1.一般的なガスの分類方法とその識別及び性質

1.一般的なガスの分類方法とその識別及び性質
高圧ガスの移動は必ず容器に充填されて行われるからその容器に印された刻印及び容器に表
示されている文字やマークから識別できる。
共通記載事項
刻印 ガス名(化学式)或いは
SG(特殊高圧ガスで非常に危険)
PG(不活性ガス=第一種ガス)
FC1,FC2,FC3
(フルオロカーボン系ガス数字は 35℃時の最大蒸気圧)
内容積(V)
耐圧試験圧力(TP)
重量(W)
容器番号
検査者
製造者
検査年月 圧縮ガスの場合充填圧力(FP)
アセチレンと超低温容器特有の刻印(TW)
(圧力部材以外に断熱材や、マス重量が加わるため)
1-1 形状からみた分類と識別方法
液化ガス
常温液化ガス
通常容器
大型容器
タンクローリー
100〜1,000
5,100〜13,000
通常容器
集合容器
コンテナー
2〜50
480〜1,500
5,100〜13,000
通常容器のみ
3.6〜55
超低温液化ガス 2〜100
圧縮ガス
溶解ガス(アセチレン)
バルブに LG の刻
印
バルブに PG の刻
印
容器に FP の刻印
バルブに AG の刻
印
1-2 性質からみた分類と識別
a.可燃性ガス
可燃性ガスとは、
1. 空気中の爆発下限界が 10% 以下のガス
或いは
2. 爆発限界の上限界 と下限界の差が 20% 以上のガス等
と定義され、
空気中で
「火を着けると燃える」
「衝撃 を与えると爆発する*1」
「空気に触れると自然発火する」
ガスの総称です。
可燃性ガス は一部の例外を除いて、単独では燃焼爆発の危険はなく、空気等の支燃性ガスと
一定の 割合で混合されるといった条件が満たされた時に燃焼爆発します。従って1に分類され
るガスは少ない漏洩量でも着火し防災上特に注意を要するガスといえます。
*1 アセチレン、ジボラン、酸化エチレン等で常温で衝撃により自己分解爆発する。
保管温度を下げることにより抑制できる。
a-1
容器塗色から見た可燃性ガスの識別
燃
可燃性ガス容器にはペイントで赤色または赤地に白文
字で「燃」の文字
● 水素及びアセチレンは白文字。
水素容器色
赤色
アセチレン容器色
褐色(赤茶色)
アンモニア(可燃性毒性)容器色
白色
グレー(ネズミ色)地の容器に赤帯或いは赤ラインは
a-2
可燃性ガス
容器に表記されたガス名及び刻印から見た可燃性ガスの識別
容器にはガス名が表記されている。
容器には化学式或いは SG,LP の文字が刻印されている。
b.毒性ガス
人間が吸引したり触れると害があるガスを毒性ガスといい、法律上の定義では恕限量が
200PPM 以下のガスを毒性ガスと言います。
まず耳慣れない言葉として「恕限量じょげんりょう」がありますが「恕限量」とはその雰囲気の中で健
康な成人が八時間の軽作業をして影響を与えない最大量という意味で許容濃度と云った方が分
かりやすいとおもいます。
b-1
容器塗色から見た毒性ガスの識別
毒
毒性ガス容器にはペイントで黒色文字で「毒」の文字。
毒性ガス容器にはペイントで黒色文字で「毒」の文字。
塩素容器色
黄色
アンモニア(可燃性毒性)容器色
白色
グレー(ネズミ色)地の容器に赤帯或いは赤ラインは可燃性毒性のガスの場合がある。
b-2
容器に表記されたガス名及び刻印から見た毒性ガスの識別
容器にはガス名が表記されている。
容器には化学式或いは SG,文字が刻印されている。
毒性ガスの例と恕限量等一覧
表(b)
ガス名
分子式
恕限量
比重
状態
フッ素
F2
0.1ppm
1.31
圧
塩素
Cl2
1.0ppm
2.40
液
塩化水素
HCl
5.0ppm
1.23
液
通常容器
水アルカリ有効
NF3
10ppm
2.46
圧
通常容器
強支燃性
SF4
0.1ppm
3.78
液
通常容器
猛毒
三フッ化窒
素
四フッ化窒
素
荷 姿
特徴及び備考
通常容器
猛毒・強支燃性
通常・大型容器・
ローリー
量大・支燃性
注1 状態項目の 圧は圧縮ガス、液は液化ガス。比重は大気圧ガス化時の空気比重
c可燃性毒性ガス
「可燃性毒性ガス」とは、「可燃性ガス」と「毒性ガス」の両方の性質を持っているガ スを特に
「可燃性毒性ガス」と言います。 この仲間には特殊高圧ガスなど特に危険な 物が多いので取
扱には充分注意を要します。
c-1
容器塗色から見た可燃性毒性ガスの識別
可燃性毒性ガス容器にはペイントで赤文字で「燃」と黒文字で「毒」の両方表記
アンモニア(可燃性毒性)容器色
白色
グレー(ネズミ色)地の容器に赤帯或いは赤ラインは可燃性毒性のガスの場合がある。
c-2
容器に表記されたガス名及び刻印から見た可燃性毒性ガスの識別
容器にはガス名が表記されている。
容器には化学式等でガス名が刻印されている。
可燃性毒性ガスの例と爆発範囲等一覧
ガス名
分子式
モノシラン
表(c)
爆発範囲(%)
比重
状態
荷 姿
特徴及び備考
SiH4
自然発火
1.11
圧・特
通常容器
TLV 5ppm
ジシラン
Si2H6
自然発火
2.15
液・特
通常容器
TLV 5ppm
ホスフィン
PH3
自然発火
1.18
液・特
通常容器
TLV 0.3ppm
アルシン
AsH3
5.1〜68
2.69
液・特
通常容器
TLV 0.05ppm
ジボラン
B2H6
0.8〜88
0.97
圧・特
通常容器
TLV 0.1ppM
H2Se
12.5〜63
2.80
液・特
通常容器
TLV 0.05ppm
GeH4
0.8〜100
2.65
圧・特
通常容器
TLV 0.2ppm
C2H4O
2.5〜100
1.53
液
通常・大型容器
TLV 5ppm
セレン化水
素
ゲルマン
酸化エチレ
ン
アンモニア
NH3
15〜27
0.57
液
通常・大型容器
TLV 50ppm
一酸化炭素
CO
12.5〜74.2
0.95
圧
通常容器
TLV 50ppm
注1 状態項目の 圧は圧縮ガス、液は液化ガス、特は特殊高圧ガスですがこの混合ガスでは全て圧縮ガスで
す。比重は大気圧ガス化時の空気比重
支燃性ガス
「燃えるもの」「燃やすもの」「火気(着火原)」とは燃焼の三要素ですがこの中で 「燃やすも
の」が支燃性ガスです。空気も支燃性ガスですが全て空気と同じような物と 考えるのは非常に
危険です。基本的に周囲の物を可燃物或いは危険物に変えると考えて ください。
d-1
容器塗色から見た支燃性ガスの識別
圧縮酸素 容器色
黒色
液化酸素 容器色(断熱容器)
グレー(ネズミ色)地の容器に黒帯或いは黒ライン
亜酸化窒素 グレー(ネズミ色)
※ フッ素、塩素は強力な支燃性ガスでもあるが毒性ガスとして扱う
※ 可燃性ガスとの複合事故は要注意
eその他のガス
可燃性ガス、毒性ガス、可燃性・毒性ガス、支燃性ガス以外のガスを「その他ガス」 に分
類します。「その他ガス」は危険性のない無害なガスではなく大量に漏洩したり気密性の高い屋
内では窒息性の危険なガスになります。
特に炭酸ガスは、濃度が高い(5000ppm 以上)と酸素濃度と関係なく毒性ガスとして働き狭い
場所では非常に危険です。
e-1
容器塗色から見たその他ガスの識別
液化炭酸ガス
その他
緑色
全てグレー(ネズミ色)地
e-2
容器に表記されたガス名及び刻印から見た支燃性ガスの識別
容器にはガス名が表記されている。
容器には化学式或いは PG、FC1、FC2、FC3 でガス名が刻印されている。
2.高圧ガスに係わる事故現場
高圧ガスに係わる事故現場は、空気中に可燃性ガスが漏出したり、毒性ガス濃度が上 がっ
ている、或いは酸素濃度が低下している等。 様々な危険が隣在する現場です。
決して二次災害を引き起こさぬよう迅速的確な行動が必要です。
1999.11.23 改訂
2-1.周囲の状況判断
事故の現場は立地条件、天候、対象高圧ガスの種類や荷姿及び周囲の状況が様々であり 現
場で判断しなければならないことがほとんどになる。
ガス名及びその性質(化学的、生物学的)の確認
ガスが漏れているのか否か漏洩の危険性
風向き周囲の状況によりアクセス方法の確認注意−−−原則は風上から
措置及び処理方法の決定−−−近隣の空地、河川敷等を積極利用
周辺住民へのインフォーメーションのランクのアドバイス
実業務
1999.11.23 改訂
2-2.形状から見た原則的なガスの取扱
共通事項 (ガスの入っている被災容器は冷却して運搬撤去)
(基本はガスの閉止)
a. 液化ガスの安全な取扱
液化ガスは漏洩した時体積が数百倍にもなり大変危険です。
また、液化ガスは蒸発する時、蒸発潜熱により周囲より大量の熱を奪いますから、直に 身体
に付着すると凍傷になります。従って基本は容器を立てるまた撤去等で車両に積む 場合は、で
きるだけ縦積みをしそれが不可能な場合には万が一安全弁等が作動しても液 が噴出しないよ
う安全弁等が必ず上に来るようにしなければなりません。
b. 圧縮ガスの安全な取扱
殆どの圧縮ガスは 14.7MPa の高圧です、これは親指の先に 150kg の重りが載るのと同 じ面圧
になります。容器の肉厚も厚く破裂したときのエネルギーは大きく危険です。
また圧力が他のガスに比べて数倍〜30 倍も高いですから、粗暴に扱わないことが肝心で、 特
に被災容器の取扱は細心の注意が必要です。
2-3 性質から見た原則的なガスの取扱
a. 「可燃性ガス」
屋内であれば窓等を開放し、充分換気を行いガスの漏洩を閉止する。
火気には充分注意し、特に工具の取扱(落下や衝撃)事故故車両の電気のスイッチには触れ
ないようにすること。
(これは自分が守るだけではなく周囲の人にも指示すること)
この時、漏洩しているガスの性質を考ること。
着火している場合は、散水等で容器を冷やしながらバルブの後ろより近ずき、
バルブの放出口を一番安全な方向に向けガスの漏洩を止める。
原則として、ガスの消火よりも周りへの延焼をくい止める。
工業用無臭の可燃性ガスもあり思いこみなどしないよう注意する。
※ 可燃性ガスの場合漏洩ガスを閉止せずに消火した場合可燃性ガスと空気の爆発性混
合ガスを生成し非常に危険ですから、炎に慌てず、類焼を防いだり延焼の防止に努め 安全に
燃やすのも必要です。
※ 容器のガスが全て燃えてしまえば火は消えます。
b. 「毒性ガス」
空気呼吸器(恕限量が一桁の毒性ガスには必需品です)、防毒面、皮手袋を
つけてガスの漏洩を止める。
極微量な漏れで屋内であれば窓等を開放してから閉止する。
屋外の場合は風上から近ずきガスの漏洩を止める。
(液化ガスの場合は容器を起こしてから液の噴出を止めること)
バルブが破損等で閉止出来ないときは防災キャップを使用し閉止する。
近くに水道や、消石灰等除害に役立つものが在れば利用する。
安全な場所に容器を移動する。
場合によっては付近住民の避難も進言すべきです。
※ 毒性ガスの場合、風の向き拡散の仕方を良く見て、迅速な処置が必要です。
c. 「可燃性・毒性ガス」
空気呼吸器(恕限量が一桁の毒性ガスには必需品です)或いは防毒面、皮手袋
をつけて
ガスの漏洩を止める。
漏洩ガスに適応した「防毒面が無い場合」
屋内であれば窓等を開放してから閉止する。
屋外の場合は風上から近ずきガスの漏洩を止める。
(このとき必要に応じて容器を起こしてから液の噴出を止めること)
バルブが破損等で閉止出来ないときは防災キャップを使用し閉止する。
着火している場合は、バルブの後ろより近ずきバルブの放出口を一番安全な方
向に向け容器を冷やしながらガスの漏洩を止める。
原則としてガスの消火よりも周りへの延焼をくい止める。
安全な場所に容器を移動する。
場合によっては付近住民の避難も進言する。
※ 可燃性・毒性ガスの場合、閉止出来ず適切な除害設備器具が無い場合は、安全な
場所でガスが燃え尽きるまで燃やしてください。
※ 半導体材料ガス等の毒性の強いガスには空気呼吸器などを必ず使用する。
※ 但しアルシン、セレン化水素は燃焼ガス中にも大量の砒素、セレンの猛毒固形物が含ま
れるから水幕等で猛毒微粉末の飛散拡散を防止する、またこれらの猛毒微粉末を吸入し
た
り衣類、皮膚に付着させないような防護処置をとる。
d. 「支燃性(酸素)ガス」
酸素だからと安心せず屋内であれば窓等を開放し、充分換気を行いガスの漏
洩を閉止する。
火気には充分注意し、特に電気のスイッチ工具のスパークに注
意する。
(これは自分が守るだけではなく周囲の人にも指示すること)
周囲に着火している場合は、バルブの後ろより近ずき、バルブの放出口を一番
安全な方向に向け容器を冷やしながらガスの漏洩を止める。
原則として、消火よりもガスの閉止や噴出方向を変えるようにする。
※ 支燃性ガスはそれ自体は燃焼しないが漏洩により周囲の物の物性を変えてしまう実際に
は物性は変わる訳はないが鉄が花火のように衣類がガソリンのように燃える人体ですら油のよ
うに燃える。
e. 「その他ガス」
ガスの漏洩を閉止し、屋内であれば窓等を開放し、充分換気を行う。この時、
漏洩ガスの性質を考ること。
(例えば、空気より重い炭酸ガスであれば下にある窓を開放する)
安全な場所に容器を移動する。
液化ガスで漏洩が止まらない時は風上から近ずき、容器を起こし液の噴出を
止め落ち着いたら安全な場所に移す。
※狭い部屋では窒息に、液化ガスの場合は併せて凍傷に注意する。
※酸素濃度が確保されていても残りが亜酸化窒素(笑気ガス)であれば、麻酔が掛かり昏 睡
から脳障害に至ってしまうし、炭酸ガスが 10%も含まれていれば、昏睡から死に至りま す。
1999.11.23 改訂
3.高圧ガスの防災と規制緩和及び自主保安
事故災害の概要
高圧ガスに携わる我々は、装置の計画、設計段階から建設、運転、高圧ガスの製造、販売、移
動、消費に至る各段階においてトラブルを起こさないように緻密な検討と細心の注意を払って業
務を遂行している.しかし、事故や故障は、事前に想定しなかった原因、想定しなかった人的ミス、
環境の変化などから発生する。高圧ガス事故発生総件数は、昭和 49 年をピークとして減少傾向
をみせたが、平版 3 年に 110 件の事故が発生するなど、その後も年 100 件前後の高い水準にあ
る。平成 7 年は 110 件の事故が発生し、事故件数として増加したが、三陸はるか沖地震と阪神淡
路大震災(マグニチュード 7.2)による。
平成 7 年までの内訳は高圧ガス製造所が 50〜40%、高圧ガス消費者が 30〜45%、移動中が残
りで 5〜20%だが増加傾向にある。
3.1 防災レベルの想定
防災を考える時「どのような事態を想定し」、「どこまで対応してしておくか」が防災レベルとい
えます。
保安に関する法律でも想定に基づく禁止事項を定めていますが、多様化進化する技 術
進歩に詳細に係われなくなった、言い換えれば技術的進歩を阻害しないように自主保安として責
任を持たせる方向に進んでいます。
想定自体は大きく分けて次の2つです。
科学的知見 ----- 公正で、誰にでも受け入れられる。共有が容易。
経験的知見 ----- 科学的に十分解明されていないが実用に耐える。
また正しい経験的知見は、科学的な裏付けを必ず得られる。
例えば 地震は必ず起きる、ではどの程度の地震を想定して対策を立てるのか、想定以
上の場合はどうするのか。---- ガスの種類と量について設計水平、垂直震度を決める。
交通事故は必ず起きる、ではどの程度の事故を想定して対策を立てるのか、想定以上の場
合はどうするのか。---- 悪路や、急ブレーキで荷崩れしない。
高圧ガスの移動事業者の想定範囲と防災対策
積載方法、移動監視者、イエローカード、保安教育、訓練、自主保安。
高圧ガス製造者の想定範囲と防災対策
高圧ガス製造の全プロセスの充分な危険想定に基づく危害予防規定、保安教育計画
書、保安係員等の保安組織、自主保安検査、運転マニュアル等に自主保安を反映さ
せる。
高圧ガス設備の製造者の想定範囲と防災対策
高圧ガス製造設備の全プロセスの充分な危険想定の上、設計に反映させフィエルセ
フ、フールプルーフ等の自主保安措置をする。
ー
高圧ガス販売者の想定範囲と防災対策。
販売主任者、周知義務、保安教育、消費先事故の想定。
1999.11.23 改訂