全文 - 東京有明医療大学

東京有明医療大学雑誌
Journal of
Tokyo Ariake University of
Medical and Health Sciences
2011
東京有明医療大学
CONTENTS
Volume 3
2011
原著論文
スポーツパフォーマンスと関連する動作における Model-based Image-matching Technique の信頼性
笹木 正悟,松田 匠生,櫻井 敬晋,福林 徹 ………………………………………………………………1
看護学生に視聴覚教材をオンデマンドに閲覧させる学習支援環境の評価 第2報
―教育的効果の再現性の検討―
林 さとみ,中村 充浩,平田 美和,高畠 有理子 …………………………………………………………9
短 報
定量液吐出容器
(ハンドラップⓇ)の安全性の検討
菅原 正秋,坂井 友実 ……………………………………………………………………………………………19
その他
長崎遊学手記
―貴宝・紅夷外科宗伝を訪ねて―
福田 格 ………………………………………………………………………………………………………………23
ヘボン博士の業績
―宣教医、教育者として日本社会に貢献したアメリカ人―
中山 清治 ……………………………………………………………………………………………………………29
東京有明医療大学 学内教員のための解剖学実習セミナー 開催報告
小泉 政啓,中澤 正孝,北島 泰子 ………………………………………………………………………………37
投稿規定
原稿の様式
投稿原稿エントリー用紙(様式1)
本投稿論文についての報告書(様式2)
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:1- 8,2011
原著論文
スポーツパフォーマンスと関連する動作における
Model-based Image-matching Technique の信頼性
笹 木 正 悟1) 松 田 匠 生2)
櫻 井 敬 晋1) 福 林 徹3)
Reliability of a Model-based Image-matching Technique for the Movement Related to Sports Performance
Shogo Sasaki1), Takumi Matsuda2), Takakuni Sakurai1), Toru Fukubayashi3)
1)
Department of Judotherapy, Faculty of Health Sciences, Tokyo Ariake University of Madical and Health
Sciences, Tokyo, Japan
2)
Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Saitama, Japan
3)
Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Saitama, Japan
Abstract : Recently, a Model-based Image-matching(MBIM)technique has been developed for objective
evaluation of human movement using video sequences. It will be possible to get new findings about highquality movement which conducted in a real game situation. The main purpose of this study was to assess
the intra- and inter-tester reliability of a MBIM technique using sports movement related to performance in
game situation. Intra- and inter-rater correlations results were > 0.91 for trunk, hip and knee flexion angles.
Therefore, it is considered that a MBIM method can apply to the movement related to sports performance.
key words:video analysis, reliability, sports performance, Model-based Image-matching
要旨:近年,ビデオ映像を用いた他覚的な運動評価方法としてModel-based Image-matching
(MBIM)
Technique
が考案された.フィールドスポーツのパフォーマンス評価にMBIM法を用いることで,これまでに明らかにさ
れていなかった実際の競技現場で生じる質の高い運動について,新たな知見を得ることが出来る.本研究は,
試合で生じたパフォーマンスに関連するスポーツ動作にMBIM法を適用したときの検者内および検者間信頼性
を検討することを目的とした.体幹部屈曲角度,股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度の級内相関係数は > 0.91
と非常に高い信頼性が得られた.このことから,パフォーマンスと関連するスポーツ動作にMBIM法を応用で
きる可能性が示唆された.
キーワード:ビデオ分析,信頼性,スポーツパフォーマンス,Model-based Image-matching
ルドスポーツでは相手チームによる自責点などにより試
Ⅰ.緒 言
合に勝利することが出来たとしても,その試合における
サッカーやラグビー,バスケットボールといったフィー
選手のパフォーマンスが必ずしも優れていたとは限らな
ルドスポーツは,陸上競技や競輪といった個人スポーツ
い.現場の指導者やコーチングスタッフは,試合成績だ
に比べてパフォーマンスの評価が非常に困難である.そ
けでなく実際のゲーム内容や個人戦術などを総合的に判
の理由として,個人スポーツはゴールまでの着順や所要
断して,パフォーマンスの優劣や選手起用などを決定し
時間,到達距離といった明確な記録により優劣が評価さ
ていく.
れる一方で,フィールドスポーツはチーム全体の得点数
フィールドスポーツの指導者は,身体的スキル,心理
によってのみ勝敗を決するからである.そのため,フィー
的スキル,戦術的スキル,技術的スキルという4つの側面
1)東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科 E-mail
address:[email protected]
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科
3)
早稲田大学スポーツ科学学術院
2)
1
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
から選手のパフォーマンスを評価するといわれている1).
ンスの「評価」を行うためには,検査・測定に用いる手
その中でも,スポーツの技術的スキルを客観的に評価す
法の「信頼性」を検証し,その妥当性と問題点を把握し
る手法としてバイオメカニクス的アプローチは非常に有
た上で適用することが非常に重要であると考えられる.
用である.これまでにも,様々なスポーツ動作や身体活
そこで本研究は,MBIM法をスポーツのパフォーマン
動に対して,運動力学変数を用いた分析が多数行われて
ス評価に応用するための基礎研究として,試合で生じた
いる.しかしながら,先行研究では主に反射マーカーを
動作に対してMBIM法を適用した時の検者内および検者
貼付した状態で規定された運動を行う光学的動作解析が
間信頼性を検討することを目的とした.
用いられており,これらは実際の試合で生じるより複雑
かつダイナミックな動きを全く同様に再現しきれないと
Ⅱ.方 法
いう点に限界がある.
1.対 象
その一方で,現場の指導者はしばしば,試合や練習の
解析に用いた映像は,関東大学サッカー連盟主催の競
映像を用いて動作の特徴やフォームなどをチェックする.
ビデオ映像を用いたコーチングは,実験室的な擬似空間
技大会で撮影された1対1の守備局面を捉えたシーンで
では再現不可能である多様なシーンを選手にフィードバッ
あった.なお,本映像はペナルティーアーク付近のバイタ
クする上で役立つ.試合というリアリティの高いシチュ
ルエリアにて撮影された.解析の対象は,関東1部リー
エーションでの動作情報を提示することは,選手が実際
グ登録の大学サッカー部に所属している男性1名
(年齢:
の試合でどのように運動を遂行すべきなのかを学習させ,
20歳,身長:177.0cm,体重:67.0kg)とした.なお,対
選手のパフォーマンスを向上させるために極めて重要で
象者は関東大学選抜チームに選出される競技レベルであ
あると言われている .これらのことから,試合を撮影
り,ポジションはMFであった.
2)
したビデオ映像はフィールドスポーツのパフォーマンス
対象者にはあらかじめ実験内容および実験により起こ
評価に広く用いられている.しかしながら,これまでの
りうる危険性について十分に説明したうえで参加の同意
ビデオ分析は指導者による視覚的評価や主観的評価が多
を得た.また,本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に則り,
く,試合中の動作について生体力学的な観点から捉えた
東京有明医療大学倫理審査委員会
(承認番号:東京有明医
客観的データは乏しい.
療大学倫理審査委員会承認第13号)
の承認を得て実施した.
ビデオ映像を用いた分析は,トレーニングやコーチン
グを扱うスポーツ科学分野以外でも用いられている.ス
2.映像収集および編集
ポーツ医学の分野では,特に膝前十字靱帯損傷の発生メ
関東大学サッカー連盟が主催する試合を,観客席スタ
カニズムを解明する取り組みとして,1990年代から積極
ンドおよびピッチ場外から6台のデジタルビデオカメラ
的に映像を使ったビデオ分析が行われている.
そこでは,
(Sony HDR-FX1, Tokyo, Japan; Sony HDR-CX370, Tokyo,
主に受傷状況の分析3,4)や受傷時の関節角度の視覚的評
Japan; Panasonic NV-GS320, Tokyo, Japan, Panasonic
価4-7)が行われてきた.しかしながら,ビデオ映像を用
NV-GS500, Tokyo, Japan)
を用いて90分間撮影した.ビデ
いた視覚的分析では,光学的手法を用いた膝関節屈曲角
オ映像のサンプリング周波数は30Hz,解像度は標準画質
度の分析結果と比べて約2分の1の角度に見積もられて
(480i)にて撮影された.撮影されたビデオ映像のうち,
いたと報告されている4).このことから,視覚的分析は
対象者の動作が同時に且つ鮮明に記録されている4台の
有用である一方で精度上の限界があり,ビデオ分析の精
ビデオ映像を選定した.全てのビデオ映像の画質は基本
度を向上させるためにはより他覚的に評価できる方法が
的に良好であったが,瞬間的に素早い動作を行った際の
必要である .
身体部分には若干のぼやけがみられた.
8)
撮影されたビデオ映像は,画質を下げないよう非圧縮
近年,ビデオ映像を用いた他覚的な運動評価方法とし
てModel-based Image-matching(MBIM)Techniqueが
AVI
(Audio Video Interleave)
映像に変換して抽出された.
考案され9),スポーツ傷害のメカニズム分析において貴
抽出された4つの映像は,Adobe After Effect(version
重なデータを示している
7.0, Adobe Systems Inc, San Jose, California)
を用いて非
.しかしながら,ビデオ映
10-14)
像を用いた他覚的な分析手法はスポーツ医学分野での活
圧縮TIFF
(Tagged Image File Format)
に変換された後,
用にとどまっており,試合やトレーニングでのリアリティ
1つの映像として同期化された.手動で行われた4つの
の高い運動を対象としたスポーツ科学領域における運動
映像の同期化は,それぞれに映っているキーイベント
(ド
解析にはまだ応用されていない.フィールドスポーツの
リブルでのボールタッチ,方向変換での接地・離地)を
パフォーマンス評価にMBIM法を用いることで,これま
用いて行われた.
で明らかにされていなかった実際の試合や競技場面で生
じる質の高い運動について,新たな知見を得ることが出
3.Model-based Image-matching
来ると考える.また,科学的根拠に基づいたパフォーマ
ビデオ映像から対象者の3次元キネマティクスを再構
2
スポーツ動作におけるModel-based Image-matchingの信頼性
築する新たな手法として,Model-based Image-matching
されており,骨盤が親セグメントとなっている.親セグ
(MBIM)
法が用いられた9).MBIM法には,市販の3DCG
メントである骨盤は,静止座標系を回転3自由度,並進
ソフトウェアであるPoser 4 およびPoser Pro Pack
(Curious
3自由度にて動かすことができ,それ以外のセグメント
Labs, Inc, USA)
が用いられる.このソフトウェアパッケー
は,それぞれの親セグメントに対して回転3自由度にて
ジの利点は,①複数の図形アイテム
(平面図形-四角形,
動かすことが可能である.骨格モデルの各体節の寸法は,
円形/立体図形-柱体,錐体,球体)
を作成できること,
撮影後に実施された身体計測値をもとに,対象者の骨格
②ビデオ動画映像を直接インポート出来ること,③最大
に合わせて調整された.
4台までのカメラ視野を分割表示できること,④並進3
Model-based Image-matchingは,事前に作成したサッ
自由度・回転3自由度を持ち,焦点距離が可変であるカ
カーコートモデルや骨格モデルをビデオ映像に映ってい
メラモデルを作れること,⑤男性や女性,スケルトンな
る背景や人の動きに適合するよう手動でマッチングさせ
どといったカスタムモデルを挿入できること,があげら
ることで,過去に生じた対象者の運動やカメラワークを
れる.これらの利点を活かし,ビデオ映像に映っている
パーソナルコンピューター上で再構築させるという手法
スポーツ環境を点や線
(直線・曲線・円)
の図形アイテム
である(図1,図2).複数台のカメラ映像から捉える背
とカメラモデルを用いてパーソナルコンピューター上に
景をフレームごとにマッチングさせていくことで,移動・
再構築できることがMBIM法の最大の特徴である.本研
回転・ズームを含めたビデオカメラの動きを再構築する
究では,ビデオ映像が撮影された国立西が丘サッカー場
ことが可能となる.この再構築されたビデオカメラの動
のコートにあわせて,105m×68mのサッカーコートを点や
きの中で,骨格モデルのマッチングは親セグメントであ
線の図形アイテムを用いて作成した.解析は,Dell Precision
る骨盤から開始する.その後,下肢であれば大腿→下腿
TM 380
(DELL Japan Inc, Japan)
およびFlex Scan S2433W-
→足部へと,体幹・上肢であれば腹部→胸部→上腕→前
HX
(EIZO NANAO Co, Japan)
を用いて行われた.
腕へと,徐々に遠心方向へ向かってマッチングを行って
対象者のマッチングに用いる骨格モデルは,Zygote
いく.すべてのフレームにおいてサッカーコートモデル
Skeleton Model
(Zygote Media Group, Inc, Provo, USA)
と骨格モデルが正確にマッチングするまで作業を継続し,
を使用した.この骨格モデルは,断層的構造となってい
マッチングされた各フレームを連続再生することで動的
る21の体節
(前足部,後足部,下腿,大腿,骨盤,腹部,
な動きが再現化される.
胸部,頸部,頭部,肩部,上腕,前腕,手部)から構成
図1 Model-based Image-matching法を用いて背景および骨格モデルをマッチングさせる
3
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
図2 再構築された試合中に生じたスポーツ動作
4.関節角度の算出
法において体幹部および大腿の位置は,骨盤の剛体に対
する体幹部および大腿の長軸よって成す角度で表される.
関節角度を算出するに当たり,体幹部は腹部および胸
部の動きを1つのセグメントとして定義された.そのた
つまり,骨盤の剛体の y-z 平面上の角度を体幹部屈曲角
め,体幹部のマッチングは腹部と胸部の動きが均等の割
度および股関節屈曲角度,x-z 平面上の動きを体幹部側
合になるように行われた.また,先行研究 と同様に膝
屈角度および股関節内外転角度,x-y 平面上の動きを体
関節の内反・外反の動きは生じないものとし,股関節を
幹部回旋角度および股関節回旋角度とした.また,膝関
回旋させることで至適なマッチングを行った.
節の位置は大腿の剛体に対する下腿の長軸によって成す
9)
膝関節および股関節の座標系はGroodらの定義 に従
角度を膝関節屈曲角度とした(図3).また,体幹部,股
い,体幹部は骨盤に対する動きとして評価された.MBIM
関節,膝関節の関節角度は,先行研究9-14)と同様にカス
15)
図3 Model-based Image-matching法における関節角度の算出
4
スポーツ動作におけるModel-based Image-matchingの信頼性
タマイズされたMatlab Script
(Math Works, Natick, USA)
節屈曲角度の級内相関係数は> 0.93と非常に高く,体幹
を用いて算出された.
部側屈角度以外の級内相関係数も> 0.83と高い信頼性を
示した.体幹部側屈角度の級内相関係数は=0.69と最も
5.分析項目
低かった.同一検者がマッチングを実施した経時的角度
検者内の信頼性を検討するために,背景および骨格モ
変化の典型例として,級内相関係数ICC
(1,1)
=0.97であっ
た体幹部屈曲角度を図4(a)に示した.
デルのマッチングを同一検者により5回実施した.また,
2名の検者により実施された級内相関係数 ICC
(2,1)を
検者間の信頼性を検討するために,2名の異なる検者に
よるマッチングを1回ずつ実施した.信頼性の検討は,
表2に示した.体幹部屈曲角度,股関節屈曲角度,膝関
方向変換を行っている脚である右股関節屈曲角度,右股
節屈曲角度の級内相関係数は> 0.91と非常に高く,その
関節内外転角度,右股関節回旋角度,右膝関節屈曲角度
他の運動の級内相関係数も> 0.84と高い信頼性を示した.
および体幹部屈曲角度,体幹部側屈角度,体幹部回旋角
異なる検者がマッチングを実施した経時的角度変化の典
度について行われた.
型例として,級内相関係数 ICC(2,1)=0.98であった体幹
部屈曲角度を図4(b)に示した.
6.統計処理
統計的検定量の算出にはIBM SPSS statistics
(ver.19.0
Ⅳ.考 察
for Windows)を 用 い た. 検 者 内 信 頼 性
(Intra-rater
reliability)を検討するために,級内相関係数 ICC(1,1)を
本研究では,MBIM法をパフォーマンス評価に応用す
求めた.また,検者間信頼性
(Inter-rater reliability)を
るための基礎研究として,試合で生じたパフォーマンス
検討するために,級内相関係数 ICC
(2,1)
を求めた.
と関連するスポーツ動作にMBIM法を適用したときの検
者内および検者間の信頼性を検討した.これまでのMBIM
法を用いた映像分析は傷害発生シーンを分析した研究の
Ⅲ.結 果
みであり10-13),より複雑かつ多様な様相を呈すると考え
同一検者により実施された級内相関係数 ICC(1,1)を
られる競技動作そのものにMBIMを適用した研究は過去
表1に示した.体幹部屈曲角度,股関節屈曲角度,膝関
に行われていない.競技パフォーマンスと関連のある運
表1 Model-based Image-matching法における検者内信頼性
表2 Model-based Image-matching法における検者間信頼性
ICC(1,1)
95% 信頼区間
下限値
上限値
部位および運動
ICC(2,1)
95% 信頼区間
下限値
上限値
体幹部 屈曲角度
0.97
0.95
0.99
体幹部 屈曲角度
0.98
0.94
0.99
体幹部 側屈角度
0.69
0.49
0.85
体幹部 側屈角度
0.85
0.64
0.94
体幹部 回旋角度
0.83
0.70
0.92
体幹部 回旋角度
0.92
0.80
0.97
股関節 屈曲角度
0.94
0.88
0.97
股関節 屈曲角度
0.98
0.94
0.99
股関節 内外転角度
0.85
0.74
0.94
股関節 内外転角度
0.84
0.60
0.94
股関節 回旋角度
0.88
0.77
0.95
股関節 回旋角度
0.90
0.74
0.96
膝関節 屈曲角度
0.93
0.87
0.97
膝関節 屈曲角度
0.91
0.76
0.96
時間経過(msec)
(a)同一検者が5回マッチングした時の経時的角度変化
(b)異なる2名の検者が1回ずつマッチングした時の経時的角
度変化
図4 検者内および検者間信頼性を検討した際の体幹部屈曲角度.
5
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
動にMBIMを適用したときの信頼性が確認されれば,ビ
場合においても,特に矢状面上の運動については高い
デオ映像を用いて様々な質の高い運動分析に本手法を応
信頼性を持った結果を得ることができると示唆された.
用することが可能であると考える.また,MBIM法を応
Krosshaugら9)は,反射球を用いた動作解析とMBIM法
用したときの信頼性を検討することで,本手法の特性や
を用いた動作解析の適合性を同一映像にて比較しており,
限界,さらにはマッチングのポイントなどが顕在化され,
股関節および膝関節の屈曲角度における経時的角度変化
より客観性の高いデータを得るための一助になりうると
の適合性は,内外転角度や回旋角度の経時的変化に比べ
考えられる.これらのことは,柔道整復師がアスリート
てより類似すると報告している.また,デジタル映像を
に対する後療法
(運動療法)
を行う過程の中で,スポーツ
用いた簡易的な2次元動作解析においても,股関節屈曲
現場で生じうる動作の動態を正しく把握し,安全かつ適
角度の級内相関係数は ICC(1,1)および ICC(2,1)ともに>
切な動作の習得を再教育させるための指標ならびに競技
0.92と非常に高い信頼性が得られている16)
.これらのこと
復帰の目安になることが期待される.
から,実際の試合における方向変換にMBIM法を用いた
本研究で用いた「分析の信頼性」を表す級内相関係数
映像解析は,矢状面の運動について十分な信頼性を有し
(Intraclass correlation coefficient: ICC)は,検者内およ
ており,MBIM法が他覚的なスポーツパフォーマンスの
び検者間の一致度を示すものであり,これまでにも身体
評価にも適応可能な手法であると考えられた.
角度計測の信頼性を確認する研究などにおいても広く用
前額面および水平面での運動についても,体幹部側屈
いられている16-18).また,級内相関係数は理学療法の研
角度の ICC(1,1)以外の級内相関係数は> 0.83であり,多
究報告において最も多用されている信頼性係数であると
くの運動について高い信頼性が得られた
(表1, 表2)
.こ
言われている19).級内相関係数の判定基準は先行研究に
れらはBlesh22)の判定基準においてもGood
(0.80〜0.90)に
おいてもいくつかの基準で分類されており20,21),Blesh22)
分類されることから,MBIM法は一定水準の信頼性を有
はExcellent
(0.90-0.99)
,Good
(0.80-0.89)
,Fair
(0.70-0.79)
,
しているものであると考えられる.光学的手法を用いた
Poor
(≦0.69)と定義している.本研究では,同一の映像
場合とMBIM法を用いた場合の股関節,膝関節における
を1人の検者が5回繰り返し解析したときの検者内信頼
経時的角度変化の波形を比較すると,二乗平均平方根の
性として ICC
(1,1)を,同一の映像を2人の検者が1回ず
差は2.6〜15.7度の範囲で存在しているものの,全ての波
つ解析したときの検者間信頼性として ICC
(2,1)をそれぞ
形パターンは非常に類似した様相を示していた9).この
れ算出した.
ことは,傷害の発生シーンと同様に,ビデオ映像からス
パフォーマンスと関連するスポーツ動作として,本研
ポーツパフォーマンスに関連した運動のキネマティク
究ではペナルティーアーク付近のバイタルエリアにおけ
ス特性を描写するのに適した手法であると考えられる.
る1対1守備の方向変換を用いた.日本サッカー協会は
Krosshaugら9)は,MBIM法の精度を高めるためのポイ
「JFA 2005年宣言」の中で『世界のトップ10を目指して』
ントとして,2台以上の直行する視野からの映像を用い
という目標を掲げている.この目標を達成するための日
ることを推奨している.本研究では,対象者の側方,後
本サッカーの課題の1つとして,個の守備力である1対
方,後外方から撮影された4つのビデオ映像を用いてお
1の強化があげられている
.またGerischら は,サッ
り,より精度を高めて解析できる環境が整っていた.こ
カーのゲーム中における1対1の状況をチームのパフォー
のことは,本研究において比較的高い級内相関係数が導
マンスを評価する上で重要な要因として取り上げている.
出された理由の1つであると推察される.今後の研究に
試合のビデオ映像を用いたゲーム分析においては,フェ
おいてもより信頼性の高いデータを得るためには,意図
イントを用いてのドリブルが決定的なシュートやラスト
するシーンを撮影できるようにビデオの配置等の環境を
パスに繋がりやすい守備陣営の中央1/3で約50%行わ
事前に整備する必要があると考えられる.
23,
24)
25)
れていると報告されている26).藤岩27)は,サッカーにお
しかしながら,体幹部側屈角度の検者内信頼性は=0.69
ける失点シーンの特徴として,ペナルティーエリア中央
であり,十分な信頼性を得ることができなかった
(表1)
.
およびバイタルエリアから打たれたシュートが全失点の
その理由として,骨盤をマッチングできる精度の限界が
約70%を占めると報告している.これらのことから,特
考えられる.本研究で用いたような体幹部を屈曲させて
にバイタルエリア付近でのドリブルからの1対1守備力
いる動作では,静止座標系における骨盤の回旋角度が体
を強化することが不要な失点を防ぐための一助になり,
幹部の側屈角度に大きく影響していると考えられる
(図
パフォーマンスに関連するスポーツ動作であると考えら
5)
.MBIM法の手順として,最初に親セグメントである
れる.
骨盤の座標位置および傾斜・回旋を決定し,その後,末
検者内および検者間信頼性ともに,主に矢状面での運
梢セグメントである体幹部および四肢を順次マッチング
動となる体幹部屈曲角度,股関節屈曲角度,膝関節屈曲
させていく.その際に,骨盤のマッチングが不適切であ
角度の級内相関係数は> 0.91と非常に高かった
(表1, 表
ると,その他のセグメントのキネマティクスにも影響が
2, 図4)
.このことは,MBIM法を競技動作に適用した
及ぶと考えられる.Krosshaugら9)は骨盤のマッチング
6
スポーツ動作におけるModel-based Image-matchingの信頼性
図5 骨盤のマッチングの違いによって生じた体幹部側屈の誤差.外見上は同様のマッチングに見えるが,左図は骨
盤を66度回旋させた状態で体幹部を0度側屈させ,右図は骨盤を72度回旋させた状態で体幹部を7度側屈させ
ている.
が最も誤差が大きいセグメントであることを述べており,
と関連するスポーツ動作にMBIM法を適用したとき
特に骨盤回旋については光学的手法を用いた場合と比較
の検者内および検者間信頼性について検討した.
して最大で21.6度の二乗平均平方根の差異が生じていた
2.矢状面上の運動となる体幹部屈曲角度,股関節屈曲
ことを報告している.骨盤の形状は姿勢の解釈が非常に
角度,膝関節屈曲角度の級内相関係数は> 0.91と非
難しい ことに加え,骨盤のランドマークが衣服に覆わ
常に高く,その他の運動においても0.69〜0.92と比
れていることがマッチングをさらに困難とさせている.
較的高い信頼性が得られた.
9)
3.MBIM法を実施する際のポイントとして,分析者自
このことは,MBIM法の限界であり,分析者自身が細心
の注意を払って行っていくべきポイントであると考える.
身が意図する映像を撮影できる環境を整備すること,
Kogaら
骨盤を慎重にマッチングさせていくこと,複数の検
は1人の分析者によるバイアスを最小限にす
12,
13)
者による適合評価を行うことの重要性が示唆された.
るため,複数の専門家によるマッチングの適合性の確認
作業を行っている.MBIM法は視覚的評価に比べれば客
観的ではあるものの,分析者の作業技術がマッチングの
謝 辞
性能に依存すると言われている12).これらのことから,
本研究は,平成22年度東京有明医療大学特別研究費(10-00071)
の助成を受け,実施されたものである.
骨盤を慎重にマッチングさせることに加えて,単独の分
析者によるマッチングの適合評価を避けることがMBIM
法の信頼性をさらに向上させるポイントであると示唆さ
参考文献
れた.
1)Carling C, Reilly T and Williams AM. Performance assessment
for field sports. 1st edition. Oxford : Routledge, 2009. p.1-23.
2)Hughes MD and Franks M. National Analysis of Sport : System
for better coaching and performance. London : E&FN Spon;
2004. p.17-40.
3)Olsen OE, Myklebust G, Engebretsen L, et al. Injury mechanisms
for anterior cruciate ligament injuries in team handball : a
systematic video analysis. American Journal of Sports Medicine
2004 ; 32(4): 1002-1012.
4)Krosshaug T, Nakamae A, Boden BP, et al. Mechanisms of
anterior cruciate ligament injury in basketball : video analysis
of 39 cases. American Journal of Sports Medicine 2007 ; 35
(3):
359-367.
5)Ettlinger CF, Johnson RJ and Shealy JE. A method to help
reduce the risk of serious knee sprains incurred in alpine skiing.
American Journal of Sports Medicine 1995 ; 23(5): 531-537.
6)Boden BP, Dean GS, Feagin JA, Jr., et al. Mechanisms of anterior
cruciate ligament injury. Orthopedics 2000 ; 23(6): 573-8.
7)Ebstrup JF and Bojsen-Moller F. Anterior cruciate ligament
injury in indoor ball games. Scandinavian Journal of Medicine
and Science in Sports 2000 ; 10(2): 114-116.
8)中前敦雄,越智光夫.膝前十字靱帯損傷-ACL損傷のビデオ
分析.臨床スポーツ医学臨時増刊号 2008 ; 25 : 105-108.
しかしながら,本研究で用いた級内相関係数
(Intraclass
correlation coefficient: ICC)
を解釈するにあたっては,い
くつかの注意が必要である.まず,検者内信頼性の評価
指標として用いた ICC
(1,1)はあくまでも検者1人の測定
結果より導きだされているため,検者の特性やバイアス
が大きく反映されていると考えられる20).また,検者間
信頼性の指標として用いた ICC
(2,1)においては,検者2
名がそれぞれ1回ずつ行った測定結果より導き出されて
いるため,偶然の一致を否定しきれない.今後は,MBIM
法の信頼性をさらに向上させるため,測定の回数や測定
を行う検者数を増加させることで,より客観性の高いデー
タを示していく必要があると考えられた.
Ⅴ.結 語
1.本研究では,実際の試合中に生じたパフォーマンス
7
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
9)Krosshaug T and Bahr R. A model-based image-matching
technique for three-dimensional reconstruction of human motion
from uncalibrated video sequences. Journal of Biomechanics
2005 ; 38(4): 919-929.
10)Krosshaug T, Slauterbeck JR, Engebretsen L, et al. Biomechanical
analysis of anterior cruciate ligament injury mechanisms: threedimensional motion reconstruction from video sequences.
Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports 2007
; 17(5): 508-519.
11)Fong DT, Hong Y, Shima Y, et al. Biomechanics of supination
ankle sprain: a case report of an accidental injury event in
the laboratory. American Journal of Sports Medicine 2009 ;
37(4): 822-827.
12)Koga H, Nakamae A, Shima Y, et al. Mechanisms for noncontact
anterior cruciate ligament injuries : knee joint kinematics in
10 injury situations from female team handball and basketball.
American Journal of Sports Medicine 2010 ; 38(11): 22182225.
13)Koga H, Bahr R, Myklebust G, et al. Estimating anterior tibial
translation from model-based image-matching of a noncontact
anterior cruciate ligament injury in professional football : a
case report. Clinical Journal of Sport Medicine 2011 ; 21(3):
271-274.
14)Mok KM, Fong DT, Krosshaug T, et al. An ankle joint modelbased image-matching motion analysis technique. Gait and
Posture 2011 ; 34(1): 71-75.
15)Grood ES and Suntay WJ. A joint coordinate system for the
clinical description of three-dimensional motions : application
to the knee. Journal of Biomechanical Engineering 1983 ; 105
(2): 136-144.
16)茶川知彰,西上智彦,榎 勇人ほか.2次元での簡易的な身体
角度計測の信頼性-臨床普及の観点から-.理学療法学 2007
; 22(3): 369-372.
17)Lunden JB, Muffenbier M, Giveans MR, et al. Reliability of shoulder
internal rotation passive range of motion measurements in
the supine versus sidelying position. Journal of Orthopedic
and Sports Physical Therapy 2010 ; 40(9): 589-594.
18)Wilk KE, Macrina LC, Fleisig GS, et al. Correlation of glenohumeral
internal rotation deficit and total rotational motion to shoulder
injuries in professional baseball pitchers. American Journal
of Sports Medicine 2011 ; 39(2): 329-335.
19)対馬栄輝.理学療法の研究における信頼性係数の適用につい
て.理学療法学 2002 ; 17(3): 181-187.
20)今井 樹,潮見泰蔵.理学療法研究における“評価の信頼性”
の検査法.理学療法学 2004 ; 19(3): 261-265.
21)対馬栄輝.SPSSで学ぶ医療系データ解析.第6版.東京:東
京図書株式会社 ; 2007.p.195-214.
22)Blesh TE. Measurement in Physical Education. New York :
The Ronald Press Company ; 1974.
23)財団法人日本サッカー協会技術委員会U16指導指針ワーキング
グループ.JFA 2004 U-16 指導指針.東京:財団法人日本サッ
カー協会 ; 2004. p.26-51.
24)財団法人日本サッカー協会技術委員会U16指導指針ワーキング
グループ.JFA 2008 U-16 指導指針.東京:財団法人日本サッ
カー協会 ; 2008. p16-49.
25)Reilly T, Clary J and Stibbe A. The 2nd World Congress on
Science and Football ; 1st edition. Eindhoven : E&FN Spon;
1993. p.167-173.
26)松下健二,高藤 順.世界の一流サッカー選手にみられるフェ
イント技術に関する一考察.実技教育研究 2006 ; 20 : 69-78.
27)藤岩秀樹.サッカーゲームにおける失点シーンの特徴.宇部
工業高等専門学校研究報告 2006 ; 52 : 83-88.
8
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:9-17,2011
原著論文
看護学生に視聴覚教材をオンデマンドに閲覧させる
学習支援環境の評価 第2報
―教育的効果の再現性の検討―
林 さ と み 中 村 充 浩
平 田 美 和 高 畠 有理子
Outcomes of a Computer-Based System Providing Audio-Visual Aids on Demand for Nursing Students 2nd
Report : Repeatability of Effects on Learning :
Satomi Hayashi, Mitsuhiro Nakamura, Miwa Hirata, Yuriko Takabatake
Department of Nursing, Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences
Abstract : The purpose of this study is 1)to describe outcomes of a computer-based system continuously
applied to a basic nursing course of a baccalaureate program, in which selected audio-visual aids were
provided on the official school website on demand and 2)to examine the educational effects of this system
regardless of the change of the cohort. The nursing discipline has been highly interested in the application
of information and communication technology and its effects on nursing education. Although the previous
study revealed benefits of computer-based system, it is important to accumulate evidences to effectively
apply the technology for the nursing education.
This non-experimental study included 55 sophomore students enrolled in the course and an originally
developed questionnaire was used to measure outcomes. Valid data from 54 students were included in
further analysis. This study was approved by The Institutional Review Board of Tokyo Ariake Univeristy
of Medical and Health Sciences.
The results indicated that 63.8% of respondents viewed the audio-visual aids at home, 44.5% of those
agreed accessibility to this system, and 66.6% of those agreed value of this system for class preparation,
63.0% for review, and 59.2% for their learning goal attainments. Access to this system was expected among
85.5% of those after the end of these courses. Accessibility and the value for class preparation and review
were consistent regardless of the cohorts; however, the effects on students’learning goal attainments were
significantly decreased among the 2011 cohort.
The results may support the conclusion that this system might consistently allow students to view the
aids repeatedly depending on their learning needs. Use of other information and communication devices
and improvement for accessibility and interactivity have the potential to learn practical nursing skills more
actively depending on their learning demand across time and space.
key words:on demand, e-learning, university education of nursing student, teaching nursing skills, audiovisual aids
要旨:本学看護学科専門基礎科目の補助教材として選定した視聴覚教材を本学ウェブサイトからオンデマンド
に閲覧できるように構築した学習支援環境を平成23年度も看護学科専門基礎科目1科目に継続して同様に使用
した.本研究の目的は,この学習支援環境に対する学生の反応を調査し,昨年の先行研究で得られた教育効果
の再現性を考察することである.看護学において,教育に対する情報通信技術の効果的活用への関心は依然高
東京有明医療大学看護学部看護学科 E-mail address:[email protected]
9
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
く,看護学教育における効果や活用方法に関する知見を深めることは重要である.
本研究は,上記1科目の履修登録をした本学看護学部看護学科2年次生55名のうち,質問紙調査への参加に
同意の得られた54名の有効回答を用いた量的研究で,本学倫理委員会の承認を得て実施した.
調査の結果,63.8%の学生が自宅で閲覧し,44.5%の学生が概ねアクセスしやすいと回答し,昨年の先行研究
と比較して有意差は認められなかった.66.6%の学生がオンデマンドの視聴覚教材の活用は予習に役立った,
63.0%の学生が復習に役立った,59.2%の学生が各自の学習目標達成に有用だったと回答した.さらに,85.5%
の学生が当該科目終了後もオンデマンドによる閲覧の継続を希望した.予習,復習における有用性に昨年の研
究結果との有意差は認められなかったが,各自の学習目標達成に対する有用性においては,昨年に比較して有
意に低下した.
本学習支援環境における,各自の学習意欲に応じて視聴覚教材を何度も繰り返してみることができるという
効果は継続して得られた.しかし現状では,閲覧場所は自宅,大学,またはその他のネットワーク接続可能な
場所に限られ,一方向の情報提供に留まっている.今後,携帯可能な情報通信機器の活用,明瞭な画像提供の
ための帯域幅の増加,視聴覚教材選定の改善や視聴覚教材の新たな開発を行うことで,本学習支援環境の効果
をさらに高める可能性が推測された.
これらの結果から,視聴覚教材をウェブサイトの共有動画ファイルとしてオンデマンドで閲覧できるシステ
ムに潜在する問題を解決することによって,主体的に実践的看護技術の学習に取り組む学生の学習支援環境拡
大に更に貢献すると言える.
キーワード:オンデマンド,e-learning,看護大学教育,看護技術教育,視聴覚教材
にすることは,本学における看護教育の質の検討,看護
Ⅰ.背 景
におけるICTを活用した教育効果に関する知見を積み重
ねていくうえで必要である.
平成21年4月から施行された看護実践能力強化をめざ
した新カリキュラムに基づく本学看護学科専門基礎科目
2科目「フィジカルアセスメント」と「治療へのケア」
II.目 的
において,著者らは,平成22年に,限られた教育時間の
中で学生の学習目標達成を支援することを企図し,補助
本研究は,平成22年度に構築した学習支援環境を,平
教材として選定した視聴覚教材を主体的に閲覧する学習
成23年度も同様に継続して活用した本学看護学科専門基
支援環境を構築した1).これは,本学が採用するGoogle
礎科目「治療へのケア」において,平成23年度履修者を
Apps Education Standardのサイト作成機能と動画ファ
対象にこの学習支援環境への学生の反応を調査し,教育
イル共有機能を利用し,視聴覚教材を本学ウェブサイト
的効果の再現性を検討することを目的とする.
から学生がオンデマンドに閲覧できるよう設定した環境
である1).この学習支援環境に対する学生の反応を調査
III.研究方法
したところ,3分の2以上の学生が自宅で閲覧し,概ね
アクセスしやすいと回答した.また,4分の3以上の学
1.データ収集期間
生がオンデマンドの視聴覚教材の活用は予習,復習,各
平成23年6月7日~平成23年7月26日.
自の学習目標達成に有用で,当該科目終了後もオンデマ
ンドによる閲覧の継続を希望した.視聴覚教材をウェブ
2.対象者
サイトの共有動画ファイルとしてオンデマンドで閲覧で
東京有明医療大学看護学部看護学科2年次生のうち,
きるシステムが,主体的に実践的看護技術の学習に取り
平成23年度「治療へのケア」の履修登録した学生55名の中
組む学生の学習支援環境拡大に貢献する可能性を示唆す
で,データ収集実施前に本研究目的と実施方法,研究へ
る結果が得られた.
の参加は自由で自主的に決定できること,参加の是非や
回答内容が当該科目の成績に一切関与しないことを説明
情 報 通 信 技 術(Information and Communication
し,研究への参加に同意の得られた54名を調査対象とした.
Technology,以下ICT)を活用した看護教育に対する
関心は依然として高く,継続して研究,検討され,過去
3.データ収集方法
数年の日本看護科学学会学術集会においてもICTを活用
した看護教育に関する交流集会,セミナー,研究発表が
当該科目開講に先立ち,平成23年4月1日に,当該科
活発になされている2-5).したがって,平成22年の研究
目を履修登録した学生全員を対象として,本学情報セン
で得られた視聴覚教材を主体的に閲覧する学習支援環境
ターコンピュータ教室において科目担当教員が本学ウェ
における教育的効果は,対象者が変わっても一貫して得
ブサイト上に開設した専用サイトから,設定した視聴覚
られるのか継続的に評価し,その有用性や課題を明らか
教材を閲覧するアクセス方法を説明した.
10
VODによる学習支援の評価第2報
2.視聴場所および視聴人数
構築した学習支援環境の効果に関するデータ収集のた
めに,
「治療へのケア」の科目終了時に自記式質問紙を
主にオンデマンドによる視聴覚教材を視聴した場所
一括配布して無記名で回答を求めた.対象者である学生
は,
「自宅」37名(63.8%),
「本学図書館」0名(0.0%)
「本
,
には回答した質問紙の提出をもって調査参加に同意した
学情報センター」20名(34.5%)であった(※複数回答)
.
ものと見做すことを説明した後に質問紙を配布した.使
また,視聴人数は,
「概ね1人での視聴」37名(68.5%)
,
「複数(2名以上)での視聴が多い」16名(29.6%)
,無
用した自記式質問紙は,平成22年度調査に使用した質問
回答1名(1.9%)であった.
紙に著者らが一部変更を加え,16項目,28細項目の質問
に対して準備した2~6の選択肢から回答を選択するよ
3.インターネット接続状況,視聴覚教材視聴環境,
う整えた.変更点は,1)各視聴覚教材の有用性は「治
アクセスのしやすさ
療へのケア」の授業で課した視聴覚教材に限定した,2)
自宅のパーソナルコンピュータ(以下PC)のインタ
学生が単独で閲覧したかどうかを問う項目を追加した,
の2点である.
「治療へのケア」の開講期間中の専用サ
ーネット接続環境は,
「接続できる」51名(94.4%)
,
「接
イトの視聴覚教材の活用状況を示す各視聴教材の視聴時
続できない」2名(3.7%),
「自宅にPCなし」1名(1.9%)
期,閲覧時間は,履修者全体の専用サイトへのアクセス
であった.自宅PCでインターネットへの「接続ができ
動向の履歴情報から抽出し,事前に対象者の了解を得て
る」と回答した51名のうち,自宅PCを使用した視聴覚
から,データとして使用した.
教材の視聴に支障があったかどうかの回答を求めたとこ
ろ,「支障あり」13名(25.5名),「支障なし」38名(74.5
なお,本研究は平成22年7月4日に東京有明医療大学
%)であった.
倫理委員会の承認(倫理審査承認番号第27号)を得て,
オンデマンドによる視聴覚教材へのアクセスのしやす
本学倫理規定に則して実施した.
さについては,
「アクセスしやすい」9名(16.7%)
,
「ま
4.分析方法
あそう思う」15名(27.8%),「あまりそう思わない」21
調査対象54名から収集した各質問項目の有効回答,
名(38.9%),「そう思わない」9名(16.7%)であった.
専用サイト上の各視聴教材の視聴時期,閲覧時間から
Mann-Whitney U検定の結果,平成22年度の結果と比較
得られた量的データは,統計ソフトMicrosoft Excel,
して視聴覚教材へのアクセスのしやすさに有意差は認め
IBM SPSS Statistics 20 for Windowsにより一般記述統
られなかった(U=1356.000,z=-1.287,p=0.198)
.
計量ならびに推測統計量を求めた.自由記述により得
4.過去の視聴覚教材を使用した自己学習経験の有無
られた質的データは,本研究目的に即して学習支援環
と経験年数
境の効果に焦点を当てて継続比較分析(The Constant
過去の視聴覚教材を使用した自己学習経験は,
「ある」
Comparative Analysis)し,コード化とカテゴリー化を
25名(46.3%),
「ない」29名(53.7%)であった.
「ある」
行った6,7).
と回答した25名のうち,視聴覚教材を使用した自己学習
経験年数は,「1年未満」19名(76.0%),「1年以上2
IV.結 果
年未満」4名(16.0%),「2年以上3年未満」2名(8.0
%),
「3年以上4年未満」および「4年以上」0名(0.0%)
平成23年度「治療へのケア」の履修登録した学生55名
であった.Mann-Whitney U検定の結果,平成22年度の
のうち,54名から回答を得た.各質問項目の有効回答を
結果と比較して経験年数に有意差は認められなかった
分析対象とした.表1に各質問項目に対する回答結果,
(U=1437.000,z=-0.824,p=0.410).
平成22年度結果とMann-Whitney U検定による比較結果
を示す.
5.視聴覚教材の分かりやすさ
視聴覚教材の分かりやすさについて,「総じてわかり
1.週平均視聴時間
オンデマンドによる視聴覚教材の視聴に費やした時間
やすい」6名(11.1%),
「まあ分かりやすい」21名(38.9
は,
「1時間/週未満」36名(66.6%)
,
「1~2時間/週」
%),「あまりそう思わない」24名(44.4%),「そう思わ
15名(27.8%)
,
「3~4時間/週」2名(3.7%),「5~
ない」3名(5.6%)であった.Mann-Whitney U検定の
6時間/週」
0名
(0.0%)
「7時間/週以上」
,
1名
(1.9%),
「視
結果,平成22年度の結果と比較して有意な差が認められ
聴しなかった」0名(0.0%)であった.Mann-Whitney
(U=1051.500,z=-3.208,p<0.05),平成23年度2年次生
U検定の結果,平成22年度の結果と比較して視聴に費
は平成22年度に比較して視聴覚教材が分かりにくいと感
やした時間に有意差は認められなかった(U=1268.500,
じていた.
z=-1.925,p = 0.054)
.
11
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
表1 本学習支援環境の導入に関する学生の反応
(1)週平均視聴時間
本年度
昨年度
「1時間/週未満」
36名(66.6%)
24名(41.4%)
「1~2時間/週」
15名(27.8%)
22名(37.9%)
「3~4時間/週」
2名(3.7%)
5名(8.6%)
「5~6時間/週」
0名(0%)
1名(1.7%)
「7時間/週以上」
1名(1.9%)
1名(1.7%)
「視聴しなかった」
0名(0%)
3名(5.2%)
無回答
0名(0%)
2名(3.4%)
(本年度:n = 54、昨年度:n = 58)
Mann-Whitney
U
z値
有意の偏り
(両側)
1268.500
-1.925
0.054
1356.000
-1.287
0.198
1437.000
-0.824
0.410
1051.500
-3.208
0.001*
(2)視聴場所および視聴人数
<主にオンデマンドによる視聴覚教材を視聴した場所>(※複数回答)
「自宅」
37名(63.8%)
35名(60.3%)
「本学図書館」
0名(0%)
3名(5.2%)
「本学情報センター」
20名(34.5%)
20名(34.5%)
「その他」
1名(1.7%)
2名(3.4%)
<視聴人数>
「概ね1人での視聴」
37名(69.8%)
−
「複数(2名以上)での視聴が多い」
16名(30.2%)
−
無回答
1名(1.7%)
−
(3)自宅PCのインターネット接続および視聴覚教材視聴環境、アクセスのしやすさ
<自宅PCのインターネット接続環境>
「接続できる」
51名(94.4%)
52名(89.7%)
「接続できない」
2名(3.7%)
3名(5.2%)
「自宅にPCなし」
1名(1.9%)
3名(5.2%)
<自宅PCで「インターネット接続ができる」と回答した者のうち>
自宅PCを使用した視聴覚教材視聴環境に「支障あり」
13名(25.5%)
10名(17.2%)
自宅PCを使用した視聴覚教材視聴環境に「支障なし」
38名(74.5%)
40名(69.0%)
「アクセスしやすい」
9名(16.7%)
9名(15.5%)
「まあそう思う」
15名(27.8%)
25名(43.1%)
「あまりそう思わない」
21名(38.9%)
19名(32.7%)
「そう思わない」
9名(16.7%)
5名(8.6%)
<視聴覚教材へのアクセスのしやすさ>
(4)過去の視聴覚教材を使用した自己学習経験の有無と経験年数
<自己学習経験の有無>
「ある」
25名(46.3%)
31名(53.4%)
「ない」
29名(53.7%)
27名(46.6%)
<「ある」と回答した者のうち、視聴覚教材を使用した自己学習経験年数>
「1年未満」
19名(76%)
21名(36.2%)
「1年以上2年未満」
4名(16%)
4名(6.9%)
「2年以上3年未満」
2名(8%)
4名(6.9%)
「3年以上4年未満」
0名(0%)
0名(0%)
「4年以上」
0名(0%)
1名(1.7%)
無回答
0名(0%)
1名(1.7%)
「総じてわかりやすい」
6名(11.1%)
16名(27.6%)
「まあ分かりやすい」
21名(38.9%)
30名(51.7%)
「あまりそう思わない」
24名(44.4%)
9名(15.5%)
「そう思わない」
3名(5.6%)
5名(8.6%)
(5)視聴場所および視聴人数
12
VODによる学習支援の評価第2報
(6)視聴場所および視聴人数
予習に 「役立った」
10名(18.5%)
21名(36.3%)
「まあ役立った」
26名(48.1%)
24名(41.4%)
「あまり役立たなかった」
17名(31.5%)
8名(13.8%)
「役立たなかった」
1名(1.9%)
5名(8.6%)
復習に 「役立った」
9名(16.7%)
13名(22.5%)
「まあ役立った」
25名(46.3%)
31名(55.2%)
「あまり役立たなかった」
18名(33.3%)
8名(13.8%)
「役立たなかった」
2名(3.7%)
5名(8.6%)
6名(11.1%)
14名(24.1%)
1280.500
-1.774
0.076
1355.500
-1.331
0.183
1250.000
-1.990
0.047*
(7)自己の学習目標達成のための有用性
「役立った」
「まあ役立った」
26名(48.1%)
29名(50.0%)
「あまり役立たなかった」
22名(40.7%)
9名(15.5%)
「役立たなかった」
0名(0%)
5名(8.6%)
47名(85.5%)
43名(74.1%)
(8)今後の視聴覚教材の活用方法に対する希望
<本科目の指定する視聴覚教材の活用方法>(※複数回答)
「オンデマンドによる方法」
「図書館での貸出手続きによる方法」
3名(5.5%)
6名(10.3%)
「その他」
5名(9.1%)
8名(13.8%)
無回答
0名(0%)
1名(1.7%)
<他の授業における視聴覚教材のオンデマンドによる活用>
「活用する方がよい」
9名(16.7%)
−
「まあ活用してもよい」
19名(35.2%)
−
「あまり活用しなくてもよい」
19名(35.2%)
−
「活用しなくてもよい」
6名(11.1%)
−
無回答
1名(1.9%)
−
*はp<0.05で有意を示す
6.予習および復習を行うための有用性
結果と比較して有意な差が認められ(U=1250.000,z=-
オンデマンドによる視聴覚教材の活用が予習に役立っ
1.990,p<0.05),平成23年度2年次生は平成22年度に比
たかどうかについて,
「役立った」10名(18.5%),「ま
較してオンデマンドによる視聴覚教材の活用が自己の学
あ役立った」26名(48.1%)
,
「あまり役立たなかった」
習目標達成には役に立たなかったと感じていた.
17名(31.5%)
,
「役立たなかった」1名(1.9%)であっ
8.今後の視聴覚教材の活用方法に対する希望
た.一方,復習については,
「役立った」9名(16.7%),
本科目「治療へのケア」で指定する視聴覚教材の今
「まあ役立った」25名
(46.3%)
,
「あまり役立たなかった」
後の活用方法について,「オンデマンドによる方法」47
18名(33.3%)
,
「役立たなかった」2名(3.7%)であっ
た.Mann-Whitney U検定の結果,平成22年度の結果と
名(85.5%),「図書館での貸出手続きによる方法」3名
比較して予習,復習における有益性に有意差は認められ
(5.5%),「その他」5名(9.1%)であった.また,他の
なかった(予習;U=1280.500,z=-1.774,p=0.076,復習;
授業における視聴覚教材のオンデマンドによる活用につ
U=1355.500,z=-1.331,p=0.183)
.
いて,「活用する方がよい」9名(16.7%),「まあ活用し
てもよい」19名(35.2%),「あまり活用しなくてもよい」
7.当該科目学習目標達成のための有用性
19名(35.2%),「活用しなくてもよい」6名(11.1%)
,
オンデマンドによる視聴覚教材の活用が自己の学習目
無回答1名(1.9%)であった.
標達成に役立ったかどうかについて,
「役立った」6名
9.各授業で課題とした視聴覚教材の有用性
(11.1%)
,
「まあ役立った」26名
(48.1%)
,
「あまり役立た
各授業で課題とした視聴覚教材の有用性について表2
なかった」22名
(40.7%)
,
「役立たなかった」0名(0.0%)
に示す.各授業内容に合わせて,課した視聴覚教材が有
であった.Mann-Whitney U検定の結果,平成22年度の
13
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
表2 各授業で課題とした視聴覚教材の有用性
授業内容
滅菌操作,無菌操作,包帯交換,
ドレーンの管理
視聴覚
教材
No.
視聴覚教材
タイトル
1
手洗い・ガウン・マス
ク・手袋の装着・着脱
そう
思う
0(0.0%) 16(29.6%) 29(53.7%) 9(16.7%)
無回答
0(0.0%)
滅菌物の取り扱い
0(0.0%) 14(25.9%) 29(53.7%) 11(20.4%)
0(0.0%)
滅菌操作の介助
0(0.0%) 14(25.9%) 30(55.6%) 10(18.5%)
0(0.0%)
0(0.0%) 15(27.8%) 25(46.3%) 14(25.9%)
0(0.0%)
1(1.9%) 16(29.6%) 26(48.1%) 11(20.4%)
0(0.0%)
経口薬・外用薬投与
5
酸素カヌラ,酸素マスク,気道内加湿
法,吸入,酸素ボンベの操作と管理
大体
そう思う
2
4
静脈注射法
持続点滴法と輸液ポンプの管理
あまりそう
思わない
3
導尿
膀胱留置カテーテル挿入・管理
筋肉内注射法
皮下注射法
そう
思わない
n = 54
膀胱留置カテーテルの
挿入・固定
経口薬,外用薬,座薬,
吸入の与薬
6
筋肉注射
0(0.0%) 17(31.5%) 23(42.6%) 14(25.9%)
0(0.0%)
7
皮下注射
0(0.0%) 14(25.9%) 25(46.3%) 15(27.8%)
0(0.0%)
8
皮内注射
0(0.0%) 15(27.8%) 26(48.1%) 13(24.1%)
0(0.0%)
9
点滴静脈注射
1(1.9%) 18(33.3%) 20(37.0%) 15(27.8%)
0(0.0%)
10
静脈注射
1(1.9%) 20(37.0%) 20(37.0%) 13(24.1%)
0(0.0%)
11
輸液ポンプ
2(3.7%) 19(35.2%) 20(37.0%) 13(24.1%)
0(0.0%)
12
シリンジポンプ
1(1.9%) 18(33.3%) 21(38.9%) 14(25.9%)
0(0.0%)
13
吸入
0(0.0%) 21(38.9%) 22(40.7%) 9(16.7%)
2(3.7%)
用であったかどうかについて,
「そう思う」9~15名(16.7
わかりやすさの限界,の4つのカテゴリーを抽出した.
~27.8%)
「大体そう思う」20~30名(37.0~55.6%),
,
「あ
1)カテゴリー1「オンデマンド教材の具体的イメー
ジと必要に応じた繰り返しによるわかりやすさ」
まりそう思わない」14~21(25.9~38.9%)
,
「そう思わ
『自分で(教科書をみて)手順を書いているだけでは,
ない」0~2名(0.0~3.7%)であった.各視聴覚教材
に対する有用性にはばらつきがみられるが,各授業で課
具体的によく分からなかったので,動画を見て分かりや
題とした視聴覚教材における有用性を支持する回答「そ
すかった(学生A)』,『自分の時間にいつでも見れるこ
う思う」および「大体そう思う」を合わせると31~40名
とが役立った(学生B)』,『わからないところを何度で
も見ることができてよかった.分かりやすかった(学生
(57.4~74.1%)であった.
C)』,『イメージはつかめた(学生D)』の記述に示され
るように,構築した学習支援環境において各学生が必要
に応じて視聴覚教材を繰り返し見ることができる,習得
10.閲覧動向履歴情報における履修者全体の視聴覚教
材視聴時期,視聴時間
すべき基本的看護技術の一連の動作に対して具体的なイ
本年度補助教材として使用した視聴覚教材は13タイト
メージを持つことができる,ということによって,各学
ルで,視聴覚教材の再生時間は最小2分19秒,最大26分
生が当該科目で学ぶ基本的看護技術がわかる,という効
54秒,平均9分39秒であった.視聴覚教材別の視聴回
果について言及していると解釈した.これらの記述から,
「オンデマンド教材の具体的イメージと必要に応じた繰
数は最小17回,最大58回,平均34.7回であった(表3).
視聴覚教材の学生別の合計視聴回数は最小0回,最大34
り返しによるわかりやすさ」というカテゴリーを抽出した.
回,平均7.5回であった.視聴覚教材の視聴のタイミン
2)カテゴリー2「予習・復習におけるオンデマンド
教材の有用性」
グは演習15日前から演習13日後で視聴回数が多いのは演
『復習には役立つが予習には不向き(学生E)』,
『事前
習前日が247回(54.9%)
,演習8日以前が73回(16.2%),
に見ることに関しては良いと思う(学生F)』,『復習と
演習2日前が44回(9.8%)であった(表3)
.
しては役立つと思う(学生G)』の記述は,学生により
感じ方は異なるものの,この学習支援環境の予習や復習
11.本試みの有益性,ならびに今後の活用に関する自
由記述
における有用性を示していると解釈した.同様の記述を
まとめ「予習・復習におけるオンデマンド教材の有用性」
調査対象者54名のうち25名(46.3%)の回答が得られ,
というカテゴリーを抽出した.
分析の結果,1)オンデマンド教材の具体的イメージと
3)カテゴリー3「オンデマンド教材の使用環境の限界」
必要に応じた繰り返しによるわかりやすさ,2)予習・
復習時におけるオンデマンド教材の有用性,3)オンデ
『iPhoneで見られなかったので不便だった.アクセス
マンド教材の使用環境の限界,4)オンデマンド教材の
制御が面倒(学生H)』,『自宅のパソコンで見ることが
14
VODによる学習支援の評価第2報
表3 視聴覚教材の視聴状況
視聴覚教材
No.
1
動画時間(分) 10:20
8日以前
0
2
3
4
4:28
3:32
8:45
0
0
1
5
6
26:54 11:05
10
1
7
8
9
10
11
12
13
2:19
2:52
15:07
5:57
5:09
4:55
24:10
0
0
13
40
3
3
2
計
割合
(%)
73
16.2
7日前
0
0
0
2
1
2
2
2
1
1
1
1
1
14
3.1
6日前
0
0
0
6
0
2
1
2
0
0
0
0
0
11
2.4
5日前
0
0
0
2
0
1
0
3
0
0
0
0
2
8
1.8
4日前
0
0
0
1
1
0
0
0
2
2
1
2
1
10
2.2
3日前
0
0
0
2
1
0
0
0
0
0
0
0
2
5
1.1
2日前
4
4
4
2
5
6
7
6
2
0
0
0
4
44
9.8
1日前
19
13
11
16
24
31
26
19
24
14
13
19
18
247
54.9
演習当日
0
0
0
0
1
0
0
0
1
0
0
0
1
3
0.7
1日後
0
0
1
0
0
0
0
0
2
0
1
1
0
5
1.1
2日後
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
1
1
0
3
0.7
3日後
0
0
0
1
0
0
0
0
2
1
1
0
0
5
1.1
4日後
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
5日後
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
6日後
2
0
0
0
2
0
0
0
1
0
5
7
0
17
3.8
7日後
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
8日以降
2
0
1
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
5
1.1
計
27
17
17
35
45
43
36
32
49
58
26
34
31
450
100
できないので不便(学生I)
』
,
『画質が悪いので,詳細部
V.考 察
まで確認できなかった(学生J)
』
,
『画面と音が合ってい
ない(学生K)
』の記述には,構築した学習支援環境を
本研究によって得られた結果では,著者らが構築した
端末で使用するには限界があり,多様な携帯できる端末
学習支援環境を利用した学生の多くが,毎週1時間未満
に対応できる,オンデマンド環境の更なる充実に対する
を視聴覚教材の閲覧に費やしており,昨年の研究結果と
期待と,この学習支援環境において膨大な情報である映
有意な差はなかった.実際の閲覧履歴では,学生一人あ
像及び音声情報を明瞭に配信するには限界があると解釈
たりの平均視聴回数は7.5回で,13タイトルすべての視
した.これらの記述から,
「オンデマンド教材の使用環
聴覚教材を視聴した可能性は少ない.しかし約30%の学
境の限界」というカテゴリーを抽出した.
生は視聴覚教材を視聴する際,同じ画面を複数の学生で
視聴することが多かったと回答していることから,実際
4)カテゴリー4「オンデマンド教材のわかりやすさ
の学生一人あたりの視聴回数は調査結果より多かったと
の限界」
『先生方のデモの方が良い,実際に見た方が分かりや
推測される.また視聴回数には開きがあり,自己学習に
すい(学生L)
』
,
『視聴覚教材でも分かりやすいと思う
おける視聴覚教材活用には学生によって差があった.当
が実際にやってもらわないと,細かい所まで分かりに
該科目の補助教材として使用した視聴覚教材13タイトル
くい(学生M)
』
,
『援業でも演習をしっかりやり,サイ
の平均再生時間は9分39秒(最小2分19秒,最大26分54
トでも閲覧することにより技術の向上につながる(学生
秒),視聴覚教材別の平均視聴回数は34.7回(最小17回,
N)
』の記述に示されているように,この学習支援環境
最大58回)で,最小値と最大値に大きな差がみられた.
は教員のデモンストレーションや授業を補完する効果は
視聴回数は,視聴覚教材の再生ボタンが押された回数の
あるが,技術の細かい部分がわかり,
「技術の向上」に
みをカウントしており,視聴覚教材を始めから終わりま
は演習とオンデマンド教材との併用が望まれるという主
で視聴したかどうかは明らかではなく,これは本研究の
旨を示すと解釈した.これら同様の記述から,
「オンデ
限界でもある.
本研究の結果では,昨年の研究結果と同様に学生は構
マンド教材のわかりやすさの限界」というカテゴリーを
築した学習支援環境を予習にも復習にも活用していた.
抽出した.
しかし,視聴覚教材の閲覧履歴では,視聴のタイミング
は演習前視聴91.1%,演習当日0.7%,演習後7.8%とい
15
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
う結果を示し,ほとんど予習として視聴していたことが
の制約を受けることなく学生が視聴覚教材を閲覧してそ
推測される.演習当日は,学生自身が自分で技術を実践
の教材に掲載された音声や映像情報を受け取ることはで
する必要があり,演習当日教科書などの教材による予習
きる.しかしながら,教員と学生が相互に意見や情報を
に加え,視聴覚教材を事前に,視聴することで学習する
交換し学生の個別の質問に教員が回答するような環境に
技術の一連の動作や必要物品の使用方法をイメージでき
は設定されていない.習得しようとする技術の細かい部
るよう,当該科目開講中,予習として本学習支援環境を
分までわかるためには,デモンストレーションや授業で
活用することを推奨した.この働きかけにより演習前の
実現される教員との相互交流が重要であると捉えている
視聴が多かったのではないかと考える.また,演習前日
本学学生のニーズに応えられるよう,教員と学生間の相
と2日前の視聴が多いのは,演習において技術を実践す
互交流が実現できるような方法を探究し,今後より効果
る際,その技術を一連の動作として記憶するのに役立つ
的に本学習支援環境を活用する必要性がある.
時期と考えられ,当該科目学習目標を達成するための支
今後の視聴覚教材の活用方法に対する要望についてオ
援となったのではないかと推察される.自由記述から抽
ンデマンドによる方法を選択した学生は74.1%(昨年度)
出したカテゴリー1「オンデマンド教材の具体的イメー
から85.5%(本年度)に上昇し,今後のオンデマンドの
ジと必要に応じた繰り返しによるわかりやすさ」
,カテ
ニーズは高い.現状ではVHSビデオテープによる画像
ゴリー2「予習・復習時におけるオンデマンド教材の有
として提供されている視聴覚教材をPC上で再生可能な
用性」に一致して,教科書などの教材に記述された看護
映像ファイルに変換してそのままオンデマンド教材とし
技術を,視聴覚教材の映像を通じて一連の動作として具
て提供しているため,映像の解像度低下は避けられない.
体化し,また必要に応じて学生が視聴覚教材を繰り返し
しかしながら,自由記述から抽出したカテゴリー3「オ
見ることによって,本学習支援環境が学生に主体的に活
ンデマンド教材の使用環境の限界」における学生の言及
用される可能性が示された.
に示されているように,不鮮明な映像のため,視聴覚教
ほとんどの学生の自宅PCはインターネット接続が可
材の内容が視聴する学生にとってわかりにくいものとな
能で,主に自宅で視聴覚教材を視聴した学生が60%以上
るため,本学習支援環境の有用性を低下させていると考
を占めた.一方で,自宅での視聴において,4人に1
えられる.
人の学生が視聴覚教材の視聴環境に支障があり,2人に
専用サイト上の視聴覚教材をオンデマンドで視聴でき
1人がアクセスのしやすさに問題があると回答した.こ
るよう構築した学習支援環境は,時間や場所を越えて,
の結果は昨年の研究結果と比較して有意差は認められな
具体的なイメージを持ちながら専門技術を習得する学習
かった.昨年度の結果を踏まえ本年度は新たに専用サイ
を支援する効果は継続して認められたと評価できる.し
トへのアクセスに問題が生じた時の対応をサポートする
かし本学習支援環境のオンデマンドという特性から,学
ヘルプデスクを設置したが,今年度の結果は更なるサポ
習効果を最大限にできるような教材の選択や開発,さら
ートの必要性を示唆していると考える.先行研究では,
により効果的な学習支援に向けて教員と学生が互いに交
ICTが効果的に運用されるための要件としてPC操作方
流できる機能を備える必要性も本研究結果は示している
法を記述したマニュアルの配布や十分な説明の必要性も
と考える.
明らかになっており8),本学習支援環境の有効活用にも
週平均視聴時間,視聴場所,アクセスのしやすさ,過
同様の対応を行う必要がある.更にアクセスのしやすさ
去の視聴覚教材を使用した自己学習経験の有無と経験年
については,
約50%が「あまりそう思わない」または「そ
数において,本年度の研究対象者と昨年度の研究対象者
う思わない」と回答した.この結果は昨年度の結果に比
とでは有意な違いは認められず,今回の研究結果におい
較して有意差が認められなかったが昨年度の41.3%から
て,オンデマンドによる視聴覚教材のわかりやすさと自
上昇していた.先行研究においてビデオオンデマンドの
己の学習目標達成のための有用性の2項目に有意差が生
満足度に強く影響を及ぼす要因として,アクセスの簡易
じたその背景を推察するには限界がある.対象者が変わ
さが挙げられており9),本学習支援環境のアクセシビリ
ったことによって本学習支援環境の有用性に対する評価
ティを更に改善する必要性もこの結果は示していると考
に違いが生じた今回の結果を受け,更にデータを蓄積し
える.
て本学習支援環境の教育的効果について継続的に検討す
る必要性がある.
オンデマンドによる視聴覚教材のわかりやすさでは,
「総じてわかりやすい」との回答が昨年度と比較して減
少し,自己の学習目標達成のための有用性では,
「役立
VI.今後の展望
った」との回答が昨年度と比較して減少し,有意差が認
められた.これに一致して,自由記述から抽出したカテ
本稿に記述した研究では特に,精神運動領域技術の習
ゴリー4「オンデマンド教材のわかりやすさの限界」に
得を含む看護学教育におけるe-learningにおいて,単に
も示されているように,本学習支援環境は,時間や場所
ICTを使用した教育方法にとどまることなく,学習者と
16
VODによる学習支援の評価第2報
教育者が双方向の交流をもちながら主体的に学ぶ環境の
引用文献
実現を目指す視点の重要性を示唆する結果が得られた.
1)林さとみ,伊豆上智子,北島泰子 ほか.看護学生に視聴覚
教材をオンデマンドに閲覧させる学習支援環境の評価.東京
有明医療大学雑誌 2010;2:13-20.
2)日本看護科学学会.第28回日本看護科学会学術集会講演集.
2008.
3)日本看護科学学会.第29回日本看護科学会学術集会講演集.
2009.
4)日本看護科学学会.第30回日本看護科学会学術集会講演集.
2010.
5)日本看護科学学会.第31回日本看護科学会学術集会プログラ
ム.2011.
6)Glaser, B.G., Strauss, A.L. The discovery of grounded theory:
Strategies for qualitative research. Piscataway, NJ: Aldine
Transaction; 1967.
7)Strauss, A.J., Corbin, J. Basics of qualitative research:
Techniques and procedures for developing grounded theory.
2nd ed. Thousand Oaks, CA: SAGE Publication Ltd; 1998.
8)越智由紀子,栗原保子.看護技術教育における授業改善への
試み(II).看護教育 2001;42(7):567-571.
9)山田巧,川畑安正,西尾和子 ほか.看護技術教育における
VOD(video on demand)システムへの学生の満足度に影
響を及ぼす要因分析について.国立看護大学校研究紀要 2003;2(1):24-30.
また,学習者の需要(デマンド)に応じた教育の実現に
は,時間や場所に留まらず多角的な意義,効果を検討す
る重要性も明らかになった.今後はこれらの視点を考慮
した本学習支援環境の改善,発展が望まれる.
謝 辞
今回の調査に参加・ご協力いただきました学生の皆様に厚く御礼
申し上げます。視聴覚教材を本学ウェブサイト上に掲載するテク
ニカルサポート、視聴覚教材出版社との調整に引き続きご協力、
ご尽力くださいました本学情報センター長前田樹海先生、同セン
ター山崎健氏、本学図書館松井達行氏、平成22年度研究データの
使用をご快諾くださいました看護学科伊豆上智子先生、北島泰子
先生、高橋正子先生に深く感謝申し上げます。
17
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:19-21,2011
短 報
定量液吐出容器(ハンドラップⓇ)
の安全性の検討
菅 原 正 秋 坂 井 友 実
そこで感染制御の観点から,本容器が皮膚消毒用アル
Ⅰ.はじめに
コールを入れる容器として適しているか否かを検証する
目的で,容器内のアルコール濃度の変化,異物混入の可
近年,医療関連施設では院内感染防止の観点から,ア
能性について調査した.
ルコール綿入り万能つぼの使用を避け,使い捨てのパッ
ク式消毒綿や単包製品を導入する施設も増加している.
一方,鍼灸の臨床現場では,皮膚消毒用アルコールの
Ⅱ.方 法
容器として,定量液吐出容器
(ハンドラップⓇ)がよく用
いられており,本邦の鍼灸師養成学校の44%がこれを使
調査は2010年5~6月に本学の実習室で行った.実習
用した皮膚消毒を指導している1).本容器は,図1に示
室で使用しているハンドラップⓇ10個を無作為にサンプ
すように上部の受皿部分を押すことにより,ガラス容器
リングし,検体とした.容器内には消毒用エタノール
(エ
内の液体をサイフォンの原理を用いて上部へ吐出させる
コ消エタⓇ消毒液 ヨシダ製薬)150mLを入れ,週4回の
ことができる.よって,アルコール綿を使用する時に使
頻度で1ヵ月間使用した.使用期間を1ヵ月と定めたの
う分量だけ作製することができ,経済的であることが長
は,容器内の残量が1/3以下となるおおよその期間が1ヵ
所として挙げられる.しかし,本容器は本来,実験用機
月だったためである.1ヵ月後,容器内のエタノールを
器として使用されているものであり,鍼灸以外の医療の
10mL採取し,滅菌済みガラス容器に分注し,エタノール
現場で用いられることはほとんどない.
濃度測定を行った.濃度測定は,ガスクロマトグラフィ
により行った.また,残りのエタノールの一部はスポイ
トで吸い取り,実体顕微鏡により観察し,混入異物の検
索を行った.
Ⅲ.結 果
サンプリングされた10
個のハンドラップⓇは調査
表1 各検体のエタノール濃度
サンプル
No.
エタノール濃度
(vol%)
1
78.16
2
78.02
3
78.24
4
78.10
5
78.38
6
78.32
7
78.28
8
78.08
9
78.24
10
78.16
期間中,週4回の頻度で
鍼実技実習の際に使用し,
注ぎ足しは行わなかった.
表1に示すとおり,10検
体のエタノール濃度の平
図1 定量液吐出容器(ハンドラップⓇ)
上部の受皿部分を押すことにより,ガラス容器内の液体をサ
イフォンの働きにより上部へ吐出させることができる.
均は78.20(標準偏差0.11)
v/v %(volume/volume
%)
であった.本調査に使
本容器を使用したことによる感染事例等の報告はない
用した製品の元々のエタ
ものの,安全性について検討した研究もないため,これ
ノール濃度は,メーカー
が皮膚消毒用アルコールの容器として適当であるかは疑
から提示された製品試験
問である.本容器は長時間容器内にアルコールを入れた
成績書により78.7v/v%
まま使用するため,アルコール濃度が徐々に低下する可
であることが判明したた
能性や,サイフォン上部の受け皿を押すことにより,容
め,使用開始1ヵ月後の
器中の液体が染み出てくるため,サイフォン内部を通じ
数値にはほとんど変化が
て異物混入の危険性などが懸念される.
なかった.
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 E-mail address:[email protected]
19
平 均
78.20
標準偏差
0.11
サンプリングした10検体のエタ
ノール濃度の平均は78.20( 標準
偏差0.11)v/v%であった.測定
はガスクロマトグラフィにより
行った.
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
一方,実体顕微鏡による観察では,すべての検体から
については,医療関連施設でほとんど使用されていない
カット綿の繊維と思われる混入物が確認された
(図2).
などの理由からこれを題材とした研究は皆無であり,不
また,1つの検体からは,実習室で使用していたバスタ
明な点が多い.そこで,著者らはハンドラップⓇの安全
オルの繊維
(糸くず)
も発見された
(図3)
.
性を検討するために,アルコール濃度の変化や外来異物
の混入の可能性などの観点から調査を行った.
エタノール濃度測定の結果からは,注ぎ足しなどを行
わない通常使用時ではエタノールの揮発による濃度低下
はほとんどみられず,消毒効果に何ら問題ないことが分
かった.揮発が起きにくい理由としては,容器の構造上,
使用時以外はほぼ密閉が保たれていること,容器の形状
が上方に向かうにつれて狭くなる円錐形であることなど
が挙げられる.
一方,実体顕微鏡による観察では,カット綿の繊維や
バスタオルの繊維などが検出されたことから,サイフォ
ン上部の受け皿に付着した異物がサイフォン内部を介し
て容器内に侵入することが確認された.サイフォン部分
は上部の受け皿を押すことにより内容液を吐出する仕組
図2 ハンドラップⓇ内から検出されたカット綿の繊維
すべての検体では,多数のカット綿の繊維と思われる混入物
が確認された.検索は実体顕微鏡で行ったが,写真は光学顕
微鏡による拡大像(300倍)である.
みになっているが,それと同時に内容液の逆流も起きて
いると推測される.よって,今回の実験では確認できて
いないが,上部の受け皿が微生物に汚染された場合には,
内容液も汚染されるというリスクも想定される.無論,
内容液がアルコールではほとんどの微生物は生存できな
いと考えられるが,芽胞菌が混入した場合などではその
限りではなく,安全性において万全とは言えない.
以上のことから,感染制御上,ハンドラップⓇを使用
することによる明確なリスクは見出せなかったが,管理
方法によっては安全性を担保できない場合もあることが
示唆された.
Ⅴ.おわりに
ハンドラップⓇが皮膚消毒用アルコールを入れる容器と
して適しているか否かを検証する目的で,容器内のアル
図3 ハンドラップⓇ内から検出された
バスタオルの繊維(糸くず)
1つの検体からは,実習室で使用していたバスタオルの繊維
が発見された.検索は実体顕微鏡で行ったが,写真は光学顕
微鏡による拡大像(300倍)である.
コール濃度の変化,異物混入の可能性について調査した
結果,以下のような結果が得られた.
1.使用開始1ヵ月後のアルコール濃度にはほとんど
変化がみられなかった.
2.実体顕微鏡による観察では,カット綿の繊維やバ
スタオルの繊維などが検出された.
Ⅳ.考 察
3.感染制御の観点から,ハンドラップⓇを使用する
鍼灸医療安全ガイドライン2)では,皮膚消毒に使用す
ことによる明確なリスクは見出せなかった.
る消毒綿を作製する器具としてハンドラップⓇが紹介さ
れているが,安全性に関する明確なエビデンスは示され
謝 辞
ていない.
本研究において,アルコール濃度測定にご協力頂いたヨシダ製
薬の皆様に深く感謝致します.
消毒綿の安全性に関する研究としては,万能つぼ内の
消毒綿の濃度変化や細菌汚染を調査した研究があり,作
り置きしたアルコール綿の濃度低下やアルコールでは消
参考文献
毒不可能な芽胞菌による汚染などの問題点が明確になっ
1)菅原正秋,小林寛伊,大久保憲,ほか.鍼実技実習における感
染対策教育の現状 −全国のはり師きゅう師養成学校を対象と
ている3,4).しかし,これまでハンドラップⓇの安全性
20
定量液吐出容器(ハンドラップⓇ)の安全性の検討
した実態調査−.全日本鍼灸学会誌 2011;61(3):226-237.
2)尾崎昭弘,坂本 歩,鍼灸安全性委員会
(編)
.鍼灸医療安全ガ
イドライン.東京:医歯薬出版;2007.
3)西浦郁絵,松浦由紀子,田嶋憲子,ほか.アルコール綿の経時
的濃度変化 使用までの露出による影響.神戸市看護大学短期
大学部紀要 2003;22:49-54.
4)甲田雅一,丸茂一義,手塚知子,ほか.アルコール入り万能壺
の危険性に関する検討.薬理と治療 2003;31
(12)
:1039-44.
21
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:23-28,2011
長崎遊学手記
―貴宝・紅夷外科宗伝を訪ねて―
福 田 格
Ⅰ.大村の医学史跡
今夏,長崎県の医学史跡研修に参加した.長崎県柔道整復師会の働きかけで長崎大学医学部のご好意を受けることが
叶ったからである.長崎大学医学部の宝を閲覧させていただけることが最高の企画である.私たち参加者は空路長崎大
村空港に10時半に集合した.長崎県の接骨医学史研究会会員の出迎えを受け,ワゴン車に乗り込んだこの日は,猛暑で
ある.車内で涼みながらまずは大村市の医学史跡を目指す.大村は近代医学の先鞭性を付けた長与専斎の生誕地である.
まずは国立大村病院玄関そばにある長与専斎のブロンズ像
(図1)
に会いに行く.
“衛生”の言葉を残した人だ.大村藩医
の家系に生まれ,適塾に学び,勧められて長崎でポンペに
も学んでいる.明治6年欧米視察団に加わり,その知識を
持って我が国の公衆衛生の指標を付けた人である.生誕の
地は現在個人の住むところとなっていたが,快く見学を許
され,記念碑のみならず,移築した田崎真珠ゆかりの家屋
や手入れの行き届いた庭園を見せていただいた
(図2).す
ばらしい長崎文化を感じた滑り出しだ.生誕地を辞して旧
宅へ向かう
(図3)
.うっそうとした木々に囲まれ,清楚に
たたずむ旧宅である.10数年前に訪れた時と景観が異なっ
ていたのは移築されていたことによるが,学問の匂いのす
る佇まいは,変りがない.この佇まい,人を感じるのであ
る.明治の男と見るべきか美学を感じる.
図1 長与専斎胸像
図2 長与専斎生誕地
図3 長与専斎旧宅
Ⅱ.長崎市内へ
時間が押しているらしい.せかされてワゴン車に乗り込んだ私たちは爆心地平和公園の傍を通って“長崎の鐘”で有
名な永井隆博士の如己堂へ向かった.原爆で奥様を失い,ご自身も高度の被爆,お二人のお子さんを抱えて2畳一間の
東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科 E-mail address:[email protected]
23
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
住まいでご自身のなせることを命の限り尽くされたことは,周知のところだが,ここを訪れる度に目頭が熱くなる.今
回は周りの景観の変化に時の移ろいを感じざるを得なかった.幾度となく訪れてはいるのだが,この佇まいに吹く風や,
太陽の光は何故か悲惨な戦争だけでなく,倹しくも助け合って生きてきた土地柄を感じさせるものがあった.今は高い
壁の記念館が併設され,壁で遮られる景観は,往時を偲ぶには時の流れを感じて何故か寂しい.
Ⅲ.長崎大学医学部
予定の時刻が迫っている.急ぎ長崎大学医学部に向かった.正門は原爆で一度は破壊されたが,復元されてヨーロッ
パ風のモダンなデザインの鉄製門柱が長崎大学医学部を主張している(図4).長崎大学医学部は平成19年に医学部創立
150周年事業をすませたばかりである.近代西洋医学の提供者は枚挙に暇がないが,教授された側の第一の立役者は松
本良順である.この活躍の原風景は司馬遼太郎の「胡蝶の夢」と吉村昭の「暁の旅人」を並読するに限る.門を入って
すぐの前庭で,我々は医学部創立150周年記念事業で新築された良順会館の玄関で記念撮影をした.今回案内を受ける
相川忠臣先生がしばらくして笑顔でやって来られた.先生は,現在,活水女子大学教授と長崎大学名誉教授を兼任され
ており,専門分野は生理学と聞く.平成19年度日本医史学会秋期大会会長もされた方である.庭に建つ数々の顕彰碑や
ブロンズ像の簡単な説明を受けて,私たちは良順会館(図5)に案内された.館内の展示資料の整備はこれから時間をか
けておこなうそうである.フロアー中央階段壁面に掛けら
れた4名の先人のレリーフが目をひく
(図6)
.ポンペ,ボー
ドイン,松本良順,長与専斎である.相川先生によるとレ
リーフの元になったのが上野彦馬の撮った若かりし頃の松
本良順とポンペの写真によるものだそうだ.上野彦馬は日
本の写真術の先駆者と云われている.我々は近代医学資料
の宝庫付属図書館に案内された.いよいよ研修会のメイン
テーマに入って行く.背筋のゾクッとする瞬間だ.図書館
内は在校生が静かに閲覧している.傍を我々15名が列をな
して静かに移動して行く.研修ルームに入った私たちは相
川先生の準備された“医学は長崎から―近代医学の誕生―”
と題された講義を受ける企画となっていた.
図4 長崎大学医学部正門
図5 良順会館前にて
図6 良順会館内のレリーフ
Ⅳ.相川先生の講義
16世紀以降,西洋からの窓口だった平戸
(南蛮口),長崎(オランダ口)からもたらされた文化は,レメリンの人体解剖
図,パレの外科書,スクルテタスの書など数々あげられるが,それらを基に楢林鎮山が「紅夷外科宗伝」として翻訳し,
医学を志す人々に広く知らしめたことは外科学ではセンセーショナルな出来事だった.西洋医学の内容を色彩豊かな挿
絵を入れた我が国初の画期的な構成の本である.この挿絵を引用し「整骨書」まで至る経緯は多くの研究テーマに取り
24
長崎遊学手記
上げられている.また講義の内容はシーボルト,モーニッ
ケの医学,海軍伝習と医学校の設立,ポンペからボードイ
ンまでの長崎を舞台にした歴史をレジュメとスライドを使っ
て話された(図7).盛りだくさんで且つ貴重な内容の講義
であった.自然科学に基づく近代医学の幕開けまでを詳細
に講義していただけたことは有意義であったし,近代医学
史を改めて探求できた時間であった.我々は接骨術の歴史
に固執しがちであるが,医学とは万人の健康のためにある
総合医療であるから,命をテーマに自然科学的考え方が取
り入れられたこと,衛生の考え方,コレラ天然痘の防疫が
科学的になされたことが国家的事業としては格段に重要性
を持ったことは否めない.その中で先生は我々にsurprise
図7 相川先生の講義を受けて
もくださった.ポンペの講義の中に骨折に対してギプス
を巻く指導があったことを取り上げてくれた.資料には
Paris bandageとして紹介し,ポンぺの授業時間割としては独語でGips Verbandとしてあった.当時,石膏はパリでほと
んど作られていたそうで,Paris bandageと呼ばれていたことも付け加えて教えていただいた.相川先生はポンペの言葉
も熱く語られた.
「ひとたびこの職務を選んだ以上,もはや“医師は自分自身のものではなく,病める人のものである”
」
医療人の端くれとして,改めて「肝に命ずべし」である.近代医学の幕開けにシーボルトの名が出てくるが,シーボル
トはドアを開けてくれた人物であり,ポンペは系統立てた医学教育をしてくれた最初の人物である.故・鳥居良夫先生
(元日本柔道整復師会会長)
が“ポンペの役割が最も偉大だ”と良く言っておられたのが懐かしい.講演の後,相川先生
はfloor sessionの形で時間を割いてくださった.
Ⅴ.資料閲覧
有意義で楽しい時間があっという間に過ぎて,いよいよ国宝級の資料の閲覧が叶う時が来た.奥の資料室に案内され
る.先生はそのまた奥の資料室から,二宮彦可の「正骨範」を持ってこられた(図8).日本三大整骨書の一つである.
原本を見る感激は格別である.正骨範は故・鳥居良夫先生が日整の事業として再販本を出して下さったので内容は目に
したことがある.さすがに実際に活用されたらしい原本は歴史の重みを感じる.さらに整骨範から選出された脱臼16図
の整復法を描いた「正骨原」の掛け軸も出して下さった(図9).これは初めて見る資料である.一幅の中に顎関節脱臼
の整復図から股関節まで多彩に母法
(基本法)
・子法(別法)と様々に描かれている.彦可の養嗣子二宮督が古香齋に描か
せたものだそうだ.我々の立場で見れば,整復の状況のイメージを深く汲みとることができて興味深かった.私は肘関
節脱臼の整復図と大正時代に出版された安井寅吉先生著の「柔道整復術」に示される整復法との照合で大変興味のある
事実を発見したがこの内容は別の機会に譲ることにする.ついに楢林鎮山の「紅夷外科宗伝」の原本を拝見する時がきた.
“感激の瞬間”原本はかなり紙の礫禍が進んでいたと見え,丁寧な修復の跡が見てとれた.縁の破損は新しい和紙にそ
っと載せて丁寧に貼付けた跡が見えるが,損傷の少ない中央に描かれた部分は極彩色に岩絵の具で描かれた様で,その
図8 正骨範(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
図9 正骨原に描かれた脱臼図
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
25
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
図10 紅夷外科宗伝の中から
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
図11 紅夷外科宗伝の中から
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
図12 肩関節脱臼の整復図
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵「紅夷外科宗伝」から)
鮮明さは今も私たちを圧倒させる.当時,パレの
「外科全書」やスクルテタスの書「外科の武器庫」
の原著を見た先人たちはどのような思いで目にし
たのだろう.想像するに難くない.原著を正確に
写した紅夷外科宗伝の原画である
(図10,11)
.時
代考証をしながら見ることのできる原本は圧巻だ.
相川先生にページをめくっていただきながらやは
り目に止まるのはこの肩関節脱臼の整復図である
(図12,13)
.あまりにも有名なこの図は,当時の
鎖国令の中で,西洋人の姿が中国人に変わり,さ
らに剃髪した僧姿の医師に変わってしまう.同時
図13 「近代外科の父・パレ」から転載
に天秤の腋窩枕子はなくなり,天秤の形状も延べ
棒に変わる.肩関節を前後から押さえるための,
直角にはめ込まれた楔もなくなってしまった経緯は良く語り継がれている.しかし,帰京して,中山会員から,蒲原宏
氏の研究で「紅夷外科宗伝」の新たな発見が発表されていたことを聞いた.
「紅夷外科宗伝」はパレの外科書からの引用
よりも,
「外科の武器庫」からの引用が多くを占めているということだ.このことは,長崎大学病院ニュースにも記載さ
れていた.資料室の中にはまだまだ貴重な資料がある.ガラスケースの中に常設されている中で印象深かったのは,
『シー
ボルト「日本植物誌」
』に描かれた色彩豊かなアジサイの細密画(図14)や松本良順の直筆のひな人形の絵(図15)である.
絵は苦手としたと云われるが,教養人は趣味が広い(この絵が描かれた頃,江戸では桜田門外の変がおきている)
.また
三角柱のガラスケースにいれられた,紙で作られた筋骨格のキュンストレーキ(解剖模型)を,相川先生は言葉静かに紹
介して下さった
(図16)
.古びてかなり痛んだものらしく,しいて注視しなかったが,今思えば紅夷外科宗伝に匹敵する
26
長崎遊学手記
図14 あじさいの細密画
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
図15 ひな人形の絵
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
図16 キュンストレーキ
(長崎大学医学部付属図書館資料室所蔵)
宝である.ポンペが我が国に持ってきた仏製キュンストレーキであり,ポンペが講義し,松本良順が,司馬凌海が,佐
藤尚中が,関寛斎が,長与専斎が・・・目の当たりにして勉強したそのものなのである.小説でしかお目にかかれない
先達が直に目にしたキュンストレーキだ.また,司馬凌海が勝手にポンペの書籍を翻訳したとされる「七新薬」の原本
も見せていただいた.
Ⅵ.それから
話は遡ってシーボルトの頃,シーボルトが瀉血をする様を川原慶賀が描いた有名な絵がある.一説によるとシーボルト
が商館員に瀉血する時に見た光景を的確に表現した絵として紹介されていたが,兼重護氏の研究によればこの頃,川原
慶賀はボアイ版画
(原画は大英博物館蔵)
にひかれていたらしく,人間感情の表現法を研究していたらしい.
「しかめ面2」
(図17)
の表情を瀉血の傷みをこらえる表情に当てはめて仕上がったのが「瀉血手術図」(図18)のようだ.のっけから価
値ある時間を過ごすことができた我々は,残った午後の時間を徒歩で史跡を巡ることにした.長大医学部から付属病院
を回って浦上川と平行に坂を下ると山王神社二の鳥居で一本足の鳥居(原爆の遺跡)を左手に見上げる位置に出る.坂を
下って永井隆博士ご夫妻の眠る公園に向かった.
27
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
図17 しかめ面2
(大英博物館所蔵 「シーボルトと町絵師慶賀」より転載)
図18 瀉血手術図
(長崎県立美術博物館所蔵)
参考文献
「紅夷外科宗伝」他 長崎大学医学部付属図書館資料室
「写真で見る医学部150年の変遷」 長崎大学医学部創立150周年記念誌
「シーボルトと町絵師慶賀」 兼重 護 著 長崎新聞社 2003年3月20日
「近代外科の父・パレ」 森岡恭彦 編著 日本放送出版 1991年11月20日
28
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:29-35,2011
ヘボン博士の業績
―宣教医、教育者として日本社会に貢献したアメリカ人―
中 山 清 治
1.はじめに
近年,英語教育が小学校に及んだことから小学生の間でもヘボンとい
う名前が知られるようになった.
しかし,ヘボン式ローマ字ということの他,幕末にアメリカより横浜
にやってきた医師でキリスト教の伝道者というくらいで,どのような人
物かは一般的には知られていない.幕末の日本,ペリーが浦賀に来航し
開国を迫ったのが1853年
(嘉永6年)
,その5年後の1858年(安政5年)に
日米修好通商条約が締結されている.
ヘボン博士が神奈川に上陸したのは1859年10月17日と記録されている.
日米間で条約が締結されて初めて日本に来た宣教医であり,医療技術は
もとより相当の学識を持ち人格,力量に富んだ知識人であった.幕末か
ら明治にかけ,日本の近代化に多大な貢献をなした一人である.
そこで,ヘボン博士の生い立ちから,日本に至るまでの経緯,幕末の
神奈川に上陸し日本社会に残した足跡を追い,横浜での施療事業,和英辞
書の刊行,聖書の翻訳事業,ヘボン塾を開き明治学院へと発展していった
過程を追い,日本の近代化に如何に貢献した人物かを検証して行きたい.
明治学院大学ヘボン館前に建つ胸像
(東京都港区)
2.生い立ち
ヘボン博士はジェームス・カーチス・ヘップバーンJames Curtis Hepburn(1815~1911年)といい,1815年(文化2年)
3月13日米国ペンシルヴェニア州ミルトンに生まれ,少年時代をこの地で過ごした.
正式にはヘップバーンであるが我が国ではヘボンと呼ばれ,ヘボン博士自らも「和英語林集成」に「平文」と記し,
あるときは「平本」と書いている.
ヘボン家の先祖はスコットランドからアイルランドに移住し,更に1700年代に米国ペンシルヴェニア州へ移住してい
る.映画女優のキャサリン・ヘップバーンもその一族とされている.ヘボン博士の父サムエルは1782年フィラデルフィ
アに生まれ,1865年83歳の高齢でペンシルヴェニア州ロックヘブンの地で没している.母はアンニ・クレーという牧師
の娘であった.父サムエルはプリンストン大学を出て,法律家(弁護士)としてペンシルヴェニア州では著名人であり,
市民から尊敬されている人物であった.二男六女をもうけ,ヘボンは長男であり,弟のスレータ・クルー・ヘップバーン
はプリンストン大学を卒業後ニューヨーク州オレンジ郡ハンプトンボロの長老教会の牧師となり長らくその職にあった.
両親ともキリスト教の信者であり,信仰的に子供達を養育し神を畏れ,安息日を守り,教会に行って聖書を学び,信
仰問答を暗証せしめるよう努めたと後にヘボン博士は回想している.
小学校・中学校の教育は地元のミルトンアカデミーに学び,1831年の春,彼は16歳にしてプリンストン大学の3年に
編入して1832年の秋に卒業した.当時,米国社会では大学に進学するものは少なく,年少で大学に入学することも容易
に出来た.プリンストン大学はその頃は単科大学で総合大学ではなかったので,規模も小さく全寮制で寄宿舎と教室は
同じ建物にあった.しかも大学に入ってからまもなくアジアコレラが流行したため,授業は中止となったうえ,十分な
学校法人 花田学園日本鍼灸理療専門学校 E-mail address:[email protected]
29
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
勉学に努められないまま1年半で卒業となってしまった.
ところがこの短い期間に生涯を通じて暖かい友情を交わすことが出来る友人を見いだし,また優れた教授から教育を受
けたことがヘボンの知性を豊かにしたのであった.在学中にラテン語,ギリシア語,ヘブライ語の他,化学の知識も得
た.来日して辞典の編纂,聖書の翻訳を完成することが出来たのも当時学んだ語学の知識が大いに役立ったのであった.
ヘボンの両親はヘボンがプリンストン大学に学んでいたので,将来は牧師になるものと思っていた.また弁護士であ
る父は,将来立派な法律家にしたいとの希望をもっていたのであった.
ヘボンは生来無口な方で謙虚で控えめな性格で,しかも科学的精神を持っており,弁論をもって世に処することを好
まず,医学をもって身を立てることを志していたのであった.
プリンストン大学を卒業した後,フィラデルフィアのペンシルヴェニア大学医学部に籍を置き,1836年に卒業して医
学博士の学位を得た.学位論文は脳卒中であった.このとき21歳,天職は医術をもって神に仕えることと思っていた.
3.日本に至るまで
(1)東洋への伝道時代
臨床医として出発したのは1837年からで,友人の西フィラデルフィアで一年間代診を努め,その後1838年秋にペンシ
ルヴェニア州のノリスタウンで開業して一年間この地に止まった.夫人となったクララ・メリー ・リート嬢と出会った
のもこの頃で,ヘボン博士の海外伝道の夢を理解した唯一の共鳴者となった人で,二人は1840年10月27日ノースカロラ
イナ州のラフィエットビルで結婚をした.後に東洋,特に日本への伝道についてはあらゆる面で夫人の協力することが
大きかったとヘボン博士自身が述懐している.
ヘボン夫妻は東洋伝道のため,ボストンに向かい,1841年3月15日ポトマック号という捕鯨船に乗り込んだ.4か月
の航海中,クララ夫人が流産し堪えがたい悲しみと苦しみを味わい,7月12日シンガポール港に入港した.当初はシン
ガポールよりシャムへの伝道を志していたが計画を変更し,中国のアモイへの医療伝道となったが,折しもアヘン戦争
が起こっていたので暫く待機し,
中国語の研究に努めた.シンガポールではマカオのモリソン記念学校より来たS・R・
ブラウン夫妻と会い情報の交換を行うことが出来き,しかもこれから40年にわたる交友が始まった.のち日本では20年
間一緒に伝道活動を行うようになった.やがてアヘン戦争も終わり,1843年初夏にシンガポールを経ち,マカオに上陸
した.1844年にはアモイに病院を設立し,医療伝道を開始した.
医療伝道の地アモイは水清く,住むのにはよいところであったがマラリア熱が流行していた.そのためヘボン夫妻は
このマラリア熱に早々に冒され,特に夫人は健康の優れない状態が続いたのでマカオに行き休養をとった.
1845年1月30日夫妻はマカオを発し,パナマ号でニューヨークに向かい,1846年3月15日ニューヨークに戻ってきた.
大いなる希望を持って,1841年3月15日ボストンを出発し,5年間使命半ばにして米国に帰ることになったヘボン夫妻
の胸中は察するに余りあるものである.しかし,失敗とみえたこの最初の宣教活動の旅も,次への宣教の大いなる経験
であったとヘボン博士は述べている.またこの伝道の中で長男は生後まもなく死亡,その後,次男のサムエルが誕生し
一人息子として成長した.
(2)ニューヨークでの開業医時代
ニューヨークに帰ったヘボン博士は1846年4月25日,42番街に医院を開業した.初め小さな診療所であったが,ニュー
ヨークにアジアコレラが流行すると中国での医療事業での経験が功を奏し,アジアコレラの治療に関しては大いに成功
を収めた.
ヘボン博士の学んだペシルヴェニア大学医学部は特に眼科医療に優れていたので,眼科医としても能力を発揮してい
た.開業医としても才があったので小さい医院も数年後にはニューヨークでも大きい病院へと発展した.門前市を成す
盛況となり,収入も増え広大な住宅や郊外に別荘を持つようになった.
しかし,ヘボン夫妻はこうした幸福の絶頂期にあってもキリスト教会に仕えることを忘れなかった.多忙な業務の傍
らニューヨークの長老教会に出席し,長老の一人として教会のために奉仕した.名医と称えられたヘボンもその後に生
まれた子供3人が猩紅熱と赤痢のために次々と失った.家庭の不幸にもこびることもなく,ニューヨークの都市社会に
住み一流の病院を経営し何不自由なく暮らしてきたが,アジアでの伝道活動のことが胸中から消えることはなく絶えず
去来していた.
(3)日本の開国
アメリカでは1848年カルフォルニア州がゴールドラッシュにわき,移住民が西へ西へと前進していったので太平洋沿
30
ヘボン博士の業績
岸の人口は急激に増加していった.一方1830年代から60年代にかけては捕鯨漁業の最盛期であって,日本沿岸における
アメリカの捕鯨船はイギリス船を駆逐した.アメリカにとって太平洋航路の実現が絶対的に必要であり,寄港地として
日本が重要な中継地となることから,米国が他国よりいち早く日本の開国を迫ったのである.1853年7月8日
(嘉永6年
6月3日)
にペリー提督ひきいる4隻の軍艦が浦賀沖に投錨した.いわゆる黒船の来航である.和親条約の要求について
は明年回答する旨を伝えたのでペリー提督は日本を去った.1854年2月13日(安政元年1月16日)には軍艦7隻が江戸湾
に入り,浦賀を過ぎ横浜沖に投錨し,横浜村が交渉地となった.3月11日(安政元年3月3日)横浜応接所にて日本とア
メリカ合州国との間で「日米和親条約」という12箇条の条約が締結された.1858年7月29日
(安政5年6月19日)
には「日
米通商条約」が締結された.この日米通商条約は14条からなり,宗教上に関する伝道などの規定は第8条であり,交渉
に当たったハリスはこの第8条の決定については,鎖国中の日本ではキリスト教に対する迫害の歴史を持っていること
から,条文の表記に当たって慎重に対応したが,幕府側はあっさりと承諾してしまったことを日記に記している.また,
ハリスは日記の中で「日本宣教の将来の成功は派遣せられる初代の宣教師の性行,態度,人物によるものである.宣教
師等が日本語を習得したならば容易に日本人に近づくことができるし,どの程度まで印刷物を配布することが許される
か今のところははっきり言えないけれども,私見を持ってすれば学校を興し,英語を教え,貧民を施療するがごときは
最も伝道のために有益な働きとなるであろう」と結んでいる.
日米通商条約の締結によって日本は徳川300年の鎖国から開放され,世界に向かって門戸を開放することになり,貿易
のみならず欧米文化の吸収,キリスト教受容への新たな一歩となった.
1858年の秋,長崎港に投錨中の米艦の甲板で通訳S・ウエルス・ウィリアムスと米艦付牧師ウッド,聖公会のサイル
の三人が集まって米国の聖公会,長老教会,ダッチ・リフォールド協会の三つのミッション本部に宛て,日本宣教の急
務を訴え宣教師派遣の件を勧告する文書を送った.この勧告書は3ミッション本部を大いに刺激し,日本に初代宣教師
を派遣させることを決定した.
(4)ヘボン博士日本への宣教を決意
ニューヨークで病院を経営していたヘボン博士は医学に対する情報のほかに,東洋の宣教事情に関しても絶えず深い
関心をもっていた.中国や東南アジアでの宣教活動に関するニュース,雑誌の記事や教会の報告書の類にも注意を払っ
ていた.
ペリー提督の日本遠征の報や,日米和親条約,日米通商条約の新聞記事で読み,更に長崎から届けられたミッション
本部宛の勧告書にも目を通したものと思われる.1859年1月6日,日本への宣教師志願を書面で申し出た.クララ夫人
もヘボン博士の志に賛成した.3人の子供を失った寂しい夫人は異郷の少年少女達の教育に思いをはせた.失った3人
の子供よりも何百何千の日本の若き世代を思い,光を照らすということがヘボン夫人の心にひらめいたのである.
北米長老会ミッション本部では1859年1月12日正式にヘボン夫妻の申し出を承認し,既に中国で伝道をしていたJ・
L・ネヴィウスを協力者として日本に派遣することを決定した.
それから,ヘボン夫妻はニューヨークで13年間築き上げてきた病院や邸宅,別荘,その他家財道具の一切を処分し,
年老いた父と14歳になる息子サムエルとを残して日本へ出発する準備を行った.
1859年4月24日多くの人に見送られ,サンチョ・パンサ号に乗り,ニューヨークを出帆した.ヘボン博士44歳の時で
ある.
4.神奈川に上陸
(1)神奈川成仏寺時代
ヘボン夫妻か神奈川に着いたのは1859年10月17日で翌18日運上所に上陸し,米国領事のドールに面会し,ドールの世
話で宿所を東神奈川の成仏寺とした.現在成仏寺の入り口には外国人宣教師宿舎跡の石碑が建てられている.
後から来るS・R・ブラウンのために庫裏を借りておいたが,その当時は外国人住宅が少なく領事館なども全て神奈
川地区の寺院を使用していた.米国領事館には青木橋の近くにある本覚寺,英国領事館には浄滝寺,フランス領事館に
は慶運寺が当てられていた.
11月1日にはS・R・ブラウンとドクトル・シモンズが神奈川に到着し,シモンズは宗興寺に住んだ.同じ船で来た
フレベッキーは11月7日長崎に上陸した.宗興寺はその後シモンズが横浜に移ってから短期間ではあるがヘボン博士の
施療所となったところである.ブラウンとシモンズは妻子を上海に残し単身神奈川に来たのでヘボン夫人が食事の一切
の世話をした.ヘボンは新約聖書の写本,その他多数の書物や医療の器具を携行してきたし,また上海ではかなり多く
の中国語の聖書やその他の書籍を手に入れていた.幕府の役人が住居の検閲に来たりして,日本語の教師を得ることが
31
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
困難であった.下僕という下僕もスパイか刺客であったから油断もすきもない状態が続いた.そのうちやっとのおもいで
日本語の教師を雇い入れることが出来て,日本語の研究・和英辞書の編集に取り掛かることが出来た.1861年
(文久元年)
11月11日,ダッチ・リフォームド・ミッションのジェームス・バラ夫妻が来日し,成仏寺の本堂に住むようになったが,
バラは年若く新婚早々日本に来て殆ど生涯を日本教化のために尽くした人であった.
このバラ夫妻が来日する少し前の7月にヘボン夫人はアメリカに帰国した.理由は2つある.1つは一人息子のサム
エルが祖父
(ヘボンの父)
の死後,全く天涯孤独のような寂しい生活を味わなければならなくなり,学業も思わしくなく,
親戚のものを頼って働くというような状態になっていたのでヘボン夫人はいっそう帰国を急いだ.
もう1つの理由はヘボンの書簡にはみられないが,1861年春頃,外出先から戻ってきた時成仏寺の門前で日本人の暴
漢に棍棒で殴られた.命には別状ないものの非常な痛みを覚え,生涯頭痛に悩まされるような怪我を負ったこと.届け
出れば日米間にひびが生ずることを考え,ひとまず療養のため帰国をさせたということである.
アメリカに残してきた次男のサムエルはずっと生き残った唯一の息子である.このサムエルは1865年横浜にやってき
て米国商社に勤めるようになった.ヘボン博士の帰国後も横浜に住み,ヘボン博士が亡くなった頃は長崎のスタンダー
ド石油会社の支店長を務めていた.晩年は米国に帰国し,ロックヘブンで余生を送ったという.
ヘボン博士、宣教師の宿舎となった成仏寺(横浜市東神奈川)
施療所となった宗興寺の記念碑(横浜市東神奈川)
さて,クララ夫人が帰国してからヘボン博士は成仏寺の本堂の一室で独りコツコツと辞書の編集に勤めていた.しか
し,ヘボンが最初に行ったのは日本語の研究と共に施療事業である.ブラウンは牧師という経験から,常に日本に教会
を建設することに重点を置いていたように,ヘボン博士は宣教医として施療活動によって日本人への伝道を目指してい
たのであった.施療は成仏寺より徒歩5分のところにある権現の崖下のところの宗興寺で,1861年(文久元年)4月頃よ
り始められた.
ヘボン博士がアメリカへ書き送った書簡によると「宗興寺での施療事業は非常に盛況で,江戸から患者がやってきた.
江戸の医者達は手に負えない難病人ばかりよこした.肺結核,神経麻痺,脳病,つんぼ,めくら,びっこの類です.何
の手の尽くしようがないので返してしまいました」とある.
また幕府は日本人があまり外国人宣教医に接近することを恐れ,いろいろと面倒な手続を患者に命じたので患者が施
療を受けることが容易でなくなり,僅か5ヵ月間で宗興寺の施療所は閉鎖をすることになったという.
施療所の患者数は最初僅かであったものの,3ヵ月目で1日平均100名の患者が集まり,合わせて3500人の患者に処方
箋を書いたという.
また通常の施療以外にも,瘢痕性内反の手術―30回,翼状片の手術―3回,眼球摘出―1回,脳水腫の手術―5回,
背中のおでき切開―1回,白内障の治療―13回,痔瘻の手術―6回,直腸炎―1回,チブスの治療―1回 を行ったと
記している.
そのうち,1回だけ白内障の手術はうまくいかず,他はよい結果だったと記している.このことからも当時は衛生状
態が悪く,眼科領域の疾患が多かったことがうかがえる.
(2)横浜居留地時代
宗興寺で施療が行われているとき,あるいは閉鎖となった頃,国内外では様々な事件が発生している.1961年5月に
32
ヘボン博士の業績
は高輪東禅寺での英国公使館襲撃事件,1862年1月には坂下門外の変,8月には生麦事件(このときヘボン博士は負傷
者の手当てで本覚寺へ急行した)
,12月には英公使館焼き討ち事件など攘夷事件が相次いで発生した.またアメリカで
は南北戦争が発生し,成仏寺に起居していた宣教師たちにとっても動揺が起こった.本国からの送金が途絶えたりして
窮乏生活に追い込まれて宣教にも支障を来たす状況が起こったからである.しかし,ヘボン博士は動揺することなく和
英辞書の編集,聖書の翻訳,頼まれれば施療も行っていた.
成仏寺では狭く幕府からの委託生の教育も出来ず,施療
も出来ないので新たに横浜居留地39番に土地を購入し,建
物を建て1862年12月28日に移転した.成仏寺で一緒に暮ら
していた他の宣教師も横浜海岸の運上所近くへ居住するこ
とになった.谷戸橋近くの居留地39番地は幕府の干渉もな
いので自由に施療活動から宣教活動が出来た.無料で診
察・手術・施薬をしたので患者は遠方より来るものが絶え
なかったという.また蘭学者,漢方医も西洋医学を学ぼう
として医学生となった者も十数人あったという.それと同
時に1863年
(文久3年)
クララ夫人の開いたヘボン家塾にも
多くの優秀な者が集まり英学の初歩を学んだ.このヘボン
家塾からは高橋是清,林董,益田孝,三宅秀,服部綾雄等
の逸材が生まれたのである.
谷戸橋近くの居留地39番地ヘボン邸跡
(神奈川県合同庁舎の一角)
1863年
(文久3年)
10月18日の書簡には,患者の数は1日
平均5~6人で眼疾であると記されてある.1864年9月頃
になると毎日30人との記載がある.1865年3月16日の書簡では施療は朝7時から8時までと記されている.同年10月13
日の書簡には1日の患者数は平均35人で6割が眼疾であり,数々の手術を行ったことが書かれている.腕の切断―1回,
兎唇の手術―1回,弾丸の摘出―1回,白内障の手術―4回,痔の手術―数回,その他直腸炎の手術,瘢痕性内反や翼
状片の手術,おできの切開,抜歯,膿瘍の切開等が記載されている.1867年には女形で三世沢村田之助の脱疽の手術を
行っている.脚を切断して1868年には義足をつけて舞台に出られるようになったので,錦絵や瓦版にも印刷され評判と
なった.舞台そでで足指を傷つけたことがもとで脱疽を患い,初め松本良順に治療を受けたが切断の外なしとの診断を
され,佐藤泰然の紹介でヘボンの施療所で右脚切断の手術を受けた.このとき麻酔にはクロロフォルムが使われている.
1868年4月ヘボン博士が注文したセルフォ製作の義足をつけ舞台に立ったので興行は非常な喝采を博し,大入り満員の
盛況だったという.ところが田之助は不運にも脱疽が左脚にもおよび切断を行った.更に上肢にもおよび左手指2本,
右手指3本を切断し,晩年は精神にも異常をきたし34歳の若さでこの世を去った.
また医師としてヘボン博士の名を有名にしたのは,岸田吟香が発売した点眼水『精錡水』である.眼疾に悩んでいた
岸田吟香はヘボンの施療所で治療を受け,眼疾がたちまち癒えた.ヘボン博士の医術,人格に心を打たれ,後に『和英
語林集成』編纂の助手となった.1866年にはヘボン夫妻に同行し上海で辞書印刷の校正を手伝い,1867年にはヘボン博
士の了解を得て点眼水を売り出した.国内ばかりでなく遠く上海にも販路を広めた.
1879年
(明治12)
,施療は神奈川時代からから18年間にわたって継続されて来たが,ついに健康を害し廃止することと
なった.18年間の施療にかかわる費用の殆どがニューヨーク時代に得た財産であったということは,驚くべき事実である.
居留地に移って施療と共に行っていたのは和英辞書の編集であった.聖書翻訳の大業をやる前に何としても日本語に
精通することが最優先となる.この出版に関して米国長老ミッションは直接伝道に関係ない仕事との理由で,出版に関
する費用は出せないとの回答を行った.出版に援助をしたのは横浜のアメリカ商人ウオルシ・ホール商会のウオルシで
あった.印刷出版の一切の資金を立替え,あらゆる金銭上の損失も負担してよいとの申し出があった.第一版の出版は
「1867年 和英語林集成 慶應丁卯新鐫 美国 平文先生編譯 日本横濱梓行」となっている.第二版は1872年,第三
版は1886年 東京丸善商社発行で,第三版より版権を丸善に譲り2000ドル(当時約1万円)を得て,その全てを明治学院
に寄付した.そこで明治学院にはヘボン館という立派な寄宿舎が建てられた.島崎藤村,戸川秋骨,中山昌樹,賀川豊
彦などがこの寄宿舎ですごし,勉学に励んだ記念すべき建物であった.ところが1911年(明治44年)9月21日未明,ヘボ
ン永眠と時を同じくして火災が発生し焼失してしまったのである.
33
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
5.横浜山手時代
ヘボン夫妻は横浜居留地での多忙な生活が影響し健康を害したので,
1881年
(明治14年)
暫く日本を離れてスイスのチューリッヒで静養するこ
とになった.日本に在留していた長老派の宣教師達はヘボン夫妻が日本
を去って米国に帰るものと思っていたので,横浜居留地39番の土地建物
を全部売却してしまい,その資金を築地の宣教師館の建設費に当てた.
旧ヘボン塾は明治13年に築地に移転し,ジョン・バラも築地大学の教師
として東京に転じている.ヘボン博士は横浜の土地を売却した事実をス
イスで聞いて不満の意を表したという.健康の許す限り日本で働きたい
と思っており,ヘボン博士の心のなかには旧約聖書の翻訳,基督教学校
の設立,教会堂の建立と思うことが沢山あったのである.今後の日本で
の仕事についても熟慮した結果,早期に日本に帰ることを決断した.1881
年12月11日マルセイユ港を出帆し,1882年
(明治15年)1月26日横浜港に
到着した.横浜居留地39番の家は売り払われてしまっていたので,山手
245番地に1か月55ドルの家賃で一戸を借りて住むことになった.息子
のサムエルも同じ山手に一戸を構えて住んでいたので,一家団欒の生活
になったものと思われる.
明治10年10月東京築地明石町7番地の小会堂に一致神学校が出来,明
治16年には横浜の先志学校とも併合し,東京一致英和学校と改め明治19
最後に住んだ山手245番地に建つ記念碑
(横浜市山手)
年6月22日,合同の卒業式が木挽町の明治会堂で挙行された.この卒業
式の席上,明治学院とする発表があった.築地の一致神学校,築地大学,
一致英和学校と次々に発展し1887年
(明治20年)
明治学院として芝白金に
基督教学校を設立するに至った.このときヘボン博士は旧約聖書翻訳委
員長として翻訳出版の完成の途上にあったため,直接明治学院に携わる
ことは出来なかったものの,明治21年新旧約聖書翻訳出版完成の祝賀会
が築地新栄教会で挙行されてから,初めて明治学院で生理衛生学の教授
として参加することになった.明治22年10月ヘボン博士は選ばれて初代
の明治学院総理となった.
明治22年4月には指路教会堂を建設すべく,建設資金の募金を目的に
短期間帰米することになった.明治23年10月には明治学院の総理を辞し,
井深梶之助に譲った.
念願であった指路教会の建設に当たっては,明治23年10月27日横浜上
町で定礎式が行われヘボン夫妻は列席した.その後,明治25年1月16日
に指路教会の完成で盛大な献堂式が行われたが,当日は体調がすぐれず
に自宅に引きこもっていたので列席は出来なかったという.明治大正と
横浜市内の中央に高くそびえていた教会も大正12年の関東大震災により
破壊した.大正14年に再建されたものの,昭和20年5月29日の横浜市内
周囲を高層ビルに囲まれている指路教会
の大空襲で焼失した.現在の建物は戦後,日本基督教団の復興資金と会
員の献金で再建されたものである.
6.帰国と晩年
1892年
(明治25年)
10月15日午後2時半より指路教会にてヘボン夫妻の送別会が開かれた.ニューヨークからはるばる
地球の裏側へやってきて,神奈川に上陸し33年の年月が過ぎ77歳を迎えていた.10月18日には明治学院とフェリス女学
院で送別会が催された.日本において全ての仕事を終えたことを挨拶で述べたと言う.
10月22日汽船ゲーリック号で横浜を出帆し,11月カルフォルニア州のパサディナに落ちつき冬を過ごしてから,1893
年5月24日ニュージャジー州イーストオレンジの家に隠棲した.1904年2月より夫人が病気となり介護の状態となった.
1905年3月13日90歳の誕生日のとき,日本政府より勲三等旭日章が贈られた.また6月14日にはプリンストン大学より
34
ヘボン博士の業績
法学博士の学位が贈られた.
1906年3月4日クララ夫人が永眠
(88歳)
,1911年(明治44年)9月21日にヘボン博士は96歳の高齢をもって自宅にて永
眠した.
日米通商条約で日本と交渉に当たったハリスが日記に書き記した通りの人物が現れたので,日本の近代化にとって最
も貢献した人物となった.幕末から明治にかけて日本がドイツ医学の導入を決定したこともあり,国内ではベルツ,ス
クリバ両博士に対する評価は一般的に高いように思われる.しかし,アメリカ人として庶民の中にとけこみ,私財を投
じて日本社会の発展に生涯かけた人物を他に探してみてもヘボン夫妻以外には見当たらない.もっともっと高い評価を
してもよいのではないだろうか.
2012年は明治学院が創立150周年
(1863~2013年)を迎えるとのこと.記念事業の一環として「和英語林集成」の第一
版を復刻することが決まっているという.ヘボン博士の業績を顕彰した記念行事の成功を祈ると共に,最後の締めくく
りとしてオバマ大統領から日本に最も貢献したアメリカ人であるとのメッセージを寄せて戴くことを期待したい.
参考文献
「ヘボン」 高谷道男 著 吉川弘文館 (昭和36年3月)
「ドクトル・ヘボン」 高谷道男 著 牧野書店 (昭和29年6月)
「ヘボン書簡集」 高谷道男 編訳 岩波書店 (昭和34年10月)
「ヘボンの手紙」 高谷道男 編訳 有隣堂 (昭和51年10月)
「かながわの医療史探訪」 大滝紀雄 著 秋山書店 (昭和58年12月)
「和英語林集成・第三版」 ヘボン・松村 明 解説 講談社 (昭和55年4月)
「近代医学と来日外国人」 宗田 一 他編著 世界保健社 (昭和63年12月)
「ヘボンの生涯と日本語」 望月洋子 著 新潮選書 (昭和62年4月)
「三世沢村田之助」 南條範夫 著 文芸春秋 (平成元年4月)
「日本の近代化をになった外国人」 望月洋子 著 国立教育会館 (平成3年12月)
「医の名言」 荒井保男 著 中央公論社 (平成7年10月)
「ドクトル・シモンズ」 荒井保男 著 有隣堂 (平成6年6月)
「横浜開港と宣教師たち」 横浜プロテスタント史研究会 編 有隣堂 (平成20年9月)
「横浜開港時代の人々」 紀田順一郎 著 神奈川新聞社 (平成21年4月)
35
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3:37-42,2011
東京有明医療大学 学内教員のための解剖学実習セミナー
開 催 報 告
小 泉 政 啓1) 中 澤 正 孝2) 北 島 泰 子3)
る.また後者に関しては,現在このような要求を満足させ
Ⅰ.はじめに
る実習手引きは見当たらず,早急に作成する必要がある.
このような事情を考慮し,本セミナーではまず学内教
2011年8月22日㈪〜30日㈫の間,東京医科歯科大学解
剖実習室において,
「東京有明医療大学教員のための解剖
員の方々に実際にご遺体を解剖する実習を行って頂き,
学実習セミナー」を開催した.このセミナーは,東京有
実習で観察されたさまざまな所見がそれぞれの専門分野
明医療大学特別研究費の助成を受けて行う「保健医療系
においてどのように関連づけられるのか,またどのよう
大学における解剖学実習手引き作成に向けての基礎的研
な点が重要であるのか意見を出して頂き,その意見を今
究」の一環として行ったものであり,本誌面をお借りし
後,鍼灸学・柔道整復学・看護学の各分野で有効な「解
て結果と今後の展望をご報告させて頂く.
剖見学実習の手引き」を作成する際の参考にすることを
目的とした.あわせて,さまざまな形で人間を研究・教
育の対象としている学内教員の方々に実際に人体構造の
Ⅱ.開催の趣旨
妙に触れて頂くことにより,人体構造についての知識向
上とともに将来実習指導のできる教員育成の一助となる
学科を問わず本学の学生にとり人体構造の3次元的な
ことも念頭に置いている.
理解は必要不可欠であり,そのため解剖学
(人体構造学)
なお本セミナーは,上記のような趣旨に賛同して頂き,
の授業では,模型標本などの補助教材を用いるほか他大
学医学部のご好意によりご遺体の見学実習を行っている.
本学教員のためにご遺体の提供および施設の使用につい
学生たちにとり,この解剖見学実習において実際の人体
て最大限の便宜を図って頂いた東京医科歯科大学大学院
構造を観察するという経験は,机上で学習した解剖学的
医歯学総合研究科臨床解剖学分野秋田恵一教授のご厚意
知識の奥行きを広げること以外に,
「生命」について深く
のもとに開催できたことを明記しておく.
考える良い機会を与えてくれる.現在の見学実習では,
学内教員に引率された学生たちは,現場で遺体解剖資格
Ⅲ.結果報告
を持った大学医学部の解剖学講座教員
(教授・准教授)の
指導を受けて実習を行っている.
その際ほとんどの場合,
1.開催日程
指導者の説明は医歯学生のための解剖学実習を念頭にお
なるべく多くの教員の方が参加できるように,夏期休
いたものになり,鍼灸学,柔道整復学,看護学などの学
暇中において,お盆休みや看護学部の実習,学事日程な
生にとり実際に臨床・研究の場で重要となる事項との関
どを避けて,8月の終わりに行った.日数は,なるべく
連性はほとんど考慮されていない.さらに多くの場合,
多くの部位を観察できかつ参加者の負担を考え,土日を
このような見学実習は半日という短時間で行われるため,
除く7日間に設定した.
限られた時間の中で多くの学生たちに実際の遺体から効
率よく学ばせることが重要となる.そのためには次の2
2.参加者
つのことが必要である.一つは,鍼灸学,柔道整復学,
鍼灸学科から5名,柔道整復学科から1名,看護学科
看護学それぞれに精通した実習指導教員の存在.もう一
から3名,計9名の参加があった.このうち3名は解剖
つは,各専門分野に有効な観察手順や観察項目などが書
の経験あり,3名は見学のみの経験あり,3名は解剖実
かれた実習手引きの存在である.前者に関しては,でき
習の経験が皆無であった.
れば卒業生の教員が望ましいが,現在のところ能力的に
また資格的に解剖学実習のできる教員の育成が急務とな
1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 E-mail
address:[email protected]
2)東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科
3)東京有明医療大学看護学部看護学科
37
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
3.指導体制
説明をして下さった(写真5,6).また途中,固有背筋
初日には,主催者を代表して小泉より開会挨拶を行っ
や人体の基本構造についての実習講義を行って頂いた.
た(写真1)
.その後,東京医科歯科大学大学院臨床解剖
学分野の秋田恵一教授より,解剖学的なヒトの見方を中
4.観察手順(表1)
心に,実習を行うにあたっての心構えなどの講義があっ
7日間の日程の中で人体全身を観察できるように,観
た(写真2,3)
.実習指導は,死体解剖資格を有する小
察遺体は2体にし,1体は背臥位(仰向け),1体は腹臥
泉を中心に,中澤とともに行った.連日,はじめに小泉
位(うつ伏せ)での観察から始め,それぞれ胸腹部・上肢
よりその日の観察項目および手順について概要を説明し
屈側・下肢伸側,背部・上肢伸側・下肢屈側の観察を中
た後,それぞれのグループごとに実習を開始した.具体
心に行った.どちらの遺体も,胸腹部内臓は一括して摘
的な手技は,小泉および中澤がその都度実際に行って示
出し別個に観察した.また,関節・靱帯標本および中枢
した
(写真4)
.また期間中,佐藤達夫学長が頻繁に実習
神経標本は別に用意し,適宜観察した.剖出方法は,小
室においでになり,参加者のために実際に剖出しながら
泉が熊本大学在任中に行っていた方法を踏襲し,剖出が
写真1 開会式にて主催者代表として小泉より挨拶
写真2 東京医科歯科大学大学院臨床解剖学分野
秋田恵一教授の特別講義
写真3 講義に聴き入る参加者
写真4 実習風景
写真5 佐藤学長の実習デモ
写真6 佐藤学長の説明を聞き入る参加者
38
東京有明医療大学 学内教員のための解剖学実習セミナー 開催報告
表1
回 月
日
午前(10:00 ∼ 12:00)
曜
午後(13:00 ∼ 17:00)
講 義
1
2
8
22
23
月
実 習 (Aグループ,Bグループ)
9:30開始.秋田教授講義 (A:背臥位)皮剝および皮下の剖出
実習説明(小泉)
(B:腹臥位)皮剝および皮下の剖出
(A:背臥位)頚部浅層および側頚部, 胸壁筋, 下肢伸側
火 実習説明(小泉)
(B:腹臥位)浅背筋,固有背筋
佐藤学長固有背筋講義
作業つづき
作業つづき
(A:背臥位,腹臥位)腋窩,上肢屈側,開腹準備
3
24
水 実習説明(小泉)
4
25
木 実習説明(中澤)
5
26
金 実習説明(小泉)
27
土
(保健医療学部 オープンキャンパス)
28
日
(看護学部 オープンキャンパス)
6
29
月 実習説明(小泉)
7
30
火
(B:腹臥位)上肢伸側,手背,殿部,下肢屈側
(A:背臥位)開胸および胸部内臓摘出準備,腹部内臓摘出
(B:背臥位)皮剝および皮下の剖出,胸腹壁,開胸
(A:背臥位,腹臥位)胸部内臓摘出, 胸部内臓観察, 腹部内臓観察, 浅背筋, 固有背筋, 殿部, 下肢屈側
(B:背臥位)胸部内臓摘出,腹部内臓摘出,胸部内臓観察,腹部内臓観察
(A:背臥位)後胸腹壁,腎系血管,腰神経叢,脳標本観察,関節標本観察
(B:背臥位)後胸腹壁,腎系血管,腰神経叢,脳標本観察,関節標本観察
復習,発表会準備
所見発表会および佐藤学長講義
進んだ段階でもいつでも元の状態に復元して復習できる
表2
ことを念頭に置いて計画した.参考までに,剖出および
観察手順を記載した手引きをあらかじめ作成し,参加者
U
$7
2G;
全員に配布した.なお,今回は頭部と骨盤底の観察は省
\
Q/7
F)B-
[YLkifj
略した.
]
3K7
S
[=1
TlH
^
3K7
'
[WDlh
_
Q/7
X,4%
[ZNgm?TlH
各自の最も興味を持った部位について所見発表会を行っ
`
3K7
PE
[<>l!J
た
(写真7)
.この所見発表会では,どこか特定の部位に
a
Q/7
C.6
[,08
ついて自分でスケッチした観察所見図を作成し,その図
b
"*
[LR9
を中心に説明してもらった.参加者それぞれの専門分野
c
Q/7
XO
[VNA5:
d
Q/7
#e(
[@l$I
5.所見発表会
実習最終日には,観察したさまざまな所見を整理し,
はさまざまであり,観察結果の関連付けも多様であるが,
+M&
7
2Gnpo
まずは自分の目で見た所見を正確に図に描くという作業
を通して,解剖学的な観察眼を養うことを目的とした.
このような所見発表会は,解剖学実習において観察した
所見を自分なりに整理し,その意義付けを考察するには
必要不可欠の作業である.所見発表会での各人のテーマ
は表2の通りである.
Ⅵ.参加者の感想
セミナー終了後に,参加者の方々には今回のセミナー
写真7 所見発表会
に参加しての感想・意見などの提出をお願いした.これ
39
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
は,今後のセミナー開催および実習手引き作成の際の重
の分野で,体幹筋トレーニングの際に重要視されてい
要な参考資料となる.ここにその一部を抜粋して,本セ
る.
(鍼灸)
・固有背筋,坐骨神経,梨状筋下孔:ともに鍼の施術を
ミナーの報告の一部とさせて頂く.
おこなう際に重要(鍼灸)
・各関節の構造:鍼灸治療のメルクマールとして重要で
【開催時期について】
・適切な回数
(看護,鍼灸,柔整)
あり,各構造の具体的な位置と刺鍼位置との関連づけ
・個人的には年末がベター
(鍼灸)
ができた(鍼灸)
・頚部交感神経:実物を観察したかった.心血管系に対
・看護の実習前で参加しやすい
(看護)
する薬物効果を理解するには頚部の自律神経の分布・
・9月の学会シーズン前のためこの時期が良い
(看護)
走行の知識が必要である(鍼灸)
・この時期が適当と思うが,基礎看護学の教員は実習準
・下肢とくに大腿前面の筋:筋の実際の走行がイメージ
備のためこの時期参加できない.代案として2月末〜
と異なっていた(柔整)
3月が考えられる
(看護)
・骨盤の筋:触診の際,個々の筋の走行や深さが重要と
なる(柔整)
【開催日数について】
・胸腺,横隔膜,大網,小網,腸のねじれ,副腎,腎臓:
・10日程度が最適と思うが,大学業務との兼ね合いで7
イラストや写真ではその局所関係が十分に理解できな
日あたりが適当か
(看護,鍼灸)
かった(看護)
・全日程参加のためには7日間がベスト
(柔整)
・大殿筋,三角筋:注射部位でありながら従来の記述は,
・もう少し多くてもいいと思う
(鍼灸)
重要な神経血管との位置関係が不正確であった(看護)
・皮膚,皮下組織:皮膚を通しての看護援助は,皮膚と
【東京医科歯科大学の実習室設備について】
いう構造の解剖学的な根拠に基づいて行われるべき.
・明るさ,空調,臭い,用具など特に問題なく快適であっ
褥瘡の好発部位における様子がよく分かった(看護)
.
た
(鍼灸,柔整,看護)
・結合組織:各臓器を包んだり,仕切りをしたり,つな
・背が低い者にとっては参加者が遺体の廻りを取り囲ん
いでいるという事実がはじめてわかった.終末期高齢
で観察する場合に見づらかった
(看護)
者の体重減少と皮下組織の減少との関連が興味深い
(看
護)
【実習の進め方】
・膜構造:胸膜,心膜,腹膜,筋膜などを視覚的,触覚
・男女の2体で異なる解剖のアプローチを提供してくれ
的に理解することができた(看護)
てよかった
(看護,柔整,鍼灸)
・はじめの秋田教授の講義が有意義であった
(看護)
・上皮小体:想像以上の小ささに驚いた(看護)
・事前講義を略して,手技主導での進め方がよかった
(看
・肺:気管から空気を入れたときの肺の抵抗,膨らみの
様子(看護)
護,柔整,鍼灸)
・2体の遺体で異なった進行にしたのは,短期間に多く
・喉頭蓋:弾力性および周囲との位置関係がよくわかっ
の観察を目的としたためよかったと思うが,自分のグ
た.喉頭蓋が気管のふたをするという従来の教科書の
ループの作業に追われて別のグループの遺体を見に行
記載に対する疑念が生じた(看護)
く時間がとりにくかった.時間を決めてメンバーを入
【今回観察できなかったが,自分の専門と関連がある部位】
れ替えてもいいと思う
(看護)
・表情筋:施術後に皮下出血を起こすことがあるので,
・いままで解剖の講義を受けた経験がないので,午前中
血管走行について観察したい(鍼灸)
に実習講義をしてほしかった
(鍼灸)
・顔面部:顔面神経麻痺,頭痛,美容鍼灸など顔面部の
・局所解剖ではなく,系統解剖
(筋系や血管系など)ごと
構造も鍼灸の臨床には重要である(鍼灸)
に分けて観察してもいいと思う
(鍼灸)
・脳:多くの生理現象には脳が深く関わっている(鍼灸)
頭蓋の中に収まった状態の脳.まわりの構造との局所
【今回の観察で興味を持った部位,自分の専門分野と密接
に関連した部位】
関係を知りたい.もっと様々な面での断面を観察した
・臍:伝統医学において「臍診」
「臍鍼」といった独特な
い(看護)
・鼻腔から気管まで:高齢者看護において気道内分泌物
診察方法がある臍は,局所的に多くの筋,筋膜,血管,
を吸引するためにカテーテルを挿入する際に重要
(看護)
神経との密接な関連があり,多数の臓器の生理病理と
・大腿骨骨頭,頚部:高齢女性においてこの部位の骨折
何らかの関連のあることが実際に観察できた.
(鍼灸)
が看護にいて問題になる(看護)
・膝関節と腹横筋:鍼灸臨床では膝関節痛が問題になる
・直腸・肛門:摘便などの際に,直腸の強度,向きなど
機会が多い.また,腹横筋はスポーツ医学や健康科学
40
東京有明医療大学 学内教員のための解剖学実習セミナー 開催報告
的なセミナーを行うことができたと思う.特に参加者が,
が重要となる
(看護)
鍼灸,柔道整復,看護のそれぞれの分野において,人体
構造の正確な知識がいかに重要であるか,また昨今の極
【学生教育への今後の影響】
・実際に筋・神経や関節を観察したことにより,その立
めて美しいイラストや写真による知識がいかに不十分で
体的なイメージをより正確に学生に伝えることができ
あるかを認識することができた効果は大きい.それでも
る
(鍼灸)
観察を省略せざるを得なかった部位が生じてしまった.
特に頭部は,鍼灸,看護にとり重要な部位でもあり,是
・本からの知識だけではなく,自ら観察した事実に基づ
非とも観察できるように手順を改良すべきであると考え
いて説明できる
(鍼灸)
・今回の観察は学問的な視点に対して大きな影響があり,
る.また今回は,参加者の目的意識の高さにも助けられ
この変化は学生教育の方向性にも影響がある
(看護)
た.本セミナーでは多くの見学実習のように単に人体の
・将来大学院では,基礎看護学に解剖学実習を取り入れ,
各構造を概観するのではなく,皮膚に割を入れるところ
より的確なフィジカルアセスメントを指導できる教員
からはじまり,体中に存在する結合組織や膜を取り除き
を養成することができる
(看護)
ながら深部の神経,血管,臓器などを“堀り出す”作業
を通して「人体」というものを理解してもらうことが,
最も大切なことであった.幸いにも多くの参加者の方々
【その他】
・解剖学実習に関しては,ただ観察するのではなくしっ
にそのような作業のおもしろさ,ひいては“解剖のおも
かりと目的意識を持ち観察することがこんなにも重要
しろさ”を味わって頂くことができ,このような感覚が
であることがよくわかった
(鍼灸)
今後それぞれの専門分野において「人体」を考える上で
何らかの参考になると期待している.
・学生時代は単なる見学実習であったが,臨床家として
これまで遭遇した疾患と関連させながら様々な意味づ
けを持って観察することができた.テキストは「一時
Ⅵ.今後の展望
的・平面的」であったが,実習では連続性をもった立
はじめにも述べたが,本セミナーはあくまで保健医療
体的な理解を深めることができた
(鍼灸)
・医学と同様看護学においても「人体の構造と機能」が
系大学における解剖学見学実習の手引き作成を視野に入
必要不可欠であるが,その知識習得の手段はイラスト
れた企画であり,参加者の協力を得てより学習効果のあ
や写真に限られていた.緊張感を持った解剖学実習を
る手引きを作成することが目的である.今回の感想文で
何らかの形で自らの分野に取り込むのが今後の大きな
も各専門分野において解剖学実習での観察所見がどのよ
課題である.皮剥から始まる一連の解剖手技は,長い
うに関係してくるのかかなり明らかになってはいるが,
年月をかけて多くの研究者たちによって獲得されたも
今回は主催側の準備不足もあり,未だ十分な情報を得て
のだという実感を抱いた
(看護)
いない.今後さらに今回のようなセミナーを開催してい
・解剖学というのは,きれいに剖出された体内の各パー
く必要があると思われる.もう一つ,このようなセミナー
ツを観察することと理解していたが,実際はさまざま
には重要な役目があると考える.現在医療系大学で行わ
な結合組織に各器官が埋もれていてそれを取り除きな
れている解剖見学実習は,医学部教員の指導の下に行わ
がら観察するものであった.切りながら分析するとい
れているのが実情である.しかし医学部教員にとり,昨
う動的なプロセスこそ解剖学の真の意味であることを
今の定員削減や学内業務の増加などのため,学外学生へ
諭された.
「剖出する」というプロセスを通じて展開
の実習指導は大きな負担となってきている.この傾向は
される目の前の世界に驚嘆した
(看護)
今後一層強くなると思われ,その解決策の1つは自前の
指導教員を育成することである.法律上の制約もあり,
すぐには解剖資格を持った教員の養成は難しいと思われ
Ⅴ.ま と め
るが,今回のようなセミナーに参加してある程度解剖学
今回のセミナーは初回であったこともあり試行錯誤的
的な視点から人体を見る訓練を受けた教員が将来,それ
な感があったが,まずは学内教員の方に実際の遺体を用
ぞれの分野での解剖学見学実習の指導補助ができるよう
いた解剖学実習を体験して頂くことが大きな目的であっ
になれば,医学部教員の負担減になり,また同時に各専
た.このような実習で重要なのは,連続した剖出作業を
門分野における学生教育の面からも非常に効果的な実習
すべて体験することであり,全期間参加することが望ま
が行えると思われる.この点からも,今回のようなセミ
しい.しかし,日常の業務に忙しい教員が多くの時間を
ナー開催の必要性は高いと考えている.
セミナーにさくことは困難と思われたため,前述のよう
に観察手順を工夫し,7日間の日程で行った.その結果,
感想文にあるように専門分野の如何を問わず非常に効果
41
東京有明医療大学雑誌 Vol. 3 2011
謝 辞
本セミナーは,平成23年度東京有明医療大学特別研究費助成を
受けた「保健医療系大学における解剖学実習手引き作成に向けて
の基礎的研究」の一環として行われたものである.開催にあたり
最大限の援助を頂きました東京医科歯科大学大学院臨床解剖学分
野秋田恵一教授,那須久代技官をはじめ教室員の方々に深甚なる
謝意を表します.また,本セミナーに協力頂いた参加者の方々に
心よりお礼申し上げます.そして何よりも,今回観察させて頂い
た無言の同胞たちに謹んで感謝の意を表します.
42
東京有明医療大学雑誌 投稿規程
(Journal of Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences)
(平成23年12月1日改定)
1.本誌への投稿は,原則として東京有明医療大学,日本鍼灸理療専門学校,日本柔道整復専門学校の教員
(非常勤を含む)
およびその共同研究者ならびに学生に限定する.
2.投稿論文は和文または英文とし,未発表のものとする.投稿時筆頭者は投稿原稿エントリー用紙(様式1)と,共著者
連名で版権等に関する所定の報告書
(様式2)を提出する.
3.本誌に掲載された論文の著作権は東京有明医療大学に帰属する.他の学術雑誌および電子メディアなどへ一部
(図表
など)
転載する場合には,著者自身の論文であっても事前に紀要委員会の承認を得る必要がある.
4.本誌には次のものを掲載する.
1)総説,2)原著,3)短報,4)報告,5)その他紀要委員会が認めたもの.
5.ヒトおよび動物を扱う研究は,生命倫理に十分配慮して行われたものでなければならない.投稿論文内には,各研究
機関の倫理審査を受けた研究であることと,かつその承認番号を明記する必要がある.
6.総説,原著,短報,報告については査読者2名を付ける.
7.原稿は別紙に定める様式に従って記載する.
8.文字
(ページ)数は,原著・総説の場合図表を含めて刷り上がり10頁以内(文字数にして和文15,000字以内,欧文で約
7,000 words以内)
とし,短報・報告・その他は図表を含めて5ページ以内
(文字数にして和文8,000字,欧文3,500字以内)
とする.頁数超過の場合は追加料金を著者が負担する.
9.カラーページを用いた場合,著者がそのカラーページ分の全額を負担する.
10.総説,原著および紀要委員会が認めた論文には,300 words以内の英文抄録とその和訳をつけ,さらにキーワードと
して英語および日本語で各5語以内をつける.キーワードは「Medical Subject Headings(米国国立医学図書館)
」の
最新号を参考にすること.
11.原稿の構成は,表紙
(表紙には表題,所属,氏名を記す),英文抄録とキーワード,その和訳,略題,本文,文献,各図表,
および図表の説明とし,それぞれを別ページで始める.本文の項目立ては原則としてⅠ.緒言,Ⅱ.方法,Ⅲ.結果,
Ⅳ.考察,Ⅴ.文献のように記し,各項目は1.2.3.……,1)2)3)……,(1)
(2)
(3)……のようにする.
12.原稿と図表は,正1部,副
(コピーで可,ただし写真はオリジナル)2部の計3部を提出する.また英文抄録およびそ
の和訳も3部提出する.原則として11項で定めた原稿のファイル(本文はWORD形式,図表はJPEG形式)にして電子
メディア
(著者名を明記)
に保存の上,併せて提出する.
13.原稿は,
「東京有明医療大学雑誌」紀要委員会(東京有明医療大学5F附属図書館内)へ提出する.郵送先 〒135-0063
東京都江東区有明2丁目9番1号
14.投稿原稿の採否および掲載順は紀要委員会で決定する.
15.別刷りが必要な場合校正時に冊数を申告し,30冊までは大学側の負担とする.また追加分については著者が実費の全
額を負担する.
16.著者校正は2校までとし,紀要委員会が指定した期日内に返送する.校正の際には著しい改変,組み替えなどを行わ
ない.
17.原稿受付の締め切りを,毎年8月末日とする.
東京有明医療大学雑誌 原稿の様式
(Journal of Tokyo Ariake University of Medical and Health sciences)
(平成23年12月1日改定)
1.原稿はA4版白紙に12ポイントを使用する.本文は40字×40行に設定する.和文はMS明朝体を,欧文はTimes New
Romanを使用する.
2.原稿は和文または英文とする.和文の場合は,かなづかい,口語体,ひらがなの横書きとし,漢字は原則として,常
用漢字とする.
3.数字および英字はすべて半角とする.
4.外国人の人名,地名,物質名などは原語を用いる.ただし,人名および固有名詞は最初の一字を大文字,他を小文字
で書く.日本語化しているものはカタカナで書く.薬物名は一般名を用い,初出時に化学名を付記する.
5.動植物,微生物などのラテン語名はイタリック体で,日本語名はカタカナで書く(イタリック体指定の場合は単語に
下線を引く)
.
6.数量の記号はなるべく国際単位系による.
(JISZ 8203:国際単位(SI)およびその使い方,日本規格協会発行参照)
例:長さ nm,μm,mm,cm,m,kmなど
質量 pg,ng,μg,mg,g,kgなど
体積 μL,mL,L,あるいは mm3,m3 など
温度 ℃,ºKなど
時間 s
(秒)
,min
(分)
,h
(時間)
など
7.略号を使用する場合は,初出の箇所に正式名を書き,それに続いて略号を括弧に入れて示す.論題および英文抄録中
の略号の使用は避けることが望ましい.
8.図はそのまま印刷できる明瞭なものを作成し,原則としてA4版用紙に印刷し3部提出する.写真は白黒・カラーと
も鮮明なものとし,電顕写真にはスケールを入れる.各図表,写真のデータも電子メディアに保存し,提出する.図
表の挿入位置を原稿右側の余白に赤字で記載する.また,原著の図表およびその説明は本文を参照せずに理解できる
よう記述する.
9.引用文献の記載は次のようにする.
1)文献は引用順とし,番号を本文中の引用部分の右肩に片括弧を付けて記す.原著の場合,文献数は必要最小限度
にとどめ,最大40編程度とする.
2)引用文献リストの記載要領はUniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals(最新版)
に準拠する.著者名は4名以上の場合は3名までを記載し,
その他を欧文誌は et al. 和文誌は全角をあけて ほか.
と略する.
3)文献の記載方式
(1)雑誌論文の場合は著者名
(欧文著者名は姓,名の順に記載し,名はその頭文字で記載する)
.論文題名.雑誌名
出版年;巻:ページ
(はじめ−おわり).とする.雑誌名は略称を用いない.
(例)
a)高野一夫,加藤総夫,木村直史 ほか.脳幹部呼吸性ニューロン活動と横隔神経高頻度同期波の相関.
自律神経 1990;27(1):32-37.
b)Takano K and Kato F. Inspiration-promoting vagal reflex in anaesthetized rabbits after rostral
dorsolateral pons lesions. Journal of Physiology(London)2003 ; 550 : 973-983.
(2)図書の場合,
著者または編者名.書名:副題.版次.出版地:出版社;出版年.p.ページ
(はじめ−おわり)
.
の順とする.
(例)a)清水英佑.化学物質の許容濃度.国立天文台編.理科年表.平成19年度版.東京:丸善;2006.
p.978-985.
(3)図書の1論文を引用する場合,著者名.一編あるいは一章の論題.
(英文の場合In:)編者名.書名:副題.出版地:出版社;出版年.p.ページ(はじめ−おわりの順とする)
.
(例)
a)高野一夫.呼吸反射-肺と気道からの反射.星猛・伊藤正男編.生理科学体系 呼吸の生理学(第17
巻)
.東京:医学書院;2000.p.128-137.
b)Takano K, Kato F, Kimura N et. al. Correlation of inspiratory unit activity in the brain stem
with phrenic high-frequency oscillation of rabbits. In: Control of Breathing and Dyspnea. Eds by
Takishima T, Cherniack NS. Oxford : Pergamon Press ; 1991 : 61-71.
(4)電子文献を引用する場合は,上記の印刷媒体の引用方法に従ったうえ,URL. 参照日付を記載する.
(例)
a)国立感染症研究所〔internet〕.生物学的製剤基準.
http://www.nih.go.jp/niid/MRBP/index.html.〔accessed 2008-09-19〕
4)私信,未刊行物,投稿中あるいは準備中の文献はリストに入れず,本文中で説明するかまたは脚注として示す.
ただし,原稿が印刷中のものは掲載される雑誌名,巻,号,年数を付記し,末尾に(印刷中,欧文の場合は in
press)
と記載する.
10.問い合わせ先:紀要委員会
(東京有明医療大学5F附属図書館内)
TEL:03-6703-7015 FAX:03-6703-7098
E-mail:[email protected]
東京有明医療大学 紀要委員会
委 員 長 高 野 一 夫
査読者一覧
委 員 東 郷 俊 宏
伊豆上 智 子
久 米 信 好
小 山 浩 司
寺 井 政 憲
寺 井 政 憲
川 上 嘉 明
中 澤 正 孝
吉 川 悦 子
藤 本 英 樹
附属図書館 松 井 達 行
矢 嶌 裕 義
福 田 純 子
事 務 局 堀 正 樹
佐々木 隆
Journal of Tokyo Ariake University of
vol. 3, 2011
Medical and Health Sciences 発行日 2011年12月31日
編 集 東京有明医療大学 紀要委員会
発行所 東京有明医療大学
〒135-0063 東京都江東区有明 2 - 9 - 1
TEL 03-6703-7000
印 刷 株式会社 三和
〒220-0051 神奈川県横浜市西区中央 2 - 28 - 6
TEL 045-620-3261
投稿原稿エントリー用紙
(様式1)
東京有明医療大学雑誌に投稿します。
また本学紀要委員会での審査を承諾します。
平成 年 月 日 提出
原稿のタイトル:
原稿の種類: 総説・原著・短報・報告・その他
所属:
ふりがな
名前(筆頭著者):
※筆頭著者が学外の場合:学内連絡者名( )
紀要委員会記入欄
受付番号
キ リ ト リ
ご投稿原稿をお預かりいたします。(上記と同内容を投稿者が記入)
本学紀要委員会で受付の可否を審査いたします。
原稿のタイトル:
原稿の種類: 総説・原著・短報・報告・その他
所属:
ふりがな
名前(筆頭著者): 殿
紀要委員会記入欄
受付番号
平成 年 月 日
受付番号
ご投稿者控えとしてお渡しいたします。
東京有明医療大学雑誌
紀要委員会
本投稿論文についての報告書
(様式2)
東京有明医療大学 紀要委員会 御中
平成 年 月 日
本論文を東京有明医療大学雑誌に投稿するにあたり、本原稿が他の学術雑誌な
どに未発表であることをここに報告いたします。
また採用された場合には、本論文における著作物の版権が東京有明医療大学に
帰属することに同意し、電子ジャーナル版への公開を許諾します。
尚、本論文の内容に関しては、著者(ら)が一切の責任を負うことに承諾いた
します。
※学外共著者は FAX 送信可とし、筆頭著者がとりまとめ提出する。
論文表題
筆頭著者名(自筆署名または押印)
全共著者名(自筆署名または押印)