Chapter Chapter 32 New Trends Close Up 新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR) 高尿酸血症の病態解明のあゆみ ∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼ 藏城雅文 兵庫医科大学 糖尿病・内分泌・代謝内科 益崎 裕章1/下村 伊一郎2 琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)教授1 大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授2 産物となるが,小型の霊長類やげっ歯類などの哺乳類, キサンチンオキシドレダクターゼ(XOR)と尿酸代謝: 分子進化と最近の捉え方 鳥類では尿酸を格段に水溶性の高いアラントインに変 換する尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)が存在するため,ヒ 男女を問わず,血清尿酸値が高い集団ほどメタボ トと比べるとはるかに低い血清尿酸値(0.5∼1.5 mg/ リックシンドロームの罹患率が上昇する 。痛風発作 dL)を示す(図1)。 を一度も発症したことがなくても,メタボリックシン 進化の過程で,ヒトは尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)を ドロームに伴う無症候性の高尿酸血症は腎機能低下と 偽遺伝子化(欠如)させ,一方で XOR の酵素活性を弱 強く関連し,心血管イベントや脳卒中のリスクを増大 めることで血中尿酸濃度を適度に維持するという 分 させ, 血管構成細胞や脂肪組織の機能障害を惹起する。 子共進化 を遂げた2)。実際,尿酸をアラントインに 従来,メタボリックシンドロームの病勢を反映するサ 変換する尿酸酸化酵素(ウリカーゼ)をもつげっ歯類の ロゲートマーカーと考えられてきた高尿酸血症は,メ XOR 活性は,ヒトに比べて格段に高いことが知られ タボリックシンドロームにおける種々の病態の増悪因 ている。人類は尿酸がもつ抗酸化力を抗老化・長寿に 子・発症因子である証拠が集積している。 活かす分子進化の選択を行い,その代償として痛風発 尿酸は,リボース -5-リン酸を起点としてプリン体 作のリスクを背負うことになった。 1) 合成経路によってヒポキサンチン,キサンチンを経由 し,キサンチン酸化還元酵素(キサンチンオキシドレ 代謝ストレス(metabolic stress)を担う XOR 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 ダクターゼ(xanthine oxidoreductase;XOR))の働き により合成される。高尿酸血症が多彩な病態形成に関 XOR は,肝臓のみならず脂肪組織や血管組織,腎 わる 病因論的意義をもつ根拠 の 1 つとして,メタ 臓などの主要臓器において,脂肪細胞や血管構成細胞 ボリックシンドローム・肥満症の病態では脂肪組織や をはじめさまざまな細胞に分布しており,生体で生み 血管組織,肝臓や腎臓などの主要臓器において,尿酸 出される活性酸素の制御に重要な役割を果たしてい 生成酵素である XOR の酵素活性が亢進していること る。キサンチンオキシダーゼ (xanthine oxidase;XO) が注目される。XOR は尿酸を生成すると同時に生体 は乳汁中に高濃度に含まれており,XO に由来する活 内で生み出される酸化ストレスの制御にも重要な役割 性酸素が乳汁を介する殺菌効果の一部を担っていると を演じており,感染や虚血など組織侵襲で障害された 考えられる3)。一方,XOR が脂肪細胞の分化の過程で 組織において活性酸素の産生を誘導している。 強力に誘導されることも注目に値する。XOR は脂肪 尿酸はビリルビンと並び生体内で産生される強力な 細胞分化の初期段階で転写因子ペルオキシソーム増殖 抗酸化物質であり,その効果はビタミン C に匹敵する 剤活性化受容体(peroxisome proliferator-activated といわれる。ヒトでは尿酸がプリン体合成経路の最終 receptor;PPAR) γの活性を制御しており,げっ歯類 20 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 20 15/05/07 18:20 リボース-5-リン酸 PRPP GMP グアノシン HGPRT グアニン ( IMP AMP イノシン アデノシン ヒポキサンチン XOR キサンチン O H N N H ウリカーゼを失った 時期に XOR 活性を抑制 2) (分子共進化) XOR NH O 図1 プリン合成) アラントイン 尿酸 尿酸酸化酵素 (ウリカーゼ) O N H 尿酸の代謝経路 (大型類人猿とほかの動物の違い) PRPP: ホ ス ホ リ ボ シ ル ピ ロ リ ン 酸,GMP: グ ア ノ シ ン 一 リ ン 酸, HGPRT:ピポキサンチングアニンホスホリボシル転移酵素,IMP:イノシ ン一リン酸,AMP:アデノシン一リン酸 減量による XOR 発現の減少 + + − (μM) p<0.05 vs. * 175 150 125 100 75 50 25 0 血清尿酸値 XORの相対的発現 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 − day 2 day 4 day 12 WT + レプチン マウスへの レプチン投与 体重 7 6 5 4 3 2 1 0 ■,■ 体重−脂肪量 ■,■ 脂肪量 WT * WT KO (mg/dL) 250 200 150 100 50 0 WT * WT (mg/dL) 160 140 120 100 80 60 40 20 0 WT KO トリグリセリド 図2 KO グルコース 遊離脂肪酸 (μM) 700 600 500 400 300 200 100 0 (%) 14 12 10 8 6 4 2 0 体脂肪 XOR ノックアウトマウスは体脂肪量が少ない (g) 9 * 8 KO KO 肥満の脂肪組織では XOR の発現が亢進しており,XOR ノックアウトマウス は体脂肪率が低下している / マウス:肥満マウス,WT:野生型マウス,KO:XOR ノックアウトマウス *:p <0.05 vs. WT (文献 3 )より引用・改変) 21 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 21 15/05/07 18:20 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 Chapter 3 Close se Up se Up 新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ ( (X (XOR) XO OR R) R) ∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼ 意義∼ 義∼ mRNA相対的発現 5 C57 マウス群 / マウス群 4 * 3 2 1 0 肝臓 図3 脳 肺 心臓 脾臓 腎臓 精巣 小腸 大腸 大動脈 筋肉 Epi Mes Sub WAT WAT WAT 遺伝子発現の体内分布 (マウス) 肥満の内臓脂肪組織では 遺伝子発現が上昇する。 8 週齢の雄 マウス(肥満モデル:n=4)および雄 C57マウス(対照痩身マウス:n=4)を 4 時間絶 食後に解剖,各組織における mRNA の相対的発現を定量。 mean±SE,*:p<0.05 Epi WAT:精巣上体白色脂肪組織,Mes WAT:腸間膜白色脂肪組織,Sub WAT:皮下白色脂肪組織 (文献 4 )より引用・改変) では肥満の脂肪組織(特に内臓脂肪組織)で XOR の発 (IL) -1,IL-6などの炎症性サイトカイン,菌体成分のリ 現が上昇し,減量させるとその発現が低下する 。ま ポ多糖,グルココルチコイド,低酸素刺激,高脂肪食 た XOR ノックアウトマウスの体脂肪率が低いことも によって誘導されることが知られており,メタボリッ 報告されている(図2)。 クシンドローム病態と関わりが深い慢性炎症,自然免 3) 3) 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 最近のマウスを用いた研究論文では, 遺伝子 疫の活性化,ストレス,肥満による細胞肥大がもたら の発現レベルは脂肪組織で最も高く,肥満状態では脂 す相対的低酸素などが XOR に由来する酸化ストレス 肪組織,とりわけ内臓脂肪組織における発現が顕著に 5) 。肥 を生み出し,病態の悪循環を形成している(図4) 上昇することが報告されている(図3)4)。内臓脂肪の 満の内臓脂肪組織は相対的な低酸素状態にあり,XOR 過剰蓄積を病態基盤とするメタボリックシンドローム は低酸素を感受する転写因子である低酸素誘導因子 において上昇する血清尿酸値,そして酸化ストレス過 (hypoxia inducible factor;HIF)-1αの支配下にあり, 剰の要因として XOR 活性化の関与が想定され,ヒト その発現が誘導されることがわかっている4)(図5)。 における臨床的検証が待たれる。 細胞,組織の局所で酸化ストレスを生み出す XOR 血管機能異常における XOR の病態的意義 の産物である尿酸が循環血中において抗酸化作用を発 揮することは示唆に富む。生理的濃度の範囲で変動す コレステロール負荷ウサギでは,アセチルコリンに る血中尿酸が抗酸化作用によって生体機能の改善や抗 よる血管内皮細胞依存的な拡張反応が著明に減弱する 老化などに重要な役割を果たす一方で,生活習慣の乱 ことが報告されている6)。尿酸を水溶性の高いアラン れ (肥満,高脂肪食)や低酸素,組織炎症などのストレ トインに変換するウリカーゼをもつウサギの血清尿酸 ス環境下においては XOR 活性が上昇し,酸化ストレ 濃度はヒトに比べてきわめて低値であるが,このモデ スの亢進と血中尿酸の上昇がもたらされる 。XOR 活 ルに XOR 阻害薬であるアロプリノールを投与すると, 性はインターフェロン(IFN)-γ,インターロイキン 血清尿酸濃度とは無関係に血管内皮細胞依存的な拡張 5) 22 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 22 15/05/07 18:20 内臓脂肪:消化管から吸収された栄養・代謝産物が肝臓に 流れ込む 門脈還流域(腸間膜・大綱周囲)に分布 IFN-γ,IL-1,IL-6 低酸素 高脂肪食 グルココルチコイド リポ多糖 肥満の内臓脂肪組織は低酸素状態 HIF-1αなどの低酸素シグナルの亢進により糖・脂質代謝を 悪化させるアディポサイトカイン分泌が増大する 炎症・低酸素・自然免疫 肝臓 尿酸 皮下脂肪 遺伝子活性化 門脈 酸化ストレス 後腹膜脂肪 キサンチン・ヒポキサンチン 炎症・低酸素・高脂肪食などによる XOR の誘導 (文献 5 )より作成) 図5 A コレステロール食 * %relaxation 0 * 20 * * コレステロール食+ ヘパリン 40 60 コレステロール食+ アロプリノール 80 100 10−9 コントロール 10−8 10−7 10−6 10−5(M) アセチルコリン 図6 肥満の内臓脂肪組織の代謝特性 B (μU/mL) 150 * 125 100 XOR 活性 図4 内臓脂肪 75 50 25 0 コント ロール コレステ ロール食 コレステ ロール食+ アロプリ ノール コレステロール負荷ウサギにおける血管内皮細胞依存性拡張反応の減弱と血中 における XOR 活性の上昇 A :アセチルコリンによる血管内皮細胞依存性血管拡張反応の減弱 XOR はグリコサミノグリカンによって血管内皮細胞に結合しており,ヘパリン処理により血中で 酵素活性を定量化することができる。 B :血中における XOR 活性 *:p <0.05 (文献 6 )より引用・改変) 反応が明らかに改善する(図6A)6)。コレステロール 6) ライン以下に減少する(図6B) 。同様に,冠動脈疾 負荷ウサギでは全身の XOR 活性(血中で評価)も著し 患患者では健常者と比較して,病的冠動脈の XOR 活 く上昇しており,アロプリノールの投与によりベース 性およびヘパリン処理後の全身における XOR 活性が 23 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 23 15/05/15 12:40 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 Chapter 3 Close se Up se Up 新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ ( (X (XOR) XO OR R) R) ∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼ 意義∼ 義∼ 冠動脈XOR活性 60 p<0.05 血中 XOR 活性の上昇 健常者 冠動脈疾患患者 12 8 4 * 0 オキシプリノール 図7 p<0.05 − − * * + + − − 全体 * # # + + − − 膜分画 (nmol O2 −×μL −1 plasma) XOR 活性 (nmol O2 −×μg −1 protein) 16 ヘパリン処理後の血中 XOR 活性 50 40 30 20 10 0 サイトゾル分画 健常者 冠動脈疾患患者 0 3 5 7 10 15 20 (分) 時間 冠動脈疾患患者における血管内皮由来 XOR 活性の上昇 冠動脈疾患患者では健常者と比較して,冠動脈 XOR 活性,ヘパリン処理後の血中 XOR 活性が上昇している。 *:p <0.05 vs. オキシプリノール−,#:p <0.05 vs. 膜分画 (uM) 25.0 アポシニン:NOX 阻害薬 アロプリノール・フェブキソスタット:XOR 阻害薬 ベンズブロマロン:URAT1 阻害薬 20.0 血清 TBARS (文献 7 )より引用・改変) 15.0 10.0 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 5.0 0.0 図8 普通食 高脂肪食 高脂肪食+ 高脂肪食+ 高脂肪食+ 高脂肪食+ アポシニン アロプリ フェブキソ ベンズブロ ノール スタット マロン 高脂肪食を与えた マウスにおける全身の酸化ストレス の亢進に及ぼす薬剤の影響 上昇していることが報告されている(図7)7)。以上の マウス)における全身の酸化ストレスの程度につい 成績は,大型動脈における血管内皮細胞の機能異常に てチオバルビツール酸反応性物質 (thiobarbituric acid XORの過剰な活性化が関与していることを示している。 reactive substance;TBARS)を指標にして検討した。 筆者らは,高脂肪食を与えた遺伝性肥満マウス ( 高脂肪食を与えた マウスの TBARS 値は普通食 24 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 24 15/05/07 18:20 高脂肪食 過栄養 運動不足 肥満 内臓脂肪蓄積 生体リズム障害 代謝ストレス XOR 活性化 高尿酸血症 URAT1 血管内皮障害 酸化ストレス 細胞老化 臓器障害・動脈硬化症 図9 を与えた メタボリックシンドロームにおける XOR 活性化の意義 マウスの約 2 倍に上昇しており,高脂 酸化ストレスの上昇には NOX と XOR の双方が関与 肪食の摂取が全身の酸化ストレスを顕著に増加させる していることを示しており,XOR 阻害薬は血清尿酸値 ことが確認できた。さらに,高脂肪食を与えた を低下させることに加え,肥満や高脂肪食によって血 マウスに対してアポシニン (酸化ストレス誘導酵素であ 管組織や腎臓,肝臓,脂肪組織などを含め全身性に上 るnicotinamide adenine dinucleotide phosphate 昇する酸化ストレスの軽減に寄与する可能性が示唆さ (NADPH)オキシダーゼ (NADPH oxidase;NOX)の阻 れる。XOR 阻害薬は 単なる 尿酸降下薬ではなく, 害薬) ,ベンズブロマロン (urate transporter (URAT) 1 メタボリックシンドローム病態における血管組織や脂 阻害による尿酸排泄促進薬) ,XOR 阻害薬であるアロプ 肪組織,腎臓や肝臓などの XOR の過剰な活性化を緩 リノールとフェブキソスタットをそれぞれ投与したと 和することで臓器の酸化ストレスを軽減し,メタボ ころ,TBARS 値はアポシニン,アロプリノール,フェ リックシンドロームの病態を多面的に改善する 代謝 ブキソスタットの 3 剤によって,普通食を与えた ストレス消去剤 (metabolic stress eraser)と位置づけ られる(図9)。 マウスのレベルにまで低下することが判明した(図 8) 。これらの結果は,高脂肪食によって誘導される ●文献 5)Berry CE, et al:Xanthine oxidoreductase and cardiovascular disease;molecular mechanisms and pathophysiological implications. J Physiol 555:589-606, 2004 6)White CR, et al:Circulating plasma xanthine oxidase contributes to vascular dysfunction in hypercholesterolemic rabbits. Proc Natl Acad Sci U S A 93:8745-8749, 1996 7)Spiekermann S, et al:Electron spin resonance characterization of vascular xanthine and NAD(P)H oxidase activity in patients with coronary artery disease;relation to endothelium-dependent vasodilation. Circulation 107:1383-1389, 2003 1)Ishizaka N, et al:Association between serum uric acid, metabolic syndrome, and carotid atherosclerosis in Japanese individuals. Arterioscler Thromb Vasc Biol 25: 1038-1044, 2005 2)尾田真子,他:類人猿はなぜウリケースを失ったか?痛 風と核酸代謝 30:193-201,2006 3)Cheung KJ, et al:Xanthine oxidoreductase is a regulator of adipogenesis and PPAR gamma activity. Cell Metab 5:115-128, 2007 4)Tsushima Y, et al:Uric acid secretion from adipose tissue and its increase in obesity. J Biol Chem 288:2713827149, 2013 25 UMW_020-025_CP03-00-00-00_CS4.indd 25 15/05/13 15:20 28420 メディカルレビュー社「ここまで明らかになった!尿酸代謝ワールドと高尿酸血症の病態解明」 Chapter 3 Close se Up se Up 新たな治療ターゲット:キサンチンオキシドレダクターゼ ( (X (XOR) XO OR R) R) ∼高尿酸血症と関連病態における XOR の病態的意義∼ 意義∼ 義∼
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