自動車補修用高作業性クリヤー ダブルアール 「レタン PG エコ RR クリヤー 310」 の開発 “RETAN PG ECO RR CLEAR 310”, New High-Workability Clear Coating for Automotive Refinishes 汎用塗料本部 自補修製品技術部 汎用塗料本部 自補修製品技術部 柳口剛男 東谷智章 Takeo Yanagiguchi 1.はじめに Tomoaki Higashiya 3) クリヤー」 シリーズ等多彩な環境配慮型製品ラインナップを 取り揃え、種々のニーズに応えてきた。 中でも「レタンPGエコ RRクリヤー」シリーズは、仕上が 的としており、新車同様の意匠を再現し、長期にわたり鋼板 り性と乾燥性の両立が図られ、市場で好評を博している。今 を保護し、外観を維持する高い耐久性能が必要である。ま 回は、RRシリーズのブランド力強化を目的に、高作業性を追 た、様々な塗装環境で使用されるため、適応幅の広い塗装 及した弊社初の主剤:硬化剤混合比率(重量比)3:1タイ 作業性が必要とされる。さらに近年は、 世界的な環境保全へ プとなる「レタンPGエコ RRクリヤー 310」を開発した。 の関心の高まりから、環境に対する負荷が少ない製品が求め 本稿では、その開発のポイントと製品の特長について紹介 られる。 する。 1) 弊社グループでは、現在、 「アレスエコプラン 2015」 を 策定し、環境保全活動を継続、強化している。この活動の 2.コンセプトと機能目標 一環として、自動車補修用塗料分野では、プライマーからク リヤーまでのトータルシステムにおいて、PRTR制度および特 自動車補修用クリヤー塗料は、塗膜の仕上がり性、耐久 定化学物質障害予防規則の対象物質を規制値未満まで低 性の観点から、主剤のアクリルポリオール樹脂と硬化剤である 減した環境配慮型塗料を提供し、他社に先駆けてフルライン ポリイソシアネート樹脂より設計される2液ウレタン系が主流で 2) ナップ化を完成させた (図1)。 ある。ウレタン系塗料は、主剤のアクリルポリオール樹脂中の 今回、開発したクリヤー塗料は、自動車補修工程の最終 水酸基と硬化剤であるポリイソシアネート樹脂中のイソシアネー 仕上げ工程で適用され、塗膜品質と仕上がり性を左右する ト基が付加反応し、ウレタン塗膜を形成する。主剤:硬化剤 重要な位置づけの製品である。そのため、要求機能も多岐 混合比率が、乾燥性重視の10:1や5:1タイプから、仕上 にわたり、弊社では、ミ ドルソリッ ドタイプ「レタンPGエコ RR がり性重視の2:1タイプまで、様々なクリヤー塗料が上市され クリヤー」シリーズ、ハイソリッ ドタイプ「レタンPGエコ HS ている。今回の「レタンPGエコ RRクリヤー 310」は、幅 広いユーザー層に対応可能な汎用性の高い 品質を目指し、主剤:硬化剤混合比率を3:1 RR:ダブルアール 向上の Raise 削減の Reduce 新車塗膜 クリヤーコート ベースコート レタン PG エコ RR シリーズ レタン PG エコ HS シリーズ レタン PG エコ クリヤー HX シリーズ クリヤーコート ベースコート レタン PG ハイブリッドエコ レタン WB エコ ベース プラサフ パテ 電着~中塗り 鋼板 で設計した。 プライマー 開発品の機能目標は、 ユーザーの使いやす さを徹底的に追求するため、以下の2点のコ ンセプトを基に設定した。 ①塗装作業、磨き作業が容易であり、良好 レタン PG ハイブリッドエコ フィラーⅡ レタン WB エコ プラサフ な仕上がり性が得られること レタン PG エコ パテ 備不要) ノンクロムプライマー ②幅広い設備環境に対応すること (乾燥設 表1に「レタンPGエコ RRクリヤー 310」 ※自動車損傷部の補修工程(断面イメージ図) の主要な機能目標を示す。 図 1 環境配慮型自動車補修用塗料のラインナップ 塗装作業性については、 1コート~2コートの インターバル時間不要の連続2回塗装を前提 55 塗料の研究 No.156 Oct. 2014 新技術 自動車補修用塗料は、自動車ボディー損傷部の補修を目 自動車補修用高作業性クリヤー「レタン PG エコ RR クリヤー 310」の開発 表 1 「レタン PG エコ RR クリヤー 310」の主要な機能目標 機 能 塗 装 指 作 業 性 塗膜品質 環境対応 (法規制) 触 乾 作 乾 目 標 業 燥 燥 時 時 性 連続 2 回塗装で、平滑な肌が得られる 間 20 ℃× 10 分で塗膜が表面乾燥する 間 20 ℃× 2.5 時間もしくは 60 ℃× 10 分でコンパウンド磨き可能 コンパウンド磨き作業性 上記乾燥時間でペーパーのカラミなく、ペーパー目が消しやすい 仕 性 既存品「レタン PG エコ RR クリヤー 215」同等 上 が り 付 着 性 10 × 10 マス(2 mm 幅)碁盤目付着試験においてハガレがない 耐 水 性 40 ℃温水× 10 日浸漬時に塗膜異常、ハガレがない 耐 候 性 自動車外板用として十分な耐久性 度 対象物質を規制値未満とする(届出対象外) 特定化学物質障害予防規則 対象物質を規制値未満とする(非該当製品) P R T R 制 新技術 に設計し、作業効率向上を図った。また、指触乾燥時間は、 特に重要な技術ポイントと主要機能の関係を表2にまとめた。 塗装後のゴミなどの付着防止に重要な機能であり、幅広い設 以下、重要技術ポイントについて紹介していく。 備環境に対応可能とするために、既存品「レタンPGエコ 3.1 基体アクリル樹脂の最適化 RRクリヤー 210」 、 「215」より短い20 ℃×10分とした。 コンパウンド磨き作業とは、クリヤーを乾燥させた後、塗膜 開発品では、良好な塗装作業性と仕上がり性を確保する 上のゴミブツ取りや隣接する未補修部の塗装肌と同じ仕上が ために、基体アクリル樹脂の低分子量化を行った。しかし、 4) り肌に調整する工程である 。この工程は、補修工程の中で 従来品の樹脂を低分子量化すると、指触乾燥性が著しく低 特に時間のかかる工程の一つである。開発品では、 コンパウ 下する。そこで、基体アクリル樹脂のモノマー組成により、基 ンド磨き作業が可能となるまでの乾燥時間短縮と、コンパウン 体アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)を最適化し、課題の ド磨き作業性の向上による工数削減を狙いとした。 解決を図った。 図2に基体アクリル樹脂Tgと指触乾燥時間の 仕上がり性、塗膜品質については、既存品同等の自動車 関係を示す。基体アクリル樹脂Tgを高く設定することにより、 外板用として十分な性能を目標とした。 指触乾燥時間が短縮し、目標とする10分以下にできることを また、作業者や環境への配慮から、PRTR法や特定化学 確認した。 物質障害予防規則の対象物質含有量を規制値未満に抑制 また、基体アクリル樹脂の極性は、仕上がり性に大きく影響 する方針で開発を行った。 を与える。図3に基体アクリル樹脂のヘキサントレランス値と仕 上がり性の関係を示す。ヘキサントレランスは、値が大きいも 3.開発のポイント のほどの極性が低いことを意味する。極性が低いアクリル樹 脂ほど、ツヤ感が向上し、仕上がり性が良好であった。 クリヤー開発の鍵は、機能目標達成に向け、基体樹脂、 開発品の基体アクリル樹脂は、以上のTg調整、低極性化 添加剤、溶剤等の各成分を最適化し、摺り合わせる過程に の両面を考慮し、最適なモノマー組成を有している。 ある。 「レタンPGエコ RRクリヤー 310」の開発において、 表 2 技術ポイントと主要機能の関係 技術ポイント 主 要 機 能 塗装作業性 指触乾燥性 乾燥時間 磨き作業性 仕上がり性 ① アクリル樹脂の最適化 ◎ ◎ ○ ○ ◎ ② 特殊添加樹脂の適用 − ○ ◎ ◎ − ③ 最適溶剤の選定 ○ ◎ − − ◎ 影響の基準 (大) ◎ > ○ > − (小) 塗料の研究 No.156 Oct. 2014 56 自動車補修用高作業性クリヤー「レタン PG エコ RR クリヤー 310」の開発 3.2 特殊添加樹脂の適用 指触乾燥時間 / 分 20 前述のようにコンパウンド磨き作業は、ゴミブツ除去、肌調 整のため必須の工程である。しかし、一方で時間のかかる 15 作業である。開発品は、磨き作業性向上のため、特殊添加 樹脂を適用した。 10 コンパウンド磨き作業性には、塗膜表層の硬度が重要であ る。塗膜表層が柔らかいと深い傷が入り、硬すぎると塗膜が 5 0 削れにくいため、いずれの場合も作業が困難である。良好な 作業性を得るには、作業時点において最適な塗膜硬度に調 低 整する必要がある。開発品は、前述の低分子量の基体アク 高 樹脂 Tg リル樹脂を適用するので、乾燥時間を短縮すると、塗膜硬 度不足が顕著であり、乾燥初期での塗膜硬度の向上が課 図 2 基体アクリル樹脂 Tg と指触乾燥時間の関係 題となった。ウレタン化触媒増量による反応性向上という従来 の手法では、主剤/硬化剤混合後の可使時間の短縮や仕 上がり性低下等の不具合を生じやすい。そこで、特殊添加 樹脂を適用することにより、乾燥初期の塗膜硬度向上を図っ た。上記で選定したアクリル樹脂系に対し、 特殊添加樹脂適 用時の塗膜硬度およびコンパウンド磨き作業性への効果を図 4に示す。本手法により、塗膜硬度が向上し、20 ℃×2.5 ○ 時間という短い乾燥時間でコンパウンド磨き作業が可能となっ △ た。 × 3. 3 最適溶剤の選定 クリヤーに含まれる溶剤は、指触乾燥性やメタリック塗色の 低 基体アクリル樹脂のヘキサントレランス値 モドリムラ性などの仕上がり性に大きな影響を与える。また、 開 高 発品は、連続2回塗装仕上げを前提としているため、一度に 塗着するwe t膜厚が厚く、ベースコート塗膜への溶剤浸透量 仕上がり性評価方法:弊社レタン PG ハイブリッドエコ黒塗色上に塗装を行い、 規定時間乾燥後、ツヤ感を目視にて評価した。 が多くなり、モドリムラ性には不利である。そこで、PRTR制 図 3 基体アクリル樹脂のヘキサントレランス値と 仕上がり性の関係 高 度と特定化学物質障害予防規則に非該当の溶剤の中から 耐モドリムラ性を確保できる溶剤の探索を行った。 100 ◎ 塗膜抽出率 /% 80 塗膜硬度 磨き作業性 ○ △ × 低 60 40 20 0 なし 小 中(最適量) 候補溶剤 炭化水素系 ○ モドリムラ性 多 特殊添加樹脂量 芳香族系 ○△ ケトン系 △ エステル系 × 塗膜抽出率測定方法 規定時間乾燥させた「レタン PG ハイブリッドエコ」未架橋塗膜を候補溶剤に 1 分間浸漬する。 塗膜抽出率(%)=(初期塗膜重量-浸漬後塗膜重量)/ 初期塗膜重量 ×100 コンパウンド磨き作業性評価方法 ①所定時間乾燥後、耐水ペーパー♯2000 にて研磨し、ペーパー目を付ける。 ②住友スリーエム社製ハード・1-L を塗面に塗りつけ、ウールバフ、 電動ポリッシャーによりペーパー目が消えるまで磨き作業を行う。 ③このペーパー目の消え易さにより、評価を行う。 図 5 候補溶剤の塗膜抽出率とモドリムラ性の関係 図 4 特殊添加樹脂量と塗膜硬度、 磨き作業性の関係 (20℃×2.5 時間 乾燥後) 57 塗料の研究 No.156 Oct. 2014 新技術 仕上がり性評価 ◎ 自動車補修用高作業性クリヤー「レタン PG エコ RR クリヤー 310」の開発 弊社の主力ベースコート塗料である 「レタンPGハイブリッド さらに、クリヤー塗装後 20 ℃ ×2.5 時間、もしくは 60 ℃ × エコ」の乾燥塗膜を候補溶剤に1分間浸漬した時の塗膜抽 10 分という短い乾燥時間でコンパウンド磨き作業性が可能で 出率とモドリムラ性の評価結果を示す(図5) 。塗膜抽出率と ある。加えて、コンパウンド磨き作業性も良好であるため、作 モドリムラ性は相関し、 候補溶剤の中で炭化水素系溶剤が最 業時間の短縮も図れる。 も塗膜抽出率が低く、モドリムラ性も良好であった。また、こ 以上の比較より、開発品「レタンPGエコ RRクリヤー の溶剤は、蒸発速度も速く、指触乾燥短縮にも有効であった 310」は、既存RRクリヤーの中でも、特に作業性に秀でた製 ため、主溶剤として選定した。 品となったと考えている。 4.開発品の特長 4. 2 塗膜品質 表4に開発品の塗膜品質試験結果を示す。開発品は、 既 4. 1 高作業性の追及 存品同等の塗膜品質であり、自動車外板用途として十分な 表3に開発品と弊社「レタンPGエコ RRクリヤー」既存 塗膜性能を有していることが確認できた。 品との塗装作業性、乾燥性の比較を示す。開発品は、既存 RRクリヤーの中で塗装作業性、仕上がり性が良好である。 4. 3 塗装仕様 また、指触乾燥時間も短いため、クリヤー塗装時のゴミブツの 「レタンPGエコ RRクリヤー 310」の標準塗装仕様を表 付着を最小限とし、幅広い設備環境に対応可能となった。 5に示す。弊社主要ベースコート塗料との組み合わせにおい 新技術 表 3 開発品と既存RRクリヤーとの作業性比較 レタン PG エコ RR クリヤー 項 目 210 215 310(開発品) 510 2:1 2:1 3:1 5:1 性 ○ ◎ ○+ ○ 数 連続 2 回 連続 2 回 連続 2 回 2.5 回 (インタバール要) 指 触 乾 燥 時 間 /20 ℃ 15 分*) 20 分*) 10 分*) 5 分**) 60℃ 10 分 15 分 10 分 15 分 20℃ 4 時間 4 時間 2.5 時間 6 時間 ○+ ○+ ◎ ○+ ◎ ○+ ○+ ○ 主剤:硬化剤 比率 塗 推 装 奨 作 塗 業 装 回 コンパウンド磨き可能時間 コンパウンド磨き作業性 仕 上 が り 性 評価の基準 ◎(特に良好)> ○ +(良好) > ○(実用上問題なし) *) 連続2回塗装時の評価 **) コート毎の評価 表 4 開発品の塗膜品質 試 験 項 レタン PG エコ RR クリヤー 目 215 310(開発品) 100 100 付着性 100 100 塗膜状態 異常なし 異常なし 20°光沢保持率(95%以上) 合格 合格 色差(⊿E 0.5 以内) 合格 合格 付着性 100 100 塗膜状態 異常なし 異常なし 付着性 耐水性 (40℃温水× 10 日浸漬) 耐候性 (スーパーキセノン 2000 時間) 塗装工程:レタン PGHB エコ #202 サンメタリックベース∼各クリヤー 付着性は、碁盤目試験法(10 × 10 マス 2 mm 幅)、碁盤目残数で表示 塗料の研究 No.156 Oct. 2014 58 自動車補修用高作業性クリヤー「レタン PG エコ RR クリヤー 310」の開発 表 5 開発品の標準塗装仕様 (開発)クリヤー レタン PG エコ RR クリヤー 310 ベース 100 レタン PG エコ マルチ硬化剤各種 33 シンナー 調合条件 (重量比) (推奨シンナー) 10 ∼ 30 PG エコシンナー各種 PG エコ HS シンナー各種 作業性*) 法 令 可使時間 /20 ℃ 3 時間以内 PRTR 制度 届出対象外 特定化学物質障害予防規則 非該当 消防法区分 第4類引火性液体 第2石油類 適応ベースコート レタン WB エコ、レタン PG ハイブリッドエコ、レタン PG80 *乾燥条件は表3参照 新技術 て、仕上がり性、塗膜性能とも良好であり、いずれにも適応 可能である。また、PRTR制度届出対象外であり、特定化 学物質障害予防規則にも非該当である。 5.おわりに 今回紹介した「レタンPGエコ RRクリヤー 310」の開発 は、機能目標設定から、市場モニターに至るまで、多数のお 客様よりいただいた貴重なご意見に基づいて完成したもので ある。ここに、感謝の意を表したい。また、この「レタンPG エコ RRクリヤー 310」の拡販が、お客様の生産性向上、 省エネルギー、環境保全活動の一助となれば幸いである。 今後も、お客様の声を真摯に傾聴し、高品質な環境配慮 型塗料の研究・開発に注力することで、社会の持続的な発 展に貢献していきたいと考えている。 参考文献 1) “環境・社会報告書 2013” 、p.8-12、関西ペイント 2)柳口剛男、鈴木竜一、尾崎豊:塗料の研究、 154、60-64 (2012) 3)鈴木竜一:塗料の研究、152、69-73(2010) 4)沖山陽彦、竹内茂紀:塗料の研究、155、64-68(2013) 59 塗料の研究 No.156 Oct. 2014
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