シェリー, ポート, マデイラ共通点と相違点 誌名 日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan ISSN 09147314 著者 明比, 淑子 巻/号 106巻9号 掲載ページ p. 597-605 発行年月 2011年9月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat シエリーヲポート,マデイラ 共通点と相違点 シエリーといえば,ポーの「アモンティリヤードの樽 J ,それから r007ダイアモンドは永遠に Jで , Therei snoy e a rf o rs h e r r y " (シエリーには年号はないよ)といわれたジェームス・ボンドが“ Iwas “ r e f e r r i n gt ot h eo r i g i n a lv i n t a g eonwhicht h es h e r r yi sbaseds i r .1 8 5 1 .U n m i s t a k a b l e . " (私がいっている のはこのシエリーのべ…スとなっている最初のビンテージさ, 1 8 5 1年,まちがいなし、)と切り返す姿であ る。しかし,私自身,シエリーに関する知識は少なく f ソレラシステムJではなく正しくは「クリアデラと ソレラのシステム j であることを本稿で‘始めて知った。さらに,ポ…トやマデイラについては良質なマデイ ラやポート自体最近まで味わったことがなかった。酒精強化とともに酸化や熱という酒には大敵とされる条 件を使って作り出す独特の香味,それを生み出した康史と風土,大変興味深い解説である。 明比淑子 1 5 喜を渡るワイン 世界の 3大酒精強化ワインと言われるシエリー,ポ ート,マデイラは,いずれも大航海時代に船に積まれ, 大海原を渡ったワインだ。そして原産閣にとどまるこ となく,世界的に名を馳せた国際派のワインでもある。 その要因のひとつは,産地の位霞にある。いずれも インをつくろう,ということで発展したのがマデイラ のワインだ。スペインのカナリア諸島のワインやポル トガルのアソーレス諸島のワインも同じような道をた と守ってきた。 これらのワインはいずれも,徐々に,長い船旅に耐 えうるようなスタイルを確立した。ワインを丈夫にす る,つまり安定させるためにアルコールを混ぜた。そ “フォーティファイド 大間洋航路に便利なところにある。シエリーとポート れカ~i医事青強 f ヒワイン, の産地はイベリア半島の大西洋岸,つまりイギリス人 “強くされた"ワインだ。 やオランダ人をはじめとするヨーロッパ北部の人たち まさに 特にイギリス人たちは,このタイプのワインを愛し が遠出しようとしたとき,最後に立ち寄れるヨーロッ て,世界中どこにでも船に積んで、持って行った。今, パの地だ、った。他にも同じような条件を備えていたワ ニューワールドと言われる,オーストラリアや南アフ インは リカなどのワイン産地の多くはかつてのイギリス領で スペインのアンダルシアではマラガやコンダ ド・デ・ウエルパのワインがある。そこには,普から ワインカfあった。 あり,そこでは現在も酒精強化ワインが造られている。 もちろんイギリス人はこれらスペイン,ポルトガル 一方,マデイラは,まさに大航海時代,新しい航路 のワインを本国にも持ち帰ったため,シェークスピア を発見して,領土を増やし,アジアへの道を切り開こ をはじめ,多くの著名な作家の作品にその名前が登場 うとしていて発見された烏だ。ここで休憩して,新し する。そして現在でもイギリスはこれらのワインの大 いワインを積みこめれば好都合だ。ぶどうを槌えてワ 消費地であり続けている O Sherry,P o r tandMadeira:CommonC h a r a c t e r i s t i c s&Di 首位向巴 n tC h a r a c t e r i s t i c s S h e r r yc o m m i t t e ed e ! e g a t ei nJ~抑n ( R e t r e s e n t a t i v e0 1t h er e g u ! a t o r yc o u n c i !0 1d e m a r c a t e dr e YoshikoAKEHI ( g i o n s0 1s h e r r y& m a n z a n i l l ai nJ a ρa n ) Auther0 1t h e" B o o kolSherry ,P o r tandM a d e i r a "ρu b l i s h e db y S h o g a k u k a n ) 第 1 0 6巻 第 B 号 5 9 7 シエリー の産である。 ヘレスにおけるイスラム支配時代は 1 2 6 4年まで続 3つのワインのなかでは唯一スペイン産のシエリー 可をシェリシュと呼んだ。そのため, くO 彼らはこの l だが,このワインは正式に原産地呼称を書くに当たり, 当時この地のワインを輸入していたイギリスでは,シ ] e r e z-X e r e s-S泊 r r yと西,仏,英の 3か国諾が速 ェリシュのワインとして知られ,これがのちにシエリ 記される,世界でも珍しい例だ。その理由は長い歴史 ーに変化していった。一方スペインでは同じくシェリ にある。 シュがシェレスになり,へレスに変わっていった。こ うして,何世紀も経た現在,このワインの名前は長年 〈歴史) 産地はスペイン,アンダルシア州の南西部の端。大 世界各地で使われてきたスペイン語,英語,そしてフ 西洋に臨む 3つの都市,ヘレス・デ・ラ・フロンテラ, ランス詩を使う悶にも多く輸出されているということ サンルーカル・デ・パラメ夕、、,エル・プエルト・デ・ でフランス詩も含め, 3か国語が公式名として使われ サンタマリアが産地の中心で,この 3都市を結ぶ三角 ている。 地帯をシエリー・トライアングルと呼んでいる。 肘孔地中海の東端に領土を持つフェニ 紀元前 11t 4 9 2年,アルハンブラ宮殿を奪回 キリスト教徒は 1 しイスラム教徒のイベリア半島支配は終湾を遂げた。 キア人たちが交易のため,ジブラルタル海峡を超え, そして,この年,勢いに乗ったスペインの援助を得て, 大西洋へ出て,半島の先にある現在のカディスに上陸 コロンブスが新大陸を発見することになる。コロンブ しぶどう栽埼とワインっくりを伝えたとされる。そ スは最初の航海では,シエリーの産地の商につながる の後,カディス湾の対岸にある現在のへレスのあたり 地域の港,パロスから,次の航海からはサンルーカ 0 0 にも村を作り,ワインっくりを始めたのが紀元前 7 ル・デ・パラメダから,その地域のワインを大量に船 年頃のことだ。以後,ローマ支配下にあった持代はワ に積んで出港していった。 インの大産地になっていた。だが 711年,すぐ、南に接 〈造り方〉 するアフリカから,ジブラルタル j 毎峡を i 度って,イス シエリーの産地の畑の特徴は,幾重にも速なるなだ ラム教徒のそーロ人が侵入してきたため,キリスト教 らかな豆だ。その上部は真っ白な土で翠われている O 徒は北へ押しやられていった。アンダルシアはイスラ これがアルパリサと呼ばれる石灰質の土壌だ。アルパ ム教徒の大きな影響を受けた地域だが,彼らのおかげ リサがぶどう栽培に適している理自は,年間降水量 で蒸留技術を手にした。そして,そのアルコールはワ 6 0 0ミリほどで雨は秋から早春にかけてしか降らない インの酒精強化にも使われるようになった。余談だが, 誌をスポンジのように吸い込んで この地域で,降った F 現在もシエリーのメーカーの多くはブランデーを造っ ためておける特質があるためだ。雨が待らない夏,ア ていて,スペインのブランデーの約 95%はこの地域 ルパリサの表関は固く悶まって,内部の水分の蒸発を 防ぐ。そのため,ぶどうの突が熟していく季節に,樹 に水分を与えることができる。またこの地域特有の嵐 シエリーの産地 も影響する。内陸から吹く乾燥した高温の風と,大西 洋から吹く低温多湿の風が交互に吹くことによって, 気温差と湿度藻ができ,ぶどうの熟成を助ける。 使用されるぶどうは白品種だけで,パロミノ,ペド ロ・ヒメネス,モスカテルの 3種類である。シエリー は大きく 3つのグループに分けられる。ピノ・ヘネロ ソという辛口,ピノ・ドゥルセ・ナトゥラルという極 せ口,ビノ・ヘネロソ・デ・リコールという前 2者の ブレンドで中間の甘さである。 ビノ・ヘネロソには,会栽培面積の約 95%を占め 第 1臨 5 9 8 シエリーの産地 るパロミノが使われる。まずパロミノの果汁を発酵さ 醸 協 ( 2 0 1 1 ) 2クリアデラから補充する。これを繰り返し最後の クリアデラには最新の収穫でつくって樽のなかで待機 しているワインを補充する。したがって,通常,シエ リーにはヴィンテージがないが,常に問じ風味のワイ ンが安定して出荷できる。 シエリーの特徴の一つにボデガと呼ばれる熟成庫が 第 2罰 フロール(産膜酵母) ある O 一般のワインは地下のカーヴを使うが,シエリ ーの場合は地上の大倉康だ。分厚い盛で囲まれ,天井 1~ 12%の辛口ワインをつくる。 せてアルコール度約 1 が非常に高く,獲の高い位霞に窓、がある。これは適度 気温が下がって澱が沈殿し,自然にワインが澄む冬を な温度 (18t前後)と湿度 (80%強)を必要とするフ 待つ。このとき,ワインの表部にはフロールと呼ばれ ロールを維持しながら,アンダルシアの暑い夏を乗り る酵母の膜が張っている。そこでワインは試飲によっ 切る工夫だ。 温度の高い空気はよによるので,夜間, て 2つのグループに分類され,繊細さのあるワインは 涼しい海風が吹くときに窓を開け放ち,暑い空気を追 フィノとして,フルボディのワインはオロロソとして い出して,涼しい空気を入れ,昼間はすだれをかけて, 熟成されることになる。ブイノに分類されたものは酒 B射をさえぎって,温度の上昇を防ぐ。床にはきめの 精強化によってアルコール度を 15%まであげ,フロ 細かい土を敷き,水を撒いて湿度を保つ。 ールが生育しやすいアルコール度に条件。を整えて,樽 のピノ・ヘネロソのタイプには,フイノとオロ に移す。その場合,樽はいっぱいにせず, 6分の lほ ロソのほか, もともとフィノだ、ったものが後にフロー ど空間を残す。これはフロールが生きていくのに,酸 ルを失って酸化熟成したアモンテイリヤード,そして 素と,膜を形成するスペースが必要だからだ。ワイン オロロソと伺類だが,香りがアモンテイリヤードのよ の表街はフロールの膜でおおわれているので,ワイン うな繊細さを持つパロ・コルタドがある。またシエリ は空気に触れない。そのためフイノはフロールの影響 ー・トライアングルの一角であるサンルーカル・デ・ 受けた独特のシャープな香りとしゃっきりした辛口の パラメダは川の河口で大西洋に面しているため湿度が 風味を身に着けるが, もとのワインと同じ色を保持し 高く気温が低いため,独特の微気候が形成され,そこ ている。 で熟成されるフイノと同じタイプが,ソフトで塩味が オロロソは 17%まで上げ,フロールを消して 濃く感じられるワインに仕上がるため,これをマンサ しまう。そのため空気に触れながら熟成するので色は ニーリャと呼ぶ。マンサニーリャは個別の原産地呼称 褐色化し,フイノとは特性が会く異なる,豊かな香り をt 寺って,シエリーと区別されている。 が広がる(オロロソは香り豊かという意味)まろやか 辛口ということでは,フィノのタイプは熟成によっ て,ベースになっている白ワインよりさらに辛口度が なワインになる。 樽に詰められたワインは,クリアデラとソレラのシ 増している。それはフロールが残糖やグリセリン,ア ステムで最低 3年熟成される o (統制委員会によると, Jみを感じさせる成分を消費してい ルコールといった 1 EUのワイン法に則って, 2 0 1 0年 5月に発効された統 るからだ。クリアデラとソレラの方式による熟成が, 制法改訂版から,法的には樽熟期間が最低 2年になっ このタイプのワインに向いている理由のーっとして, たが,実際には以前どおり最低 3年熟成されていると 出荷するたびに,養分を多く持った若いワインが補充 のこと。)ソレラに入っているワインは,創設年から されることによって,古いワインが活性化されること 毎年収穫したワインがまじりあっている。出荷はソレ が挙げられる。 ラからだけ行われる O 年間に樽の内容量の 3分の 1ま 一方,複す口のピノ・ドゥルセ・ナトゥラルには, で(改訂法では 40%未満)しか出荷することはでき モスカテルとペドロ・ヒメネスという, もともとパロ ない。減った分は,第 lクリアデラと呼ばれる,ソレ ミノより糖度の高い品種が使われる上,収穫後,ぶど ラより少し若いワインが入った樽から補充する O 第 l うは天日に干され,水分を蒸発させて糖分を凝縮させ, クリアデラの補充はさらに少し若いワインが入った第 非常に甘い果汁を採る。その発酵初期にアルコールを 0 6巻 第 日 号 第 1 599 第 1表 シエリーのタイプ別アルコール度と残糖量 タイフ。 グループ ピノ・ヘネロソ g /Q) . ) 残糖 ( アルコール度(%vol フイノ 1 5 1 7 アモンティリヤード 1 6 2 2 く5 1 7 2 2 く5 オロロソ ロ・コ jレタド 1 7 2 2 く5 1 5 2 2 5 4 5 ペイル・クリーム 1 5, 5 2 2 4 5 1 1 5 ミディアム 1 5 2 2 5 1 1 5 クリーム 1 5, 5 2 2 1 1 5 1 4 0 ノf ピノ・ヘネロソ・デ・リコール ドライ ピノ・ドゥルセ・ナトゥラル く5 ドゥルセ 1 5 2 2 160< ペドロ・ヒメネス 1 5 2 2 2 1 2く モスカテル 1 5 2 2 160< ( 2 0 1 0年 5月 2 8B公告のシエリー原産地呼称統制 j 去による) 添加して発群を止め,甘さを残したワインをクリアデ ため,ぶどう栽培やワインっくりの歴史は古い。だが, ラとソレラのシステムで熟成する。これらのワインの ポートが独自性を出してくるのは,やはりイギリスの タイプ名は,それぞれ品種名と向じく,モスカテル, 自に留まって,英国市場向け,そして遠洋航海のため ペドロ・ヒメネスという。 に船に積むワインとして人気を博したことにある。 18 どノ・ヘネロソ・デ・リコールはブレンドだ。主な 世紀,あまりの需要に供給が追い付かなくなったため, ものは,メーカーによってブレンドの方法は異なるが, 質の悪いワインまで輸出されるようになった。それに 基本的に,フィノに MCR (濃縮精留ぶどう果汁)を よって商品価伎が下がるのを危倶した当時の首相,ポ 加えたものをペイル・クリーム,アモンテイリヤード ンパル侯爵は,品質の保証と価格の安定を鴎るため, にペドロ・ヒメネスを加えたものをミディアム,オロ ぶどうの栽培地を限定した。 1756年に発効したこの ロソにベドロ・ヒメネスを加えたものをクリームと呼 法律は, -!tt界最初の原産地呼称認定制度と言われてい ぶ 。 るO 長 期 熟 成 タ イ プ に は VOS (20年以上)と VORS ポートは,ぶどう畑とワインの生産地がドウロ } I Iの ( 3 0年以ーと)がある。これらには及ばないが,やはり よ流にあって,熟成地は河口の1IlJ,ヴイラ・ノヴァ・ 長期熟成とみなされるもので, 12年 , 15年とラベル デ・ガイアにあり,春になると樽に詰められたワイン に表示できるものもある。いずれも認定には厳格な条 件が課されている。また,アニャダという単一ヴィン テージのタイプも認定されるが,長期熟成で限定量し ぜ ? か発売されない。 ポート この 3つのなかで唯一,一般的イメージが赤ワイン なのがポートだ。かつて日本で最初に人気を博した甘 口赤ワインにはこの名前が使われていた。だが,実際 には赤だけでなく,自,そして最近ではロゼまである。 〈歴史〉 ポルトガルもスペインとともにイベリア半島にある 600 第 3菌 ドウロ地 I R 議 協 (2011) を乗せた帆船がJlI を下ってくるというので有名だ。確 かに河口にあるヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアは外国の シッパーたちが住み着き,ワイン・ビジネスで栄えて いた。だが,ワインを熟成させてから出荷したいとい うメーカーは全てヴィラ・ノヴァ・デ・カ、、イアにロッ ジ(熟成庫)を持たなければならないという規則が出 来たのは 1 926年のことで,これは,政府が出荷のコ ントロールをしやすいように,ワインをーか所に集め ようという方策で実施されたものだ。 1986年になって, その制限は解かれ, もとのように,ワインはドウロ地 域でも熟成され,直接出荷されるものもある。現在で もヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアにはロッジが立ち並び, 第 4図 ドウロ地区のブドウ焔 多くのメーカーがワインを熟成している。ちなみに国 名ボルトガルは,ローマ支配下でカレと呼ばれていて, 収穫したぶどうは,かつては大きな石のプールのよ 港(ボルトゥス)として発展していたため,ポルトゥ うな槽で,何人もの人が肩を組んで、夜通し足踏みして ス・カレが国名のポルトガルになったといわれる O ヴ つぶしマセレーション時はボートの擢のような大き ィラ・ノヴァ・デ・ガイアの川辺の真正面には,ユネ な棒でかき混ぜていた。現在でもポートを作るにはこ スコの世界遺産に認定されたボルトの町が見える。ポ の方法が最高だといわれるが,入手が足りないため, ートのキ亮制機関である,かつての IVP (ポート・ワイ 最近はこの動きをする機械が各種使われている。 ン・インスティトゥート),現 IVDP (ドウロ&ポー アルコール発酵中,望むせきに透した時点で,液体 ト・ワイン・インステイトゥート)はヴィラ・ノヴ 部分だけをタンクに移し随精強化して発酵を止めて ァ・デ・ガイアではなくボルトにある O 甘さを残す。アルコール度は 19%が g安 。 ・ワイン名と区別するため都市名はボルトとする(筆者) 〈造り方〉 自の風味をブレンドでつくりだす。 ぶどう栽培地域はドウロ地域だ。ポルトからドウロ 川を 100kmほどさかのぼった地点からスペインとの 沿いの一帯で,下流からパイショ・カル 国境までのJlI ゴ シマ・カルゴ 使用ぶどう品稜は多い。各メーカーは各ブランド独 ドウロ・スペリオールと 3つの地 そのためポートの場合はブレンダーの存在が大きい。 ポートの主要品種として知られているのは, ガ・ナシオナル, トウリ トウリガ・フランカ,テインタ・ロ リス,ティント・カンといった泉ぶどう品種だ。ポー 域に分けられている。認定地域は 2 5万 haだが,ぶ トといえばヴインテージ。これらは,それに欠かせな どう栽培面積はその 15%強 し か な い 。 最 も 面 積 は 狭 い品種であり,同時に,ぶどう生産地域を共有するド いが,ぶどう栽培面積が広いのは下流のパイショ・カ ウロのステイル・ワインの主要品種でもある O ルゴだ。 寒暖の差は内陸ほど激しく,降水量は内陸ほど少な い。焔は日照,傾斜度など,様々な項目を採点し A ブレンドされたワインは樽熟に移る。ヴインテー ジ・ポートに代表されるルビー・タイプの場合,美し い色を保つため,大きな樽を使って酸化を抑え,早め から Fのクラスに分類され A クラスが最高とされる O 粘板岩土壌が特徴で¥石を砕いて階段式に積み上げる 第 2表 ように作られた畑が,川を挟んだ両岸で,水辺から山 甘さの度合い ポートのタイプ別残糖量 残籾f( g /e) を主まっていく独特の景色はユネスコの世界遺産に認定 極辛口 <40 されている。 辛口 4 0~ 6 5 時ぜや口 6 5~ 9 0 ぶどうの樹はひな壇のごとく,垣根づくりで並んでい 目口 9 0~ 1 3 0 る 。 能甘口 1 3 0< 伝統的な焔では,各段に 2~3 列しか植えられない。 第 106 巻 第 9 号 6 0 1 第 3表 ボートの使用ぶどう品種 白ぶどう品稜 黒ぶどう品穏 4 0 9 6以下使用 エスガナ・カン アリント 60%以上使用 ノtスタ jレド フォルガサン ボアル モウリスコ・テイント ドンゼリーニョ ゴウヴ、ェイオ またはヴ、エルデーリョ セルシアル テインタ・アマレラ マルヴアジア マルヴアジア・フイナ コデガ テインタ・ノ tロッカ ペリキータ ラビカ'ト マルヴアジア・コラダ テインタ・フランシスカ ルフェーテ ヴィオシーニョ モスカテル・ガレゴ テインタ・ロリス テインタ・パルカ 60%以上使用 40%以下使用 コルニフェスト ドンゼリーニョ・ブランコ ティント・カン トウリ式r .フランカ サマリーニョ トウリガ・ナシオナル 第 4表 ボ ー ト の タ イ プ ルビー ルビー、 リザーヴ、 レイト・ボトルド・ヴインテージ L a t eB o t t l e dV i n t a g e (LBV) ヴィンテージ、 シングル・キンタ・ヴインテージ トウニー トウニー・リザーヴ トウニー, 熟成年数表示トウニー ( 1 0年 、 2 0年 、 3 0年 、 4 0i f . ) コリェイタ ホワイト ホワイト・ボート、 ホワイト・ポート・リザーヴ 1 0年 、 2 0年 、 3 0年 、 4 0年) 熟成年数表示ホワイト・ポート ( 6 . 5 9 6 ) ライト・ドライ ホワイト・ポート(最低アルコール度 1 ロゼ 県ぶどうを軽くマセレーションして得たピンク色のワインで、酸化熟成させない。 i 主:タイプ名の表記は I VDPの表記に準ずる に瓶詰めする。ヴインテージの場合,収穫後 2~3 年 トウニーの場合は,小さめの樽を使ったりして酸化 で瓶詰めされる。あとは瓶熟行程が何十年も続く。た 熟成を促し樽熟期間を長くとるため,もとはルピー だ,長期瓶熟に耐えうる力を持ったぶどうが毎年収穫 と問じ色だ、ったワインが黄褐色,つまりトウニーにな できるわけではないので,ヴィンテージは,これなら る。トウニーにもヴィンテージに棺当する単一収穫年 I このワイ の長期熟成タイプがある。それがコリェイタだ。ポル 大丈夫と確信した段階で,各メーカーが, ンをヴインテージとして熟成していきたい」と IVDP に申請し許可を得る。これがいわゆる「ヴィンテー だ。瓶詰されたワインは,地下のカーヴで静 樽で熟成した上で瓶詰めする,長期酸化熟成タイプだ。 ルビーのヴインテージほど騒がれることはないが,同 じく,大変長寿のワインで貴重だ。トウニーには 1 0 かに熟成を待つ。 シングル・キンタ・ヴィンテージは単一畑のぶどう だけでつくったヴィンテージで, トガル語でヴィンテージを意味する。これは 7年以上 年. 2 0年といった熟成年数を表示したものがある。 ドウロ地域で熟成・ これらは表示年数の特性に匹敵する平均熟成年数を示 出荷ができるようになってから,畑がより注 8される しているので,必ずしも 1 0年なら 1 0年熟成したワイ ようになり,大手メーカーも多くの熔のなかから選択 ンだけが使用されているというわけで、はない。ホワイ した良い畑のぶどうを使って,製品をつくっている。 トも熟成期間が長いものは色が古い金のように濃くな レイト・ボトルド-ヴィンテージ (LBV) は単一 収穫年のルビーで,樽熟 4~6 年によって熟成感を出 し瓶熟しなくても飲めるようにつくられたタイプで, ヴインテージ気分を気軽に味わえる。 6 0 2 ってくる。 マデイラ 大西浮上,ポルトガル本土から1l00km,アフリカ 議 協 ( 2 0 1 1 ) 大陸から 6 00kmにある火山島だ。イベリア半島より る 。 1 4 1 9年,ポルトガル人によっ 主要品種は,黒ぶどうがテインタ・ネグラ,自ぶど て発見されたボルト・サント島から見えたうっそうと うがセルシアル,ウ、ヱルデーリヨ,ボアル,マルヴア アフリカ大陵に近い。 した森の島が f マデイラJ.つまり「木 j の島だ。 〈康史〉 ジア。他にテランテス(白)とパスタルド(黒)があ るが,栽培函積は少ない。一番多く栽培されているの 入植者たちは作物を植えるために森を切り開いて, というより燃やして,畑を作った。最初は小麦やサト はテインタ・ネグラだ。 マデイラには基本的に 4段階の甘さのワインがある。 ウキピとぶどうを植えたが,新大陸発見後は大量に安 い砂糖が入手できるようになり,サトウキピ畑はぶど 中辛口,中甘口,甘口だ。 テインタ・ネグラからは新しく極辛口も加え, 5段 う畑に変えられた。島のワイン産業は感んになり,遠 階の甘さのワインが作られる。一方,白ぶどう 4穫は, 洋航路の中継地として利用されたため,寄港する船は 各品種が各々の決まった段階の甘さのワインになるた マデイラ鳥でワインを積んで、,新大陸やアジアに向け め,セルシアルといえば辛口,マルヴアジアといえば て航海を続けた。 甘口という具合に,名前によってすさの段階がわかる。 ポルトガ jレはアフリカ最南端の喜望峰を経由してア 甘さを決めるのは溜精強化の時期だ。より甘いタイ ジ、アへ向かった。そのとき船に積んでいったワインは, プをつくりたければ早めにアルコールを足して発酵を 波に揺られ,赤道を超えて船旅を続けた。なかにはヨ 止める。アルコール度数は ーロッパに戻ってくるものもあり,それが格段におい 19%を目安にしている O 甘さを決められたワインは熟成に入る。マデイラの しくなっていた。そこで,向じ条件を再現すれば,お 場合は加熱熟成が大きな特徴だ。黒ぶどうのワインは, いしいワインがつくれるのではないかと,試行錯誤を もとは赤ワイン色をしているし白ぶどうのワインは 重ねた結果,現在のマデイラ・ワインのスタイルに至 白ワイン色をしている O だが,どちらも製品になった ったのだ。マデイラもイギリス人に大変好まれたため, ときは同じ褐色である。 緩民地だった北米で珍重された。そのため 1 7 7 6年 , 生産量が多く,比較的短期熟成の製品にされるテイ アメリカ合衆国の独立宣言の乾杯にはマデイラが使わ ンタ・ネグラはエストゥフアジ、エンという力日熱タンク れている。 に入れられる O かつては,大きな木の桶のなかにパイ 〈造り方〉 プをらせん状にしたものを設置し熱湯を過す仕掛け ぶどう栽培面積は 4 0 0 h a o 火山鳥なので,玄武岩質。 だ、ったが,最近は,温度制御付のステンレスタンクを 熔の地形の条件は緩めて悪い。島の周囲はほとんど断 f 吏っている。 4 5~ 50tで 3か月以上かけてゆっくり 崖絶壁で,平地がほとんどない。 j 急斜面なのだが,ポ 加 熱 し 3か月以上かけて徐々に常混に戻して安定さ ートのドウロ地域のように階段状にはしない。おおま せる。 かに区切りはあり,それが燐の家の畑との境になって 4種の白ぶどう品種のワインは樽熟成工程を経る。 いることもある。一軒の農家が所有する畑の面積は非 樽は太陽の熱によって自然に温められる条件を持った 常に小さい。樹は槻づくりが基本だ。下に別の作物を 倉庫に並べられる。冬でもあまり寒くならないマデイ 植えていることもある。気候は温暖で¥夏は蒸し暑い ラ島では,建屋の 2階や 3階を熟成庫に充てていると が冬は穏やかだ。 認はほとんどが秋から冬にかけて降 ころもあり, 第 5表 ぶどう品種とマデイラのタイプ とくに緩房設備の必要もない。この方式 第 6表 マ デ イ ラ の タ イ プ 別 残 糖 量 タイフ。 e 残i 機 g/ 黒ぶどう テインタ・ネグラ 極辛口、辛口、中辛口、 中甘口、甘口 経辛口 <49. 1 白ぶどう セルシアル 辛口 辛口 4 9, 1~ 6 4, 8 ヴェルデーリョ 中辛口 中辛口 6 4, 8~ 8 0, 4 ボアル 中甘口 中甘口 8 0, 4~ 9 6, 1 マルヴアジア 甘口 ー 甘 口 9 6, 1< 0 6巻 第 第 1 s号 6 0 3 ヴインテージはマデイラならではの長寿で、'現在で も1 9世紀のものや 2 0世紀初頭のものが手に入る。誕 生年のヴィンテージ・ワインを求める人も多い。 まとめ 1,ぶどう栽培 主通点:各地域の固有品種を使用する。 担韮卓:シエリーの産地はなだらかな丘状態で,土 壌は石灰質。ポートの産地は川の両岸の斜面で,土壌 は粘板岩質。マデイラの産地は海に向かう急傾斜地で, j二壊は玄武岩質。 第 5図 カ ン テ イ ロ 2 . 滋精強化 豊通卓:グレーブ・アルコールの添加時期によって, は熟成に待問がかかるが,急激に熱を加えることがな タイプが決まる O アルコールの原料はぶどうに限られ いので¥品質は高い。樽は大きな桶から小樽まで様々 るが,産地は関われない。 で,っくり手は,倉庫のどの位置にどの樽を置くと, 担違忠・シエリーは発酵終了後にアルコールを添加 ワインがどう熟成するかを見緩めてブレンドしている。 するものと発酵初販にアルコール添加をするものがあ 熟成樽を乗せる木のレールのような礎をカンテイロと る。前者は辛口で,添加するアルコール量によって熟 いうため, この熟成方式もカンテイロと日乎ばれている。 成タイプが,産膜酵母を生かすか,殺して酸化熟成さ せるかの 2つに分ける。一方,後者は非常にせい。そ 熟成期間の表示は次の通り; の問に両者のブレンド・タイプがある。アルコール度 セレクシオン:熟成 3<5年 5~ 22%だが, タイプによってアルコール度数の は1 レインウォーター:熟成 <5年,中辛口以下の糖度 i 隔が異なる。 5三 9 : ポートは発苦手途中でアルコールを添加する。したが 10年 って基本的に全て甘口だ。極辛口タイプでも残糖の上 2 0年 限が 40g1Qまである。アルコール度はだいたい 19%。 3 0年 ライト・ホワイト・ポートは例外。 40年 マデイラはタイプによってアルコールを添加する時 ソレラ・年間最大 10%を出荷後. I 可種のワインを 期が異なる。それによって辛口から 1 主口までできる。 補充し, 10年間出荷可能 こちらも基本は甘口で,極辛口タイプとはいえ,残糖 コリェイタ: 単一収穫年のワインが 85%以上で, の上限は 50g1Q近くまである。アルコール度は 19% 5年以上熟成 ほど。 ヴインテージ.単一収穫年のワインが 85%以上で, 3 . 樽熟 2 0年以上熟成 主通点.いずれも樽熟が重要な役目を担っている。 最低 2年は樽熱するといつのは他のワインではあまり 5年 , 10年といった表示のものは,平均もしくは最 考えられないが,シエリーもボートもマデイラも樽熟 低の熟成期間を示し,その周辺の熟成年数のワインを 2年は最低レベルだ。また,樽材はアメリカン・オー ブレンドして造られるのはポートのトウニーと悶じだ。 クがほとんど。目的は熟成であって,樽香を付けるた ソレラはかつて,シエリーと同じように何年も変わる めではない。 ことなく出荷される,注ぎ足し式のシステムだったが, i ' E ! 逗t z :樽の大きさは違う。シエリーの場合はほと 現在は 10年使ったら,以後はソレラとは名乗れない んどすべてが 600Q入りのボタと呼ばれるサイズだ。 ので,メーカーにとっては殿、力がなくなってしまった。 ポートとマデイラは百大な檎から 300Q入りぐらいま 604 議 協 ( 2 0 1 1 ) で,様々だ。樽の大きさによって薮化熟成の進み方が t~護主:シエリーの場合クリアデラとソレラのシス 違うので,使い分けている。 テムによる熟成。フイノ・タイプは長期熟成しないと 4 . 熟成康 はいえ,平均熟成期間 5年や 7年は珍しくない。 去通去熟成庫がいわゆる地下に掘った洞窟ではな く,地上の建造物。ただしヴィンテージ・ポートの場 合,瓶熟は地下のカーヴ。 担違阜 シエリーの場合は,潟国アンダルシアの真 酒精強化ワインの笛白さ 生産自はスペイン,ポルトガルという,ヨーロッパ の中でもかなり個性的な思だ。かつては i 並界の海を制 夏の強い臼射を避けて,低い j 昆度と高い湿度を保てる したこれらの箇,それに取って代わったイギリスやオ ように分厚い白星童,高い天井といった工夫がされてい ランダ。大航海時代がっくりあげたのが酒精強化ワイ る。ポートの場合は,緯度が高く,ロッジはドウロ川 ンといえる。 辺に建てられた石造りの竪 が大西洋にそそぐ河口のJlI 時代の流れによって欽まれ方は変わってきた。最近 屈な建物で,気温と湿度の安定は確保される。その点 はカクテルでも注 gされていて,若い世代があらたに で,内陸のドウロ地域で熟成するワインと条件が異な 興味を持っているワインでもある。長い歴史を生き抜 り,どちらがいいかという論争もある O マデイラの場 いてきたワインはその時々に合わせた飲まれ方も取り 合は総ガラス張りのサンルームのような場合もあるし 入れていく。 狭い屋根裏部屋のような場合もある O 暖かさと湿気が i 5 1った環境で熟成させる。 関連サイト 5 . 長期熟成 •h t t p : / / w w w . s h e r r y . o r g 主通息:3 0年ものは珍しくない。 1 0 0年たってもお •h t t p : / / w w w . s h e r r y j a p a n . c o m いしい。シエリーは酸化熟成タイプが長賎熟成だ。ボ • http://www i . v p . p t l i n d e x . a s p ートはヴィンテージ・ポートやコリェイタで代表され •h t t p : / / w w w . v i n h o m a d e i r a . p t l 8世紀のものま る超長期熟成タイプだ。マデイラは 1 (シエリー委員会 日本代表〉 である。 執筆者紹介(順不同・敬称略) 明 比 淑 子 <Yo s h i k oAKEHI> 昭和 24年 9月 7日生まれ<勤務先とその所在地> 学工学科卒業,平成 3年 3月九州大学大学院農学研究 科博士課程修了(農学博士),平成 3年 4月九州大学 シエリー委員会/株式会社アケヒ,千 1 6 8 0 0 7 3杉並 1月 農学部助手,平成 8年 1 区下高井戸 4 4 1 1 1<略歴>昭和 5 7年マドリッド・コ 品化学研究所在外研究員,平成 1 2王 手 4月九州大学農 ンブルテンセ大学外国人コース修了,平成 1 3年シエ 学研究段助教授,平成 2 3年 4月九州大学農学研究 i 淀 リー原産地呼称統制委員会と対日プロモーション開始, 教授,現在に至る。<抱負>食品成分の多様な機能 平成 1 4年シエリー原産地呼称統制委員会の代表とし (おいしさ,生理作用)を分析化学的に追究していき 平成 9年 9月ドイツ食 h e r r yComて「シエリー委員会日本代表Jに就任, S たい。<趣味>旅行,食べ歩き m i t t e eD e l e g a t e,平成 1 4年「今日はスペイン,パル 竹 村 矧 実 <TomomiTAKEMURA> 気分」を実業之日本社から出版,平成 1 5年「シエリ 昭和 5 9年 7月 5日生まれ<勤務先とその所在地> ー,ポート,マデ、イラの本Jを小学館から出版。<掬 正問醤油株式会社,群馬県鎗林市栄町 3 1<略歴>平 負>シエリーをもっと普通に一般の人たちに飲んで、も 5年東京都立墨田 } I I高等学校卒業,平成 1 9年東京 成1 らえるようにしたい。<趣味>サッカー観戦,音楽鑑賞 1年 農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業,平成 2 松 井 利 郎 <T o s h i r oMATSUI> 東京農業大学大学院修士課程農学研究科醸造学専攻修 <勤務先とその所在地>九州大学大学院農学研究院 了,間年正田醤油株式会社入社。<抱負>タレの開発 1 2 8 5 8 1福 岡 市 東 在 籍 崎 生命機能科学部門,千 8 を通して,多くの方に美味しい幸せを提供していきた 6 1 0 1<略歴>昭和 6 1年 3月九州大学農学部食糧化 い。<趣味>映箇鑑賞 第 1 0 6巻 第 g 号 6 0 5
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