クラウド時代のITサービス管理

ITR White Paper
クラウド時代のITサービス管理
株式会社アイ・ティ・アール
C14110070
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目 次
第1章
IT サービス管理が求められる背景 .................................................................................. 1
求められるプロバイダー型 IT 組織へのシフト............................................................ 1
業務の高度化が遅れる IT 部門..................................................................................... 3
IT 業務におけるツール活用 ......................................................................................... 4
第2章
ツール市場の現状 ............................................................................................................ 6
IT サービス管理の市場動向 ......................................................................................... 6
市場浸透するサービスデスク/インシデント管理ツール ........................................... 7
ITIL 対応の必要性........................................................................................................ 8
第3章
業務高度化を導くツールのあり方 ................................................................................. 10
ITIL 導入へ向けて...................................................................................................... 10
SaaS 型 ITIL ツール .................................................................................................... 11
IT 組織のための情報システム(IT for IT) ................................................................ 12
第4章
提言................................................................................................................................ 15
結論 ........................................................................................................................... 15
提言 ........................................................................................................................... 16
i
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クラウド時代の IT サービス管理
第1章
ITサービス管理が求められる背景
厳しい経営環境と急速なIT市場の変化から、企業ITを支えるスタッフのプレッシャーは日増しに強
まっている。IT組織はコストセンターから脱却し、事業部門やグループ企業に貢献する社内サービ
ス・プロバイダーとしての役割を指向すべきである。
求められるプロバイダー型IT組織へのシフト
急速かつ絶え間ない技術進展がIT市場に影響を及ぼしていることは周知の通りだが、
とりわけクラウド・コンピューティングの市場浸透はここ数年著しい。クラウドが実
現するビジネススピード、コスト透明性、資源効率といった価値は、企業のIT部門だ
けでなく、場合によってはそれ以上に、経営幹部や事業責任者に認識されていると言
える。トップダウンでクラウド活用の検討を推進する、事業部が率先してクラウド事
業者と契約するといった動きもいまや珍しいものでない。技術、コスト、サービスレ
ベルなどあらゆる観点で外部ベンダーと比較されることで、IT部門(情報システム子
会社を含む)は多大なプレッシャーを抱えているのが現状である。社内から寄せられ
る意見として、以下のようなものがあげられる。
<IT部門への意見>
・外部のSaaSやIaaSは随分と便利なようだが…
・そもそも弊社のITには技術的な競争力があるのだろうか
・市場相場に見合った適正なコストで運営されているのだろうか
・自部門のIT費用の負担は、他の部門やグループ会社と比べて公平なのだろうか
こうしたことは必ずしも最近見られるようになったものではなく、以前から多くの
IT部門が類似の課題を抱えていた。クラウドに代表される外部サービスの進化が、そ
れを後押ししたに過ぎない。そもそもIT部門の多くは、コストセンターとして機能し
てきた歴史的背景があり、競争市場に目を向ける機会は限られていた。世の中で売り
物になるかどうかは必ずしも意識する必要がなく、システムオーナーの品質、コスト、
納期への要求にベストエフォートで応えていればよかったと言える。
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しかし、今日では、クラウドサービスに代表される良質でローコストの外部サービ
スが台頭したことで、社内ITにおけるパフォーマンスの良し悪しは厳しく監視される
ようになった。IT部門が供給するシステムやサービスは市場競争力が問われ、オンプ
レミスが不利益であれば、外部の技術やサービスを臨機応変に取り入れることも要求
される。事業部門が直接外部サービスを利用するような場合も、技術評価指針や選定
ガイドラインの提供を通じて全社利益に寄与することが期待されている。
このようにIT部門への要求が強まるなか、企業におけるグループ経営戦略やグロー
バル化の推進がさらに拍車をかけている。大手企業の多くは、グループワイドで共通
システム基盤の展開を進めているが、それにはグループの個社向けのサービスメ
ニューや価格体系の整備が不可欠となる。以前のように特定の事業部向けに人件費や
ハードウェア費を積算しただけのコスト管理では間に合わない。コストやサービスレ
ベルはサービス(グループウェア、仮想サーバなど)ごとに管理しなければならず、
公平な受益者負担に向けた課金方針も必要である。
こうした環境変化に対応するには、まずは、IT部門に求められる役割が変化してい
ることを認識しなければならない。これからのIT部門には、「商売」する姿勢が不可
欠といえる。社内の機能部門やコストセンターではなく、社内/グループ内のサービ
ス・プロバイダーとしての役割が求められている(図1)。
図1
プロバイダー型IT組織への移行
コストセンター型IT組織
マ
イ
ン
ド
サービス・プロバイダー型IT組織
責任
成果
 身内感覚
 御用聞き営業/指示待ちSE
 技術革新への追従
 プロ意識
 提案型の営業/コンサルタント
 能動的なイノベーション
 曖昧なスコープと責任
 ベストエフォートの品質管理
 品質、コスト、納期の確保
 サービスカタログの提供
 サービスレベルのコミットメント
 市場競争力の確保
 コストの積み上げによる管理
 構築・運用費に基づく請求
 予算消化と工数確保
 受益者負担型の課金体系
 サービスの価格競争力
 目標達成と継続的改善
出典:ITR
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プロバイダー型IT組織とは、市場競争を前提にビジネスを行う「サービス・プロバ
イダー」を指向するIT組織(事業部IT担当、情報システム子会社、主要ベンダーなど
を含むIT部門を中心としたチーム)である。必ずしも利益を出すのではなく、市場競
争に身を置き、ITのプロとしてのマインド、責任、成果を求める組織をいう。IT組織
はグループ企業や事業部門を顧客と見立てて、均質なサービスを提供し、コストや品
質の説明責任を果たすことが望まれる。また、今後は、事業とITの関わりはより密接
となり、先進企業ではデジタル・イノベーションやビジネス・テクノロジの専門チー
ムも立ち上がるだろう。IT組織は、成熟したITのプロとして、これらの推進を十分に
下支えし、支援する役割を果たさなければならない。
業務の高度化が遅れるIT部門
市場競争を見据えたプロバイダー型IT組織にとって、IT業務の効率化は避けて通れ
ない。そもそもIT部門は、技術に精通し情報化に長けているはずで、高度に洗練され
たマネジメントやオペレーションを行っていても不思議はない。事実、これまでも業
務処理の自動化、経営情報の見える化など、さまざまなシステム化施策をリードし、
業務の高度化を支援してきた。しかし、その活動の大半はユーザー部門に向けられた
もので、ひるがえってIT部内に目を向けると、意外にもシステム化が進んでいないケー
スが少なくない(図2)。なかには「紺屋の白袴」などと形容されるIT部門も存在する。
図2
業務高度化が遅れるIT部門
経営情報の見える化
業務処理の自動化
ユーザー部門に対しては・・・
アプリケーションの機能拡張
ユーザー・インタフェースの改良
情報共有基盤の提供
データの保全と管理
IT部門内では・・・
出典:ITR
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IT組織は、事業のデジタル化や情報活用の規範となるべく、率先して業務のIT活用
を進めるべきである。IT活用が未成熟なために非効率、低品質、属人化といった問題
が起こるのは、ナンセンスであり、容認できなくなってきている。現在の業務遂行レ
ベルやITマネジメントの成熟度を認識し、自らの業務を高度化することが推奨される。
IT業務におけるツール活用
プロバイダー型IT組織を見据えて、マインド、責任、成果を再定義し、管理プロセ
スをあるべき姿に近づけることが望まれる。しかし、それには同時に相応の技術対策
が不可欠である。特に大手企業のIT組織では、管理対象となるコンピューティング資
源やサービスが大量かつ複雑化しており、サポートすべきビジネスユニットも多岐に
わたる傾向にある。事業の拡張・撤退といった戦略変更に追随するため、企画・開発・
変更についてもスピードが求められている。
これまでもIT組織はツールによる業務の効率化を図ってきたが、多くの場合、それ
らは十分なものとは言い難い。通常、運用管理ツールは、大規模システムの構築や刷
新に合わせて導入された経緯がある。そのため、開発支援や運用管理といったオペレー
ショナルな領域のツールはサイロ化する傾向が強く、必ずしもシステム間を横断する
かたちで統合されていない。また、ITサービス管理やPPM(プロジェクト・ポートフォ
リオ管理)といった上位のマネジメントを支援するツールについては、大手企業であっ
ても部分的な導入にとどまり、導入価値が十分享受できていない。こうしたことから、
IT業務のシステム化でのツールの活用は、特に大手企業においては重視しなければな
らない。
昨今の大手企業におけるIT業務の代表的なシステム構成例を図3に示す。プロバイ
ダー型IT組織が、ITサービスの市場競争力を具備するには、こうした実用的なツール
を活用したITサービス管理の実践が不可欠となる。受動的あるいは断続的なツール導
入を見直し、全体最適化を見据えたシステム化を指向すべきである。それには、IT業
務全体を俯瞰した管理アーキテクチャを構想化し、導入計画を立案することが求めら
れる。
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図3
IT業務のシステム化
管理ポータル
投資計画/
予算管理
最適化支援
ツール
ポートフォリオ
評価
案件管理
PPMツール
ソーシング計画
人材/スキル
DB
プロジェクト
管理ツール
サービスレベル
管理
IT財務管理/
課金配布
資産管理
ツール
ITサービス
管理ツール
サービスデスク
CMDB
システム運用
管理ツール
セキュリティ管理
プロジェクト管理
リクエスト管理
/満足度調査
構成/変更管理
サービス
カタログ
人材育成計画
監査台帳
開発・保守
工程標準
ベンダー管理DB
運用工程
標準
PPM:プロジェクト・ポートフォリオ管理
CMDB:構成管理データベース
出典:ITR
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第2章
ツール市場の現状
ITサービス管理ツールの市場は高い成長率で拡大を維持している。計画・検討段階にある多数の潜
在的なユーザーが存在する一方で、サービスデスク/インシデント管理を筆頭にITILに対応するIT
サービス管理ツールの導入は進む傾向にある。
ITサービス管理の市場動向
ITサービス管理は、後発の市場分野であり、多種のベンダーが存在する。管理アー
キテクチャを構想化するにあたっては、市場環境を把握しておくことが有益である。
ここで、運用管理ツール市場について概観し、その市場動向に触れておこう。
ITRでは毎年、運用管理ツール(製品/SaaS、汎用機向けを除く)の市場規模およ
びシェアを調査している。運用管理製品は18分野に分類されるが、さらに大きくシス
テム運用管理分野(イベント管理、ネットワーク管理、サーバ管理、DBMS管理、ア
プリケーション管理、ジョブ管理、ストレージ管理、バックアップ/リカバリ、HAク
ラスタ、仮想化構築、クラウド管理)とITサービス管理分野(サービスデスク/イン
シデント管理、IT資産管理、変更/構成管理、PC資産管理、エンドユーザー体験管理、
SLM/BSM、キャパシティ計画)の2つに分類している。
図4
運用管理ツール:市場規模推移および予測
(単位:億円)
3,000
2,500
2,000
1,500
293
330
355
381
1,000
500
406
432
459
ITサービス管理分野
システム運用管理分野
1,640
1,949
1,539
1,847
1,447
1,746
1,365
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
2018年度
0
*2014年度以降は予測値
出典:ITR「ITR Market View:運用管理市場2014」
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運用管理ツール市場全体は、この数年間二桁増を維持してきた。2013年度は通信業
の大口投資の減少から、市場の伸びにやや陰りが出始めているものの、CAGR 6.3%
(2013∼2018年度の年平均成長率、以下同じ)で成長すると予測される。特に、ITサー
ビス管理市場は、CAGR6.8%とやや高い成長率を維持すると見られる。なかでも、変
更/構成管理(同8.1%)、IT資産管理(同7.6%)、PC資産管理(同7.0%)、サービ
スデスク/インシデント管理(6.5%)は、高い伸長率で推移する成長分野に位置付け
られる。
変更/構成管理やIT/PC資産管理が伸びる背景には、昨今のライセンス監査対応へ
の需要増があげられよう。ベンダー各社が大口顧客を対象に、ライセンス不正利用の
実態調査を行っており、追加支払いを要求される企業も少なくない。
市場浸透するサービスデスク/インシデント管理ツール
一方、サービスデスク/インシデント管理は、ITサービス管理に関する各種のプロ
セスの中でも適用率が高く、ファーストステップとして扱われることが多い。そのた
め、ツールの導入は一巡したと見られるが、裾野の拡大や大規模更改などの需要から、
市場はプラス成長を続けている。SaaSで提供するベンダーも増えつつあることも、市
場の活性化を促している。企業におけるサービスデスク/インシデント管理ツールへ
の投資は、図5のような動向を示している(図5)。
図5
サービスデスク/インシデント管理ツールの投資動向
0%
25%
50%
75%
100%
2.8%
全体(N=321)
48.0%
37.4%
5.6%
6.2%
2.8%
5,000人以上(N=108)
59.3%
28.7%
4.6%
4.6%
3.8%
1,000〜4,999人(N=105)
44.8%
41.0%
4.8%
5.7%
1.9%
100〜999人(N=108)
39.8%
42.6%
7.4%
導入済みであり、今後も投資を拡充する方針
導入済みだが、投資は拡充しない方針
未導入であり、1年以内に導入を計画
未導入であり、3年以内に導入を計画
8.3%
未導入であり、導入予定もない
出典:ITR(2014年9月)
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全体として現在の導入率は約85%であり、特に企業規模が大きいほど導入が進んで
いる傾向がうかがえる。また、「導入済みであり、今後も投資を拡充する方針」の回
答者が非常に多く、全体の半数以上を占めている点も注目される。特に今日では、海
外を含むグループ企業への対応が求められ、グローバルでの集約化やツールの統一化
も進むであろう。また、サービスデスク/インシデント管理は、他のITサービス管理
プロセスの検討機会にもつながると見られる。
ITIL対応の必要性
過去において、サービスデスクや構成管理といったツールは独立した専用ツールと
してリリース・提供されてきたが、今日ではスイートやファミリ製品での展開が進ん
でいる。この理由のひとつに、ITサービス管理の標準規格であるITILの普及があげら
れる。ITIL V3では、対応ツールが存在するプロセスが十数個あり、特に海外ベンダー
においては、これらに準じてスイート化するベンダーの例が多い。また、製品群の拡
充を狙って、M&Aや組織再編を行うことも一般的となっている。
では、そもそも企業がITサービス管理を行ううえで、ITIL対応ツールは必須なのだ
ろうか。ツールの導入状況および必要性について調査した結果、図6の回答が得られた。
図6
ITIL対応ツールの導入状況と必要性
わからない
18.0%
すでに導入している
25.6%
導入する必要はない
11.9%
導入を計画・検討し
ている
44.5%
(N=328)
出典:ITR(2014年9月)
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調査結果では、「すでに導入している」企業が25.6%となった。なお、従業員5,000
人以上の企業に限れば39.1%の導入率であり、ITIL導入は主に大企業が牽引している
状況が読み取れる。
一方で、注目すべきは、「導入を計画・検討している」企業が全体の44.5%と非常
に多い点であろう。このように潜在的なユーザーは多く、「導入する必要はない」と
の回答は11.9%と少数派となっている。総じて、ITIL対応ツールの導入価値について
は多くの企業が認めているようである。未導入の企業は、プロバイダー指向のIT組織
についてのビジョンを描き、これを具現化するためのITIL対応ツールの導入手法や活
用効果について検討を進めることが推奨される。
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第3章
業務高度化を導くツールのあり方
今後、IT組織の業務の高度化を推進するにあたって、ITサービス管理やITマネジメントを支援する
上位ツールの検討は避けて通れないものとなるだろう。特に、スモールスタートやグローバル展開
を見据えた時、SaaS型ツールの採用は有力な候補となり得る。
ITIL導入へ向けて
ITILの導入は敷居が高いものと捉えられがちである。ITIL認定技術者の資格取得に
要する費用も他の技術者資格に比べて高額であり、専門コンサルタントの単価も高い
傾向にある。しかし、関連規格(ISO20000など)の認定を目的とするのでなければ、
ITILの導入は必ずしもハードルが高いと考える必要はない。ITILはもともと汎用化さ
れたベストプラクティスの集合体であり、管理プロセスの規範に過ぎない。自社のIT
サービス管理をより良くする智恵を得るための参考書と捉えればよいだろう。
そうは言ってもITILのスコープは広く、現行のIT業務に広範囲に影響するので、一
気呵成に適用しようとすると無理が生じる。このためほとんどの導入企業は、特定の
プロセスへの適用から開始し、段階的に対象プロセスを拡大するスモールスタート方
式を採用している。この時、一定規模の予算を確保し、ITIL導入を単独でプロジェク
ト化できればベストであるが、一般企業においては経営からそのような承認を得るの
は容易でない。通常、ITILはビジネス用語として認識されておらず、また、導入によ
るROIについて、事前に合意形成するのが困難な場合も少なくない。例えば、CMDB
(構成情報データベース)の導入により大規模障害の切り分け時間が短縮されたなど
の効果は、導入後でなければ明らかにならない。そのため、ITILは、他のプロジェク
ト(基幹システムの更改、ユーザーサポートの変革、内部統制の強化など)に紐づけ
て補完的に導入することが、より円滑な推進につながると見られる。
適用対象となるプロセスを見極める際は、IT業務の現状を確認し、あるべき姿を設
定しておきたい。現状把握にあたっては、推進団体であるitSMF(ITサービスマネジ
メントフォーラム)が提供するセルフアセスメントやベンダーが提供する診断サービ
スなどが利用できる。あるべき姿については、ITILなどを参照して構想化することと
なる。プロジェクトメンバーに、上級資格でなくていいので有資格者を参画させると
その助けになるだろう。また、多数のITILプロセスに対応する準拠ツールを視野に入
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れることも、これらはあらかじめITILの考え方が組み込まれているため、有用である。
そのようにして、対象プロセスをある程度明確化すれば、ツール導入を前提として、
改善シナリオを描くことができる。
SaaS型ITILツール
ITILツールは、これまで製品版が主流であったが、最近はSaaS版の選択肢も増え、
有効な検討対象となり得る。SaaS版は、特にスモールスタートやトライアルでの利用
に有利であり、ITIL導入のハードルを下げることができる。運用管理ツール市場では、
資産管理、サービスデスク/インシデント管理など一部の分野でSaaS版の提供例が見
られ、小規模ながら市場が形成されている。特に、ITサービス管理の分野は、SaaSモ
デルとの親和性が高い。インフラのインベントリ収集(ディスカバリ)と連携するよ
うなプロセス(構成管理など)で導入時に管理対象側にエージェントを立てる以外は、
本番環境に手を加える必要なく、常時オンラインで機能を利用できる。
現在、SaaSで提供されるITILツールには、プロセスの対応度に差異が見られる。現
在、日本市場向けにリリースされるSaaS型ITILツール(少数のプロセスだけに対応す
るものは除く)には下記のものがあげられる(図7)。
図7
SaaS型ITILツール
開発元
BMC Software
CA
HP
ServiceNow
ツール名
BMC
Remedyforce
Service Desk
Nimsoft Service
Desk
HP Service
Anywhere*
ServiceNow
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
認定
認定
可用性管理
野村総合研究所
Senju Service
Manager SaaS版
キャパシティ管理
変更管理
イベント管理
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
製品版で認定
認定
なし
財務管理
インシデント管理
○
ITサービス継続管理
ナレッジ管理
問題管理
リリース/展開管理
リクエスト処理
サービス資産/構成管理
サービスカタログ管理
サービスレベル管理
○
○
○
サービスポートフォリオ管理
<PinkVERIFY認定>
○
○
*HP Service Anywhereは公開情報が限られるため、同SaaSの製品版である「HP Service Manager software」の機能を掲載。
出典:PinkVERIFYサイトおよびその他公開情報(執筆時点)を基にITRが作成
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グローバル展開(海外を含むサービスデスクの統合など)を進める企業においては、
地理的制約や実装の迅速性からもSaaSはメリットがあるといえる。製品版と異なり、
SaaSはカスタマイズが効かないとの印象もあろうが、実際に提供するベンダーは製品
の開発元でもあり、カスタマイズが可能なことが多い。こうしたことから今日ではITIL
ツールのSaaS版は、製品版と同等かそれ以上のソリューションとなり得る。
IT組織のための情報システム(IT for IT)
プロバイダー指向のIT組織にITサービス管理ツールが重要な役割を果たすのはこれ
まで述べた通りだが、最後に、IT組織のための情報システム(IT for IT)の将来ビジョ
ンについて考えてみる。
運用管理ツールは、汎用機の時代に、システムの運行を監視したり、定型ジョブを
自動実行させたりするオペレーショナルな領域に端を発する。その後、オープン化や
Web化が進み、企業の情報システムも大規模なものとなる。複雑なITインフラ環境を
管理し、サービス指向の管理を実現するために、ITサービス管理を支援するツールが
多く台頭することとなる。今日では、企業においてIT戦略や投資マネジメントが不可
欠で、それらを支援する役割が要求されるようになっている。IT業務の情報システム
化を進めるに従って、ツールの適用対象は拡大することが想定される(図8)。
図8
ツール適用対象の拡大
人的資源による業務
ITマネジメント
ITサービス管理
自動化される業務
将来
現在
PPM(Project Portfolio Management)
BSM(Business Service Management)
GRC(Governance Risk Compliance)
IT資産管理 etc
サービスデスク/インシデント管理 問題管理
変更/構成管理 リリース/展開管理 リクエスト処理
ナレッジ管理 IT財務管理 可用性管理 キャパシティ
管理 ITサービス継続管理 サービスカタログ管理
サービスレベル管理 etc
要件管理 プロジェクト管理 テスト支援 ソフトウェア構成管理
イベント管理 ネットワーク管理 サーバ管理 DBMS管理
ITオペレーション アプリケーション監視 ジョブ管理 バックアップ HAクラスタ
仮想化 クラウド管理 ログ管理 各種セキュリティ管理 etc
出典:ITR
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クラウド時代の IT サービス管理
ITオペレーションに関わる業務領域は、多くの企業においてツールによるシステム
化が進んでいる。障害分析やハードウェアのパーツ交換といった人的資源に頼らざる
を得ないプロセスもあるが、監視やバックアップをはじめとする業務はツールにより
自動化されている。
ITサービス管理については、その必要性が増してきたことで、現在進行形で業務の
再定義や人材配置が進んでいる。これに合わせて、ツール導入が進み、また適用対象
となるプロセスも広がる傾向にある。
一方、IT業務の最上位に位置するITマネジメントについては、ツールを適用できる
局面は限られており、人的管理が基本と考えられている。IT戦略の立案、投資効果の
評価、ソーシング戦略、リスク管理といった業務は、IT部門のコア業務であり、シス
テム化の余地は小さいという見方が一般的であろう。しかし、昨今では、そうした管
理業務を支援するツールも機能開発が進み、先進企業での導入例も増えている。IT for
ITの将来ビジョンを描くうえでは、以下のツールについても視野に入れて、検討する
ことが推奨される。
 PPM(プロジェクト・ポートフォリオ管理)
:PPMは、承認された一連のIT
プロジェクトの実行計画(プログラム)を管理する機能を中核とし、プロジェ
クト/投資ポートフォリオの評価、リソース配置といった機能を有する。承認
を得る前(要求段階)の案件管理、投資計画支援、アプリケーション・ポート
フォリオ評価、財務管理といった機能を併せ持つ製品も多い。IT投資効率の向
上やITコストの削減といったIT戦略立案に寄与する。
 BSM(ビジネス・サービス管理)
:BSMは、現業部門における業務プロセスと
ITサービスを動的に結びつける役割を果たす。あらかじめ定義した業務プロセ
スと現行の稼働アプリケーションをマッピングすることで、ユーザー視点での
優先度に即したオペレーションを可能にする。システムが有事の際に業務に及
ぼすインパクトを明らかにし、シミュレーションなどにも役立つ。
 GRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)
:内部統制、リスク管理、法
規制対応の業務や情報を統合することで、企業のリスク対応能力を向上させる
考え方またはフレームワークであり、それを実現するソフトウェアである。新
たな経営リスク(脅威)の台頭や法改正が断続的に発生するなかで、受動的か
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つ個別対応での負荷の大きさが問題視されるようになり、企業リスクを横断的
に捉え、かつ能動的に管理しようとする動きが生まれたことが背景にある。
 IT資産管理:大手企業においては、IT資産および契約サービスの棚卸しにかか
る管理負荷が高く、また、その最適化についても高度な知見が要求される。IT
資産管理ツールは、ライセンス管理、リース管理、コスト管理、調達管理、契
約管理など、財務的側面からIT資産のライフサイクル管理を行うことでこれを
支援する。最近は、クライアント端末やソフトウェアだけでなく、データセン
ター側のライセンス管理についても関心が高まっている。
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第4章
提言
クラウドがコモディティとなりつつある現在、IT組織は、競争力の高い外部サービスを意識した提供
価値を模索する必要に迫られている。ITサービス管理ならびに、より上位のITマネジメントを支援す
るツールを視野に入れることで、長期的なIT価値の向上に努めることが推奨される。
結論
クラウド時代におけるITサービス管理を考察した結果、得られた示唆は、以下の通
りである。
 厳しい経営環境と急速なIT市場の変化から、企業ITを支えるスタッフのプレッ
シャーは日増しに強まっている。IT組織はコストセンターから脱却し、事業部
門やグループ企業に貢献する社内サービス・プロバイダーとしての役割を指向
すべきである。
 ITサービス管理ツールの市場は高い成長率で拡大を維持している。計画・検討
段階にある多数の潜在的なユーザーが存在する一方で、サービスデスク/イン
シデント管理を筆頭にITILに対応するITサービス管理ツールの導入は進む傾向
にある。
 今後、IT組織の業務の高度化を推進するにあたって、ITサービス管理やITマネ
ジメントを支援する上位ツールの検討は避けて通れないものとなるだろう。特
に、スモールスタートやグローバル展開を見据えた時、SaaS型ツールの採用
は有力な候補となり得る。
IT部門をとりまく現在の環境は概して厳しく、存在価値や事業方針を問われること
も少なくない。競争優位性の高いITサービスを供給することで、IT組織は目に見える
かたちで経営に貢献することが求められている。
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提言
クラウドがコモディティとなりつつある現在、IT組織は、競争力の高い外部サービ
スを意識した提供価値を模索する必要に迫られている。より高い付加価値と競争力で、
あらゆるビジネスユニットに均質なサービスを提供し、コストや品質の説明責任を果
たす成熟した事業体を目指すべきである。
これからのIT組織は、コストセンターとしてではなく、社内/グループ内のサービ
ス・プロバイダーとしての役割が求められる。これには、IT業務の現状とあるべき姿
を確認したうえで、戦略的にITIL導入を図ることが推奨される。その時、SaaSを活用
した、スモールスタートによるITサービス管理ツールの適用は、有益なアプローチに
なるであろう。
一方、ITサービス管理が一定の成熟度に達する企業においては、IT戦略立案、投資
評価、ソーシング戦略、リスク管理といった、より上位のITマネジメントを支援する
ツールを視野に入れることが望まれる。次世代IT組織へ向けたシステム化としては、
PPM、BSM、GRC、IT資産管理などが検討対象となろう。
運用管理ツールは、これまで主にオペレーショナルな領域の自動化を担ってきた。
しかし、他の分野のツールやソフトウェアがそうであるのと同じく、運用管理ツール
においてもまた、汎用的な機能は統合され、中長期的にインフラの標準機能に収斂し
ていくと予想される。一方で、それまで人的リソースで行ってきたマネジメント業務
は、今後ツールによる自動化が進むこととなる。この波を捉えて、アーリーアダプター
やアーリーマジョリティとして新出の運用技術を適応するか否かは、企業全体から見
れば必ずしも喫緊の課題ではないかもしれない。しかし、ITサービス管理が、クラウ
ド時代に向けたIT組織を具現化し、企業のIT活用を促進させるのは確かである。今の
うちからその環境を整備するか否かで、 長い目で見た時に、企業経営には多大な影響
が及ぶこととなるだろう。
分析/執筆:金谷 敏尊
text by Toshitaka Kanaya
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ITR White Paper
クラウド時代の IT サービス管理
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2014年12月8日
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