最前線 Silicon Valleyの技術動向 《IoTとセンサ&半導体の最新動向》 IoTの鍵握るセンサネットワーク 年1兆個のセンサ活用社会実現へ 服部コンサルティング・インターナショナル 代表 服部 毅(本誌編集顧問) モノのインターネット(IoT)実現の鍵を握るワイヤレスセンサネットワーク(WSN)に必須 となる半導体技術の全てに強みを発揮できる半導体企業は今のところ1社もなく、本格的な競 争はこれからだ。年間1兆個を超えるセンサを活用する社会を創る活動がSilicon Valleyで始ま り、これにより半導体の新たなビジネスチャンスが生まれようとしている。 ●IoTに欠かせないセンサの用途が急拡大 向、雨量など)モニタ、自然保護、交通状況の監 米国の市場調査会社Gartnerの半導体・エレクト 視など多目的で使われ始めており、用途は急速に ロニクス研究ディレクターのStephan Ohr氏(図1) 拡大している。特に最近は、ウェアラブル端末で が、4月にSilicon Valleyで開催された技術ジャーナ 収集したバイタルデータを活用したヘルスケアが リスト向け国際会議EuroAsia Press 2014(Global 注目されている。 Press Connection主催)で「モノのインターネット WSNで収集されたデータは、ゲートウェイを介 (Internet of Things:IoT)におけるセンサと半導体」 して、クラウドに上げられ、サーバやストレージ について講演した。 に送られる。状況によっては、有線でサーバへ送 GartnerではIoTを、「通信機能を備えた様々な対 られる場合もある。 象物によって構成されたネットワークで、それぞ ●センサ端末は2020年に300億台突破へ れの内部状態や周辺の環境を通信・対話し合える Gartnerは、世界中のワイヤレス・センサノード もの」と定義している。ここで、内部状態や周辺 の設置数は、2020年までに300億台を超えると予測 環境を感知するにはセンサが必須である。 している。ここで、センサノードは、温度、湿度、 多数のセンサを空間に散在させ、それぞれのセ 力、加速度、角速度、光などの物理量を電気量 ンサノード(端末)がセンシングした様々な情報 を無線で効率良く採取することを可能にするワイ (電圧や電流)に変換する素子という意味の、狭義 のセンサに加えて、MCU、ワイヤレス送受信回路、 ヤレスセンサネットワーク(Wireless Sensor Net1) 電源管理回路、その他の周辺回路、アンテナなど work:WSN) は、元々、米国で軍事目的で開発さ を含むモジュールを指す(図2)。 れたものだが、今では、民生用途、特に製造プロ Ohr氏は、「センサノードによるセンシングの一 セス管理・電源管理、スマートグリッド、ビルデ 連のルーチンは、①環境に変化が生ずるとワイヤレ ィング保安管理、橋梁やトンネルなどの構造応力 ス・センサノードがスリープモードから立ち上が 管理、農林業の土壌管理、天候(温湿度、風速風 る、②情報を読み出し、増幅し、デ ジタル信号に変換する、③MCU アンテナ 組み込み ソフト がデータパターンを保存してあ センサ るルックアップテーブルの情報 IoT用 送信用 MCU RF と比較し判断する、④MCUはデ アクチュ ータをアクチュエータに伝えた エータ ストレージ り、外部へ伝送する、⑤そして消 パワーマネージメント 費電力節約のためWSNは再びス リープモードに戻る、の5段階だ 図1 Stephan Ohr氏 図2 ワイヤレス・センサノードの構成概略図 58 Electronic Journal 2014年7月号 最前線 表1 有力半導体企業のIoT対応能力の評価(出所:Gartner) IoTプロセッサ MPU MCU IoT センサ 米Texas Instruments △△ ○ △ 米Freescale Semiconductor 企業名 IoT ワイヤレス注 ○ △△ ○ △△ × 伊仏STMicroelectronics △ △△ ○ △ 蘭NXP Semiconductors △ △△ △ △△ 米Atmel △ ○ × △△ ルネサス エレクトロニクス △ ○ × × 米Intel ○ × × △ 米Silicon Laboratories × △△ △ △ 米Qualcomm △ × × ○ 台湾MediaTek △ × × ○ 【評価】 十分強い:◎(該当企業はない)、やや強い:○ まぁまぁ:△△、弱い(限定的):△、 なし:× 注:Cellular/WiFi/ BT/GPS/NFC/ ZigBeeなど が、この間の消費電力は5μW程度に抑えたい。超 低消費電力のセンサや半導体チップが求められて いる。電源としては、太陽光、温度差、振動、電 磁波などを用いた環境発電(Energy Harvesting)が 望ましいが、現状では、ボタン電池よりコストが かかり過ぎる上に大き過ぎ、まだ実験段階だ」と 述べた。 ●IoTに強い半導体メーカーは1社もない IoTで使われるセンサノードは、転送すべきデー タサイズは小さく、伝送速度は遅くてかまわない 場合が多い。しかし、消費電力は極少でなければ ならない。通信プロトコルも従来のものではオー バーヘッドが大き過ぎ、軽量で処理負荷が小さい プロトコルが必要だ。Gartnerの調査・評価による と、IoTに必須となる4種類の半導体技術、アプリケ ーションプロセッサ(MPU)、MCU、センサ、ワイ ヤレスの全てに強みを発揮できている半導体メー カーは世界中に1社もない(表1)。 技術力が比較的充実しているのは米Texas Instruments(TI)や伊仏STMicroelectronicsだが、この両 社はすでに欧米で出回っているヘルスケア用ウェ アラブル・リストバンド(活動量計)にしっかり 入り込んでいる(表2)。とはいえ、IoTはまだまだ 黎明期にあり、半導体メーカーにとって本格的な 競争はこれからだ。 ●米国が仕掛ける“センサ活用毎年1兆個計画” Silicon Valley在住で起業家のJ. Brysek氏は2012年 に、毎年1兆個(現在の100倍の規模)を上回るセン Silicon Valleyの技術動向 表2 ウェアラブル・ヘルスケア・リストバンド搭載の半導体 仕様 製品名 Jawbone Up MCU TI 製16ビット 「MSP430」 センサ (加速度計) Bosch製 「BMA220」 持続性 電源管理 ── Nike+ Fuelband ・TI製16ビット 「MSP430」 ・STMicro製32ビット 「STM32L15xxC」 STMicro製「C3H」 (「STM-C5L23A」、 「STM-V656A」) TI製Bluetoothモジュール 「CC2564-TIWI-UB2」 TI製Li-Ion Charge Controller 「BQ24040」 製品外観 出所:Gartner資料を基に筆者が作成 サを活用する社会“Trillion Sensors Universe”とい う構想を抱いた。社会に膨大なセンサネットワー クを張り巡らせることにより、地球規模で社会問 題の解決に活用しようと、様々な安価なセンサを 大量に入手可能にするためのグローバルな活動を 始めた。 Trillion Sensors Universeの実現に向けて、企業や 大学や研究機関も動き出した。錠剤1粒ずつにセン サを埋め込み、患者が確実に飲んだことを医師が 確認する、といった類の奇想天外? な構想も実用化 に向けて動き出している。Si基板上の化学センサが 胃液と反応することにより発生するエネルギーで 微弱電波を発生し、それを肌に貼り付けたパッチ で受信するという。需要を待っていたのでは遅過 ぎるので、自ら需要を創出し、産業を活性化する とともに、より良い社会の実現を目指す壮大な計 画が世界規模で始まっている。 もしも、センサノードが面積4mm2のASICと面積 4mm2で2枚貼り合わせのMEMSセンサでできている とすれば、それぞれ1兆個製造するのに、2億6000 万枚(200mmウェーハ換算)のSiウェーハが必要 になるとGartnerは試算している。 半導体デバイスの大きな市場が拓けようとして いる。そして、ビジネスチャンスの好機となる新 たな産業が生まれ、今までに経験したことのない 新たな世界が拓けようとしている。 参考文献 1)服部毅:Electronic Journal(2012.12)pp.70-71 Electronic Journal 2014年7月号 59
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