特集/規制合理化 〈5〉監査チェックリスト標準版の作成について CISTEC 主任研究員 布野 和彦 1.はじめに これらの声や意見を元に、平成25年度の自主管理 分科会活動の主要課題として、モデルCPをベース 輸出者当遵守基準を定める省令第1条 ヘ に「監 に運用している企業がこれから監査をやる、或いは 査の定期的実施」が規定されているように、輸出管 今までのやり方の効率化などを目的に見直してみた 理業務の適正な運用の確認を行うという観点で、監 い企業に役に立つ監査チェックリストの標準版を作 査は重要な項目の一つとして挙げられます。 成することを目標に三井物産の高野氏をリーダーと そもそも、輸出管理の監査は、監査人がチェック するサブWGを立ち上げ活動を開始しました。 リストを使って、対象部門の管理体制や該非判定、 本解説は、平成26年度に「監査チェックリスト標 取引審査等の管理状況を評価する手法が一般的で 準版の作成」として得た活動成果の概要と今後の課 す。チェックリストの具体的な項目や、実際の監査 題について触れていきたいと思います。 手法については、各社の業務形態の違いや様々な工 夫を凝らしていることから、千差万別だと言えるで 2.各企業による輸出管理監査の実態 しょう。一方で、これから輸出管理に力を入れよう まず、監査チェックリスト標準版の概要について という会社や、日々の業務の処理に忙しく、中々監 述べる前に、実際に輸出管理監査に携われている方 査にまで手が回らない部門にとっては、ある程度指 たちの手法やその悩みについて述べます。 標となる、標準的なチェックリストがあれば、それ 2.1 輸出管理監査の実態 を参考にして自分達の組織の規模や管理形態にあっ 輸出管理監査については、専門知識を要すること た輸出管理監査を効果的且つ効率的に行えるのでは から、輸出管理担当部署が監査を行うことが一般的 ないかといった声が高まりつつありました。 ですが、社内の監査室が行い、そのサポートを輸出 自主管理分科会では、平成20年に監査の事例集を 管理担当部署が行うやり方を実施している企業や親 発行し、各社の監査体制の様々な形態や監査マニュ 会社による監査を受けることで代替している企業も アル等手法についてご紹介をしています。 あり、監査する者が誰になるかについては、各社各 また、平成24年には、経済産業省安全保障貿易検 様です。また、監査の手法についても、監査用の 査官室との間で、輸出管理内部規程(CP)制度や チェックリストを利用するやり方が一般的ですが、 CP登録企業が年1回経済産業省に提出するチェッ チェックリストに加え、監査期間内に発生した輸 クリストのあり方について踏み込んだ議論を行って 出・提供案件を事前にピックアップし、その輸出関 いました。翌平成25年は、その議論を踏まえ、自主 連帳票や審査帳票を確認する監査手法を取り入れて 管理の運用共有化に向けた何らかのアウトプットが いる企業や、監査対象部門が自己評価をチェックリ 出せないかという方針の下、委員からの意見を募っ ストを使って行い、その報告を監査部門に定期的に た結果、実際に監査を行う場合に、その視点が正し 行う、いわゆる自己監査を監査部門が行う監査と別 いか不安があったり、もっと効率的な方法があるの に実施する企業など、これも多種多様です。 ではないかという悩みから、標準的な監査のチェッ クリストがあると助かるといった意見が出ました。 2015.1 No.155 CISTEC Journal 41 2.2 輸出管理監査における様々な悩み 対象に監査することを想定しています。 監査をする立場の者にとって、管理規程類が徹底 このたたき台の骨子としては、まずモデルCPレ されていないがために、該非判定や取引審査に必要 ベルの輸出管理規程を持ち、運用を行っている企業 な手続が行われておらず、監査時に示すべき資料が を想定し、その輸出管理業務を監査する上で必要な 見当たらないケースや、監査を初めて受ける部門 確認項目とヒアリング内容としてどのようなものが や、輸出関連業務が少なく輸出管理手続に不慣れな 挙げられるのか審議し、具体的に書き出す作業を開 部門の、用意し、説明する資料が揃っていない場面 始しました。 にぶつかることがあります。 その結果、監査項目としては、以下の内容を大項 あるいは、監査人自身が、監査を受ける側の業務 目とし、更に監査項目を細目として、それぞれ確認 内容や取り扱い製品の内容を熟知していないがため すべきポイントを具体的に記入し、それぞれに管理 に、適切な輸出管理を行うための的確なアドバイス 状況とその評価及び、指摘事項や改善要望事項を記 が出来るか不安に思う場合もあります。また、実際 入できる様式に纏めることとなりました。 の監査手法が果たして、その運用をチェックする上 で適切で、見落としが無い有効なものであるかを第 三者の視点で確認できないか、という思いを持つ方 もいらっしゃいます。 他方、監査を受ける立場からすると、監査人に よって、その見方が異なることから、監査で指摘を 受ける内容に従来の監査での指導や評価を受けた内 容との矛盾が生じたり、過剰な管理を要求されるこ とは避けたいという思いもあることでしょう。 このような監査をする側と受ける側のそれぞれの 悩みや問題点を解消するために、輸出データや製品 パンフレットを取り寄せるなどの事前調査、不十分 な監査しか出来ない場合の対処方法、あるいは、関 係者との事前打合せを念入りに行い、どのような準 表1 監査大項目 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 大 項 目 前回指摘事項改善状況 幹部の姿勢と基本方針の周知徹底 管理体制(組織) 管理規程 該非判定 取引審査(顧客・用途確認を含む) 成約プロセス* 許可申請手続 出荷管理・船積管理 非受注取引・技術情報等の取扱い 文書管理 監査 教育 関係会社(国内・海外含む)に対する指導 備を何時までに行い、事前提出する資料があれば期 *成約プロセス;契約時に相手方が法令違反や不 限内に必ず届くようにするなど、連絡を欠かさず行 拡散上問題のある輸出や取引を行わないよう確認書 う要領、このような監査で使うツールやノウハウの や覚書を取り交わしたり、契約発効条件を契約書に 標準的なものがあれば、それを参考に自分たちが 挿入しているかなどの確認項目を含みます。 行っている監査を見直してみるということも有効な 手段ではないかと考えられます。 3.2 次に、監査項目についてですが、大項目毎に 3.監査チェックリスト標準版の概要 監査で確認すべき共通のポイントとは何かを議論し た結果、出来るだけ分かり易い表現で具体的に記述 3.1 上記1.で述べましたサブWGでは、委員の する事になりました。 皆さんから、自分たちが行っている監査の内容を項 管理体制(組織)を例に取ると、「最高責任者や 目毎に説明し、その課題や共通点を浮き彫りにする 輸出管理統括責任者、営業部署の事業部門長の役割 ことから始めました。そして監査時にチェックリス 分担、及び責任と軽減が明確になっているか。」、 トを使用していることが判明したため、チェックリ 「輸出管理部門は、事業部、営業部からの独立性・ ストの標準版を作成することを目的にその確認項目 中立性が担保されているか。」といったチェックポ として押さえるべき内容のたたき台を作成すること イントが全部で7項目列記されています。 になりました。監査する場面としては、親会社が子 更に、それぞれの監査項目について確認項目が列 会社を若しくは、本社部門が営業部門や事業部門を 記されており、監査人は何をもって各項目の運用状 42 CISTEC Journal 2015.1 No.155
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