1.A 型インフルエンザウイルス(H3N8)の感染性および病原性の 検討

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14 競走馬総合研究所年報 2011 年
1.A 型インフルエンザウイルス(H3N8)の感染性および病原性の
検討
(H21∼23年)
[要 約] 分子生物研究室/微生物研究室
馬インフルエンザウイルス(EIV)が、2004年に犬へ伝播し、米国の犬の間で定着している。そこ
で、EIV の感染馬、および犬インフルエンザウイルス(CIV)の感染犬が、それぞれ犬および馬に対
して、交差的にウイルスを伝播し得るのかを実験的に検証した。その結果、EIV 感染馬は、同居によ
り EIV を容易に犬へ伝播させる一方、CIV 感染犬が馬へ同居により CIV を伝播する可能性は極めて低
いことが示された。また、CIV は EIV に較べて、馬に特有なシアル酸への結合性を低下させており、
このことが CIV の馬への感染性の低下に寄与していることが示唆された。
[背景と目的]
2004年に、米国の犬間で A 型インフルエンザウイルスによる呼吸器疾患が流行し、米国で風土病的に蔓
延している。発症犬の分離ウイルス (CIV) の解析から、フロリダ亜系統の馬インフルエンザウイルス (EIV)
が、馬から犬に伝播したことが判明している。本研究の目的は、EIV と CIV の犬と馬に対する交差的な病
原性を評価するとともに、両ウイルスの性状比較により異宿主間伝播のメカニズムを解明することにある。
[研究成績]
EIV(A/equine/Ibaraki/1/2007,H3N8)を3頭の馬に接種し、それぞれ健康な犬と同居させた(図1)。全
ての馬は発熱などの症状を示し(図2)、鼻腔からのウイルス排泄を示した(表1)。一方、犬は無症状で
あったが、3匹中2匹はウイルス排泄を示し(表1)、全ての犬が血清学的陽転を示した(表2)。以上の
こ と か ら、EIV 感 染 馬 か ら 犬 へ は、同 居 に よ り 容 易 に EIV が 伝 播 す る こ と が 示 さ れ た。次 に、CIV
(A/canine/CO/30604/200
6,H3N8)を3匹の犬に接種し、それぞれ健康な馬と同居させたところ、全ての
犬は発熱などの症状を示し(図3)、鼻腔からのウイルス排泄を示した(表3)。一方、馬は無症状であり、
ウイルス排泄(表3)および血清学的陽転も示さなかった(表4)。以上のことから、CIV 感染犬から馬へ
は、同居するだけでは CIV は伝播しないことが示された。さらに、馬に特有で、馬への感染に重要なシア
ル酸である N-glycolylneuraminic acid α2-3 galactose への結合性をウイルス間で比較したところ、CIV の結
合性は EIV よりも明らかに低下していた(図4)
。このことは、CIV の馬への感染性の低下の一因である
と考えられた。
[成果の活用]
本研究成績は、H3N8の A 型インフルエンザウイルスの伝播様式に関する新しい知見を呈示しており、
馬インフルエンザの防疫施策に活用されることが期待される。
競走馬総合研究所年報 2011 年( )
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研究の種類:一般研究
研究の期間:H21 ∼ 23 年
研究担当者:山中隆史
成果の発表:Veterinary Microbiology 193: 351-355 (2009), Influenza and Other Respiratory Viruses 4: 345-351 (2010), Journal of
Veterinary Medical Sciences 73: 125-127 (2011), Trends in Glycoscience and Glycotechnology 23: 248-255 (2011)