ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明

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新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)
高尿酸血症の病態解明のあゆみ
∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼
藏城雅文 兵庫医科大学 糖尿病・内分泌・代謝内科
益崎 裕章1/下村 伊一郎2
琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)教授1
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授2
産物となるが,小型の霊長類やげっ歯類などの哺乳類,
キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)と尿酸代謝:
分子進化と最近の捉え方
鳥類では尿酸を格段に水溶性の高いアラントインに変
換する尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)が存在するため,ヒ
男女を問わず,血清尿酸値が高い集団ほどメタボ
トと比べるとはるかに低い血清尿酸値(0.5∼1.5 mg/
リックシンドロームの罹患率が上昇する 。痛風発作
dL)を示す(図1)。
を一度も発症したことがなくても,メタボリックシン
進化の過程で,ヒトは尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)を
ドロームに伴う無症候性の高尿酸血症は腎機能低下と
偽遺伝子化(欠如)させ,一方で XOR の酵素活性を弱
強く関連し,心血管イベントや脳卒中のリスクを増大
めることで血中尿酸濃度を適度に維持するという 分
させ,
血管構成細胞や脂肪組織の機能障害を惹起する。
子共進化 を遂げた2)。実際,尿酸をアラントインに
従来,メタボリックシンドロームの病勢を反映するサ
変換する尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)をもつげっ歯類の
ロゲートマーカーと考えられてきた高尿酸血症は,メ
XOR 活性は,ヒトに比べて格段に高いことが知られ
タボリックシンドロームにおける種々の病態の増悪因
ている。人類は尿酸がもつ抗酸化力を抗老化・長寿に
子・発症因子である証拠が集積している。
活かす分子進化の選択を行い,その代償として痛風発
尿酸は,リボース -5-リン酸を起点としてプリン体
作のリスクを背負うことになった。
1)
合成経路によってヒポキサンチン,キサンチンを経由
し,キサンチン酸化還元酵素(キサンチンオキシドレ
代謝ストレス(metabolic stress)を担う XOR
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ダクターゼ(xanthine oxidoreductase;XOR))の働き
により合成される。高尿酸血症が多彩な病態形成に関
XOR は,肝臓のみならず脂肪組織や血管組織,腎
わる 病因論的意義をもつ根拠 の 1 つとして,メタ
臓などの主要臓器において,脂肪細胞や血管構成細胞
ボリックシンドローム・肥満症の病態では脂肪組織や
をはじめさまざまな細胞に分布しており,生体で生み
血管組織,肝臓や腎臓などの主要臓器において,尿酸
出される活性酸素の制御に重要な役割を果たしてい
生成酵素である XOR の酵素活性が亢進していること
る。キサンチンオキシダーゼ
(xanthine oxidase;XO)
が注目される。XOR は尿酸を生成すると同時に生体
は乳汁中に高濃度に含まれており,XO に由来する活
内で生み出される酸化ストレスの制御にも重要な役割
性酸素が乳汁を介する殺菌効果の一部を担っていると
を演じており,感染や虚血など組織侵襲で障害された
考えられる3)。一方,XOR が脂肪細胞の分化の過程で
組織において活性酸素の産生を誘導している。
強力に誘導されることも注目に値する。XOR は脂肪
尿酸はビリルビンと並び生体内で産生される強力な
細胞分化の初期段階で転写因子ペルオキシソーム増殖
抗酸化物質であり,その効果はビタミン C に匹敵する
剤活性化受容体(peroxisome proliferator-activated
といわれる。ヒトでは尿酸がプリン体合成経路の最終
receptor;PPAR)
γの活性を制御しており,げっ歯類
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リボース-5-リン酸
PRPP
GMP
グアノシン
HGPRT
グアニン
(
IMP
AMP
イノシン
アデノシン
ヒポキサンチン
XOR
キサンチン
O
H
N
N
H
ウリカーゼを失った
時期に XOR 活性を抑制
2)
(分子共進化)
XOR
NH
O
図1
プリン合成)
アラントイン
尿酸
尿酸酸化酵素
(ウリカーゼ)
O
N
H
尿酸の代謝経路
(大型類人猿とほかの動物の違い)
PRPP: ホ ス ホ リ ボ シ ル ピ ロ リ ン 酸,GMP: グ ア ノ シ ン 一 リ ン 酸,
HGPRT:ピポキサンチングアニンホスホリボシル転移酵素,IMP:イノシ
ン一リン酸,AMP:アデノシン一リン酸
減量による XOR 発現の減少
+ +
−
(μM)
p<0.05 vs.
*
175
150
125
100
75
50
25
0
血清尿酸値
XORの相対的発現
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
−
day 2
day 4
day 12
WT
+
レプチン
マウスへの
レプチン投与
体重
7
6
5
4
3
2
1
0
■,■ 体重−脂肪量
■,■ 脂肪量
WT
*
WT
KO
(mg/dL)
250
200
150
100
50
0
WT
*
WT
(mg/dL)
160
140
120
100
80
60
40
20
0
WT
KO
トリグリセリド
図2
KO
グルコース
遊離脂肪酸
(μM)
700
600
500
400
300
200
100
0
(%)
14
12
10
8
6
4
2
0
体脂肪
XOR ノックアウトマウスは体脂肪量が少ない
(g)
9
*
8
KO
KO
肥満の脂肪組織では XOR の発現が亢進しており,XOR ノックアウトマウス
は体脂肪率が低下している
/ マウス:肥満マウス,WT:野生型マウス,KO:XOR ノックアウトマウス
*:p <0.05 vs. WT
(文献 3 )より引用・改変)
21
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Chapter
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se Up
se
Up
新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ
(
(X
(XOR)
XO
OR
R)
R)
∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼
意義∼
義∼
mRNA相対的発現
5
C57 マウス群
/ マウス群
4
*
3
2
1
0
肝臓
図3
脳
肺
心臓 脾臓 腎臓 精巣 小腸 大腸 大動脈 筋肉
Epi Mes Sub
WAT WAT WAT
遺伝子発現の体内分布
(マウス)
肥満の内臓脂肪組織では
遺伝子発現が上昇する。
8 週齢の雄
マウス(肥満モデル:n=4)および雄 C57マウス(対照痩身マウス:n=4)を 4 時間絶
食後に解剖,各組織における
mRNA の相対的発現を定量。
mean±SE,*:p<0.05
Epi WAT:精巣上体白色脂肪組織,Mes WAT:腸間膜白色脂肪組織,Sub WAT:皮下白色脂肪組織
(文献 4 )より引用・改変)
では肥満の脂肪組織(特に内臓脂肪組織)で XOR の発
(IL)
-1,IL-6などの炎症性サイトカイン,菌体成分のリ
現が上昇し,減量させるとその発現が低下する 。ま
ポ多糖,グルココルチコイド,低酸素刺激,高脂肪食
た XOR ノックアウトマウスの体脂肪率が低いことも
によって誘導されることが知られており,メタボリッ
報告されている(図2)。
クシンドローム病態と関わりが深い慢性炎症,自然免
3)
3)
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最近のマウスを用いた研究論文では,
遺伝子
疫の活性化,ストレス,肥満による細胞肥大がもたら
の発現レベルは脂肪組織で最も高く,肥満状態では脂
す相対的低酸素などが XOR に由来する酸化ストレス
肪組織,とりわけ内臓脂肪組織における発現が顕著に
5)
。肥
を生み出し,病態の悪循環を形成している(図4)
上昇することが報告されている(図3)4)。内臓脂肪の
満の内臓脂肪組織は相対的な低酸素状態にあり,XOR
過剰蓄積を病態基盤とするメタボリックシンドローム
は低酸素を感受する転写因子である低酸素誘導因子
において上昇する血清尿酸値,そして酸化ストレス過
(hypoxia inducible factor;HIF)-1αの支配下にあり,
剰の要因として XOR 活性化の関与が想定され,ヒト
その発現が誘導されることがわかっている4)(図5)。
における臨床的検証が待たれる。
細胞,組織の局所で酸化ストレスを生み出す XOR
血管機能異常における XOR の病態的意義
の産物である尿酸が循環血中において抗酸化作用を発
揮することは示唆に富む。生理的濃度の範囲で変動す
コレステロール負荷ウサギでは,アセチルコリンに
る血中尿酸が抗酸化作用によって生体機能の改善や抗
よる血管内皮細胞依存的な拡張反応が著明に減弱する
老化などに重要な役割を果たす一方で,生活習慣の乱
ことが報告されている6)。尿酸を水溶性の高いアラン
れ
(肥満,高脂肪食)や低酸素,組織炎症などのストレ
トインに変換するウリカーゼをもつウサギの血清尿酸
ス環境下においては XOR 活性が上昇し,酸化ストレ
濃度はヒトに比べてきわめて低値であるが,このモデ
スの亢進と血中尿酸の上昇がもたらされる 。XOR 活
ルに XOR 阻害薬であるアロプリノールを投与すると,
性はインターフェロン(IFN)-γ,インターロイキン
血清尿酸濃度とは無関係に血管内皮細胞依存的な拡張
5)
22
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内臓脂肪:消化管から吸収された栄養・代謝産物が肝臓に
流れ込む 門脈還流域(腸間膜・大綱周囲)に分布
IFN-γ,IL-1,IL-6
低酸素
高脂肪食
グルココルチコイド
リポ多糖
肥満の内臓脂肪組織は低酸素状態
HIF-1αなどの低酸素シグナルの亢進により糖・脂質代謝を
悪化させるアディポサイトカイン分泌が増大する
炎症・低酸素・自然免疫
肝臓
尿酸
皮下脂肪
遺伝子活性化
門脈
酸化ストレス
後腹膜脂肪
キサンチン・ヒポキサンチン
炎症・低酸素・高脂肪食などによる XOR の誘導
(文献 5 )より作成)
図5
A
コレステロール食
*
%relaxation
0
*
20
*
*
コレステロール食+
ヘパリン
40
60
コレステロール食+
アロプリノール
80
100
10−9
コントロール
10−8
10−7
10−6
10−5(M)
アセチルコリン
図6
肥満の内臓脂肪組織の代謝特性
B
(μU/mL)
150
*
125
100
XOR 活性
図4
内臓脂肪
75
50
25
0
コント
ロール
コレステ
ロール食
コレステ
ロール食+
アロプリ
ノール
コレステロール負荷ウサギにおける血管内皮細胞依存性拡張反応の減弱と血中
における XOR 活性の上昇
A :アセチルコリンによる血管内皮細胞依存性血管拡張反応の減弱
XOR はグリコサミノグリカンによって血管内皮細胞に結合しており,ヘパリン処理により血中で
酵素活性を定量化することができる。
B :血中における XOR 活性
*:p <0.05
(文献 6 )より引用・改変)
反応が明らかに改善する(図6A)6)。コレステロール
6)
ライン以下に減少する(図6B)
。同様に,冠動脈疾
負荷ウサギでは全身の XOR 活性(血中で評価)も著し
患患者では健常者と比較して,病的冠動脈の XOR 活
く上昇しており,アロプリノールの投与によりベース
性およびヘパリン処理後の全身における XOR 活性が
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3
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se Up
se
Up
新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ
(
(X
(XOR)
XO
OR
R)
R)
∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼
意義∼
義∼
冠動脈XOR活性
60
p<0.05
血中 XOR 活性の上昇
健常者
冠動脈疾患患者
12
8
4
*
0
オキシプリノール
図7
p<0.05
− −
*
*
+ +
− −
全体
*
# #
+ +
− −
膜分画
(nmol O2 −×μL −1 plasma)
XOR 活性
(nmol O2 −×μg −1 protein)
16
ヘパリン処理後の血中 XOR 活性
50
40
30
20
10
0
サイトゾル分画
健常者
冠動脈疾患患者
0
3
5
7
10 15 20 (分)
時間
冠動脈疾患患者における血管内皮由来 XOR 活性の上昇
冠動脈疾患患者では健常者と比較して,冠動脈 XOR 活性,ヘパリン処理後の血中 XOR 活性が上昇している。
*:p <0.05 vs. オキシプリノール−,#:p <0.05 vs. 膜分画
(uM)
25.0
アポシニン:NOX 阻害薬
アロプリノール・フェブキソスタット:XOR 阻害薬
ベンズブロマロン:URAT1 阻害薬
20.0
血清 TBARS
(文献 7 )より引用・改変)
15.0
10.0
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5.0
0.0
図8
普通食
高脂肪食 高脂肪食+ 高脂肪食+ 高脂肪食+ 高脂肪食+
アポシニン アロプリ フェブキソ ベンズブロ
ノール
スタット
マロン
高脂肪食を与えた
マウスにおける全身の酸化ストレス
の亢進に及ぼす薬剤の影響
上昇していることが報告されている(図7)7)。以上の
マウス)における全身の酸化ストレスの程度につい
成績は,大型動脈における血管内皮細胞の機能異常に
てチオバルビツール酸反応性物質
(thiobarbituric acid
XORの過剰な活性化が関与していることを示している。
reactive substance;TBARS)を指標にして検討した。
筆者らは,高脂肪食を与えた遺伝性肥満マウス
(
高脂肪食を与えた
マウスの TBARS 値は普通食
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高脂肪食
過栄養
運動不足
肥満
内臓脂肪蓄積
生体リズム障害
代謝ストレス
XOR 活性化
高尿酸血症
URAT1
血管内皮障害
酸化ストレス
細胞老化
臓器障害・動脈硬化症
図9
を与えた
メタボリックシンドロームにおける XOR 活性化の意義
マウスの約 2 倍に上昇しており,高脂
酸化ストレスの上昇には NOX と XOR の双方が関与
肪食の摂取が全身の酸化ストレスを顕著に増加させる
していることを示しており,XOR 阻害薬は血清尿酸値
ことが確認できた。さらに,高脂肪食を与えた
を低下させることに加え,肥満や高脂肪食によって血
マウスに対してアポシニン
(酸化ストレス誘導酵素であ
管組織や腎臓,肝臓,脂肪組織などを含め全身性に上
るnicotinamide adenine dinucleotide phosphate
昇する酸化ストレスの軽減に寄与する可能性が示唆さ
(NADPH)オキシダーゼ
(NADPH oxidase;NOX)の阻
れる。XOR 阻害薬は 単なる 尿酸降下薬ではなく,
害薬)
,ベンズブロマロン
(urate transporter
(URAT)
1
メタボリックシンドローム病態における血管組織や脂
阻害による尿酸排泄促進薬)
,XOR 阻害薬であるアロプ
肪組織,腎臓や肝臓などの XOR の過剰な活性化を緩
リノールとフェブキソスタットをそれぞれ投与したと
和することで臓器の酸化ストレスを軽減し,メタボ
ころ,TBARS 値はアポシニン,アロプリノール,フェ
リックシンドロームの病態を多面的に改善する 代謝
ブキソスタットの 3 剤によって,普通食を与えた
ストレス消去剤 (metabolic stress eraser)と位置づけ
られる(図9)。
マウスのレベルにまで低下することが判明した(図
8)
。これらの結果は,高脂肪食によって誘導される
●文献
5)Berry CE, et al:Xanthine oxidoreductase and cardiovascular disease;molecular mechanisms and pathophysiological implications. J Physiol 555:589-606, 2004
6)White CR, et al:Circulating plasma xanthine oxidase
contributes to vascular dysfunction in hypercholesterolemic rabbits. Proc Natl Acad Sci U S A 93:8745-8749,
1996
7)Spiekermann S, et al:Electron spin resonance characterization of vascular xanthine and NAD(P)H oxidase
activity in patients with coronary artery disease;relation to endothelium-dependent vasodilation. Circulation
107:1383-1389, 2003
1)Ishizaka N, et al:Association between serum uric acid,
metabolic syndrome, and carotid atherosclerosis in Japanese individuals. Arterioscler Thromb Vasc Biol 25:
1038-1044, 2005
2)尾田真子,他:類人猿はなぜウリケースを失ったか?痛
風と核酸代謝 30:193-201,2006
3)Cheung KJ, et al:Xanthine oxidoreductase is a regulator of adipogenesis and PPAR gamma activity. Cell
Metab 5:115-128, 2007
4)Tsushima Y, et al:Uric acid secretion from adipose tissue and its increase in obesity. J Biol Chem 288:2713827149, 2013
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(X
(XOR)
XO
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