バイエル薬品株式会社 提供 MRI 検査上級者への道 第2回部乳領腺域領編域 編 頭 監修 土井 司(奈良県立奈良病院 中央放射線部) 土橋俊男(日本医科大学付属病院 放射線科) 臨床病院の実際 姫路赤十字病院 放射線科 岩見守人、福田尚也 MR Imaging 乳腺領域における施設の特徴 姫路赤十字病院では、2001年にPHILIPS社製Intera MR Imaging の中で、 乳房温存療法は半数以上を占めている。昨年の手術 Power 1.5Tに加え2003年にIntera Nova 1.5Tを導入し、 2台 数は年間157例で、 乳房温存療法は約6割の100例に増加し のMRI装置で乳腺検査に当たっている。現在、 日本の女性は ている。 25人に1人が乳癌になっており、 死亡数も年々増加している。 ま 放射線科では2001年から現在までに、 約500例の乳腺MRI た、 乳腺領域の治療では、 早期の乳癌に対する乳房温存療 検査を施行した。1ヶ月の平均の乳腺MRI検査は約12件で、 法の重要性が確立され、 注目を浴びている。乳房温存療法は 全てのMRI検査数の3%である。全検査数の割合はまだ多く 施行するにあたり、 腫瘍の大きさ、 個数、 悪性度などを正確に ないが、 これからますます増加すると思われる。 把握する必要がある。特に非浸潤性乳管癌(DCIS) の形態 当科では、 2001年から2006年までは、 腹臥位で検査を行っ と拡がり診断は、 他のモダリティでは病変を検出できない場合 ていた。近年、 仰臥位検査の報告が散見されるようになり4∼6)、 があり、 乳腺MRI検査が画像診断を行う上で重要であると報 2006年より当院でも仰臥位の検査を取り入れるようになった。 わが国の乳腺MRI検査の役割は、 告されている1∼2)。現在、 これまでの仰臥位の乳腺MRI検査数は、 約100例である。本 主に乳癌の存在診断と拡がり診断であるといわれている。 稿では、 現在当院で行っている仰臥位乳腺MRI検査について、 当院の乳癌手術は近畿地方の中で11番目に多く、 2005年 撮像プロトコールや注意点を中心に報告する。乳腺MRI検査 の統計では、 乳房の手術件数は年間146例に達している3)。そ の主な使用装置はPHILIPS社製Intera Nova 1.5Tである。 乳腺領域における臨床検査への取り組み 乳腺MRI検査は乳癌の多発病変や乳管内進展の検出 位より術前の正確な拡がりが評価でき、 診断能が高かったと 能が高いため、 拡がり診断に広く用いられている。撮像体位 報告している6)。 は施設間でばらつきがあり、 統一されていない。時間分解能 当院では2001年当初、 乳腺MRI検査時には乳房専用の と空間分解能はトレードオフの関係にあるため、 高分解能撮 Breast coilを使用し、 腹臥位で検査を行っていた。腹臥位 像を行うと撮像時間が長くなり、 呼吸停止下での撮像は困 にする一番の利点は呼吸の動きを抑制することである。当時 難になる場合がある。従って、 呼吸のアーチファクトが少ない は、 造影前後のT1強調脂肪抑制像(3方向) とサブトラクショ 撮像法が求められる。腹臥位撮像は呼吸のアーチファクトも ン像と腫瘍のダイナミックカーブを診断に役立てていた。 まず、 少なく、 乳房を下垂・伸展させるため評価しやすい画像を撮 単純のT1強調脂肪抑制像( 3方向 ) を撮像し、 その後に 像することができるので、 一般的に腹臥位で検査を行ってい Dynamic studyを7分間撮像する。そして最後に造影剤投 る施設が多い。しかし、近年新しく開発されたparallel 与後のT1強調脂肪抑制像(3方向) も撮像し、 サブトラクショ imaging法により、 撮像時間が大幅に短縮され息止め撮像 ン像を得ていた。サブトラクション像は腫瘍の染まりはよくわか が可能となったことによって、 仰臥位の乳房検査が少しずつ るが、 乳房の辺縁がわかりにくい欠点がある。従って、 乳房と 仰臥位での撮像は、 増加してきている4∼6)。磯本らによれば、 腫瘍の位置関係を把握するため、 造影後のT1強調脂肪抑 腹臥位と比較して乳房厚が薄くなるため、 冠状断撮像にお 制像(3方向) で評価していた。 このため、 全部で7シーケンス けるスライス方向の空間分解能が向上し、 病変の3次元的な 撮像し、 全検査時間は1時間ほどかかっていた。また、 患者 また、 西川ら 拡がりの把握が容易であったと報告している4)。 様が痛みを訴えられることがあり、 途中で休憩を入れたりす は、 仰臥位の検査は、 手術体位とのずれが少ないため、 腹臥 るため検査時間が延長する場合も多々あった。 ( ) バイエル薬品株式会社 提供 2003年に新機種のMRI機器を導入し、 parallel imaging 様を挟んでセッティングする。また、患側の乳房以外をプラ 法を利用して検査を行うようになった。受信器にはSENSE スチックの台やタオルで固定するため、頑丈な固定となる。 Body coilを使用するため、 撮像シーケンスの高速化が可能 このため、呼吸の動きが抑制され、画像は腹臥位と比べて となった。従って、 Breast coilの使用をやめSENSE Body も遜色なかった。撮像方法は、 T1強調像、 T2強調脂肪抑制 coilを腹臥位の体位で使用し、 時間分解能と空間分解能の 像、 THRIVE法に加えて、 新しく拡散強調像(水平断、 冠状 両 方を向 上した 撮 像 方 法を行うようになった 。また 、 断) も取り入れている。全検査時間は30分であり、 患者様が Dynamic studyの撮像ではTHRIVE法を使用し、 アイソトロ 仰臥位をとるため、 スムーズに検査ができるようになった。図1 ピック・ボクセルで撮像することにより、 高分解能撮像が行える に仰臥位の位置決め画像を示す。①から⑥は位置決めのセッ ようになった。そして、 検査後にMPR処理を行い、 3次元で画 ティング画像である。実際は、 患者様に検出器のコードが触 像が評価できるようになった。MIP画像では、 手術時にイメー れないように、 タオル等を間に入れている。 また、 ⑦は実際の ジしやすいようにステレオ画像も作成し、 検査時間も従来の 患者様を撮影した時のT1強調像である。 半分の約30分となった。 しかし、腹臥 位は相変わらず患者様から痛みなど の訴えがあり、検査時間が延長する 場合もあった。 2006年に外科医師より手術体位と 同じ方法で撮像して欲しいと要望が ① ② ③ ⑤ ⑥ ⑦ ④ あり、 放射線科医師と相談し、 仰臥位 でMRI検査を施行するようになった。 検査は、 手術体位と同じで、 患側を少 し上げた半側臥位で検査を行っている。 受信器はFlex L coilとSENSE Body coilの2種類で、 2個ずつのcoilで患者 MR Imaging 図1 仰臥位乳腺MRI検査のセッティング画像 乳腺領域のMRI検査法 乳癌に対する術前MRI検査のプロトコールを表1に示す。 診断は、 ダイナミックカーブのパターン解析をすることで良悪 当院では、 位置決めを行ったあとT1強調像を20秒の息止め 性の鑑別が可能であると報告されていた7)。一般的に乳癌 で撮像している。目的は乳頭の位置確認と腫瘍が胸壁に浸 のダイナミックカーブは、 造影剤を急速静注後急峻に立ち上 潤しているかを確認するためである。 また、 T2強調脂肪抑制 がり、 約90秒後にピークに達し、 その後はプラトーあるいは下 像を呼吸同期で撮像し、 リンパ節の転移等を確認している。 降する。 また、 非浸潤性乳管癌(DCIS) などはピークが遅れ 従って、 T1強調像とT2強調脂肪抑制像は、 胸部全体を撮 る場合があり、 異型を伴った乳腺症との鑑別には注意が必 像している。次に、 患側乳房をターゲッ トにし、 拡散強調像 (DWI) 要である。良性疾患は、 静注より緩やかに信号上昇がみられ、 の水平断と冠状断を撮像している。拡散強調像(DWI) は、 しか 約10分程度までピークを形成しないという報告もある8)。 Dynamic studyで診断が困難な乳腺症の症例を想定し、 し、 最近当院では、 空間分解能を重視したDynamic study 乳 腺 症 内の乳 癌の描 出に利 用している(図 5)。また、 を行っており、 ダイナミックカーブは作成していない。その理由 Dynamic studyは脂肪抑制を併用したTHRIVE法を使用 は、 現在の乳腺検査が質的診断から存在診断と拡がり診断 している。THRIVE法では0.75mmの高分解能の画像が撮 に変化してきたからである。 また、 Dynamic studyの早期相 像できる。実際は、 時間分解能を犠牲にし、 空間分解能とコ は静注後30秒から開始するようにし、 後期相を2分30秒後に ントラストを向 上した 撮 像 法を取り入 れ ている。以 前 撮像している。k-spaceのプロファイルはY(位相)方向は THRIVE法を使用していた時は、 1mmのスライス厚で、 加算 Low-high、 Z(スライス)方向はlinearで、 90秒後にK-space 回数を1回にしていた。今回はFOVとMatrixを変更し、 の中心が埋められるように設定している。そして、 検査終了 0.75mmアイソトロピック・ボクセル、 加算回数2回で1回のスキャ 後に3次元で画像が評価できるように、 MPR処理とMIP処理 ン時間は2分で検査を行っている。かつて、 乳腺腫瘍の質的 を行い、 診断の一助としている。 ( ) バイエル薬品株式会社 提供 バイエル薬品株式会社 提供 MRI検査上級者への道 第2回 乳 腺 領 域 編 表1 ■MRI機種 Intera Nova 1.5T (PHILIPS社製) Basic Information 順番 撮像法 撮像 断面 Time シーケンス 1 T1WI axial 20sec T1-FFE 2 T2WI 3 DWI 4 5 DWI THRIVE axial axial coronal coronal TR TE FA FOV ETL Matrix (msec)(msec) (°) (mm) スライス厚 Gap BandWidth スライス数 (mm) (mm) (Hz/pixel) 160 3.6 70 − 330 256×256 5 1 24 648 TSE 1m30sec 2500 (FATSAT) 100 − 24 380 256×256 7 1.4 24 295 SE-EPI 3000 (FATSAT) 80 SE-EPI 1m30sec 3000 (FATSAT) 80 2m30sec 2m×3 T1-TFE (FATSAT) 1、2:胸部全体の撮像、使用コイルはSENSE Body coil 3∼5:患側乳房の撮像、使用コイルはFlex L coil *:overcontiguous slices使用 7.5 その他 DW AX MPR CR SPIR MIP CR − − 200 128×128 4 0 32 1395 DW CR SPIR、b=1000 MPR SG MPR AX − − 200 128×128 4 0 20 1395 図4 浸潤性乳管癌(硬癌:scirrhous carcinoma) SPIR、b=1000 C領域に約2.3×2.2cmの腫瘤がある (a)。A領域に約0.7×0.7cmの腫瘤がある (e)。D領域に約0.4×0.7cmの良性腫瘤がある (▲)。 2.3 15 − 192 256×256 0.75* 0 100 143 SPIR coronal:患側を前にした半側臥位(手術体位と近似) SENSE reductin factorは1.5∼2.0を使用 Matrixの表示は位相エンコード方向×周波数エンコード方向 DW AX 造影剤の投与方法 MPR CR DW CR MIP CR 仰臥位乳腺検査では、 患者様にFlex L coilとSENSE MPR SG MPR AX Body coilを巻きつけるため、 検査途中でのルートの確保 図5 非浸潤性乳管癌(DCIS) が困難である。そのため、 患者様のポジショニング直後 DB領域で全体的に軽度乳腺組織の造影効果が強く見える (")。D領域では線状∼索状の造影効果やspot状のenhancementが少し強く見える (a)。拡散強調像(DWI) では、 これらの病変を反映した高信号が造影MRI画像より明瞭に見える (a)。腫瘍のADC値は1.06×10−3mm2/secであった。 にルートを確保し、 造影前までは、 生理食塩水でドリップ しておく。そして、 造影直前にDynamic studyの単純 (THRIVE法) を、 約2分間で撮像する。その後、 ガドリニ ウム造影剤15mLを2mL/secで急速注入し、 造影剤と同 Q&A じ量の生理食塩水で後押しする。そして、30秒後に Dynamic studyの早期相を撮像し、 2分30秒後に後期 Q1 相を撮像する。 THRIVE法を使用する上での注意点は? A 図2 乳房ダイナミック撮像のプロトコール THRIVE法はthin sliceの撮像法であり、最近よく使用されるようになってきた。THRIVE法は、呼吸のアーチファクト に弱く、撮像時間が長い場合は、最適化が必要である。後藤らは、腹臥位での乳腺MRI検査の撮像条件について検討し、 フ リップアングルは20° が最適な条件であると報告している9)。浅井らは、上腹部領域のTHRIVE法におけるTFE turbo directionの画像への影響について検討し、TFE turbo directionをZにすることにより、肝臓辺縁のアーチファクトが軽 減できたと報告している10)。TFE turbo directionは、位相エンコードとスライスエンコードの関係を決めるparameter であり、radial、Y、Zの3種類に変更できる。TFE turbo directionをYに選択すると、Z(スライス)方向のエンコードを一 定に保った状態でY(位相)方向のエンコードを全て充填していく。その後、Z方向のエンコードを全て充填することにな MR Imaging る17)。前述のことを考慮し、仰臥位におけるTFE turbo directionの最適化を検討した。今回のTHRIVE法は、撮像方向 症例画像 がcoronal(冠状断)であり、 この点が前述 の報告と違う点である。図6のようにTFE turbo directionをradial、Y、Zと変化させ てアーチファクトがどう変化するか評価した。 結果、TFE turbo directionをY方向にし DW AX MPR CR DW CR a:Z方向 b:radial方向 c:Y方向 た場合に、 アーチファクトが一番少なかった。 図6 TFE turbo directionについて よって、現在はTFE turbo directionをY方 a:Z方向はR-L方向のアーチファクトが出ている。 向にして検査を行っている。 MIP CR b:radial方向はZ方向よりアーチファクトは少ないが、信号が不均一である。 c:Y方向はS/Nもよく、信号も均一である。 MPR SG MPR AX 図3 浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌:papillotubular carcinoma) AC領域に約2.6×2.2cmの不正形な腫瘤がある (a)。E領域にも進展がある (▲)。 ( ) ( ) バイエル薬品株式会社 提供 バイエル薬品株式会社 提供 MRI検査上級者への道 第2回 乳 腺 領 域 編 表1 ■MRI機種 Intera Nova 1.5T (PHILIPS社製) Basic Information 順番 撮像法 撮像 断面 Time シーケンス 1 T1WI axial 20sec T1-FFE 2 T2WI 3 DWI 4 5 DWI THRIVE axial axial coronal coronal TR TE FA FOV ETL Matrix (msec)(msec) (°) (mm) スライス厚 Gap BandWidth スライス数 (mm) (mm) (Hz/pixel) 160 3.6 70 − 330 256×256 5 1 24 648 TSE 1m30sec 2500 (FATSAT) 100 − 24 380 256×256 7 1.4 24 295 SE-EPI 3000 (FATSAT) 80 SE-EPI 1m30sec 3000 (FATSAT) 80 2m30sec 2m×3 T1-TFE (FATSAT) 1、2:胸部全体の撮像、使用コイルはSENSE Body coil 3∼5:患側乳房の撮像、使用コイルはFlex L coil *:overcontiguous slices使用 7.5 その他 DW AX MPR CR SPIR MIP CR − − 200 128×128 4 0 32 1395 DW CR SPIR、b=1000 MPR SG MPR AX − − 200 128×128 4 0 20 1395 図4 浸潤性乳管癌(硬癌:scirrhous carcinoma) SPIR、b=1000 C領域に約2.3×2.2cmの腫瘤がある (a)。A領域に約0.7×0.7cmの腫瘤がある (e)。D領域に約0.4×0.7cmの良性腫瘤がある (▲)。 2.3 15 − 192 256×256 0.75* 0 100 143 SPIR coronal:患側を前にした半側臥位(手術体位と近似) SENSE reductin factorは1.5∼2.0を使用 Matrixの表示は位相エンコード方向×周波数エンコード方向 DW AX 造影剤の投与方法 MPR CR DW CR MIP CR 仰臥位乳腺検査では、 患者様にFlex L coilとSENSE MPR SG MPR AX Body coilを巻きつけるため、 検査途中でのルートの確保 図5 非浸潤性乳管癌(DCIS) が困難である。そのため、 患者様のポジショニング直後 DB領域で全体的に軽度乳腺組織の造影効果が強く見える (")。D領域では線状∼索状の造影効果やspot状のenhancementが少し強く見える (a)。拡散強調像(DWI) では、 これらの病変を反映した高信号が造影MRI画像より明瞭に見える (a)。腫瘍のADC値は1.06×10−3mm2/secであった。 にルートを確保し、 造影前までは、 生理食塩水でドリップ しておく。そして、 造影直前にDynamic studyの単純 (THRIVE法) を、 約2分間で撮像する。その後、 ガドリニ ウム造影剤15mLを2mL/secで急速注入し、 造影剤と同 Q&A じ量の生理食塩水で後押しする。そして、30秒後に Dynamic studyの早期相を撮像し、 2分30秒後に後期 Q1 相を撮像する。 THRIVE法を使用する上での注意点は? A 図2 乳房ダイナミック撮像のプロトコール THRIVE法はthin sliceの撮像法であり、最近よく使用されるようになってきた。THRIVE法は、呼吸のアーチファクト に弱く、撮像時間が長い場合は、最適化が必要である。後藤らは、腹臥位での乳腺MRI検査の撮像条件について検討し、 フ リップアングルは20° が最適な条件であると報告している9)。浅井らは、上腹部領域のTHRIVE法におけるTFE turbo directionの画像への影響について検討し、TFE turbo directionをZにすることにより、肝臓辺縁のアーチファクトが軽 減できたと報告している10)。TFE turbo directionは、位相エンコードとスライスエンコードの関係を決めるparameter であり、radial、Y、Zの3種類に変更できる。TFE turbo directionをYに選択すると、Z(スライス)方向のエンコードを一 定に保った状態でY(位相)方向のエンコードを全て充填していく。その後、Z方向のエンコードを全て充填することにな MR Imaging る17)。前述のことを考慮し、仰臥位におけるTFE turbo directionの最適化を検討した。今回のTHRIVE法は、撮像方向 症例画像 がcoronal(冠状断)であり、 この点が前述 の報告と違う点である。図6のようにTFE turbo directionをradial、Y、Zと変化させ てアーチファクトがどう変化するか評価した。 結果、TFE turbo directionをY方向にし DW AX MPR CR DW CR a:Z方向 b:radial方向 c:Y方向 た場合に、 アーチファクトが一番少なかった。 図6 TFE turbo directionについて よって、現在はTFE turbo directionをY方 a:Z方向はR-L方向のアーチファクトが出ている。 向にして検査を行っている。 MIP CR b:radial方向はZ方向よりアーチファクトは少ないが、信号が不均一である。 c:Y方向はS/Nもよく、信号も均一である。 MPR SG MPR AX 図3 浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌:papillotubular carcinoma) AC領域に約2.6×2.2cmの不正形な腫瘤がある (a)。E領域にも進展がある (▲)。 ( ) ( ) バイエル薬品株式会社 提供 バイエル薬品株式会社 提供 MRI検査上級者への道 第2回 乳 腺 領 域 編 Q&A Q2 用語解説 SENSE Body coil なぜ拡散強調像(DWI)シーケンスを撮像するか? A Synergy coil(phased array coil)の一種であり、SENSEに対応できるコイルをSENSE coilという。複数のコイル素子(エレメン ト)を用いて信号を同時に受信するコイルのことである。 近年、躯幹部悪性腫瘍に対する拡散強調像の適応が急速にひろがっている。乳腺領域でも同様に、多くの施設で使用さ れるようになってきた。乳腺のMRI診断では、乳腺症と非浸潤性乳管癌(DCIS)の鑑別が困難な場合がある。一部の乳 腺症は、Gd-DTPA造影剤投与により造影効果を示す。また、癌の乳管内成分は浸潤部分ほど明瞭には造影効果を示さな い。このため乳腺症の鑑別は、Dynamic studyでも困難な場合がある。このような症例の場合に拡散強調像を利用す ると、乳癌組織がMPGパルスによる信号低下を招かず鑑別が容易になる(図5)。実際は、b-factorをだんだん大きくし ていくと正常の乳腺組織の信号が低下し背景の雑音に紛れ込んでいく。b-factor=1000程度になると、大部分の正常 THRIVE法 T1-high resolusion isotropic volume excitationの略で、iso-voxelを基本とした脂肪抑制3D T1-TFEシーケンスである。isovoxelであるため、MPRやMIPによって、撮像時と異なる断面の再構成を行っても、同じ空間分解能を保つことができる11)。従来はRadial orderで撮り、撮像時間の短縮や空間分解能、S/Nの向上を図っていたが、近年は、TFE profile orderをYやZに変化させて撮像している施 設もある。 乳腺の信号は低下し、乳癌のみ描出される。 TFE turbo direction(Y、Z、Radial) TFEの3D撮像時において、k-spaceを充填する順序である。Radial方向ではk-spaceの中心付近から放射状に充填する11)。Y方向にす Q3 るとZ(スライス)方向のエンコードを一定に保った状態でY(位相)方向のエンコードを全て充填する。その後、Z方向のエンコードを変化し 拡散強調像(DWI)の注意点は? A て同じことを繰り返す17)。Z方向は前述のYとZを入れ替えて考えると良い17)。 仰臥位検査では、Flex L coilとSENSE Body coilの2種類の受信器を使用するため、検査前にどちらのcoilを使用し て検査をするのかを考慮しなければならない。通常は、Flex L coilの方がSENSE Body coilよりcoilの信号強度が高 い。しかし、parallel imagingの感度補正は4ch SENSE Body coilの方が2ch Flex L coilよりよい。そこで、今回2種 類の検出器を使ったMRI画像を比較検討し 拡散強調像(DWI) 水分子のミクロレベルでのランダムな動き、すなわちブラウン運動を信号変化とした強調画像である。MPGを印加する強さをb-factor (b値)といい、単位はsec/mm2で表す11)。乳癌を効率よく描出するためには、乳癌と周囲乳腺との間で十分なコントラストを保ちつつ、周 囲の脂肪を背景ノイズと同程度に低下させる必要がある。通常の症例では、b値は1000 sec/mm2近傍が推奨される。 た(図7)。結果は、Flex L coilの方が胸壁 側のアーチファクトはでるものの、信号強度 ADC値(apparent diffusion coefficient:みかけの拡散係数) が均一でノイズが少ない画像が得られた。 ADC値は、単位時間当たりに拡散する面積で表し、単位は10−3mm2/secである。ADCの分布を表したものがADC mapである。中嶋ら これらの結果から、検査時には、Flex L coil はADC値の良悪性のcut-off値を1.7×10−3mm2/secとしてsensitivity 90%、specificity 83%、accuarcy 88%という結果を得て を利用し、 拡散強調像(DWI)を撮像している。 a:Body coil エンコード方向R-L b:Body coil エンコード方向A-P c:Flex L coilエンコード方向A-P しかし、腫瘍とアーチファクトのでる部位が 図7 拡散強調像の信号強度 いる16)。 a:乳房の先端部に信号むらがあり、中心にもラインのアーチファクトがでている。 重なった場合は、エンコード方向を変更する b:胸壁側の乳房内にアーチファクトがでており、乳房全体のS/Nも悪い。 c:胸壁側にアーチファクトがでているが、Body coilに比べS/Nが良い。 必要がある。 Q4 仰臥位検査での注意点は? A 仰臥位検査では、前述の如くFlex L coilとSENSE Body coilの2種類の受信器を使用する。まず固定時に注意する ことは、患側乳房を押しつぶさないようにプラスチックの台を使う点。そして、患側の上腕をくの字に曲げてプラスチック の台が当たらないようにすることである。また、手術と同じ体位をとるために患側乳房の下にスポンジを入れ、半側臥位 にセッティングしなければならない。あとは患者様の乳房の大きさに応じてスポンジの高さを調整すればよい。また、熱傷 の危険性があるので、検出器のコードが巻きつかないようにも注意する必要がある。仰臥位検査は、患者様の体の負担が 少し軽減するため、腹臥位検査より苦痛も少なく好評である(図1)。 ( ) <文献> 1)大内憲明ほか: 非浸潤性乳管癌 放射線科医師に直面する課題と展望. 臨床放射線 48(7): 803-809, 2003 2)五十嵐隆朗ほか: 乳癌画像診断の実際 CT診断. 画像診断 25(10):12511256, 2005 3)週刊朝日臨時増刊 手術数でわかるいい病院 2007 全国&地方別ランキ ング. 128, 朝日新聞社, 東京, 2007 4)磯本一郎: 仰臥位MR mammographyの診断の実際. Rad Fan 5(2): 22-24, 2007 5)前田茂人: 仰臥位MR mammographyの臨床応用. Rad Fan 5(2): 25-27, 2007 6)西川数幸ほか: parallel imagingを用いた仰臥位MR mammography の検討. 日本磁気共鳴医学会誌 24(1): 34-39, 2004 7)Heywang-Koebrunner SH et al: Contrast Enhanced MRI of the Breast. Berlin, Germany: Springer, 1995 8)打越将人: MRマンモグラフィの現状と将来展望. 日本放射線技術学会 近畿部会雑誌 13(1): 50-53, 2007 9)後藤眞理子ほか: 乳腺dynamic MRIにおけるTHRIVEの適正化と臨床 応用. 第34回日本磁気共鳴学会誌抄録集: 322 10)浅井竜一ほか: 3D T1 TFE(THRIVE)におけるTFE turbo direction の画像への影響. 第34回日本磁気共鳴学会誌抄録集: 167 11)扇 和之ほか:MRIデータブック. 257, 258, 304, メジカルビュー社, 東 京, 2006 12)磯本一郎ほか: MR mammographyの現況. 臨床画像 21(10): 10721083, 2005 13)西川数幸ほか: MR mammographyにおける3D-VIBEの至適撮像条 件. 日本磁気共鳴医学会誌 23(3): 92-97, 2003 14)黒木嘉典ほか: 拡散強調画像の新展開 乳癌への臨床応用. 画像診 断 25(6): 723-728, 2005 15)那須克宏ほか: 肝臓、直腸、乳腺のdiffusion-weighted MR imaging DWIを癌の診断に導入する目的とは? 日本磁気共鳴医学会誌 25(4): 229-245, 2005 16)中嶋美佳ほか: 乳癌画像診断の実際 MRI診断. 画像診断 25(10):12451250,2005 17)土橋俊男ほか: 3T装置を用いたTHRIVEの初期経験. Rad Fan 5(6): 57-60, 2007 ( ) バイエル薬品株式会社 提供 バイエル薬品株式会社 提供 MRI検査上級者への道 第2回 乳 腺 領 域 編 Q&A Q2 用語解説 SENSE Body coil なぜ拡散強調像(DWI)シーケンスを撮像するか? A Synergy coil(phased array coil)の一種であり、SENSEに対応できるコイルをSENSE coilという。複数のコイル素子(エレメン ト)を用いて信号を同時に受信するコイルのことである。 近年、躯幹部悪性腫瘍に対する拡散強調像の適応が急速にひろがっている。乳腺領域でも同様に、多くの施設で使用さ れるようになってきた。乳腺のMRI診断では、乳腺症と非浸潤性乳管癌(DCIS)の鑑別が困難な場合がある。一部の乳 腺症は、Gd-DTPA造影剤投与により造影効果を示す。また、癌の乳管内成分は浸潤部分ほど明瞭には造影効果を示さな い。このため乳腺症の鑑別は、Dynamic studyでも困難な場合がある。このような症例の場合に拡散強調像を利用す ると、乳癌組織がMPGパルスによる信号低下を招かず鑑別が容易になる(図5)。実際は、b-factorをだんだん大きくし ていくと正常の乳腺組織の信号が低下し背景の雑音に紛れ込んでいく。b-factor=1000程度になると、大部分の正常 THRIVE法 T1-high resolusion isotropic volume excitationの略で、iso-voxelを基本とした脂肪抑制3D T1-TFEシーケンスである。isovoxelであるため、MPRやMIPによって、撮像時と異なる断面の再構成を行っても、同じ空間分解能を保つことができる11)。従来はRadial orderで撮り、撮像時間の短縮や空間分解能、S/Nの向上を図っていたが、近年は、TFE profile orderをYやZに変化させて撮像している施 設もある。 乳腺の信号は低下し、乳癌のみ描出される。 TFE turbo direction(Y、Z、Radial) TFEの3D撮像時において、k-spaceを充填する順序である。Radial方向ではk-spaceの中心付近から放射状に充填する11)。Y方向にす Q3 るとZ(スライス)方向のエンコードを一定に保った状態でY(位相)方向のエンコードを全て充填する。その後、Z方向のエンコードを変化し 拡散強調像(DWI)の注意点は? A て同じことを繰り返す17)。Z方向は前述のYとZを入れ替えて考えると良い17)。 仰臥位検査では、Flex L coilとSENSE Body coilの2種類の受信器を使用するため、検査前にどちらのcoilを使用し て検査をするのかを考慮しなければならない。通常は、Flex L coilの方がSENSE Body coilよりcoilの信号強度が高 い。しかし、parallel imagingの感度補正は4ch SENSE Body coilの方が2ch Flex L coilよりよい。そこで、今回2種 類の検出器を使ったMRI画像を比較検討し 拡散強調像(DWI) 水分子のミクロレベルでのランダムな動き、すなわちブラウン運動を信号変化とした強調画像である。MPGを印加する強さをb-factor (b値)といい、単位はsec/mm2で表す11)。乳癌を効率よく描出するためには、乳癌と周囲乳腺との間で十分なコントラストを保ちつつ、周 囲の脂肪を背景ノイズと同程度に低下させる必要がある。通常の症例では、b値は1000 sec/mm2近傍が推奨される。 た(図7)。結果は、Flex L coilの方が胸壁 側のアーチファクトはでるものの、信号強度 ADC値(apparent diffusion coefficient:みかけの拡散係数) が均一でノイズが少ない画像が得られた。 ADC値は、単位時間当たりに拡散する面積で表し、単位は10−3mm2/secである。ADCの分布を表したものがADC mapである。中嶋ら これらの結果から、検査時には、Flex L coil はADC値の良悪性のcut-off値を1.7×10−3mm2/secとしてsensitivity 90%、specificity 83%、accuarcy 88%という結果を得て を利用し、 拡散強調像(DWI)を撮像している。 a:Body coil エンコード方向R-L b:Body coil エンコード方向A-P c:Flex L coilエンコード方向A-P しかし、腫瘍とアーチファクトのでる部位が 図7 拡散強調像の信号強度 いる16)。 a:乳房の先端部に信号むらがあり、中心にもラインのアーチファクトがでている。 重なった場合は、エンコード方向を変更する b:胸壁側の乳房内にアーチファクトがでており、乳房全体のS/Nも悪い。 c:胸壁側にアーチファクトがでているが、Body coilに比べS/Nが良い。 必要がある。 Q4 仰臥位検査での注意点は? A 仰臥位検査では、前述の如くFlex L coilとSENSE Body coilの2種類の受信器を使用する。まず固定時に注意する ことは、患側乳房を押しつぶさないようにプラスチックの台を使う点。そして、患側の上腕をくの字に曲げてプラスチック の台が当たらないようにすることである。また、手術と同じ体位をとるために患側乳房の下にスポンジを入れ、半側臥位 にセッティングしなければならない。あとは患者様の乳房の大きさに応じてスポンジの高さを調整すればよい。また、熱傷 の危険性があるので、検出器のコードが巻きつかないようにも注意する必要がある。仰臥位検査は、患者様の体の負担が 少し軽減するため、腹臥位検査より苦痛も少なく好評である(図1)。 ( ) <文献> 1)大内憲明ほか: 非浸潤性乳管癌 放射線科医師に直面する課題と展望. 臨床放射線 48(7): 803-809, 2003 2)五十嵐隆朗ほか: 乳癌画像診断の実際 CT診断. 画像診断 25(10):12511256, 2005 3)週刊朝日臨時増刊 手術数でわかるいい病院 2007 全国&地方別ランキ ング. 128, 朝日新聞社, 東京, 2007 4)磯本一郎: 仰臥位MR mammographyの診断の実際. Rad Fan 5(2): 22-24, 2007 5)前田茂人: 仰臥位MR mammographyの臨床応用. Rad Fan 5(2): 25-27, 2007 6)西川数幸ほか: parallel imagingを用いた仰臥位MR mammography の検討. 日本磁気共鳴医学会誌 24(1): 34-39, 2004 7)Heywang-Koebrunner SH et al: Contrast Enhanced MRI of the Breast. Berlin, Germany: Springer, 1995 8)打越将人: MRマンモグラフィの現状と将来展望. 日本放射線技術学会 近畿部会雑誌 13(1): 50-53, 2007 9)後藤眞理子ほか: 乳腺dynamic MRIにおけるTHRIVEの適正化と臨床 応用. 第34回日本磁気共鳴学会誌抄録集: 322 10)浅井竜一ほか: 3D T1 TFE(THRIVE)におけるTFE turbo direction の画像への影響. 第34回日本磁気共鳴学会誌抄録集: 167 11)扇 和之ほか:MRIデータブック. 257, 258, 304, メジカルビュー社, 東 京, 2006 12)磯本一郎ほか: MR mammographyの現況. 臨床画像 21(10): 10721083, 2005 13)西川数幸ほか: MR mammographyにおける3D-VIBEの至適撮像条 件. 日本磁気共鳴医学会誌 23(3): 92-97, 2003 14)黒木嘉典ほか: 拡散強調画像の新展開 乳癌への臨床応用. 画像診 断 25(6): 723-728, 2005 15)那須克宏ほか: 肝臓、直腸、乳腺のdiffusion-weighted MR imaging DWIを癌の診断に導入する目的とは? 日本磁気共鳴医学会誌 25(4): 229-245, 2005 16)中嶋美佳ほか: 乳癌画像診断の実際 MRI診断. 画像診断 25(10):12451250,2005 17)土橋俊男ほか: 3T装置を用いたTHRIVEの初期経験. Rad Fan 5(6): 57-60, 2007 ( )
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