ブローアップ

ブローアップ
早稲田大学数学科二年 @waheyhey
2014 年 2 月 10 日
概要
2014 年の春休みの頭に特異点解消を勉強するための準備として,スキーム論を復習をしたものをまとめ
ました.基本的には個人的に使うために書いたので,読みにくいかつ間違いが沢山あるかもしれません.
目次
有理写像
1
1
1.1
スキーム的稠密
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
有理写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
因子
6
Cartier 因子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
ブローアップ
8
2
2.1
3
1 有理写像
1.1 スキーム的稠密
定義 1.1(majorize) X の部分スキーム Z, Z ′ に対し,埋め込み Z ,→ X が埋め込み Z ′ ,→ X を factor する
とき,Z ′ は Z を majorize するという.
定義 1.2(スキーム的稠密) X をスキームとする.開部分スキーム U ⊂ X は,次の条件を満たすときスキー
ム的稠密であるという:
任意の X の開部分スキーム V ⊂ X に対し,U ∩ V を majorize する V の閉部分スキームは V 自身のみで
ある.
命題 1.3 S をスキーム,X を S スキーム,j : U ,→ X を開部分スキームとする.このとき,次が同値で
ある.
(i) U は X の中でスキーム的稠密である.
(ii) j ♭ : OX → j∗ OU は単射である.
(iii) 任意の開部分スキーム V ⊂ X ,任意の分離 S スキーム Y ,任意の S スキームの射 f, g : V → Y に対
し,f|U ∩V = g|U ∩V ならば f = g である.
1
証明
(ii) ⇒ (i) を示す.V ⊂ X を X の開部分スキーム,i : Z ,→ V を V の閉部分スキームでイデアル層
I ⊂ OV で定義されているものとする.U ∩ V を Z が majorize するとする.まず U ∩ V は Z の開部分ス
♭
キームであり j∗ は単射を保存するから,j∗ OU ∩V → j∗ OZ は単射.(ii) より j|V
も単射であるから,これら
の合成で得られる射
i♭ : OV → i∗ OZ = OV /I
も単射となり,すなわち I = 0 となる.
(i) ⇒ (iii) を示す.difference kernel Ker(f, g) は U ∩ V を majorize する閉部分スキームである(Ker(f, g)
が閉部分スキー ムであること は Y が分離的であることから従う).U がスキーム的稠密であるから,
Ker(f, g) = V .すなわち f = g となる.
(iii) ⇒ (ii) を示す.任意の開部分集合 V ⊂ X に対し,
Γ(V, OX ) −→ Γ(V, j∗ OU ) = Γ(V ∩ U, OX )
が単射であることを示す.これには (iii) において Y = A1S として,
Hom(V, A1S ) −→ Hom(V ∩ U, A1S )
f 7−→ f|U ∩V
は条件より単射であり,
Γ(V, OX ) = Hom(V, A1S )
などであることより従う.
系 1.4 S をスキーム,X を S スキームとする.次が成り立つ.
(i) 開部分スキーム U ⊂ X がスキーム的稠密ならば,U は X で稠密である.
(ii) 開部分スキーム U, U ′ ⊂ X がスキーム的稠密ならば,U ∩ U ′ も X でスキーム的稠密である.
(iii) U ⊂ X が X でスキーム的稠密,W ⊂ U は U でスキーム的稠密であるとする.このとき W は X で
スキーム的稠密である.
(iv) X =
∪
j
Vj を開被覆とする.U ⊂ X が X でスキーム的稠密であるための必要十分条件は,任意の j
に対し U ∩ Vj が Vj でスキーム的稠密であることである.
証明
(i) ある空でない開集合 U ′ ⊂ X が存在して U ∩ U ′ = ∅ とする.j : U ,→ X を埋め込みとする.
Γ(U ′ , OX ) −→ Γ(U ′ , j∗ OU ) = Γ(∅, OU ) = 0
より単射でない.
(ii) V ⊂ X を開部分スキーム,Y を分離 S スキーム,f, g : V −→ Y を f|U ∩U ′ ∩V = g|U ∩U ′ ∩V をみたす
スキームの射とする.このとき,U はスキーム的稠密であるから開集合 U ′ ∩ V に命題 1.3 の (iii) もち
いて,f|U ′ ∩V = g|U ′ ∩V をえる.次に U ′ がスキーム的稠密であることから開集合 V に命題 1.3 の (iii)
を用いて f = g をえる.よって再び命題 1.3 の (iii) より U ∩ U ′ も X でスキーム的稠密である.
(iii) 命題 1.3 の (ii) と,層の順像が単射を保存することより従う.
局所ネータースキームに対してはスキーム的稠密を付随点で特徴付けることができる.
2
定義 1.5(付随素イデアル) A を環,p ⊂ A を素イデアルとする.p は.ある A の元 a ∈ A があって
p = Ann(a) と書けるとき,付随素イデアルであるという.環 A に対しその付随素イデアルからなる集合を
Ass(A) で表す.
定義 1.6(スキームの付随点) 局所ネータースキーム X に対し,x ∈ X は px が OX,x の付随素イデアルで
あるとき,X の付随点であるという.X の付随点全体を Ass(X) で表す.
付随素イデアルについて次が成り立つ:
A をネーター環,M を A 加群とする.積閉集合 S ⊂ A に対し
Ass(S −1 M ) = Spec S −1 A ∩ Ass(M )
が成り立つ(後で証明を書く)から,ネーター環 A とアフィンスキーム X = Spec A に対して
Ass(X) = Ass(A)
が成り立つ
命題 1.7 X を局所ネータースキームとする.このとき開部分スキーム U ⊂ X がスキーム的稠密であるため
の必要十分条件は,U が X の付随点を全て含む,すなわち U ⊃ Ass(X) となることである.
証明
任意の開部分スキーム V ⊂ X に対し定義から Ass(V ) = Ass(X) ∩ V が成り立つ.U のスキーム的稠
密性は局所的に判定可能なので(系 1.4(iv))
,主張は次の補題より従う.
補題 1.8 A をネーター環,X = Spec A,a ⊂ A をイデアル,U = X \ V (a) を X の開部分スキームとする.
このとき,次は同値である.
(i) U は X でスキーム的稠密.
(ii) ある非零因子 t ∈ A が存在して U ⊃ D(t) となる.
(iii) 非零因子 t ∈ a が存在する.
(iv) Ann(a) = 0.
(v) U ⊃ Ann(A).
証明
(ii) ⇔ (iii) は明らか.
(ii) ⇒ (i).D(t) ⊂ U が X でスキーム的稠密であることを示せばよい.V ⊂ X を開集合とする.
s ∈ Γ(V, OX ) を s|V ∩D(t) = 0 なる元とすれば,任意のアフィン開集合 W ⊂ V に対してある n ≥ 1 が存在し
て tn
|W · s|W = 0 となる(なぜならば OX は特に準連接層であるから同型 Γ(W, OX )t ≃ Γ(W ∩ D(t), OX ) が
成り立つ)
.t|W は零因子ではないので s|W = 0.アフィン開集合 W ⊂ V 全体は V の被覆をなすので,s = 0
である.よって
j ♭ : OX −→ j∗ OD(t)
は単射であるので D(t) は X でスキーム的稠密である.
(i) ⇒ (iv).s ∈ Ann a,x ∈ U とする.px ∈
/ V (a) であるから,ある a ∈ a \ px が存在する.このとき
×
a ∈ OX,x
かつ sa = 0 であるから,sx = 0.x ∈ U は任意なので s|U = 0 となる.ここで U はスキーム的稠
密であるから
Γ(X, OX ) → Γ(X, j∗ OX ) = Γ(U, OX )
3
は単射.よって s = 0 である.
(iv) ⇒ (v).Ass A ∩ V (a) ̸= ∅ と仮定する.このとき p ∈ Ass A でかつ p ⊃ a となる素イデアル p が存
在する.p は付随素イデアルなので,p = Ann s なる 0 ̸= s ∈ A がとれる.このとき a ∈ Ann a となり矛盾
する.
(v) ⇒ (iii).a の元は全て零因子であると仮定する.イデアル族 F = {Ann m | 0 ̸= m ∈ A} は A がネー
ターなので極大元を持つ.Ann m が F の極大元であるとして,a, b ∈ A,abm = 0,bm ̸= 0 とすると,極大性
から Ann m = Ann bm となる.よって a ∈ Ann m であるから,F の極大元は付随素イデアルである.一方,
任意の m ∈ a に対し,これが零因子であることからある a ∈ A があって am = 0,すなわち m ∈ Ann a ∈ F
で,よって Ann a を含む F の極大元の素イデアル p があって m ∈ p となる.以上から,A の付随素イデアル
pi たちにより,
a⊂
∪
pi
i
となる.ここで,prome ideal avoidance によりある i に対して a ⊂ pi ,すなわちある i に対して pi ∈
Ass A ∩ V (a) となり,(v) の仮定に矛盾する.
注意 1.9 上の補題において証明から (iii) ⇒ (ii) ⇒ (i) ⇒ (iv) ⇒ (v) はネーター性の仮定無しで成り立つ.
これにより,X をスキーム,Z ⊂ X をイデアル層 I ⊂ OX から定まる閉部分スキーム,U = X \ Z を開部
分スキームとするとき,任意のアフィン開集合 V ⊂ X に対し Γ(V, I) が正則な(すなわち零因子でない)元
をもつならば,U は X でスキーム的稠密である.この事実は後で用いる.
1.2 有理写像
定義 1.10(有理写像) X, Y をスキームに対し
{
}
R(X, Y ) := (U, f˜) | U ⊂ X はスキーム的稠密,f˜ : U → Y はスキームの射
とする.(U, f˜), (V, g˜) ∈ R(X, Y ) に対し2つが同値であることを,あるスキーム的稠密な開集合 W ⊂ U ∩ V
が存在して f˜|W = g˜|W となることとして定める.これは明らかに R(X, Y ) 上に同値関係を定める.この同値
関係による R(X, Y ) の各同値類を,X から Y への有理写像という.f が X から Y への有理写像であるこ
とを
f : X 99K Y
で表す.
また,有理写像 f : X 99K Y は代表元 (U, f˜) で f˜ : U → Y が S 射であるものがとれるとき,有理 S 写像
であるという.X から Y への有理 S 写像の集合を RatS (X, Y ) で表す.
注意 1.11
S スキームの射 f : X → Y の同値類は有理 S 射であるから,
HomS (X, Y ) −→ RatS (X, Y )
が定まる.
X を S スキーム,W ⊂ X を開部分スキーム,f : X 99K Y は有理 S 写像とする.f の代表元
を (U, f˜) としたとき,U ∩ W は W でスキーム的稠密である.(U ∩ W, f˜|W ) の代表元を f|W であらわすと
注意 1.12
f|W : W 99K Y は有理 S 写像で,代表元の選び方によらない.
4
定義 1.13(有理写像の定義域) f : X 99K Y を有理 S 写像とする.X の開部分スキーム dom(f ) ⊂ X を
{
}
dom(f ) := x ∈ X | ある f の代表元 (U, f˜) で x ∈ U かつ f˜ が S 射であるものが存在する.
で定め,有理写像 f の定義域という.
定義より dom(f ) は X でスキーム的稠密である.次の命題により Y が分離 S スキームであるときは,有
理写像 f : X 99K Y と,S 射 dom(f ) → Y を同一視できる.
命題 1.14
X を S スキーム,Y を分離的 S スキーム,f : X 99K Y を有理 S 射とする.このとき,f の代表
元である S 射 f0 : dom(f ) → Y が一意に定まる.
U 7→ HomS (U, Y ) は X 上の集合の層であるから,(U, f˜), (V, g˜) を f˜ および g˜ が S 射であるような f
の代表元としたとき,f˜|U ∩V = g˜|U ∩V を示せばよい.
証明
U と V はそれぞれスキーム的稠密であるから U ∩ V もスキーム的稠密である.(U, f˜) と ( V, g˜) は両方 f の
代表元であるから定義よりある開集合 W ⊂ U ∩ V が存在して f˜|W = g˜|W となる.Y は分離的 S スキームで
あるから命題 1.3 より f˜|U ∩V = g˜|U ∩V となる.
定義 1.15(有理関数) S をスキーム,X を S スキームとする.有理 S 写像 f : X 99K A1S を有理 S 関数と
いう.X 上の有理 S 関数の集合を R(X) で表す.
HomS (U, A1S ) = Γ(U, OX ) より,
R(X) := lim Γ(U, OX )
−→
U
(上の帰納極限において U はスキーム的稠密な開部分スキーム全体を走る.)を得る.
注意 1.16
既約なスキーム X に対し Xred はスキーム的稠密である.実際,U ⊂ X を任意の開集合,Y を
S 上分離的なスキーム,S 射 f, g : X → Y を f|U = g|U なるものとすると,Ker(f, g) ⊃ U であり,Y が
分離的であるから Ker(f, g) ⊂ X は閉部分スキーム,X が既約より U は稠密であるから,位相空間として
Ker(f, g) = X とならねばならない.これにより Xred ⊂ Ker(f, g) を得る.
以上より,特に整スキーム X に対しては任意の空でない開部分スキーム U (すなわち X の生成点 η ∈ X
を含む開集合)はスキーム的稠密である.よって
R(X) = OX,η = K(X)
となる.
定義 1.17(双有理写像,双有理同値) S をスキーム,X, Y を S スキームとする.有理 S 写像 f : X 99K Y
∼
は,代表元 (U, f˜) で,ある Y のスキーム的稠密な開部分スキーム V ⊂ Y に対して f˜ が S 同型 f˜ : U −
→V ⊂Y
を与えるようなものが存在するとき,双有理写像であるという.
X, Y は双有理写像 f : X 99K Y が存在するとき双有理同値であるという.また,S 射 f : X → Y は (X, f )
が双有理写像の代表元であるときに,双有理写像であるという.
X, Y が整スキームとのとき,双有理写像 f : X 99K Y は関数体の同型 K(X) ≃ K(Y ) を誘導する.実は,
X, Y が S 上局所有限表示なら逆も成り立つが,ここでは証明しない.
Now Writing
5
2 因子
2.1 Cartier 因子
定義 2.1(全商環の層) X をスキームとする.前層
U 7−→ Frac Γ(U, OX )
に付随する層 KX を OX の全商環の層という.
定義 2.2(Cartier 因子) X をスキームとする.
×
×
(1) Div X := Γ(X, KX
/OX
) の元を Cartier 因子(または単に因子)という.Cartier 因子の演算は加法的
に書く.
×
(2) Cartier 因子 D は D ∈ Im(Γ(X, KX
) → Div X) となるとき,主 Cartier 因子(または単に主因子)で
あるという.
(3) Cartier 因子 D1 , D2 ∈ Div X は,D1 − D2 が主 Cartier 因子になるとき,線型同値であるという.
D1 , D2 が線型同値であることを D1 ∼ D2 で表す.
×
×
(4) Cartier 因子 D ∈ Div X は,D ∈ Div+ X := Γ(X, (KX
∩ OX )/OX
) となるとき,有効 Cartier 因子
(または単に有効因子)という.
X 上の Cartier 因子は局所的には次のように表示できる.すなわち X 上の Cartier 因子は,X の開被覆
∪
×
×
) の組 (Ui , fi )i で,任意の i, j に対し fi fj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Uj , OX
X = i Ui と単元 fi ∈ Γ(Ui , KX
) となるも
のと考えられる.これに対し Cartier 因子の各性質は次のように与えられる:D, E をそれぞれ (Ui , fi )i と
(Vj , gj )j で代表される Cartier 因子とする.
×
(1) D = E となるための必要十分条件は,任意の i, j に対して fi gj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Vj , OX
) となることである.
(2) D + E は (Ui ∩ Vj , fi gj )i,j で定義される.
(3) D が主因子であるための必要十分条件は,D が (X, f ) で代表されることである.
(4) D が有効因子であるための必要十分条件は任意の i で fi ∈ Γ(Ui , OX ) となることである.
(5) −D は (Ui , fi−1 )i で定義される.
主因子全体からなる部分群を Divprinc X で表し,剰余群
DivCl X := Div X/Divprinc X
を因子類群という.このとき完全列
×
×
1 −→ Γ(X, OX
) −→ Γ(X, KX
) −→ Div X −→ DivCl X −→ 0
を得る.
定義 2.3(可逆商イデアル) KX の OX 部分加群で可逆 OX 加群であるものを,OX の可逆商イデアルとい
う.可逆商イデアルの積を I1 I2 ⊂ KX で定める.
×
D を Cartier 因子,(Ui , fi )i を D の代表元とすると,fi fj−1 ∈ Γ(Ui ∩ Uj , OX
) より,IX (D)|Ui := fi OUi
なる可逆商イデアル IX (D) が定まる.
6
命題 2.4 スキーム X に対し,群の同型
}
∼ {
Div X −
→ OX の可逆商イデアル
D 7−→ IX (D)
が存在する.
証明
逆対応を作る.I ⊂ KX を可逆商イデアルとすると,可逆層であることから開被覆 X =
∼
∪
i
Ui が存在
して任意の i に対し同型 ηi : OX |Ui −
→ I|Ui が定まる.この同型に対し
ηi (Ui ) : OUi (Ui ) −→ I(Ui )
1 7−→ fi
×
とすると,fi ∈ Γ(Ui , KX
) となる.実際,fi が単元でないとすると,層化の構成からある開集合 W ⊂ Ui
が存在して f|W = g/h ∈ Frac Γ(W, OX )(g は零因子,h は非零因子)の形で書ける.このとき,ηi (W ) :
OUi (W ) → I(W ) は同型ではないので矛盾する.I に対しこれにより得られる (Ui , fi )i を対応させればよい.
注意 2.5 D を Cartier 因子,(Ui , fi )i を代表元とすると,D が有効 Cartier 因子となるための必要十分条件
は対応する可逆商イデアル IX (D) が OX のイデアルとなることである.このイデアル層 I(D) ⊂ OX に対応
する X の閉部分スキームを再び D で表し元の有効 Cartier 因子と同一視する.またこのとき,注意 1.9 より
開部分スキーム U := X \ D は X でスキーム的稠密となる.
■因子の引き戻し
補題 2.6 φ : A → B を平坦な環準同型(すなわち B は φ による作用によって平坦 A 代数になる)とする.
このとき,φ は A の非零因子を B の非零因子にうつす.
証明
a ∈ A を非零因子とすれば,a 倍によって与えられる A 加群の準同型 a : A → A は単射である.
A ⊗A B ≃ B に注意すれば B は A 上平坦なので,φ(a) : B → B も単射である.従って φ(a) は B の非零因
子である.
命題 2.7 f : X → Y を平坦射とする.このとき,層の準同型 OY → f∗ OX は,全商環の層の準同型
f ♯ : KY → f: KX に延長できる.
証明
KX は前層 U 7→ Frac Γ(U, OX ) に付随する層であること,およびアフィン開集合たちがスキームの開
基をなすことより,アフィン開集合 V = Spec A ⊂ Y に対し環準同型
φ : Γ(V, OY ) −→ Γ(f −1 (V ), OX )
が非零因子を非零因子にうつすことを確かめればよい(そうすれば局所化の普遍性より求めている準同型を
得る)
.
f −1 (V ) =
∪
i
Ui (各 i に対し Ui = Spec Bi )をアフィン開被覆とする.これにより各 i に定まる環準同型
φi : A → Bi
は仮定より平坦であるから,直前の補題により非零因子を非零因子にうつす.
7
非零因子 a ∈ A に対して,Γ(f −1 (V ), OX ) において φ(a) · b = 0 とする.これを開集合 Ui に制限すると,
0 = (φ(a) · b)|Ui = φi (a) · b|Ui となり,φi (a) は非零因子であるから b|Ui = 0 である.i は任意なので層の性
質から b = 0.すなわち φ(a) は非零因子である.
以上によりスキームの平坦射 f : X → Y に対し,次のように Cartier 因子の引き戻しを定めるこ
とができる.まず,この命題により f ♯ : KY → f∗ KX が定まる.環準同型は単元を単元にうつすの
で,f ♯ : KY× → (f∗ KX )× を得る.ここで開集合 V ⊂ Y に対して Γ(V, (f∗ KX )× ) = Γ(V, f∗ KX )× =
×
×
×
Γ(f −1 (V ), OX )× = Γ(f −1 (V ), OX
) = Γ(V, f∗ (KX
)) となるので,結局この準同型は f ♯ : KY× → f∗ (KX
)で
×
×
×
ある.この部分層間の準同型 OY× → f∗ (OX
) も定まるから,KY× /OY× → f∗ (KX
)/f∗ (OX
) を得る.ここで,
完全列
×
×
×
×
0 −→ OX
−→ KX
−→ KX
/OX
−→ 0
に対して,f∗ は左完全関手より
( × ×)
×
×
0 −→ f∗ (OX
) −→ f∗ (KX
) −→ f∗ KX
/OX
×
×
×
×
は完全列.よって f∗ (OX
) −→ f∗ (KX
) の余核 f∗ (KX
)/f∗ (OX
) の普遍性より
( × ×)
×
×
f∗ (KX
)/f∗ (OX
) −→ f∗ KX
/OX
が定まる.以上の写像を合成することで,
( × ×)
KY× /OY× −→ f∗ KX
/OX
が定まり,これによって
(
( × × ))
( ( × × ))
f ∗ : Div Y = Γ(Y, KY× /OY× ) −→ Γ Y, f∗ KX
/OX = Γ X, KX
/OX = Div X
を得る.
定義 2.8(引き戻し) この f ∗ : Div Y → Div X を Cartier 因子の引き戻し写像という.
系 2.9 f : X → Y をスキームの平坦射とする.Y の有効 Cartier 因子 Z ⊂ Y に対して,f −1 (Z) は X の有
効 Cartier 因子であり,因子として Z の引き戻し f ∗ (Z) と一致する.
証明
局所的に確かめられるので X = Spec B ,Y = Spec A,非零因子 t ∈ A に対し Z = V (t) とし
てよい.対応する環準同型を φ : A → B とするとこれは平坦射であるから φ(t) は非零因子であり,
f −1 (Z) = V (φ(t)) = f ∗ (Z) となる.
Now Writing
3 ブローアップ
定義 3.1(ブローアップ) X をスキーム,Z を X の閉部分スキームとする.Z に沿った X のブローアップ
˜ と射 π : X
˜ → X で π −1 (Z) が X
˜ の有効 Cartier 因子となるものであり,次の普遍性を満
とは,スキーム X
たす:
8
˜ ′ → X で π ′−1 (Z) が有効 Cartier 因子であるものに対し,g : X
˜′ → X
˜ で π ◦ g = π ′ なるも
任意の π ′ : X
のが一意に存在する.
∃!g
/X
˜
}
}}
}
π′
}} π
}~ }
X
˜′
X
˜ で表す.ま
この定義より X の Z に沿ったブローアップは同型を除いて一意的であり,これを BlZ (X) := X
た,有効 Cartier 因子 π −1 (Z) をブローアップの例外因子という.
命題 3.2 X をスキーム,Z ⊂ X を閉部分スキーム,π : BlZ (X) → X を Z に沿った X のブローアップ,
f : X ′ → X をスキームの射とする.このとき,次が成り立つ.
(i) スキームの射 BlZ (f ) : Blf −1 (Z) (X ′ ) → BlZ (X) が存在して次が可換になる.
BlZ (f )
Blf −1 (Z) (X ′ )
/ BlZ (X)
X′
/X
f
(ii) f が平坦射であれば (i) の図式は pull back である.
∼
(iii) 開部分スキーム U := X \ Z に対し,π|π−1 (U ) : π −1 (U ) −
→ U は同型である.
(iv) Z に対応するイデアル層を I ⊂ OX とする.任意の開集合 V ⊂ X に対し Γ(V, I) が非零因子をもつ
ならば,π は双有理写像である.
証明
(i) ブローアップの普遍性より明らかである.
(ii) Y := X ′ ×X BlZ (X) とする.ファイバー積の普遍性から次の図式全体を可換にする Blf −1 (Z) (X ′ ) → Y
が一意に定まる.
Blf −1 (Z) (X ′ )
∃!
%
Y
p
q
! X′
'
/ BlZ (X)
p.b.
f
π
/X
また,平坦性は基底変換の下で安定であるから p も平坦射である.よって有効 Cartier 因子の平坦射
による逆像がまた有効因子であることから q −1 (f −1 (Z)) = p−1 (π −1 (Z)) は有効 Cartier 因子である.
よってブローアップの普遍性から Y → Blf −1 (Z) (X ′ ) で次を可換にするものが一意に定まる.
/ Blf −1 (Z) (X ′ )
s
sss
q
s
s
s
ysss
′
X
Y
これにより Y ≃ Blf −1 (Z) (X ′ ) を得る.
(iii) (ii) を開埋め込み U ,→ X に対し適用すればよい.
9
(iv) 注意 1.9 より U はスキーム的稠密,また注意 2.5 より π −1 (U ) = BlZ (X) \ π −1 (Z) も BlZ (X) でス
キーム的稠密であるから,結果は (iii) より従う.
命題 3.3 X をスキーム,Z ⊂ X を X の閉部分スキーム,I ⊂ OX を Z に対応するイデアル層とする.正
の整数 d > 0 に対し I d を,I の自身による d 回テンソル,I 0 = OX とし,B =
⊕
d≥0
I d とおく.このとき,
˜ := Proj B → X は,X の Z に沿ったブローアップになる.
π:X
証明
B=
局所的に確かめられるので,以下では X = Spec A,I ⊂ A を Z = V (I) となる A のイデアル,
⊕
d≥0
I d とする.
f ∈ I に対し,A[If −1 ] ⊂ Af を x/f (x ∈ I) で生成される Af の部分 A 代数とする.このとき,A[If −1 ]
は Bf の 0 次部分 B(f ) と同型であるから,D+ (f ) ≃ Spec A[If −1 ] となる.
/9 X
ss
s
s
ss
ss π′
s
s
/ Spec A[If −1 ]
π
˜
X
O
?
D+ (f )
∼
˜ たちの開被覆をなすから,π −1 (Z) が有効 Cartier 因子であることを確かめる
ここで,D+ (f ) たちは X
には,π −1 (Z) ∩ D+ (f ) ≃ π ′−1 (Z) ⊂ Spec A[If −1 ] が非零因子から生成される単項イデアルに対応する
閉集合であることを確かめればよい.φ′ : A → A[If −1 ] を π ′ に対応する A 代数の準同型とすると,
π ′−1 (Z) = π ′−1 (V (I)) = V (φ′ (I)) である.{xα }α を I の生成系とすると,同型
∼
A[If −1 ] −
→ A[(Tα )α ]/((f Tα − xα )α )
が成り立つから,A[If −1 ] の中で φ′ (I) で生成されるイデアルは単項イデアル (f ) と一致し V (φ′ (I)) = V (f )
となる.f ∈ A[If −1 ] は非零因子であるから,以上より π −1 (Z) は有効 Cartier 因子である.
˜ がブローアップの普遍性を満たすことを確かめる.ψ : A → C を A 代数で,ψ(f ) が C の非零因
最後に X
子かつ,ψ(I)C = ψ(f )C が成り立つようなものとする.x ∈ I に対して,ψ(x) ∈ ψ(I)C = ψ(f )C であるか
ら,ある c ∈ C が存在して ψ(f )c = ψ(x) となる(ψ(f ) が非零因子であるから c ∈ C は一意的である)
.A 代
数の準同型 A[If −1 ] → C を,生成元 x/f ∈ A[If −1 ] に対して,この ψ(f )c = ψ(x) なる c ∈ C を対応させ
る写像とする.この写像が A 代数の準同型を与えること,およびその一意性などは簡単に確かめられる. 例 3.4 R を環,A = R[T1 , . . . , Tn ],I = (T1 , . . . , Tn ) とする.X の Z = V (I) によるブローアップは,
B=
⊕
d≥0
I d としたとき
π : Proj B → Spec A = AnR
となる.ここで Ti を B0 の元としてみるか B1 の元としてみるかを区別しておく必要がある.
A[X1 , . . . , Xn ] −→ B
Xi 7−→ Ti (∈ B1 )
で定めると,この準同型の核は Ti Xj − Tj Xi たちで生成されるイデアルである.以上から同型
Proj B ≃ V+ ((Ti Xj − Tj Xi )i,j ) ⊂ Pn−1
≃ Pn−1
×R Spec A = Pn−1
× AnR
A
R
R
を得る.
Now Writing
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参考文献
[1] Grothendieck A, Dieudonn´e J, El´ements de G´eom´etrie Alg´ebrique I,II,III,IV.
[2] Robin Hartshorne, Aigebraic Geometry, Springer, 1977.
[3] Ulrich G¨ortz, Torsten Wedhorn, Algebraic Geomerty I, Vieweg+Teubner, 2010.
[4] 松村英之, 可換環論, 共立出版, 1980.
[5] 斎藤秀司, 佐藤周友, 代数的サイクルとエタールコホモロジー, 丸善出版, 2013.
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