定などを含む二次基準セル
正・測定
の校正、校正証明書の発行
※ IEC 61215(Crystalline silicon terrestrial PV modules- Design qualification and type approval) 、 IEC
61646(Thin-film terrestrial PV modules –Design qualification and type approval)、IEC 61730(PV module safety
qualification)、IEC 62108(Concentrator PV modules and assemblies –Design qualification and type approval)、IEC
61701(Salt mist corrosion testing of PV modules)、IEC 62716(PV modules Ammonia corrosion testing)、Others
このうち、モロッコにおける認証サービスは、PV モジュール試験・認証、すなわち、屋
内試験(および屋外試験)、工場監査、認証維持・認証マークの発行になると想定される。
これらの各サービスがモロッコ認証機関の収入源となる。
試験サービスでは、顧客が認証したい PV モジュールの種類毎に試験実施料を課す。また、
工場監査サービスでは、認証サービスと同様に、顧客が認証したい PV モジュール種類を製
造している工場に対して工場監査料を課す。
認証維持・認証マークの発行サービスは、認証維持の方式により、課金方法が、2 ケース
に大別される。1 つ(ケース A)は、顧客が認証したい PV モジュール種類を課金対象とし
て、種類毎に認証維持費用を毎年徴収するもので、もう 1 つ(ケース B)は、顧客が認証
したい PV モジュール全枚数(全出荷数)に対して、それぞれ認証マーク費用を徴収するも
のとなる。
また、支出には、初期費用である試験設備費用、運転維持費用である設備維持費用、人
件費、電力・用水消耗品等の費用が考えられる。以上のビジネスモデルを示したものが図 4.9
となる。
モロッコで実際に認証機関を検討する場合には、このビジネスモデルに基づいて、具体
的なサービス料金テーブルの設置および支出額を精査し、認証機関の経済性を評価する必
要がある。
80
顧客
モロッコ認証機関
サービス内容
収入
$
試験実施料
支出
試験実施
初期費用
依頼
課金対象
$
試験設備費用
認証PVモジュール種類
PVモジュール
メーカー
運転維持費用
$ A:認証維持手数料
B:認証マーク発行手数料
ケースB
ケースA
認証マーク発行/認証維持
OR
$ 工場監査料
課金対象
ケースA
ケースB
工場監査
課金対象
$
設備維持費用
$
人件費
$
消耗品等
OR
認証PVモジュール 認証PVモジュー
種類
ル全枚数
認証PVモジュールを製造している
工場
図 4.9 モロッコにおける認証制度ビジネスモデル
81
電力・用水・
5. サウジアラビアの PV 認証制度構築に関する検討
サウジアラビアにおいて PV 認証制度構築を検討するにあたって、経済産業状況、投資環
境といった基礎的な情報をまとめ、太陽光発電システムへの取り組みや既存の認証制度に
ついて調査を実施した。これらの情報および 2 章で検討した既存規格の情報や 3 章の太陽
光発電先進国における PV 認証機関のサービス等を踏まえ、認証制度の検討を実施した。
5.1.
経済産業状況
(1)基礎データ
表 5.1 サウジアラビアの概要データ31,
国名
サウジアラビア王国
面積
215万km2
人口
2,920万人(2012年)
首都
リヤド
民族
アラブ人
主要言語
アラビア語(公用語)、英語
宗教
イスラム教
GDP
7,110億ドル(2012年)
一人当たり国民所得 24,523ドル(2011年)
経済成長率
6.8%(2012年)
消費者物価上昇率
2.9%(2012年)
失業率
12.1%(2012年)
通貨
サウジアラビア・リヤル(SR)
82
32より作成
(2)経済概況
サウジアラビアは世界最大級の石油埋蔵量、生産量及び輸出量を維持しており、輸出総
額の約 9 割ならびに財政収入の約 8 割を石油に依存している。そのため、サウジアラビア
の経済成長は、原油価格の影響を受け易いことが特徴である。特に、2009 年は世界金融危
機に伴う原油価格下落の影響を強く受け、2008 年に 8.4%であった成長率は、1.8%まで下
落している。その後、原油価格の持ち直しやサウジ政府の財政支出により、経済成長率は
急回復を遂げたが、再び世界的な石油需要の低迷により、2012 年に 6.8%であった経済成長
率は、2013 年以降、4%前後で推移すると推計されている。
なお、図 5.2 に示すように、近年の経済成長に伴って、国内の石油消費量が急激に増加
しており、サウジアラビアは、このまま将来石油消費量が増加すれば、主要産業である石
油輸出が維持できなくなる危機意識を持っている。この後記載する、再生可能エネルギー
の導入の推進を始めている背景の一つには、この危機を回避するため、国内の石油の消費
を抑える目的がある。
もう一つのサウジアラビアの課題として、高い失業率がある。図 5.3 に示すように、15-29
歳の若年層の失業率が 20-30%、全体でも 10-15%と非常に高い傾向にある。
10.0%
9.0%
8.0%
実質経済成長率
7.0%
6.0%
5.0%
4.0%
3.0%
2.0%
消費者物価上昇率
1.0%
0.0%
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
図 5.1 サウジアラビアにおける経済指標の推移 32
83
Thousand barrels per
day
14,000
Thousand barrels per
day
3,000
Domestic consumption
Total oil production
12,000
2,500
Estimated petroleum net exports
10,000
2,000
8,000
1,500
6,000
1,000
4,000
500
2,000
0
20
12
20
10
20
08
20
06
20
04
20
02
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
82
19
80
0
図 5.2 サウジアラビアにおける国内石油消費量推移33より作成
図 5.3 サウジアラビアにおけるサウジ人の雇用率と年齢別失業率34
84
なお、図 5.4 に示すように日本が石油を輸入している国は、サウジアラビアが一番多く
約 30%となっている。また、サウジアラビアでは、経済水準が高いこともあり、良い品質
のものを長く使用するというライフタイムでの製品評価が見直されている。図 5.5 に示す
ように、例えば、自動車ではトヨタ社等の日本の製品のシェアが高い。
Russia
4%
Indonesia
4%
Others
7%
Saudi Arabia
30%
China
0%
Other Middle East
24%
Iran
8%
UAE
23%
図 5.4 日本における石油輸入国の割合35より作成
ダイハツ, 8,023
本田, 10,563
日産, 17,000
その他, 59,391
いすず, 26,261
トヨタ, 228,295
GMC, 26,765
起亜(韓国), 30,743
シボレー, 36,271
フォード, 46,085
現代, 104,515
図 5.5 サウジアラビアのメーカー別自動車販売台数(2011 年)36
85
5.2.
投資環境
サウジアラビアは、2005 年の世界貿易機関(WTO)への加盟に前後して外資に関する国
内法制度などの改革を進め、国際的に高い評価を得ている。法人税についても、自国企業、
外資企業ともに 20%と、世界全体として比較的低い水準となっている。また、インフラに
ついても、空港や海運を中心に整備されており、道路や鉄道についても近年急速に整備が
進められている。世界銀行グループが 2014 年に発表した「ビジネスの行い易さ」に関する
格付けでは、189 カ国・地域のうち、26 位に位置づけられている。
表 5.2 サウジアラビアにおける「ビジネスの行い易さ」に関する格付け37より作成
項目
2014 ランク
2013 ランク
順位変化
ビジネスの始め易さ
84
81
↓ -3
建設に関する許認可の得易さ
17
17
± 0
電力の得易さ
15
15
± 0
財産登録のし易さ
14
12
↓ -2
融資の得易さ
55
52
↓ -3
投資家に対する保護
22
21
↓ -1
3
3
± 0
69
61
↓ -8
契約手続きのし易さ
127
124
↓ -3
破産処理のし易さ
106
109
↑ 3
26
22
↓ -4
税の負担
貿易のし易さ
総合的なビジネスの行い易さ
86
表 5.3 サウジアラビアにおける外資関連法規整備の進展38より作成
時期
2000 年
2001 年
2004 年
2005 年
2007 年
出来事
・
外国投資法を改正(最低資本規制を緩和、100%外資の企業設立を原則認める)
・
サウジアラビア総合投資院(SAGIA)を設置(外資企業の窓口を一本化)
・
資本市場法を制定
・
ネガティブ・リスト見直し(保険など 6 業種を外資に開放)
・
所得税法改正(外資企業の法人所得税率を 45%から 20%に原則引き下げ)
・
資本市場庁および競争法(独占禁止法)を制定
・
労働法を改正
・
知的財産保護法を制定
・
外国投資法施行規則を改正(外資資本金の下限規定を引き下げ)
・
ネガティブ・リスト見直し(8 業種を外資に開放)
・
有限会社(LLC)の外資本金を原則自由化
2008 年
・
株式市場を非居住外国人投資家に公開
2009 年
・
小売り・卸売業、通信、保険業の外資出資比率の上限を引き上げ
87
(1)外国投資促進政策
①法的枠組および税制優遇:外国投資法
2000 年に制定された外国投資法(FIA)は、外資企業とサウジ企業を同等に扱うことを
目的として制定された法律である。同法により、外国からの投資の窓口となる機関として
サウジアラビア総合投資院(SAGIA)が設立されている。SAGIA は、世界各地にオフィス
を設けており、サウジアラビアへの投資に関する関連省庁への手続きを効率的に一括して
行うことのできる機能を有している。
②外資優遇制度
サウジアラビアでは、外資に関する奨励制度(インセンティブ)の整備も進展しており、
一般的なものと、特定業種を対象としたものに大別される。一般的な投資インセンティブ
の例は表 5.4 の通りである。
表 5.4 サウジアラビアにおける投資インセンティブの例 38 より作成
分類
内容
出資比率
・
外資 100%出資による新会社の設立が可能(一部業種を除く)
税制
・
法人所得税は原則として一律 20%(ただし、資源関連の業種は例外)
・
製造業のための資本財や原材料の輸入に対する輸入関税の免除(サウジアラビ
ア国内での調達が困難な場合に限る)
資金調達等
・
低利融資(SIDF:サウジ工業開発基金など)
・
非石油製品の輸出のための輸出信用等供与(SEP:サウジ輸出計画など)
政府調達
・サウジアラビア政府と特定企業とによる政府調達契約の締結が条件により可能
雇用
・
新規採用のサウジアラビア人従業員に対する給与・研修費の政府補助制度
・
2 年間を限度とする訓練中従業員の給与に対する半額援助(HRDF:人材開発
基金)
・
複数の地方州において、サウジ人従業員の育成および雇用に関する費用を 2009
年より 10 年間、税額控除対象とする
インフラ
・
土地及び関連インフラの提供、安価な電力・ガスの提供
88
特定業種に対するインセンティブとしては、製造業の育成を目的として 2006 年に導入さ
れた国家産業クラスター開発計画(NICDP)の取り組みが挙げられる。同計画では、表 5.5
に示す 5 つの重点分野について、輸出志向かつ長期的に競争優位な製造業クラスターの開
発を通し、産業の多角化と雇用拡大を実現することを目標としている。その中の一つに、
太陽光発電が挙げられている。
サウジアラビア政府は、上記目標の実現のために、外国製造業の誘致に注力しており、
重点 5 分野の製造業への進出を検討する外資企業に対しては、関係機関との調整の上、現
地事情の必要に応じたさらなる支援策を展開する可能性を示唆している。
表 5.5 NICDP の重点 5 分野の概要 38 より作成
重点分野
自動車関連
詳細
進捗
組立、部品生産、タイヤ
自動車組立、トラック組立、自動車駆動系、タイヤ
製造が主力プロジェクトとして進められている。
2020 年までに自動車のバリューチェーンには車輌
組立、部品製造、サポートサービスが加わる予定で、
雇用創出と経済成長への貢献が期待される。
建築関連
増大する GCC 地域でのインフラ開発需要を満たす
建築材料、建築資材
ため、幅広い建築資材の国内での製造を目指す。
金属加工
製鉄、アルミ精錬、圧延、加工
アルミニウム精錬所の下流部門のバリューチェーン
の整備が進められている。
包装関連
プラスチックバッグ、梱包材
将来的な中東・北アフリカ市場への製品供給を視野
に、射出成形、ブロー成形、押し出し・ブロー成形、
多層構造、鋳造と配向膜関連の 6 つの主力プロジェ
クトが、既存の包装材ブランドを土台に進められる。
電 気 ・ 電子 ・
冷蔵庫、調理器、洗濯機、冷蔵庫
コンプレッサーの製造、それに必要なモーターの製
太陽電池
等、太陽電池
造が主要なプロジェクトとなっている。また、太陽
光発電の導入にも注力している。
89
③資金調達
サウジアラビアでは、政府が様々な分野・規模に応じた融資制度を整備しており、いず
れも 100%外資企業も適用対象となっている。間接的な資金調達については、商業銀行から
の借入も可能であるが、サウジアラビア政府が各種低金利融資制度を整備している。製造
業案件の場合は、政府特殊金融機関であるサウジ工業開発基金(SIDF)から低金利融資を
受けることができる。大型プロジェクトの場合は、公的投資基金(PIF)の融資を受けるこ
とができる。PIF は、社会公共性の高いインフラプロジェクトに対し、サウジアラビア政府
が将来のキャピタルゲイン等を目的として投資する場合に使われるもので、財務省(MOF)
が管理している。
90
(2)税制
税務の管轄官庁は、財務省ザカート・所得税局(DZT)である。サウジアラビアにおけ
る主要な税は、関税、法人所得税(外資企業向け)、ザカート(制度喜捨:イスラム教徒の
義務)(地場企業向け)である。同国では自国民、外国人ともに個人所得税は課されないた
め、外国人・外国企業にとっての主要な税は法人所得税と関税とに限定される。ただし、
非居住者については、サウジアラビア国内の源泉から発生する所得に対して、源泉徴収税
が課税される。
外国人資本に課せられる法人税率は、原則 20%と国際的にみて比較的低い水準となって
いる。ただし、天然資源を扱う事業者は例外で、天然ガスの投資分野のみに従事している
場合は 30%、石油および炭化水素資源の生産に従事している場合は 85%となっている。サ
ウジアラビアを含む GCC 諸国企業の場合は、2.5%のザカートが課せられている。なお、合
弁企業の場合は、外資持ち分に対しては法人所得税が、GCC 諸国民の持ち分に対してはザ
カートが課せられる。
表 5.6 サウジアラビアにおける所得税制体系 38 などより作成
対象
個人
国籍
外国
サウジアラビア
外国企業
法人
自国企業
(他の GCC 諸国含む)
91
税制
税率
なし
−
所得税
原則 20%
ザカート
2.5%
(3)インフラ整備状況
サウジアラビアの各種インフラは、政府の莫大な石油収入を背景に、全体的によく整備
されているのが特徴である。
①物流インフラ
物流インフラは、航空網と海運網を中心に発達している。サウジアラビアでは、広大な
国土に都市が散在し、鉄道が未発達なことから、人の輸送については航空機が最も利用さ
れている。国内の空港は 2009 年時点で 27 箇所となっており、主要都市と地方を結ぶ航空
網が整備されている。海運については、主要な海港が紅海側に 5 港、アラビア湾岸に 3 港
あり、合計 8 港が稼動している。規模は、58 バースを有する紅海岸のジェッダ・イスラム
港が最大であり、サウジアラビアの輸入の 65%を扱っている。道路についても十分な整備
が進んでおり、国内の主要都市は、通行料金の無料の近代的な高速道路で結ばれている。
一方、サウジアラビアの鉄道は他の物流インフラに比べて未発達である。主な既存の鉄道
網としては、リヤドとダンマン間(全長 571 km)や、北部の鉱山とラスアルハイル間(1,414
km)を結ぶ貨物鉄道に限定される。しかし、メッカ-メディナ間(444 km)の「ハマライ
ン高速鉄道」計画、リヤド-ジェッダ間(950 km)の「サウジ・ランドブリッジ鉄道」計
画等、近年整備が急速に進められている。
図 5.6 サウジアラビアにおけるインフラマップ39より作成
92
②通信インフラ
通信インフラについては、サウジテレコム(STC)の民営化と外国資本への事業開放現
在に伴い、急速に普及している。携帯電話の人口普及率は 2008 年時点で 140%を超えてお
り、固定回線の世帯普及率は約 70%となっている。また、インターネットの普及も急速に
進んでいる。2013 年時点で 30%強となっており、最先端の通信網が都市部だけでなく農村
部でも利用可能となりつつある。
③電力・水道インフラ
電力・ガスのインフラについても、工業団地を含め全体的に整備されている。ただし、
近年の経済発展と人口増加に伴い、供給安定性が課題となっている。特に電力需要がピー
クに達する夏場には停電が生じることもある。現在、政府は積極的に国内の電力事業を開
発・拡大している。また、水道インフラは、工業団地を中心によく整備されている。国内
の大半が乾燥地帯であるサウジアラビアでは、水の確保が古くからの課題となっており、
政府は増水や、ダムによる貯水、海水淡水化等に注力している。しかし、最近の水需要の
増加に伴い、ジュベイル等の一部の都市では水不足が報告されている。
93
5.3.
太陽光発電導入に関する取り組み
(1)導入目標
サウジアラビアでは、図 5.7 に示すように、太陽光、風力、廃棄物、地熱などの再生可
能エネルギーの導入目標を立てている。太陽光発電(PV)については、2032 年までに 16GW
の導入目標となっている。なお、サウジアラビアを含む中東での再生可能エネルギーの導
入は今後これから非常に拡大する見通しであり、図 5.9 に示すとおり、IEA によると、2035
年には、2010 年の約 11 倍(18TWh から 208TWh)に拡大する見込みである。
0
5
GW
15
10
太陽光(PV)
25
30
16
太陽熱(CSP)
25
風力
9
廃棄物
地熱
20
3
1
図 5.7 サウジアラビアにおける再生可能エネルギー導入目標(2032 年)40
図 5.8 サウジアラビアの再生可能エネルギー導入計画41
94
1300%
Middle East
1100%
900%
700%
500%
Africa
Asia
Japan
United States
300%
Europe
100%
2010
2015
2020
2025
2030
2035
図 5.9 中東における再生可能エネルギー導入の見通し42
(2)関連組織
サウジアラビアにおける、再生可能エネルギーの導入、開発にあたっては、2010 年 4 月
に国王令によって、K.A.CARE(King Abdullah for Atomic and Renewable Energy)が設
立されている。K.A.CARE は、再生可能エネルギーおよび原子力といった、化石燃料を代
替するエネルギー源の関連技術および社会的経済的な開発を目的としている。
K.A.CARE は、表 5.7 に示すように、再生可能エネルギー関連バリューチェーンのロー
カリゼーション化(地域産業化)を検討している。再生可能エネルギーの導入推進を目標
とするだけでなく、石油依存の産業構造転換に向け、再生可能エネルギーを産業として如
何に確立していくかが重要なミッションとなっている。
表 5.7 再生可能エネルギーバリューチェーンにおけるローカリゼーションの機会43
製造業
サービス

Curved Mirrors

HCPV Modules

EPC Activities(services)

Absorber Tube

Wind Blades

O&M Activities

Collector

Wind Towers

Pilot Testing

Flat Mirrors

Polysilicon

Heliostat

Celles

Thin Film Modules

Modules
またサウジアラビアの大学研究機関も再生可能エネルギーへの取り組みを推進している。
例えば KSU(King Saud University)は SET(Sustainable Energy Center)を 2 年前に設
立し、太陽光発電を初めとする再生可能エネルギーの技術開発、教育などに取り組んでい
る。
95
(3)関連プロジェクト
K.A.CARE は、太陽光発電に関連するプロジェクトとして、2013 年に、RRMM
(Renewable Resource Monitoring and Mapping)program を立ち上げている。
RRMM は、サウジアラビア国内の太陽光、風力(今後は、地熱、さらには廃棄物エネル
ギー)のポテンシャルを評価するためのプロジェクトで、このプロジェクトで得られた情
報は、将来の再生可能エネルギープロジェクト実施にあたっての基盤情報として活用され
ることとなる。
なお、RRMM は、米国の NREL(National Renewable Energy Laboratory)と Battelle
Memorial Institute と協同で実施している。
表 5.8 に、RRMM プロジェクトで設置される、測定機器の概要を示す。場所によって 3
種類の測定機器の導入が計画されている。2013 年の初めから設置が進められており、現在
32 箇所に設置済み。2014 年 6 月までには 75 の測定機器が導入される予定である。
表 5.8 RRMM プロジェクトにおける測定機器 40 より作成
測定機器
Research Station
Tier1
Mid-Range Station







Simple Station






Tier2
Tier3











内容
Thermopile radiometers for 3 solar components
Pyrgeometer
Photometers
Spectroradiometer
automatic tracker
all-sky imager
temperature, humidity, pressure, 10m wind, AOD
dust deposition
data logger
cellular communications
Requires external power or larger solar power
system. Uncertainty (minute) ~2-3%.
Rotating Shadowband Radiometer (GHI, Diff, DNI)
temperature/humidity, 3m wind
barometric pressure
potentially dust deposition
data logger
cellular communications.
Solar powered. Uncertainty (daily) ~5%.
Global horizontal and Plane of Array (GHI,POA)
photodiode pyranometers
data logger
cellular communications
tripod (optional meteorological data)
Minimal environmental impact. Solar powered.
Uncertainty (daily) ~5%.
96
図 5.10
RRMM プロジェクトにおける測定機器設置場所44
97
なお、2013 年 12 月には、RRMM プロジェクトのラウンチイベント「Launch Event for
the Renewable Resource Atlas of the Kingdome of Saudi Arabia」が実施された。総勢約
700 名が参加しており、RRMM プロジェクトの意義について、金融関係者や発電事業者、
大学研究者の観点から、海外有識者からの発表、パネルディスカッションがなされた。
図 5.11
RRMM ラウンチイベント会場
また、測定システムについて、会場内で、NREL のエンジニアが説明しており、表 5.8
の Tier2 の装置(図 5.12)が展示されていた。
担当者によると、この装置は 32 ヶ所に
設置される予定で、GHI、DNI、DHI、気温、湿度などの測定が可能、データ取得頻度は 1
秒毎、価格は 15,000US$程度とのことである。また次のフェーズとして、スペクトルや
Dust Deposition を含めた 24 パラメーターの測定可能な装置を 24 箇所に設置するとのこと
である(表 5.8 の Tier1 の装置とみられる)。この装置の価格は 50,000US$としていた。
図 5.12 RRMM プロジェクトで設置される測定システム
98
また、下記にパネルディスカッションへの参加者を示す。金融関係者、発電事業者によ
るセッションでは、RRMM で取得されたデータの活用の仕方などについて、研究開発実施
者によるセッションでは、データがどのように今後の研究開発に寄与するかについてのデ
ィスカッションがなされている。
表 5.9 金融関係者、発電事業者によるパネルディスカッション
機関
参加者
K.A.CARE
座長: Director of Stragety Dr. Ibrahim Babelli
ACWA Power*1
CEO Mr. Paddy Padmanathan
National Solar Systems
Managing Director ,Mr. Abdulhadi Al-Mureeh
Abengoa Solar*2
Mr. Antonio Jimenez
VP Global Business Development
Vestas Wind Systems
Mr. Inigo Sabater Eizaguirre
Head of Africa and Middle East Business Development
ENEL Green Power
Deutsche
Mr. Massimo Sciancalepore
Securities,
Saudi Arabia
CEO
Jamal Al Kishi
*1 サウジアラビアで発電所の開発、投資、運営などを行う
*2 太陽熱・太陽光による発電所の開発、建設、運営
スペイン
表 5.10 研究開発実施者によるパネルディスカッション
組織
King
参加者
Abdulaziz
University
DLR*1
座長:Dr. Ramzy Obaid, Associate Professor
Dr. Jurgen Kern Associate
Director of the Research Center for Renewable Energy
Masdar Institute
Mapping and Assessment
Dr. Hosni Ghedira
U.S. National Renewable
Associate Lab Director for Science and Technology
Energy Laboratory
Dr Mike A. Pacheco
Korean
Energy
Institute
of
Technology
Evaluation and Planning
Geo Model Solar*2
President
Mr. Nam Sung Ahn
Managing Director
Dr. marcel Suri
*1 ドイツの航空工学をはじめとしたエネルギー、運輸、安全保障などの研究所
*2 スロバキアのソーラーの地理情報データのデータベースとオンラインサービスの開発・コンサル企業
99
5.4.
認証制度
サウジアラビアが、PV 認証制度を構築するにあたっては、一般機器等の認証を実施して
いる既存の認証機関・制度を活用または参考にすると考えられる。本項目では、既存の認
証機関である SASO および制度の状況を調査した。
(1)概要
SASO(Saudi Standards, Metrology and Quality Organization:サウジアラビア標準化
公団)は、1972 年に商工業省(MOCI)に設置された独立系政府系認証機関である。SASO
はサウジアラビア国内の消費者の保護を第一の目的とし、全ての分野の製品および日用品
を対象に国家の標準(Saudi Arabian Standards:SSA 規格)を制定する。
SSA 規格は、国外から輸入する製品に対するだけではなく、サウジアラビア本土におい
て生産する製品についても同様に適用可能である。
SASO は以下の項目を責務とし、活動を行っている。
・ 国家規格の策定
・ 技術規制(Technical Regulations)の策定
・ 計測・校正手法の確立
・ 品質保証に関するマーキング
・ 製品の検査
・ 技術的な用語と概念の定義の統一
他
①組織の規模および実績
SASO は 650 人の従業員から構成されている。現在までに 26,879 に及ぶ SSA 規格の規
格を策定し、5,585 の湾岸地域共通規格の承認を行った実績を有する。現時点で、策定手続
き中である SSA 規格のドラフト数は 1,500 に及んでいる。
また、SASO は企業に対して、製品の一定以上の品質および工場の管理体制を証明する
品質保証マークを付与している(詳細は後述)
。現在までに、270 の工場に本マークが与え
られている。SASO の品質保証マークはサウジ国内だけでなく、国外の工場も付与の対象
となっており、上記の 270 の工場のうち、湾岸地域が 20 件、エジプトが 10 件、中国が 1
件となっている。
100
図 5.13
SASO 本部(リヤド)45
②組織構成
SASO の組織構成を図 5.14 に示す。SASO はサウジアラビア商工業省(MOCI)の中に
接地されている。組織構成としては、品質保証マーク等を付与する品質保証部門、SSA 規
格を策定する基準策定部門、規格策定の技術アドバイス等を行う研究部門、サウジ国内の
製品の SSA 規格への適合性を評価する適合性評価部門、計測や校正の標準化を行う国家計
測・校正センター等の 8 つの主要部門で校正されている。
商工業省(Minister of Commerce and Industry:MOCI)
SASO
理事会(Board of Directors)
SASO 長官(Governor )
‐‐‐‐
認証評価委員会(Saudi Accreditation Committee:SAC)
品質保証部門
副長官(Vice Governor )
基準策定部門
管理・金融部門
研究部門
情報・技術部門
適合性評価部門
国家計測・校正センター(NMCC)
国際協力部門
Makkah 州支部
Jizan 州支部
東部州支部
図 5.14
SASO の組織構成 45 などより作成
101
Tubook支部
③SSA 規格の概要
SASO が策定する SSA 規格は、サウジアラビア国内の消費者の保護を目的とし、国内に
出回る製品および日用品に対して、一定以上の品質を保証するものとなっている。本規格
は、輸入品については適用が強制されている。
SSA 規格は基本的に国際規格に基づいて策定され、電気・電子機器に関しては、ISO お
よび IEC、食品に関しては CAC、計測・制御については OIML の規格が参考とされている。
これらの国際規格の内容に加え、サウジアラビアの宗教や地理・気候・環境、並びに電圧
等のインフラ事情に適応した要求事項が追加され、SSA 規格が策定される。
なお、現在 SSA 規格がすべての製品項目について策定が進められていないため、SSA 規
格の存在しない項目については国際規格に準拠することとなっている。
表 5.11
SASO の規格策定において参照される国際規格の例 45,46などより作成
項目
全般
電気・電子機器
国際機関
・
GCC(Gulf Standardization Organization:湾岸標準化公団)
・
AIDMO (Arab Industrial Development and Mining:アラブ工業・鉱山開発公団)
・
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)
・
IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)
・
IECEE(Conformity Assessment arm of IEC, CB Scheme:IEC 電気機器安全規格
適合性試験制度)
食品
・
CAC(Codex Alementarious Commission:国際食品規格委員会)
計測・制御
・
OIML(International Organization of Legal Metrology:国際法定計量機関)
なお、SSA 規格の策定に関して、SASO はサウジアラビア商工業省(Minister of
Commerce and Industry:MOCI)と連携を取っている。特に、後述する輸入規制などに
ついては MOCI のルールの影響を受けている。その際、WTO のルールに則ることを前提
としている。
102
④輸入規制:船積前適合検査制度
サウジアラビアでは、原則として全ての輸入品は、船積前の貨物検査を行うとともに、
SASO が認可した検査機関によって発行された適合証明(Certificate of Conformity:CoC)
を取得し、品質保証および宗教的な規則等への適合性(SSA 規格への適合性)を証明する
必要がある。
例外として、自動車補修部品やコンピュータのアクセサリ、販売目的でない積荷や、SASO
品質マークが付いている積荷等は、上記手続きが免除される。
2010 年 4 月からは、エネルギー消費量が比較的多い機器のエネルギー効率の試験の実施
が義務付けられている(CoC の要求事項に追加)。対象品目として、エアコン、冷蔵庫、冷
凍庫、洗濯機が挙げられている。
船積前適合検査のプロセスについて図 5.15 に示す。船積前適合検査制度では、通関の際、
CoC が添付されていない商品や、非認定機関の CoC が添付されている場合、サウジアラビ
ア国内に該当品目の検査機関が存在するなら、規格適合検査を受け、適合が認められれば
通関が許可される。サウジ国内に検査機関が存在しない製品項目の場合、通関は許可され
ない。
例えば、日本からの最大の輸出品目である自動車は、サウジ国内に検査機関がないため、
必ず輸出前に検査を受ける必要がある。
図 5.15 船積前適合検査のプロセス 45
103
⑤国際連携
SASO は米国、トルコ、マレーシア、南アメリカ、エジプト、中国、韓国等の 10 か国以
上の国との技術協力や規格に関する連携を行っている。
特に、米国との結びつきは強く、NIST、 ASTM、 ANSI、 NFPA、 ASHRAE、 ASME、
UL、 AHRI 等と技術協力や人材育成プログラムに関する覚書を交わしている。
SASO は、JICA を中心に、日本とも連携を行った経緯がある。1980 年~ 2001 年にか
けて、SASO の規格標準化に関する技術能力の向上を目的として、JICA を通じ 140 名以上
の個別専門家を派遣し、日本の標準化制度に基づく技術移転を実施している。
また、1996 年~2000 年度にかけて、サウジ政府の要請により、JICA を窓口に、家電製
品の安全性に関する専門技術力強化や、専門家・技術指導者の能力向上を目的とした第 3
国集団研修を実施している。
⑥将来ビジョン
サウジアラビアは巨大な工業国家になることを目標としており、SASO は、その目標に
資する品質保証のためのインフラの整備に注力している。SASO は、今後の方針として国
際性のさらなる拡大を図るとしている。また、今後の重要な戦略として、消費者の満足の
追及だけでなく、内部プロセスの効率化や人材育成、研究開発を強化していくことを掲げ
ている。
104
(2)基準策定
①規格策定に関する組織
SSA 規格を策定するにあたり、SASO 内において全体委員会(General Committee)、技
術委員会(Technical Committee)、マネジメント委員会(Management Committee)が設
置されている。
SSA 規格は、国内の製造業者、貿易業者、行政機関、学術機関が委員会の委員として議
論を行いながらドラフトが作成される。このようなシステムを採用することにより、客観
性を向上するとともに、利害のバランスを取っている。
1)全体委員会
SASO における全体委員会は、以下の 6 分野の委員会が存在する。全体委員会は、規格
策定に関して中心的な役割を担っており、規格策定プロジェクト等に関する短中期的な計
画の提案、技術委員会内におけるプロジェクトの立ち上げに関する提言、委員会の取り纏
めや、組織運営に関するアドバイスを行う。
表 5.12
SASO における全体委員会とその役割 46 などより作成
委員会名
・
建設・建築材料委員会
・
化学・石油製品委員会
・
機械・金属製品委員会
・
電気・電子製品委員会
・
繊維製品委員会
・
計測・校正委員会
役割
・
規格策定プロジェクト等に関する短中期的な計
画の提案
・
技術委員会内におけるプロジェクトの立ち上げ
に関する提言
・
委員会の取り纏め
・
組織運営に関するアドバイス
・
技術委員会が用意したドラフトに関する議論
上記の 6 分野以外にも、SASO 内において、必要に応じて新たな基本委員会を設置する
ことが可能となる。その際の設置期間は、最大 3 年間であり、メンバーは 7 人以上 15 人以
下で構成される。
105
2)技術委員会
技術委員会は各分野の全体委員会の下に設置され、ドラフトの作成並びに全体委員会の
サポートを行う組織である。技術委員会は SASO の Governor の判断によって設置され、
10 人以下のメンバーで構成される。
表 5.13
SASO における技術委員会 46 などより作成
全体委員会名
建設・建築材料委員会
化学・石油製品委員会
機械・金属製品委員会
電気・電子製品委員会
繊維製品委員会
計測・校正委員会
技術委員会
・
衛生材料委員会
・
セメント・コンクリート委員会
・
ドア・窓委員会
・
パイプ委員会
・
ガラス委員会
・
石油製品委員会
・
洗剤・保健用品・化粧品委員会
・
プラスチック委員会
・
ペンキ委員会
・
冷却・エアコン委員会
・
家具委員会
・
圧力器具委員会
・
蒸気器具委員会
・
浄水装置委員会
・
家庭用電気器具委員会
・
ケーブル委員会
・
電気通信機器委員会
・
照明委員会
・
電気システム委員会
・
医療機器・用品委員会
・
電気的変換機器委員会
・
非電離電磁波安全委員会
・
繊維製品技術委員会
・
物理的基準委員会
・
機械的基準委員会
・
電気・電子基準委員会
・
圧力および振動荷重基準委員会
・
視覚・聴覚基準委員会
・
放射性物質基準委員会
基準のドラフトを技術委員会自ら作成することもできるが、下部組織である Working
Group の中の専門家に委託することも可能である。技術委員会の中で作成された規格に関
するドラフトは、各セクターの全体委員会に提出される。ドラフト作成にあたり、必要に
応じて後述する SASO 内の研究所からの助言を受ける。
106
3)マネジメント委員会
マネジメント委員会は、SASO 内の総務部(General Administration)の中に設置され、
全体委員会と技術委員会等の関連組織間のコーディネートを行う組織である。
4)技術研究所
SASO は分野別に表 5.14 に示すような技術研究所を有している。これらの研究所は、規
格の策定や運用にあたり、技術的な知見を提供することを主な役割としている。また、船
積前適合検査の際に、適合証明(CoC)の添付されていない輸入品に対して、SSA 規格へ
の適合性を評価する他、品質保証マーク審査の際の現地立ち入り検査なども実施する。な
お、計測・校正試験等については、国家計測・校正センター(National Measurement and
Calibration Laboratory:NMCL)が担当し、測定器具に関する試験の実施や、技術基準等
の策定を行う。
表 5.14
SASO 内の技術研究所とその役割
研究所名
役割
・
電気・電子研究所
・
SSA 規格をドラフトに関するアドバイス
・
金属研究所
・
規格を運営するため技術的なアドバイスの提供
・
建築材料研究所
・
輸入製品および国内製品に対する SSA 規格のサン
・
化学研究所
・
一般材料研究所
・
繊維研究所
プル試験の実施
・
品質保証マーク審査における工場等への立ち入り
検査の実施
107
②基準策定プロセス
SASO における基準策定プロセスを図 5.16 に示す。SASO では、基準策定にあたり、ま
ず最初に全体委員会内で新たな基準に関する提案がなされる。その提案が、同委員会内で
議論されたあと、年間計画(または 5 カ年計画)に組み込まれる。
次に、全体委員会から対象分野の技術委員会に基準策定に関する企画案が提出され、技
術委員会内でドラフトが作成される。技術委員会では、担当の委員らがドラフトを作成す
ることもできるが、当該基準策定プロジェクトのためにワーキンググループを設置し、作
業を行うこともできる。ドラフト作成の際、SASO 内の技術研究所が必要に応じて技術的
な知見を提供する。
完成したドラフトは、全体委員会に提出され、議論並びにフォローアップが行われる。
全体委員会内では基準内容に関する審議が行われ、承認を得たドラフトは再び技術委員会
に戻され、完成版に向けた作業が実施される。この際、具体的には、全体委員会から技術
委員会のマネジメントに対して指示がなされる。
全体委員会と技術委員会の中で、やりとりがなされ、完成した基準案は、マネジメント
委員会を通じて SASO の理事会に提出され、承認を得た後、SASO のホームページ内で一
般公開される。
全体委員会
技術研究所
技術委員会
ワーキンググループ
提案
作業および
サポート
年間計画への
組み込み
ドラフト作成
技術的知見
を提供
ドラフトに対する
議論・承認
基準詳細部に関する
指示・承認
基準詳細部の作成
コーディネート
SASO理事会
コーディネート
基準に対する承認
マネジメント委員会
基準の一般公開
図 5.16
SASO における基準策定プロセス
108
•電気・電子研究所
•金属研究所
•建築材料研究所
•化学研究所
•一般材料研究所
•繊維研究所
(3)認証の実施
①品質マーク制度
SASO はサウジ国内の企業および国外の企業に対し、製品が SSA 規格をクリアしている
ことの証明として、品質保証マークを付与している。品質保証マークの取得は強制ではな
く、マークが付けられていることにより、科学的根拠に基づく安全性が保証されるととも
に、消費者の信頼と満足を得られることがメリットとなる。また、輸出等の手続きの簡易
化することが可能となる。
図 5.17
品質保証マーク(Saudi Quality Mark)46
109
②認証プロセス
図 5.18 に品質保証マークが付与されるまでのプロセスを示す。企業は製品ごとに品質保
証マークの申請を行う必要がある。品質マークが付与される条件として、品質管理体制(部
署・設備等)を有していることが挙げられる。認証後も、SASO は定期的に、企業の品質
管理体制ならびに製品が基準を満たしているかチェックを行う。
ステップ1
書類審査
初期検査
2‐1
工場訪問・検査
2‐2
サンプルの採取・
試験の実施
2‐3
試験装置・測定機器
の校正
2‐4
審査・通知
ステップ2
ステップ3
品質保証マークの授与
ステップ4
定期検査
図 5.18
品質保証マーク付与のプロセス 46 などより作成
110
ステップ 1:書類審査
企業から品質保証マークを要求する製品に関する書類が SASO に送付され、本マークを
付与の妥当性等について、最大 30 日間の審査が行われる。
ステップ 2:初期検査
2-1
SASO 職員が企業の工場を訪れ、初期検査を実施する。
2-2
工場の製品の製造工程や品質管理体制に関する記録、および品質試験の結果等を
基に、SASO 独自の品質マニュアルの規定に合致しているかを審査する。
2-3
製品の中からサンプルを採取し、必要に応じて SASO 内で品質試験が行われる。
2-4
品質試験装置および測定機器について、校正・メンテナンスを行う。
2-5
SASO における品質試験の結果を基に、試験実施後 30 日以内に製品提供元の企
業に対し、品質保証マークの付与の是非に関する結果を通知する。
ステップ 3: 品質保証マークの授与
ステップ 2 の品質試験をクリアした製品の製造元企業には、品質保証マークを授与する。
品質保証マークの有効期間は 1 年間であり、毎年企業から SASO に申請が行われれば自動
的に更新される。
ステップ 4:定期検査
品質保証マークを授与された企業に対しては、最低 2 年に 1 回の頻度で、ステップ 2 と
同様の検査が実施される。その際、SASO は、対象製品の工場からサンプルをランダムに
採取し、SSA 規格に対する適合性を確認することができる。
111
5.5.
PV 認証制度構築に関する検討
本項目では、具体的なサウジアラビア認証制度構築に関する検討事項について、記載する。
(1)認証制度の検討にあたって
サウジアラビアでは 2032 年までに 16GW と非常に大量の太陽光発電システムの導入を
目指している。この背景には、サウジアラビアの主要産業である石油輸出の維持があり、
非常に現実的な目標になっているものと見られる。一方、サウジアラビアは、雇用を生み
出すための一つの戦略として、太陽光発電関連バリューチェーン産業の開発・育成を検討
しており、単に PV の導入推進のみならず、サウジアラビアにおける太陽光発電産業の発展
と雇用創出が大きな目標となっている。
これらのサウジアラビアが目指している持続的な PV 産業育成を実現するためには、図
5.19 に示すように、PV 認証スキームを構築し、
高品質 PV を導入するための仕組みづくり、
サウジアラビアの砂漠気候等に適応した評価方法の確立、さらにはサウジアラビア国内に
PV 認証機関を設立、運営するためのローカリゼーションが重要となると考えられる。
高品質モジュールの導入は、サウジアラビアにおけるキーワードの一つとなると考えら
れる。日本のモジュールは品質が高いことが知られているが、海外のモジュールには必ず
しも信頼性が高くないものも多い。サウジアラビアは、経済的な余力もあり、高品質のよ
さ、ライフサイクルでの経済性評価が見直されている国でもある。日本品質のモジュール
を担保している、日本の認証制度を導入することで、サウジアラビアでの高品質モジュー
ルの導入後押しをすることが重要となる。
また、ローカリゼーションも重要なキーワードとなる。日本の太陽光発電産業界全体で、
サウジアラビアでの産業化を支援することで、日本にとっては、今後成長が見込まれる
MENA 地域での PV 市場展開の拠点に、サウジアラビアにとっては図 5.20 に示すような
太陽光発電関連バリューチェーン産業における雇用の創出に寄与することができると考え
られる。特に認証制度については、今後サウジアラビアで普及する太陽光発電製品を決め
るための重要な位置づけとなるものであり、日本の産業界からの早期からの積極的な関与
が望まれる。
最後に、サウジアラビアは砂漠気候等の特殊な気候下にあるため、その環境に適した、モ
ジュールの性能評価、安全性評価が重要となる。モロッコと同様に、2.3 で検討した事項を
元に、サウジアラビア独自の規格を SASO が中心となって策定し、認証制度を構築するこ
とが必要となる。
112
MENA*における
PV産業のリーダー国へ
持続可能なPV産業の開発
高品質
モジュールの導入
砂漠気候に適応した
効果的なPV評価
認証スキームの
ローカリゼーション
PV認証スキーム
* Middle East & North Africa
図 5.19 サウジアラビアにおける認証制度構築の目的
PV セル・
モジュール製造業
技術者、工場勤務者
EPC 企業
太陽光発電所の
建設技術者
O&M 企業
太陽光発電所の
維持管理運営者
太陽光発電産業の支援
認証機関
屋内試験技術者
屋外試験技術者
認証実務運営者
研究機関
PV関連技術研究者
図 5.20 サウジアラビアでの PV 産業における雇用創出のイメージ
113
(2)認証制度案
サウジアラビアでは GDP7,000 億ドルと経済的水準も高く、SASO における独自規格であ
る SSA 規格の策定取り組みなどを見ると認証機関としての能力も高いと見られる。そのた
め、太陽光発電の認証制度は、サウジアラビア特有の環境を精度よく適応させた、屋外試
験、屋内試験のフルスペックでの実施が可能であると考えられる。また、サウジアラビア
は、将来 MENA 地域での PV 産業のリーダーを目指す位置にあると考えられ、サウジアラ
ビアの認証制度を MENA 地域に拡大できる潜在力があると考えられる。そういう観点から
も、早期にフルスペックでの認証制度を導入していく意義が大きい。
具体的にはモロッコで検討したオプション C 案をベースとして、さらに認証制度のローカ
リゼーションを強化するため、日本の専門家の現地指導によるサウジアラビア人の教育、
訓練、さらには、サウジアラビアの現地大学や研究機関等とパートナー提携をしながらエ
ンジニアの育成を実施するなど、人材開発に力を入れるスキームが考えられる。具体的に
は図 5.21 のような体制が考えられる。
日本品質
サウジアラビア
日本
持続可能なPV産業の発展
高品質
PV産業
16GW
高品質PV産業の推進
ローカリゼーション
1.サウジアラビアへの適応
(基準・認証)
K.A.CARE
ローカリゼーション
高品質PVのための
認証スキーム
Japan Electrical Safety & Environment Technology Laboratories
2.ローカリゼーションに
向けた人材開発
サウジアラビアの大学、
研究機関等
*
日本の大学、研究機関等
*AIST : Advanced Industrial Science and Technology
図 5.21 サウジアラビアにおける認証制度構築支援のイメージ
114
6. 最後に
本事業では、モロッコ及びサウジアラビアにおける PV 認証制度構築にあたっての基礎情
報として、既存の PV に関する国際規格や PV 認証試験に関する設備の調査を実施した。ま
た、太陽光導入先進国の導入政策状況、認証機関概要や PV 認証サービスについて調査を実
施した。
これらの情報と、モロッコやサウジアラビアでの経済産業状況や太陽光発電導入に関す
る取り組み、既存の認証制度を踏まえ、PV 認証制度構築に関する検討を行った。
PV 認証制度構築に関する検討では、モロッコについては、特に費用対効果の観点から、
どのレベルの制度構築を目指すかについてオプションを検討し、サウジアラビアについて
は、サウジアラビアにおける PV 産業育成を目的とした認証制度構築の方向性について検討
をした。
認証制度は、これから太陽光発電の導入を進める両国にとって、基盤となる位置づけの
ものであり、日本の PV 産業界の積極的な関与が望まれる。本項目で検討した内容を、日本
国内における議論のきっかけにし、今後モロッコやサウジアラビアの関連組織への提案を
検討していく必要がある。
また、両国以外にも MENA 諸国をはじめ、様々な国で今後太陽光発電の導入拡大が目指
されている。これらの PV 新興国についても同様に、認証制度の提案を検討し、日本の PV
産業界の新市場参入への足がかりにしていく必要がある。
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