III. CW 複体とホモトピー群.

幾何学 XA = 位相幾何学:14年 5月30日
今日の講義の摘要: CW 複体を定義する。CW 複体の対 (X, A) の便利な性質に homotopy 拡
張性質、すなわち、 cofiber 性というものがある。cofiber 性の基本的な性質を述べ CW 複体の対
(X, A) について包含写像 i : A ,→ X が cofibration であることを証明する。また、 cofiber 性の応
用として、基点つきホモトピー集合と基点なしの自由ホモトピー集合の違いを調べる。
III. CW 複体とホモトピー群.
§9. CW 複体とコファイブレーション.
この講義を通して、I を単位区間 [0, 1] := {t ∈ R; 0 ≤ t ≤ 1} ⊂ R とする I = [0, 1]. ま
た、この章からは ∂I := {0, 1} ⊂ I という記号を積極的に使っていく。
本論に入る前に円板/球体および球面について復習しておく。N ≥ 1 について N 次元
Euclid 空間 RN の Euclid norm を kxk := (x1 2 + x2 2 + · · · + xN 2 )1/2 , x = (x1 , x2 , · · · , xN ) ∈
RN , と表す。整数 m ≥ 0 について
Dm := {x ∈ Rm ; kxk ≤ 1},
および
S m := {x ∈ Rm+1 ; kxk = 1}
とおき1 、それぞれ m 次元円板/球体(m dimensional disk/ball)および m 次元球面(m
dimensional sphere)とよぶ。m ≥ 1 について Dm の境界 ∂Dm は S m−1 にひとしい
S m−1 = ∂Dm ⊂ Dm . また
o
Dm := Dm − S m−1 = {x ∈ Rm ; kxk < 1}
o
とおき開円板/開球体(open disk/open ball)とよぶ。m = 0 のときは D0 = D0 = ∗ と理
解する。
∆m によって標準 m 単体、∂∆m によってその境界を表す
∑m
ti = 1},
∆m := {(t0 , t1 , · · · , tm ) ∈ Rm+1 ; ∀ti ≥ 0,
i=0
∂∆m := {(t0 , t1 , · · · , tm ) ∈ ∆m ; ∃ti = 0}.
補題 9.1. 次の同相が成り立つ。ただし (4) の k は 0 < k < m とする。
(1) Dm /S m−1 ≈ S m ,
(2) (I m , ∂I m ) ≈ (Dm , S m−1 ),
(3) (∆m , ∂∆m ) ≈ (Dm , S m−1 ),
(4) (Dk × Dm−k , (∂Dk ) × Dm−k ∪ Dk × ∂Dm−k ) ≈ (Dm , S m−1 ).
証明. (1) 連続写像 Dm → S m , x 7→ ( sin(πkxk)
x, cos(πkxk)), は compact 空間 Dm /S m−1 か
kxk
ら Hausdorff 空間 S m の上への連続全単射つまり同相写像を定める。ここで函数 t ∈ R 7→
sin(πt)
∈ R が R 全体で C ∞ であることに注意する。
t
1
容れ物の Euclid 空間の次元が違うことは言うまでもない。
1
幾何学 XA = 位相幾何学
2
(2) (3) (4) Rm の norm µ について同相写像
{
R →R ,
m
m
x 7→
µ(x)
x,
kxk
if x 6= 0,
0,
if x = 0
は同相 ({µ ≤ 1}, {µ = 1}) ≈ (Dm , S m−1 ) を与える。(I m , ∂I m ), (∆m , ∂∆m ) および (Dk ×
Dm−k , (∂Dk ) × Dm−k ∪ Dk × ∂Dm−k ) は適当な norm についての ({µ ≤ 1}, {µ = 1}) に同
相である。
X を Hausdorff 空間とする。 X の部分空間 e ⊂ X と連続写像 ϕ : Dm → X の組
o
(e, ϕ) が X の 胞体 (cell) であるとは、ϕ の Dm への制限が e の上への同相となっている
o
ϕ|
o
Dm
≈
: Dm → e (⊂ X)
ことをいう。このとき m を胞体 e の次元といい、 m = dim(e) とかく。e を m-胞体(mcell)ともよぶ。また、 ϕ を胞体 e の特性写像 (characteristic map) とよぶ。このとき X
における e の閉包 e は ϕ(Dm ) に一致する
ϕ(Dm ) = e.
(9.1)
実際、compact 集合 ϕ(Dm ) は Hausdorff 空間 X において閉だから e ⊂ ϕ(Dm ) がなりた
o
つ。ϕ−1 (e) は Dm をふくむ Dm の閉集合だから ϕ−1 (e) = Dm . したがって ϕ(Dm ) = e が
なりたつ。
まず、胞体複体を定義しよう。
定義. (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) が胞体複体 (cell complex) であるとは次の条件をみたすことを
いう。
(0)
(1)
(2)
(3)
(4)
Λ は (添え字)集合である。
X は Hausdorff 空間である。
各 λ ∈ Λ について (eλ , ϕλ ) は胞体である。nλ := dim(eλ ) とおく。
`
X は(集合として) eλ たちの disjoint 和に分かれる X = λ∈Λ eλ .
各 λ ∈ Λ について
ϕλ (∂Dnλ ) ⊂ X (nλ −1)
が成り立つ。
ここで X (k) :=
`
dim(eµ )≤k eµ
であり、X の k-skeleton ( k-骨格) と呼ばれる。
さらに、 X (−1) = ∅, Λk := {λ ∈ Λ; dim(eλ ) = k} とおくことにする。条件 (4) から
∪
ϕµ (Dnµ )
(9.2)
X (k) = X (k−1) ∪
µ∈Λk
である。また、(X (k) , {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ,dim(eλ )≤k ) は再び胞体複体となる。胞体複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ )
について {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ を Hausdorff 空間 X の胞体分割とよぶ。
集合 Λ が有限集合、つまり cell が有限個しかない胞体複体を 有限胞体複体(finite cell
complex)とよぶ。各 ϕλ (Dλ ) は compact だから、その有限和である有限胞体複体は compact
(Hausdorff) 空間である。
有限胞体複体の基本的な例を幾つか挙げておこう。
14 年 5 月 30 日
3
例 9.2. (1) 球面 S m = {(x0 , x1 , . . . , xm ) ∈ Rm+1 ; x0 2 + x1 2 + · · · + xm 2 = 1} に2種類の
胞体分割を与えよう。まず、S m の部分集合 e0 , em をそれぞれ
eo := {(0, · · · , 0, −1)},
および
em := S m − e0
によって定義する。disjoint 和 S m = e0 q em がなりたつ。e0 ≈ ∗ ≈ D0 であるから、同
相 ϕ0 : D0 → e0 = e0 がとれる。補題 9.1 (1) の連続写像を ϕm : Dm → S m とすると
om
: D → em は同相であり ϕm (∂Dm ) = e0 となる。かくして (S m , {(e0 , ϕ0 ), (em , ϕm )})
ϕ |
D
は有限胞体複体である。
(2) 次に k ≤ m について S k = {(x0 , · · · , xk , 0, · · · , 0) ∈ S m } によって S k を S m の部
分集合とみなす。S m の部分集合 ek,± を
m
om
ek,+ := {(x0 , · · · , xk , 0, · · · , 0) ∈ S m ; xk > 0},
ek,− := {(x0 , · · · , xk , 0, · · · , 0) ∈ S m ; xk < 0}
`
によって定義する。disjoint 和 S m = 0≤k≤m ek,+ q ek,− が成り立つ。(x0 , · · · , xk−1 ) 7→
(x0 , · · · , xk−1 , ±(1−x0 2 −· · ·−xk−1 2 )1/2 , 0, · · · , 0) によって定義される連続写像 ϕk,± : Dk →
S m は中への同相である。また、ϕk,± (∂Dk ) = S k−1 ⊂ S m である。ゆえに (S m , {(ek,± , ϕk,± )}0≤k≤m )
は有限胞体複体であって (S m )(k) = S k である。
(3) Dm の有限胞体分割を与える。まず ∂Dm = S m−1 の有限胞体分割 (S m , {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ )
om
を何でも良いから一つとってくる。その上で em = D = S m−1 , ϕm = 1Dm : Dm → Dm と
おくと {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ∪ {(em , ϕm )} は Dm の有限胞体分割である。
(4) I m (≈ Dm ) に別の有限胞体分割を与えよう。正整数 N ≥ 1 をとる。 i = (i1 , . . . , im ) ∈
{0, 1, . . . , N }m および o = (o1 , . . . , om ) ∈ {0, 1}m について n(o) = ]{α; oα = 1} とおき、
o n(o)
[ i i +o ]
≈ ∏
n(o)
m
α
α
α
同相写像 ϕi,o : D`
≈ I n(o) → m
,
⊂
I
をとる。
e
:=
ϕ
(
I
) とおくと
i,o
i,o
α=1 N
N
m
m
disjoint 和 I = i,o ei,o がなりたち {(ei,o , ϕi,o )} は I の有限胞体分割を与える。各胞体
√
の長径 dist は dist(ei,o ) ≤ m/N をみたす。
(5) 複素射影空間 CP m を有限胞体分割する。斉次座標 [z0 : z1 : · · · : zm ] ∈ CP m ,
(z0 , z1 , . . . , zm ) ∈ Cm+1 − {0}, を用いる。0 ≤ k ≤ m について
e2k := {[z0 : · · · : zk : 0 : · · · : 0]; zk 6= 0} ⊂ CP m
√
2k
2k
m
2k
とおき、連続写像
ϕ
:
D
→
CP
を
ϕ
(x
,
x
,
.
.
.
,
x
,
x
)
:=
[x
+
−1x2 : · · · :
1
2
2k−1
2k
1
√
x2k−1 + −1x2k : (1 − x1 2 − x2 2 − · · · − x2k−1 2 − x2k 2 )1/2 : 0 : · · · : 0] によって定義すると、
(CP m , {(e2k , ϕ2k )}0≤k≤m ) は有限胞体複体である。(詳細は各自で確認してください。)同
様に実射影空間 RP m および四元数射影空間 HP m も次の胞体分割をもつ
RP m = e0 ∪ e1 ∪ e2 ∪ · · · ∪ em ,
HP m = e0 ∪ e4 ∪ e8 ∪ · · · ∪ e4m .
補題 9.3. 二つの胞体複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) と (Y, {(e0µ , ϕ0µ )}µ∈M ) の直積 (X × Y, {(eλ ×
0
e0µ , ϕλ × ϕ0µ )}(λ,µ)∈Λ×M ) は胞体複体である。ここで ϕλ × ϕ0µ は連続写像 Ddim eλ +dim eµ ≈
0
Ddim eλ × Ddim eµ → X × Y , (s, t) 7→ (ϕλ (s), ϕ0µ (t)), である。
証明. (1) X × Y は Hausdorff 空間である2 。(2) λ ∈ Λ, µ ∈ M とする。n = dim eλ ,
0
n =
2
dim e0µ
とおく。D × D
n
n0
on
0
on
の内部 D × D
への ϕλ × ϕ0µ の制限は eλ × e0µ の上へ
Hausdorff 空間の直積は再び Hausdorff 空間になる。証明は各自で。
幾何学 XA = 位相幾何学
4
`
の同相である。(3) disjoint 和への分解 X × Y = (λ,µ)∈Λ×M eλ × e0µ は明らかである。(4)
0
0
0
0
(ϕλ × ϕ0µ )((∂Dn ) × Dn ∪ Dn × (∂Dn )) = ϕλ (∂Dn ) × ϕ0µ (Dn ) ∪ ϕλ (Dn ) × ϕ0µ (∂Dn ) ⊂
0
0
0
X (n−1) × Y (n ) ∪ X (n) × Y (n −1) ⊂ (X × Y )(n+n −1) となる。
さて、部分集合 A ⊂ X が胞体複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) の 部分複体(subcomplex)であ
るとは、条件
∀λ ∈ Λ (eλ ∩ A 6= ∅ =⇒ eλ ⊂ A)
(9.3)
をみたすことをいう。ここで ΛA := {λ ∈ Λ; eλ ∩ A 6= ∅} とおく。任意の λ ∈ ΛA について
ϕλ (Dnλ ) ⊂ eλ ⊂ A であるから ϕλ : Dnλ → A とみなされる。このとき (A, {(eλ , ϕλ )}λ∈ΛA )
は胞体複体となる。実際、A には相対位相が入っているとしているのだから条件 (0) (1)
(2) は明らか。eλ ∩ A = eλ または ∅ だから (3) もなりたつ。また A(k) = X (k) ∩ A だから
条件 (4) も成り立っているのである。
条件 (9.3) により、部分複体 A の部分複体 B は、 X の部分複体である。
明らかに k-骨格 X (k) は部分複体である。条件 (9.3) からつぎは明らかである。
∪
∩
補題 9.4. 部分複体の族 Aµ , µ ∈ M , について、和 µ∈M Aµ および交わり µ∈M Aµ は再
び X の部分複体である。
なお、 ΛA = {λ∪∈ Λ; eλ ∩ A 6= ∅} が有限集合である部分複体 A を有限部分複体とよ
ぶ。このとき A = λ∈ΛA ϕλ (Dnλ ) は compact であり、Hausdorff 空間 X において閉集合
である。
胞体複体を考える理由の一つに、連続写像や homotopy などを次元の低い cell から順々
に構成し全体にひろげたいということがある。そのためには各 cell の閉包 ϕλ (Dnλ ) の上
で連続ならば全体でも連続であるということを保障する必要がある。有限胞体複体の場合、
被覆 {ϕλ (Dnλ )} は有限閉被覆であるから、貼りあわせの補題(補題 3.2)によってこのこ
とは保障されているのだが、胞体が無限個ある場合、一定の条件を課す必要がある。それ
がこれから述べる条件 (W) (weak topology)である。一方、一般に、我々に理解できる
ものというのは、何らかの有限性の延長上にある。それが条件 (C) (closure finite)であ
る。(C) と (W) を充たす胞体複体を CW 複体という。CW 複体は、条件 (C) と (W) によ
り、有限部分複体の帰納極限であり、 compact 生成の位相をもつ。さらに、部分複体は閉
集合であってもらわないと我々の直感とズレてしまうが、ズレないことを保障するのも条
件 (C) である。
条件 (W) を定式化するために「弱位相」の概念についてのべておこう。
弱位相
位相空間 X と、その被覆
∪ {Aλ }λ∈Λ を考える。被覆 {Aλ }λ∈Λ とは部分集合の族 Aλ ⊂ X,
λ ∈ Λ, であって X = λ∈Λ Aλ をみたすもののことである。このとき、位相空間 X が被
3
覆 {Aλ }λ∈Λ について 弱位相(
` weak topology)をもつ とは、包含写像 iλ : Aλ ,→ X を集
めてつくった disjoint 和 λ∈Λ Aλ からの連続全射
qλ∈Λ iλ :
a
λ∈Λ
Aλ → X
が等化写像であることをいう。補題 3.19 によりこのことは以下の条件のそれぞれと同値で
ある。
3
函数解析に謂う所の弱位相とは関係ない。
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5
(9.4.a) 部分集合 O ⊂ X について、各 λ ∈ Λ について O ∩ Aλ が Aλ の開集合ならば
O は X の開集合である。
(9.4.b) 部分集合 C ⊂ X について、各 λ ∈ Λ について C ∩ Aλ が Aλ の閉集合ならば
C は X の閉集合である。
(9.4.c) 位相空間 Z と写像 f : X → Z について、各 λ ∈ Λ について Aλ への制限
f |Aλ : Aλ → Z が連続ならば f は X 全体で連続である。
(9.4.a) と (9.4.b) の同値性は C = X \ O, O = X \ C とおけば直ちにわかる。
補題 9.5. 位相空間 X の被覆 {Aλ }λ∈Λ について次がなりたつ。
(1) 各 λ ∈ Λ について Aλ が X の閉集合であって被覆 {Aλ }λ∈Λ が局所有限ならば X
は被覆 {Aλ }λ∈Λ について弱位相をもつ。
(2) Z を局所 compact 位相空間とする。 X が被覆 {Aλ }λ∈Λ について弱位相をもつな
らば、直積 X × Z は被覆 {Aλ × Z}λ∈Λ について弱位相をもつ。
証明. (1) は貼り合わせの補題(補題 3.2)そのものである。
(2) は補題 3.21 (2) から直ちにえられる。
位相空間 X が compact 生成位相をもつ(compactly generated)とは、X が compact
集合全体からなる被覆 {K; K ⊂ X compact} について弱位相をもつことをいう。
それでは CW 複体を定義しよう。
定義. 胞体複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) が CW 複体(CW complex)であるとは、次の二つの
条件 (C) と (W) をみたすことをいう。
(C) (closure finite) 任意の点 x ∈ X について x をふくむ有限部分複体 Ax ⊂ X が存在
する。
(W) (weak topology) X は被覆 {ϕλ (Dnλ )}λ∈Λ = {eλ }λ∈Λ について弱位相をもつ。
有限胞体複体 X は CW 複体である。実際、条件 (C) は Ax = X とおけばよい。また、
被覆 {eλ }λ∈Λ は有限閉被覆だから、条件 (W) は補題 9.3 (1) つまり貼りあわせの補題に
よる。
CW 複体の位相について幾つかの基本的な事実を押さえておこう。
補題 9.6. 条件 (C) をみたす胞体複体 X = (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) を考える。
(1) 任意の胞体 eλ は eλ ⊂ A なる有限部分複体 A ⊂ X をもつ。
(2) 条件 (W) は次の条件 (W’) と同値である。
(W’) X は有限部分複体全体からなる被覆4 について弱位相をもつ。
証明. (1) x ∈ eλ をとる。x に条件 (C) を適用して x ∈ Ax なる有限部分複体 Ax をとる。
eλ ∩ Ax 6= ∅ だから、条件 (9.3) により eλ ⊂ Ax となる。
(2) (W) ⇒ (W’). (1) による。部分集合 O ⊂ X が任意の有限部分複体 A について
A ∩ O が A の開集合であるとする。任意の胞体 eλ に (1) を適用すると eλ ⊂ A なる有限
部分複体 A が存在するから eλ ∩ O = eλ ∩ A ∩ O は eλ の開集合である。したがって (W)
により O は X の開集合である。
(W’) ⇒ (W). 部分集合 O ⊂ X が任意の胞体 eλ について eλ ∩ O が eλ の開集合であ
るとする。任意の有限部分複体 A をとる。ΛA := {λ ∈ Λ; eλ ⊂ A} とおく。ΛA は有限集
合である。A は有限閉被覆 {eλ }λ∈ΛA について弱位相をもつから A ∩ O は A の開集合で
ある。(W’) により O は X の開集合である。
4
有限部分複体の全体が被覆をなすことが条件 (C) に他ならない。
幾何学 XA = 位相幾何学
6
補題 9.7. CW 複体 X = (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) について次が成立つ。
(1) X は compact 生成位相をもつ。
(2) X の任意の compact 集合 K について K ⊂ A なる有限部分複体 A ⊂ X が存在す
る。とくに compact な CW 複体は有限胞体複体である。
(3) X の部分複体 A は X の閉集合である。
(4) X の部分複体 A は CW 複体である。
証明. (1) 各 eλ は compact だから条件 (W) から明らかである。
(2) ΛK := {λ ∈ Λ; eλ ∩ K 6= ∅} とおく。各 λ ∈ ΛK について点 xλ ∈ eλ ∩ K を一つづ
つとり S := {xλ ; λ ∈ ΛK } とおく。S ⊂ K である。このとき S の任意の部分集合 T は
X の閉集合である。実際、任意の有限部分複体 B ⊂ X について T ∩ B は有限集合である
が、X は Hausdorff 空間だから T ∩ B は B の閉集合である。ゆえに、条件 (W’) によっ
て T は X の閉集合である。
したがって S は離散位相をもつ。また S 自身は compact 集合 K の閉集合であるから
compact である。離散位相をもつ compact 集合は有限集合である。かくして S は有限集
合、したがって ΛK も有限集合である。
∪ 各 λ ∈ ΛK について eλ ⊂ Aλ なる有限部分複体 Aλ をとる。ΛK は有限集合だから、和
λ∈Λ Aλ は X の有限部分複体であり、K をふくむ。
(3) 任意の有限部分複体 B をとる。 B ∩ A は B の部分複体だから compact 集合 eλ ,
eλ ⊂ B ∩ A, の有限和である。ゆえに B ∩ A は B の閉集合である。条件 (W’) により A
は閉集合である。
(4) X の任意の有限部分複体 B と A との交わり A ∩ B は A の有限部分複体である
から、条件 (C) は明らか。条件 (W’) を示す。部分集合 C ⊂ A が、任意の有限部分複体
B 0 ⊂ A について C ∩ B 0 が B 0 において閉集合であるとする。このとき X の任意の有限
部分複体 B について C ∩ B = C ∩ A ∩ B は A ∩ B の閉集合である。 (3) より A ∩ B は
B の閉集合だから C ∩ B は B の閉集合である。X についての条件 (W’) から C は X の
閉集合、ゆえに A の閉集合である。
局所有限胞体複体
有限胞体複体と一般の CW 複体の中間の概念として局所有限胞体複体がある。
定義. 胞体複体 X = (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) が 局所有限(locally finite)であるとは、任意の
x ∈ X について x を 内部に 含む有限部分複体 Ax ⊂ X が存在することをいう。
たとえば Euclid 空間 Rm の開集合 O は局所有限胞体分割をもつ。(各自証明せよ。)
補題 9.8. (1) 局所有限胞体複体は局所 compact な CW 複体である。
(2) 局所 compact な CW 複体は局所有限である。
証明. (1) 有限部分複体は compact で X は Hausdorff 空間だから、補題 3.7 (3) により X
は局所 compact である。
o
条件 (C) は明らかである。条件 (W’) を示す。局所有限性により {A; A ⊂ X 有限部分複体 }
は X の開被覆をなす。部分集合 O がすべての有限部分複体 A について O ∩ A が A の開
o
o
集合であるとする。このとき O ∩ A は A の開集合、ゆえに X の開集合である。ゆえに
o
∪
O = A O ∩ A は X の開集合である。X が CW 複体であることが示された。
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(2) 任意の点 x ∈ X について x を内部に含む compact 集合 K をとる。補題 9.7 (2)
o
o
により K ⊂ A なる有限部分複体 A が存在する。このとき x ∈ K ⊂ A である。つまり X
は局所有限である。
つまり CW 複体について、局所 compact 性と局所有限性は同値である。
さて、 CW 複体の直積は条件 (W) を充たすとは限らない。そこで位相を取り替える
必要が生ずるのであるが、この講義ではそこには触れず、以下の補題で間に合わせておく。
補題 9.9. CW 複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) と局所有限胞体複体 (Y, {(e0µ , ϕ0µ )}µ∈M ) の直積
(X × Y, {(eλ × e0µ , ϕλ × ϕ0µ )}(λ,µ)∈Λ×M ) は CW 複体である。
証明. 直積が胞体複体であることは補題 9.3 で示した。二つの有限胞体複体の直積は有限
胞体複体であるから、条件 (C) も明らかである。条件 (W) を示す。部分集合 O ⊂ X × Y
が、任意の (λ, µ) ∈ Λ × M について eλ × e0µ ∩ O が eλ × e0µ の開集合であると仮定する。eλ
は compact Hausdorff 空間だから補題 9.5 (2) により eλ × Y は {eλ × e0µ }µ∈M について弱
位相をもつ。したがって eλ × Y ∩ O は eλ × Y の開集合である。さらに Y は局所 compact
だから再び補題 9.5 (2) により X × Y は {eλ × Y }λ∈Λ について弱位相をもつ。したがって
O は X × Y の開集合である。
局所有限ではない CW 複体の例は CW 対の cofiber 性を証明したあとで与える。
空間の接着
CW 複体というものは低い次元から disk たちを貼り付けて/接着していくことによって得
られる空間である。空間の接着について見ておこう。
B と C を位相空間、 A を B の部分空間、f : A → C を連続写像とする。ι : A ,→ B を
包含写像とする。このとき接着空間 C ∪f B とは disjoint 和 C q B の f (a) = ι(a), a ∈ A,
の生成する同値関係 ∼ による商空間
C ∪f B := (C q B)/ ∼
をいう。連続写像 ιC : C → C ∪f B, c 7→ c mod ∼, および fB : B → C ∪f B, b 7→ b mod ∼,
が定義できる。可換図式
ι
A −−−→
B




fy
fB y
ι
C
C −−−
→ C ∪f B
が成立つ。次の補題は商写像 C q B → C ∪f B の普遍性から明らかである。
補題 9.10. (接着空間の普遍性)任意の位相空間 Z と連続写像 u : C → Z および
v : B → Z が u ◦ f = v ◦ ι : A → Z をみたすならば、連続写像 w : C ∪f B → Z であって
w ◦ ιC = u : C → Z および w ◦ fB = v : B → Z をみたすものがただ一つ存在する。この
w を u ∪f v : C ∪f B → Z と書くことにする。
要するに接着空間とは pushout である。下図参照。
ι
A
f
C ∪f B
;
ιC www
w
ww
www
C
/
wB
w
fB ww
w
ww
{ww
G
u
v
G u∪f v
G
G
G# /Z
幾何学 XA = 位相幾何学
8
(n)
CW 複体 X = (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) とその部分複体 A を考える。 X の部分複体 X ,
(−1)
(n)
= A, n ≥ 0 について X = A ∪ X (n) とおくことによって定義する。
n ≥ −1, を X
n ≥ 0 について
Λn := {λ ∈ Λ; eλ ∩ A = ∅ かつ dim eλ = n}
とおく。連続写像
qλ∈Λn ϕλ : qλ∈Λn ∂Dn −→ X
(n−1)
を考えることができる。(なお、n = 0 のときは ∂Dn = ∅ と考えることにする。)
補題 9.11. 任意の n ≥ 0 について同相
X
(n)
=X
(n−1)
(
)
∪qλ∈Λn ϕλ qλ∈Λn Dn
が成立つ。
証明. 右辺から左辺に自然な連続全単射がとれる。 CW 複体 X
れは等化写像つまり同相写像である。
(n)
の条件 (W) により、こ
コファイブレーション
CW 複体 X とその部分複体 A の対 (X, A) を CW 対とよぶ。今日の講義の主目的は、任
意の CW 対がホモトピー拡張性質(homotopy extension property, HEP)とよばれる便
利な性質をもつことを示すことである。ホモトピー拡張性質は cofiber 性ともよばれ、ホ
モトピー拡張性質をもつ空間対 (X, A) の包含写像 i : A ,→ X はコファイブレーション
(cofibration, cofiber 空間)とよばれる。
cofibration の定義のためにいくつか記号を用意する。
位相空間 A および C について連続写像 i0 : A → A×I, a 7→ (a, 0), および i0 : C → C×I,
c 7→ (c, 0), を考える。明らかに任意の連続写像 f : A → C について図式
i
0
A −−−
→ A×I




fy
f ×1I y
i
0
C −−−
→ C ×I
は可換である。
連続写像 f : A → C の写像柱(mapping cylinder) Mf とは連続写像 f(0) : A×{0} → C,
(a, 0) 7→ f (a), によって A × I を C に接着した空間をいう
Mf := C ∪f(0) (A × I).
連続写像 jf := i0 ∪f(0) (f × 1I ) : Mf → C × I, c 7→ (c, 0), (a, t) 7→ (f (a), t), を考えること
ができる。
他方、位相空間 Z について evaluation map ev0 : Z I → Z, u 7→ u(0), を考える。
補題 9.12. 位相空間 A から位相空間 X への連続写像 i : A → X について、次の三つの
条件は互いに同値である。
14 年 5 月 30 日
9
(a) 任意の位相空間 Z と任意の連続写像 F : A × I → Z および f : X → Z について
f ◦i = F ◦i0 : A → Z が成り立てば、連続写像 G : X ×I → Z であって G◦i0 = f : X → Z
および G ◦ (i × 1I ) = F : A × I → Z をみたすものが存在する。下図参照。
i0
/A×I
xx
xx
x
xx F
x{ x
i×1I
i
Z
~? cF F
f ~~
G
F
~
F
~~
F ~~
i0
/
X ×I
X
A
つまり A の上の homotopy が X 全体に拡張するということである。
(b) 連続写像 i の写像柱 Mi と上述の連続写像 ji : Mi → X × I について連続写像
r : X × I → Mi であって r ◦ ji = 1Mi : Mi → Mi をみたすものが存在する。
(c) 任意の位相空間 Z と連続写像 Fb : A → Z I および f : X → Z について ev0 ◦Fb = f ◦i :
b : X → Z I であって G
b ◦ i = Fb : A → Z I , ev0 ◦ G
b=f :X→Z
A → Z ならば、連続写像 G
をみたすものがとれる。下図参照。
Fb
A
b
G
i
~
X
~
~
~
~
f
~
~
/ ZI
~>
ev1
/Z
b について、一般に、一意性は成立たないことに注
この補題の連続写像 G, r および G
意せよ。
定義. 連続写像 i : A → X は、補題 9.12 の条件 (a) (b) (c) (の一つ)をみたすとき
cofibration とよばれる。
補題 9.12 の証明. (a) ⇒ (b). (a) を仮定する。Z = Mi , F : A × I → Mi , (a, t) 7→
(a, t) mod ∼, f : X → Mi , x 7→ x mod ∼, とする。 ji ◦ F = i × 1I , ji ◦ f = i0 である。い
ま f ◦i = F ◦i0 だから (a) により連続写像 r : X ×I → Mi であって F = r◦(i×1I ) = r◦ji ◦F ,
f = r ◦ i0 = r ◦ ji ◦ f をみたすものがとれる。接着空間の普遍性(補題 9.10, 一意性)を
1Mi ◦ F = F , 1Mi ◦ f = f に適用して r ◦ ji = 1Mi を得る。(この部分は図式を書きながら
考えると簡単に分かります。)
(b) ⇒ (a). (b) を仮定する。(a) の Z, F , f が与えられたとする。 f ◦ i = F ◦ i0 により
f ∪ F : Mi → Z が定義できる。 G := (f ∪ F ) ◦ r : X × I → Mi → Z とおけば G ◦ i0 = f
および G ◦ (i × 1I ) = F は r ◦ ji = 1Mi より明らかである。
(a) ⇔ (c). I が局所 compact であることから連続写像 F : A × I → Z と連続写
像 Fb : A → Z I , a 7→ F (a, ·), は一対一に対応している。 G : X × I → Z と連続写像
b : X → Z I についても同様である。このとき ev0 ◦ Fb = F ◦ i0 , ev0 ◦ G
b = G ◦ i0 に注意す
G
ると (a) と (c) が全く同じことを主張していることがわかる。
せっかく cofibration を定義したのであるが、次の補題により、これはつねに中への同
相であり、空間対を考えることと違いはない。
補題 9.13. cofibration i : A → X について、i は中への同相である。さらに X が Hausdorff
空間ならば i(A) は閉集合である。
幾何学 XA = 位相幾何学
10
証明. 補題 9.12 の条件 (b) の連続写像 r : X ×I → Mi をとる。連続写像 g := r(·, 1) : X →
Mi を考える。任意の a ∈ A について g(i(a)) = (a, 1) mod ∼ である。D := g −1 (A×[1/2, 1])
とおく。これは i(A) を含む X の閉集合である。 g と第 1 成分への射影 A × [1/2, 1] → A
の合成を h : D = g −1 (A × [1/2, 1]) → A × [1/2, 1] → A とする。 h ◦ i = 1A : A → A がな
りたつ。したがって i は連続な逆写像 h|i(A) をもち、中への同相であることがわかる。
さらに X が Hausdorff 空間の場合、D も Hausdorff 空間であり、 i(A) = {x ∈ D; x =
i ◦ h(x)} は D の 閉集合となる。D は X の閉集合だから i(A) は X の閉集合である。
補題 9.14. 位相空間 X とその閉部分空間 A について、次の二つの条件は同値である。
(a) 包含写像 i : A ,→ X は cofibration である5 。
(b) X × I は部分空間 X × {0} ∪ A × I をレトラクトにもつ。
証明. (a) ⇒ (b). i : A ,→ X が cofibration であるとする。このとき、包含写像 A × I ,→
X × {0} ∪ A × I および X = X × {0} ,→ X × {0} ∪ A × I にホモトピー拡張性質を適用
して、retoraction r : X × I → X × {0} ∪ A × I がえられる。
(b) ⇒ (a). retraction r : X × I → X × {0} ∪ A × I が存在したとする。任意の位相空間
Z と連続写像 f : X → Z と F : A × I → Z が F ◦ i0 = f ◦ i : A → Z であるとする。このと
き、A は X の閉集合だから、{X × {0}, A × I} は X × {0} ∪ A × I の有限閉被覆である。そ
こで、貼り合わせの補題から、f と F は貼り合って連続写像 f ∪ F : X × {0} ∪ A × I → Z
を定める。(f ∪ F ) ◦ r : X × I → Z が、f と F の拡張になっている。したがって i : A ,→ X
は cofibration である。
系 9.15. 位相空間 X とその閉部分空間 A について、包含写像 i : A ,→ X が cofibration
であるとする。このとき、任意の位相空間 Y について直積 i × 1Y : A × Y → X × Y は
cofibration である。
証明. 補題 9.14 の条件 (b) は位相空間 Y を直積しても保たれる。
さて、一般に、 cofibration i : A → X を包含写像と考えることができる。位相空間 Y
に連続写像 g : A → Y によって X を接着してえられる空間 Y ∪g X を考えることがで
きる。
補題 9.16. このとき、連続写像 iY : Y → Y ∪g X, y 7→ y mod ∼, は cofibration である。
つまり cofibration の pushout は再び cofibration となる。
証明. 連続写像 gX : X → Y ∪g X, x 7→ x mod ∼, をとる。位相空間 Z と連続写像
Fb : Y → Z I および f : Y ∪g X → Z であって f ◦ iY = ev0 ◦ Fb : Y → Z をみたすものが与
えられたとする。Fb ◦ g : A → Z I と f ◦ gX : X → Z は ev0 ◦ Fb ◦ g = f ◦ iY ◦ g = f ◦ gX ◦ i
b : X → Z I であって G
b ◦ i = Fb ◦ g お
をみたすから i の cofiber 性によって連続写像 G
I
b = f ◦ gX をみたすものがとれる。G
b ◦ i = Fb ◦ g : A → Z により連続写像
よび ev0 ◦ G
I
b
b
b
b
b = (f ◦iY )∪g (f ◦gX ) = f
F ∪g G : Y ∪g X → Z が定義できる。(F ∪g G)◦iY = Fb, ev0 ◦(Fb ∪g G)
b が求める連続写像であることが分かった。(この証明も図式を書きながら
となる。Fb ∪g G
考えれば容易にわかります。 general nonsense に過ぎません。)
像 i(A) が X の閉集合である cofibration i : A → X を 閉 cofiber 空間(closed cofibration)
とよぶ。補題 9.13 により X が Hausdorff 空間の場合、すべての cofibration i : A → X は closed
cofibration である。closed cofibration については、NDR 対(近傍変位レトラクト対)という特徴
付けが知られているが、ここではそこまで立ち入らない。例えば、参考書に挙げた May の教科書
の p.43 の定理を参照せよ。
5
14 年 5 月 30 日
11
それでは CW 対の cofiber 性の証明の準備を兼ねて cofibration についての基本的な事
実を述べておく。
補題 9.17.
(1) 位相空間 X が、位相もこめて disjoint 和 X = X1 q X2 に分かれているとき、包含
写像 i : X1 ,→ X は cofibration である。
(2) n ≥ 1 について包含写像 i : ∂Dn ,→ Dn は cofibration である。
(3) cofibration の族 iλ : Aλ → Xλ , λ ∈ Λ, について qλ∈Λ iλ : qλ∈Λ Aλ −→ qλ∈Λ Xλ は
cofibration である。
(4) 位相空間 X の部分空間の列 Xn , n ≥ 0, が次の条件をみたすとする。
(i) X0 ⊂ X1 ⊂ · · · ⊂ Xn ⊂ Xn+1 ⊂ · · · .
(ii) 各 n ≥∪0 について包含写像 Xn ,→ Xn+1 は cofibration である。
(iii) X = ∞
n=0 Xn .
(iv) X は被覆 {Xn }∞
n=0 について弱位相をもつ。
このとき包含写像 i : X0 ,→ X は cofibration である。
証明. (1) X × I = X1 × I q X2 × I, Mi = X1 × I q X2 だから X1 × I の恒等写像と第一成分
への射影 X2 × I → X2 を使って r : X × I → Mi を作るとこれは連続であって r ◦ ji = 1Mi
となる。
(2) 上蓋 Dn × {1} から手を突っ込んで中身を側面 (∂Dn ) × I と底面 Dn × {0} に押し
付ければよいのであるが、もう少し上品に述べよう。
ji : Mi → Dn × I は compact 空間から Hausdorff 空間の中への連続単射であるから、中
への同相である。つまり Mi = {(x, t) ∈ Dn × I; kxk = 1 または t = 0} とみなすことがで
きる。 (0, 2) ∈ Dn × R に光源をおいて Mi に照射してえられる連続写像 r : Dn × I → Mi
は求める性質をみたす。数式で具体的に書くと (x, t) ∈ Dn × I について次のように表さ
れる
(
)

 x , t + 2kxk − 2 , if t + 2kxk ≥ 2,
r(x, t) = ( kxk
)kxk

 2 x, 0 ,
if t + 2kxk ≤ 2.
2−t
証明には、補題 5.1 を使ってもよい。
(3) Mqλ iλ = qλ Miλ および (qλ Xλ ) × I = qλ (Xλ × I) より明らか。
(4) 任意の位相空間 Z と連続写像 F : X0 → Z I および f : X → Z であって ev0 ◦ F =
f ◦ i をみたすものが与えられたとする。条件 (ii) を使って F を Xn に拡げていく。つ
まり、X0 ,→ X1 は cofibration だから、連続写像 F1 : X1 → Z I であって F1 |X0 = F ,
ev0 ◦ F1 = f |X1 をみたすものがとれる。n ≥ 2 についても帰納的に連続写像 Fn : Xn → Z I
であって Fn |Xn−1 = Fn−1 , ev0 ◦ Fn = f |Xn をみたすものがとれる。(iii) により Fn たちは
写像 F∞ : X → Z I であって F∞ |Xn = Fn , ev0 ◦ F∞ = f を定める。(iv) により F∞ は連続
である。かくして i : X0 ,→ X は cofibration である。
定理 9.18. CW 対はホモトピー拡張性質(HEP)をもつ。つまり CW 複体 X とその部
分複体 A ⊂ X について包含写像 i : A ,→ X は cofibration である。
証明. 補題 9.11 の記号および結果
X
を用いる。Xn := X
(n−1)
(n)
=X
(n−1)
(
)
∪qλ∈Λn ϕλ qλ∈Λn Dn
が補題 9.17 (4) の条件をみたすことを確かめる。
幾何学 XA = 位相幾何学
12
(i) (iii) は明らかであり (iv) は条件 (W’) から従う。任意の有限部分複体 B ⊂ X は、
(n−1)
(n−1)
(n)
ある X
に含まれるからである。そこで、(ii) つまり X
,→ X が cofibration で
あることを確かめればよい。
(
)
(0)
(−1)
(−1)
(0)
q qλ∈Λ0 D0 だから補題 9.17 (1) により X
,→ X
n = 0 のとき X = X
は cofibration である。n ≥ 1 とする。補題 9.17 (2) (3) により qλ∈Λn ∂Dn ,→ qλ∈Λn Dn
(n−1)
(n)
は cofibration である。ゆえに補題 9.16 より、これの pushout である X
,→ X も
cofibration である。(ii) が得られた。
以上で補題 9.17 (4) の条件がすべて充たされることがわかり、 A = X0 ,→ X が
cofibration であることが示された。
CW 複体の性質の多くは、ホモトピー拡張性質 = cofiber 性から導かれる。つまり定理
9.18 により、 cofibration についての性質はそのまま CW 対の性質となる。
命題 9.19. A および X を位相空間、i : A → X を cofibration とする。a0 ∈ A とし、ホ
モトピー同値 (A, a0 ) ' (a0 , a0 ) が成立つとする。このとき自然射影 p : X → X/A は次の
ホモトピー同値を与える
(X, a0 ) ' (X, A) ' (X/A, p(a0 )).
証明. 連続写像 F : (A×I, {a0 }×I) → (A, a0 ) であって、任意の a ∈ A について F (a, 0) = a,
F (a, 1) = a0 をみたすものをとる。 i ◦ F と 1X : X → X に i の cofiber 性を適用して、連
続写像 G : X × I → X であって、G|A×I = i ◦ F , 任意の x ∈ X について G(x, 0) = x をみ
たすものがとれる。連続写像 g := G(·, 1) : X → X, x 7→ G(x, 1), を考える。g(A) = {a0 }
だから連続写像 g : (X/A, p(a0 )) → (X, a0 ) が誘導される。これが自然射影 p のホモトピー
逆であることを示そう。
連続写像 G は F の拡張であるから homotopy
g ◦ p = g ' 1X : (X, A) → (X, A) および (X, a0 ) → (X, a0 )
を与える。他方、I は局所 compact だから p × 1I : X × I → X/A × I は等化写像である。
そこで写像 G : (X/A × I, {p(a0 )} × I) → (X/A, p(a0 )), (p(x), t) 7→ p(G(x, t)), は連続であ
る。これは homotopy 1X/A ' p ◦ g : (X/A, p(a0 )) → (X/A, p(a0 )) を与える。以上で g と
p が互いに homotopy 逆であることが示された。
cofibration と Hausdorff 性との関係を述べておこう。
補題 9.20. A および X を位相空間、i : A → X を cofibration とする。
f1 と U
f2 であって
(1) A の開集合 U1 と U2 が U1 ∩ U2 = ∅ をみたせば、 X の開集合 U
−1 f
−1 f
f1 ∩ U
f2 = ∅ をみたすものがとれる。
i (U1 ) = U1 , i (U2 ) = U2 そして U
(2) 像 i(A) が X の閉集合であるとする。このとき任意の x ∈ X \ i(A) について X の
開集合 U と V であって x ∈ U , i(A) ⊂ V および U ∩ V = ∅ をみたすものがとれる。
(3) Hausdorff 空間 Y をとる。 X も Hausdorff 空間であるとする。このとき任意の連
続写像 g : A → Y について接着空間 Y ∪g X は Hausdorff 空間である。
証明. cofibration の条件、補題 9.12 (b) により連続写像 r : X ×I → Mi であって r◦ji = 1Mi
をみたすものがとれる。
(1) U1 ×] 12 , 1] および U2 ×] 12 , 1] は Mi の互いに交わらない開集合である。そこで r(·, 1) :
f1 および U
f2 とする。これらは
X → Mi , x 7→ r(x, 1), によるこれらの逆像を、それぞれ U
14 年 5 月 30 日
13
f1 ∩ U
f2 = ∅ である。また、任意の a ∈ A について r(i(a), 1) = (a, 1)
X の開集合であって U
f1 ⇔ (a, 1) ∈ U1 ×] 1 , 1] ⇔ a ∈ U1 つまり i−1 (U
f1 ) = U1 である。同
であるから r(i(a), 1) ∈ U
2
f2 ) = U2 である。
様に i−1 (U
(2) 仮定により X \ i(A) は Mi の開集合だから連続写像 r(x, ·) : I → Mi , t 7→ r(x, t), に
よる逆像 r(x, ·)−1 (X \i(A)) は I の開集合である。 r(x, 0) = x より、これは 0 を含む。そこ
で、充分小さい正数 ε > 0 について [0, ε] はこの逆像に含まれる。 X \ i(A) および A×] 2ε , 1]
はともに Mi の開集合であって、交わりは ∅ である。そこで連続写像 r(·, ε) : X → Mi ,
x 7→ r(x, ε), によるこれらの開集合の逆像をそれぞれ U および V とすると、これらはも
ちろん開集合であって U ∩ V = ∅, x ∈ U そして i(A) ⊂ V をみたす。
(3) X は Hausdorff 空間だから補題 9.13 により i(A) は X の閉集合である。したがっ
て pushout iY : Y → Y ∪g X について iY (Y ) は Y ∪g X の閉集合である。pushout iY は
補題 9.16 から cofibration だから、これに (1) (2) を適用する。
Y ∪g X の任意の点 p は Y または X \ i(A) に属する。そこで次の三つの場合に、相異
なる2点 p1 と p2 を分離する開集合の存在を示せばよい。
(i) p1 , p2 ∈ Y .
(ii) p1 ∈ Y , p2 ∈ X \ i(A).
(iii) p1 , p2 ∈ X \ i(A).
(i) Y は Hausdorff 空間だから p1 と p2 を分離する Y の開集合 U1 と U2 がとれる。 iY
f1 と U
f2 がとれる。
についての (1) から p1 と p2 を分離する Y ∪g X の開集合 U
(ii) iY についての (2) から直ちに得られる。
(iii) X \ i(A) = (Y ∪g X) \ iY (Y ) は Y ∪g X の開集合である。そこで X \ i(A) におい
て p1 と p2 を分離する開集合は Y ∪g X においても開集合である。
以上で Y ∪g X の Hausdorff 性が証明された。
この補題の系として
系 9.21. X を CW 複体とする。球面からの連続写像の族 ψµ : ∂Dmµ → X (mµ −1) , µ ∈ M ,
について接着空間
X 0 := X ∪qµ∈M ψµ qµ∈M Dmµ
は再び CW 複体となる。
証明. X 0 が Hausdorff 空間であることは補題 9.20 (3) による。X 0 が胞体複体であるため
の他の条件および条件 (W) は明らか。compact 集合 ψµ (∂Dmµ ) をふくむ X の有限部分複
体 Aµ をとると Aµ ∪ψµ Dmµ は X 0 の有限部分複体である。条件 (C) も確かめられた。
CW 複体の局所的性質
CW 複体が局所弧状連結かつ半局所単連結かどうかというのは気になるところである。
より強く局所可縮であることを証明しよう。まず、幾つか準備する。
open
命題 9.22. A を CW 複体 (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) の部分複体とし、U を A の開近傍 A ⊂ U ⊂ X
とする。このとき、X の開集合 V であって A ⊂ V ⊂ U をみたし A を変位レトラクトに
もつものをとることができる6 。
U = X であって V が(それ自身の中ではなく) X の中で A に縮められるという命題は cofiber
性から直接証明できる。[May] pp.43-44 参照。
6
幾何学 XA = 位相幾何学
14
(n)
(−1)
証明. 補題 9.11 の直前と同様に X の部分複体 X , n ≥ −1, を X
= A, n ≥ 0 に
(n)
(n)
ついて X = A ∪ X
とおくことによって定義する。また n ≥ 0 について Λn := {λ ∈
(n)
Λ; eλ ∩ A = ∅ かつ dim eλ = n} とおく。n ≥ −1 について帰納的に X における A の
開近傍 Vn と連続写像 Fn : Vn × I → Vn であって次をみたすものを構成する
(0) V−1 = A.
(i) Fn (·, 0) = 1Vn : Vn → Vn .
(ii) Fn (Vn × {1}) ⊂ A.
(iii) Fn (a, t) = a, ∀(a, t) ∈ A × I.
(iv) Vn ⊂ U .
(n−1)
= Vn−1 .
(v) Vn ∩ X
(vi) Fn |Vn−1 ×I = Fn−1 .
n = −1 のとき、 (0) (iii) (v) が V−1 = A および F−1 の定義を与えている。
n ≥ 0 とし n − 1 まで構成が出来たと仮定する。A に含まれない n-cell eλ , λ ∈ Λn , の
特性写像を ϕλ : Dn → X とする。0 < ε < 1 について
Wλε := {x ∈ Dn ; kxk > 1 − ε,
x
∈ ϕλ −1 (Vn−1 )}
kxk
とおく。いま ϕλ −1 (Vn−1 ) は S n−1 の閉集合だから compact である。 ϕλ −1 (Vn−1 ) ⊂ ϕλ −1 (U )
となっており、ϕλ −1 (U ) は Dn の開集合である。そこで補題 3.9 により ε を充分小さくと
ると
Wλε ⊂ ϕλ −1 (U )
が成立つ。このような ε を一つとり Wλ := Wλε とおく。homotopy θλ : Wλ × I → X を
{
ϕλ ( kxk+t
x),
if t ≤ 1 − kxk,
kxk
θλ (x, t) :=
x
), t−1+kxk
),
if t ≥ 1 − kxk.
Fn (ϕλ ( kxk
kxk
によって定義する。以上の Wλ , θλ を用いて Vn および Fn を
∪
Vn := Vn−1 ∪
ϕλ (Wλ )
λ∈Λn
Fn |Vn−1 ×I := Fn−1
Fn (ϕλ (x), t) := θλ (x, t) for (x, t) ∈ Wλ × I
(n)
によって定義する。弱位相の条件 (W) により Vn は X の開集合、Fn : Vn × I → Vn は
連続であって、望む条件 (i) - (vi) をみたす。
∪
∪
Fn : V × I → V
Vn , および F :=
V :=
n≥−1
n≥−1
とおけば、弱位相の条件から V は X の開集合、F は連続であり、構成から A ⊂ V ⊂ U
であって F によって V は A を変位レトラクトにもつ。
単体複体と同様に一種の細分を用いると次が証明できる。
命題 9.23. X = (X, {(eλ , ϕλ )}λ∈Λ ) を CW 複体とし、x0 ∈ X とする。このとき X の新
しい CW 分割であって新しい 0 骨格が x0 と X のもともとの頂点(つまり 0-cell)すべ
てとを含むものが構成できる。
14 年 5 月 30 日
15
n
:= {(x1 , . . . , xn ) ∈ Dn ; xn ≥
証明. まず n ≥ 2 の場合に、Dn の n-cell を一つ用意する。D+
n
n
n
0} とおく。D+ は D と同相である。連続写像 ψn : D+ → Dn ,
ψn (x1 , . . . , xn−1 , xn ) := (2xn x1 , . . . , 2xn xn−1 , xn 2 − (x1 2 + · · · + xn−1 2 ))
は上への写像であって ψn |
o
o
n
D+
o
o
n
は D+
から Dn \ {(0, . . . , 0, xn ); −1 < xn ≤ 0} の上への同相
写像である。そこで (Dn \ {(0, . . . , 0, xn ); −1 < xn ≤ 0}, ψn ) を Dn の n-cell とみること
ができる。また、原点 0 = (0, . . . , 0, 0) ∈ Dn を 0-cell とし、{(0, . . . , 0, xn ); −1 < xn < 0}
を 1-cell とみなして、さらに S n−1 = ∂Dn に (0, . . . , 0, −1) が 0-cell であるような胞体分
割が与えられているとすると、これらは Dn の胞体分割を与えている。
さて x0 ∈ eλ なる cell eλ をとる。n = dim eλ とする。eλ の特性写像を $λ : Dn → X
とする。次元 n = dim eλ による帰納法で望む CW 分割が得られることを証明する。
dim eλ = n = 0 のとき、x0 はもとの CW 分割の頂点だから新たに CW 分割する必要
はない。dim eλ = n = 1 のとき、ある t0 ∈]0, 1[ について ϕλ (t0 ) = x0 となる。そこで x0
を新たに頂点とし、1-cell (eλ , ϕλ ) を ϕλ |]0,t0 [ と ϕλ |]t0 ,1[ の二つの 1-cells に分ければよい。
dim eλ = n ≥ 2 とする。ϕλ を手直しして 0 ∈ Dn について ϕλ (0) = x0 であるとしてよ
い。x1 := ϕλ (0, . . . , 0, −1) とおく。X は胞体複体だから x1 は X の n − 1 骨格 X (n−1) に
ふくまれる。そこで帰納法の仮定を x1 に適用して X (n−1) の胞体分割を手直しして、もと
の頂点すべてと x1 が新しい分割での頂点となるようにできる。このとき eλ を上述の ψn
を用いた胞体分割にとりかえると x1 = ϕλ (0, . . . , 0, −1) が X の新しい頂点となっている
ことから、これは新しい X の胞体分割であって、もとの頂点すべてと x0 を頂点としてい
る。帰納法が完成した。
以上二つの命題を組み合わせて直ちに次がえられる。
open
定理 9.24. X を CW 複体とする。任意の x0 ∈ X と x0 の開近傍 U ⊂ X について
x0 ∈ V ⊂ U をみたす可縮な開集合 V が存在する。つまり CW 複体 X はすべて局所可縮
であり、とくに、局所弧状連結かつ局所単連結である。
証明. 命題 9.23 によって x0 は X の頂点であるとしてよい。部分複体 {x0 } ⊂ X に命題
9.22 を適用して系をうる。
次の補題は cofiber 性 = homotopy 拡張性質の簡単な応用である。
補題 9.25. X を連結な CW 複体とし、x0 , x1 ∈ X とする。このとき homotopy 同
値 f : (X, x0 ) → (X, x1 ) であって、基点を忘れると恒等写像に homotopic になるもの
f ' 1X : X → X が存在する。
証明. 命題 9.23 から x0 および x1 は X の頂点であるとしてよい。x0 を x1 につなぐ path
` : I → X をとる。恒等写像 1X と ` に、部分複体 {x0 } ⊂ X の cofiber 性を適用して、連
続写像 F : X × I → X であって F (x0 , ·) = ` および F (·, 0) = 1X をみたすものが存在す
る。f := F (·, 1) : X → X とおく。これは f : (X, x0 ) → (X, x1 ) とみることができて、作
り方から明らかに f ' 1X : X → X である。
同様に部分複体 {x1 } ⊂ X の homotopy 拡張性質を用いて、連続写像 G : X × I → X
であって G(·, 0) = 1X および、任意の t ∈ I について G(x1 , t) = `(t) := `(1 − t) をみたす
ものが存在する。g := G(·, 1) : (X, x1 ) → (X, x0 ) とおく。これが f の homotopy 逆であ
ることを証明する。
幾何学 XA = 位相幾何学
16
` · ` を定数 path cx0 につなぐ homotopy L : (I, ∂I) × I → (X, x0 ) をとる。連続写像
H :X ×I →X を
{
F (x, 2t),
if t ≤ 12 ,
H(x, t) :=
G(f (x), 2t − 1),
if 21 ≤ t,
によって定義する。部分複体 {x0 } × I ⊂ X × I の cofiber 性を H と L に適用すると、連
続写像 Φ : X × I × I → X であって、任意の (x, t) ∈ X × I) について Φ(x, t, 0) = H(x, t)
をみたし、任意の (t, s) ∈ I × I について Φ(x0 , t, s) = L(t, s) をみたすものがえられる。
連続写像 K : X × I → X を


if t ≤ 13 ,
Φ(x, 0, 3t),
K(x, t) := Φ(x, 3t − 1, 1),
if 31 ≤ t ≤ 23 ,


Φ(x, 1, 3 − 3t),
if 23 ≤ t
によって定義する。作り方から、任意の t ∈ I について K(x0 , t) = x0 であって、K(·, 1) =
g ◦f , K(·, 0) = 1X である。したがって homotopy K によって g ◦f ' 1X : (X, x0 ) → (X, x0 )
が得られる。f ◦ g : (X, x1 ) → (X, x1 ) も同様に示される。
CW 複体の帰納極限
つぎに、CW 複体の増大列について、その和(帰納極限)も CW 複体となることを示
しておこう。
定理 9.26.
X0 ⊂ X1 ⊂ · · · ⊂ Xn ⊂ Xn+1 ⊂ · · ·
∪∞
を CW 複体の列であって、各 Xn は Xn+1 の部分複体であるとする。 X∞ := n=0 Xn と
おき、 X∞ には被覆 {Xn } に関する弱位相を入れる。(つまり X∞ := limn→∞ Xn と定義
−→
する。)このとき X∞ は CW 複体であり、各 Xn を部分複体にもつ。
さらに基点 x0 ∈ Xn0 をとると、すべての q ≥ 0 について同型
πq (X∞ , x0 ) = lim πq (Xn , x0 )
−→
n≥n0
Hq (X∞ ; Z) = lim Hq (Xn ; Z)
−→
n→∞
が成立つ。
証明. X∞ が Hausdorff 空間であることを示す。任意の p1 6= p2 ∈ X∞ をとる。充分大き
い N について p1 , p2 ∈ XN となる。XN は Hausdorff 空間だから p1 と p2 を分離する開
open
集合 U1 , U2 ⊂ XN がとれる。補題 9.17 (4) により包含写像 XN ,→ X∞ は cofibration だ
open
f1 , U
f2 ⊂ X∞ がとれる。
から、補題 9.20 (1) により p1 と p2 を分離する開集合 U
各 n について cofibration Xn ,→ X∞ は中への同相であるから X∞ が胞体複体である
ことは明らか。また、条件 (C) も各 Xn の条件 (C) から従う。
条件 (W) を確かめる。部分集合 O ⊂ X が、任意の cell eλ について eλ ∩ O が eλ の閉
集合であるとする。このとき Xn の (W) により Xn ∩ O は Xn の開集合である。 X∞ は
{Xn } について弱位相をもつから O は X∞ の開集合である。
以上で X∞ が CW 複体であることが証明された。
14 年 5 月 30 日
17
次に、包含写像の定める自然な準同型
lim πq (Xn , x0 ) → πq (X∞ , x0 )
−→
n
が全射かつ単射であることを示す。
(全射)任意の連続写像 u : (I q , ∂I q ) → (X∞ , x0 ) をとる。像 u(I q ) は compact だか
ら、補題 9.7 (2) により u(I q ) をふくむ有限部分複体 A が存在する。ゆえに充分大きい N
について u(I q ) ⊂ XN となる。つまり [u] は πq (XN , x0 ) の像に含まれる。
(単射)連続写像 u, v : (I q , ∂I q ) → (Xn , x0 ) が [u] = [v] ∈ πq (X∞ , x0 ) であるとする。
u と v をつなぐ homotopy (I q × I, ∂I q × I) → (X∞ , x0 ) に、同様の議論を適用して、この
homotopy の像が、充分大きい XN に含まれることがわかる。これは [u] = [v] ∈ πq (XN , x0 )
を意味する。
最後にホモロジー群を調べる。位相空間 X の特異チェイン複体 S∗ (X; Z), Sq (X; Z) =
q
Z X ∆ , を考える。∆q は compact だから、ホモトピー群と同じ議論により
S∗ (X∞ ; Z) = lim S∗ (Xn ; Z)
−→
n→∞
となる。胞体チェイン複体 C∗ (·; Z) について
C∗ (X∞ ; Z) = lim C∗ (Xn ; Z)
−→
n→∞
は明らか。いずれにせよチェイン複体の帰納極限とホモロジー群をとる操作は交換できる
から
H∗ (X∞ ; Z) = H∗ ( lim S∗ (Xn ; Z)) = lim H∗ (Xn ; Z)
−→
−→
n→∞
n→∞
が得られる。
例 9.27. (1) 無限次元球面 S ∞ . 球面 S n の例 9.2 (2) の胞体分割は S n = {(x0 , x1 . . . , xn , 0) ∈
S n+1 } ⊂ S n+1 とみなすと S n は S n+1 の部分複体となる。そこで
∪∞
Sn
S ∞ :=
n=0
は CW 複体になる。 x0 := +1 ∈ S 0 = {−1, +1} ⊂ R とする。任意の q ≥ 0 について
πq (S ∞ , x0 ) = lim πq (S n , x0 ) = 0
−→
n→∞
となる。
(§10 で証明する)J. H. C. Whitehead の定理により S ∞ は可縮である。なお、 S ∞
は局所有限ではない。 {−1} ⊂ S 0 以外のすべての胞体は x0 を閉包にふくむからである。
(2) 無限次元複素射影空間 CP ∞ . 有限次元複素射影空間 CP n の例 9.2 (5) の胞体分割
を考える。 CP n = {[z0 : z1 : · · · : zn : 0] ∈ CP n+1 } ⊂ CP n+1 とみなすと CP n は CP n+1
の部分複体である。
∪∞
CP ∞ :=
CP n
n=0
は CW 複体である。
{
Hq (CP ∞ ; Z) =
Z, if q is even ≥ 0,
0, otherwise
幾何学 XA = 位相幾何学
18
が成立つ。RP ∞ , HP ∞ も同様に CW 複体としてえられる。これらもすべて局所有限では
ない。
基点の忘却写像
cofibration の応用として、ホモトピー集合において基点をわすれる写像を調べよう。
定理 9.28. (X, x0 ) および (Y, y0 ) を点つき空間とする。X は CW 複体であって x0 ∈ X
は頂点(0-cell)とする。このとき基本群 π1 (Y, y0 ) が homotopy 集合 [(X, x0 ), (Y, y0 )] に左
から作用し、基点を忘れる写像
ϕ : [(X, x0 ), (Y, y0 )] → [X, Y ],
[f ] 7→ [f ]
は、その作用の軌道空間から [X, Y ] への単射
ϕ : [(X, x0 ), (Y, y0 )]/π1 (Y, y0 ) [X, Y ]
を与える。さらに Y が弧状連結ならば ϕ は全射したがって ϕ は全単射である。とくに Y
が単連結ならば ϕ は全単射である。
証明. まず f ∈ (Y, y0 )(X,x0 ) および ` ∈ (Y, y0 )(I,∂I) について、作用 [`]∗ [f ] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )]
を定義する。連続写像 Φ : X × I → Y であって、任意の x ∈ X について Φ(x, 0) = f (x)
をみたし、任意の t ∈ I について Φ(x0 , t) = `(t) をみたすものをとる。このような Φ の存
在は包含 {x0 } ,→ X が cofibration であることからわかる。このとき Φ(x0 , 1) = `(1) = y0
だから Φ(·, 1) ∈ (Y, y0 )(X,x0 ) である。
[`]∗ [f ] := [Φ(·, 1)] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )]
(9.5)
と定義する。この定義が well-defined であることは次の補題から分かる。
補題 9.29. (X, x0 ) および (Y, y0 ) を定理 9.28 の通りとする。連続写像 Φ0 および Φ1 :
(X × I, {x0 } × ∂I) → (Y, y0 ) が与えられており、二つの条件
(i) [Φ0 (·, 0)] = [Φ1 (·, 0)] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )] および
(ii) [Φ0 (x0 , ·)] = [Φ1 (x0 , ·)] ∈ π1 (Y, y0 )
を充たすとする。このとき次がなりたつ
[Φ0 (·, 1)] = [Φ1 (·, 1)] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )].
補題 9.29 の証明. CW 複体 X × I の部分複体 A := X × (∂I) ∪ {x0 } × I について cofiber
性を用いる。
(i) により連続写像 F : (X × I, {x0 } × I) → (Y, y0 ) が存在して F (·, 0) = Φ0 (·, 0) およ
び F (·, 1) = Φ1 (·, 0) をみたす。また (ii) により連続写像 L : (I × I, (∂I) × I) → (Y, y0 ) が
存在して L(·, 0) = Φ0 (x0 , ·) および L(·, 1) = Φ1 (x0 , ·) をみたす。
連続写像 H : A × I → Y を、x ∈ X, s ∈ I について H((x, 0), s) := Φ0 (x, s) および
H((x, 1), s) := Φ1 (x, s) と定め、t ∈ I について H((x0 , t), s) := L(t, s) と定める。これらは貼
りあって連続写像を定める。また、H|A×{0} = F |A である。そこで A ,→ X ×I が cofibration
e : X ×I ×I → Y であって H|
e A×I = H および H|
e X×I×{0} = F
であることにより、連続写像 H
e X×I×{1} が [Φ0 (·, 1)] = [Φ1 (·, 1)] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )]
を充たすものが存在する。このとき H|
を与える。
14 年 5 月 30 日
19
定理 9.28 の証明にもどる。定義式 (9.5) から直ちに α および β ∈ π1 (Y, y0 ) について
α∗ (β∗ [f ]) = (αβ)∗ [f ] がなりたつ。また、y0 への定数 path cy0 について [cy0 ]∗ [f ] = [f ] は
明らかである。つまり群 π1 (Y, y0 ) は集合 [(X, x0 ), (Y, y0 )] に左作用する。これも定義か
ら直ちに ϕ([`]∗ [f ]) = ϕ[f ] ∈ [X, Y ] がなりたつ。逆に [f ] および [g] ∈ [(X, x0 ), (Y, y0 )]
が ϕ[f ] = ϕ[g] をみたすとする。連続写像 Φ : X × I → Y であって Φ(·, 0) = f および
Φ(·, 1) = g をみたすものが存在する。連続写像 ` := Φ(x0 , ·) : (I, ∂I) → (Y, y0 ) をとる。
式 (9.5) により [g] = [`]∗ [f ] が分かる。以上で ϕ が well-defined かつ単射であることがわ
かった。
残るは ϕ の全射性である。Y が弧状連結であると仮定する。任意の連続写像 h : X → Y
をとる。Y は弧状連結だから h(x0 ) を y0 につなぐ path ` : I → Y が存在する。部分複
体 {x0 } ⊂ X の cofiber 性により、連続写像 G : X × I → Y であって G(·, 0) = h
および G(x0 , ·) = ` をみたすものが存在する。このとき G(·, 1) ∈ (Y, y0 )(X,x0 ) であって
ϕ[G(·, 1)] = [h] ∈ [X, Y ] である。ゆえに ϕ は全射である。
以上で定理が証明された。
(X, x0 ) = (S 1 , ∗) の場合には、この作用は §5 で述べた基本亜群の基本群への作用の特
別な場合に他ならない。あとで、X が局所有限胞体複体の場合に、 conceptual にやり直
しをする。
H 空間
H-空間とは、位相群を一般化した概念である。一般化することで、loop 空間が含まれ
ることになる。loop 空間についてはあとで説明する。
定義. 点つき空間 (Z, e) と積とよばれる連続写像 m : (Z ×Z, (e, e)) → (Z, e) の組 (Z, e, m)
が H-空間であるとは、図式
(Z, e) SS
(1Z ,e)
/ (Z × Z, (e, e)) o
SSS
SSS
SSS
1Z SSSSS
S)
m
(Z, e)
(e,1Z )
kk
kkk
kkk
k
k
k
kkk 1Z
ku kk
(Z, e)
が基点を保つ homotopy 可換であることをいう。ここで e : Z → Z は e への定数写像で
ある。
補題 9.30. 定理 9.28 の状況で、(Y, y0 ) = (Z, e) が H-空間であるとする。このとき、
[(X, x0 ), (Z, e)] への基本群 π1 (Z, e) の作用は自明である。
証明. 任意の f ∈ (Z, e)(X,x0 ) および ` ∈ (Z, e)(I,∂I) を考える。H-空間の積 m を使って連続
写像 Φm : X × I → Y , (x, t) 7→ m(f (x), `(t)), を定める。Φm (x, 0) = Φm (x, 1) = m(f (x), e)
および Φm (x0 , t) = m(e, `(t)) だから、H-空間の定義の homotopy 可換図式から [Φm (·, 0)] =
[Φm (·, 1)] = [f ] ∈ [(X, x0 ), (Z, e)] および [Φm (x0 , ·)] = [`] ∈ π1 (Z, e) がわかる。したがって
[`]∗ [f ] = [Φm (·, 1)] = [f ] ∈ [(X, x0 ), (Z, e)] がえられる。これが示すべきことであった。
系として直ちに次がえられる。
系 9.31. H-空間 (Z, e) について、基本群 π1 (Z, e) は可換である。
また、命題 4.14 より次がえられる。
幾何学 XA = 位相幾何学
20
系 9.32. 位相群 G と n ≥ 2 について全射 δ は同型 H(S n ; G) ∼
= πn−1 (G0 )/π0 (G) を誘導
する。ここで G0 は G の単位元を含む弧状連結成分である。
cofibration からえられる Hurewicz fibration
定理 9.28 の状況は、局所有限胞体複体に関しては、より conceptual に扱うことができ
る。その出発点は次の補題である。
補題 9.33. X を局所 compact 空間、A ⊂ X を閉部分集合とし、包含写像 i : A ,→ X が
cofibration であるとする。このとき、任意の位相空間 Y について、連続写像 i∗ : Y X → Y A
は Hurewicz fibration である。
証明. 任意の位相空間 Z と連続写像 f : Z → Y X および F : Z × I → Y A が与えられ
て i∗ ◦ f = F ◦ i0 : Z → Y A をみたすとする。ここで i0 : Z → Z × I, z 7→ (z, 0), で
ある。このとき、X が局所 compact であることから、A も局所 compact であり、写像
fˇ : X × Z → Y , (x, z) 7→ f (z)(x), および Fˇ : A × Z × I → Y , (a, z, t) 7→ F (z, t)(a), は連続
である。いま、Fˇ (a, z, 0) = fˇ(a, z) であって、系 9.15 により A × Z ,→ X × Z は cofibration
b : Z × I → Y X,
だから、Fˇ と fˇ の拡張である連続写像 G : X × Z × I → Y が存在する。G
z 7→ G(·, z), が望む連続写像である。
それでは定理 9.28 で与えた、基本群のホモトピー集合への作用をやり直すことにする。
少し設定を変えて、X を局所 compact 空間、A ⊂ X を空でない閉部分集合とし、包含写
像 i : A ,→ X が cofibration であるとする。また、Y を位相空間とする。いま示したことか
ら i∗ : Y X → Y A は Hurewicz fibration である。A から y ∈ Y への定数写像を cy : A → Y ,
∀a 7→ y, と書く。写像 c : Y → Y A , y 7→ cy , は中への埋め込みである。実際、任意の compact
open
集合 K ⊂ A と開集合 U ⊂ Y について i−1 (O(K; U )) は、K が空でないとき U であって、
K = ∅ のとき Y となるからである。補題 4.3 (2) によりひきもどし (i∗ )c : c∗ (Y X ) → Y も
Hurewicz fibration である。各点 y ∈ Y 上のファイバーは ((i∗ )c )−1 (y) = (Y, y)(X,A) で与え
られる。そこで、定理 3.15 から π0 (((i∗ )c )−1 (y)) = [(X, A), (Y, y)] であって、補題 3.22 によ
り [(X, A), (Y, y)] = [(X/A, A/A), (Y, y)] である。§5 で与えた monodromy 準同型 ρc∗ (Y X )
とホモトピー集合をとる函手 π0 を合成して共変函手
π0 ◦ ρc∗ (Y X ) : ΠY → (Sets)
y 7→ [(X, A), (Y, y)]
[`] 7→ [`]∗ : [(X, A), (Y, `(0))] → [(X, A), (Y, `(1))]
がえられる。写像 [`]∗ : [(X, A), (Y, `(0))] → [(X, A), (Y, `(1))] を書き下す。ι : (Y, `(0))(X,A) ,→
Y X を包含写像とする。被覆ホモトピー性質により図式
/
i4 Y X
i i
i
G` i i
i∗
i i
i
i i
/YA
×I
(Y, `(0))(X,A)
i0
(Y, `(0))(X,A)
ι
c◦`◦pr2
を可換にする連続写像 G` : (Y, `(0))(X,A) × I → Y X がえられて G` (·, 1) が [`]∗ を与える。
X は局所 compact だから、写像 Φ : (Y, `(0))(X,A) × X × I → Y , (f, x, t) 7→ G` (f, t)(x) は
連続である。Φ(f, ·, 0) = f であって Φ({f } × A, ·) = ` だから、`(0) = `(1) のとき、この
Φ は定理 9.28 で考えたものに他ならない。したがって、π0 ◦ ρc∗ (Y X ) を基本群 π1 (Y, y0 ) に
制限したものは、定理 9.28 の作用に一致する。