イカが空を飛んだ

イカが空を飛んだ
大川原化工機
横山哲夫
E-72
発行日
2014.12.18
イカが空を飛 んだ。ジ ャンプではな く 、推進 力を得て加速 し、編隊 飛行をとって 飛
んだのである 。イカが 空を飛ぶこと は、知る 人 ぞ知る、事 実であっ た。北海道大 学の
学生が、初めて、その 瞬間の撮影に 成功 する 。僅か3秒、30mの 飛 行だが、足だか手
だか区別が付 かない足 を器用に広げ て、飛ん だ。写真を見 ただけな のだが、素晴 らし
い編隊飛行で ある 。こ の研究は 、「外 洋イカは 本当に飛ぶ 」とい うタ イトルの論文 で、
ドイツの科学 雑誌「 Marine Biology」に公表さ れた。
イカに興味 を持った のは、3 年前ごろ だろ うか。神 田の 書店 で、「イカの 心を探る」
と言う題名の 本に出会 った。えっ、 イカに「 心」があるの かと思い 購入し、一気 に読
んだ。イカは、人間 が 地球に登場す る およそ 2億年以上
前に、恐竜が暴 れまわ っていたころ、アンモ ナイトの親
戚のベレムナ イトから 進化して、イカ になっ た。それか
ら2億年、イカ は生き 抜いて来た。魚 に比べ 、何となく
頼りなく見え るのだが 、大王イカのよ うに、グジラ にへ
ばりついて吸 盤の後を 残す 奴もいる 。
イカの先祖 のベレム ナイトは、身体をカ ラ で覆ってい
た。しか し、あ る時、イカはその カ ラを脱ぎ 捨てる。た
だでさえ、危険 な海の なか、自分を守 ってく れる カラを
脱ぎ捨てた 。昔 、「私 は貝になりた い」と 言 う映画があ
ったが、貝に嫌 気がさ して、イカにな った貝 がイカであ
る。イカは、 きっと、 そう思ったに 違いない 。
イカを漢字 で書くと「烏賊 」となる が、漢字 を見ただけで は 、イカ を想像できな い。
死んだふりを して 、海 面を漂い、近 づいて 来 た鳥を襲うこ とがある ので、 「烏賊 」と
なったそうだ 。また、 イカは抱き合 って愛情 表現をするそ うで、 人 間にも似た行 動を
とる。しかし 、それだ けではない。 フランス の海洋学者の ジャック クストーは 、 イカ
のことを海の 霊長類と 言ったそうで ある。 こ の本を読んで 、まさし く、その通り だと
おもった。
まずは、イ カの脳で ある。脳の大 きさによ って、頭の善 し悪しは 一概には言え ない
が、体重あた りの脳の 重さを比較す ると、イ カは、爬虫類 や魚類に まさり、哺乳 類や
鳥類に迫る。 そして、 その脳に情報 を送る目 は、人間と同 様、レン ズ目である。 この
1
レンズ目の大 きさは、人間の体の大 きさに比 較すると、バ スケット•ボールほどに なる
と言う。更に 、イカは 視力も良い。 そして、 この優れた目 は、 大き な脳の真横に つい
ている。大き なレンズ 目で集めた情 報を、素 早く脳に伝達 するのに 、好都合であ る。
イカは、この 二つを武 器に、大海に 出て行く 。
鏡 に 映 る 自 分 が 、 自分 で あ る 事 を 認 識 す る能 力 を 、 「 鏡 像 自 己 認識 」 と 言 う 。 地 球
上 に は 1 0 0 万 種 類 以上 の 動 物 が い る と 言 われ る が 、 こ の 能 力 を 持つ 動 物 は 、 今 の と
こ ろ 、 わ ず か 8 種 類 にす ぎ な い 。 当 然 、 人 間は こ の 能 力 を 持 っ て いる の だ が 、 我 々 に
な じ み が 深 い 犬 に 、 この 能 力 は な い 。 ま た 、人 間 に 近 い 霊 長 類 は 、全 て こ の 能 力 を 持
っ て い る よ う に 思 え るの だ が 、 ゴ リ ラ に そ の能 力 は 無 い 。 鏡 像 自 己認 識 の 能 力 を 持 っ
ている動物は 、人、チ ンパンジー、オラウー タン、像、イ ルカ、ク ジラ、鳥のな かま、
そ し て 、 ど う も 、 イ カが そ の 能 力 を 持 っ て いる よ う な の で あ る 。 犬な ど で あ れ は 、 鏡
に 映 っ た 自 分 を 敵 と 思い 、 威 嚇 す る の だ が 、イ カ は 鏡 に 映 る 自 分 の姿 を 見 て 、 い か に
も愛おしいよ うに、鏡 にすり寄るの である。
イ カ は 、 生 ま れ る と、 周 囲 の 状 況 か ら 様 々な こ と を 学 習 す る 。 生ま れ て 間 も な い イ
カ に 、 忙 し く 泳 ぎ ま わる ミ ジ ン コ を 餌 に 与 えた 場 合 と 、 動 き の に ぶい 餌 を 与 え た 場 合
と で は 、 後 者 の イ カ は、 大 人 に な っ て 、 素 早い 動 き を す る ミ ジ ン コが 捕 食 出 来 ず 、 死
んでしまう 。本能 と言 うよりも 、幼いと きの 経験が、イカにと って も、重要 なようだ。
イ カ の 仲 間 で あ る タ コは 、 仲 間 の 狩 猟 を 見 て真 似 る 。 ま た 、 瓶 の ふた を 開 け 、 な か の
えさ食べてし まう。イ カも同様の観 察力や、 行動力を持っ ている。
イ カ の 群 れ の な か で、 リ ー ダ ー に な れ る 個体 は 、 ど の よ う な 個 体で あ ろ う か 。 た と
え ば 、 猿 山 の 猿 で あ れば 、 大 き く て 力 の あ る猿 が 、 ボ ス 猿 に な る 。ラ イ オ ン や オ ッ ト
セ イ な ど も 、 同 様 で ある 。 し か し 、 イ カ は 違う 。 イ カ の リ ー ダ ー は、 大 き く 、 力 の 強
い 個 体 で は な く 、 付 き合 い の い い 奴 が リ ー ダー に な る 。 群 れ の 仲 間た ち と コ ミ ィ ニ ュ
ケ ー シ ョ ン を 取 り 、 且つ 、 他 の リ ー ダ ー と もコ ミ ィ ニ ュ ケ ー シ ョ ンを 取 っ て 情 報 を 共
有 す る 。 そ の よ う な 個体 が 、 リ ー ダ ー に な る。 あ る 個 体 が 危 険 を 察知 す る と 、 そ の 情
報 は 、 そ の 群 れ の リ ーダ ー に 伝 わ る 。 そ の リー ダ ー は 、 そ の 情 報 を別 の リ ー ダ ー に 伝
え る 。 イ カ が 空 を 飛 んだ の も 、 こ の よ う な 状況 の な か 、 皆 で 、 危 険回 避 行 動 を 取 っ た
結果である。
この本を読 み終えて 、すごく イカが好き に なった、
と同時に、2億年間 生 き続けたイカ の知恵は 、地球
上に生きる同 じ生物で ある人間に 、何か示 唆 を与え
ているような 気がする 。カラを捨 て、大海 を目 指す、
幼いときの経 験の重要 性、仲間と の協調性 な ど、人
間社会にとっ ても重要 な知性である 。著者 の 撮った
一枚の写真が ある。た れ目で、優 しくこち ら を見て
いるイカ、い かにも何 かを話かけて きそうだ 。
2
もしも、地球 に陸地が なかったら、 爬虫類や 哺乳類は、こ の世に生 まれなかった か
も知れない。 当然、人 間の文明も生 まれず、 この地球は、 「猿の惑 星」ならぬ、 きっ
と平和な「イ カの惑星 」になってい たかも知 れない。 スー パーの魚 売り場で、並 べて
あるイカの目 をみる 。 何かあわれに 感じる。 愛すべき、イ カ。家で 飼えたら、犬 のよ
うに友達にな れたかも 知れない。し かし、イ カ の寿命は一 年と短す ぎる。
参考資料:
「イカの 心を探る」
琉球大学 教授
Wi kipedi a
池田
譲
イカ
Daily motion 世界 初!「飛 ぶイカ」解明
池田
譲
教授
ホームペ ージ
3
著