平成25年度厚労科研(健康安全・危機管理対策総合研究事業) 「レジオネラ検査の標準化及び消毒等に係る公衆浴場等における衛生管理手法に関する研究」 平成25年度分担研究報告書 研究分担者国立感染症研究所寄生動物部八木田健司 研究協力者国立感染症研究所寄生動物部泉山信司 レジオネラ属菌遺伝子型とアメーバ適合性 研究要旨:L、pneumoph胸分離株と自由生活性アメーバを用いて実験感染を行い、菌の 遺伝子型グループとアメーバの適合性を調べた。L.pneumoph池は冷却塔、土壌や臨床検 体由来のCI、C2、SIグループについて、アメーバは浴槽より分離したAcanthamoebasp、 yVaegねJ血sp.、1忽""ellasp.および1毛xiMerasp.を試験した。Acanthamoebaはすべてのグ ループの菌に感染したが、/Va…"asp.および吃、"ellasp.は株により菌グループの感染性 に違いを示し、菌の遺伝子型グループ(亜種レベル)による宿主アメーバ適合性が異なるこ とが示された。これらの結果は野外におけるレジオネラ属菌の分布、生態の決定要因に環 境中のアメーバ相が関与していることを示唆するものであった。なおVexi加甘汐sp. はアメーバの中でもレジオネラ耐性的な性質を示し、野外環境において宿主とならな いアメーバの存在の重要性を示唆した。 A.研究目的 離株)、亜種伽se〃のC2グループ(冷却塔、浴 環境中に生息するAcanthamoeba等の自由生 槽および曙たん分離株)およびS】グループ(土壌、 活性アメーバは、レジオネラ属菌の自然宿主とし て知られている。公衆衛生学的には宿主アメーバ 曙たん分離株)、さらに亜種pascullei(シャワー、 給水系分離株)を用いた。またL・pneumophila 類の生態がレジオネラ感染症の成立に大きく影 SGIの対照株として2つの患者由来株を用いた。 響を及ぼしており、生活環境中における宿主アメ 菌株はBCYEα培地にて30℃、3日間培養し実 ーバ調査とその管理は重要な問題である。最近 験に供した。 の研究から、レジオネラ属菌の遺伝子型が分離さ れる環境によりその分布に違いが見られることが 2.アメーバ株 明らかになってきている。その遺伝子型の分布に 宿主アメーバが関連している可能性に関して、前 浴槽水より分離したAca"的amoebasp.(AC)、 Vannellasp.(VN)、雌egねJ油sp.(NG)ならびに 年度”""e肋において菌の特定遺伝子型と関連 Vexi"泥rasp.(VX)を用いた。これらのアメーバ類 していることを示唆する結果が得られた。本研究 は大腸菌塗布培地を用いて30℃で培養し、栄養 では引き続きアメーバ類とL.pneumoph池の実 体を回収した。 験的感染から菌の遺伝子型と宿主となるアメーバ 3.感染実験 の適合関係を調べた。 前年度と同様で、培養したL.p菌株をアメーバ B.研究方法 用生理食塩水(AS)で希釈し濃度約0.10Dの菌 1.レジオネラ属菌株 液を調整した。加熱により不活化処理した大腸菌を 用いて同様に菌液を調整し、2つの菌液を等量混 L.pneumoph伽の遺伝子型に基づくグループと して亜種pneumoph伽のCIグループ(冷却塔分 合した。無栄養寒天培地に約0.5mlの混合菌液を 201 塗布し風乾させ試験培地とした。供試するアメーバ については増殖中の栄養体を培地上より回収し、離株はACの一部に感染性を示したが、NGおよび ASで浮遊液を調整した。レジオネラ属菌を塗布し他のアメーバに対しては標準株とほぼ同様の結果 た試験培地上に供試アメーバ浮遊液を滴下し風乾を示した。 させ、アメーバと菌を接触させた。大腸菌のみを塗 布した培地を用い同様にアメーバ浮遊液を滴下し、D.考察 これを対照実験とした。30℃で行い菌の感染を生きレジオネラ属菌の遺伝子型が環境により検出頻 た栄養体の有無で評価した。評価に際してのスコア度が異なることが明らかになっている。遺伝子型が −は以下のようにした。(+)は栄菱体の増殖が認菌の病原性を含めた細菌学的性質に影響を及ぽ められ、また菌の細胞内増殖による破壊が認められす因子となることを考えれば、特定の環境が感染源 ない、菌の感染は成立しなかった状態。(±)は栄となる可能性についてそこに生息するアメーバが菌 養体の増殖が認められるも、一部で菌の感染がありの宿主となりうるかどうかが極めて重要な要因となる。 細胞内増殖による破壊が認められる。(一)は菌のこれまでに、アメーバの中ではレジオネラ感染モデ 感染後細胞内増殖により破壊され、栄養体の増殖ルとされるAcanthamoebaの場合はSGIを含め多く が認められない、死滅状態とした。 の血清型に広範に感染性を示すことが知られてい るが、今回注目した遺伝子型グループに対しても c.研究結果調べたAC株中での差はほとんど認められなかった。 表-1に遺伝型グループ分類に基づく菌株とアメACはいかなる環境でもそこにいる菌にとって格好 一(感染の関係を一括して示した。また図-1にはの増殖装置として存在すると考えられる。例外的に 代表的なアメーバの菌感染性を示した。標準株であるPhiladeifia株(SGI)とC2fraseノの標 まずL.pneumophilaSGI株であるフイラデルフイ準株(SG5)がAC感染性を示さなかったが、これは ア株(標準株)と国内患者株に関しては、同一血清両者とも実験室内株として人工培蕊された期間が 型でありながら両極的な結果を示した。国内患者株長く、アメーバ感染性に変異が生じたためではない は一部のVNとvxを除きすべてのアメーバに感染かと想定される。 し、アメーバは死滅した。一方フィラデルフィア株で全般的にみると、環境中のアメーバの中ではNG はすべてのアメーバが非感染で、アメーバは対照とVNが菌の遺伝型グループとの間で適合性といえ 実験の大腸菌培養と同様の増殖性を示した。る関係があるのではないか、という結果が示された。 fraseriCIグループは血清型としてOLDAと前年度、今回調べたVNとは異なるが、それらの中 Oxfordの株を含んでいたが、これらはACにはいずでCIグループの猫seノに対しての感染性の差が れも感染し、NGにはほぼすべてに感染したが、VN認められていたが、L.pSGIの特定のグループの では株によって、また菌株(血消型の違い)によって菌の分布、生態に環境中のアメーバが関与してい 感染性が異なった。VNの中でCIに非感染性のもることを示唆する結果である。菌のグループは亜種 のも存在したが、これはL.pneumophilaSGI対照としての分類と相関するので、菌の亜種レベルで適 株に対しても非感染‘性を示した株であった。VXは合性が変わるということが想定される。 CIに対して非感染性であった。菌とアメーバの適合性を決定する要因に関して fraseriC2グループは血消型としてOxford、は、アメーバ側、菌側それぞれが有するのと想像さ SGIおよびSG5を含んでいたが、感染性はアメーれる°感染から細胞内増殖までの過程を考えると、 (株による違いが比較的明確であった。ACはすべ接着、細胞内取り込み、食胞内消化耐性、菌の増 て感染し、NGは菌株によらず感染性、非感染性に殖性など多くのプロセスが関与しており、それぞれ 分かれる傾向が見られた。VNのすべての株およびのプロセスで各アメーバ種また株に特有の性質が vxはC2〃泡senに対しては非感染性であった。C2発揮されるものと思われる。同属アメーバ内で菌グ frase〃の標準株(SG5)については、ACを含め調べループによる感染性が異なるので、ケノムレベルの たすべてのアメーバが非感染性であった。比較解析が有用な研究課題になるものと思われ fraseriSIグループは血消型PhiladeifiaとSGIる。 を含んでいたが、そのアメーバ感染性に関しては実際の野外環境においては、実験的に用いる単 C2と同様の結果であった。純なアメーバ相とは異なり、宿主となり得るもの、逆 別亜種のpascullejは血清型SG5で、シャワーかにならないもの(捕食するものかもしれない)が重層、 ら分離された標準株はACに対しても非感染性であ多層的に存在することで、そのアメーバに基づく環 り、NGの一部のみ感染性であった。また給水系分境によって決定されるレジオネラ環境が生ずるので 202 はないかと考えられる。中でも興味深いのはレジオ験結果から、菌の遺伝子型グループにより宿主ア ネラ耐性とも呼ぶべき性衡を示すアメーバの存在で、メーバに対する適合性が異なることが示された。こ 特にVcxillirera(VX)は他のアメーバにはすべて感の結果は野外におけるレジオネラ属菌の分布、 染するSGI患者株でも増殖は対照と変わらない点生態の決定要因に環境中のアメーバ相が関与 である。本アメーバは環境中の自由生活性アメーしていることを示唆するものであった。レジオ バの中では最も小型でシスト化をしないという特徴ネラ属菌に対する抑制因子としてのアメーバ がある。検出率は比較的高く、大Iル菌培養での増の存在が指摘され、その重要性を今後明らかに 殖‘性は高い。本アメーバに関してはほとんど生物学する必要があることも示唆された。 的な研究がなされておらず、野外潔境でどの程度 レジオネラ汚染に抑制的に働くかは不明である。レ ジオネラに関連したアメーバ研究としては、従来中F.健康危倶情報 心とされてきた宿主アメーバの視点、研究とともに、なし 今後はレジオネラ耐性的なVexilliIbraやVannella の研究も重要性を増すものと思われ、その抑制メカG.研究発表 ニズムを解明することは生物学的にレジオネラ汚染なし を防止するという可能性につながることも期待され る 。 H . 知 的 所 有 権 の 出 願 ・ 登 録 状 況 なし E、結論 L.pneumophilaと環境中のアメーバの感染実 匠貼& 、咽 摩酋 剣 _機, 鼠。、塁 マ 己 蝉 《ロ算 量 一jも4剰箇 大腸菌培養 』 1 関 竺 VN4 VN5 VX1 認 患者由来株感染 図-1、大腸菌培養と患者由来株(SG1)の感染におけるVNおよびvxの増殖状況 VN4株は患者由来株に感染し死滅するが、VN5およびVX1では患者由来株 が存在しても大腸菌培養と同様な増殖'性を示した。 203 表-1、遺伝型グループ(亜種レベル)分類に基づくL.pneumonia菌株とアメーバ感染の関係 クルー 菌株 ソース ST 血清型 フ ゙ Lp080045 1 患者 患者 36 Subspp. AC1 AC2 NG1NG2NG2NG4NGSNG6NG7VN1VN2VN3 VN4 VN5VX1 SGI pneum◎. SGI pneumo. 1052 冷却塔 1 OLDA CI 1592 冷却塔 1 Oxford CI pneumo.? 5 冷却塔 pneumo.? ■■■■■ − ■■■■■ I■■■■■ ■■■■■ I■■■■■ ー 一 + I■■■■■ I■■■■■ l■■■■■ + + + + + + + + l■■■■■ 十 + ー ■■■■ + + + + + + + + + 1■■■■ ー 一 一 − I■■■■■ l■■■■■ ー ± 1■■■■ + ± _ − .■■■■ − − l■■■■■ I■■■■■ 一 ± − ± + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + I■■■■■ + + + + + + + + SG5 C2 f r a s e r i + + + + + 590 冷却塔 154 Oxford C2 f r a s e r i ■■■■■ I■■■■■ I■■■■■ − − − 595 冷 却 塔 150 Oxford 02 f r a s e r i _ − − − ー l■■■■■ 694 冷却塔 598 Oxford 02 fraseri l■■■■■ ■■■■■ − − − ー + + + + + + + + + 6 0 フ Oxford 02 f r a s e r i l■■■■■ 一 − q■■■■ l■■■■■ I■■■■■ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 十 + + + 1269 冷 却 塔 2501 曙痩 595 SGI 02 hEsen − ー − I■■■■■ I■■■■■ − 2514 曙痩 608 SGI 02 f r a s e r i ー − − I■■■■■ .■■■■■ .■■■■■ 986 SGI 02 f r a s e r i I■■■■■ 一 − − ー − + + 十 + + + + + + SGI 02 f r a s e r i − _ − − l■■■■■ I■■■■■ + + + + + + + + + 2709 冷 却 塔 − 2907 浴槽 2343 土壌 741 P hiladel. S1? f r a s e r i I■■■■■ − ■■■■■ ー − − + + + + + + + + + 2564 曙痩 701 SGI S1? f r a s e r i I■■■■■ − − − ー − + + + + + + + + + 2752 曙痩 1023 SGI S1? f r a s e r i − ー ー − − I■■■■■ + + 十 + + + + + + ■■■■■ ■■■■■ ■■■■■ + + + + + + + + 十 + − _ I■■■■ + + + + + + + + + + + + + + + + + + 150 シャワー 2781 給 水 系 1 2 9 ( SG5 p a s c u l l e i + SG5 p a s c u l l e i + E . c o l i + ー 十 (対照) + + + + − + AC:Acanthamoebasp HG:Naeg灼ノ治sp. VN:Vanne//asp. VX:¥/ex〃た煩sp. +:アメーバ増殖を示す(レジオネラ非感染性) −:アメーバ死滅を示す(レジオネラ感染性) ±:栄養体の増殖が認められるも、一部で菌の感染があり細胞内増殖に よる破壊が認められる。 204
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