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農産物市場流通論講義ノート
第8回
米市場の流通(2014/12/8)
文責:有賀健高
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農産物市場政策
1-1 三つの政策
1-1-1 価格政策
農産物価格形成への政府介入政策 → 価格安定、価格水準の一定方向への誘導
など
1-1-2 需給政策
価格の安定・誘導のために、需要と供給を調整する政策 → 政府による農
産物の買い入れ・受け渡し、在庫保管、供給制限、配給、減反政策など
1-1-3 流通政策
価格の安定・誘導のために、流通に政府が介入する政策 → 流通業者の参
入規制あるいは自由化、仕入・販売ルートの規制あるいは自由化など
1-2 政府による直接市場介入の例
1-2-1 Price floor(値段の床)と Price ceiling(値段の天井)
①
Price floor(値段の床)
政府は豊作などで過剰生産になり、価格が暴落してしまった場合でも
農家の人々が一定の所得を得られるように、一定レベル以上に価格が
下がらないように値段の下限(床)を設定していることが多い。この
政府が設定している値段の下限を Price floor という。
②
Price ceiling(値段の天井)
一方、政府は天災などで過少生産になり、価格が高騰してしまった場
合でも消費者が農産物を購入できるように、一定レベル以上に価格が
上がらないように値段の上限(天井)を設定していることが多い。こ
の政府が設定している値段の上限を Price ceiling という。
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1-2-2 買い入れ介入政策
P
SF
SG
Buy
PF
PG
D
QF
Q
QG
目的:価格の暴落を防ぐ
左の図では、好天候にめぐまれ、農産物が過剰に生産されて
しまい(図の QG)、政府が農産物価格を PG から Price Floor
である PF にまで価格を押し上げるための買い入れ介入政策
をとった場合の供給と価格の変化を示している。図で、政府
が市場に出回る農産物が QF に止まるように、農家から農産
物を QG - QF だけ買い入れることで、価格が PG から PF に押し
上がっていることがわかる。
1-2-3 在庫放出政策
P
SC
SB
PB
PC
Sell
D
QB
2
QC
Q
目的:価格の高騰を防ぐ
左の図では、悪天候により、農産物が過少に生産されてし
まい(図の QB)、政府が農産物価格を PB から Price Ceiling
である PC にまで価格を押し下げるための在庫放出政策をと
った場合の供給と価格の変化を示している。図で、政府が
市場に出回る農産物が QC にまで増えるように、緊急事態に
備えて保持していた農産物在庫を QC - QB だけ市場に放出す
ることで、価格が PB から PC に押し下がっていることがわか
る。
米流通
2-1 流通規制の歴史
2-1-1 食糧管理法(食管法)の時代(1942 年~1994 年):直接統制から緩和へ
① 直接統制の時代(1942 年~1968 年)
米販売は全て政府(食糧庁)を通す。政府管理米しか販売されていなかっ
た。1960 年代から米は生産過剰となり、過剰在庫米の処理費用の増加などで
政府の財政負担が大きくなると言う問題が発生し、規制緩和の必要性が出て
きた。
② 規制緩和の時代(1969 年~1994 年)
1969 年「自主流通米制度」を導入し、政府を通さず全国農業協同組合連合会
(全農)から卸売業者への流通が認められるようになる。これにより米流通
の流れは活発化したが、生産者か消費者への直接販売に対する規制や流通業
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者の新規参入に対する規制などは残っていたためさらなる自由化の必要性が
出てきた。
2-1-2 食糧法(旧食糧法)の時代(1995 年~2003 年):緩和から自由化へ
食糧法の正式名称:「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」
① 制度の概要
計画流通制度:計画流通米と計画外流通米の二元的流通制度。
• 「計画流通米」:食管法時代の自主流通米と政府米を一括し、需給安定の
ための政府の基本計画に基づいて生産・流通させる米。
• 「計画外流通米」:自主流通米と政府米以外の流通経路によって消費者に
届けられる米で、政府の基本計画とは関係なく生産・流通させる米。
② 制度の限界
食糧法では、米市場が政府の管理下を離れ市場原理の導入が進んだが次のよ
うな問題を抱えており、さらなる米制度の変革の必要性が出てきた。
• 1995 年からミニマム・アクセス米の輸入が始まり、政府の抱える在庫量が
大幅に増え、計画流通の限界が来ていた。
• 自主流通米価格の下落の歯止めが効かなくなってきた。
• 計画外流通米の流通量が急増し、計画流通米の集荷率が低下した。
2-1-3 改正食糧法の時代(2004 年~):自由化の時代
• 流通規制撤廃:備蓄用以外の政府米はなくなり、計画流通制度が撤廃さ
れ、米の流通規制は原則的に撤廃 → 自由化。
• 販売業者の登録制から届出制へ:それまであった出荷業者・卸・小売業者
の区分撤廃は撤廃され販売事業者と一括りにされる。 → 農政局または農
政事務所へ届け出れば誰でも米を販売できるようになる。
2-2 流通の仕組みの変化
2-2-1 食糧管理法時代の流通
担い手:生産者、指定集荷業者、指定法人、許可卸・小売業者
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2-2-2 食糧法時代の流通
担い手:生産者、登録出荷取扱業者、自主流通法人(全農、全集連 1な
ど)、登録許可卸・小売業者
2-2-3 改正食糧法時代の流通
担い手:生産者、出荷事業者、販売事業者
詳しくは講義8補足資料を参照すること。
流通規制の変遷
食管法
(旧)食糧法
直接統制
規制緩和
規制緩和
1942年~1969年 1969年~1995年
1995年~2004年
政府管理米+自
計画流通米+計画外流通米
政府管理米のみ
主流通米
規制のあり方
年代
流通形態
3
改正食糧法
規制は撤廃され自由化
2004年
計画流通米と計画外流通米の
区分なくなり、多様な流通形態
米市場の価格形成方法の仕組み
3-1 食管法下の価格形成
3-1-1 政府米の価格形成
•
政府が決定

買入価格 → 生産者の経済事情を鑑み、米穀の再生産を確保すること
を考慮して決定

売渡価格 → 消費者の経済事情を鑑み、家計を安定させることを考慮
して決定
3-1-2 自主流通米制度導入後の自主流通米の価格形成
•
1990 年 10 月まで:全農と全糧連(全国食糧事業協同組合連合会)2を主体と
する自主流通米協議会で政府の買い入れ価格を下支え水準とする相対取引 3に
1
全国主食集荷協同組合連合会
日本全国の米穀卸売業者が組織する全国団体。全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)の前身
である。
3
相対取引(あいたいとりひき)は、市場を介さず売買の当事者である売り手と買い手が 1 対 1 で
交渉して、価格、数量、決済方法といった売買内容を決定する取引方法である。
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よって決定された。→ 価格形成の主導権は売り手である全農といった集荷
業者にあった。
•
1990 年 10 月以降:価格形成の透明性と公平性を高めることを目的として
1990 年 8 月に自主流通米価格形成機構が創設され、競争入札方式によって価
格が決められるようになった。→ 価格形成の主導権は買い手である卸売業
者になった。
3-2 食糧法下の価格形成
3-2-1 自主流通米(計画流通米)の価格形成
主に以下の三つ価格形成の方法がある。
① 自主流通米価格形成センターでの入札による価格形成
•
食管法の規制緩和後の競争入札方式と基本同じ価格形成の方法を取るが、自
主流通米価格形成機構が自主流通米価格形成センターへと名称が変更され、
入札回数や売買可能数量の上限が増やされることとなった。
あいたい
② 価格形成センターの価格を指標に出荷取扱業者や登録卸売業者間における 相対
取引での価格形成
あいたい
③ 価格形成センターに左右されない小規模な 相対 取引での価格形成
3-2-2 計画外流通米の価格形成
主に以下の四つの価格形成の方法がある。
① 自主流通米価格形成センターでの入札価格を指標とする相対取引での価格 形成
② セリによる価格形成
③ 通販や直売所(ファーマーズ・マーケット)での定価販売方式としての価格形成
④ 固有の小規模な相対取引での価格形成
3-3 改正食糧法下の価格形成
•
自由化とともに多様なルートで様々な価格で取引されるようになる。「自主
流通米価格形成センター」も「全国米穀価格取引・価格形成センター」に改
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められ、入札取引以外の取引も可能になり、「定期注文取引」、「通年取
引」、「期別取引」、「特定取引」、「日常的取引」といった取引が行われ
るようになる。
•
センターの最大利用者である農協が卸売業者との相対取引での価格形成を行
うようになったのをきっかけにセンターの利用者が激減し、2011 年 3 月には
センターそのものが廃止となった。
講義 9 補足資料も参照すること。
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今後の米流通の動向
講義 9 補足資料を参照すること。
4-1 米価は低下傾向にある。
低下している要因
• 米消費の低下 → 供給過剰
• 主食的食料に占める米の地位の低下 → 供給過剰
• 低価格販売を得意とするスーパーマーケットが伸長
• 業務用需要の増大 → 米価を押し下げる圧力が強まる。
4-2 取引の多様化がさらに進行
• スーパーや飲食店、加工業者などの業務用向けの安い調達ルートの開拓や大
規模低コスト生産の進展
• 生産者の小売業や消費者との直接流通の進行
例
ファーマーズマーケット、インターネット直販
• ブランド米開発による全農を通さない高価格少量販売ルートの進展
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