物理学教室年次研究報告 2014 年度 大阪市立大学 大学院理学研究科・理学部 物理学教室 目次 序.......................................................1 2014 年度物理教室談話会 ..................................2 研究報告 物性物理学講座 超低温物理学研究室研究室.................................4 光物性物理学研究室.......................................9 生体・構造物性物理学研究室..............................12 素励起物理学研究室......................................18 電子相関物理学研究室....................................24 宇宙・高エネルギー講座 宇宙線物理学研究室......................................28 高エネルギー物理学研究室................................32 重力波実験物理学研究室..................................38 宇宙・素粒子実験物理学研究室.............................45 基礎物理学講座 素粒子論研究室..........................................51 数理物理研究室..........................................56 宇宙物理研究室..........................................60 原子核理論研究室........................................64 序 我々の大阪市立大学の将来のあり方について大きな影響を及ぼす事項が、現在、いくつか進行 しています。本2014年度は、どうやらそれらが顕在化する前の段階であり、我々にとっては 来るべき時に備えて学科の陣容を整えることになった1年間でした。 将来のあり方に関わる事項の一つは、大阪府立大学との統合問題です。2013年度までに統 合を目指して様々な検討がなされました。しかしながら、大阪府・大阪市の政治的状況もあって、 2014年度には表面的には大きな進展がありませんでした。また、文部科学省からは国立大学 についての施策がいくつか提案され、たとえば文系学部について再編成の提案がなされたことな どが目につきましたが、大阪市立大学にとっては急な対応が必要だったわけではありませんでし た。一見すると大きな変化のない現状ですが、いくつかの伏流がしかるべき時点で私たちにも決 断を促すような気がしてなりません。 しかし、大阪市立大学理学部物理学科が取る決断が、安易に流行りに従うものであったり、ま た逆に頑迷で進取の気持ちを忘れたものであってもならないと思います。 「コッピーであってはな らぬ」という言葉を思い出すべき時でしょう。 このような状況で、2014年度は、学科の人事が大きく動いた年でした。畑徹教授、林嘉夫 教授、村田惠三教授の3名が定年退職なさり、橋本秀樹教授、安井幸則准教授の2名が他大学へ 御栄転なさいました。5人の諸兄の、長年の大阪市立大学でのお勤め、特に物理学科での多大な ご貢献に感謝し、今後のご活躍を祈念します。 退職、転出にともない、新規の人事を1年間に6件(うち1件は公募締切は翌2015年度)も 行うことになりました。長年にわたって大学の定員削減の影響を受けていた物理学科にとって、こ れだけの件数の採用人事を行うのは久しぶりのことでした。学科では委員会を立ち上げて将来計 画を見据えつつ人事計画を議論しました。選考委員会や優れた候補者の応募にご尽力いただいた みなさんに感謝します。その結果、新しい研究室を含む、2015年度からの体制ができました。 物理教室が新しいメンバーを迎えて、溌剌としたものになることを、大いに期待いたします。 最後に、本年度年次報告の作成にご尽力いただきました荻尾彰一氏と鐘本勝一氏に感謝いたし ます。 2014年度(平成26年度)物理学科教室主任 神田展行 1 2014 年度 物理学教室 談話会 談話会委員:丸、寺本、西川 第 1 回 新入生歓迎物理談話会 日時 2014 年 4 月 15 日 15:30〜 場所 学術情報センター10F 大会議室 講師 丸 信人 氏(素粒子論研究室・准教授) 題目 「世紀の大発見!!ヒッグス粒子って何だろう?」 第 2 回 物理学教室談話会 日時 2014 年 7 月 11 日 14:40〜 場所 2 号館 220B 教室 講師 1 倉田 正和 氏(東京大学・素粒子物理国際研究センター・特任研究員) 題目 1 「ILC の物理」 講師 2 栗木 雅夫 氏(広島大学・先端物質科学研究科・教授) 題目 2 「ILC 加速器と計画の状況」 第 3 回 物理学教室談話会 日時 2014 年 11 月 19 日 15:30〜 場所 理学部会議室 講師 肥山 詠美子 氏(理研・仁科加速器研究センター・准主任研究員) 題目 「厳密量子少数多体系計算で切り拓く物理」 第 4 回 物理学教室研究発表会 日時 2014 年 12 月 25 日 場所 学術情報センター10F 大会議室 第 5 回 修士論文発表会 日時 2015 年 2 月 5 日 場所 学術情報センター1F 文化交流室 2 第 6 回 物理学教室談話会 日時 2015 年 3 月 26 日 10:00〜 場所 学術情報センター1F 文化交流室 講師 1 畑 徹 氏 (超低温物理学研究室・教授) 題目 1 「超低温開発の歴史と超流動、核磁性」 講師 2 林 嘉夫 氏 (宇宙線物理学研究室・教授) 題目 2 「日印国際共同研究 40 年」 講師 3 橋本 秀樹 氏 (生体・構造物性研究室・教授) 題目 3 「光合成アンテナの現状理解と人工光合成実現に向けた将来展望 –大阪市大で過ごした 13 年+6 年を振り返って-」 講師 4 安井 幸則 氏 (数理物理研究室・准教授) 題目 4 「アインシュタイン計量との出会い」 講師 5 村田 恵三 氏 (超伝導物理学研究室・教授) 題目 5 「有機伝導体で他の物理にどんな発信をしたか?高圧、強磁場、低温の実験は どんな役割を果たしたか?」 3 超低温物理学研究室 畑 徹 石川修六 矢野英雄 小原 顕 教 授 教 授 准教授 講 師 加藤千秋(研究生) 木村 豊(D3) 大村裕樹(M2) 森岡 悠(M2) 若狭洋平(M2) 相原安裕(M1) 千葉祐弥(M1) 研究概要 1. NMR法によるエアロジェル中での超流動ヘリウム3の新奇界面現象の研究(石川、畑、 加藤、森岡、相原) エアロジェルと呼ばれる物質中では、エアロジェルの構成物であるシリカの細い紐が 不純物として働き、液体ヘリウム3の超流動性が抑制される。圧力と温度を調整すると、 バルク液体は超流動だが、エアロジェル中はノーマル液体とすることが出来る。バルク 液体とエアロジェルとの界面近傍に奇周波数クーパー対と呼ばれる新奇なクーパー対が 現れ,これによって帯磁率が増大するという理論予想がある。接合界面での近接効果の 一つであり、バルクの凝縮状態(超伝導、超流動)がp波軌道対称性をもつときに出現 が予想されている普遍的な現象と考えられている。これを調べるためポロシティ97.5% の試料セルで実験を行い22bar、24barでは帯磁率の増大が観測された。パルスNMRによる スピン拡散係数の測定より、界面近傍ではエアロジェル密度が濃くなっていることが分 かった。エアロジェル界面の両側でスピン拡散係数の大きさが1桁程異なる状態が接合 していることがわかった。粒子の移動とともにスピンは自由に行き来することが出来そ うであるが、拡散係数の違いによりスピン流には異方性が生じ、それにより見かけのス ピン拡散係数が磁場勾配の向きに依存することがわかった。このような性質を持つ状態 は非常に稀である。 2. 超流動ヘリウム4の量子渦と量子乱流のダイナミクス(矢野、畑、若狭、千葉) 超流動ヘリウム4は、秩序変数が振幅と位相からなる最もシンプルな量子凝縮相であ る。その流れが作る渦は、秩序変数が零の状態を芯として、循環が量子化される量子渦 となる。量子渦は、端がない渦輪か端が境界(壁)にある付着渦としてのみ存在するため、 渦が付着する壁を振動させると、壁に沿って流れる超流動流で渦が伸張し、量子乱流へ と発展する。また量子乱流中では、渦間の再結合によって渦輪が生成され放出される。 我々は、振動物体が生成する渦輪の性質を実験的に調べることにより、量子渦のダイ ナミクスを研究している。振動物体が生成する渦輪のサイズは、渦輪直径が0.1m以下と 非常に小さい渦輪から、振動物体の振幅(~40m)程度の直径まで広く分布する。また 渦輪の放出頻度は放出方向に依存する。これらの実験結果から、振動物体よる量子乱流 の生成過程や、渦間の再結合による渦輪生成の研究に取り組んでいる。 また我々は、超流動回転流を駆動するモーターの開発を行っている。回転子分離型の ブラシレスモーターを超流動4He中で回転させ、超流動回転流を駆動することに成功した。 液面の形状から、駆動される回転流は、回転中心からの距離に流速が比例する剛体回転 流であることを見いだした。このモーターによって超流動流の駆動が可能となり、超流 動の流れに関する研究(量子渦のダイナミクスや量子乱流)への応用が期待できる。 3. 回転する超流動ヘリウム3の研究(物性研,京大,福井大,岡山大との共同研究) (石川、小原、國松、木村) 超流動ヘリウム3− A相での半整数量子渦の検出実験を行った。半整数渦の検出はNMR 4 法で行った。半整数渦芯は非常に細いので、この芯部分でのスピン波励起は観測不可能 と考えて、磁場を傾けることによって得られる半整数渦の周りの比較的広範囲な非一様 テクスチャー構造におけるスピン波励起を検出する準備を行った。垂直向きの主磁場に 直交する互いに直交する2つの横向き磁場を作るためのマグネットの作成およびリード 線の改良を行った。磁場を傾けた実験より、主磁場が垂直方向より傾いていることがわ かった。まだ半整数渦の存在を示す兆候は得られていない。共同研究の理論研究者より 半整数渦の存在による新たなスピン波励起状態と半整数渦の安定性に関する提案があっ た。半整数渦実現の条件は高磁場下で超流動転移温度を通過させることである。そのた めの準備を行ったが実験開始までに至らなかった。 4. 寒剤を用いない希釈冷凍機の開発(畑、矢野、小原、石川) 振動レス、超小型の分離型ドライ希釈冷凍機開発を行った結果、直結型に比べ、振動 を一桁小さくすることに成功した。一方、予備冷却時間が3倍と長くなり、また、最低 温度も47mKと高いため、現時点では振動を極力嫌う実験用としての用途に限定される装 置となっている。そのため、新たにより汎用性を高めるために、予備冷却時間が短縮さ れる工夫を行っている。 5. 熱音響冷凍機の開発(畑) 熱音響冷凍機は、熱エネルギーと音波エネルギーの変換を利用した冷凍機をさす。廃 熱の再利用ができること、音波媒体は空気などの安全な気体であること、機械的な可動 部がないことなどから、長寿命で環境にやさしい未来型の冷凍機(エアコン)として期 待されているが、エネルギー変換効率が低く、実際に利用できるレベルには来ていなか った。今年度は作業流体にヘリウムと窒素の混合気体を用いることにより、さらに-7.5℃ までの冷却に成功した。これは、ヘリウムガス単独では、エネルギー変換効率は上がる が、振動数も上がってしまい熱交換率が下がってしまうが、窒素ガスを入れると振動数 を下げることができ熱交換率を維持することができているためと考えられる。 6. 光ハイドロフォンの低温応用(小原、大村) 局所的な音場の絶対値をリアルタイムに測定できる新しい測定方法として、「光ハイ ドロフォン」の低温への応用に取り組み始めた。ハイドロフォンとは流体の振動圧力を 計測するシステムの総称で、一般的にはピエゾ振動子か小型のコンデンサマイクロフォ ンを利用するが、低温では感度と周波数依存性が顕著に表れてしまうため、限られた用 途とでしか使うことができない。光ハイドロフォンの原理は「フレネルの反射損失」と よばれ、屈折率の異なる光媒質での反射光強度が屈折率の関数で与えられることを利用 する。具体的には端面を90°に切った光ファイバを直接液体ヘリウム中に差し込み、 レーザを直接照射する。光学システムは全て光ファイバとファイバカプラを用いて構築 され、光は光検出素子を除いて自遊空間に出ることがないため、既存の冷凍機に新たに 追加する形で導入することができるという利点がある。また、周波数依存性は回路定数 にのみ依存するため、調整可能であるという特徴がある。反射強度から屈折率、屈折率 から密度、密度は状態方程式を用いて圧力に変換できる。また、液体ヘリウムに限らず、 幅広い温度で液体・固体に応用できる、非常に応用性の高い技術である。本年度は基礎 的技術を習得し、液体ヘリウムの静的密度測定に成功した。この技術を応用すれば、液 体中の局所動的圧力や速度計測が可能となり、低温流体力学計測一般に新たな知見を提 供することになるだろう。今年度は、光源と検出器の安定性について新たな知見を得た。 7. 狭い平行平板間の超流動 3He の音響共鳴(小原、石川、加藤) 磁場下の狭い平行平板間に閉じ込められた液体の音波共鳴実験を行い、秩序変数の空 間変化を制御して、エネルギーギャップの異方性を調べた。3種類の平行平板間 (間隔 が12μm、25μm、50μm) を持つ共鳴装置を作製し、圧力29barでの音速測定を行ったと 5 ころ、すべての平板でAB転移に伴う音速の「とび」を観測し、この「とび」がエネルギ ーギャップの空間変化に対応していることをつきとめた。また、50μmの平板中ではAB転 移温度より高温において、共鳴周波数に「とび」が観測された。テクスチャーの変形で あるフレデリクス転移によるものと考えられる。同温度で12μm、25μmでは共鳴周波数 にほとんど変化はないが、音波共鳴のエネルギー損失に「とび」が生じる。何が原因と なってこれらの高温現象を引き起こしているのかは、未解決である。 教育・研究業績 学術論文 1. Manipulating textures of rotating superfluid 3He-A phase in a single narrow cylinder; T. Kunimatsu, H. Nema, R. Ishiguro, M. Kubota, T. Takagi, Y. Sasaki, and O. Ishikawa, Physical Review B 90 (2014), 214525(1–6) 2. Statistics of vortex loops emitted from quantum turbulence driven by an oscillating sphere; A. Nakatsuji, M. Tsubota, and H. Yano, Physical Review B 89 (2014), 174520(1–7) 3. Investigation of half-quantum vortex in superfluid 3He-A phase; Y. Kimura, T. Kunimatsu, K. Obara, H. Yano, T. Hata, T. Takagi, and O. Ishikawa, Journal of Physics: Conference Series 568 (2014), 012006(1–5). 4. Vortex emissions from quantum turbulence generated by vibrating wire in superfluid 4He at finite temperature; Y. Wakasa, S. Oda, Y. Chiba, K. Obara, H. Yano, O. Ishikawa, and T. Hata, Journal of Physics: Conference Series 568 (2014), 012027(1–6). 5. Development of a Fiber-Optic Probe Hydrophone for a Cryogenic Liquid, K. Obara, H. Ohmura, C. Kato, H. Yano, O. Ishikawa, T. Hata, Journal of Low Temperature Physics, 175, 464-470 (2014) 6. Development and Comparison of Two Types of Cryogen-Free Dilution Refrigerator, T. Hata, T. Matsumoto, K. Obara, H. Yano, O. Ishikawa, A. Handa, S. Togitani, T. Nishitani, Journal of Low Temperature Physics, 175, 471-479 (2014) 7. Observations of Vortex Emissions from Superfluid 4He Turbulence at High Temperatures, S. Oda, Y. Wakasa, H. Kubo, K. Obara, H. Yano, O. Ishikawa, T. Hata, Journal of Low Temperature Physics, 175, 317-323 (2014) 国際会議講演 The 27th International Conference on Low Temperature Physics (LT27), August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina 1. H. Yano (Talk): Vortex emissions from quantum turbulence generated by vibrating wire in superfluid 4He at finite temperature 2. Y. Morioka (Poster): Odd-frequency cooper pairing in normal liquid 3He at aerogel interface 3. Y. Kimura (Poster): Half-quantum vortex in superfluid 3He-A phase under a magnetic field 4. Y. Wakasa (Poster): Power dependence of vortex emissions generated by vibrating wire in superfluid 4He at finite temperature 5. H. Ohmura (Poster): Density measurement of liquid/vapor helium by fiber-optic probe hydrophone ULT 2014 - Frontiers of Low Temperature Physics, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 1. Y. Morioka (Poster): Odd-frequency cooper pairing in normal liquid 3He at aerogel interface 2. Y. Kimura (Poster): Half-quantum vortex in superfluid 3He-A phase under a magnetic field 3. Y. Wakasa (Poster): Power dependence of vortex emissions generated by vibrating wire in superfluid 4He at finite temperature 4. H. Ohmura (Poster): Density measurement of liquid/vapor helium by fiber-optic probe 6 hydrophone Workshop on New Perspectives in Quantum Turbulence: experimental visualization and numerical simulation, December 11-12, 2014, Nagoya University, Nagoya, Japan 1. H. Yano (Invited talk): Quantum turbulence generated by vibrating wire in superfluid 4He International conference on topological quantum phenomena, December 16-120, 2014, Kyoto University, Kyoto, Japan 1. O. Ishikawa (Invited talk): Intrinsic Angular Momentum of Topological Superfluid 3He-A 2. Y. Kimura (poster): Investigation of Half-Quantum Vortex between Parallel Plates in Superfluid 3 He-A phase 3. K. Obara (poster): Development of Low Temperature Amplifier 4. Y. Morioka (poster): Novel Susceptibility Induced by Impurity with Boundary in Liquid 3He 学会・研究会講演 1. 矢野英雄(Talk):「振動物体が生成する量子乱流と渦放出」,物性研短期研究会「ス ーパーマターが拓く新量子現象」(2014年4月17日~19日,東京大学物性研) 2. 小原顕(Poster):「液体ヘリウム用 光学ハイドロフォンの開発」,物性研短期研究会 「スーパーマターが拓く新量子現象」(2014年4月17日~19日,東京大学物性研) 3. 森岡悠(Poster):「バルク超流動3Heに接するエアロジェル界面での奇周波数クーパー 対状態」,物性研短期研究会「スーパーマターが拓く新量子現象」(2014年4月17日~19 日,東京大学物性研) 4. 若狭洋平(Poster):「液体4He常流動と超流動におけるVibrating wireの抗力」,物性研 短期研究会「スーパーマターが拓く新量子現象」(2014年4月17日~19日,東京大学物性 研) 5. 石川修六:「スピン三重項超流体の新奇界面現象」, 新学術領域研究会 第16回集中連 携研究会「トポロジカル量子現象の研究成果」, (2014年6月14日〜15日,下呂温泉 6. 矢野英雄:「超流動ヘリウム中の振動物体が生成する量子乱流と量子渦の放出」(シン ポジウム「量子渦の物理の最前線」),日本物理学会 2014年秋季大会(2014年9月7日 ~10日,中部大学) 7. 森岡悠:「バルク超流動3He-Bとエアロジェル中常流動3He界面における奇周波数クーパ ー対」,日本物理学会 2014年秋季大会(2014年9月7日~10日,中部大学) 8. 木村豊:「超流動ヘリウム3-A相における磁場下での半整数量子渦」, 日本物理学会 2014年秋季大会(2014年9月7日~10日,中部大学) 9. 若狭洋平:「液体4He常流動と超流動におけるVibrating wireの抗力」, 日本物理学会 2014年秋季大会(2014年9月7日~10日,中部大学) 10. 石川修六:「トポロジカル超流体の固有角運動量」, 第8回物性科学領域横断研究会— 凝縮系科学の最前線, (2014年11月21日~22日,大阪大学 基礎工学部シグマホール) 11. 小原顕:「低温用光学ハイドロフォンと冷却光センサーの開発」, 日本物理学会 第70回年次大会(2015年3月21日~24日,早稲田大学) 12. 千葉祐弥:「超流動4He中振動ワイヤーによる渦環放出の温度変化」, 日本物理学会 第70回年次大会(2015年3月21日~24日,早稲田大学) 13. 木村豊:「超流動ヘリウム3-A相における磁場下での半整数量子渦II」, 日本物理学会 第70回年次大会(2015年3月21日~24日,早稲田大学) 14. 相原安裕:「エアロジェル界面における超流動ヘリウム3近接効果」, 日本物理学会 第70回年次大会(2015年3月21日~24日,早稲田大学) 7 学位論文 修士論文 1. 大村裕樹:「低温用光学ハイドロフォンの開発」 2. 森岡 悠:「スピン三重項p波超流動3Heにおける新奇界面現象」 3. 若狭洋平:「超流動4He中の振動ワイヤーによる渦環放出の異方性」 研究助成金取得状況 1. 2. 3. 4. 石川修六:新学術領域研究「対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象」 計画研究「スピン三重項超流動体の新奇界面現象」 2014年度分 1,000万円 小原 顕:日本学術振興会・科学研究費挑戦的萌芽研究 「液体用光学式マイクロピトー管の開発」 2014年度分 210万円 矢野英雄:日本学術振興会・科学研究費基盤研究(B) 「超流動ヘリウム4量子渦の慣性質量と波動の研究」 2014年度分 338万円 矢野英雄:日本学術振興会・科学研究費挑戦的萌芽研究 「超流動ヘリウムの定常流を駆動するポンプの開発」 2014年度分 143万円 海外出張および海外研修 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 石川修六:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 矢野英雄:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 小原顕:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 木村豊:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 大村裕樹:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 森岡悠:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 若狭洋平:LT27, August 6-13, 2014, Palais Rouge, Buenos Aires, Argentina; ULT 2014, August 15-19, 2014, Hotel Amancay, San Carlos de Bariloche, Argentina 出席・発表 その他 高大連携 1. 大阪府立大手前高校 SSH事業 サイエンス探求発表会(小原) 8 光物性物理学研究室 鐘本勝一 准教授 石川 沙樹 (M2) 岡田 優 (M1) 高橋 崇寛 (M2) 中嶋 敬幸 (M1) 中谷 仁美 (M2) 研究概要 1. ポリマー薄膜ダイオードにおける電気伝導過程の分光観測(石川、鐘本) 有機薄膜の電気伝導特性が最も顕著に表れるダイオードにおいて、電流電圧特性を特徴 付けるのは、電極から有機層へのキャリヤ注入及び有機層中のキャリヤ輸送である。その 機構を説明するために、様々なモデルが提案されてきたが、ここでは、交流方形波電圧印 加と分光計測を組み合わせたデバイス変調分光法 (DM)を導入し、電流電圧特性の情報 とは独立に、キャリヤ注入に関する知見を直接引き出すことを目的とした。DM信号の電 圧依存性から、注入キャリヤ量の電圧依存性を引き出すことに成功し、その結果、電流の 増加に反して、注入キャリヤ量が減少する電圧領域があることを明らかにした。その依存 性の解析から、低電圧領域では、注入されたキャリヤのほとんどがトラップ準位の充填に あてられるが、さらに電圧を上げると、電場によってトラップからキャリヤが解放され、 その過程が伝導を担っていることを明らかにした。 2. ポリマーEL素子におけるSinglet-Triplet生成ダイナミクスの分光観測(高橋、鐘本) 有機物による電界発光(Electroluminescence: EL)では、励起子は、簡単なスピン統計 則を仮定し、発光を与えるSingletと非放射のTriplet状態が1:3の確率で生成すると仮定さ れる。しかし近年、生成確率がその統計に従わないことを示唆する報告もされており、 励起子生成機構は明らかでないのが現状である。この研究では、素子動作と分光技術を 融合したデバイス変調分光法を用いて、素子動作時に生成するTripletを高感度に観測する 実験系を構築し、同時に観測したELおよび電流を併せて評価することで、励起子生成過 程を明らかにすることを目指した。計測結果をレート方程式に基づいて解析した結果、 Singletの生成速度比が印加電圧に依存して増加し、それに伴って素子の変換効率も向上 することが明らかとなった。またその原因は、励起子生成過程における中間状態と内部 電場の相互作用によって、Singletの生成が促進されるためであることがわかった。 3. 色素増感太陽電池における分光を利用した動作モニタリング(中谷、鐘本) 色素増感太陽電池(DSC)は、次世代太陽電池として最も注目されている太陽電池の一つ であるが、耐久性と変換効率に課題があり、その課題解決のためには、キャリヤレベルの ミクロな観点からの研究が望まれる。本研究では、作成したDSCに対し、励起光に連続光 を用い、さらに電圧印加と組み合わせることで、実際の素子動作環境を模倣した分光実験 を実施し、動作過程のモニタリングの実現を目指した。定常電圧印加下での光生成TiO2 キャリヤ信号の寿命を解析した結果、電圧印加により電流を担うキャリヤの割合が減るこ とを明らかにした。さらに、短絡状態においても、電流に寄与せず再結合失活するキャリ ヤが存在し、光電流のロスにつながっていることを明らかにした。これより、TiO2内では、 電極に移動せず蓄積するキャリヤ成分が多く発生することがわかった。 4. 分子性有機FETのキャリヤ分光観測に向けた測定系の構築(岡田、鐘本) 近年、安定かつ高いFET動作性能を示す有機物質の開発が進んでおり、今後は、無機物 質にも匹敵できるような高速スイッチング機能を有する素子の実現が求められる。本研 究では、その実現に向けて、素子動作との分光融合技術を活用することで、有機FETが動 作する際のキャリヤを直接計測する技術の開発を行う。その準備として、幾種類かの代 9 表的な半導体分子について、有機FETの試作を行い、良好なFET特性を確認した。分光実 験としては、FET用分子について、ダイオード作成を行い、その動的過程の分光計測に成 功した。これまでその分子材料については、キャリヤ分光信号の特徴が知られていなか ったが、初めて明らかにすることができた。 5. ポリマーダイオードにおける電気容量の磁場効果(中嶋、鐘本) これまで、情報の記憶やセンシングデバイスへの応用に向けて、電気容量の磁場効果 が注目されてきた。特に最近、ドナー・アクセプター型の有機混合膜素子において、磁 場による電気容量の変化が光照射によって発現することが報告され、関心がもたれてい る。本研究では、空気処理によりトラップを導入することで、ダイオードの素子電流を 減少させ、その電気容量の磁場効果を検証した。その結果、非照射下においてもわずか な磁場効果が観測されたが、光照射下により、その効果が顕著に増大することが分かっ た。またその容量変化と同時に、素子の抵抗値のわずかな増加も観測された。このこと から、磁場の増加とともにキャリヤのトラップが進行し、電気容量を増加させたと考え られる。 教育・研究業績 学術論文 1. K. Kanemoto, Y. Ohta, S. Domoto, H. Hashimoto, “Charge Injection Process in Polymer: Fullerene Composite Diodes Studied by Spectroscopic Techniques Combined with Bias Application”, Organic Electronics, 15, pp.1958–1964 (2014). 2. K. Kanemoto, S. Domoto, H. Hashimoto, “Origin of Stark Signals Induced by Continuous Photoirradiation for Working Dye-Sensitized Solar Cells Revealed by Photoinduced Absorption Measurements.” J. Phys. Chem. C 118, pp.17260-17265 (2014). 3. K. Kanemoto, H. Nakatani, S. Domoto, “Determination of photocarrier density under continuous photoirradiation using spectroscopic techniques as applied to polymer: fullerene blend films.”, J. Appl. Phys., 116, pp.163103-1-7(2014). 国際会議講演 1. K. Kanemoto, “Dissociation of Spin Pairs in Polymer Light Emitting Diodes Revealed by Voltage-Dependent ODMR Signals.”, 2nd Awaji International Workshop on Electron Spin Science & Technology (AWEST), Awaji International Conference Center, Awaji Island, Japan. Jun 15-17, 2014. (Invited) 2. Katsuichi Kanemoto, Takayuki Nakajima, “Displacement Current Induced by Electron Spin Resonance in Organic Semiconductor”, KJF-International Conference on Organic Materials for Electronics and Photonics, Tsukuba International Congress Center (EPOCHAL TSUKUBA), Tsukuba, Japan. September 21-24, 2014. 3. Takahiro Takahashi, Katsuichi Kanemoto, “Spectroscopic observation of triplet exciton dynamics during operation in polymer light emitting diodes”, KJF-International Conference on Organic Materials for Electronics and Photonics, Tsukuba International Congress Center (EPOCHAL TSUKUBA), Tsukuba, Japan. September 21-24, 2014. 4. K. Kanemoto and K. Kimura, “Spin Pairs in Polymer Light Emitting Diodes Studied by Electrically and Electroluminescence Detected Magnetic Resonance Techniques”, 5th International Meeting on Spin in Organic Semiconductors, Himeji, Japan. October 13-17, 2014. 学会・研究会講演 1. 石川沙樹, 鐘本勝一「ポリマー薄膜ダイオードにおける電流電圧特性の分光による評価」 応用物理学会2014年秋季学術講演会、北海道大学(2014.9.17-20) 2. 高橋崇寛, 鐘本勝一「有機LEDにおけるキャリア・励起子生成ダイナミクスの分光観測」 10 3. 4. 5. 6. 7. 8. 応用物理学会2014年秋季学術講演会、北海道大学(2014.9.17-20) 中谷仁美, 鐘本勝一「定常光照射下の色素増感太陽電池における動作過程の分光観測」応 用物理学会2014年秋季学術講演会、北海道大学(2014.9.17-20) 高橋崇寛, 鐘本勝一「蛍光素子でのtriplet励起子の生成観測と励起子生成過程の電場効果 の検証」有機EL討論会第19回例会、沖縄県市町村自治会館(2014.11.27-28) 高橋崇寛, 鐘本勝一「ポリマー蛍光EL素子において電場が励起子生成比に与える影響」 第25回光物性研究会、神戸大学(2014.12.12-13) 鐘本勝一,石川沙樹「ポリマーダイオード動作過程の分光計測による評価」第62回応用物 理学会春季学術講演会,東海大学 湘南キャンパス(2015.3.11-14) 中嶋 敬幸, 鐘本 勝一「ポリマーダイオードにおける電気容量の磁場効果」第62回応用物 理学会春季学術講演会,東海大学 湘南キャンパス(2015.3.11-14) 鐘本勝一, 高橋崇寛,「ポリマーLEDにおけるSinglet-Triplet生成速度比の電場効果」日 本物理学会第70回年次大会,早稲田大学(2015.3.21-24) 学位論文 修士論文 1. 石川沙樹:「分光技術を用いたポリマー薄膜ダイオード動作過程の解明」 2. 高橋崇寛:「分光技術によるポリマーLED動作の可視化とダイナミクスの解明」 3. 中谷仁美:「色素増感太陽電池動作における分光モニタリングの実現と機構解明」 研究助成金取得状況 1. 鐘本勝一(代表)科学研究費補助金、基盤研究(B)「電子スピン共鳴電流を利用した新 規有機スピンデバイスの開発と基盤技術の創生」300万円 2. 鐘本勝一(代表)科学研究費補助金、挑戦的萌芽研究 「分光及びESR技術の併用による 有機FETの動作ダイナミクス観測の実現」120万円 その他 1. 高橋崇寛:国際会議 KJF-International Conference on Organic Materials for Electronics and Photonics 2014(つくば)にて優秀ポスター発表賞を受賞 11 生体・構造物性研究室 橋本 南後 杉﨑 小澄 秀樹 守 満 大輔 浦上 千藍紗 北 翔兵 岡田 唯史 福田 悠 西口 智也 船越 良平 土野池 直哉 根来 雄介 矢部 悠生 教授 特任教授 准教授 特任准教授 (D3) (M2) (M2) (M2) (M1) (M1) (B4) (B4) (B4) 研究概要 1. ストレス条件下にある周辺アンテナ色素蛋白複合体の構造(橋本) 紅色光合成細菌の一般的な周辺光捕集アン テナLH2は800nmと850nmに光吸収のピークを 持つ.これはバクテリオクロロフィルaがそれ ぞれ単量体,及び二量体のリング構造を形成す る事に起因し,B800-850タイプとよばれている. 一方,弱光や低温といったストレス条件下で培 養された紅色光合成細菌のLH2においては, 850nmの吸収ピークが高エネルギー側にシフ トをし820nm付近に現れることから,B800-820タイプとよばれる.培養条件により現れる 光学応答の変化は,構造の違いを反映しているものと考えられる.そのため,B800-850タ イプとB800-820タイプではカロテノイドのLH2への結合もわずかに異なることが予想され る.そこで,Phaeospirillum molischianum DSM120株におけるB800-850タイプとB800-820タ イプのLH2を用いて,構造に対する情報を敏感に検知することが可能なシュタルク吸収分 光測定を行った.Liptay方程式を元にした電磁気学的な定量解析,及び量子化学計算を行 った結果,カロテノイドのスペクトル領域における双極子モーメント|Δμ|が,これら二つ のタイプのLH2においてはっきりと異なるという結果を得た.これらのLH2では共に,10% のlycopeneと80%のrhodopinが含まれているが,経験的分子軌道計算を行った結果, B800-820タイプのLH2に結合したrhodopinが大きく形状変化しているという可能性を見出 した.特にrhodopin のC21–C24近傍に大きなねじれが生じている可能性が高い(論文[1]). 2. カロテノイドを取り囲む周辺環境が電子及び振動ダイナミクスに及ぼす影響(杉﨑,小澄, 南後,橋本) 紅色光合成細菌における光合成の初期過程では,カロテノイドからバクテリオクロロフ ィルへ超高速,かつ高効率に励起エネルギー移動が行われている.励起エネルギー移動に ついて一般的な場合を考えてみると(次頁図a),分子1(例えばカロテノイド)の励起状 態のエネルギーが分子2(例えばバクテリオクロロフィル)のエネルギーよりも大きな場 合,分子1の励起状態(exc)の底,及び振動の励起状態(vib)から分子2の励起状態へエネルギ ー移動が起こる.一方,分子2の励起状態のエネルギーが分子1のエネルギーよりも大きな 場合でも(図b),分子1の振動の励起状態(vib) から分子2の励起状態へのエネルギー移動 は可能である.この時,エネルギー移動の効率は,振動緩和の時定数(τvib)とエネルギー伝 達の時定数(τet)の比によって決まる.そのため,振動緩和の効率を決める要因が分かれば, 12 エネルギー伝達の効率もコントロールすることが (a) (b) τ 可能になるものと期待される.しかし,振動緩和 vib. vib. exc. τ exc. exc. uphill の時定数をコントロールする手法については,電 exc. downhill 子の基底状態についても明らかとなっていない. そこで,スフェロイデンのラマン散乱の溶媒効果 gnd. gnd. Molecule 1 Molecule 2 Molecule 1 Molecule 2 を測定し,振動緩和のダイナミクスについて考察 (c) (d) を行った. spheroidene 10 10 18種類の溶媒中に分散させたスフェロイデンに C-C mode 18 18 16 17 16 10 おけるC-C伸縮振動のラマン線幅とLH2に結合し 7 15 10 12 15 9 9 7 19 14 4 4 12 17 9 9 6 14 6 11 11 13 たスフェロイデンのラマン線幅の交点から, LH2 13 5 5 8 8 8 8 LH2 3 3 に結合したスフェロイデンを取り囲む周辺環境の 1 2 1 2 7 7 分極率を見積もると,既報において知られている 0.20 0.25 0.30 0.35 -1 0 1 ~2 値よりもかなり小さいことが分かった(図c).こ Polarizability Log(viscosity) のような不一致は,ラマン線の幅,すなわち振動 緩和の時定数がカロテノイドを取り囲む周辺環境の分極率によって決まるものではない ことを示唆している.Bergにより提唱されたモデルとの比較により(図d),溶媒の粘性 が振動の緩和時定数を決める一要因となっていることを明らかにした(論文[2]). et HWHM (cm-1) vib 3. 赤色光を用いた二酸化酸素の還元に向けた新規光触媒の開発(小澄,橋本) 光化学反応,特に太陽光の波長領域の光を 用いてCO2 の削減させる手法を確立すること は非常に重要なテーマである.レニウムピリ ジン錯体を結合させたクロロフィル誘導体を 合成し,650nmよりも長波長の可視光を用いた CO2の還元に成功した.昨年までの研究におい ても,レニウムピリジン錯体を用いたCO2の還 元には成功していたが,クロロフィルの励起 状態からレニウム錯体へのエネルギー伝達効 率が低いという問題が生じていた.レニウム 錯体の酸化還元電位をコントロールすることにより,CO2の効率的な還元が可能となった. レニウムピリジン錯体への効率な電荷移動が中心金属を含まないクロロフィル類を用い て成功したことは,これまでに報告例がなく特筆すべき点といえる(論文[3]). 4. 異なる光条件の下で培養した深所型緑藻モツレミル糸状体のラマン分光測定による色素 組成の解析(浦上,橋本) 潮下帯下部に生育する海藻であるモツレミルは, 海藻であるにもかかわらず緑褐色を呈し,緑から青 色領域の光を光合成に利用することができる.これ は,緑色植物の光合成アンテナに含まれるルテイン の代わりにカルボニルカロテノイドであるシフォナ キサンチンを含んでいるためである.昨年までの研 究で,モツレミルの糸状体という微細状態での単藻 培養に成功し,色素組成が強光下で変化することを 見出している.強光と弱光条件下で培養したモツレ ミル糸状体から抽出した色素を逆相HPLCで分析し た結果,本年度は新たに,強光条件下で現れるピー クが全トランス型ネオキサンチンであると同定する ことができた.更に生体内においても同様の現象が 起こっていることを共鳴ラマン散乱法により明らか 13 にした.また,高等植物が持つLHCII色素蛋白複合体におけるルテインの結合部位にシフ ォナキサンチンが結合しているという結果も得られた(論文[6]). 5. 褐藻類の光合成初期過程における励起エネルギー伝達(小澄,杉﨑,橋本) 海洋中における褐藻類の光合成においてフコキ サンチンが重要な役割を果たすことが知られてい る.注目すべき点は,フコキサンチンはポリエン骨 格の端にカルボニル基を持つために,極性環境中で は,励起状態が電荷移動(ICT)型となることであ る.長いポリエン鎖を持つ同属体においては,その 励起状態にICT型の性質が現れず,短いポリエン鎖 を持つ同属体においては,非極性環境中においても ICT状態が形成されることが分かっている.今回, 短い共役二重結合数と,さらにアレン基を改変した フコキサンチンホモログ体を有機合成し,その超高速光学応答を調べた.非極性環境中に おいてもICT状態が現れるという興味深い結果が得られた.アレン基を改変する事により 最低一重項励起状態の寿命が短くなるという現象が見られたことから,ICTの特性はアレ ン基によって大きな影響を受けることが分かった.この結果は同時に,光合成アンテナ色 素蛋白複合体に於いて,アレン基がカロテノイドと(バクテリオ)クロロフィルの間のカ ップリングを調整する役割を演じていることを示唆するものである(論文[7]). 教育・研究業績 学術論文 1. T. Horibe, P. Qian, C.N. Hunter, and H. Hashimoto, "Stark absorption spectroscopy on the carotenoids bound to B800-820 and B800-850 type LH2 complexes from a purple photosynthetic bacterium, Phaeospirillum molischianum strain DSM120," Arch Biochem Biophys., 572 (2015) 158-166.. 2. N. Tonouchi, D. Kosumi, M. Sugisaki, M. Nango, and H. Hashimoto, "How do surrounding environments influence the electronic and vibrational properties of spheroidene?," Photosynth. Res., 124 (2015) 77-86. 3. Y. Kitagawa, S. Ogasawara, D. Kosumi, H. Hashimoto, and H. Tamiaki: "Photophysical properties of chlorophyll derivatives linked with rhenium bipyridine complexes," Bull. Chem. Soc. Jpn., 88 (2015) 346-351. 4. Y. Maeda, H. Hashimoto, I. Kinoshita, and T. Nishioka, "Chelated bis-N-heterocyclic carbene platinum and palladium units as tunable components of multinuclear complexes," Inorg. Chem., 54 (2015) 448-459. 5. H. Hashimoto, M. Sugisaki, and M. Yoshizawa, "Ultrafast time-resolved vibrational spectroscopies of carotenoids in photosynthesis," Biochim. Biophys. Acta, Bioenergetics, 1847 (2015) 69-78. 6. C. Uragami, D. Galzerano, A. Gall, Y. Shigematsu, M. Meisterhans, N. Oka, M. Iha, R. Fujii, B. Robert ,and H. Hashimoto, "Light-dependent conformational change of neoxanthin in a siphonous green alga, Codium intricatum, revealed by Raman spectroscopy," Photosynth. Res., 121 (2014) 69-77. 7. D. Kosumi, T. Kajikawa, K. Yano, S. Okumura, M. Sugisaki, K. Sakaguchi, S. Katsumura, and H. Hashimoto, "Roles of allene group in an intramolecular charge transfer character of a short fucoxanthin homologue as revealed by femtosecond pump-probe spectroscopy", Chem. Phys. Lett., 602 (2014) 75–79. 8. Y. Kitagawa, H. Takeda, K. Ohashi, T. Asatani, D. Kosumi, H. Hashimoto, O. Ishitanim and H. Tamiaki, "Photochemical reduction of CO2 with red light using synthetic chlorophyllrhenium bipyridine dyad," Chem. Lett., 43 (2014) 1383-1385. 9. S. Okumura, T. Kajikawa, K. Yano, K. Sakaguchi, D. Kosumi, H. Hashimoto, and S. Katsumura, "Straightforward synthesis of fucoxanthin short-chain derivatives via modified-Julia olefination," Tetrahedron Lett., 55 (2014) 407-410 14 10. A. Karimata, S. Suzuki, M. Kozaki, K. Kimoto, K. Nozaki, H. Matsushita, N. Ikeda, K. Akiyama, D. Kosumi, H. Hashimoto, and K. Okada, "Direct observation of hole shift and characterization of spin states in radical ion pairs generated from photoinduced electron transfer of (phenothiazine)n-anthraquinone (n = 1, 3) dyads," J. Phys. Chem. A, 118 (2014) 11262-11271. 11. A. Ito, A. Shimizu, N. Kishida, Y. Kawanaka, D. Kosumi, H. Hashimoto, and Y. Teki, "Excited-state dynamics of pentacene derivatives with stable radical substituents," Angew. Chem. Int. Ed., 53 (2014) 6715-6719. 12. Y. Imanaka, H. Hashimoto, I. Kinoshita, and T. Nishioka, "Incorporation of a sugar unit into a C-C-N pincer Pd complex using click chemistry and its dynamic behavior in solution and catalytic ability toward the Suzuki-Miyaura coupling in water," Chem. Lett., 43 (2014) 687-689. 国際会議講演 1. H. Hashimoto, “Artificial Photosynthesis Producing Solar Fuels”, US-JSPS Alumni Association – 4th Multidisciplinary Science Forum (MSF), Japanese Embassy in Washington DC, USA (2014) February 21. (Invited). 2. H. Hashimoto, “Ultrafast fucoxanthin → chlorophyll a energy transfer in brown algal light-harvesting antennas”, 247th ACS National Meeting & Exposition, Dallas, Texas, USA (2014) March 16-20. (Invited). 3. H. Hashimoto, D. Kosumi, R. Fujii, M. Sugisaki, M. Iha, K. Sakaguchi, and S. Katsumura, “Ultrafast excited state dynamics of marine carotenoid fucoxanthin and its homologues”, 17th International Carotenoid Symposium, Park City, Utah, USA (2014) June 29-July 4. (Invited). 4. H. Hashimoto, D. Kosumi, R. Fujii, M. Sugisaki, M. Iha, K. Sakaguchi, and S. Katsumura, “The secret of highly efficient light-harvesting antenna found in brown algal photosynthesis”, 2014 International Conference on Artificial Photosynthesis, Awaji Yumebutai International Conference Center, Awaji City, Hyogo, Japan (2014) November 24-28. (Invited). 5. H. Hashimoto, D. Kosumi, R. Fujii, M. Sugisaki, M. Iha, K. Sakaguchi, and S. Katsumura, “Ultrafast excited state dynamics of marine carotenoid fucoxanthin and its homologues”, Light-Harvesting Processes LHP2015, Banz Monastery, Germany (2015) March 8-12. (Invited). 学会・研究会講演 1. 木梨尚人,坂口和彦,小澄大輔,橋本秀樹,品田哲郎,勝村成雄,「クロスカップリングに有用な新 規アルキニルスズの開発とペリジニン類の効率的合成研究」,第 58 回香料・テルペンおよび精油科 学に関する討論会,和歌山大学,2014 年 9 月 20 日~22 日. 2. 山野奈美,伊福健太郎,三沢典彦,橋本秀樹,藤井律子,「アスタキサンチン生産レタスにおける光 合成タンパク結合カロテノイド」,第 28 回カロテノイド研究談話会,石川県文教会館 大会議室,2014 年 9 月 4 日~5 日. 3. 祖父江和樹,阿部健太,酒井俊亮,南後守,橋本秀樹,吉澤雅幸,「励起状態の再励起による再会 合光合成色素蛋白複合体の研究」,第 27 回カロテノイド研究談話会,三重大学,2013 年 10 月 19 日~20 日. 4. 浦上千藍紗,Dennis Galzerano,Andrew Gall,重松佑典,Maïwen Meisterhans,岡 直宏,伊波匡 彦,藤井律子,Bruno Robert,橋本秀樹,「異なる光条件の下で培養した深所型緑藻モツレミル糸状 体のラマン分光測」,第 28 回カロテノイド研究談話会,石川県文教会館 大会議室,2014 年 9 月 4 日~5 日. 5. 西口智也,小澄大輔,天尾 豊,橋本秀樹,「ミセルに固定したカロテノイド-クロロフィル人工光合成 アンテナの励起状態ダイナミクス」,第 28 回カロテノイド研究談話会,石川県文教会館 大会議室, 2014 年 9 月 4 日~5 日. 6. 殿内規之,小澄大輔,杉﨑満,南後守,橋本秀樹,「周辺環境は電子及び振動ダイナミクスにどのよ うに影響を及ぼすのか?」,第 28 回カロテノイド研究談話会,石川県文教会館 大会議室,2014 年 9 月 4 日~5 日. 7. 塩本直俊,橋本秀樹,木下勇,西岡孝訓,「ピリジン環と糖修飾 N-ヘテロ環カルベンを有する三座 配位子を持つピンサー型パラジウム錯体の合成と性質」,錯体化学会第 64 回討論会, 中央大学 後 楽園キャンパス, 2014 年 9 月 18 日~20 日. 8. 今仲庸介,橋本秀樹,木下勇,西岡孝訓,「様々な置換基を持つ糖修飾 C-C-N ピンサーPd 錯体 15 9. 10. 11. 12. 13. の合成と触媒活性」,錯体化学会第 64 回討論会, 中央大学後楽園キャンパス, 2014 年 9 月 18 日~ 20 日. 小田祥也,橋本秀樹,木下勇,西岡孝訓,「アルキル基を持つ糖修飾 N-へテロ環カルベンパラジウ ム錯体を用いた水中でのクロスカップリング反応」,錯体化学会第 64 回討論会, 中央大学後楽園キ ャンパス, 2014 年 9 月 18 日~20 日. 前田友梨,橋本秀樹,木下勇,西岡孝訓,「二座キレート型 N-ヘテロ環カルベン-白金あるいはパラ ジウムユニットを有する硫化物架橋異種金属三核錯体の還元挙動」,錯体化学会第 64 回討論会, 中央大学後楽園キャンパス, 2014 年 9 月 18 日~20 日. 小澄大輔,堀部智子,杉﨑満,R.J. Cogdell,橋本秀樹,「近赤外 5 フェムト秒光パルスを用いた光合 成アンテナにおける量子ビートの観測」,レーザー学会学術講演会第 35 回年次大会,東海大学 高 輪校舎, 2015 年 1 月11 日~12 日. 村田惠三,青木慎治,小別所匡寛,山中雅巳,横川敬一,平山光,吉野治一,上床美也,浦上千 藍紗,橋本秀樹,「Daphne7474 の室温固化圧力をこえる固化圧力をもつ静水圧力媒体」,日本物理 学会第 70 回年次大会,早稲田大学 早稲田キャンパス,2015 年 3 月 21 日~24 日. 船越良平,殿内規之,小澄大輔,杉﨑満,南後守,橋本秀樹,「スフェロイデンにおける振動緩和の 溶媒効果」,日本物理学会第 70 回年次大会,早稲田大学 早稲田キャンパス,2015 年 3 月 21 日~ 24 日. 著書 1. H. Hashimoto, C. Uragami, and R.J. Cogdell, Carotenoids and Photosynthesis, C. Stange ed., “Carotenoid Function and Biosynthesis in Plants”, Springer (2015) in press. 2. H. Hashimoto and C. Uragami, Artificial Photosynthesis Producing Solar Fuels: Natural Tactics of Photosynthesis, E.A. Rozhkova and K. Ariga eds., “From Molecules to Materials – Pathways to Artificial Photosynthesis”, Springer (2015) pp. 57-69. 3. 橋本秀樹, 「紅色光合成細菌・海洋藻類の光合成初期過程」,三宅 淳,佐々木 健 監修,光 合成のエネルギー利用と環境応用,第1編 機能・構造,第1章,CMC 出版 (2014) pp. 1-12. 4. 橋本秀樹, 「太陽光燃料(Solar Fuel)を生成する人工光合成」,三宅 淳,佐々木 健 監修, “光 合成のエネルギー利用と環境応用,第4編 ゲノムと人工光合成,第 20 章,CMC 出版 (2014) pp. 285-294. 特許 1. 木下 勇,橋本 秀樹,磯邊 清,世良 佳彦,山下 栄次,堀部 智子,「鉄—グラフェンオキサ イド複合体及び光触媒」,出願整理番号 1283JP,提出日 平成 27 年 3 月 27 日. 学位論文 博士論文 1. 浦上 千藍紗:“Application of Confocal Micro-Spectroscopies to Biologically Related Systems”. 修士論文 1. 岡田唯史:「Stark吸収分光による金属錯体の原子価電荷移動(IVCT)遷移の検証」. 2. 北翔兵:「カロテノイド分子会合体の構築と分子間相互作用の評価」. 3. 福田悠:「 Stark吸収分光を用いたコバルト2価セミキノン型錯体におけるMLCT遷移の評 価 研究助成金取得状況 1. 2. 橋本秀樹:新学術領域研究「人工光合成による太陽光エネルギーの物質変換:実用化に 向けての異分野融合」総括班・計画班,500万円. 橋本秀樹:共同研究(5件)765万円. 16 3. 4. 5. 杉﨑満:学術振興会・基盤研究B「可視二次元分光技術の確立と光合成励起エネルギーフ ローの人為操作」130万円. 杉﨑満:学術振興会・挑戦的萌芽研究「透過型超解像度顕微鏡の開発とそれを用いた光 合成初期過程の可視化」260万円. 小澄大輔:学術振興会・若手研究(A)「極超短光パルスを用いた光合成アンテナにおける 色素分子間相互作用の実時間計測」590万円. 海外出張および海外研修 1. 2. 3. 4. 5. 橋本秀樹:米国,2014年6月29日~7月5日,国際カロテノイドシンポジウム(ICS2014 Utah) で招待講演を行うため. 橋本秀樹:メキシコ,2014年8月5日~8月16日,テカマチャルコ工科大学での集中講義およ び共同研究の計画・立案のための打ち合わせ. 橋本秀樹:イギリス,2014年12月12日~12月20日,Glasgow大学との共同研究の計画・立案 のための打ち合わせ(新学術領域の人工光合成研究を視野に入れての研究計画). 橋本秀樹:中国,2015年1月21日~1月23日,Workshop on Low Energy States in Photosynthesis 2015で研究発表を行うため. 橋本秀樹:ドイツ,2015年3月8日~3月14日,国際会議 Light-Harvesting Process 2015 (LHP2015)で研究発表を行うため. その他 1. 2. 3. 橋本秀樹:日本カロテノイド研究会幹事役員,Carotenoid Science編集委員長. 橋本秀樹:国際カロテノイド学会Council Member, President. 橋本秀樹:Chemical Physics Letters誌,Advisory Board Member. 17 素励起物理学研究室 坪田 誠 教授 竹内 宏光 講師 藤本 水野 山崎 臼井 和也(D2) 佑充子(M2) 宣紘(M2) 彩香(M1) 湯井 悟志(M1) 研究概要 KAZUYA FUJIMOTO AND MAKOTO TSUBOTA PHYSICAL REVIEW A 91, 053620 (2015) which is obtained from Eq. (15). Then, we assume isotropy for (a) t/τ = 0 (b) t/τ = 600 1. Bose-Einstein 凝縮体(BEC)におけるBogoliubov波乱 b(k) and use the approximation to derive Eq. (28), obtaining 流(坪田,藤本) 1 (46) ⟨|φ̄(k)| ⟩ ∝ ⟨|b(k)| ⟩. k 原子気体BECにおける量子乱流の研究を行って来てい As a result, in the low-wave-number region, the spectrum for the macroscopic wave function exhibits the power-law るが,今年度はBogoliubov励起が作る波乱流の数値的 behavior given by . (47) C (k) ∝ k C (k) ∝ k および解析的研究を行った.Gross-Pitaevskii方程式 In this derivation, we use the Fourier component F[ψ] = (c) t/τ = 1200 (d) t/τ = 2500 で記述される巨視的波動関数が,量子渦ではなく, ψ (δ(k) + φ̄(k)). For the density spectrum, the following expression for ψ is Bogoliubov励起だけを作る状況を考え(右図),波乱流 useful to derive the power exponent of C : ! y 理論の適用と数値解析により,波動関数のスペクトル ψ(r) = ρ + δρ(r) e # " δρ(r) に-7/2のべき則を見いだした.また密度分布のスペク ≃ ψ 1+ + iδθ (r) , (48) 2ρ √ トルを調べ,確かに低波数から高波数へのカスケード where ψ is written as ρ exp(iθ ), and δρ and δθ are the density and phase fluctuations, respectively, around it. Then, x ρ/ρ̄ 0.94 1.06 が起こり,-3/2のべき則が成り立つ事を見いだした. the fluctuations of the wave function and the density are obtained from FIG. 1. (Color online) Spatial distribution of the density このカスケードとべき則は実験で観測できる可能性 δρ(r) ρ(x,y,z = 128ξ ) at t/τ = (a) 0, (b) 600, (c) 1200, and (d) 2500. φ(r) = + iδθ (r), (49) The size of the figures is 256ξ × 256ξ . The smaller structures are 2ρ があり,その条件を検討した. nucleated in turn as time passes, providing evidence of the direct energy cascade. (50) δρ(r) = ρ (φ(r) + φ (r)), from which we can express the Fourier component of δρ with However, we address the turbulence without the vortices, so the canonical variable b. Performing a similar calculation for 2. 正方形管内超流動 4Heの熱対向流が作る非一様量子乱流(坪 that it is sufficient to use this resolution parameter. In this Eqs. (45)–(47), we can derive the power law in the spectrum situation, we numerically solve the GP equation by using the for the density distribution: 田,湯井) pseudospectral method. The time propagation is performed by . (51) C (k) ∝ kC (k) ∝ k using a fourth-order Runge-Kutta method with time resolution これまでの熱対向流の研究は,常流体流れの情報が無いた dt/τ = 5 × 10 . We consider that this power law is a candidate for an We use an initial state in which energy is injected in the experimentally observable quantity to confirm the presence め,それを一様と仮定して行われて来た.しかし,近年の large scale to confirm the direct energy cascade solutions of Kolmogorov turbulence. corresponding to Eqs. (44), (47), and (51). The initial state As shown in above, the power exponents of C and C are 可視化実験は,流速を上げると,常流体流れ場が,ポアズ is prepared by the random numbers as follows: related to C through the behavior of Bogoliubov coefficients √ of Eqs. (16) and (17) in the low-wave-number region. Thus イユ層流,tail-flattened層流を経て,乱流に至るという ψ(r) = ρ̄ (1 + φ(r)), (52) the difference of the power exponents reflects the property of the collective mode. 挙動を見いだした.この実験に動機づけられ,正方形管内 F[φ](k) = 3000(R + iR )k ξ exp(−k ξ /0.0016), (53) In the next section, by numerically calculating the GP equation, we discuss these power laws. で常流動がポアズイユ層流およびtail-flattened層流であ where R and R are the random numbers in the range [0.5, −0.5). Figure 1(a) shows the density distribution in the initial る場合の量子乱流の挙動を,量子渦糸モデルで調べた.常 IV. NUMERICAL RESULTS state and demonstrates that the energy is injected at the large scale. We now present our numerical results for Bogoliubov-wave 流動流れの非一様性を反映して,量子渦は非一様な構造を In our calculation, dissipation is phenomenologically inturbulence with the GP equation. One of the main results is in cluded by replacing i!∂/∂t with (i − γ θ (k − k̄ ))!∂/∂t good agreement with the power exponents of Eqs. (44), (47), とる(右図).これは量子乱流境界層と呼ぶべき構造を形成 in√ the Fourier transformed Eq. (1) [11,31]. Here, k̄ is and (51) derived by using weak WT theory. 2 mg ρ̄ /!, and γ is the strength of the dissipation. In our している.その詳細について調べた. calculation, we use γ = 0.03. We comment on the dissipation A. Numerical method region. In this paper, we focus on the low-wave-number region, adopting the dissipation working in the region larger than k̄ . Our numerical calculation treats a three-dimensional BEC without a trapping potential. Time There is arbitrariness in the choice of the expression for the √ and length are normalized by τ = !/g ρ̄ and ξ = !/ 2mg ρ̄ , and the numerical dissipation. However, in a previous paper [52], the dissipation 3. ラビ結合した2成分ボース・アインシュタイン凝縮体にお system size L × L × L is 256ξ × 256ξ × 256ξ with spatial was found to work in the high-wave-number region at low resolution dx/ξ = 1. Because of this resolution, the quantized temperature, so that we use this expression for the dissipation. ける対向超流動(竹内,臼井) vortex dynamics such as nucleation, reconnection, etc. cannot In summary, we prepare the unstable initial state for the be described correctly since its core size is the order of ξ . confirmation of the direct cascade, numerically calculating the 超微細構造の異なる2状態間遷移を引き起こすラビ結合 053620-6 下の2成分ボース・アインシュタイン凝縮体における対向 超流動の擬一次元系の安定解とその安定性相図を理論的 に明らかにした.一様な対向超流動は秩序変数の2成分間 の相対位相の勾配が空間的に一定である.一方,ラビ結合 はある特定に相対位相をエネルギー的に好む.そのため, 2 2 −1 w −7/2 b 0 d i(θ0 +δθ(r)) 0 0 0 0 0 0 0 0 ∗ 0 d b −3/2 −3 w d b 0 1 1 2 4 4 2 2 2 H b b 0 b 0 0 18 𝛹0 1 − 𝛹1 1 両者が競合することによってラビ結合した対向超流動状態では,相対速度と異成分間相互 作用,ラビ振動数に依存して特徴的なパターン形成が起こり,相対速度が局在した密度の 溝が周期的に形成される(右図).ラビ結合の影響が十分小さいときにはこの構造は楕円 関数で定量的に特徴付けられることを変分計算により示した.また,このソリトン構造の 安定性相図は有限サイズ効果として密度の溝の幅を考慮した対向超流動の線形安定性解 析を使ってうまく説明できることを明らかにした. 4. 相分離する2成分ボース・アインシュタイン凝縮体におけるパーコレーション転移(竹内, 水野) 擬2次元系における2成分ボース・アインシュタイン凝縮体が一様に混ざった状態から動的 不安定性によって引き起こされる初期相分離パターンに,パーコレーション理論が適用さ れることを示した.2成分の粒子数比をパラメーターとして変化させて,片方の成分の最 大面積をもつドメインの統計的性質をGross-Pitaevskii方程式を数値的に解くことによ り調べた.その結果,2成分の粒子数が等しくなったときにパーコレーション転移が起こ り,相分離パターン[右図(a)]における最 (a) 1 (b) 大ドメインは右図(b)のようなフラクタル 構造を持つ.2次元パーコレーション理論に 従って有限サイズスケーリング解析を施す ことで,この系でパーコレーション転移が 𝑦 -‐1 起こっている事を数値的に確認した. 𝑥 51.2𝜉 204.8𝜉 教育・研究業績 <学術論文> (査読あり) 1. Satoshi Yui and Makoto Tsubota Counterflow quantum turbulence of He II in a square channel: Numerical analysis with nonuniform flows of the normal fluid Phys. Rev. B 91, 184504 (2015); arXiv:1502.06683. 2. Kazuya Fujimoto and Makoto Tsubota Bogoliubov wave turbulence in Bose-Einstein condensates Phys. Rev. A 91, 053620 (2015); arXiv:1502.03274. 3. Ayaka Usui and Hiromitsu Takeuchi Rabi-coupled Countersuperflow in Binary Bose-Einstein Condensates Physical Review A 91 063635 (2015) 1-8; arXiv:1503.04010 4. E. Zemma, M. Tsubota and J. Luzuriaga Possible visualization of a superfluid vortex loop attached to an oscillating beam J. Low Temp. Phys. 179, 310 (2015); arXiv:1501.06776. 5. Satoshi Yui and Makoto Tsubota Counterflow quantum turbulence in a square channel under the normal fluid with a Poiseuille flow J. Phys.: Conf. Ser. 568, 012028 (2014); arXiv:1407.1565. (査読なし) 6. Ayaka Usui and Hiromitsu Takeuchi Stability of a Soliton in Counter-propagating Two-component Bose-Einstein Condensates with Rabi Coupling Conference Paper, Frontiers in Optics 2014, Tucson, Arizona United States ISBN: 1-55752-286-3 (http://dx.doi.org/10.1364/FIO.2014.JTu3A.18) 19 7. Yumiko Mizuno, Kentaro Dehara, and Hiromitsu Takeuchi Percolation in Segregated Binary Bose-Einstein Condensates Conference Paper, Frontiers in Optics 2014, Tucson, Arizona United States ISBN: 1-55752-286-3 (http://dx.doi.org/10.1364/FIO.2014.JTu3A.16) <学術講演> (国際会議) 1. M. Tsubota, S. Yui Inhomogeneous Quantum Turbulence SFS2015: International Symposium on Fluctuation and Structure out of Equilibrium, Inamori Hall, Shiran-Kaikan, Kyoto University, Kyoto, Japan, August 20-23. 2015. 2. H. Takeuchi Dynamic Finite-size-scaling Analysis and a Relic Domain Wall in Segregating Binary Bose-Einstein Condensates SFS2015: International Symposium on Fluctuation and Structure out of Equilibrium, Inamori Hall, Shiran-Kaikan, Kyoto University, Kyoto, Japan, August 20-23. 2015. 3. M. Tsubota, K. Fujimoto and S. Yui (Plenary) Inhomogeneous Quantum Turbulence in Thermal Counterflow QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 4. S. Ikawa and M. Tsubota Quantum turbulence in coflow of superfluid 4He QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 5. K. Fujimoto and M. Tsubota Bogoliubov wave turbulence in atomic Bose-Einstein condensates QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 6. H. Takeuchi and S. Kobayashi Topological Defect Formation due to Projected Symmetry Breaking in Dipole locked 3He-B QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 7. H. Takeuchi, Y. Mizuno, and K. Dehara Phase Ordering Percolation in Segregating Binary Bose-Einstein Condensates QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 8. A. Usui and H. Takeuchi Stability of Countersuperflow in Binary Bose-Einstein condensates under Rabi coupling QFS2015: International Conference on Quantum Fluids and Solids, Conference Event Center, Niagara Falls, NY USA, August 9-15. 2015. 9. Makoto Tsubota (Invited) Quantum hydrodynamics and turbulence in atomic Bose-Einstein condensates Hybrid Photonics and Materials 2015 Conference, Nomikos Center, Santorini, Greece, May 27-31 2015. 10. Makoto Tsubota (Invited) Quantum Hydrodynamics and Turbulence in Atomic Bose-Einstein Condensates 4th International Conference on Current Developments in Atomic, Molecular, Optical and Nano Physics with Applications, Delhi, India, March 11-14 2015. 11. Makoto Tsubota (Invited) Quantum hydrodynamics and turbulence in atomic Bose-Einstein condensates Quo vadis BEC, Bad Honnef, Germany, December 16-20 2014. 12. Hiromitsu Takeuchi and Shingo Kobayashi Projected Symmetry Breaking in Superfluid 3He-B 20 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. International conference on topological quantum phenomena, Kyoto, Japan, December 16-20 2014. Yumiko Mizuno , Dehara, Kentaro, and Hiromitsu Takeuchi Percolation in Segregated Binary Bose-Einstein Condensates International conference on topological quantum phenomena, Kyoto, Japan, December 16-20 2014. Ayaka Usui and Hiromitsu Takeuchi Stability of a Soliton in Counter-propagating Two-component Bose-Einstein Condensates with Rabi Coupling International conference on topological quantum phenomena, Kyoto, Japan, December 16-20 2014. Makoto Tsubota (Invited) Numerical simulation of thermal counterflow Workshop on New Perspectives in Quantum Turbulence: experimental visualization and numerical simulatio, Nagoya, Japan, December 11-12 2014. Makoto Tsubota (Invited) Quantum Hydrodynamics and Turbulence in Atomic Bose-Einstein Condensates Laser Science 2014, Tucson, America, October 19-23 2014. Kazuya Fujimoto and Makoto Tsubota Distribution of spin vortices in turbulence of spin-1 ferromagnetic spinor Bose-Einstein condensate Laser Science 2014, Tucson, America, October 19-23 2014. Yumiko Mizuno , Dehara, Kentaro, and Hiromitsu Takeuchi Percolation in Segregated Binary Bose-Einstein Condensates Laser Science 2014, Tucson, America, October 19-23 2014. Ayaka Usui and Hiromitsu Takeuchi Stability of a Soliton in Counter-propagating Two-component Bose-Einstein Condensates with Rabi Coupling Laser Science 2014, Tucson, America, October 19-23 2014. (国内会議) 1. 湯井悟志,坪田誠 熱対向流における非一様量子乱流 日本物理学会,第70回年次大会,早稲田大学,2015.3.21-24 2. 藤本和也,坪田誠 原子気体Bose-Einstein凝縮体におけるBogoliubov波乱流 日本物理学会,第70回年次大会,早稲田大学,2015.3.21-24 3. 竹内宏光,小林伸吾 超流動3He-Bの界面対消滅と射影低次元空間における自発的対称性の破れ 日本物理学会,2015年年次大会,早稲田大学,2015.3.21-24. 4. 坪田誠 原子気体BECにおける非線形・非平衡現象 「揺らぎと構造の協奏」冷却原子研究会,学習院大学,2014.11.3 5. 藤本和也,坪田誠 強磁性スピノールBECの乱流における相関関数の振る舞い 「揺らぎと構造の協奏」冷却原子研究会,学習院大学,2014.11.3 6. 坪田誠 (Invited) はじめに(趣旨説明) 日本物理学会,2014年秋季大会,中部大学,2014.9.7-10 7. 藤本和也,坪田誠 スピン1強磁性スピノールBose-Einstein凝縮体で実現するスピン-超流動乱流における 21 エネルギースペクトル 日本物理学会,2014年秋季大会,中部大学,2014.9.7-10 8. 水野佑充子,出原健太郎,竹内宏光 相分離する2成分Bose-Einstein凝縮体におけるパターン形成のダイナミクスとその統 計的性質 その2 日本物理学会,2014年秋季大会,中部大学,2014.9.7-10. 9. 臼井彩香,竹内宏光 ラビ結合した擬一次元2成分ボース・アインシュタイン凝縮体の対向超流動における ソリトンの安定性 日本物理学会,2014年秋季大会,中部大学,2014.9.7-10. (研究会,セミナー) 1. 坪田誠 (Invited) GP方程式に基づく量子流体力学の物理 非線型現象のモデルに潜む未踏査数理構造の探究 – 基礎数理と応用の協働,京都大 学数理解析研究所,2015.7.28 2. Hiromitsu Takeuchi (Invited) Defect-survival problem in phase-separating binary superfluids Seminar Room K202, Main Building, Yukawa Institute, Kyoto Univ. 2015. 6. 17. 3. 坪田誠 (Invited) 量子乱流 流体力学セミナー,名古屋大学,2015.6.8 4. Makoto Tsubota (Invited) Spin turbulence in spinor Bose-Einstein condensates Seminar, Okinawa Institude of Science and Technology, 2015.2.19. 5. Makoto Tsubota (Invited) Quantum hydrodynamics and turbulence Lecture, Okinawa Institude of Science and Technology, 2015.2.18-20. 6. 竹内宏光 (Invited) 超流体における界面対消滅と射影された自発的対称性の破れ 北海道大学,数理物理工学研究室セミナー, 2015. 2. 18. 7. 坪田誠 (Invited) 乱流とは何か? ー古典乱流から量子乱流へー 量子渦と非線形波動, 東京理科大学, 2015.1.26. 8. 坪田誠 (Invited) 量子乱流 量子物理学・ナノサイエンス第113回セミナー, 東京工業大学, 2015.1.19. 9. 坪田誠 (Invited) 量子乱流2 研究会「乱流とQCD・重力」, 大阪大学, 2015.1.7. 10. 坪田誠 (Invited) 量子乱流1 研究会「乱流とQCD・重力」, 大阪大学, 2015.1.7. <学位論文> (修士論文) 1. 水野佑充子:「2成分Bose-Einstein 凝縮体の相分離過程におけるパーコレーション」 22 2. 山崎宣紘:「超流動4He での量子渦のダイナミクス及び量子渦と固体微粒子の相互作用の数値 解析的研究」 <研究助成金取得状況> 1. 坪田誠 科研費基盤研究(C) 「量子乱流の理論的および数値的研究:乱流遷移の解明と秩序変数の同定」 ¥1,900,000 2. 坪田誠 新学術領域研究(研究領域提案型) 「ゆらぎと構造の協奏」から見た量子乱流」 ¥1,300,000 3. 竹内宏光 若手研究(B) 「多成分超流体における新奇な秩序化現象とその相転移動力学の確立」 ¥1,400,000 4. 藤本和也 日本学術振興会特別研究員奨励費 「スピノール・ボース・アインシュタイン凝縮体におけるスピン乱流の理論的研究」 ¥1,000,000 <高大連携・地域貢献> 1. 竹内宏光 高津高校進路講演会(模擬講義) (2014年10月9日,高津高等学校) 「超低温の世界で起こる不思議な自然現象:超伝導と自発的対称性の破れ」 23 電子相関物理学研究室 小栗 章 西川 裕規 教授 講師 小池 章高 (M1) 寺谷 義道 (M1) 中田 幸宏 (M1) 勝本啓質 (B4) 城谷 将矢 (B4) 松本 龍太 (B4) 研究概要 本研究室では、固体中の強相関電子系の多彩な量子状態、および相転移に関する理論研究を行っ ている。主として、最近グラフェンやナノチューブなどのカーボン系や、単一分子レベルのエレ クトロニクスとも関連する広がりを見せている、量子ドットやナノ物質系の磁性や電気伝導に与 える電子相関の効果に関する理論研究を、場の量子論と数値・計算物理学的な方法を駆使し進め ている。特に、多重量子ドットや複数の軌道を持つ量子不純物系の量子相転移・近藤効果と非平 衡量子輸送現象、および超伝導体と接続された量子ドット系におけるクーパー対と磁性の競合の 詳細について調べている。特に、2014 年度から大阪大学理学研究科小林研介教授代表の科研費基 盤 (S) の研究に参加し、小林グループによるカーボンナノチューブ量子ドットの実験と我々を含む 理論グループによる近藤効果と非平衡電流ゆらぎに関する総合的な共同研究を開始した。 研究の概要は次の通りである:(1) 量子ドット系の低エネルギー状態の性質、および非平衡定常 状態におけるショットノイズに関する有効理論の定式化。 (2) 多軌道不純物 Anderson 模型の高バ イアス極限における Green 関数の厳密解の導出と NCA 法による高エネルギー領域のスペクトル 関数との詳細な比較。(3) 超伝導体と接合された量子ドット系における Andreev・Josephson・近 藤効果の競合と量子相転移関する数値的研究。(4) Hund 結合のある量子不純物における量子相転 移、多体相関によるくりこみの効果。これらに関する研究を重点的に進めた。以下に、それぞれ についての研究についてより詳細を記す。 1. 電子相関の解明には、問題を取り扱う理論・定式化の発展も欠くことができない。我々は、 軌道縮退のある量子不純物・量子ドットを記述する代表的なモデルである SU(N ) 対称性を 持つ Anderson 模型に関して、1/(N − 1) 展開という方法を数年前に定式化した。ここで、 N は軌道縮退数である。量子不純物系では従来 N が大きな場合からの解析的なアプローチ として、Non-Crossing Approximation(NCA) などが用いられてきたが、それらは全て不純 物電子と伝導電子との混成項 v の摂動展開に基づくものであった。これに対し我々の展開 法は電子間斥力 U の摂動展開に基づいている。1/(N − 1) のゼロ次は Hartree-Fock 近似、 1/(N − 1) の 1 次で Random Phase Approximation、1/(N − 1) の 2 次からスピンや電荷の 量子揺らぎによる電子相関効果が系統的に記述される。我々は、これまで 1/(N − 1) の 2 次 までの計算を行い数値くりこみ群 (NRG) なども併用し、低エネルギーの振る舞いを調べて、 この方法の有効性を示してきた。当初の計算は主として、Fermi 準位近くの低エネルギーの 性質を中心に調べたが、現在は振動数 ω の有限な領域における振る舞いを含めた、より広い エネルギー範囲を視野にいれた拡張を進めている。特に、新たに完全基底系と self-energy の 直接計算を通したスペクトル関数の NRG 計算のコードを作成し、1/(N − 1) 展開との詳細 な比較を行っている。 2. 相互作用する電子系の低エネルギーの性質には、Fermi 流体や Tomonaga-Luttinger 流体、 あるいは Majorana 励起などを含む量子多体系の基底状態の構造から決定される普遍的な構 造を通し理解されてきている。これらの振る舞いがエネルギーの上昇に伴いどのように変化 するかも重要な問題であり、主として数値的に調べられてきている。そのため、逆の極限で ある高エネルギー領域の知見も全エネルギ―領域における電子系の物理を知る上で必要にな る。我々は、内部自由度がスピンのみの場合 (N = 2) に、相互作用のある Anderson 模型の 非平衡 Green 関数が高バイアスの極限における厳密に求ていた。熱場の理論の拡張された Hilbert 空間に対応する、Liouville-Fock 空間で定義された非エルミート有効ハミルトニアン 24 を導出した。その結果、従来の Hubbard I と呼ばれる原子極限からの展開法が、高バイアス 極限において 3 段階の連立運動方程式で厳密に閉じ、相互作用する電子系のダンピング効果 が解析解により議論できるようになった。我々は、一般の内部自由度数 N の場合への拡張 も行い、高バイアス極限の厳密な Green 関数は、N 段の連分数として簡明に表されること を示した。この結果は、NCA 法と相補的に高エネルギー領域のスペクトル関数の振る舞い を記述している。 3. 超伝導体との接合系に関する研究では、特に、2 本の超伝導リードと1本の常伝導リードか らなる 3 端子に接続された単一量子ドット、および 3 角形 3 重量子ドットに関する研究を 行っている。 我々は、低エネルギー状態が相互作用する Bogoliubov 粒子系の局所 Fermi 流 体として記述されることを示し、さらに数値くりこみ群を用いた計算に基づいて Josephson 位相、Andreev 散乱、および近藤効果が競演に関する研究を行っている。この系における多 様な基底状態の分類を、波動関数と数値くりこみ群の固定点の詳細な比較を通し、系統的に 行っている。さらに、伝導電子によるする局所モーメントの完全遮蔽と不完全遮蔽の量子相 転移に関する相図を広いパラメータ空間において調べている。特に、3 角形 3 重量子ドット で可能になる高スピン長岡状態に対する、常伝導リードの伝導電子による近藤スクリーニン グが、位相差が π の Josephson 接合ではどのように起こるか、研究を進めている。 4. 2 つの伝導電子系と接続された 2 重量子ドットにおいて、2 重量子ドットの電子占有率が 1/4 の場合を重点的に研究した。この系では、電子スピン自由度(= 2)と 2 重量子ドットの軌 道自由度(= 2)の 4 つの自由度が関係する近藤効果が期待できる。我々はこの系の低エネ ルギー有効モデルを通して低エネルギー状態での SU(4) 対称性の出現の有無を考察した。そ の結果、もとの系に SU(4) の対称性がない場合は、短距離電子間斥力の大きさが伝導電子バ ンド幅より大きい場合に限って SU(4) の対称性が低エネルギーに於いて漸近的に出現する事 が分かった。またこの系に磁場と軌道分裂を加えた系も考察し、スピン自由度と軌道自由度 の近藤効果へ寄与を考察した。さらに 2 重量子ドットを通した電気伝導度も計算し、最近の 実験でみられた電気伝導度の特徴的振舞が SU(4) の対称性の出現の有無にかかわらず定性的 に説明できる事を示した。その他、4重量子ドット上の磁性的性質(リーブ強磁性と長岡強 磁性)と近藤効果が競合する系の興味あるパラメータ領域を考察した。 教育・研究業績 学術論文 1. A. Oguri, and Rui Sakano, “Exact Green’s function for a multi-orbital Anderson impurity at high bias voltages”, Phys. Rev. B 91, 115429 (2015) 14 pages. 2. A. Oguri, Izumi Sato, Masashi Shimamoto, and Yoichi Tanaka, “Ground-state properties of a triangular triple quantum dot connected to superconducting leads”, J. Phys.: Conference Series 592, 012143 (2015) 6 pages. 3. A. C. Hewson, D. J. G. Crow, Y. Nishikawa, “Universality and Convergence of Energy Scales at Quantum Critical Points in Local and Lattice Models”, Quantum Criticality in Condensed Matter (ISBN 978-981-4704-08-3), chapter 4 (22 pages). 国際会議講演 1. A. Oguri and Rui Sakano, “1/(N − 1) expansion, NRG, NCA, and exact T → ∞ limit for the Green’s function of an SU(N ) Anderson impurity”, American Physical Society March Meeting (March 2015, San Antonio, USA). 25 2. A. Oguri, Miyuki Awane, and Rui Sakano, “Green’s function for an SU(N ) Anderson impurity: a comprehensive study with 1/(N − 1) expansion, NRG, NCA, and exact hightemperature limit”, Workshop on Recent Developments in the Kondo Problem (January 2015, Kashiwa, Chiba). 3. A. Oguri, Izumi Sato, Masashi Shimamoto, and Yoichi Tanaka, “Ground-state properties of a triangular triple quantum dot connected to superconducting leads”, International Conference on Strongly Correlated Electron Systems (July 2014, Grenoble, France). 4. D. J. G. Crow, Y. Nishikawa, A. C. Hewson, “Signatures of Quantum Criticality in tunnelcoupled Double Quantum Dots”, Quantum Critical Matter from Atoms to Bulk (August 18–23, 2014, Austria). 学会・研究会講演 1. 小栗章, 阪野塁, 吉井涼輔, Meydi Ferrier, 荒川智紀, 秦徳郎, 藤原亮, 小林研介, 「多軌道量 子ドットの近藤効果における軌道分裂の効果」, 日本物理学会 (2015.3. 21–24 早稲田大学) 2. 荒川智紀, 秦徳郎, 藤原亮, Meydi Ferrier, 小林研介, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「ショット雑音を用いたカーボンナノチューブ量子ドットにおける近藤効果 の研究」, 日本物理学会 (2015.3.21–24 早稲田大学) 3. 吉井涼輔, 藤原亮, 荒川智紀, 秦徳郎, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「カーボンナノチューブ量子ドットにおけるショットノイズの 理論解析」, 日本物理学会 (2015.3.21–24 早稲田大学) 4. 藤原亮, 秦徳郎, 吉井涼輔, 荒川智紀, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「カーボンナノチューブ量子ドットにおけるショットノイズ測 定」, 日本物理学会 (2015.3.21–24 早稲田大学) 5. 秦徳郎, 藤原亮, 荒川智紀, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「近藤効果・超伝導競合系におけるショット雑音:SU(2) および SU(4) 状 態」, 日本物理学会 (2015.3.21–24 早稲田大学) 6. Meydi Ferrier, 秦徳郎, 藤原亮, 荒川智紀, 小林研介, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「近藤効果・超伝導競合系におけるショット雑音:スペクトロスコピーおよ び 0-πトランジション領域」, 日本物理学会 (2015.3.21–24 早稲田大学) 7. 小栗章, 阪野塁, 「軌道縮退 Andeson 模型の Green 関数:1/(N-1) 展開,NRG, NCA,高温 極限厳密解による解析」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 8. 阪野塁, 小栗章, Meydi Ferrier, 荒川智紀, 秦徳郎, 藤原亮, 小林研介, 「近藤ドットの線形電 流ノイズと電流の普遍性」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 9. 秦徳郎, 荒川智紀, 藤原亮, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「カーボンナノチューブ量子ドット系における SU(2) および SU(4) 近藤効 果の観測」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 10. Meydi Ferrier, 荒川智紀, 秦徳郎, 藤原亮, 荒川智紀, 小林研介, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「SU(2) および SU(4) 近藤効果のスケーリングに関する実験 的研究」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 11. 荒川智紀, 秦徳郎, 藤原亮, 荒川智紀, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「SU(2) および SU(4) 近藤状態における非平衡電流ゆらぎ」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 12. 藤原亮, 荒川智紀, 秦徳郎, 小林研介, Meydi Ferrier, R. Delagrange, R. Deblock, H. Bouchiat, 阪野塁, 小栗章, 「カーボンナノチューブ量子ドット系における近藤効果のショットノイズ測 定」, 日本物理学会 (2014.9. 7–10 中部大学) 26 学位論文 研究助成金取得状況 1. 小栗章 (代表):学術振興会・基盤研究 (C) 「メゾ・ナノスケール系における量子干渉と電子 間相互作用の競合に関する理論的研究」100 万円 2. 小栗章 (分担):学術振興会・基盤研究 (S) 「メゾスコピック系における非平衡スピン輸送の 微視的理解とその制御」90 万円 海外出張および海外研修 1. 西川 裕規:英国インペリアル・カレッジ・ロンドン、2015 年 2 月 1 日 ∼ 2015 年 2 月 28 日、 研究打ち合わせ 2. 小栗 章:アメリカ合衆国、2015 年 2 月 28 日∼2015 年 3 月 8 日、APS March meeting (San Antonio) 出席・発表 3. 小栗 章:フランス、2014 年 7 月 5 日∼2014 年 7 月 13 日、International Conference on Strongly Correlated Electron Systems (Grenoble) 出席・発表 その他 27 宇宙線物理学研究室 林嘉夫 荻尾彰一 榊 直人 小島浩司 教授 准教授 特任助教 客員教授 山﨑勝也(D3) 小西翔吾(M1) 西本義樹(M1) 和知慎吾(M1) 大野木瞭太(B4) 岸上翔一(B4) 高橋優一(B4) 研究概要 1. インド・ウーティにおける空気シャワーアレイを用いた宇宙線・ガンマ線観測(林、岸上 小島) 本研究室とインド・タタ基礎研究所による日印国際共同実験『GRAPES-3空気シャワー 実験』は2000年3月から現在まで安定した観測を行っている。本実験は10 TeV以上の宇宙 線・ガンマ線観測による超高エネルギー天体現象の解明を目的として、一次宇宙線の化学 組成解析やガンマ線源探索等をおこなっている。2014年度は前年度に導入した新TDC module を使って本格的にデータ収集を行っている。空気シャワーの到来方向の決定精度 を向上させるため、シンチレーション検出器から TDC までの信号遅延時間を RTTCS と Paddle と呼ばれる観測系で測定し、精度を向上した。 また、本年度は林が主として現地で比例計数管の製作に従事した。10cm×10cm×6mの比例計 数管を合計約400本製作した。これはミューオン検出器(面積35m2)1基半強に相当する。これ らの計数管に仮設の回路系を取り付け、長期安定性等のテスト運用を行い、比例計数管の各 種テストを行った。また、超大型ミューオン望遠鏡による宇宙線強度の変動の観測、空気シ ャワー観測装置による空気シャワーの観測を行い、それぞれのデータを日本に送って予備解 析を行った。 2. インド・ウーティーにおける大面積ミューオン検出器を用いた宇宙線観測(小島、林) 2014年9月1日から9月14日まで小島ほか4名でインド・ムンバイのインド国立タタ基礎科学 研究所(TIFR)へ出張しTIFRのグプタ教授らと将来計画の検討と論文作成の作業を実施した。 GRAPES-3の観測データには、大別して(1)空気シャワーアレイとミューオン望遠鏡の連動観測 と、(2)ミューオン望遠鏡単独の観測がある。今年度は、これまでに開発された解析手法を研 究グループ全体で共有するため、インドにて10日間の合宿を行い、解析手法の詳細に関して レビューと議論を行った。本年度の活動としてまず始めに、宇宙線の黄道面に垂直なスイン ソン流に関する解析の詳細と、そこから導かれる太陽系動径方向密度勾配に関する議論をま とめ、論文として公表した。また引き続き、太陽風と宇宙線の相互作用に関する議論をまと め、論文を作成し、現在投稿中である。 3. テレスコープアレイ実験における最高エネルギー宇宙線の観測とデータ解析(山﨑、和知、 荻尾) 有効検出面積約700 km2の北半球最大の宇宙線観測装置を用いて最高エネルギー宇宙 線を観測する国際共同研究『テレスコープアレイ実験』(日本、米国、韓国、ロシア、ベ ルギーの26研究機関、約130名研究者が参加)に本研究室は実験装置の設計・開発から現 在まで研究グループの主力として本実験に参加している。観測装置は米国ユタ州に建設さ れ、2008年3月から定常観測を継続している。2014年度には、5.7×1019電子ボルト以上の 最高エネルギー宇宙線が過剰に飛来する「ホットスポット」の兆候を初めて北半球の空で とらえ、結果を公表した。加えて同年度は、装置の運用、観測実施に参加しつつ、主とし て以下の研究に取り組んだ。 ① 大気蛍光望遠鏡単眼解析による極高エネルギーガンマ線の探索 28 ② ③ 可搬UVレーザーを用いた大気蛍光望遠鏡の較正 中心レーザー施設から定期的に発射されるUVレーザー光の側方散乱光の観測による 実験場内の大気状態の推定 4. テレスコープアレイ実験の低エネルギー拡張計画(TALE計画)のため検出器の開発(小西、 高橋、西本、大野木、荻尾) テレスコープアレイ実験の観測装置に隣接して、より低エネルギー(1016eV-1018eV) の宇宙線に感度を持つ空気シャワーアレイを展開する計画である。この計画の準備とし て、以下の研究に取り組んだ。 ① 2004年まで山梨県で稼働していた「明野超大空気シャワーアレイ(AGASA)」の地表 検出器をTALE実験で再利用することを目指して、この検出器で使われていたプラス チックシンチレーターの特性測定用ベンチを開発した。 ② 上記AGASA検出器の性能評価のためのシミュレーションのプログラムを開発し、集光 のための魚眼レンズを設計した。 ③ TALE実験用検出器のための制御エレクトロニクスの開発に取り組んだ。 5. 大気中の荷電粒子カスケードシャワーからの分子制動放射の特性測定(荻尾) 全く新しいシャワー観測法の基礎研究を、甲南大学と共同で2009年から継続している。 その観測法とは、シャワー中の電子成分粒子からの分子制動放射を、特に4GHzマイクロ波 帯(Cバンド、Kuバンド)で検出する方法である。これまでの観測結果をまとめ、公表す るためのデータ解析を行った。 6. 宇宙からの最高エネルギー宇宙線観測計画 JEM-EUSO のための準備研究(榊) 最高エネルギー宇宙線による空気シャワーが発する紫外線蛍光を国際宇宙ステーシ ョン(ISS)上の超広角望遠鏡で観測することで観測イベントを大幅に増やし、宇宙線の起 源について研究する JEM-EUSO 計画の準備研究を 16 カ国の国際共同研究で進めている。現 在行われているテレスコープアレイ実験サイトでのプロトタイプ望遠鏡による試験観測 等を経て、ISS 上の最初の宇宙線観測望遠鏡 K-EUSO を実現し、さらに規模を大きくした JEM-EUSO へと発展させる予定である。2014 年度は、K-EUSO 用の光学系シミュレーション プログラムを開発し、K-EUSO の宇宙線観測性能を評価した。 教育・研究業績 著書 なし 学術論文 1. “Indications of intermediate scale anisotropy of cosmic ays with energy greater than 57 E eV in the northern sky measured with the surface detector of the telescope array experim ent”, R. U. Abbasi et al., Ap. J., 790, L21(2014) 2. “Searches for large-scale anisotropy in the arrival directions of cosmic rays detected abov e energy of 1019 eV at the pierre auger observatory and the telescope array”, A. Aab et al., Ap. J., 794, 172(2014) 3. “Gain monitoring of telescope array photomultiplier cameras for the first 4 years of opera tion”, B. K. Shin et al., NIM A, 768, 96(2014) 国際会議会議録 なし 29 国際会議講演 なし 学会・研究会講演 1. 山﨑勝也:「TA実験254:大気蛍光望遠鏡と地表検出器での同時観測事象を用いた高エ ネルギーガンマ線探索」, 日本物理学会, 2014年秋季大会, 佐賀大学 2. 小島浩司: 「宇宙線強度と太陽活動パラメータの相関分析」,日本物理学会, 2014 年秋季大 会, 佐賀大学 3. 荻尾彰一: 「TA実験 256: TALE実験大気蛍光望遠鏡による 1018eV領域宇宙線の観測」, 日本 物理学会, 2014 年秋季大会, 佐賀大学 4. 山﨑勝也:「TA実験258:ハイブリッド事象を用いた極高エネルギーガンマ線事象の探 索」, 日本物理学会, 第70回年次大会, 早稲田大学 5. 小西翔吾:「TA実験264:TALE実験地表検出器アレイのためのエレクトロニクスと検出 器の開発」, 日本物理学会, 第70回年次大会, 早稲田大学 6. 小島浩司: 「GRAPES-3 ミューオン望遠鏡と中性子モニターの観測で得られた宇宙線強度変動 の剛度依存性」, 日本物理学会, 第 70 回年次大会, 早稲田大学 7. その他 1. 林嘉夫:全国同時七夕講演会 2014年7月19日(大阪市立科学館) 2. 荻尾彰一:「オープンキャンパス」 2014年8月9、10日 大阪市立大学にて体験授業 3. 荻尾彰一:「市大理科セミナー」 2014年8月26日 大阪市立大学にて講義 4. 荻尾彰一:大阪市立大学文化交流センター専門家講座 2015年2月24日 学位論文 修士論文 なし 博士論文 山﨑勝也「Search for Ultra High Energy Photons with the Hybrid Detector of the Telescope Array Experiment」 研究助成金取得状況 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 荻尾彰一:学術振興会・基盤研究(B)(分担)「電波望遠鏡による最高エネルギー検出」 40万円 荻尾彰一:学術振興会・基盤研究(A)(分担)「極高エネルギー宇宙線用地表検出器の評 価と多機能化に関する研究」45万円 荻尾彰一:東京大学宇宙線研究所共同利用研究費「LE実験用地表検出器の開発と性能試 験」20万円 山﨑勝也:日本学術振興会特別研究員DC2 小島浩司:名古屋大学太陽地球環境研究所大型観測研究助成 52万円 小島浩司:名古屋大学太陽地球環境研究所一般研究助成 9万円 小島浩司:東京大学宇宙線研究所共同利用研究費 41万円 海外出張および海外研修 1. 2. 山﨑勝也:米国ユタ大学・Telescope Array実験サイト(ユタ州デルタ市)、2014年4月17日〜 2014年5月11日、Telescope Array実験施設にて宇宙線観測 山﨑勝也:米国ユタ大学(ユタ州ソルトレイクシティ)、2014年6月14日〜2014年6月21日、 30 3. 4. 5. 6. 7. Telescope Array実験共同研究者会議に参加、講演 小島浩司:インドタタ基礎研究所(Ooty) 2014年9月1日~2014年9月14日、高密度空気 シャワーアレイを用いた超高エネルギー宇宙線の研究に従事 林嘉夫:インドタタ基礎研究所(Ooty) 2014年9月6日~2014年9月30日、高密度空気シ ャワーアレイを用いた超高エネルギー宇宙線の研究に従事 小西翔吾:米国ユタ大学・Telescope Array実験サイト(ユタ州デルタ市)、2014年12月30日 〜2015年2月14日、Telescope Array実験施設にて宇宙線観測 和知慎吾:米国ユタ大学・Telescope Array実験サイト(ユタ州デルタ市)、2015年2月5日〜 2015年3月20日、Telescope Array実験施設にて宇宙線観測 西本義樹:米国ユタ大学・Telescope Array実験サイト(ユタ州デルタ市)、2015年3月8日〜 2015年3月30日、Telescope Array実験施設にて宇宙線観測 その他 なし 31 高エネルギー物理学研究室 清矢 良浩 教 授 山本 和弘 准教授 清水 若松 金 竹崎 手島 宏祐 慶樹 賢一 優斗 菜月 (M2) (M2) (M1) (M1) (M1) 小林 一帆 (B4) 原田 潤 (B4) 古谷 優子 (B4) 研究概要 1. 陽子・反陽子衝突型加速器を用いた素粒子実験(清矢,山本) 米国フェルミ国立加速器研究所の陽子・反陽子衝突型加速器テバトロンと汎用型素粒子検出器 CDFを用いた実験のデータ解析を,昨年度に引き続き遂行した.データ取得自身は2011年9月末に 終了しており,解析に使用できるデータ量は最終的に10fb−1である.今年度の主な結果の一つとし ては,CERNの大型ハドロン衝突型加速器LHCを用いた実験によって2012年に発見された,ヒッグ ス粒子らしき新粒子のスピンとパリティの測定に関連する研究が挙げられる.この新粒子につい てCDF実験では,データ量の限界のためにその存在を確立するまでには至っていないが 3σ の統 計的優位度で存在の証拠は確認している.この新粒子の詳しい性質はまだ明らかではなく,素粒 子標準模型が予言するヒッグス粒子なのかどうか解明中である.その重要なステップの一つに, スピンとパリティの測定がある.標準模型のヒッグス粒子のスピン・パリティー 𝐽𝑃 は 0+ であ る.このような背景のもと,CDFでは新粒子が,期待されるスピン・パリティーとは異なり, 2+ と 0− である可能性があるのか,を探った.LHCにおける実験でも, 2+ と 0− の可能性を既に吟 味しており,95%を超える十分な信頼水準で排除している.CDFにおいて同様な解析を行う意義 は,CDFで捉えている粒子とLHCで発見された粒子が同じものとは限らない点や,LHCの解析で は新粒子が弱い相互作用の媒介粒子へ崩壊する反応を用いているのに対してCDFの解析ではフェ ルミ粒子への崩壊に着目している点である.ヒッグス粒子がゲージ粒子やフェルミ粒子と相互作 用する強さ等には違いがあるため,多面的に整合性を確認することは重要である.解析方法とし ては,スピン・パリティーに依存して,ある運動学的な観測量の分布に違いが生じることを利用 する.その分布を用いて,データと仮定が符号するか否かを判断する尤度を構成する.図1は,CDF 実験と,テバトロン加速器を用いたもう一つの実験グループD0の解析を統合した結果である.横 軸は,得られた観測量の分布が標準模型に近いのか仮定された 2+ あるいは 0− に近いのかを示 図 1: 標準模型が予言するスピン・パリティー 0+ (青線)と,0− あるいは 2+ を仮定した場 合(赤線)に得られる尤度に基づいた抽象的な統計量の分布.1 回の実験で 1 つの値が得られ る.縦軸は仮想的な実験回数であり,示されている分布は多数回実験した場合に予想される 分布.縦の黒い線は今回の 1 回の実験で得られた値を示している. 32 す抽象的な統計量であり,1回の実験に対して1つ値が得られる.そして標準模型に近い場合はそ れ以外の場合より大きな値をもつように定義されている.縦軸は,仮想的な実験回数であり,プ ロットされている分布は,我々が理解している統計・系統誤差を考慮し,多数回実験を繰り返し た場合に期待されるものになっている.縦の黒線は,実際のデータから得られた値が,横軸上で どの位置にあるのかを表している.得られたデータは,2+ あるいは 0−で期待される分布からは 大きくはずれおり,99%を超える十分な信頼水準でこれらの仮定は排除されるとともに,標準模 型と矛盾が無いことが示されている. その他の解析の一つとして,標準模型のヒッグス粒子とは異なり,フェルミオンと相互作用し ないフェルミオフォビック・ヒッグス粒子を,光子を3つ含む終状態を用いて探索する研究を引き 続き行った.こちらも大きな進展があり,暫定的な結果は既に公表されているが,現在,最終結 果の導出に向けて解析を継続している. 2. 長基線ニュートリノ振動実験(清矢,山本,若松,金) 昨年度に電子ニュートリノ出現現象を 7.3σ の統計的優位度で発見したことを受けて,2014 年度 からは反ミューニュートリノビームのデータ取得を開始した.T2K 実験では,陽子ビームが入射 するグラファイト標的で生成されるパイ中間子の崩壊によりニュートリノを生成するが,パイ中 間子を収束するホーン電磁石に流す電流の向きを反転させることで,反ニュートリノの生成が可 能となる.2014 年 5 月のランから反ニュートリノビーム運転を開始し,2015 年 3 月末までに約 3×1020 POT (POT : protons on target, パイオン生成標的に照射された陽子の総数)の統計量を収集 した.反ミューニュートリノビーム中の反電子ニュートリノ出現現象を測定し,さきに得られた 電子ニュートリノ出現現象と比較することで,レプトンセクターの CP 非対称性を表すパラメー タ δCP の測定につなげる予定である. 反ニュートリノビームのデータ取得と並行して,ニュートリノビームのデータ解析を継続した. 電子ニュートリノ出現現象およびミューニュートリノ消失現象の統計が増えたことにより,両者 のデータを合わせて振動パラメータの同時フィットを行うことが可能になり,そこから δCP の情 報を引き出す解析を行った.図 2 はフィットの Δχ2 を δCP の関数で表したもので,質量順階層 (Normal Hierarchy)の場合には (0.14; 0.87)π の範囲を,質量逆階層(Inverted Hierarchy)の場合 には (−0.08; 1.09)π の範囲を 90%信頼水準で排除した. ベストフィット値は δCP = −0.5π あたりで, 質量逆階層よりは質量順階層の方がやや好ましい結果を得ている. 図2: 電子ニュートリノ出現現象および ミューニュートリノ消失現象のパラメー タを同時フィットしたときのΔχ 2 をδ CPの 関数で表したグラフ. T2K 実験では、ニュートリノ振動現象以外にニュートリノ反応断面積の測定も行っており, 図 3 はミューニュートリノと鉄原子核および炭化水素との荷電カレント反応断面積比である.誤 差棒付きの黒丸が測定点で,青と赤の点線は異なるシミュレーションプログラムの結果を表す. 得られたデータはシミュレーションとよく合っている.この結果は陽子ビーム軸延長上(On-axis) におけるニュートリノ平均エネルギー1.5 GeV の結果であるが,ビーム軸からの角度 1.65 度にお ける平均エネルギー0.85 GeV における鉄原子核との荷電カレント反応断面積測定を若松が行い, 33 修士論文にまとめた.こちらもシミュレーション計算とよく合う結果になっている. 図3: ミューニュートリノと鉄原 子核および炭化水素との荷電カ レント反応断面積比. 3. 荷電レプトンフレーバー非保存過程探索実験(清矢,山本,清水,竹崎,手島,小林,古谷, 原田) 原子に捕獲されたミュー粒子が電子に転換する,ミュー粒子・電子転換過程を探索する実験 DeeMe の立ち上げを遂行した.この実験は,J-PARC(大強度陽子加速器施設)の MLF(物質・ 生命科学実験施設)で行う予定であり,その最大の特徴は,ミュー粒子生成標的をそのままミュ ー粒子捕獲標的として利用することにある.これにより,必要なビームライン建設が大幅に簡素 化される一方,ミュー粒子を生成する際に同時に生成される莫大な背景荷電粒子(プロンプトバ ースト)が検出器に大きな負担を与えることになる.この問題をどのように解決するかが検出器 開発の焦点の一つになっている.今年度も引き続き,電子を検出する飛跡検出器の研究・開発や, 背景事象の一つとして重要な,ずれたタイミングで標的に到達する陽子(アフタープロトン)の 見積もり等を行った.特に,検出器開発においては,プロンプトバーストによる検出器飽和を回 避するための HV スイッチング機構の開発,読み出し増幅器・電源供給ボード・テストパルス生 成ボードの開発・製作(手島,図 4),MWPC のアノードワイヤ放電とガス混合・供給 HV の関 係等の実験(竹崎)を行った.一方,アフタープロトンにおいては,陽子加速器 RCS の,より詳 細なシミュレーションを構成し(図 5),アフタープロトン生成メカニズムの理解へ向けた準備 を整えた(清水).さらに,単一事象感度のシミュレーションによる評価を,標的をより現実的 な構造で実装して再評価した(清水). また,昨年度と同様,半導体光検出器である MPPC を読み出しに用いたシンチレーティングフ ァイバー飛跡検出器の可能性を探るための基礎的な調査・研究を 4 回生に行ってもらった. 図 4: DeeMe 実験飛跡検出器用読み出し増幅器 図 5: 陽子加速器 RCS のシミュレーションプログ ラムの構成 34 教育・研究業績 学術論文 1. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration and D0 Collaboration) : “Combination of measurements of the top-quark pair production cross section from the Tevatron Collider”, Physical Review D 89, 072001 (2014). 2. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Precise measurement of the W-boson mass with the Collider Detector at Fermilab”, Physical Review D 89, 072003 (2014). 3. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Indirect measurement of sin2θW (or MW) using μ+μ− pairs from γ*/Z bosons produced in 𝑝𝑝̅ collisions at a center-of-momentum energy of 1.96 TeV”, Physical Review D 89, 072005 (2014). 4. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Mass and lifetime measurements of bottom and charm baryons in 𝑝𝑝̅ collisions at √𝑠 = 1.96 TeV”, Physical Review D 89, 072014 (2014). 5. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Invariant-mass distribution of jet pairs produced in association with a W boson in 𝑝𝑝̅ collisions at √𝑠 = 1.96 TeV using the full CDF Run II data set”, Physical Review D 89, 092001 (2014). 6. K. Abe, T. Nakai, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Measurement of the intrinsic electron neutrino component in the T2K neutrino beam with the ND280 detector”, Physical Review D 89, 092003 (2014). 7. K. Abe, T. Nakai, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Precise Measurement of the Neutrino Mixing Parameter θ23 from Muon Neutrino Disappearance in an Off-Axis Beam”, Physical Review Letters 112, 181801 (2014). 8. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Study of top quark production and decays involving a tau lepton at CDF and limits on a charged Higgs boson contribution”, Physical Review D 89, 091101(R) (2014). 9. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of B(t→Wb)/B(t→Wq) in Top-Quark-Pair Decays Using Dilepton Events and the Full CDF Run II Data Set”, Physical Review Letters 112, 221801 (2014). 10. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of the ZZ production cross section using the full CDF II data set”, Physical Review D 89, 112001 (2014). 11. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration and D0 Collaboration) : “Observation of s-Channel Production of Single Top Quarks at the Tevatron”, Physical Review Letters 112, 231803 (2014). 12. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Evidence for s-Channel Single-Top-Quark Production in Events with One Charged Lepton and Two Jets at CDF”, Physical Review Letters 112, 231804 (2014). 13. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Search for s-Channel Single-Top-Quark Production in Events with Missing Energy Plus Jets in 𝑝𝑝̅ Collisions at √𝑠 = 1.96 TeV”, Physical Review Letters 112, 231805 (2014). 14. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Search for new physics in trilepton events and limits on the associated chargino-neutralino production at CDF”, Physical Review D 90, 012011 (2014). 15. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of the Inclusive Leptonic Asymmetry in Top-Quark Pairs that Decay to Two Charged Leptons at CDF”, Physical Review Letters 113, 042001 (2014). 16. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Study of orbitally excited B mesons and evidence for a new Bπ resonance”, Physical Review D 90, 012013 (2014). 17. K. Abe, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Measurement of the inclusive νμ charged current cross section on iron and hydrocarbon in the T2K on-axis neutrino beam”, Physical Review D 90, 052010 (2014). 35 18. K. Abe, T. Nakai, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Measurement of the neutrino-oxygen neutral-current interaction cross section by observing nuclear deexcitation γ rays”, Physical Review D 90, 072012 (2014). 19. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of the top-quark mass in the all-hadronic channel using the full CDF data set”, Physical Review D 90, 091101(R) (2014). 20. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurements of Direct CP-Violating Asymmetries in Charmless Decays of Bottom Baryons”, Physical Review Letters 113, 242001 (2014). 21. K. Abe, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Measurement of the Inclusive Electron Neutrino Charged Current Cross Section on Carbon with the T2K Near Detector”, Physical Review Letters 113, 241803 (2014). 22. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of indirect CP-violating asymmetries in D0→K+K− and D0→π+π− decays at CDF”, Physical Review D 90, 111103(R) (2014). 23. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of the Single Top Quark Production Cross Section and |Vtb| in Events with One Charged Lepton, Large Missing Transverse Energy, and Jets at CDF”, Physical Review Letters 113, 261804 (2014). 24. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Measurement of differential production cross sections for Z/γ* bosons in association with jets in 𝑝𝑝̅ collisions at √𝑠 = 1.96 TeV”, Physical Review D 91, 012002 (2015). 25. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Studies of high-transverse momentum jet substructure and top quarks produced in 1.96 TeV proton-antiproton collisions”, Physical Review D 91, 032006 (2015). 26. K. Abe, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Wakamatsu, K. Yamamoto et al. (T2K Collaboration) : “Search for short baseline νe disappearance with the T2K near detector”, Physical Review D 91, 051102(R) (2015). 27. T. Aaltonen, T. Okusawa, Y. Seiya, K. Yamamoto, D. Yamato et al. (CDF Collaboration) : “Search for production of an Υ(1S) meson in association with a W or Z boson using the full 1.96 TeV collision data set at CDF”, Physical Review D 91, 052011 (2015). 国際会議講演 1. 山本 和弘:“T2K Experiment – the Latest Results – ”,Electron-Nucleus Scattering XIII,2014年6 月23日~27日,Marciana Marina, Isola d'Elba, Italy 学会・研究会講演 1. 清水 宏祐:「DeeMe 実験におけるアフタープロトンバックグラウンドのシミュレーション と実測定結果について」,日本物理学会 2014 年秋季大会,2014 年 9 月 18 日~21 日,佐賀大 学 2. 若松 慶樹:「前置検出器ホール地下二階に移設した T2K 前置検出器 INGRID における反ニ ュートリノ反応の測定」,日本物理学会 2014 年秋季大会,2014 年 9 月 18 日~21 日,佐賀大 学 3. 清矢 良浩:「ミュオン電子転換過程探索実験 -DeeMe-:準備状況(3)」,日本物理学会 第 70 回年次大会,2015 年 3 月 21 日~24 日,早稲田大学 4. 清水 宏祐:「DeeMe 実験におけるアフタープロトンバックグラウンドシミュレーションに ついて」,日本物理学会第 70 回年次大会,2015 年 3 月 21 日~24 日,早稲田大学 5. 竹崎 優斗:「DeeMe 実験で使用するガス検出器 MWPC に関連した HV 放電テスト」,2015 年 3 月 21 日~24 日,日本物理学会第 70 回年次大会,早稲田大学 6. 金 賢一:「T2K 前置検出器 INGRID モジュールによる off-axis でのニュートリノ反応の測 定」,2015 年 3 月 21 日~24 日,日本物理学会第 70 回年次大会,早稲田大学 36 学位論文 卒業論文 1. 小林 一帆,原田 潤,古谷 優子:「新型 MPPC の性能評価」 修士論文 1. 清水 宏祐:「ミュー粒子・電子転換過程探索実験DeeMeにおけるアフタープロトン背 景事象および単一事象感度の評価」 2. 若松 慶樹:「T2K長基線ニュートリノ振動実験におけるニュートリノビームモニター INGRIDを用いたOff-axis角1.65度でのニュートリノ反応の測定」 研究助成金取得状況 1. 山本 和弘:基盤研究(C) 「ダイヤモンドを用いた大強度ニュートリノ実験ミューオンプロファ イルモニターの実用化」直接経費:60万円,間接経費:18万円 その他 高大連携・地域貢献 1. 清矢 良浩:SSH「サイエンス探究中間発表会」講評,2015年1月24日,大手前高等学校 37 重力波実験物理学研究室 神田 展行 (教授) 端山 和大 (特任助教) 横澤 孝章 (博士研究員) 山本 田中 浅野 有馬 中尾 尚弘 (D2) 一幸 (D1) 光洋 (M2) 司 (M1) 隼人 (B4) 譲原 浩貴 (D2) 鳥谷 仁人 (M2) 宮本 晃伸 (M1) 中西 雄大 (B4) 研究概要 大型低温レーザー干渉計型重力波望遠鏡 KAGRA KAGRA(旧称 LCGT)は東大宇宙線研究所をホストとした共同研究であり、現在、岐阜県神 岡鉱山内に片腕の基線長 3km のレーザー干渉計を建設中である。KAGRA は長基線のレーザー 干渉計を、地下の静謐で安定した環境に設置することで、高感度と安定した稼働を目指す。また、 低温サファイア鏡による熱雑音抑制を最大の特徴とし、次世代のレーザー干渉計検出器としての 先進的な試みでもある。KAGRA は、2010 年度に「最先端研究基盤事業」補助対象に選ばれ、装 置(機器)に関わる予算措置を受けて建設を開始し、2014 年春にトンネル掘削終了、2015 年末 に iKAGRA と呼称する常温でのテスト観測を予定している。低温化を施した高感度の設定では、 2017 年から 2018 年に本格的な観測運転に入る予定である。 本件研究室は KAGRA において、データ取得・転送系、データ解析(重力波イベントの探索)、 検出器診断、などを担い、計画の中核として研究を進めている。 図 1: 岐阜県神岡鉱山内に建設中の KAGRA 検出器 (左) とデータシステムの一部 (右) 新学術領域研究「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開」 2014 年度は、表題の科研費新学術領域(略称「重力波天体」)の計画3年目であり、中間評価も 行われた。この研究では、KAGRA を始めとする重力波検出器と、相補的な観測となる X 線、γ 線、光学、電波、ニュートリノらの観測グループと協力して研究を進めている。当研究室は、「重 力波のデータ解析」計画研究と、総括班事務局を担っている。 2014 年度は、来たるべき 2015 年の KAGAR の最初の観測運転 (iKAGRA) のデータを処理すべ く、解析用計算機システムの、計算ノードを大幅に増強した。計算ノードは E5-2697v3 (2.6GHz) で、合計 196 コアを持つ。同研究費の分担者である大阪大学に設置した同等の計算機システムと 合わせて、合計 392 コアを重力波探索に用いる。 また、2014 年度も、引き続き2名の研究員(特任助教×1、博士研究員×1)を雇用している。 38 以下に、2014年度の各研究トピックスを説明する。 iKAGRA データ転送・保管系の開発(神田、山本) KAGRA は 2015 年末に常温での最初の観測運転を予定している。これを “iKAGRA” (initial KAGRA) と呼称している。この iKAGRA の段階においても、主干渉計の信号を始め、環境信号 なども取得される。KAGRA の生データ量は約 20 MB/s が予定されており、連続的なデータのた めに途切れる時間 (dead time) は無い。データ転送系や保管系はこれに耐える必要がある。 我々は、KAGRA 本体を設置した神岡鉱山内のトンネル、地表の研究棟、千葉県柏市の東大宇 宙線研、そして、大阪市大へデータを転送し、それぞれの段階で保管するソフトウエアシステム を開発している。すでに主なハードウエアは設置されており、本年度は開発を進めるとともに、転 送性能が使用要求を満たすかを試験した。 KAGRA の観測運転時の実際のデータを仮定し、16秒ごとに生成されるデータファイルの転 送試験を行った。その結果、トンネルー地表間では、scp で約 150 MB/s 、ソケット通信では約 1 GB/s の転送速度実測値を得た。また、神岡ー柏間では、scp、ソケットのどちらの場合でも約 50 MB/s の転送速度実測値であった。これらの実測値は、KAGRA の仕様を満たすに十分であるこ とがわかった。 KAGRA 望遠鏡診断システムの開発(端山、神田、山本、譲原、横澤) KAGRA 重力波望遠鏡の診断システムの構築を行っている。KAGRA は 10−20 m · Hz −1/2 のひ ずみをとらえるために、高性能防振システム、3km の Fabry-Perot マイケルソン干渉計を基礎と した複雑な光学系であり、さらにミラーの熱雑音を下げるための鏡の低温化、地下環境での設置 といった従来の重力波望遠鏡にはない特徴を備えている巨大望遠鏡である。望遠鏡のデザイン感 度を達するためには、望遠鏡の不具合や雑音源を徹底的に除去していくことが重要になってくる。 本研究では不具合箇所の特定や観測データの質の評価を行うシステムであると同時に、将来の安 定な観測運転に向けた観測システムや質の高いサイエンスを行うためのシステムの構築を行って いる。本年度は、student-t 分布を用いた重力波望遠鏡の雑音に含まれる非ガウス性成分の特徴づ けや、環境モニタや装置モニタデータなどの複数のデータに相関して影響を与える雑音源の特定 のために相関関係を捉える Maximal Information Coefficient を用いた相関モニタを開発した。さ らに KAGRA の茂住側の腕の先端に置かれるクライオスタット周辺の環境雑音を把握するために、 加速度計、音圧計、磁束計を設置し、常時モニタシステムを構築する準備を行っている。 超新星爆発の先駆的解析(横澤、浅野、神田) 超新星爆発内部から生じる重力波・ニュートリノの観測は、光観測では得られないコア内部の 情報を知る上でとても重要である。そこで、重力波・ニュートリノの実検出器検出シミュレーショ ンを通じてメカニズム解明に向けた先駆的解析を行った。 親星の中心コアの初期条件に回転を加えたモデルと加えてないモデルに対して重力波放出開始 時間と neutronization burst の時間を摘出する方法を考案し、近距離・銀河スケールで発生した超 新星爆発におけるコアの回転に対して定量的な評価を与えた。 衝撃波復活の鍵として対流の不安定 (SASI, Standing Accretion Shock Instability) が考えられ ている。親星コアの状態方程式にもよるが SASI が生じていた場合ニュートリノのフラックスが 最大 10% 程度揺らぐことが期待される。そこでハイパーカミオカンデ検出器における検出シミュ レーションを行った。その際にデルタ-シグマ変調器の原理を用いたフィルターを、0 と 1 で構成さ れるトリガー情報にかけることによりフラックスの時間変化を再構成できることを確認した。現 在、フィルターの性能評価、SASI 起源のフラックス揺らぎの観測可能性を評価している。 39 重力波検出器雑音の非ガウス性評価(山本) 重力波探索を行う上で検出器の雑音はガウス雑音である事が望ましいが、現実には非ガウス成 分が含まれる事が経験的に知られている。このような非ガウス雑音成分は検出器感度の悪化や重 力波イベントと誤認してしまうような偽イベントの増加などの問題に繋がる。そのため観測で得 られたデータにどの程度非ガウス成分が含まれているか、また非ガウス雑音の雑音源がどこにあ るのかという事を知っておく事が重力波を探索する上で重要となる。 そこで本研究では特に重力波の偽イベントに繋がるような雑音イベントの評価に重点を置き student-t 雑音モデルを導入する事で、ガウス雑音に比べ雑音分布の裾がどのくらい重くなってい るかを指標化する手法の提案を行った。さらに提案手法を検出器の状態や観測データの質を評価 する望遠鏡診断システムの一つとして実装する事で KAGRA の運転時の運用に向けたソフトウェ ア開発も行った。 KAGRA 観測運転に向けたコンパクト連星探索パイプラインの開発(譲原、神田) 地上重力波検出器 KAGRA は 2015 年 12 月に最初の観測運転を計画している。今年度は検出 器から得られた主干渉計データから重力波を探索するために必要な探索パイプラインとそれらに 必要な基礎的なライブラリ (KAGALI) の開発を行った。基礎的なライブラリはエラーハンドリン グ, メモリー管理, 高速フーリエ変換を行うラッパー, フレーム形式のデータの読み書きなどから 構成されており、今回はフレーム形式のデータの読み書きに関する部分の開発を行った。 波形が予測された重力波探索にはマッチドフィルターという手法を用いることで重力波信号の 有無を調べることができる。その際、データのパワースペクトル密度で重み付けを行うが、その パワースペクトル密度をいくつかの手法で見積もる部分の開発も行った。定常ガウス分布のデー タに対して、きちんとスペクトルを見積もれていることを確認した。実際に検出器から得られた データは短時間だけ続く非ガウスノイズが含まれていることが知られているが、それらを注入し たデータに対しても同様の推定を行い、それらの影響が推定したスペクトルに現れていないこと も確認をした。 Population III の存在の証明可能性について(宮本、神田) Population III (Pop III) 星は炭素より重い元素の無い初期の宇宙で形成されたと考えられてい るが、その存在の決定的証拠は未だ無い。これは電磁波による Pop III 星の観測が困難であるた めである。しかし、重力波観測では Pop III 星起源のブラックホール連星合体重力波を観測でき る可能性がある。ただし、重力波から Pop III の存在の証拠を得るためには、複数の観測イベン トから統計解析をしなければならない。 われわれは Dominik et al (2012,2013) と Kinugawa et al (2014,2015) のシミュレーションによ る連星の合体率の見積もりを用いて重力波の検出シミュレーションをおこなった。Pop III 起源ブ ラックホール連星重力波の検出数は年間 ∼ O(102 ) 個と見積もられ、重力波による Pop III 存在の 証明の可能性の定量化の結果、検出数 Pop III は 1 年間以内の観測で存在を証明できると推定で きた。 40 教育・研究業績 学術論文 1. “Probing Rotation of Core-collapse Supernova with Concurrent Analysis of Gravitational Waves and Neutrinos”, Takaaki Yokozawa, Mitsuhiro Asano, Tsubasa Kayano, Yudai Suwa, Nobuyuki Kanda, Yusuke Koshio, and Mark R. Vagins arXiv:1410.2050 (Accepted by Astrophysical Journal in 2015) 2. K.Hayama in Aasi,J. et al “Searching for stochastic gravitational waves using data from the two colocated LIGO Hanford detectors” Physical Review D, Volume 91, Issue 2, id.022003 2015 3. K.Hayama in Aasi,J. et al “Constraints on Cosmic Strings from the LIGO-Virgo GravitationalWave Detectors” Physical Review Letters, Volume 112, Issue 13, id.131101, 2014 4. K. Hayama in Aasi,J. et al “Application of a Hough search for continuous gravitational waves on data from the fifth LIGO science run” Classical and Quantum Gravity, Volume 31, Issue 8, article id. 085014 (2014) 5. K.Hayama in Aasi,J. et al “Gravitational Waves from Known Pulsars: Results from the Initial Detector Era” The Astrophysical Journal, Volume 785, Issue 2, article id. 119, 18 pp. (2014) 6. K.Hayama in Aasi, J. et al., “Constraints on Cosmic Strings from the LIGO-Virgo GravitationalWave Detectors”, Physical Review Letters, Volume 112, Issue 13, id.131101 (2014) 7. K.Hayama in Aasi, J. et al., “Application of a Hough search for continuous gravitational waves on data from the fifth LIGO science run”, Classical and Quantum Gravity, Volume 31, Issue 8, article id. 085014 (2014) 8. K.Hayama in Aasi, J. et al., “Gravitational Waves from Known Pulsars: Results from the Initial Detector Era”, The Astrophysical Journal, Volume 785, Issue 2, article id. 119, 18 pp. (2014) 国際会議会収録(査読付き) 1. “Detectability and parameter estimation of gravitational waves from cosmic string with ground-based detectors”, Hirotaka Yuzurihara, Nobuyuki Kanda and KAGRA collaboration, APPC2013 proceedings, JPS Conference Proceedings 1, 013117 (2014) 2. “Calibration and reconstruction in time-series of strain signal of gravitational wave detector”, Takahiro Yamamoto, Nobuyuki Kanda, CLIO Collaboration and KAGRA Collaboration, APPC2013 proceedings, JPS Conference Proceedings 1, 013119 (2014) 学会・研究会講演 1. 神田展行、KAGRA collaboration (シンポジウム講演) 「目指せ重力波「予報」 ! - KAGRA でのコンピューティング」 日本物理学会第70回年次大会 素粒子実験領域,実験核物理領域,宇宙線・宇宙物理領域 合同シンポジウム「実験のための最先端コンピューティング」、2015 年 3 月 21 日、早稲田 大学 41 2. Nobuyuki Kanda et al.,(招待講演)“New Developments in Astrophysics Through MultiMessenger Observations of Gravitational Wave Sources”, 新学術領域研究「ニュートリノ フロンティア」研究会, 2014/12/21-23, 富士 Calm 3. Nobuyuki Kanda, KAGRA collab., (招待講演)“KAGRA : Construction Status in Summer 2014 & its Science on SNe and GRBs”, Supernovae and Gamma-Ray Bursts 2014, 2014/8/25-27, 理化学研究所 4. Nobuyuki Kanda et al., “Status of A04“ Research on Data Analysis of Gravitational Wave Searches Link up with Various Observations ””, 第3回「重力波天体」領域シンポジウム, 2015/2/20, 広島大学 5. 神田展行、計画研究 A04 , KAGRA collaboration, “KAGRA の現状, Detector Calibration について”, 新学術領域 A04/05 班合同合宿, 2015/1/8-10 ニューハートピア新潟瀬波 6. ”神田展行(大阪市立大学理学研究科)、科研費新学術領域「重力波天体」・KAGRA collaboration” 重力波検出実験の現状と相補的観測で探る高エネルギー天体現象 物理談話会 2014/12/2 岡山大学 招待講演 7. T.Yokozawa, “Supernova detection study; GW and Neutrino”, A03 bi-monthly meeting, 2014/4/15, IPMU Kashiwa 8. T.Yokozawa 7people, “Supernova detection study; Investigation of progenitor core rotation with Gravitational Wave and Neutrino detector”, Neutrino2014, 2014/6/2-7, Boston University, poster presentation 9. T.Yokozawa 7people, “Supernova detection study; Investigation of progenitor core rotation with Gravitational Wave and Neutrino detector”, Seminar at MIT, 2014/6/8,MIT, Seminar 10. 横澤孝章 他 7 名, “重力波、ニュートリノの同時観測による超新星爆発メカニズム解明に向 けた研究”, 日本物理学会 2014 年秋期大会, 2014/9/20 11. 横澤孝章, “超新星爆発と重力波とニュートリノと私”, 宇宙・高エネルギー大講座 談話会, 2014/10/21, 佐賀大学 12. T.Yokozawa, “Implementation and Study of Noise Floor Monitor”, Korea Japan Workshop, 2014/12/19, Toyama University 13. 横澤孝章, “Focus on GW and Neutrino signals from Supernova SASI phase”, 新学術領域 「重力波天体」A04-A05 班合同合宿, 2015/1/9, ニューハートピア新潟 14. T.Yokozawa, “Time domain astronomy; Correlation analysis of GW and neutrino signals from Supernova explosion”, 3rd annual symposium , 2015/2/17, Hiroshima University 15. 横澤孝章, “重力波、ニュートリノの同時観測による超新星爆発メカニズム解明に向けた研 究”, 第一回超新星ニュートリノ研究会, 2015/3/17, 東京理科大学 16. 横澤孝章, “超新星爆発による重力波の検出”, 日本物理学会第 70 回年次大会, 2015/3/24, 早 稲田大学, シンポジウム 17. 山本尚弘 他 9 名, KAGRA Collaboration, “重力波検出器の非ガウス・非定常性分のキャラ クタリゼーション”, 日本物理学会 第 70 回年次大会, 2015/3/22, 早稲田大学 18. 山本尚弘, “Noise characterization of non-Gaussianity and non-stationarity for the gravitational wave detector”, 新学術領域「重力波天体」A04-A05 班合同合宿, 2015/1/10, ニュー ハートピア新潟 19. T. Yamamoto, “Development of Non-Gaussian Noise Characterization System”, 7th KoreaJapan Workshop on KAGRA, 2015/12/20, Toyama Univ. 20. 山本尚弘 他 9 名, KAGRA Collaboration, “KAGRA Detector Characterization: リアルタ イム非ガウス性雑音モデリングシステムの開発”, 日本物理学会 2014 年秋季大会, 2014/9/20, 佐賀大学 42 21. 山本尚弘, 神田展行, 大原謙一, KAGRA Collaboration, “KAGRA の Low latency 探索に向 けたデータ転送システムの開発”, 日本物理学会 2014 年秋季大会, 2014/9/20, 佐賀大学 22. T. Yamamoto, “Development of non-Gaussianity monitor as DetChar tools”, KAGRA f2f Meeting, 2015/2/6, U of Tokyo 23. 山本尚弘, “Low Latency 探索用データ転送システムの開発”, KAGRA Collab. Meeting, 2014/10/15, teleconference 24. 譲原浩貴 他 26 名, “KAGRA データ解析 : コンパクト連星合体のオフライン解析に向けた パイプライン開発”, 日本物理学会 第 70 回年次大会, 2015/3/22, 早稲田大学 25. H. Yuzurihara, “Developing CBC off-line pipeline for iKAGRA”, 新学術領域「重力波天体」 A04-A05 班合同合宿, 2015/1/10, ニューハートピア新潟 26. H. Yuzurihara, “Current status of KAGRA data analysis library, KAGALI”, 7th KoreaJapan Workshop on KAGRA, 2015/12/20, Toyama Univ. 27. 譲原浩貴 他 26 名, “KAGRA データ解析:コンパクト連星合体解析に向けた基礎ライブラリ の開発”, 日本物理学会 2014 年秋季大会, 2014/9/20, 佐賀大学 28. 譲原浩貴 他 7 名, “KAGRA Detector Characterization : KAGRA データの重力波探索に向 けた補助信号間に現れる相関した特徴の新しい発見手法の確立”, 日本物理学会 2014 年秋季 大会, 2014/9/20, 佐賀大学 29. H. Yuzurihara, “Development of off-line search pipeline for gravitational waves from compact binary coalescence”, 3rd Annual Symposium of the Innovative Area on Multi-messenger Study of Gravitational Wave Sources, young researcher ’s session, 2015/2/20, Hiroshima University 30. 譲原浩貴, “地上重力波検出器による重力波検出とそのターゲット波源について”, 宇宙高エ ネルギー大講座 談話会, 2014/6/25, 大阪市立大学 31. 宮本晃伸 ほか3名, “Pop-III BH 連星合体からの重力波の KAGRA における検出可能性 について”, 日本物理学会 2014 年秋季大会, 2014/9/20, 佐賀大学 32. 宮本晃伸, “コンパクト連星合体 : Compact Binary Coalescence (CBC) から放射される重 力波”, 宇宙高エネルギー大講座 談話会, 2014/10/22, 大阪市立大学 33. 宮本晃伸, “コンパクト連星合体からの重力波”, 超新星爆発解析会議, 2014/10/26, 岡山大学 34. 宮本晃伸, “ Population III BH 連星合体からの 重力波検出シミュレーション”, 新学術領域 A04-A05 班合同合宿, 2015/1/9, ニューハートピア新潟瀬波 35. A. Miyamoto and 3 people, “Detection probability of gravitational wave from pop III BH binary coalescences using KAGRA”, 3rd Annual Symposium on the new-innovative area, 2015/2/19, Hiroshima University 36. 宮本晃伸 ほか3名, “KAGRA て?の BH 連星合体重力波観測による Pop III の 存在の証明 と連星進化パラメータ推定の可能性”, 日本物理学会 第 70 回年次大会, 2015/3/22, 早稲田 大学 その他 卒業研究 1. 中尾隼人「地球近傍の超新星候補天体とその爆発時の重力波の検出可能性について」2015.3.5 2. 中西雄大「連星軌道運動が放出する重力波と KAGRA における検出可能性」2015.3.5 43 学位論文 修士論文 1. 浅野光洋「重力波とニュートリノの同時観測による超新星爆発の動的発展の解明」(Investigation of dynamical evolution of Supernova using simultaneous observation of gravitational waves and neutrinos) 2. 鳥谷仁人「KAGRA 信号取得系の量子化誤差と連続重力波探索における影響」(Quantization errors in KAGRA signal acquisition system and their impacts on continuous gravitational wave search) 研究助成金取得状況 1. 科学研究費補助金「GPGPU の高度並列化計算による KAGRA データの解析」(基盤 (C)、 代表:神田展行、H26-28 年度) 2. 科学研究費補助金 新学術領域研究 「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開」 計画研究 A04「多様な観測に連携する重力波探索データ解析の研究」 (代表:神田展行、H24-28 年度) 3. 科学研究費補助金 新学術領域研究 「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開」 総括班 「重力波天体の多様な観測による宇宙物理学の新展開の総括的研究」(代表:中村卓 史 (京都大学)、分担:神田展行ほか、H24-28 年度) 海外出張および海外研修 1. 横澤孝章, (計 1 名), “Neutrino2014”, 2014/6/2, Boston University 外国人研究者受け入れ 1. Alex Nielsen?(Albert Einstein Institute in Hannover), Seminar “Aligned-spin searches for compact binary coalescences”, 2015/2/26 主催、共催の研究会 1. KAGRA データ解析スクール @ RESCEU 2014, 於:東京大学ビッグバン宇宙国際研究セン ター, 2014 年 4 月 18-19 日 2. KAGRA データ解析スクール @ 阪大 2014, 於:大阪大学理学部 F 棟 F102 講義室, 2014 年 11 月 23-24 日 3. KAGRA Japan-Korea Workshop, 於:国立天文台, 2014/6/20-21 4. 新学術領域 A04/05 班合同合宿、於:ニューハートピア新潟瀬波、2015/1/8-10 5. 第3回領域シンポジウム 2015 年 2 月 @広島大、2015年2月19ー21日(3日間) 44 宇宙・素粒子実験物理学研究室 寺本吉輝 中野英一 准教授 准教授 池口直人 岡本一希 林大樹 湯川巧 大川佳亮 平田拓也 (M2) (M1) (M1) (M1) (B4) (B4) 研究概要 1. KEK B ファクトリー加速器による素粒子実験 (Belle 実験).(寺本,中野,林) 高エネルギー加速器研究機構の KEKB 加速器を用いた Belle 国際共同実験を行なってい る.Belle 実験は,KEKB 加速器を用いて電子・陽電子対消滅反応によって大量に生成され る B 中間子対の崩壊過程から,CP 対称性の破れの検証や B 中間子の稀崩壊の測定などを 目的とした国際共同実験である (学術論文 1,7,9,10,13,14,15).また,チャームクォー ク対生成事象や (学術論文 4,5),τ レプトン対生成事象 (学術論文 2),高統計のデータを利 用して共鳴状態の探索を行ない (学術論文 3,6,8,11,12,16,),ハドロン物理の解明に も寄与している.このうちでも,論文 11 では,B 中間子の崩壊過程の詳細な観測によって チャーモニウムに似た共鳴状態 Z(4200) の存在を確立すると同時に,ZC (4430)+ の証拠を発 見した. また,1999 年から始まった 2 つの B ファクトリー実験 (Belle 実験,BaBar 実験) の集大成 として,2 つの国際共同実験の測定器から公表した測定結果を総合した書籍を出版した (著 書 1). 大阪市立大学の研究グループは Belle 測定器の最も外側に位置する KL 中間子/µ 粒子検出 器 (KLM) の読み出しおよび µ 粒子同定を担当してきたが,その経験に基づいたセミナーを 行った (その他 1). 2. マイクロパターン・ガスディテクター (MPGD) の研究開発.(中野,池口,湯川) 薄型で 2 次元読み出しを行なえるガス検出器の 1 つであるガス電子増倍器 (GEM) の他分 野への応用をはかる目的で,高エネルギー加速器研究機構,杏林大学,近畿大学との共同研 究を行ない,He ベースガスを用いた物質量が少ない GEM の開発,中性粒子測定用 GEM の開発を進め,GEM の応答を理解するために荷電粒子と検出器の反応をシミュレートする プログラム (GEANT4) や電場計算プログラム (Maxwell) と検出器シミュレーションプログ ラム (Garfield) を用いた GEM のシミュレーションを行なっている.GEM を中性子検出器 に応用する場合、その高時間分解能と良好な位置分解能を利用したパルス中性子源によるイ メージングが適している。しかし、近年のパルス中性子源の高輝度化により、既存の読み出 し回路では高頻度で入射する粒子に対するデータ処理能力が追随できず、数え落としがあっ た。このため、本研究では高頻度化に対応した読み出し回路の開発を進め,J-PARC の MLF の BL22 での照射試験を行った.BL22 は 9.8 × 107 n/s/cm2 の中性子強度を持つ,世界初の パルス中性子源イメージング専用ビームラインである.照射試験の結果、読み出し回路の高 速化は ASIC での信号処理の問題と共に、読み出しストリップの形状やデータ蓄積用 PC の 性能等、周辺の状況によっても制限されている可能性があることが判明した。しかし、当初 の利用目的である共鳴吸収画像の取得によるイメージングを行い、試料の成分分析に必要な 性能を有することを確認した (図 1,2). この性能評価の結果を研究会において講演し,修士論文にまとめた.(研究会講演 1,修士 論文 1). 45 図 1: 成分分析に用いた試料 図 2: 波長別の照射結果 (信号処理の関係で試料の配置と左右が反転している) 46 3. 平行板型素粒子検出器の研究開発.(寺本,大川) 高抵抗板素粒子検出器 (RPC) は,平行な高抵抗板の間にガスを入れ,高抵抗板間に 8 ∼ 10 kV の電圧を印加することにより,荷電粒子がこれを通過したとき,その位置と時間を測定 できる装置である.2014 年度はガラスの替わりにメラミン樹脂を用いた RPC の開発を進 めた. 4. ネットワーク型宇宙線観測装置を使った宇宙線観測.(寺本) 都道府県にまたがって時間相関を持って到来する宇宙線を観測するために,宇宙線の到来 時間を GPS を用いてマイクロ秒の精度で決定できる空気シャワー観測装置を作り,高校や 科学館などに配備している.2014 年度も引き続き宇宙線を観測し,データを収集した. 5. Belle II ドリフトチェンバー (CDC) の準備研究.(中野,岡本) 2016 年度にビームの衝突開始が予定されている SuperKEKB 加速器を使った Belle II 実 験の中央飛跡検出器 (CDC) の建設を進めている.今年度は、1 年以上を掛けて 2014 年 1 月 にワイヤーを張り終えた CDC のメインパートと 2013 年度に完成していたインナーパート を一体化させた後,張力による歪みやガス漏れの再検査,ガス漏れや緩んだワイヤーを修理 し,高電圧を印加させるための絶縁検査を行った (図 3).さらに読み出しシステムを部分的 に接続し,宇宙線を使った性能試験の準備を進めた.ガス漏れ試験,絶縁試験の結果を日本 物理学会で公表した (学会講演 2). 図 3: 一体化した CDC の絶縁検査作業 また,Belle II 実験のトリガーシステムとデータ収集システムの開発について国内外からの 研究者が会するワークショップ(Belle II Trigger/DAQ Workshop 2015)を,研究科長裁量 経費による助成を受け,梅田サテライトにおいて,2015 年 3 月 11 日から 13 日まで 3 日間の 日程で開催した.宇宙線を使った最終試験は 2015 年度より始まるため,トリガーシステム, データ収集システムにとっては既に最終段階にある.このワークショップには 38 名が参加 47 し,最終段階にあるトリガーシステム,データ収集システムの構築に向けて活発な議論を交 わした (図 4). 図 4: Trgger/DAQ Workshop の参加者 6. 安価な測定器の開発.(中野,平田) 近年,医療分野で PET ボトルに使用する素材を用いたシンチレーションカウンターが開発 された.それを参考に市販の PET 板を用いた検出器が素粒子実験分野に使用可能かどうか 検証した. 教育・研究業績 著書 1. “The Physics of the B Factories” A. J. Bevan et al. [BaBar and Belle Collaborations]. Eur. Phys. J. C 74, 3026 (2014) 学術論文 1. “Study of B 0 → ρ0 ρ0 decays, implications for the CKM angle φ2 and search for other B 0 decay modes with a four-pion final state” I. Adachi et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 89, no. 7, 072008 (2014), [Phys. Rev. D 89, no. 11, 119903 (2014)] 2. “Measurements of Branching Fractions of τ Lepton Decays with one or more KS0 ” S. Ryu et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 89, no. 7, 072009 (2014) 3. “Updated cross section measurement of e+ e− → K + K − J/ψ and KS0 KS0 J/ψ via initial state radiation at Belle” C. P. Shen et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 89, no. 7, 072015 (2014) 4. “Search for CP violation in D0 → π 0 π 0 decays” N. K. Nisar et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. Lett. 112, 211601 (2014) 48 5. “Measurement of D0 − D̄0 mixing and search for indirect CP violation using D0 → KS0 π + π − decays” T. Peng et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 89, no. 9, 091103 (2014) 6. “Measurements of the masses and widths of the Σc (2455)0/++ and Σc (2520)0/++ baryons” S. H. Lee et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 89, no. 9, 091102 (2014) 7. “Search for B + → e+ ν and B + → µ+ ν decays using hadronic tagging” Y. Yook et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 91, no. 5, 052016 (2015) √ 8. “Observation of e+ e− → π + π − π 0 χbJ and Search for Xb → ωΥ(1S) at s = 10.867 GeV” X. H. He et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. Lett. 113, no. 14, 142001 (2014) 9. “Measurement of Time-Dependent CP Violation in B 0 → η 0 K 0 Decays” L. S̆antelj et al. [Belle Collaboration]. JHEP 1410, 165 (2014) 10. “Observation of the decay B 0 → η 0 K ∗ (892)0 ” S. Sato et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 90, no. 7, 072009 (2014) 11. “Observation of a new charged charmoniumlike state in B̄ 0 → J/ψ K − π+ decays” K. Chilikin et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 90, no. 11, 112009 (2014) 12. “Evidence of Υ(1S) → J/ψ + χc1 and search for double-charmonium production in Υ(1S) and Υ(2S) decays” S. D. Yang et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 90, no. 11, 112008 (2014) 13. “Measurement of B 0 → Ds− KS0 π + and B + → Ds− K + K + branching fractions” J. Wiechczynski et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 91, no. 3, 032008 (2015) 14. “Measurement of the B̄ → Xs γ Branching Fraction with a Sum of Exclusive Decays” T. Saito et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 91, no. 5, 052004 (2015) 15. “Search for Bs0 → γγ and a measurement of the branching fraction for Bs0 → φγ” D. Dutta et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 91, no. 1, 011101 (2015) 16. “Observation of X(3872) in B → X(3872)Kπ decays” A. Bala et al. [Belle Collaboration]. Phys. Rev. D 91, no. 5, 051101 (2015) 17. “The DCBA/MTD Experiments for Neutrinoless Double Beta Decay Search” H. Iwase et al.. JPS Conf. Proc. 1, 013023 (2014). 49 学会・研究会講演 1. 池口直人: 「メモリー付きボードを用いた GEM 型中性子検出器の性能評価」第 11 回 MPGD 研究会 2014 年 12 月 東北大学 2. 岡本一希: 「BelleII CDC の実機テスト」日本物理学会第 70 回年次大会 2015 年 3 月 早稲 田大学早稲田キャンパス その他 1. 中野英一: 「Muon and neutral hadron detection in high energy physics」5 月 28 日 東京 大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 ACP セミナーにて講演 学位論文 修士論文 1. 池口直人: 「GEM 型中性子検出器の開発」 研究助成金取得状況 1. 中野英一:研究科長裁量経費「Belle II Trigger/DAQ Workshop」165,750 円 50 素粒子論研究室 中尾憲一 教授 丸信人 准教授 鈴木良拓(博士研究員) 西川隆介(博士研究員) 阿部博之(D5) 宇野竜矢(D3) 根岸宏行(D2) 米倉良一(M2) 赤井祐美(B4) 宮地昴志(B4) 山本奨太(B4) 研究概要 人類によるミクロ世界の認識は、物質→分子→原子→電子と原子核、原子核→ハドロン→ クォークと進んできました。電子は6種類確認されているレプトンと呼ばれるグループに属 しています。また、クォークも6種類確認されています。さらに、これらの素粒子の間に働 く相互作用を媒介するゲージ場の存在も確認されています。現在確認されている相互作用は、 重力、電磁気力、弱い力、強い力の4種類です。素粒子論研究室では、素粒子標準模型を超 える物理の現象論、特に超対称性や高次元に基づいた現象論の研究に力を入れています。ま ら、宇宙論やブラックホール、そして重力崩壊による時空特異点の形成などに注目して、強 い重力場の物理に関する研究を行っています。 素粒子論研究室において2014年度に行われた研究は以下の通りです。 1. ゲージ・ヒッグス統一模型におけるヒッグス粒子の質量の研究(丸) 素粒子標準模型は現在までの実験事実を非常によく記述するが、未解決問題も多く存 在し標準模型を拡張した模型構築が必要不可欠である。その1つであるゲージ・ヒッグ ス統一模型では、ヒッグス場を高次元ゲージ理論におけるゲージ場の一部とみなし、く りこみ不可能な理論に関わらず量子補正を考慮したヒッグス粒子の質量を有限に予言す る。6次元ゲージ・ヒッグス統一模型では、古典論のレベルにおいてヒッグス粒子の質 量がWボソン(80GeV)の2倍であることが予言されるが、実験値(125GeV)より大きい。そ こで、量子補正を考慮することにより、ヒッグス粒子の質量を実現する可能性を検討し た(論文2)。特に、量子補正による最低次のずれが有限であることを示した。 2. 随伴表現カイラル超場をもつ超対称ゲージ理論における質量和則の導出(丸) 随伴表現カイラル超場をもつ超対称ゲージ理論において、超対称性の秩序パラメタの 1つであるD項が量子論的な効果によって凝縮し、超対称性が自発的に破れる新しいメカ ニズムを数年前に糸山氏と提唱した。この理論におけるベクトル超場、随伴カイラル超 場に対する質量和則を導出し、さらに(反)基本表現カイラル超場も含んだ一般の場合の質 量和則への拡張も行った(論文3)。これらの質量和則は通常のテキストに書かれているも のの拡張であり、現象論に応用する際に超対称粒子の質量に制限を与える。 3. Universal Extra Dimension(UED)模型におけるカルツァ・クライン(KK)粒子質量に関する1 ループ量子補正の研究 (丸) S2/Z2にコンパクト化した6次元UED模型を数年前に提唱し、標準模型KK粒子質量を計 算したが縮退があり、暗黒物質の候補を同定するには量子補正による質量分離を計算し、 一番軽いKK粒子を決定する必要があった。そこで、標準模型KK粒子に対する1ループ量 子補正を計算し、1st KK光子が暗黒物質の候補になることがわかった(論文1)。 51 4. ダークエネルギー問題及びコペルニクス原理の検証(中尾,西川,根岸) 我々の宇宙は現在、加速膨張しているように見えます。より厳密に言うと、宇宙の物質・ 輻射分布や空間の幾何学的性質が一様等方ならば、現在得られている観測結果は、宇宙空 間の膨張速度が加速していることを意味する、ということです。さらに、アインシュタイ ンの一般相対論が正しい重力理論だと仮定すると、この観測事実は負の圧力(正の張力) を持つダークエネルギーと名付けられた不可解なエネルギーが宇宙空間に満ち満ちてい るということを意味します。このダークエネルギーの起源は未だに不明で、この問題をダ ークエネルギー問題と呼んでいます。上記の説明から分かるように、観測事実からダーク エネルギーの存在を演繹するために2つの仮定をしています。一つ目は「宇宙は一様等方」、 二つ目は「一般相対論が正しい」です。この二つの仮定のうち一つでも正しくないという ことになれば、ダークエネルギーの存在を仮定せずに観測事実の説明ができる可能性が存 在します。 我々のグループは、ダークエネルギー問題に対する一つのアプローチとして、「我々の 宇宙は一様等方」という仮定の妥当性に注目し研究を進めています。別の言い方をすると、 「我々の住んでいる場所は特別な場所ではない」というコペルニクス原理の観測的検証に 関する研究です。現在観測されている宇宙背景放射は、我々の固有速度が起源と考えられ ている双極子的な非等方性を除けば非常に等方的です。もしコペルニクス原理が妥当なら ば、我々の場所以外でも宇宙は等方的に見えるはずです。幾何学的考察から、あらゆる点 で等方な時空は一様等方であることがわかりますから、コペルニクス原理を仮定すると宇 宙背景放射の等方性は我々の宇宙の一様等方性を強く示唆します。しかし、もしコペルニ クス原理が妥当ではなく、我々が宇宙の特殊な場所(例えば、我々の場所から見た場合だ け等方に見える非一様な宇宙)に住んでいるとしたら、これまでの宇宙論は多少の変更を 受けます。具体的に述べると、ダークエネルギー、ダークマター、そして元素の総量や空 間の曲率といった宇宙論パラメターの測定値です。それゆえ、コペルニクス原理を観測的 に確認する作業は、精密科学として進展著しい宇宙論において、その基礎をより堅固にす るという非常に重要な意味を持ちます。 昨年度から引き続き、名古屋大学の柳哲文助教と共同で、物質優勢の宇宙における極め て大きなボイドの中心に我々が位置する宇宙モデルの研究を密度ゆらぎの進化に注目し て進めています。また、非コペルニクス的な非一様性が宇宙論パラメターの測定に与える 影響に関する研究を進めました。 5. Kerr spacetime における高エネルギー粒子衝突(中尾) 極大回転しているブラックホールの重力ポテンシャルによって加速された複数の粒子 がブラックホール近傍で衝突する場合、その重心系でのエネルギーには上限が無いことが、 Banados, SilkおよびWestにより2009年に再発見され、その宇宙物理的な重要性が指摘され ました。その後、PatilとJoshi により、超高速回転をしている裸の特異点でも、その重力 ポテンシャルによって加速された粒子間の衝突では、重心系のエネルギーに上限が無いこ とが示されました。重心系でのエネルギーがプランク・スケール程度の場合は素粒子間の 重力相互作用が無視できなくなるため、重力の量子論的な効果が現れると予想されるので、 重心系のエネルギーがこのスケールの粒子衝突は極めて興味深い物理過程と云えます。 2014年度は、立教大学、ケンブリッジ大学(UK)、タタ基礎科学研究所(インド)の研 究者らと共同で、プランクスケールの粒子衝突が起きるのに必要な時間を評価し、ブラッ クホールの場合には地平近傍の時間の伸びの効果によって、それが宇宙年齢よりも桁違い に大きく、一方、裸の特異点の場合には数百万年程度であることを示しました。この結果 から、こうエネルギー粒子衝突の観測的研究においては、ブラックホールよりも裸の特異 点の方が(もし存在するのなら)重要な対象となることが明らかになりました。 52 6. 高速回転物体の最小サイズについて(中尾) 5で述べたように、重力による高エネルギー粒子衝突に関しては、ブラックホールよりも 裸の特異点の方が観測的に重要と思われます。しかし、裸の特異点の存在に関しては、宇 宙検閲官仮説を根拠にその存在を疑う研究者も多く存在します。ところで、高エネルギー 粒子衝突が実現するためには、裸の特異点それ自身ではなく、そのまわりの時空の性質が 重要なので、実は裸の特異点自身は必要ありません。高速回転物体が十分コンパクトにな れば、裸の特異点まわりの時空と似た性質をもつ時空が現れる可能性があるので、2014 年度は、高速回転物体のサイズに下限に関する研究を数値解析によって進めました。その 結果は、「もっともらしいエネルギー条件を仮定したとしても、超高速回転物体のサイズ に下限は存在しない」こと示唆するものでした。この結果は、恒常的にではなく一時的か もしれませんが、裸の特異点まわりの時空と類似の性質を持った天体が実現しうることを 示唆するものです。 7. 一般相対論におけるLarge D limit(鈴木) 4つの相互作用をすべて統一的に記述する究極の理論の有力候補である超弦理論は、時空次 元が10ないしは11であることを予言します。この理論に触発され、高次元の古典重力理論に おけるブラックホール解の研究が、現在精力的に進められています。4次元時空の定常なブラ ックホールの事象地平のトポロジーは必ず球ですが、高次元時空では球とは限らないことが 知られています。それゆえ、ブラックホールという呼び名をトポロジーが球の事象地平を持 つものに限定し、一般のトポロジーの事象地平を持つものをブラックオブジェクトと呼んで います。4次元時空ではブラックホールの安定性が詳しく調べられており,安定であることが 知られていますが、高次元時空におけるブラックオブジェクトの安定性は、数値的な解析が 進められている最中です。ブラックオブジェクト解に多様性があるため、まだ調べ尽くされ てはいません。また数値的な解析は、解析的な近似法による解析結果との比較による結果の 確認が必要です。ところで、高次元極限 D→∞ をとると、摂動に対する基礎方程式は単純な 形になり、解析的に解くことができます。我々の研究グループは、バルセロナ大学の研究グ ループと協力し、Dを有限だが大きな数字と仮定して、この解にD-1, D-2, D-3...に比例する 補正を加えて有限次元の近似解を得る手法を開発しました。今年度はこの手法を発展させ、 漸近的に平坦なブラックホールと漸近的にAnti-de Sitterのブラックホールの摂動を解析的に 調べました。 教育・研究業績 著書 該当無し 学術論文 1. N. Maru, T. Nomura and J. Sato: “One Loop Radiative Correction to Kaluza-Klein Masses in S2/Z2 Universal Extra Dimensional Model”, PTEP2014 (2014) 8, 083B04. 2. C.S. Lim, N. Maru and T. Miura: “Is the 126 GeV Higgs Boson Mass Calculable in Gauge-Higgs Unification?”, PTEP2015 (2015) 4, 043B02. 3. H. Itoyama and N. Maru: “Mass Sum Rule of the Effective Action on Vacua with Broken Rigid N=1 Supersymmetry”, Nucl. Phys. B893, 332 (2015). 4. K. Nakao, M. Kimura, T. Harada, M. Patil and P.S. Joshi,“How small can an over-spining body in general relativity”, Phys. Rev. D90 (2014) 12, 124079. 5. R. Nishikawa, K. Nakao and C-M. Yoo, “Comparison of two approximation schemes for solving perturbations in Lemaitre-Tolman-Bondi cosmological model”, Phys. Rev. D90 (2014) 10, 107301. 53 6. 7. 8. M. Patil, P.S. Joshi, K. Nakao, M. Kimura and T. Harada, “Timescale for trans-Planckian collision in Kerr spacetime”, Europhys. Lett. 110 (2005) 3, 30004. R. Emparan, R. Suzuki and K. Tanabe,“Decoupling and non-decoupling dynamics of large D black holes”, JHEP, 1407 (2014) 113. R. Emparan, R. Suzuki and K. Tanabe,“Quasinormal modes of (Anti-)de Sitter black holes in the 1/D expansion”, JHEP, 1504 (2015) 085. 国際会議会議録 1. N. Maru: “Collider Signatures of Gauge-Higgs Unification at LHC”, Proceedings of Toyama International Workshop on Higgs as a Probe of New Physics 2015. 2. N, Maru: “Higgs Mass in D-Term triggered Dynamical SUSY Breaking”, Proceedings of Sakata Memorial KMI Workshop on "Origin of Mass and Strong Coupling Gauge Theories (SCGT15)". 国際会議講演 1. N. Maru: “Collider Signatures of Gauge-Higgs Unification at LHC”, The 2nd Toyama International Workshop on "Higgs as a Probe of New Physics 2015", 2015年2月11日, 富山大 学. 2. N. Maru: “Higgs Mass in D-Term triggered Dynamical SUSY Breaking”, Sakata Memorial KMI Workshop on "Origin of Mass and Strong Coupling Gauge Theories (SCGT15)", 2015年3月5日, 名古屋大学. 3. R. Suzuki:“Non-perturbative analysis of the Einstein equation in the large D limit”, ERE2014 (Spanish Relativity Meeting), 2014年9月2日 Valencia University. 4. R. Suzuki:“Derivation of higher dimensional black holes in the large D limit”, JGRG24 (Japan Gravitation and General Relativity international workshop), 2014年11月12日,IPMU. 学会・研究会講演 1. 丸信人:「Current Situation of Gauge-Higgs Unification」(招待講演),新ヒッグス勉強会第 12回定例会,2015年1月10日,富山大学. 2. 中尾憲一:「高速回転物体はどこまで小さくなれるか?」, 日本物理学会秋季大会, 2014年9月20日,佐賀大学本庄キャンパス. 3. 中尾憲一:「ブラックホールによる光子の軌道角運動量の生成1」,第24回“ブラックホー ル地平面勉強会”研究会,2014年10月4日,山口県湯谷温泉ビジネスホテル喜良久. 4. 中尾憲一:「On a minimum size of an over-spinning body」,第16回特異点研究会,2015年 1月12日,名古屋大学. 5. 中尾憲一:「無衝突粒子から成る無限に薄い球殻の相対論的衝突過程について」,第8回ブ ラックホール磁気圏研究会,2015年3月3日,広島大学. 6. 鈴木良拓:「次元極大極限における高次元ブラックホールの非線形解析」,日本物理学会秋 季大会,2014年9月20日,佐賀大学本庄キャンパス. 7. 鈴木良拓:「Large D極限を用いた回転ブラックホール解の探索」,第16回特異点研究会, 2015年1月12日,名古屋大学. 8. 鈴木良拓:「Large D 極限における回転ブラックホール解」,日本物理学会第70回年次大 会,2015年3月24日,早稲田大学早稲田キャンパス. 9. 西川隆介:「回転ブラックホールと光の軌道角運動量」,日本物理学会秋季大会,2014年 9月20日,佐賀大学本庄キャンパス. 10. 西川隆介:「ブラックホールによる光子の軌道角運動量の生成2」,第24回“ブラックホー ル地平面勉強会”研究会,2014年10月4日,山口県湯谷温泉ビジネスホテル喜良久. 11. 根岸宏行:「大スケールの非一様性がCMBの温度揺らぎに与える影響」,日本物理学会 第70回年次大会,2015年3月21日,早稲田大学早稲田キャンパス. 54 その他 1. 丸信人:「世紀の大発見!!ヒッグス粒子って何だろう?」 2014年4月15日 大阪市立大学 物理学科新入生歓迎会談話会にて講演. 2. 丸信人:「世紀の大発見!ヒッグス粒子って何だろう?」2014年4月29日 大阪市立大学 数学や物理の好きな高校生のための市大授業にて講演. 3. 丸信人:「質量の起源:ヒッグス粒子とは何か?」2014年5月16日 大阪府私学教育文化 会館 大阪私学数学教育研究会 春期講演会にて講演. 4. 丸信人:「世紀の大発見!! ヒッグス粒子って何だろう?」2014年7月9日 福島高専にて講 演. 5. 中尾憲一:「Dark Matter & Dark Energy(暗黒物質と暗黒エネルギー)」2015年1月18日 大阪市立科学館・科学館大好きクラブにて講演 6. 中尾憲一:Public Lecture, “The spacetime singularities predicted by general relativity: Big Bang, black holes and naked singularities” at Nehru Centre in Mumbai, India, 27 March 2015. 学位論文 修士論文 1. 米倉良一:「無衝突粒子から構成される無限に薄い同心球殻の2体系における相対 論的重力相互作用について」 博士論文 該当無し 研究助成金取得状況 1. 2. 丸信人:日本学術振興会科研費補助金・基盤研究(C)「ゲージ・ヒッグス統一模型におけ るフレーバー物理の研究」直接経費60万円,間接経費18万円. 中尾憲一:日本学術振興会科研費補助金・基盤研究(C)「相対論的非一様宇宙の研究」直 接経費70万円, 間接経費21万円. 海外出張および海外研修 1. 2. 鈴木良拓:スペイン王国バレンシア大学,2014年8月30日〜9月7日, 国際会議 ERE2014 (Spanish Relativity Meeting)に出席・発表. 中尾憲一:インド共和国タタ基礎科学研究所,2015年3月15日〜31日,共同研究打ち合わせ. 外国人研究者招聘 1. Pankaj S. Joshi: インド共和国タタ基礎科学研究所,2014年5月21日〜31日,共同研究打ち 合わせ及び素粒子論研究室と宇宙物理研究室の合同コロキウムでの講演. その他 1. 2. 3. 4. 丸信人:日本物理学会 素粒子論領域運営委員 丸信人:素粒子論グループ 素粒子論委員 丸信人:SSH大手前高校サイエンス探究発表会 講評 丸信人:日本学術振興会 特別研究員等審査会専門委員および国際事業委員会書面審査 委員 55 数理物理学研究室 糸山浩司 安井幸則 大橋圭介 教授 准教授 特任助教 大田武志 (数学研究所員) 須山孝夫 (数学研究所員) 吉岡礼治 (数学研究所員) 出口 翔 (D4) 樋ノ上和貴 (D3) 矢野航平 (D2) 廣岡隆孝 (M3) 北川大輝 (M2) 植田夏月 (B4) 山本順二 (B4) 吉田愛 (B4) 研究概要 1. q-変形 Virasoro/W 代数ブロックと ALE 空間上のインスタントン分配関数 (糸山・大田・ 吉岡) (Wyllard)-Alday-Gaiotto-Tachikawa 予想は, 2 次元共形場理論のコンフォーマルブロックと 4 次元 N = 2 超対称ゲージ理論のインスタントン分配関数の間に対応があるというもので ある. この (W)AGT 予想の「q-もちあげ」版から出発して, 変形パラメータ q をベキ根にす る極限をうまく考えると,2 次元理論側ではパラフェルミオン的なカレントが現われ, 4 次元 側では ALE 空間上の超対称ゲージ理論のインスタントン分配関数があらわれることを示し た. われわれの提案した極限操作により, あるクラスの 2 次元/4 次元対応を統一的にとらえ ることができることを示した. 2. DDSB(D-term Triggered Dynamical Supersymmetry Breaking) と Higgs Physics (糸山) 丸(大阪市立大学)と共に提案した D-term を引き金にする超対称性の力学的破れの新しい 機構をさらに進展させ、Higgs mass と超対称性の力学的破れを関係付けた。さらに進んで、 ボゾンーフェルミオン間の質量の和則を求めた。 3. 共形場理論における 相関関数の積分表示 (出口・糸山・大田・吉岡) 出口は WZW 模型における相関関数の積分表示を得るため、Kikuchi-Ishizuka 氏らによる Ghost 場をボゾン場で表示する手法を利 用し、よく用いられる Wakimoto 表示の相関関数 の積分表示よりも積分変数が少ない表示を考察した。 4. 超弦(紐)理論に於ける、(矢野・糸山) 糸山・矢野は、世界面両方向に任意にねじれた境界条件を持つ場合の genus 1 Green 関数を 求めることに成功した。これを用いて、非くりこみ定理等の解析をおこなっている。 5. 超重力理論のブラックホール時空の対称性の研究(安井) 真空のブラックホール時空厳密解の“ 思いがけない対称性 ”は共形キリング・矢野テンソル と呼ばれる特別なテンソル場によって記述されることが知ら れている. 超弦理論や超重力 理論の舞台となる高次元時空には重力場以外にスカラー場, 反対称テンソル場等々の物質場 が存在する. 超重力理論の高次元ブラックホール時空厳密解にも思いがけない対称性が存在 し、「ねじれ」を持つ共形キリング・矢野テンソルによって記述できることがわ かった. 6. ヘテロ型超重力理論の BPS 解の構成 (安井、樋ノ上) G-構造は,超弦理論や超重力理論における超対称な厳密解を構成する強力な手法を提供す る.本研究では,6 次元,7 次元および 8 次元でコンパクト 化した,ヘテロ型超重力理論の BPS 解を得た。 7. 例外群 E8 に基づく非線形模型に関する幾何学的な考察 (安井、廣岡) 3 世代のクオーク・レプトンを収容する例外群 E8 をターゲットとする非線形シグマ模型を 考察した. ターゲット空間上の複素構造および Einstein 計量の分類を行い、この模型の現代 的な意味の是非を考察した。 56 8. 超対称性理論におけるボーテックス (大橋) 超対称性理論のボーテックス解について様々な角度から研究を行っている。非アーベリアン ゲージ理論において形成されるボーテックス解を考えると、その解はフレーバー対称性に起 因した内部モジュライを一般に持つ。そのフレーバー対称性をゲージ化した理論を考えると 低エネルギー理論でヒッグス機構で壊れずに生き残るゲージ場が現れるが、ボーテックスは このゲージ場に対し Aharonov-Bohm 効果や、電荷、電流をその軸上に持つようになる。こ のような機構を発見し、具体的に計算した。 9. 行列模型を用いた Chern-Simons-matter 理論の解析(須山) ABJM 理論を含む一群の Chern-Simons-matter 理論は、AdS/CFT 対応の観点から詳しい 研究がなされてきた。須山は、より一般的な Chern-Simons-matter 理論の性質を系統的に 解析し、これまでに知られている AdS/CFT 対応の拡張の可能性について考察した。 教育・研究業績 学術論文 1. H. Itoyama , Nobuhito Maru: “ Mass Sum Rule of the Effective Action on Vacua with Broken Rigid N=1 Supersymmetry ”, Nucl. Phys. B893 332-345, arXiv:1411.1192 [hepth],(2015) 2. H. Itoyama, A. Mironov and A. Morozov, “Matching branches of a nonperturbative conformal block at its singularity divisor,” Theor. Math. Phys. 184, no. 1, 891 (2015) [arXiv:1406.4750 [hep-th]]. 3. H. Itoyama, and Nobuhito Maru:“126 GeV Higgs Boson Associated with D-term Triggered Dynamical Supersymmetry Breaking”, Symmetry 2015, 7(1), 193-205; doi:10.3390/sym7010193, special issue supersymmetry 2014, arXiv:1312.4157 [hep-ph] 4. H. Itoyama, T. Oota, R. Yoshioka: “q-Virasoro/W algebra at root of unity and parafermions”, Nucl. Phys. B 889, 25-35, arXiv:1408.4216 [hep-th] (2014). 5. J. Evslin, K. Konishi, M. Nitta, K. Ohashi, W. Vinci: “Non-Abelian Vortices with an Aharonov-Bohm Effect”, JHEP 1401, 086 (2014). 6. K.Hinoue, T.Houri, C.Rugina and Y. Yasui “ , General Wahlquist metrics in all dimensions ” Phys. Rev. D 90 (2014)024037. 7. K.Hinoue, S.Mizoguchi and Y. Yasui,“ Supersymmetric heterotic solutions via non-SU(3) standard embedding ” Phys. Rev. D 90 (2014)106009. 8. T. Houri, and Y. Yasui,“ A simple test for spacetime symmetry ”Class. Quant. Grav. 32 (2015)055002. 9. K.Hinoue and Y. Yasui,“ Heterotic solutions with G2 and Spin(7) structures ”JP Journal of Geometry and Topology, Vol. 17, Number 1(2015) 17-48. 国際会議会議講演 1. H. Itoyama: “ Review of Alday-Maldacena Minimal Area Calculation of Multigluon Scattering Amplitudes ”, invited talk at Symposium on the Frontier of Hadron Physics, Center for Nuclear Matter Science, Central China Normal University, in Wuhan, China, 2014 年 6 月 15 日 2. H. Itoyama: “ q-Virasoro algebra at root of unity, parafermions and 2d-4d connection ”, invited talk, Mini-symposium“ Moduli Space, Conformal Field Theory and Matrix Model (MCM2015) ”, Okinawa Institute of Science & Technology (OIST), Okinawa, 2015 年 3 月 18 日 57 学会・研究会講演 1. H. Itoyama: “ Review of the deformation theory of prepotential and the S-W system ”, 招待講演、第 6 回静岡素粒子集中セミナー, 静岡市産学交流センター B-nest, 2014 年 12 月 5 日 2. H. Itoyama: “ Mixed Majorana-Dirac gauginos and D-term triggered dynamical supersymmetry breaking ”, テラスケール 2014∼先端加速器 LHC が切り拓くテラスケールの素 粒子物理学∼, 大阪大学基礎工学部Σホール, 2014 年 11 月 29 日 3. H. Itoyama, N. Maru “ Mass Sum Rule of the Effective Action on Vacua with Broken Rigid N=1 Supersymmetry ”, 日本物理学会第 70 回年次大会, 早稲田大学早稲田キャンパ ス, 東京, 2015 年 3 月 21 日 4. 吉岡礼治, 糸山浩司, 大田武志: “q-Virasoro/W algebra at root of unity limit and parafermion” 日本物理学会 2014 年秋季大会, 佐賀大学, 2014 年 9 月 19 日 5. 糸山浩司: 年末研究発表会 2014 年 12 月 25 日. 6. 安井幸則 : “ Killing-Yano 対称性と時空の分類 ”京都大学素粒子論セミナー, 2014 年 6 月 4 日. 7. 安井幸則“ A simple test for spacetime symmetry ”Workshop on geometry, extra dimensions and string phenomenology in Miyazaki, 2014 年 11 月 5 日. 8. 安井幸則“ 時空の対称性を数える ”大阪市立大学数学物理合同セミナー, ANA ホリデイ・イ ン リゾート宮崎 2015 年 2 月 21 日. 9. 宝利剛, 安井幸則“ Prolongation of rank-2 symmetric Killing tensors and curvature conditions ”日本物理学会, 早稲田大学, 2015 年 3 月 24 日. 10. 安井幸則“ アインシュタイン計量との出会い ”大阪市立大学退職談話会 2015 年 3 月 26 日. 11. 大田武志: 「Matrix models and quantum curves」 ミニワークショップ「数学・物理に おける可積分性の諸相」, 大阪市立大学, 2015 年 3 月 11 日 12. 吉岡礼治: “q-Virasoro/W algebra at root of unity limit and parafermion” YITP workshop on string theory and quantum field theory ”Strings and Fields” 京大基研, 2014 年 7 月 22 日 13. 吉岡礼治: “q-Virasoro algebra at root of unity limit and current algebra” ミニワーク ショップ「数学・物理における可積分性の諸相」, 大阪市立大学, 2015 年 3 月 9 日 その他 1. 糸山は 2013 年度から 2014 年度にかけ、週末に有志を集め、string theory の lecture を合 計 20 回行った。 学位論文 修士論文 1. 廣岡隆孝: 「例外群 E8 に基づく素粒子の統一模型」 2. 北川大輝: 「ゲージ・ヒッグス統一模型における電弱対称性の破れ」 博士論文 1. 樋ノ上和貴:“Supersymmetric Solutions with SU(3), G2 and Spin(7) Structures”. 58 研究助成金取得状況 1. 糸山浩司: 日本学術振興会基盤研究 (C) 研究代表者, No.23540316「ゲージ理論と紐理論に於 ける可積分性の出現と素粒子物理への予言」60 万円 2. 安井幸則:学術振興会・基盤研究 (C)「高次元ブラックホールの対称性」60 万円 海外出張および海外研修 1. H. Itoyama: Symposium on the Frontier of Hadron Physics, Center for Nuclear Matter Science, Central China Normal University, in Wuhan, China, 2014 年 6 月 13 日-16 日 その他 1. 糸山浩司:Melnikov, Mironov, Morozov と協力して、Workshop“ Group Theory and Knots ”, at the IIP from November 17 to 28, 2014, in Natal/RN-Brazil を組織した。 2. 糸山浩司:数学研究所(数学科)の尾角氏と協力して、mini-workshop 「数学・物理にお ける可積分性の諸相」を大阪市立大学にて 2015 年 3 月 9 ー 11 日に開催した。 3. 糸山浩司:小原・荻尾・丸と協力して、大手前高校との高大連携 SSH をさらに推し進めた。 4. 安井幸則:大阪市立大学, 2015 年 3 月 16 日 研究会「Mathematics and Physics in General Relativity」を開催 59 宇宙物理研究室 石原 秀樹 浜端 広充 教授 准教授 木下俊一郎(数学研究所研究員) 松野 研(数学研究所研究員) 龍岡 聖満(D5) 桝田 篤樹(D3) 長谷川創一(M2) 小川 達也(M2) 寺前 柊斗(M1) 矢久間 司(M1) 研究概要 <重力理論分野> 宇宙物理(重力)グループは,アインシュタインの一般相対性理論を基礎として, 宇宙にお ける強い重力場を伴う物理的現象を重点的に研究している.素粒子論研究室とはコロキウム を共同開催し,研究・教育も協力して行っている.また,数理物理研究室とも盛んな研究交 流がなされている.2014年度に行った研究を以下にまとめる. 1. 高次元時空 (木村(ケンブリッジ大),田中(京大),松野,石原) (1)3次元空間が膨張し,1次元の余剰次元が収縮する5次元の宇宙モデルの中に存在する 電荷をもったブラックストリングを表す厳密解を構成した.そのホライズンは解析 的であることを明らかにした.また,ブラックストリング周りに準安定円軌道が存 在し,最内安定円軌道の半径は時間とともにゆっくり大きくなることがわかった. (2)Kerr-Taub-bolt と呼ばれるリッチ平坦なユークリッド計量の空間を基底としてレン ズ空間のトポロジーをもつ1対のブラックホール厳密解を構成した.無限遠のトポロ ジーを固定しても, ホライズンのトポロジーには無限の可能性があることを示した. (3)ブラックホールのホライズンの解析性を調べるために,計量が正則となる座標系で の計量成分の可微分性について研究した. 2. 光渦の生成と伝播(桝田,木下,中尾,西川,南部(名古屋大),石原) 光が進行方向を軸として軌道角運動量をもつ状態である光渦が知られている. 曲がった時空を伝播する光渦の軌道と光渦ベクトルの伝播に関する連立方程式を導出し た.また,重力レンズによる波動の干渉によって,光渦が生成される過程について研究 し,波の重ね合わせによって光渦が生じることを見出した. 3. 余一様性1の相対論的な紐の運動(長谷川,石原) Nambu-Gotoの方程式で記述される相対論的な紐の運動は,幾何学的な対称性を課すこと によって,運動方程式を対称性の方向に射影した空間上の測地線方程式に帰着する.こ の紐を余一様性1の紐という.任意の次元のMinkowski時空において余一様性1の紐の 方程式が可積分であることを示した.また,このことを定曲率空間にも拡張した. 4. 電場を遮蔽する宇宙紐(小川,石原) 宇宙初期の真空の相転移に際して生成されると考えられている宇宙ひもについて,U(1) 対称性が自発的に敗れている複素スカラー場とゲージ場のモデルを用いて解析した.紐 状の外部電荷が分布するとき,その周りに形成される宇宙ひもは,複素場の位相が回転 することにより,電荷による電場を遮蔽することが明らかになった. 60 <流体・プラズマ物理分野> 1. HALL MHD方程式に対する非線形磁気流体波の厳密解(浜端) 理想および非理想の MHD 方程式に対する非線形磁気流体波について,これまで数多 く厳密解を見いだしてきた.昨年度に引き続き HALL 効果を考慮した MHD 方程式に対 する非線形磁気流体波の厳密解について更に研究し,特殊な形ではあるが厳密な helical 対称解を見いだした.現在、より一般的な helical 対称性を持つ解を見いだすべく検討 中である. また,自己重力のある非理想の成層流体中で,温度勾配によりつくられる対流力が存 在する場合の非線形磁気流体波の厳密解についても研究し,2次元および並進対称性のあ る非線形磁気流体波の厳密解を見いだしている.更に,より一般的な厳密解を見いだす べく研究中である.また,helical 対称性を持つ解についても検討中である. 2. Firehose不安定の非線形発展(浜端) 温度異方性のあるプラズマ中で生じるマクロな不安定である firehose 不安定の非線形 発展について研究し,イオンの有限ラーマー半径効果を考慮した CGL 方程式を数値解析 することにより, 不安定はカオス的になっていくことを既に明らかにしている.数値解 析の結果から,解析解がカオス解へ移行するに当たり,乱れの磁気エネルギーの空間一 様性が壊れていく可能性があることがわかった.その点に着目し,昨年度に引き続き, 空間非一様性の効果を取り入れた基礎方程式系に基づいた firehose 不安定の非線形発展の 数値解析を行いつつある.更に,波動・粒子共鳴相互作用等の運動論的効果を考慮する ため,Vlasov 方程式に基づく理論解析および数値シミュレーションについても検討中で ある. 3. 大 振 幅 Alfvén波 の パ ラ メ ト リ ッ ク 不 安 定 ( 浜 端 ) 昨年度に引き続き,大振幅のAlfvén波のパラメトリック不安定への運動論的効果につい ての研究をVlasov方程式に基づいた線形解析によって行っている.また,大振幅Alfvén 波のスペクトルの広がりの効果や斜め伝播のモードへの崩壊の可能性についても,MHD 方程式とともにVlasov方程式に基づいて研究しつつある.また,太陽風プラズマの加熱 等への応用についても検討中である. 教育・研究業績 学術論文 1. Integrability of Particle System around a Ring Source as the Newtonian Limit of a Black Ring Takahisa Igata , Hideki Ishihara, Hirotaka Yoshino Phys.Rev. D91 (2015) 8, 084042. OCU-PHYS-415, AP-GR-117 : arXiv:1412.7033 [hep-th] 2. Meson turbulence at quark deconfinement from AdS/CFT Koji Hashimoto, Shunichiro Kinoshita, Keiju Murata, Takashi Oka Nucl.Phys. B896 (2015) 738-762. arXiv:1412.4964 [hep-th] 3. Membranes with a symmetry of cohomogeneity one. Hiroshi Kozaki, Tatsuhiko Koike, Hideki Ishihara Phys.Rev. D91 (2015) 2, 025007 OCU-PHYS-412, AP-GR-116 : arXiv:1410.6580 [gr-qc] 4. Charged Black Holes in a Five-dimensional Kaluza-Klein Universe. Yuki Kanou, Hideki Ishihara, Masashi Kimura, Ken Matsuno, Takamitsu Tatsuoka Phys.Rev. D90 (2014) 8, 084004. OCU-PHYS-408, AP-GR-113 : arXiv:1408.2956 [hep-th] 5. Turbulent meson condensation in quark deconfinement Koji Hashimoto, Shunichiro Kinoshita, Keiju Murata, Takashi Oka. 61 6. Phys.Lett. B746 (2015) 311-314. AP-GR-114, OCU-PHYS-409, arXiv:1408.6293 [hep-th] A simple diagnosis of non-smoothness of black hole horizon: Curvature singularity at horizons in extremal Kaluza-Klein black holes. Masashi Kimura, Hideki Ishihara, Ken Matsuno, Takahiro Tanaka Class.Quant.Grav. 32 (2015) 1, 015005 OCU-PHYS-406, AP-GR-112 : arXiv:1407.6224 [gr-qc] 国際会議発表 1. Shunichiro Kinoshita “Electric field quench in AdS/CFT” The 24th JGRG Workshop, 10-14 Nov. 2014, Kavli IPMU, Kashiwa 2. Takahisa Igata, H. Yoshino and H.ishihara “Integrability of Particle System around a Ring Source as the Newtonian Limit of a Bla ck Ring” The 24th JGRG Workshop, 10-14 Nov. 2014, Kavli IPMU, Kashiwa 3. Hideki Ishihara, M. Kimura and K. Matsuno “Charged multi-black strings in a five-dimensional Kaluza-Klein universe” The 24th JGRG Workshop, 10-14 Nov. 2014, Kavli IPMU, Kashiwa 4. Ken Matsuno, M.Kimura and H.Ishihara “Multi-black holes on Kerr-Taub-bolt space in five-dimensional Einstein-Maxwell theory” The 24th JGRG Workshop, 10-14 Nov. 2014, Kavli IPMU, Kashiwa 学会・研究会講演 1. 木下俊一郎,橋本幸士,村田佳樹,岡隆史 "Turbulent meson condensation in quark deconnement" 日本物理学会2014年 秋季大会 第70回年次大会 (早稲田大 3/21-24,2015年) 2. 松野研,石原秀樹,木村匡志 "Kerr-Taub-bolt空間上の5次元多体ブラックホール" 日本物理学会2014年 秋季大会 第70回年次大会 (早稲田大 3/21-24,2015年) 3. 木下俊一郎,村田佳樹,橋本幸士,岡隆史 "ホログラフィックQCDにおける時間依存電場への応答" 日本物理学会2014年 秋季大会(佐賀大 9/18-21,2014) 4. 西川隆介,桝田篤樹,中尾憲一,石原秀樹,南部保貞 "回転ブラックホールと光の軌道角運動量" 日本物理学会2014年 秋季大会(佐賀大 9/18-21,2014) 5. 伊形尚久,石原秀樹,吉野裕高 "5次元ブラックリングのニュートン極限における質点系の可積分性" 日本物理学会2014年 秋季大会(佐賀大 9/18-21,2014) 6. 宮本雲平,原田知広,木下俊一郎 "ワームホール形成に伴う量子効果" 日本物理学会2014年 秋季大会(佐賀大 9/18-21,2014) 7. 石原秀樹 “Black holes induced by a Killing reduction of AdS space” 第16回特異点研究会 (2014年1月10日~12日 名古屋大 東山キャンパス) その他 1. 石原秀樹 文化交流センター専門家講座「宇宙膨張のしくみ」(2月17日) 62 学位論文 修士論文 1. 小川 達也 “位相が回転する宇宙ひも(Phase rotating cosmic strings)” 2. 長谷川創一 “等長変換群の作用による軌道空間の対称性(Symmetry of an orbit space of the isometry group action on a spacetime)” 研究助成金取得状況 1. 科研費基盤研究 C(代表) 「ブラックホールの観測的検証へ向けた光線および偏光の解析」 海外出張および海外研修 1. 桝田篤樹 Spanish Relativity Meeting – ERE 2014 (University of Valencia,Spain, 9月1日〜5日) 63 原子核理論研究室 櫻木弘之 教授 有馬正樹 准教授 勝間 正彦 研究員※ 鳥井田浩也(M2) 栢野翔太(M2) 金子祥太郎(M2) (※数学研究所専任研究所員) 尾田達也(M1) 大野弘貴(UG4) 守本寛治(UG4) 山岡有輝也(UG4) 研究概要 1. スキルム模型によるπN散乱振幅でのP11部分波の研究(栢野、有馬) π中間子・核子(πN)散乱振幅におけるP波散乱は、低エネルギー領域での主要な部 分波であるだけでなく、この部分波に見出される共鳴状態の構造が未解明であることか ら、興味深い研究対象の一つである。スキルム模型はハドロンの構造や相互作用を調べ る為の有効模型であり、古典的なソリトン解をもつことが特徴である。このソリトン解 は集団座標の量子化の方法により核子と対応づけられる。そして、ソリトン解の周りに 場のゆらぎを考えて、それに正準量子化の方法を適用することでπ中間子が現れる。ソリ トン解が存在する中で場を量子化する際に重要なのは、生成消滅演算子を導入するため に用いる関数系に対してソリトン解の影響を考慮することである。本研究はスキルム模 型におけるこの関数系を具体的に求める方法について、特にP波散乱に着目して議論した。 そして、固有値方程式を数値的に解くことにより関数系を得ることに成功した。 2. スキルム模型によるデルタ共鳴の研究(鳥井田、有馬) デルタ共鳴は最も有名な核子の共鳴状態であり、120 MeV 程度の崩壊幅でπN状態に崩 壊する不安定な状態である。スキルム模型では、これを集団座標の量子化に伴って現れる 励起状態の一つとして再現した。しかし、初期の考察では、量子論的なπ中間子の扱いが なされていなかったので、デルタ共鳴の崩壊という特徴までは議論できなかった。その後、 ソリトン解の周りの場のゆらぎを正準量子化することにより、π中間子をスキルム模型の 中で量子論的に扱えるようになった。この研究は、場のゆらぎの量子化を集団座標の量子 化とあわせて考えることにより、スキルム模型の中でデルタ共鳴の崩壊という特徴を説明 できることを示したものである。ソリトン解の周りに場のゆらぎを考慮して、集団座標に 関わる演算子と場のゆらぎが結合した項がラグランジアンに現れることを示し、デルタ共 鳴がπN状態と結合する機構を具体的に説明した。 3. 重イオン弾性散乱による高密度核媒質効果の分析 (古本、櫻木、山本) 複素G行列相互作用を用いた原子核間相互作用に 関する、我々の研究グループによる一連の研究によ り、核媒質中での三核子間斥力が重要な役割を果た し、対称核物質の状態方程式を決定する上で三体核 力が重要な役割を果たしていることが明らかにな ったが、原子核弾性散乱の実験によって、実際に核 媒質のどのくらいの高密度領域まで探索が可能で あるのか、その定量的な分析はこれまで不十分であ った。今回、原子核同士の相互作用ポテンシャルを 計算する過程で、局所密度が飽和密度を超えた高密 64 度になる場合について、局所密度がある一定の密度を超えないような操作を人為的に加え て、どのくらいの高密度まで観測量に見えているかを詳細に分析した。その結果、典型例 である E/A =70 MeV での16O + 16O 弾性散乱断面積の最後方角度での測定データは、飽和 密度の約1.7倍(Fermi運動量に換算して kF =1.6~1.7 fm-1)の高密度領域での媒質効果を見 分ける精度があることが明らかになった。更に、高密度領域での媒質効果の主要部分は三 体核力の効果であることも示された(論文1、国際会議講演1,2,4). 4. 複素G行列相互作用を用いた12C+12C弾性・非弾性散乱実験と三体力の効果 (W.W.Qu, G.L. Zhang, I.Tanihata, 古本、櫻木、山本、谷畑、他) 共同研究をおこなっている実験グループ(Beihang大、阪大、理研、他)が阪大核物理研 究センターで行った、E/A = 100 MeV での12C + 12C 弾性散乱および低励起状態への非弾 性散乱実験を、複素G行列に基づく微視的チ ャネル結合計算により分析した。この際、三 体核力を含まないケース(A)、現象論的三体 核 力 を 含 む ケ ー ス (B) 、 お よ び 、 MultiPomeron-exchange (MPP) 模型に基づく三体 核力を含むケース(C)の3種類の相互作用模 型を用いた理論計算と実験結果を比較した ところ、弾性散乱と非弾性散乱を同時に矛盾 なく再現する上では、(C)の相互作用模型が 最も優れていることが明らかになった(国際 会議講演3,(現在、論文投稿中))。 5. 高エネルギー6Li散乱における動的分極ポテンシャルのエネルギー依存性 (金子、櫻木、古本) 複素G行列に基づく原子核間相互作用に関する我々の先行研究で、原子核間ポテンシャ ルの実部および虚部が、衝突エネルギーの変化に応じて、その強さや符号が急激に変化す ることが明らかになり、核子当りの衝突エ ネルギー(E/A)が300 MeV付近を境に、原子 核間ポテンシャルの実部(V)が引力(V < 0) から斥力(V > 0)に転移するという予言が され、その検証実験も計画されている。こ の急激なエネルギー依存性は、同時に、非 弾性散乱や分解反応等の核反応のメカニ ズムにも大きく影響することが予想され る。本研究では、この複素G行列相互作用 を用い、6Li + 58Ni 弾性散乱における6Li → α + d 分解過程の効果をCDCC法(離散化 連続チャネル結合法)を用いて分析し、6Li → α + d 分解過程が弾性散乱チャネルの ポテンシャルに及ぼす補正効果(動的分極 ポテンシャル:DPP)の入射エネルギー依 存性を、E/A = 100~400 MeVの領域について分析した。その結果、従来、「普遍的に斥力 的効果である」という定説であった6Li → α + d 分解効果が、エネルギーによって急激に 変化し、E/A = 100MeVでは従来と同じであった効果が E/A = 200~400 MeV領域では、定 性的に全く異なる性質を示すことが明らかになった。また、その理由についての分析も行 った(金子:修士論文)。 65 教育・研究業績 学術論文 1. T. Furumoto, Y. Sakuragi and Y. Yamamoto, “Medium effect in high-density region probed by nucleus-nucleus elastic scattering”, Phys. Rev. C 90, 041601(R) /1--041601(R) /5 (2014) 2. M. Katsuma, “Photoelectric disintegration of 16O”, Phys. Rev. C 90, 068801 (2014) 国際会議講演 1. T. Furumoto, Y. Sakuragi and Y. Yamamoto “Important role of medium effect in high-density region” (Fourth Joint Meeting of the Nuclear Physics Divisions of the American Physical Society and The Physical Society of Japan October 7-11, 2014) 2. T. Furumoto, Y. Sakuragi and Y. Yamamoto, “Systematic analysis of medium effect in high-density region on nucleus-nucleus elastic sc attering”, (International Molecule-type Workshop "Structure and reaction of light exotic nuclei", YIT P, Kyoto Univ. Jan.6-23, 2015) 3. T. Furumoto, Y. Sakuragi and Y. Yamamoto, “Analysis of elastic and inelastic cross sections for 12C + 12C system at E/A = 100 MeV” (Mini-Workshop on Nuclear Physics: Study of high-density nuclear matter through heavyion scattering phenomena, Hosei Univ. Aug.26, 2014) 4. Y. Sakuragi, “A strategy and practical tactics for how to probe EOS of high-density nuclear matter in laboratory nuclear experiments” (Mini-Workshop on Nuclear Physics: Study of high-density nuclear matter through heavy-i on scattering phenomena, Hosei Univ. Aug.26, 2014) 学会・研究会講演 1. 古本猛憲、櫻木弘之、山本安夫、 「重イオン弾性散乱による高密度核媒質効果の分析」, 日本物理学会第 70 回年次大会(早稲田大学、2015.3.21-24) 学位論文 修士論文 1. 鳥井田浩也:「スキルム模型によるデルタ共鳴の研究」 2. 栢野翔太:「スキルム模型によるπN散乱振幅でのP11部分波について」 3. 金子祥太朗:「高エネルギー6Li 弾性散乱における6Li 分解過程の効果」 その他 1. 2. 3. 櫻木弘之:日本学術振興会「平成25年度特別研究員等審査会専門委員表彰」(2014.8.1) 櫻木弘之:日本物理学会 理論核物理領域・領域代表 (2014.4.1-2015.3.31) 櫻木弘之:RNCP Cyclotron accelerator Beam-time Program Advisory Committee (Apr.2014. Mar.2015) 66 4. 5. 6. 7. 8. 9. 櫻木弘之:4th Joint Meeting of the APS Division of Nuclear Physics and the Physical Society of Japan (Oct.7-10,2014)プログラム委員 櫻木弘之:ワークショップ「高密度核物質と重イオン原子核散乱の物理」(2014.8.26-27, 法政大学)世話人 櫻木弘之:特命副学長(2013.4.1~2015.3.31) 櫻木弘之:大阪大学非常勤講師(全学教育推進機構) 櫻木弘之:神戸大学非常勤講師(理学部) 櫻木弘之:大阪府立三国丘高校 SSH運営指導委員会委員 67
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