航空機等輸送系機械システム用 革新的アクチュエータシステムに関する

システム技術開発調査研究
19-R-7
航空機等輸送系機械システム用
革新的アクチュエータシステムに関する
調査研究報告書
― 要 旨 ―
平成20年3月
財 団 法 人 機 械 シ ス テ ム 振 興 協 会
委託先 財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
序
わが国経済の安定成長への推進にあたり、機械情報産業をめぐる経済的、社会的諸条件は急
速な変化を見せており、社会生活における環境、防災、都市、住宅、福祉、教育等、直面する
問題の解決を図るためには、技術開発力の強化に加えて、ますます多様化、高度化する社会的
ニーズに適応する機械情報システムの研究開発が必要であります。
このような社会情勢に対応し、各方面の要請に応えるため、財団法人機械システム振興協会
では、財団法人日本自転車振興会から機械工業振興資金の交付を受けて、機械システムに関す
る調査研究等補助事業、新機械システム普及促進補助事業を実施しております。
特に、システム開発に関する事業を効果的に推進するためには、国内外における先端技術、
あるいはシステム統合化技術に関する調査研究を先行して実施する必要がありますので、当協
会に総合システム調査開発委員会(委員長 東京大学
名誉教授 藤正 巖氏)を設置し、同委員
会のご指導のもとにシステム技術開発に関する調査研究事業を実施しております。
この「航空機等輸送系機械システム用革新的アクチュエータシステムに関する調査研究報告
書」は、上記事業の一環として、当協会が 財団法人次世代金属・複合材料研究協会に委託して
実施した調査研究の成果であります。今後、機械情報産業に関する諸施策が展開されていくう
えで、本調査研究の成果が一つの礎石として役立てば幸いであります。
平成20年3月
財団法人機械システム振興協会
はじめに
地球にやさしく、資源やエネルギーは浪費しないという命題は工業製品の製造並びに使用にも
課せられており、技術革新が必要となります。当協会は、優れた性質を有する革新的な金属・複
合材料の研究開発及びその成果の普及を通じて産業の振興、発展に寄与することを目指してい
ます。
近年、環境保護や省エネルギーに対する関心の高まり、エアラインの価格競争の激化、原油
価格の高騰等の理由により、航空機の軽量化、高性能化への要求は今後ますます厳しくなると予
想され、従来の構造・装備品のレベルを超えた軽量化、従来の空力設計技術を超えた高性能化
をシステムとして実現するデバイスとして、革新的なアクチュエータシステムの開発が期待されて
おります。このことから当協会は、「航空機等輸送系システム用アクチュエータシステムに関する調
査研究」を財団法人 機械システム振興協会より受託し、名古屋大学准教授池田忠繁氏を委員
長とし、当該分野の有識者で構成する調査委員会及び作業部会を設置し、ニーズ技術、アクチュ
エータシステム化技術、及び実現のための技術課題に関する調査研究を実施する運びとなりまし
た。
本報告書は、上述の調査研究体制の下に調査、検討した結果及び次期調査研究への提言を
とりまとめたものであります。本報告書が関係分野の技術開発に役立つことを願うものであります。
最後に、調査、検討に際しご指導いただきました経済産業省航空機武器宇宙産業課、(財)機
械システム振興協会、委員会の関係各位及び再委託作業を実施していただいた(独)宇宙航空
研究開発機構の担当者に深甚の謝意を表します。
平成20年3月
財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会
目
次
序
はじめに
1.調査研究の目的 ··········································································································································1
2.調査研究の実施体制 ·································································································································3
3.調査研究成果の要約 ·································································································································5
3-1.革新的アクチュエータシステムに対するニーズの調査·····························································5
3.1.1 回転翼機(ヘリコプタ)·········································································································5
3.1.2 固定翼機································································································································6
3.1.3 機外騒音································································································································8
3.1.4 エネルギハーベスティング ·································································································9
3-2.革新的アクチュエータシステムに適用される候補アクチュエータ材料 ······························ 10
3-3.技術課題··········································································································································· 13
3-4.提言···················································································································································· 14
4.調査研究の今後の課題及び展開 ········································································································ 15
4-1.はじめに············································································································································· 15
4-2.航空機用革新的アクチュエータシステムの研究開発課題 ··················································· 15
4.2.1 回転翼機(ヘリコプタ)······································································································ 15
4.2.2 固定翼機····························································································································· 15
4.2.3 機外騒音····························································································································· 15
4-3.今後の展開······································································································································· 16
1.調査研究の目的
近年、環境保護や省エネルギーに対する関心の高まり、エアラインの価格競争の激化、原油価
格の高騰等の理由により、航空機の軽量化、高性能化への要求は今後ますます厳しくなると予想
され、従来の構造・装備品のレベルを超えた軽量化、従来の空力設計技術を超えた高性能化を
システムとして実現するデバイスとして、革新的なアクチュエータシステムの開発が期待されてい
る。
一方、革新的アクチュエータシステムの基盤をなすとされる圧電素子、形状記憶合金、高分子
ポリマー、磁歪材料等は従来アクチュエータとは異なった特徴のある変位量、パワー、応答特性
及び形状(薄さ、コンパクトさ)を有するが、具体的なアプリケーションが示されず、実用化への取り
組み、検討がなされていない状況である。
平成18年度の調査研究では、アクチュエータ材料の機能、性能の状況、航空機の更なる高性
能化に向けてのアクチュエータシステムの活用検討状況について整理し、本システムのニーズと
シーズの技術レベルのマッチング状況を明らかにした。
本年度の調査研究では、革新的アクチュエータの航空機への適用による性能、特性改善効果
の評価を行い、候補革新アクチュエータシステムの絞り込み、革新アクチュエータの目標とすべき
性能・仕様、実現のための技術課題を明らかにするとともに、最新の開発状況の調査を行い、平
成21年度以降に計画されている開発研究の目標、実施内容の具体化を行う。
-1-
2.調査研究の実施体制
2.1 実施体制
国内外の研究動向調査・情報収集などの調査研究を実施するにあたり、(財)機械システム振
興協会内に総合システム調査開発委員会を、(財)次世代金属・複合材料研究開発協会内に大
学及び関連企業における学識経験者による調査委員会を組織し、調査の効率化と充実化を図る
とともに、研究開発方向の指針、提言の作成、ならびに調査報告書の取りまとめを行った。
委員会の調査を実施するにあたり、特に専門性の高い分野の基礎調査、試算作業については、
調査委員会にて調査作業、試算作業の仕様を作成し、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
に再委託することで、効率的な調査、資産を実施し、調査委員会での検討の資とした。
2.2 実施体制図
財団法人 機会システム振興協会
総合システム調査開発委員会
委託
(財)次世代金属・複合材料研究開発協会
再委託
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
-2-
調査委員会
総合システム調査開発委員会委員名簿
(順不同・敬称略)
委員長
東京大学
藤
正
巖
太
田
公
廣
金
丸
正
剛
志
村
洋
文
中
島
一
郎
廣
田
藤
岡
健
彦
大
和
裕
幸
名誉教授
委
員
埼玉大学
地域共同研究センター
教授
委
員
独立行政法人産業技術総合研究所
エレクトロニクス研究部門
副研究部門長
委
員
独立行政法人産業技術総合研究所
産学官連携推進部門
産学官連携コーディネータ
委
員
東北大学
工学研究科
教授
( 未来科学技術共同研究センター長)
委
員
東京工業大学大学院
薫
総合理工学研究科
教授
委
員
東京大学大学院
工学系研究科
准教授
委
員
東京大学大学院
新領域創成科学研究科
教授(副研究科長)
- 3 -
革新アクチュエータ調査委員会委員名簿
(順不同・敬称略)
委員長
池田 忠繁
名古屋大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 准教授
委員
齊藤 茂
独立行政法人宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ
運航・安全技術チーム ヘリコプタ技術セクション リーダー
委員
大石 勉
株式会社 IHI 航空宇宙事業本部 技術開発センター
要素技術部 システム・環境技術グループ 課長
委員
安達 和彦
神戸大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 准教授
委員
青木 隆平
東京大学 大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授
委員
菊島 義弘
独立行政法人産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門
ターボマシングループ 主任研究員
委員
川上 佳史
住友精密工業株式会社 創事業研究部 主幹技師
委員
長畑 正史
三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所
研究部 主席研究員
委員
金子 進一
川崎重工業株式会社 航空宇宙カンパニー 技術本部
研究部 空力技術課 上級専門職
委員
磯 英雄
富士重工業株式会社 航空宇宙カンパニー
研究部 空力制御設計課 担当
委員
和田 大志
横浜国立大学大学院 工学研究院
システムの創生部門 准教授
事務局
越岡 康弘
(財)次世代金属・複合材料研究開発協会
複合材料技術部 主幹研究員
事務局
田島 直之
(財)次世代金属・複合材料研究開発協会
複合材料技術部 主幹研究員
-4-
3.調査研究成果の要約
昨年度実施した調査結果を踏まえ、航空機等輸送系機械システム用革新アクチュエータシステ
ムによる航空機等輸送系機械システムの性能、特性改善のニーズに関する調査を実施し、これを
実現するための技術課題、アクチュエータ材料の開発動向について調査を実施した。
3.1 革新的アクチュエータシステムに対するニーズの調査
近年、大気汚染、自然破壊、資源枯渇という社会問題が露呈してきたため、「より安価な、より安
全な、よりクリーンな、より静かな」新型航空機が望まれている。ヨーロッパコミッションが発表してい
るビジョン2020では、2020年に開発される航空機は、2001年のレベルと比較し、騒音を50%
削減、CO2を50%削減(即ち燃費の100%向上)すること等を数値目標としている。合衆国の航
空機の研究開発に関する計画においても同様な目標値が設定されている。ICAO(International
Civil Aviation Organization)による、ジェット機の騒音規制も、段階的に厳しくなってきており、ビジ
ョン2020レベルに達すると考えられる。
昨今の環境問題に関する更に厳しい要求や、以前に行われた「知的材料・構造システム」プロ
ジェクトから5年程度経過し、それ以降のアクチュエータ材料・システムの進歩を受け、わが国の
今後の研究開発の方向性を提案するために、昨年度から航空機等における革新的アクチュエー
タシステムに関する調査を行った。今年度は、昨年度の調査結果を踏まえて、空力性能の改善を
重点的に調査するとともに、昨年度の調査項目にはなかったが将来の航空機開発において重要
だと考えられる、エンジン騒音特性の改善、脚騒音特性の改善に関しても調査を行った。
3.1.1 回転翼機(ヘリコプタ)
(1) ヘリブレード振動特性改善
アクティブ・フラップを用いた能動的制御法ではブレードに取り付けたフラップを高調波で振動さ
せることでブレードの揚力を制御する。これによって、空気力によって誘起される振動を制御する
ものである。現在研究段階で進められているが、実用化のためにはフラップを駆動するための革
新的アクチュエータの開発が必要である。
アクチュエータの種類としては、ピエゾアクチュエータが有望であるが、航空機に適用するため
には、大型で耐久性がありかつ駆動量の多いピエゾアクチュエータの開発が必要である。更に、
振動軽減のための制御則の開発が必要である。
(2) ヘリブレード騒音特性改善
ヘリコプタの騒音のうち、着陸時に発生するブレード・渦干渉騒音(Blade Vortex Interaction
Noise)を低減することが喫緊の課題としてあげられる。振動の項で述べたように、振動を軽減する
手段としてピエゾアクチュエータを用いたアクティブフラップを提案した。近年の研究成果は、能
動的にフラップを駆動させることで翼端渦の空間軌跡を変え、後続のブレードとの空力的干渉を
最小限に抑えることが可能であること示している。
本調査研究では、ブレードの振動特性を軽減させると同時に騒音特性をも低減させるピエゾア
クチュエータを提案する。航空機に適用するためには、振動軽減と同様に大型で耐久性がありか
つ駆動量の多いピエゾアクチュエータの開発及びブレードに組み込むための最適な構造配置及
-5-
び取り付け方法などの検証が必要である。同時に、騒音低減のための制御則の開発が必要であ
る。
3.1.2 固定翼機の抵抗低減・空力性能改善
抵抗低減・空力性能改善は、モーフィング技術により行うことができる。ここでいう、モーフィング
技術には、翼全体を変形するような大規模なモーフィングと、翼の一部、例えばボルテックスジェ
ネレータの形状を変形するような局所的で小規模なモーフィング、構造・形状変化により流れ場を
変化させる場合とジェットによる流体入力などにより流れ場を変化させる場合を含む。
(1) フラッタ速度性能改善
民間機を対象とした場合、エンジンを主翼に取り付けた形態では遷音速領域でのフラッタ速度
の落込む遷音速ディップがクリティカルになる可能性は小さく、ナセル・ピッチモード(主翼捩り系)
と主翼曲げ系モードの連成フラッタがクリティカルとなる可能性が大きい。このフラッタを能動的に
回避する手段としては、従来研究されてきた外翼側の操縦舵面を駆動してフラッタを抑制する手
法があるが、フラッタの振動数程度で舵面を制御する必要から、実機相当ではアクチュエータが
数 Hz~10Hz 程度に対応できるものが要求される。
また、遷音速ディップが顕著に現れるクリーンな高アスペクト比/後退角翼形態では主翼曲げ 1
次モード(曲げ系モード)のモード形が強い Wash-out 系であることが知られている。このことから
構造を変更して、振動モード形を Wash-out を弱める方向に変化させることも回避手法として考
えられる。現在、翼の捩り剛性や弾性軸位置を変化させる手法の研究も一部でなされている。た
だし、構造変更機構が複雑、重量増となることが想定されるとともに、基本の曲げ-捩り連成フラッ
タ特性も変化させてしまう可能性大である。更に、静的な空弾変形形状が変化し、空力的な最適
形状を変化させてしまうことも想定される。
実際に、能動的なフラッタ制御を民間機に適用する場合に可能性のある現象としては、システム
がフェイルした場合も想定して、クリーンな高アスペクト比/後退翼形態に顕著である遷音速ディッ
プ、あるいは発散系振動にならない LCO(Limit Cycle Oscillation)的な現象に限られると考えられ
る。
(2) 主翼失速特性改善
高迎角飛行時の主翼の剥離を制御することにより、揚力又は揚抗比の増加が期待できる。その
制御方法は、受動的手法と能動的手法に大きく分けられ、受動的手法としては、ボルッテクスジェ
ネレータ(VG)、翼間の隙間(スロット)など、能動的手法としては、移動表面、VG ジェットなどがあ
げられる。また、革新的手法としては、プラズマアクチュエータ、生物模倣、スマート構造などがあ
げられる。
プラズマアクチュエータとは、空気に高電圧をかることによりプラズマ化し、傾斜電界中におくこ
とで物体力を与え、流れを加速するものである。この方法により、揚力係数が最大 40%程度、揚抗
比が最大 200%程度増加することが示されている。
生物の形態や機能などは、非常に長い年月を掛け最適化されており、それらを模倣することに
より、飛行機の性能向上が期待できる。例えば、鳥が、着地降下時や突風時に、翼の上表面の羽
根を持ち上げ、流れの剥離防止、遅延に用いている動作を飛行機の翼に応用した自己調整型フ
-6-
ラップの研究がなされ、自己調整型フラップにより揚力係数が 18%向上することが示されている。
形状記憶合金の温度による性質の変化と地上と巡航時での温度差を利用し、エネルギを供給
することなしに、自律的に最適形状に変形する性能を有する VG (スマートボルテックスジェネレ
ータ) が提案されている。形状記憶合金の精密鋳造により製作した実証模型で、温度上昇により、
抵抗低減形態から渦発生形態に変化することが示されている。
(3) 高揚力装置・揚力性能改善
高揚力形態における揚力向上のためのデバイスとして使用されるフラップは、現状の機体では、
巡航状態において最高の性能を得られるように設計された主翼断面形状の後縁がそのままの断
面形状で展開される。しかし、革新的アクチュエータを用いてモーフィングによりフラップ展開時に
はフラップにキャンバをつけることができれば、フラップの性能を向上させ、フラップ展開機構の重
量低減による機体の性能向上に貢献しえる可能性がある。
本調査で、2次元 NS 解析を行った結果、フラップ単体では、揚力を向上させ、高揚力装置とし
て用いた場合の揚力向上に寄与できる可能性が示されたが、全翼形態においては、フラップ後
縁で剥離が生じ、期待されたような揚力の増加は見られず、抵抗のみが増加した。フラップのモ
ーフィングによるフラップ後縁の剥離は空力的に避けがたい事象であるのか、あるいは、モーフィ
ングの角度、モーフィングさせた場合の形状等に工夫をすれば剥離を避けることができるかは、
現時点では判定できない。今後も検討の余地があると考えられる。
また、モーフィング技術の適用効果として、航空機のすべての舵面の段差を取り除くことができ
れば、巡航状態の抵抗を約1%軽減することが可能であると推算された。抵抗の1%の低減は、そ
のまま燃料消費の1%の軽減であり、この値は十分有意な水準の改善量であるといえる。
(4) 主翼高速性能改善
抗力発散マッハ数(MDD)向上による利点としては、航空機の燃費がマッハ数×揚抗比に比例
するので揚抗比を劣化させずにより高速で飛行可能であれば、燃費改善につながるといえる。弾
性的に変形可能な翼面上の Spoiler Bump を Adaptive に操作し、衝撃波前後の流れをコントロー
ルすることで、比較的高い CL 域において造波抵抗を 30%、全機抵抗を 3%低減させることがで
きる。ただし、低 CL 域では Bump により逆に抵抗が増加する。また、2 次元翼固定 Bump で Offdesign での抵抗が 12~15%減少、MDD で 0.005 向上を達成できたとの報告もあり、これは約
0.6%の燃費向上につながる。
(5) 舵面・ヒンジモーメント性能改善
出力の大きいプライマリ制御舵面のアクチュエータには、革新的アクチュエータの適用は当面
は困難であるが、動作部位が微小な動翼から成るコントロールタブについては適用可能性が高い
と考えられる。革新タブの適用における利得としては、負荷荷重の制約があるものの、従来の複雑
なタブ機構と比較して、格段に単純な機構で構成でき、装備性、重量軽減で有利な可能性がある。
また、応用的な適用方法として、アンチバランスタブによる舵面の効き向上も期待できる。
本調査で、舵面アクチュエータ改善効果を算定した結果、エルロン舵面のヒンジモーメントをタ
ブによって相殺するときにタブに作用するヒンジモーメントは、エルロン舵面の 1/50程度のヒン
ジモーメントで可能である。即ち、大型輸送機では約20Nm、小型輸送機やリージョナルジェット
では、約1Nmである。
-7-
(6) 主翼誘導抵抗低減
通常、主翼の揚力分布が楕円分布のときに誘導抵抗が最小となると言われており、楕円分布を
逸脱すると、主翼の発生する誘導抵抗は増大する。このような揚力分布の変化による誘導抵抗増
大に対する対策として、固定翼機に付随したフラップやスラット等の高揚力装置やエルロンやスポ
イラ等の制御舵面を飛行条件に合わせて動作させ、主翼のキャンバ分布を変化させることで主翼
の揚力分布を調整する可変キャンバ(VC: Variable Camber)主翼の研究が古くから行われている。
可変キャンバによる揚抗性能3%改善、数十カウントの抵抗低減効果が認められている。
主翼揚力分布を最適化して誘導抵抗を改善する方法として、複数の高揚力装置や制御舵面を
使用すると、アクチュエータ出力要求が大きいため、このままでは、革新的アクチュエータの適用
が困難である。ただし、革新的アクチュエータを利用したタブシステムによって、既存の制御舵面
等を補う方法であれば実現可能性はある。
欧州では、AWIATOR (Aircraft Wing with Advanced Technology OpeRation)プログラムにおい
て、Airbus 中心として主翼の揚力分布を変化させることで、航空機の揚力性能増大や荷重分布
制御を行う研究が実施された。これは、小型後縁装置(Mini-TED: Mini-Trailing Edge Device)
をフラップに追加したシステムで、これらを作動して翼の揚力分布を最適化する実証飛行を技術
実証機によって行っている。本プログラムは、Airbus を中心として、A340-400 機テストベットを使
用し、5年間で約45フライト実施して 2007 年に終了した。Mini-TED は、革新的アクチュエータの
適用場所として有力である。
3.1.3 機外騒音低減
空港周辺でのジェット機による機外騒音に対する環境適合性要求として、従来、ICAO Annex1
6 VolumeⅠChapter 3 騒音規制が適用されてきたが、2006 年 1 月以降に新しく型式証明を申請
の機体には、Chapter 4 騒音規制が適用されるようになった。Chapter 4 では、Chapter 3 を満足
したうえで、①離陸、離陸側方、着陸の 3 か所のジェット機の騒音値と Chapter 3 規制値との差の
累積が 10 EPNdB 以上であること、②各所で Chapter 3 規制値を満足したうえで、少なくとも2か
所のマージンの和が 2 EPNdB 以上になること、の要求が追加された。ジェット機の騒音規制は、
1970 年代から段階的に厳しくなってきており、今後も更に強化されることが考えられる。例えば、
Chapter 3 から Chapter 4 への移行と同等の強化が将来されると仮定した場合、現行の Chapter
4 適合機種(A320、A330、B737、B767 等)は、それを満たせなくなる。したがって、将来のジェッ
ト機には Chapter 4 に対し十分に余裕のある騒音特性を有することができる革新的な低騒音化
技術が求められる。
(1) エンジン騒音
近年のジェット機に搭載されているエンジンは、高流量で排気ジェット速度を下げ推進力を得る
高バイパス比ターボファンエンジンと呼ばれる形式である。高バイパス比ターボファンエンジンの
騒音源には、ジェット騒音、ファン騒音、燃焼器騒音、タービン騒音などがあるが、中でもジェット
騒音とファン騒音による割合が大きい。
排気ジェット騒音の低減デバイスとして、シェブロンノズルが新しいエンジンに採用されるように
なってきた。しかし、空港周辺での騒音低減(2~3 dB)を優先すると巡航時の推力損失が増大し
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てしまうため、その改善が課題とされている。そこで、形状記憶合金を活用した可変シェブロンノズ
ル(VGC: Variable Geometry Chevron)の研究が進められるようになってきた。空港を離陸する際
には騒音低減に有効な形状で作動させ、巡航時には推力損失の増加が最小限になる形状で作
動させるというコンセプトである。エンジン排気により加熱制御することができれば、電力やパイロ
ットの操作が必要とされない点にも利点があるが、高温で変態する形状記憶合金の製作が課題と
なる。
ファン騒音の低減のため、従来から種々の技術が実用化されてきたが、アクチュエータ制御に
関する技術は実用に至っておらず、将来に向けた技術として現在も研究開発が進められている。
ファン静翼面にピエゾアクチュエータを取り付けたアクティブ制御では、2~3 dB の効果が得られ
ており、実現化に向けた更なる研究の進捗が期待される。また、ジェットエンジンの入り口のハニ
カム型吸音パネル(パッシブ制御)と低周波数域の吸音をピエゾアクチュエータによるアクティブ
制御を合わせたハイブリッド吸音パネルの研究では、広帯域の吸音が得られており、実用化に向
けた研究の加速が期待される。この場合は、システムの軽量化と耐久性が課題である。
(2) 脚騒音
航空機による騒音は離陸時にはエンジンが最大出力で作動するため主たる騒音はエンジンで
あるが、低推力ですむアプローチ時には脚や高揚力装置に起因する機体騒音の影響が大きい。
実際、アプローチのときリージョナルジェットを用いた飛行試験の結果、脚及びフラップの騒音が
エンジン騒音より6 dB高いと報告されている。また着陸時には、従来のアプローチでは進入角度
が浅く広い範囲が騒音に晒されるという特徴がある。エアバス A320 のフルスケール前脚及び主
脚の風洞試験により脚騒音は 10 dB 低減できる(フライオーバー騒音に換算すると 8 EPNdB の
騒音低減に対応する)ポテンシャルがあるとされ、欧米で各々騒音低減のためのプロジェクトが立
ち上げられ、騒音低減努力が続けられている。
ヨーロッパの SILENCER プロジェクトでは、前脚、中央脚及び主脚に騒音低減フェアリングが装
着され 1.8 dB の騒音低減効果が確認されている。TIMPAN では 2020 年には新規技術の盛り込
みで 10 EPNdB の騒音低減が目標として設定されている。機体騒音については TIMPAN プロジ
ェクトで騒音低減技術の開発が行われる見込みでプラズマアクチュエータ、エアカーテン概念(メ
ッシュで乱流騒音を低減する)による手法や新規の先進脚設計技術の開発などが想定されてい
る。プラズマアクチュエータでは、脚まわりの流れを制御し、仮想的なフェアリングを構築するもの
で、従来のフェアリングに生ずる脚の上げ下げや格納の際の脚の動きの妨げによる制限を解消
するものである。この場合、脚機能、構造強度を維持し、電磁干渉の基準を満たすことが課題とな
る。
米国の QTD Ⅱでは、主脚のフェアリングを取り付けて 2005 年に飛行試験が行われたが、主脚
のみのフェアリングでは騒音低減効果が殆ど認められなかった。この反省を踏まえて更なる騒音
低減技術を盛り込んだ飛行実証試験が計画されている。
3.1.4 エネルギハーベスティング
今後構造ヘルスモニタリングや制御系のセンサ用電源として、航空機に不可避的に発生する振
動などを圧電素子を利用しエネルギに変換するエネルギハーベスティングも検討した。この場合、
-9-
①圧電定数の値が大きく、かつ、入力インピーダンスの値が小さい圧電材料の開発、②エナジハ
ーベスト回路の回路損失の低減、③MEMS 技術を応用した MEMS センサとエナジハーベスト回
路の同時作製技術の開発が課題となる。
3.2 革新的アクチュエータシステムに適用される候補アクチュエータ材料
主翼、等の広い意味での形態変化(モーフィング)、振動、騒音制御を実現するためのアクチュ
エータシステムに対し、候補アクチュエータ材料と要求を満たすための技術課題を表に示す。
(1) モーフィング
モーフィングを実現するためのアクチュエータシステムとその候補アクチュエータ、技術課題を
表 3.2-1 に示す。
表 3.2-1(1/2) モーフィングを実現するためのアクチュエータシステムと候補アクチュエータ材料
システム名と要求レベル
候補アクチュエータ材料
技術課題等
◎:十分に達成可能
○:達成可能(システム改良必要)
△:技術課題あり
(a) テンセグリッド構造
(フラップ翼素のキャンバ
の変化)
(b) フレキシブルウイング
①形状記憶合金又は形状
記憶ポリマー
○:TiNi ワイヤーを用いた熱駆動の場
合は、変位拡大機構をつけること
が必要。基本的には空冷で行うこ
とができると考えられ軽量であるこ
とがメリット。駆動力も十分。
△:形状記憶ポリマーの場合は、伸縮
量は十分であるが駆動力の増大
するために根本的な材料開発
が必要。
②静電アクチュエータ
○:軽量小型な高電圧制御装置の開
発が必要。なめらかな曲面づくりに
はベスト。ただし、2枚のシート間に
塵が入らぬようシールする技術の
開発が必要。
③形状記憶合金+ペルチ
ェ素子
△:冷却にペルチェ素子を使うのは、
重くなるのが欠点。また、軽量化も
難しいため、航空機利用する観点
では、超小型アクチュエータとして
利用する方が適当。
静電アクチュエータ
○:軽量小型な高電圧制御装置の開
発が必要。なめらかな曲面の構成
に適する。ただし、2枚のシート間
に塵が入らぬようシールする技術
の開発が必要。
(動翼の段差解消、
駆動角度 0-30 o 、
舵角速度 数 Hz)
- 10 -
表 3.2-1(2/2) モーフィングを実現するためのアクチュエータシステムと候補アクチュエータ材料
システム名と要求レベル
候補アクチュエータ材料
技術課題等
◎:十分に達成可能
○:達成可能(システム改良必要)
△:技術課題あり
(c) Mini-TEDs (動翼タブ
①圧電セラミックス
○:高周波数(~200Hz)
変位の拡大機構必要。
あるいは、新しいタイプの圧電セラ
ミックス、PZM-PT 単結晶や PMNPT 単結晶(PZN より3倍以上大き
い歪み)の実用化(=機械的強度
の向上が必要)
②静電アクチュエータ
○:中周波数(~30Hz)に適用
③形状記憶合金
○:低周波数(~数 Hz)に適用。数
Hz ならば現状の TiNi で達成可能
であるが、新しいタイプの形状記
憶合金であるアモルファス系にお
いては、変態温度ヒステリシスが
TiNi の5分の1程度であるため、温
度変化による駆動スピードは従来
の3倍近くになりうる。すなわち従
来は max で 5~10Hz だったが、
15~30Hz が望める。ただし、加工
法の改善が必要。
形状記憶合金
◎:十分に達成可能
による主アクチュエータトルク
低減、トルク 1~5 N・m、
周波数、数10Hz、狭い空
間に設置)
(d) スマートボルテックスジ
ェネレータ(揚力増加補
助 、 変 態 温 度 ・40 ℃ 程
度)(名古屋大学保有
技術)
- 11 -
(2) 振動・騒音制御
振動・騒音制御を実現するためのアクチュエータシステムとその候補アクチュエータ、技術課
題を表 3.2-2 に示す。
表 3.2-2(1/2) 振動・騒音制御を実現するためのアクチュエータシステムと
候補アクチュエータ材料
システム名と要求レベル
候補アクチュエータ材料
技術課題等
◎:十分に達成可能
○:達成可能(システム改良必要)
△:技術課題あり
(a) ヘリコプタブレードアク
ティブタブ(ブレード/
渦干渉騒音の低減、最
大厚 30mm、駆動トル
ク 20 Nm 、 ス ト ロ ー ク
0.03 m、周波数 30 Hz)
圧電ファイバ、圧電セラミック
ス
○:耐疲労性の向上(ピエゾの傾斜
材料化による内部ひずみの減少
など)が必要
ストロークの増加が必要
・多層化
・バイモルフ型の適用
・3倍以上圧電定数の高い
PZN-PT の適用
信頼性向上が必要
・複合材一体化技術
(b) 振動・騒音能動制御
(旧 NEDO プロジェクトで
①圧電セラミックス、圧電フ
ァイバ
○:積層圧電セラミックス、圧電ファ
イバの高出力化が必要
②PZT+磁歪コンポジット
○:デバイス開発が必要
①圧電セラミックス、圧電フ
ァイバ
○:積層圧電セラミックス、圧電ファ
イバの高出力化が必要
②PVDT
○:デバイス開発が必要
①形状記憶合金
○:強度、繰返耐久性の改善が必
要
②アクティブコンポジット
○:変形能力、出力の向上が必要
騒音 4.0dB、振動 3.9dB
低減)
(c) 騒音制御用スピーカ
(d) 可変形状シェブロン
(騒音低減)
- 12 -
表 3.2-2(2/2) 振動・騒音制御を実現するためのアクチュエータシステムと
候補アクチュエータ材料
システム名と要求レベル
候補アクチュエータ材料
技術課題等
◎:十分に達成可能
○:達成可能(システム改良必要)
△:技術課題あり
(e) 脚騒音低減
①形状記憶合金
○:流れの整流板を SMA により構
成。脚格納時に展開機構の動き
を妨げない SMA 等による整流
板の開発が必要。
②プラズマアクチュエータ
△:プラズマアクチュエータによる脚
柱後流の安定化効果把握が課
題。プラズマ発生装置の電磁干
渉防止が必要。
3.3 技術課題
前項までに述べてきた適用部位(アクチュエータシステム)側からみた技術課題とアクチュエー
タ材料側からみた技術課題を整理し、これを解決するための方策を課題としてまとめた。
(1) 回転翼機(ヘリコプタ)
アクティブフラップによるヘリブレードの能動制御により、回転翼機の騒音、振動の低減が期待さ
れる。回転する薄いブレード中に装備されて遠心力に耐え、フラップに大変位を与え、ヘリロータ
1回転あたり数回程度の振幅運動を与える動作を与えるだけの耐久性が必要となる。このため
・ 材料開発としては、圧電セラミックスの耐久性向上、信頼性向上
・ ブレード構造と一体となった軽量の変位量増大のための機構
・ 詳細な物理現象の把握に基づく最小限の変位量、振幅回数となる制御則
の開発が必要である。
(2)固定翼機
固定翼機の性能改善では、物理現象の可制御性、構造としての成立性などから、1)失速特性
改善、2)高揚力装置性能改善、3)舵面ヒンジモーメント性能改善、4)主翼誘導抵抗低減、等の
適用が有望である。その際、アクチュエータの動作時の流れ場の物理現象の把握に基づき、変
形部位の規模の大小、変形速度の要求に応じて最適なアクチュエータ材料と機構の組み合わせ
を求める必要がある。特に、アクチュエータ付与によるメリット、コスト、システム信頼性の観点から、
その適用を判断する必要がある。
1) 失速特性改善では、SMAによる可倒式のボルテックスジェネレータが現実的である。流
れ場の把握に基づきデバイスの規模、動作プロファイルを確定するとともに、適用のメリット、
コストの試算、等が必要である。
2) 高揚力装置性能改善では、フラップ翼素をフレキシブルウィングとすることで、機構の簡略
- 13 -
化、性能改善が期待される。これを実現するアクチュエータとして、テンセグリッドと形状記
憶合金(ペルチェ素子を含む)の組み合わせ、及びリンク機構と静電アクチュエータの組
合せに関し、成立性の検討が必要である。また SVG(Sub-layer Vortex Generator)との併
用による性能向上も考慮すべきである。
3) 舵面ヒンジモーメント性能改善では、変形規模が小さいため、静電アクチュエータ、Pzt、
形状記憶合金、等いくつかの選択肢がある。静電アクチュエータでは、タブ駆動のための
機構の検討が必要、Pztでは特に変位を増大するための機構の検討が必要、形状記憶
合金では動作速度を速めるための課題がある。また操縦系統に関連するため、信頼度に
関する検討が必要である。
4) 主翼誘導抵抗低減では、特に要求される動作速度が遅いため、形状記憶合金によるアク
チュエータがコスト的に有効であると考えられる。ただし、翼後縁部位は、フラップ翼素ある
いは舵面である場合があり、これらに既にデバイスが装着されている場合には、既存のデ
バイスの活用あるいは併用の検討が必要である。
(3) 機外騒音
現在、規制強化等で問題となっている離着陸時の機外騒音の大きな騒音源は1)ジェットエンジ
ンの排気によるものと、2)脚、フラップ等の風きり音によるものがある。
(1) ジェット騒音の低減には離着陸時の排気速度を低下させ、巡航時の排気速度を適切に保つ
ため、排気出口の絞りを制御することが有効である。このため、薄型で排気温度の環境で動
作する形状記憶合金の開発が必要である。また、ジェット排気と外気をすばやく混合するため
のシェブロン形状の研究もあわせて必要である。
(2) 風きり音の低減には、音源を特定してその部位の流れをスムーズにするための覆い(フェアリ
ング)有効である。特に脚にフェアリングを設置するためには、脚機構が動作中には邪魔にな
らず、展開後にフェアリングとして機能する可動式のフェアリングが有効であり、形状記憶合
金による実現が可能である。ただし、脚機構の展開を阻害することのない信頼性の高いシス
テムとする必要がある。
3.4 提言
いずれのアクチュエータシステムもこれにより得られるメリットと満たさなければならない機能、仕
様を定量的に把握する必要があり、その上で本格的な研究開発への移行を判断する必要がある。
そのためには、シミュレーション、各種試験による、アクチュエータシステム適用の効果とアクチュ
エータシステムが実現すべき機能、仕様(変位量、発生トルク、応答速度、制御則)の定量的な把
握が欠かせない。また、伸展著しいポリマー系のアクチュエータ材料、等新しいアクチュエータ材
料の活用の検討も継続しておく必要がある。早期にこれら定量的なデータ及び新アクチュエータ
材料に関するデータを整備して、革新的アクチュエータシステムの研究開発の立案に着手するこ
とが望ましい。また、燃料高騰、二酸化炭素排出に対する規制、騒音に対する規制、等の状況の
変化を踏まえた研究開発計画時期の検討も必要である。
- 14 -
4.調査研究の今後の課題及び展開
4.1
はじめに
将来の航空機開発に最も必要な技術は、機外騒音低減と燃費向上といえる。どちらもエンジン
性能の向上がある程度これらの目標に寄与するであろう。しかし、ビジョン2020や将来の ICAO
規制の目標値を達成、又は更なる機外騒音低減と燃費向上を目指すならば、構造システム側の
性能を向上する必要があり、そのために革新的アクチュエータシステムに対する期待も大きい。
本調査では、機外騒音低減と燃費向上に直接関係する、空力性能向上及びエンジン・脚騒音
低減を中心に革新的アクチュエータシステムの現状とその期待できる効果を調査し、研究課題を
抽出し、今後行うべき研究実施内容を検討した。表4―1に、研究開発実施内容として、革新
的アクチュエータ適用部位、適用技術/改善効果、アクチュエータの仕様、アクチュエータの候
補、技術課題を示す。今後アクチュエータシステムの研究開発へ移行するために実施して
おくべき調査研究及び課題を検討した。
4.2.1 回転翼機(ヘリコプタ)
今後厳しくなると予想される市街地騒音に対する規制及びその実施時期に対する調査の継続
が必要である。また、厳しい条件で使用されるアクチュエータ材料の開発動向に注視し、開発を
開始すべき時期を窺う。また、騒音、振動発生のシミュレーション、試験技術を向上し、騒音、振
動の発生のメカニズムを把握し、最適な制御則設計の目処をつけた上で、研究開発が進められる
基盤を醸成しておく必要がある。
4.2.2 固定翼機
燃料価格の動向に注視し、アクチュエータによる性能、特性改善の実現時期を踏まえた研究開
発計画を持つ必要がある。また実環境における使用に耐えるアクチュエータシステムの実現に向
けて、温度環境、振動環境に強いアクチュエータ材料の開発動向に目を配っておく必要がある。
アクチュエータシステムによる改善効果、改善のメカニズムを把握するためのシミュレーション技術、
風洞試験、飛行試験技術の高度化も研究開発の実施には不可欠であり、研究開発の時期まで
に、これら技術基盤の準備が必要である。
4.2.3 機外騒音
ICAOによる航空機の騒音規制は、今後更に厳しくなることが計画されており、航空機の経済性
との両立がますます難しくなる方向である。革新的アクチュエータシステムはこれに対する回答を
与えるものと期待されており、規制の動向に注視しながら、開発の機会を窺う必要がある。このた
めには、アクチュエータシステムの適用効果の定量的な把握が不可欠であり、シミュレーション等
による定量的な効果算定、騒音低減のメカニズムの把握を早期に実施して、今後の開発に備える
必要がある。
- 15 -
4.3
今後の展開
革新的アクチュエータシステムの研究開発は、装備品メーカーが中心となって行うことになる
であろう。わが国の装備品メーカーはこれまでわが国の航空機メーカーのニーズに応えることに
主眼をおいている。これまで、国産旅客機を開発していなかったこともあり、航空機メーカーから、
そのようなニーズはなかったのかもしれない。しかし、ボーイングやエアバスは既に大きなプロジェ
クトをいくつも行っており、将来の燃費・騒音基準を満たし、更なる性能向上のためには、革新的
アクチュエータシステムの開発が重要であることを認識している。例えば、ボーイングが中心にな
って行われた QTD II の可動シェブロン、エアバスが中心になって行われた AWIATOR の
MiniTEDs、BAE システムズが中心になって行われた MEMS センサアクチュエータシステムの開
発がある。
現在、わが国でもリージョナル機を開発中であり、それには将来の騒音、排出ガス(燃費)の基
準にも十分満足するだけの性能が要求されるし、ブラジル、カナダ、中国、ロシアの競合機と性能
対コストで優位に立たなければならず、革新的アクチュエータシステムの研究開発を検討すべき
時もすぐにやって来るであろう。また、装備品メーカー自身も、世界に目を向ければ、革新的アク
チュエータシステムの市場は確実にある。
昨年度から2年間に亘り、革新的アクチュエータシステムに関する調査を行ってきた。圧電材料
や形状記憶合金などの機能材料や静電アクチュエータなどのデバイス、エネルギ回生型準能動
制御など新しい制御システムなど、日本において世界的に見ても優れた要素技術がいくつもある
が、残念ながら、航空機のアクチュエータシステムとしてはできあがっていない。欧米では、ヨーロ
ッパコミッションや NASA などが支援し、実機を使った大きなプロジェクトが行われてきている。今
後、わが国が旅客機を製造するのであれば、まず彼らと同等な技術を獲得する必要があると考え
る。
航空機には、先進技術が使用されるとともに、その技術の他産業への波及効果も大きいので、
社会的、科学技術的、政治経済的にも、航空機及びその周辺技術の開発は長期的視野に立ち、
継続的に実施すべきであろう
- 16 -
表4―1 研究開発実施内容検討
部位
現象
適用技術/改善効果(目標)
アクチュエータの仕様
アクチュエータ材料の候補
制御システム課題
材料課題
備考
回転翼
振動・騒音
アクティブフラップ/振動
トルク 1Nm
ピエゾセラミックス
効果的な位相
軽量、高耐久性、
飛行試験によ
0.08g 以下、騒音-6dB
変位±6deg
静電アクチュエータ
サイクル数、
耐環境
る確認が望ま
周波数 30Hz
ポリマ
VG ジェット/
流速 300m/s
ピエゾセラミックス
効果的な位相
CLmax 10%
周波数 2kHz
プラズマアクチュエータ
サイクル数
SVG/CLmax 10%
1 飛行 1 サイクル
SMA
最適形状
剛性、変位
適用可能
変位 90°曲げ
ポリマ
フラップ全体で
ピエゾセラミックス
機構の開発:
高出力、高変位の薄
高揚力装置の
20deg
SMA
テンセグリッド、トラス、
型アクチュエータ材料、ポリ
機構重量、コス
0.1Hz
静電アクチュエータ
大変形スキンパネル
マーアクチュエータ
トとのトレードスタ
固定翼
失速
高揚力装置
可変フラップ/CLmax 10%
しい。
高耐久性
性能改善にも
ディが必要
ポリマ
誘導抵抗
エンジン
ファン騒音
バリアブルキャンバ
タブ:
ピエゾセラミックス
(含 Mini-TEDs、革新タブ)/
トルク 1Nm
静電アクチュエータ
L/D 3%
変位±1deg
ポリマ
周波数 3~5Hz
SMA
PZT~1kHz
ピエゾセラミックス
ハイブリッドパネル/-15~20dB
ジェット騒音
脚
騒音
可変シェブロン/-2~-3dB
VG ジェット/-3dB
機構の開発(Pzt)
高出力化(静電アクチュ
荷重分布と抵
エータ、ポリマー)
抗低減を勘案
した制御則が
最適形状(SMA)
必要
エンジン性能とのトレードオフ
高効率アクティブ吸音材
SMA
エンジン性能とのトレードオフ
ファン騒音低減
は今後必須
吸音材を含む構造設計
1 飛行 1 サイクル変位
インテークダクトの
耐温度環境 SMA
特にコアジェット
20mm 程度
の騒音低減が
環境温度 500℃
必要
8kV(rms)
プラズマアクチュエータ
10kHz
- 17 -
脚展開機構、脚バギーと
電磁干渉
プラズマの動作
共存するフェアリング機構、
メカニズムの解明
音の発生メカニズム
が必要
-禁無断転載-
システム技術開発調査研究
19-R-7
航空機等輸送系機械システム用
革新的アクチュエータシステムに関する調査研究
(要旨)
平成20年3月
作
成
財団法人機械システム振興協会
東京都港区三田一丁目4番28号
TEL 03-3454-1311
委託先名
財団法人次世代金属・複合材料研究開発協会
東京都港区虎ノ門三丁目25番2号
TEL 03-3459-6900