ISSN 0389-5254 2010 No.1 JAN JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION 操縦士協会のめざすもの (第204回理事会決議) 1. 私達の活動の目的は、 定款に定められた通り 「航空技術の向上を図り、 航空の安全確保 につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い、 もって我が国航空の健全な発展を促 進する」 ことです。 2. 私達は、 定款の目的を踏まえ、 将来のあるべき姿として 「安全で誰からも信頼され、 愛 される航空を実現する」 というビジョンを描いています。 3. 私達は、 目的・ビジョンを達成するために下記を基本的指針に掲げて活動して行きます。 航空の安全文化を構築する。 (組織と個人が安全を最優先する気風や習慣を育て、 社会全体で安全意識を高めて行くこと) 地球環境と航空の発展との調和を図る。 航空に携わるものどうしが心を通わせ共存共栄を図る。 第45期 (平成21年度) 重点施策 本協会は、 航空の安全に資する事業を推進し、 航空関係者の知識と能力を育み、 もっ て空の安全と技術向上を目指し、 操縦士の社会貢献を担うと共にその促進を図ります。 また、 諸事業を通じ、 社会とりわけ航空に関心を持つ方々に直接働きかけ、 航空との 出会いと触れ合いの場を提供し、 航空に対する興味と期待に応えていきます。 特に青少 年へは、 社会教育の一部を補完する意味で、 航空という新たな世界を紹介し、 健全な成 長を応援します。 操縦士が技能育成の場を容易に持てる環境を整えます。 訓練用の機材を協会事務所に 確保し、 経験豊富な操縦士が教育にあたります。 これらを通じて技術指導の充実及び資 格の維持に貢献し、 技術者としての雇用安定にも寄与していきます。 ・教育・啓蒙事業 ・改善への貢献 ・技術支援 ・操縦士の風土作り ・適切な事業展開と運営 ・人の和と連帯感の促進 操縦士協会は会員を募集しています。 JAPAは公益法人として国土交通大臣の認可を受けた日本唯一の操縦士団体です。 目的 本協会は、 航空技術の向上を図り、 航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を 行い、 もってわが国航空の健全な発展を促進することを目的とする。 協会の会員は、 下記のように分かれます。 正 会 員;協会の目的に賛同して入会された方で、 原則として操縦士技能証明をお持ちの方です。 賛助会員;協会の事業を賛助するため入会した個人または法人です。 個人賛助会員は、 満16歳以上の操 縦士技能証明を持たない方で、 法人賛助会員の資格は、 特に定めはありません。 正会員の会費;60歳未満:月額 1,700円 (内訳1,500円:協会運営費、 200円:共済費) 60歳以上:月額 1,500円:協会運営費 個人賛助会員; 月額 1,500円:協会運営費 法人賛助会員: 一口年額 50,000円:協会運営費 入会すると? ①協会機関誌 (AIM・PILOT誌など) の無償入手 ②航空関連商品 (書籍等) の割引購入 ③会員向け、 空港施設見学や講習会への参加 ④協会契約割引施設の利用 お申し込みは別途 「入会申込書」 をお送り致しますので、 事務局までご連絡下さい。 皆様のご入会をお待ち致しております! 社団法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOSIATION TEL03-3501-0433 FAX03-3501-0435 E-Mail [email protected] Home page URL http://www.japa.or.jp/ CONTENTS No.318 4 2010 No.1 JAN 新年のご挨拶 80 会長 6 萩尾 裕康 GA:ジェネアビ情報 FAI ラリー飛行競技 奥貫 博 上村 誠 野田 国籍不明機接近中、 迎撃機緊急発進せよ 塩安 昭洋 年頭の辞 国土交通省航空局長 前田 隆平 86 特別寄稿 ヘリコプターの活用 8 その2 若田光一宇宙飛行士による講演 国際宇宙ステーション長期滞在報告 セーフティフォーラム2009 90 寄稿 沖縄の空から 16 航空気象 中層雲底乱気流(2) 航空気象委員会 26 特集 94 シニア・パイロットのエピソード (第29回) 飛行機の流儀・作法 T-6, F-86から C-1, F-15まで 利渉 弘章 33 ハートで飛ばそう! 東京国際航空宇宙産業展2009 奥貫 96 40 鐘尾みや子 100 FAI ニュース 102 105 ダイエット 航空医学委員会 42 その33. 米国のエアレース百年史 49 忠成 安全の分水領 118 アクシデント・インシデント・ブリーフス 56 博 大塚 敬久 「ENRI」 見学報告 開催報告 副操縦士昇格直後から始まる機長への道 曲技飛行競技会 (試行) 第4回 航空気象シンポジウム 第100回を記念して【Yes I Can 夢は叶う】 西日本支部だより 航空史曼陀羅 徳田 奥貫 博行 航空医学適性のQ&A 健康管理について考えてみよう! 第9回 博 FAI・CIVA ミーティング参加報告 Fly with Airmanship ! −5− 山 佳樹 開催予告 第7回 第31回 ATS シンポジウム 小型航空機セーフティセミナー開催案内 119 沖縄支部 活動報告 121 JAPA 通信 123 JAPA SHOP 124 FTD 訓練室便り 管制方式基準改正の要点 60 アメリカの GA 航空事情 第4回 64 飛行訓練および操縦資格取得要領 脇田 Aviation Cafe 連載・飛行力学物語 祐三 FTD 訓練室 その5 柴田 眞 Rotation!空中に飛び出す最初の重要な Maneuver! 蔵岡 賢治 77 126 JAPA Aerial Photo Exhibition 128 編集後記 「エネルギー持続性フォーラム」 第4回公開シンポジウム出席報告 2 岩瀬 健祐 社団 法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION 新年のご挨拶 社団法人 日本航空機操縦士協会会長 萩 新年明けましておめでとうございます。 皆様には良き新年をお迎えになられたことと お慶び申しあげます。 交通機関の常ではありますが、 年末年始にも 変わることなく業務を全うされている皆様にあ らためてご慰労を申しあげたいと思います。 また旧年中、 当協会に対して賜りました数々 のご支援に対しまして、 会員の皆様はじめご協 力頂いた多くの皆様にあらためて厚く御礼申し あげる次第です。 さて昨年の経済界は、 当初の予測を上回る大 変厳しい状況に終始し、 国民生活に多大な影響 を及ぼしました。 中でも航空業界の受けた打撃 はまさに未曾有というべきものでした。 そして復調の兆しはあるのかないのか未だ見 えず、 世上はなお停滞感に包まれたまま年を越 すこととなりました。 今年頂いた賀状には、 このようなときにこそ 安全運航に徹しなければ、 という趣旨の言葉が 多く書き添えられていました。 社会の荒波を受 けつつも操縦士の本分への強い意識が痛いほど 伝わってきた次第です。 ところでわが協会の運営は、 エアラインや使 用事業、 官公庁、 あるいは自家用の世界の中か ら参集してくれているパイロットに加え OB た ちによる活動に支えられていることはご存知の 通りです。 社団法人である以上、 会長とか理事とかいう 堅苦しい肩書きが付かないわけにいきませんが、 実態は活動の実質的遂行者であり常勤の事務局 と協力して業務が進められています。 専門委員 4 2010 JAN 尾 裕 康 の方も含めこれらはすべてボランティア活動に よっていて、 各人が多忙の中時間を割いて協会 に集り、 委員会活動を進めてくれていることを 是非多くの方に知っていただきたいと思います。 たとえば、 この 「PILOT」 誌は、 編集委員 会による隔月年6回発行の労作です。 会員以外 の一般の読者も増えてきているのは、 会報レベ ルにとどまらぬ内容が認められてきたわけで大 変喜ばしいことです。 そして今のような経済的閉塞感に満ちたとき にこそ、 「航空の発展のために」 という純粋に して単純なモチベーションで集うことに意義が あるのではないでしょうか。 わが協会は定款を引き合いに出すまでもなく、 この意義に結集してこれからも元気に活動して 参りたいと思います。 従来にも増して、 会員の 皆さんの積極的な参加、 ご支援をお願いいたし ます。 さて協会は創立来54年目の新たな年を迎え、 あらためて新たなアイデアを実施に移して新時 代への対応を図ろうとしているところです。 そ のうちのいくつかをご紹介します。 幾度かこのコラムでご報告をいたしましたが、 新公益法人制度への対応については先般内閣府 公益認定等委員会の事前ヒアリングを受けるな ど、 申請への最終段階に来ています。 それこそ官僚の天下りもなければ、 理事役員 はすべて無給非常勤で運営しているような団体 であること、 そもそも目的が航空の発展という 公益であることなど、 公益法人としての資格を 満たすのに何の障害もないはずですが、 個々の 事業毎に細かく審査される実際のハードルは想 像以上に高いことで対応に時間を要しています。 公益イコール不特定多数への利益、 というこ とは、 即ち会員以外の一般への働きかけがキー になるということです。 もとよりわが協会が社 会との関わりを強めることは私たちに果された 使命でもあります。 この認定を受けることはこ の1, 2年の間で最も大きな達成課題となるこ とでしょう。 会員増強については、 昨年は準会員制度の適 用拡大をはかるため、 エアラインや大学にお願 いして回るとともに、 終身会員についても要件 を緩和するなどして長く横這いだった総数が久 しぶりに増加に転じて来ました。 しかし世の中 の少子高齢化の傾向は強まる一方であり、 若者 の意識も変わってきている今、 今後の拡大は容 易ではないだろうと考えられます。 新会員の入 会については、 皆様の一人一人の力に頼らざる を得ず、 引き続きご尽力をお願い致したいと思 います。 従来の FTD を、 多機種に対応できる新しい シミュレーターに替え、 ブリーフィングルーム も備えた専用ルームに設置しました。 1月中に は航空局の認定を受け直ちに稼動に移るスケジュー ルになっています。 B777 やバロン、 双発や単 発など自在に形態を変更でき、 ビジュアルもリ アルで皆様の計器飛行訓練やご家族友人の体験 にも有用と思います。 近い将来要求されることになる自家用操縦士 の技量維持要件に対応できるよう、 いち早く導 入したものです。 どうぞ気軽に利用してみてく ださい。 日本航空機操縦士協会は会員の皆様の協会で す。 皆様の会費と、 出版事業等による多少の収 益がすべての事業の財源となります。 今年もそ の中で出来るだけの効果をあげられるような事 業運営に努めたいと考えています。 会員の皆様の率直なご意見をお待ちしており ます。 終わりに、 本年が皆様にとって幸多き年であ りますよう、 また航空業界に一陽来復の日の早 からんことを祈念して新年のご挨拶といたしま す。 2010 JAN 5 年 頭 の 辞 国土交通省航空局長 前 田 平成22年の新春を迎えるにあたり、 一言新年 のご挨拶を申し上げます。 今年は、 これまで進めてまいりました首都圏 空港の整備が大きな成果となって現れる、 航空 関係にとって節目の年であります。 まず羽田空港につきましては、 首都圏をめぐ る内外の旺盛な航空需要に対応するため、 再拡 張事業を推進してまいりましたが、 新設滑走路 の整備の進捗状況は概ね九割を超え、 本年10月 には予定どおり供用開始されることとなってお ります。 これに伴い、 PFI 手法による国際線ター ミナル地区の整備を着実に推進するとともに、 首都圏空港の24時間化に向けて、 深夜早朝も含 めた空港サービスの高度化、 空港アクセスの充 実に取り組んでまいります。 また、 C滑走路延 伸事業を着実に進めるほか、 誘導路・エプロン の新設など機能向上もあわせて行ってまいりま す。 成田空港につきましては、 我が国最大の国 際空港としてその機能の一層の向上のため、 昨 年10月22日に平行滑走路の2500メートル化が達 成され、 大型機の就航が可能になりました。 昨 年12月末には国及び成田国際空港株式会社から 年間発着容量30万回に向けた飛行コース及び騒 音コンターが地元自治体に提示されたところで あり、 今後も、 更なる容量拡大に向けて地元自 治体との協議を進めてまいります。 関西3空港問題につきましては、 関西国際空 港の国際競争力の強化を図る上で必須の課題で あることから、 その抜本的解決に向けて、 早急 に検討を進める所存です。 6 2010 JAN 隆 平 中部国際空港につきましては、 本年2月に開 港5周年を迎えることから、 これを節目に、 よ り一層、 需要拡大・利用促進に向けて取り組み を進めてまいります。 空港整備のあり方を含めた航空分野の課題に つきましては、 国土交通省の成長戦略会議にお いて検討を行っていくこととなっており、 本年 5月を目処に取りまとめを行う予定です。 また、 昨年4月のカナダに続き、 12月には長 年懸案となっていたアメリカとの間でオープン スカイに合意いたしました。 これでオープンス カイに合意した国は合計九か国・地域となり、 我が国の国際航空も自由な枠組みが確立されつ つありますが、 今後もこの方針に基づいて、 各 国・地域と着実に交渉を進めることとしており ます。 我が国がオープンスカイ政策を進める上 での重要課題である首都圏空港の国際航空機能 の拡充につきましては、 今年、 羽田空港は昼間 時間帯に約3万回、 深夜早朝時間帯に約3万回 (合計約6万回)、 成田空港は約2万回の合計約 8万回の国際定期便が実現いたします。 これに 向けて、 昨年は精力的に航空交渉に取り組み、 これまでに成田空港については21か国との間で 新規路線の開設及び増便に、 羽田空港について は11か国との間で国際定期便の開設について合 意いたしました。 今後も、 首都圏空港の国際航 空機能の最大化を実現するため、 羽田空港の国 際拠点空港化、 成田空港の更なる容量拡大に取 り組みつつ、 両空港の一体的活用を推進してま いります。 航空運送事業を取り巻く環境につきましては、 世界的な景気後退の影響を受けて航空需要が大 幅に落ち込むなど、 非常に厳しいものがあり、 これに対応するため、 各社とも様々な経営改善 策に取り組んでいるところです。 特に、 日本航 空においては、 世界同時不況の影響により国際 線を中心に航空需要が著しく減退し、 昨年4月 以降は新型インフルエンザの影響も加わって、 非常に厳しい経営状況に置かれています。 日本 航空は、 昨年10月には企業再生支援機構に支援 の検討を申し入れる等、 抜本的な再建に取り組 んでいるところであり、 国土交通省としても確 実に再建が図られるよう指導、 監督していく所 存です。 このように厳しい状況の下にあります が、 複数の航空会社による積極的な競争環境の 確保を通じて、 航空ネットワークの充実、 利用 者利便の増進を図るため、 今後も引き続き、 我 が国航空市場の動向を注視し、 航空サービスの 一層の向上と航空会社の経営基盤の強化に資す るための施策に精力的に取り組んでまいります。 航空の安全につきましては、 事故の件数は減 少傾向にあるものの、 昨年3月には成田空港に おいてフェデラルエクスプレス貨物機の着陸失 敗炎上事故が発生する等、 依然航空機による事 故は発生しております。 安全の確保は航空行政 の最重要課題であることから、 我が国航空会社 の安全管理体制の強化や安全監査等の実施によ る予防的安全対策を推進するほか、 外国航空機 に対する安全対策も強化してまいります。 また、 国産旅客機開発プロジェクトにつきましては、 平成26年第一四半期の初号機納入に向け、 現在 設計が進められているところですが、 製造国政 府として、 その安全性を確保するため、 型式証 明の審査を着実に実施してまいります。 羽田空港の再拡張事業や成田空港の北伸事業 に伴う首都圏の航空交通量の増大への対応につ きましては、 本年1月より羽田空港の新管制塔 の供用を開始するとともに、 成田と羽田のター ミナル空域を統合するなど、 管制処理能力を向 上させるために首都圏空域の再編を行ってまい ります。 また、 米軍が進入管制業務を実施して いる嘉手納ラプコンにつきましては、 民間航空 機の運航の効率性・利便性の向上を図るため、 本年3月末までに日本への移管を完了すべく、 米軍との調整を着実に実施してまいります。 一般空港等につきましては、 既存空港の機能 を保持するための更新・改良を着実に実施する とともに、 那覇・福岡空港における抜本的な空 港能力向上のための検討を進めてまいります。 加えて、 空港と周辺地域との調和ある発展を図 るため、 引き続き必要な騒音対策を実施してい くとともに、 空港利用者の利便向上につながる 取組の支援等も行ってまいります。 航空保安対策につきましては、 米国同時多発 テロ事件以降も平成18年の英国発米国行の航空 機を標的とした航空機爆破テロ未遂事件、 平成 20年9月の独空港等への爆弾テロ未遂事案等が 発生するなど、 航空保安を巡る情勢は依然とし て深刻なことから、 ICAO や各国とも協調しな がら、 航空関係者等と連携して航空保安対策に 取り組んでまいります。 本年は日本で初めて動力機飛行に成功してか らちょうど百年目にあたります。 今後も関係者 のご協力をいただきながら、 航空に対する関心 を高めていただけるよう取り組んでまいります。 以上、 最後になりましたが、 私ども航空局と いたしましては、 安全・安心のための取り組み をさらに強化し、 より一層質の高い航空輸送サー ビスの実現を目指して、 様々な施策の推進に最 善の努力を尽くす所存でありますので、 ここに 改めて皆様のご理解とご協力をお願いし、 あわ せて日々の航空の安全と発展を祈念いたしまし て、 年頭のご挨拶といたします。 2010 JAN 7 若田光一宇宙飛行士による講演 「国際宇宙ステーション 長期滞在報告」 「セーフティフォーラム2009」 @法政大学 市ヶ谷キャンパス 明けましておめでとうございます。 フォーラムに出席し入手した資料、 および講演で上映さ れた動画およびスライドの解説を聴いて残したメモ書きから、 当日の講演内容等を誌上に再現 してみました。 (文責:日本航空機操縦士協会 顧問 岩瀬 健祐) (上の写真 JAXA 提供) 日 会 時:2009-11-25 (水) 1540∼1810 場:法政大学外堀校舎 さっ た 市ヶ谷キャンパス 薩ホール 主 催:社団法人 日本航空技術協会 共 催:社団法人 日本航空機操縦士協会 特定非営利活動法人 航空・鉄道安全推進機構 後 援:国土交通省 航空局 国土交通省 運輸安全委員会 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 法政大学 司 会:俳優 新井 晴み 氏 法政大学挨拶:法政大学総長 増田 壽男 氏 映 写:H-B による HTV 打ち上げ (HTV:H- Transfer Vehicle) 開会挨拶:日本航空技術協会会長 今井 孝雄 氏 ……………………………………………………… 第一部:プレゼンテーション・セッション 「国際宇宙ステーション長期滞在報告」 講師:JAXA 宇宙飛行士 若田 光一 氏 DVD 映像に沿った解説 : ・STS119:乗り込み、 打ち上げ ・若田宇宙飛行士の今回のミッション・ロゴ 「夢 探究心 思いやり」 (P10参照) ・国際宇宙ステーション (ISS) へドッキング するまえに ISS 側からシャトルの腹面を撮 影・点検し、 耐熱タイルの状況確認を実施 ・ドッキング、 ISS への移動 8 2010 JAN ・ロボット・アームを駆使して S-6 トラスのシャ トル貨物室からの取り出しと ISS への取付 ・太陽電池パネルとラジェーターの展開 (クルー と地球のコマンドで実施) (発電力110KW) ・オバマ大統領と交信 ・STS119が任務を終え、 ISS から離れるシャ トルを ISS 側から撮影 ・緊急時に ISS から離脱するために、 ロシア の往還機ソユーズ TMA14が残されており、 TMA14に乗り込むためのロシア製宇宙服の 装着練習 ・日本実験棟等で、 多くの実験を実施 ・両生類細胞の分化と形体形成の調節に関す る実験 ・氷の結晶生成実験 ・先端材料の結晶成長実験 ・提案された多くの宇宙面白実験項目を実施 ・魔法の絨毯 ・腕相撲 ・水鉄砲 ・各種システム運用、 実験等: ・各種ロボティクス運用 ・体重 (質量) 測定 ・筋力トレーニング (毎日2時間位) ・骨粗鬆症予防のために特別の薬服用 ・教育プロジェクト ・水再生プロジェクト ISS での生活紹介 ・寝室、 寝袋、 ・「きぼう」 内で寝袋を移し睡眠を試みる ・「きぼう」 内は非常に静か ・ヒゲそり ・散髪 ・シャンプー ・カラオケ ・ヨガ ・トイレ ・宇宙で習字 ・きぼうの窓から大気層・オーロラを撮影 ・食事は ISS 乗組員全員で採った (最初は3人) ・宇宙飛行士全員に和食人気あり (28種類) ・途中から TMA15号で3人の宇宙飛行士が ISS に到着し、 6人体制となった。 (日本、 アメリカ、 カナダ、 ロシア、 ヨー ロッパ (ベルギー)) ・TMA14の繋留位置を変更するとき、 TMA14 に搭乗し新しい繋留場所まで移動しドッキング ・1ケ月遅れでエンデバー号 (STS127) が到 着した。 耐熱タイルの点検のため、 シャトル が360°回転する際に ISS 側から写真撮影。 ・クルー7人が ISS に到着し、 総勢13人となった。 ・STS127の主たるミッションは、 「きぼう」 日 本実験棟の完成で、 今回は船外実験プラット フォームや船外パレット等を、 ロボット・アー ムでシャトルの貨物室から取り上げ、 ISS に 取り付ける作業を実施。 (「きぼう」 日本実験棟は、 最初は土井宇宙 飛行士らが船内保管室、 星出宇宙飛行士らが 船内実験室とロボット・アームの取り付け、 最後に若田宇宙飛行士らが船外実験プラット フォームを取り付けて完成した) ・「きぼう」 のロボット・アームで、 実験機器 の移設 ・この間、 つくばでは中井さんがフライトディ レクターとして一連の作業を指揮、 ヒュース トンのジョンソン・スペースセンターでは、 星出宇宙飛行士が通信役を務めた。 ・13名一緒での食事楽しかった。 帰 還 ・4ヶ月半の滞在を終えてスペースシャトルに 乗り込み ISS から離脱 (STS127) ・シャトル側から ISS を初めて見た。 ISS を一 周して撮影 ・ケネディ・スペースセンターに着陸 ・ドラッグ・シュート展開 ・シャトルから地上へ歩いて降りる スライドによる紹介 : ・3回の宇宙飛行を体験、 最初の2回は往復と も同じシャトルおよびクルー。 3回目は打ち 上げと地球への帰還は別のシャトルとなった。 ・第18次、 19次、 20次 ISS 長期滞在クルーのフ ライトエンジニア、 STS-119および STS-127 ミッションスペシャリストとして5つの異な るクルーとの仕事となった。 ・ISS の内部容積は、 ジャンボ機より大きい ・3人で滞在中は、 実験や整備作業等は別々 に行っていても、 食事は必ず一緒に摂った。 ・ソユーズ TMA14を移動させるとき、 ソユー ズから撮った 「きぼう」 の写真 ・HTV と ISS のドッキング ・JAXA の宇宙飛行士は今までシャトルに10回 搭乗したが、 次回の ISS 滞在予定の野口さ んは、 ロシアのソユーズでの打ち上げとなる。 ・ 野 口 さ ん が ISS に 滞 在 中 に 、 山 崎 さ ん が STS-131で飛行予定。 日本人宇宙飛行士が同 時に2人宇宙にいることになる。 安全関連の話題 ・2009年9月現在、 世界中の宇宙飛行士の数は 507人、 延べ1107人がミッション担当。 ・現在の有人宇宙往還システムは、 ソユーズ、 スペースシャトル、 長征/神舟だが、 米国の スペースシャトルが運用を中止すると、 ISS 運用ではソユーズだけを使うことになる。 ・STS は計129ミッションで2回事故発生し死 者14名 (1986年のチャレンジャー打ち上げ時、 2003年のコロンビア帰還時) 2010 JAN 9 ・ソユーズは104回のミッションで2回の死亡 事故発生 ・有人宇宙飛行における死亡事故 ・ソユーズ ・X-15 ・ソユーズ ・チャレンジャー ・コロンビア ・ロケットの信頼性と航空の信頼性の比較 ・コロンビアの事故原因 (シャトルの耐熱タイ ル損傷) ・安全な宇宙輸送システム運用のために提言 *We vs They から We all へ *Question and do not defend. 以下質疑応答項目 : ・下着の着替え間隔? ・UFO の存在感じるか? ・宇宙での再生水の味? ・ロシア宇宙船の信頼性? ・微小重力下での血圧? ・面白宇宙実験? ・禁酒禁煙? ・無重力は疲れるか? 第二部:トーク・セッション テーマ:「きぼう」 から未来の安全を 講 師:九州大学名誉教授 後藤 昇弘 氏 若田 光一 氏 ナビゲーター:JAXA 執行役 ISS プログラム マネージャー 長谷川義幸 氏 ・若田宇宙飛行士の子ども時代・学生時代のエ ピソード紹介 (野球少年、 ・鳥人間コンテス トに熱中・航空機構造に興味) ・アサインされた STS フライトの1年前から、 サッカーや野球等、 けがの恐れのあるスポー ツは禁止されている ・宇宙では故障に即対応 (リアルタイムの事故 調査の感じ) ・語学は英語のほかにとロシア語必要になった ・ISS から家族との交信可能 10 2010 JAN ・宇宙ミッションにも CRM 大切 ・2回目の宇宙飛行後、 九州大學で博士号取得 ・技術立国のためには航空宇宙分野も大切 ・再度子供たちへのメッセージ↓(提供 JAXA) ……………………………………………………… 閉会挨拶:日本航空機操縦士協会 萩尾 裕康 氏 ……………………………………………………… 講演会終了後、 関係者による懇親会が法政大 学のポアソナードタワー26階 「ラウンジ」 で開 催されました。 スナップ写真 (敬称略) 白石 萩尾 岩瀬 若田 今井 謝辞:若田宇宙飛行士の誠実な人柄が伝わる 講演・質疑応答でした。 この企画実現にご協 力くださいました JAXA、 JAEA、 また会場 を提供いただきました法政大学、 その他関係 者の方々に心より感謝致します。 記事内容の チェックは若田さんご本人がして下さいました。 また写真類の掲載許可につきましては JAXA 広報関係者の多大なご協力を得ました。 誌面 を借りて厚く御礼申し上げます。 (岩瀬) 分離後のエンデバー号 (若田宇宙飛行士が地球帰還時に乗り込んだ STS127) から撮影された ISS (STS127の飛行14日目:2009-7-28) 提供:NASA/JAXA 「きぼう」 日本実験棟は、 上の写真中央右下部分にあたります。 大きくは、 ①船内保管室 ②船 内実験室、 ③ロボット・アーム、 ④船外実験プラットフォームから構成されています。 詳細な解説 付きの写真が、 15ページにあります。 …………………………………………………………………………………………………………………… 若田宇宙飛行士らをのせたスペースシャトル 「エンデバー号」 は、 米国東部夏時間7月31日 午前10時48分 (日本時間7月31日午後11時48分) に、 NASA ケネディ宇宙センター (KSC) に着陸しました。 若田宇宙飛行士の宇宙滞在は、 137日と15時間05分でした。 (STS127 Space Shuttle Landingを Internet で検索すると、 You Tube の動画を見ることが できます。) KSC に着陸したエンデバー号 Landing roll with drag chute Drag chute deployed 提供:NASA/JAXA Touch down on KSC RWY15 2010 JAN 11 未来の 「きぼう」 を創造する 宇宙飛行士 若田光一さんの輝き 日本航空機操縦士協会 専務理事 白石 豊樹 ● はじめに 外堀に沿った法政大学校舎・市ヶ谷キャンパ ス薩ホールは、 大きな感動と拍手に包まれま した。 国際宇宙ステーション (ISS) に長期間 滞在し、 日本の実験棟 「きぼう」 の完成に尽力 した若田光一宇宙飛行士が、 その体験をテーマ とした講演を終えたその瞬間でした。 エアライ ン・パイロットである私は、 宇宙飛行と微小重 力空間がもつ、 想像をはるかに超えた環境とリ スクに、 ただただ驚かされました。 また、 講演 のあとの、 後藤昇弘氏 (九州大学名誉教授) と 長谷川善幸氏 (宇宙航空研究開発機構 執行役) を交えたトーク・セッションの中に、 包容力に 富んだ若田さんの人となりを垣間見ることがで きました。 日本の科学技術の水準が優位にある こと、 そして後輩たちへのエール 「目的意識に 拘って研究した結果に納得できればその到達点 は世界水準と思って構わない。」 が印象的でした。 ● 司会はキャリア・アップ中の 法政大学生 司会の新井晴みさんは、 法政大学の学生との ことでしたが、 解りやすく情感あふれる語り口 はプロの雰囲気を感じたのですが、 やはり、 NHK の連続テレビ小説 「風見鶏」 のヒロイン を演じた女優さんでした。 現在、 キャリアデザ イン学部に在籍しています。 お陰で、 明るい和 やかななかでフォーラムがスタートしました。 ● サプライズ・ニュース このセーフティフォーラム2009を主宰した 日本航空技術協会の今井孝雄会長が開会の辞の 12 2010 JAN 中で、 若田さんに内閣総理大臣顕彰が贈られた こと、 その授与式が午前中に官邸で行われたこ とを紹介されました。 授賞理由は当然のことな がら、 若田さんが、 国際宇宙ステーションに長 期滞在し、 日本実験棟 「きぼう」 の完成に貢献 したことが高く評価されたためです。 閉塞感の 漂う昨今、 国民に大きな夢と希望を与えたこと に対し、 誰もが感激したホット・ニュースでした。 ● ライト兄弟の初飛行から100年有余 会場となった法政大学の増田壽男総長より、 来年がライト兄弟の偉業から107年目、 更に日 本人の初飛行から100年目を迎えるといった歴 史を遡るお話があり、 同大学が民間航空の草分 け的な存在であったこと、 さらに、 1931 (昭和 6) 年5月29日、 法政大学航空部の複葉機 (石 川島 R-3 型) 「青年日本号」 が地図と羅針盤だ けを頼りにローマへ向けて離陸し、 シベリアか らウラル山脈を越え、 ドイツ、 イギリス、 フラ ンスでの親善友好を果たし、 8月31日目的地ロー マへの飛行を成功させたとのことでした。 (参:操縦士 学生 栗村盛孝/教官 熊川良 太郎、 飛行距離:13,671km 飛行時間:125時 間15分、 95日間) また、 法政大学では、 2008年 に航空操縦学専修を開設し、 民間活力によるパ イロット養成は注目されています。 羽田空港の 拡張展開、 地方空港の開港にともなう国内路線 の増便、 アジア諸国の発展など輸送力の補強を 視野に入れた動きといえます。 ● HTV 機打ち上げ成功の映画 引き続き HTV 打ち上げの記録が会場に映写 されました。 昨年9月11日2時01分46秒に、 宇 宙ステーション補給機 (HTV) 技術実証機を 載せた H-B ロケットが、 種子島宇宙センター から発射され、 打ち上げ後約15分、 あっという 間に HTV が分離され、 周回軌道にのり、 宇宙 が遥か彼方の事ではないと思いました。 燃料は 液体水素と液体酸素、 当日の天気は曇り、 地上 気温24.5度、 西風3ノットでほぼ Calm、 天気 が大きく影響することは航空機と同じです。 ISS の地球周回軌道は地上から約350km の 高 度 に あ り 、 ISS は 約 90 分 で 一 周 し ま す 。 HTV は実験器機のほか、 ISS に滞中の6人の 宇宙飛行士のための食料や日用品等、 約4.5ト ンを積んでいきました。 ● モットーは 「夢、 探究心、 思いやり」 若田さんは、 昨年3月16日、 ディスカバリー 号に乗り組み宇宙に向かい、 長期間国際宇宙ス テーションに滞在し、 同年7月31日にエンデバー 号で帰還しました。 (以下、 若田さんの発言を 【 】で囲みました。) 【若い頃から宇宙を目指していたわけではあ りません。 アポロ11号の月着陸が成功したのは 5歳の時で、 宇宙への憧れを抱いたそうですが、 幼心にも宇宙を舞台に仕事ができるのはアメリ カと旧ソ連の人たちだけだと思っていました。 空中への興味は、 模型飛行機に熱中していた程 度でした。 大学時代は九州大学の工学部に学び、 構造と強度の研究に没頭していましたが、 鳥人 間コンテストへの参加とハング・グライダには 乗っていました。 しかし、 幼少時代からの飛行 機に対する興味は、 「航空機のエンジニアにな る」 という具体的な目標に変わり、 航空企業の 技術者になりました。 その後、 宇宙開発事業団 の宇宙飛行士となって現在に至っています。】 そんな若田さんのモットーが、 「夢、 探究心、 思いやり」 です。 ● 微小重力空間への挑戦 【国際宇宙ステーション内の広さは、 ジャン ボ・ジェット機の約3倍 (私の想像より遥かに 広く)、 複数の宇宙飛行士が交替で乗り組んで います。 彼らを運ぶのが、 スペースシャトルで あり、 ソユーズです。】若田光一宇宙飛行士は ロボット・アームを操作できるスペシャリスト です。 【7月19日 (日本時間7月20日)、 「きぼう」 船外実験プラットフォームを船内実験室の側面 に取り付ける作業を完了させました。 また、 宇 宙飛行士の役割は、 ステーション内での各種実 験を通じ研究者の目と手になることにあると受 け止めています。 これまでの経験を宇宙開発に 役立てることに尽力し、 人類に貢献したいと考 えています。】 【主な任務は、 ロボット・アームを操作して、 電力を増やすための構造部材の取り付けを行な うことでした。 この活動が国際宇宙ステーショ ンの機能の拡張です。 「きぼう」 の完成につい ては前述したとおりです。 船外活動を行った宇 宙飛行士が、 ロボット・アームの先端に立って 宇宙を眺めたとき、 リファレンスがなくなり暗 黒の空間に吸い込まれていく感覚に、 恐怖を覚 えたそうです。 日本の投資が増大することによ り、 試験、 実験などが充実してきました。 日本 の技術力は優れており、 カメラ・プリンター等 はすべて日本製品で、 耐久性などでも高い信頼 を得ています。】 ● 健康管理 【健康管理は、 運動機能や骨や筋肉の衰えを どの様に防ぐのかにありました。 重力が殆んど ない環境は、 地上に例えればほぼ寝たきり状態 を意味します。 毎日2時間の有酸素運動と筋肉 トレーニングの励行は、 面倒ですがよい気分転 換となっています。 食事は、 レトルト及びフリ ズドライ食品が主で、 酒もタバコもご法度です。 用便は大と小用が別々で、 尿は飲料水として再 利用されます。 味は真水と変わりません。 睡眠は寝袋のようなもので眠り、 無重力のお 蔭で寝違えも起こらず快適でした。 一番不便と 感じたことは、 お風呂につかれずに濡れタオル で体を拭くだけで済ませることや、 熱々のご飯 が食べられないことでした。】 フォーラムの後、 放射線被曝について質問が でました。 【NASA の宇宙飛行士は、 被曝量のトータ ルが制限されており、 今回の長期滞在でも被曝 量を正確に測定しています。 放射線が強く、 太 陽フレアが発生したときなどは、 国際宇宙ステー 2010 JAN 13 ションの4カ所に設置されたシェルター部に避 難します。】(参考:私たち運航乗務員について は、 年間被曝量 5mSV (シーベルト) が許容 値として決められています。) ● 一緒の食事も 大切なコミュニケーションの場 【コミュニケーション面では、 まずチームの 仲間で一緒に食事をとることを重視していまし た。 お互いに顔をあわせ、 時間と状況認識を共 有することが、 信頼の基になっています。 また、 常に電話回線が確保されていたので、 家族に何 時でも電話をかけることができる環境は、 精神 面の安定にとても役立ちました。】 ● 不安とリスク 【宇宙飛行士の数は、 これまで約500人で、 米国327人を筆頭に、 ロシア101人、 ドイツ10人、 カナダ9人、 日本7人、 中国6人の順となって います。 一人の国もたくさんあります。 そして、 宇宙飛行で発生した人身事故は、 4 件18名が死亡しています。 米国とロシアのミッ ションの実績では、 大体60回に一度の割合になっ ています。 民間航空に比べると比較にならない ほど高い水準です。 宇宙に行くのは正直言って 怖いものです。 宇宙飛行士の仕事はリスクを伴 います。 しかし、 人間が宇宙に行くことで、 地 球人みんなに役に立つ新しい発見や地上での生 活を豊かにする新しい技術を得ることができま す。 有人宇宙開発は人類が永遠に存在するため に、 リスクがあっても取り組む価値のある重要 な仕事だと思っています。 私たち宇宙飛行士が 世界の人々と協力し合い、 地球の環境を守りな がら、 共に宇宙での活動の場を広げていくこと によって、 地球人としての価値観と文化を育む ことに貢献できる仕事でもあると思います。】 ● 宇宙開発と今後の展望 【1990年に秋山豊寛宇宙飛行士がソユーズで 14 2010 JAN 宇宙に行って以来、 1992年に毛利衛宇宙飛行士 がペースシャトルで続き、 すでに20年になろう としています。 その間に毛利衛さん、 向井千秋 さん、 若田、 土井さん、 野口さん、 星出さんら の日本人宇宙飛行士が数々の実績を残してきま した。 そして現在では、 古川さん、 山崎さんも、 宇宙へ飛び立つための準備と訓練を行っていま す。 一方、 NASA はシャトルを2010年に退役 させる予定です。 そのため国際宇宙ステーショ ンへの往復には、 ロシアのソユーズ、 あるいは 民間の宇宙船 (下記参照) が使用されます。 NASA の戦略は、 民間企業が地球低軌道への 貨物輸送を担い、 月・惑星探査に必要となる大 型ロケットと有人宇宙船は、 国家事業で進める 方向となっています。】(参考:2008年12月23日、 NASA は、 民間のスペースX (Space X) 社、 お よ び オ ー ビ タ ル ・ サ イ エ ン シ ズ (Orbital Sciences Corporation) 社と契約し、 ISS への 物資輸送に同社が開発した宇宙船を使用する旨 を発表した。) ● 技術立国への熱い思い 若田さんは、 50年あるいは100年後に目を向 けた展望の重要性を訴えています。 【資源を持 たない日本は、 技術立国として歩むほかに選択 肢はありません。 技術力は必ず社会を豊かにす る筈ですし、 幅広い分野の産業基盤、 航空宇宙・ 医学・工学・科学・理学・芸術など興味の対象 を見つけて、 目的意識を持って研究し自ら納得 できる結果は、 世界水準です。 また、 チームワー クで大切なことは、 本音で意見を言い合える関 係作りです。 何故なら、 相手に対する信頼は、 一緒に居て何をしてくれたのかが重要となるか らです。 経験を共有し、 皆で対策を考えていく 文化、 目的と価値観を共有できる文化を構築す ることが求められます。 今後の抱負は、 経験を 活かし人類の未来に貢献すること、 ISS でコマ ンダーとしてリーダー・シップが執れる任務を 担当したい。】という素敵な締めくくりでした。 ● 閉会の挨拶 ● 終わりに 私達の日本航空機操縦士協会はこのイベント の共催団体として、 萩尾会長が閉会の挨拶を担 当しました。 「きぼう」 から未来の安全を考え るフォーラムは、 参加者の感動と感謝の拍手の 中で閉会となりました。 今回のフォーラムを通じ、 私が感動したのは、 未知の世界への弛まない挑戦、 それを可能とす る宇宙飛行士の精神面の強さと肉体面の逞しさ、 そして彼らの地道な努力でした。 今後、 宇宙ス テーションで新たに経験する事象は、 未知との 遭遇であり、 人類の進化してきた過程の解明に 役立つだけでなく、 現在の人類が抱えている多 くの難題を解決する答えが存在する可能性を秘 めていると感じました。 重要な鍵を握る宇宙飛行士に感謝の思いをこ めて、 明るい未来に乾杯! (ごめんなさい、 宇宙では禁酒でしたね!) ……………………………………………………… 「きぼう」 日本実験棟 Japanese Experiment Module Kibo 提供:NASA/JAXA 2010 JAN 15 象 気 航空 C TE H 中層雲底乱気流(2) Ta l k 航空気象委員会 前号に引き続き中層雲の雲底付近で発生する 乱気流について紹介します。 前号では中層雲底 乱気流の発生状況とそこから推測される発生メ カニズムについてお話しました。 今号では推測 した乱気流の発生メカニズムが数値計算で再現 されるか実験を行った結果を紹介します。 まだ 前号を読まれていない方はぜひ前号を読んでか ら今号をお読みください。 図番号は前号から継 続していますので、 前号を読まれた方も前号と 併せてお読みください。 ●数値実験による再現 K委員:では続きをお話しましょう。 数値実験 で用いたのは、 非静力学モデルという、 現在 気象庁で運用されているモデルでは最も精緻 な数値予報モデルです。 今回私は、 この非静 力学モデルを空間1次元で実行することで、 先ほど述べた乱気流のメカニズムが再現され 図12 16 るかを調べてみることにしました。 A機長:空間1次元? 聞き慣れない言葉です が、 空間1次元というのはどういうことです か? K:現実の世界は空間3次元と時間1次元の軸 を持っているのですが、 今回の乱気流の場合 には鉛直方向の振る舞いが最も重要と考えら れますので、 空間方向は鉛直の1次元のみで 実験を行いました。 水平方向の移流や拡散が 表現できないというデメリットもありますが、 実験の設定がシンプルになるのでエッセンス を抽出しやすくなったり、 計算時間が短縮で きるので様々な設定で実験ができたりという メリットがあります。 A:なるほど…… K:まずは初期値ですが、 図12のように設定し ます。 図12aの赤線は気温 (K) で縦軸は高 度 (m) です。 3000mから3500m付近に温度 −10℃で一定の安定層を与え、 その下は気温 数値実験の基本設定。 気温Tと露点温度 TD、 風速Vと鉛直風速W。 2010 JAN 減率が8℃/km になるようにしました。 図 12aの青線は露点温度で、 安定層の上では相 対湿度が95%、 下では相対湿度が40%になる ように設定し、 安定層内は上下を線形に接続 するように設定しています。 図12bの青線は 水平風速で、 安定層ではリチャードソン数が 1.5 に な る よ う な 鉛 直 ウ ィ ン ド シ ア ー (VWS) を 与 え て い ま す 。 つ ま り 、 こ の VWS だけでは乱気流は起きない状態にして あるということです。 図12bの紫線は鉛直風 速で、 初期値は0としています。 A:数値実験で計算するために初期値を設定し たのですね。 K:はい。 この条件で3時間経過した後の気温 と露点温度は図13aのようになります。 破線 は初期値での値で、 実線が3時間後の値にな ります。 安定層の下で空気が冷却されて、 安 定層では安定度が強まり、 安定層の下では不 安定な方向に変化しているのが分かるでしょ うか? A:安定度の変化についてもう少し詳しく教え てもらえますか? K:安定度の変化は気温減率を見るとよく分か ります。 図13bを見てください。 青線が初期 値 (FT=0) の気温減率で、 安定層では気 温減率が0℃/km、 安定層の下では気温減 率が8℃/km となっていますが、 3時間後 (FT=3、 赤線) には安定層内では気温減率 が0℃/km 以下になり安定度が強まってい るのに対し、 安定層の下では気温減率が 10℃/km 以上になっています。 乾燥断熱減 率が約9.8℃/km ですので、 これよりも気温 減率が大きいということは超断熱減率層が形 成されている、 すなわち絶対不安定な状態に 図13 基本設定での実験結果。 気温T、 露点温度 TD、 気温減率Γ、 温位 PT、 乱流エネルギー TKE、 風速V、 鉛直風速W、 鉛直ウィンドシアー。 FT=3は予報時間3時間の意味。 2010 JAN 17 なっているということを表しています。 A:超断熱減率層を解消するために乾燥対流が 発生して、 乱気流が起きるということでした ね。 K:そうです。 図13dを見てください。 これは 乱流エネルギーという、 空気の乱れの運動エ ネルギーを表した量を示した図です。 乱流エ ネルギーが大きいほど強い乱気流が起きやす いと考えてください。 赤線は4時間後の予報 値、 すなわち、 図13bで超断熱減率層が形成 された1時間後の乱流エネルギーを示してい ますが、 超断熱減率層が形成された高度で乱 流エネルギーが極大になっていることが分か ると思います。 A:そうですね。 K:緑線はそれから更に2時間後の、 初期時刻 から6時間後の乱流エネルギーですが、 ピー クの値が小さくなっていることが分かります ね。 これは乱流による混合が進んで不安定が 解消されたためと考えられます。 6時間後の 気温減率 (図13b、 緑線) は安定層の下の気 温減率が約9.8℃/km になっており、 乾燥断 熱減率と等しい状態、 すなわち中立な状態に なっています。 A:超断熱減率層が解消されて中立層に変わっ たということですね。 K:その通りです。 温位を見ても同じことが言 えます。 図13cを見てください。 青線は初期 時刻の温位を示したものです。 初期時刻では 全ての高度で高度が上がるほど温位が高くなっ ていますので、 成層状態としては安定です。 それが3時間後 (赤線) には、 安定層の下で ごく僅かにですが、 高度とともに温位が低く なっています。 つまり絶対不安定な状態になっ たということです。 これが6時間後 (緑線) では温位の高度変化が0になっていて中立な 状態になったことが分かります。 A:私が遭遇した乱気流のデータ (図10) や館 野のエマグラム (図9) でも安定層の下が中 立層に近い状態になっていました。 K:そうです。 乱気流の発生メカニズム (図11 c) でも話したように、 中立層は絶対不安定 18 2010 JAN な状態を乱流混合によって解消した後にでき ると考えたわけですが、 数値実験でもそのよ うなことがちゃんと再現されたわけです。 中 立層が形成された高度と乱流エネルギーが大 きい高度がほぼ一致していることも、 安定層 ∼中立層で乱気流が発生するという、 実際の 乱気流の発生状況と一致しています。 A:推定した乱流のメカニズムがよく再現され ていて素晴らしいですね。 K:もう一つ面白いことがありますよ。 図13e を見て下さい。 赤線は乱流エネルギーが大き くなった時刻の初期時刻から4時間後の風速 を示していますが、 風速は初期値と比べてほ とんど変化していないことが分かると思いま す。 しかし、 乱流による混合が十分に進んだ 6時間後では、 緑線のように、 安定層の下で は風速がほぼ一定の状態になっていることが 分かると思います。 つまり安定層の下では VWS はほとんど0になっている、 というこ とです。 A:VWS がほとんど0でも乱気流が起きるわ けですよね。 これは私たちパイロットの今ま での常識からは懸け離れた結果です。 K:そうですね。 つまり、 この乱気流は VWS によって発生したわけではないということで す。 さらによく見ると、 等風速な状態が安定 層の下だけに留まらず、 安定層の下部にまで 浸透していることが分かるでしょうか? A:どう言うことでしょうか? K:安定層の下部で、 6時間後の風速を示す緑 線が、 4時間後の風速の赤線よりもやや持ち 上がっていますよね? A:3000mから3200m辺りのところでしょう か? K:そうです。 安定層の下では風速の変化がほ とんど0だったわけですが、 安定層では6時 間後に風速変化が強まっているのです。 つま り、 中層雲底で乱気流が発生した後に、 安定 層で VWS が強くなっているということです。 A:VWS が強まった後に乱気流が発生するの ではなく、 乱気流が発生した後に VWS が強 まるということですか??? 何だか今までの 常識と逆のことばかりで混乱してきました。 どうしてそのようなことが起きるのですか? K:これは乱流によって安定層の下の空気と安 定層下部の空気が混合されたために起きたも のと考えられます。 相対的に風速の弱い空気 が乱流によって上に運ばれると、 相対的に風 速の強い空気との VWS が増加することにな ります。 そのため、 安定層内での風速の高度 変化が急になっているのです。 A:なるほど…… K:このことは VWS の変化を見るとよく分か ります。 図13fの青線は初期時刻、 赤線は4 時間後の VWS を表したものですが、 4時間 後までは風速の変化がほとんどなかったこと からも分かるように、 VWS も初期値とほと ん ど 変 わ っ て お ら ず 、 安 定 層 の VWS は 9kt/1000ft 程度です。 それが6時間後にな ると、 安定層の VWS は最大で15kt/1000ft 程度まで大きくなっていますよね。 また、 安 定層の下では VWS はほとんど0になってい ます。 A:そう言われてみれば、 私が遭遇した乱気流 のデータ (図1) でも、 安定層下部で風速の 変化が非常に大きく、 安定層の下では平均的 な風速変化はほとんど0でした! K:そうです。 このことも実際の観測データと よく一致していますね。 また、 FXJP (図8) で予想された VWS はそれほど大きくなかっ たにもかかわらず、 実際に観測された VWS は非常に大きかったですよね? A:そうでした。 あれはどうしてなのでしょう か? K:それは FXJP のもととなっている数値予 報モデルでは、 モデルの設定の関係で雲底で の降水の蒸発による冷却効果が十分には再現 されていないためと考えられます。 そのため 雲底での乱流が十分に表現されず、 それに伴 う VWS の強化も予想されていないのだと思 います。 A:そうなんですか。 それでは安定層で VWS が大きくなったのに、 安定層ではどうして乱 流エネルギーは大きくなっていないのでしょ うか? 私が遭遇した乱気流では安定層でも 乱気流はあったわけですが……。 K:数値実験で安定層の乱流エネルギーが大き くなっていないのは、 安定層のリチャードソ ン数が0.25よりも小さくなっていないからで す。 つまり、 VWS は確かに初期状態よりも 大きくなったのですが、 図13bで示したよう に、 同時に安定度も強まっているため、 この ケースでは総合的には初期状態よりも安定な 方向に変化しているのです。 ですので乱流が 発生せず、 乱流エネルギーも大きくなっては いません。 ただし、 必ずしもこのようになる とは限らないようです。 条件をいろいろと変 えて実験を行ってみると、 安定層でも乱流エ ネルギーが大きくなる場合もありました。 A:なるほど。 改めて数値実験で再現された気 温や露点温度、 気温減率や乱流エネルギー等 を見ると、 私が遭遇した乱気流のデータ (図 1、 図10) や中層雲底乱気流の発生メカニズ ム (図11) とよく合っていることが分かりま す。 ●条件を変えると K:典型的な初期値を与えると、 実況とよく一 致する結果が再現されることが分かったと思 います。 今度は初期条件を少し変えてみると どうなるか見てみます。 まずは、 上空の降水 が本当に必要なのかを確かめるために、 安定 層の上を乾燥させるとどうなるか見てみるこ とにしましょう。 図14は安定層の上の相対湿 度を70%にしてその他は同じ条件で実験した 場合の結果です。 図14aは気温と露点温度で、 図13aと同様に初期値を破線で、 3時間後の 値を実線で表示していますが、 破線と実線が 完全に重なっているために実線だけが見えて います。 つまり、 3時間後も初期値と全く同 じ気温と露点温度だったということです。 図 14bは初期値、 4時間後、 6時間後の乱流エ ネルギーを示したものですが、 こちらも初期 値から全く変化がなく、 常に0だということ が分かります。 つまり、 乱流が全く発生して 2010 JAN 19 図14 安定層の上の相対湿度を70%とした場合の実験結果。 気温Tと露点温度 TD、 乱流エネルギー TKE。 図15 安定層の下の相対湿度を70%とした場合の実験結果。 気温Tと露点温度 TD、 気温減率Γ。 いないということです。 A:安定層の上の相対湿度を95%から70%に湿 度を変えるだけでこんなにはっきりと差が出 るなんて面白いですね。 K:そうですね。 水蒸気量が少なければ上空の 降水が発生せず、 降水の蒸発も発生しないの で、 乱気流も発生しないということが数値実 験でもよく再現されています。 では今度は逆 に、 安定層の下が乾燥していないとどうなる か見てみましょう。 図15aは安定層の下の相 対湿度を70%にして、 その他は同じ条件で実 験した場合の気温と露点温度です。 A:安定層の下で若干気温が下がっていますが、 図13aと比べると減少幅は小さいですね。 20 2010 JAN K:はい。 図15bは気温減率なのですが、 この 場合でも安定層では初期時刻よりも安定に、 安定層の下では初期時刻よりも不安定になっ ていますが、 安定層の下の気温減率は乾燥断 熱減率である9.8℃/km より大きくはなって いませんよね。 つまり、 超断熱減率層は形成 されていないということです。 このため、 図 には示しませんが、 乱流エネルギーの増加は 見られませんでした。 A:安定層の上下の相対湿度の差がそれほど大 きくなければ、 単に安定層の下の気温が下が るだけなんですね。 乱気流が発生するために は超断熱減率層が形成されることが必要、 と いうわけですね。 K:その通りです。 続いて紹介するのは、 安定 層の VWS による違いです。 まず図16ですが、 こちらは安定層のリチャードソン数を100と した場合の気温と露点温度、 それに乱流エネ ルギーを示した図です。 A:リチャードソン数のことを簡単に教えてく ださい。 K:リチャードソン数は、 成層の安定度を表す ブラントバイサラ振動数Nの2乗を鉛直ウィ ンドシアーの2乗で割った値です。 式で書く と となります。 が小さ い (安定度が小さい) か、 が大きい (鉛直ウィンドシアーが大きい) ほどリチャー ドソン数は小さくなります。 よく言われてい るように、 リチャードソン数が 1/4、 つまり 0.25以下になると K-H 波が発生します。 A:K-H 波のことも簡単に説明してもらえま せんか? K:K-H 波というのは、 密度と速度の異なる 2つの流れが上下に接しているときに発生す る波で、 乱気流を引き起こす主な原因の一つ です。 通常の大気では上の空気は密度が小さ く、 下の空気は密度が大きいので、 大気の成 層状態としては安定でこのままでは混合は起 きません。 しかし上下の流れにシアーがある と、 大気の成層状態は安定であっても混合が 起きうるのです。 A:それはなぜでしょうか? 図16 K:風速シアーのある流れが接している状態と いうのは実は不安定な状態で、 混合してシアー のない状態にした方が安定なんです。 風速シ アーの持つ不安定度が大気の安定度を上回る と、 波が発生して砕波することで上下の空気 が混合されます。 このときに発生する波が K-H 波で、 2つの流れの一方に雲がある場 合にはこの波が可視化されることがあります。 A:ごく稀にですが上空で K-H 波の雲を見る ことがあります。 K:地上からだとなかなか見る機会がないので うらやましいです。 話を図16に戻しますが、 図16は安定層のリチャードソン数を100とし た場合の結果です。 リチャードソン数が大き いということは安定度が大きいか VWS が小 さいかということでしたが、 今、 安定度は変 えずにリチャードソン数を大きくしています ので、 図16では安定層の VWS が小さいとい うことになります。 リチャードソン数が0.25 よりも小さくなると K-H 波が発生しますの で、 100というのはかなり大きな値で、 K-H 波は発生しづらい状態だということを表して います。 A:なるほど。 K-H 波は発生しづらいにもか かわらず、 乱流エネルギーは図13と同じよう に大きくなっていますね。 K:そうです。 これはつまり、 中層雲底乱気流 の発生には K-H 波は直接的な関係はないと 安定層のリチャードソン数を100とした場合の実験結果。 気温Tと露点温 度 TD、 乱流エネルギー TKE。 2010 JAN 21 いうことを表しています。 今度は逆に、 安定 層のリチャードソン数を0.5とした場合の結 果を見てみましょう。 A:今度は安定層の VWS を大きくした場合の 結果ですね。 K:はい。 ただし0.25よりは大きいですので、 K-H 不安定が起きるほどは小さくはない、 という微妙な値に設定しています。 図17は図 16と同じく、 気温・露点温度と乱流エネルギー を示したものです。 気温と露点温度は図16と ほとんど同じですが、 乱流エネルギーは随分 違う結果になっていますね。 A:リチャードソン数を小さくしただけで、 安 定層での値が大きくなっていますね。 K:図16と比べて横軸のスケールが大きくなっ ていることにも注意してください。 4時間後 の乱流エネルギーの大きさは、 リチャードソ ン数が100の場合とそれほど違いはないこと が分かるでしょうか? A:横軸のスケールが違うので見間違えそうで すが、 どちらも最大で0.5くらいですね。 K:そうです。 4時間後まではどちらも同じよ うに推移していたわけです。 それが6時間後 になると全く違う状態になります。 A:安定層で乱流エネルギーが大きくなってい ますね。 4時間後と比べて値も大きくなって います。 これはなぜでしょうか? K:安定層のリチャードソン数を1.5とした場 図17 22 合の図13の結果を思い出してください。 風速 は4時間後まではほとんど変化がなかったの に、 乾燥対流による混合が進んだ後の6時間 後には、 安定層の下で風速が一定になり、 安 定層では VWS が大きくなっていましたよね (図13e, f)。 A:そうでした。 このときは VWS と同時に安 定度も大きくなっていたので、 全体としては 安定な方向になっていたということでしたね。 K:そうです。 しかし図17の場合には、 初めの 安定度が小さかったために、 VWS が強まる ことでリチャードソン数が0.25以下になり K-H 波による乱流が発生したのです。 A:設定値を少し変えるだけで結果が大きく違っ てくるのですね。 私の遭遇した乱気流では安 定層でも揺れがありましたが、 これと同じこ とが起きていたということでしょうか? K:その可能性は高いです。 ただし、 もともと K-H 波が発生する状況であった場合には、 中層雲底乱気流と関係なく、 安定層での乱気 流も起きえますので、 どちらかだったという ことでしょう。 しかし、 もともと K-H 波が 発生しないような状況であっても、 中層雲底 乱気流の発生によって K-H 波が発生しうる ということは面白いことだと思います。 A:中層雲底乱気流が K-H 波を誘発すること があるんですね。 そんなことは今まで聞いた こともありませんでした。 安定層のリチャードソン数を0.5とした場合の実験結果。 気温Tと露点温 度 TD、 乱流エネルギー TKE。 2010 JAN K:私も数値実験をしてみて初めて知りました。 最後にもう一つ面白い結果を紹介しましょう。 図13では安定層の気温を−10℃にして実験を 行ったのですが、 これを変えるとどうなると 思いますか? A:うーん……、 特に違いはないように思いま すが……??? K:それが全然違うんです。 図18は安定層の気 温を−20℃にした場合の実験結果です。 安定 層の気温以外の条件は図13と同じですが……。 A:乱流エネルギーは大きくなっていませんね! K:そうです。 安定層の気温を低くするだけで、 乱気流が発生しなくなるんです。 A:不思議です??? それはどうしてですか? K:気温に注目してください。 3時間後の安定 層の下の気温は初期値と比べると低くなって いますが、 図13aと比べて低下量は小さくなっ ていますよね。 A:はい。 K:しかし、 露点温度は図13aと同じような結 果にはなっていて、 降水の蒸発自体は起きて いるのです。 A:蒸発は起きているのに気温は下がらな い……。 わからないことばかりです??? K:安定層の気温が低くなると、 安定層の上に ある雲の気温も低くなります。 気温が低くな ると、 相対湿度は同じでも含まれている水蒸 気の量は少なくなりますので、 結果として上 図18 空の降水の量が少なくなるのです。 そうする と蒸発する降水の量も少なくなりますので、 それに伴う冷却量も少なくなる、 というわけ です。 A:なるほど! K:もっと面白いことがありますよ。 気温が低 くなると水蒸気の量が減って冷却量が少なく なるわけですから、 気温を高くしていけば水 蒸気量が増えて冷却量も増えていくと思いま すよね。 A:そうなりますよね。 K:では安定層の気温を+5℃にするとどうな ると思いますか? A:降水量が多くなって冷却量が大きくなり、 強い乱気流が起きるのでしょうか? K:実は違います。 図19を見てください。 これ が安定層を+5℃にした場合の結果です。 A:乱流エネルギーは大きくなっていませんね! K:はい。 安定層の気温を高くしても実は乱気 流は起きないのです。 A:頭が混乱してきました??? K:これには降水粒子の落下速度が関係してい ます。 安定層の気温が0℃以下の場合には降 水粒子は雪や氷でできていますが、 0℃より 高くなると雪や氷が溶けて雨になります。 雨 は雪や氷と比べて落下速度が大きいですので、 乾燥域に入っても降水が蒸発する前に地上ま で落下してしまうのです。 これに対して雪や 安定層の気温を−20℃とした場合の実験結果。 気温Tと露点温度 TD、 乱流エネルギー TKE。 2010 JAN 23 図19 安定層の気温を+5℃とした場合の実験結果。 気温Tと露点温度 TD、 乱流エネルギー TKE。 氷は比重が軽いので、 雨と比べてゆっくりと 落下するため、 地上に達する前に蒸発し、 安 定層の下の空気を十分に冷却するのです。 こ のため、 上空の降水は雨ではなく雪や氷でで きている方が都合がいいのです。 A:降水量だけでなく、 降水粒子の落下速度も 雲の下の冷却量に関係してくるんですね。 K:そうなんです。 安定層 (雲底) の気温をい ろいろと変えて実験をしてみると、 乱気流が 発生しやすい条件として、 安定層の気温がお よそ0℃∼−15℃であることが分かってきま した。 実際に中層雲底乱気流と思われる事例 を10例ほど調べてみると、 その時の雲底の気 温はおよそ−5℃∼−15℃で、 数値実験の結 果とよく一致していました。 A:興味深い結果が出ましたね。 K:数値実験から分かった中層雲底乱気流の発 生条件をまとめると次のようになります。 【数値実験による乱気流発生条件】 ・上空には十分な降水がある ・雲の下の相対湿度は十分に小さい ・雲底の気温はおよそ0℃∼−15℃ ・安定層の VWS に依らず乱気流は発生する ●おわりに A:Kさん、 今日は超断熱減率層など今まで知 24 2010 JAN らなかったことや、 K-H 波とは違った乱気 流の解析など本当に勉強になりました。 あり がとうございました。 K:こちらこそありがとうございます。 今回の ことはAさんの観測データがきっかけとなっ て分かったことなんです。 QAR データのよ うな詳細なデータがなければ、 きっと中層雲 底乱気流に気が付くこともなかったと思いま す。 本当にありがとうございます。 A:いえいえ。 私もバーガで揺れるのは経験で わかっていましたが、 バーガから離れても揺 れが続いたのが不思議だったので、 Kさんに データを見てもらいました。 今回のように乱 気流の解析などに航空機の QAR データを活 用できれば、 いままで解明されていなかった 乱気流のことがもっとよく分かってくるんで しょうね。 K:そうですね。 乱気流の予報精度を高めるた めには、 まず乱気流がどうして起きているの かということがわからないといけませんが、 乱気流のスケールというのは現在の観測網か ら見れば空間的にも時間的にも非常に小さい ので、 おそらくこうだろうという推測はでき ても、 それを確かめるすべが今まではなかっ たのです。 今回は幸運にもAさんがとても良 い事例に遭遇したのでデータを見せていただ くことができましたが、 そうでなければここ までのことはわかっていなかったと思います。 A:乱気流の解析などに QAR データが利用さ れることの有効性を、 もっと多くのパイロッ トが理解してくれるようになるといいですね。 K:そうですね。 乱気流というと積乱雲、 K-H 波、 山岳波が主な発生原因と考えられていま すが、 中層雲底乱気流のように未知の乱気流 がまだまだ存在していると思います。 それを 一つ一つ確かめていけば、 乱気流の予測精度 が上がり、 安全性の向上につながっていくは ずです。 A:私たちのデータが、 結局は私たちパイロッ トのため、 さらに航空の安全に大いに寄与す ることになるのですね。 K:そういうことです。 ところで、 気象庁が発 表している国内悪天予想図 (FBJP) では、 中層雲底乱気流を 「OVC AC AS」 という雲 域の表現とともに予想するようになりました。 図20は実際の例です。 A:最近よく見るようになりました。 K:これは、 AC AS が広がっている中で、 FL190/140 で MOD の乱気流が予測される と い う 意 味 で 、 AC AS の 雲 の 厚 さ が FL190/140 という意味ではないことに注意 してください。 このような予測がされた場合 には、 雲中ではなく雲底付近で乱気流の発生 の可能性が高いと考えてください。 降水の状 況によってはもともと雲底だったところが雲 図20 FBJP で 「OVC AC AS」 の雲域表現を用い て中層雲底乱気流を予測した例 中になってしまう場合もありますので、 雲底 ではなく 「雲底付近」 です。 バーガが発生し ているかもしれませんので、 そのあたりも注 意していただければと思います。 A:「OVC AC AS」 は雲底付近に注意、 です ね。 QAR データが予報精度の向上に非常に 有効であることが今回よくわかりました。 私 たちがフライトしているときに遭遇した特異 な気象現象の QAR データをもっと有効に活 用できる仕組みが、 航空局や気象庁、 航空会 社、 操縦士協会などの関係者が話し合って構 築されることを期待しています。 これからも よろしくお願いします。 今日はどうもありが とうございました。 K:こちらこそありがとうございました。 2010 JAN 25 特集 (第29回) 飛行機の流儀・作法 T-6, F-86から C-1, F-15まで り しょう 利渉 ひろ あき 弘章 近影 祖父は白鳳丸の航海士 徳田:今日はお忙しい中、 おいでいただき有難 うございます。 早速ですが、 少年時代の夢をお 聞かせください。 利渉:郷里が館山ということもあって、 家は代々 が海と関係ありました。 曽祖父が千石船での廻 船業、 祖父は農商務省の調査監視船 「白鳳丸」 の運転士 (航海士)、 父も鳳丸などの乗組員、 伯父も捕鯨船に乗っていました。 ですから家に は、 船舶関係や外国の文献などが沢山残ってい たのです。 それで後々に知ったのですが、 祖父 の乗っていた白鳳丸が、 漂流中の吉原清治を助 けたようです。 徳田:ほう、 いきなり歴史的な話ですね。 吉原 清治といいますと、 昭和6年5月、 報知新聞社 の後援によって、 「報知日米」 号で太平洋横断 飛行を試みて失敗した人ですが……。 利渉:そうです。 彼はユンカース A50 ユニオー ル単葉水上機 (80馬力エンジン) で羽田飛行場 わきの海老取川を離陸、 しかし途中、 千島列島 ユンカース A50ユニオール 「報知日米」 号 26 2010 JAN の新知 (シンシル) 島付近でエンジン停止して 不時着水、 漂流すること7時間半、 祖父の乗っ ていた白鳳丸に助けられたようです。 この頃の 祖父は、 北洋や南洋の調査で航海していたよう です。 徳田:吉原は再度、 挑戦したが失敗しましたね。 利渉:そのようですね。 それで私の生家は高台 にあり、 北側の窓からは館山湾が一望され、 北 西には中攻で有名な海軍館山航空隊がありまし た。 幸いに戦時の爆撃の被害が少なかった館山 基地は、 戦後、 海上警備隊が創設され、 米国製 のグラマン TBM、 ロッキード PV-2、 グラマ ン JRF などが飛来して引き渡されました。 さ らに民間の 「おおとり会」 のオースター・イー グレットや青木航空のセスナ C195、 新聞社の 小型機で賑わいました。 それである時、 日の丸 をつけたビーチ B-45 (米軍呼称 T-34A) が我 が家の上空を飛来し、 漠然とですが、 いつかは 乗ってみたいと思っていました。 防衛大学校生活 徳田:防大へお入りになった経緯をお聞かせく ださい。 利渉:私が通っていた安房第一高校は、 旧制中 学以来の文武両道を旨とした学校でした。 兄は すでに大学生でしたが、 家が経済的に苦しいの は分かっていましたから、 一般大学への受験を 躊躇していたところ、 進学指導の先生から、 す でに防大に入学していた先輩の手紙を披露され て、 心が動いたのです。 大学レベルの勉強と同 時に、 パイロットになれるかも知れないという 訳です。 働き者だっ た母親が体調を崩 して47歳で亡くなっ た時期と重なり、 2期校だった東京 商船大学の願書も 取り寄せていたの ですが、 幸いに防 大に合格したので 止めました。 徳田:防大では機 T34 初等練習機上の利渉氏 械工学を専攻され ていますね。 利渉:1年生では基礎課程でしたが、 もともと パイロット志望でしたから、 早速、 グライダー (プライマリー) で飛びました。 これが空へ舞 い上がった最初です。 学校の校庭や藤沢飛行場 で飛びましたが、 3学年では2代目キャプテン になりました。 2学年で陸・海・空に分かれま したが、 希望通り航空要員として、 機械工学を 専攻しました。 パイロット要員としては心理適 性を受けましたが、 ここで種子島時休教授 (東 大航空工学部卒、 「橘花」 攻撃機のエンジン、 ネ−20の開発者) に師事したことは、 後のテス ト・パイロット時代に大いに役立ったと思いま す。 結局、 同期生119名が航空自衛隊へ入隊し ました。 F-86D 全天候戦闘機の装備 徳田:飛行訓練の模様について教えて下さい。 利渉:この時代は、 T-34 から T-6、 T-33 ジェッ ト練習機と進みました。 やはり大変だったのは T-6 テキサンですね。 尾輪式なので前方視界が 悪い、 着陸時のグランド・ループなど、 それか ら星型空冷の重いエンジンを搭載しているので、 スピンからの回復操作が大変でした。 旋転が止 まると、 すかさず操舵を戻さないと、 セカンダ リー・スピンに入るのですね。 T-33 ではジェッ ト機だけあって、 加減速性能のタイミングを掴 むまで、 編隊飛行が大変でした。 結局、 同期生 55名がパイロット要員として投入され、 ウィン グ・マークをとったのは24名でした。 これは当 時、 丁度、 パイロット養成の縮小計画があった ことと関係があったと思いますが、 詳しいこと は分かりません。 徳田:私も往時を思い出します。 それでノース アメリカン F-86D へ行かれたのですね。 利渉:その後、 愛知県小牧市の第3航空団で F-86D を学びました。 これは御存知のように 全天候戦闘機で、 当時の最新鋭の性能、 装備、 機能を有しており、 飛行運用、 要撃管制、 後方 支援などの幅広い分野で、 後の F-104J スター ファイター、 F-4EJ ファントム等の戦力化に、 大きく寄与したと思います。 エンジンのアフター バーナー装備、 電子燃料制御装置、 電子火器官 制装置、 ロケット弾の搭載と、 斬新なものが多 く、 実機搭乗前に、 当時としては珍しい本格的 なシミュレーターでミッチリ訓練しました。 僚機がベイルアウト 徳田:F86D はエンジン故障が多かったですね。 今、 思い出すだけでも、 4件のベイルアウトが ありました。 利渉:やがて整備飛行操縦士の講習を受けて、 F-86D のテスト飛行をしていた時のことです。 高度40,000ft でエンジンがフレームアウトし、 同時にキャビン圧が抜けてしまって、 緊急降下 しながら、 燃料系統をエマージェンシーに切り 替えたことがあります。 20,000ft くらいまでダ イブしました。 それから GCI ミッション (索敵訓練) が終 わって小牧基地へ帰投中、 編隊を組んでいた僚 機の三浦正君 (退職後、 JAC に就職) が、 い きなり 「フレームアウト」 と叫んで、 ベイルア ウトしたことがあります。 高度が4,000ft ほど でしたから、 エマージェンシーに切り替える余 裕がなかったのです。 幸いに彼は無事に着地し て、 救難隊ヘリに救助されまた。 ガンカメラによる評価運用の研究 徳田:F-86D から F-104J へ移られましたね。 2010 JAN 27 た頃、 天候悪化による帰投の無線がはいったの です。 百里ではすでに吹雪で、 シーリングは 500ft を切り、 視界も 1nm ギリギリのようで ロッキード T-104J の編隊飛行 利渉:F-86D を 3 年 9 ヶ 月 間 や り ま し て 、 F-104J へ機種変換訓練に入りました。 さすが にその性能に驚きましたね。 上昇中に音速を超 えたり、 30,000ft のレベルオフが数千 ft もオー バーするほどでした。 F-86D と比べて、 確か にレーダーや火器官制装置の性能は優れていま したが、 その操作方法は、 F-86D のジョイ・ ステックの方が使いやすいようでした。 訓練修了後は、 茨城県の百里基地第7航空団 第206飛行隊に配置されました。 この時の主要 課題が、 「アラート任務準備と待機開始・ガン カメラによるロケット射撃アセッシング方法運 用研究と実用化」 でした。 これはナサール火器 官制装置とガンカメラを改修して、 射撃評価方 法を容易にするもので、 装備隊の FCS 専門家 や空幕派遣の技術幹部らと共同で研究しました。 100ソーティもの実験データを元に、 膨大な資 料を詳細に調べ上げて報告書を作成しましたが、 お陰で採用され部隊は表彰されました。 吹雪のスクランブル 徳田:この時期の百里基地では、 スクランブル (緊急発進) が結構あったと思いますが。 利渉:スクランブルでは思い出があります。 44 年4月のある夜、 3回ものスクランブルがかか りました。 ターゲットは輪島の北の日本海です。 先ずわれわれ2機が出発、 帰投後、 次の待機編 隊の出発、 彼らが帰投後、 再び我々がスクラン ブル発進したのです。 百里基地はすでに雪が降 り始めていました。 それで輪島上空で索敵に入っ 28 2010 JAN した。 乱反射を避けるために着陸灯は Off、 風 防前方には白い雪が勢いよく流れ去り、 不気味 な青白いコロナ放電が緊張をたかめました。 着 陸進入速度は180kts です。 1回目は、 着陸直 前の瞬時の判断で Go Around、 トレイルでア プローチしていた僚機は無灯火着陸に成功しま した。 場周パターンは300kt で飛行、 残燃料も 底をつき2度目の Go Around は不可能でした。 大変緊張しましたが、 GCA の素晴らしい誘導 に助けられて、 無事、 滑走路へ滑り込みました。 春の淡雪が降ると、 いつもこの日のことを思い 出します。 徳田:パイロットというのは、 必ず忘れられな い経験をしますが、 この話も凄いことですね。 各機種の流儀・作法を尊重 徳田:45年3月から岐阜の実験航空隊で、 テス ト・パイロットとしてご活躍されましたね。 利渉:第2期試験飛行操縦士 (TPC) 課程で 教育を開始しました。 教官は米国のエドワーズ 基地テストパイロット・スクール (TPS) 卒業 の根岸俊吉2佐や小田康夫1尉、 吉田圭介1尉 らでした。 教育内容はハードで、 先ず微分方程 式など、 かつて学校で習った数学の復習と試験 の連続、 それから航空工学、 飛行性能、 安定性 操縦性、 飛行試験技法、 空中での試験技法とデー タ収集飛行等々、 息もつかせない10ヶ月間でし た。 この間、 当時、 空自で使用していた戦闘機、 輸送機、 練習機、 ヘリコプターに搭乗しました。 この課程は草創間もないころでしたから、 教 育施設はお粗末で、 旧軍が使用した建物、 真夏 でもクーラーなんかありません。 そんな中で講 義と飛行が交互に実施され、 今のような電卓も 計算機もありませんから、 手回しのタイガー計 算機を使っての、 60余ステップの性能解析では、 大変な時間と労力が必要でした。 しかし、 教官 も学生も意気盛んなものがあったと思います。 徳田:聞きしに勝る作業ですね。 ても回復しなかったから、 さすがに覚悟しまし た。 前席は回復手順を信じ、 操縦桿を中立に保 持していたようで、 4旋転ほどでようやく回転 が止まったときは、 マイナス30−40度の背面ダ イブ姿勢でした。 ロールをうって回復できたと きは、 高度7,000ft でしたが、 貴重な教訓でし たね。 XC-1 型1号機の試験後期の形態 利渉:お陰でいろいろな機種に搭乗しましたが、 資格を持っていない機体への搭乗も、 すべて学 生自身が取り扱いから機体構造を事前に学習し、 一人であらゆる準備をして飛び立ちました。 そ して着陸後は、 同乗していた教官の厳しい評価 が待っているのです。 ここで得た私の貴重な教 訓として、 「飛行機の流儀・作法をよく弁えて 試験飛行に挑むことが、 テスト・パイロットに は必須の要件だ」 ということです。 つまり対象 機体は、 T-34 から XC-1、 F-104 と、 エンジン はレシプロからガスタービン、 操縦桿と操縦輪、 着 陸 進 入 速 度 に し て も 、 90kts/120kts/ 180kts と大変な差がありますから、 飛行前に は、 このような飛行機特性をよく頭に叩き込む ことが、 安全な試験飛行に通じるということで す。 T-33 ジェット練習機で背面スピン 徳田:試験飛行の課程では、 内容によっては、 危険と隣り合わせのときもあると思いますが。 利渉:これには苦い経験があります。 通常は T-33 でのスピン回復訓練はやりませんが、 教 育課程にはあるのです。 ある時、 私が後席で高 度は35,000ft、 それでスピン回復特性試験のた めに、 意図的にスピンに入れました。 8旋転後、 高度20,000ft で前席パイロットが回復操作に入っ た直後、 瞬時に機体がタンブリングし、 背面ス ピンに入ったのです。 いきなりマイナスGがか かり、 ヘルメットをキャノピーの天井に激しく 叩きつけられました。 脱出高度15,000ft を切っ XC-1 輸送機試験飛行の模様 徳田:TPC 課程から XC-1 輸送機の試験へう つられたのですか。 利渉:XC-1 は国産初のジェット輸送機で、 ジェッ ト戦闘機パイロットも開発に必要ということで、 私も参加しました。 これは、 その後の私のパイ ロット人生に大きな影響を受けました。 主契約 会社は川崎重工で、 46年に防衛庁技術研究本部 へ引き渡され、 実験航空隊と共に技術・実用試 験をしたのです。 試験内容は、 飛行性能から始 まって、 安定性操縦性、 構造強度、 エンジン性 能、 操縦装置機能、 系統機能、 空挺降下、 物量 投下などで、 391ソーティ、 968時間が計画され ました。 それで47年末までに370ソーティを消 化し、 大小380件余の機体改修がおこなわれま した。 私はこの年3月から1年4ヶ月間で、 165時間の飛行をしました。 1号機のエンジン 故障で、 片肺で緊急着陸したこともあります。 徳田:緊急着陸について、 お話願います。 利渉:通常の試験飛行空域は串本の沖合でした。 その日、 Max の上昇出力 (EPR2.0付近) で上 昇中、 高度25,000ft を通過するころ、 突然、 右 エンジンの EPR が大きく振れだし、 ヨウ方向 の振動が出たのです。 すぐアイドルまで絞りま したが、 状況は好転せず、 エンジン・カットし ました。 そして緊急事態を宣言、 岐阜飛行場へ 引き返しました。 さらに残念なことに、 燃料投 棄試験は未実施のために燃料投棄は不可でした。 慎重に高度を保持して飛行場上空へ到着、 ワイ ドなパターンを飛びながら、 大重量、 フラップ 15°、 進入速度150kts、 リバーサー使用不可と いう諸々の悪条件のなかで、 無事、 着陸しまし た。 この時、 F-104 の経験が生かされました。 2010 JAN 29 それと TPC での訓練が大いに役立ちましたが、 飛行試験初期での可能な限りの事前学習、 慎重 過ぎるほどの準備の重要性を痛感しましたもの です。 徳田:飛行機開発の生みの苦しみの一端をみた 思いです。 有難うございました。 飛行教育体系の見直し 伊製 Aermacchi SF-260 徳田:48年7月からの飛行教育集団司令部での 仕事について、 お教え下さい。 利渉:指揮幕僚課程修了後に、 飛行集団司令部 研究班に勤務しました。 主な仕事は、 「飛行教 育体系と初等練習機」 です。 広範なものでした が、 先ず飛行教育体系については、 現在の教育 体系をあらゆる角度から見直しを図り、 トラン ジッション、 空中操作、 アクロバット、 編隊飛 行、 計器飛行等の科目別に、 飛行訓練時間と学 生の習熟度を収集整理していきました。 さらに 「理論だけではダメだ。 部隊の意見も必要だ」 という司令官の意見を尊重し、 可能なかぎり各 部隊を回って、 現場の意見を吸収しました。 そ して最後に、 お歴々による逐条審議によって結 論を出したのです。 飛行教育体系の骨格を創り 上げましたが、 飛行時間は、 初級70時間、 第2 初級80時間、 基本操縦120時間、 最後の戦技140 時間ということで、 航空幕僚監部に採用されま した。 次期初等練習機選定の評価飛行 徳田:次期初等練習機の評価作業もおこなわれ たのですね。 利渉:これは教育集団研究班から空幕教育課で 教育体系見直しと平行しておこないました。 新 初等練習機 (BTX) の評価は、 T-34 を基準と した Qualitative Flight Test (性能・特性飛 行試験) プランを作成し、 これに基づいて実施 しました。 富士重工での KM-2B の評価飛行が 手始めでした。 この時、 アクロバット飛行で有 名な新妻東一さんと同乗したのです。 私にとっ ては実験航空隊の大先輩で、 この時も、 鮮やか 30 2010 JAN なエルロン・ロールを見せてもらいました。 それで海外視察は米国とイタリアへ行きまし た。 機体は YT-34C で、 T-34 にビーチ・ボナ ンザの主翼と PT-6 ターボシャフト400馬力を 装備した優れもので、 後に米海軍が採用したも のです。 米海軍 TPS 卒業のボッブストーン氏 と同乗したのですが、 評価飛行後の帰投時、 彼 の操縦で10数分間の背面飛行をやり、 よい思い 出になっています。 同時に、 その性能の良さに 驚きましたね。 次にイタリアのマルケッティ飛行場での評価 飛行は、 260馬力エンジン装備の Aermacchi SF-260 で、 サイド・バイ・サイドの個性的な 機体でした。 テスト・パイロットは、 米空軍 TPS 卒業生のギズレーニ氏でした。 詳細は省 略しますが、 この機体も優れていました。 徳田:結局、 後継機は富士 T-3 になりましたね。 利渉:そ う で す 。 こ の 作 業 は 戦 闘 機 な ど の F-X 作業に比べると地味な仕事ですが、 多く の関係する人々の努力に支えられてやり遂げる ことができました。 最終的に KM-2B を原型と する富士 T-3 になりましたが、 53年からの運 用開始以来、 T-7 と交代するまでの約30年、 1 回の事故もなく、 そして、 ここから飛び立った 学生が第一線の空の守りについていることは感 慨深いですね。 F-15 機種転換教育で緊急着陸 徳田:残念ですが、 途中の多彩なご経歴は省略 します。 それで空自の中枢である幕僚監部勤務 を経て、 空将補に昇格されてから F-15J イー 利渉空将補による F-15J イーグル・ソロ飛行 グルの機種転換教育をされていますね。 利渉:この時、 私は47歳でした。 この機体は 7G を越える抜群の運動性能、 最新鋭の搭載ウ エポン、 これを操るレーダー、 FCC、 飛行制 御コンピューターと各種電子装置の複合的なシ ステムの塊でした。 強靭な体力と優れた操縦技 量が要求されますから、 それまでの F-86D、 F104J、 C-1 とは異なる 「流儀・作法の機体」 でした。 徳田:元イーグル・ライダーから聞きましたが、 相当に体力を消耗するそうですね。 利渉:その通りです。 若手パイロットたちが、 この機体を自由に乗りこなしているのを見て、 羨ましかったですね。 それで転換課程修了間際 に緊急着陸したことをお話しましょう。 私が前 席で科目は要撃と編隊 ACM ミッションでした。 鹿島灘沖合でのミッション終了後、 帰投開始直 後、 ハイドロ・アウトになったのです。 ハイド ロ・ロスは操縦不能の可能性がありますから、 緊急事態を宣言してアプローチしました。 後席 の主任教官松本3佐 (後に JAS 機長) のアド バイスよろしく、 エマージェンシー・ギヤダウ ン、 ブレーキ不作動の可能性があるので、 着陸 後のバリア・ヒットの覚悟でフック・ダウン、 若干低いグライド・パスで着陸、 滑走路端から 数十メートル付近で無事停止したときはホッと しました。 原因はやはりメイン・ハイドロのロ スでした。 最終フライトでの感慨 徳田:我々と違って、 テスト・パイロットとい う危険な仕事を全うされた感慨は、 又、 格別な ものがあると思いますが。 利渉:T-34 から始まって、 戦闘機、 輸送機、 ヘリ、 それからレシプロからジェット機と、 20 機種余を飛びました。 実働部隊から試験部隊の 往復で、 多種多様な機体に搭乗させていだき、 光栄に思います。 その上、 実働部隊での戦闘機 の運用研究や命題研究等、 教育体系の改善など、 パイロットの職責を踏まえた作業は、 やり甲斐 がありました。 徳田:ラスト・フライトは何時でしたか。 利渉:最後のフライトは平成6年3月、 入間基 地で T-33 の前席で飛びました。 初飛行以来、 34年間でしたが、 ジェット練習機による年次飛 行は、 最後まで前席でした。 感慨深いものがあ りました。 徳田:仕事柄、 退職後はいろいろな組織から話 があったと思いますが。 利渉:元テスト・パイロットという観点から、 大学、 航空宇宙学会、 国内航空機メーカーなど から講演を依頼されました。 「航空情報」 誌上 で、 岩瀬健祐さんと対談したことは御存知かと 思います。 さらに最新の航空知識や情報をアッ プデイトする意味で、 アメリカ航空宇宙学会 (AIAA) シニア会員になっています。 士官の前に 「紳士」 たれ 徳田:今までの人生で、 影響を受けた人、 座右 の銘、 書物についてお教え下さい。 利渉:先ず防大時代の槙智雄校長の謦咳に接し ました。 槙校長は英国流のリベラリストとして、 その教育理念は、 軍事専門家に偏しない紳士の 素養をもった士官の養成を目指されていました。 そして、 「紳士たれ」 「奉仕の道を一筋に」 と言 われ、 そのバックボーンとしての薫陶・感化は、 精神的支柱になりました。 それから前掲した種 子島時休教授には、 ガスタービン・エンジンの 性能分析と設計についてご薫陶を受け、 その後 の私のテスト・パイロット時代の技術的対応に 大いに役立ちました。 さらに部隊では、 鏑木健 夫空将 (総隊司令官) です。 上に立つと見えな くなるものが三つある。 それは、 自分、 忠臣、 2010 JAN 31 物・カネと言われ、 心に刻んでいます。 徳田:たいへん味わい深い言葉ですね。 利渉:座右の銘については、 「当たり前のこと を当たり前にやる」 ということです。 書物につ いては、 古い本ですが、 昭和7年に新光社から 出版された 「航空の驚異」 が、 パイロットとし ての糧になっています。 パイロットの心得 徳田:今までのパイロット人生での教訓があり ましたらお教え下さい。 利渉:これは私が現役のときに投稿ないし掲載 された、 上司からの言葉がありますので、 これ を纏めてみます。 自戒も含めていますが、 操縦 士協会の皆さんにも、 本質的に共通すると思い ます。 1. 飛行機を良く知ろう。 飛行機乗りの飛行機 知らずになるな。 そのためには、 継続した 勉強・研究が必要です。 2. 空の状況を把握しよう。 自然に逆らわない。 過去の事故例は天候が大きく影響している。 3. 準備に万全を期そう。 心配事は空中にもっ て上がらない。 体調不良時の乗務回避や事 前の準備は、 飛行安全に直接かかわってく る。 4. 兆候を見逃すな。 格好悪い選択をする勇気 をもとう。 小さな兆候は見逃しやすく、 格 好が悪いと、 対応を躊躇し勝ちになる。 5. 人に頼れる部分は限られている。 自分で自 分の機体・生命を守ろう。 空中では外界か らの助けには限界がある。 6. 部下をよく見よう。 人間は基本的に過ちを 冒し易いので、 繰り返しの指導が必要。 徳田:まさに至言だと思います。 本日は長い間 有難うございました。 利渉弘章氏略歴 昭和12年12月14日生、 千葉県館山市柏崎出身 昭和35年3月 防衛大学校 (機械工学4期) 卒業 昭和37年5月 第3航空団・F-86D パイロット 32 2010 JAN 昭和41年7月 第7航空団 (百里基地・F-104J 戦闘機パイロット) 昭和45年3月 実験航空隊 (岐阜基地・XC-1 輸送機テスト・パイロット) 昭和53年9月 防衛研修所 昭和55年8月 航空幕僚監部防衛課防衛班長 昭和59年6月 航空幕僚監部人事課長 昭和61年4月 第7航空団司令兼百里基地司令 (F-15J 戦闘機パイロット) 昭和62年7月 防衛大学校教授 平成1年3月 航空開発実験集団司令部幕僚長 平成2年3月 航空総隊司令部幕僚長 平成3年7月 中部航空方面隊司令官・空将 平成5年3月 航空自衛隊幹部学校長 平成6年3月 航空自衛隊退官 平成6年7月 住友精密工業入社 顧問 平成7年4月、 12年6月 中華人民共和国訪問 (中国政経懇談会第19次、 23次 訪中団) 平成7年9月 アメリカ合衆国 訪問 平成8年3月 タイ王国 シンガポール 訪問 平成14年5月 大韓民国 訪問 平成15年12月31日 住友精密工業退社 平成21年4月 瑞宝中綬章授章 飛行時間:4,004時間 乗務機種 22機種 T34, T6, T1A/B, T2, T33, T4, F86D, F104J, F104DJ, F15J, F15DJ, C46, YS11, XC1, C1, H19, S62, KM2B, YT34C, SF260 アメリカ航空宇宙学会 (AIAA) シニア会員 取材を終えて:9月末に操縦士協会までお 越しいただいてお話を伺った。 さすがに空自 の中枢を歩まれた人だけに内容が多彩で、 紙 面の都合で、 その一部しか掲載できないこと が残念でならない。 しかも、 事前に私が連絡 していた質問事項について、 丹念に箇条書き にして準備しておられたことに、 元テスト・ パイロットの姿勢をみた思いで頭が下がった。 3時間余の取材に丁寧にお付き合いいただき、 有難うございました。 徳 田 「ハートで飛ばそう!」 Fly with Airmanship ! 5 運航技術委員会 山 博行 ・運航技術委員会では、 前号に引き続き操縦技術や経験の伝承というコンセプトで、 操縦の技量向 上につながる考え方や、 ヒントのようなものをまとめています。 …………………………………………………………………………………………………………………… ・Pilot の操縦操作は 「見よう見まね」 でもあ る程度のレベルまでは向上できます。 しかし その上のレベルを目指すには理論的裏づけが 大きな要素になってきます。 ・今回からかなり数式が多くなり、 読者の頭痛 のタネなりそうですが、 私を教えてくれた先 輩 (故人) は“すぐにわからなくてもいいん だ、 いつかわかればいい”とよく言われてい たのを思い出します。 ・昨年、 ノーベル物理学賞を受けられた益川敏 英博士がテレビのインタビューに答えて“常 に考え続けることですよ!”と言っておられ ました。 同じ意味だと思います。 前回は Takeoff でしたが、 今回は“Climb” についてお話しします ・迎え角 は主翼と胴体を一体とみなして胴 体の中心線と FPA のなす角度であらわされ ています。 (Bank が Zero の場合) ・ADI に表示される Pitch Angle と は上 方を (+)、 下方を (−) とすると上昇中も 降下中も、 次の関係が成立します。 これは、 私たちが Attitude Flying と言って いる大切なよりどころの数式です。 【Gradient γ】 飛行機の上昇の力学は次の左の図ように、 高 校の物理の教科書に出てくるような斜面の力 学と同じことです。 操縦の心 【Flight Path Angle と Pitch Angle】 ・これを前後方向の加速力 に着目して釣り 合いを考えると、 ・静止大気を座標系として、 水平線と機体の運 動 方 向 の 角 度 が Flight Path Angle (FPA) です。 2010 JAN 33 は質量×加速度 ですから、 → この式を整理して を小さな値とし角度をラ ジアンで表すと、 として良いので、 … は右辺の FPA と の和であることを示しています。 式から左辺の [例題1] B777-200ER 機が180kt で離陸上昇中の上昇 勾配 を求めてみましょう。 ・Gross Weight 600,000lbs、 Flap 5 ・Max Takeoff Thrust≒68,000lbs/1ENG ・ただし、 実際は上昇とともに TAS が増加 する加速度飛行ですが、 低速域では小さい ので簡略のため、 を0とします。 ・まず Aero Drag を求める前に揚力係数 を揚力の公式から算出します。 … ・ (EAS) 180kt と に B777 の主翼面積 4605ft2を用いると、 上式は となり が得られます。 ・約41,400lbs として式から を求めると 34 2010 JAN ・0.157は約16%の Gradient で、 ラジアンを 角度に直すと FPA は となります。 ・さらに1,500ft で Max. Climb Thrust (≒ 53,000lbs/1ENG) に Thrust を絞ったと すると、 上記 で FPA は になります。 【Rate of Climb R/C 】 Rate of climb は次の図のように、 TAS に を掛けて得られます。 を求めてみます。 ft/min で答えを得るには、 kt→ft/sec の換 算率1.688と、 60秒の60を掛けて、 =180×1.688× ×60≒2850ft/min となります。 ・同じように、 Climb Thrust に絞ったあとは FPA が となり、 約1900ft/min となり ます。 例題1のケースで FPA 上の ∼ のチャートから が0.082 となります。 したがって Drag は式と 同じように がわかれば速度を分速にし、 FPA を掛 けて100倍すると暗算でも概略値が求まりま す。 計算方法に親しんでおくと役に立ちます。 180kt は 3nm/min から 3×6.0×100≒1800 (ft/min) ÷分速を1/100 してやれば FPA を得ることもできます。 Pilot にとって分速は LNAV、 VNAV 含め Navigation のさまざまな場面で有効に使え ます。 十分に慣れておくと良いでしょう。 逆に上昇率と分速から [例題2] ここで Pitch Angle を求めてみましょう。 ・前出、 (:FPA、 :迎え角) なので迎え角 を求めます。 ・次の Falp 5 の のグラフを使い、 例題 1で求めた から迎え角 を得ます。 Takeoff Thrust で =9.0+7.9≒ Climb thrust では =6.0+7.9≒ となります。 【FPA と Acceleration】 で等速 (=0) で上昇してい いま FPA る機体がそのまま Thrust を変えずに水平飛 行に移行したとすると、 として加速度 を求めてみます。 ただし重力 加速度 は32.17ft/sec2 、 ft/sec2 から kt/sec への換算は1.688で割ることによって得られ ます。 これは の FPA が1kt/sec と等価であるこ とを示しています。 これは上昇の時だけでなく、 次の図のように 降下中でも FPA で降下中、 水平飛行に 遷移すると 1kt/sec の減速飛行となります。 さん から 3° ノット 水平飛行で 1kt/sec 例題1の Climb Thrust で1,900ft/min で上 昇してきた機体の Pitch を下げ、 約半分の 1,000ft/min (FPA ) で 加 速 す る と 、 1kt/sec で加速し、 さらに水平飛行 (FPA ) に移行したとすると 2kt/sec で加速 することになります。 T−D Vertical NAV のエッセンス W 【Acceleration と Clean Up】 機体が浮揚したら、 Drag となる Flap はご 用済みでなるべく早く Clean Configuration に移行します。 し か し 浅 い FPA で 急 に 加 速 す る と Flap Placard Speed に近づき Pitch を再び上げな ければなりません。 機体の重量と余剰 Thrust を 考 慮 し て 適 切 な Vertical Speed を 選 び Steady に Clean Up すれば、 快適性の上で も Scan の 余 裕 の う え で も 好 ま し い Clean Up となります。 Clean Up が終わって250kt に近づいてきた ら、 ゆっくりと Target Pitch に近づけ Trim を取ります。 2010 JAN 35 【Clean Up 中の Stall Margin】 Flap を上げる操作をした直後は部分的に Stall Margin が十分ではない場合があります。 次の図は B777-200ER で例題1のケースで Gross Weight 600,000lbs 、 Max Climb Thrust で +15kt、 Flap 5 から1kt/sec で 加速していった場合の Stall Margin の変化 を表したものです。 なお Flap の作動時間は Flap 5 →1が18 sec、 Flap 1 →0が11 sec と 想定してあります。 角 が大きくなると、 失速速度 は の式から、 次の 図のように大きくなります。 Bank Flap 1 から Flap Up に Flap Lever を操作し て11秒後に Flaps/Slats が上がりきって、 Clean に な っ た 時 の 速 度 が 227kt な の で Stall Speed 183kt に対し、 1.24 の速度な ので Stall Margin が少ないことがわかりま す。 また、 特に Heavy Weight の時に Margin が少なくなる傾向があります。 さらに Bank したり、 Turbulence がある時 はGがかかると失速速度が増加する事を念頭 に注意深い Control が必要です。 自分の乗務している機種について数値を当て はめて計算して、 どの付近で 「余裕」 が少な いか確かめてみることをお勧めします。 マージンを 知るほど深まる Safety 【旋回, Load Factor, n 】 旋回中の Force Balance は次の図のように 水平飛行 (1G) より大きな揚力 が必要と なり、 Load Factor がかかっています。 36 2010 JAN Bank 増し 失速速度も 増加する 【旋回半径】 旋回半径 は、 次の式であらわせます。 ある Bank 角での旋回半径は、 速度 (TAS) の2乗に比例します。 ここで簡単な旋回半径 の算出方法は? TAS 180kt (分速 3nm)・ Bank がちょ うど旋回半径1マイル、 を利用します。 分速 を2乗し、 得られて値に10%を加えて10分の 1すれば暗算でも簡単にできます。 TAS 240kt (4nm/min) では =1.8nm、 ですが、 360kt (6nm/min) では =4nm にもなり、 適切なタイミングの加速の必要性 が実感できます。 【Acceleration Factor】 先ほどの例題では、 加速度0として計算しま したが、 実際には IAS 一定で上昇中は TAS が増加する加速飛行です。 250ktや300kt と 速度が大きくなってくると加速による の減少も無視できなくなってきます。 前述の式を変形すると … Acceleration Factor となり、 分母の括弧内の右側の部分は加速度 の程度を表す Acceleration Factor (A/F) になります。 括弧内のA/F は TAS と高度あたりの速度 の変化率 の積 ( は定数) で TAS の増加とともに大きくなり、 そのぶん分母が 大きくなるので が減少していくことが わかります。 次のグラフは標準大気中を3,000ft まで180kt、 4,000ft∼10,000ft 250kt 、 11,000ft 以 上 300kt/Mach.80 で 上 昇 し て い っ た 場 合 の TAS と A/F の変化の様子です。 強いJet 気流に向かい上昇している時は風速 の増加で や を超えかねません。 SPK を離陸して、 HKD 上空で予想通り IAS が増加し Thrust を Idle 付近まで絞っても加 速が続いた経験があります。 加減速の傾向を 理解して、 風速の変化傾向に注意をはらって いれば、 余裕を持って操作でき、 あわてる必 要はありません。 Climb 中 Wind Shear に 要注意 【Best Gradient Speed】 前述式から加速力すべてを上昇角度に費や すとして =0とすると、 となります。 Thrust は速度によって変化しますが、 概 略 D/L が 最 小 と な る よ う な 速 度 で Best Gradient (Angle) を得られることがわかり ます。 次の B777-200ER の図のように Jet 旅 客機では Clean では概ね250kt 前後が Best Gradient Speed となっています。 【Best Rate of Climb】 11,000ft から30,000ft まで300kt CAS Constant で は 1,000ft に つ き 約 6kt の 割 合 で TAS が増加しています。 31,000ft から Mach constant で TAS はピー クの469kt から圏界面の36,089ft まで気温が 低下するため、 減速飛行となり、 A/F はマ イナス (−) となっています。 圏界面の36,089ft から上は温度が一定なので、 Mach.80 で TAS が 一 定 と な り 、 Acceleration Factor は0になります。 30,000ft 付 近 で は 、 CAS constant か ら Mach Constant に切り変わるので Speed の Monitor が重要です。 冬場300hpa 付近の Polar Jet では強い Wind Shear がしばしば存在します。 上のグラフは B777-200ER、 Gross Weight 600,000lbs、 Max. Climb thrust、 25,000ft、 ISA±0℃で上昇性能を計算したものです。 この図から Best Rate of Climb Speed が約2 90kt、 Best Gradient Speed が250kt 付近と なります。 2010 JAN 37 伸びの効果が加わって、 上昇性能は著しく低 下していきます。 グラフ−① グラフ−② グラフ−①は Max Climb Thrust で Best Rate of Climb Speed の重量による変化傾向 を見ることができます。 機体重量が400,000 lbs から600,000lbs に増加するにしたがって、 Best Rate of Climb Speed が255kt から283 kt へ大きくなっています。 グラフ−②は機体重量500,000lbs で10,000ft から30,000ft まで高度が上がっていくにした がって、 やはり Best Rate of Climb Speed が255kt から272kt まで大きくなっています が比較的変化傾向は少ないといえます。 適切な Speed 選んで 効率 Climb 【OAT の影響】 OAT が ISA に対して10℃上昇すると、 TAS が2%程度大きくなり、 式から も2 %大きくなりますが、 温度が上がると次の図 のように 「気柱の伸び」 で同じ気圧高度 hp でも10℃につき4%の割合で真高度が高くな ります。 相殺して目的の高度への到達時間が 概略2%程度長くなります。 しかし OAT が ISA+10℃以上になってくる と 、 次 の 図 の よ う に Engine の Thrust が Flat Rating から Turbine Temp. Limit の Full Rating となって減少し、 さらに気柱の 38 2010 JAN 【風の影響】 向かい風を (−) 追い風を (+) であらわし、 風速を とすると、 風を受けた場合の上昇 角度 wind は図中のような式となり、 当然 向かい風のほうが早く所定の高度に達します。 また高度によって風速が変化する場合は前出 の Acceleration Factor を加味することによっ て算出できます。 【Mach Constant Climb】 30,000ft 付近から Mach Constant にする場 合、 標準大気と仮定して圏界面まではリニア に温度が低下するので、 音速が小さくなって 行きます。 Mach 数を一定に保つには 「減速」 飛行しなければなりません。 したがって少し Pitch を上げる必要があり、 結果的に上昇率 が大きくなります。 同じく標準大気で圏界面を超えると、 外気温 が一定になり、 TAS は一定となり加減速は ありません。 しかし実際のフライトでは気温が一定になる ほうがめずらしく、 を超えないよう注 意が必要です。 ICAO の Recommendation にもありますが、 Level Off の 高 度 に 近 づ い た ら Vertical Speed に気を配り、 Climb Rate が過大な時 は Auto Pilot/Auto Throttle まかせにせず、 Pitch Mode を 他 Mode に 切 り 換 え る 、 Thrust を減らす、 などで、 Traffic Conflict と TCAS RA の発生を避けるよう努めるべ きです。 高性能 うまく使って 安全操縦 予想外の気温や風の変化で計器の Mach 数 が急に変化する場合もあります。 Pitch を大 きく変えないように Speed Trend を把握し ながら Instrument を Monitor しましょう。 【Climb 中の Vertical Navigation】 Climb 中に考えられる最大の危険は Traffic Conflict でしょう。 大きな Thrust で機体が 勢い良く上昇している時、 危険はもはや通り すぎた下の Area ではなく現在の高度より上 の Area であることは間違いありません。 したがって ATC からの“Climb and maintain ○ ○ thousand ” と い っ た 指 示 は 上 の Traffic で押さえられるので、 交信のやりと りは言語明瞭でなければならず、 Pilot の機 内の操作の誤りは絶対に許されません。 同僚に 「今まで危険な目にあったことがある か?」 と問うとほとんどの Pilot が TCAS の RA をともなう Traffic Conflict を挙げます。 ATC からの言語による指示は 「点の情報」 なので、 それのみに依存することなく Outside Watch と TCAS の表示、 管制官と周囲 の Traffic の交信などの情報を総合的に把握 して、 過誤の起こる確率を最小化しなければ なりません。 前出のグラフなどからも分かるように、 最近 の Jet 旅客機の Engine の性能向上や双発機 の増加などで、 推力と重量の比 (T/W) が 大きく高性能となっています。 【Enroute Climb】 Climb は離陸後の加速と Clean Up の操作に 始まり、 ATC との交信、 中途の Level off 操作、 Weather Avoidance、 Seat Belt Sign の消灯の見極めなど低高度ほど忙しく、 高度 が上がるにつれて、 余裕が増してきます。 目的の Cruise Level に達し、 機体が安定し たら、 「この先、 揺れはないかな? 定刻に 着けるかな?」 と考えてから遠くの景色に目 をやりホッと一息つく瞬間は Pilot のささや かな楽しみです。 Level off、 水平線や外の景色に ホッと一息 心なごむ 次回は Cruise についてお話します 注:本文中説明の簡素化のために IAS、 CAS、 EAS、 TAS を、 厳密に区別していない部分が あります。 低高度ではこれらは同じものとして かまいません。 2010 JAN 39 航空医学適性のQ&A 健康管理について考えてみよう! 第9回 ダイエット 1:飽食の時代と進化 肥満の95%以上は食べ過ぎに運動不足が重なっ た単純性肥満です。 多くの肥満は、 食事と運動量のバランスによっ て現れます。 肥満になるのは次の三つです。 1) たくさん食べて運動量が普通、 2) 普通に食べ ているが、 運動量が少ない、 3) たくさん食べ て、 しかも運動量が不足している。 摂取するエネルギー (食事や飲み物) に比べ て、 消費するエネルギー (運動など) が少ない 場合、 余分なエネルギーは皮下脂肪や内臓脂肪 といった脂肪組織に変化し、 体内に蓄えられま す。 この脂肪がある一定以上を超えると肥満に なります。 つまり肥満は、 食事と運動量のきわ めて単純な足し算引き算でおこるものなのです。 そもそも、 人類は400万年の間進化を遂げて きました。 ところがこの進化の過程のうち 99.9999%が飢餓との戦いでした。 食べ物が満 足に得られないがゆえに、 人類は進化し文明を 築くことができたともいえます。 そのため、 人 間のホルモンや代謝の仕組みはすべて飢餓を克 服するために進化してきました。 ところが、 ここ50年間は飽食の時代。 しかも、 これに運動不足が加わります。 このような事態 はおおげさではなく、 人類が初めて経験するも のです。 つまり、 人類の体には飢餓に対するホ ルモンは数多く準備されているのに、 飽食に対 するホルモンはインスリンのみと、 まったく歯 がたたない状況になっているのです。 2:肥満の診断 さて、 肥満の目安にはどんなものがあるので 40 2010 JAN 航空医学委員会 しょうか。 肥満の目安のひとつとして体脂肪率 というのが上げられます。 体に蓄えられている 脂肪の割合を言います。 体脂肪率は測定器で簡 単に測ることが出来ますが、 測定器が無い場合 には、 次の二つの方法で調べることが出来ます。 A) 標準体重=(身長−100)×0.9 肥満度=(体重−標準体重)/標準体重% この計算により+−10%以内なら正常、 10−20%で太り気味、 20%以上で肥満となり ます。 B) BMI (Body Mass Index)= 体重 (Kg)/身長 (m) の2乗 平均は21−22、 25以上で肥満。 30以上で高 度肥満。 ちなみに航空身体検査においては、 心血管 系に関する他の危険因子の有無について検討 し、 乗務中の急性機能喪失の危険性に勘案し て判断することとなっています。 具体的には 心エコー、 ホルター心電図、 トレッドミル負 荷心電図などを行うこととなります 3:肥満の功罪 肥満は内蔵や血管、 代謝系、 ホルモン分泌、 関節や骨格、 骨などの人間を構成する殆どの部 分に負担をかけ、 重大なトラブルを引き起こし ます。 例えれば、 ジャンボジェット機をシング ルエンジンで飛ばすようなものです。 また、 肥満性高血圧というものもあります。 これは、 肥満が解消するだけで血圧が正常に戻 る高血圧です。 体重が4kg 増加すると、 収縮 期血圧は20mmHg 上昇するといわれます。 原 因の主なものは中性脂肪です。 体内で消費しきれなかった糖質や脂質などの エネルギー源は中性脂肪として蓄えられます。 さらに、 あまった中性脂肪は血液の中にも入り 込みます。 これまでサラサラしていた血液に中 性脂肪が加わると、 ドロドロになってしまいま す。 ドロドロになった血液を送り出す為に、 血 圧は上昇します。 それだけではなく、 血管の内 側には脂肪分が付着し内径は細くなり、 そこに 圧力が加わった血液が流れることになります。 結果、 血管は弾力性を失い動脈硬化を引き起こ し、 血圧はさらに上がってしまいます。 肥満の罪はよくわかりましたが、 さて、 功に は何があるのでしょうか? かつて、 医師国家試験の準備のプリントに BMI>30の試験委員がこう書いてました。 「肥満の利点はただ一つ、 見た目が美しい」 と……。 4:ダイエット ダイエットの目的は 「脂肪を取り除く」 こと です。 「体の水分を取り除く」 のではありませ ん。 サウナなどでいくら汗をかいても、 水分し か抜けません。 それでは、 水 (ビール) を飲め ば元に戻ってしまいます。 つまり、 水分を減ら して、 一時的に体重を落としても意味がないの です。 大切なのは体の脂肪分を燃焼させ、 減らすこ とです。 体の脂肪は運動することでしか減りま せん。 他のいかなる方法も、 一度ついてしまっ た脂肪を減らすことは出来ないのです。 では、 具体的な方法です 女性の標準的な体脂肪率は20−25% 男性の標準的な体脂肪率は15−18%です。 女性では30%、 男性では20%を超えると 「肥 満」 となります ここで体脂肪率25%、 体重80kg の男性を考 えましょう。 5%の体重=4kg が余分な体脂肪というこ とになります。 大型のペットボトル2本分を減 らさなくてはなりません。 体脂肪1kg を減らす為には、 7200キロカロ リー消費する必要があります。 フルマラソン1 回で2300キロカロリーの消費といわれます。 つ まり体脂肪1kg 燃やす為には、 フルマラソン 3回でも足りないということになります。 これ は到底無理な話です。 では、 ウォーキングはどうでしょう。 1日1万歩とよく言われます。 一日1万歩で 消費されるエネルギーは200−300キロカロリー といわれます。 なんだすくないなと言わないで 下さい。 これを毎日続ければ、 一ヶ月で6000− 9000キロカロリーとなります。 多少サボったと しても体脂肪を1kg ほど消費できます。 4ヶ 月続ければ、 4kg の体脂肪が取れる筈です。 もし、 効果がないとすれば、 摂取カロリー (食 事) が多いということになりますので、 適宜歩 数を増やしてください。 もうひとつ忘れてはい けないのは20分以上続けて初めて脂肪は燃え出 すということです。 いくら1万歩といっても、 細切れはあまり効果がないのです。 ちなみにゴルフ1ラウンドで8km、 大人の 歩幅は80cm ですから、 1万歩はクリアーでき るはずです。 ただし、 ラウンド後のビールは禁 物ですが……。 2010 JAN 41 連 載 航 空 史 ● 曼 ● 陀 その33. 米国のエアレース百年史 羅 昨年9月16日から20日の5日間に亘って、 ネ バダ州リノの北8マイルにあるステッド飛行場 において、 第46回ナショナル・チャンピオンシッ プ・エアレースが華やかに開催された。 いうま でもなくエアレースと航空ショーの世界最大級 の祭典である。 ウォー・バーズの祭典には、 1千 人近いパイロットが、 それぞれの自慢の機体で乗 り込んでくる。 連日にわたって米海軍の F-18 ホー ネットによるアクロバット・チーム 「ブルー・ エンジェルズ」 の展示飛行、 おなじみのレッド・ イーグル・チームによるアクロバット飛行、 軍 民によるデモンストレーション飛行、 さらに地 上には無数の機体が展示される。 もてる国アメ リカならではの壮大なスケールが羨ましい。 ブルー・エンジェルズの密集編隊飛行 ここでは、 およそ百年にわたる米国のエアレー スの歴史を追ってみたい。 産業革命以来、 われわれは開発したあらゆる 動力で動く器機によるレースの道を探ってきた。 蒸気機関車レース、 河での蒸気船レース、 道路 やトラックでの自動車競走等々、 多彩である。 高層ビルの頂上へ向かっての、 エレベーターに 42 2010 JAN 徳田 忠成 よる競争レースがあっても可笑しくない。 有史以来の人間は挑戦的な動物といってよい。 従って、 米国オハイオ州で自転車を作っていた ウィルバー・ライトとオービル・ライト兄弟が 1903年12月17日、 ノースカロライナ州キティホー クで世界初の動力飛行機を飛ばしたことで、 や がて先駆的なパイロットたちによる競争が始まっ たとしても、 驚くに足らない。 先ず1909年夏、 それがフランスでおこなわれた。 しかし、 航空の世界でのパイオニアたちは、 それまで誰も経験したことがない新しいコンセ プトで行なう必要があった。 彼らは限られた技 術の中での試合方法、 飛び方などを決めなけれ ばならない。 それには勇気と想像力と正確さが 要求された。 何百年も鳥を眺めながら、 彼らは グライダーを創造したが、 離陸し、 上昇し、 空 中で旋回をすることは、 大変な前進であった。 しかし、 鳥が空に浮かんでいることから教えら れるヒントには制限があった。 只、 彼らの情熱 とチャレンジ精神のみが、 最良の方法を見出す 術だった。 新聞や出版社は、 航空への刺激的な挑戦をあ おる企画を書きたてた。 ロンドン・ディリー・ メイルは、 1909年当初英国海峡を最初に横断し たパイロットへの賞金を発表した。 これに飛び ついたフランス人ルイ・ブレリオは、 1909年7 月25日早朝、 英国からフランスへ飛びきって賞 金£1,000をものにした。 ブレリオの海峡横断飛行は、 ヨーロッパ中を 興奮させた。 フランスのシャンパーニュ地方の ワイン製造業者が集まるランス市は、 飛行距離、 最高々度、 高いタワーを旋回する最高速度といっ 英仏横断飛行のブレリオ型機 た諸々の種目に対する賞金を提供する1週間も のエアレースを企画した。 レースは、 この年8 月22−29日、 ランス市街地のベサニィ・プレイ ンでおこなわれた。 ニューヨーク・ヘラルドとパリ・ヘラルド社々 主ジェームズ・ゴードン・ベネットは、 ヨット・ レースに対してトロフィーと賞金を出す永年の スポンサーだった。 彼は新しいエアレースに飛 びつき、 ランスでの速度競争に賞金を提供した。 そして、 多くの飛行機と命知らずのパイロット が、 世界初のエアレースに参加した。 以来、 約 6年間というもの、 飛行機開発は熱をおび、 大 西洋の両サイドで大変な人気を呼んだ。 フラン スでは、 ファルマン、 アントワネット、 ヴォア サンが創った飛行機、 それからライト兄弟の設 計を模した飛行機が飛び交った。 彼らの飛行機 熱に応えて、 兄ウイルバー・ライトが1908年に 数ヶ月間、 フランスに滞在して多くのデモ飛行 をおこない、 飛行記録をのばしていった。 アメリカでは、 技師兼パイロットのグレン・ カーティスがプッシャー式の小型複葉機を製作、 ジューン・バッグと名づけた。 ランスでのデモ 飛行に学んだカーティスは、 重量を軽くし、 よ り強力なエンジンを装備して速度増加を図った が、 それはベネットが提供する賞金目当てだっ た。 彼はテスト飛行をしないまま、 ランスでの速 度競争へ参加するために大西洋を渡った。 エア レースの見学に集まった群衆の中には、 王族ら ハイ・クラスの人々も含まれていた。 初日は雨 だったが、 群集は初めて見る飛行機に興奮した。 最終日は速度競争とゴードン・ベネット杯が 実施された。 フランスのブレリオとルフォブレ、 イギリスのヒューバート・ラタム、 スコットラ ンドのジョージ・コックバーン、 それにアメリ カのグレン・カーティスの5人が競った。 速度 競争ではコックバーンが一往復の後、 干草の山 にヒットしてゴールを失敗、 直線で早かったブ レリオは、 旋回時でカーティスに追い越され、 5.8秒差でカーティスが優勝した。 ルフォブレ とラタムはゴール寸前で脱落した。 平均約72 km/h のカーティスは、 賞金$5,000を獲得し た。 この地でのカーティスは、 他のイベントに も勝ちをおさめている。 アメリカへ帰ったカーティスは、 ニューヨー ク・ワールド新聞による賞金1万ドル、 つまり ニューヨーク州アルバーニからニューヨーク市 間を最初に飛んだパイロットに与える賞金をも のにし、 他の長距離飛行に対しても、 科学アメ リカ雑誌社が提供した杯を手にしている。 1908 年の彼は、 39.5キロを飛行しているが、 わずか 1km の飛行距離、 1秒の優速飛行で容易に勝 者となり、 賞金を稼いだ。 そして稼いだカネは 飛行機製作につぎ込んでいった。 ベネット杯は5回以上開催されたが、 カーティ スのランスでの勝利によって、 第2回目のエア レースは米国開催となった。 ニューヨークのロ ングアイランドで開かれた大会では、 100馬力 のブレリオ単葉機に乗った英国人クロード・グ ラハム・ホワイトが優勝、 第3回目は英国で、 フランスのニューポール機を操縦した米国人 チャールズ・ウエイマンが優勝した。 第4回、 第5回とベネット杯に勝った後、 フ ランス組はリタイアしたが、 第一次大戦後の 1920年に開催されたサデ・レコンテ大会では、 ニューポール29型で168.732km/h を記録し、 再び優勝している。 ニューポール29型 (日本陸軍甲式4型戦闘機と同型) 2010 JAN 43 第一次大戦中は、 航空イベントを含むすべて の国際スポーツ大会が中断された。 飛行機が発 明されて丁度11年になった1914年に始まった戦 争は、 新しい形の競争を生み出し、 飛行機開発 が加速していった。 つまり、 空中での優秀な戦 闘能力のコンテストである。 再びヨーロッパは、 新しい設計概念で米国を凌駕していった。 この 時期、 まだ米国は飛行機をどのように活用する か、 模索の時代にあった。 例えば1913年、 フラ ンス政府は飛行機開発費として174万ドルを計上 したが、 アメリカ政府は単に12万5,000ドルを投 じたにすぎない。 従って、 戦争が始まったとき、 ヨーロッパの飛行機設計者たちは、 より高性能 の飛行機開発に忙殺されたが、 米国には戦闘用 飛行機は一機もなかった。 1914年の米国といえ ば、 飛行家リンカン・ビーチらが、 埃っぽいレー ス・トラック場で、 空中から競争用自動車を追っ かけて、 大衆を喜ばせていたに過ぎない。 米国は1917年に第一次大戦に参戦したが、 自 国に戦闘機はなく、 SPAD のようなフランス 製戦闘機を購入するという泥縄で始まった。 ア メリカ人パイロットは自国でカーティスが設計 した JN-4 ジェニーで訓練をおこない、 フラン スに到着後はフランス製飛行機に搭乗して戦っ た。 従って、 エディ・リッケンバッカーのよう に、 大戦終了後の米国人エースはまれであった。 27機撃墜し、 米国人第一の撃墜王になった彼は、 戦後、 アメリカン航空を設立、 30年間にわたっ て社長として君臨している。 スポーツとしてのエアレースが終戦と同時に 再開された。 1919年には、 ニューヨークのロン グアイランドにあるミッチェル基地でピュリッ ツアー杯レースが開催された。 再び、 記録を競 う飛行機レースが始まったのである。 1922年に はミッチェル・トロフィーが設立された。 これ は指定された地域でお互いが競い合う、 事実上、 最初のエアレースであった。 法人組織のナショ ナル・エアレース (NAR) 会社が設立され、 毎年のエアレースが企画され、 オハイオ州クリー ブランドで労働祝祭日に執り行われた。 1929年夏には、 このエアレースに新企画が導 入された。 その夏は、 レース用の飛行機に制限 44 2010 JAN をつけない、 つまり、 どんな機体でもどんなエ ンジン装備でも参加できるのである。 エアレースは“どんな陸上機でもエントリー 可能”と発表されると、 熱烈な参加者の間に興 奮が高まっていった。 新しいレースでの10日間 の最後の日は、 クライマックスとなることが予 想され、 その日だけでチケット販売が5万枚を オーバーし、 1929年の記録をつくった程である。 しかし、 企画者にとってはある問題が持ち上がっ ていた。 ショーを盛り上げる出し物を提案した にもかかわらず、“制限なし”のイベントにトロ フィーを出そうというスポンサーがいなかった。 このエアレース機構を運営している人たちは、 地域ビジネスマンを訪ね歩き、 スポンサーを募っ た。 クリーブランド州のトンプソン産業の製造 会社を運営している責任者リー・クレッグとレ イ・リビングストンがこれに同情、 $35の立派 なカップに彫刻を施して寄贈した。 さらにいく らかの賞金も提供され、 1929年のレースの準備 が出来上がった。 レースそのものは成功し、 目出度く終了した。 軍は彼ら自慢の飛行機を参加させたが、 実際は、 無名のパイロットであるダグ・ディビスが彼ら を破り、 「ミステリー・シップ」 と名付けた民 間機ビーチ・トラベルエアにより310.4km/h で優勝した。 この機体は、 無制限クラスでの名 誉ある最初の優勝飛行機になった。 同時に、 NACA のカウリングと流線型の車輪カバーを 装備した、 最初の高性能低翼単葉機となり、 そ のコンセプトは、 直ちに軍隊と民間各社の設計 者に注目され、 スポーツとしてのエアレースで の高性能飛行機の開発に、 ますます拍車がかけ られた。 1929年のエアレースは、 トンプソン産業社長 チャールズ・トンプソンの興味をさそった。 彼 は少なくとも10年間はレースを続ける条件でト ンプソン・トロフィーを寄贈し、 NAR 会社が 要請した賞金基金を積み立てた。 さらに米大陸 横断飛行記録を競うベンディックス・トロフィー と共に、 エアレースは、 毎年9月に開催される ことから、 「9月の栄光」 と呼ばれて、 民衆を 熱狂させていった。 シカゴ市は1930年にエアレースを一回だけ開 催して成功をおさめている。 このレースは最初 のトンプソン・トロフィーであったが、 ウィン ディーシティと呼ばれるシカゴ市のカーティス・ レイノルド飛行場で開催された。 企画者は勝者 に$5,000の賞金を出したが、 トンプソン自身 も契約どおり$5,000を提供した。 さらにこの 大会では、 2人の飛行機設計者を讃えた。 ベン・ ハワードとエミール・マッソウ (マティ)・レ アードで、 後者は大衆的なツバメ型複葉機を製 作し、 事実上、 何の前触れもなしに、 最初のト ンプソン・レースに参加している。 1930年の NAR の3週間ほど前に、 B. F. グッ ドリッチの主任パイロット、 リー・シュオンエ アは、 マティ・レアードを訪ね、 最初のトンプ ソン・レース用の飛行機製作を頼んでいる。 彼 は1929年のクロスカントリー・レースで2位に 入っており、 レアードは承知した。 時間と戦い ながら設計された飛行機は、 出場直前に製作さ れた。 試験飛行はレース基地上空を飛んだにす ぎなかった。 「ソリューション」 と名付けられ た機体は、 ギリギリになって経験豊富なチャー ルズ・スピード・ホールマンがパイロットに選 ばれた。 ホールマンはここで323.10km/h で優勝、 こ れ以来、 10年間はエアレースの黄金時代に入っ た。 エアレースは多くの技術的開発を呼び、 軍 民で高性能の飛行機が開発された。 これらの中 には、 スーパー・チャージャー・エンジン、 可 変ピッチ・プロペラ、 フラップ、 酸素吸入装置、 引込み式降着装置などがある。 同様の開発がヨーロッパでも起こった。 もっ とも意外だったのが、 高速水上機である。 フラ ンスの富裕な実業家で飛行機マニアのジャック・ シュナイダーは、 あまり関心をもたれていない 水上機に興味をもった。 彼は FAI (国際航空 連盟) に、 水上で催される水上機レースの優勝 者にトロフィーと$25,000の賞金を提供した。 シュナイダー・カップ・レース (SCR) は、 第一次大戦直前の1913年から開始され、 第一次 大戦で中断したが、 戦後、 再開された。 このレー スは英国、 イタリア、 そして米国の3カ国で、 伝説に残るはなばなしい競争が展開された。 米国は1925年と1928年にジミー・ドーリット ルが操縦するカーティス R3C 水上機によって 2回優勝している。 しかし、 スーパーマリン・ アビエイション・ワーク&ロールス・ロイスの レイノルド・マイケル技師のお陰で、 英国が5 回のレースに勝ち、 1931年にトロフィーを獲得 している。 このトロフィーは、 ロンドンの繁華 街ピカデリーにある英国王立航空クラブに永久 に保存された。 ロールスは1919年に V-12 エンジンを開発し た。 SCR 用として、 ロールスとその仲間たち は、 マイケル・スーパーマリン S6B エンジン を2,300馬力に性能アップし1931年に優勝して、 トロフィーを持ち帰ったのである。 S6B エン ジンは652km/h の世界記録を叩き出した。 マ イケルの機体製造技術とロールス V-12 エンジ ンの技術によって、 1937年には、 名機スーパー マリン・スピットファイアが誕生している。 (シュナイダー・カップの詳細は、 航空史曼陀 羅第11回参照) イタリア・チームは天才技師マリオ・カスト ルディによる自信作の水上機で戦ったが、 V-12 エンジン2基を装備した MC-72 はマイケ 英空軍スピットファイア マッキ MC.72単葉機 2010 JAN 45 ル S6B に及ばなかった。 しかし、 彼らは F. ア ジ ェ ロ 中 尉 の 操 縦 で 、 1934 年 10 月 23 日 、 709.202km/h を叩き出し、 世界記録を作った。 この水上機による大記録は、 今後、 破られるこ とはないであろう。 米国では、 1934年、 新しいクラスにクリーブ ランド市ルイス・グリーブにあるクリーブラン ド空調工具会社々長が加わった。 この会社は飛 行機降着装置の部品を作っている会社で、 小型 高性能飛行機の開発を手掛けていた。 社長は 550cubic-in のエンジンに制限したレースに対 して、 グリーブ・トロフィー (GT) と$15,000 の賞金を申し出た。 最初の GT は、 彼のマイル ズ&アットウッド単葉レーサーを駆ったリー・ マイルズが優勝した。 以来、 GT の挑戦者のあ る者は、 同時にトンプソン・トロフィーにも出 場して好成績をおさめ、 馬力だけが全てではな いことを証明した。 1936年に入って、 フランスのマイケル・デト ロイアットは、 スマートな青いコードロン競争 機を米国に持ち込み GT とトンプソン・トロ フィーを勝ち取った。 彼の可変ピッチ・プロペ ラと引込み式降着装置が勝因だった。 アメリカ の設計技師たちはこの設計に飛びついた。 1937年にクリーブランドの市営空港で開催さ れたエアレースでは、 1,040エーカーの長方形 の敷地が舗装され、 見物席は1万席追加、 特別 観覧席1千席、 それに3万台を収容する駐車場 も整備された。 この年の賞金総額は$82,000と それまでの最高額になり、 レースの内容も多彩 になっていった。 主なレースは、 ベンディック ス・トロフィー、 トンプソン・トロフィー、 そ してグリーブ・トロフィーがある。 エアレース黄金時代は、 再びヨーロッパに戦 雲が漂った1939年まで続いた。 この年、 ベテラン のレーサー、 ロスコー・ターナーは、 戦争突入直 前の最後の1,000馬力エンジン装備の LTR-14 「リングフリー・メター」 で、 723.2km/h 以上 を出して優勝した。 世界の紛争がスポーツとし てのエアレースを衰退させたが、 反面、 大変な 46 2010 JAN コスコー・ターナーの LTR-14リングフリー・メター 高性能機を生み出すキッカケになった。 エアレースは単純な目的ではあったが、 この 10年間での性能向上は目覚しく、 やがて軍民に 使われた。 ロールス・ロイス V-12 マリーンは、 P-51 戦闘機のエンジンになり、 パッカード・ モーター会社でライセンス生産された。 スー パー・チャージャーは、 高々度戦闘用として、 全ての軍用機エンジンとして使用された。 機上 の酸素吸入装置は、 もともとベニー・ハワード が使っていたが、 10,000ft 以上で戦闘する戦闘 機や爆撃機パイロットを保護した。 これらのア イデアの多くは、 より精巧になり民間の飛行機 設計に利用された。 同じことがレース用の飛行 機設計技師によって創り出された機体開発にも 現われた。 例えば、 ジミー・ウエッデルは、 ルイジアナ 州の億万長者ラリー・ウイリアムズの援助で、 ウエッデル−ウイリアムズ Model-44を創りあ げた。 シカゴのベン・ハワードは、 少年時代に すでに飛行機を作成していたが、 ミスター・マ リンガンと名付けた高翼単葉機を製作し、 1935 年におこなわれたベンディックス・レースとト ンプソン・トロフィーの飛行で優勝している。 何か良い考えが浮かんだら、 彼らはすぐそれを 試した。 マサチューセッツ州スプリングフィー ルドのグランビル兄弟は、 この方法で驚異的な 速度のジービー・レーサーを創りだした。 第二 次大戦後、 再開された無制限クラスでは、 戦時 の戦闘機、 つまり軽く、 流線型の機に、 参加者 が改良を加えた、 より高性能エンジンを装備し た機体が参加した。 トロフィー・レースは1946年に始められたが、 ジービー R-2 1949年、 改良型 P-51C がクリーブランド空港 近くの民家へ墜落し、 パイロットのビル・オド ムと、 家の中にいた若い母親と子供が死亡した 悲しい事故が起こった。 以来、 エアレースは、 17年間もクリーブラン ドで開催されなかった。 レースは、 バーク・レ イクフロント空港で開催され、 複葉スポーツ機 とフォーミュラー・ワン (F-1) 競争機が加わっ た。 後に T-6 クラスも加わったが、 スポンサー は1949年の事故を忘れなかったから、 まだアン リミテッド・クラスレースは再開されていない。 アンリミテッド・クラスが再開されたのは 1964年で、 ネバダ州リノ近くの砂漠地帯の開催 からである。 レースはジェット・クラス (1968 年から F-1) が含まれ、 ネバダ州設立百周年記 念の催しとして、 その地域の牧場主ビル・ステッ ドによって企画された。 ステッド所有の航空用 牧場ストリップで2年間開催後、 レースは市か ら12マイル北にあるリノ・ステッド飛行場 (正 式にはステッド空軍基地) へ移った。 リノ・エ アレース協会 (RASA) も設立された。 ビル・ステッドは1965年、 フォーミュラーワ ン・エアレーサーの事故により、 突然、 この世 を去ったが、 すでに協会が設立されており、 幸 いにレースへの支障は最小限に留められた。 前掲したように今は、 全米エアレース選手権 試合 (NCAR) として知られ、 以来、 46年の 長きにわたって続けられている。 年々華やかに なっていくレースは、 5日間にわたって催され る。 参加は7種類のレース・クラス (複葉、 ノースアメリカン T-6/SNJ 改良機 F-1、 ジェット、 スポーツ、 T-6/SNJ、 アンリ ミテッド (UL)、 スーパー・スポーツ) である。 小型複葉機、 小型 F-1 レーサー、 磨き上げら れた AT6/SNJ、 ジェット機 (ほとんどがエア ロ L-39 型および L-39 型ゼック製複座練習機)、 スポーツ機およびスーパー・スポーツ・キット の組み立て機、 それに UL の機体がある。 UL クラスは、 現在でも高度に改良された第 二次大戦の戦闘機で、 P-51D ムスタング、 P-38 ノースアメリカン P-51D ムスタング改良機 エアロ L-39 アルバトロス 2010 JAN 47 TSUNAMI (桜井 KEN 氏提供) ライトニング、 F4U コルセアの改良型が殆ど である。 UL クラスの機体は派手な色合いの時 代錯誤的なところもあるが、 設計者をして何や ら黎明期の乗り物を懐かしむ趣がある。 1986年には、 新しい UL レーサーで TSUNAMI と名付けた機体がリノに現われた。 ミ ネソタ州の億万長者ジョン・サンドバーグの援 助によって、 ロッキードの技術者ブルース・ボー ランドが設計したものである。 そして、 その性 能が認められていた矢先、 不幸なことに1991年、 その機体はミネソタ州へ帰る途中で墜落してし まった。 サンドバーグが操縦していたが、 着陸時 のアプローチで、 燃料がストップ、 あわてて高 速でフラップを出して、 パーシャル・フラップ になりサンドバーグは死亡、 機体も破壊された。 1991年、 慈善家ボブ・ボンドが資金を提供し、 バート・ルータンの手によって、 ボンド・レー サーがカリフォルニア州モハベで製作された。 彼は1986年12月、 無補給・無着陸世界一周飛行 に成功したボイージャーの設計者として有名で ある。 V-6 Honda エンジン2基装備のボンド 機は、 小型ながら P-38 に似ている。 この機体 は温度問題、 オイル漏れに悩まされたが、 それ ボンド・レーサー (桜井 KEN 氏提供) 48 2010 JAN に火災も起こした。 最後は、 1993年のある日、 エンジン不調でステッド飛行場の滑走路26に着 陸を試みて失敗、 その手前に墜落して火災を起 こし、 パイロットのリック・ブリッカートは死 亡した。 スポーツおよびスーパー・スポーツ・クラス は、 今や黄金時代のレースや設計開発を回想す るような人気がある。 個人用の高性能キッドと して売り出される組み立て飛行機は、 明らかに レースから利益をもたらしている。 より改善さ れた性能を目指した今の設計は多彩で、 速度は 640km/h をオーバーしている。 スポーツ・ク ラスのエンジンは、 戦前のグリーブ・トロフィー でのエンジンが550cubic-inches に制限された のと同様、 650cubic-inches に制限されている。 同様にスーパー・スポーツ・クラスでのエンジ ンは、 1,000cubic-inches に制限された。 これ らの飛行機は、 しかし、 単にレース目的だけで はない。 個人的な旅行用として、 レース用機体 のエンジンを少し調整して、 複座や4人乗りと しても使われている。 ここ数年での最も強い参加者は、 F-1 チャン ピオンのヨン・シャープであり、 彼は設計者で あり製造者でありパイロットでもある。 2008年 にシャープは、 正式ラップで654.4km/h を出 したが、 これは1930年の最初のトンプソン・ト ロフィーの優勝者の速度の2倍以上である。 よ り小さい馬力でより高速を出す技術は、 より精 巧な設計によって可能である。 トラベル・エア は、 1929年にミステリー・シップで可能にした。 そして、 スーパースポーツ・クラスの設計者た ちは、 さらに研究をおこなっている。 昨年9月、 世界のレーサーやサポーターたち は、 エアレースの歴史の1ページを創ろうと、 再度ステッド空港にはせ参じたのである。 ちな みにレースの最後を飾る昨年のアンリミテッド に優勝したパイロットは、 22歳のスティーブ・ ヒンソンで、 徹底して改造を加えた P-51 改良 機により786.915km/h をたたき出し、 31年に 彼の父親が出した記録を塗り替えた。 (参考文 献:In Flight USA 9/2009) “安全の分水領” アクシデント・インシデント・ブリーフス フライト・セイフティ・ファウンデーション(FSF) 2009年9月号より 訳 佐藤 裕 ここに示す文書は、 読者の皆さんが飛行中に遭遇するかもしれない困難な状態を切り抜ける、 何 らかの手助けになればと思い、 掲載し続けている。 尚、 この文書は各国の運輸安全委員会の発行した正式な報告書をもとに、 まとめてある。 見落とされたセンター・タンクのスイッチ ボーイング737-400:損傷なし、 負傷者なし。 2007年8月11日の早朝、 オーストラリア、 ビ クトリア州、 スワン・ヒル近くで発生した、 危 うく燃料を使い果たしてしまう状態に陥ってし まった737航空機のインシデントに関して、 オー ストラリア運輸安全委員会 (ATSB) は、 この 原因について、 ストレス、 疲労、 不十分だった クルー・コーディネーション、 システムの違い、 いい加減だったチェックリストの使用、 これら が重なり合い、 今回の不安全な状態を招いてし まった、 と報告書に書いている。 この航空機は離陸してから2時間40分ほど後、 マスター・コーション・ライトとメイン・タン クの燃料ポンプ出口圧力低下を警告する low output pressure コーション・ライトが点灯す る。 両エンジンには残量僅か100kg (220lb) の メイン・タンクから燃料が供給されていたもの の 、 セ ン タ ー ・ タ ン ク に は 、 ま だ 4,700kg (10,362lb) もの燃料が残っている。 “機長はオーバーヘッド・パネル前方にある 燃料ポンプのスイッチが OFF 位置になってい ることに気付き、 直ちに ON に切り替えた” と ATSB の報告書は書く。 フライト・クルーは、 シドニーに向かい 737-400 で飛行する前に、 異なる燃料システム と燃料コントロール・パネルを持つ 737-800 で 2レグを飛行していた。 -400 航空機は、 機体後部にある補助タンク を使用しないようになっているため、 燃料コン トロール・パネルにある燃料ポンプのスイッチ は“INOP”のラベルが貼ってある上、 操作で きないよう“OFF”位置に固定されている。 “これら737航空機のセンター・タンク燃料 ポンプは、 この出来事を起こした航空機の補助 タンク燃料ポンプ・スイッチと同じような位置 に取り付けてある”と報告書。 離陸前、 燃料搭載量が9,000kg (19,841lb) 以上ある場合、 センター・タンク用燃料ポンプ を作動させなくてはならない。 ポンプの作動状態を示すライト類は無い;作 動状態を示すサインはスイッチの位置のみであ る。 燃料コントロール・パネル及び付随する項目 のチェックは“Before Start”チェックリスト に含まれていて、 通常、 エンジン始動時、 及び 上昇を終えるまでに行われる。 コーパイロットは事故調査官に、 2度ともパ 2010 JAN 49 ネルをチェックしたものの、 センター・タンク のポンプ・スイッチが OFF 位置になっていた かどうかは覚えていない、 と話している。 “機長はコーパイロットの行う操作に関し、 あまり関心を示さず、 自ら積極的にモニターす ることもしなかった”そして“クロス・チェッ クすることもしなかった”と報告書。 そしてこの“Before Start”チェックリスト には“Pumps on”とだけしか書かれていなく、 数ある燃料ポンプのどれを操作する、 とは書か れていない、 と報告書。 “機長、 あるいはコーパイロットどちらかが 燃料計をモニターし続けていさえすれば、 多く の燃料が残っていることを指示しているセンター・ タンクの燃料計に気付いたはずである”と書い ている。 このインシデントは、 4日間続いた連続乗務 の最終日に発生した。 この間、 休息時間は十分に取られていたもの の、 機長は十分な休息を取らず、 睡眠不足から 来る疲労に襲われていたに違いない、 と報告書。 “機長は離婚による金銭上の問題からくるス トレスに、 長期間悩まされ続けていて、 このス トレスが機長として乗務する能力に影響し、 こ のインシデントを招いてしまったと確信してい る”と報告書は結んでいる。 乱気流、 シートベルトのフィッティングを壊す。 ボーイング 737-300:損傷なし、 6名軽傷。 2008年2月24日、 ラスベガスに着陸するため 降下していたこの737航空機は、 高度11,400フィー ト付近で激しい乱気流と遭遇する。 母親に抱かれていた乳幼児1名を含む3名の 乗客は、 彼らのシートベルト用フィッティング が破損したため浮き上がり、 頭上にある荷物を 収容するコンパートメントにぶつかり、 軽傷を 負う。 破損したシートベルトを検査した結果、 シー トベルトを固定する部分の D リング・アタッ チメントは曲がり、 シートベルトをシートのフ レームに固定する部分は外れてしまっていたと 50 2010 JAN いう。 1990年代に発生した同様な事故の結果、 2003 年連邦航空局 (FAA) は特別耐空性改善通報 (Special Airworthiness Information Bulletin) SAIB NM-04-37 を発行し、 T類に含まれ る航空機を運行する会社に対し、 直ちにDリン グタイプのシート用アンカーを交換する指示を 出している。 SAIB に示される737のシリーズには、 D リ ングタイプのシート・アンカーが使用されてい る可能性があるものの“SAIB はアドバイスす るという性格を持つ文書で、 強制力を持ってい ない”と報告書。 し か し NTSB は こ の 事 故 の 原 因 に つ い て “この航空機を運航する会社が SAIB の指示 に従わなかったため”と結んでいる。 ペリカン、 コクピットに突入を。 ボンバルディア・チャレンジャー604:中破、 負傷者なし。 2008年4月8日の午後、 アメリカ合衆国コロ ラド州コロラド・スプリングスを離陸し、 速度 230ノットで上昇し続け、 高度8,000フィート付 近を通過したとき、 大きな鳥と衝突した、 とこ のビジネス航空機のフライト・クルーは話す。 パイロットの1人は事故調査官に“まず大き な衝撃音が発生した上、 次に吹き込んでくる風 によるひどい騒音が響きわたった”と話してい る。 少なくとも鳥1羽がコクピット内に飛び込ん できた、 とクルーは確信する。 エマージェンシーを宣告したフライト・クルー は、 機体、 システム共に正常であることを確認 し、 コロラド・スプリングスへ戻り、 無事に着 陸。 機内に搭乗していた5名は、 全員無事だっ た。 “機体を調べた結果、 コクピット・ウィンド ウ下側の胴体に穴が開いていた”と NTSB の 報告書は書く。 “鳥が突入したため、 胴体部分の外皮と前方 圧力隔壁に穴が開き、 死骸の一部も残っていた。 鳥の死骸の多くはコクピットのウィンドウ周 辺に付着していて、 この他胴体部分、 垂直安定 板及び水平安定板、 左エンジン内部にも付着し ていた。 左エンジンのファン・ブレードは破損してい て、 スピナーも押しつぶされ、 ゆがんでいた” とも書いている。 衝突した鳥は、 平均の重さ15lb (7kg) ほど のアメリカ白ペリカンと判定された。 “コロラド州は、 モンタナ/サウス・ダコタ 周辺から、 繁殖期を過ごすメキシコへ、 アメリ カ白ペリカンが通常4羽から12羽の群れで渡る 経由地になっている。 離陸前、 この航空機のクルーは特に鳥に関す る注意を受けていなかったが、 この鳥衝突事故 の発生した当時、 アメリカ空軍は、 中程度の鳥 との衝突に関する警報を出していた”と報告書 は書いている。 離陸中、 タイヤはバーストしてしまう。 ゲイツ・リアジェット 36A:中破、 負傷者なし。 2007年3月26日の朝、 アメリカ合衆国バージ ニア州ニューポート・ニューズ/ウイリアムズ バーグ国際空港ランウェイ20から離陸しようと、 滑走を開始したリアジェットクルーは、 速度 120ノット程度まで加速したとき、 大きな爆発 音を聞く。 機体は左に向きを変え、 操縦していたパイロッ ト (PF) はスロットルを絞り、 ドラッグ・シュー トの展開具合をモニターしながらブレーキを最 大に踏み込み、 離陸中断操作を開始した。 “このドラッグ・シュートは開かず、 パイロッ トは機体をランウェイ上に停止させることが出 来なかった。 機体はそのままランウェイを飛び 出し、 ランウェイ・ライトとぶつかり、 草地に 入り、 やっと停止する”と NTSB の報告書。 離陸を中断している最中、 クルーはスポイラー 及び航空機の装備されているスラスト・リバー サーを操作したのかについて、 報告書は特に触 れていない。 航空機を調査した結果、 左メイン・ランディ ング・ギアのタイヤはバーストし、 左ランディ ング・ギアも折れてしまい、 左主翼のスパーも 損傷してしまっていた。 “タイヤが細かな破片となって飛び散ってし まったため、 タイヤのどの部分が最初に破損し たのか、 については特定できなかった”と報告 書。 しかし、 この事故の後、 ランウェイを点検し た空港の係員は、 石と金属片を数多く発見して いる。 こ の ラ ン ウ ェ イ の 長 さ は 6,526 フ ィ ー ト (1,989m) で、 幅は150フィート (46m) であ る。 報告書はこの事故の原因について“ランディ ング・ギアのタイヤが破損した原因は、 ランウェ イ上にあった異物 (先ほどの石、 あるいは金属 片) ではないか”と推定し、 この事故に結びつ いてしまった要因の1つとして、 ドラッグ・シュー トが作動しなかった点を上げている。 事故調査官は、 ドラッグ・シュートを機体に 取り付けているループ部分でストラップが切断 されていることを発見しているためである。 航空機製造会社では、 少なくとも6ヶ月に1 回、 着陸時にドラッグ・シュートを展開させ、 この後点検を行ってから収納するように規定し ている。 “整備記録を見ると、 事故を起こした航空機 に装備されているドラッグ・シュートは、 事故 の起こる3ヶ月前の点検時、 機体の点検と一緒 に点検されているものの、 この点検以前及び点 検後にも、 ドラッグ・シュートの展開は行われ ていない”と書いている。 乱気流、 フェアリングを吹き飛ばす。 エクリプス500:小破、 負傷者なし。 2008年7月17日、 アメリカ合衆国イリノイ州 ロックフォード付近を、 高度5,000フィート、 速度250ノットでライト程度の乱気流の中を飛 行していたこの VLJ (Very Light Jet) 航空 機のパイロットは、 大きな音とガラガラッとい う音を聞く。 エアー・タクシーとして飛行しているこの航 2010 JAN 51 空機は、 ワイオミング州パインデールから機体 をシカゴ・エグゼクティブ国際空港へ空輸して いる最中で、 この後何も起こらず、 同空港に無 事着陸している。 機体を調べると、 左主翼のフェアリングが外 れていた。 フェアリング前方、 端にあるスクリュー3本 が外れて無くなっていたが、 曲線部分のスクリュー は、 フェアリングは千切られて無くなっている ものの、 フェアリング下側のスクリュー取り付 け部分に残っている。 主翼のフェアリングはカーボン・ファイバー 製で、 内部にフォームで出来たコアが組み込ま れている。 フェアリングのスクリュー取り付け部は、 ス クリューが沈み込まないようグロメットが樹脂 で貼り付けてある。 フェアリングに使用されているスクリュー及 びグロメットは、 航空機のほかの部分に使用さ れているものに比べ、 小さいものが使用されて いる、 と NTSB の報告書にある。 この事故を起こした航空機の主翼フェアリン グは、 運航会社に所属する整備士により、 燃料 系統とオートパイロット・システムの整備をし やすくするため、 数回取り外し及び取り付け作 業が行われている。 “運航会社側では、 フェアリングを数回取り 外し、 また取り付ける作業を繰り返しているう ち、 金属製のグロメットの取り付け状態にゆる みが生じてきた。 このグロメットとフェアリング部分の剥がれ に関し、 この不具合に関するリポートを FAA に報告してはいない、 とも話している”と報告 書は書く。 今回の事故原因について“主翼フェアリング を取り付ける最前方端部分の取り付け状態が不 適切”であったためではないかと推定し、 事故 に結びついた要因として“ヘッド部分の寸法が 小さいスクリューでグロメットとフェアリング を取り付けてしまったためではないか”と書い ている。 52 2010 JAN 使用限界を過ぎたブレード、 エンジンを壊す。 ビーチクラフト 1900D:中破、 負傷者なし。 2008年2月11日の朝、 チャーターされ、 オー ストラリア北部、 ジャリブにある空港を離陸し たこの航空機は600フィート AGL ほどの高度 を飛行していたが、 左エンジンが故障し、 左の プロペラは自動的にフェザーになってしまう。 地上にいた目撃者は、 左エンジンから炎が噴 出したと話し、 そして機内の乗客もパイロット に“白い金属片”が排気管から飛び出ていった、 と話した、 と ATSB 報告書。 パイロットはシングル・エンジンのまま空港 のサーキットを飛行し、 これ以降特に問題も発 生せず、 無事に着陸している。 機体を調査すると、 左エンジンのパワー・ター ビン部分は激しく損傷していることが発見され ている。 “このエンジン破壊は、 パワー・タービンの セカンド・ステージ用ブレードが破損したこと が引き金となった”と報告書。 金属結晶の顕微鏡検査を行った結果、 原因は 繰返し応力が激しく加わり、 クラックが発生し たため、 と判明する。 エンジン製造会社であるプラット・アンド・ ホ イ ッ ト ニ ー ・ カ ナ ダ 社 は 、 1994 年 に PT6A-67D エンジンのセカンド・ステージの ブレードを、 強化しブレード・チップのクリア ランスを大きくしたものと交換するように指示 するサービス・ブリテン (SB14172R1) を発 行していた。 ブレードの交換は、 次にパワー・タービン・ セクションのオーバーホールを行うときに実施 すること、 と指示されている。 しかし、 このインシデントを起こした航空機 の左エンジンは、 2005年5月にパワー・タービ ン・セクションをオーバーホールしているが、 この時使用限界を過ぎたブレードが組み込まれ、 SB の指示通り強化型ブレードと交換されなかっ たばかりか、 エンジン記録にも虚偽の記載がな されていた、 と報告書。 従って、 使用限界を過ぎてしまっているブレー ドを1,500時間ごとに点検した、 ということだ けになってしまった、 と強調している。 “海外にあるオーバーホール工場で作業され ているため、 なぜ SB が発行される以前のブレー ドを再使用してしまったのか、 なぜエンジン記 録に虚偽の記載がなされたのか、 については解 明できなかった”と報告書は結んでいる。 後部に荷物を搭載しすぎ、 テイル・ストライクを。 サーブ 340B:小破、 負傷者なし。 乗 客 10 名 、 ク ル ー 3 名 、 荷 物 室 に 660kg (1,455lb) の新聞、 さらに乗客用手荷物室後方 に150kg (331lb) の新聞を搭載したこの航空 機はスコットランドのグラスゴウからベンベキュ ラ島へ向かおうとしていた。 2009年1月17日、 定時に出発しようとしてい たこの航空機に対し、 イングランドのマンチェ スターにある、 このエアラインの搭載を管理す るセクションは、 乗客数名を前方の座席に移動 させ、 手荷物室後方に搭載した新聞を24kg (53lb) 降ろし、 重量重心位置 (CG) を限界範 囲内に調整するよう、 積載表を改訂するように 指示する。 搭載を管理するセクションは、 この航空機が 離陸する30分ほど前に改訂した積載表をグラス ゴウにあるこのエアラインのディスパッチ・オ フィスに送る。 “しかし、 必要であるにもかかわらず、 出発 を認めるメッセージは、 グラスゴウの搭載を管 理するセクションから送られていない”と AAIB の報告書は書いている。 “ディスパッチャーは、 乗客を移動させなく てはならない、 という点についてあまり関心を 示さなかった”とも書いている。 従ってこの航空機の重量重心位置は、 離着陸 時の限界より約14インデックス・ユニット後方 になっていたものの、 フライト・クルーに渡さ れた用紙は、 この後方限界より6インデックス・ ユニット前方に重量重心位置はある、 と記入さ れている最初のものであった。 機長と操縦を行っていたコーパイロットであ る PF は、 離陸中そして巡航中特に異常は感じ なかった、 と話している。 しかしベンベキュラ島に着陸した際、 接地後 に機首を下げようとしたが、 操縦桿を最前方位 置まで押しても下げられなかった。 “機長もプロペラ・リバース・スラストとホ イール・ブレーキを操作し、 機首を下げようと した”と報告書は書いているが、 プロペラ・リ バースもまったく役に立たなかった。 40ノットほどの速度へ減速するまで、 機首は 下がらなかったという。 この340航空機を調査した結果、 テイル部分 をランウェイに擦りつけた傷跡があり、 機体の 外皮、 駐機中の機体に搭載する場合、 テイルが 下がらないようにする“ポゴ・スティック”、 つまりテイル・ストップを取り付けるブラケッ トの破損が確認されている。 離陸中、 ターボチャージャーは壊れてしまう。 パイパー・チーフテン:中破、 1名重傷、 2名軽傷。 2008年8月4日の午後、 このチーフテン航空 機は、 コミューター航空機としてほぼ最大離陸 重量の状態でアメリカ合衆国アラスカ州アニア クを離陸し、 シャゲアクに向かおうとしていた。 200フィート AGL 近くまで上昇した時、 左 エンジンは突然停止してしまった、 とパイロッ トは話している。 2010 JAN 53 地上にいた目撃者の話によると、 エンジンか ら煙が吹き出ていたという。 “左エンジンのプロペラをフェザーしたが、 機体は降下し続けるため、 空港から0.5マイル (0.8km) 程先にある砂洲へ緊急着陸した、 と NTSB 報告書。 着陸時にノーズギアは折れてしまい、 胴体及 び両翼も破損した。 この事故で乗客1名は重傷を負い、 2名は軽 傷を負ったが、 このほかの乗客4名及びパイロッ トは無事であった。 左エンジンをテストした結果、 マニュフォー ルド圧力が大気圧以上にならないことが判明す る。 ターボチャージャーを交換してテストすると、 エンジンは定格出力を発生した。 事故当時装備されていたターボチャージャー を詳しく調査すると、 タービン・シャフト用ベ アリング1つが破損していた上、 タービン・シャ フトとブレードも破損していたという。 同乗者、 着陸時にギアを上げてしまう。 ビーチ・バロン:中破、 負傷者なし。 2008年8月4日朝、 機長は前方の右席に、 そ してこの航空機を購入したいと思っている人を 左席に座らせ、 このバロンはチャネル諸島のジャー ジー島を離陸し、 ガーンジー島へ向かっていた。 AAIB の報告書によると、 この購入を希望し ている人の飛行時間はかなり多いのだが、 この バロンについてはあまり飛行した経験を持って いなかった、 と書いている。 “特に問題も無く離陸し、 着陸するため右席 の機長と操縦を交替するまで、 左席にいる購入 を希望するパイロットは様々な課目を練習した” と報告書。 接地後、 機長が足でブレーキを操作する前、 購入しようとしている人は、 フラップを上げま しょうか? と話しかけた。 “勝手に操作しないように、 と機長が止める 前に、 左席のパイロットはフラップ・レバーで はなく、 不注意にもランディング・ギア・ハン 54 2010 JAN ドルを UP 位置にしてしまった”と報告書。 “あわてて機長は DOWN 位置に戻したが、 すでにギアは上げ方向に作動し始めていて、 機 体もランウェイ上に沈み始めてしまう”とも書 いている。 初期のバロン航空機のランディング・ギア・ ハンドルはセンター・ペデスタル右端にあり、 フラップ・レバーは左端に付いている。 この機長は調査官に、 購入しようとしていた 方は、 時々飛行するバロンと同じ位置に付いて いる、 と勘違いしたのではないか、 と話したと いう。 故障したアティテュード・インディケーター。 セスナ P337H スカイマスター:大破、 2名死亡。 2008年6月15日早朝、 このパイロットはアメ リカ合衆国メイン州ミリノケットからニュージャー ジー州コールドウェルまで飛行しようと飛行前 にブリーフィングを受けるが、 彼が飛ぼうとし ているルートは計器気象状態 (IMC)、 と知ら される。 パイロットは計器飛行方式 (IFR) のフライ ト・プランをファイルしたが、 出発時 VMC で あったため、 IFR フライト・プランをキャン セルしてしまう。 “ATC に対し、 その理由について、 機体の アーティフィシャル・ホライゾンが不調なので、 有視界飛行方式 (VFR) で飛行したい”と告 げていると NTSB の報告書。 しかしこの15分ほど後、 この航空機のパイロッ トは ATC に、 IFR に切り替え、 高度8,000フィー トで飛行したい、 と要求する。 軽及び中程度の降水現象の IMC の中を飛行 していた、 このスカイマスターとの交信は途絶 えてしまう。 録画されている ATC レーダーの映像を調べ ると、 この航空機は南西、 そして北西と頻繁に 機首方位を変化させ続けている。 降下し始めたスカイマスターの機影は、 高度 7,200フィート付近でレーダーから消えてしま う。 この後、 高速のまま大西洋に突入してしまっ たと思われ、 機体も回収されていない。 報告書はこの事故の原因について“アティテュー ド・インディケーターが不調であるにもかかわ らず、 IMC の中を飛行し続けてしまったとい う、 パイロットの不適切な判断”にあるのでは、 と推定している。 ホワイトアウト、 目標を見えなくしてしまう。 ベル 206B-3 ジェットレンジャー:大破、 1名死亡。 2008年3月19日の朝、 雪に埋もれ、 氷漬けに なってしまった同社のセスナ206を回収するた め、 このジェットレンジャーはカナダ・ケベッ ク州 Reservoir Gouin に着陸した。 生憎天候は IMC に、 そして VMC へと、 頻 繁に変化し続けている。 ヘリコプターに乗り込んでいた2名のパイロッ トは、 どちらも計器飛行証明を保有していない。 1名のパイロットは、 特に何事も無く120nm (222km) 東にある Alma へ回収した飛行機で 出発する。 “当時の気象状態は視程1.5マイル (2,400m)、 小雪でシーリング200フィート AGL 程度であっ た”とカナダ運輸安全委員会の報告書。 もう1名のパイロットもこの後すぐ、 ジェッ トレンジャーに乗り込み、 離陸する。 ヘ リ コ プ タ ー は 離 陸 し た 場 所 か ら 1.2nm (2.2km) の場所で急降下し、 墜落してしまう。 “雪と氷に覆われている Reservoir Gouin 上空を飛行していたパイロットは、 ホワイトア ウトに見舞われ、 ヘリコプターを操縦できなく なってしまったのではないか”と報告書は書い ている。 ランプ作業員、 ローター・ブレードにはねられる。 カマン K-1200:中破、 1名死亡。 2008年12月17日早朝、 機体をアメリカ合衆国 カリフォルニア州サンタ・クラリタからロスア ンジェルスへ移動させようとしていたパイロッ トは、 エンジンを始動させる。 エンジンをフライト・アイドルで運転してい る最中、 同社の整備士で地上作業もかねている 男は、 外部電源のケーブルをヘリコプターから 外す。 パイロットはこの作業員に、 北、 もしくは北 西に向かい、 歩いてヘリコプターから遠ざかる ようにと注意したが、 この時カマンは東、 ある いは南東方向から吹いてくる15ノット程度のガ ストに見舞われた、 と話している。 ヘリコプターの右側が浮き上がり、 地面から 離れてしまうような感じもした、 とも話してい る。 “この機体が浮き上がってしまいそうな状態 を防ぐため、 パイロットはサイクリックを右方 向へ一杯に操作する。 しかしガストは機体を浮かせ続けてしまい、 ヘリコプターは左に向きを変え、 機首を下げ、 ひっくり返って停止する”と NTSB の報告書 ヘリコプターがひっくり返るとき、 メイン・ ローター・ブレードは燃料補給用トラックに当 たり、 この後吹き飛んでしまう。 もう一方のブレードは地上作業員に当たり、 この男の命を奪ってしまった。 幸いパイロットは無事であった。 K-1200 のフライトマニュアルには、 離着陸 時の右横後方及び追い風制限について、 最大17 から25ノットである、 と書いてあるだけである。 “事故当時の風速は、 この最大風速以上だっ たのではないか”と報告書は推定している。 2010 JAN 55 第31回 ATS シンポジウム 管制方式基準改正の要点 航空管制調査官 56 2010 JAN 井本 岳史 2010 JAN 57 58 2010 JAN 2010 JAN 59 第4回 アメリカの GA 航空事情 「飛行訓練および操縦資格取得要領」 飛行訓練と試験 エアーアコード・フライングスクール校長 自家用操縦士 (飛行機陸上単発) 操縦資格取 得につき、 訓練と試験に焦点を当ててお伝えす る。 訓練を受ける目的が資格取得であれば、 必修 科目は座学と実地であり、 交付資格と飛行経験 を満たすことが、 下記のように連邦航空法 (14CFR-FAR-Part61) に明記されている。 第1項 第2項 第3項 第4項 ELIGIBILITY REQUIREMENT (交付資格) AERONAUTICAL KNOWLEDGE (航空知識) FLIGHT PROFICIENCY (飛行練度) AERONAUTICAL EXPERIENCE (飛行経験) 第1項および第4項は前号でお伝えしたので 省略する。 第2項の航空知識として求められている詳細 に関する FAR-Part61-105の規定は、 次のよ うになっている。 資格規定と業務範囲:Part-61及び航空法: Part-91 NTSB (National Transportation Safety Board) の事故調査委員会への報告義務と 報告方法 AIM (Aeronautical Information Manual) と FAA Advisory Circulars の正し い使用方法と必要項目の選別 航空地図の使用方法と航法 ラジオ交信プロセジュア 地上および上空において、 気象現況の把握、 60 2010 JAN 脇田 祐三 危険と思われる気象の認識、 および予報を 報じた天候変化の把握とウインドシアーへ の警戒 コリジョンとウエークタビュランスの回避 を含む安全且つ効率良い操縦操作 気圧高度が与える離着陸および上昇力への 影響 機体重量とバランスの計算 航空力学、 動力装置、 機体構造の仕組み ストールへの警戒とスピン・エントリーと リカバリー・テクニック Aeronautical Decision Making and Judgment:航空における意志決定と判断力 使用滑走路の情報収集方法および離着陸距 離の予測と代替空港の選択 以上、 必修である13項目を座学で受講したこ とを証明するログブックへの記載と修了書を、 担当教官から受領しなければならない。 同様に、 第3項 飛行練度として求められて いる内容は、 FAR-Part61-107 によって下記 のごとく明記されている。 プリフライト・プレパレーション プリフライト・プロセジュア エアポート・オペレーション 離着陸操作及びゴーアラウンド パフォーマンス・マニューバー (スティープターン) グランド・リファレンス・マニューバー (スクエアー、 ターン・アラウンド・ザ・ ポイント、 エスターン等) 航法 スローフライとストール 計器指示による飛行 エマージェンシー・オペレーション 夜間飛行 ポストフライト・プロセジュア 以上、 12項目についても第2項同様、 飛行実 地訓練を証明するログブックへの記載と修了書 を、 担当教官から受領しなければならない。 ここ30年間、 必修内容に ADM が付け加え られた以外に大きな改訂は無いが、 それらをサ ポートする書類は年々充実され、 エアスペース や器材等、 第2回および第3回でお伝えした法 改正が実施されると、 改訂版が発刊される。 内 容は以下によって参照することも可能である。 http://www.faa.gov/regulations _policies/ handbooks_manuals/aviation/ 1965年に発刊された Flight Training Handbook (AC61-21) や Instrument Flying Handbook (AC61-27)、 ACME と書かれた問 題集や Flight Test Guide しか入手できなかっ た1980年当初、 関係書類は夫々内容の濃いもの であったが、 統一性に欠けていた上に、 規定も 明確ではなかった。 従って、 FAA フライト・ オペレーション・スタッフが約20年間を費やし て改訂された。 改訂内容は、 書類の標準化を図 り、 Flight Test Guide も PTS (Practical Test Standard) と改名し、 規定を明確にして用語 も統一され、 PTS を中心とした書類間の関連 性が図られている。 いずれの PTS もイントロダクションが付い ており、 スタンダード設定の背景、 必要書類、 使用目的、 安全飛行の為の特記事項、 教官の責 任、 試験官の責任、 試験結果の合否及び中断等 が事細かく規定されている。 例えば自家用 PTS の場合の実施項目は、 第3項の飛行慣熟 と同じ順序の12項目で構成され、 それぞれに基 準と細則が明記されている。 さらに細則毎にリファレンスがあり、 どの書 類やアドバイザリーが関連しているかが示され、 それらの書類やアドバイザリーに示されている 内容が基準であり、 試験官はその基準からはみ 出した質問及び回答を求めることはできなくな い。 故に PTS は受験前だけでなく、 飛行訓練 と平行してその内容をつかんでおく必要がある。 自家用に必要な書類やアドバイザリーは、 実 地試験実施基準/細則:Private Pilot Practical Test Standard (PPTS) FAA-S-8081-14AS (現行版02年8月に改訂) に明記されている。 中でも、 AIM/FAR はパイロットのバイブル として改訂を含めて毎年出版されている。 これ 等を以下に列記する。 Pilots Handbook of Aeronautical Knowledge (FAA-H-8083-25A) 2008年改訂 Airplane Flying Handbook (FAA-H-80833A) 2004年改訂 Aviation Weather (AC-6A) 1982年改訂 Aviation Weather Services (AC00-45F) 2007年改訂 AIM/FAR や 前 掲 の Handbook な い し Aviation Weather は、 航空知識や実地訓練を サポートし、 自家用及び事業用に必要な項目が カバーされている。 他に訓練機のパフォーマン スやシステム及びリミテーションに関しては、 メーカーから機種毎に作成されているオーナー ズマニュアル/パイロット・オペレーションハ ンドブックが不可欠である。 以 上 の 書 類 を 一 冊 に 纏 め た PRIVATE PILOT MANUAL (Jeppesen & Sandeson 社 発行) は重要項目が赤色で示され、 さらに学科 試験に出題される箇所には FAA マークが施さ れ、 加えて、 写真やイラストを多用した説明が あり理解しやすい。 以前は学科試験を WRITTEN TEST (筆記 試験) と呼んだが、 KNOWELEDGE TEST (知識試験) と変更されている。 アメリカの場 合、 如何なる分野でも国が交付する資格に出題 2010 JAN 61 されている 「総ての試験問題」 には公示義務が あり、 操縦資格試験も同様に、 出題は三つの中 から最も適切な答えを選ぶ択一式で出題されて いる。 ASA (Aviation Supplies & Academics) 社 と Grime 社 と い う 民 間 2 社 で は 、 KNOWELEDGE TEST PREP. (Preparation) と題して、 自家用として約850問がファイルさ れており、 懇切丁寧な解説を付けて販売されて いる。 これは受験準備のためだけに使われるの でなく、 座学の予習ないし復習として使うこと もできれば、 資格取得後の復習用として使うこ ともできる。 学科受験は公認された試験場で、 パソコンを 使って、 ほぼ毎日予約と受験が可能である。 身 分証明書と学科修了書を提示し、 コンピュター の使い方と答案方法の説明を受けて、 インター ネットによる試験が開始される。 規定時間は2 時間30分、 850問の中から60問が出題される。 試験終了と同時に結果が出され、 合格ラインは 70%以上で、 その場で合格証 (2年間有効) が 発行される。 訓練方法は PTS に示されている基準に沿っ て、 細則で求められているレベルを最終目標と する。 そして、 飛行知識と飛行慣熟で求められ ている項目をロジカルな順序に置きかえ、 基礎 →復習→適用→応用→統合/判断へと、 ステッ プアップが図れる内容のシラバスを作成して教 習を行うことが理想である。 習い事には順序が あるように、 新人が短期間で匠になることは不 可能である。 しかし、 ロジカルなステップを経 ることができれば、 効率良く短期間に相応な修 得が可能になる。 また、 操縦を感覚面だけで捉 えることはできない。 思考/知識面、 感覚/姿 勢面、 行動/技量面の三つの領域でとらえ、 総 合的に訓練生のレベルアップを図ることが重要 と思われる。 飛行訓練で求められているスローフライトや ストール練習を行うにも、 先ず基本操縦操作を 経験しなければ、 訓練生は何を行っているのか さえ理解できないであろう。 航空知識で求めら れている航空力学、 動力装置、 機体構造の仕組 62 2010 JAN みを理解して、 ストールへの警戒やスピンエン トリーおよびリカバリーテクニックを学ぶと、 フライトへのスムーズな適応が可能になる。 ス ローフライトとストールおよびグランド・リファ レンス・マニューバーは、 離着陸訓練やゴーア ラウンドを行うための基礎であり、 エアポート・ オペレーションはそれ等を適用する場である。 訓練生の興味がもっぱら着陸に注がれている からといって、 初期段階から離着陸練習を繰り 返してスムーズに行かないケースが多々見受け られる。 「Take off is critical and landing is technical」 といわれる様に、 感覚/姿勢面か らも低空/低速のクリティカルな飛行状態へは、 自覚/認識が養われていなければならない。 飛 行機のフライト特性 (コントロールの利き具合) や計器の表示ラグを把握するには、 スローフラ イト・マニューバーの訓練目的を見逃してはな らない。 飛行状態を示す計器の選択とスキャン ニングの上達のみならず、 コーディネーション、 オリエンテーションを含めリフトとドラッグの 関係を理解させることが目的である。 機体コンフィギュレーションをクリーンかラ ンディングに選び、 方向と高度を変えずに巡航 スピードから失速ぎりぎりのスピードまで減速 し、 低速を維持して高度と方向をコントロール する練習は、 アプローチテクニックと同じ技量 を修得できるから、 飛行機の飛行特性を知る上 で重要なマニューバーになる。 また、 アプロー チストールのエントリーとリコグニションおよ びリカバリーテクニックを修得することで飛行 限界をつかみ、 正しい上昇/アプローチとの違 いが明確になり、 ストール/スピン回避へ役立 てる事ができる。 飛行機の性能やウエイト&バ ランス、 そしてリミテーションを理解し、 エマー ジェンシー・オペレーションに対応できてくる と単独飛行になる。 短い滑走路や舗装されていない滑走路を想定 した、 離着陸テクニックが身に付いてくると、 他の空港への応用飛行訓練へとステップアップ される。 訓練生がクロスカントリーナビ訓練へ 入る頃には、 天候変化を含め、 飛行知識が総合 的にフライトに適用できる状態が必要であり、 ソロ・クロスカントリーを実施する前には 「学 科試験受験済み」 が望ましい。 夜間飛行や計器 だけで操縦できる応用訓練で、 相応の判断力が 養われていなければならない。 最も重要視されている思考/知識面では企画 と判断、 感覚/姿勢面では統合と融和、 そして 行動/技量面では身についたプラクティカルな 状態が求められる。 フライトテストと表現され ていた実地試験が、 プラクティカルテストと変 わった背景がここにある。 最近では、 訓練生の 判断力を養う目的から、 シナリオをモデファイ したトレーニング方式が奨励されている。 教育 証明取得に際しては、 イントロダクション→レ ビュー→エバリュエーション・テクニックが備 わっていることが重視される。 問われ、 航空知識13項目よりを除いた10 項目の中から、 作成したクロスカントリープラ ンを基に、 飛行シナリオに沿った質問がおこな われ、 総合的な企画/判断力が試される。 (パート3) プリフライト・プロセジュアから始まり、 ポ ストフライト・プロセジュアで終了する飛行慣 熟の実施方法は、 天候、 時期、 場所によって順 序は臨機応変であり、 飛行場や離発着手順が違っ ても、 各チェック項目が同じである場合は柔軟 に対応して実施される。 飛行場毎の基準と細則 通りに慣熟度が試され、 無風状態で離着陸した 場合には、 横風での離着陸のチェックは口頭で 試される。 同時にシステムや ADM は口頭質 問で実施される。 実地試験受験は公示されている実地試験官 (DPE:Designate Pilot Examiner) へ受験希 望日の1∼2週間前に本人若しくは担当教官が 連絡をとり、 資格の種類と使用する機種及び学 科試験受験日を伝え、 試験日を決定する。 クロ スカントリーの目的地は事前に伝えられ、 飛行 プランを準備し、 試験開始後に気象状況を入手 してナビログの作成にあたる。 試験は PTS に沿って行われ、 以下の三つの パートで構成される。 パート2およびパート3で試された何れの試 験内容も、 プラクティカル・スタンダードと判 断されれば、 試験官よりテンポラリー・パイロッ ト・サティフィケート (120日間期限付き) が 発行され自家用操縦士が誕生する。 (パート1) イントロダクション、 身分証明と申請書 (FAA Form 8710-1) および交付資格と飛行経 験の確認が行われる。 ここで注意することは、 案外、 申請書と飛行経験に記入ミスが多く、 そ の場で正規の修正ができない場合、 試験は取り やめとなることがある。 これが無事完了すると、 実施規定と細則および安全のための特記事項の 確認が行われ試験が開始される。 (パート2) プリフライト・プレパレーションは知識面が テンポラリー・パイロット・サティフィケート 次号では最終回として、 今までの総括をお届 けします。 2010 JAN 63 我々パイロットは飛行機の Manual に従って運航しています。 しかし、 それ以外に先輩・同輩 に加え後輩からの 「技術の伝承」 で培われた部分が大きいのも否定できません。 一人前の刀鍛冶 になるのは、 少なくとも5年はかかります。 炎に照らされた鉄の色合いなどを見て判断する名工 の一挙一投足から、 技術を盗む 「技術の伝承」 で一人前になります。 この新企画は、 刀鍛冶とまではいきませんが、 「技術の伝承」 「技術の研究」 を目指す読者のサ ロンのコーナーです。 皆様からの 「技術に関する情報」 等々、 その他有益な投稿をお待ちします。 編集委員会 連載・飛行力学物語 その5 プロペラ後流の物語 JAXA 風洞技術開発センター 国産旅客機チーム客員 柴田 眞 オール・スルー・ジェット 1950年代は、 ジェット機が急速に進歩した時代です。 これからはすべてジェット機になり、 時代 遅れのプロペラ機は消えゆく運命にある、 という意見すらありました。 その頃から60年代にかけて、 パイロットの訓練体系に 「オール・スルー・ジェット」 という思想が登場したことがあります。 実 用機がジェット機なのだから、 最初の初等練習機からジェットで訓練したほうが、 効率的ではない かという考え方です。 この考え方は一見合理的なようでしたが、 結局のところ、 世の大勢にはなり ませんでした。 パイロット訓練の初期、 すなわち導入部において一番重要なことは、 訓練生の操縦適性を見分け る、 さらにいえばエリミネートすることです。 ところがジェットの初等練習機は、 その目的のため には 「くせ」 がなくて操縦が易しすぎる機体になってしまいます。 それに対しプロペラ練習機には、 やっかいな後流やジャイロ効果が自然に備わっています。 それらに対する修正能力が、 訓練生の操 縦適正を見分けるのに役立つのでしょう。 今回は、 このプロペラ後流の物語です。 もちろん初等練 習機ではなく、 現代の実用機におけるパワフルな事例を取り上げました。 YS-11 の臨界発動機 クリティカル・エンジン、 すなわち臨界発動機とは何かですが、 双発以上の飛行機において、 故 障した場合に飛行がより困難になるエンジン、 と考えてよいでしょう。 YS-11 のプロペラの回転 方向は後ろから見て反時計回りなので、 右 (#2) エンジンが臨界発動機になります。 何故そうな るかですが、 プロペラ後流と主翼やナセルとの空力干渉により、 もともと機体には、 右に旋回、 右 64 2010 JAN 図1 YS-11 の臨界発動機 にロールする空気力が働いているからと説明できます。 右エンジンが故障した場合、 機首を右に振 り、 機体が右に傾きますから、 もともとの性質に重なり合って、 ラダーやエルロンの操舵量、 操舵 力がより大きくなってしまいます。 このプロペラ後流による空力干渉は、 図1 「YS-11 の臨界発動機」 に示したように、 主翼には ナセル左右の局所揚力係数の変化をもたらし、 ナセルには横方向の空気力を発生させます。 もちろ ん左右のエンジンの回転方向を逆にすれば、 これは非対称空気力にはなりません。 しかし整備補給 上の観点からは、 回転方向の異なる2種類のエンジンやプロペラを装備することは、 余程のことが ない限り受け入れられない話なのです。 昭和37年の暮れ、 UF-XS YS-11 が初飛行したのは、 昭和37年8月30日です。 同じ年の暮れも押し迫った12月20日、 ユニー クなレシプロ4発の実験用飛行艇 UF-XS が進水しました。 知らない人がいないほど有名な YS-11 にくらべ、 この UF-XS は無名の機体に近いのですが、 わが国の航空技術史においては知る人ぞ知 る存在です。 この海上自衛隊/新明和の 16ton ほどの実験機は、 年が明けた春3月5日に神戸沖 で初飛行しました。 図2 ナセルに働く空気力 UF-XS と PS-1/US-1 2010 JAN 65 図2 「ナセルに働く空気力、 UF-XS と PS-1/US-1」 に示したように、 UF-XS のプロペラの回 転方向は後ろから見て時計回り、 すなわち YS-11 とは逆の方向です。 したがってプロペラ後流と 主翼やナセルとの空力干渉により、 もともと機体には、 左に旋回、 左にロールする空気力が働いて います。 ここまでは左右、 たんに方向の違いだけですが、 これからお話しする飛行艇の場合は空気 力の大きさが、 相対的にずっとずっと大きくなってしまいます。 実験用飛行艇 UF-XS に始まり 2003年12月に初飛行した新型の救難機 US-2 にいたる一連の飛行艇は、 荒れた外洋に離着水するた め、 きわめて低速で飛行することができるからです。 左旋左傾、 PS-1/US-1 ごく大雑把に言えば、 YS-11 は 100kt 前後で離着陸する機体です。 それに対し飛行艇が荒れた 外洋に離着水するためには、 波から受ける影響を小さくするため 50kt 程度まで速度を下げなけれ ばなりません。 すなわち YS-11 のわずか25%、 1/4 の動圧でもって、 やっとふらふら飛んでいる といった感じになります。 プロペラ後流の影響は4倍になって表れ、 とくに着水時の飛行性に難し さを与えます。 このあたりのことに関しては、 資料4) 「飛行の神髄」 が、 海上自衛隊の PS-1/US-1 飛行艇が荒海に着水するときの状況について、 とても参考になる読み物になっています。 以下では、 やや硬い話になりますが、 少し技術的な説明をしておくことにします。 PS-1/US-1 飛行艇が低速で着水するときの、 必要推力と速度の関係を、 図3 「低速着水、 バックサイド、 左旋・ 左傾」 に示しました。 この飛行艇が着水するときは、 140kt を目安にフラップを下げ始め、 100kt あたりでフラップ角が40度になるように操作しますが、 ここまでは他の飛行機と似たようなもの、 とくに変わったことはない、 と思ってよいでしょう。 速度が 100kt になると BLC (Boundary Layer Control、 境界層制御) をオンにし、 いわゆるバックサイド領域に入って行きます。 バックサイド領域に入り、 さらに出力を絞って速度を減らすと、 操縦桿を引いても機体が沈みは じめます。 この状態で高度あるいは降下角を保持しようとすると、 再び出力を増やさなければなり ません。 かなり難しい操縦といってよいでしょう。 図3では、 94kt より低速になると、 必要推力 が逆に大きくなっています。 ふつう必要推力が最小となる速度マイナス 10kt 程度までは、 飛行性 上それほど問題は生じないと考えていいようですが、 この飛行艇ではもっとずっと低速、 50kt 程 度を目指して減速していきます。 ここで、 ただでさえ難しいバックサイドの操縦をさらに難しくす るのが、 プロペラ後流によるパワー効果、 すなわち左旋左傾、 左に旋回し左にバンクをとろうとす 図3 66 2010 JAN 低速着水、 バックサイド、 左旋・左頃 る性質なのです。 なお PS-1/US-1 では、 この左旋左傾の空気力を小さくするため、 ナセルの11時の位置にフェン ス (前後方向に長い板、 図2参照) を付けています。 さらに、 この飛行艇は、 この領域での操縦を 可 能 な 限 り 容 易 に す る た め 、 ASE (Automatic Stability Equipment) や ATS (Automatic Throttle System) を装備しています。 これらにより構成されるシステム、 いわゆる AFCS (Automatic Flight Control System) においても、 先駆的な機体でした。 40年後の新型機、 US-2 2007年10月に小倉で開催された第45回飛行機シンポジウムで、 企画セッション 「救難飛行艇 (US-2) の開発」 がありました。 計9件の発表はいずれも興味深い内容でしたが、 この左旋左傾力 に対して推力線を右に3度偏向という話が出てきて、 なるほどと思いました。 US-1 を母体として 改造開発された後継機 US-2 の平面形を、 図4 「左旋左傾力と推力線右偏向」 に示しておきます。 この機体では、 エンジンもプロペラも換装されていますが、 プロペラの回転方向は変わっていませ ん。 それで左旋左傾力に対して推力線右偏向になるのです。 これは考えてみると、 なかなか巧妙な 方法です。 左旋左傾力のような空気力は推力係数 (推力を飛行動圧と基準面積で除したもの) の関 数ですから、 推力線を偏向させておくと、 打消したい空気力が大きいとき推力の偏向量も大きくな るからです。 図4 左旋左傾力と推力線右偏向 これはいわば新型飛行艇 US-2 にみる新たな別の解決法です。 まず損得勘定ですが、 cos3゜は 0.9986であって sin3゜は0.05234ですから、 0.14%の損で5.2%の得と考えればよいでしょう。 なおこ の推力偏向の話は、 軽飛行機や模型飛行機に詳しい人には、 違和感なく受け入れられると思います。 軽飛行機、 無人機、 模型飛行機では、 サイドスラスト、 スラストオフセット、 垂直尾翼に取付け角 を付けるなど、 非対称手法がよく用いられるようですから。 A400M、 カウンター・ローテーションの採用 もっと馬力が増えてくると、 二重反転プロペラ (コントラ・ローテーション) か、 相互に逆回転 するプロペラ (カウンター・ローテーション) を採用することになります。 エアバスミリタリーの A400M 輸送機は、 現在開発中の航空自衛隊の CX とほぼ同じ規模の機体です。 両機ともペイロー 2010 JAN 67 ド30∼40ton を搭載して、 3,000nm 程度の航続性能を持つところは共通ですが、 全く違う飛行機に なりました。 比較設計論の対象として興味の尽きない両機ですが、 それはまた別の機会に譲りましょ う。 今日のところは、 パワー効果を打ち消すため、 A400M ではプロペラの回転方向を変えたとい うことだけ、 話題にしておきます。 A400M の8ブレードで直径 5.3m のプロペラは、 TP400-D6 ターボプロップの 11,000shp もの高 出力を吸収するのに、 二重反転ではありません。 そのかわりに図5 「逆回転プロペラ、 Counter Rotation の機体」 に示したように、 整備補給上の不利を承知の上で、 プロペラの回転方向を変え ています。 プロペラはもちろん2種類、 エンジン本体は1種類ですが、 減速ギアボックスは2種類、 それぞれ用意することになりました。 そして回転方向の組み合わせは、 彼らの表現によれば down between engines です。 まず回転方向を変えることにより、 パワー効果による左右非対称性の問題 はなくなります。 次に down between engines で、 この機体では前縁高揚力装置なしで、 必要な最 大揚力係数を確保するという空力的に興味深い設計になっています。 図5 逆回転プロペラ Counter Rotation の機体 おわりに プロペラは機体に推進力を与えますが、 それにともない機体まわりの流れにも大きな影響を及ぼ します。 これらの影響は、 航空機の性能や飛行特性に、 プロペラ後流の効果、 いわゆるパワー効果 として、 巾広く表れてきます。 設計においてはパワー効果を悪役にしないよう努力しますが、 操縦 においても高度の技量を必要とすることがあることを、 まとめてみました。 初めに紹介した 「オー ル・スルー・ジェット」 の思想が、 パイロット訓練体系の大勢になれなかった理由がわかる気がし ます。 参考にした主な資料は次のとおりです。 資料1) 長谷川栄三、 「テストパイロットの証言」、 別冊航空情報、 酣燈社、 1994年7月 資料2) 菊原静男、 「新しい STOL 飛行艇の設計」、 日本航空宇宙学会誌、 1966年2月 資料3) 菊原静男、 「飛行艇開発の推移」、 日本航空宇宙学会誌、 1982年6月 資料4) 加藤寛一郎、 「飛行の神髄」、 講談社、 1993年9月 資料5) 企画セッション 「救難飛行艇 (US-2) の開発」 の講演 3A1∼3A9、 飛行機シンポジウム、 2007年10月 資料6) Daniel Reckzeh, Aerodynamic Design of the A400M High-Lift SystemICAS20082.7.2, Anchorage 68 2010 JAN 性能から操縦!操縦から性能を知る! Rotation!空中に飛び出す最初の重要な Maneuver! B767 機長 蔵岡 賢治 TKOF の Rotation (引き起こし) は、 離陸から着陸までの運航の Phase の一瞬とは言え、 飛行 機が空中に飛び出す重要な Phase です。 この Rotation に関して、 速い! 遅い! などの感覚 的な言葉で語られる事が多く、 2度/sec などと言われる Rotation Rate はどの様にするのか? そして各自が自分の Rotation を把握しているのでしょうか? はなはだ疑問が多い Phase です。 この稿は、 主として B767 に関し書いてありますが、 他機種にも共通するものがあると思います。 機種ごとに性能の違いがありますが、 Rotation の概念は同じなので他機種の方も自分の Rotation をチョット考えてみては如何でしょうか。 図−① Rotation を語る前に、 先ず TKOF Thrust が飛行機にどの様な動きを与えているのか?考えて みます。 図−①、 TKOF Thrust は、 VR (Rotation) までは全て加速 (Acceleration) に使われます。 VR から規定の Vclimb に安定するまでは、 加速 (Acceleration) に利用される部分が徐々に小 さくなり、 上昇 (Climb) に利用される部分が大きくなります。 その後、 規定の Vclimb に安定す ると水平飛行に必要な推力を超える余剰推力は上昇に利用されます。 これはどの飛行機も同じです。 図−② 図−②は左から右に、 Lift Off 前後の Gear や飛行機の状態を表しています。 Main LDG Gear は、 Rotation 開始時、 Oleo Compressed 状態で Gear Beam は Not Tilt の水平状態から、 Oleo は Extend し Beam は Tilt し傾いた状態 (B767 は進行方向と逆 Tilt) となり Lift Off します。 その 直後の Lift Off1秒後が、 尾部が最も滑走路面に近い Minimum Tail Clearance 状態で Tail Height は Main Gear より低くなります。 参考に、 B767-300 の尾部接地 (Tail Hit) する Pitch 角度は、 9.6度と7.9度 (Rule of Thumb− 苦労無く) で、 Oleo Compress の Not Tilt 状態で7.9度。 Oleo Extend の Tilt 状態で9.6度です。 2010 JAN 69 〈ROTATION の IMAGE〉 Rotation は、 VR まで直進してきた飛行機に、 振り子運動 (円運動) の角速度を与える支点 の操作、 と捉えると Image が容易です。 振り子は、 支点からの糸の長さでも角速度が変わります。 つまり VR の速度で、 糸が短いと速く回転し Rotation Rate が大きく、 糸が長過ぎると遅く回転 し Rotation Rate が小さい、 と言えます。 この糸の長さを変えるのは支点を支える力、 Back Pressure と言えるでしょう。 ① TKOF Roll 開始では、 振り子の糸も弛んでいます。 ② V1 以前の TKOF Roll では、 支点 (手) は飛行機と共に動き、 糸の緩みは風圧で後方にはら んでいますが、 緩みは依然残ったままです。 加速で Pitch が上がらない様に Control Column に軽く FWD Pressure をかける操作が必要です。 ③ V1 付近で、 風圧で張っていた糸の緩みを無くし直ぐにでも引上げられる様に ピン と張っ た状態にします。 つまり、 Control Column に 遊び を無くす Back Pressure をかける操 作です。 ④ VR Rotation で Control Column に グーッ と Back Pressure をかけます。 これにより 前進の力と支点を支える Back Pressure で飛行機は Pitch Up する 振り子運動 になります。 この VR 付近で グイッ! と急激に Back Pressure をかける、 つまり、 支点を引き上げる と飛行機は跳び上り、 適正な Lift Off Pitch、 例えば B767 の7.5度、 を超える恐れもあります。 操縦桿の重い軽い等の機体固有の特性や気流の変化、 WX 条件等の影響が判らない中で、 グ イッ! と Back Pressure をかける Rotation をすべきではありません。 グイッ! と Back Pressure をかけると、 Lift Off Pitch がその都度異なる高い傾向のバラツキが見られます。 また、 そこで Pitch Up Rate の Adjust は難しいでしょう。 ⑤ VR Rotation で、 Control Column に グーッ と Back Pressure をかけ続けると、 Pitch は振り子の支点を中心に円運動の様に上り続けてしまいます。 このため、 Pitch の上り具合を 見ながら Back Pressure を緩め、 Pitch Up Rate の Adjust が必要です。 これにより Liftoff までの Pitch Up Rate が決まり、 Lift Off Pitch、 例えば B767 の7.5度、 を守る事ができます。 ⑥ Lift Off Pitch が、 7.5度でも、 離陸上昇の SPD の Pitch にするには、 更に Pitch Up が必要 です。 このため Lift Off 後に VR と同じ様に Control Column に グーッ と Back Pressure をか けます。 70 2010 JAN ⑦ そして、 振り子の円運動を直線運動にする、 つまり離陸上昇の Target Pitch 少し前にリード をとり、 Back Pressure を緩め、 所望の SPD を維持する Pitch に Stabilized させ上昇します。 適切な Rotation は、“Rotation”で グイッ! と、 または、 Lift Off で グイッ! と Back Pressure をかける、 或いは変えるのではなく、 同程度の Back Pressure で同程度の角速度を与え る操作、 と言えます。 グラフ−① TKOF Flap の Level Flight の Data は、 TKOF・Rotation・Climb・Flap Retraction の概念 的な性能や Control を Image するのに役立ちます。 B767 の TKOF では上昇率の良い Flap5 が主 に使われます。 グラフ−①の Flap5 の Pitch と Fuel Flow の Data に注目して下さい。 このグラフは、 B767-300PW Weight 270Klbs、 STD Temp の Level Flight の Data で、 左軸は Fuel Flow、 右軸は Pitch で描かれ、 Flap 5 RTG-1 の TKOF Data も張付けてあります。 また、 TKOF Thrust RTG-1 の EPR は1.36で Fuel Flow は約 15500lbs、 2Engine で V2 + 15kt=156kt の Data を概略計算すると、 Climb Pitch (グラフ−①TKOF DATA−CLB ATT) 約16度、 Climb Path 約10度。 1Engine で V2 の Data は、 Climb Pitch 約11度、 Climb Path 約2.4度です。 2010 JAN 71 Rotation では、 図−①、 離陸推力は VR まで加速に、 VR からは加速から上 昇に移行し、 Vclimb で Level FLT を超える余剰推力は上昇に利用される。 Rotation Rate に関係する Lift Off の SPD を概略予測してみよう。 なお、 V2 は 35ft までに得られる SPD で、 機種や Lift Off Pitch の関係で、 実際の Lift Off SPD と前後する場合がある。 B767-300の適切な Lift Off Pitch は、 Oleo Compressed で Tail Hit する7.9度 以下、 且つ Lift Off の1秒後に Oleo Extend 9.6度の 2度/sec 前、 つまり目 安は Tail Clearance に余裕がある 7.5度 と言われている。 グラフ−①から、 Flap5、 7.5度で Level FLT できる SPD は表から 153kt の V2 + 12kt 付近になる。 この SPD 以上で機は上昇する。 従って、 Lift Off SPD は V2 + 12kt の付近と言え、 B767-300 Series では翼形が同じなので TKOF Thrust が違ってもほぼ同じと言える。 それより小さい SPD では Pitch を高く しないと Lift Off できない。 そうか! Rotation Rate が速いと加速が若干遅く、 8度では Level FLT の SPD の 150kt で Lift Off しますね。 B767 が Tail を擦るのは、 Oleo Compress 状態で7.9度、 Oleo Extend では9.6度で、 Lift Off の1秒後が Tail Clearance が 最小、 になる。 従って、 8度で Lift Off して、 1秒後に10度になれば、 9.6度を 超えるので速い Rotation Rate と言えますね。 やはり Lift Off は7.5度、 または それ以下が無難ですね。 図−③ 上昇降下の概略の Path は、 現在の Pitch と Level FLT の Pitch の差になる。 従って、 速度と Path から概略の Climb/Descent Rate が計算できる。 Thrust は、 その違いを Pitch の差で割れば、 1度 Pitch 変化に対する Fuel Flow・ N1 変化となる。 例えば、 グラフ−①、 TKOF Pitch 16度と Level FLT の Pitch 7度、 Fuel Flow 約 15500lbs と約 5400lbs の差か ら、 1度≒ 1000lbs となる。 図−③ ADI や PFD で、 現在の概略の Path が容易に把 握でき、 Thrust も予測できる。 72 2010 JAN 図−③、 離陸推力で Level FLT を超える分が上昇に使える。 RTG-1 の Fuel Flow は約 15500lbs で、 2ENG では15500×2=31000lbs だが、 もし 1ENG が Fail すれば 15500lbs となり、 Each ENG 約 8000lbs 相 当の Thrust になる。 8000lbs から Level FLT の Thrust を引くと上昇に使える推力は極端に小さくなる。 面白い事に B767 は、 Level FLT の Fuel Flow との差を1000で割れば、 大まか だが Climb/Descent の Path に近い。 例えば、 Level FLT 5000lbs から 3000lbs 引けば3度で降下する。 B767 の Fuel Flow の Rule of Thumb は、 Level FLT と Final が Weight の倍 つまり Weight×2÷100で、 上昇降下は 1度/ 1000lbs 、 この値は Manual Control にも使えるので憶えていると便利だ。 グラフ−①から色んな事が判りますね。 Flap5 の Level FLT の Fuel Flow は、 Back Side と Front Side のカーブで、 V2 + 25kt 付近が分岐点に近く最も Fuel Flow が小さく 5280lbs で、 V2 + 15kt の 5350lbs より小さい。 つまり、 V2 + 25kt が Climb Rate が良い事が伺えます。 このカーブは、 V2 + 15kt 以下は傾 斜が大きく、 もし V2 + 15kt が風等の影響で、 V2 + 5kt になった場合、 Level FLT に必要な Thrust は大きくなり Climb Rate が悪くなる事が判ります。 Rotation は、 7.5度で Lift 後、 V2 + 25kt で上昇し、 V2 + 15kt に減らす必要は無 い。 V2 + 25kt は Flap5 の Maneuver SPD Vref30 + 40kt の 約7kt 手前 で、 Flap Retraction の時に有利ですね。 過去、 B767 の規定の Vclimb が、 High Pitch に成り勝ちな V2 + 15kt から改 訂され V2 + 25kt まで広がった。 2ENG で SPD が大きい V2 + 25kt を目指す ゆっくりした Rotation Rate でも ENG Failure が起これば、 Rotation で或い は Pitch Down する間に V2 + 15kt 付近になるかもしれない。 もし V2 + 15kt を目指す速い Rotation Rate に慣れていると ENG Failure で V2 に極めて近く なる恐れもある。 V2 + 25kt を目指す Rotation が、 余裕が生まれる、 と言える。 Captain から Rotation Rate が遅い! と言われ速くしましたが、 横風に Rudder や Aileron をしっかり合わせる前に RWY が見えなくなりドタバタした 経験もあります。 感覚的な言葉は私たちにとっても判り難いですね。 性能的に有 利な V2 + 25kt を目指したゆっくりした Rotation Rate ならば Lift Off Pitch も瞬間的に確認できますね。 Rotation して Lift Off Pitch を確認して V2 + 25kt Climb に移る、 ですか? 2010 JAN 73 2ENG 機材の V1 は、 ENG Failure で加速停止距離と離陸継続距離が同じに なる様に設定され、 V1 を過ぎると Go! しかない。 君の言った通り、 2ENG の Rotation では安全な余裕がある離陸を考えた方が良い。 AOM の TKOF Data は、 ENG Failure を想定した Data であり、 かなり余裕のある 2ENG の Data ではない。 Lift Off Pitch を瞬間的にでも確認出来る様な Rotation をしているだろうか? 1ENG と 2ENG がゴチャマゼで語られていないだろうか? Rotation は、 VR で Pitch を変化させ、 SPD がくれば Pitch に応じて Lift Off する。 つまり、 Rotation は飛行機を 引き上げる! ではなく、 引き起し で 浮揚させる! ですね。 どうも 引き上げる! 様なグイッと Rotation を していた様な気がします。 ある Captain から、 Rotation は、 寝た子を起こす時、 子供の両手を握り グ イッ と引張って起こすだろうか?優しく、 起きなさい!とでも言って両手を握っ て優しく引いて起こすだろう!と言われました。 なるほど!引き起しと言われて いる Rotation を 言い得て妙! と思いました。 さて、 VR の 135kt から、 Lift Off が V2 + 12kt の 156kt まで約 20kt となる。 B767-300PW、 WT 270T で RTG-1 の離陸推力で V2 付近の加速率は 4kt/sec 付 近なので5秒。 Lift Off Pitch が7.5度とすると、 Rotation Rate は1.5度/sec と なる。 通常言われる2度/sec の Rotation Rate より小さく、 B767 では Lift Off の時 Auto Brake が外れる カチッ の音がするので、 Pitch に目を走らせる事がで きる。 その癖を Copilot Duty で身につける と良い。 私も、 教育の為、 あるいは 安全な操縦の為に教官時代に右席で身に付けたのだ。 CAP や Copilot 間や教育 の場で、 Lift Off が7.5度を超える Rotation にはお互いに忌憚なく注意を促すべ きと思う。 Rotation! Rotation! 74 寝た子を起こす! 浮揚させる! Lift Off は何度だった? 2010 JAN Rotation に関し、 二つの事例を話そう。 一つは、 Tail Wind 時の Rotation で鳴るべき時に音が鳴らない。 目を走らせ た Pitch は7.5度だったが、 Tail Wind 増加で加速が悪く Lift Off していない。 止む無く Pitch Up を緩めると程なく加速し カチッ の音がして Lift Off した。 もし、 そのまま Pitch Up していたら尾部が接地した可能性もあっただろう。 もう一つは、 TKOF Thrust の違いだ。 Runway Length が長い時、 Weight 280Tlbs で Thrust が小さい RTG-2 を選んだ人がいた。 RTG-2 では、 EPR 1.32、 Fuel Flow 14000lbss、 TKOF Length 7550ft で、 加速率は 4kt/sec より小さく、 ゆっくりした Rotation Rate が必要だが、 グイッ と Rotation して Vclimb が V2 + 10kt 付近になってしまった。 そこで、 もし ENG が Fail したら Each ENG 7000lbs 相当の Fuel Flow となり、 減速はするし TKOF Path は相当悪い だろう。 TKOF で は 、 何 時 も Rotation Rate や 加 速 率 が 同 程 度 に な る Weight と Thrust の関係を考えてみるのも良い、 と思う。 All ENG だけに通用する速い Rotation Rate では Lift Off Pitch も確認でき ませんね。 ENG Failure でも通用する Rotation Rateで、 Lift Off Pitch が読める程度の Rotation Rateですか! VR で Back Pressure をかけるのではなく、 Pitch が 上げる様にするには VR 前から遊びを無くす Back Pressure が必要ですね。 TKOF の Stab Trim は 、 Critical な One ENG Failure の V2 + 15kt で Stab Trim をとる必要が無い In Trim になる様に考慮されているので、 VR 前に 遊びを無くす Back Pressure をかけても Pitch は上がりませんね。 過去、 VR 前に少し Back Pressure をかけた時、 CAP に急に Control Column を抑え込まれた事や、 瞬間的でなく、 外だけを見て Lift Off Pitch を判断しろ! と言われても難しいものがあります。 VR の操縦や認識に Consensus が欲しい ですね。 グラフ−①の Flap5 と Flap1 の Level FLT の Data を比較すると、 Flap Retraction の方法も予測がつく。 Flap1 ・ Vref30 + 40kt Level FLT の Pitch 8.5 度を維持すれば、 Pitch 一定で Flap Retraction できる。 V2 + 25kt ならば Pitch Down すれば直ぐ Vref30 + 40kt (173kt) になり Flap1 に上げられる。 FD の Pitch に Follow し Control しても良いが、 加速時などの SPD の変化中、 FD は Pitch 変動を指示する事が多く STAB Trim もとり難い。 Pitch 変動が大 きいと乗客にも G を与えてしまうので、 私は、 FD Pitch と異なっても、 Pitch 一定で Trim をとる様にしている。 2010 JAN 75 TKOF に使う Flap5 の Level FLT Data は色んな事を掴め面白いですね! VR 前後では、 Acceleration から Climb への Transition の Phase で Pitch Up Rate が一定とは言えませんね。 Rotation する時は、 Go! なので、 Lift Off1秒後まで安全確実な Control を図り、 それ以後、 ENG Failure や風の変動、 Wind Shear に余裕のある V2 + 25kt を目指す。 つまり、 Rotation Rate は一 定ではなく、 2段引き! でも構わない、 と言う事ですね。 2度/sec は平均で あって、 今まで2度/sec と言われても常に2度/sec ではない。 Rotation を Monitor している時にそう思いました。 VR で正しく Rotation された場合、 V2 + 25kt Climb の Merit は ① Rotation Rate がゆっくりになり、 自分の Control を確認出来る。 ※Rudder と Aileron の Control に余裕が生まれる。 ② 2 ENG では性能上問題となる事は無い。 ※TKOF Data は全て 1ENG で想定されている。 ③ Flap Retraction の開始 SPD に近く、 Drag を早く減らせる。 ※ V2 + 25kt=Vref30 + 40kt −7kt V2 + 15kt=Vref30 + 40kt − 17kt ④ ENG Failure・風の変動・Wind Shear 等に SPD の余裕がある。 いざ! と言う時 SPD を高度に変換できる。 B767 では、 AIDS (飛行記録装置) が装備され、 実際の Aircraft Data で自 分の Control を後で振り返る事ができる。 Main Gear が Lift Off した時の IAS と Pitch を振返り、 以後の Rotation を修正する事もできる。 Rotation Rate は 癖や慣れとなると、 これが正しい?との思い込みや、 今まで何もないから!とな かなか変える事が出来ない。 自分の Rotation を振返る事も必要だろう。 自分の Control を振返る事は Pilot である限り、 Captain になっても、 安全な操縦を目指すために必要な事と 言えるだろう。 Rotation で Rotation Rate は○○度/sec! とよく言われています。 しかし数字だけが独り 歩きし感覚的に語られていないでしょうか? 外を見て Lift Off Pitch を判断しろ! と言われて も視程が悪い時は? そしてどの様に Control するのか? 速い Rotation Rate はどの様な利点 があるのか? Rotation Rate High の結果は Below V2 SPD にも結び付きます。 Rotation Technique は運航の中で一瞬の事とは言え、 意外と盲点なのです。 感覚も必要でしょうが、 自分の Control が確認出来る様な Rotation が望ましいのではないでしょうか? この稿は意外と盲点の Rotation Rate に Spot を当てて書いてみました。 B767 を例にしました が、 概念的には機種が違っても同じと思います。 各機種、 各自で Rotation を振返るきっかけにし て頂ければ幸いです。 その Rotation、 Engine Failure でも大丈夫か? 76 2010 JAN 「エネルギー持続性フォーラム」 第4回公開シンポジウム出席報告 運航技術委員会 地球環境問題分科会リーダー 2009年11月28日、 1300∼1730にわたり、 東京 都渋谷区にある国際連合大学で開催された 「ポ スト京都議定書に向けた低炭素社会の構築」 と 題した国際シンポジウムに参加し、 入手した配 布資料から、 その一部を紹介する。 主催は、 東京大学サステイナビリティ学連携 研究機構 (IR3S)、 共催は国際連合大学 サス テイナビリティと平和研究所、 および昭和シェ ル石油株式会社で、 プログラムは下記の通りで あった。 (同時通訳つき) 開会挨拶 (1300∼1305):武内 和彦:国際連 合大学副学長、 東京大学サステイナビリティ 学連携研究機構 (IR3S) 副機構長 講演 (1305∼1535):(各講演20分) 高村ゆかり:龍谷大学法学部教授 「COP15 (コペンハーゲン) に向けた温暖 化交渉の課題と展望」 W. C. RAMSAY:フランス国際研究所 シニアフェロー 「Europes Search for a Low Carbon Future」 G. BERENOS:駐日欧州委員会代表部 一等書記官 「The European Commissions Strategy on Climate Change; EU and International Development」 湯原 哲夫:東京大学サステイナビリティ学連 携研究機構特任教授、 キャノング ローバル戦略研究所 研究主幹 「気候変動の科学、 国際公平性、 実現可能性 から見た日本の中期 CO2削減目標」 岩瀬 2 健祐 S. R. CONNORS:マサチューセッツ工科大学 エネルギー・環境研究所 地域代替エネルギー解析グループ ディレクター 「 Looking Beyond The Targets: Capacity Requirements to Achieving Large Scale Greenhouse Gas Reduction in the United States and Beyond」 …………………休 憩………………… パネルディスカッション (1550∼1725) モデレーター:山路 憲治:東京大学大学院 工学研究科電気工学専攻教授 パネリスト:講演者ならびに A. S. Hearth: 国際連合大学 サステイナビリティ と平和研究所 学術審議官 閉会挨拶 (1727∼1730) 新井 純:昭和シェル石油株式会社 代表取締役社長 ………………………………………………… 環境用語: プレゼンテーションのパワー・ポイント・スラ イド資料 (協会事務局保管) の中から、 目新し い用語について以下に紹介する。 101. COP15 COP は Carbon Offset Plant の略でもあり ますが、 そのあとに数字をつけると、 Conference of the Parties (条約締約国会議) の略と して使われています。 COP15は、 国連気候変動枠組み条約第15回 締約国会議として、 デンマークのコペンハーゲ ンで2009年12月7日から2週間開催され、 ポス ト京都議定書の国際的合意を目指しています。 (2009年12月10日付) 2010 JAN 77 102. CCS : 二 酸 化 炭 素 回 収 貯 留 (Carbon dioxide Capture Storage) 発電所や工場などから排出される CO2を回収 し、 地中や海中に注入して貯蔵・隔離する技術 をいう。 国連の IPCC においても地球温暖化対 策の有効な技術として評価されている。 この分野の研究開発が世界中の大学・企業・ 研究機関等で実施されており、 その中でも日本 は Leading Country とみなされている。 103. Per Capita Energy-Related CO2 Emissions by Region IEA (国際エネルギー機関) が2004年に発表 した、 地域別一人当たりのエネルギーに関連し た CO2排出量の比較データの一例を紹介する。 地域区分は、 OECD (経済協力開発機構加盟 国)、 Transition Countries (自由主義経済へ の移行中の国々)、 Developing Countries (発 展途上国)、 排出量の単位は ton、 2002年の実 績、 2010年および2030年の予測を示したもので ある。 (国際エネルギー機関 2004年資料より) Per Capita Energy-Related CO2 Emission by Region OECD:経済協力開発機構加盟国、 TE:Transition Economies (自由主義経済へ移行中の国々)、 DC: Developing Countries (発展途上国) ………………………………………………… 前号で紹介した、 環境省の平成21年度 「地球 環境研究総合推進費」 による研究項目の紹介の 後半です。 全体で約80項目 (前回22項目、 今回 57項目) あり、 平成20年度は32億弱、 21年度は 40億弱の研究費が助成されている。 日本として の環境問題研究開発費が 「仕分け」 で平成22年 度がどうなるか注目したい。 78 2010 JAN 地球環境問題対応型研究領域 越境汚染 (大気・陸域・海域・国際河川) ・東アジアにおける生態系の酸性化・窒素流出 の集水域モデルによる予測に関する研究 ・東アジア地域における POPS (残留性有機汚 染物質) の越境汚染とその削減対策に関する 研究 ・風送ダストの飛来量把握に基づく予報モデル の精緻化と健康・植物影響評価に関する研究 ・黄砂現象の環境・健康リスクに関する環境科 学的研究 ・東アジアと太平洋における有機エアロゾルの 起源、 長距離大気輸送と変質に関する研究 ・アジアにおける多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の発生源特定とその広域輸送 ・市民と研究者が共働する東シナ海沿岸におけ る海岸漂着ごみ予報実験 ・大型船舶のバラスト水・船体付着で越境移動 する海洋生物の動態把握と定着の早期検出 ・日本海域における有機汚染物質の潜在的脅威 の把握 ・東シナ海環境保全に向けた長江デルタ・陸域 環境管理手法の開発に関する研究 広域的な生態系保全・再生 ・熱帯林の減少に伴う森林劣化の評価手法の確 立と多様性維持 ・地域住民による生態資源の持続的利用を通じ た湿地林保全手法に関する研究 ・脆弱な海洋島をモデルとした外来種の生物多 様性への影響とその緩和に関する研究 ・炭素貯留と生物多様性保護の経済効果を取り 込んだ熱帯生産林の持続的管理に関する研究 ・トキの野生復帰のための持続可能な自然再生 計画の立案とその社会的手続き ・土壌生物の多様性と生態系機能に関する研究 ・非意図的な随伴侵入生物の生態リスク評価と 対策に関する研究 ・SEA−WP 海域における広域沿岸生態系ネッ トワークと環境負荷評価に基づく保全戦略 ・海洋酸性化の実態把握と微生物構造・機能へ の影響評価に関する研究 ・温暖化が大型淡水湖の循環と生態系の及ぼす 影響評価に関する研究 ・絶滅危惧植物の全個体ジェノタイピングに基 づく生物多様性保全に関する研究 ・気候変動に対する森林帯−高山帯エコトーン の多様性消失の実態とメカニズムの解明 ・アオコの分布拡大に関する生態系・分子系統 地理学的研究 ・水田地帯の生物多様性再生に向けた自然資本・ 社会資本の評価と再生シナリオの提案 ・渡り鳥による希少鳥類に対する新興感染症リ スク評価に関する研究 ・北東アジアの草原地域における砂漠化防止と 生態系サービスの回復に関する研究 持続可能な社会・政策研究 ・水・物質・エネルギーの 「環境フラックス」 評価による持続可能な都市・産業システムの 設計に関する研究 ・持続可能な国土・都市構造への転換戦略に関 する研究 ・里山イニシアティブに資する森林生態系サー ビスの総合評価手法に関する研究 ・アジア太平洋地域を中心とする持続可能な発 展のためのバイオ燃料利用戦略に関する研究 ・低炭素社会に向けた住宅・非住宅建築におけ るエネルギー削減のシナリオと政策提言 ・都市・農村の地域連携を基礎とした低炭素社 会のエコデザイン ・バイオマスを高度に利用する社会技術システ ム構築に関する研究 ・低炭素型都市づくり施策の効果とその評価に 関する研究 ・社会資本整備における環境政策導入による CO2削減効果の評価と実証に関する研究 ・低炭素社会の理想都市実現に向けた研究 ・中国における気候変動対策シナリオ分析と国 際比較による政策立案研究 ・気候変動の国際枠組み交渉に対する主要国の 政策決定に関する研究 ・里山・里地・里海の生態系サービスの評価と 新たなコモンズによる自然共生社会の再構築 ・再生可能エネルギーの大規模導入を可能とす る自立強調エネルギーマネジメントシステム ・低炭素車両の導入による CO2削減策に関する 研究 ・バイオ燃料農業生産を基盤とした持続型地域 社会モデルに関する研究 ・国際都市間協働によるアジア途上国都市の低 炭素型発展に関する研究 地球環境研究革新型研究領域 ・サンゴ骨格による古気候復元と大循環モデル の統合による気候値復元と予測に関する研究 ・北限域に分布する造礁サンゴを用いた温暖化 とその影響の実態解明に関する研究 ・水安定同位体トレーサーを用いた気候モデル における水循環過程の再現性評価手法の研究 ・アンチモン同位体に基づくバングラデシュの 地下水ヒ素汚染の起原解明 ・葉圏菌類の多様性プロファイルに基づく環境 変動評価・予測手法の開発 ・日常生活における満足度向上と CO2削減を両 立可能な消費者行動に関する研究 ・4次元データ同化手法を用いた全球エアロゾ ルモデルによる気候影響評価 ・亜寒帯林大規模森林火災地のコケ類による樹 木の細根発達と温室効果ガス制御機構の解明 ・日本の落葉広葉樹林におけるメタンおよび全 炭化水素フラックスの高精度推定 ・POPs 候補物質 「難分解性 PPCPs」 の環境 特性と全球規模での汚染解明 ・黄砂粒子上で二次生成する多環芳香族炭化水 素誘導体による越境大気汚染と健康影響 ・マルチサイズ解析による東アジアにおける大 気中超微粒子 (UFP) の動態に関する研究 ・藻場の生態系サービスの経済的価値評価:魚 類生産の 「原単位」 から 「日本一」 をさぐる ・南西諸島のマングースの水銀濃縮解明に関す る研究 2010 JAN 79 GA:ジェネアビ情報 FAI ラリー飛行競技 奥貫 国 際 航 空 連 盟 FAI (Federation Aeronautique Internationale) は、 航空の各種記 録を認証し、 広く周知すると共に、 航空へのチャ レンジを、 ルール化した体系の元で国際公式記 録として残す、 いわば、 航空スポーツの確立と 統括を目的とするものです。 日本では、 財団法人日本航空協会が、 国を代 表する正会員として FAI に加入しています。 FAI の航空スポーツ委員会は、 様々な航空 スポーツ活動を展開していますが、 日本におい てもそれぞれの分野に対応した組織が、 航空協 会の FAI 活動を支えています。 JAPA もその 実施機関として、 FAI の航空スポーツ分野の ・ジェネラルアビエーション ・ロータークラフト ・エアロバティックス の3部門を担当しています。 今回紹介させていただきます FAI ラリー飛 行競技は、 上記区分の中の、 ジェネラルアビエー ション競技に属するものです。 このラリー飛行競技の目指すものは、 最も基 本的な有視界飛行における航法及び着陸の技量 向上を通じ、 航空安全の向上に寄与することで す。 航空スポーツの普及が進んでいる欧州圏等 では盛んに実施され、 2年毎に欧州選手権及び 世界選手権が開催されています。 日本では、 これまで、 このラリー飛行競技の 着陸競技の部分を、 熊本 Super Wings が主催 する 「小型機操縦技術競技会」 に取り入れて試 行してきました。 今回は更に、 ラリー飛行競技 全体の実施の可能性を考えてみたいと思います。 80 2010 JAN 博 ラリー飛行競技の目的と概要 ラリー飛行競技の内容は以下のものです。 ・べーシックな航法器材による飛行 ・正確な時間管理によるトラッキング飛行 ・正確な時間管理航法での地上目標の確認 ・小さな接地目標の滑走路への着陸 内容的には、 自家用操縦士技能証明の実地試 験の際に必要とされる航法及び着陸の技量を詳 細なルールで競うものです。 競技は4フライトで、 距離80nm∼120nm、 10∼16レグで実施されます。 各レグの長さは 5nm∼20nm です。 2回の競技を1日で行う 場合の総飛行以降距離は200nm 以下です。 経 路のチェックポイントには、 様々な形状の目標 物 (キャンバスターゲット) が設置され、 その 撮影が必要とされます。 飛行高度は500Ft から 1000Ft。 使用する地図は1/20万又は1/25 万 (1/20万推奨) とされています。 離陸時刻、 各ゲートの通過時刻、 コースから のズレ、 ゲートの通過方法、 地上目標の確認、 高度等に、 ペナルティ・ポイントが設定されま す。 また、 競技には、 FAI ジェネラルアビエー ション部門が承認したフライトレコーダー (GNSS-FR) の搭載が義務付けられます。 その他、 承認されていない航法用電子機器等 の使用があった場合は失格等の細かい規定が定 められています。 では、 その概要について、 個々に紹介をさせ ていただきます。 航空機 競技に参加できる航空機は、 耐空証明を取得 した、 ピストンエンジン又はタービンエンジン 単発のプロペラ飛行機、 3車輪式のモーターグ ライダー (エンジン格納式は不可)、 航法の最 小速度は70kts、 航続距離は指定の航法競技コー スの飛行に対し、 10%の余裕、 及び、 開催国の 航空法による VFR としての余裕量を加えたも のとされています。 その他、 VHF 送受信機の 装備が必要とされています。 実際の参加機としては、 100馬力2人乗りの Cessna150/152が最も多く、 また最近は、 本誌 でも紹介の LSA (Light Sport Aircraft) で の参加も多くなっています。 競技は2人の搭乗 で実施されますが、 4人乗りの機体であっても、 2名の搭乗であれば参加することが可能です。 また、 日本の例で言えば、 在籍の全ての3車輪 式のモーターグライダー (エンジン非格納式) は、 参加可能な性能を有しています。 機体関係の変わった所では、 車輪 (タイヤ) への十文字の白色マーキングがあります。 これ は、 着陸競技の接地位置を、 車輪の回り始めの 位置として、 確実に判定するためのものです。 参加可能な航空機の細部につきましては、 FAI ス ポ ー テ ィ ン グ コ ー ド Section 2 , C-1 (a, b, c, d) (飛行機)、 C-3 (a, b, c) (水陸両用飛行機) 及び、 Section 3 (モー ターグライダー) を参照ください。 ラリー飛行の航法競技の概要 競技に参加する選手は、 機体の出発準備を整 え、 機内で待機します。 離陸時刻の30分前から 15分前の間に、 当該航法競技飛行に必要な情報 一式が入った封筒が手渡されます。 以降、 競技は、 以下の内容の勝負になります。 ・飛行計画の作成、 地図へのプロット等 ・タイムチェック ・地上目標の確認 (ターゲットの写真撮影) ・着陸テスト (1∼2回) 離陸後、 パイロットは、 指示に従って、 最初 のレグへ出発します。 出発時刻の遅れはペナル ティ加算の対象となります。 出発ポイント (SP) と中間スタートポイン ト (iSP) ではアウトバウンド方位が指示され ます。 またチェックポイント (CPs)、 ファイ ナル・ポイント (FP) 及び通過ポイント (iFP) にはインバウンド方位の指示があります。 これらの、 方位の指示による飛行と、 トラッ キングは、 フライトレコーダー (GNSS-FR) のデータでチェックされます。 各ポイント間での90°以上の変針や、 不適切 な通過は、 ペナルティの対象となります。 フライトレコーダーが5秒以上間連続してコー スからの逸脱を示している場合、 及び、 SP と iFP、 iSP から FP までの間における90°以上 の方向転換もペナルティになります。 45Sec.Start 45Sec.End Observed. Not Circling RF.1a 100馬力2人乗りの競技参加機体 FAI ミーティングでの CP 通過要領の説明 2010 JAN 81 この方向転換がゲート通過後45秒以内なら、 90°以上の方向転換のペナルティは適用されま せん。 SP (ISP) のゲートには、 左右1NM の 距離に 「ゲート・ライン」 があります。 この 「ゲート・ライン」 は、 反方位に向かう旋回の ペナルティの判定に利用されます。 航法テストのプロット すべてのチェックポイント (CP s) 及びレ グは、 飛行の指示書に明確に示されています。 ターニングポイント (TP)、 SP、 iFP、 iSP、 及び FP は、 全てチェックポイントとなります。 また、 すべての CPs は地上及び地図上の正確 なポイントとなります。 チェックポイントの指示は以下によります。 ①予め知られている位置 ②座標 (緯度と経度) ③①又は②からの任意の経路の距離 地図上に予め示された CPs としては、 空港 の中央、 VOR/NDB 標識、 及び、 北緯統計で 示された位置が該当し、 これらは、 「既定位置 (known position)」 になります。 また、 競技の主催者には良くわかるものであっ ても、 外国人の競技者になじみのない位置は 「既定位置」 にはなりません。 航法レグの指示は以下のようなものです。 ①顕著な特徴のあるレグの場合 CP1 から川に沿って CP2 へ飛行 アーク (円弧) によって定義されたレグ。 CP3 から CP4 にアーク飛行 ②アークとその中心点による指示の場合、 中 心点は 「既定位置」 から選ばれ、 地図上の アークと半径は、 指示書に含まれます。 ③①又は②の場合は、 レグの概略の距離及び 正確な時間が指示書の中に含まれます。 ④2個の封筒によるルート CP が良くわからない場合は、 この2個の封 筒の1つを開封します。 封筒に入っている指示 書には、 継続した4レグ以上が示されています。 また、 封筒内には2∼3地点が示されています。 トラック、 磁方位又は真方位で示されます。 磁方位の場合、 主催者は、 バリエーションの値 を公表します。 距離は、 小数点1位までの Nm か Km で示されます。 地図のミリメートルか ら NM 等への換算率も与えられます。 競技には GPS の時刻が利用されます。 時刻 はローカル時刻、 UTC、 又は離陸後の経過時 間として与えられ、 時刻の計測は、 離陸、 少な くとも75%の CP、 及び、 競技の回答用紙を提 出する時に実施されます。 また、 時刻は、 イン バウンド・トラックに直交する、 左右それぞれ 0.5Nm のゲートを通過した時にチェックされ ます。 地上目標確認の競技は、 スタート後の最初の チェックポイント (IFP) から始まり、 最終ポ イント (FP) で終わりとなります。 また、 キャ ンバスターゲットが利用されます。 キャンバスターゲットは長辺3∼4m 線の幅は0.5m と定められています。 様々な形状のキャンバスターゲット 河川は航法レグの指示に利用される 82 2010 JAN 地上目標及びキャンバスターゲット確認の記 録は、 写真によるものとされています。 飛行高 度は500∼1000Ft です。 競技者は2セットの写 真の提出が必要です。 CP の写真 (最小:10、 最大18) 及びエンルートの写真 (最小:15、 最 大20) です。 CP の写真の撮影方向は任意です。 CP の特 徴が写された写真は合格ですが、 チェックポイ ント周辺1NM 以内の特徴が不明確な写真は、 不合格となります。 競技者は、 競技の回答用紙の適切な枠内にマー クして、 写真と共に提出します。 写真は、 チェッ クポイントの番号がマークされ、 正しい順序で 並べられます。 エンルートの写真は、 撮影した 物を記述した文字で識別します。 飛行の順番で はありません。 エンルートの写真は2つのグルー プに提出します。 これらのグループについては 飛行指示書に記載されています。 1つのグルー プにおける写真は最大10です。 撮影対象物は、 ルートから300m 以内にあります。 キャンバスターゲットは、 CP 間のルートか ら100m 以内にあります。 最大5箇所です。 キャ ンバスターゲットが使用された場合、 写真の枚 数は最大の20枚から、 キャンバスターゲットの 数だけ減らされます。 (例えばキャンバスター ゲットが3個あれば、 写真は17枚になります)。 SP からの最初の5NM、 CP からの1NM、 FP の後及び iFP と iSP の間には、 エンルートの 写真も、 キャンバスターゲットも存在しません。 着陸競技 こ の 着 陸 競 技 は 、 日 本 で も 熊 本 の Super Wings の競技会及びふくしまスカイパークで の着陸競技会でも実施されました。 要は通常のダウンウインドレグから、 パワー、 フラップ、 スポイラー等を任意に使った着陸で、 その接地位置の精度を競うものです。 競技は、 前後52m 幅12m を着陸ターゲット として、 その中に、 前後幅2m のペナルティ ゼロのエリアがあります。 この競技では、 接地位置と共に、 安全確実な 正しい着陸操作が評価されます。 また、 タイヤ に十文字の白いマーキングをして、 接地による タイヤの回り初めが確実にわかるようにして、 更に、 2台のビデオでの記録が必要とされてい ます。 実際、 競技をして見ますと、 境界線上と 思われる着陸も多く、 判定は厳正でなければな らないのです。 鉄道等も顕著なコースの目標に利用される 着陸区域と接地位置のペナルティ 2010 JAN 83 GNSS-FR Manufacturer Contact BeHeTec GmbH & Co. KG web:http://www.AFLOS.com/ email:[email protected] Tilt-Tech cc web:http://www.tilt-tech.co.za/ AOGLS.htm email:[email protected] FS-Logger Icarosystems web:http://www.icarosystems.com/ email:[email protected] iLog Type iQuest web:http://navigraph.mediacenter5.hu/ email:[email protected] C&N GIS/GPS-Technology web:http://www.c-n.at/ email:[email protected] AFLOS Air Observer Air Observer Mini Logger Air Observer Micro Logger GeoTracker TinyBrother GPS ラリー飛行競技に使用される FAI 認定フライトデータレコーダー (GNSS-FR) フライトデータレコーダー 世界選手権や、 欧州選手権のような公式の競 技会においては、 FAI のジェネラルアビエー ション部門が承認したフライトデータレコーダー (GNSS-FR) の搭載が義務付けられています。 記録装置の仕様は、 FAI スポーティングコー ド Section2, Annex4 に述べられています。 そ の認定品を上の表に示します。 選手は、 認定された記録装置 (GNSS-FR) を搭載して競技を行ない、 選手の責任で正しく 作動をさせることが必要です。 また、 競技選手 以外の人がこの装置に触ると、 失格になります ので、 注意が必要です。 チーフジャッジ又はその他のジャッジは、 全 競技に適した離着陸場 84 2010 JAN コースについて、 90度を超える航跡の逸脱が無 いか、 また指定のタイムゲートの通過をチェッ クします。 おわりに 日本では航空機による空のスポーツは、 本当 にマイナーな存在です。 特に飛行機の航法競技 は30年以上も前に実施されたのみで、 今は行わ れていません。 その背景には飛行環境のことがあるとしても、 やはり根底は航空文化ではないでしょうか。 思うに、 欧州の各国は、 大戦による中断はあっ たにせよ、 小型機による航空スポーツ活動はこ の100年余の間、 FAI を中心としてしっかりと 根付いていたように思えます。 この日本では、 JAPA がジェネラルアビエー ション、 ロータークラフト、 及びエアロバティッ クス部門の推進を担当してからまだ10年にもな らず、 その活動はまだこれからと言える状況で すが、 その中でも、 ジェネラルアビエーション 部門の航法競技 (ラリー飛行競技) のみは、 ま だ試行的なものも実現していません。 FAI のジェネラルアビエーションの総会へ の出席等により、 情報の入手及び、 先進国の人 たちから指導を得る環境はありますので、 飛行 安全への貢献も期待できるジェネラルアビエー ション航法競技 (ラリー飛行競技) の実行につ いて、 日本のデレゲートを推進の窓口として情 報の収集等に努め、 JAPA としても、 航空ス 区 分 離陸及び出発 タイムテスト 観測テスト キャンバスターゲット確認 チェックポイントの撮影 その他 失格の対象となる行為 ポーツのひとつの分野として、 考えて行かなけ ればと思います。 ペナルティの対象 ペナルティ 離陸時刻の遅れが60秒未満 0 離陸時刻の遅れが60秒以上 3 以降、 時刻の誤差1秒毎に 3 (Max.200) 指定時刻から±2秒未満で通過 0 指定位置から±2秒以上は、 1秒毎に 2 タイムゲートの指定ゲートの外側を通過 200 この課目における最大ペナルティ 200 指定位置から0.5nm 以内で正しく撮影 0 指定位置から0.5nm を超え1.0nm 以内で撮影 20 観測に失敗 40 許容範囲外からの不適切な観測 80 指定位置から0.5nm 以内で正しく撮影 0 指定位置から0.5nm を超え1.0nm 以内で撮影 20 観測に失敗 40 許容範囲外からの不適切な観測 80 正しく撮影 0 撮影に失敗 50 識別不可 100 全てのチェックポイント等でのゲート外の通過 200 安全規則・飛行規則への違反行為 600 指定高度以下での飛行 200 細部指示事項への違反 200 指示事項の封筒の開封の違反行為 100 禁止されている航法援助用電子機器の利用 失格 航法トラックからの90度5秒以上の変針 200 解答用紙の提出の遅れ 300 周波数の聴取義務違反 200 地上又は飛行中における不良行為 失格 危険な飛行、 地上の人に危険を及ぼす飛行 失格 他の競技選手の中傷等 失格 法令等への違反 失格 ドーピング規定違反 失格 フライトデータレコーダーへの細工 失格 その他の不正行為 失格 FAI ラリー飛行競技に適用されるペナルティ 2010 JAN 85 ◎ 特別寄稿 ヘリコプターの活用 その2 JAXA 客員研究員 上 前号に引き続き 「ヘリコプターの活用 (その 2)」 です。 我が国のヘリコプタビジネスの沿革と将来構 想が的確に述べられています。 編集委員会 需要動向 前回述べたように、 登録機数の減少状況は明 らかにヘリコプターの活用状況が悪化している と考えられますが、 今後需要増加が期待される 分野はあるのでしょうか? まず、 公的分野では消防・防災ヘリコプター が未だ少し増加する事が期待されます。 ただし、 全国の都道府県および政令指定都市に3県を除 き既に配備されていますので、 そう多くは望め ないでしょう。 けれども、 社会的な要請からす れば、 各県に複数機の配備、 あるいは新たな政 令指定都市の設置等による需要増が考えられま す。 その他警察や海上保安庁を含め公的分野で は機体の更新需要があります。 次に、 事業分野では以前の主要事業であった 薬剤散布や物資輸送、 特に送電線用大型鉄塔工 事等が再び拡大することは考えにくい状況に有 りますが、 その中で 「ドクターヘリ」 事業は、 絶対数としては大きくありませんが、 唯一着実 な増加が期待されます。 また、 人員輸送の分野 については、 この9月16日より 「成田エアライ ンコネクションサービス」 として都心のアーク ヒルズヘリポートと成田空港 (佐倉へリポート) を結ぶヘリ・コミュータが開始されました。 空 86 2010 JAN 村 誠 港・都心間の高速アクセス手段にヘリ・コミュー タの使用を考慮するべきである、 というのが懇 談会の結論でもありましたので、 今回の都心か らのヘリコプターサービスの開始は、 我が意を 得たり、 とも云うべき嬉しい出来事でもありま す。 願望も込めて、 需要増を期待したいもう一 つの分野として旅客輸送分野を挙げておきます。 これらの需要に応えるために解決すべき課題 として、 活用懇談会が指摘した事項の現時点で の状況について主なものを見ていきたいと思い ます。 ヘリ・コミュータ事業実現の為の課題 日本におけるヘリ・コミュータとしては1988 年から1991年まで成田空港−羽田空港−横浜の 間でシティエアリンク社が営業運航を実施した 例があります。 けれども、 計器飛行方式が設定 されていないので、 有視界飛行方式による運航 しか認められず、 低就航率のため運航に対する 利用者の信頼性が得られなかったこと、 環境問 題のため羽田−成田間の飛行高度制限が設定さ れ (2900ft)、 更に低い就航率を余儀なくされ たこと、 既にある大型機の飛行経路に影響を与 えるため海上直行ルート開設が出来ず直行距離 の約5割増となったこと、 さらに空港の運用時 間制限 (当初は日の出から日没までしか認めら れなかった) や発着便数制限があったこと、 ま たヘリポート未整備のため都心への乗入れが出 来なかったこと等により採算上中止を余儀無く されました。 これらの経験等によりヘリ・コミュー タ実現の為の課題として、 懇談会では以下の5 項目を挙げました。 計器飛行方式による運航の実現 (定時制の確保) 環境への配慮 (低騒音進入方式の導入、 機外騒音の低減) 運航コストの低減 (運用時間拡大、 整備費用低減) 拠点空港におけるヘリコプター利用環境の 改善 (ヘリコプター用計器進入方式の開発) 都心ヘリポートの新設 (屋上ヘリポート (注)、 港湾ヘリポート他) これら課題の現時点での解決状況はどうでしょ うか? 平成14年の交通政策審議会航空分科会 答申で、 「ヘリコプターの特性を生かした IFR 運航の実現に向けた環境整備を図る」 事が明記 されましたので、 この課題はすぐにでも実現出 来るのではないかと非常に期待されたのですが、 平成19年の通称 「戦略的新航空政策ビジョン」 答申においてヘリコプターを含む小型航空機に 関する環境整備の文言が消えてしまった様に、 この課題の解決はなかなか進まないのが現状で す。 が、 話が全く止まったということではなく、 RNAV/RNP に係わる連絡会の中で小型機ワー キンググループが設置され、 昨年9月に第1回 会合が開催されたという事ですので、 今後はこ の中で上記課題実現の為の官民の意見交換が行 われ、 課題が解決されていく事を期待したいと 思います。 懇談会では本課題をヘリ・コミュー タ実現の為の課題として示しましたが、 現在は 中越地震発災時に表面化した消防防災ヘリコプ ターの広域応援の為の課題として取り上げられ ています。 本課題に関連し懇談会後に実現した事項とし ては、 ヘリコプター専用 IFR 経路が、 今年、 新潟と福島の間に設定されました。 調整経路と いう位置づけで、 決められた時間帯だけ、 しか も訓練を含む防災活動 (disaster relief activities) にしか運用はできませんが、 GPS を利用 したヘリコプターの特性を考慮した経路として、 今後他にも広がっていく事を期待したいと思い ます。 なお、 このような成果を導きだした民間側の 活動機関として財団法人航空振興財団が主催す る 「ヘリコプター IFR 等飛行安全研究会」 が あります。 今後も本課題の解決と実現に向けて この研究会に期待する事、 大なるものがありま す。 それでは、 冒頭に述べました 「成田エアライ ンコネクションサービス」 ではこれらの課題を どう克服しているのでしょうか? 以下に関係 者から直接お聞きした情報を簡単にまとめまし た。 まず、 運航は有視界飛行方式によっています。 従って、 悪天候等で運航が不可能と予想される 場合は、 代替ハイヤーサービスを使用する事に より、 定時制の確保を補完しています。 次に成 田空港への乗り入れですが、 実際には佐倉ヘリ ポートを使用しています。 現実論として、 成田 へ直接乗り入れるよりも、 着陸に際しての待機 時間および着陸パッドからターミナルビルへの 移動時間等を考えると、 佐倉へリポートを使用 した場合の方が、 かえって短時間でしかも確実 のようです。 課題の中で実現されているのは都心へリポー トとして、 赤坂にあるアークヒルズヘリポート を使用していることです。 このヘリポートは屋 上へリポートであり、 自社所有の非公共用ヘリ ポートですが、 これまでも使用されていますか ら、 騒音の問題はクリアーされています。 また、 課題の中にはありませんが、 シティー エアリンクの不採算理由にありました飛行ルー トについては、 羽田と成田の管制圏から離れて いる事により、 通常の有視界飛行としてほぼ直 線の経路で、 高度も2000∼3000FT で飛行可能 とのことです。 運航時間帯も成田の国際便に合 わせて日没後もダイヤが組まれています。 ヘリコプターの活用を念願している者として、 「成田エアラインコネクションサービス」 がビ ジネスとして成功する事を祈るや切なり、 とい う心境です。 2010 JAN 87 救急及びドクターヘリコプターの さらなる活用に向けての課題 ドクターヘリは、 懇談会が開始された前年の 2001年度に、 厚生労働省の補助により運用が開 始されました。 したがって、 懇談会では期待感 を持って、 消防防災ヘリコプターによる救急業 務も含めた更なる活用に向けての課題として以 下の4項目を掲げました。 パブリック・アクセプタンス (市民に対するアピール) 離着陸場の確保 (場外離着陸場、 民間ヘリ コプターの高速道路への離着陸) 病院 (屋上含む) ヘリポートの整備 (設置基準) 夜間運航体制の確立 ヘリコプターを一般市民に受け入れてもらう ため、 パブリック・アクセプタンス活動を第一 の課題としました。 救急及びドクターヘリコプ ターは、 できる限り病人や負傷者の近くに着陸 する必要があり、 その離着陸場を確保するため には広く一般市民にヘリコプターの重要性を認 識してもらう必要があります。 その対応手段として、 懇談会で議論された事 の一つに、 広報映画やテレビ番組の制作があり ました。 実現のためのハードルは高いと感じて いましたが、 本年7月より、 ドクターヘリを主 題にした連続ドラマ 「コードブルー」 がテレビ 放映され、 高い視聴率が記録されました。 また、 NHK では9月に 「プロフェッショナル/仕事 の流儀」 という番組で、 日本医科大千葉北総病 院のドクターヘリで活躍中の松本尚医師の素晴 らしい仕事ぶりが紹介されました。 これらの番 組が放映されるようになったという事は、 ヘリ コプターのパブリックアクセプタンスが確実に 根付き始めつつあることの証左と言えるでしょ う。 ヘリコプター救急は交通事故による死者を減 らし、 後遺症を軽減する事からドイツで始まり ました。 したがって、 ヘリコプター運航者や医 師は高速道路上への着陸を主張しているのです が、 道路公団と警察は高速道路のスペース、 障 88 2010 JAN 害物、 ダウンウオッシュの影響及び事故見物等 による二次災害の発生等、 かなりの危険を伴う という理由をもとに渋っているというのが当時 の実情でした。 最近は安全な着陸場所をあらか じめ指定する事や、 救急マニュアルの作成とそ れに基づく離着陸訓練が実際に高速道路上で実 施される等、 少しずつ改善の方向が見え始めま したが、 この2年間で高速道路上に着陸した例 は2件しかないようです。 「避けられた死」 を なくすためにも更なる改善を切望するものです。 災害及び救助活動は時間・場所を問わず発生 しますので、 安全かつ効率的な24時間運航体制 の構築を最後の課題として取り上げました。 東 京消防庁では、 2001年から GPS とインマルサッ ト衛星による航空機自動追尾装置の整備を図り、 特に夜間運航における迅速な救難体制を確保し ていましたが、 現在ではさらに緊急消防援助隊 の創設に伴う、 広域応援体制の効果的な任務達 成の為、 さらなる安全且つ確実な運航や救難態 勢を可能にするシステムへと、 機能拡張してい く事が求められています。 なお、 救急およびドクターヘリの運用状況に ついては、 その活用を推進してきた HEM-Net (特定非営利活動法人救急ヘリ病院ネットワー ク) のホームページに大変詳しく掲載されてい ます。 上記情報もその多くをそこから得ており ますので、 皆様も一度覗いてみられる事をお勧 めします。 まとめ 以上、 2002年度に開催されたヘリコプター活 用懇談会で取り上げられた課題と、 その後7年 を経た2009年の現状を簡単に見てきましたが、 ヘリコプターの IFR 運航については 「日暮れ て道遠し」 の感があります。 一方、 パブリック・ アクセプタンスを獲得し始めたドクターヘリで すが、 「ドクターヘリが危ない」 というような テレビ特集番組で取上げられているように、 そ の財政的基盤が脆弱である事が新たな課題とし て浮かび上がってきました。 まだまだ 「ヘリコ プターの活用」 のために解決すべき課題は山積 していますが、 それでも一歩一歩関係各位のご 尽力により、 解決に向かっていく事を願って止 みません。 最後に、 この小文をヘリコプター活用懇談会 に委員として参加され、 その後相次いで亡くな られた二人の先輩に捧げたいと思います。 お一 人は元シティエアリンク社長の龍崎孝昌さんで、 コミュータヘリコプターの再開に最後まで情熱 を注がれておられました。 もうお一方は元東京 消防庁航空隊長の大森軍司さんで、 ヘリコプター 救急に関する卓越した見識と経験を有し、 懇談 会でも常に議論の中心となって活躍をされてい ました。 お二人のご冥福をお祈りします。 うえむら まこと 上村 誠氏のプロファイル 1945年高知市生、 東京大学 (工) 航空学科 卒。 1968年川崎航空機工業に入社、 翌年合 併により川崎重工業に社名変更、 ヘリコプタ 設計室に勤務、 大型ヘリの自動飛行装置の開 発で大河内賞、 全国発明表彰を受賞。 OH-X の開発、 ブレード先端形状の技術研究、 特許 などに実績を示す。 後にヘリコプタ等の Fly by Wire/Fly by Light 制御技術研究開発に 従事。 1977年より名大講師。 2001年日本航空 宇宙工業会に出向、 ヘリコプタ活用懇談会立 上げ、 2006年よりナスカ取締役 (エンジニ アリング会社)、 JAXA 客員研究員。 こよなく自然を愛するナチュラリストでも あり、 八ヶ岳山麓に居を構え、 バードウォッ チャーとして野鳥や野生動物の観察、 山野草 に埋まった庭造りなどを通して自然との共生 を楽しむ。 また地域の音楽祭ではプロ・オー ケストラをバックにモーツァルトのレクイエ ムを歌うテノールソロイストでもある。 64歳、 緑の中で真っ赤な車を駆使する日々、 転落し ても救出が容易なようにと。 編集委員 柳井 記 VH71A 米国大統領専用ヘリコプタのプロトタイプ (写真:菅野侑次氏 発明協会プレゼン資料より) 2010 JAN 89 ◎寄 稿 沖縄の空から JTA B737-400 副操縦士 野田 昭洋 沖縄でのフライトについて、 JTA に就職し て特に感じたことは、 「飛行機が県民の大事な 足」 ということです。 常設の産婦人科の無い久米島からは、 健診や 出産のために妊婦が乗ってきます。 大きな手術 をするために沖縄本島へ、 医師同伴で乗ってこ られるお客さまもいらっしゃいます。 また、 高校生の試合や小学校の修学旅行でも、 ごく普通に飛行機を利用しているので、 沖縄県 民は子供からお年寄りまで誰もが飛行機に乗り なれている感があります。 また飛行機を利用するのは乗客だけでなく、 貨物にとっても重要な足です。 那覇発の石垣や 宮古に向かう便には、 新聞などが満載されてい ます。 郵便物や宅急便をはじめ、 旅客の預けた 荷物以外にも多くの貨物があり、 それらが島の 暮らしに直結しています。 天候や機材故障などの関係で、 石垣や宮古行 きが遅れるということは、 島民への朝刊や郵便 物の遅配を意味します。 本土のように、 トラック輸送ができない島嶼 部では、 スピードが要求される貨物は飛行機で の輸送ということになります。 それらの B737 への搭載は、 コンテナ積みではなく、 すべてバ ルク貨物室への手積みなので、 ベルトローダー に乗って機内へ次々と搭載されていく様子は、 外部点検の時のみならずコクピットに座ってい てもよく見えます。 夏には、 全国へ出荷されるパイナップルやマ ンゴーなどを大量に搭載しています。 それ以外 の季節でも、 沖縄近海物の魚類や活きたままの 車エビの出荷など、 沖縄の重要な物流を担って いることを実感します。 乗客数は少なくても、 貨物室が一杯になって いることもよくあります。 苦労話といいますと、 1500m 滑走路の石垣空 港での離発着。 年に何度も近くを通過していく 台風でしょうか。 石垣空港の離発着に関する社内規定は、 横風 制限値や滑走路状態 (WET) など他の空港よ アイランダーの窓から見る沖縄の海・珊瑚礁 1500m 滑走路に着陸する B737-400 90 2010 JAN りは厳しくしてありますが、 性能限界ギリギリ で運航するのはやはり気持ちがいいものではあ りません。 着陸は接地帯標識へのピンポイントの接地を 狙います。 うまいこと操縦するな∼と、 キャプ テンの着陸を (生意気にも) いつも感心してし まいます。 離陸に関しては、 ほとんどの場合、 離陸性能は滑走路長で制限されます。 つまり、 1,500m で離陸できる重量の値におさまるよう に、 搭載燃料や搭乗旅客数または貨物を調整し て離陸重量の値を決めているのです。 V1 で離陸中止の操作を行っても、 停止する 所は滑走路末端ということになります。 石垣で は熱帯性のスコールのような雨もよく降ります。 滑走路の状態はほんとうに DAMP なのか? 風向も真横からで前後に変動幅が大きな時、 滑 走中に追い風には回らないのだろうか? 減速 操作をした時、 車輪ブレーキやスポイラーは瞬 時に制動してくれるのだろうか。 などなど考え るとなかなか厳しいものがあります。 しかも、 石垣空港の南側、 フェンスを越えたすぐむこう にはガソリンスタンド……。 その運航は、 夜間でも台風でも当然のように、 旅客のため荷物を待つ島民のために、 たんたん と繰り返されています。 安全であることが当た り前。 それを完璧に繰り返すための知識と技量。 百戦錬磨のキャプテンでも手に汗握る瞬間だと いう話もよく理解できます。 緊張する B737-400の離陸 (石垣 RW22) 最後に、 沖縄の魅力はやはり海の美しさです。 どの島々も美しいサンゴ礁に囲まれていて、 ダ イビングを趣味のひとつとする私としては、 上 空からついつい見とれてしまいます。 時間帯や 潮の満ち引き、 天気によっても海はその光り輝 く色を変えるのです。 毎冬、 ザトウクジラが沖縄本島とその西30km ほどに浮かぶ慶良間諸島の間に出産のために回 遊してきています。 体長が15m ほどもあれば、 那覇の離着陸時に見ることもあります。 (探す コツとしては、 ホエールウォッチングに集まる 船々をまず見つけることです) では、 沖縄の空でお待ちしています。 マングローブの生い茂る那覇 RW36ファイナル 那覇空港ターミナルビルからの夕景 2010 JAN 91 ◎寄 稿 ア ン ノ ウ ン ス ク ラ ン ブ ル 国籍不明機接近中、 迎撃機緊急発進せよ 立川市 航空身体検査医 話は旧聞に属するが (言い換えれば昨年ので はない) 5月の連休に愛機を駆って韓国に行っ てきた。 韓国は民間の自家用機は認められてな い為、 正直、 旅客機で行く方が遥かに安上がり だが、 話の種に一度くらい 「愛機」 で海外に行 くのも悪くないと思ったのだ。 早朝、 埼玉県の本田飛行場を離陸して、 途中 休憩と給油のため南紀白浜に一旦着陸、 その後 福岡空港経由で愛機を 「海外専用機」 に変更し (と言っても、 書類を2∼3種類提出するだけ)、 いざ、 韓国へ向けて出発。 この間、 計5回の離 着陸は全て最初のプランと誤差1分以内。 航空 機仲間の方なら分かって頂けると思うが、 飛行 機で離着陸時刻が予定と1分以内の誤差という のは皆無に近い。 ましてそれが5回連続となれ ば、 これはもう殆ど奇跡である (でなければ、 キャプテンの腕が余程優れているかである−オ ホン)。 が、 好事魔多しとはよく言ったものだ。 福岡空港を離陸して約10分、 福岡アプローチ と Frequency change approved./Thank you. Good day. と交信を完了し、 更に飛行するこ と約5分、 福岡アプローチから再びコールが入っ た。 何を今更と思いながら応答すると、 な、 何 と、 「書類が1枚未提出なので、 戻ってこられ たし。」 との事。 ガーンとショックを受け (但 し、 医学で言う血圧が80以下になった訳ではな い)、 思わず 「エー!!」 と声が漏れた。 ここで引き返せば単純計算で往復に30分、 書 類提出の為の関係窓口周りで20分、 出発前点検 で約10分、 合計で最低でも1時間は必要だ、 も たもたしていれば更に30分位ロスすることも十 分あり得る訳で、 これは何としても避けたい。 イヤ避けなければならぬ。 92 2010 JAN 塩安 佳樹 そこで対馬上空に向かい、 高度を2000フィー トまで下げ、 今回のフライトの事務手続きをし てくれた航空業者に携帯電話で連絡を取った。 (高度を下げれば、 エンジン音はうるさいが携 帯は十分通じる。 −ご参考まで。) この業者か らも当局に電話を入れて貰い、 書類は作成され ていることを 「証明」 してもらったりして、 種々 交渉を続けること約10分、 各窓口間の調整の後、 ようやく 「韓国に到着しだい、 書類をファック スで送付する事」 という条件で、 そのまま韓国 に向うことを許可してもらった。 (ヤレヤレだ。 改めて。 Good day.) だが、 これは真の悪夢の ほんの序章に過ぎなかったのだ……。 韓国に向けて、 正に 「北北西に進路をとり」 洋上を飛ぶこと15分、 韓国との国境線が近くなっ てきた。 国境を超える場合、 当然相手国に機体 登録番号・自機の位置・目的地・飛行予定コー ス等を通報しなければならない。 そこで早速釜 山空域の 「釜山アプローチ」 にコンタクトを試 みた。 だが、 一切応答が無い。 何度呼びかけて もうんともすんとも言わない。 釜山アプローチ と他の航空機との交信は聞こえるので、 どうや ら当機の発信装置の不具合が原因の様だ。 だが、 周波数を切り替えても結果は同じである。 そう こうするうちにも、 瞬く間に国境線は過ぎた。 「あの国は軍事国家だから、 国籍不明機が接 近してくれば、 迎撃機が緊急発進してくるよ。」 その時は 「フン」 と鼻であしらって相手にもし なかった、 出発前の口の悪い飛行機仲間の冗談 が、 今まさに現実味を帯びてまざまざと脳裏に 蘇る。 既に韓国の防衛線のレーダーには、 当機 の影が映っている筈だ。 今頃緊急発進の準備中 だろうか。 しかも当日は生憎今ひとつの天候で、 靄がか かったような状態で視界は見通しが利かない。 何時雲の切れ間から戦闘機が飛び出してくるの か、 手の平にはいつしかじっとりと脂汗が滲ん でくる。 必死であらゆるチャンネルでコンタク トを試みるも、 空しく時間は過ぎていく……。 と、 その時、 遥か向こうの空に航空機らしき 物がキラリと光った。 と思った瞬間、 直後に2 機の戦闘機が当機とすれ違った!! 脂汗は瞬時 に冷や汗へと変わる。 「マズイ。」 と思った時には戦闘機は既にU ターンしてきて、 当機を両側から挟みこんだ。 どうしよう、 ドウシヨウ。 国際問題だ……ライ センス剥奪だ……。 いやそんな事より何よりも、 そもそも無事に帰還できるかどうかが一番の問 題だ。 何時銃撃されてもおかしくはない。 否、 寧ろそれが当然だ……。 そう言えば昔領空侵犯 した韓国の航空機がこの北側でソ連の戦闘機に 打ち落とされた事があったっけ……。 どうなるん だ、 どうするんだ……。 悪夢だ、 悪夢じゃ∼……。 が、 しかし、 読者諸氏は、 現実にここ数年、 5月の連休に日本の小型機が韓国を領空侵犯し て国際問題になったとも、 撃墜されたともニュー ス等でお聞きになったことは無い筈である。 と 言うより何より現に当の私が、 こうして生きな がらえて、 今この駄文を認めているではないか。 では一体、 その後どうなったのか。 続きは次号 に乞うご期待……。 なんて事は言わない。 ちゃんと説明しよう。 TV ドラマの CM 前後の如く、 もう一度場面を 再現しつつ……。 雲間から現れた2機の戦闘機は、 ぴたりと当 機の両側に張り付いた。 脚を出して減速を図り、 こちらの速度に合せている。 コクピットからは パイロットが頻りにこちらへ合図しているが、 意味は全く分からない。 と言うより、 パニック で思考がまとめられない。 だが、 分からなけれ ば撃墜され日本海の藻屑と消えることだけは分 かっている。 全身の毛穴からは冷や汗が一気に 噴出し、 顔が極度に引きつっているのが自分で も分かる、 どうしよう、 ドウシヨウ。 悪夢だ、 悪夢じゃ∼!! と、 その時ハッと我に返った。 我に返ってみ れば、 隣の座席ではコパイが相変わらず暢気な 顔で釜山コントロールとの交信を試みている。 ことさら慌てている様子も見られない。 改めて 機外に視線を移せば、 戦闘機は影も形も無い。 ただ相変わらず少し靄がかかって視界が今一つ なだけである。 眼下には5月の日本海が特段の 輝きも見せず静かに広がっている……。 そう、 全ては私の空想の産物、 日中覚醒しな がらにして、 一瞬のうちに見た 「白昼夢」 に過 ぎなかったのだ。 正に文字通り本当の悪 「夢」 だったのだ……。 (ここまで真面目に読んで下 さった皆様、 本当に申し訳ありません……。) その後どうしたか? 相変わらず釜山アプロー チとの交信は不能なのでこちらは諦め、 釜山管 制塔に直接コンタクトした。 「アプローチに……」 と指示されたが、 事情を話し、 直接コースを誘 導して貰い、 無事釜山空港に着陸した。 因みに、 この間の会話はもちろん全て英語である。 (英 語は堪能だから、 と言いたい所だが、 その実、 要は韓国語が話せないだけのことである。) その後は韓国旅行を楽しみ、 帰路は何事も無 く無事日本に帰りついたのであった……。 ―“今日も元気だ、 ビールが美味い。”― 悪夢を乗り越え愛機と共に韓国に飛来 2010 JAN 93 東京国際航空宇宙産業展2009 奥貫 博 昨年の11月4日 (水) ∼6日 (金) の3日間、 東京ビッグサイトを会場として、 第1回 東京 国際航空宇宙産業展2009が開催されました。 このイベントは、 日本の航空宇宙関連産業の 技術の高度化と振興を開催の目的とするもので、 航空機・宇宙関連機器等の製造、 部品加工など における日本の技術を、 日本最大の産業集積地 域である東京から、 世界へ向けて発信し、 日本 の航空宇宙関連産業の振興及び製造業の更なる 発展を目指そうとするものです。 また、 近年、 東アジア全体が 「世界の工場」 として位置づけられ、 航空宇宙産業においても、 その部品や製品の生産が東アジア地域に拡大す るなか、 日本の中小企業は、 高度な加工技術や 独創的な開発力を持ちながら、 情報等の不足な どにより、 航空宇宙関連市場への参入が不十分 な状況にあります。 そのような状況から、 この展示会では、 航空 機等に利用可能な、 優れた技術を有する中小企 業の、 航空宇宙業界への参入促進を目指し、 各 企業の展示のほか、 業界の動向や、 参入のため の解説などのセミナーも開催されていました。 航空機メーカー関係では、 YS-11 以来の国 産旅客機 MRJ の開発で、 既に100機を超える 受注を集めて意気上がる三菱重工業を始めとし、 川崎重工は、 XP-1、 C-X 等の模型を展示して、 国産機の開発技術をアピールしていました。 こ うして見ますと、 何十年に一度の国産機開発ラッ シュの様相が良く伺えます。 勉強会のような様相のセミナー 国産開発機を中心とした川崎重工業の展示 94 2010 JAN 上の表題の写真は全日空のコーナーに展示さ れていた、 全日空仕様の三菱重工業製 MRJ 旅 客機の模型です。 B787 と共に、 日本の空を飛 ぶ新しい翼となる機体です。 MRJ を中心とした三菱重工の展示 中小の各種加工会社関係では、 とちぎ航空宇 宙産業振興協議会、 あるいは、 東京のアマテラ ス等、 企業連合体の展示が目立ちました。 航空 宇宙関係の業者が地域毎にひとつに集まり、 情 報を交換しながら、 共に発展を目指そうという ものです。 ヘリコプターに力の入った富士重工の展示 富士重工は国を守るヘリコプターの役割と必 要性の説明に力を入れていました。 その他、 T-7 練習機等の機体の模型や、 B787 等の製造 の状況を展示していました。 とちぎ航空宇宙産業振興協議会の展示 IHI の GE90 エンジンの模型の展示 IHI は、 B777 に装備の GE90 ターボファン・ エンジン他の模型が目を引きました。 新しい動きとしては、 学校関係の操縦教育へ の取り組みも目立っていました。 その他、 大手航空宇宙産業、 ユーザ関係 (日 本航空、 全日空、 消防庁・警視庁等)、 研究機 関関係 (宇宙航空研究開発機構他)、 日本ビジ ネス航空協会等、 様々な展示がありました。 ま た、 計8カ国の諸外国の展示や、 米海兵隊の展 示等もありました。 このように見てきますと、 確かに、 日本の航 空宇宙関連産業の技術の高度化と振興を目指す 姿勢と、 航空宇宙関連の開発製造技術を、 東京 から世界へ向けて発信し、 航空宇宙関連産業の 更なる発展を目指そうとする意図は、 理解は出 来るのですが、 今ひとつの盛り上がりに欠けた 感があるのも事実でした。 このような産業展は、 将来的には、 ビジネス の場となるのが理想なのでしょうが、 今回は初 回ですので、 試行錯誤的な面も多かったのでしょ う。 これを機会に、 次回に向けての準備と情報 発信を進め、 高度な加工技術や独創的な開発力 を有する中小企業の、 航空宇宙関連市場への参 入促進を推進し、 我が国の航空宇宙産業の底上 げに貢献するような姿での開催を期待したいと 思います。 そのような面からは、 新しい動きを 感じる興味深い展示会でした。 帝京大学の、 ヘリコプター乗員養成の展示 2010 JAN 95 FA I・CIVA ミーティング参加報告 FAI Aerobatic Commission (CIVA) 副デレゲート JAPA 会員、 日本滑空協会曲技飛行委員会委員 鐘尾みや子 今年の FAI Aerobatic Commission (通称 CIVA) の年次総会 (ミーティング) は、 10数 年ぶりにアメリカ合衆国での開催となった。 ミー ティング参加国はほとんどがヨーロッパの国々 なので、 毎年ヨーロッパのどこかの国で開催さ れるのが通例であるが、 飛行機大国アメリカは やはり自国で開催したいという思惑があるよう で、 開催地には EAA と IAC の本部があり、 ホームビルト機のメッカでもあるウィスコンシ ン州オシコシが選ばれた。 いつもより日程を一 日多くとり、 ビンテージ機の体験搭乗や博物館 見学、 講演会など盛りだくさんで、 遠路ヨーロッ パから参加する各国デレゲートを迎えるホスト 国アメリカの意気込みが感じられた。 大きな展示機のすぐ横にテーブルが並べられ、 議長席に書類を提出しに行くのにプロペラの下 をくぐって行かなければならなかったが、 これ も一つのパフォーマンスなのだろうと思った。 会議風景 会議場となった EAA Aviation Center 会議は、 ホームビルト機などが所狭しと展示 し て あ る 博 物 館 内 の 一 角 に あ る Founder s Wing と呼ばれる広間で行われた。 要するに展 示室の一部が会議場になっているわけで、 一般 入場者が見学途中に2階の通路から国際会議を 見学していくという風変わりな設定であった。 96 2010 JAN 10月17日午前9時より定時総会が始まり、 議 長である CIVA President Mike Heuer 氏が各 国代表の出欠を取り、 その結果出席が19ヶ国、 他の国に委任した国が3ヶ国で計22ヶ国、 14の 定足数を満たし、 開会が宣言された。 議事に先 立って、 今シーズン中に事故で亡くなった4人 のパイロットに対して黙祷が捧げられた。 議事は予め Web 上で配布されている議題に したがってすすめられ、 項目ごとに、 特に反対 意見がない場合は 「CIVA agrees」 としてそ のまま承認し、 意見が割れた場合は採決すると いうやり方で行われた。 主な議題についての審 議内容の概略は以下のとおりである。 ①Agenda1:前回 Meeting (2008.10.25-26) 議 事録の承認 ②Agenda2:利害対立の宣言 なし く、 粛々と議事が進行し、 ほとんどの提案は 賛成多数で採択された。 ③Agenda3:9月に韓国・仁川で開催された FAI ジェネラル・カンファレンスにおける CIVA President の報告をそのまま承認 ④Agenda4:President Report CIVA President の M. Heuer 氏の報告書を そのまま承認 ⑤Agenda5:会計報告 Treasurer の L. G. Arvidsson 氏が会計報告 を行い、 すべて承認 ⑥Agenda6.1∼6.3:2009WAG (Turin, Italy)、 Agenda7.1∼7.6 : 2009WAC (Silverstone, UK)、 Agenda8.1∼8.3:2009WGAC (Hosin, Czech Republic) 、 Agenda9.1∼9.3 : 2009 EAC (Radom, Poland)、 Agenda10.1∼10.3: YAK52WAC (Rojunai, Lithuania) の各チャ ンピオンシップの報告 今年開催された各チャンピオンシップにおけ る International Jury、 Contest Director、 Chief Judge の報告書がそれぞれ承認された。 特に、 Silverstone (UK) で開催された WAC では一番最初の KnownQ プログラムの競技 中に選手が墜落事故死するという選手権史上 初めてとなる不幸な出来事があったが、 協議 のために1日を費やしただけで、 競技はその まま続行された。 報告書も、 単にそのような 事実について淡々と述べられているだけであ り、 事故と競技とを全く切り離して考えると いうその姿勢に、 あらためてエアロバティッ クスが競技として確立しているものであると いうことを再認識した。 ⑦Agenda11.1∼11.5:ルール等改正提案 参加各国から、 あるいは CIVA の各 SubCommittee からは、 ルール改正等について さまざまな提案がなされており、 例年これら の審議にはかなりの時間を費やしているが、 今年はそれぞれの提案に出される意見も少な CIVA メンバー記念撮影 この中で、 南アフリカ共和国より提案された、 ジャッジの選出において RI (Rank Index= ジャッジの質を表す指数) をその選考基準と するという案については、 日本としては反対 の1票を投じたかったのであるが、 投票の機 会もなく 「CIVA agrees」 とされてしまった。 RI は、 選手もジャッジの数もある程度そろっ ているアンリミッテッド又はアドバンスド競技 会で正ジャッジを務めなければ取得すること ができないので、 日本国内で競技会を開催で きなければ、 世界選手権へのジャッジ派遣の 道が閉ざされてしまうことになる。 休憩時間 に南アフリカ共和国のデレゲートで、 CIVA の Judging Sub-Committee President でも ある John Gaillard 氏に、 日本はこれから先 どのように対応したらよいのか意見を求めた ところ、 「自国でできなければ、 他の国でや るしかない。 南アフリカに来てジャッジをやっ たらどうか。」 と言われてしまった。 弱小国 の事情はなかなか理解されないようである。 ⑧Agenda12:2010年の各チャンピオンシップ における ProgrammeQ (Known) シーケン スの採択 シーケンス案は事前に各国より提案されてお り、 アドバンスド (パワー) についてはA∼ Dの4種類、 アンリミッテッド (パワー) に ついてはA∼Fの6種類、 YAK52、 アンリ 2010 JAN 97 ミッテッド (グライダー)、 及び今年新設さ れたアドバンスド (グライダー) については それぞれ1種類が事前に提示されていた。 日 本としては、 出場希望者の意見により、 アド バンスド (パワー) については第1希望A案、 第2希望D案、 アンリミッテッド (パワー) についてはD案に投票したが、 結局、 アドバ ンスド (パワー) は1回の投票で12票を獲得 したA案に、 アンリミッテッド (パワー) は B案とC案の決選投票となり、 12票でB案に 決定した。 YAK52、 アドバンスド及アンリ ミッテッドグライダーはそのまま承認された。 についてプレゼンテーションがあり、 日程は 2010.7.17∼7.24、 場所は Jami、 滞在費など を含めない entry fee は、 パイロットが650 ユーロ、 チームメンバーが250ユーロという ことで、 これも全員一致で承認された。 Agenda13.5:2011WAC、 Agenda13.6:2011EAAC、 Agenda13.7:2011WGAC、 Agenda13.8:2011EAGAC、 2011YAK52WAC については、 まだ何れの 国からも開催の申し出がなく、 引き続き開催 地募集を行うことで合意した。 ⑩Agenda14.1∼14.2:2009スペシャルイベン トの報告及び2010に向けての提案 Agenda14.1として、 一昨年のミーティング で リ ト ア ニ ア の ト ッ プ ・ パ イ ロ ッ ト 、 J. Kairys 氏が提案し、 昨年承認された World Elite Aerobatic Formula Events (旧名 JK Aerobatics Formula Competition) が今年 Constanta (Romani) で開催されたことの 報告がなされ、 承認された。 EAA Air Venture Museum ⑨Agenda13.1∼13.8:これからのチャンピオ ンシップについての報告と提案 Agenda13.1として、 ポーランドのオブザー バーとして出席した Marta Nowicka 氏より 2010WAAC のプレゼンテーションがあった。 日程は2010.8.5∼8.15で、 場所は Radom、 滞 在費などを含めた entry fee は、 パイロット 1750ユーロ、 チームメンバー1500ユーロであ る。 特に意見も出されずに承認された。 Agenda13.2として、 チェコ共和国のオブザー バー Tomas Korinek 氏より2010EAC の候 補地としてチェコ共和国 Touzim の提案が あり、 日程や entry fee など詳細については 追って提案するということで一応承認された。 Agenda13.3及び13.4として、 フィンランド のデレゲート Osmo Jalovaara 氏より2010 EGAC 及び来年初めて開催される WAGAC 98 2010 JAN ⑪Agenda15:インターナショナルジャッジ・ リストの追加及び訂正 インターナショナルジャッジ・リストの追加 及び訂正が該当国のデレゲートより報告され た。 日本は、 室屋義秀氏のP (パワーカテゴ リー) ジャッジへの申請を行う旨報告し、 室 屋氏のパーソナルデータシートを提出した。 ⑫Agenda16:その他のビジネス その他の議題として、 Leon Biancotto Diploma を、 今年の WAC 開催国イギリスの 航空協会 BAeA に授与するという提案がな され、 18票の賛成をもって採択された。 ⑬Agenda17、 Agenda18:CIVA 役員及びコン テストメンバーの選挙結果の発表及びその認証 第1日目の朝に配布され、 当日午後2時を期 限に回収された投票用紙の集計結果が報告さ れた。 定員の数と候補者の数にはそれほど差 がないので、 ほとんどの候補者がそのまま多 数決で承認された。 ⑭Agenda19:次回ミーティング開催場所の提案 2010年 CIVA ミーティング開催場所につい ては、 昨年も提案を行い票決でアメリカに敗 れたドイツから、 再びデュッセルドルフの30 km ほど北にあるオーバーハウゼンで開催し たいという提案があり、 他の国からは提案が なかったためこの案が採用された。 またポー ランドからは2011年の CIVA ミーティング を開催したいというプレゼンテーションが行 われたが、 この件については来年のミーティ ングで正式決定される。 CIVA President M. Heuer 夫妻と 所感: 今回は会議日程として土曜・日曜とも 9:00∼17:00というたっぷりの時間が設定 されていたが、 例年のようにいくつかの議題 で意見が割れて紛糾することがなく、 全体と してスムースに議事が進行したため、 2日目 の午後の早い時間に会議は終了した。 あっさ りと終わってしまったという感じである。 個 人的な感想ではあるが、 各チャンピオンシッ プの開催地や、 ミーティング開催地として bid (入札) に参加する国が少なくなってい る (というより、 会議が始まっても来年の候 補地が提案されていない) こともあり、 エア ロバティックス競技そのものが少し停滞気味 なのではないかという印象を持った。 ヨーロッ パでのチャンピオンシップ開催国も、 ここ数 年ポーランド、 チェコ共和国、 ハンガリー、 リトアニアなどの東欧圏に集中しており、 ポー ランドの Radom は2008EGAC、 2009EAC、 2010WAAC と3年連続で開催地として名乗 りを上げ、 チェコ共和国も2008EAC、 2009 WGAC、 2010EAC と続いている。 西側のユー ロ圏では、 曳航料金や宿泊費など全てのコス トが高くなるため、 旧東欧諸国にはかなりの 負担となるのも理由の一つのようで、 このよう な傾向はこれから先も続くことが予想される。 2010年は、 WAAC 及び EGAC にそれぞれ 1名ずつ日本人パイロットの参加が予定され ており、 国内においても、 選手をバックアッ プすると同時に、 若い選手やジャッジを育成 できるような態勢づくりをしていかなければ ならない。 参考1:チャンピオンシップのカテゴリー (来年よりグライダー・アドバンスド カテゴリー新設) WAG :ワールドエアゲーム (不定期開催) WAC :パワー (飛行機)・アンリミッテッ ド世界選手権 (奇数年開催) EAC :パワー (飛行機)・アンリミッテッ ドヨーロッパ選手権 (偶数年開催) WAAC :パワー (飛行機)・アドバンスド 世界選手権 (偶数年開催) EAAC :パワー (飛行機)・アドバンスド ヨーロッパ選手権 (奇数年開催) WGAC :グライダー・アンリミッテッド世 界選手権 (奇数年開催) EGAC :グライダー・アンリミッテッドヨー ロッパ選手権 (偶数年開催) WAGAC:グライダー・アドバンスド世界選 手権 (偶数年開催) EAGAC :グライダー・アドバンスドヨーロッ パ選手権 (奇数年開催) YAK52WAC: YAK52世界選手権 (毎年開催) 2010 JAN 99 ews FAI N FA I ニュース Federation Aeronautique Internationale 昨年、 エアロバティックス関係では2機の複 座エアロバティックス競技機が国内に導入され、 競技の練習環境に大きな前進がありました。 ま た、 将来の日本選手権を視野に入れたエアロバ ティックス競技会 (試行) も成功裏に開催され、 今年は更なる飛躍が期待されます。 その他の FAI 航空スポーツ部門も、 情報提 供等の支援をしますので、 積極的に JAPA に 連絡して下さい。 では今月の各部門の報告です。 ロータークラフト (ヘリコプター) FAI の競技は、 特殊なものと思いがちです が、 ロータークラフト部門の競技は、 極めて実 用的なものです。 航法の科目は出発時刻の直前 に地図を受領して航法計画を立て、 航法飛行と 目的地の着陸の精度を競うものです。 低高度系 では、 ホバリング移動と精密ホバリング静止の 正確かつ迅速な実施の競技、 物件を吊り下げて 狭いゲートをスラロームで通過させた後、 定点 に置く競技があります。 いずれも、 所要時間と 飛行経路、 静止位置の正確さを競います。 これ らは、 使用事業での物件吊り下げの仕事と、 何 ら変わるところはありません。 任意参加のフリー スタイル演技は、 ヘリコプターの能力とパイロッ トの腕の限りを見ていただくものです。 競技ですから、 ルールに従った練習は必要で すが、 日頃乗務している機体でそのまま参加で きますし、 ヘリコプターの多いこの日本では、 もっと普及しても良い競技分野と思います。 興 味ある方の連絡をお待ちしています。 GAC:ジェネラル・アビエーション(飛行機) FAI のジェネラル・アビエーション競技は ルールが細かく定められていますが、 いざ試行 してみますと、 判断に迷うことが多々あります。 先日のふくしまでの試行では、 尾輪式機体がき 100 2010 JAN 奥貫 博 れいな引起しで滑るように尾輪から接地し、 そ のまま少し前進してから静かに主車輪が接地し た場合、 どこを接地点とするかといった議論が ありました。 また、 モーターグライダーの滑空 着陸では、 接地寸前のダイブブレーキ操作によ る定点着陸の有利性が議論になりました。 このように、 実施してみますと、 FAI のジェ ネラル・アビエーション部門年次総会で多くの 議論があることがよくわかります。 これからも 積極的に情報を収集しながら、 国内での競技の 充実を図って行きたいと思います。 エアロバティックス (FAA-CIVA) 昨年の CIVA ミーティング (FAI エアロバ ティック委員会・年次総会) は、 10数年ぶりに アメリカでの開催となりました。 ミーティング 参加国はほとんどがヨーロッパの国々なので、 毎年ヨーロッパのどこかの国で開催されるのが 通例なのですが、 飛行機大国アメリカはやはり 自国で開催したいという思惑があるようです。 開催地はホームビルト機のメッカでもあるウィ スコンシン州オシコシ。 EAA と IAC の本部も ここにあります。 いつもより日程を多くとり、 ビンテージ機の体験搭乗や博物館見学、 講演会 など盛りだくさんで、 ホスト国アメリカの力の 入れようが感じられました。 なお、 会議で採択 された今年の開催国及び予め課目を公表する Known シーケンスは次のとおりです。 ・WGAC (アンリミッテッド滑空機世界選手権) 2010.7.17∼24 フィンランド、 Jami ・WAAC (アドバンスド世界選手権) 2010.8.5∼15 ポーランド、 Radom ・EAC (アンリミッテッドヨーロッパ選手権) 2010.9.1∼12 チェコ共和国、 Touzim ・YAK52WAC (YAK52世界選手権) 開催日、 開催地ともに未定 2010年 FAI エアロバティックス Known (規定競技) 科目 細部は http://www.fai.org/aerobatics/CIVAQseq を参照下さい 2010 JAN 101 「ENRI」 見学報告 運航技術委員会 2009年9月25日、 運航技術委員会の活動の一 環として、 電子航法研究所を見学してきました ので、 報告します。 現在、 電子航法研究所 (以下 ENRI) は、 東 京都の調布市に本部、 宮城県の岩沼市 (仙台空 港隣) に分室がありますが、 今回は調布市の本 部の施設を見学する機会に恵まれました。 ENRI って? ENRI は我々パイロットとは普段の運航であ まり接触がない組織ですが、 ここは日本におけ る航法の研究も行っています。 一口に 「電子航 法」 といっても、 範囲が広いのは皆さんもご存 知のとおりです。 航空機や船舶の通信、 航法、 レーダーによる監視、 管制など、 広範囲に及ぶ技 術についての研究、 開発、 試作、 評価などが行 われています。 具体的な事柄については、 ENRI のホームページ (http://www.enri.go.jp/) に 譲りますが、 主に、 1. 空域の有効利用及び航空路の容量拡大 2. 混雑空港の容量拡大 3. 予防安全技術・新技術による安全性・効 率性向上 が重点的に研究されています。 1. に関しては、 RNAV 空域やターミナル 空域の安全性、 ATM (Air Traffic Management)、 洋上経路などについての研究が行われ ています。 102 2010 JAN 大塚 敬久 2. は、 GNSS (Global Navigation Satellite System) 進入、 あるいは SBAS (Satellite Based Augmentation System) や GBAS (Ground Based Augmentation System) 進 入などです。 3. は現在主に使用されている ACARS の Data Link より高速な通信速度の航空用 Data Link の研究、 EMI (Electronic Magnetic Interference) に関する研究があるそうです。 今回訪れた調布市の本部には、 様々な施設が ありますが、 その中の航空管制シミュレータ、 ATM Performance の研究、 SSR Mode S ア ンテナ、 電波無響室を紹介して頂きました。 航空管制シミュレータ 案内役:木村 主幹研究員 最初に航空管制シミュレータを訪れました。 例えば、 新たな空域や飛行経路を設計する際に、 事前に検証すべき点などが出てくることは想像 に難くないわけですが、 このシミュレータは、 そうした新たな空域などで航空管制官の作業な どを考慮した事前検証が必要なときに有用な施 設なのだそうです。 来年2010年の関東空域の再 編の検証もこの施設で行われました。 さて、 今回は見学だけではなく、 実際にシミュ レータを体験することができ、 筆者が実際に管 制卓に座って、 管制を行ってみました。 木村さんに特別にシナリオを作成してもらい、 今後新たに作られる予定の東京管制部の某セク ターを模して、 羽田 Approach に入る前の最 後の Enroute 管制を筆者が担当しました。 30 分間に約20機ほどの航空機が西から羽田を目指 して飛行してきて、 それらを順よく、 適切な Separation で羽田 Approach に移管するとい 案内役の木村さんに筆者が説明を受けているところ うわけです。 木村さんの厳しい (!) ご指導もあり、 30分 間はあっという間に過ぎました。 感想をいくつ か挙げてみます。 1. パイロットに指示した高度を Radar 画面 に入力しなくてはならないこと。 管制官が発出した指示高度は、 航空機に指示 する度に入力するそうです。 時々、 ATC 通信 のバックグラウンドで、 「カタカタ」 というキー ボードの音を我々パイロットでも聞き取れる時 がありますが、 高度の入力だったのですね。 こ の入力作業が意外と面倒で、 次の航空機に指示 を出しながら、 入力をしなくてはならない局面 もありました。 「これは大変な作業だ」 と、 ま ず思いました。 2. Hearback をする余裕が全くなかった。 Hearback の余裕がないのは素人の筆者が感 じるのは当たり前なのかもしれませんが、 パイ ロット役が Readback を間違えても、 訂正する 余裕は筆者には全くありませんでした。 普段、 Pilot の Readback を訂正して下さる管制官の 通信を思い出すと、 頭が下がる思いでした。 管 制官の皆様、 いつも有難うございます。 ATM Performance の研究 案内役:蔭山 主幹研究員 この研究は平成19年度に始まったばかりの研 究 だ そ う で す 。 航 空 交 通 管 理 (Air Traffic Management:ATM) の過去のデータなどを 用いて、 総合的な観点からの ATM はどうで あ っ た か と い う 研 究 で す 。 例 え ば 、 EDCT (Expected Departure Clearance Time) が発 出された日の運航は本邦全体で見た場合にはど ういう影響があったのか、 あるいは効果的であっ たのか、 といったことを検証するためには、 ど のような指標を用いれば有効なのか、 といった ことなどを研究されているそうです。 既に欧米では ATM の Performance 評価が 日本よりも進んでいて、 Performance 評価の 結果に基づいて ATM 自体も改善されるとい う体制が整えられているそうなのですが、 読者 の皆様も実態としては日本の方が定時性がいい、 という印象ではないでしょうか? それはさて おき、 難しい分野の研究で、 これからの成果が 期待されます。 また今回は、 航空交通の状況を再現できる Computer 動画の表示装置を見せていただきま した。 この装置では、 データさえ入力すれば、 過去の空の状況をスクリーン上に航空機の航跡 を 再 現 こ と が 可 能 で す 。 デ ー タ は FDMS (Flight Data Management System)、 SMAP (Spot Managing And Planning System) 、 RDP (Radar Data Processing System) など のものを利用しているそうです。 この分野の研究が進んで、 空域の有効利用が 促進されることは勿論ですが、 様々な Delay が減少されることは、 我々Pilot にとっても重 要ですね。 SSR Mode S アンテナ 案内役:上島 研究員 現在の ATC 用レーダーには、 ASR (空港監 2010 JAN 103 視レーダー:Airport Surveillance Radar)、 ARSR (航空路監視レーダー) や ORSR (洋 上航空路監視レーダー) があり、 SSR (二次監 視レーダー) と組み合わせて使用されています。 この SSR レーダーからの質問信号に対して 航空機がコールサインなどの情報を送っている わけですが、 そのエリアを飛行している全ての 航空機側が一斉に応答をして、 その信号が時間 的に重なってしまうために、 過密な空域では管 制卓の画面上に GHOST が現れる、 という不 具合があるそうです。 ENRI では現在のレーダーを改善するために Mode S レーダーを研究・開発していて、 施設 内に半径250NM の範囲をサーチできる ORSR と同じ性能の Mode S アンテナがあります。 Mode S の特徴は、 Mode S トランスポンダを 搭載した航空機1機ごとに質問が行えること (1機ごとなので画面上の GHOST が解消され る) と、 データリンク機能を備えていることで すが、 このアンテナには GICB (Ground Initiated Comm-B) という機能もあり、 多量の情 報がやりとりできるそうです。 今回はこの ENRI にある、 日本で唯一のデー タリンク機能を備えたアンテナ施設を見学して きました。 レーダー画面上の機影には次のよう なデータが表示されています。 ・コールサイン・選択高度・対地速度・対気速 度・現在位置・緯度経度・高度・Heading この分野もまだ研究段階ではあるのですが、 興味深いのは Cockpit 内で Set された高度や、 Heading の情報が地上でも入手することが可 能だということです。 目的としては、 空域の有 効利用や航空路の容量拡大ですが、 このような アンテナの地上局を通して、 こういった Mode SSR Mode S アンテナ 内壁が電波吸収材で覆われた電波無響室 104 2010 JAN S レーダーが全国に普及すれば航空機の監視が より高度化されるわけです。 電波無響室 案内役:米本 主幹研究員 さて最後に訪れたのは電波無響室です。 ENRI にあるこの施設は日本でも1, 2を争う 広さだそうです。 32m×7m×5m で、 特に32 m という長さには圧倒されました。 入った瞬間に感じたのは (身体検査の聴力検 査のブースに入ったときのような) 「あ、 静か だ」 ということなのですが、 実は内壁が電波吸 収材で覆われているのです。 外側は金属製のシールドで覆われ、 電子航法 装置等の機器を屋外で実際に使用する前に、 こ の電波無響室の中で電波を送受信する試験など を行うそうです。 成田空港の4,000m 滑走路に対するアンテナ 位置の送受信特性を調査する必要からこの大き さとなったとのことでした。 おわりに 我々パイロットが新たな方式や基準で飛行す る際には、 航法という分野でも様々な研究が行 われていることを思い出して下さい。 ENRI ではそうした基礎研究が行われていて、 ホームページでも多岐に渡って紹介されていま す。 是非、 ご覧ください。 開催報告 副操縦士昇格直後から始まる機長への道 (機長養成講習会) 理事 根本 副操縦士の方を中心とした恒例の機長養成講 習会を 「大阪・福岡・沖縄」 で開催しましたの で報告いたします。 ご協力を頂きました、 航空従事者試験官、 運 航審査官を紹介します。 大阪開催 平野先任航空従事者試験官、 坂本運航審査官 福岡開催 猪狩首席運航審査官 沖縄開催 吉田航空従事者試験官、 山宮運航審査官 当講習会ではより多くの試験官、 審査官に参 加して頂き、 参加者の皆さんとの交流の場にす ることも目的にしています。 副操縦士の皆さん、 昇格に向けた準備をされ ていますか? 機長になることは副操縦士として昇格したそ の時から準備が始まっています。 ・正しい訓練目標の設定 ・厳しい訓練を課しているか ・自己分析は十分ですか ・試験官、 審査官対策は必要ですか 次に根拠を知ることです。 例えば酸素マスクが必要になった際、 チェッ クリスト通りにすぐかぶりすぐに吸引を開始 すると肺はどうなるか、 などといったことを 考えたことがあるか、 という厳しい指摘もあ りました。 各科目に課せられた目的を十分理解した上 で、 いずれ来る機長昇格の日を目指して日々 の準備することが大切です。 裕一 事務局 齋藤 幸雄 最後に試験や審査等でよく聞く質問は、 何で機長になりたいのか? 目的は? 目 標は? ご自身でもう一度よく考えてみてく ださい。 当機長養成講習会は、 機長昇格を目前に控え た方が対象というイメージがありますが、 副操 縦士昇格直後の方にも参加して頂きたい講習会 です。 某審査官も同様の意見をお持ちでした。 タイトルを多少柔軟に変えておりますので多 くの皆様のご参加を心よりお待ち申し上げてお ります。 アンケートより参加者の声をご紹介します。 ・機長昇格訓練に向けて、 これまでの自分の考 え方、 姿勢が正しかったと思う部分は自信を 持てました。 ・早い段階で聞くことでその有効性は増すと思 います。 最後にこんな声も…… ・直接後輩にも伝えていきますが、 とっつきに くいタイトルなど講習会のタイトルを変更す るか、 工夫して宣伝する必要がある。 来年度につきましても企画開催をいたします ので、 パイロット誌、 ホームページ等をご確認 ください。 以上 2010 JAN 105 開催報告 曲技飛行競技会 (試行) 奥貫 昨年の11月13 (金)、 14 (土)、 15 (日) の3 日間、 日本では初めての試みとなる曲技飛行競 技会 (試行) がふくしまスカイパークを会場と して開催されました。 この試行は、 曲技用飛行機及び曲技飛行パイ ロットの増加を考慮し、 将来の曲技飛行日本選 手権開催を視野に入れた競技会とすることで、 各人の技量向上を啓蒙し、 曲技飛行実施時の安 全確保を推進することを狙いとし、 また審判団 等との意見交換により技量確認を行い、 安全講 習を兼ねることを目的としたものです。 合せて、 将来の曲技飛行日本代表選手を選考 するため競技会のあり方、 組織、 運営等につい て、 必要な意見交換等を実施することを考えた ものでした。 また、 この機会に、 曲技用飛行機等の安全確 実な着陸技術を身に付けるための着陸競技会も 合せて実施することとしました。 とはいえ、 初めての試みですので、 その安全 かつ円滑な運営には非常に気を使い、 先ずは本 競技会の安全を管理する安全委員会、 及び運航 を管理する運航本部を設置するところから始め、 競技会の期間中、 パイロット及び運航関係者は、 運航本部の指示に従っていただくこととしまし た。 また運航本部は、 パイロットを始めとし、 競技会に係わる全ての人々に、 飛行場運航要領、 空域、 高度、 滑走路、 障害物、 地形、 気象等の 情報を提供し、 競技の円滑な実行を図るととも に、 事故防止に必要な情報の周知徹底を図りま した。 このようにして、 競技会実施に係わる運航の 安全確保には、 万全の体制が敷かれました。 106 2010 JAN 博 実行体制 実行体制については、 競技会役員の下に、 安 全委員会、 運航本部を置き、 運航本部は、 競技、 審判、 技能安全の3本柱での実行体制としまし た。 また、 今回は試行ですので、 安全委員会以 上の役割は、 運航本部を構成する各委員が兼務 することとしました。 競技会役員 (運航本部構成委員長が兼務) 安全委員会 (運航本部構成委員長が兼務) 運航本部 競技委員長 奥貫 博 審判委員長 鐘尾みや子 技能・安全 委員長 室屋義秀 後 援:NPO 法人ふくしま飛行協会 事務局:㈲パスファインダー オブザーバー: ・財団法人 日本航空協会 ・社団法人 日本航空機操縦士協会 競技の実行に際しては、 滑走路、 施設等の利 用に際し、 NPO 法人ふくしま飛行協会の後援 をいただき、 斎藤理事長以下大勢のスタッフの 皆様の献身的なボランティア奉仕により、 競技 会の運営を支えていただきました。 事務局の ㈲パスファインダーの室屋氏、 青島氏以下の皆 様には、 競技空域を示すマーカーの設置、 航空 局への管制区内での曲技飛行競技会実施に関わ る調整、 申請、 運営マニュアルの作成、 宿や移 動手段の手配等々、 大変なお骨折りをいただき ました。 また、 将来的には曲技飛行日本選手権として の開催も目指したものであることから、 世界の 航空スポーツを統括する FAI (国際航空連盟) の下で、 日本の航空スポーツを統括する財団法 人日本航空協会の松崎氏及び日本の曲技飛行競 技を統括する社団法人日本航空機操縦士協会の 高橋氏には、 オブザーバーとして、 競技会 (試 行) の実施を、 見ていただくこととしました。 このように、 競技会の試行は、 しっかりした 体制の元で、 実行が図られました。 競技役割分担等 競技会の実行に際しては、 競技委員長が運航 規定、 実行組織、 曲技飛行競技参加選手の経験・ 技量等確認様式、 曲技飛行競技規定科目、 着陸 競技実施要領等を起案し、 運航本部各委員長の 意見等の反映の後、 当日に望みました 審判委員長は、 曲技飛行競技の採点基準、 採 点シート等の準備のほか、 曲技飛行競技の実際 の採点及び結果集計を実施していただきました。 また、 参加選手への、 競技の注意事項や採点に ついてのブリーフィングも担当していただきま した。 競技委員長と審判員の皆様 セーフティ・パイロットを勤めた室屋さん 技能・安全委員長は、 曲技飛行競技用競技ボッ クスの設置、 曲技飛行競技参加選手の技量確認、 曲技飛行競技セーフティ・パイロットの要否判 定、 及び、 曲技飛行競技 セーフティ・パイロッ ト業務を実施していただきました。 その他、 最 も重要な、 曲技飛行競技の実施の細部に関わる 注意事項当のブリーフィングを担当していただ きました。 オブザーバーの二人には、 この競技試行の準 備段階から、 実際の競技実施までの全てを見て いただきました。 準備及び調整事項 今回の曲技飛行競技会の試行は、 初めての試 みであったことから、 どのような選手のエント リーがあるかについての情報が無く、 選手の参 加資格、 評価、 及び安全確保をどのような方法 で行うかについて、 様々な心配がありました。 その結果、 エアロバティックス・ボックスを 設定しての競技に対し、 選手が不慣れなことを 考慮した上で、 課目の難易度を追求することな く、 リスクの少ない、 基本的な競技プログラム のみで実施することにしました。 また、 その規 定科目を、 競技実施日の約2ヶ月前の PILOT 誌の9月号で公表して、 誰もが、 事前練習が十 分に行えるように配慮しました。 ボックスマーカーの設置については、 現地が 国有林である等の、 時間を要する難しい問題が 2010 JAN 107 ありました。 その結果、 今回は2箇所のみのマー カーの設置とせざるを得ない状況で、 今後に課 題を残しました。 また、 審判員の不足についての危惧が大きかっ たのですが、 結果としては、 FAI ジャッジの 鐘尾さんの他、 世界選手権参加選手の内海さん、 米国のアシスタント・ジャッジの資格を持つサ ニー横山さんの参加を得ることが出来て、 充実 した3人体制での実行とすることが出来ました。 採点は、 FAI の方式には初級∼中級の Primary, Sportsman, Intermediate 等のレベル の競技が含まれないため、 今回は、 米国の組織 である International Aerobatic Club の方式 で行うこととしました。 競技に使用する機体は、 複座であることが必 要でしたが、 JNAC (Japan National Aerobatic Club) の Extra200 の提供を受けること で、 解決できました。 また同機の、 セーフティ・ パイロットは、 全て室屋氏が担当しました。 こ の機体の提供と、 室屋氏の働きがなかったら、 今回の競技会は成立しませんでした。 実際の競技会実行については、 会場関係、 準 備関係で、 多くの人手が必要でしたが、 事務局 の有限会社パスファインダーの室屋、 青島、 橋 本の諸氏、 及び会場関係については、 NPO 法 人ふくしま飛行協会の、 斎藤理事長以下、 会員 の献身的な協力を得て、 円滑な競技の実施が実 現できました。 NPO ふくしま飛行協会の斎藤理事長 108 2010 JAN 競技ブリーフィングを行う鐘尾審判長 競技ブリーフィングと競技の実施 全ての競技参加者に、 競技ブリーフィングへ の参加を義務付け、 ブリーフィングは、 運営マ ニュアルを使用して、 入念に実施されました。 その内容は以下のものでした。 ・開催概要、 運営組織 ・開催エリア、 飛行経路、 曲技飛行許可空域 ・曲技ボックス情報、 障害物情報等 ・競技課目 (曲技飛行、 着陸競技) ・競技機 離着陸・ホールディング経路 ・競技会参加機、 参加者の確認 ・タイムスケジュール ・運航規定 (全文) ・曲技飛行審判要領 ・曲技飛行競技会参加選手の確認事項 ・小型航空機の安全対策資料説明 ・気象説明 ・体調確認 ・競技飛行順序決定 ・飛行に際しての注意事項伝達 ・FA200 特有の特性に係わる審査要領の確認 天候の関係から、 公式練習日の13 (金) の練 習が出来ず、 14 (土) は朝から雨でしたので、 その時間帯を曲技飛行競技会に対する意見調整 とブリーフィングに充て、 天候の回復を待って、 午後から、 Extra での慣熟飛行を実施しました。 FA200 及び Pitts は、 競技最終日の15 (日) に飛来となりました。 競技成績等 競技最終日の15 (日) は、 悪天域は去ったも のの、 風の吹き出しが心配な状況でしたが、 何 とか飛行可能な状況で、 仙台からの FA200 も 飛来し、 競技が開始されました。 Pitts は天候 の関係から、 参加を見合わせることになりまし た。 競技の間に、 関東のホンダエアポートから、 Super Wings の人たちの競技機となる FA200 も飛来しました。 午前中は、 曲技飛行競技会と着陸競技会を並 行して実施できましたが、 突風性の横風が次第 に強くなり、 午前の競技が終了した時点で、 一 旦中断とし、 昼休みの後、 風の状況を再確認し て、 その時点で競技中止としました。 その結果、 曲技飛行競技は6名、 着陸競技は10名の競技の 実施となりました。 曲技飛行競技の優勝者は Extra200 でエント リーした芦田さんでした。 全ての課題を堅実に まとめての優勝でした。 2位の山田さんはスピ ンの減点で優勝には届かなかったものの、 不慣 れな Extra200 を見事に乗りこなし、 大健闘で した。 3位の三好さんは、 普段は FA200 で飛 んでいるのですが、 今回は Extra200 でのエン トリーでした。 大きなミスは無かったのですが、 やはり勝手が違ったのか、 2位にわずか1ポイ ント届かず、 3位でした。 4位は最年少の佐藤 さんです。 残念ながら、 スピンに取りこぼしが あって4位になりましたが、 これからが期待さ れる若手です。 出発準備中の曲技飛行競技選手 5位は唯一 FA200 でエントリーの、 相京さ んです。 インメルマンターンのエネルギー不足 が響きましたが、 それ以外は大健闘といえる成 績でした。 6位の上田さんは、 最初の4つの課 題は最高得点で通過したのですが、 スピンの停 止に失敗し、 以降の課題のポイントがゼロになっ てしまったので、 残念ながら、 最下位に終わり ました。 普段は WACO に乗っていて、 今回は Extra でのエントリーでしたので、 勝手が違っ たのでしょう。 残念な結果でしたが、 これが競 技というものです。 熊本 Super Wings 勢の FA200 は、 午後の 飛行が強風で中止となったことから、 曲技飛行 競技は出来ませんでしたが、 いずれも FA200 での実力者ぞろいでしたから。 実現していたな らば、 相当興味深いことになっていたことでしょ う。 競技結果の詳細は別表ご参照下さい。 競技会の成果及び問題点 先ずは成果として、 安全及び実行面における 大きな問題がなく、 この試行が出来たことがあ げられます。 しかし、 当日の気象及び会場の地 形の影響を受ける突風性の横風については、 非 常に神経を使う状況で、 スカイパークの気象観 測値としての風向風速に加え、 滑走路脇でハン ディ風速計によるリアルタイムの風向風速を確 認しながら、 ギリギリの条件での判断と実施が 必要でした。 曲技飛行競技参加者 2010 JAN 109 ルで競技を設定する方向性が良いとの結論とな りました。 その他調整事項等 曲技飛行競技で健闘した FA200 しかしながら、 突風状の横風は次第に強くな り、 気象の制限に達する状況となったことから、 午前中の競技が終了した時点で中止の判断をし ました。 気象のリスクが増大する傾向であった ので、 この競技の中止は、 止むを得ない判断で あったと考えます。 来年以降の競技会の計画に際しては、 秋に実 施であれば、 冬型の気圧配置を避け、 実施時期 を10月初旬∼中旬程度に早めた方が良いと思い ます。 実際の曲技飛行競技の実行及び採点において は、 機体の特性の差異の扱いについて、 議論が ありました。 具体的には、 主翼に上反角、 取付 角、 及びキャンバーのある翼断面の、 マイナス Gの飛行が禁止されている機体と、 エアロバ ティックス競技に特化した設計のエクストラ等 を、 どのように競技させるかについて、 意見が 交わされました。 結果としては、 この曲技飛行 競技会は、 日本チームとして、 アンリミテッド クラス等の世界選手権で国旗を掲げることを究 極の目標として、 その選手選考を行なう場とす ることを目指すと共に、 底辺拡大の見地からは、 より多くの人が参加できる場の提供が必要との 見地から、 日本独自の状況に合わせた競技を設 定していくのが良いとの方向になりました。 即 ち、 FA200、 エアロバット、 ワコー・シタブリ ア等を初級クラスとして独立させ、 その他イン ターミディエートクラスまでは米国 IAC のルー ル。 その上のアドバンス・アンリミテッドはク ラスは、 世界選手権参加を前提として FAI ルー 110 2010 JAN 曲技飛行に関わる全般的事項の調整では、 曲 技飛行の安全確保について、 実績のある、 しっ かりとした指導環境のもとで、 地道な練習を積 み上げることの重要性が改めて確認されました。 また、 曲技飛行は、 観客の前で、 展示飛行と して実施されることが多いことから、 その飛行 エリアと観客席等との距離についての議論があ りました。 現在、 日本にはその辺の基準を定め たものがないことから、 米国 FAA の展示飛行 に関わるサーキュラーの趣旨を尊重するとして も、 日本の飛行場環境ではその数字の画一的な 適用には無理があるのも事実です。 従って、 個 別の飛行場ごとに、 それぞれベストな実施内容 を検討、 精査し、 その都度の判断とならざるを 得ない、 との方向を確認しました。 また、 これ らに限らず、 安全対策については、 徹底的に追 及し、 航空局はじめ一般観客までの理解を得ら れる内容を精査していくことの重要性を改めて 確認しました。 曲技飛行の実行組織は、 極めて重要で、 様々 な案が検討対象となるのですが、 JAPA が日 本の FAI エアロバティックスの統括団体であ ることの認識を基本として、 先ずは、 今回参加 者から輪を広げたメーリングリストを通じて情 報の伝達を行い、 競技関係者の輪を作り、 情報 を交換しながら進めるのが良いであろうとの方 向になりました。 審判員の育成 競技会に不可欠な審判員の育成については、 二つの道があります。 ひとつは、 競技者自身が 審判員を兼ねること、 もうひとつは、 審判の補 助者としての経験を積み、 講習を受けて審判員 となるものです。 いずれも、 競技会が存在しな ければ進められませんので、 先ずは、 FAI あ るいは米国等での曲技飛行競技の経験者を中心 に、 審判員を増やすことを考える必要がありま す。 また、 将来的に、 FAI の曲技飛行競技会へ の日本代表の選出を目指すのでしたら。 日本に 存在する FAI ジャッジの指導を得て、 徐々に FAI ジャッジの拡大、 ということが理想とな るでしょう。 米国 IAC のジャッジは、 米国内 での環境でなければ維持できませんので、 米国 で曲技飛行活動を実施している方が取得されて、 日本ではジャッジの目での評価や指導等をして いただくのが良いと思います。 Extra 以外の機体での着陸競技となりました。 その点は本来の目的とは異なるとはいえ、 厳し い条件の中、 ベストを尽くした仙台の面々の根 性と頑張りにより、 大変な盛り上がりの、 有意 義な競技となりました。 おわりに 今回は、 初めての曲技飛行ボックス (1000m × 1000m × 600m) を設置しての曲技飛行競 技会でしたので、 規定科目の難易度を追求する ことなく、 競技環境に慣れることと、 安全かつ 確実な競技飛行の実現を狙った試行としての実 施でしたが、 競技参加者の技量のレベルは高く、 大変な接戦になりました。 また、 今後の方向等を調整する意見交換会に は、 40名近くの参加があり、 熱気のこもった議 論が展開されました。 今回の競技会では、 曲技飛行用飛行機の着陸 技量の向上を目指す着陸競技会も合せて実施し ましたが、 Extra200 の競技者は、 全員がセー フティ・パイロットの室屋氏に助けていただい ての着陸であったため、 競技にはならず、 着陸競技 着陸競技参加選手者 今回の競技会の試行は、 何もかもが初めての ことで、 難しい天候等、 様々なことがありまし た。 また、 競技を、 公平かつ安全で、 不満のな いものとして実行することの難しさを垣間見た 気もしますが、 その一方、 全国からこれだけの 人が集まり、 力を合わせて、 この初めての試み を実行できましたことが何よりの成果であり、 収穫であったと思います。 競技選手、 後援者、 事務局、 オブザーバー、 スタッフの和を大切にしながら、 次回以降のこ とを考えて行けたらと思います。 競技会選手及び競技を支えた全員 写真:今原太郎 奥貫 博 2010 JAN 111 曲技飛行競技会 (試行) 成績 実施日時:平成21年11月15日 (日) AM 実施場所:ふくしまスカイパーク 審 判 員:鐘尾 内海 横山 条 件 等: 風向風速の変化が大きい状態での競技実施 であったことから、 得点への影響が考えら れる。 また FA200でエントリーした他の 競技者の午後の飛行は、 突風性の横風が制 限を越える状況となったため、 中止とした。 実施科目 (Figure) 別得点 …… 各科目 (Figure) 共、 K-Factor×10 の数字が満点となる。 エアロバティックス競技科目の案 112 2010 JAN FAI 方式試行 着陸競技結果 順 位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 実施日時 H21.11.15 実施場所 ふくしまスカイパーク 滑走路 32 視程 10Km 以上 QNH 30.84in-Hg 風向 270-290° 風速 4-12Kt 横風条件 非該当 降水等 なし 参加人数 10人 氏 名 山田 昌弘 佐々木 匡 原田 茂 斎藤 岳志 猪口 春生 高崎 克也 山同 輝和 松浦 裕貴 三好 恒紀 荒牧 和弘 機 体 SF-28A SF-28A FA-200 SF-28A C-172 FA-200 FA-200 C-172 FA-200 FA-200 通常 着陸 10 30 60 20 60 20 60 60 200 200 ペナルティ 360度 その他 滑空着陸 20 40 10 70 60 20 200 30 200 200 20 200 200 合計 30 70 70 90 140 250 260 280 400 400 特記事項 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域内 着陸区域外 着陸区域外 +5m/+10m +15m/−5m +30m/+5m +10m/+40m +30m/−10m +10m/GA +30m/GA +30m/区域外 /GA /GA GA:Go Around 備考: 1. ノーマル着陸競技は FAI ジェネラルアビエーション・ラリー 飛行競技の、 着陸テストの要領と採点基準で実施した。 2. 360°滑空着陸競技は、 独自の要領を使用し、 採点のみ、 FAI ラリー飛行競技の、 着陸テストの方式で実施した。 3. 危険操作、 不正操作等監視のため、 競技は、 セーフティ・パ イロット同乗にて実施した。 4. 接地位置の判定は、 滑走路横に配置した判定員の目視で実施 した。 5. 審査委員長と補助者が、 危険を伴う無理な着陸操作と判断し た場合は、 異常な着陸としての最大150までのペナルティを 適用した。 6. 競技は安全かつ円滑に実施されたが、 突風状の横風が次第に 強くなったため、 午前中のみで競技打切りとした。 7. 採点においては、 バウンシングの後、 良い位置に再接地した 場合、 及び、 良い位置に接地した後、 バウンシングでペナル ティ点の大きいエリア外に再接地した場合は、 ペナルティの 異なるエリアにまたがる着陸として、 大きい方のペナルティ を適用した。 尾輪機における軽度なバウンシングでは、 惜し 着陸区域と接地位置のペナルティ 審査及び記録 いケースがあり、 尚、 判定に課題を残した。 H21.11.15 競技委員長 奥貫 博 2010 JAN 113 開催報告 第4回 航空気象シンポジウム 航空気象委員会 山本 秀生 ANA 講堂に125名の方々の参加をいただきま した。 ●第4回 航空気象シンポジウム 秋も深まり、 東北地方上空の Jet 気流は150 kt を超え、 東北北部や北海道では、 真冬日も 観測された昨年11月20日、 快晴の東京で第4回 航空気象シンポジウムが開催されました。 当日は東京国際空港第1旅客ターミナルビル 当日行われた講演、 ディスカッションのタイ トルは以下のようになっています。 各講演につ いての内容は次号以降、 小誌紙面で紹介してい きます。 1. 基調講演 「航空気象業務の現状と今後の計画について」 気象庁総務部航空気象管理官 田畑 明 氏 2. 講演 「偏西風の気象学」 筑波大学 計算科学研究センター 地球生物環境研究部門 教授 田中 博 氏 関 佐和香 氏 「飛行機の揺れについて」 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 航空プログラムグループ 又吉 直樹 氏 B747-400機長 MD-81機長 航空管制官 航空管制官 予報官 福元 福島 田中 戸島 山下 俊雄 俊明 淳也 靖人 芳雄 運航管理者 又吉 林田 直樹 氏 厚志 氏 3. ディスカッション 「飛行機の揺れと情報提供」 パネリスト: 日本航空インターナショナル 日本航空インターナショナル 国土交通省 東京航空交通管制部 国土交通省 成田空港事務所 気象庁 予報部予報課航空予報室空域予報班 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ 日本航空インターナショナル パネルディスカッション コーディネーター 日本航空機操縦士協会 114 2010 JAN 氏 氏 氏 氏 氏 航空気象委員長 山本 秀生 (日本貨物航空 B747-400機長) 討議内容 1. PILOT・管制官ともに PIREP をさらに活用し、 予報をベースにナウキャストを行い、 より安全で効率的な飛行をめざす 2. 大気の立体構造を掴んで、 短時間で行う Briefing の質を向上させる 3. PILOT が機上で Turbulence の状況を目で見ることができるシステムの構築 4. 気象データを手に入りやすく、 より見やすいものに ●航空気象シンポジウムを終えて 今回の出席者の内訳は PILOT:27名、 気象 関係:40名、 管制:3名、 一般:55名となって おり、 日本航空機操縦士協会・航空交通管制協 会が主催するシンポジウムとしては、 PILOT・ 管制官とも出席者が少なく、 より何らかの対策 が必要だと感じております。 今回は敢えて 「乱 気流」 という言葉を使用せずに、 「揺れ」 をキー ワードとしてパイロットの関心を惹こうと企画 したのですが目論見は外れてしまいました。 ポ スター等の掲示が少なかったとの指摘もありま した。 代わりに、 「一般」 に分類されている中で、 今回は運航管理者、 運航管理担当者等の参加が 多く、 「揺れ」 というキーワードに敏感に反応 され、 積極的に業務に活かしていこうとする姿 勢が伺えました。 さらに、 運輸安全委員会、 JAXA、 電子航 法研究所等の専門機関・研究機関の方々の参加 関 佐和香 氏 田中 博 氏 も多く、 「生の PILOT の声が聞けてよかった」 というご意見をいただきました。 今回初めて試 みた、 研究機関との提携による解析能力の向上、 産・官・学の一体となった安全への取り組みへ の道筋は示せたかと思っております。 今年は東京・成田空域統合、 東京国際空港新 D滑走路の運用開始、 B787, B747-8F 等新型 機の導入等様々な変化がありそうです。 引き続き 「乱気流」・「揺れ」 に着目すると同 時に、 低層ウィンドシアー、 ドップラーレーダー の観測事例等ターミナル空域での気象について 扱っていきたいと考えております。 航空気象委員会は、 操縦士協会の中でも活発 に活動を行っている委員会ですが、 中心となる べき PILOT の参加が少ない事が悩みの種です。 航空気象委員会は、 理論的な研究に留まらず、 毎月第4土曜日に JAPA 会議室にて実際にフ ライトで遭遇した悪天候についての解析を行っ て気象に対する理解を深めています。 是非、 皆 様のご参加をお待ちしています。 シンポジウムの様子 2010 JAN 115 開催報告 第100回を記念して【Yes I Can 夢は叶う】 理事 根本 2009年11月29日に第100回目となる 「Yes I Can (東京)」 を開催致しましたのでご報告い たします。 ●そもそも Yes I Can の由来は? 青少年航空教室として長年親しまれてきた名 称を2007年度より 「Yes I Can 夢は叶う」 副 題として 「航空業界を目指すあなたに贈る先輩 からのメッセージ」 に変更いたしました。 改正の理由として同様の名称で、 各航空会社、 各種団体等が開催していることもあり、 共催団 体の日本航空技術協会と議論した結果、 内容も リクルートに特化し、 名称も変えるということ になりました。 ちなみに【Yes I Can】は米国大統領の【Yes We Can】より先に航空教室で私たちが使用し ていたキャッチフレーズです! ご存知でした か? ●航空教室の歴史 あまり知られていない歴史ですが、 航空教室 というイベントを最初に開催した団体は、 日本 航空機操縦士協会です。 昭和54年9月23日に沖縄県那覇市にてその歴 第100回開催記念ショット! 116 2010 JAN 裕一 事務局 齋藤 幸雄 史の第一歩を踏み出しました。 当時の資料は残っていませんので詳細はわか りませんが、 写真から推測しますと、 小学生か ら大人までを一同に集め、 操縦士の職業紹介な どをしていたのではないかと思います。 過去に航空教室に参加された航空従事者の方 もきっと多いと思います。 内容を覚えておられ る方は是非事務局までお知らせください。 こうして第1回航空教室が開催されてから、 今回で30周年! 11月29日には記念すべき第 100回目を迎えたわけです。 多くの諸先輩方の努力と苦労のたまものです。 現在の Yes I Can は写真を見て頂ければわ かるように高校生、 専門学生、 大学生を対象と して、 職業選択の支援に特化して開催していま す。 見学などは実施せず、 航空従事者との個別質 疑応答や、 意見交換をする時間を多く取ってい ます。 将来、 Yes I Can に参加した学生が航空業界 に就職してくることを願いながら、 関係者一同 頑張ってまいります。 第1回開催 (那覇市) の様子 開催報告 西日本支部だより 西日本支部 ・近畿地区管制・情報懇談会報告 JAPA 西日本支部と八尾空港協議会共催の第22回 近畿地区管制・情報懇談会が、 昨年11月27日、 八尾空 港総合ビルで開催されました。 懇談会には70名が参加。 薬師寺 JAPA 副会長のあ いさつの後、 講師にお招きした関西空港事務所水本亮 一主幹管制官と森澤知美主任管制官から 「関西 TCA (ターミナル内) の小型機の飛行について」、 大阪空港 懇談会会場の様子 事務所中村弘行主幹運航情報官から 「大阪空港 FSC」 について、 八尾空港事務所中本公徳主幹管制官から 「八尾空港 RJOY」 についてお話しを伺い、 参加者一同安全への意識をあらたにしました。 懇親会では空港や会社等の枠を越えて会員同士の交流・情報交換・親睦が図られました。 懇談会のダイジェストは西日本支部 HP http://japawest.exblog.jp/ に掲載しております。 講 師の方からのメッセージがいっぱい詰まっております。 ぜひご覧いただきご協力いただきますよう お願いいたします。 ・航空保安大学校と関西空港管制施設見学会、 参加者募集 航空保安大学校と関西空港事務所のご協力により、 下記のとおり施設見学をできることになりま した。 日時・場所:2010年2月19日 (金) 13:30∼14:30航空保安大学校、 15:30∼16:30関西空港事務所 管制室・運航情報官室 対 象 者:JAPA 会員、 JAPA 会員が紹介する技能証明書または操縦練習許可書保有者 募 集 人 数:10名程度 懇 親 会:見学終了後、 関空島内で懇親会を開催いたします。 会員2,000円、 会員以外の方4,000円。 申 込:メールで [email protected] までお申込ください。 メールに氏名・住所・携帯電話・ 所属・懇親会参加の有無をご記入ください。 申込期限は1月31日。 申込多数の場 合は、 原則まず会員で抽選、 余裕があれば会員以外の方で抽選し、 結果は2月上 旬にメールでお知らせいたします。 施設を見学することにより、 相互理解を深めてみませんか? ・小型航空機安全セミナー・支部総会企画中 西日本支部では第53回小型航空機安全セミナーと支部総会を3月に実施しようと各方面と調整中 に入っています。 日程等が決まりましたら西日本支部 HP 等でご案内いたします。 2010 JAN 117 開催予告 第7回 小型航空機セーフティセミナー開催案内 第7回小型航空機セーフティセミナーを下記により開催致しますのでご案内申し上げます。 講師 につきましては各部門のエキスパートの方々にお願いし、 興味深い講演を企画致しました。 多くの 皆様のご参加をお待ち致しております。 参加される方は、 準備の都合上2月5日 (金) までに別途 申込書 (申込書は JAPA ホームページから入手可能です) により、 当協会事務局に FAX (03− 3501−0435) にてお申込み下さい。 記 開催日時:平成22年2月18日 (木) 及び19日 (金) ともに9時30分から16時30分 場 所:(天王洲アイル) JAL ビル2階 「ウィングホール」 東京都品川区東品川2−4−11 参 加 費:JAPA 会員 1日目:1,000円 2日目:1,000円 一般の方 1日目:3,000円 2日目:3,000円 参加費 (資料代) につきましては、 一日毎の現金のみの受付とさせていただきます。 両日と も短時間で多くの方の受付をいたします。 つり銭の無いようにご用意頂き、 スムースな受付手 続きにご協力のほどよろしくお願いいたします。 なお、 領収書につきましては当協会書式のも のとなりますのでご了承ください。 当日の請求書による振込み等のご要望はご遠慮願います。 *昼食の用意はございません。 講習会場周辺のレストラン等をご利用下さい。 *18日セミナー終了後、 簡単な懇親会を予定しております。 *会場収容人数の都合上、 参加人数を調整させていただく場合がございます。 予めご了承下さい。 【内容】 第1日目 (平成22年2月18日 (木)) 9:30−16:30 ①航空局基調講演 国土交通省航空局 ②管制方式基準の改正 航空局管制保安部管制課 ③ASI−NET 報告 操縦士協会 ④航空気象について ウェザーニューズ社 ⑤事故より学ぶ (16:30∼17:30 参加者懇親会 (自由参加)) 第2日目 (平成22年2月19日 (金)) 9:30−16:30 ①航空局講演 ・実地試験について 航空局技術部乗員課航空従事者試験官 ・運航審査について 東京航空局保安部先任運航審査官 ②事故の統計、 最近の事故の解析 運輸安全委員会航空事故調査官 ③事故より学ぶ 118 2010 JAN 沖縄支部 活動報告 沖縄うるま市で体験型航空教室開催! 目指せパイロット!! 沖縄支部の活動と航空教室の概要 界のすそ野を広げてゆくことであり、 終了後の アンケート結果からその目的は十分に果たせた、 という感触を得ることができました。 JAPA 沖縄支部の活動として、 公益法人と しての役割である航空の発展という観点から、 昨年度は沖縄離島での航空教室や宇宙飛行士の 講演会などを通して、 沖縄の青少年に対して航 空の啓蒙活動を行ってきました。 今年度は昨年 10月25日にパイロット志望者に特化した講演会 と 、 FAA 公 認 Aviation Training Device (FAA 版 FTD) の体験操縦を組み合わせると いう新しい試みの航空教室を実施しました。 開 催場所は沖縄本島中部にある、 うるま市 IT 事 業 支 援 セ ン タ ー 内 の ATD を 運 用 し て い る Flight Simulation Okinawa (以下 FSO) に て行われました。 参加者は中学生から大学院生 までの16名と、 オブザーバーとして琉球大学教 授2名の合計18名の参加がありました。 今回の 航空教室の目的は、 対象者をパイロット志望者 に限定することで、 具体的なキャリアプログラ ムと体験操縦プログラムを提供し、 パイロット 志望者を増やし、 将来のプロパイロットの質の 向上と、 自家用操縦士への関心を高めて、 航空 午前中は B737 副操縦士の秋元さんによる 「パイロットになるには」 の講話から始まり、 沖縄支部副支部長でジャパンフライヤーズ会員 でもある屋良朝義さんの 「飛行の仕組み」 の講 話と、 沖縄支部副支部長で米空軍嘉手納フライ トトレーニングセンター教官でもある玉那霸 尚也さんによる 「ATD 飛行」 についての講話 が行われました。 「パイロットになるには」 で は多くの質問が飛び出すなど参加者の意気込み が感じられました。 また 「飛行の仕組み」 では 支部委員自作の翼型模型を使用して視覚に訴え る説明に参加者の目はくぎ付けでした。 「ATD 飛行」 では操縦装置の使い方や視線、 外の見え 方などを説明しました。 パイロットは厳しい怖 い人達だと思っていたのでしょうか、 アンケー トでは講師は雰囲気が柔らかく楽しい講義だっ 全体写真 模型を使った講義 3つの講話プログラム 2010 JAN 119 たとの声がありました。 体験操縦と個別相談という新企画 午後の体験操縦はひと組1時間程度、 国内外 の空港を離陸から着陸までの一連の飛行の中で、 航路上は昼間や夜間飛行、 エアワークや計器気 象状態、 エンジン故障などの基礎訓練課程を模 擬体験しました。 高度なレベル設定に冷や汗が 出るのではという主催者の思惑とは異なり、 笑 い声の絶えない楽しい体験操縦になってしまい ながらも飛行の難しさは実感できたようです。 飛行中にパイロットから助言をもらえ満足感は 十分あったようです。 アンケートにも 「楽しかっ た」 「本気でなりたくなった」 との意見が多かっ たです。 実際に訓練に入ると楽しいことは少な いなんていうことは言えませんでした。 (言う べきだったのか??) 体験操縦組以外は参加者一人当たりなんと合 計2時間程度の個別相談として直接パイロット に質疑応答ができる場を設定しました。 個別相 談では最初は少し緊張が見られたものの、 すぐ に疑問や質問が次々と出て熱い個別相談となり ました。 アンケートによると遠いと思っていた パイロットの世界が身近に感じられてほとんど の参加者が本気モードになっていったようです。 開始前に 「本気でプロパイロットになりたい 人は」 との質問に数名の挙手しかなかったが、 終了時のアンケートではなんと14名がなりたい と答えたことや、 この航空教室が行政機関やマ 個別相談 120 2010 JAN スコミからも大きく注目されたことはこの教室 が成功したことの証となり、 県内青少年育成事 業にも寄与できたものと確信します。 今後の抱負と謝辞 沖縄支部としては今後もさまざまな活動を通 じて地元の航空啓蒙活動を引き続き行うことで 航空の発展や青少年の航空への関心の手助けに 加え、 公益的な地域社会貢献活動として沖縄の 青少年の育成に努力していく所存です。 最後になりましたが、 今回の航空教室は沖縄 県キャリアセンター、 うるま市 IT 事業支援セ ンター、 琉球大学工学部の長田 康敬 教授や那 須謙一准教授、 沖縄県産業振興公社や沖縄タイ ムス社の多大なご協力がなければなし得ません でした。 この場をお借りしてお礼を申し上げた いと思います。 なお、 FSO では ATD 利用の際に、 JAPA 会員 (AOPA-JAPAN や日本飛行連盟の会員 も含め) に対しての割引制度があります。 詳し い内容は直接098-975-6173へ、 または IT 事業 支援センター098-982-5336へお問い合わせ下さ い。 なお、 航空教室の様子は10月27日付の沖縄 タイムス紙面でも紹介されました。 2009年10月27日、 沖縄タイムスより。 通信 理事会通信 今年2010年は、 日本で初めて動力機飛行に成功してからちょうど100年目にあたります。 記念すべき年ではありますが、 協会にとっても公益認定申請へ向け、 重要な年でもあります。 申請準備と 同時に来年度の事業方針案、 予算案の策定に尽力しております。 現在の理事会は、 5月の通常総会で任期が満了しますが、 本年も引き続き皆様の負託にこたえるように努 力いたします。 [活動報告] −平成21年11月− 11月25日 11月2日 編集委員会 11月6日 RNP AR 導入における FOSA に関する セーフティーフォーラム2009 (講師 若田 光一宇宙飛行士) ビジネス航空委員会 セミナー 11月26日 法務委員会 経理委員会/協会制度検討会 11月7日 航空安全セミナー GA FTD 訓練室企業研修 (旭化成グループ) 11月8日 飛行安全セミナー (北海道支部) 外部講演 (滋賀県医師会研修) 11月10日 航空身体検査証明審査会 11月27日 航空大学校 (仙台) 卒業式 航空安全フォーラム (ATEC 設立20周 近畿地区管制・情報懇談会 (西日本支部) 年懇親会) 公益認定等委員会事務局個別相談 黄綬褒章伝達式 11月28日 航空気象委員会 航空保安大学校講義 (レーダー管制専門 11月29日 夢は叶う Yes I Can (航空教室) 東京 研修) 11月11日 11月13日 空港環境整備協会 平成22年度助成金事 −平成21年12月− 業ヒアリング 12月1日 航空身体検査証明審査会 第198回常務理事会 12月2日 航空保安大学校講義 (レーダー管制専門 研修) FT 委員会 ANA シミュレーター研修 11月14日 ATS 委員会 12月4日 編集委員会取材 11月15日 航空安全講習会 (大分) 12月5日 航空安全講習会 (東京) 11月19日 乗員養成検討委員会 12月6日 夢は叶う Yes I Can (航空教室) 中部 航空安全講習会経過報告 12月7日 航空管制定期連絡会議 月次検査 (出塚会計事務所) 12月8日 運航技術委員会 11月20日 11月21日 航空気象シンポジウム 第6回将来の航空交通システムに関する RNAV/RNP 連絡会小型機 WG (第2回) 研究会 航空安全委員会 12月9日 JEX 準会員入会説明会 協会事務所レイアウト工事 (23日まで) 12月10日 技量維持連絡会 航空医学委員会 2010 JAN 121 12月11日 12月12日 機長養成講習会 (沖縄) 12月19日 航空安全講習会 (長野) 第6回航空安全情報分析委員会 12月21日 編集委員会 航空機操縦士養成機関連絡会議 12月22日 第1回我が国の自発的安全報告制度のあ り方に関する調査研究委員会 ATS 委員会 航空安全講習会 (沖縄) 12月25日 経理委員会/協会制度検討会 12月13日 帝京大学航空宇宙工学科訪問 東日本支部役員会 12月15日 編集委員会 ビジネス航空委員会 12月17日 GA 委員会 12月26日 月次検査 (出塚会計事務所) 12月18日 第199回常務理事会 航空気象委員会 パイロットレベルアップセミナー (九州支部) 12月28日 仕事納め [活動計画] −平成22年1月− −平成22年2月− 1月4日 仕事初め 2月2日 航空身体検査証明審査会 新年賀詞交歓会 2月6日 航空安全講習会 (高松) 1月5日 航空身体検査証明審査会 2月7日 航空安全講習会 (松山) 1月6日 編集委員会 2月10日 外部監査 (八重洲監査法人) 1月8日 航空保安大学校講義 (訓練監督者特別研修) 2月12日 第201回常務理事会 FTD 認定検査 (乗員課) 2月13日 ATS 委員会 1月9日 ATS 委員会 1月13日 航空安全講習会 (山梨) 航空安全講習会 (静岡) 平成22年航空クラブ新春卓話会 (講演者: 航空局長 前田隆平氏) 2月15日 航空保安大学校講義 (レーダー管制専門 FTD 認定検査 (安全課) 1月15日 1月16日 1月20日 研修) 第200回常務理事会 第45期運営連絡会議 (第2回) 編集委員会 2月18日 技量維持連絡会 航空保安研究センター理事会 小型航空機セーフティーセミナー (19日 航空安全講習会 (松坂) まで) 沖縄支部総会 外部講演 (富山県新湊火力発電所関連) 乗員養成検討委員会 2月19日 技量維持連絡会 航空安全委員会 ビジネス航空委員会 1月21日 経理委員会/協会制度検討会 2月20日 航空安全講習会 (東京) 1月22日 運航技術委員会 2月21日 エアライン航空医学担当医懇談会 (航空 1月23日 航空気象委員会 1月25日 航空安全講習会 (鹿児島) 2月24日 ASI−NET 作業部会 航空安全講習会 (東京) 2月25日 経理委員会/協会制度検討会 学科試験問題検討会 (分科会) 学科試験問題検討会 1月27日 FAI 会議 1月28日 航空保安大学校講義 (訓練教官養成特別 研修) 航空医学委員会 122 医学委員会) 2010 JAN 編集委員会 2月26日 運航技術委員会 2月27日 航空気象委員会 JAPA SHOP 品 名 定 価 会員価格 送料 一般価格 送料 AIM−JAPAN AIM−JAPAN 英語版 学科試験スタディーガイド パイロットガイダンス TAKE-OFF 安全飛行への招待 ヘリコプター操縦教本 第2版 航空気象 (新刊) 区分航空図501∼506各 3,500円 3,500円 3,500円 3,500円 3,500円 3,500円 2,500円 2,600円 3,150円 送料込 3,150円 送料込 3,150円 送料込 3,150円 送料込 3,150円 送料込 3,150円 送料込 2,250円 送料込 2,340円+280円 3,500円+380円 3,500円+380円 3,500円+420円 3,500円+380円 3,500円+380円 3,500円+380円 2,500円+380円 2,600円+280円 区分航空図507 ターミナル航空図253、 254 首都圏詳細航空図 パイロット手帳 PILOT 誌 手袋 ライセンスケース 空中衝突 3,100円 2,600円 3,000円 1,200円 800円 5,000円 3,800円 2,300円 2,790円+280円 2,340円+280円 2,700円+280円 1,080円+280円 720円+240円 4,500円+280円 2,800円 送料込 2,070円+380円 3,100円+280円 2,600円+280円 3,000円+280円 1,200円+280円 800円+240円 5,000円+280円 3,800円 送料込 2,300円+380円 お買い求めは操縦士協会もしくは、 お近くの販売店をご利用ください。 直販の場合は代金先払いとなりますのでお近くの郵便局よりお振込みください。 (お振込前に必ず在庫確認をお願いいたします。) 振込口座:郵便局00180−9−88490 社団法人 日本航空機操縦士協会宛 お問い合わせ先:TEL 03−3501−0433 FAX 03−3501−0435 E-Mail:[email protected] 2010 JAN 123 便り 室 練 訓 FTD FTD 訓練室では一般企業の研修も 受け入れております。 FTD 訓練室 FTD 訓練室では一般企業の研修も受け入れております。 この度、 旭化成グループの研修を受け入れましたので報告をさせて頂きます。 旭化成グループには、 次世代を担う社員の育成を目的とする社外研修制度があり、 操縦士協会の 公益活動の一つである FTD を利用した研修制度や、 指導的立場にある操縦士の危機管理等を学び たいとの申し出があり、 2009年11月26日に研修を行いました。 今回お越しいただいたのは、 旭化成建材、 旭化成クラレメディカル、 旭化成せんい、 旭化 成ケミカルズ、 旭化成イーマテリアルズの6名の中堅社員の方々です。 講師をお願いした航空安全委員会の水谷機長は、 フライト業務の傍ら総合安全推進室で監査等を 担当されており、 企業側の求めに応じた的確な対応をしていただきました。 また、 FTD 訓練室リーダーの有野教官にも指導の難しさについて細かく説明して頂き、 受講者 の皆さんも熱心に耳を傾けておられました。 ただし、 私達が日常何気なく使用している専門用語は、 受講者の皆さんにとって初めて耳にする 単語が多かったようで、 理解してもらえるよう説明する事の難しさを私達も学ばせて頂きました。 ディスカッションの後、 協会に設置してある FTD で飛行機の操縦を体験して頂き、 有野教官に よる高度、 進路など詳細なレクチャーのもと、 何とか水平飛行が出来るまでになりました。 約2時間少々の研修でしたが、 受講者の皆さんから良く理解できたとのお言葉を頂戴できました ので研修は一定の成果が得られたものと理解しております。 当協会では公益活動の一環として、 企業研修を積極的に引き受けるために、 今後も様々なプログ ラムを設け、 航空業界の財産でもある CRM などを活用した研修を考案していきたいと考えておりま す。 以上 会議では教官の考え方など多くの質疑が交わさ れました 124 2010 JAN FTD に搭乗して頂き、 操縦の難しさを体験し て頂きました 会員の皆様へ 当協会に設置してある、 FTD (飛行訓練装置) を更新いたしましたのでご紹介いたします 現在設置してある FTD は、 技量維持訓練を主にした訓練目的で導入しましたが、 これまでの訓 練の実に7割以上が計器飛行証明関連の訓練でした。 この利用状況を踏まえ、 後継機材は双発機を想定いたしましたが、 ご承知の通り技量維持制度の 法制化等検討されていることもあり、 単発機での訓練にも対応できる機材にするため、 製造メーカ 及び航空局と相談を何度も重ね、 飛行訓練装置 「US21D」 モデルを導入する事に致しました。 US21D は、 スロットルユニット等を交換することにより、 単発・双発機の切替が可能となった モデルで、 切替に要する時間も電源始動から約20分程度です。 従来の訓練に加え、 双発機特有の訓練 (シングルエンジンプロシージャー・RTO 等) も実施可 能となりましたので、 双発機で計器飛行証明を目指される方、 また単発機 PA28R による、 ハイパ フォーマンス機の体験などを希望される方に最適な機材となりました。 操縦装置は左右 (左席、 右席) についていますので、 教官同乗を模擬した訓練が可能です。 ビジュアルはプロジェクター方式になり、 臨場感が向上しましたので、 体験搭乗には最適です。 (訓練の方はビジュアルより計器ですね!) 会員の皆様には、 新機材導入記念として、 2010年2月末日までの間、 体験搭乗を無料提供いたし ますので是非、 新機材を体験して頂きたいと思います。 体験搭乗を希望される方は、 お名前、 会員番号、 希望日時を明記のうえ、 お申し込みください。 なお、 体験搭乗は平日に限らせて頂きます。 お問合せ先 社団法人日本航空機操縦士協会 齋藤まで TEL03-3501-0433 saito@ japa.or.jp 2010 JAN 125 JAPA Aerial Photo Exhibition 小学校の庭から離陸するドクターヘリ 救急車からの患者を受け入れるドクターヘリ マクドネル ダクラス MD-900 緊急出動したドクターヘリの写真です (藤岡誠司氏撮影) 126 2010 JAN あなたが写した 航空機の写真が 表紙 に! 編集委員会では、 PILOT 誌の表紙を飾る皆様からの航空機の写真を 募集しています。 尚、 応募写真は編集委員会で審査の上、 掲載いたします。 下記応募要領をご了承の上、 ふるってご応募ください。 ・写真はカラー・白黒・Digital Data を問いませんが、 投稿者が撮 影されたものに限ります。 撮影日時・場所・説明等の添書きも添 付してください。 尚、 Digital 写真の場合はできるだけ大きな画素数で撮影したも のとして下さい。 ・応募写真の取り扱いは日本航空機操縦士協会に属し、 お返しでき ませんのでご了承ください。 ・PILOT 誌の表紙に採用させて頂いた場合、 謝礼として3万円 (複数写真で表紙構成となった場合は分割)、 表紙に掲載とならな かった場合でも優秀な写真は本誌に掲載し薄謝を進呈いたします。 ・住所、 氏名、 年齢、 職業、 電話番号、 E-Mail Address 等を明記 してください。 ※個人情報に関しては当協会で厳重な秘守扱いと致します。 送付・お問合せ先 社団法人 日本航空機操縦士協会 編集委員会 〒1050003 東京都港区西新橋1−18−14 TEL 03 (3501) 0433 FAX 03 (3501) 0435 E-mail:[email protected] JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION 2010 JAN 127 編集後記 ●昨年の秋に、 初めての飛行機の曲技飛行競技 会を試行し、 成功裏に完了させることが出来 ました。 見る曲技飛行から、 選手として参加 する曲技飛行へ、 徐々にではありますが、 こ の日本も変わりつつあります。 (奥貫) ●昨年11月25日、 市ヶ谷にある法政大学の外堀 校舎で、 若田光一宇宙飛行士の 「国際宇宙ス テーション長期滞在報告」 を聴くチャンスに 恵まれたので、 メモを頼りにまとめてみまし た。 皆様の想像力でご理解いただければ幸い です。 (KEN) ●今年は、 日本の空に初めて飛行機が飛んでか ら100年目だ。 ライト兄弟に遅れること7年 目の話である。 今後の100年で世界はどのよ うに変わるのであろうか? (K. A.) ●昨年は“新”で終ったが、 今年は“改”で始 まり“活”で終りたい。“改新”すれば“活 力”が湧く。 (RYU) ●頂いた原稿に手を入れることは慎むべきだ、 しかしやむを得ず直したい文章の表現が編集 委員の衆議にかかっても一向に浮かばない、 鵜合の衆議と化した委員会に文殊さまをひと り加えたい瞬間が… (カレン) ●昨年末、 予定より2年以上遅れて B787 「ド リームライナー」 が初飛行に成功した。 すで に55社から840機の受注を受けているという。 全日空、 日航も計90機を発注している。 この 機体の就航が、 低迷する航空界へのカンフル 剤になることを願う。 (徳田) ●新しい FTD が2月から稼働を始める予定で す。 皆さんの大いなるご利用をお待ちしてお ります。 FTD 訓練室だよりを参照して下さ い。 (T. A.) ●昨年12月21日、 野口聡一宇宙飛行士の搭乗し たロシアのソユーズ宇宙船が無事打ち上げら れた。 航空会社パイロットであった大西卓哉 日本で一番の発着数を誇る石垣空港の滑走路は 1500m と非常に短かく、 JET 機においては大 変な 「定点着陸」 が求められます。 (B737-400 副操縦士 野田昭洋) さんも宇宙飛行士候補者となった。 私も Virgin Galactic 社に転職しようかな。 (T. O) ●明けましておめでとうございます。 読者の皆様と編集委員の方々のボランティア 精神に支えられ、 編集長も間もなく6年にな ろうとしています。 今年も皆様方のご協力ご 支援をお願いして止みません。 皆様方の良き 年であらんことを切に願いつつ、 世代を超え たアクティブな編集委員会となるよう目指し ます。 (編集長 蔵岡) No.318 2010年 1 月号/平成22年1月発行 発行 社団法人 日本航空機操縦士協会 (Japan Aircraft Pilot Association) 〒105-0003 ホームページ FAX 03 3501 0435 E-Mail:[email protected] 振替口座/00180 9 88490 128 落丁・乱丁本がありましたら お取替えいたします 東京都港区西新橋1−18−14 TEL 03 3501 0433 (代) 2010 JAN 禁無断転載 URL http://www.japa.or.jp/ JAPAWEB20100101 編集人 蔵 岡 賢 治 発行人 白 石 豊 樹 定価 印 刷 800円 (税込) 株式会社プリカ
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