CSRトピックス 2010年度

No.10-001
No.10-011
2010.6
CSR トピックス
<2010 特別号>
「会社役員に求められる内部統制システム構築義務」
はじめに
D&Oリスク(役員賠償責任リスク)は、会社役員にとって依然脅威となっています。特に昨今、
企業における不祥事等を契機としたD&O訴訟では、役員が内部統制システム構築義務を果たして
いたかが厳しく問われており、高額賠償に発展した事案もみられます。
本稿では、会社法および内部統制が論点となった近年のD&O訴訟の判例にも触れつつ、役員に
求められる内部統制システム構築義務について解説します。
Ⅰ.会社法が求める内部統制システム
2006 年 5 月より施行された「会社法」では、大会社(資本金 5 億円以上または負債総額 200 億円
以上)における取締役(取締役会設置会社では取締役会)の内部統制システム構築義務が明文化さ
れました(法第 362 条第 4 項第 6 号:取締役会設置会社の場合)。同法で求められる内部統制シス
テムの内容については、同法施行規則第 100 条第 1 項(取締役会設置会社の場合)に以下の通り規
定されています。
会社法施行規則第100条1項
法第362条第4項第6号に規定する法務省令で定める体制は、次に掲げる体制とする。
(1号)取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
(2号)損失の危険の管理に関する規程その他の体制
(3号)取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
(4号)使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
(5号)当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を
確保するための体制
これにより、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」
、すなわちリスクマネジメント体制
および「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」、すなわちコ
ンプライアンス体制を、企業集団において構築すべきことが、明文化されたことになります。
しかも、内部統制システム構築に関する基本方針についての取締役会決議概要を、事業報告にて
開示しなければなりません(同法施行規則第 118 条第 2 項)。これは事実上、自社の基本方針を株
主(ひいてはその他のステークホルダー)に対してコミットすることが求められているといえます。
実際に会社法施行後、各企業の内部統制システムに関する情報開示は進んでおり、他社の内部統
制システムとのベンチマーキングも比較的容易になりました。今後のさらなる開示情報の蓄積によ
り、事実上要求される内部統制システム構築義務のレベルも明確になっていくものと想定されます。
1
Ⅱ.内部統制システムに関連する D&O 訴訟判例
1.リーディングケース
会社法が要求する内部統制システム関連の規定は大会社を対象としていますが、大会社以外の
取締役が内部統制システム構築義務を負わないということではありません。会社法施行以前から、
株主代表訴訟の判例で、会社の規模等にかかわらず、取締役が内部統制システム構築義務を負う
ことが示されているのです。取締役の内部統制システム構築義務に初めて言及した判例が、以下
に挙げる大手都市銀行の株主代表訴訟事案です。
<判例①>大手都市銀行・不正取引事案(株主代表訴訟)
【事案】
<被 告>不正行為当時の取締役・監査役 合計 49 名
<事案の概要>
大手銀行ニューヨーク支店の元嘱託行員が米国債の不正取引で約 11 億ドルの損失を発生させた。
<争 点>
善管注意義務の内容としてリスク管理体制の構築を含むか否か
【判決内容】
<一審判決(大阪地裁 2000.9.20)>
「会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業
務執行を担当する代表取締役および業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリ
スク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。」
以上より、取締役ニューヨーク支店長であった元副頭取に対し、リスク管理の点で、取締役として
の注意義務および忠実義務違反があったとして、5 億 3000 万ドルの損害賠償を命じた。
(下線は弊社による。以下同じ。)
本件は、
第一審で巨額の損害賠償が命じられたことで有名な事案ですが
(後に高裁にて 2 億 5000
万円で和解)
、上記のとおり、リスク管理体制、内部統制システムの構築が役員の善管注意義務の
一内容として具体的に示した点でも重要な判決です。本件は元々、一従業員が行った不正取引で
あり、一見すれば、経営者が従業員の行動を逐一監視することは困難であるとの抗弁が成り立ち
そうです。
しかし本件では、取締役会でリスク管理体制の大綱を決めた上で、業務執行を担当する代表取
締役や業務担当取締役が米国債の不正取引を予防するためのリスク管理体制を決めておかなけれ
ばならなかったのに、これを怠ったとして善管注意義務違反を認定しました。役員自身は関与し
ていない、自身は何も知らなかった、という抗弁が認められないことが明らかになったのです。
2.その他の判例
その後、上記以外にも内部統制システムの構築が争点となったD&O訴訟が提起されています。
以下に、事案の概要と判決のポイントをまとめました。
<判例②>飲料品等メーカー・デリバティブ取引事案(株主代表訴訟)
【事案】
<被 告>担当取締役および本件取引当時の取締役および監査役
<事案の概要>
同社において、資金運用業務の担当取締役の指示の下、投機性の高いデリバティブ取引が行われ、
同社に約 533 億 2046 万円の損失が発生した。
2
<争 点>
役員のデリバティブ取引に関するリスク管理体制構築義務違反の有無
【判決内容】
<一審判決(東京地裁 2004.12.16)>
「本件取引はリスクの高い取引であるから、担当取締役は会社の財務内容等に著しい悪影響を及ぼ
すことがないように、リスクが会社に与える影響を把握し、それに見合った必要なリスク管理体
制を構築し、これに基づいて個々の取引を行う必要があるが、これらは、会社の経営者としての
専門的かつ総合的判断であるから、経営判断の原則が妥当する。」
「・・・本件会社では内部でデリバティブ取引に関する制約事項を定め、個別取引の報告書を・・・
チェックする体制を整え、代表取締役及び監査役が本件取引の含み損額を把握するようにしてい
たのであるから、本件取引の危険性に相応するためのリスク管理体制は構築されていた」
。
本判決は、担当取締役が、上記制約事項に違反してデリバティブ取引を行った点について、担当取
締役の善管注意義務違反を肯定し、約 67 億 542 万円の損害賠償責任を認めた。
本件では、担当取締役が上記の制約に反する取引により発生させた損失については、当該取締
役の善管注意義務違反を認めたものの、他の役員については、デリバティブ取引が会社に与える
影響に見合ったリスク管理体制の構築が必要とした上で、同社にデリバティブ取引に関する制約
やチェック体制が存したことなどを理由に、善管注意義務違反を否定しました。
当該リスクに見合った適切な内部統制システムを構築・運用している場合には、結果的に一部
の役員が内部統制システムに反して会社に損失を生じさせたとしても、その他の役員は必ずしも
善管注意義務違反に問われるものではないことが読み取れます。
<判例③>大手商社・カルテル事案(株主代表訴訟)
【事案】
<被 告>カルテルの期間内に取締役および監査役であった者およびその遺族
<事案の概要>
同社は、各国の黒鉛電極メーカーとともに、黒鉛電極価格の引上げ、地域ごとの供給割合の固定
などについてカルテルを結んだ。同社は米国において、本件に係る刑事事件・民事事件によって
支払いを余儀なくされた 2000 万ドルの弁護士費用も含め、総額 1 億 9,900 万ドルの損失を蒙った。
<争 点>
役員の法令遵守体制構築義務違反の有無
【判決内容】
<一審判決(東京地裁 2004.5.20)>
同社は「(1) 各種業務マニュアルの制定、(2) 法務部門の充実、(3) 従業員に対する法令遵守教
育の実施など、北米に進出する企業として、独占禁止法の遵守を含めた法令遵守体制をひととお
り構築していたことが認められる。
」
本判決は、原告らは、同社の法令遵守体制の構築義務の不履行を抽象的に指摘するのみであるとし
て請求を棄却した。
本件では、被告役員側に補助参加した同社の法令遵守体制構築義務違反を指摘した原告株主の
主張に対して、裁判所は、マニュアルの制定、専門部署の充実、従業員研修の実施などの具体的
取組を挙げて、法令遵守体制が構築されていたと認定しています。また、株主側からは、同社の
法令遵守体制の不備内容、本来構築すべき体制の内容などについて具体的な主張がなされなかっ
たため、請求は棄却されました。
3
<判例④>肉まん無認可添加物混入事件(株主代表訴訟)
【事案】
<被 告>同社元社長ら 13 名
<事案の概要>
同社が運営するドーナツチェーンで、無認可添加物を含む肉まんを販売していたことが発覚。販
売に直接関わった 担当役員と本部長は、無認可添加物の混入を知りながら、販売継続を実施し
ていた。また、当該事実の発覚後、被告らは当該事実を積極的に公表しない判断をした結果、同
社はドーナツチェーン加盟店への営業補償や信用回復キャンペーンなどの費用支出を余儀なくさ
れ、同社に約 106 億円の損害が生じた。
<争 点>
不祥事認識後の危機管理対応に関する役員の注意義務違反の有無
【判決内容】
<控訴審判決(大阪高裁 2006.6.9)>
不祥事を防止できなかったこととは別に、事実を知った後に速やかな信用失墜を最小限にとどめ
る適切な対応を取らなかった点について、不祥事を認識した後の危機管理対応に過失があったと
して、被告役員 11 名に対し寄与度に応じた損害賠償(5 億 5805 万円~2 億 1122 万円)を命じた。
本件では、不祥事を防止するための対応よりむしろ、不祥事を認識した後の対応に焦点を当て、
具体的には、当該事実を積極的に公表しなかったことについて、被告役員の善管注意義務違反を
認めたものです。
不祥事を予防するための体制を構築することも当然ですが、さらに緊急時における適切な意思
決定を行うことが役員の善管注意義務の一内容であることが明らかにされたケースとして、近年
注目されている判例の一つです。
<判例⑤>ソフトウェア販売業者・売上架空計上事案(第三者訴訟)
【事案】
<原 告>同社 元株主
<被 告>同社代表取締役
<事案の概要>
同社事業部長が、部下の営業担当者数名と共謀して、販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造
し、担当者を欺いて架空の財務部に架空の売上げ報告をさせた。後に不正行為が発覚し、同社株
価が大幅に下落して損失を蒙ったとして、元株主が損害賠償を求め提訴した。
<争 点>
役員の不正行為防止のためのリスク管理体制構築義務違反の有無
【判決内容】
<上告審判決(最高裁 2008.7.9)>
○本件不正行為当時、同社は「職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し、…というの
であるから」、通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止しうる程度の管理体制は整え
ていた。
○本件不正行為は、…営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて、…見掛け上は同社の売
掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという、通常容易に想定し難い方
法によるものであった。
○売掛金債権の回収遅延につき事業部長らが挙げていた理由は合理的なもので、販売会社との間で
過去に紛争が生じたことがなく、監査法人も同社の財務諸表につき適正であるとの意見を表明し
ていたというのであるから、財務部が、事業部長らによる巧妙な偽装工作の結果、販売会社から
適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会社に売掛金債権の存在等を確
認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはでき
ない。
以上によれば、代表取締役に、本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に
違反した過失があるということはできない。
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本件は株主代表訴訟ではなく、元株主が自身の損害について賠償請求した第三者訴訟ですが、
被告のリスク管理体制構築義務違反が争点となっています。
判決では、被告役員には売上の架空計上という不正行為防止のためのリスク管理体制の構築義
務があるとした上で、本件については職務分掌規程等が存在していたことなどを理由に、リスク
管理体制は整っていた、としています。さらに、不正行為が通常容易に想定し難い方法で巧妙に
なされたことなどを理由に、リスク管理体制が機能していなかったとはいえないとし、被告役員
のリスク管理体制構築義務違反を否認しました。
本件も、判例②と同様に、当該リスクに見合った適切な内部統制システムを構築・運用してい
る場合には、一部の役職員が内部統制システムに反して不正を行った結果として第三者に損失を
生じさせたとしても、その他の役員は善管注意義務違反に問われるものではないということがい
えます。
Ⅲ.会社役員に求められる内部統制システム構築義務
上記のとおり、D&O訴訟において、被告役員の善管注意義務違反の有無を評価するに際し、内
部統制システムの構築・運用が争点となった例は少なくありません。すなわち内部統制システム構
築義務を果たすことが、会社役員のD&Oリスクを低減するためには有効であるといえます。
もっとも、会社法および同法施行規則や、本稿でご紹介した判例のみでは、内部統制システム構
築義務の具体的内容は判然としません。様々なステークホルダーに対して基本方針をコミットする
以上は、同基本方針に沿って内部統制システムの具体的内容を検討し、構築していく必要がありま
す。そこで、本稿Ⅰ.の「会社法が求める内部統制システム」の中核である、リスクマネジメント、
コンプライアンス、そしてこれらのグループ展開について、法令等の趣旨や国際標準規格化の動向、
企業の実態、弊社における内部統制コンサルティングの実績等も踏まえつつ、「会社役員に求めら
れる内部統制システム構築義務」を解説します。
1.リスクマネジメント・コンプライアンス
特にリスクマネジメント(以下、RMといいます)については、全社的RMに関する国際規格
であるISO31000が2009年11月に発行されており、ここでは同規格について公表さ
れた内容も踏まえつつ、RM・コンプライアンスいずれにも共通する重要な事項を取り上げます。
<設計>
・基本方針の策定
具体的には、自社グループのRM、コンプライアンス推進に関するビジョンや基本方針を取
締役会などで決定し、社内外に表明するということです。特に社内においては機会のあるご
とに、管下の役職員に対して、RM、コンプライアンスの重要性を表明することも大切です。
・中長期的な取組計画・ゴールの設定
事業活動を営む限り、RM、コンプライアンスへの取組も継続する必要があります。場当た
り的に取り組むのではなく、自社グループの置かれている現状も十分踏まえ、中長期的な取
組計画と段階的ゴールを設定することで、効果的な取組が可能となります。
・経営トップを最高責任者とする、全社的なRM、コンプライアンスの推進体制を構築するこ
とが必要です。企業の規模や事業ドメイン等によって実現すべき組織体制の詳細な内容は異
なりますが、少なくともRM基本規程などで、各役職者の役割権限や年間のPDCAサイク
ルを明確に定めておくことは必要です。
5
<実践>
・リスクアセスメント
自社グループを取り巻くリスク・法令等について網羅的に認識していることが必要です。そ
のためには、必要に応じて外部専門家も活用しつつ、客観的な基準・指標に基づいて、リス
クの洗い出し・評価を実施することが求められます。
・自社グループの事業活動において特に重要なリスク・法令については、優先度も明確にした
上で、具体的な対応を行うよう指示することが必要です。また、重要なリスクへの対応策に
は相応のロードやコストがかかることが想定されます。外部専門家起用による省力化なども
視野に入れつつ、適切な資源投入の判断を行うことが求められます。
・研修等の周知徹底策を通じて、全役職員がRM、コンプライアンスについて正しく理解する
ことが必要です。特に役員は、RM、コンプライアンスの重要性を十分認識した上で、管下
従業員に対しても常にこれを表明することが求められます。
<モニタリングおよびレビュー、継続的改善>
・各役員は、所管部門における重要リスク・法令対策を担当部門に一任するのではなく、都度
進捗管理を行わなければなりません。その上で、不具合や課題があれば、解決に向けて担当
部門への指導を行うとともに、経営トップにも報告する必要があります。
・所管部門におけるRM、コンプライアンスのモニタリングだけでは十分とはいえません。役
員は、他の取締役に対する監視義務も負っています。会社にとって重要なリスク・法令対策
の進捗については、特定の役員の所管業務か否かを問わず、全役員で共有し、自身の所管で
なくとも対策の不備や不合理性などがあれば、是正改善を提言すべきです。
監査役(監査委員)または内部監査部門の独立性に十分配慮するとともに、監査役らと定期
的に意見交換するなどして、問題意識を共有することも大切です。
2.危機管理
緊急時においては、経営トップによる迅速かつ適切な意思決定に基づいて対策を実行し、ステ
ークホルダーに説明責任を果たすなど、自社およびステークホルダーの損失の最小化に努めるこ
とが善管注意義務の実践に他なりません。そのためには、事前に以下のような準備をしておくこ
とが求められます。
・基本規程などにより、責任者、役割権限、社内の指揮命令系統などを明確にしておく。特に
重要リスクについては、緊急時対応計画により、より具体的に定めておく。
・初期の情報伝達ルートを定めておく。特に、トップに迅速に伝わるよう、
「報告すべきか迷っ
たら、まずは第一報を入れる」べきことを役職員に徹底し、平常時と異なるバイパスルート
(経営トップに直接情報が伝わるルート)を確保しておく。
・情報共有手法の工夫やTODOリストの作成などにより、重要な対策の抜け漏れを防ぎ、進
捗管理を徹底する。
・危機の種別に応じた専門家や危機管理広報の専門家をアドバイザーとして確保しておく。
・疑似体験型のシミュレーショントレーニングなどで、緊急時の経営判断能力、対応能力を磨
いておく。
3.グループ会社への展開
・グループ会社のRM、コンプライアンス態勢構築に向けて、積極的に指導・支援することが
求められます。
・グループ会社におけるRM、コンプライアンス態勢の整備、運用状況はもちろん、同態勢に
何らかの不具合があった場合も、少なくとも所管部担当役員まではこれを把握した上で、是
正に向けて指導・支援することが求められます。
6
・グループ会社で現に事件・事故が発生した場合には、必ず親会社のトップにも報告され、特
にグループ経営に重大な影響を及ぼす可能性のある事案については、親会社として適切な指
導・支援を行うことが求められます。
おわりに
今後も企業における様々な事件・事故等を契機とした株主代表訴訟等が提起され、役員が内部
統制システム構築義務を果たしていたかを問われるケースが相次ぐでしょう。
しかし、あらゆる事件・事故等を完全に防止できる内部統制システムを構築することが求めら
れているわけではありません。また、判例からも読み取れるように、事件・事故等により会社が
損失を被ったからといって、直ちに結果責任を問われるものではありません。あくまで被告役員
の善管注意義務違反によるものであったかがポイントです。
このため、D&Oリスクの低減に向けては、会社役員として、事件・事故等の防止に有効な内
部統制システムを構築し、善管注意義務を果たしていたと主張できるようにしておくことが必要
です。会社の事業の規模・特性や各種リスクの状況等を踏まえ、実効性と効率性を備えた内部統
制システムを早期に確立すると同時に、時代とともに変化する要求レベルを踏まえ、常に最適な
内部統制システムを追求し続けることが大切なのです。
(コンサルティング第一部 CSR・法務グループ 上席コンサルタント 高橋 敦司)
(コンサルティング第一部 CSR・法務グループ コンサルタント
後藤
一平)
(参考資料1)株主代表訴訟の訴訟係属件数の推移(地裁)
件
250
200
129
150
148 150
186
172
202 187
166
141 150
126
122
107 102
140
100 76
50
0
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
年
(資料版商事法務 205 号、商事法務 1869 号をもとにインターリスク総研作成)
7
(参考資料2)最近3年間の株主代表訴訟事例一覧
判決日(和解日) 裁判所 被告業種
原告の主張
請求金額
判示内容等
備考(被告等)
提訴日
2010年3月30日
【和解】
受注工作裏金の支出、使途秘
被告14名が連帯して2億3000万円
大阪
メーカー 匿金税金の支払、価格カルテ 76億7000万円 支払うことで合意。社外委員で組 現会長ら14人 2006年6月19日
地裁
ル課徴金納付による損害
成するコンプライアンス委員会の
創設
2009年10月22日
東京
地裁
従業員のインサイダー取引を
防止できなかったことにより
マスコミ コーポレートブランド価値が毀 10億円
損されたことによる損害賠償
請求
2008年10月29日
東京
高裁
東京地裁請求棄却
子会社株式の買取価格に関
不動産
東京高裁一審判決取消し、被告
する損失に対する損害賠償 1億3004万円
元取締役ら3人 2006年8月5日
賃貸
らに対し1億2640万円の損害賠
請求
償命令
2008年5月30日
【和解】
和解条項:旧経営陣ら6名が解決
同社が93年~01年に長崎県
金8800万円を支払うことで合意。
連に行った政治献金と談合行
同社は今後、オンブズマン側が選
東京 準大手
為で公正取引委員会から命じ 2億2000万円 んだ元公正取引委員会審査官一 元取締役ら6人 2003年8月14日
地裁 ゼネコン
られた課徴金の返還を求め
人を加えた「談合防止コンプライア
た。
ンス検証・提言委員会」(仮称)の
設置。県連への政治献金の禁止
など7項目。
2008年5月21日
デリバティブ取引により、会社
東京地裁請求一部認容、被告1名
東京
533億2000万
メーカー に損害を与えた。(1993.5~
に67億540万円の支払を命じた。 元会長ら8人
高裁
円
1998)
東京高裁控訴棄却
1998年8月6日
2008年4月23日
東京地裁請求棄却
東京高裁控訴棄却
最高裁、控訴審判決破棄して旧経
営陣の賠償責任を認定。賠償額算 元社長ら5人
定のために高裁差し戻し
東京高裁、旧経営陣に計約583億
円の支払いを命令(確定)
1993年8月9日
大阪地裁は被告2名に106億円
2400万円の支払いを命じた。
106億2400万 被告大阪高裁に控訴
無認可添加物入り肉まん販売
2008年2月12日 最高裁 メーカー
円
大阪高裁原判決変更・請求一部認 前社長ら10人
による損害(2000.11)
容(53億4350万円)
原告、最高裁に上告
上告却下(確定)
2003年4月4日
2007年9月27日
仕手集団代表K氏の恐喝、仕
東京
メーカー 手集団債務の肩代わり等によ 612億円
高裁
る損害(1990発覚)
東京
営業譲渡債権の未回収分に
メーカー
地裁
よる損害
425億円
請求棄却(確定)
2007年2月28日
東京地裁請求棄却
元取締役ら5
原告控訴
2006年12月13日
人
2008年5月12日原告控訴取り下げ
2007年3月16日
高松
高裁
高知地裁一部認容、1億6000万円
の支払いを命じた。
県幹部の要請を受けて行った
原告・被告ともに、高松高裁に控
16億3800万円
融資をめぐる損害
訴
一審取消、原告請求棄却
最高裁に上告
2001年10月16日
2007年3月15日
大阪地裁請求棄却
無認可添加物入り肉まん販売
大阪
大阪高裁控訴棄却
メーカー の発覚後、自己株式を高値で 20億7416万円
高裁
原告、最高裁に上告・上告受理申
取得したことによる損害
立て(5.18取下げ)
2004年6月22日
2006年11月14日 最高裁
銀行
建設
実質赤字が続いていたにもか
かわらず、政治献金を行った 9900万円
のは違法。(1996~1999)
政治資金規正法・公選法違反はな
いが、巨額損失を出した年以降の
献金は善管注意義務違反にあた
るとして、前社長に約2800万円の
支払を命令(福井地裁)
元社長ら2人
原判決取消・請求棄却、原告の控
訴棄却(名古屋高裁金沢支部)
原告、上告受理申し立て
上告棄却・上告不受理
2001年6月26日
資料版/商事法務 No.310 及び商事法務 No.1853 をもとにインターリスク総研作成)
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本誌は、マスコミ報道など公開されている情報に基づいて作成しております。
また、本誌は、読者の方々に対して企業のCSR活動等に役立てていただくことを目的としたもの
であり、事案そのものに対する批評その他を意図しているものではありません。
株式会社インターリスク総研は、MS&ADインシュアランスグループに属する、リスクマネ
ジメントについての調査研究及びコンサルティングに関する専門会社です。
本誌で取り上げた内部統制システムの構築をはじめ、会社役員のD&Oリスク対策に関しても、
以下のようなコンサルティング・セミナー等を実施しております。
これらのコンサルティングに関するお問い合わせ・お申込み等は、下記の弊社お問い合わせ先、
または、お近くのニッセイ同和損保、あいおい損保、三井住友海上の各社営業担当までお気軽
にお寄せ下さい。
お問い合せ先
㈱インターリスク総研 コンサルティング第一部(CSR・法務グループ)
TEL.03-5296-8912
http://www.irric.co.jp/
<コンサルティングメニュー>
①新任役員に、会社役員に求められる役割やリスク等を周知徹底したい。
⇒新任役員向けD&Oセミナー
②「リスクの評価と対応」を実践したい。
⇒総合リスクマネジメント・コンサルティング
⇒危機管理体制構築コンサルティング
③「法令遵守」の体制・対策を整備したい。
⇒コンプライアンス体制構築コンサルティング
④自社固有の「統制環境」を整備したい。
⇒企業行動憲章・役職員行動規範策定コンサルティング
⇒CSRコンサルティング
⑤「内部統制に関する基本方針」を具体的に展開したい。
⇒内部統制・CSRグランドデザイン・アクションプラン策定コンサルティング
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