膵癌治療の最前線 - 別府医療センター

第56回地域医療フォーラム
がんフォーラム2
膵癌治療の最前線
別府医療センター
消化器科 五十嵐久人
膵癌は手強い
切除例の予後
切除不能例の予後
2004年の膵臓癌による死亡数は22260人と肺癌、胃癌、
大腸癌、肝臓癌についで第5位!!
江川ら 肝胆膵 48(5) pp547−554,2004
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社 pp30−31
なぜ膵癌は手強いのか?
„
„
„
„
多くの患者が診断時に既に切除不能な進行
例である.
切除例であっても高率に早期再発をきたす.
Stageの低い段階での発見を目指す.
切除不能例や術後再発例に対する有効な非
手術療法の確立を目指す.
膵癌診療ガイドライン
„
推奨度
グレードA:行うよう強く勧められる
グレードB:行うよう勧められる
グレードC:行うよう勧められるだけ
の根拠が明確でない
グレードD:行わないよう勧められる
膵癌の危険因子は何か?
膵癌発症の危険率
家族歴
膵癌
遺伝性膵癌症候群
対象群の13倍
4.46倍
合併疾患
糖尿病
慢性膵炎
遺伝性膵炎
2.21倍
相対危険度4~8倍、一般人口の10~20倍
健常人の53倍
嗜好
喫煙
約2倍
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p2
膵癌を疑うべき糖尿病
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„
血縁者に糖尿病がない
高齢で初めて糖尿病と言われた
食欲不振のある糖尿病
血糖コントロールが急に悪くなった
血糖コントロールは良いのに体重が減っていく
急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症や悪化は膵癌
合併を疑い、腫瘍マーカーや画像検査を行う
(グレードB)
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p5
p24
膵癌の初発症状
江川ら 肝胆膵 48(5)
pp547−554,2004
他に原因のみられない腰痛、腰背部痛、黄疸、体重減少は膵癌を疑い
検査を行うが(グレードB)、有症状の場合は進行癌が多い.
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p5
膵癌のスクリーニングにはどの
MODALITYが良いか?
江川ら 肝胆膵 48(5)
pp547−554,2004
膵癌はUSおよびCT(造影も含む)を行い、必要に応じてMRCP, EUS,
ERP, PETを組み合わせるよう強く勧められる(グレードA)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p13
注意すべき超音波所見
田中ら 肝胆膵 48(5)
pp573−578,2004
主膵管の拡張(2 mm以上)や小嚢胞が膵癌の間接所見として重要である(グレードB)
→すみやかにCT検査をはじめとする検査を行うことが強く勧められる(グレードA)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p8
膵に嚢胞を見つけたら要注意
膵体尾部癌
主膵管拡張を認めたら要注意
慢性膵炎急性増悪と仮性嚢胞?
膵頭部癌
膵癌の病期分類(JPS第5版):T因子
„
Tis
T1
T2
T3
„
T4
„
„
„
非浸潤癌
腫瘍径が2㎝以下で膵内に限局したもの
腫瘍径が2㎝を超え膵内に限局したもの
癌の浸潤が膵内胆管(CH),十二指腸
(DU),膵周囲組織(S, RP)のいずれかに
及ぶもの
癌の浸潤が隣接する大血管(PV, A),膵
外神経叢(PL),他臓器(OO)のいずれか
に及ぶもの
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
p46
膵癌の病期分類(JPS第5版):N因子
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
p47
膵癌の病期分類(JPS第5版)
インフォームドコンセントのための
図説シリーズ
膵がん 医薬ジャーナル社 p47
膵癌に対する治療選択基準
Stage IVb
治療前診断
M
ある
非手術
ない
N3 or PL or A
ある
ない
Stage I, II, III, IVa (or IVb)
Stage IVa or IVb
非切除/非手術
化学放射線療法
全身化学療法
切除手術療法
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
p48
拡大手術の最近の考え方
„
„
本邦では膵臓癌の術式に関して、拡大リンパ
節郭清・神経叢郭清を伴う 拡大手術 が積
極的に行われてきた.
しかし最近本邦で行われたRCTでは拡大郭
清群が治療成績不良と判明. (グレードC)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p69
膵周囲血管合併切除の最近の考え方
„
門脈合併切除:長期生存が得られたのは治癒切除
が得られた場合.切除断端および剥離面における
癌浸潤を陰性にできる症例に限り適応となると考え
られる.(グレードC)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p65
„
動脈合併切除:治療成績に寄与しないことが理由で
明らかな動脈浸潤例には積極的な動脈合併切除は
行われなくなってきている.
今泉ら 消化器画像 Vol.7 no.5 pp627−635, 2005
手術不能膵癌
„
„
„
„
遠隔転移:肝臓、肺、N3リンパ節など
腹膜播種
SMA(時にCA, CHA)などの主要動脈への浸潤
SMA, CA, CHA周囲の神経叢の浸潤が明らか
帝京大学 外科
„
Stage IVa症例でも根治手術が期待できるものは手術が勧められる.
(グレードB)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版
p55
改変
„
正確な病期・進展度診断が必要:multi-slice CTやEUSが勧められる.
(グレードB)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版
改変
p19
手術不能膵癌の治療
„
化学放射線療法
全身化学療法(単剤・多剤併用療法)
„
肝転移に対する動注化学療法
„
一般化されていないが(研究段階も含めて)
„
„
„
膵周囲動脈塞栓術後動注化学療法:札幌時計台病院
同種末梢血造血幹細胞移植(ミニ移植):九州大学
その他の免疫療法
化学放射線療法
„
„
局所進行切除不能膵癌に対する5-FU併用化学放
射線療法は有効な治療法であり、治療選択肢の一
つとして推奨される.(グレードB):具体的なレジメに
ついては一定のコンセンサスが得られていない
欧米での塩酸ゲムシタビン併用群と5-FU併用群と
でのランダム化比較試験:MSTが14.5ヶ月 vs
6.7ヶ月
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 pp43−44
化学放射線療法
„
„
化学放射線療法によってdown-stagingによって
切除可能となる症例がある.
術前化学放射線療法の有用性を支持する論文は
増加傾向にあるが、長期遠隔成績を向上させるか
否かは、今後の臨床試験が必要.(グレードC)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p77
„
局所進行切除不能膵癌に対する化学療法単独によ
る治療は標準的治療法として推奨するだけの十分
な根拠は乏しい.(グレードC)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p29
化学放射線療法
chemorad
3000
Chemo TX
2500
2000
1500
CA19-9 U/ml
1000
500
0
Stage IVa 膵頭部癌
H17/12
1
2
3
4
Chemoradiation: 2Gy/day x 20 days + GEM 40 mg/m2/day x 2/week
Chemotherapy: GEM 1000 mg/m2/day を3投1休
全身化学療法
„
遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法
としては、塩酸ゲムシタビンが推奨される
(グレードA)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p32
„
切除不能膵癌に対する塩酸ゲムシタビンは、投
与継続困難な有害事象の発現がなければ、病
態が明らかに進行するまで投与を継続する
(グレードB)
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p38
全身化学療法
Burris HA 3rd, et al
J Clin Oncol 15(6)
2403−2413, 1997
Gemcitabineの症状緩和作用
Burris HA 3rd, et al
J Clin Oncol 15(6)
2403−2413, 1997
症状緩和効果(clinical benefit response)の評価において「有効」と
認められたのはGemcitabine群が5-FU群に比較して有意に優れていた
Gemcitabineの投与方法
„
„
„
2回目以降の投与に対し
て、投与当日の白血球数
が2000/μl未満または
血小板数が7万/μl未満
の場合は投与延期とする
一方、2クールまで基本
パターンで投与した方が
有効性が高いとして、安
易な減量は避けるべきと
いう意見もある。
外来通院での継続化学療
法可能となりQOLは上昇
した.
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
p64
Gemcitabine投与の問題点
„
„
„
副作用:骨髄抑制、悪心・嘔吐、風邪のような
症状(発熱・頭痛・脱力感)、間質性肺炎、肝
機能障害、腎機能障害など
単独投与での奏功率は10-15%程度といまだ
十分とは言えない.
投与経過中で不応例が出現してくる.
膵癌化学療法の実際 第3版 リノ・メディカル社 pp13-41
Gemcitabineの新しい投与法
„
„
定速静注法(FDR):10mg/m2/minで投与するこ
とによりGEMの細胞内での活性化が効率よく行わ
れ、高い効果が期待できる
遠隔転移のある膵癌に対する第Ⅱ相試験
30分法 vs FDR: 1、2年生存率は9% VS
28.8%、2.2% vs 18.3%:現在米国で第Ⅲ相試
験中
Tempero M, et al J Clin Oncol 21(18) 3383−3384, 2003
nd
2
line 化学療法
上野ら 消化器画像 Vol.7 no.5 pp667−672, 2005
多剤併用化学療法
„
„
多くの薬剤がGEMと併用され、その上乗せ効果を
狙った臨床試験がなされてきている:殆どの場合
GEM単独を凌駕できていない.
GEM + erlotinib(EGFR チロシンキナーゼ阻害剤),
GEM + capecitabine(経口5-FU製剤)併用療法が
GEM単独より有意に良好な生存期間を示した.
上野ら 消化器画像 Vol.7 no.5 pp667−672, 2005
現在進行中の臨床試験
„
„
„
„
GEM + bevacizmab(血管新生阻害剤)
GEM + cetuximab(EGFR抗体)
GEM + oxaliplatin:再試験中
GEM + orathecin(経口トポイソメラーゼⅠ阻害薬)
上野ら 消化器画像 Vol.7 no.5 pp667−672, 2005
„
GEM + S-1:本邦で進められている.
(中村ら:遠隔転移のある膵臓癌;MST 12ヶ月 奏功率
50%)
Nakamura K, et al J Clin Oncol(meeting abstracts)22:4134, 2004
Gemcitabine+経口5-FU製剤併用療法
GEMと経口5-FU製剤の相乗効果として
1) 5-FUの持つthymidylate synthase阻害により,GEM
のDNAへの取り込みに働くnucleotide transporterの
発現が増強される.
Rauchwerger DR, et al. Cancer Res 60:6075-6079, 2000
2) GEMの持つdeoxycytidine kinaseの阻害作用,
dFdCDPのribonucleotide reductase阻害作用により
5-FUの作用が増強される.
Feliu J, et al. Annals of Oncology 13:1756-62, 2002
が想定されている.
Gemcitabine+経口5-FU製剤併用療法(症例)
GEM + S-1
4ヵ月後
SLX 1100 U/ml
DUPAN-2 35000 U/ml
SLX 182 U/ml
DUPAN-2 4500 U/ml
Gemcitabine+経口5-FU製剤併用療法(症例)
治療
Span-1
2005年4月
A
B
C
D
S-1
DUPAN-2
U/ml
20000
3000
18000
2500
16000
14000
2000
12000
2005年9月
10000
1500
8000
1000
6000
4000
500
2005年11月
2000
0
2005年5月
GEM + UFT
0
6月 7月
8月
9月
10月 11月 12月
U/ml
Gemcitabine+経口5-FU製剤併用療法(症例)
治療
A
BB
B/S-1
腹痛
食欲不振・倦怠感
2005年5月
140000
120000
100000
CA19-9
U/ml
80000
60000
40000
2005年12月
20000
0
2005年9月 10月
GEM + UFT
11月
12月
1月
2月
3月
術後補助全身化学療法は有効か?
„
„
„
膵癌の術後化学療法の有用性を支持する報告がされてきているが今後
の臨床試験で明らかにされるべき(グレードC)
ESPAC1:術後化学療法施行142例と行わなかった147例の比較では
MST 20.1ヶ月 vs 15.5 ヶ月、5生率が30% vs 8%と術後化学療法
の有効性を報告
科学的根拠に基づく 膵癌診療ガイドライン 2006年度版 p84
ASCO 2005で報告されたCONCO-001の中間報告で有効性を報告
Neuhaus P, et al Proc Am Soc Clin Oncol. 24(18) Abstract No. 4013, 2005
膵周囲動脈塞栓術後動注化学療法
„
„
Stage IV膵癌102例の有効率は52%、1,2,3年生存率はそれぞれ58%、
本間ら、消化器画像 Vol 7 No. 5 PP673-684, 2005
21%、9%
手技が煩雑、保険適応でない点が問題点
同種末梢血造血幹細胞移植(ミニ移植)
縮小効果は著明だが移植後のGVHD
などが制御困難:長期生存例は未だ認め
られない
インフォームドコンセントのための図説シリーズ 膵がん 医薬ジャーナル社
pp82-87
おわりに
„
膵癌においては早期発見・早期治療(手術療
法)が現時点では最も良い長期成績を得る方
法である.
„
切除不能進行膵癌に対する集学的治療法は
近年進んできており、生存期間の延長・QOL
の向上が得られてきている.
膵癌の治療成績を向上すべく
頑張って参ります
別府医療センター