∆VM 法による発光ダイオードの過渡熱抵抗の測定

VM 法による発光ダイオードの過渡熱抵抗の測定
○河本直哉
山口大学 工学部技術部機器分析班
1. はじめに
発光ダイオード(LED: light emitting diode)は,白熱電灯や
蛍光灯に替わる光源として身近なものとなった.高寿命の光
G型
源を実現する為には,LED の温度上昇を低減する必要がある.
一般的に LED など電子デバイスの温度上昇は熱抵抗 RTH
[°C/W]により評価する.LED の熱抵抗は式(1)で表される.
RTH=T/P
…(1)
ここで,RTH, T, 及び P はそれぞれ,熱抵抗,pn 接合部の温
度上昇,及び LED への投入電力である.つまり,熱抵抗とは
LED に 1 [W]の電力を投入した時に生じる LED の pn 接合部
アルミダイカスト
LEDチップ on 純アルミ
の温度上昇のことを指す.過渡熱抵抗とは,LED へ一定の電力
図1
を投入することによる熱抵抗(pn 接合部の温度)の挙動測定
アルミ製ヒートシンク
G 型 LED 信号
を示す.過渡熱抵抗は LED 照明におけるヒートシンク等の放
熱解析に用いられる.この度,高信頼性が必要とされる鉄道事
業向け LED 信号機の過渡熱抵抗測定をおこなったので報告
する.
2.過渡熱抵抗の測定
図 1 は有限会社サンオプト製 G 型 LED 信号の写真を示す.
純アルミのベースの上に発光ダイオード(LED)チップが熱
伝導性接着材にて接着されている.LED 発光時に生じた熱は
純アルミ,アルミダイカスト,アルミ製ヒートシンクを経て
空気中へ放出される.純アルミとアルミダイカスト,及びアル
ミダイカストとアルミ製ヒートシンクの界面はシリコングリ
ス塗布により熱抵抗の低減が図られている.
図2
G 型 LED 信号の電気回路図
図 2 は G 型 LED 信号の電気回路図を示す.G 型 LED 信号は
交流電圧印加により,図 2 に示す上側,及び下側の LED アレ
イが交互に発光する.上側,及び下側の LED が同時に発光す
IF
ることは無いことから,熱抵抗は図3に示す上側の LED アレ
イを用いて測定した.また,熱抵抗は図 2 の M-C 間へ直流電
圧を印加することにより測定すると,制御部にツエナーダイ
オードを含むことから誤差を生じる可能性がある.このため,
制御部を撤去し,図 2 の上側の LED アレイのみに直流電圧を
印加することで熱抵抗を測定した.G 型 LED 信号における
LED の数は 5×2 個である.
図 3 はVM 法による LED の温度変化測定のタイムフロー
を示す.LED に流す順方向電流 IF はそれぞれの LED の定格と
した.G 型 LED 信号における定格の IF は交流の実効値で与え
られるが,直流電流の平均値と実効値は同じなので,LED ア
レイに消費される電力は,実効値の IF の交流電圧を与えた場
合と,IF の直流電流を与えた場合は同じである.ここで,G 型
LED 信号における力率は1と仮定する.このため,測定に用い
る直流の IF は交流の実効値で与えられる定格値である 170
mA とした.IF による LED の温度変化T は,IF を流す前(VM1)
図 3 熱抵抗測定回路,およびタイムチャート
と後(VM2)の差(VM= VM1-VM2)を計測することで求めた.ここ
16.8
で,IM=0.1 mA,,td=10 s とした.
16.6
Im=0.1 [mA]
図 4 は G 型 LED 信号に IM=0.1(青),及び 1.0 mA(赤)を
16.2
流したときの VM の LED 温度依存性を示す.ここで,IF=0 mA
入れ G 型 LED 信号全体の温度を安定させるため 30 分以上待
ってから測定を行った.VM は 24~65℃において負の比例関係
にあることがわかった.IM=0.1,及び 1.0 mA 通電のいずれの
場合も一次関数となることから,IM 通電による LED の温度
上昇は無視できる程度であると考えられる.また,この温度は
16
Vm [V]
である.各温度における VF の測定は G 型 LED 信号を恒温槽に
Im=1.0 [mA]
16.4
y = -0.0166x + 17.063
15.8
15.6
15.4
15.2
y = -0.0214x + 16.433
15
14.8
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
Temperature [℃]
LED の pn 接合部の温度を示しているものと思われる.
図4
表1は G 型 LED 信号の IM=0.1,及び 1.0 mA 通電による
G 型 LED 信号における VM の温度依存性
VM の傾き(K)を示す.K は電流を増大することで小さくなる.
図 5 は G 型 LED 信号に IM=0.1(左),及び 1.0 mA(右)を
表1 IM=0.1、及び 1.0 mA 通電による Vm の傾き(K)
流したときの V の波形(図 3 の V)と測定のタイミング(図
K [V/℃]
K [V/℃]
3 の A/D)を示す.ここで,IF=170 mA(定格),PW=20 s,及
@IM=0.1 [mA]
@IM=1.0 [mA]
-0.0214
-0.0166
び td=10 s(測定装置における最短)である.図1A/D におけ
G 型
る 3 つのパルスは VM1, VF, 及び VM2 測定のタイミングを与え
るパルスである.VM(=VM1-VM2)を求める場合,VM2 は IF
のアンダーシュートの影響を最小限とする td を確認する必
要がある.図 3 右の IM=1.0 mA の場合の方が,図3左の IM=0.1
G type, IM=0.1 mA, IF=170 mA
G type, IM=1.0 mA, IF=170 mA
Vm1
Vm1
mA の場合と較べ,IF のアンダーシュートが小さくなってい
Vm2
Vm2
る.td が大きいと IF 通電加熱後放熱による測定誤差が大きく
10 s
10 s
なるため,G 型 LED 信号の熱抵抗測定は,IF=170 mA(定格)
,
td=10 s,及び IM=1.0 mA の条件でおこなった.
図 6 は G 型 LED 信号の熱抵抗 RTH の時間依存性を示す.G
型 LED 信号は定格の IF=170 mA を流すことで昇温する.RTH
図5
G 型 LED 信号に IM=0.1(左),及び 1.0 mA(右)
を流したときの VM の波形,及び測定のタイミング
は時間と共に上昇するが,約 1~2℃/W,及び約 8℃/W で飽
和する.熱抵抗が飽和するのは,LED の発熱量と放熱量が一致
9
8
ンクへ放熱されるため,また,約 8℃/W はヒートシンクの熱
7
が全て空気へ放熱されるため,飽和したものと思われる.
まとめ
鉄道事業向け LED 信号機の過渡熱抵抗測定をおこなっ
RTH [℃ /W]
した場合である.約 1~2℃/W は LED で発熱した熱がヒートシ
6
5
4
3
た.G 型 LED 信号全体の熱抵抗は約 8℃/W と見積もられた.
2
謝辞
1
鉄道事業向け LED 信号を提供いただきました有限会社サン
0
オプト服部邦裕社長,過渡熱抵抗測定に際し有益なご助言を
賜りました山口大学大学院理工学研究科只友一行教授,並び
に倉井聡助教に感謝します.
0.1
1
10
100
1000
Time [s]
図 6 G 型 LED 信号の過渡熱抵抗
10000