2012 年卒業研究 梶浦孝広

2012 年卒業研究
歯科領域における面積効果に関する検討
A study of the area effect on the dental treatment field
氏名 梶
早稲田大学
人間科学部
Waseda University of Human Science
梶浦孝広
Takahiro Kajiura
本論文の要旨は、日本色彩学会第 43 回全国大会(2012 年 5 月 in 京都大学)において発表した。また、
本研究に関する早稲田大学の評価は、
「 11.付録 」を参照。
目
次
0.歯科の領域 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
0.1 背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
0.1.1 色の基礎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
0.1.2 色測定の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
0.1.3 測色に影響する環境因子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
0.1.3-1 光源の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
0.1.3-2 メタメリズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
0.1.3-3 歯のメタメリズム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
0.1.3-4 演色性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
0.1.4 測色に影響する色の心理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
0.1.4-1 色の感じ方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
0.1.4-2 色覚の個人差 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
0.1.4-3 色彩恒常現象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
0.1.4-4 対比 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
0.1.4-5 面積効果(面積対比) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
0.1.4-6 色の生理的・知覚的性質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
0.1.4-7 色の心理的・感情的効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
0.1.5 機器による測色 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
0.1.5-1 分光測色器 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
0.1.5-2 Photo Shop の CIE Lab (L*a*b*表色系) 色空間による色差 ΔE a*b* ・・・・12
0.1.6 目視による測色(既成の Shade Guide の限界)・・・・・・・・・・・・・・・・・15
0.1.7 歯の色 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
0.1.7-1 構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
0.1.7-2 半透明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
0.1.7-3 屈折率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
0.1.7-4 歯のオパールセンス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
0.2 歯の色に関するコミュニケーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
0.3 面積効果の研究史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
0.4 実験をまえに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
1. 予備実験(被験者の顔貌上における既製の人工歯 1 本:6 本の印象評価) ・・・・・・・・・・21
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
実験の流れ(フローチャート)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
結論と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2.調査 (唇の色)
2.1
2.2
2.3
2.4
2.5
3.
目的
背景
方法
結果
考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
(リップメイクを含めた唇色)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
実験1(被験者の顔貌上における既製の人工歯 1 本:6 本の印象評価/7 人) ・・・・・・・41
3.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
3.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
3.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
3.3.1 SD 法評価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
3.3.2 t 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
3.3.3 因子分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47
3.4 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
3.5 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
ⅰ
2 / 22
4.
実験 A(唇色 3(紙媒体上)における既製の人工歯 6 本の印象評価/8 人)・ ・・・・・・・・54
4.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
4.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
4.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.3.1 SD 法評価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
4.3.2 分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58
4.3.3 因子分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60
4.3.4 リアルとイメージの比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61
4.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
4.5 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
5.
実験B(唇色 3(紙媒体上)における既製の人工歯 6 本の印象評価/32 人) ・・・・・・・・65
5.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
5.2 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
5.3 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
5.3.1 SD 法評価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65
5.3.2 分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70
5.3.3 因子分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71
5.3.4 刺激間の色差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
5.3.5 前回の実験との比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
5.4 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
5.4.1 SD 法評価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
5.4.2 分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
5.4.3 イメージマップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
5.4.4 刺激間の色差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
5.4.5 実験 A との比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
5.5 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
6.
実験 C(肌色 2 ×唇色 2(画像)における既製の人工歯 6 本の画像印象評価) ・・・・・・・・82
6.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
6.2 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
6.2.1 肌・唇の色と顔貌の大きさ 1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
6.2.2 肌・唇の色と顔貌の大きさ 2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・84
6.2.3 人工歯の合成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・90
6.2.4 ディスプレイの色表示の差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91
6.2.5 ディスプレイのキャリブレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
6.2.6 iPad 2 のキャリブレーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94
6.2.7 プリンタのプロファイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98
6.2.8 iPad 2 ディスプレイ上の実際の測色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
6.3 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
6.3.1 性別判断と嗜好・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
6.3.2 イメージプロフィール・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109
6.3.3 印象評価の分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113
6.3.3-1 「下品な-上品な」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
6.3.3-2 「地味な-派手な」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・114
6.3.3-3 「病弱な-健康的な」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
6.3.3-4 「暗い-明るい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
6.3.3-5 「老いたた-若々しい」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116
6.3.3-6 「人工的な-自然な」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
6.3.3-7 「平凡な-個性的な」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121
6.3.3-8 「親しみのある-親しみのない」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122
6.3.3-9 「男性的な-女性的な」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123
6.3.3-10 「安っぽい-高級のある」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
6.3.3-11 「くすんだ-鮮やかな」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・128
6.3.3-12 「醜い-美しい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133
6.3.3-13 「嫌いな-好きな」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133
ⅱ
3 / 22
6.3.4 因子分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136
6.3.5 因子得点の分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 140
6.4 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149
6.4.1 性別判断と嗜好・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149
6.4.2 SD 評価値 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149
6.4.3 3 要因の分散分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150
6.4.4 因子分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・152
6.4.5 因子得点の分散分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153
7.
8.
9.
実験 2(被験者の顔貌上における既製の人工歯 1 本:6 本の印象評価)
・・・・・・・・・・・157
7.1 目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
7.2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
7.3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
7.3.1 t 検定(SD 法評価値) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
7.3.2 イメージプロフィール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161
7.3.3 因子分析(SD 法評価値) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・163
7.3.4 因子得点の分散分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・165
7.3.5 アンケート結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・170
7.3.6 リアルとイメージの比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・174
7.3.7 歯の測色の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・179
7.4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181
7.4.1 t 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181
7.4.2 因子分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181
7.4.3 因子得点の分散分析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・182
7.4.4 アンケート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・183
7.4.5 リアルとイメージの比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・185
総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・186
8.1 提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・189
結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・192
10. 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・193
11. 付録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197
ⅲ
4 / 22
0 歯科の領域
0.1
背景
ヒトは,モノを見た時色を認識できる.これは,モノの表面に当たった光のうちある波長が反射し,
その反射した光が眼球の中に入り刺激を受けた網膜の細胞が脳に情報を伝達してそのモノの色を感じる
のである.したがって,光のない暗闇の中では当然その色は想像ができたとしても実際に知覚し認知す
ることはできない.つまり,色を知覚し認知するには,
「モノを照らす光」
「みつめられるモノ」
「知覚す
る目(認知するには脳)
」の3つの要素が必要となり,これを視覚現象の 3 要素という.
日常我々は,モノに反射した光の色の種類を知り,色の弁別で多くのモノを判断し,利用し,生かし
ている.そして,色の情報は,相手にインパクトを与えるなど双方で情報の交換が行われる.すなわち,
色に関するコミュニケーションは,より豊かな人生を送るためにも重要であり、歯の色も例外ではない.
そこで,本研究では色のコミュニケーションの中からヒトの歯の色に着目し,第 0 章では歯科界の歯
の色に関する現状と問題点を述べ,第 1 章以降ではその問題点の1つである現象の「面積効果」をとり
あげ,歯科領域における面積効果を検討してみる.
なお,歯にはさまざまな固有の特徴がある.また,人工の歯にも天然歯と異なった厄介な特徴がある.
したがって,歯の色に関する研究を論じるには,その特徴を踏まえる必要があるため,
「天然歯」および
「人工歯」についての基礎的知識と歯の特殊な構造,ならびにその特徴から述べることにする.
0.1.1
色の基礎
まず,
「光とは何か」
「モノの色とは何か」そして目で知覚し脳で認知するとは「どんな経路なのか」
について簡単に説明する.
【光】
:光は電磁波の一種で,この電磁波は波長の長さによって呼び方や働きが異なる.電磁波の中で{ヒ
トの目で見えるのは 360nm~830nm という狭い波長の範囲で,このヒトが見ることができる範囲の電磁
波を可視光という.(1p39)}この可視光(線)は各波長特有の色をもっており,波長の長い長波長から中波
長そして短い短波長に分けると長波長の光は赤系,中波長は緑系,短波長は青紫系の色となり,いわゆ
る赤,橙,黄,緑,青,藍,青紫のレインボーカラーとなる.また,色の呼び名を細かく分けると,慣
用色名と呼ばれる 269 種類の「物体色の色」JIS Z 8102 がある(2p99). さらに,太陽光のようにいろ
いろの波長の光がほぼ同じ割合で混合していると無色の光になり,この無色の光を「白色光」という.
【モノの色】
:モノの表面に光があたると,光の一部は吸収され,それ以外の光は反射される.この光の
吸収と反射の度合はモノによって異なり,どのような光がどれくらい反射されるかによってモノの色の
見え方に影響してくる.たとえば,リンゴの色が赤く見えるとき,リンゴは赤身を感じさせる長波長の
光のみを多く反射し,中波長,短波長の光はわずかにしか反射していない.同様に,キュウリが緑に見
えるのは中波長の光のみを多く反射し,桔梗の花の色が紫に見えるのは短波長の光のみを多く反射して
いるからである.また,モノが長波長,中波長,短波長の光を同じ割合で強く反射するとまぶしい白に
見え,同じ割合でわずかしか反射しないと黒に見えることになる.
1 / 198
【色の経路】
:光源からの光がモノの表面に当たり,反
射された光を目の中の網膜像として映し出される.網膜
で受け止めた光の情報は光感細胞の錐体と杆体を刺激
して電気信号に変換する.この信号は次の視神経,視交
叉で視神経を半分クロスさせ視床の一部である外側膝
状体に至る.そして,後頭葉の大脳皮質視覚野(V1)に伝
えられ,視覚前野(V2),(V4)と伝えられ,V4 と高次中
枢で色として認知される(3p16-18).
また,生体外の色の経路には,光源そのものに赤や黄
などの色があるものを光源色,投射した光がモノを通過
した光を透過色,モノの表面から光を反射することによ
図 1. 歯科で使われる色見本である 16 色
の「Shade Guide」.
40 年以上前から使われ続けられている.
って現れる表面色がある.
以上,色彩の基礎として「光」,
「モノの色」
,
「色の経路」について説明した.それでは,次項ではそ
の色の測定について具体的に歯科分野の実例・現象を使いながら述べてみる.
0.1.2
色測定の種類
色をはかるには,
「基準」や「ものさし」のようなものが必要となってくる.この色の測定には,「視
覚利用」
「機器利用」に大別でき,さらに,前者を「視感比較方法」
,
「混合等色方法」に,後者を「分光
測色法」と「刺激値直読方法」に分けられる(4p137-151).
まず,
「視感比較方法」は,既成のカラースケールと試料色とを視感によって直接比較して,カラース
ケールが示す色記号や目盛りを測定値とする方法である.歯科での歯の色見本はシェードガイド(以降
Shade Guide とする)と呼ばれる,15 色~25 色ほどに分類されたそれぞれに記号が表記されている(図
1.参照)
.
次に,
「混合等色方法」は,比色専用の装置を作り利用する方法である.これらの,「視覚利用」につ
いては,光源の種類によるメタメリズム,演色性,さらに各種の対比などの環境条件の影響を考え,規
定し,一貫性を持たせることが重要である.
そして,
「分光測色法」は,現在積極的に用いられている方法で,歯科の分野でも各メーカが販売して
いる.また,
「刺激値直読方法」は,一般的に野外調査のための簡易型色彩計の中にある方法である.
0.1.3
目視測色に影響する環境因子
「視感比較方法」での視覚利用については,光源の種類によるメタメリズムや演色性,対比などの環境
条件の影響を考慮しなければならない.以下,光源の種類,メタメリズム,歯のメタメリズム,演色性
について説明する.
2 / 198
0.1.3-1
光源の種類
光を放出する物体を光源という.光源には多様な色があり「太陽光」の一次光源のほか,二次光源と
しての「蛍光灯の光」や「電灯光」
,さらに,最近の車のヘッドライトに使われる「キセノンランプ」や
「LED」など,10 種類以上の照明光の種類がある.
太陽光であっても昼間の光に比べ朝の光は青っぽく(Purkinje:プルキ二エ現象(1p217,)プルキンエ現
象(5p56 ))見えたり,夕方は赤っぽく見えたりする.そして,電灯光やろうそく光は赤っぽく,一般型
の蛍光灯光は青白っぽく見え,温白色・電球色の蛍光灯光は赤黄っぽく見えたりするのが光色である.
近年では,省エネの観点から電灯から蛍光灯そして、最近では LED への変換が積極的で,多種多様の
LED が市場に出まわっている.
0.1.3-2
100
メタメリズム
A
光源の変化によってモノの色が変化して見える現象のこ
とをメタメリズム(条件等色)という.例えば,夫婦で礼
服を買ったとしよう.自宅のリビングでは,同じ色に見え
反
ている 2 着の礼服が,寝室にあるクローゼットの前では違
射 50
った色に見える.そして,結婚式で 2 人一緒に並ぶとまっ
率
たく違った黒色に見えるといった現象が起きることがある.
%
B
2 着の衣類は,リビングで比較したときの照明光ではまっ
たく同じ色に見えたとしても、それぞれの礼服の素材の違
いから分光反射率の分布が違っていると他種の照明光では
0
0.4
い換えれば,分光反射率が違っていても,照明光によって
は同じ色に見える色があるということである.
これとは逆に,1 枚の色紙を 2 つに切ったものは,どの
ような光源で色比較をしても色の違いは生じない.これは,
2 つに切った色紙はもともと同じ色紙であり,まったく同じ
の分光反射率の分布を備えているからである.
(このような
0.6
0.7
波長(μ)
違って見えるのである.これは,ヒトの眼は分光反射率を
個々に分析して見ることはできないということである.言
0.5
図 2.メタリズム(6p234 より改変引用)
分光比エネルギー分布の均等な光源で見
た場合、同じ中性グレーに見えるが、光源
光が変わると違った色に見える 2 つの異な
った分光反射率曲線をもつ A と B のグレ
ー.
A の曲線はある中性のグレーの分光反射
曲線で、大きな起伏があり有彩色のように
見えるが、反射率の高い青緑と赤が補色の
関係で、打ち消し合って無彩色のグレーと
して見える.
ものをアイソメトリズム(7p69)という)
図 2.の A の曲線は無彩色(無彩色とは,白,灰色,黒のような色相をもたない色(8p25))の分光反射
率曲線で青紫系と赤系で高く,紫系と緑系で低く,明らかに波長的に大きな吸収作用を持っている.
図 2.の B は,短波長から長波長まで波長的に平坦で平均した反射率をもった中性のグレーである.
A は一見,有彩色(色みのある色)のような曲線に感じられるが,これは自然光で見た場合凸起のあ
る青緑系と赤系の色光が補色どうしの光として打ち消し合い,無彩色の中性グレーに見えてしまう.こ
れは,現実的な色の曲線であり,B のようなフラットな分布はめったにない.
ここで,A,B の両色を電灯光で見ると A は B よりも赤っぽく見えてしまい,同じグレーには見えな
い.これは電灯光には赤色系の光に比べ青色系の光はあまり含まれていないからである.
逆に,青紫系の強い青空光では,A は B よりも青っぽく見えることになる.
3 / 198
この,無彩色はほんの一例で,実際我々の生活環境での有彩色によるメタメリズムは数えきれないほ
ど発生する.
0.1.3-3
歯のメタリズム
セラミック製の人工歯の色は,セラミックに含有された金属酸化物の顔料によって得られる.一般的
に青色=Co-Al,赤=Mn-AL,黄色=V-Sn,茶色=Fe-Cr,灰色=Sn-Ni,系酸化物などの混合によって
内部で反射,屈折を繰り返し,表面に戻ってきた光(9p20-21)を色として知覚し認知するのである.しか
し,天然歯の場合はもちろん金属酸化物は存在しない.天然歯の場合は,一部の光は鏡面反射し光沢と
なりその他は,歯髄,象牙質,エナメル質のもつ単一もしくは複合した層に屈折しながら進入し,その
進入した光の一部が象牙質,エナメル質のなかで拡散反射を繰り返ながら表面に戻ってくる.また,一
部の進入した光は表面に戻ることなく途中で吸収されてしまう
ものと歯の裏側まで透過してしまう光もある.
よって,当然人工歯と天然歯とでは構造が大きく異なるため,
分光スペクトル分布も異なり,診療室で合っていた人工の歯の
色も光源の光によって色は変わって見える.すなわち,メタメ
リズムが発生することになる.
また,歯は半透明の透過性がある(図 3.参照)モノなので,
先に挙げた衣類などのような透過性のないモノとはまったく異
なり,水のような空間色と空の散乱効果の要素までも含む.
ここまでに,光の種類とモノの分光反射率の分布状態によっ
てメタメリズムが生じることに触れたが,この光の種類とは具
図 3.天然歯のもつ半透明に包まれた色。
写真は対比による色の測定。
この色見本の Shade Guide も構造が
まったく異なるため、ここにもメタメリ
ズムが発生する.
体的になんだろうか.
0.1.3-4
演色性
前項のように,照明光によるモノの色の見え方を演色といい,それを光源の性質と考え,自然の光と
比較して考えたその性質を演色性という(1p51,4p87-89).そして,その演色性は 100 を満点とする平均演
色評価数 Ra を求めて表示される.
一般の蛍光灯は,比視感度の高い所に分光エネルギーを集める傾向にあるため,赤色や青色の発光が
少ない.赤いリンゴなどはくすんで見え,青い色紙も同じよう
に忠実に再現されない.
したがって,モノの色を正確に忠実に見るためには,高演色
形蛍光灯が必要となる.この高演色形蛍光灯には AA と AAA が
あり AAA の方が演色性は高いが全光束は低くなる(1p51).
近年では,3 波長の平均演色評価数 Ra84 前後で色温度 6700K
といった照明光があり,高演色形なみの平均演色評価数と高効
率形のランプ効率を両立させることができたと言われている.
3 波長の平均演色評価数 Ra84 で色温度 6700K の照明光は、
従来の一般的な蛍光灯よりは向上しているが,この Ra84 では,
4 / 198
図 4.筆者のラボの色比較用照明光:
National
FL 40S-N-EDL-
AAA.
美術館等で使われている図 4.の AAA,Ra99 には数値上でも実際の臨床上でも演色性は敵わない.なぜ
なら,一般的に 3 波長タイプは凹凸の激しい分光分布であり,計測値を平均化した評価数(平均演色評
価数 Ra)では,凸凹の激しい分光分布の「スポット・ピーク値」は埋もれてしまうのである.本来なら
ば,この隠れた部分を知るために,可視条件等色指数 MIvis(10p82~101 )を考える必要があり,色比較の
作業等の照明光は平均演色評価数のみで判断するのは危険で,本当の再現性の優れた照明光を選択する
べきである(10 p82~101 )と考えられる(図 4.参照)
最近では,
LED 照明が普及しつつあり,
例えば,
東芝製の LED AL-LED-ML-NM は,
相関色温度 5000K,
平均演色評価数 Ra92 以上とされている(4p82-83).一般的に,LED 照明は青色 LED と黄色蛍光体を組み
合わせた方式が主流である.しかし,この方式では長波長の発光の成分が少ないため,赤色の見え方が
劣るといった問題がある.そして,赤色蛍光体を追加した LED も出現しているようだ(11).ただし,青
色 LED は,その構造上,分光分布 470 nm 付近で強いピークの凸起があることは否めない.
0.1.4.
目視測色に影響する色の生理・心理
0.1.4-1
色の感じ方
ヒトによく似たサルを使い,生後 1 年間単色光の環境下で育てたあと,通常の環境に戻して色を学習さ
せても他のサルと同じように色を認識することはできなかったとう実験(4P33)があり,このことは,生
後の早い段階で色を認識できる能力は形成されることが示される.しかしながら,ワインソムリエのよ
うに,成人後に感覚(味覚,臭覚など)を鍛えることによって研ぎ澄まされる感覚の領域があるのと同
じように,視覚領域においても通常の状態からさらに卓越した色彩感覚を育むことができると考えられ
る.それは画家や歯科医師そして歯科技工士などのいわゆる色に携わるプロ達をみれば納得できるであ
ろう.
さらに,ヒトには色を感じる順番やそれぞれ「好ましさ」もある.前者の順番は,赤→白と黒→緑→
茶→青→サックスとシルバー→ゴールド→鼠色→スカイブルー→紫→ピンク→灰色の順だといわれる.
一方,色の違いがわかる順番,すなわち,色相,明度,彩度のうち,どれを変調させることに一番変
化を感じるのかを考えた場合,色相→明度→彩度の順となる(4P72~74)のである.言い換えれば,ヒトは
カラーの画像を見た時,色相→明度→彩度の順で認知しているとも考えられる.
後者の好ましさについては,ヒトの住んでいる場所といった環境や文化が好ましさの基準に影響を与
えているということが国際比較で分かったとしている(4p34).また,好ましさの要因として齋藤(1997)
(4p36)
は,3 層構造の中で考える方法を提唱している.それは,中核:不偏的なモノに影響を受けている
部分.中核の外周:そのヒト固有のパーソナリティーや経験などからくるもの.さらに外層:個体の行
動を制約するような社会的な要因.としている.
0.1.4-2
色覚の個人差
同じモノの色が,見る人によって違って見える現象は,色覚異常者と健常者の関係だからではない.
例えば,ドールトンの 3 人の家族が,2:1(息子 2 人:母親)の割合で色に対しての感覚が異なり,少
数派の母親の色の感じ方が例外扱いではなく,
息子 2 人の方が色覚異常であったという有名な話がある(1
5 / 198
2P33)
.しかし,このように色覚異常者以外の健常者間でも,色の見え方には個人差があり,中川,丸山
(13 )
(1975)
らによれば,3 人の歯科医師が測色をした場合,3 人とも異なった色を選択したのは 34.3%
である.と報告されている.
(表1.参照)
表 1.中川ら,
(1975)『天然歯の色の分析』
,歯界展望,第 16 巻 4 号より改変引用(13).
補綴歯
隣在天然歯
計
3者一致
18歯(14.0%)
10歯(14.3%)
28歯(14.2%)
2者一致
72歯(59.3%)
30歯(42.9%)
102歯(51.5%)
3者不一致
38歯(26.7%)
30歯(42.9%)
68歯(34.3%)
計
128歯(100%)
70歯(100%)
198歯(100%)
つまり,3 名の歯科医師が色見本(図 1.
「Shade Guide」
)を用いて補綴歯や隣在する天然歯の色調
(Shade)選択を行った場合,3 人のうち 2 人の歯科医師が同一のシェードガイド Shade Guide を選択
し,他の 1 人が異なったシェードガイドを選んだ割合が 51.5%であった.すなわち,3 人が一致しない
割合は,85.8%ということであり,図 1.の 16 色のシェードガイドからの色の選択の場合において,毎
日歯の色を見ている歯の専門である歯科医師であったとしても,選択するシェードガイドはばらばらで,
色の感じ方に大きな差があり,微妙な色のニュアンスの選択が曖昧なものであることが理解できる.
0.1.4-3
色彩恒常現象
モノの色は,光源の種類によって異なった色に認識されるが,同じ光源下にあるモノは主観的にはあ
まり異なっては見えないことを色彩恒常現象という.色順応(色のついた光をしばらくの間見続けると,
次第に色みが薄れていく,すなわち彩度が低下する)とよく似ているようではあるが,それだけではな
く,他の色の見え方も変化してくる.例えば,ある色に順応すると今まで白に見えていたものが白色で
なくなるといった,順応色の補色の色相に見えてくる(12P189)のである.色順応は生理的なもので,色
彩恒常現象は心理的なものである.
メタメリズムの項で触れたように,光源によって(分光分布が変われば)モノの見え方が異なるので
ある.しかし,これは両者を比較したときにはじめて明らかになることであって,見慣れているモノに
おいては通常,意識の度合いが低いため光源によって色が変わったとは気づかないのが普通である.日
頃見慣れた色に近い色に見えることは,同じものは常に同じモノに見えた方が我々ヒトにとっては都合
がよく,安定した行動や判断といった生活を送るには欠かせない現象である.
0.1.4-4
対比
唇
ヒトの色覚というものは,不思
歯肉
議なもので,先の色彩恒常性現象
とは逆に,モノの色はその物体が
置かれている背景の明度や色相と
の対比によって著しく異なって見
えるのである.この対比には,同
図 5.明暗対比、色対比から生じる色の変化。
左側:口腔外での状態(技工室)
.
右側:口腔内を摸造した状態(患者に装着)
.
6 / 198
口腔内の暗さ
時に 2 つ以上のモノを見るときに生じる同時対比と,あるモノを見てから他のモノの色を見た場合に生
じる継時対比,さらに面積の大きさの違うモノの色を見た時に生じる面積対比とが挙げられる.
同時対比として,あの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチ(本名:Leonardo di ser Piero da Vinci)は,
「白いモノはより黒い背景の前であればあるほど白く見えるだろうし,より白い背景にあればあるほど
黒く見えるだろう」と記述しており,他方の継時対比は,残像現象と密接な関係があるようだ.
残像とは,あるモノをじっと見た後に,白い無地に眼を転じると,先ほどのモノの色と同色(正残像)
あるいは補色(負残像または補足残像(3p25))の像が見えてくる.
(14)
近藤(1969)
は,残像実験で 5 秒の凝視であっても,その残像は 15~20 秒もの期間現れるとして
いる.
歯科診療室において,例えば,壁やチェアーがビビットカ
ラ―である場合や,歯科医師や歯科衛生士の白衣ならびに,
患者の衣類と患者に掛けられたエプロンが時代の流れから
派手な色でる場合さらに,オペ着のように原色の緑色や青色
といったように,視覚刺激の強い色環境が同じ空間にある場
合における「色見作業」
(測色)には残像の視点からも注意
が必要である.
また,図 5.のように口腔外での状態(技工室)と口腔内
の状態(患者に装着)では,色空間環境は全く異なり,同じ
黄色の円であっても,条件下では,まったく異なって見える.
このことは色環境の重要性を示す良い例であると言える.こ
うした,色環境の問題点を少しでも回避するために図 6.の
ような歯肉色のホルダーが開発され,かなり改善された.
0.1.4-5
図 6.図 5 の歯肉の影響を考慮した色環
境を再現するための「歯肉色付き」Shade
Guide.図 1.と比較すると、その差は
あり、その多くは境界部(歯と歯肉)で
の歯肉色の歯への写り込み(色の浸透)
とも考えられる.
面積効果(面積対比)
ヒトの目には,物の面積の大きさによって同
じ色であっても違った色に見えることがある.
例えば,壁のクロスやカーテンを撰ぶ時の選
考方法として,よく色・柄見本を利用する.印
刷や Web カタログ等の印刷物の色見本は,印刷
条件やインクもしくはディスプレイの発色の状
態が,色の再現性を大きく左右してしまい,信
頼性が低いという理由で現在ではあまり利用さ
れない.そこで実物のクロスやカーテン地を手
のひらサイズに切り取られた実物カット見本を
利用する方法が,信頼性の点からも一般的になっ
図 7.面積効果(対比).面積が大きいモノは明るく
鮮やかに、小さいモノは暗く濁って見える.
ている.
しかし,このカット見本の色具合をよく見て商品を決定したにもかかわらず,実際に選んだクロスを
張ったり,カーテンを取り付けたりしてみると,見本とは違った色合いに感じてしまい “ あれ!こんな
7 / 198
色だった?” ということがよくある.
また,車の外装色すなわち,ボディーカラー選びでも同様に起こる.
(ただし,パールマイカー系およ
びメタリック系選びの“あれ!こっちから見るのと,あっちから見るのとでこんなに色違うの”の場合は,
塗料に混入されているアルミ粉等によるいわば“拡散のいたずら“といった,異種の変角光度分布を持ち合
わせていることによる,別の種類の2次的要因がさらに作用している(7p75)).
それでは何故,“同じであるはずの色が違って見える”のだろうか?
以下にその原因を色の生理的・知覚的性質と色の心理的・感情的効果とに分けて,それぞれの観点で
考察してみる.
0.1.4-6 色の生理的・知覚的性質
ヒトの目には,
A) 色を感じる網膜中で,中央部は赤と緑が識別でき,それより外側では赤が感覚から消え,黄色と青の
系統しかとらえられなくなる.さらに,それより外側では明るさの違いがわからなくなる.
B) 同じ分光分布の物を同一光源下で同じ人が見ても,その面積が変わると色の見え方や印象は変化する.
といった特性がる(7p22).そして,B)にはさらに
a)色が視野の大部分を占める場合.
b)微小面積の場合
c)対象物が視角数度~数十度の場合(7p22-23)
と分けることができ,これらの生理的ともいえよう知覚的性質が単独または複合されて,“同じである
はずの色が違って見える”現象が起きると考えられる.
なかでも,現在までの専門家の間では,c)の働きで「面積の大きさによって同じ色であっても違った色
に見える現象が起きる.
」と言われている(7p23).なお,我々の歯科業界では c)のことを面積対比とも呼
んでいる(16,p248).
(図 7.参照)
まず,この c)の“対象物が視角数度~数十度の場合”とは何であるかを説明してみる.
視角が数度から数十度の範囲における,色の見えや印象の変化のことを狭義の面積効果(1)といい,以
前は,見ている物の“面積が大きなものは明るくあざやかに見え,逆に小さいものは暗く濁って見える”
(図 7.参照)さらに,同じ面積であっても明るくあざやかな色はより大きく見え,暗く濁った色はより
小さく見える現象も起こる(17p393).といわれていた.そして,近年ではさらに具体化され“面積が大き
くなる場合,対象色が高明度で低彩度であれば彩度はあまり変化せずに主として明度が上昇して見え,
対象色が中明度であれば,明度はあまり変わらず彩度が高くなって見える傾向があることなどが報告さ
れ(7p23),この現象を対象物が視角数度~数十度の場合における,色の生理的・知覚的性質による面積効
果現象という.
こうした現象からも色見本の大きさについて松田は,慎重を期すには 10cm 四方以上の大きさの色見
本が望ましいとし(15p92),一方,アメリカの ASTM 規格では通常の色見本は 10cm×12cm,そして,厳
密な場合の色見本は 16cm×26cm を推奨している(18p155).
しかし,やはり実物大に勝るものはなく,可能であるなら原寸大に極力近いものを用意し,クロスや
カーテンであれば設置・施工する現場で実際に試すことを薦める.
(最近では,カーテン地はショップか
ら 200cm×100cm のフック付き見本を 1 週間ほど貸出可能なところがある.また,クロスはメーカより
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A4 サイズの切見本をインターネットにて無料注文が可能である.)一方,車に関しては現行モデルの場
合は街中の目的車と同色・同型車をチェックし,未販売車の場合は販売開始まで待つか,同色の類似形
の車のチェックをするといった方法を採用した方が,色に関するリスクは最小限に止めることができる
と考える.
ただし,色の見え方には,今まで述べた,光源(演色性・プルキ二エ現象(1p217 )プルキンエ現象(5p56 )),
周辺の色(対比・同化)
,色順応等が影響して,色の見え方が大きく左右される現象があることを忘れて
はいけない.
0.1.4-7
色の心理的・感情的効果
それでは,同じ色であっても違った色に見えるのは,面積効果の現象だけが原因なのであろうか.
前項では,基本的には色覚の仕組みによってもたらされる現象であったが,ここでは,色覚の仕組み
を基礎としながらも,より高次の中枢のはたらきや経験が加味される現象によって面積効果に影響を及
ぼすと思われる記憶のなかの色について述べる.
記憶のなかの色とは,
“記憶色(15p92)“や“色の記憶(3p49)“とは若干異なり,より感情的性質が含ま
れたもので,ヒトの色彩の記憶保持の過程では,強調の原理に従う可能性が高いということと,ヒトは
実際の色よりも明るくあざやかに再現された方が,より好ましく感じられる傾向がある.例えば,食料
品として販売されている「たらこ」は自然の状態より赤くしてあり,より赤い色をしている方がおいし
そうに見える(18p157-158)といったことである.
それでは,これらのことが,先ほどのカーテン,クロス,車の「色選び」のケースの場合ではどのよ
うに関連するのだろう.
一つは,色選びの段階で,その時に使用した色見本の色が,一種の既知の色として脳の記憶の中にイ
ンプットされ保存される.一般的に記憶として保存された色は記憶保存中に変容し,その度合いは個人
差があるものの強調の原理に従い,彩度はより高く,また中明度の色は高明度になる(18p158).したがっ
て,この時点でもうすでに基準とする色はシフトしていることになる.
他方は,色選びという行動,いや機会は,人間の3大欲望の 1 つである物欲を獲得する機会であり,
満足感や達成感への期待の心理的興奮がある.さらに,個性(色の好み)を反映(色の選択)できると
いった自己主張の充実といった興奮的心理状態でもあると言え,これらの建設的感情から,
“よりきれい
に”や“よりおしゃれに”などと意識し,より明るく,よりあざやかな色への期待感を持ち,前述の“基
準色とする色のシフト“以外でも,さらに求める色はシフトし進化していると考えられる.
したがって,色選び後の希望商品との初対面時には,色に対して心理的・感情的効果が複雑に絡み合
う,すなわち記憶を司る海馬の神経細胞の活動によるパルスと前頭葉内の期待,ならびに,想像を司る
神経細胞の興奮刺激によるパルスの両者が,軸索を経てスナプスによる接続で興奮性の電位変化が起き,
活動電位が回想巡りで増強される.そして,希望商品の色を見る段階では,その増強によって求める色
が,進化した期待色”color“になっており,
”色選び“をした時点の色合いと異なった色に見えると考え
られる.したがって、
「記憶のなかの色が無意識に変容しただけで,見本色と商品色は変わってないこと
に気付いてない」だけである.
以上の考えから,狭義の面積効果現象とは,高明度で低彩度の対象物が大きくなると,彩度はあまり変
化せずに主として明度が上昇して明るく見え,中明度の対象物が大きくなると,明度はあまり変わらず
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彩度が高くなってあざやかに見える傾向がある(7p23 )といった視角が,数度~数十度の場合における現
象ではあるが,色選びに使用する色見本とそれより大きな実物の商品との色の見え方の差は,単なる面
積効果現象だけではなく,心理的な “さらにきれいな色であってほしい“といった,記憶のなかの色の
特性である記憶保存中の強調の原理や期待感によって創られて進化した色の存在である「色の心理的・
感情的効果」であり,記憶のなかの色などの現象との相乗作用で起こったとものだと考えられる.
ただし,他の現象(色覚の両眼差)や別の心理的作用などの影響の可能性もあるだろう.また,それ
ぞれの現象や特性には個人差があり,総合的にどういったカタチで出現するかは千差万別である.
こうした現象は,歯科臨床でも適応し,ベースとなる歯科臨床で行われる『1 本の Shade Guide を用
いて,多数歯に及ぶ色の決定をする』ことは,適正そして妥当性があるといえるのであろうか.
0.1.5
機器による測色
測色装置には,汎用の測色装置,光沢測定装置,透明さの測定装置,テクスチャー測定装置,変角測
定装置および多角測定装置などがある.
一般的に歯科界での測色機器を利用して行う方法には「分光測色法」,
「刺激値直読方法」に分けられ,
さらに簡易型の応用編として Photoshop による ΔE *ab がある.
以下では,歯科用分光測色器とデジタル撮影した画像を Photoshop で色差測定する方法を述べる.
0.1.5-1
分光測色器
現在,多く用いられて測色装置は,JIS で定める第 2 種分
光測光器であるポリクロメ―タを用いたもので,精密さと再
現性には優れているが,波長精度,有効波長幅,測光尺度の
正確さを求めるときには,蛍光を発しない試料を用い高精度
の自記分光光度計に反射測定装置(積分球など)を付けた装
置で測定する必要がある(4P137~P151 ),とされている.また,
汎用の測色装置は,試料の層内からの反射もしくは,透過光
は受光する方向に関係なくほぼ均一に分布し,表面からの表
面反射光あるいは,正透過光はその方向に集中していること
を前提として設計されている(4P138 ).
図 8.Shade Eye NCC:ハンディータイ
プの色測器.出典:メ-カ-商品カタログより
★Shade Eye NCC:
測色結果を XYZ および L*a*b*で表示可能である.各種シェードガイドの No.(NCC,Classical,
3D-Master,Chromascop,Biodent)で表示も可能で,測色モードには,
「天然歯モード」と「ポーセレ
ンモード(メタルセラミックスクラウン)
」がある.(オールセラミックスや硬質レジン等は測定不可)
【仕様】
照明受光光学系:歯科用特殊照明垂直光方式.
受光素子:3 素子式複合型シリコンフォトセル(2 個)
.
10 / 198
照明光源:パルスキセノンランプ.
機器間誤差:Shade,Value,Hue:各基準値±1ステップ.
(図 8.参照.メーカー・カタログより転写引用)
★Crystaleye(OLYMPUS CE100-DC/JP)
:
シェードテイキングの撮影環境統一化,ならびに,遮光下においての標準補正された 7band LED 光源
による撮影環境の統一としている.
【仕様】
光源:LED.
光学系:45 度入射の拡散反射式.
撮影照度:400~2000(Ix)
【特徴】
これまで患者の歯牙の色判定をする場合,シェードガイドを使って目視にて行っていたため,微妙な
色判定に時間がかかっていた.また,補綴物製作のための技工指示書に記載しきれない色情報もあり,
歯科医院と技工所間では正確な色情報伝達が容易ではない.ともされてきた.
Crystaleye は 7 バンド LED 光源を用いたスペクトル推定方式を採用し,
マルチバンドのスペクトルで
の測色を可能にした高精度な測色を実現できたとしている.また,一般的な 3 バンド(RGB)方式を超
える色差認識能力によって微妙な色判定へのサポートが可能となり,付属解析ソフトでその色調情報を
表示できるとしている.
患者の歯牙の色調情報と製作した補綴物の色調情報を並べ合わせ,その色差を ΔE*ab の数値で表すこ
とも可能で,概ね ΔE*ab が 3.0 以内であれば臨床上口腔内での違和感は無いといわれていることから,
出荷の際の品質管理チェックにも利用できるであろう.
【測色器の現状と課題】Shade Eye NCC:価格は 40 万前後で,比較的購入可能な価格である.しかし,
Crystaleye と比べると機能面で劣り,①天然歯を色測し色情報を得て,②その情報を手がかりに作製し,
③最後に色測チェックといった工程であって,患者へのプレゼンテーションやアクションには使えない.
Crystaleye:価格が 80 万円前後で,Shade Eye NCC の 2 倍の価格である.その分,機能面は充実し
ており,患者へのプレゼンテーションやアクションにも利用できる.しかし,画像の解像度が優れてい
るとは言えず,1 万円以下のデジタルカメラの画像精度より品質は劣る程度である.
歯科用の測色器のほとんどは,環境には影響されないように外部環境とは遮断されたマスキングキャ
ップのような構造を有しているが,測定の仕方(角度・条件)で値は変わり万能ではない.
また,歯科臨床の現場で,色差の測定が「製作過程」自体に,にどれだけ有効かは色々な見解がある.
さらに,背景色,歯の素材(天然/金属裏装セラミック)によっても測定値は変動し,測定できない材質
(保険適応の硬質レジン,金属裏装の無いオールセラミックス)も存在する.
また,シミュレーションの画像は,あくまでも「おおよそ」であって,マクロレンズを使用したデジ
タル一眼レフカメラでマクロ撮影した画像を,Photoshop などのソフトで色加工した方が手間はかかる
ものの色調は確実に綺麗である.
2011 年 12 月現在においては,両測色器はメーカからの販売は中止である.臨床での両測色器の信頼
性と妥当性の問題なのかは定かではないが,発売中止からも臨床上の必要性が高いとは考えにくい.
11 / 198
0.1.5-2
Photoshop の CIE Lab (L*a*b* 表色系) 色空間による色差 ΔE*ab
モノの色がどんな色であるかを絶対値の番号を決め提示することも重要であるが,試料(製作した歯)
が目標の色とあっているのか,違っている場合はどのくらい「ズレ」ているのかも重要である.
デジタルカメラやスキャナーなどのカタログには「RGB」という文字をよく見る.RGB 色空間上の
CIE の RGB 等色関数グラフでは,R(445~525nm 近辺)に負の刺激があり,これを補うために理想的
原色の X,Y,G が設定されたのが XYZ 表色系(Y で明るさを表し,X と Z で色度のみを表す)である.
しかし,XYZ は光の量に対して比例しており,一方の人間の知覚量は非線形である.
人間の感じる色差が空間上との距離とほぼ対応する色空間を均等色空間といい,1976 年に CIE が採用
した L*a*b* 空間があり(7p32~34 ),L* =明度,a* =赤方向,b* =黄方向に対応する(1P50 ).
以下,Photoshop の L*a*b* 空間による,色差 ΔE*ab について説明する.
【環境設定】≪Lab カラー≫への変更機能をするため,Adobe Photoshop5.0 以降のバージョンが必要で
ある.
Adobe Photoshop Elements では,十分な機能が備わ
っていないため,≪Lab カラー≫の変更ができないので
注意が必要である.そこで,今回は,Adobe Photoshop
CS Windows 版を使用した.
まず,撮影した画像を L*a*b* 色空間で作業するため
に≪Lab カラー≫を選択する(図 9 参照)
.Lab カラー
を選択する理由は,RGB で作業をすると a*b* の値が
変化してしまうからである.
次に,図 10. のように,チャンネル a とb 共に情報
タブの数値が≪00≫になるようにトーンカーブ右上を
図 9.【イメージ】→【モード】→【Lab カラ
ー】の順番で選択し、作業する画像は Lab カ
ラーに変更する.
移動させて a・b それぞれの入力・出力の数値を記録す
る.この作業は,複数枚の画像の間で,明暗がある場合,
すなわち,TTL 自働調光システムで撮影した場合,撮影
のアングルの違いや撮影範囲内の被写体の持つ反射率の
差の占める割合と分布によって,適正露出の値によるフ
ラッシュの発光量が異なり,撮影された画像に明暗の差
が生じてしまうのである(19).
なぜなら,通常のカメラの露出計算は,反射率約 18%
のモノを基準として計算されるため,研磨された金属な
どが被写体の場合,鏡面の金属表面は反射率が著しく高
いので,カメラ側は十分な光量だと勘違いし,結果,画像
は暗い写真になってしまう.スキー場のゲレンデで写した
写真の多くは,眩しいぐらいの雪の白さがグレーに写って
しまうのもこれと同じ現象といえる.
12 / 198
図 10. 【イメージ】→【色調補正】→【トー
ンカーブ】→【チャンネル a 】&【チャンネ
ルb 】共に情報タブの数値が 00 になるよう
にトーンカーブ右上を移動させて a・b それぞ
れの入力・出力の数値を記録しておく.
【測色】Photoshop 画面左側にあるツールから,ス
ポイドツールを選択し,目的とする部分(赤丸)の測
色を,L*a*b* 空間にて測定する(赤枠)
.
図 11.の赤枠内 L:,a:,b:の各値は,
L*=77
a*=6
b*=24
であった.
次に,近似として選ばれた 3 種類の Shade Guide
の(今回は,A3,A2,B2)中から,スポイドツール
を移動し,先ほどの L*=77,a*=6,b*=24 の値に
極力近い個所を探す.
(図 12.参照)
A2 の Shade Guide の歯肉寄り1/3付近(緑丸)の
値は,
L*=77
a*=7
図 11. スポイドツール
を使い、色測部分の
L*a*b*を測定する.
b*=24
であった.
結果,口腔内の天然歯の歯肉寄り1/3付近は,A2
の Shade Guide とほぼ同じ色であることが判明した
ことになり,この作業を繰り返すことによって,目的
とする色測をし,色調の分布の構造が得ることも可能
である.
【測色の課題】
:歯科臨床の現場で,測色をし,Shade
Guide との色差が有る・無いといった情報があって
も,製作する人工歯にはさまざまな厚みがあり,透過
性のある材料で構成される以上,確保される厚みによ
って同じ A2 であっても ΔE*ab 値は2以上変動するの
図 12. スポイドツールを
使 い 、 Shade Guide の
L*a*b*を測定する.
が現状である.
ここで,各メーカの Shade Guide を比較したところ下
記のようになった.
SHOFU 社の各 Shade Guide 間の(L*/a*/b*)値は順に,
B1,
A1,
A2,
A3,
A4
(76/3/16)-(79/4/19)-(76/5/22)-(73/8/26)-(64/11/33)
色差である ΔE*ab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*2)1/2
の式で計算すると,各 Shade Guide 間の色差は,
B1 ⇔ A1 ⇔ A2 ⇔ A3 ⇔ A4
4.4
4.4
5.8
図 13.
11.8
13 / 198
SHOFU 社の Shade Guide.
VITA 社の各 Shade Guide 間の(L*/a*/b*)値は順に,
B1,
A1,
A2,
A3,
A4
(62/2/11)-(66/3/16)-(63/5/22)-(60/6/24)-(52/10/27)
色差である ΔE*ab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*2)1/2
の式で計算すると,各 Shade Guide 間の色差は,
B1 ⇔ A1 ⇔ A2 ⇔ A3 ⇔ A4
6.5
7.0
3.7
9.4
(図 14.参照)
図 14.
VITA 社の Shade Guide.
図 15.
Noritake 社の Shade Guide.
Noritake の各 Shade Guide 間の(L*/a*/b*)値は順に,
B1,
A1,
A2,
A3,
A4
(61/2/12)-(65/4/16)-(63/5/21)-(61/6/22)-(51/9/26)
色差である ΔE*ab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*2)1/2
の式で計算すると,各 Shade Guide 間の色差は
B1 ⇔ A1 ⇔ A2 ⇔ A3 ⇔ A4
6.0
5.9
2.4
11.2
(図 15.参照)
以上のように,各社間における Shade Guide による
シェードガイド間の色の差:ΔE*
B1,A1,A2,A3,A4 間の色差はメーカによってバ
ラバラであった.
(20 )
一方,吉田(2009)
は,Crystaleye(OLYMPUS
CE100-DC/JP)による Shade Guide の色差は図 16.
のように
B1
B1 ⇔ A1 ⇔ A2 ⇔ A3 ⇔ A4
1.9
5.5
2.8
A1
A2
V
ΔE:
7.7
としている.
1.9
V
5.5
A3
A4
V
V
2.8
7.7
図 16. Crystaleye による Shade Guide 間の色
差:ΔEab .吉田(2009)(20 )より引用.(ΔE: マ
マ)
撮影した Shade Guide は VITA と思われる.図
15.と比べ、この差はなんだろうか.
ここまでに取り上げた Shade Guide の色差の全てを
表にまとめると,表2となる.
このデータから,各メーカ間の Shade Guide には色
差の一貫性はなく,大まかな傾向は存在する
表 2. 各社の Shade Guide の色差の一覧.
ものの,あまり高精度とは考えにくい.した
がって,高精度の互換性はないと認識した方
がよさそうである.
先に述べたとおり,一般的に歯科界での
測色機器を利用して行う方法には「分光測色
法」
,
「刺激値直読方法」に分けられる.日本
歯科色彩学会(1999)の中で,片山,天野
B1⇔A1
A1⇔A2
A2⇔A3
A3⇔A4
SHOFU
4.4
4.4
5.8
11.8
VITA
6.5
7
3.7
9.4
N oritake
6
5.9
2.4
11.2
Cry stale
ye
1.9
5.5
2.8
7.7
14 / 198
(1999)は「刺激値直読方法」では,相対的に明度と彩度は低く出る傾向があり,色相は分光光度計で
は+a*値を示し,刺激値直読方法では-a*を示すことが多としている.Clark は,6000 本の歯を調査し
た結果黄緑系は 1.1%で,黄赤系は 4.4%であることから,分光光度計の方が正しい値に近いとしている.
また,日本歯科色彩学会(1999)の中で,片山(1999)は「出てくる値はその測色計による値であっ
て,そこに出る値が本当の歯の色であるかのような錯覚をくれぐれも起こさないように注意すべきであ
る(21P36 )」としている.そして、この見解は大変興味深く,歯の色は shade であることが理解できる.
0.1.6
目視による測色 ( 既製の Shade Guide の限界)
前項より,同じメーカの Shade Guide を使用する(診療室とラボ)ことは,測色の最低条件であり,ここ
で検討しなければならないのは,従来法による,目視による測色である.
色を見定めること,すなわち「測色」には,高演色性の照明光もしくは晴天時の AM11~PM2:00 時頃
の北窓の天空光(22
p30)を利用し,モノの分光反射率のいたずらを回避することが重要である.
(但し,
特殊性のあるケースの場合,例えば歯やモノを常時電灯光やナトリウムランプ等の特殊な照明光下で常
時扱うのであれば,その歯やモノを常時見る照明光で判断・評価する方が結果はよい.)
ここまでで述べたように,目視による測色には,
1.利用する光源は,晴天時の AM11~PM2:00 時頃の北窓の天空光.もしくは,高演色性の照明下.
2.メタメリズム
3.色の感じ方と色覚の個人差
4.色彩恒常現象
5.対比
6.面積効果(面積対比)
などを十分配慮しなければならない.
さらに,常に平常心で測色に挑むことも重要であるといえる.
歯の色域に関しては,1140 本の上顎前歯(天然歯)を視感比色した結果,マンセル表色系で明度:6.0
~8.0,彩度:1.0~4.0,色相:8.75YR~2.5Y の範囲の色域である(21
p25-28 )ことから,比較的狭域に
密集していると言える.言い換えるならば,歯の色差は近接し比色の作業が困難であり、外部からの光
に関する影響を受けやすことである.
日本歯科色彩学会(1999)の中で,片山,天野(1999)は「いかに目でのカラーマッチングが困難で
あるかが理解できる(21p26 )」としているこからも,ケースに応じた対応(ターゲットが 1 歯なのか多数
歯なのか等)も十分考慮する必要がある.そして,測色値や人間の記憶のみに頼るのではなく,口腔内
写真における基準となる色見本とターゲットの色との同時撮影といった画像情報は,統一性のある色環
境における色情報の保存・提供を可能とし,記憶の呼び戻しの観点からも重要であると言える.
しかし、厄介なことに、ヒトの歯の色は単純な色構造や性質ではなく,非常に複雑で特殊である.
したがって,人の歯が持つ特殊な色構造と性質を知る必要がある.
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0.1.7
歯の色
1.1.7-1
構造
天然歯は歯冠部を覆うエナメル質と,歯の本体をつかさどる象牙
質と中央の歯髄からなる.
(歯根部には,歯髄,セメント質がある)
しかし,両者は異なった構造であり,エナメル質のほとんどは,
ハイドロキシアパタイトというリン酸カルシウムの結晶であり,有
機質成分はほとんどない.アパタイト結晶は集まってエナメル小柱
と呼ばれるエナメル象牙境から歯に表面に向かって無数に走る構造
となっている.
(図 17.参照)
歯髄
象牙質
エナメル質
他方の象牙質は,ほぼ半分がコラーゲン線維という有機質からな
っており,規則正しく織り込まれた線維にアパタイト結晶が密に付
着している.
そして,エナメル質は,色身が少なく,透明性が強い部分と不透
図 17.天然歯の歯冠部の構造.
歯冠部には表層から、エナメル
質→象牙質(さらに中央部には歯
髄もある)
.
明な白い色の部分が交互に存在している.
人工歯の構造は,大きく2つに分ることができ,①金属裏装歯冠色前装型(通称:セラモメタル・ク
ラウン/メタルボンディング・クラウン)と②金属フリー型(通称:オールセラミックス・クラウン/
ジルコニア・クラウン)である.①は,金属がベースにあるため,金属色を遮断する目的で,1.オペ―ク
層があり,その上に 2.歯冠色→3.エナメル色(半透明)→4.透明色(トランスルーセント/オパールセン
ト)の 4 層構造が基本であり,通常この 4 層+金属=1.2mm~1.5mm の範囲内で修復物を収め,自然感
のある審美的な色調の再現を目的としている(図 24.参照)
.一方,②は金属が無いため,遮断材のオペ
―ク層も不必要となり,通常3層(ジルコニア・クラウンの場合は+1層となる)で同じように 1.2mm
~1.5mm の範囲内で修復物を収め,自然感のある審美的な色調の再現を目的とするのである.
0.1.7-2
半透明
一般的に,空気や水,そして宇宙の真空は,透明体であるといえる.これらに,チリやほこりなどの
異物が混入するとその混入の度合いによって半透明から不透明な状態になる.これは,空気や水,宇宙
の真空の中にチリやほこりの粒子が分散していて,それらは入ってきた光を散らすため,まっすぐには
光が抜けないからである.
天然歯のエナメル質は,背景色が白と黒とした場合での測色による a*b*値が異なり,猪越(1999)(2
1p29-31 )
は『黒色背景では,a*b*値は共に負の値であり,白色背景では,a*b*値は差もさほど変わらずほ
ぼ無彩色に近く,透過光線の空間分布を測定した場合光はほぼまっすぐに抜けることからも,光の透過
量に比して光の拡散性が少ない(21P29~32 ).』とし,他方の天然歯の象牙質は,
『黒色背景の場合でも明度
が高く,光の反射が高いとし,透過光線の空間分布を測定した場合,ほぼ円形の分布でエナメル質とは
異なっている(21P29~32).
』としている.
一般的に象牙質には,
『細管構造の象牙細管があり,その太さは約 1μm~3μm であるため光の波長よ
り大きいことから光の拡散がおこる.一方,エナメル質は,X 線回析で測定すると長さ約 0.16μm,幅
約 0.02μm~0.04μm のリボン状,針状,六角柱状の結晶と言われている(22 )』ことから光の拡散はほ
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とんどされていない.
ただし,歯の表面構造は,非常に細かい凸凹状の粗造であるため拡散反射がおり透明性が劣る.結果,
すりガラスのように半透明に見える場合がある.
(図 18.上段左端の歯の表面性状参照)
0.1.7-3
屈折率
例えば,空気中からガラスに光があたった場合,ある角度
で入射した光は,一部の光はガラス表面で反射し,残りのほ
表 3.各物質の屈折率.
(文9p152、文1
6p271、文21p29 より改変引用)
とんどの光はガラスに屈折して入る.前者を反射光と言い,
屈折率
後者を屈折光という.
率が大きいほど大きくなる.すなわち,相対屈折率が大きい
ほど,物質との境界面で反射光量は大きくなる.さらに,入
射角度が大きい(物体表面に対して垂直線が0度)ほど,一
部の反射光量は多くなる.
ジルコニア
2.17
空気
水
ガラス
ダイアモンド
エナメル質
象牙質
物質によって,屈折率は異なり,空気は約 1.0,ガラスは
約 1.5 となっている(表 3.参照)
.
0.1.7-4
セラミック
1.38
1.000291
1.33
1.51
2.419
1.62
1.3
2.5
角膜
また,一部の反射する光の量は,光の入射する物質の屈折
歯のオパーレセンス
天然宝石オパールには,直径 0.15~0.3μの SiO2 の球形粒
子が緊密に集合したものがあり,この球形粒子間の空隙に水
が存在し,この水が光学的には異なる屈折率をもつ超微粒子
として働く.この空隙は光の波長(0.4~0.8μ)よりはるかに
小さいため,オパールに入射した光は「光の散乱」を引き起
こす.そのため,反射光での空が青く見える現象と同じ理由
で短波長の青色スペクトルが散乱されることによってオパー
ルは美しい青さを醸し出すのである.
一方このオパールを透過光で見ると,赤みがかったオレンジ
色に見える.これは,オパールの中を光が通過する間に超微粒
の空隙の水によって,短波長の青色スペクトルが散乱され,残
りの長波長の赤やオレンジのスペクトルが透過して見え,夕日
が赤く見える現象と同じである(16
p285-292).
図 18.左:天然歯と、右:人工歯の比較.
天然歯には歯の先端部に光の散乱によ
るオパーレセンス(青っぽい半透明色)
が見られる.また、象牙質の黄色が透け
て見える.一方、人工歯は冷たい感じで
グレーっぽい暗い色調である.
こうしたオパールのもつ効果がオパーレセンスと呼ばれ,天然歯のエナメル質にもこのオパーレセン
スが存在する(図 18.左側)
.しかし,人工歯にはオパーレセンスはあるものの安定した完成度の高いも
のは少なく,結果,口の中の人工歯は普通のガラスのようにグレーがかった暗い色に見えてしまうこと
があり(図 18.右側)
,特に 1.5 ~4m ほど離れて口元を見ると「暗い!」が著明に出現することが多
い.そして,このほぼ無彩色である透過性の層の存在が,歯の色調の明度を下げることがあるため,歯
の色はより複雑になる.
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この論文の続きは、下記のアドレスにて 4 分割で公開中
http://seele.digi2.jp/soturon01.pdf
http://seele.digi2.jp/soturon02.pdf
http://seele.digi2.jp/soturon03.pdf
http://seele.digi2.jp/soturon04.pdf
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