リヤドから東部州へ

現地駐在員だより リヤドから東部州へ
ダンマンジャパンデスク 代表 佐竹 繁春
筆者は2011年8月よりリヤドのビジネスサポートオフィスに赴任していたが,中東協力
センターにとってサウジアラビア国内第三の拠点となるダンマンジャパンデスクを東部州
に立ち上げ,2015年2月に異動した。
サウジ国内で,同時期に連続して2都市に赴任するという貴重な経験を得たことから,
本稿ではリヤドと比較しながら,東部州の生活環境を紹介したい。なお,リヤドでの生活
環境については,拙稿「妻たちのリヤド生活」
(『中東協力センターニュース』2013年6/
7月号)にて紹介しているので,ご関心があれば合わせて参照されたい。
1.治安は心配されているほど悪くないものの,引き続き要警戒
シーア派を狙ったIS関連のテロ,シーア派指導者死刑執行に対する抗議運動等はここ東
部州で時々発生しており,リヤド州やジェッダのあるメッカ州等,他の主要都市・州に比
べると東部州は比較的危ないとの印象を持たれるケースがある。
しかし,東部州における日本人の生活圏は,ダンマン,アルコバール,ジュベイルとい
った都市にほぼ集中しているのに対し,上記の事案が発生しているのはカティーフ,
ホフー
フ等のシーア派の町・集落が中心である。このため,筆者のオフィス(ダンマン)や住居
(アルコバール)の周りで上記のような事案が発生する頻度・可能性は相当に低く,生活し
ていると治安が悪い印象はあまり受けない。
ただ,逆に言えば,生活圏での発生の可能性は低いとはいえ,そこから数キロ~数十キ
ロ圏内で上記のような事案が発生していることから,それなりに緊張感もある。また,警
察がテロリストを逮捕したとの報道も頻繁にある。治安対策・避難対応については,油断
せずに十分整備しておく必要がある。
ちなみに,筆者の住宅の近くでは週末になるとよく小規模な暴走族が出るのだが,その
エンジン音がたまに銃声または爆発音のように聞こえることがあり,紛らわしい。また,
上記に限らず軽犯罪も頻度は低いものの発生しており,特に夜間の外出時には他の新興国
のケースと同様,十分に注意する必要がある。もっとも,これは東部州に限ったことでは
ない。
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サウジアラビアにおける治安以外のリスク要因として,交通事故と火災がある。東部州
はリヤド・ジェッダほどではないが,1日一度は必ず交通事故を目撃するし,周りの運転
が荒いため,もらい事故のリスクが高いことは変わらない。また,電気系統のトラブルが
原因の火災が東部州の集合住宅で最近発生し,死者も出た。避難経路・手順等の確認,緊
急時の社内連絡体制等の整備等は,この観点からも欠かせない。
2.買い物,外食(日本食),レジャーの選択肢はリヤドより狭い
物が豊富ではある点,鮮度の高い葉物野菜などを見つけるのが難しい点,品切れ時の対
応が良いとは言えない点等はリヤドと変わらない。一方,奥様方の買い物の場所の選択肢
は,主要なショッピングモールは2つのみと,リヤドに比べると少ない印象である。
日本食材はサウジ国内では一般に入手しづらい。日本食レストランのレベルも,選択肢
はリヤドに比べ少なく,そのレベルは高いとは言えず,値段も店によっては非常に高い。
また,厳格なイスラム教国であるサウジ国内であるので,お酒と豚肉は手に入らない。家
族連れのレジャーは上記ショッピングモールの遊園地か,海沿いの公園等が中心となる。
筆者が東部州異動の際に単身赴任に変更になったからかもしれないが,リヤドで週末に
家族・友人たちと行っていた砂漠でのトレッキングやピクニックの機会はなくなった。総
じて,買い物・レジャーの選択肢は,リヤドよりさらに限られている印象である。このよ
日本人会秋祭の様子
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うな中,2ヵ月に一度ほどの高頻度で,東部州日本人会主催のレクリエーションイベント
(秋祭り,忘年会,各種スポーツ大会)が開催されており,日本人同士の交流を深められる
良い機会となる。
3.隣国バーレーンで羽を伸ばす
東部州は,隣国バーレーンとコーズウェイ(橋)でつながっており,車で行き来できる。
同じイスラム教国でありながら,バーレーンはサウジよりだいぶ自由であり,女性はアバ
ヤ着用不要で運転も可能,一部のホテルやレストランでは飲酒も可能だし,豚料理も食べ
ることができる。このこともあり,入手可能な日本食材の品ぞろえはサウジよりは多く,
日本食レストランの品質・コストパフォーマンスもサウジに比べて良い。
バーレーンにはゴルフ場もあり,東部州の日本人駐在員の憩いの場となっている。時に
は,サウジ人の友人とラウンドするケースもあり,人脈形成の場としても活用可能である。
もっとも,コーズウェイの渋滞が年々ひどくなっており,週末は混雑すると片道3時間
かかるケースがあることから,以前より気軽には行けなくなった印象である。また,バー
レーンでも死者の出る騒乱に発展した,2011年のアラブ諸国の民主化の混乱(いわゆる
「アラブの春」)以降も,死者は出ないながらシーア派による小規模な抗議活動などが頻繁
に発生しており,この点には注意を要する。
バーレーンのゴルフ場…フェアウェイを外すと森ではなく土漠にはまる
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バーレーンには映画館やウォーターパーク等,子供も楽しめるレクリエーション施設も
いくつかある。しかしながら,小さいお子さんのいらっしゃるご家族は,学校や家庭教師,
週末の補習校(後述)等の都合でお子さんも奥様方も意外に多忙で,コーズウェイが混雑
する週末にそう頻繁にバーレーンまで行けるものではないと聞く。
4.リヤドより厳しい教育事情
リヤド・ジェッダ,隣国のバーレーンには,小・中学生向けに日本人学校があるものの,
東部州にはないことから,毎週金曜日に国語と数学の授業を行う補習校が日本人会により
運営されている。主に日本人駐在員や現地人の奥様等が実質ボランティアのような形で教
師となり,支えている状況だ。
平日に通う学校の選択肢は,高額な欧米系インターナショナルスクールが主となるが,
最近は生徒数が受入可能人数を上回り,長く待たされるケースが多く,その間は非欧米系
のインターナショナルスクールに通わざるを得ないようだ。欧米系インターナショナルス
クール入学後も,相応の英語力が求められることから,日ごろの授業に追いつくために英
語の家庭教師を雇わなければならないケースがあり,経済的にも時間的にも負担となる。
バーレーンには日本人学校があることから,教育を理由にいくつかの家族はバーレーン
に住み,駐在員が毎朝夕コーズウェイを渡って出退勤をしているケースもある。特に夕方
はコーズウェイが大変混雑するため,一部の企業は有料のVIPパス(専用レーンの通過が
可能となるため,待ち時間を大幅に短縮できる)を手配している。
5.病院での事前の高額請求に注意
医療事情はリヤドとあまり変わらないが,当地で最も先進的な設備のある高所得者向け
の病院“Saad Specialist Hospital”の診察料金は大変高額である。サウジの医療保険に
はランクがあり,それに従い使える病院が分かれているのだが,同病院の場合は最高レベ
ルのものに加入していなければ保険は適用されない。日本から持参した旅行保険も使えは
するものの,他の日本人渡航者の多い国にあるようなキャッシュレスで済む病院はないの
で,全額現地で支払ったうえでの事後精算となる。サウジの病院は前払いが基本であり,
どんなに緊急でも,また高度医療が必要な場合でも,費用の前払いをしなければ治療をし
てもらえず,病室にも入れてもらえないのが一般的である。このことから,病院に担ぎ込
まれたものの,1日分の ATM 引き落とし額上限を優に超える多額の請求を事前にされる
等,難儀するケースがある。
おわりに 東部州赴任者に必要な生活上のフォロー
バーレーンに隣接しているとはいえ,特にお子さんの小さいご家族連れは上記のとおり
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そう頻繁に行くことも叶わず,女性が運転できない,お祈り時間には店もレストランも閉
店するなどの制約もリヤド同様あることから,特に帯同する家族にとっての生活の不便さ
はリヤドで感じたものと変わらない印象である。敷地の中であれば比較的自由でかつ他の
日本人家族も居住していることから,家族が孤立せずに済む外国人向けコンパウンドまた
はサービスアパートへの居住は必須である。企業によっては家族車の配備や補助(学校等
への送り迎え,買い物等の用途向け),日本食配送制度の整備等の工夫を行っている例も見
られる。
業務も日本とは勝手が大きく異なる。このような中,駐在員やその家族が生活上の問題
を抱えると,ただでさえ困難な業務にも集中できず,生産性が低下する他,体調に支障を
きたすケースもある。東部州には日本の在外公館がないこともあり,日本人駐在員を東部
州に送り込む企業は,相応のサポート体制を検討すべきである。
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