プレイヤーズ・オプション： 元素の渾沌の勇者 ダンジョンズ＆ドラゴンズ第4版 サプリメント リチャード・ベイカー、 ロバート・J・シュワルブ Credits Design Richard Baker, Robert J. Schwalb Development Jeremy Crawford, Tanis O’Connor, Chris Sims Editing Kim Mohan, Scott Fitzgerald Gray Additional Development and Editing Rodney Thompson, Miranda Horner Managing Editors Kim Mohan, Jeremy Crawford D&D R&D Senior Producer Christopher Perkins D&D RPG Senior Manager Mike Mearls D&D Senior Creative Art Director Jon Schindehette D&D Brand Team Liz Schuh, Kierin Chase, Laura Tommervik, Shelly Mazzanoble, Chris Lindsay, Hilary Ross Playtesters Teos Abadia, Dan Anderson, Lori Anderson, Jim Auwaerter, Chad Brown, Tom Dale, Yourik de Voogd, Larry DeLucas, Julio Esperas, Todd Keck, Mark Knobbe, Sarah LaValle, Galen Mullins, Patrick Neal, Eva Orta, John-Alan Pascoe, Ian Ramsey, Keith Richmond, Mack Schiavo, Pieter Sleijpen, C.J. Thrasher, Renout van Rijn, Gareth Wallace 620-35617000-001 EN U.S., CANADA, ASIA, PACIFIC, & LATIN AMERICA Wizards of the Coast LLC P.O. Box 707 Renton WA 98057-0707 +1-800-324-6496 Art Director Mari Kolkowsky Cover Illustrations Wayne Reynolds (front) Steve Ellis (back) Graphic Designer Mari Kolkowsky Interior Illustrations Dave Allsop, Mark Behm, Zoltan Boros, Anna Christenson, Steve Ellis, Wayne England, Tony Foti, Randy Gallegos, Andrew Hou, Tyler Jacobson, Jorge Lacera, Slawomir Maniak, Jim Nelson, William O’Connor, Adam Paquette, David Rapoza, Sam Wood Publishing Production Specialist Erin Dorries Prepress Manager Jefferson Dunlap Imaging Technician Carmen Cheung Production Manager Cynda Callaway D&D 4th Edition Design Rob Heinsoo, Andy Collins, James Wyatt Building on the design of previous editions by E. Gary Gygax, Dave Arneson, David “Zeb” Cook, Jonathan Tweet, Monte Cook, Skip Williams, Richard Baker, Peter Adkison EUROPEAN HEADQUARTERS Hasbro UK Ltd Caswell Way Newport, Gwent NP9 0YH GREAT BRITAIN Wizards of the Coast, Belgium Industrialaan 1 1702 Groot-Bijgaarden Belgium +32.070.233.277 Please keep this address for your records Dungeons & Dragons, D&D, Wizards of the Coast, Dungeons & Dragons Essentials, Dungeons & Dragons Insider, Dragon, Player’s Option: Heroes of the Elemental Chaos, Heroes of the Fallen Lands, Heroes of the Forgotten Kingdoms, Manual of the Planes, Monster Manual, Monster Vault, Rules Compendium, all other Wizards of the Coast product names, and their respective logos are trademarks of Wizards of the Coast LLC in the U.S.A. and other countries. All Wizards characters and the distinctive likenesses thereof are property of Wizards of the Coast LLC. This material is protected under the copyright laws of the United States of America. 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Visit our website at DungeonsandDragons.com 目次 第1章：元素の渦へ･ ･････････････････････4 元素魔法････････････････････････････････････ 6 元素魔法の性質･････････････････････････････ 6 議論百出････････････････････････････････ 6 元素魔法のあらわれかた･････････････････････ 7 元素魔法の修得･････････････････････････････ 8 元素魔法の危険性･････････････････････････ 8 基本的元素････････････････････････････････ 9 風･･････････････････････････････････････ 9 地･･････････････････････････････････････ 9 火･･････････････････････････････････････ 9 水･･････････････････････････････････････ 9 元素の影響･･････････････････････････････････10 消え残る力････････････････････････････････10 元素的存在･･･････････････････････････････10 原始の禁令：この世界の安全を保つもの･････10 プライモーディアルのカルト教団･･････････････11 “旧き元素の眼”の教団･ ･･･････････････････12 旧き元素の眼････････････････････････････12 次元の破れ････････････････････････････････12 シンダーハート･･･････････････････････････13 元素の渾沌･･････････････････････････････････14 元素の渾沌への道･･････････････････････････15 アビス････････････････････････････････････15 元素の諸領域･･････････････････････････････15 黄銅城･････････････････････････････････16 カルテンハイム･ ･････････････････････････16 ゼルスアドラン･･･････････････････････････16 第九城塞･･･････････････････････････････17 ライルヴァルト･･･････････････････････････17 元素の影響ある種族･･････････････････････････17 ジェナシ･ ･････････････････････････････････17 ドラウ･ ･･･････････････････････････････････18 エイルサーヴズ家････････････････････････18 ドラゴンボーン･････････････････････････････18 るつぼ･･････････････････････････････････19 ドワーフ･ ･････････････････････････････････19 鍛ち直されし民･ ･････････････････････････19 ハーフオークとオーク･･･････････････････････20 巨人の遺産･･････････････････････････････20 石の子･･････････････････････････････････20 その他の種族･･････････････････････････････21 元素の力を得る術････････････････････････････22 元素の力を浴びる･･････････････････････････22 プライモーディアルのかけら･････････････････22 元素の研究････････････････････････････････22 元素の力持つ“あるじ”･･･････････････････････23 “あるじ”に仕えるやりかた･･････････････････23 プライモーディアル･･･････････････････････････24 元素大公･････････････････････････････････24 アイミックス･ ････････････････････････････25 翻訳にあたってのおぼえがき 略号について 本書では以下の略号を用いる。 AC：アーマー・クラス （Armor Class） hp：ヒット・ポイント （Hit Point） XP：経験点 （eXperience Point） gp：金貨 （Gold Piece） sp：銀貨 （Silver Piece） cp：銅貨 （Copper Piece） pp：プラチナ貨 （Platinum Piece） ad：アストラル・ダイアモンド （Astral Diamond） 単位について オグレモク･･････････････････････････････25 オルヒュドラ･････････････････････････････26 クリオナクス･････････････････････････････26 ザーマン・ラル･･･････････････････････････27 サニス･･････････････････････････････････27 チャン･･････････････････････････････････28 ベンハダル･･････････････････････････････28 ヤンシービン･ ･･･････････････････････････28 縛られたプライモーディアル･･････････････････29 “呻きの王”バルコス･･･････････････････････29 “衰えぬ嵐”ヒュールケト････････････････････29 “砕かれたハーン”カスタナミール････････････29 サイサンサクとヴォーシーン････････････････30 “多頭怪”ブライアカス･････････････････････30 自由の身のプライモーディアル･ ･･････････････30 “永虚”イクサラウ･････････････････････････30 “滅び風”アル・カーン・サング･ ･･････････････30 “雷電大公”タイフカディ････････････････････31 既知のプライモーディアル一覧･･･････････････32 ゲームにおける元素の力･ ･････････････････････34 次元のさすらいびと･････････････････････････34 選ばれた代理人････････････････････････････34 秘密の知識････････････････････････････････34 混線次元大騒動･･･････････････････････････35 異次元侵攻軍迫る････････････････････････35 元素世界の冒険････････････････････････････35 第2章：キャラクター・テーマ･････････････ 36 テーマの選択･･････････････････････････････38 ［元素］ キーワード･ ･･･････････････････････39 アースフォージャー･････････････････････････40 アイアンロート･････････････････････････････42 ウィンドロード･･････････････････････････････44 ゼイシャールの狩人たち･･･････････････････45 ウォーターシェイパー･ ･･････････････････････46 エレメンタル・イニシエイト･･･････････････････48 ジャニサリー･･･････････････････････････････50 デーモン・スポーン･ ････････････････････････52 ファイアークラフター････････････････････････54 プライモーディアル・アデプト･････････････････56 モートボーン･ ･････････････････････････････58 第3章：クラス･････････････････････････ 60 ウィザード･････････････････････････････････62 シャーイル･ ･････････････････････････････62 シャーイルの種族選択････････････････････64 ジェンに個性を持たせる･･･････････････････65 新しいウィザードのパワー･ ････････････････67 漂砂会･ ････････････････････････････････67 元素魔法使い名士録･ ････････････････････69 本書では英米特有の単位が多く用いられている。 このため、 単位の換算法を以下に載せる。 ・重さ 1[ポンド]＝454[g] ・長さ 1[インチ]＝2.54[cm]＝1/12[フィート] 1[フィート]＝30.5[cm] 1[ヤード]＝0.914[m]＝3[フィート] 1[マイル]＝1.61[km]＝1760[ヤード] ・面積 1[平方フィート]＝0.0929[m2] 1[平方ヤード]＝0.832[m2]＝1/4840[エーカー] 1[エーカー]＝4050[m2] 1[平方マイル]＝2.59[km2]＝640[エーカー] ウォーロック･･･････････････････････････････77 プライモーディアルとの契約･･･････････････77 新しい妖かしの契約･･････････････････････78 新しいヘクスブレードの契約･･･････････････78 新しいウォーロックのパワー････････････････83 ソーサラー････････････････････････････････86 エレメンタリスト･･････････････････････････86 エレメンタリストの種族選択･ ･･････････････88 新しいソーサラーのパワー･････････････････93 ドルイド･･･････････････････････････････････97 新しい原始の相･･････････････････････････97 新しい“巡り行く大自然の守人”･･････････････97 荒野のドルイド･ ･････････････････････････97 新しいドルイドのパワー･･･････････････････98 荒野の原始精霊たち･･････････････････････98 モンク･･････････････････････････････････ 103 至道･････････････････････････････････ 103 新しい修道門派････････････････････････ 103 潮汐悠久･ ････････････････････････････ 103 熱砂炎風･ ････････････････････････････ 105 新しいモンクのパワー･･･････････････････ 105 隠されし門派･･････････････････････････ 119 第4章：元素のキャラクター用オプション･･ 120 伝説の道････････････････････････････････ エレメンタル・アンカライト･･･････････････ エレメンタル・サヴァーント･･･････････････ ゴッド・ウォーダー･ ･････････････････････ スピーカー・オヴ・ザオス･････････････････ デーモンバウンド･･･････････････････････ ドゥームロード･････････････････････････ フェイヴァード・シャーイル･･･････････････ プリンス・オヴ・ジンニーズ･･･････････････ ヘラルド・オヴ・ヴェズヴ･････････････････ レジェンダリィ・ヘクスブレード （元素）･･････ リフォージド・ソウル･････････････････････ 神話の運命･･････････････････････････････ エマージェント・プライモーディアル･ ･･････ ロード・オヴ・ケイオス･･･････････････････ 特技･･･････････････････････････････････ 元素の相棒･･････････････････････････････ 元素の報酬･･････････････････････････････ 鎧･･･････････････････････････････････ 武器･････････････････････････････････ 元素界の武具･ ････････････････････････ 装具･････････････････････････････････ プライモーディアルの欠片･･･････････････ 元素の賜物････････････････････････････ 付録：キャラクター成長表･･････････････ 159 ・体積 1[ガロン]＝3.79[リットル] 1[液用パイント]＝473[cc]＝1/8[ガロン] 1[液用オンス]＝29.6[cc]＝1/128[ガロン] 1[立方フィート]＝28.3[リットル] 1[立方ヤード]＝765[リットル]＝27[立方フィート] 以上の単位はそのまま訳し、 一部メートル・キログラム 法と併記した。 この他にも稀に出てくる単位があるが、それについて は必ずメートル・キログラム法と併記した。 あいうえお順について 122 122 123 124 126 127 128 129 133 134 136 137 139 139 140 142 146 151 151 152 152 153 155 157 物をあいうえお順に配列するさい、 長音符 （ー） は直前 の母音と同じ音とみなす。たとえばハーフリングはハフリ ンク扱いではなくハアフリンク扱い。 「以上」 と 「以下」 について 日本語の 「以上」 や 「以下」 は、 数学的な意味では 「同じかそ れより上」 、 「同じかそれより下」 を意味するが、 日常生活では 「それより上」 、 「それより下」 の意で使われることも多い。本書 の数字周りで 「以上」 や 「以下」 という言葉が出てくる場合、 常に 「数学的な」 意味で使われているものと思われたい。 おことわり 本書に登場する個人・団体・思想・病名その他はすべ てフィクションであり、実在のものとは一切関係ありません。 同様に特定個人や団体などを攻撃する意図はございませ ん。あらかじめご了承ください。 第1章 元素の渦へ 1 “元素の渾沌” の奥深く隠れているという莫大な魔力に関しては、 さまざまな推量が飛び交っている。 莫大な魔力の存在それ自体は明確であり、その徴候はいたると ころに見られる。下方次元界（＝元素の渾沌）から放出されるエネ ルギーが、定命の者や永劫の者の使う魔術を通じて、他の諸次元 界に浸透していること――それ自体は、ウの目タカの目で証拠を 探すまでもなく、明確である。ファイアーボールの呪文は火の元 素を制御するもの。ドルイドやシャーマンの招力は、原始魔法の 力を用いて、その原始魔法の力よりもさらに大きな力を汲み上げ 操っているものである。 議論があるのはそこから先だ。一部の賢者によれば、元素の力 は他のあらゆる魔術的伝統において用いられる力をすべて包摂す る。影の魔法の恐るべき冷気も、混沌のソーサラーの用いる予測 不可能な呪文も、みな元素の力の一部なのである。また別の者が 言い張るには、元素の魔力は他の魔法体系とは異なる神秘的なエ ネルギーとして、独自に制御され操作され使用され得るのだとい う。あるいは、これら 2 つの説の両方が本当なのかもしれない。 本章は元素の力の基礎を扱うものであり、以下の節を含む。 F 元素魔法：元素魔法の性質に関する議論。また、どのような者 が元素魔法を使えるか。 F 元素の影響：“元素の渾沌”が他の次元界、なかんずく “この世界” に、いかなる影響を及ぼしているか。 F 元素の渾沌：あらゆる元素の英雄たちが魔力を引き出す源泉、 下方次元界の概観。また、下方次元界内部の有名な土地いくつ か。 F 元素の影響ある種族：一部の種族やクリーチャーは、元素の力 によって独特の影響を受けている。 F 元素の力を得る術：キャラクターが元素の力を得る方策に関す る議論。また、元素の力を得ようとする者の “あるじ”たり得る、 さまざまなプライモーディアルに関する情報。 F プライモーディアル：混沌の代表者にして元素を統べる王者な る “もの”たちに関する概説。 F ゲームにおける元素の力：ゲームに元素の力を導入したいと思 Zoltan Boros うプレイヤーおよび DM のためのヒント集。 4 第1章│元素の渦へ 元素魔法 議論百出 はじめに可能性があった。制御されぬエネルギーが渦まき、ぶ 独立した力としての元素魔法なるものは、この宇宙に存在する つかりあっていた。荒れ狂う、むきだしの、まったくの混沌の嵐 のか、どうか。これはずっと昔から学者たちの議論の的である。 であった。定まった形を持たぬ “もの” が、空虚のなかで、ふくれ 多くの魔法的伝統は、元素の力を操る方法を提供している。電撃、 あがってはしぼみ、その表面からエネルギーを噴出させていた。 雷鳴、酸、火、冷気の呪文や祈祷はまさに元素の力を体現する。 過ぎ行く瞬間瞬間に、新たな世界が生れては、たちまち無限の大 こうした元素のエネルギーが存在することは誰も否定しない。問 渦に呑まれて消えた。 題はこうである――元素エネルギーを、それを制御するのに用い 神学においては、“この世界”の形成に関する無数の神話が記録さ られる魔法体系を用いることなく、独立して使用することは可能 れている。多くの寺院の祭典が、元素のやからに対する神々の勝 なのか？ 利を祝う。寺院の壁や丸天井は、神々とプライモーディアルの激 賛否双方の論者たちが、独立した元素魔法なるものの存否によっ しい戦いを描くフレスコ画その他の絵画に飾られている。信仰あ て提起される宇宙論的問題に取り組み、問題を数百年にわたる哲 つい者たちにとってプライモーディアルというのは、忘れるにし 学的議論に付してきた。やがて大魔道士モルデンカイネンが、こ くはない、恐るべき怪物どもである。神々はプライモーディアル の議論を決着せしめんとして勇ましくも立ち上がった。弟子に対 の脅威を排し、未来を守ったのである。 する講義の中で、モルデンカイネンはかように断じた。「元素の力 だが歴史は常に勝者によって記される。上古のプライモーディ は、実のところ、あらゆる魔法の根本である。土台である。これ アルや、彼らが天の者たちと戦って破れた一件に関して、人々が あればこそ世界に魔法が存在するのである。元素の力はあらゆる 何を感じ、何を信じているか。そこには、当然ながら神々とその 魔法的伝統の根底にある。この力を使用する方法の違いによって、 しもべらによる数千年にわたる影響が影を落している。神々は主 魔法は、秘術、信仰、原始等の伝統に分れているのである」と。 張する、「我々が勝ったことが、我々の掲げた大義が正しかったこ この先鋭的な解釈に誰もが納得したわけではなかった。大司祭 とを証明する」、「現在のこの世界のありようが、本来あるべき正 であり、八賢人の一人であるリグビーは、魔法の一部が “元素の渾 しい姿なのだ」と。プライモーディアルたちは諸次元界を支配し作 沌” に由来する可能性は認めた。その上で彼が論じたのはこうであ り変えようとしていたことを咎められる。敬神の人々は、かつて る。「そのような力が信仰魔法の基礎であるということは有り得な 世界を呑みこんだ荒れ狂う混沌から、世界が救われたことを感謝 い。プライモーディアルが神々を創造したのでないことは明白で する。そこまではいい。だが、「プライモーディアルたちの元素の ある。しかも神々は、プライモーディアルとは独立した神々自身 力は消え去り、もはや存在しない」と主張するとなると、これは危 の力を用いてアストラルの領界を形成した。信仰魔法という例外 険な嘘八百を広めているというもの。 がある以上、モルデンカイネン氏の説は虚妄と断ぜざるを得ない」 プライモーディアルたちは、実のところ、今も生きている。な モルデンカイネンは議論から退くような人物ではなかった。今 るほど彼らの肉体は幽閉されている。あるいは鎖につながれ、あ や人口に膾炙している、モルデンカイネンからリグビーへの書簡 るいは逃れ得ぬ牢獄に閉ざされ、あるいは眠りについている。け のなかで、彼は反論して言う。「神々がこの時空を起源とする存在 れど彼らの精神と霊はなお生きている。彼らは思考し、策謀し、 であるならば、当然、神々がプライモーディアルよりも古いとい 憎悪する。そしてその間も、プライモーディアルと “元素の渾沌” うことは有り得ない。プライモーディアルの出現以前には、物が から、元素の魔力は流れ出し、多次元宇宙にひそかに広がってゆく。 定まった形を取ることはなかったからである。従って神々は、も しプライモーディアルの手で造られたのでないとすれば、どこか 元素魔法の性質 “この世界” や諸次元界には、大小さまざまの魔法的伝統がある。 中でも古く、逸話に富むのが、秘術魔法、信仰魔法、原始魔法で ある。これらの魔法の起源は、“この世界”の最も偉大な、最も絶望 的な時に関わっている。これらに知名度ではやや劣るが、強さで はひけをとらないのがサイオニック魔法である。サイオニック魔 法の認知度は時代によってまちまちだが、いつも “この世界”を “彼 方の領域” の異形の脅威から守っている。他の魔法伝統に触れてこ れを汚染する影の魔法は、力を与えるかわりに定命の者の魂を要 求する。 さて、しかるに元素魔法は、他のすべての魔法的伝統の中に現 れるものであって、簡単に分類することができない。実際、多く の者は「元素魔法というものが独立して存在しているわけではない。 それは他の多くの魔法体系の産物であって、それ自体で魔法の力 の源となるわけではない」という論を立てている。 外からこの時空にやって来た侵入者だということになる。『彼らは やって来た、そしてその時に “元素の渾沌” の純粋なエネルギーを 使って自分たちの不死の存在を形作ったのだ』と私は信じている。 元素の力は魔法を生み出すにあたっての決定的な源泉である。そ して今日この世界において我々が目にするさまざまな魔法的伝統 は、この唯一の源泉の変形に過ぎぬ。魔法の源泉に接触するため の方法の違いによって色付けが違うに過ぎぬ」と。 八賢人は元素魔法の性質と起源についてさまざまに論じ合った。 この一件に関する決定的な意見は、無法のウィザードである “混沌 の” エミリコルから出た。彼はモルデンカイネンの論を考えが足り ぬと、リグビーの反論を錯覚と切って捨てた。彼の論はこうである。 「元素魔法は実のところ、この宇宙において、一個の独立した力と して存在している。秘術魔法、信仰魔法、原始魔法、元素魔法は それぞれ別個の形態のエネルギーなのだ。つまり領分が違うのだ」 エミリコルの信じるところでは、「ほとんどの魔法形態はその使 用者以外にとっては意味がない。魔法体系が宇宙において有する 意義なるものは、その魔法体系を学び行なう者が勝手に付与した ものだ。実際に呪文を発動する魔道士がいないとしたら、秘術の 力にどんな意味があろうか。実際に神々の力をその身に宿すクレ リックがいないとしたら、信仰魔法にどんな意味があろうか。し 6 第1章│元素の渦へ 元 素 魔 法 のあらわ れ かた かるに、私の見たところ、元素の力はそれを学び行なう者とは独 立して存在している。“元素の渾沌”が何よりの証拠である。この次 元界は純粋な元素魔法の力に満ちており、そこに住むクリーチャー もまた元素魔法の力を体現している」という。 これまたエミリコルの信じるところでは、「元素の力は他と隔絶 して存在しているのではない。他の魔法体系は常に、元素の力に 潜在するエネルギーを引き出しているのである。ウィザードの使 うコーン・オヴ・コールドの呪文は冷気の元素を、ファイアーボー ルは火の元素の爆発を、引き出している。ただ、これらの呪文は 元素の力を用いて元素を動かすのではなく、秘術的過程を活用し て元素のエネルギーを具現化させているのだ。こうした呪文は、 使い手が元素の力と個人的な関わりを持っていることに起因する ものではない。私は多くの呪文、技法、招力、祈祷が元素のエネ ルギーを生み出し、あるいは操るのを目にしてきた。しかもそこ には、その魔法的伝統の特徴が明らかに出ていた」というのであっ た。 元素魔法のあらわれかた エミリコルの気づいたように、魔法を行なう者は下方次元界の 力を、それと気づかぬまま使うことがあり得る。元素の力は、そ の力を制御するのに使われる魔法の特性に対応して変化する。ウィ ザードの呪文によって呼び出された火の元素は秘術の力となり、 祈祷によって生み出された地の元素は信仰の力となる。 元素に対応するダメージ種別――［酸］、 ［電撃］、 ［火］、 ［雷鳴］、 ［冷 気］――を有するパワーは、そのパワー源（訳注：［秘術］、［信仰］ など）が何であろうと、みな元素のパワーを制御するものである。 ウィザードの発動するファイアーボールも、ドルイドの使うフレ イム・シードも、元素に関わりある呪文、祈祷、招力はみな、下 方次元界のエネルギーを集めて、それを “この世界” へ解き放つも のなのである。 秘術魔法 「コアロンの神は、いったい何を考えて、秘術魔法のわざをエラ ドリンに教えたのか」と不思議に思った者は多い。フェイの神コア ま な ご ロンは、秘術の奥義がみずからの愛子（＝エラドリン）だけでなく、 他の者にも広まってゆくことを予測できていたはずなのだ。コア ロンは「わが民に敵に対抗する武器を渡すことが早急に必要なのだ。 武器が敵にも渡る危険は承知の上だ」と考えたのかもしれない。ま たあるいは、プライモーディアルの力を減じさせるために、プラ イモーディアルの血液というべき元素の力を吸い上げる術を、定 命の者たちに教えたのかもしれない。理由はついに知れないが、 ともあれ秘術魔法は、元素のエネルギーと最も強く結びついた魔 法的伝統である。元素の破壊的な力を操ることにかけて、秘術魔 法の使い手をしのぐ者は滅多にない。 元素のエネルギーはすべてのウィザードの技の “かなめ” である。 元素の力を引き出す呪文は、威力においても効率においても、他 の多くの呪文をしのぐ。実際、まるまる 1 つの魔法系統（＝力術）が、 ウィザードが元素の力を操り敵に差し向けるためのものとなって いる。ウィザードは力術をもって元素の力を制御し、思い通りの 箇所で起きる爆発、ぎざぎざの稲妻、その他無数の形態をとらせ Dave Allsop るのである。 シャーイルがエア・エレメンタルを呼び出し、 上空のヴロックと戦わせる 第1章│元素の渦へ 7 元素を操る秘術の偉大な力は、ウィザードの専売特許ではない。 サイオニックと影の魔法 ソードメイジ、ウォーロック、バインダー、ヘクスブレード、さ さほど一般的でないこれらのパワー源も、元素のエネルギーを らにはアーティフィサーやバードにも、元素の力を呪文にこめる 使うすべを教えてくれる。サイオニック系キャラクターは精神の ことはできる。一部のウォーロックは縛られたプライモーディア 力を用いて元素のエネルギーを思うがままにつかみ取り形作る（発 ルと契約を結び、この “もの” たちの永遠の牢獄の中に秘められた 火能力やマウンテン・デヴォティー（『プレイヤーズ・ハンドブッ 力を引き出す。 ク III』P.114）を見るがよい）。元素のエネルギーは “この世界” に流 あらゆる秘術の使い手のうち、最も純粋な形で元素の力を使っ れこみ、この世界の住人に流れこんでいるため、一部のサイオニッ ているのはソーサラーである。混沌のソーサラー（『プレイヤーズ・ ク系キャラクターは、おのれの内なる元素の力に思考を向けるこ ハンドブック II』）、嵐のソーサラー（『秘術の書』）、エレメンタリ とで、内なる元素の力を引き出すことができる。 スト（本書）は、元素の力を純粋な秘術の威力に変えて解き放ち、 あらゆるパワー源のうち、影の魔法は元素の力を最も密やかに 恐るべき攻撃を繰り出す。 操る。ほとんどの影呪（＝影のパワー）は暗闇や、恐れや、死せざ る死にかかわるもの。けれど中には、死霊のエネルギーと元素の 信仰魔法 力を織り混ぜ、肉体と魂の双方を破壊するパワーもある。死霊術 元素の力は信仰魔法の中にも存在する――まあ信仰魔法の使い 手がこの “つながり” を堂々と認めることは少ないのだが。多くの 神は、プライモーディアルたちを打ち負かしてのち、勝ちに乗じ ておのれの権能に元素に関するものを加えた。モラディンは地を 士や冥術士といった影のウィザードは、他の影の使い手よりも頻 繁に元素魔法を用いるが、ブラックガードやアサシンその他の、 影を帯びた冒険者たちの魔法の中にも元素の力はある。 クイーンがこれを引き継いだ）。メローラは海の支配権を得た。神々 元素魔法の修得 の力は、その信徒に元素の諸力を操る手だてを与え、クレリック、 他のパワー源も、元素魔法の力を引き出し、制御する手だてを パラディン、その他の者たちに武器として “元素の渾沌” の破壊的 与えてはくれる。けれどこれらの魔法形態は、「元素の力そのもの な力の一部を授けている。 を『直接』修得するにはどうすればいいか」という問に対する答には わがものとした。カーラは冬の冷気を奪い取った（後にレイヴン・ ならない。元素の力は広範にわたり、ふんだんに存在する。だが、 原始魔法 かつてプライモーディアルがやっていたようにその魔力を引き出 原始精霊たちは “元素の渾沌”からあふれて “この世界”へ流れ込ん だ元素のエネルギーを吸い取り蓄える。これにより、精霊たちは しばしば地水火風の元素との結びつきをうかがわせる特徴を帯び る。原始系キャラクターの共通要素である自然の魔法により、彼 らは自分と関わりある精霊を通じて元素の力を得ることができる のである。 伝説の “破れを見守る者”（P.13 の『シンダーハート』参照）は、元 素のエネルギーをおのれの招力に組み込み、これを用いて “元素の 渾沌” からしみ出す力を食い止める。しみ出た力が “この世界” へ噴 き出し沸き立っているその場所で。 原始精霊が元素の力との強いかかわりを誇示するのは、“この世 界” がまだ、世界創造の際の元素の影響を振り払うに至っていない からだといわれる。原始魔法と元素の力は深くかかわりあってい し、目覚めさせ、自在に操るには、どうすればいいのだろうか？ エミリコルの説によれば、他のパワー源を介在させずに元素魔 法を操ることは可能だということである。“元素の渾沌”から沸き出 す謎めいたエネルギーの研究に生涯を捧げてきた彼は、かように 結論した――「元素の力を最も純粋な形で制御するには、元素ク リーチャーとなる必要がある。元素クリーチャーは下方次元界の 生ける延長だ。完全に元素魔法から成る存在が命を授かったもの だ」。エミリコルの論によれば、「元素クリーチャーは元素魔法を 用いるとき、実のところ自分自身から力を引き出しているのだ。 そして元素は元素それ自体の魔法的な影響力を外に及ぼすことで 望む結果を達成しようとする。フロスト・タイタンが寒風で敵を 凍りつかせるときも、ファイアー・ジャイアントが火の柱を出現 させて敵を焼くときも、みな、そうなのだ」という。 たものだ」と説く。ひょっとすると、原始精霊というのは世界創造 元素魔法の危険性 の最も古い時代のこだまであり、さまざまな概念が半ば実体ある だが、元素クリーチャーに変るというのは、ほとんどの定命の 形や人格や個性を備えたものであって、精霊が生れたのはプライ 者の望まぬ道である。元素魔法に魅せられたエミリコルすら、自 モーディアルの力が精霊に形と恒常性を与えたからなのかもしれ らの定命の存在を捨てて望む力を得ようとまではしなかった。恐 ない。 らく彼はこうした変性の危険性を多くの者よりもよく知っていた るため、ある者は「原始魔法というのは元素魔法が洗練され進化し のであろう。 元素の視点：エヴェレナ、発火能力者 ち か ら わたくしが能力を使うのを見て、人は 「これは何かで火を呼び出しているか、操っているのだろう」 と思いこみます。けれども、それはあまり当っ ていないのです。わたくしは精神の中に元素エネルギーの湧き出す泉を持っているわけではありません。持っているのは、物質の中に隠れてい る元素エネルギーを読み取る力です。ごくありふれた石の中にも、ずっと昔、その石が地底の火の中でかたちづくられたころの記憶が眠ってい ます。わたくしはサイオニックの技を修めて、自分のまわりの世界に眠っている、隠れた火を目覚めさせることができるようになりました。 わたくしは火をつくりだしているのではありません。ただ、自分からあらわれようとする火を、あらわれるままにしているだけなのです。 8 第1章│元素の渦へ 風 神々とそのしもべらは元素クリーチャーを好まない。“暁の戦”のお 風の元素の強い所では、ちょうど “この世界” の空と同じ青色が りの遺恨を未だに含んでいる者も多い。元素の存在となったクリー どこまでも広がり、ひょうひょうと風が鳴っている。この領域と チャーは、神々に与えられた生命という贈物を捨て去ったわけで、 かかわりぶかいパワーは、飛行能力や、風を呼び風を操る力や、 神のしもべらがこれを嫌い憎むのは当然というもの。とはいえ、 敵を寒気で凍りつかせる手だてを与えてくれる。風の元素にゆか この敵意も絶対ではない。元素の種族であるジェナシも、時とし りあるキャラクターは、朗らかで気まぐれで物にこだわらない。 てパラディン、クレリック、インヴォーカーとして神に仕えるこ 彼らの感情は、さっきまで穏やかだったと思えば突然に激する― とがあるのだから。 ―ほとんど何の前ぶれもなく。 元素クリーチャーへと変性した者は、“元素の渾沌”とのつながり を強めることになる。そして “元素の渾沌” の諸勢力の注意をひく ことにもなる。タイタンやジンなどの力あるクリーチャーは、他 の元素クリーチャーを隷属させ、下僕や兵士としていつ果てると もない戦に駆り出す。しかも変性の過程は定命の者が独力で完遂 できるものではなく、しばしば外部の助力を要する。ずる賢い元 素クリーチャーは、入り用な力を貸すかわりに、後で相手を自分 のしもべとして取りこむことがある。 元素クリーチャーの主人に仕えて一生を過ごすのは、確かにあ まりぞっとしない。だが、もっと悪いことがある。下方次元界の 中心には大きな傷が開いており、そこから魔的な腐敗が滲み出て 基本的元素 元素クリーチャーの直面する最大の危険は、神々の怒りである。 地 そびえたつ山々も、さらさらと流れる砂も、ごつごつした岩も、 生命を育てる柔らかな大地も、すべては地の元素に属するもの。 地の元素は力と強靭さを体現する存在である。地の元素に呼びか けるパワーは、大地を震動させ、クリーチャーを岩と泥の中に隠 して守り、土や岩のなかを通り抜ける速度を速め、あるいは打撃 に耐える力を強める。地の元素にゆかりあるキャラクターは、考 え深くねばり強く、感情の動きはのろいが、ひとたび怒れば実に 恐ろしい。 物にじかに突き立っている。これにより、デーモンの領域（＝アビ 火 ス）は今もなお、満たされぬ飢えに任せて少しずつ “元素の渾沌”を 火の指し示すものは情熱、霊感、鼓舞、憤怒、破壊である。こ 食らっている。アビスが渾沌を食らう、この過程につかまった元 の元素の力を引き出すパワーは、炎を生み出して操り、洞察を生み、 素クリーチャーは、変容をとげ、ねじ曲げられて、デーモンにな 感情を激化させる。火の元素の力を操る者は、あるいは敵を炎に りかわってしまう。しかのみならず、あらゆる元素クリーチャー 焼き、あるいは味方の怒りをかき立てて限界を超えた活躍をさせ はより軽度の腐敗にさらされている。そして定命の者でなくなり る。彼らは判断を感情に左右されやすく、もっとよい分別があろ 元素クリーチャーに変性したキャラクターは、本来持っていた “腐 うという時にも、すぐに行動に移ろうと勇み立つ。 いる。アビスの奥深くには暗闇のかけらがあって、宇宙という織 敗に抗する力”を失ってしまうのである。 基本的元素 水 水は、これをさえぎるものがあっても、あるいはしみとおり、 あるいは迂回して流れつづける。水のパワーを操る者も、これと “元素の渾沌”とは、消滅と再生をくりかえす、渦巻くエネルギー 同様、たやすく敵を避けて通る。また、水の元素は治癒の力を与 の嵐である。この次元界はさまざまな元素を混ぜ合せる。だが一 える。癒しをもたらすその指先は、傷を除き、病を治す。水は移動、 部の強い力は、その本質ゆえに、他と隔絶したままで存在する。 意思疎通、変化の元素である。水の元素にゆかりあるキャラクター その力とは、純粋で混り気のない地水火風の元素――いわゆる基 は、さまざまな状況に適応し、必要に応じて知恵ある意見を述べ 本的元素である。これらは多次元宇宙を構成する一番の土台であ ることも、破壊の呼び声をあげることもできる。 り、必要不可欠な素材である。 第1章│元素の渦へ 9 元素の影響 ネルギーには出くわすことなく生涯を送る。けれど、ちょうど空 もし “元素の渾沌” がなく、この常に変りつづける土地を支配す 気と同じように、元素エネルギーの働きは（目には見えなくても） る者たちがいなかったとしたら、天地創造もありはしなかったろ 感じ取れる。あらゆる形態の魔法は、この潜在的エネルギーに接 う。自然世界その他の次元界には、その作り手たちの指紋が残っ 触し、これを用いて驚くべき事を起す。あるいは瀕死の者を癒し、 ている。そうしてこれら諸次元界の住人たちは、ばらばらぐちゃ あるいは氷と炎で大軍勢を壊滅せしめる。 ぐちゃだった素材を今ある形にまとめあげた力を、今もなお感じ ている。これらの力の声を、人は聞く――地鳴りのなか、海鳴り のなか、あたりじゅうに破壊をもたらす大嵐のなかに。そのとき、 プライモーディアルは “この世界” に確かに生きている。すくなく とも、彼らの力のこだまは、確かに生きているのである。 元素的存在 “原始の禁令”によって、プライモーディアルたちは “この世界”の できごとに直接介入できなくなっている。けれどこの古い盟約は、 より小さな元素クリーチャーが “この世界” へ渡ってくるのを止め 消え残る力 るにはほとんど役立っていない。太古のタイタンは、いたるとこ ろの山々の地下に、あるいは火口の要塞に住まう。元素の王たち “元素の渾沌”が自然世界に与えている影響のうち、最も広範に見 は広大な氷の城に座し、氷河を遣わして人の住む土地をおびやか られるのは何か。世界が創造され神々とプライモーディアルが相 す。無分別に召喚を行なう者はエレメンタル、ジン、その他の破 争ったころから、ずっと残っているエネルギーである。世界創造 壊的なクリーチャーを定命の世界へ呼びこむ。時には “暁の戦” の のわざは “この世界” を見れば明らかに見て取れる。そびえたつ ころの大昔の秘宝が掘り出され、その秘宝が何千年も眠っていた 山々。広い広い海。人まれな森。空の青天井。これらはすべてプ 元素の怪物どもを再び目覚めさせる。こうしたクリーチャーが “こ ライモーディアルの造ったものである。そして彼らの力は、彼ら の世界” に解き放たれるや、行くところ混沌と破壊あるのみ。これ の造ったものの中で今も鳴りとよみ続けている。 ら怪物どもの中でも特に強力な者たちは、古いあるじであるプラ 消え残る元素の力が “この世界” 全体にゆきわたっている―― イモーディアルの望みに従って、“定命の世界”そのものを元の渾沌 ちょうど空気と同じように。ほとんどの生き物は、純粋な元素エ に戻してしまおうとする。 原始の禁令：この世界の安全を保つもの 定命の者の認識と理解の彼方に、一つの古く深い魔法がある。その魔法のあらわれが “原始の禁令”である。精霊たちの存在がこれを支え、 力を与えている。しかも当の精霊たちすら、これの本当の性質についてはほとんど何も知らない。“禁令”は自然世界を取り巻き他の次元界のも のを締め出す、今なお存在する障壁である。“禁令”はあらゆる小石のなか、そよ風のなか、生きとし生けるもののなか、自然世界を構成するあ らゆる小さな物質の粒のなかに宿っている。この古く深い守りの魔法のおかげで、他の世界の “もの” たちは、たとえどんなに強い神であろうと プライモーディアルであろうと、この世界から追放され得、締め出され得るのである （充分な力と知識のある者がいればだが） 。それというのも、 これらの “もの”たちを構成する要素は、この定命の世界のものではないからである。 “原始の禁令” の古い守りの力は、“この世界” の原始精霊たちによって、常に更新され続けている。原始精霊。このふしぎな “もの” たちは、 この世がつくられて程ないころに現れた。プライモーディアルの造った “この世界” の荒削りな構造を、神々が矯め整え、おのが被造物を住ま わせ始めたころのことである。神々が手を触れたものには神々の精髄の一部が残り、 この世界と、 この世界のあらゆるものに魂が宿ることになっ た。この世界がまだ幼く、時が存在しなかった時代、これらの魂は目覚めた。これらの精霊のうち、あるものは “暁の戦”でいずれかの側に付 いて戦った。あるものは自分たちの生れるもととなった場所や被造物を守るために戦った。またあるものは、争いが他のところに行ってしまった とき、黙ってこの世界の傷を癒した。原始精霊たちが年を重ね、強くなるにつれて、“原始の禁令”もまた形をとり、彼らとともに成長していった。 精霊たちはこの世界のより多くの者たちを守ることができるようになった。いまや、暴れ回るプライモーディアルも寄せつけない。神々がこの世 界の今のありようを変えようとしても、その変化を和らげることができる。 一部の学者は、 「原始精霊たちは新たに生れた自分たちの世界を “暁の戦” の戦禍から守るために “原始の禁令” を生み出したのだ」と説く。 またある者は、 「自然世界の法則というものがある。原始精霊のなかにも根付いている、季節や天候や生命を統べる法則だ。この法則が、そ れ自体で力を持ち、神々やプライモーディアルの気まぐれに抵抗するようになったのだ」 とする。 ともあれ、“原始の禁令”は完全でもなければ無敵でもない。プライモーディアルや神の中でも力の強い者が力をふりしぼれば、“原始の禁令” に抵抗することも、これを無視することも可能である。強力な （とはいえプライモーディアルには劣る）元素クリーチャーにも同じことができる― ―この世界のうち、元素の影響が強い箇所なら。あるいは、しかるべき状況が揃えば。しかし “禁令” を迂回する最も確実な方法は、定命の クリーチャーを通じて働きかけることである。“禁令” はもともと自然世界に属するクリーチャーの行動を縛るものではない。従って、定命の者 が神の助けや元素の力を呼べば、これらの勢力はこの世界に立ち現れるのである。神々やプライモーディアルが世界の外側から道を開こうと する場合よりも、ずっと簡単に。 10 第1章│元素の渦へ プライモーディアル のカルト教 団 Adam Paquet te 空中に岩塊が浮かび、水が瀑布となって流れ落ちる。元素の影響の最も尋常でない姿 プライモーディアルの カルト教団 の者が罪なき者を焼いたからといって、とがめたてはしない。地 原始精霊たちはこの世界の危うい均衡を保とうと努めている。 また、純粋な元素の力に心ひかれ、プライモーディアルを牢獄 これに対する大きな脅威のひとつが、プライモーディアルのカル から解き放つことによって元素の力を手にしようと望んで、それ ト教団である。自分には分別があると思っている者にとって、プ ゆえに信徒となる者もある。 ライモーディアルの力におのれを捧げるなどというのは、とんで 宗教組織による圧迫と、世間一般の偏狭さが、プライモーディ もない話。「神々はプライモーディアルを大義にのっとり正々堂々 アルの教団を地下に追いやった。信徒は当局の興味をひくのを恐 の戦いで打ち負かした。もし神々が敗れていたなら、世界創造そ れて、信仰を隠し、プライモーディアルとのつながりを隠している。 のものがご破算になっていたろう」と彼らは信じている。 教団は秘密の場所で会合し、人目を忍んで良からぬ儀式を行なう。 さて、しかしプライモーディアルのカルト教団員は、歴史をこ あるいは荒野のただなかに隠れ、人型種族の最初の都市が生れる れとは違ったふうに見る。彼らによれば、「プライモーディアルは よりも昔からある、古い祭壇に向って礼拝する。イクサラウ、ヒュー 神よりも崇拝に値する。神々はプライモーディアルが創造のわざ ルケト、ムアルタールは、よくこれらの集団の守り本尊となって を終えた後で『世界創造はわれらのわざ』と主張しはじめたのであ おり、信徒は彼らの名において大変な悪行を働く。 る。定命の者がおのれの生について何者かに感謝するなら、それ プライモーディアルの教団は社会秩序を弱め、文明の土台を掘 はこの世界をつくりあげた古き元素の存在であるべきだ」というこ り崩すことがある。それは確かに恐ろしいこと。けれど彼らがも とになる。 たらす最大の脅威は、プライモーディアルをその牢獄から解き放 プライモーディアルに生命を捧げる者の多くは、追放者、世に つことである。ひとたびこれが起れば影響は広汎に及ぶ。鎖につ 容れられぬ者、光と善の敵である。このためプライモーディアル ながれて過した永劫の歳月によって、多くのプライモーディアル の教団には最悪の種類の信者が集まる。教団には犯罪者、変質者、 は狂い、暴れまわる怪物と成り果てている。多くの教団がこうし 狂人がずらりと揃い、神々への信仰によって得られないものをプ た者どもを自然世界へ呼びこもうとしている。そしてそんなこと ライモーディアルへの信仰によって得ようとしている。 が起きたが最後、“この世界”を他の次元界の脅威から守っている “原 おのれの内なる暗い欲望を正当化するためにプライモーディア 始の禁令” は台無しになってしまう。果ては新たな “暁の戦” すら起 ルの崇拝者となる者もいる。火の元素大公アイミックスは、定命 りかねない。 の元素大公オグレモクは、そのしもべが敵を生き埋めにするのを 喜ぶ。 第1章│元素の渦へ 11 この教団は有史以来、軍をおこし暗黒の寺院を築いて文明をお びやかしてきた。その司祭たちは、おのがあるじを解き放つ鍵を 求めて、この世界じゅうを巡るのであった。だが教団の成功はし ばしば内訌と裏切りによって妨げられた。この教団を支配する複 数の分派は、それぞれ他派を圧倒しようとはかるのであった―― たとえその内輪もめのせいで共通の目的を台無しにしようとも。 しかもこの弱みに外部勢力がつけこむのであった。これまでザ グトモイ、グラズズト、“邪悪なるもの”アイウーズ、ロルスがみな 一度はこの教団を操っておのれの計画をおしすすめた。 次元の破れ “次元の破れ”は、現実の境界が壊れるほどの力を受けた場所に生 じる。この破れは強力な儀式によって生みだされることもあれば、 太古の邪悪な存在の出現やプライモーディアルの目覚めによって 生れることもある。加えて、特定の土地はひとりでに次元の破れ を生み出し、時空に泡を生じさせ、破裂させて、ある次元界の成 分を他の次元界へ吐き出す。 旧き元素の眼 “旧き元素の眼”なるものは存在しない。すくなくとも、正気の タガの外れた何人かの論者はそう主張している。彼らによれば、 「この “眼” なるものは四柱の強力な悪しき元素大公がでっち上 げたこしらえごとに過ぎぬ。彼らはこれによって自分たちの本当 のあるじの正体を隠そうとしたのである。そのあるじとは、悪名 高い “鎖に繋がれた神（＝タリズダン） ”である。このものはアビス “旧き元素の眼”に身命を捧げた教団員が 激流を操る儀式を執り行なう プライモーディアルの教団は恐るべきものである。だが、すべ ての教団が邪悪な目標を掲げているわけではない。一部の教団は 名誉あるプライモーディアル（すなわち “暁の戦”に加わらなかった 者や神々の側に付いて戦った者）を崇めるために設立された。プラ イモーディアルの信徒の言によれば、「プライモーディアルは、彼 らとともに世界を創造した神々よりもさらに崇拝に値する。プラ イモーディアルは “この世界” の正当な支配者だが、神々に権利を 奪われている。だが神々の力はプライモーディアルよりも劣る。 それは打ち負かした相手を滅ぼすことができなかったことで明白」 という。 まりないため、定命の者の多くはこの狂った神の注意をひくこと を恐れて、その名をいうをはばかる」 という。 だがこの説はしばしば一笑に付されてきた。そしてそれも一理 ある。なにしろこの “鎖に繋がれた神” なるものがかつて存在し たということを裏づける記録はどこにもない。他の神に仕える僧 侶たちは、この不在の神に関しては沈黙を守っている。そしてい かなる公式の聖経聖典のなかにも、この暗黒の存在に関する記 述はない。“鎖に繋がれた神” の存在を証明するものは何もない ……のだが、それでもこの名前は、光と善を讃える言葉や祈り の中に散見されるのである。このものは夜明け前の闇のなかに 潜む影であり、万物を覆う “とばり” であり、上方次元界と下方 次元界の戦をひきおこした存在である。このものの印はルーン やじり 他のいかなるプライモーディアルの教団が “この世界” に及ぼす 脅威も、“旧き元素の眼”の教団に比べれば物の数ではない。この教 団は悪しき元素大公たち（P.24）とかかわりぶかいものと見なされ がちである。だが実のところ、この教団の影にはより大きな存在 が潜んでおり、大公たちはこのものに仕えるしもべに過ぎない。 一般に信じられているところによれば、“旧き元素の眼” なるもの は、太古のプライモーディアルであり、仲間のプライモーディア ルたちによって “元素の渾沌” から追放された。このものは今も諸 次元界に再び地歩を占めよう、そして再びかつての目的――万物 の終焉――に向けて動き出そうとはかっている……といわれる。 第1章│元素の渦へ を彫りこんだ鏃。この神は祈りに応えないが、それでも鏃の印 は意義あるものでありつづけてきた。この印を帯びた禁じられ た書物を敢えてひもとく者は、確実な狂気に犯される。その狂 気こそ “鎖に繋がれた神”なのである。 “鎖に繋がれた神”への祈りに応えが返ってくることはない。こ の謎めいた存在からはいかなる力も流れ出てはこない。このも のの存在を示す手がかりは、真偽定かならぬ文書の中にしかな い。この手の文書は、神をなみする汚れた寺院から発掘され、 あるいはドゥームドリーマー （ 「滅びを夢見る者」ほどの意）と自称 する狂気の宗教結社によって保存されている。 “鎖に繋がれた神” なるものは存在するのか？ そうかもしれぬ。この恐るべき神 は何を求めているのか？ 誰が知ろう。 Anna Christenson “旧き元素の眼” の教団 ふ る 12 の創造者であり、暗い邪悪を体現している。その邪悪さはきわ 次元の破れ 次元の破れは、まず成長し、やがて完全に形成される。今にも はじけて破れそうになると、時空に “ふくらみ” が生じ、周囲の空 間がゆがんで、ひきのばされたり押し縮められたりした感じにな る。少しの後、“ふくらみ” は外側へ向けてはじけ、ある次元界（と その住人）の一部が、別の次元界へほうりだされる。次元の破れと その周囲の土地は溶けあって、2 つの世界のありようの奇妙な融 合が生じる。その土地は両方の次元界の特性を得、一つの次元界 からもう一方の次元界へ通り抜けることができる場所になる。 時として、次元の破れが広範な損害と破壊をもたらすこともあ る（たとえば沸き立つ熱湯の海が “元素の渾沌”から自然世界へ流れ こんできたなら大惨事になるのは想像に難くない）。次元の破れか ら、浮遊する元素の塊――大地や水といった基本的な元素の塊が ひとりでに宙に浮かび、空を行くもの――が生み出されることも ある。また、次元の破れが広範な土地をこの世界から消し去り、 別の世界へ引きずりこんでしまうこともある。 シンダーハート “次元の破れ” はまわりじゅうの土地に破滅的な事態をもたらす。 だが、原始の英雄たちが速やかに駆けつけ、破れを制御し破壊力 を抑制することに成功した例もある。近年この世界をおびやかし た次元の破れのうち、最も名高いものがシンダーハート（ 「消し炭 の中心」ほどの意）の砦である。これは活火山の斜面に在り、まわ りには黒煙と灰が立ちこめて、まるでいつも嵐が起きているかの ように見える。火山の火口内部に “元素の渾沌” に通じる次元の破 れが発見された。それは創造の火に通じる導管であった。この破 れは今のところ不活発だが、消え去ったわけではなく、この地に 住む勇敢な者たち（彼らは “破れを見守る者”と自称し、外部からも そう呼ばれている）にとっての試練となっている。 ネラス帝国が崩壊し、避難民が魔物の群に追われて逃げてきた とき、シンダーハートに住むドルイドやウォーデンはこれを進ん で迎え入れた。ドルイドはマグマ・エレメンタルを魔法で呼び出 し、おかげで追ってきたノールその他の魔物はこの僻地の城塞に 取りつけず、避難民は新たな生活の機会を得るに至った。現在の 砦の住民の中には、この時の避難民の子孫が少なくない。 守りの魔法は次元の破れが広がるのを食い止めている。けれど、 この強力な儀式をもってしても、元素のエネルギーが近隣の土地 や、そこに住む生き物や精霊を汚染するのを止められるわけでは ない。原始の勇者のうち、守りの魔法を監視するのが役目の者は、 すぐに気づいた――彼らが手を組んでいる原始精霊が、次元の破 れに由来する特徴や性質を備えはじめたことに。これらの精霊は より奇矯、攻撃的、危険になった。シンダーハートの番人たちの 多くは、汚染された精霊を清めようとしている。けれども中には、 これらの精霊の特別な能力を活用して、シンダーハートを助け、 Slawomir Maniak 次元の破れを押し留める人々を助けようとする者もある。 “次元の破れ”から何が出てこようと シンダーハートの勇者はこれを防ぎ止める 第1章│元素の渦へ 13 元素の渾沌では珍しく穏やかな、牧歌的と言ってよい景色――だが長くはもたない 元素の渾沌 立つべき地面は岩、鉄、氷、水晶、あるいは砂から成る。溶岩、 “元素の渾沌”へ旅した者が、これを多次元宇宙の中の他の次元界 溶けた金属、はては液状の炎が、川となってごうごうと流れ、池 や世界と間違えることは決してない。ここでは “地面” はむき出し となってもうもうと燃えたっている。溶岩の熱があるわけでもな の地の元素でできた岩であったり、固まりかけたマグマであった いのに石が水のように流れていることもある。この “地流” は、一 り、平坦な氷やガラスの板であったり、ぎざぎざの水晶やもろい 見堅い地面に建っているかのように見えるものを、片っ端から押 灰が広がっているものであったりする。巨大な岩山が、あるいは し流してしまう。 空中に浮かび、あるいは電光の流れのなかに漂う。雷雲が炎の幕 水は岩の谷間を流れていることもあるが、まったく何もない宙 とぶつかりあう。ほど遠からぬところに、切り立った崖があり、 を流れていることもある。水は海となって渦まき沸きかえり、高 裂け目の底は知れない。大地をふたつに割って流れるのは溶岩の 熱の蒸気の雲となって浮かび、雪嵐や雹の嵐となって吹きつけ、 川。そばにもう一つの島が浮かんでいる。少し上か、ずっと下に。 巨大な氷塊となって空を行く。 ひょっとすると衝突針路にあるかもしれない。ぶつかったが最後、 ここでは純粋なエネルギーが物質的形態の制限を受けずに存在 大変動が両方の大地を打ち壊し、全く新しい何物かを生み出す。 している。空には炎の幕が踊り、黄銅城の運河には液状の炎が流 “元素の渾沌”は何でできているか。磨かれず、手の加わっていな れる。稲妻ははためいてやまないため、しかるべき守りを施した い、“なま” の物質でできている。元素的素材の塊と塊のすきまは、 者は、これを確かな足場と見てその上に立つことすらできる。雷 おおむね空気で満たされている。このため “元素の渾沌” の大方の 鳴は海流のように次元界全体をめぐって流れ、進路にあるものを 場所は、“この世界”からの旅人にとって、理論的には、住みよいと ことごとく打ち砕いてゆく。 ころである。 純粋で秩序のないエネルギーがぶつかり、流れ、渦まいて、物 だが中には空気そのものが危険要因となっている場所もある。 や力を常に動かし続ける。何もかもが変り揺れ動いて定まらぬな 空気が常にごうごうと渦まき、物を吸いこんで離さぬところ。あ かに、いっときとはいえ、変動を免れている小島がある（中には大 るいは、炎を凍りつかせるほどに冷たい空気が、水のように流れ 陸ほどの大きさのものもある）。そこには人々が群れ住み、怪物が ているところ。そんなところもある。 潜んでいる。この変転つねならぬ世界のなかの、このような小島で、 Adam Paquet te しばしば冒険は展開するのだ。 14 第1章│元素の渦へ とんどの層は、嵐に満ちた空に浮かぶ土の島という形になってい “この世界”は “元素の渾沌”をもとに形作られた。一部の土地は今 る。そうしてどれも、アビスの黒い中心に待つ消滅へと、螺旋を も原型に近い。活火山の火口、大嵐の中心、海の大渦巻、太古の 氷河の芯。そんな場所では元素の渾沌が、恐るべき栄光にみちて、 この世界に流れこんでいる。 冒険を好む者はこうした土地におもむき、そこにポータルがあ りはしないか見定めようとする。こうした土地で “元素の渾沌” の クリーチャーがこの世界に流れこみ、これと戦うために冒険者が やって来ることもある。そうして、怒り狂ったストーム・タイタ ンを、あるいはファイアー・アルコンの大軍団の進撃を止めよう としているうちに、間違って自然世界から “元素の渾沌” に踏みこ んでしまうこともある。 “元素の渾沌” には一つの巨大都市があって、その立派なことと 描いて否応なく近づいてゆく。これらの恐るべき土地のうち、定 命の者に名が通っている場所はほんの少しである。千門平原。蒸 気の立ち込める密林アビズム。蜘蛛糸に満ちた広大な虚空デーモ 元素の諸領域 元素の渾沌への道 ンウェブ。デーモン・プリンスのオルクスが統べる死灰の領域タ ナトス。 デーモンの力を得た定命の者が、最悪の悪漢や怪物と化さない ことは稀である。けれどもアビスのうち一部の場所は、定命の、 現に生きている者の住みかとなっている。デーモン・ロードのグ ラズズトが領ずる土地アザグラトには、大胆で心ねじけた商人が ほうぼうの次元界から集まってくる。また、多くのデーモン・ロー ドは、定命の捕虜や奴隷を娯楽のために取っておく。 いったら、他のどんな都市にも引けをとらない。これがイフリー 交易の中心地である。城邑の内外には永続的な瞬間移動の魔法陣 元素の諸領域 がいくつもあって、プレイナー・ポータルの儀式のよく知られた “元素の渾沌”は一見すると、壮大だが住む者もない荒れ野、生命 トの都、黄銅城。元素の渾沌じゅうの、さらには他の諸世界との、 目的地となっている。このため、“元素の渾沌”へ入ろうとする旅人 にとって、黄銅城は行きやすい場所である。 “元素の渾沌”のあちこちにあるギスゼライの僧院にも、永続的な 魔法陣がしつらえてある。そして “この世界” のいくつかの僧院は、 それらの印形の順列を記した目録を有している。第九城塞（P.17） にも一つ、防備きびしい魔法陣がある。デーモンやアビスにまつ わる、よこしまな知識をおさめた書物の中にも、プレイナー・ポー タルの儀式に使える印形の順列がよくある。とはいえ、こうした 順列の中には、うっかり使ったが最後、罠や牢屋や千穴平原（アビ スの最上層）といった危険な場所に飛ばされてしまうものが少なく ないのだが。 自然にできたポータルや、既存の魔法陣に通じる印形の順列を 見つけられなかったなら、エレメンタル・トランスファランスの 儀式（『次元界の書』P.150）を使う手もある。しかしその場合、ど こに出るかは選べないし、帰り道が見つからない可能性もあるし で、リスクが伴うのは間違いない。 のない物質ばかりがあらゆる形態を取って存在する土地に見える。 だが、全部がそうとは限らない。この次元界でも安定した住みよ い場所には人型生物等、“この世界”のクリーチャーが、さまざまな 形で住みついている。“元素の渾沌”は形成されるのを待つ純粋な素 材である。定命の存在のうち、ごくありふれた者の精神力でも、 自分の周囲の土地の常に変りつづける状況に、秩序をもたらすこ とはできる。定命の存在のうちでも尋常でない者――知恵すぐれ た者、決意の堅い者、特別な血をひいた者は、その力に応じて、 より広い範囲に影響を及ぼし得る。 禁欲的なギスゼライ族は、“元素の渾沌”のなかに安定した島を築 き、そこに僧院や砦を建てている。大望を抱く定命の者たちは、 この世界から “元素の渾沌” のいたるところへ旅して、あるいは第 九城塞のような砦を築き、あるいは鉱山や交易拠点をうちたて、 あるいは秘密の塔や隠れ家を空に浮かぶ山、輝く海のただなかに 設ける。定命の存在のうち、特に強力な元素魔法の使い手の多くは、 こうした奇妙な土地や隠れ家の出である。 ギスゼライの砦や定命の魔法使いの拠点は実に見事なものであ アビス る。だがそれも、真の元素の封土に比べればもののかずでない。 “元素の渾沌”の奥深くに、デーモンとその邪悪な産物に満ちた土 者と似通ったところがほとんどなく、定命の者のすることに何の 地、悪そのものがかたちをとり、忌わしいエネルギーを帯びてし み出している場所がある。すなわちアビス（奈落）である。“元素の 渾沌” では物質が混じりあい渦まいているのは普通のことだが、ア ビスに近づいてゆくと、この混じりあいかたが普通でなくなる。 ゆっくりと沸きたつのではなく、もっと速く激しくなる。空には 嵐がいくつも集まって荒れ狂い、物を吸い上げ引きこむ。よほど 無鉄砲な旅人以外は、これを見てきびすを返す。これより先に行っ たが最後、そこにあるのは、破壊と無限の悪意に満ちた悪夢のよ うな土地である。 アビスでは、さまざまな元素の秘めている可能性が、その最も 暗く腐敗した形態で現れる。次元界のなかのもう一つの次元界と いうべきこの領域は、定命の世界や神々の領界の馬鹿げた “まがい もの” として造られている。アビスには何百という層があって、ほ そこには無限に多種多様なクリーチャーがいる。中には、定命の 興味も示さない者も少なくない。たとえばゾーンと呼ばれる、三 本足で三本腕、体のてっぺんに大きな口があり、土の中に生き、 土と宝石を食って生きるクリーチャーがいる。このものが “元素の 渾沌” で出くわす人間について知っているのは、「あいつらのもろ い “から”を割ると、中からおいしい宝石が出てくる」ということだ け。けれど、もっと他の元素の種族、たとえばイフリートだとか ジンだとかフロスト・ジャイアントだとかは、定命の世界の人々 と同じように、富や力や影響力を高めようとやっきになる。 “元素の渾沌”生れの冒険者もいる。彼らはこの次元界の無数の都 市、領域、砦からやって来る。性質としては定命の者も、元素に 属する者もいるが、いずれも “元素の渾沌” で――定命の世界の草 木生い茂り、物みな整って変らない土地とは、よほどに違ったと ころで、生れ育った者である。 第1章│元素の渦へ 15
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