2008-2009 年度 - 生命・医療倫理人材養成ユニット

次世代型生命・医療倫理学の構築
(2008-2009 年度)
東京大学大学院医学系研究科
1
巻頭言
CBEL が目指すもの
新しい医療技術は新たな倫理的問題をもたらす。新しい技術が倫理的問題を生み出した歴史的な例
示として、たとえば、人工呼吸器は脳死・臓器移植や終末期医療の問題を生み出した。また、IVF の
ような生殖技術・遺伝子診断は、選択的妊娠中絶や男女産み分け、パーフェクトベビーの是非といっ
た倫理的問題を生み出した。
では、本世紀において、われわれが直面している新しい技術は何か。幹細胞による再生医療、ナノ
テク、脳科学などの医学の発展は、治療を必要とする人々に希望をもたらすとともに「治療を超えた
エンハンスメント使用」という大きな問題を生じさせる。また、合成生物学などの試みも、これまで
サイエンス・フィクションの領域でしか問題にならなかったような倫理的問題を引き起こす。
新しい技術が発展してきていることに加え、本世紀の大きな特徴は、グローバル化の時代だという
ことである。グローバル化は、20 世紀後半に IT 技術と、交通・輸送技術が飛躍的な発展を遂げたこ
とにより生み出された。このグローバル化もまた、新しい問題を生み出すことになる。
IT技術により、リアルタイムで情報が国際間に流れる。新しい技術はボーダレスだから、またた
くまに世界に広まる。クローン技術、ES・iPS 細胞等を用いた再生医療、脳科学、ヒトゲノム研究、
また終末期・生殖補助医療などによって次々と生み出される倫理的・法的・社会的諸問題へ、全世界
の多くの国が対応を迫られている。
また、交通・輸送手段の発展によって、国際的なヒト・モノの移動や交流が加速度的に増大した。
それにより、新型インフルエンザなど新興・再興感染症は、全世界を巻き込み、一国のみでは対応が
できない。新規薬物の国際共同治験なども盛んである。渡航移植などの臓器移植をめぐる国際間の摩
擦も問題化している。新興・再興感染症への対応や国際共同研究、渡航移植の規制等に関してはグロ
ーバルな国際的な協調が不可欠になってくる。
こうした諸問題は一朝一夕では解決できない巨大な問題である。それに取り組むには、人種や国籍
や文化の違いを超えて、人類の倫理的叡智を結集する必要がある。そのために先ず必要となるのは国
際的対話と次世代を担う研究者の養成である。そして現代の倫理的叡智を結集し、諸問題の解決の第
一歩を踏み出さなければいけない。現代の問題は、必ずしも現代の世代で解決できるとは限らない。
本グローバル COE の試みはそれ自体、「次世代の研究者へ向けてのメッセージ」である。
2010 年 3 月
東京大学大学院 医学系研究科 医療倫理学分野 教授
グローバル COE 次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成 拠点リーダー
赤林 朗
2
目次 表紙 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙1 巻頭言 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙2 目次 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙3 生命・医療倫理教育研究センター:UT‐CBEL 概要∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙4 I.
1.
沿革 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙5 2.
目的と概要∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙6 3.
社会的波及効果∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙8 4.
構成 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙9 教育活動 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙11 II.
1.
入門:生命・医療倫理学基礎コースⅠ、Ⅱ ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙12 2.
専門:冬期集中・研究倫理コース ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙13 3.
専門:冬期集中・患者相談・倫理コンサルテーションコース∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 15 4.
専門:生命・医療倫理研究会、インターンシップ等∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 17 5.
発展:国際フェローシップ等∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙19 6.
UT‐CBEL 国際セミナーシリーズ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙20 7.
リカレント:夏期集中・生命・医療倫理入門コース∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 22 8.
リカレント:受講者のフォロー・アップ ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙24 研究活動 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙25 III.
1.
公共政策部門∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 26 2.
研究倫理部門∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 65 3.
臨床倫理コンサルテーション部門 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙80 4.
GABEX 部門 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 81 5.
広報部門 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙85 6.
各種報道記事等∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 126 活動成果 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 131 IV.
1.
研究業績 ∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 132 2.
社会・教育活動∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 138 3.
教材開発等∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙∙ 141 3
I.
生命・医療倫理教育研究
センター:UT-CBEL 概要
4
1. 沿革
名称
:東京大学大学院医学系研究科 生命・医療倫理教育研究センター
(The University of Tokyo Center for Biomedical Ethics and Law: UT-CBEL)
所在地
:東京都文京区本郷 7-3-1
電話/FAX :03-5841-1106/03-5841-1107
代表者
:赤林 朗
開設年月日:2008 年 6 月
規模(2010 年 3 月現在):教授(兼)1 名、講師(兼)1 名、特任講師 1 名、助教(兼)1 名、特任助
教 5 名、特任専門職員 1 名、研究補助員 1 名、司書 1 名、事業推進担当者 27 名
2003 年 8 月
文部科学省、科学技術振興調整費による人材養成ユニットの研究予算獲得(2003 年 8 月~
2008 年 3 月、研究代表者:赤林 朗)
2004 年 4 月
ホームページの立ち上げ(2010 年度より(http://www.cbel.jp/)
2004 年 9 月
「生命・医療倫理人材養成ユニット(The Center for Biomedical Ethics and Law: CBEL、
UT-CBEL 前身)」設立記念シンポジウム開催
2004 年 10 月
2004 年度「生命・医療倫理学入門コース」開始
2008 年 6 月
文部科学省グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」と
して採択(2008 年 6 月~2012 年 3 月、研究代表者:赤林 朗)
2008 年 8 年
UT-CBEL 設立記念・CBEL5 周年記念シンポジウム開催
2009 年 2 月
ホームページ上にて「政策レスポンス」開始
2009 年 3 月
第一回 GABEX 国際会議 kick-off meeting 開催
2009 年 9 月
ニューズレター「CBEL 通信」配信開始
2009 年 11 月
NPO 法人「研究倫理支援センター」設立
2010 年 1 月
第二回堀場 GABEX 国際会議開催
5
2. 目的と概要
【拠点形成の目的】
今日のグローバル化された現代社会においては、ライフサイエンス・医療技術の発展が社会に与え
る影響はますます広範かつ多大なものとなっており、クローン技術、ES・iPS 細胞等を用いた再生医
療、脳科学、ヒトゲノム研究や、急増する海外共同治験などの国際的共同研究、また終末期・生殖補
助医療などによって次々と生み出される倫理的・法的・社会的諸問題(ELSI 問題:ethical, legal, social
implications)への対応は喫緊の課題である。
こうした課題に対応するには、ライフサイエンスや医療の社会的規制のためのシンクタンクとして
の研究拠点と、適切な研究審査のできる倫理委員や医療現場で起きる倫理問題に対処できる人材(国
内では約 5 万人程度)とその指導者の育成が急務である。生命・医療倫理学は、学際的な取り組みを
通して、ライフサイエンスや医療技術がもたらす倫理的・法的・社会的課題に取り組む学問である。
しかし、これまでの日本の生命・医療倫理学は、人文系においては欧米の文献を紹介する座学が中心
であり、医学系では実践的だが体系性に欠ける臨床倫理や研究倫理が中心であったため、十分にこう
した現代的な課題に応えられてこなかった。さらに、以上のような課題に対応できる次世代の人材も
ほとんど輩出してこなかった。
以上の現状認識を踏まえ、本教育研究拠
点は、ライフサイエンス・医療技術が日本
社会および国際社会にもたらす倫理的・法
的・社会的諸問題に関して学際的に研究す
ると共に、国外の研究拠点と連携すること
で、
質の高い国際ネットワークを形成する。
そして、政策、研究および臨床という実践
の場に適した教育プログラムを提供する。
これらにより、国際的な場で今後リーダー
シップを発揮して活躍することのできる高
度な人材を養成し、次世代の国際標準とな
る生命・医療倫理の教育・研究拠点を創成
する。
【拠点形成の概要】
1.
国際ネットワークの構築( GABEX :
Global Alliance of Biomedical Ethics
Centers)
米国ヘイスティングス・センター、国立衛
生研究所(NIH)、ペンシルヴァニア大学、
ケース・ウェスタン・リザーブ大学、英国の
オックスフォード大学、ノルウェー王国立ベ
ルゲン大学、豪国のモナシュ大学、シンガポ
6
ール国立大学など、世界の主要な生命・医療倫理研究拠点と連携することにより、若手研究者を中心
とした国際的な人材の流動化を促し、研究・教育の国際標準化を図る(国際フェローシップ制度の確
立)。
2.
政策立案に資するシンクタンク的機能の構築
国内外の研究者からなる問題解決指向型プロジェクトチームを複数発足することにより、倫理指針
案の策定、政策クイック・レスポンス等の実践を行う。
3.
臨床研究審査学の確立
国際共同研究の研究審査、トランスレーショナル・リサーチ研究審査等、研究審査方法論の確立と、
NPO 設立というキャリアパスを視野にいれた人材養成プログラムの策定を行う。
4.
倫理コンサルテーション学の確立
医療機関に存在する患者相談・臨床倫理センターのスタッフ養成を目的としたシャドーウィング等
の効果的手法による教育プログラムの策定を行う。
5.
学際的な生命・医療倫理教育プログラムの作成
自然・人文・社会科学系の博士課程学生およびポスドクを対象に、総合大学の強みを活かした学際
的な教育プログラムを作成・実施する。
6.
国内外へのアウトリーチ
日本語・英語による機関誌や定期学術刊行物による研究成果の公表、ホームページを通じた研究成
果・政策クイック・レスポンスの公表を行う。
7.
次世代型の国際標準の生命・医療倫理学創成
上記活動により、日本および国外の生命・医療倫理の特徴を様々な学問領域の視点から解明し、理
論的研究と実証的研究の統合を図ることにより、国際標準となりうるファクターを抽出する。以上に
より、次世代型の国際標準の生命・医療倫理学を創成・発信する。
本拠点の人材育成面では、従来の学問府の研究者養成に加え、①国内外の研究機関や政府関連機関
等で研究や政策立案を行う、②各研究機関の倫理審査委員会等でトランスレーショナル・リサーチや
国際共同研究などの臨床研究の審査を行う、③医療機関において患者相談・倫理コンサルテーション
業務を担当する等、複数の専門的キャリアパスを想定し、これらの現場の最前線で活躍できるのみな
らず、地域や施設におけるリカレント教育の場でも指導的な役割を発揮しうる有為な人材育成を目指
す。
そのために、本拠点は、これまで UT-CBEL の前身である「生命・医療倫理人材養成ユニット(CBEL)」
での活動を通じて培われてきた日本の生命・医療倫理教育の標準化作業を推し進めるとともに、それ
に加えてより高度な学際性・国際性を実現する新たな学際的かつ国際的な生命・医療倫理教育プログ
ラムを作成・実施する。特に、CBEL で実施してきたリカレント教育「生命・医療倫理学入門コース」
(約 700 名/5 年)やインターン等を効果的に組み込み、キャリア形成に直結しうる実践的な教育を目
指す。
7
【学際的かつ国際的な生命・医療倫理教育プログラム】
基礎 これまでの CBEL の活動を通じて培われてきたノウハウに加え、学内の様々な研究分野を背景
に持つ事業推進担当者の連携を活用することにより、総合大学としての強みを活かした学際的な生
命・医療倫理コースを開講する。これにより、どのキャリアパスを辿る場合でも最低限必要とされる、
生命・医療倫理全般に関する基礎知識が習得される。
専門 上記「基礎」を修了した若手研究者・大学院生を、本拠点に組織される問題解決指向型の学際
的共同研究チームに参加させ、専門能力を育む。また、国内外でのシンポジウム・研究会議等の企画・
運営を担わせる。これにより、若手研究者が真に学際的な環境の中で、自主的かつ創造的に活動する
機会を創出する。また、キャリア形成に対する具体的な支援としては、文部科学省等の省庁や国外の
生命科学関係機関、国内外の研究倫理委員会や IRB、患者相談・倫理コンサルテーションの現場等に
おけるインターンシップ体制を構築する。
発展 国際教育フェローシップ制度を設立し、海外連携先である大学や研究所等で第一線級の研究者
による研究指導を受けられる機会を提供する。諸外国からも若手研究者を受け入れる。さらに、EU
諸国で実施されている多国間(エラスムス)バイオエシックス・コースのアジア版構想の基盤を築く。
以上より、次世代の生命・医療倫理研究に際して必須とされる国際的交流力・競争力の育成を目指す。
3. 社会的波及効果
自然・人文・社会科学系の博士課程学生およびポスドクを対象に、学際的な教育プログラムおよび
国際フェローシップ制度を提供し、政策、研究、臨床の場で国際的に活躍できる有為な人材を育てる。
同時に、上記の生命・医療倫理学の学際的・国際的な教育・研究を通じて、国際標準となるべき次世
代型の生命・医療倫理学を創成し、日本から発信する。これにより、21 世紀のライフサイエンスと医
療が世界的に健全な発展を遂げるためのシステムの確立に貢献する。具体的には以下のような成果が
見込まれる。
1.
生命・医療倫理学に関する研究教育環境の整備
現在、国内問題として、臨床や研究の現場において、倫理的な問題に対して適切に対処できるコン
サルタント、患者相談員や倫理委員会委員の不足が挙げられる。倫理委員会委員の必要数を試算する
と、全国 10000(病院・大学・研究所)×設置率 50%×定員 10 名=約 5 万人となる。また各病院には
複数の患者相談・倫理コンサルタントが必要となる:約 2 万人。国際的には、新型インフルエンザや
脳科学研究など、学際的取組みを必要とする倫理的課題が山積している。本プログラムを通じて確立
される教育システムにより、以上のような国内的・国際的課題双方に対応できる人材およびその指導
者が輩出される。なお本拠点では、自然・人文・社会科学系で関心のある学生及びポスドクを広く受
け入れて教育を行なうことを想定している。
8
2.
学問分野としての、次世代の生命・医療倫理学の確立と普及
日本の生命・医療倫理学は、喫緊の課題に対応するにはいまだ発展途上にある。また、日本におい
ては、研究の土台となるべき学会がネットワークとしての機能を十分に果たしていない。これに対し
て本プログラムは、質の高い研究実績を誇る研究・教育拠点を中心にしたネットワークを構築するこ
とにより、
国際的課題に対応しうる学際的な次世代型の生命・医療倫理学の土台を築くことができる。
これにより、国内における当該分野の研究・教育の活性化が期待される。
3.
ライフサイエンスと医療の健全な発展
上に述べたように、現在、倫理委員会の委員、その事務局員、そして医療現場における倫理コンサ
ルタントなど、ライフサイエンスと医療が健全な発展を遂げる上で必要不可欠な人材が極端に不足し
ている。しかし、本プログラムにおいては、①国内外の研究機関や国連・政府関連機関等で研究や政
策立案を行う、②各研究機関の倫理審査委員会等でトランスレーショナル・リサーチや国際共同研究
などの臨床研究の審査を行う、③医療機関において倫理コンサルテーション業務等を担当する、とい
うキャリアパスのもとに教育プログラムを実施することで、人材の不足している領域に即戦力の人材
を供給することができる。あわせて一般社会へのアウトリーチも積極的に行なうことにより、ライフ
サイエンスと医療の健全な発展を促進する。
4. 構成
【スタッフ】
≪拠点リーダー≫
赤林 朗
教授
(医療倫理学/臨床倫理学/研究倫理/医学)
≪グローバル COE 専任スタッフ≫
松井 健志
特任講師
(研究倫理/公衆衛生倫理/医学)
有馬 斉
特任助教
(倫理学/生命倫理学)
井上 悠輔
特任助教
(公衆衛生学/科学研究政策)
島内 明文
特任助教
(倫理学/社会哲学/政治哲学)
田代 志門
特任助教
(医療社会学/生命倫理学)
吉江 悟
特任助教
(保健学/老年学/臨床倫理/看護)
≪医療倫理学分野≫
児玉 聡
講師
(倫理学/生命倫理学/政治哲学)
藤田 みさお
助教
(医療倫理学/臨床心理学)
≪文部科学省委託事業「脳科学研究戦略推進プログラム」≫
林 芳紀
特任助教
(倫理学)
≪広報≫
平間 千恵
特任専門職員
≪事務補佐≫
澄谷 裕子
リファレンスセンター司書
9
【事業推進担当者】
大橋
川上
真田
関根
松永
鶴岡
斉藤
津谷
小野
荒川
鈴木
金森
川本
武藤
吉田
安藤
児玉
前田
靖雄
憲人
弘美
清三
澄夫
賀雄
明
喜一郎
俊介
義弘
洋史
修
隆史
香織
謙一
馨
安司
正一
横山 広美
瀧本 禎之
Thomas Murray
Ezekiel Emanuel
Arthur Caplan
Stuart Youngner
Justin Oakley
Tony Hope
Reidar K. Lie
Alastair Campbell
10
東京大学大学院医学系研究科・教授
東京大学大学院医学系研究科・教授
東京大学大学院医学系研究科・教授
東京大学大学院人文社会系研究科・教授
東京大学大学院人文社会系研究科・教授
東京大学大学院人文社会系研究科・教授
東京大学大学院人文社会系研究科・教授
東京大学大学院薬学系研究科・客員教授
東京大学大学院薬学系研究科・准教授
東京大学医学部附属病院・准教授
東京大学医学部附属病院・教授
東京大学大学院教育学研究科・教授
東京大学大学院教育学研究科・教授
東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター・准教授
東京大学大学院医学系研究科・教授
東京大学大学院法学政治学研究科・助教(2008 年度まで)
東京大学大学院医学系研究科・客員教授
慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科・准教授
東京大学大学院医学系研究科・客員准教授(2008 年度まで)
東京大学大学院理学系研究科・准教授(2009 年度から)
東京大学医学部附属病院・助教(2009 年度から)
The Hastings Center (USA), President
National Inst. of Health (USA), Chair
Univ. of Pennsylvania, Chair
Case Western Reserve Univ., Chair
Monash Univ. (Australia), Director
Univ. of Oxford (UK), Professor
Univ. of Bergen (Norway), Professor
National Univ. of Singapore, Director
II.
教育活動
11
1. 入門:生命・医療倫理学基礎コースⅠ、Ⅱ
公衆衛生領域の政策決定や臨床現場における倫理的判断の基礎となる倫理・哲学的な考え方を教える。
医療倫理学概論、インフォームド・コンセント、研究倫理などを取り上げ、全体講義と少人数討論(スモ
ール・グループ・ディスカッション)を行う。2008 年度は東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻
の大学院生が対象だったが、2009 年度からは東京大学在籍中の全大学院生(学部生も聴講可)にも門戸を
広げた。法学政治学や教育学、公共政策、情報学等、多彩なバックグラウンドを持つ学生が集まり、当該
分野への高い関心とニーズが伺われた。
【単位と取得条件】
生命・医療倫理学基礎コースの単位は、Ⅰ、Ⅱともに 2 単位とした。単位取得の条件と確認方法は、(1)
各コース 2/3 以上の出席、(2)生命・医療倫理学に関する最終レポート(2000 字程度)、とする。なお、
出欠に関しては毎回講義の終わりに、最終レポートの内容は提出後に、スタッフが確認・評価を行った。
【受講者のべ人数】
2008 年度・基礎Ⅰ
2008 年 10 月 10 日~11 月 28 日
164 名
2008 年度・基礎Ⅱ
2008 年 12 月 5 日~2009 年 2 月 6 日
79 名
2009 年度・基礎Ⅰ
2009 年 10 月 9 日~11 月 27 日
310 名
2009 年度・基礎Ⅱ
2009 年 12 月 4 日~2010 年 2 月 12 日
63 名
【講義日程等】
2008 年度:10 月 10 日~2010 年 2 月 6 日(全 14 回) 毎週金曜日 18:00~21:00
2009 年度:10 月 9 日~2010 年 2 月 12 日(全 15 回) 毎週金曜日 16:20~19:30
場所:東京大学医学部 教育研究棟 13 階 第 6 セミナー室
2009 年度スケジュール例:
基礎 Ⅰ
Ⅰ
12
10 月 9 日
生命・医療倫理学とは
赤林・児玉
10 月 16 日
倫理理論・医療倫理の原則
奈良・林
10 月 23 日
ケアの倫理と生殖医療
堂囿
10 月 30 日
守秘義務・研究倫理Ⅰ
奈良・松井
11 月 6 日
IC の法理・終末期医療
前田
11 月 13 日
臨床症例の倫理的検討法
赤林
基礎 Ⅱ
Ⅱ
11 月 20 日
臓器移植
藤田・児玉
11 月 27 日
研究倫理Ⅱ
松井
12 月 4 日
公衆衛生と政治哲学
児玉・島内
12 月 11 日
資源配分と新型インフル
児玉・林
12 月 18 日
研究倫理:HIV とZDV-076 レジメン開発
松井
1 月 15 日
健康格差と正義
児玉・林
1 月 22 日
労働、健康と組織的公正
川上・真田
看護学における研究倫理
2月5日
宗教的信念と生命・医療倫理
鶴岡・斎藤
脳死・臓器移植問題と宗教倫理
2 月 12 日
科学コミュニケーションが必要な理由
横山・津谷
代替医療・プラセボ・倫理
2. 専門:冬期集中・研究倫理コース
2009 年 4 月より厚生労働省により全面改訂された「臨床研究に関する倫理指針」では、臨床研究を行な
うすべての医学研究機関で研究者に対する研究倫理教育の実施が求められるようになった。こうした動向
を受け、医学系研究を実際に自ら計画立案・実施している研究者を主たる対象に、「冬期集中研究倫理コ
ース」を開講することとした。2009 年度はその第一歩としてパイロット版を無料で提供し、受講生から広
くコメントを求めた。2010 年度からはこれらのコメントを反映させて改良したコースを本格的に始動する
予定である。本集中コースは、生命・医療倫理学基礎コースⅠ、Ⅱや、夏期集中生命・医療倫理集中コー
スを発展させた専門コースという位置づけのものである。
具体的な内容としては、侵襲を伴う介入研究や、試料・データを用いた観察研究を倫理的に正しく計画・
実施しようとする際に、研究者が少なからず心得ておくべき事項について、国内外の最新の動向を踏まえ
つつ、具体的事例を交えながら解説する。また、受講者が現在計画している研究の中で、もしくは、過去
の計画立案時に、倫理的な事項に関して具体的に困っている(困った経験のある)ケースをあらかじめ提
供してもらい、その中から多くの研究者が共通して困っている倫理的問題のいくつかを取り上げ、講師陣
と受講生全員で討論し、倫理的によりよい判断を導くことを目指す「研究倫理支援・コンサルテーション」
を試行的に行う。これらによって、研究倫理の重要トピックとそれぞれの倫理的考え方を学ぶとともに、
学んだことを実際の計画立案に活かす技能を身につけることを最終的な目的とする。また、受講生同士の
交流を目的とした懇親会を行う。
13
【選考方法】
選考はスタッフ数名からなる選考委員会による以下の手順で行う。(1)申込書に書かれている受講理由
を中心に、専門性が偏らないように等、コース全体のバランスを考えて一次選考を行う。(2)一時選考
で受講人数を大幅に上回るときには、二次選考を抽選によって行う。
【受講者・修了者数】
2009 年度
2009 年 12 月 12 日~13 日
29 名
【講義日程等】
期間:2009 年 12 月 12 日(土)9:00~13 日(日)16:00
場所:東京大学医学部 3 号館 1 階 N101
主催:東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理の研究教育拠点創成」
2009 年度スケジュール:
8:30 9:00 9:10
受
挨
付
拶
10:00 10:10
講義①:
休
12:00 13:00
演習①:
14:45 15:00
昼
憩
演習②:
食
15:45
休
16:30
講義②:
講義③:
意
憩
見
12 月 12 日
研究倫理の歴史
インフォーム
リスク・ベネフィット
小児を対象とす
ランダム化比
交
(土)
と基本原則
ド・コンセント
評価
る研究の倫理
較試験の倫理
換
(1 日目)
(松井)
(松井)
(田代)
(中村)
(津谷)
8:30 9:00
講義④:
休
10:50 11:00
講義⑤:
休
14:20 14:30
演習③:
昼 講義⑥:
休
食
憩
憩
憩
付
12:30 13:30
16:00 16:10
演習④:
12 月 13 日
ヒト試料の
医学研究に
国際共同研
研究倫理ガイド
研究倫理支援・コンサルテ
(日)
研究利用と
おける個人
究の倫理
ラインの動向
ーション
倫理
情報保護
(松井)
(田代)
(赤林、松井)
(2 日目)
(井上)
14
(松井)
閉講の挨拶
受
10:00 10:10
会
3. 専門:冬期集中・患者相談・倫理コンサルテーションコース
医療法施行規則の一部を改正する省令の一部施行により、2003 年 4 月から特定機能病院・臨床研修指定
病院では、「患者からの相談に適切に応じる体制の確保」が義務づけられるようになった。また、2006 年
に発覚した射水市民病院人工呼吸器取り外し事件を機に、終末期医療における意思決定に関する議論が高
まり、国や学会のガイドライン等で病院内における倫理コンサルテーション機能の充実が求められるよう
になった。さらに、2009 年 7 月より日本医療機能評価機構が適用を開始した「病院機能評価総合版評価項
目 Ver.6」では、新たな評価項目として、「院内暴力への組織的対応」や「臨床倫理に対する院内方針の明
確化」が追加された。
こうした動向を受け、医療現場で実際に患者相談や臨床倫理の問題に従事する者を主たる対象に、「冬
期集中患者相談・倫理コンサルテーションコース」を開講することとした。2009 年度はその第一歩として
パイロット版を無料で提供し、受講生から広くコメントを求めた。2010 年度からはこれらのコメントを反
映させて改良したコースを本格的に始動する予定である。本集中コースは、生命・医療倫理学基礎コース
Ⅰ、Ⅱや、夏期集中生命・医療倫理集中コースを発展させた専門コースという位置づけのものである。
具体的な内容として、講義では患者相談や臨床倫理コンサルテーションに関する基礎知識と実践方法、
対応困難患者に対するアプローチ、法的側面などを学び、事例を用いた演習も行う。本コースは、医療の
現場において、患者相談や臨床倫理の問題に理論的かつ実践的に取り組むことができる人材を養成するこ
とを最終的な目的とする。また、受講生同士の交流を目的とした懇親会を行う。
【選考方法】
選考はスタッフ数名からなる選考委員会による以下の手順で行う。(1)申込書に書かれている受講理由
を中心に、専門性が偏らないように等、コース全体のバランスを考えて一次選考を行う。(2)一時選考
で受講人数を大幅に上回るときには、二次選考を抽選によって行う。
【受講者・修了者数】
2009 年度
2010 年 2 月 6 日~7 日
37 名
【講義日程等】
期間:2010 年 2 月 6 日(土)10:00~7 日(日)16:00
場所:東京大学医学部附属病院 中央診療棟Ⅱ 7 階大会議室
主催:東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理の研究教育拠点創成」
共催:東京大学医学部附属病院 患者相談・臨床倫理センター
東京大学大学院医学系研究科 医療倫理学分野
15
2009 年度スケジュール:
2月6日(土) [1日目]
9:30
受付 (30min)
10:00
10:10
10:25
10:30
患者相談・臨床倫理コンサルテーションとは (10min)
事例による導入 (15min)
休憩 (5min)
赤林 朗
瀧本 禎之
コミュニケーションスキル (100min)
藤田 みさお
12:10
昼休み (60min)
13:10
患者相談窓口の位置づけと現況 (50min)
14:00
14:10
14:40
休憩 (10min)
[SP1] 電話による個人情報照会 (30min)
シナリオ
プレイ
[SP2] 逆紹介に対する苦情 (30min)
15:10 患者相談演
習
15:20
(150min)
16:00
吉江 悟
休憩 (10min)
[RP1] 室料差額への苦情 (40min)
瀧本 禎之,
吉江 悟,
阿部 篤子
ロール
プレイ
[RP2] 同室患者の夜間せん妄への苦情 (40min)
16:40
16:50
休憩 (10min)
対応困難患者に対するアプローチ (50min)
17:40
瀧本 禎之
移動 (30min)
18:10
情報交換会 (120min)
(会場: ココ・ゴローゾ)
※別紙地図参照
20:10
2月7日(日) [2日目]
9:30
臨床倫理コンサルテーション活動と現況 (50min)
10:20
10:30
休憩 (10min)
事例説明 (5min)
[CE1] 必要性
の低い検査を
望む患者
11:00
11:20
13:50
14:00
症例検討シートへの整理 (30min)
発表と解説 (15min)
症例検討シートへの整理 (30min)
11:50
臨床倫理コ
ンサルテー
ション演習
12:50 (200min)
瀧本 禎之
昼休み (60min)
※追加情報収集のポイントを絞る
[CE2] 肝硬変
末期患者の治
療方針に関す
る意見の対立
瀧本 禎之,
吉江 悟, 他
関係者への追加情報収集, 検討 (60min)
休憩 (10min)
発表と解説 (50min)
14:50
15:00
15:50
16:00
16
休憩 (10min)
患者相談・臨床倫理コンサルテーションに関わる法的側面:
インフォームド・コンセントと説明・同意文書 (50min)
前田 正一
総括 (10min)
瀧本 禎之
4. 専門:生命・医療倫理研究会、インターンシップ等
赤林朗教授、児玉聡講師、松井健志助教(2008 年 9 月まで)、藤田みさお助教(2009 年 2 月から)と
当センターの特任教員が、修士・博士課程、ポスドクに研究指導を行なった。これまでの研究内容は以下
のとおりである。(a) 日米比較視座における生命倫理政策の歴史的考察、(b) エンハンスメントの倫理的問
題、(c) 終末期医療における治療の中止と差し控えに関する意識調査、(d) 凍結胚処理方法に対する不妊患
者の意思決定プロセス、(e) 生殖補助技術におけるドナーの匿名性の倫理的問題、(f) 医薬情報担当者の継
続教育における倫理教育に関する現状調査、(g) 代理懐胎規制の国際比較と問題の検討等。これらの研究
指導においては、通常の大学院教育では得られない学際的な研究者スタッフらによる指導が受けられるこ
と、社会人対象のリカレントコース等で得られた人的ネットワークにより、より現場に根ざした研究を行
うことができること等が特徴である。また、若手教員の教育能力の向上という副次的効果もある。
2008 年度(修了者)
2009 年度(修了者)
大学院修士課程
2 名(0 名)
3 名(2 名)
大学院博士課程
4 名(1 名)
3 名(2 名)
【2009 年度 UT-CBEL 生命・医療倫理研究会】
大学院生、ポスドク、本拠点特任教員などの若手研究者を対象に、生命・医療倫理に関する学会報告・
論文作成を指導することを目的とする。隔週で開催し、担当者の研究報告(30 分程度)に対して、質疑応
答(30 分程度)を行う。
1
4 月 14 日
田代志門
「抗うつ薬のプラセボ対照試験における倫理的問題:日本の治療中止試
験を事例として」
2
4 月 28 日
有馬斉
「安楽死の合法化を支持する自由主義者による議論の批判的検討」
3
5 月 12 日
清水美緒
「課題研究経過報告:生殖補助医療におけるドネーションの倫理的問題
の整理」
4
6月2日
中田亜希子
「課題研究経過報告:MR 継続教育の倫理教育に関する研究に向けて」
5
6 月 23 日
高橋しづこ
「凍結胚処理方法選択プロセスとその心理的背景」
6
7月7日
伊吹友秀
「エンハンスメント事例における医療化の問題についての考察」
7
7 月 21 日
高島響子
「代理懐胎規制の国際比較と問題の検討」
8
9 月 29 日
Carol Borek
「科学コミュニケーションについて」(豪国モナシュ大学院生)
9
10 月 13 日
清水美緒
「生殖補助医療において配偶子・胚を提供するドナーの匿名性」
17
10
10 月 27 日
伊吹友秀
「エンハンスメントと医療化に関する生命倫理学的検討」
11
11 月 24 日
清水美緒
「生殖補助技術におけるドナーの匿名性」
12
11 月 24 日
中田亜希子
「MR 継続教育の倫理教育に関する調査」
13
12 月 8 日
高島響子
「生命・医療倫理分野における日米比較研究課題の検討」
14
12 月 8 日
高橋しづこ
“The decision-making process of the fate of frozen embryos for Japanese
15
12 月 22 日
中田亜希子
「医薬情報担当者の継続教育における倫理教育に関する現状調査」
16
12 月 22 日
清水美緒
「生殖補助技術におけるドナーの匿名性の倫理的問題」
17
1 月 26 日
清水美緒
「生殖補助技術におけるドナーの匿名性の倫理的問題」
18
1 月 26 日
真鍋葉子
「ダウン症児出生のリスクの上昇に基づいて高齢出産の回避を推奨でき
【インターンシップ】
目的・実施要項:基礎コースで習得した生命・医療倫理学の基礎知識を踏まえ、これを政策形成や臨床現
場の実践とつきあわせて捉え直すために、関連施設の業務に従事する。
対象者:基礎コースを修了した大学院生およびポスドク等の若手研究者とした。
履修方法・修了要件:基礎コース修了者から希望者を募り、受入先と調整のうえ、参加者を選抜し、終了
後にレポートの提出を義務付ける。
2009 年度より開始、平成 21 年度は本学医学部附属病院患者相談・臨床倫理センターや研究倫理支援室、
および文部科学省・厚生労働省等で実習を実施した。期間は 1-2 週間程度で、本年度はのべ 6 名が参加し
た(患者相談・臨床倫理センター2 名、研究倫理支援室 2 名、厚生労働省・文部科学省インターン各 1 名)。
【その他の教育・研究支援】
大学院生・ポスドクの教育・研究活動を学問的にも財政的にも支援することによって、国際的力量を持
った次世代の人材養成を行っている。学問的支援としては、本拠点の専任スタッフ等を中心とする複数の
学際的な共同研究チーム(研究倫理、臨床倫理、生命・医療倫理政策等)に参加させ、自律的に研究活動
を行う機会を創出している。また、海外の連携拠点の研究者と定期的に実施しているテレビ会議システム
を用いた研究会議にも参加させ、国際性の涵養に努めている。さらに、夏期集中生命医療倫理学入門コー
ス、研究倫理入門コース、患者相談・臨床倫理コンサルテーションコースを開放することで、実践性を身
につけることのみならず、
多様なバックグラウンドを持つ実務者らと対話・交流できるよう留意している。
財政的支援としては、
RA およびポスドク特任研究員等を採用し、
研究の充実と生活の安定化を図っている。
18
5. 発展:国際フェローシップ等
2008 年度より、GABEX プロジェクトの一環として、国際フェローシップ制度の実施を開始した。東京
大学の若手研究者を海外連携先の研究拠点に派遣し、諸外国の第一線級の研究者による指導の下、在外研
究に従事する機会を提供することが目的である。対象は基礎コースを修了した大学院生およびポスドク等
の若手研究者とした。希望者を募り、研究テーマ、研究業績、適切な受入先の有無等を総合的に評価し、
派遣する若手研究者を決定した。派遣した若手研究者は、海外の連携先に短・中期間滞在し、連携先の研
究者の指導のもとで、
在外研究を行う。
滞在期間中は研究の進捗状況を適宜報告すること、
帰国後、
UT-CBEL
生命・医療倫理研究会において在外研究の成果を取りまとめた研究報告を行うことが求められる。諸外国
からも若手研究者を特任研究員として受け入れ、本拠点の若手研究者との学術的な交流の機会を設けた。
【フェローシップ派遣】
実績:15 名(モナシュ大学、国立シンガポール大学、オックスフォード大学、ペンシルヴァニア大学、ヘ
イスティングス・センター等)
具体例:本学の大学院生が豪州モナシュ大学生命倫理学研究所に 3 カ月滞在、大学院の講義出席および研
究指導を受けた。また、米国ペンシルヴァニア大学生命倫理研究所に 6 カ月滞在し、大学院の講義出席お
よび研究指導を受けた。米国ヘイスティングス・センター、シンガポール国立大学に短期留学(3 週間程
度)を行った。
【フェローシップ受入】
実績:5 名(モナシュ大学、ペンシルヴァニア大学、ケース・ウェスタン・リザーブ大学等)
具体例:豪州モナシュ大学の大学院生、米国ペンシルヴァニア大学のポスドク、米国マサチューセッツ工
科大学の大学院生等を、国際フェローまたは特任研究員として東京大学 UT-CBEL が受け入れた。
【GABEX 国際会議・若手セミナー/ポスターセッション】
東京大学に在籍する大学院生(本拠点の RA を含む)およびポスドク等の若手研究者を対象に世界の生
命・医療倫理学を主導する拠点から第一線級の研究者を招聘した GABEX 国際会議において、英語で報告
する機会を設けた。実施要領としては、希望を募り、その中から選抜して、若手セミナーではオーラルプ
レゼンテーション、ポスターセッションを実施した。平成 21 年度の GABEX 国際会議では、オーラルプレ
ゼンテーションは 1 名、ポスターセッションを 9 名が報告を行った。
19
6. UT-CBEL 国際セミナーシリーズ
生命・医療倫理学の最先端のテーマについて国内外の第一線級の研究者や若手研究者を招聘して講演お
よび質疑応答を実施することで、基礎・専門・発展の各コースで習得した知識を深めるとともに、大学院
生やポスドクの若手研究者には国際的な研究者との学術的な交流の機会を提供する。招聘者と同時に、日
本に立ち寄った一線級の研究者を招待する。東京大学在籍中の大学院生(本拠点で採用中の RA を含む)、
本拠点で採用中のポスドクの特任研究員、本拠点の前身の CBEL(生命・医療倫理人材養成ユニット)の
リカレント教育コース修了生を対象にし、HP(本拠点、医学系研究科、東京大学)や ML を通じて参加者
を募る。実施形態は、セミナー形式、シンポジウム形式、テレビ会議システムを用いた講義等が含まれ、
基本的にすべて英語で行われる。
【2008 年度】
8月9日(土)
信原 幸弘 氏(東京大学教授)講演会 「意思決定と脳科学」
東京大学医学部 教育研究棟14階 鉄門記念講堂 18:00~19:30
加藤 尚武 氏(京都大学名誉教授)講演会 「自由論のパンドラの箱」
東京大学医学部 教育研究棟14階 鉄門記念講堂 18:00~19:30
3月11日(水)
Reidar Lie(ライダー・リー)氏(ベルゲン大学教授)講演会
"International Collaboration and Capacity Building for Research Ethics in Asia"
「研究倫理に関するアジアでの国際協同とキャパシティビルディング 」
東京大学医学部 1号館3階 S317セミナー室 13:00~14:00
3月16日(月)
Jochen Vollmann(ヨッヘン・フォルマン) 氏(ボッフム・ルール大学教授)講演会
"Clinical Ethics Consultation in Germany: Concept-Models-Training-Future Development"
「ドイツにおける臨床倫理コンサルテーション―概念モデルトレーニングの将来的発展」
東京大学医学部 教育研究棟 13 階第 6 セミナー室 18:00~19:00
3月17日(火)
Robert Sparrow(ロバート・スパロー)氏(モナシュ大学講師)講演会
"Better Than Men? Sex and the therapy/enhancement distinction"
「人よりもよい?治療とエンハンスメントの区別と性別」
東京大学医学部 1号館3階 S317セミナー室 15:00~16:00
【2009 年度】
7月7日(火)
高山 義浩 氏(厚生労働省健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室室長補佐)講演会
「地域医療の現場から ~グローバリズムの被害者たちへ」
東京大学医学部 3号館1階 S102セミナー室 17:00~18:00
20
7月23日(木)
Brian Boyarsky(ブライアン・ボヤースキー)氏(ジョンスホプキンス大学博士後期課程)講演会
"Organ Donation Policy, Law & Ethics: An International Camparative Analysis"
「臓器提供政策、法、倫理:国際比較分析」
東京大学医学部 3号館4階 S408セミナー室 12:00~13:00
8月8日(土)
加藤 尚武 氏(京都大学名誉教授)講演会 「合意形成と生命倫理―政策に臨む倫理―」
東京大学医学部 教育研究棟14階 鉄門記念講堂 17:30~18:30
9月1日(火)
Setsuko Inoue(セツコ・イノウエ)氏(グラスゴー大学博士後期課程)講演会
"’Whether to tell truth?’ is the question to compare between Japan and the West”
「『告知すべきか』が日本と西洋とのあいだで比較すべき問題である」
東京大学医学部 3号館4階 S408セミナー室 12:00~13:00
9月29日(火)
Carol Borek(キャロル・ボレック)氏(モナシュ大学修士課程)講演会
"’Considerations for Ethical Communication of Scientific Information”
「科学的情報を倫理的に伝えるための考察」
東京大学医学部 1号館3階 S317セミナー室 15:00~16:00
11月10日(火)
Anita Ho(アニタ・ホー)氏(ブリティッシュ・コロンビア大学助教)講演会
“When Families Decide against Patients’Preferences“ 「家族が患者の意向に反した決断をするとき」
Peter Doshi(ピーター・ドーシ)氏(マサチューセッツ工科大学博士後期課程)講演会
"Japanese Vaccine Policy: balancing freedom of choice with the duty to protect?"
「日本のワクチン政策:選択の自由と保護義務のバランスを取るには」
東京大学医学部 1号館3階 S317セミナー室 15:00~16:00
11月16日(月)
Jonathan Moreno(ジョナサン・モレノ)氏(ペンシルバニア大学教授)講演会
“Bioethics and Biopolitics in America” 「アメリカにおけるバイオエシックスとバイオポリティクス」
東京大学医学部 教育研究棟 2階 第1・2セミナー室 18:00~19:00
11月15日(金)
Joe Powers(ジョー・パワーズ)氏(ペンシルバニア大学 Center for Neuroscience & Society 所長)講演会
"Taking a 'Happy Pill'": An Exploratory Study 「『幸せの薬』を飲むこと:探索的研究」
東京大学医学部 3号館4階 S408セミナー室 12:00~13:00
3月29日(月)
Jochen Vollmann(ヨッヘン・フォルマン) 氏(ボッフム・ルール大学教授)講演会
"The Assessment of Mental Capacity" 「同意能力の判定」
東京大学医学部 3 号館 1 階 S102 セミナー室 18:00~19:30
21
3月30日(火)
中野(奥野)満里子(オハイオ州立大学助教)氏講演会
「米国大学における医療プロフェッショナリズム運動の意味と展開」
東京大学医学部 3号館4階 S408セミナー室 12:00~13:00
7. リカレント:夏期集中・生命・医療倫理学入門コース
生命・医療倫理に関心のある社会人や学生を対象に、短期間のうちに生命・医療倫理の基礎および倫理
委員会の概要を学んでもらうことを目的とする。
コースは、
主として講義および演習から構成されている。
講義では、倫理学や法の基礎理論、そして生命・医療倫理の領域において特に重要だと考えられるいくつ
かの理論を紹介し、演習では講義で学んだ理論を実際に使いながら模擬倫理委員会を行う。また、ゲスト・
スピーカーによる最新の話題提供や、受講生同士の交流を目的とした懇親会を行う。本集中コースは、英
米圏で行われている同様の生命・医療倫理集中コースを日本で初めて試みたものである。
コースの一環としてのみならず、広く公開した一般にも特別講演会は、これまで大盛況のもとに終了し
た。2008 年度は「CBEL 5 周年・UT-CBEL 設立記念シンポジウム」と題し、加藤尚武氏(京都大学名誉教
授)、信原幸弘氏(東京大学教授)を迎え、「心・脳の哲学と倫理―脳科学と社会―」について講演会を
行った。ゲストには文部科学省ライフサイエンス課(当時)の菱山豊氏、東京大学教授の佐倉統氏を迎え、
活発な議論が行われた。2009 年度は加藤尚武氏を講演者に迎え、
「合意形成と生命倫理―政策に臨む倫理」
をテーマにシンポジウムを開催し、会場からも多くの発言が見られた。
【選考方法】
選考はスタッフ数名からなる選考委員会による以下の手順で行う。(1)申込書に書かれている受講理由
を中心に、専門性が偏らないように等、コース全体のバランスを考えて一次選考を行う。(2)一時選考
で受講人数を大幅に上回るときには、二次選考を抽選によって行う。
【修了証取得の条件】
修了証取得の条件は、講義および演習への 5 割以上の出席とする。
【受講者・修了者数】
22
2008 年度
2008 年 8 月 7 日~10 日
72 名
2009 年度
2009 年 8 月 6 日~9 日
70 名
【講義日程等】
2008 年度:8 月 7 日~10 日 13:00~15:30
2009 年度:8 月 6 日~9 日 13:00~15:30
場所:東京大学医学部 教育研究棟 13 階 第 6 セミナー室
主催:東京大学大学院医学系研究科 医療倫理学分野
共催:東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理の研究教育拠点創成」(2009 年度のみ)
2009 年度スケジュール例:
8月6日(木)
8月7日(金)
生命・医療倫理の原則と
重要概念
時間
8月8日(土)
8月9日(日)
インフォームド・コンセント
守秘義務と個人情報保護
9
10
臨床症例の倫理的検討法
法の基礎
11
医療従事者・患者関係
昼食
受付
昼食
12
昼食
ケアの倫理
生命・医療倫理学とは(赤林)
13
演習:
倫理コンサルテーション 3
14
演習:
倫理コンサルテーション 1
演習:
演習:
模擬倫理委員会
15
倫理学の基礎 1
16
倫理学の基礎 2
17
倫理コンサルテーション 2
修了証授与
(移動)
特別講演会
ウエルカムパーティー
18
(移動)
19
懇親会
20
23
8. リカレント:受講者のフォロー・アップ
【メーリングリストの作成】
生命・医療倫理学入門コース、およびリスクマネジメントコースの修了者を中心としたメーリングリス
トを開設し、各種シンポジウム、研究会等に関する情報を送信している。登録者数は平成 22 年 3 月現在
598 名にのぼる。
【質問などメールによる対応】
コース修了後各自の現場に戻った受講者らが、倫理的、あるいはリスクマネジメント上、困難をおぼえ
る事例などに直面した際には、本ユニットの事務局をとおして、メールによる質問などができるような体
制を整えている。
【コース修了者による勉強会など】
コース修了者による自発的なメーリングリストが開設され、メールを通じた活発なネットワークづくり
や意見交換が行われている。また、自主的な組織を立ち上げ、定期的な勉強会も開催している。
24
第1回
2005 年 4 月 16 日
終末期医療、インフォームド・コンセント、川崎協同病院事件
第2回
2005 年 7 月 9 日
遺伝性の難病を有する児を出産する可能性の説明義務等
第3回
2005 年 10 月 1 日
模擬倫理コンサルテーション(終末期医療)
第4回
2005 年 11 月 20 日
人工呼吸器脱着にまつわる倫理的問題
第5回
2006 年 4 月 23 日
災害時の倫理
第6回
2006 年 7 月 1 日
オランダの尊厳死・透析医療における事前指示―10 年間の歩み
第7回
2006 年 12 月 17 日
倫理審査委員会
第8回
2007 年 6 月 2 日
生殖補助医療の現状と問題点・代理出産を中心に
第9回
2007 年 11 月 24 日
宗教的理由による輸血拒否
第 10 回
2008 年 3 月 30 日
脳神経科学と倫理(ニューロエシックス)
第 11 回
2008 年 9 月 27 日
DNR(蘇生処置拒否)をめぐって
第 12 回
2009 年 6 月 21 日
倫理教育
第 13 回
2010 年 1 月 31 日
倫理コンサルテーションを立ち上げよう!
III.
研究活動
25
1. 公共政策部門
公共政策部門では、
医療やバイオサイエンスの分野において日々発生しているさまざまな倫理的問題を、
政策課題として検討する。また、社会における情報や問題意識の共有が必要と判断した問題について、情
報発信や提案の発表を行い、
政策論の発展に貢献することを目指す。
本学内の政策ビジョン研究センター、
医科学研究所公共政策部門等と連携し、
アカデミアから発信する政策提言のあり方についても検討を行う。
2009 年度は特に、新型インフルエンザの対策に関して、政策レスポンス、調査研究といったアカデミア
からの発信が、ワクチン配分の優先順位等に関して、ダイレクトに政策形成への影響を与えるための手法
を確立した。新型インフルエンザのワクチン配分をめぐる政策形成過程に寄与することで、全国実態調査
と政策提言の機能を備えた生命・医療倫理シンクタンク機能の構築・実践を行った。
【政策レスポンスの作成、公表】(http://cbel.jp/modules/pico/category0003.html)
生命倫理政策の展開において、情報の格差や整理は大きな障壁となっている。本部門では、活動の社会
的実践の一形態として、
日々起こるさまざまな出来事について、
政策情報や検討すべき論点を整理したり、
提案を行う活動を行う。2009 年度末までに合計 8 号を作成し、ホームページ上で公表した。政策レスポン
ス No.4-8 は東京大学政策ビジョン研究センターのホームページ上にある「Policy Issues」のコーナーでも公
表されている。(http://pari.u-tokyo.ac.jp/policy/index_issue.html)
■No.1 (2009 年 2 月)「体外受精における「取り違え」が提起する新たな倫理問題」
■No.2 (2009 年 4 月)「臓器移植法改正法案の検討」
■No.3 (2009 年 6 月)「臓器移植法改正法案の検討 (2)提供先の指定に関する詳細な検討を」
■No.4 (2009 年 7 月)「脳死臓器提供 法改正で何が変わったのか」
■No.5 (2009 年 8 月)「ワクチン配分の政策と倫理 2009 年の H1N1 インフルエンザの流行が提起する問題」
■No.6 (2009 年 10 月)「特集:予防接種に関する全国意識調査 2009 年の H1N1インフルエンザの
流行が提起する問題(2)」
■No.7 (2009 年 12 月)「代理出産をめぐる議論の現在 議論の停滞がもたらす新たな展開」
■No.8 (2010 年 1 月)「性転換カップルによる生殖補助技術利用が提起する問題」
【政策レスポンス掲載メディア】
■政策レスポンス No.1 体外受精における「取り違え」が提起する新たな倫理問題
- 「体外受精揺らぐ安全 親権訴訟欧米で十数件」(朝日新聞、2009 年 2 月 26 日)
- 「受精卵取り違え 海外で十数例が判明」(毎日新聞、2009 年 3 月 13 日)
- 「受精卵取り違え 生殖医療の法的議論再開を」(毎日新聞、2009 年 3 月 17 日)
■政策レスポンス No.5 ワクチン配分の政策と倫理
- 「新型インフルワクチン、東大が政府に注文」(読売新聞、2009 年 8 月 12 日)
- 「ワクチン輸入は国際視点で 新型インフルで東大提言」(共同通信系各紙、2009 年 8 月 12 日)
- 「東大、新型インフル用ワクチンで政府に提言」(読売新聞、2009 年 8 月 13 日)
- 「新型インフルワクチン 『重症化予防を目的に』」(日経新聞、2009 年 8 月 20 日)
- 「新型インフル 『ハイリスク者優先を』」(産経新聞、2009 年 8 月 21 日)
■政策レスポンス No.6 特集:予防接種に関する全国意識調査
- 「新型ワクチン東大が意識調査 海外製に不安感も」(朝日新聞、2009 年 10 月 17 日)
26
-
「ワクチン接種、市民の6割が希望…東大調査」(読売新聞、2009 年 10 月 20 日)
「新型インフルワクチン接種、3割『希望せず』東大調査」(朝日新聞、2009 年 10 月 20 日)
【メディア対応】
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報道対応「体外受精揺らぐ安全 親権訴訟欧米で十数件」(朝日新聞、2009 年 2 月 26 日)
報道対応「受精卵取り違え 海外で十数例が判明」(毎日新聞、2009 年 3 月 13 日)
報道対応「受精卵取り違え 生殖医療の法的議論再開を」(毎日新聞、2009 年 3 月 17 日)
報道対応「新型インフルワクチン、東大が政府に注文」(読売新聞、2009 年 8 月 12 日)
報道対応「ワクチン輸入は国際視点で 新型インフルで東大提言」(共同通信系、2009 年 8 月 12 日)
報道対応「東大、新型インフル用ワクチンで政府に提言」(読売新聞、2009 年 8 月 13 日)
報道対応「新型インフルワクチン『重症化予防を目的に』」(日経新聞、2009 年 8 月 20 日)
TV インタビュー「新型インフルエンザ ワクチン接種」(テレビ朝日「スーパーJ チャンネル」2009 年 8 月 20 日)
報道対応「新型インフル 『ハイリスク者優先を』」(産経新聞、2009 年 8 月 21 日)
TV インタビュー「新型インフルエンザ “感染拡大”との闘い」(NHK「クローズアップ現代」2009 年 8 月 26 日)
TV インタビュー「新型インフルエンザ ワクチン接種」(テレビ朝日「報道ステーション」2009 年 9 月 8 日、10 月 30 日)
報道対応「新型ワクチン 東大が意識調査 海外製に不安感も」(朝日新聞、2009 年 10 月 19 日)
報道対応「新型インフルワクチン接種、3割『希望せず』東大調査」(朝日新聞、2009 年 10 月 20 日)
報道対応「ワクチン接種、市民の6割が希望…東大調査」(読売新聞、2009 年 10 月 20 日)
【政策関連用語集】
東京大学政策ビジョン研究センターのホームページ上にある「政策関連用語集」のコーナーにて、生命
倫理に関係する用語集を作成して公表した。
生命倫理専門調査会:内閣府設置法総合科学技術会議令第2条第1項に基づき、総合科学技術会議に設置
された専門調査会の一つ。前身は総理府に置かれていた「生命倫理委員会」。「生命科学の急速な発展に
対応するため、ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律第4条第3項に基づく特定胚の取扱いに
関する指針の策定等生命倫理に関する調査・検討を行う」ことを職務とする。2004 年には「ヒト胚の取扱
いに関する基本的考え方」を公表。各省庁から出される研究倫理指針の改正に関する諮問への対応の業務
も多い。
国家(全国)生命倫理委員会:‘national ethics body’あるいは‘national ethics committee’。ユネスコの
定義によると「生命倫理の諸問題についての政策立案・助言組織」。議会や行政当局内に、特定の事例や
領域についての調査組織が一時的に設置されることはあるが、政策課題の調査能力を伴う公的検討組織の
先駆けとしては、70 年代アメリカでの、国家研究法にもとづく「生物医学・行動科学研究における研究対
象者の保護のための国家委員会」(1974-1978)が挙げられる。常設の国家倫理組織としては 1983 年に
フランスで設置された「国家生命・医科学倫理諮問委員会」(CCNE)が知られており、20 年余の歴史と
共に現在も精力的に活動している。 委員会による発議のほか、当局等からの諮問に応じて作成される政策
報告書は、国内外の生命倫理政策関連の行政および立法に影響力を持つ。
研究倫理(学):狭義には、人(人体の一部を含む)を対象とする研究の倫理的問題を検討する学問領域。
広義には動物実験の倫理的問題や研究者倫理も含む。倫理的に適切な研究を進めつつ、研究対象(者)の
保護を図ることをその目的としている。歴史的には、第二次世界大戦中および戦後の非倫理的研究に対す
る反省をもとに発展してきた。特に、アメリカの被験者保護に関する国家委員会が 1979 年に公刊した倫理
ガイドライン「ベルモント・レポート」は、その後の研究倫理の発展に大きな影響を与えた。レポートは、
「人格の尊重」「善行」「正義」の 3 つの倫理原則を提示したうえで、「被験者からのインフォームド・
27
コンセントの取得」、「研究計画の好ましいリスク・ベネフィット比率」、「公正な被験者の選択」を倫
理的な研究の要件として挙げている。
ヘルシンキ宣言:「世界医師会ヘルシンキ宣言」
(1964 年)。人を対象とした研究活動に関する指針((「人
を対象とした研究に関する倫理原則」)を示したものであり、現在では研究倫理ガイドラインとしての性
格を強めている。東京(1975)、ベニス(1983)、香港(1989)、南アフリカ(1996)、エディンバラ(2000)、
ソウル(2008)と改正を重ねている。日本の多くの研究倫理指針が参照している。
ELSI(エルシー):Ethical, Legal and Social Issues の略。研究の進行に伴って生じる生命・身体の取扱いに
ついての倫理的、法的、社会的議論を検討する活動。ヒトゲノム計画で研究予算の一定割合がこの領域の
検討に割り当てられた。以降、脳研究、再生医学などの大型プロジェクトと並行して、該当する技術がも
たらす社会的懸念を特定し、かつ対応を検討するための活動が併置されるケースが目立つ。
臨床倫理(Clinical Ethics):臨床現場で生じる各種の倫理問題を特定、分析し、かつ解決を試みることに
より、患者へのケアの質を向上させるための活動。日常医療における医療者=患者関係、診療における子
どもの意思の尊重などの問題のほか、治療の差し控えや中断、治療や特定の施術の拒否への対応などがあ
る。こうした問題への対応を検討したり、問題点を共有するための機能として「病院倫理委員会」
(Hospital
Ethics Committee)や「倫理コンサルテーション」に注目が集まっている。
専門職倫理:プロフェッションとしての個人および組織の一員としてなすべき倫理。医療においては、医
療従事者として患者への義務、および同じ医療従事者間において果たすべき義務を検討するもの。日本医
師会(「医師の職業倫理指針」、2008 年改訂)をはじめ、各職団体から職業倫理指針が示されている。
生殖補助技術(ART)の倫理:ART は Assisted Reproductive Technology の略。狭義には人工授精(artificial
insemination: AI)や体外受精(in vitro fertilization: IVF)などの技術進歩に伴って可能となった生殖補助に伴
って新たな検討課題となった法的、倫理的、社会的問題を指す。具体的には、代理出産の問題、精子・卵
提供および長期保存に伴う諸問題、親子関係の定義、子どもによる生物学的出自を知る権利などがある。
ニューロエシックス:脳神経倫理とも。人間の価値観や人格の存在を神経科学的理解によって把握するこ
とを目指す場合、または、脳への介入、神経科学技術を使用する研究活動および臨床応用に関する諸問題
(脳スキャンなど脳関連情報の取扱い、脳組織の利用、向精神薬などの精神薬理学の取扱い、脳=コンピ
ュータ・インターフェイス、神経細胞の移植など)、およびこれらの社会的、政策的な影響(脳画像の証
拠採用など)を検討する。脳科学の急速な発展の中、独自の検討領域として取り上げられることも多くな
ってきた。
28
Policy Issues
No.1 Feb 2009
体外受精における「取り違え」が提起する新たな倫理問題
香川県立中央病院における、体外受精中の受精卵の取り違えが問題となっている。取り違え の防
止策の実行が早急に求められるが、 同時に取り違えが発生した場合への対応の在り方も検討する
必要がある。検討するべき主な倫理的課題として、①生殖補助医療における親子関係の議論の再
開、②ルールを守る仕組みの明確化、③ 取り違えにおける中絶のあり方がある。
「体外受精 」は体 外で人 工的に受精 させた 胚を女 性の体内に 移植す る行為 であり、体 外での 生殖
細胞の操作、 胚の維持 お よび女性の体 内への移 植 といった一連 の技術の 進 歩により可能 となった。
現在、国内の実施施設数は 500 施設を超え、体外受精により誕生する子どもは 1 年間に 2 万人(全
出生児の約 2%)に達する。体外受精における胚や精子の取り違えは、 海外では‘IVF mix-up’、
胚の場合には‘embryo mix-up’と称され、各国で大きく取り上げられた(文末「海外での類似
事例」参照) 。今回の取り違え事件は今後の政策立案に示唆を与えるものである。
①もし、この子どもが生まれてから、取り違えに気が付いていたらどうだったか?
体外受精における胚の取り違えが起こった場合、子どもを妊娠する女性の側のカップル(図中の
カップル A)とは別に、本来これを自身らの治療の目的で作成したもう一方のカップル(同 B)が
存在する。取り違えの発生は、カップル B にとって、自身らの不妊治療のために作成した胚を他者
に利用され、自身らが利用できなくなる ことを意味する。
取り違えは、判明する時期によって「1. 子宮に戻す前また
は 戻 して 妊娠 する まで 」、「 2. 妊 娠後 から 出産前 ま で 」、「 3.
出産後」に分けることが可能である。今回は 2. の事例であ
ったが、海外の事例が示すように、状況によっては 3. に至
る可能性もあった。2003 年の法務省試案は、第三者の胚や生
殖細胞を用いて生まれ て 子どもについて、分娩 主 義 (分娩の事
実をもって母子関係を 確 定)を維持するとした 。 しかし、精子
の取り違えの可能性は 想 定していたものの、卵 や 胚の取り違え
は想定していなかった 。 また、生殖補助医療の 実 施は、治療を
受けるカップ ル間の 合 意 を前提として いるが、 今 回のように想 定しない 取 り違えが発生 した場合、
生まれた子どもの法的地位は不安定であり、子どもの福祉が脅かされる可能性がある。現在、法務
省内での議論は中断しており、再開のめどが立っていない。取り違えが今後も発生する可能性は否
定できない以上、生殖補助医療の利用が新たに親子関係にもたらす問題、および対応のあり方につ
いて、調査と議論を再開する必要がある。
1
29
Policy Issues
No.1 Feb 2009
②技術の利用に関する「ルール」のあり方に問題はなかったか?
取り違えへの対策として、当面は各実施施設の 人員のルール意識を徹底させること、必要な人員
の補充、ダブルチェックなどチェック体制の強化など、手続きの改良による対応がとられることに
なるだろう。しかし、医療専門職の日々の活動の規律は、病院や専門職間の組織的取り組みによっ
ても保たれるべきものである。日本産科婦人科学会(以下、日産婦)は「倫理に関する見解」の中
で、複数者による作業を最低限の基準としている。
しかし、厚生労働省の研究班が、
香川県立中 央病院「 取り違 え」事件の 概要
香川県立中央病院(以下、中央病院)で発生した取り違えの
概要は、以下のとおり。
 夫婦は妊娠・出産を果たすため、長きにわたり不妊治療
を受けてきた。
 2008 年 4 月、中央病院での治療開始。
 同 10 月、妊娠が判明。
 同 11 月、受精卵を取り違えて移植した可能性が極めて
高いとの説明があった。「現時点では上記の可能性を確
定する術がないこと」、
「確定できる検査が可能な時期に
なってからでは中絶の実施について母体に大きな負担
がかかること」が説明された。
 夫婦は、妊娠の喜びが大きかっただけに、大きな衝撃・
苦痛を受けた(ている)。
 同 11 月、夫婦は中絶を決め、措置が実施された。
 夫婦は、中央病院および県の説明に不満・不信を感じた。
 夫婦は損害賠償を求めて提訴。この過程で事件の概要が
明らかになった。
2004 年 に 調 査 し た 日 産 婦 へ の 登 録 施
設約 200 施設のうち、学会が要件とし
て求めた培養施設・設置機器を備えた培
養室を持つのは 2 割弱であり、人材面で
も看護師、不妊カウンセラー、胚培養士
のいずれもが大幅に不足していると報
告されている。日産婦のほか、日本では
日本生殖医学会、日本受精着床学会、日
本生殖補助医療標準化機関などがそれ
ぞれ異なる文脈でルールの在り方を検
討してきたという状況もあり、専門職組
織のルール自体も一様ではない。
イギリスでは 2002 年、国営医療サービス( NHS)での体外受精における取り違えの続発を
重く見て、政府が調査班を組織した。 この調査班は全 103 項目に及ぶ勧告を政府に行ったが、そ
のうち保管場所やバーコード認証などの実務の面を除いても、医療機関の組織改革に関する勧告が
約 20 項目、その他は監督庁(人の受精および胚研究管理庁:HFEA)による不妊クリニックの許
可制度の改革に関する勧告が約 70 項目を占めた。生殖補助技術におけるルールの不徹底や乱立は、
ただちに社会の大きな懸念を喚起する。ルールは、ルールを遵守する意識と、その遵守を保障する
体制の充実の 両面によ っ てこそ、継続 的に機能 す る。学会と国 とのそれ ぞ れの役割を明 確にして、
日本の生殖補助医療界において採用されるルールが、確実に運用されるような体制の検討が求めら
れる。
③今回の中絶実施のプロセスは何を問うか?
長きにわたる不妊治療に耐えてきたカップルが、その治療における取り違えのために、中絶を選
択したことは大きな悲劇である。 中絶は、刑法の「堕胎の罪」(第 29 章)で原則禁止されるが、
母体保護法第 14 条の要件のもと、指定された医師が「医学的適応」(身体的理由による母体の健
康への害)、「倫理的適応」(暴行・強迫による妊娠)、「社会的適応」(経済的理由による母体の健康
30
2
Policy Issues
No.1 Feb 2009
への害)を認定した場合に、カップルの同意を得て実施できる場合があるとされる。しかし、今回
の中絶実施については、指定医師が中絶実施を認定した根拠が明らかにされていない。また、その
中絶が妥当であったのかどうか、中絶後の 検証もなされていないようである。第 14 条の条件は厳
格に適用されておらず、むしろ空文化しているとも指摘されているが、曖昧な決定による中絶の実
施はカップルを一段と苦境に陥れる可能性もあり、また今後の組織改革にとっても得るものがない。
取り違えに関係する中絶は正当化されるのか。もし正当化されるなら、どのような場合、どのよう
な根拠のもとか。
海外の類似事例
取り違えの発生は日本だけではない。海外では受精卵や胚の取り違えの発生が子どもの出生後に
発覚した事例があり、親子関係の争議が起こっているものもある。アメリカでは、取り違えで白人
カップルに黒人と白人の「双子」が生まれ、黒人の子の親子関係を巡って受精卵を使われた黒人カ
ップルと法廷 で争った 事 例がある(表 中* 1 )。また、医師が 受精卵の 取 り違えを明ら かにせず、
生後に発覚し たケース も ある( * 2 )。イギリス では、体外受 精で生ま れ た子どもが成 長する過程
で取り違えの 疑いが浮 上 し検査の結果 発覚した 事 例(* 3 )、精子の取り 違えにより白 人カップル
から黒人の子どもが生まれた事例(*4)がある。それぞれの内容は実に多様である。
イギ リ ス
判明
1993
2002
2002
2002
2003
2004
アメ リ カ
1999
2004
イタ リ ア
2004
2004
オラ ン ダ
1993
概要
(詳 細不 明)
二組のカップルのために保管されて
いた 胚 が、そ れ ぞれ 予 定外 の カッ プ ル
の女 性 に連 鎖 的に 誤っ て 移植 され た。
他者の精子を誤って用いて胚が作成
され た 。( * 4 )
取り 違 え
胚
胚
精子
出産 直 後
他者の精子を誤って用いて胚が作成
され た 。
他者の精子を誤って用いて胚が作成
され た 。( * 3 )
他者の精子を誤って用いて胚が作成
され た 。
体内に移植された二つの胚の片方が
他の カ ップ ル のも ので あ った 。
(*1)
精子
治療 前
白人カップルから黒人の子どもが生ま
れた ケ ース 。分 娩し た女 性 を母 親と す る
一方 、精 子 の由 来 する「他 者」を父 親 と
裁定 。子 ども が カッ プル と 共に 生活 す る
こと は 認め ら れた 。
胚の 破 棄
精子
出産 後
(子 ど も 13 歳)
出産 直 後
(詳 細 不 明 ) 記 録 が 廃 棄 さ れ て お り 、 子
ども は 出自 の 追跡 を断 念 した との 報 道 。
(詳 細不 明)
胚
出産 直 前
胚
精子
出産 後
(生 後 10 か 月)
出産 直 後
精子
治療 直 後
白人 カ ップ ル から 黒人 、白 人の 子ど も が
生ま れ たケ ー スと して 有 名 。子 ども の 監
護権 を めぐ る 係争 に発 展 。生物 学的 な 親
の治 療 意図 が 認定 され 、妊 娠し た女 性 ら
の権 利 は認 め られ なか っ た。
医師が取り違えの事実を黙秘していた
事例 。 子ど も への 権利 を めぐ って 係 争 。
(詳 細 不 明 ) 白 人 カ ッ プ ル か ら 黒 人 の 子
ども が 生ま れ たケ ース 。
避妊 薬 を投 与 。
精子
出産 直 後
体内に移植された胚が他のカップル
のも の であ っ た。( * 2 )
他者の精子を誤って用いて胚が作成
され た 。
人工 授 精に お いて、誤 った 精 子を 移 植
され た 。
他者の精子を誤って用いて作成され
た胚 が 体内 に 移植 され た 。
精子
3
判明 時 点
(詳 細不 明)
治療 直 後
結果
(詳 細不 明)
共に 中 絶措 置 。
(詳 細 不 明 ) こ の 「 他 人 」 は 子 ど も に 対
する権利を一切放棄することを表明し
て、 係 争に は 発展 しな か った 。
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Policy Issues
No.1 Feb 2009
F u r th er R e a d in g
●文献
・参 議 院内 閣 委員 会 、「 少 子化 社会 対 策基 本 法案 に対 す る附 帯決 議 」、2003 年 。
・甲 斐 克則「 刑法 と母 体 保護 法 日 本 法の 解 釈を めぐ っ て 」、
『母 体 保護 法 と私 たち 』
( 齋藤 有紀 子 編、明 石書 店 )、77-90
頁、2002 年 。
・厚 生 労働 省 「精 子・ 卵 ・胚 の提 供 等に よ る生 殖補 助 医療 制度 の 整備 に 関す る報 告 書 」( 厚生 科 学審 議 会生 殖補 助 医療 部
会)、2003 年 。
・法 務 省「 精子・卵・胚の 提 供 等に よ る生 殖 補助 医療 に より 出生 し た子 の 親子 関係 に 関す る民 法 の特 例 に関 する 要 綱中 間
試案 」(法 制 審議 会 生殖 補 助医 療関 連 親子 法 制部 会 )、2003 年。
・厚 生 労働 科 学研 究費 補 助金 「生 殖 補助 医 療の 安全 管 理お よび 心 理的 支 援を 含む 統 合的 運 用 シ ステ ム に関 する 研 究 」( 吉
村 典代 表)、2005 年 。
・日本 産 科婦 人 科学 会平 成 19 年 倫理 委 員会・登 録・調 査 小委 員 会報 告(2006 年分 の 体外 受 精・胚 移 植等 の臨 床 実 施成
績お よ び 2008 年 3 月 に おけ る登 録 施設 名 )、2008 年 。
●各事例に関する主な記事
※代 表 的な も のに 限定 し て掲 載。
・香 川 県立 中 央病 院
受精 卵 取り 違 え 本人 の もの 含む 3 個移 植 学 会規 定 違反 か( 毎 日新 聞 )2009 年 2 月 24 日 。
受精 卵 取り 違 え:「 私 の子 ど も 大丈 夫 か」 県立 中央 病 院、 受診 者 に電 話 相談 (毎 日 新聞 )2009 年 2 月 22 日 。
体外 受 精ミ ス 初 歩的 ミ ス生 む土 壌 施 設 ・人 員追 い つか ず( 毎 日新 聞 )2009 年 2 月 20 日 。
香川 県 立中 央 病院 の体 外 受精 ミス :「産 み たい 」 涙の 中 絶「 我が 子 」と 分 から ず( 毎 日新 聞) 2009 年 2 月 20 日
厚労 省 「前 代 未聞 」施 設 半数 「ヒ ヤ リ」 体 験 受精 卵 取り 違え 事 故( 産 経新 聞)2009 年 2 月 19 日 。
・イ ギ リス の 事例
James Watt. Leading cases: the effect of the use of the wrong sperm. Clinical Risk, 2004,10;4:142.
Brain Toft (Department of Health). Independent review of the circumstances surrounding four adverse
events that occurred in the Reproductive Medicine Units at The Leeds Teaching Hospitals NHS Trust,
West Yorkshire. 2004.
Department of Health’s response to Professor Brian Toft’ s report. 2004.
Anonymous, Embryo mix-up at IVF hospital. BBC, Oct. 28, 2002.
Ian Johnston, IVF Errors Give Women Babies By Wrong Fathers, The SCOTSMAN, Aug. 6, 2004.
・ア メ リカ の 事例
Perry-Rogers v. Fasano, 276 A.D.2d 67 (N.Y. App. Div. 1st Dep't 2000)
Chris Ayres Mother wins $1m for IVF mix-up but may lose son. Times, Aug. 5, 2004.
・イ タ リア の 事例
Sophie Arie, Italian IVF Blunder Fuels Fertility Law Row: White Couple Seeks Damages After Alleged Egg
Mix-Up, GUARDIAN, Sep. 1, 2004.
・オ ラ ンダ の 事例
Andrew Buncombe IVF mix-up: ’I fear my son will feel he is a mistake’. Jul. 9, 2002.
※ こ の 文 章 は 、 朝 日 新 聞 (「 体外 受 精 揺 ら ぐ 安 全 」、2009 年 2 月 26 日 ) に 寄 せ た 解 説を 含 ん で い ま す 。
Policy Issues No.1・2009 年 2 月
作成:井上悠輔(いのうえ・ゆうすけ)
発行・連絡先:
東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」事務局
(UT-CBEL: The University of Tokyo Center for Biomedical Ethics and Law)
〒113-0033 東京都文京区本郷 7‐3‐1 東京大学医学部 3 号館 4 階
Email:[email protected]
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Policy Issues
No.2 Apr 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
特集:臓器移植法改正法案の検討(1)
臓器移植法改正をめぐって多くの論点が提示されている。臓器移植法の成立時から指摘され続け
てきた問題のほか、新たに出現した検討課題もあり、議論が錯綜している。本特集は次号にもわ
たって今回の法改正の主な論点を検討する予定である。この特集を読めば、どの法案にも切実な
問題意識があり、仮に今回何らかの改正が行われたとしても、臓器移植は引き続き議論が必要な
テーマであることが分かるだろう。立法府には、日本の移植医療が社会から信頼を得られる形で
発展するよう、議論を尽くした上での判断を期待する。なお、現時点で我々が考える主論点は以
下のとおりである。
1.「家族の承諾」は現行法の理念と両立するか。
2.「家族の承諾」が子ども等の移植に適用される際に起こりうる課題の検討が必要。
3.虐待捜査と脳死移植の両立には長期的な体制整備が必要。
4.「脳死下での臓器移植」以外での移植・摘出の規制の検討は必要ないのか(次号予定)。
はじめに
「臓器の移植に関する法律」(以下、臓器移植法)の改正法案が議論されている。現在の臓器移植法は
1997 年に成立し、所定の基準を満たした脳死体からの臓器摘出が合法化された。しかし、移植を希望す
る患者は、計 1 万人を超えている((社)日本臓器移植ネットワーク、2009 年 3 月末現在)のに対し、
移植臓器の脳死提供は低い水準(10 年間で 80 数例)で推移してきた。
こうした状況から、臓器の移植を必要とする患者の一部は、親族など生きている他者から臓器の提供を
受ける(生 体移植)ほか、臓器提供を求めて他国に渡る(渡航移植)など、現行法による移植以外の可能
性を模索してきた。
一方、移植用の臓器の不足は日本のみならず他国でも深刻であり、国家間の経済格差を利用した臓器の
搾取や不正な取引(「移 植ツーリズム」「臓器不正交易」)の横行が指摘されている。2008 年の国際移植
学会等による「イスタンブール宣言」、および 2009 年の WHO(世界保健機構)による「指針」の改正
方針(5 月の総会での採択をめざす)の表明は、主にこれらの国境を越えた臓器売買の防止を図る観点に
立つ。だが、日本ではこうした動向が渡航移植、とりわけ現行法の基準では国内の実施が極めて難しく他
の代替手段がない小児心臓移植の可能性をさらに狭めるものとの危機感を募らせることとなり、今回の法
改正作業の大きな推進力の一つになっているといえる。
臓器移植法については、
「脳死」の位置づけや脳死下での提供の可否をめぐって意見の調整が難航した経
緯がある。1997 年に法が成立した際、施行後 3 年後の「全般についての検討」「その結果に基づいて必
要な措置」
(附則二条)が盛り込まれたことはこうした背景による。しかし、国会で法の検証をめぐる議論
が本格化することなく 10 数年が経過した。この間、生体移植ドナーの死亡や後遺症の事例、組織や細 胞
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Policy Issues
No.2 Apr 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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に関する移植医療の拡大、脳死判定をめぐる疑義などの観点から、現行法の不備を問う声も出ていた 。 ま
た、海外では脳死判定における事例や医療技術の進歩の中で、死の定義をめぐる議論が再燃している。
このように臓器移植法改正をめぐる議論では、法の成立当時から積み残してきた問題に加え、移植 医 療
が抱える新 たな問題へ の対応の両 方が錯綜し ている。立法府の構成員には、広い視野からの影響性の評価
にもとづく議論と判断を期待したい。以下、
「2号」では報道で取り上げられることの多い脳死提供に関 す
る議論(「1.脳死提供をめぐる議論」)を紹介する。次号では日本の臓器移植法の適用範囲に関する 論 点
などを紹介する予定である。
対照表:各改正法案による提案内容(主に脳死下での提供)
提出 され てい る法 案
本人 の提 供意 思
家族 の承 諾
(家 族が 拒否 して いる 場合 を除 く)
(本 人が 拒否 して いる 場合 を除 く)
(現 行法、) B 案、C 案
A案
移植 ドナ ー候 補で 下記 の判 定を
受け た者 を「 法的 脳死」(=死)とする
脳死の位置づけを変更せず、
現行 法(15 歳以 上)
子 ど も の み「 家 族 の 承 諾 」で の
B 案(12 歳 以上 )
脳 死 下 の 提 供 を 可 能 と す る「 新
脳死≠死
「全 脳機 能の 不可 逆的 な停 止」 を判 定
案」が検討されている。
脳死 の位 置づ け
C 案(15 歳 以上 )
判定 の精 緻化 、「脳全体のすべての
機能 の不 可逆 的な 喪失 」を 判定
A 案(年齢問わず)
脳死=死
「全 脳機 能の 不可 逆的 な
停止 と判 定さ れた 者」
方針
・本 人の 生前 の提 供意 思を 尊重
・本 人の 「提 供意 思」 の表 示が 不要
・提 供意 思を 表明 でき る年 齢か ら
・提 供対 象外 とさ れて きた 子ど もの
の臓 器提 供に 限定 する 方針 を維 持。
脳死 下提 供が 可能 にな る見 込み 。
※法案について、
「A案」
(第百六十四回国会衆法第十四号)、
「B案」
(同第十五号)、
「C案」
(第百六十八回国会
衆法第十八号)との通称が普及しており、本稿でもこれを用いる。なお、法案は衆議院のウェブサイトで公開さ
れている(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm)。
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Policy Issues
No.2 Apr 2009
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1.脳死下の臓器提供をめぐる課題
( 1 )「 家 族 ( 遺 族 ) の 承 諾 」 に よ る 脳 死 提 供
【A案による提案】
提案の骨子
A案は、「脳死」の定義を変更し、「全脳機能の不可逆的な停止と判定された者」が総じて「死者」
に含まれることを明確にするよう求めている。これまで「法的脳死」が適用されてきた、本人の提供
意思の表示を要件とする」立場ではなく、「本人の提供意思がないとする表示」がある場合を除けば、
「遺族の承諾」により臓器摘出が認められるとする立場からの改正案を示している(A案の場合は脳
死を「死」とする観点からの提案であるため、家族は「遺族」となる)。
検討課題1:臓器移植法の理念との両立
脳死移植に適用される要件について、現行法と A 案の両者の比較を「本人の提供意思」の有無と、
「意思表示」の有無の二つの側面から整理すると図のようになる。
本人 の提 供意 思
≪A 案≫
成人(意思能力が認められる者)
提供したい
提供したくない
子ども等*
ドナ ーカ ード 、シー ル等 に よる
表示している
可能
×不可
可能
「本 人の 提供 意思 」の 表示
表示されていない
可能
可能
可能
提供したい
提供したくない
子ども等*
可能
×不可
×不可
×不可
×不可
×不可
≪現 行法 ≫( B 案、C 案 も同 様)
ドナーカード、シール等による
表示している
「本 人の 提供 意思 」の 表示
表示されていない
*「子ども等」には、現在の臓器移植法が「意思能力が十分でない者(意思の「あり」「なし」を示すことが
できない)としている部類であり、子ども(14 歳以下)、「知的障害者」(臓器移植法指針)が含まれる。
これまで臓器移植法では、「死者」からの移植用臓器の摘出をめぐって、①本人 の「提供意 思」が
生前に表示されていることを重視する立場、②家族の承諾を主要件とする立場、といった大きく二つ
の方針が存在してきた。前者の①について、臓器移植法では本人の書面による「提供意思」の表示を
要件としてきた(第六条)。ここでの「死者」には、従来の心臓死に加え、法による移植ドナー候補
で「全脳機能の不可逆的な停止と判定された者」(「法的脳死」)も含まれる。一方、後者の②は、現
行の臓器移植法の附則にある経過措置である。立法の際に「当分の間」とされたものではあるが、心
停止後に摘出されて移植に利用されることも多い腎臓や角膜などについては、旧角膜腎臓移植法のも
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東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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とでの活動に配慮した経過措置(臓器移植法附則第四条)があり、本人が「提供しない意思」を示し
ている場合を除けば、家族の承諾により移植利用が可能な状況にある。
脳死移植は、上記のように移植ドナー候補のみが判定の対象となる「法的脳死」の場合に限られ、
①の方針のもと、本人の提供意思が生前に示されていることを主たる要件としてきた。今回のA案の
提案は、この「脳死」の定義を変更し、「全脳機能の不可逆的な停止と判定された者」が総じて「死
者」に含まれることを明確にするよう求めている。そして、これまで「法的脳死」が適用されてきた
①(本人の提供意思の表示を要件とする)の立場ではなく、「本人の提供意思がないとする表示」が
ある場合を除き、「遺族の承諾」により臓器摘出が認められるとする、②の立場からの改正を提案し
ている。
この改正案については、次の「検討課題2」に詳述するように、懸案である小児脳死移植が実施出
来る可能性が増すことや、生前に意思表明を明確にしなかった人についても、遺族の承諾によって脳
死下での提供が可能になることなど、移植の機会の増加を期待する立場から支持がある。
一方、本人の「提供(する)意思」の表示を不要とすることを問題視する立場からは、A案の提案
は、臓器移植法の基本理念の規定(第二条、例えば「任意の提供」「人道的精神に基づく提供」)のあ
り方に影響するものであり、臓器移植法の根幹にかかわる改正であるとの反発もある。また、この方
針は、過去に臓器移植法の立案段階において提案されたものの(例えば、森井忠良議員ほか「臓器の
移植に関する法律案」、二十九回国会衆法第七号)採用さ れなかった 経緯があり、主に本人の意思尊
重の理念を具体化するよう求める反対・慎重派の議員の反発に答えて、「本人の意思表示」を要件と
する現行法の成立に至っている。「本人が提供を拒否しない」こと自体が一つの意思表明であるとの
理解が広まらない限り、A 案には同様の批判が向けられることになるだろう。
また、こうした改正は、個人の身体の取扱いに関する他のルールにも及ぶ可能性がある。たとえば、
各省庁より告示されている研究倫理指針のうち、2006 年に告示された「幹細胞の臨床研究に関する
倫理指針」では臓器移植法による脳死体からの試料摘出を「当面見送る」、「細胞・組織利用医薬品等
の取扱い及び使用に関する基本的考え方」では「今後慎重な議論を必要」とするために「想定しない」
(疑義解釈)とする一方、「ヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理指針」では、臓器移植法により脳
死と判定された人からの試料等の提供については、「臓器の摘出により心臓の拍動停止、呼吸停止及
び瞳孔散大という「死の三徴候」の状態を迎えた後」の「提供」であれば遺族の承諾のみで入手可能
としている(第 6 の 16<注1>)。「遺族の承諾」方式の採用が、長期的に他のルールにどう影響す
るのか、ほとんど議論されていない。冒頭で「立法府の構成員には、広い視野からの影響性の評価に
もとづく議論と判断を期待したい」と述べた一つの理由は、ここにある。
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No.2 Apr 2009
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検討課題2:子ども等の移植への適用をめぐる課題
現行法では、「本人の提供意思の表示」を最低条件としているため、意思能力が法的に不十分とさ
れる子ども や「知的障 害者」(「意思表示が有効であるかどうか判断が困難」、臓器移植法指針第一 )
からの摘出は困難であり、子どもの臓器を必要とする移植を希望する場合には渡航移植するしか方法
がなかった。このため、冒頭に書いたように渡航移植が困難になれば、子どもの脳死臓器移植自体が
不可能になるとの懸念につながっている。
A 案の提案者は、「本人の提供意思表示」が不要になれば、これまで臓器移植法指針のもとに脳死
判定が見送られてきた「14 歳以下の子ども」
(「意思表示が有効でない」)も摘出の対象に含まれるこ
とになり、臓器提供の可能性は広がるとする。この点について、現行法における「本人の提供意思の
表示」の維持を求める声を考慮して、子どもに限定して遺族の承諾による脳死提供を認めるべきとす
る意見もある(4 月末に報じられた「新案」はこの方針から検討をしていると報じられている)。
A 案をめぐっては、特に意思表明のあり方について大きく三つの論点が指摘できるであろう。
一点目は、虐待の問題であり、この件は「(3)子どもの虐待と犯罪捜査」を参照にされたい。
二点目は、子どもや知的障害者などについての意思決定 をすること の困難である。例えば、「家族
の承諾」に付帯する条件である「提供意思がないとする表示」について、子どもや知的障害者など、
いわゆる「判断能力」を欠く人々は、
「提供意思がないとする表示」をすることができるのかどうか、
できるとすればどういう方針のもとか、A 案では示されていない。また、家族が子どもの身体の移植
利用を認める可能性(実際に提供が増えるかどうか未知数)、あるいはそもそも家族が第三者の移植
のために子どもの遺体から臓器を摘出することに同意を与えることができるか法的な位置づけが不
確定であること等の懸念も根強く、この方針をとる場合にはこうした懸念を解消する具体策が必要で
ある。
三点目は、子どもの脳死判定自体の困難である。子どもの臨床上の脳死状態については、脳死後も
長期間生存する事例、自発呼吸をするまでに回復した事例など、成人とは相当異なる状況が報告され
ており、懸念を表明する研究者、医療従事者も多い。事例の収集とこれにもとづく判定基準の策定、
およびこの基準が運用される体制の整備が、小児脳死移植に課せられた大きな課題である。
(2)提供意思を表明できる年齢の引き下げ
【B案による提案】
提案の骨子
現行法において、本人の提供意思として認められる年齢の範囲は 15 歳以上とされていることは述
べてきたとおりである。B案は、A案とは異なり、本人の提供意思の表明が条件であるとの現行法の
方針を堅持しつつ、臓器提供の可能性の拡大を図るために年齢制限を「12 歳以上」へと引き下げる
方針を示している。
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検討課題3
この主張は、14 歳以下の子どもの自己決定権を一律に否定するべきでないとする考えによるもの
であり、
「12 歳」を諸調査の結果から判断力の有無の区分として採用する(ただ、この区分の根拠が
不明瞭であるとの指摘もある)。日本小児科学会は、子ど もの自己決 定権を尊重し、日本も批准して
いる「子どもの権利条約」の規定(第六条「すべての児童が生命に対する固有の権利を有する」など)
や世論調査の結果を引用して、この案に近い見解を示したことがある。実務的な理由としても、A案
については「ほとんどの病院で基盤整備が行われていない現状」があり、「現場が混乱」するとして
いる。この基盤整備として「虐待時からの臓器摘出防止」
「小児の脳死の判定基準の検証、再検討」
「小
児の意見表明権の確保」の3点を挙げている(以上 2006)。
一方、この案については、たとえ短期間にせよ、法的な意思能力に問題がある子どもに自己決定権
を委ねることこそ、子どもの保護の観点から問題であるとの指摘もある。
(3)子どもの虐待と犯罪捜査
【 A 案 、 C 案 、「 新 案 」 に よ る 提 案 】
提案の骨子
A 案は、国内での子どもの脳死移植の開始を見据えて、虐待を受けた子どもが死亡(脳死も含む)
した場合に、その子どもから臓器が提供されることがないよう、虐待が行われた疑いがあるかどうか
の確認、疑いがある場合への対応の仕方について検討、措置を講じることを「検討」の課題として提
案している。C 案は、子どもの脳死移植に関する長期的な検討課題として「虐待を受けた子どもから
の臓器等の摘出を防止するために有効な仕組みの在り方」、「死体についての検視等を行う方策につい
ての検討」を挙げている。「新案」は、報道によると、病院内の倫理委員会等「第三者機関」により
虐待の有無を検討する提案を検討しているとされる。
検討課題4
子どもの脳死移植、とりわけ心臓移植などは、これまで国内での実施がほぼ不可能とされてきた治
療手段であるだけに、法改正によって可能性が広がることには大きな意味がある。しかし、いうまで
もなく、脳死下での臓器移植は、死体(遺体)を利用する治療である以上、その中には犯罪に巻き込
まれた疑いのあるもの、死因の事実究明が必要であるものが紛れ込む可能性もある。
このような状況において、臓器移植の実施のために犯罪捜査が疎かになってはならない。臓器移植
法でも、犯罪捜査の対象となる死体については臓器の摘出は制限され、関連する手続きが終了した後
でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならないとしてきた(第七条)。犯罪捜査が終了するま
で医師は臓器を摘出できず(臓器移植法指針)、特に司法解剖は心臓死に至って以降に開始される(警
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察庁通知、1997)ため脳死下での臓器摘出は困難である。
一方、旧角膜腎臓移植法が施行されていた時期に、変死体から臓器の摘出を禁止する規定があった
にもかかわらず、事故や事件に巻き込まれて脳死状態になった者から、犯罪捜査が完了する前に、臓
器の摘出が実施されたり、試みられたりする事例が続いたことがある(1990 年・大阪大学医学部付
属病院、1991 年・大阪府立北千里救命救急センター等)。脳死状態に至る背景には、事故や事件が
関係することも多いため、犯罪捜査と移植医療との調整は、臓器移植法成立前からの課題であった。
日本ではこれまで子どもの脳死移植がほぼ皆無であった点を想起すれば、子どもに関する犯罪捜査と
移植医療との両立についての問題について、我々はほとんど議論をしてこなかったことになる。
A 案では、子どもの脳死下での提供の実現を見据え、検討課題として子どもの虐待への対応に関す
る規定が明記されているほか、「新案」では倫理委員会等の第三者機関による審査を要件とする方針
が示されると報じられている。犯罪捜査の重要性は子どもに限ったことではないため、法改正におい
て子どもに特別の規定を明記することが妥当かとの指摘もあるだろう。また、子どもの虐待を確認し
たり、疑いがある場合への対応を検討する体制は、子どもの脳死移植と密接に関係しているとはいえ、
移植医療の文脈に特化して整備される類いのものでもない。
ただ、これらの指摘を踏まえつつも、社会的弱者としての子どもは、以下に述べるように特に配慮
すべき事項があることも確かである。日本小児科学会の報告によると、子どもの頭部外傷において、
虐待が疑われる事例が約3割を占めるという。従来、アメリカでは、虐待による脳死の可能性がある
子どもの臓器も、移植利用において重要視されてきた経緯がある。これに対して、日本では子どもの
脳死下での移植提供について、提案されている改正法案(A案、C案、「新案」)および日本小児科学
会は、いずれも虐待により死亡した小児からの臓器摘出を認めるべきでないとする方針を前提として
いる。
この場合、臓器摘出と子どもの虐待に関する犯罪捜査をどう両立させていくかが困難な課題になる
ことが予想される。虐待は親子などの身近な人間関係および閉鎖的な空間の内部で繰り広げられる特
徴があること、事実、子どもの虐待の判定には医師であっても数週間を要する場合があるとする日本
小児科学会報告等を考慮すれば、虐待の捜査に関連して臓器提供作業に影響が出たり、あるいは中止
に至るような場合も十分起こりうる。「新案」では、こうした役割を担う機能として、「第三者機関」
の設置を挙げ、具体例として各医療機関の倫理委員会を挙げていると報じられている。いうまでもな
く、従来の倫理委員会にも、活動能力、独立性に支えられた客観的な判断が求められてきた。しかし、
日本の倫理委員会は、研究倫理審査の文脈で設置されたものが主であり、医療行為に関する倫理委員
会機能は日本ではまだ発展途上の組織である。また、この問題については、既存の子ども虐待にかか
わる種々の関連組織(例:児童相談所)と密接に連携する等、独自の機能も必要となる。これらを考
慮すれば、実際に虐待の有無を検証できる「第三者機関」にどう近づけていくのか、詳細な設計が今
後の重要な論点になるだろう。
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[「 次 号 」 へ 続 く ]
参照
臓器移植法の成立に至る経過
1968 年、札幌医科大学で、わが国で初めての心臓移植が行われた。この患者は手術後 80 余日にして死亡
したが、その施術をめぐる疑惑により、実施した教授が殺人罪で告発された。臓器の移植医療、特に心臓につい
ては、従来の心臓の停止による死の基準とは相容れないものであり、死の基準に関する脳死論議が主に心臓移植
と連動して生じた。脳死と移植に関する議論は大きく次の 4 つに分けられる。すなわち、三徴候死を人の死と
する方針を維持しつつ例外としての脳死提供を認める「違法性阻却説」、患者が自己決定し家族が拒否しな い 時
に脳死を人の死とする「脳 死選 択 説 」、患者や加速が拒否する場合を除いて脳死を人の死とすることを基本 と す
る「脳死 拒否 権説」、およびすべての死を脳死により認定する「脳死一元論」である。現行法は、脳死選択説に
立脚しているとされる。
こうした諸説の間での議論の経緯があったが、1989 年の立法により設置された「臨時脳死及び臓器移植調査
会」(脳 死臨 調 )が、内閣総理大臣の諮 問に応じる形 で「脳死及び 臓器移植に関 する諸問題に ついて、広く 、か
つ、総合的に 検討を加え、 脳死及び臓器 移植に関する 施策に係る重 要事項につい て調査審議」(設置法)と の目
的のもと、検討作業を行った。その後も議論は遅々として進まない時期が続くが、主に下記のような展開を経て、
有志議員による法案が作成され、修正を加えて成立に至った。
1968 年
札 幌 医 科 大 学 で 日 本 初 の 心 臓 移 植 実 施 、同 年 に 執 刀 を し た 和 田 教 授 が 殺 人 罪 で 告 発 さ れ る( そ の 後 、不 起 訴 )。
脳死移植に絡んで医師が殺人容疑で告訴・告発される事例が法成立まで相次いだ。
1983 年
「 生 命 倫 理 議 員 懇 談 会 」( の ち の 「 生 命 倫 理 研 究 議 員 連 盟 」 発 足
1985 年
厚 生 省 研 究 班 、 脳 死 判 定 基 準 を 発 表 ( い わ ゆ る 「 竹 内 基 準 」)。
1988 年
日本医師会・生命倫理懇談会が脳死を個体死とする最終報告を発表。
1989 年
国 会 、「 臨 時 脳 死 及 び 臓 器 移 植 調 査 会 設 置 法 案 」(「 脳 死 臨 調 」、 2 年 の 時 限 ) を 衆 参 で 可 決 、 翌 年 施 行 。
1991 年
脳死臨調に脳死判定基準疑問症例について検討する専門委員会発足。
1992 年
脳 死 臨 調 、 最 終 答 申 (「 脳 死 は 人 の 死 」 と す る 答 申 、 多 数 派 と 少 数 派 に 分 裂 )。
1994 年
森 井 忠 良 議 員 ら 、 臓 器 移 植 法 案 を 国 会 に 提 出 ( 本 人 の 明 示 的 な 意 思 が な い 場 合 に つ い て も 臓 器 摘 出 を 容 認 )。
1996 年
中 山 太 郎 議 員 ら の 修 正 案 ( 本 人 に よ る 提 供 意 思 の 表 示 が 不 可 欠 に )。
1997 年
中山修正案、衆院で可決。関根則之議員らにより「脳死した者の身体」の定義、判定開始についての本人お
よ び 家 族 に 関 す る 条 件 の 記 述 を 加 え た 関 根 案 、参 院 で 可 決 。臓 器 移 植 法 施 行 規 則 施 行 、臓 器 移 植 法 指 針(「 臓
器 の 移 植 に 関 す る 法 律 の 運 用 に 関 す る 指 針 ( ガ イ ド ラ イ ン )」 制 定 。
1999 年
40
高知赤十字病院で法施行後初の脳死下臓器提供。
8
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No.2 Apr 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
Reference & Further Reading
※本テーマには膨大な著作があるため、下に掲載するものは本稿を作成する際に依拠した一部のものである。
●( 1)「 遺 族の 承諾 」に よる 脳死 提供 /( 2)提供意思を表明できる年齢の引き下げ
‐小柳仁「法学者の集まりで一医療人として」、『ケース・スタディ 生命倫理と法』、184-187 頁、2004。
‐杉本健郎『子どもの脳死・移植』、クリエイツかもがわ、全 183 頁、2003 年。
‐中山研一『脳死移植立法のあり方』、全 274 頁、1995 年。
‐中山研一、福間誠之『臓器移植ハンドブック』、全 263 頁、1998 年。
‐中山研一『臓器移植と脳死』、成文堂、全 227 頁、2001 年。
‐日本弁護士連合会「臓器移植法の見直しに関する意見書」、2002 年。
‐日本弁護士連合会「臓器移植法の見直しに関する意見書」、2006年。
‐日本小児科学会「臓器移植関連法案改正についての日本小児科学会の考え方」、2006 年。
‐町野朔「臓器移植法改正問題について」、日本臨床、63 巻 11 号、1915-1921 頁、2005 年。
‐町野朔・長井圓・山本輝之『臓器移植法改正の論点』、信山社、全 330 頁、2004 年
‐丸山英二「臓器移植法と小児心臓移植」
『人の法と医の倫理』
(湯沢雍彦・宇 都木伸編)、433-455 頁、2004
年。
‐丸山英二「小児心臓移植と臓器移植法」、『ケース・スタディ 生命倫理と法』、188-191 頁、2004 年。
‐三瀬朋子・樋口範雄「小児脳死移植への法的障壁」、『ケース・スタディ 生命倫理と法』、191-195 頁。
●( 3) 子ど もの 虐待 と検 死
‐勝又義直、橳島次郎「検死を要する異状死体は臓器提供者になりうるか」、モダンメディシン、9 巻、19-23
頁、1991 年。
‐田中英高・ 新田雅彦、竹 中義人ほか「 小児脳死臓器 移植における 被虐待児の処 遇に関する諸 問題」、日本 小児
科学会雑誌、107 巻 12 号、1664-1666 頁、2003 年。
‐橳島次郎『脳死』、弘文堂、全 194 頁、1991 年。
‐厚生省保健医療局エイズ疾病対策課長通知「臓器移植と検視その他の犯罪捜査に関する手続きとの関係等につ
いて」1997 年。
‐警察庁刑事局長等通知「臓器の移植に関する法律第六条第 2 項に規定する脳死した者の身体の取り扱いにつ
いて」、1997 年。
‐American Academy of Pediatrics. Pediatric Organ Donation and Transplantation(Policy Statement,
Committee on Hospital Care and Section on Surgery)、2002 年。
‐UNOS(‘United Network for Organ Sharing’)、2009 年 3 月確認。
● その他 参 考
‐厚生省保健医療局臓器移植法研究会監修『逐条解説臓器移植法』、全 184 頁、1999 年。
‐児玉聡「デッド・ドナー・ルールの倫理学的検討」、生命倫理、18 巻 1 号、39-46 頁、2007 年。
‐竹内一夫『脳死とは何か』、講談社、全 200 頁、2004 年改訂新版。
‐唄孝一『臓器移植と脳死の法的研究』、岩波書店、全 433 頁、1988 年。
‐町野朔、秋葉悦子編『脳死と臓器移植』、全 377 頁、1999 年(初版 1993 年)。
‐American Medical Association(AMA)、CEJA Report 3–I-93(’The Use of Minors as Organ and
Tissue Donors’)、2005 年(初版 1993 年).
‐(財)日本宗教連盟「臓器移植法改正問題に関する意見書」、2009 年。
‐全国交通事故遺族の会「他人の死を待つ医療 脳死・臓器移植法改正断固反対」、2009 年。
‐臓器移植患者団体連絡会「臓器移植法改正に関する要望」、2009 年。
‐臓器移植関連学会協議会「臓器移植法改正についての要望書」、2008年。
Policy Issues
No.2・2009 年 4 月
作成:UT-CBEL 政策検討チーム(井上悠輔、藤田みさお、児玉聡、有馬斉)
発行・連絡先:
東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」事務局
(UT-CBEL: The University of Tokyo Center for Biomedical Ethics and Law)
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No.3 June 2009
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臓 器 移 植 法 改 正 法 案 の検 討 (2):提 供 先 の指 定 に関 する詳 細 な検 討 を
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点」
( UT-CBEL) 政 策 検 討 チ ー ム
日本の「臓器の移植に関する法律」
(以下、臓器移
現行法では、死後の臓器移植を希望する者(ド
ナー)は、提供先(レシピエント)を指定する
ことはできない。今回、衆議院を通過して参議
院に進む A 案は、「親 族 への優先 提 供の意思表
示」として、提供先を親族に指定することを認
める規定をもつ。これは、「移植機会の公平性」
を重んじる現在の臓器移植法の基本理念と矛盾
する可能性がある。また、この制度の導入がも
たらす影響には不確定なところが多い。衆議院
ではほとんど議論されなかったこの論点につい
て、参議院では詳細に検討される必要がある。
植法)は、提
提 供 先 の 指 定 に 関 す る 規 定 注 1 を持ってい
ないが、
(社)日本臓器移植ネットワークのもとに脳
死提供の臓器の配分を行っており、こうした指定に
は否定的である。これは、現在の臓器移植法の基本
理念である、臓器は「人道的精神に基づいて提供さ
れ」(第 3 項)、「移植術を必要とする者に係る移植
術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮され
なければならない」
(第4項)とする方針による。ヨ
ーロッパでも、待機者リストへの掲載を通じて「必
要とする人、最適な人」への臓器提供を重視し、提
供先の指定に否定的な国、慎重な国が多い。
一方、提供者の意思を尊重する観点から、提供先の指定を肯定する者もいる。この方針にある国として、
アメリカでは、個人が提供先を指定できるとする方針がとられており、例年 100 人程度、死者から の移
植が提供先を指定して実施されているとされる(>> 諸 外 国 の 主 な 方 針 は 巻 末 の 参 考 資 料 を 参 照 の こ と )。
日本では過去に、
「親族へ提供したい」という本人の意思に沿って臓器提供の斡旋がなされた事例(脳死
提供の第 15 例目、2001 年)が、厚生労働省の委員会で提供先指定の是非を問う議論に発展したこと が
ある。しかし、当委員会は、法の基本理念にかかわる問題であると判断して、立法判断を待つこととした。
第 164 国会に提出された「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案」衆法 14 号(A 案)、同 15
号(B 案)に、親族を指定した形式での死後の臓器提供を可能とする規定が盛り込まれた 注 2 。。
注1
世界 移 植 学 会によ る と 、 ドナ ー の 希 望に よ ってレシピエントを限定する場合として、①「レシピエ ント とし
て 特 定 の 個 人 を 指 名 す る 形 式 」( directed donation )、 ② 「 レ シ ピ エ ン ト に 何 ら か の 条 件 を 付 す 形 式 」
(conditional donation、広義には「 提供する臓器 を指定する場 合」も含む) があるとされ る。日本では ①
に関する議論が中心であるため、今号は①を想定して議論するが、本来的には②も含めた議論が必要で ある。
注2
う ち、 A 案 の法 案 の 文 面 は以 下 の 通 り 。「移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供する意思を書
面により表示している者又は表示しようとする者は、その意思の表示に併せて、親族に対し当該臓器を優先的
に提供する意思を書面により表示することができる。」(六条の二)
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検討点1
提供先の指定がもたらす影響
上記の厚生労働省の委員会で挙げられた具体的な懸念は、
「こうした近親者がいない待機者は移植を受け
る 機 会 が さ ら に 減 っ て し ま い 不 公 平 」「 親 族 間 で ド ナ ー を 探 す べ き だ と す る 風 潮 、 近 親 者 に と っ て は 自 分
が ド ナ ー 候 補 に な る と い う 重 圧 が 発 生 」などであった。また、
「親族」に限定することの必要性、想定する
「親族」の範囲についての合理的な説明が必要である。たとえば、アメリカでは、近親者に限らず、 親 密
な関係にある友人についても提供先の指定ができるとされる。臓器が慢性的に不足する現状において 、 提
供先の指定範囲の問題が際限なく広がると、公的ネットワークの位置づけは機能不全に陥る可能性があ る。
あるいは、臓器移植の性格が、近親者間で展開されてきた生体移植とあわせて、閉鎖的な人間関係の 中 で
展開される医療として固定化する可能性がある。
一方、提供先の指定を認めるべきだとする意見として 「 身 近 な 親 族 に 臓 器 を 提 供 し た い と い う 意 思 は 当
然 」「 一 般 国 民 の 臓 器 移 植 に 関 す る 理 解 が 深 ま る 」「 本 人 意 思 の 重 視 」 などが挙げられた。このほか、生 体
臓器移植では親族への提供が認められているのだから、死後の臓器移植においても同様のことが認め ら れ
るべきだという考え方もある。これについては、生体臓器移植は、経済的動機などの誘因を防ぐべく 親 族
に限定してきたという経緯があり、禁忌でありながら緊急避難的に実施されてきた生体臓器移植を基 準 に
して考えることは、本末転倒であるとする意見もある。
なお、提供先の指定については、世論調査でも意見が分かれている。これは、こうした提供先の 指定 に
よって、公的ネットワークの全体数が減り、必要としている人がますます臓器の提供を受けられない こ と
への懸念を示すものと思われる。参議院では、こうした懸念に配慮して、親族への提供先指定がもた ら す
影響について広く論点とするべきである。
出 典 : 内 閣 府 ・ 臓 器 移 植 に 関 す る 世 論 調 査 ( 世 論 調 査 報 告 書 平 成 20 年 9 月 調 査 )、
図 6「 臓 器 提 供 者 が 移 植 を 受 け る 者 を 指 定 す る こ と に つ い て 」( 年 に よ っ て 設 問 に 一 部 相 違 )。
▲ 提供先 の 指定に関する世論調査の動向
2
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検討点2
意思表明に関する問題
1.子ども等の意思への対応
提供先を指定することは、まず、その人が「
「 提 供 し た い 」と い う 自 発 的 な 意 思 を 示 す こ と に他ならない。
だが、A 案は、「提供意思を表明している場合」に加え、「提供したくないとする意思表明がない場合」 に
ついても臓器提供を認めるべきだとする法案であるため、こうした直接の意思確認が困難な人々につ い て
の検討が必要になる( > > 下 の 図 参 照 )。新たに臓器の「提供」が可能となった人々には、成人のうちで提供
を拒否する表明をしない者のほか、
「 子 ど も 」や「 知 的 障 害 者 」が含まれ(「★」)、こうした人々について、
提供意思と同時に、提供先の指定に関する忖度が認められるべきか否かが問題になる。
本人の提供意思
A案
成人(意思能力が認められる者)
ドナーカード、シール等による
表明している
「本人の提供意思」の表明
表明されていない
現行法
ドナーカード、シール等による
表明している
「本人の提供意思」の表明
表明されていない
子ども等*
提供したい
提供したくない
提供可能
×不 可
★提供可能
★提供可能
★提供可能
★提供可能
提供したい
提供したくない
子ども等*
提供可能
×不 可
×不 可
×不 可
×不 可
×不 可
*「 子 ど も 等 」に は 、現 在 の 臓 器 移 植 法 が「 意 思 能 力 が 十 分 で な い 者( 意 思 の「 あ り 」「 な し 」を 示 す こ と が で き な い )と
し て い る 部 類 で あ り 、 子 ど も (14 歳 以 下 )、「 知 的 障 害 者 」( 臓 器 移 植 法 指 針 ) が 含 ま れ る 。
2.医学的理由により、指定した親族に提供ができなかった場合
提供先として指定された者が医学的に移植適応でなかった場合、その臓器の扱いをどうするかと いう 問
題がある。指定された者に利用できなかった臓器や、指定された臓器以外の部分については、公的ネ ッ ト
ワークのもとに運用するという可能性もある。たとえば、アメリカでは、提供先に利用される臓器以 外 の
身体部分は、多くの場合、公的ネットワークを通じて必要とする人々に配分されているとのことであ る 。
提供先を指定することは本人の意思を尊重してのことであることから、こうした本来の目的以外での 利 用
についても個人の意思を確認することができるよう、意思確認の書面を工夫する必要が出てくるだろう。
3.自殺・治療拒否への対応
上記の厚生労働省の委員会では、(提供先の指定を)「認めるとした場合の弊害について」として、他の
親族に臓器を提供するために、 自 ら の 命 を 縮 め る こ と を 試 み る 人 々 が出てくる可能性が指摘されている。
移植待機患者の親族などに「当該患者のために自らの臓器を提供しなければならないとの精神的な重圧」
がかかることによる自殺の問題である。自殺でなくとも、治療拒否によって命を縮める人が出てくる可能
性もあるだろう。自発的意思による提供というルールの担保、自殺した者について臓器提供先の指定に含
めないとする指摘がされたが、いずれも相応の施策を要する課題である。
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【参考資料:死後の提供先の指定に関する主な方針】
[肯定的]
アメ リカ
[1] 統一 死 体提 供法
・ 提 供 者 に よ っ て 指 定 さ れ た レ シ ピ エ ン ト た る 個 人 へ の 提 供 が 許 さ れ る 。( 第 11 条 (a)( 2))
[2] 臓器 確 保・ 移植 ネッ トワ ーク (OPTN、公的ネットワーク)
・ ネ ッ ト ワ ー ク の 活 動 は 、 提 供 先 を 指 定 す る 臓 器 提 供 を 妨 げ な い 。( §121.8 臓 器 の 配 分 )
[3] アメ リ カ移 植外 科学 会(ASTS)「臓 器の 提供 先の 指定 、懇 請に 関す る声 明」(2006 年)
・ASTS は 、 家 族 、 友 人 お よ び 、 す で に 人 間 関 係 の 深 い 個 人 を 指 定 し た 臓 器 提 供 を 支 援 す る 。 な お 、 待 機 者 リ ス ト に 家 族 や
友人がいない場合には、臓器提供は公的ネットワークに関する所定の方針に沿って提供手続きがなされるべきである。
・レシピエントやその代理人による懇請に基づく臓器提供には強く反対する。懇請にもとづく臓器提供は、臓器移植の信用
と公平を貶める。
[慎重・ 否定 的]
ヨー ロッ パ評 議会
[1] 「生 物 学と 医学 の適 用に 関し て人 権と 人間の尊厳の保護に関する条約」
臓器 ・組 織移 植に 関す る追 加議 定書 (2002 年)
・「 臓 器 、 組 織 の 配 分 は 、 公 的 な 待 機 者 リ ス ト に 掲 載 さ れ た 患 者 に つ い て の み を 対 象 と し て 、 医 学 的 基 準 に 沿 っ て 、 透 明 性 、
客 観 的 、 お よ び 合 理 的 な 原 則 に も と づ い て 実 施 さ れ る べ き で あ る 」( 第 3 条 )
イギ リス
生前、糖尿病を患う母親への腎臓の提供を希望していた女性の希望が聞き入れられず、脳死後に他者に提供されたことが
報 道 さ れ 、 社 会 の 関 心 を 呼 ん で い る ( 2008 年 4 月 )。
[1] 人組 織 管理 庁「 死者 の身 体か ら摘 出し た臓器の提供先の指定に関する声明」(2008 年 )
・
「 死 者 の 身 体 か ら の 臓 器 の 適 合 及 び 配 分 に 関 す る 基 本 原 理 は 、最 も 必 要 な 待 機 者 リ ス ト 掲 載 者 、最 も ド ナ ー と 適 合 す る 者へ
の配分である。これは性や民族、宗派その他の要因に影響されてはならない。よって、死後、誰に臓器を提供するかを選
択 す る こ と は 、 た と え 家 族 に 対 し て で あ っ て も 許 さ れ な い 」。
・
「 し か し 、こ う し た ル ー ル 適 用 の 再 検 討 を 必 要 と す る よ う な 例 外 的 な 状 況 が あ る こ と も 考 え ら れ る 。あ く ま で 上 記 の 基本 原
理を考慮しつつ、細心の注意を払ってこうした例外を考える必要がある。医療従事者や各種団体からの意見を踏まえて、
今 後 の ル ー ル の 在 り 方 を 検 討 す る こ と と し て 、 当 面 は 現 行 の 基 本 原 則 を 維 持 す る 」。
[2] 保 健省 調 査パネル 「条 件付 きで の臓 器提 供に関する調査報告」(2000 年)
・「 本 パ ネ ル は 、臓 器 の 提 供 に い か な る 条 件 を 付 す こ と に も 反 対 す る 。な ぜ な ら こ う し た 条 件 設 定 は 、臓 器 は 愛 他 的 に 、最 も
必 要 な 患 者 に 提 供 さ れ る べ き と す る 基 本 原 則 に 反 す る も の で あ る か ら だ 」。
Policy Issues No.3[2009 年 6 月 ]
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脳 死 臓 器 提 供 :法 改 正 で何 が変 わったのか
臓器移植法(「臓器の移植 に関する法律 」)が改正さ れた。今回の 法改正により どのような変 更があったの か、
またこうした変更によってどのような影響が出てくるのか。「Q1 今 回 の 法 改 正 で 『 脳 死 』 は 「 人 の 死 」 と な っ
たのか?」
「Q2 今 回 の 法 改 正 に よ っ て 、提 供 意 思 の 表 明 の 仕 方 は ど う 変 わ る か ? 」
「Q3 ド ナ ー カ ー ド は ど う な
る か ? 」「Q4 そ の 他 、 今 後 の 制 度 設 計 に お い て ど の よ う な 課 題 が 考 え ら れ る か ? 」の 4 点から見ておこう。
Q1.今回の法改正で「脳死」は「人の死」となったのか?
☞ 今 回 の 法 改 正 に よ っ て 脳 死 が 一 般 に「 人 の 死 」に な っ た 、と は い え な い 。但 し 、
「脳死は人の死」
とは明記されていないものの、こうした理解が普及していることを前提とした改正であった点に
注意が必要。
「脳死は一般に人の死」は不正確
対象者の身体
1.
臓器移植法の改正法案が成立した際、
「 脳死が一般
的な人 の死 と なった 」と す る報道 が少 な からず 見
(生死不明)
られた。 こ れ は 必 ず し も 正 確 で は な い 。
2.
提供に関する意思の確認
法改正により、
「 脳死した者の身体」の定義から「移
植術に 使用 す るため の臓 器 が摘出 され る ことと な
本 人 ( 生 前 に 表 明 )、 家 族
る 者 で あ っ て 」 と す る 部 分 が 削 除 さ れ た ( 注 )。 こ
判定結果に従う意思の確認
本 人 ( 生 前 に 表 明 )、 家 族
の点について、
「脳死」が移植の文脈に限定されな
くなったとの理解があったようだ。
法定脳死判定
3.
しかし 、法 的 脳死を 判定 す る手順 につ い て、本 人
および 家族 に は判定 に先 立 って反 対す る 機会が 与
遺族が拒まない場合
えられ てい る 。また 、こ の 判定手 順が 、 臓器移 植
↓
の実施 条件 と して規 定さ れ ている 形式 に も変化 は
臓器の摘出開始
ない。 む し ろ 論 点 と す る べ き は 、 提 供 や 判 定 の 意
思表明の手順が「脳死を人の死とすることが社会
的に受容されている」ことを前提としたものに変
更 さ れ 、 個 人 の 意 思 表 明 の 形 式 が 大 き く 変 わ っ た こ と に あ る (この点は、次の「2.」で詳述)。
(注)
第六条1項「医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した
者 の 身 体 を 含 む 。以 下 同 じ 。)か ら 摘 出 す る こ と が で き る 。・・・( 以 下 、省 略 )」、2 項「 前 項 に 規 定 す る「 脳 死 し た 者 の 身 体 」
とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に
停 止 す る に 至 っ た と 判 定 さ れ た も の 者 の 身 体 を い う 」( 以 下 、省 略 )。※ 下 線 部 が 追 加 さ れ た 部 分 、打 ち 消 し 部 が 削 除 さ れ た
部分(臓器の移植に関する法律、一部書式を変更)。
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No.4 July 2009
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「法定脳死」の位置づけをめぐる二つの議論
4.
法改正後の「脳死」の位置づけを理解するには、これまでの議論の構造を振り返る必要がある。1997 年
に 臓 器 移 植 法 が 成 立 し た 背 景 の 一 つ に は 、脳死 者か ら の臓器 摘出 を 実施し た医 師 が殺人 容疑 で 告訴・ 告発
される事例が約 10 件も続き、脳死移植についての法的な判断が求められていたことが挙げられる。臓器
移 植 法 の 成 立 に よ り 、 臓 器 移 植 と い う 目 的につ いて 、 法定の 脳死 判 定手続 きを 経 ること で脳 死 者から の臓
器摘出が可能となった。しかし、成立した「法定脳死」をめぐって、大別して二通りの受け止め方がある。
5.
一つは、①「脳死は、臓器移植という特殊な活動に限定された人の死である」とする立場(脳死選択説)
で あ る 。 つ ま り 、 脳 死 は 一 般 的 な 人 の 死 ではな いが 、 日本で 脳死 移 植を始 める た めに、 移植 目 的に限 って
脳死を人の死とした、とするものである。
6.
もう一つは、 ② 「 脳 死 は 一 般 的 な 死 」( 脳 死 一 元 論 ) と す る 立 場 であり、いずれは移植以外の領域でも、脳
死 者 を 人 の 死 と し て 考 え て い く べ き だ と するも ので あ る。こ の立 場 からは 、死 は 本来一 律に 決 められ るべ
きであり、移植目的でのみ通常と異なる「人の死」が生じることを批判している。
7.
前 者 の 立 場 に 立 て ば 、 脳 死 は 臓 器 移 植 に 関係し ての み 成立す る概 念 であり 、脳 死 は「人 の死 」 として 一般
化されない。一方、後者の立場に立てば、脳死は、脳死移植が合法化された 1997 年よりすでに人の死で
ある。これまで、1997 年の立法は両者の妥協によるものであり、法的脳死は提供意思を個人が積極 的に
表明した場合に限られてきたこともあって、 結 果 的 に ① 、 ② の 主 張 は 併 存 し て 2 0 0 9 年 に 至 っ て い る 。
8.
今回の改正案の提案者も、趣旨説明や質疑において、「おおむね社会的に脳死が人の死であるという考え方
が 受 容 さ れ て き て い る 」 と し つ つ も 「 脳 死を人 の死 と しない 人に も 配慮し 、臓 器 移植に 関係 し ない場 面に
お い て は 、 脳 死 を 一 律 に 人 の 死 と す る 、 あるい は統 一 的な人 の死 の 定義を 決め る という こと は ない」 とす
る な ど 、 上 記 の ① 、 ② の 矛 盾 を 克 服 す る 説 明 は 示 さ れ な か っ た 。ただし、 今 回 の 改 正 に よ り 、 脳 死 を 「 人
の死」とする社会的受容が進んでいるとする主張が通ったことから、②に傾斜した制度設計が進むことが
予 想 さ れ る ( 拒 否 す る 場 合 に は 強 制 し な い 、 い わ ゆ る 「 脳 死 拒 否 権 説 」)。「 人 の 死 」 と し て の 「 判 定 さ れ た
脳死」が、移植以外の状況にも適用されるべきだとの主張が強くなるだろう。
Q2.今回の法改正によって、提供意思の表明の仕方はどう変わるか?
☞親族の判断が極めて重要になる。親族の意見が個人の意思と異なっている場合への対応など、
運用の方針は明確になっていない。家族の役割の明確化とともに、個人の意思の尊重のあり方が
課題である。
1.
今回 の 法改 正 によ っ て、 個 人の 生 前の 提 供意思を必須としてきた従来の方式に加えて、「生前に 提 供 に 反 対
す る 意 思 表 明 を し て い な か っ た 場 合 」について、家族(脳死判定後は遺族)が承諾して提供することが可能
とな っ た 。「 反対 す る 意思 表明 を し てい なかった場合」である以上、提供を希望していた場合のほか、 反 対
していたかどうかがわからない場合も含まれる。このため、家族の判断が極めて重要な役割を占める。
2.
しかし、このときの家族の「承諾」の性 格は整理されていない。たとえば、この「承諾」は、あくまで本人
2
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の自己決定を補助し代弁するものなのか、あるいは遺族が本人の生前の希望や人生観とは全く関係なく判断
できるのかという、家
家 族 の 判 断 の 位 置 づ け の 問 題 がある。家族はその個人にとって一番身近な存在ではある
が、本来、個人の意思決定はその人限りのものであり、家
家 族 も 万 能 で は な い 。たとえば、臓器移植法が 1997
年に成立した際には、個人の直接の意思表明は家族の判断で代弁できないものとされた。一方で、家
家族は本
人 の 生 前 の 意 思 を 覆 す こ と が で き る と も 規 定 さ れ て い る 。このように、家族の判断は本人の意思と異なる役
割を持っている場合があることに注意が必要である。
3.
このほかにも 、 子 ど も が 示 し た 意 思 を ど う 評 価 す る か ( す べ て 親 が 判 断 し て い い の か )、 親 族 の 範 囲 や 資 格
は ど こ ま で か 、 親 族 間 で 不 調 和 が あ れ ば ど う す る か 、など多くの難問が残っている。
<改正前>
本人(成人)
親族
(子どもほか)
同意
不明
反対
承諾
可能
×
×
不明
可能
×
反対
×
×
↓
↓
同意
不明
反対
承諾
×
×
×
×
不明
×
×
×
×
反対
×
×
×
↓
↓
↓
↓
<改正後>
本人(成人)
親族
4.
(子どもほか)
同意
不明
反対
承諾
可能
可能
×
承諾
同意
一律禁止にはならない
不明
可能
×
×
不明
(具体的な手順は未定)
反対
×
×
×
反対
×
不明
×
反対
×
なお、1994 年に議員有志が作成した法案の運用指針は、「 遺 族 は 、 承 諾 す る に 当 た っ て は 、 本 人 の 意 思 の
尊 重 の 観 点 か ら 、 本 人 の 意 思 を 忖 度 し て 判 断 す る こ と 」を求 めて い た。例 えば、「本人 の意 思 を忖度 して判
断し承諾可能な具体例」として、
「臓器提供のために、ドナーカード、登録について調べていた」
「本人は死
んで も 肉 体の 一部 が 生 き続 ける こ と を望 んでいた」「死後もぜひ医学・医療のために何か役に立ちたい と 言
っていた」、同じく「承諾できない具体例」として「臓器移植という医療は行うべきではないと言っていた」
「死後は、遺体に傷をつけずにそっとして置かれることを願っていた」などが例示されている。検討材料と
して注目に値する(「脳死体からの 場 合 の 臓 器摘出の承諾などにかかる手続きについての指針骨子(案)」)。
Q3.ドナーカードはどうなるか?
☞ドナーカードは「提供を希望する意思表明」、および「提供を希望しない意思表明」について、
意思を表明するための手段である。個人の意思を表明する重要な手段であり、形がい化されては
ならない。
1.
個人 の 提 供意 思を 示 す 規定 が引 き 続 き残 っており、また個人の明確な提供意思を示す手段であることか ら 、
48
3
Policy Issues
No.4 July 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
引き続きドナーカードの存在は重要である。しかし、これまでの提供実績が少なかったことをもって、普及
活動が消極的になることが危惧される。
2.
一方、今回の法改正で加わった、提 供 に 反 対 す る 場 合 の 意 思 表 明 を ど の よ う に 実 施 し て い く か が問題になる。
脳死者が生前に「提供意思を反対していなかったこと」を証明することは難しい。家族にあらかじめ託して
おくなどの方法も考えられるが、物理的な手段によって個人の反対意思を記録するなど、法の趣旨に沿った
手順の整備が必要である。法改正では、移植医療に対する理解を深める手段として「免許証や健康保険証に
書くこと」を挙げているが、これはあくまで表明の一手段にすぎない。基本的にはすべての国民が提供ドナ
ー候補になる仕組みである以上、移植について考える場の提供や教材の整備、意思を変更できる仕組みなど、
本人が臓器提供について検討した上で意思を表明できる機会の確保が必要である。
3.
なお 、「 提供 を希 望 し ない 」と す る 意思 表明がなされればなされるほどドナー候補が減ることから、こ う し
た広報活動自体が運営上軽視される可能性も否定できない。しかし、提供に反対する意思表明の確保は、今
回の法改正が正当化される大前提であり、個人が有する貴重な意思表明の場であると同時に、制度全体への
社会的信頼上も重要な仕組みであることから、制度設計が疎かになってはならない。
Q4 . そ の 他 、 今 後 の 制 度 設 計 に お い て ど の よ う な 課 題 が 考 え ら れ る か ?
医療従事者・医療機関の対応
1.
臓 器 提 供 に は 、 個 人 お よ び 親 族 の ほ か 、 患 者の 治療 に かかわ る医 療 者の判 断、 医 療施設 の環 境 要素も 大き
い 。 現 在 、 日 本 の 医 療 、 特 に 小 児 医 療 、 救 急医 療は 苦 境にあ り、 個 々の患 者や 家 族への 十分 な 対応が でき
る体制整備なしには、機会を有効に活かせないどころか、医療現場が混乱する可能性がある。
2.
家族の判断する範囲の拡大のほか、社会的懸念となっている子どもの虐待など、意思決定に困難を伴う事
例が質量ともに増加することが予想される。移植を実施する機関における 病 院 内 倫 理 委 員 会 、 倫 理 コ ン サ
ル テ ー シ ョ ン 等、医療現場で発生する倫理問題に対応する組織整備が至急必要である。
3.
脳死状態を一種の終末期とみなせば、終
終 末 期 医 療 に お け る 意 思 決 定 へ の 影 響 も懸念される。
「脳死が受容さ
れている」が濫用されてはならない。また、「脳死者」を「人の死」として公的医療保険の対象から外すこ
とは、こうした自由意思にとって圧力になる可能性があることから避けるべきである。
研究活動への影響
4.
臓器の研究利用は、医薬品の研究開発等に極めて重要である。日本では、 摘 出 し た 臓 器 の 移 植 以 外 の 用 途
が認められておらず、摘出したものの移植に利用できない臓器(「 移 植 不 適 合 臓 器 」)を海外からの輸入に
頼っている状況が続いている。
5.
脳死を人の死とする認識が広範に広がっているという今回の立法判断に照らせば、 脳 死 体 を 対 象 と し た 研
「脳死体の研究利用は想定し
究 を 希 望 す る 研 究 計 画 が提案される可能性がある。1997 年の法成立当時は、
ない」と説明されてきたが、改めて論点となる可能性がある。各省庁より告示されている各種の研究倫理
指針で、脳死者の身体を対象とする場合の影響について検討するべきである。
Policy Issues No.4[2009 年 7 月 ]
作成:東京大学 UT-CBEL 政策検討チーム
発行・連絡先:
東京大学大学院 医学系研究科 医療倫理学分野 グローバル COE(UT-CBEL)事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
URL : http://square.umin.ac.jp/CBEL/
Email:[email protected]
4
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Policy Issues
No.5 Aug 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
ワクチン配 分 の 政 策 と 倫 理
2009年 の H1N1インフルエンザの流 行 が 提 起 する問 題
多くの人が免疫を持たない感染症のワクチンの配分は、日本のみならず、世界的な問題である。
「ワ
クチンの確保」
「接種の優先対象」
「ワクチンの入手と安全性」について、現在の主な議論を紹介する。
なお、末尾にワクチンの配分に関する WHO 専門委員会の勧告、米国 CDC の専門委員会勧告(共に
7 月)の概要を紹介したので、併せて参照にされたい(→付表)。
WHO によれば、ワクチン接種は最も安価な感染症対策の一つとされ、目標集団をあらかじめ設定できること、
生活習慣の変化などを要さないなどの特徴を持った介入手段とされる。その一方、ワクチンの副作用の問題には
じ ま り 、 ワ ク チ ン の 確 保 、 ア ク セ ス の 公 平 性 な ど 、 多 様 な 検 討 を 要 す る 側 面 も あ る 。 H1N1 イ ン フ ル エ ン ザ
(‘H1N1 flu’以下、「新型インフル」)の感染者は日を追って増加し、7 月に入って 5 千人を突破した。感染
者の大半が軽症であるためか、メディアの報道は発生当初と比べて減っているようだ。しかし、もし不幸にも死
者が出れば、再び発生当初のような混乱が生じうる懸念がある。また、ワクチンの作成にまだ成功していないこ
と、重症者に健常だった若者が多いことなど、通常の流行とは異なる対応が求められていることは間違いない。
1.ワクチン確保の国際競争と日本
1.
「現在の世界のワクチン製造能力は、1 年間で 10 億から 20 億回分のワクチンしかない」(米ウォール
ストリートジャーナル紙、5 月 16 日)。季節性インフルエンザへの対応や一人当たり複数回の接種が必要
であることなどを考慮すれば、新型インフルのワクチンを利用できる人びとは、たとえそれが早く完成し
ても、一部の人間に限られると指摘される。
2.
日本国内では、予防接種への不信感の高まりを受けて、80 年代にワクチンの製造量が落ち込んだ経緯が
ある。その後、徐々に製造量は回復したが、日本国内でワクチンの製造を手がける4つの機関は、いずれ
も規模が小さく生産能力には限界がある。厚生労働省は、7 月中旬に季節性インフルエンザワクチンの生
産を取りやめ、新型インフルのワクチン製造に切り替えることを表明した。当初は、2009 年末までに約
2500万人分のワクチンを調達することができるとみていたが、のちに下方修正した(2 千万人を割る
見込み)。一方、ワクチン投与対象を、ほぼ国民の半数にあたる約 5 千万人とし、不足分を輸入する方針を
発表した(7 月)。
3.
日本では過去にも、海外から緊急的にワクチンを輸入したことがある(例えば、1961 年の小児まひ[流
行激化、国産ワクチンの不合格]、1970 年の天然痘[後遺症問題])。この時も確保する量は問題になった
が、それでも接種対象者は限られており、基本的には日本のニーズに応じた判断ができた。しかし、今回
は、 日本 以外 の多 くの 国も ワク チン の入 手を 希望 して いる。現在、こうしたワクチンの入手について、経
済原理以外の制約は明確でない。多くの国が、「ワクチンの確保には問題がないが、時間がかかる」と留保
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Policy Issues
No.5 Aug 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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を付している背景には、ワ クチ ンが 完成 する日程が明確でなく 、またそのワクチンの性格や使用条件が分
から ないということに加え、ワクチンの調達をめぐる「なりふり構わない奪い合いへと発展しかねない」
(英
国 Guardian 紙、7 月 17 日)競 争が 国 家間で起こっている 背景がある。WHO のマーガレット・チャン
事務局長は、先進 国の 買い 占め によ り貧 困国 が影 響を 受け るこ とへ の懸 念を 表明 し、 医療 従事 者へ のワ ク
チン 接種 はす べて の国 の医 療基 盤を 守る ため に必 要で ある こと 、各 国が 必要 に応 じて 国内 での ワク チン の
配分 を決 定で きる よう にす るべ きことを強調している。
4.
この点について、ワクチンの製造拠点が集中するヨーロッパの動向は注視される。イギリスやフランス、
ス ウ ェ ー デ ン 、 ス イ ス な ど は 、 ほ ぼ 全 人 口分に匹 敵す る量のワ クチ ンを確保 する 方針を表 明し ている(そ
の後、ギリシャやイスラエルも同様の方針を明らかにした)。特定の国家が、世界的に不足しているワクチ
ン を 大 量 に 確 保 す る こ と は 、 こ れ か ら ワ クチンを 入手 しようと する 国にとっ ては アクセス の妨 げに他なら
ず、国家間での助け合いに向けた取り組みに反するものとも評されている。一方、ドイツは、人口の 3 分
の 1 にあたる人数分のワクチンを確保して医療者などに配分することで対応できるとする表明を示してい
るが、これはワクチン不足にも配慮した妥当な数値と評されている。
5.
ま た 、 ワ ク チ ン の 研 究 開 発 と 成 果 の 還 元を巡る 議論 もある。 連帯 の精神に よる 国家間協 力は 、グロ ー バ
ル 時 代 に お け る 感 染 症 流 行 の 抑 制 に つ な がり、援 助国 にとって も長 期的には 恩恵 となると いう 主張がそ の
一つ であ る(フランス国家生命倫理委員会、2009)。過去に、鳥インフルエンザのワクチン開発において、
感 染 者 が 多 く 発 生 し ワ ク チ ン の ニ ー ズ が 高い国が 、ウ イルス検 体の 提供とい う形 でワクチ ンの 研究開発に
貢 献 を 求 め ら れ た 上 で 、 製 品 化 さ れ た ワ クチンの 購入 を迫られ るこ とは構造 的な 不公平で ある とする抗議
( イ ン ド ネ シ ア 政 府 ) が 表 明 さ れ た こ と がある。 今回 も製品開 発さ れるワク チン の利益配 分と いう、南北
世界間での対立構造の本質は残ったままである。
6.
政 府 に は 自 国 民 を 保 護 す る 使 命 が あ る が、一方 で日 本は世界 の中 でも高度 の医 療体制を 備え る国でも あ
る 。 ワ ク チ ン を ど の よ う な 必 要 性 に 基 づ いてどれ ほど 確保する のか 、その妥 当性 について は広 く国際的 視
点か ら考 える べき であ る。
2.誰を優先して接種対象にするべきか
1.
予 防 接 種 法 に よ る と 、 予 防 接 種 は 「 伝 染 の恐 れが あ る疾病 の発 生 および まん 延 の予防 」の 手 段であ ると
さ れ る ( 第 一 条 )。 他 者 へ の 感 染 の 防 止 が 、接 種を 受 けた本 人へ の 感染防 止を 通 じて達 成さ れ ること から、
個 人 の 健 康 ・ 生 命 の 保 護 と 、 他 者 及 び 一 般社会の 益と の両方の 側面 がある。 しか し、こ れ ら の 両 立 は 、接
種 の た め の 完 成 さ れ た ワ ク チ ン が 存 在 し 、か つ資 源が 十分 にあ るこ とが 前提 である。一方、資 源が 希少 で
あ る に も か か わ ら ず 、 そ の 資 源 を 必 要 と する人 が資 源 量以上 に存 在 する場 合、 配 分の順 番を 決 める必 要が
生じ る 。
「おなかをすかせた人たちがみなパイをほしがっているが、皆に行き渡る十分なパイがない場合に
どのように分ければよいか」「救命ボートの数が限られている場合に誰を助けるべきか」などの古典的事例
に お い て 公 正 な 手 順 と は 何 か が 問 わ れ て きた 注 )。 ワク チン の配 分に つい ても 、価 値判 断に よっ て、 例え ば
注)
赤 林 朗 編 『 入 門 ・ 医 療 倫 理 I』( 勁 草 書 房 、 2005 年 ) の 16 章 「 資 源 配 分 の 問 題 」 を 参 照 さ れ た い 。
2
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Policy Issues
No.5 Aug 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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「 子 ど も を 優 先 す る べ き 」( 国 の 将 来 へ の恩恵 という 観点か ら)、「 若年者 層を優 先する べき」(日常 生活 へ
の コ ス ト の 観 点 か ら )、「 健 康 で 長 く 生 き る者を 優先 」 などの 主張 が ある。 一方 、 医療の 恩恵 が 特定の個人
に 限 定 さ れ る よ う な 状 況 は 認 め が た く 、 医学的 リス ク と直接 関係 し ない基 準で 人 を価値 づけ し て優先 順位
を決定するべきではないとする反論もある(イギリス保健省インフルエンザ倫理委員会 2007 年、フラン
ス国家生命倫理委員会 2009 年)。
2.
パ ン デ ミ ッ ク の 発 生 は 必 ず し も 新 し い 現象で はな い が、交 通量 の 増大と スピ ー ド化の 時代 の 中で、 以前
に も 増 し て 全 地 球 的 な 検 討 課 題 と な っ て おり、 各国 は 感染症 への ワ クチン 投与 の 優先順 位に 関 するプ ラン
を検討してきた。その中で比較的共通して挙げられてきた優先対象は主に以下の①~③の 3 群である。日
本 で は 、 主 に ① 、 ② に つ い て 詳 細 な リ ス ト案が 公開 さ れてい る( 厚 生労働 省「 新 型イン フル エ ンザワ クチ
ン接種に関するガイドライン」2007 年、内閣府「新型インフルエンザワクチン接種の進め方について(第
一次案)」2008年)。
①
医療 従事 者
医療従事者一般をさす場合のほか、特に感染した患者との接点が多い
者に限る場合などがある。
②
社会 基盤 の維 持に 従事 する 者
秩序や非常時のインフラ管理を担う者(治安維持、消防、運輸など)。
感染 によ る害 が大 きい 者
新型インフルに関連して挙げられた区分としては、
「 妊婦」
「 高齢者(患
者は少ないが、免疫を持たない者も多いとの所見による)」
「若年者層
(感染者 が多 い)」「 児童( 感染者が 多い 、集団行 動が 多い)」「乳児 」
「糖尿病」「肥満」。
③
3.
但 し、 実際 に伝 播す るウ イル スの 性質 (どのよ うな 人が 感染 しや すい か、 重症 化し やす いか など)に よ り 、
対 応 の 仕 方 は 大 き く 異 な る 。 日 本 を 含 め 、各国 の政 府 は、過 去の 議 論を参 考に し つつも 、流 行 が起こ るた
び に 実 情 に 即 し て 、 優 先 す べ き 価 値 を 最 大化す る方 策 を検討 する 必 要があ る。 そ のため 、過 去 に立案 した
プランをそのまま利用するというわけにはいかない。
4.
今 回 の 新 型 イ ン フ ル で は 、 感 染 者 が 死 に至る 割合 が 幸いに して 少 ないこ とも あ り、各 国の 議 論は上 記の
うち、特に「 ③感 染に よる 害が 大き い者 」に集中している。例えば、WHO(2009)やイギリスの保健省
(2009)による方針では、いずれも「疫学的根拠」の把握が重要視されている。流行の状況は先進国間で
も大きく異なることから、日本の流行の実態に即して順番を考える必要があるだろう。
5.
な お 、 こ の 種 の 方 針 決 定 に は 社 会 的 な 懸念が大 きい ことから 、流 行前から の情 報提供や 社会 の関心の向
上 を 高 め る た め の イ ン フ ラ を 整 備 す る 必 要がある 。た とえば、 アメ リカが各 州・ 自治体に 示し た計画立案
の 指 針 で は 、 流 行 前 か ら の 「 パ ブ リ ッ ク ヘルス・ コミ ュニケー ショ ン」を通 じた 情報共有 の重 要性を指摘
している(アメリカ厚生省、2005)。また、行政当局において、感染症対策における倫理問題を検討し、
政策立案に関する提言を行う委員会が活動している例もある(例:アメリカ CDC「公衆衛生倫理委員会」
ほか、イギリス保健省「パンデミック・インフルエンザ倫理委員会」)。
3.ワクチンの試験と安全性
1.
ワ ク チ ン は 、 病 原 体 ( ウ イ ル ス ) の 性 質 を利用 した 医薬品で 、抗 体を作る ため に体内に 注入 される もの
52
3
Policy Issues
No.5 Aug 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
で あ る 。 日 本 で は ワ ク チ ン そ の も の に よ る副作用 等に よる被害 が大 きな社会 的懸 念をもた らし 、その後の
ワクチン行政の萎縮的な運用を招いたと指摘される。
2.
現 在 、 新 型 イ ン フ ル に 対 応 す る ワ ク チ ンはまだ 完成 していな い。 アメリカ 、オ ーストラ リア 、中国によ
る ワ ク チ ン の 臨 床 試 験 計 画 が 発 表 さ れ た ばかりで ある 。現状で は、 注入する ワク チンの量 、接 種後の身体
へ の 影 響 等 、 ワ ク チ ン の 基 本 的 な 性 格 を 把握する ため の試験に 数週 間から数 か月 を要する とさ れている。
さ ら に 製 品 化 後 も 、 実 際 に た く さ ん の 人 々に使用 され た状況で 発生 する問題 を把 握するた めに 、市販化後
調査が必要となる。
3.
こう し た 中 、通 常 の 季 節 性 イ ン フ ル エ ン ザが 流行 す る時期 が迫 る 前に、 ワク チ ンを完 成さ せ 、かつ 普及
さ せ た い と い う 国 が 登 場 し 、 議 論 を 複 雑 にしている 。 特にヨーロ ッ パでは、感 染 者が集中す る イギリ スな
ど に よ っ て 、 安 全 性 や 有 効 性 に 関 す る デ ー タ提出 を簡 略化した 迅速 審査が求 めら れ、ヨー ロッ パ医薬 品庁
(EMA)がこれに応じて審査手順の簡略化の方針を示している。一方、WHO はこうした手法ではワクチ
ンの 質が 確保 でき ない 可能 性が あるとして批判している。また、アメリカでは、1976 年に H1N1 型の豚
イ ン フ ル エ ン ザ が 流 行 し た 際 、 発 生 し た 合 併 症 により ワクチン 接種 事業が中 断さ れた経緯 から 、審査手順
の 簡 略 化 に 反 対 す る 世 論 が 根 強 く あ る 。 日本 がワ クチ ンを 輸入 する とな れば 、入 手で きる 時期 のみ では な
く、 どの よう な試 験を 経た ワク チン であ るの か、 臨床 試験 の質 を踏 まえ た判 断が 求め られ るだろう。
付表
目標
職・機 能
妊婦
新型 イ ンフ ルエ ンザ (H1N1)に 関す るワ クチ ンの 配分 方針 (2009 年 7 月末 現在 )
WHO 専門 委 員会 (7 月 )
米国 CDC 専 門委 員会 (7 月)
・医療体制の一体的機能、各国の基本的
基盤の保護
・罹患および死亡を減らす
・社会におけるウイルスの伝播を減らす
新型ウイルスの影響と拡大の削減
計画1
(1 億 6 千万人分確保)
計画 2
(左記が不可能な場合)
医 療 従 事 者 (「 優 先 す べ き 」)
医療従事者、救急要員
同 左( う ち 、感 染 者 と 接
する機会が多い者)
妊婦
同左
生後 6 か月未満乳児と接
する人(同居、世話)
同左
妊婦
持病
( 過 度 の 肥 満 、ぜ ん
そくなど)
年代別
・15 歳 未 満
・15‐49 歳
・50‐64 歳
・65 歳 以 上
順位は各国が判断
25-64 歳 で 持 病 が あ る
者、免疫が不調な者
6 か 月 -24 歳 の 若 年 者
理由
患 者 へ の 感 染 リ ス ク 、医 療 体
制への影響
自身が免疫寛容状態にある
可 能 性 、乳 児 に 感 染 さ せ る 可
能性。
乳児は感染リスクが高いが、
ワクチンを投与できない。
重症化の懸念。
6 か 月 -4 歳
持 病 を 有 す る 5-18 歳
18 歳 ま で:集 団 行 動 が 多 い
19 歳 以 上:集 団 行 動 、移 動
が多い
出 典 : World Health Organization, Global Alert and Response (WHO recommendations on pandemic (H1N1)
2009 vaccines), 2009 ( July ) , US Centers for Disease Control and Prevention, CDC Advisors Make
Recommendations for Use of Vaccine Against Novel H1N1, 2009( July).
Policy Issues No.5
2009(平成 21)年 8 月
東京大学 UT-CBEL(生命・医療倫理) 公共政策チーム (井上ほか)
グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 医学部 1 号館 3 階
Email: [email protected]
4
53
Policy Issues
No.6 Oct 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
特 集 :予 防 接 種 に関 する全 国 意 識 調 査
2009年 の H1N1インフルエンザの流 行 が 提 起 する問 題 (2)
接種開始をひかえて
日本をはじめ、各国の政府は、従来の季節性インフルエンザのシーズンが本格化する前に、H1N1
インフルエンザ(以下、新型インフル)予防接種を開始することを目標としてきた。日本政府は、ワ
クチンの入手に280億円の予算を計上し、今年度中に 7.7 千万人分(国内製 2.7 千万人分、海外製
5 千万人分)のワクチンを確保できる見込みと発表している。運用上の混乱は予想されるが、本来の
予定の 10 月 19 日から遠くない日程で、予防接種が開始される見込みである。
新型インフルの予防接種が、「任意」接種の形式をとって、個々人の判断に対応が委ねられて運用
されることが決まった現在、人々がワクチンについてどのような理解をしているのか、調査を行い、
情報を把握する作業は重要である。UT-CBEL(東京大学グローバル COE「次世代型生命・医療倫理
の教育研究拠点創成」)はこのような観点から、一般市民(医療者でない)を対象として緊急に調査
を行った(調査概要は3頁)。以下、得られた結果の概要を紹介する。
主な調査結果(一般)
● 6割が接種を希望する一方、3割強が希望しないと回答。
・接種を希望する主な理由は「効果への期待」。接種を 希望しない理由には、「安全性への
懸念」のほか、「流行の実感がない」「特に理由はない」など。
・季節性インフルエンザの定期接種の対象となる高齢者に希望が多かった。
・ 接種に要する費用を知って判断を変える人がいた。
● 海外製ワクチンへの強い抵抗が見られ、多くは国内製ワクチンを希望した。
・海外製ワクチンの輸入に反対する声の大半は、「安全性への懸念」。
●ワクチンの効果、海外でのワクチンに関する副反応に関する知識に課題。
● 親(15 歳以下の子どもをもつ)の過半は「ワクチン接種を子どもに積極的に説得する」。
●その他、医療従事者への優先提供には大きな支持がある一方、情報源および副反応に関す
る知識には課題も見られた。
ワクチンには社会の関心が高く、希望する人への接種の機会は保障されるべきである。一方、
「希
望」の判断(希望する・希望しない)の根拠は曖昧であり、本来接種するべき人にワクチンが行
き渡らない恐れがある。情報提供のあり方を検討するべきだろう。なお、新興感染症への対応と
して、医療機能の維持を優先することについては、広範な支持があるといえる。
54
1
Policy Issues
No.6 Oct 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
結果の概要
1.6 割超がワクチンの接種に前向き。消極的な人々も 3 割強。
接種を希望する人々が過半を占めている。接種に前向きな人々
は、 そ の約 7割 が 理由 とし て「 ワ ク チ ン の 効 果 へ の 期 待 」 を 挙 げ
た 。 一 方 、 消 極 的 な 人 々 の 理 由 は 分 か れ 、「 副 反 応 へ の 懸 念 」
(27.3%)、
「効果への疑問」
(18.0%)のみならず、
「流行の実感
希望しない・
強く希望
どちらかといえ
(21.4)
ば希望しない
(34.6)
どちらかとい
えば希望
がない」(25.2%)、「特に理由はないが受けたくない」(18.7%)
(44.0)
が目立った。
▲ワクチンの接種の希望(1)
接種費用の額を知り、接種希望を変更する人も。
また、接種経費の額を示されると、ワクチン接種への姿勢を変
希望しない・
強く希望
化させる人がいたことは注目に値する(※1)。一種の受診抑制と
どちらかといえ
(17.9)
見るべきかもしれない。なお、新型インフルの希望者は、各世代
ば希望しない
を通じて多かったが、特にインフルエンザ(季節性)の定期接種
(41.6)
どちらかとい
の対象となっている高齢者世代に希望者が多かった(※2)。従来
えば希望
の季節性インフルのワクチン接種に慣れている世代とそうでない
(40.5)
人々との間に、接種に関する認識の差があることが示唆される。
▲ワクチンの接種の希望(2)
(接種金額を提示後)
2.ワクチンを受けるなら、国内製? 海外製?
ワク チン に つい て、「国 内製 」と 「 海外 製」 と があ った 場 合、
国内製ワクチンを希望する人が、過半を占めた。また、海外から
海外製を希望
(0.8)
のワクチンの輸入に抵抗を覚える人(177 名)のうち、その理由
国内製・海外製
として「ワクチンの安全性」(76.3%)、「より不足している国に
どちらでもよい
(11.9)
回すべき」(16.4%)があった。
海外製のワクチンの一部には、国内のインフルエンザ・ワクチ
ンにおける使用実績がなく、また発熱などの副反応が指摘される
成分(「アジュバンド」:ワクチンの機能を高める添加剤)が利用
されている。我々の調査では、アジュバンドに関する知識の有無
国内製を希望
(87.3)
と、海外製ワクチンの受け取り方との間に有意な関係を確認でき
なかった。つまり、知識の裏付けがないままに、「海外製」「国内
▲「国内製」「海外製」の希望
製」のイメージが先行している可能性も否定できない。
2
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Policy Issues
No.6 Oct 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
3.ワクチンに期待する効果とは何か?
わからない(2.2)
インフルエンザ・ワクチンの効果については、その実効性も含め
て 長い 議 論 が ある が 、 一 般的 に は 感 染の 防 止 よ りも 重 症 化 の 防 止
感染の防止
が強調されており、今回の新型インフルのワクチンについても政府
は後 者 の効 果を 強 調し てい る 。し かし 、多 く の 人 々 は 、 イ ン フ ル
感染防止・重症
エ ン ザ の ワ ク チ ン に こ れ と は 異 な る 効 果 を 想 定 し て い る ようで あ
化防止の両方
る。「 1.」 と合わ せる ならば 、人 々 は 「 ワ ク チ ン の 効 果 」 に 多 く
(46.3)
(25.6)
重症化の防止
を 期 待 し て い る が 、 こ う し た 期 待 は 実 際 の 効 果 と は 対 応 し て いな
(25.9)
い可能性が高い。
▲ワクチンの効果とは
4.子どもに予防接種を「積極的に勧める」人は5割強。
「任意接種」の体制のもと、子どもの予防接種には親の影響が
大きい。この結果によると、子ども(15 歳以下)の親は、その 6
その他
(9.8)
割弱が接種を積極的に勧めると回答した。この他、選択肢として
言及することで「子どもに選ばせたい」という人が 3 割いた。
なお、子どもがいるかいないかということが、自身へのワクチ
ンの接種希望に影響しているかどうかは確認できなかった(※
選択肢として
言及するのみ
積極的に説得
(33.6)
(56.6)
2)。自身へのワクチン接種希望と子どもへの接種の勧誘の是非と
の間には有意な差(※1)が見られた(自分はワクチンを希望す
るが、自分の子供に積極的には勧めないとする人がいたため)。
▲子どもに予防接種を
勧めるか否か
その他
・医療従事者への優先提供を支持する者が 9 割を越えた。
その多くは、
「接種される医療従事者の健康」というよりも「他の医療従事者や患者への感染の懸念」
を理由とした(6 割強)。一方、互恵性への理解(「接種される医療者本人のため」)は 3 割強。
・アジュバンドに関する知識を持つ人は 6 割いた。一方、1970 年代のアメリカで、H1N1 インフルの
ワクチンが副反応のために、その実用化後に中止された事例を 8 割が知らないと回答した。
・主たる情報源として「政府広報」や「医学関係団体」を挙げた人々は共に 2%を切った。
■調査概要■
民間調査会社に登録された一般消費者モニター(全国約 9 万人)のうち 600 人を無
作為に抽出して調査用紙を発送、うち 402 名から回答を得た(回収率 67.0%)。回答者の内訳は、
20-30 代(150 名)、40-50 代(158 名)、60-70 代(94 名)。
「※1」は Wilcoxon の符号付順
位検定、「※2」は Pearson のχ 2 乗検定により、それぞれ 5%水準を有意と定義したもの。
Policy Issues No.6
56
2009(平成 21)年 10 月
東京大学 UT-CBEL(生命・医療倫理) 公共政策チーム (井上ほか)
グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1l
Email: [email protected]
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Policy Issues
No.7 Dec 2009
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
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代 理 出 産 を めぐる議 論 の現 在
議論の停滞がもたらす新たな展開
ポイント
11 月、母親に代理出産を依頼した事例について、
依頼した女性および出産を担った母親による記者
会見があった。当事者が、カメラ取材に応えるのは
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✔ 代理出産には賛否両論があり、法制
化の議論は前進していない。
異例である。自身の母親や姉妹に代理出産を依頼し
た事例が蓄積されつつある実態も明らかにされ、今
後も同様の事例が発生する可能性が高い。一方、立
法府の代理出産の規制立案には目立った動きが見
られず、議論が本格化する見通しもない。これまで
✔ 現行法では、出産を担った女性が子
どもの母親であると解される。代理出
産 を依 頼 した夫 婦 が子 どもを迎 える
には「特 別 養 子 制 度」の利 用が一 般
的 になりつつあるようだ。胚 ・受 精 卵
提供による体外受精の規制が成熟し
ていない中 、特 別 養 子 制 度 のあり方
がより重要となっている。
の議論を振り返りつつ、現在の国内での代理出産の
背景と将来的課題を整理した(海外に代理出産の担
い手を求める、いわゆる「生殖ツーリズム」は機会
✔ 社会の合意形成が進まない中、家族
に代理出産を依頼する事例は、今後
も続く可能性がある。
を改めて取り上げたい)。
~80 年 代
90 年 代
78 年:
83 年:
91 年:
93 年:
00 年 代
98 年:
01 年:
01 年:
05 年:
07 年:
08 年:
09 年:
09 年:
主な出来事
(イ ギ リ ス で 世 界 初 の 体 外 受 精 成 功 )
国内で体外受精による初の出生例。
複数の日本人夫婦が米国人の子宮を借り
て代理出産。
日本人夫婦が米国人の卵子提供を受け妊
娠・出産。
非配偶者間体外受精児誕生。
死後凍結精子利用をめぐる議論。
代 理 出 産 公 表 ( 妻 の 妹 )。
母親による代理出産。
海外での代理出産により生まれた子ども
の法的地位をめぐる最高裁判決。
インドでの代理出産、子どもの国籍が問
題に。
母親による代理出産に関する特別養子縁
組が成立した事例。
姉妹・友人の卵提供による体外受精の事
例公表。
83 年:
92 年:
97 年:
00 年:
厚 生 省( 生 殖 補 助 医 療 技 術 に 関 す る 専 門 委 員 会 )
「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療
の あ り 方 に つ い て の 報 告 書 」。
03 年:
厚 労 省( 生 殖 補 助 医 療 部 会 )「 精 子 ・卵 子 ・ 胚 の
提供等による生殖補助医療制度の整備に関する
報 告 書 」。
03 年:
法 務 省( 生 殖 補 助 医 療 関 連 親 子 法 制 部 会 )「 生 殖
補助医療により出生した子の親子関係に関する
民 法 の 特 例 に 関 す る 要 綱 中 間 試 案 」。
日 産 婦 「 代 理 懐 胎 に 関 す る 見 解 」。
03 年:
04 年:
日産婦「胚提供による生殖補助医療に関する見
解 」。
07 年:
「生命倫理と生殖技術について考える超党派勉
強会」設立。
08 年:
日 本 学 術 会 議(「 生 殖 補 助 医 療 の 在 り 方 検 討 委 員
会 」) 厚 労 ・ 法 務 省 の 審 議 依 頼 に 回 答 。
自由民主党「脳死・生命倫理及び臓器移植調査
会 」、「 生 殖 補 助 医 療 法( 仮 称 )」に 向 け た 議 論 開
始を公表。
09 年:
▲関 連年 表: 日本 の代 理出 産
ルール作成を目指した動き
日 産 婦( 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 )、体 外 受 精 に つ い
て会告。
日 本 不 妊 学 会 、「『 代 理 母 』 の 問 題 に つ い て 理 事
見解」発表。
日産婦、第三差からの提供精子による出産につ
いて見解。
(日産婦:日本産科婦人科学会)
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東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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最 高 裁 判 決 ( 2007) 以 降 の 動 き
最高裁の判決以後も、立法府の反応は消極的なものにとどまっている。厚労・法務省の依頼を
受けた日本学術会議が 2008 年に提言をまとめたが、その後も大きな動きはない。臓器移植法改
正後の次なるテーマとして生殖補助医療を位置づけていた生命倫理議連(自由民主党)も、自由
民主党が野党になって以降は、目立った活動が見えない。冒頭の会見は、こうしたこう着状態が
続く現状へのいら立ちとも、依然として根強い代理出産反対論についての拭いきれない不安の吐
露のようにも見える。このような状況下で実施されている現在の国内での代理出産について、次
のような特徴と課題を指摘することができる。
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(1)家族内で展開される身体利用
一点目は、他者の身体を利用する妊娠、出産が家族内で展開される点である。報道によると、
冒頭の代理出産を担当したクリニックでは、これまで女性の実母、姉妹を代理母とする計20組
の代理出産を行っていたとされ、実母が代理母になったケースだけでもすでに7人が出生、現在
も 2 組が妊娠中であるという。従来、代理出産に反対する主要意見の一つは「妊娠・出産という
身体的・精神的負担やリスクを代理懐胎者に負わせる」(日本学術会議)ものである。これを否
定することは誰にも難しい。しかし、かえってこうした危険な行為だからこそ、他人ではなく近
親者に頼る(あるいは近親者が申し出る)事例を招くことにつながる可能性がある。他者にリス
クを負わせているという批判はしにくく、また同じ「家族のため」という理由があり、本人らの
自由意思によって支えられているとの正当化がなされれば、第三者は表だって批判するが難しい
からである。代理出産を根本否定せず、それでいて従来の制度も変更しない、玉虫色の状況が続
くことは、内容や緊急性こそ異なるが、日本の生体移植の歴史や、近年見られる近親間での卵提
供のあり方に似ている。代理出産や人体部分の提供が家族内で行われる際、身体部分の利用にお
ける一般原則である無償性、匿名性、自発性が有名無実化する可能性に注意が必要である。日本
の代理出産が家族意識と一定の親和性を持って展開しつつあることをまず認識するべきだろう。
(2)「特別養子縁組」と代理出産
二点目は、代理出産の法制化の議論が進まない中、これを「特殊な養子」として既存の養子縁
組制度を適用する形態が、日本の「代理出産」の一つの流れとして定着する可能性がある点であ
る。2008年の最高裁判所の判決は、代理出産に関する立法の対応を促す一方、
「両国の法制度の
はざまに立たされて,法律上の親のない状態を甘受しなければならない」状況を回避するために、
生まれた子どもを特別養子として迎え入れる可能性を示した。2008年の日本学術会議の提言も、
代理出産は原則禁止としつつ、生まれた子どもについては養子縁組または特別養子縁組によって
親子関係を定立できるとした。こうした判断は、代理出産を文字通りの出産の「代理」(=実子
の出産を他者に依頼)としてではなく、「胚・受精卵を他の女性に提供し、生まれた子どもを養
子として再び引き取る」特殊な養子縁組と再解釈することによる、救済措置としての性格が強い
ように見える。
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特別養子縁組は、「菊田医師事件」(虚偽の出生届による乳児あっせん事件)の影響を受け、
1987年に新設された制度である。普通養子縁組の場合と異なり、実親とのつながりはほぼなく
なり、戸籍上も実子とほぼ同じ記入形式をとることから、実子としての扱いに匹敵する関係を築
く制度であると評されている。当時の議論を見ると、制度の目標は「養子になる子どもに対する
利益と養父母との親子関係の安定」であることが強調されている(当時の法務相答弁)。
米国で代理出産を依頼して親子関係の性格が争われた事例(→資料参照)では、この制度の利
用による事態収拾が図られたほか、2009年の4月には、実の親に代理出産を依頼した場合につい
ても、特別養子縁組を認めるとの判断が出た(実の親に出産を依頼したものである以上、現行民
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法上は自分のきょうだいと親子関係を定立することになる)。このように代理出産における親子
関係の受け皿として「特別養子縁組」が利用されており、今後もこの流れが続くことが十分予想
される。
なお、特別養子縁組はあくまで養子縁組の一種であり、その縁組の事実は戸籍に記載される。
このため、自身が代理出産によって生まれたことを知る可能性は残る。これは依頼者が「子ども
に代理出産の手順をとったことを知られたくない」とする心情への配慮と、生まれた子どもの「出
自を知る権利」との対立が生じる可能性があるが、現在の民法の規定では特別養子縁組の事実は
開示されることになっている(法務大臣諮問機関である「民事行政審議会」の議論を受け、開示・
非開示双方の主張の妥協策として、裁判所における審判の事実については記録として残すことに
決した経緯がある)。
(3)胚・受精卵の提供、提供の匿名性のルールの不在
上記のように、自らの胚・受精卵を提供し、その生まれた子どもを迎え入れることが既存の養
子制度によって可能であれば、全体として代理出産との大きな違いは見出しにくくなる。(2)
でも見た、特別養子制度に依存した代理出産の解決手法が可能になる背景には、日本には第三者
の胚・受精卵を利用した生殖補助に何ら規制がなく、胚・受精卵を比較的自由に利用できている
という現状がある。日本産科婦人科学会
は、代理出産に関する会告(2003)と
は別に、胚が当事者カップルを越えて利
用されることが、親子関係や子どもの福
祉に及ぼす影響を憂慮するとして、「精
子卵子両方の提供によって得られた胚
はもちろんのこと、不妊治療の目的で得
られた胚で当該夫婦が使用しない胚で
あっても、それを別の女性に移植したり、
その移植に関与してはならない。また、
これらの胚提供の斡旋を行ってはならない」
▲特別養子縁組は「生まれた子どもの引き渡し」
以降を担うにすぎない。
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とする見解を示している(2004)。海外でも、代理出産の是非を検討する際に、このように第
三者の受精卵の利用禁止からのアプローチを採用する国もある(例:スウェーデン)。一方、厚
生労働省報告(2003)はこの点について、作成後に不要となった胚に限って、第三者に提供す
ることを容認する方針を示しており、学会と見解が食い違っている。特別養子縁組は、生まれた
子どもが最終的に依頼者に引き渡される段階以降に適用されるものであり、代理出産に関係する
その他の広範な部分は放置されたままである。胚・受精卵を第三者がどこまで妊娠、出産に利用
できるのか、出産の代理の是非とは別の論点として検討されなければならない。
■資料□
2007 年 の 判 決 と 最 高 裁 の 注 文
日本では、関連学会の会告以外に、代理出産の実施に関する公式な見解は存在してこなかった。2002 年、
海外で代理出産を依頼した夫婦によって国内に出された出生届が受理されず訴訟が起こされた事例では、米国人
に出産を依頼して生まれた子どもの地位に関する議論が司法の場で争われた(なお、子どもは後に特別養子とし
て原告夫婦のもとに迎えられている)。紙面の関係上、訴訟の詳細は他稿に譲るが、最終的に、最高裁判所は「現
行民法の解釈による実親子関係に例外を認めることはできない」との観点から、この夫婦が法律上の実父母であ
るとは認められないとした。それと同時に、「代理出産については法制度としてどう取り扱うかが改めて検討さ
れるべき状況にある・・・社会一般の倫理的感情を踏まえて、医療法制、親子法制の両面にわたる検討が必要に
なると考えられ、立法による速やかな対応が強く望まれる」として、立法府による早急な対応を促した。
▼海外で代理出産により生まれた子どもの法的地位に関する高裁・最高裁の判決の骨子
高等 裁判 所( 2006年)
最高 裁判 所( 2007 年)
代理 出産 契約
・代 理懐 胎
否定 すべ きと まで はい えな い
「子らの福祉の優先、人を専ら生殖の手段
として扱うことの禁止、安全性、優生思想
の排除、商業主義の排除、人間の尊厳にい
ずれも抵触しない」「明らかに禁止する規
定は存しないし、否定するだけの社会通念
が確立されているとまではいえない」
判断 せず (現 行法 では 位置 づけ られ ない )
「女性が自己の卵子により遺伝的なつながりの
ある子を持ちたいという強い気持ちから、代理
出産が行われていることは公知の事実」
「今後も
引き続き生じうることが予想される以上、法制
度としてどう取り扱うかが改めて検討されるべ
き状況」
「懐 胎し た女
性が 母」と す る
民法 の原 則の
適用
本案 件に 適用 する こと は適 切で ない
「(現在の民法は)生殖補助医療技術が存
在せず,自然懐胎のみの時代に制定された
法制度」「その法制度制定時に,自然懐胎
以外の方法による懐胎及び子の出生が想
定されていなかったことをもって,人為的
な操作による懐胎又は出生のすべてが,わ
が国の法秩序の中に受け容れられないと
する理由にはならないというべき」
実親 子関 係は 基本 原則 、法 の規 定を 堅持
「実親子関係は、身分関係の中でも最も基本的
なもの、様々な社会生活上の関係における基礎」
「民法が実親子関係を認めていない者の間にそ
の成立を認める内容の外国裁判所の裁判は、我
が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相い
れない」
「現行民法の解釈としては、出生した子
を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざる
を得ない」
代理 出産 でう
まれ た子
法律上の実親子関係を支持
高裁の決定を破棄
(法律上の実親子関係を認めない)
※「」の中はいずれも判決文をまとめたもの(なるべく原文の語句を活かした)。
Policy Issues No.7
2009(平 成 21)年 12月
東 京 大 学 UT-CBEL(生 命 ・医 療 倫 理 ) 公 共 政 策 チーム (井 上 ほか)
グローバルCOEプログラム「次 世 代 型 生 命 ・医 療 倫 理 の教 育 研 究 拠 点 創 成 」
60
〒113-0033 東 京 都 文 京 区 本 郷 7-3-1 Email: [email protected]
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東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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性転換カップルによる生殖補助技術利用が提起する問題
9 家族のあり方は多様化している。従来、生殖補助技術の利用をめぐる議論は生来の異性間カ
ップルの不妊治療の文脈に限られていた。生殖補助技術の利用を希望する多様な背景がある
ことを考慮したうえで、規制のあり方を検討する必要がある。
9 生殖補助技術では、精子のほか、卵や胚の提供を受ける場合がある。今回の事例を教訓と
して、こうした第三者の提供を伴うことによって生まれた子どもの法的地位に関連する問題の特
定と解決のための議論が必要である。
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1.事例
性同一性障害で女性から男性に戸籍を変えた夫とその妻が、第三者の精子を使った人工授精によって
子どもをもうけた。こうした子について、法務省は法律上の夫婦の「嫡出子」と認めず、非嫡出子とし
子どもをもうけた。こうした子について、法務省は法律上の夫婦の「嫡出子」と認めず、
て扱うよう求めていたことが報じられた。明らかになっただけで、同様の事例は全国で 6 例あるといわれて
いる(→巻末事件の詳細を参照のこと)
。
2.検討課題
この問題は、次の二つの論点を提起している。
(1)生殖補助技術をめぐる議論と性別変更
一点目は、日本における従来の生殖補助技術の利用に関する議論が、概して(生来の)男女カップル
への不妊治療の提供という文脈で展開されることが多く、それ以外の人々のニーズへの対応のあり方に
関する議論はほとんどなされてこなかったことである。社会的あるいは心理的な事情のため、子どもを
もちたいという希望が自分たちだけでは物理的に果たせない人々がいる(
「性的マイノリティ」)
。こう
した人々、たとえば事実婚カップルや同性間カップル、単身者が、第三者の精子や卵、胚の提供を受け
て子どもをもうけることの是非については、欧米の生殖補助技術政策の検討課題として熱心に議論され
てきた経緯がある。日本の生殖補助技術のルールの立案は、男女カップル間での不妊治療目的での利用
にとどまらず、子どもを希望する人の幅広いニーズがあることを想定したうえで、どの技術が誰にどこ
まで許されるべきかを考慮する必要がある。
ただし、性的マイノリティの中でも、性別変更を実施した場合における生殖補助技術の利用について
は海外でも議論は低調である。今回の日本とほぼ同様の事例(カップルの片方が男性への性転換を行っ
たカップルであって、精子の提供をうけた人工授精により子どもが生まれた)として、90 年代のイギ
リスにおいて、子どもの法的地位が法廷で争われた事例がある。当時のイギリスでは性転換者の法的地
位が未確定のこともあり、カップル間で生まれた子どもとしての地位は、国内でも、ヨーロッパ人権裁
判所でも退けられた(X,Y and Z v United Kingdom、1997 年 4 月 22 日)
。その後、イギリスで
は性別変更者の法的地位に関する法律(Sex Recognition Act、2004)が成立したが、性転換を行
った人々の生殖補助技術の利用については明確な方針は示されておらず、今日に至っている。
性別変更をしたカップルが子どもをもうけようとする場合、
(従来の養子縁組を利用するほか、
)第三
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性
転
換
と
生
殖
補
助
技
術
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者から精子や卵、胚の提供を受けての妊娠、出産が重要な選択肢となる。この場合、片方の親(胚提供
の場合は両方の親)は子どもとの生物学的関係を有さない。海外ではさらに、妊娠の代行(代理出産)
を他者に依頼する場合もあるという。このほかの手法としては、性別適合手術を実施する前に、あらか
じめ自身の精子や卵を保管し、手術後にそれらを使用する場合がある。これは、性別適合手術の実施前
に保管された精子や卵の利用を性変更後も引き続き利用することが許されるのかどうかが論点となる
が、親子間の生物学的な関係は維持される。アメリカやイギリスでは、生来の性的機能を維持して子ど
もを妊娠することに利用することの是非に関する議論がある(例:“Pregnant Man”
、男性に性別変
更したが女性としての生殖機能を維持して妊娠した事例)
。
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(2)第三者が関与するタイプの生殖補助技術と親子関係
また、図らずも今回の議論では、第三者の精子の利用により生まれた子どもの地位の性格に関する論
点が浮上した。性転換カップルの例を挙げるまでもなく、子どもを欲しいと願うカップルにとって生殖
補助技術の利用は大切な選択肢であることを考慮すれば、生まれてきた子どもの法的地位の曖昧さは直
ちに改善されるべきである。
法務省は今回の件に関して、人工授精の利用によって生まれた子どもは、そこに親子間での生物学的
関係が見られない以上、嫡出子として推定できないとの見解を示していた。生殖補助技術の発展には、
親子間の生物学的関係をより強めようとする方向性の技術(体外受精など)と、生物学的関係よりも妊
娠・分娩の事実を補強しようとする技術(第三者の胚や精子・卵の利用など)が共に発展してきた。第
三者から提供された精子を注入する人工授精は、
「非配偶者間人工授精」
(Artificial Insemination by
Donor: AID)といわれるものであり、後者に当たる。我が国では 1940 年代から開始された長い歴史
を持つ生殖補助技術である。だが、日本産科婦人科学会がガイドラインを策定したのは 1997 年のこ
とであり、実態の管理と把握の努力にもかかわらず、これまでAIDによって何人が出生したのかといっ
た基本的な情報すら明確でない。
AIDを利用した場合の法的な親子関係の不安定さは過去にも指摘されていた。母子関係の存否は分娩の
事実により発生すると解されているが、AIDにより出生した子とカップルの男性の間には生物学的関係
が存在しない。そのため、たとえば男性側あるいは女性側が父子関係の不存在を主張することも考えら
れるなど、子どもの地位の不安定さが議論されてきた。実際に、1990 年前後には父子間の嫡出成立の
是非を問う議論が法廷で展開された。学説上は、夫の同意によって単純に嫡出推定できるとする説や嫡
出否認権を放棄するとする説など、嫡出推定を支持する説が多いとされる。ただ、AIDによって生まれ
た子の出自を知る権利の保障や、嫡出は生物学的関係にもとづくべきとする考え方、従来の養子制度の
利用可能性を模索する主張もある。
今日の日本は、民法上の父子、母子間のつながりが生物学的関係に帰結できるものであるかどうかが、
これまでになく議論されている。最近の国会での議論、たとえば最高裁判決を受けた国籍法改正作業に
おける親子関係の推定のためのDNA鑑定導入の是非の議論、離婚後三百日以内に生まれた子について
の前夫の嫡出推定に関する議論では、親子関係の判定に生物学的検査を導入するべきとの意見も根強く
示されたが、結局、両者の関係は「推定」するものであり「単にDNA鑑定とか血のつながりだけで親
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性
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換
と
生
殖
補
助
技
術
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子関係を決めるのではないといった民法の精神がある」
(171 回国会・衆議院法務委員会、平成 21 年
3 月 11 日)という意見が上回り踏襲されている。
父親との生物学的な関係(親子関係に着目)
法律婚
(カップル間関係に着目)
Yes
関係あり
関係なし
≪法務省が摘出を認める範囲≫
生来の異性間カップルによる不妊治療
法律婚カップルが精子/卵の提供を受けて
出産に至った場合
例:今回のケース
日本産科婦人学会見解
・AID 実施により生まれた子どもを嫡出子と
して育てるよう両親に指導
・性別変更カップルによる AID の利用を支持
No
× 日本産科婦人科学会は法律婚カッ
プル以外の AID 利用を認めていない
× 日本産科婦人科学会は法律婚カップル以
外の AID 利用を認めていない
例:男女の非婚カップル間が、精子/
卵の提供を受けることなく出産に至っ
た場合。
例:同性間カップルが精子/卵の提供を受け
て出産に至った場合、単身女性が精子の提供
を受けて出産に至った場合
嫡出については法務省の見解(生物学的関係を強調)と日本産科婦人科学会の見解(AID の実施は生まれた子どもを嫡出子
として両親が育てることが前提)との間に違いが生じている。なお、法律婚以外の AID の利用について日本産科婦人科学
会は否定的である。
今回の事例に関する法務省側の説明にもかかわらず、
「提供による生殖補助技術を実施した場合には、
生物学的な親子関係がないことから、嫡出子として推定しない」という原則がこれまで積極的に検討さ
れてきた形跡はなく、また、
「こうした事実が自主的な届出などにより判明しない限りは嫡出・非嫡出
の区別をしてこなかった」という姿勢は法の運用の公平性、および原則の維持努力の消極性を感じさせ
る。むしろ提供精子を利用した不妊治療を受けるカップルが「生まれた子どもを嫡出子として育てる」
とする同意書に記入することで治療が開始されてきた経緯がある等(日本産科婦人科学会見解、2006
年)
、現場で展開していた長年の慣行と法務当局との認識の差が、今回の性別変更カップルによる AID
利用と子どもの地位をめぐる議論によって露見したといえる。この問題は AID に限らず、たとえば胚
の提供を受けた場合には、両親のいずれとも生物学的つながりがない子どもが生まれる場合についても
同様に(あるいはより深刻な)問題である。子どもを欲しいと願うカップルにとって生殖補助技術の利
用は大切な選択肢である。このことを考慮すれば、生まれてきた子どもの法的地位の曖昧さは直ちに改
善されるべきである。
事件の詳細
主に報道から再構成すると背景は以下の通りである。
„
夫は、
「従来、生来の男女カップルの場合には、第三者の精子を利用した人工授精によって生まれてきた子ど
もについては嫡出子と認められるケースがあるにもかかわらず、性同一障害で戸籍上の性を変えた場合につい
ては嫡出子としての地位を認めないのは不当な差別だ」として、対応が変わらなければ家庭裁判所に不服を申
3
63
性
転
換
と
生
殖
補
助
技
術
Policy Issues
No.8 Jan 2010
東京大学「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
UT-CBEL:Center for Biomedical Ethics & Law, The University of Tokyo
P
O
L
I
C
Y
し立てるとしている。
„ 法的な性別の変更は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」に明記した条件を満たすことで認
められるようになった。昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は 1468 人。
„
「特例法は生物学的な性まで変更する
法務省の解釈は、生物学的な関係の有無
法務省の解釈は、生物学的な関係の有無を決め手としているとされる(
ものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」
「生物学的な同性同士で子をもうけることは不
可能である以上は、嫡出子と認めるのは難しい」
)
。これまで、等しく提供精子を利用した人工授精によって生
まれてきた子どもの場合でも、
夫が生来の男性の場合には嫡出子として受理されてきた経緯があるが、
これは、
出生届け出に際して人工授精の事実が届け出られることがなく、人工授精を実施したものかどうか区別がつか
I
S
S
U
E
S
なかったためであるとも説明している。
„ 法務相は、救済策の検討を省内に指示した。生物学的な父子関係がなくても実際には認めてきたケースがある
一方、性同一性障害を実施したカップルのように、人工授精の事実が明らかな場合にのみ嫡出か非嫡出の区別
を行うことには無理があるためとしている。
検討のための材料
„ 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定」するとしている(772 条)
。
„ 非配偶者間人工授精により生まれた子どもの嫡出推定に関する過去の判例は、人工授精の実施に関する夫婦
双方の同意の必要性を強調してきた。
„ 法務省は 2003 年の「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民
法の特例に関する要綱中間試案」では、
「精子又は胚の提供による生殖補助医療」により子が出生した場合、
生殖補助医療により子を懐胎した女性の夫を子の父とするとしていた。
„ 法的に性を変更した場合には、
「性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九
号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別
に変わったものとみなす」
(
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」
、4 条)とされる。昨年3
月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人。
„ 性別適合手術では、その個人が望む本来の性を達成する措置の効果として、その個人が身体的に備えていた
生殖能力が失われる場合がある。60 年代に実施を試みた執刀医らが優生保護法違反に問われて以後(
「ブル
ーボーイ事件」
)
、90 年代に埼玉医科大学の倫理委員会及び日本精神神経医学会が方針を示すまで、国内で
は性別適合手術の実施をめぐる議論は活発化しなかった。
„ 日本産科婦人科学会に加盟する医療機関における「提供精子による人工授精」
(
「非配偶者間人工授精」
)の実
施件数は 1113 件であり、98 人が出生に至っている(2007 年実績)
。これは人工授精に限定された実績
であり、体外受精も含めた精子・卵提供による出産の総数は不明。
„ 日本産科婦人科学会は、2006 年の見解(2006 年、非配偶者間人工授精に関する見解、
「治療開始前に,本
法により出生した子どもは夫婦の嫡出子と認めることを明記した同意書に,夫婦が同席の上で署名し,夫婦
とも拇印を押すなど本人確認を行ったのちに治療を開始する.
」
)としている。厚生労働省の厚生科学審議会
生殖補助医療部会でも、提供精子や卵を利用して不妊治療を実施する場合には、カップルに嫡出子として育
てるよう求める文書が配布されている実態が紹介されている。
Policy Issues
No.8
2010(平成22)年1月
東京大学 UT-CBEL(生命・医療倫理) 公共政策チーム
64
グローバルCOEプログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 Email: [email protected]
4
性
転
換
と
生
殖
補
助
技
術
2. 研究倫理部門
研究倫理部門では、主として人を対象とする医学研究に係る倫理的問題の研究・教育・実務を行う。具
体的には、研究倫理審査学の土台を確立すべく、研究倫理セミナーの実施、研究倫理ガイドの公表、研究
倫理支援センター(NPO)の設立を行う。同時に、主として医学研究者を対象とした教育プログラムの提
供や、研究計画の倫理的側面に対する助言活動を行う。研究活動としては、(1)人由来試料・データの 研
究利用のあり方、(2)リスク・ベネフィット評価方法論、(3)ランダム化比較試験の倫理的問題、等に
取り組んでいる。
【研究倫理セミナー】
研究倫理に関心を持つ国内の研究者・実務家と連携のもと、3 時間の短期セミナーを全国各地で開催し
た。研究審査の手順や国内外のガイドラインの動向など、実践的な情報提供を行う。
■長崎大学(第 1 回 研究倫理セミナー in 長崎)
日時:平成 21 年 6 月 28 日(日)12: 30-15:40/長崎大学熱帯医学研究所 ポンペ会館1階
構成:12:30 -13:40 松井健志「研究倫理の基本的な考え方」
13:50 -14:50 田代志門「研究倫理ガイドラインの近年の動向」
15:00 -15:40 鶴丸雅子(長崎大学)「長崎大学病院における研究審査体制」
■滋賀医科大学(実験実習支援センター特別講演会):DVD 有
日時:平成 21 年 9 月 1 日(火)14:00-16:50/滋賀医科大学 臨床講堂第一
構成:14:00-15:45 松井健志「臨床研究に求められる倫理性」
16:00-16:50 井上悠輔「ヒト試料の研究利用の「倫理」に関する諸問題」
■東京女子医科大学(第1回 東京女子医科大学 研究倫理セミナー):DVD 有
日時:平成 21 年 10 月 5 日(月)17:30-19:30/東京女子医科大学 臨床講堂第二
構成:17:30-18:30 松井健志「研究倫理の基本的な考え方」
18:30-19:30 田代志門「研究倫理ガイドラインの近年の動向」
■徳島大学(臨床研究推進セミナー)
日時:平成 21 年 12 月 14 日(月)14:00-17:00/徳島大学病院 日亜メディカルホール
構成:14:00-14:45 松井健志「研究倫理の基本的な考え方」
14:50-15:50 田代志門「研究倫理ガイドラインの近年の動向」
16:00-17:00 具体例に基づくディスカッション
【冬期集中・研究倫理コース】
医学系研究を実際に自ら計画立案・実施している研究者を主たる対象に、「冬期集中・研究倫理コース」
を開講した。研究倫理の重要トピックと、それを実際の計画立案や研究審査に活かす方法を学ぶ。2009 年
度はその第一歩としてパイロット版を無料で提供した。本集中コースは、生命・医療倫理学基礎コースⅠ、
Ⅱや、夏期集中生命・医療倫理集中コースを発展させた専門コースという位置づけのものである。
65
【医学研究のための倫理に関する国際研修コース】
2 日半の集中コースのなかで、国際共同研究や途上国における医学研究の倫理的問題に係る重要トピッ
クを学び、それを実際の研究計画や研究審査に活かす方法を学ぶ。主たる内容は、研究倫理の基本原則、
インフォームド・コンセント、リスク・ベネフィット評価、既存資料の利用、国際共同研究における倫理
である。これに加えて、子どもを対象とする研究の倫理、コミュニティを対象とする研究の倫理、プラセ
ボ対照試験の倫理、研究と治療の区別、倫理審査委員会の構成や機能等についても学ぶ。長崎大学熱帯医
学研究所に於いて毎年6 月下旬に開催されているコースであり、
UT- CBELは2009 年度以降共催している。
使用言語は英語。
■長崎大学(第 8 回 医学研究のための倫理に関する国際研修コース)
主催:長崎大学医学研究倫理研究会
共催:長崎大学熱帯医学研究所、ノルウェー・ベルゲン大学、米国 NIH、東京大学グローバル COE プログ
ラム「次世代型生命・医療倫理の教育拠点創成」、アジア太平洋地区倫理委員会連絡会議(FERCAP)、熱
帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)
日時:平成 21 年 6 月 29 日(月)~7 月 1 日(水)/長崎大学熱帯医学研究所 ポンペ会館
【京都サテライト会議】
2010年1月には、GABEX国際会議の京都サテライト会議を開催し、研究倫理に関するアジアのネットワ
ーク形成に貢献した。
■Asian Bioethics Research Network Meeting Kyoto
主催:Department of Bioethics, the National Institutes of Health, USA、The University of Bergen, Norway、京都
大学法学研究科、東京大学大学院医学系研究科グローバルCOE「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点」
共催:科学研究費補助金基盤研究(B)「先端生命科学・医学における倫理ガバナンス」研究班
日時:2010年1月13日(水)~14日(木)/京都大学 百周年時計台記念館 国際交流ホールⅢ
【研究倫理ガイド】
研究ガイドは、研究計画の作成や審査の際に、現場の研究者や倫理委員会の委員が判断に迷う点を取り
上げ、現行の指針等に照らし合わせて妥当だと思われる一つの考え方を示すものである。実際の判断を支
援するツールとして活用できるよう、質疑応答集(Q&A)の形式を採用した。2009 年度末までに合計 4
号を作成し、ホームページ上で公開た。特に No.1~3 では、2009 年 4 月から施行された新しい「臨床研究
に関する倫理指針」(厚生労働省)の解釈について、UT-CBEL によく寄せられる疑問のなかから基本的な
考え方に関わる論点を取り上げ、解説を加えた。(http://cbel.jp/modules/pico/guide.html)
■No.1
■No.2
■No.3
■No.4
66
(2009.10.29)「どちらの指針を参照すべきか 疫学指針と臨床指針」
(2009.10.29)「どこまでが介入なのか 介入研究と観察研究」
(2009.10.29)「侵襲性を有する研究とは何か 「侵襲」の 2 つの意味」
(2010.03.03)「どこから研究になるのか 研究と診療の区別」
【DVD 教材】
東京大学大学院医学系研究科・医学部でヒトを対象とした研究に係わる者を対象に実施している「研究
倫理セミナー」の模様を、2009 年 3 月に「研究倫理セミナー―東大における研究倫理教育の実例(全 1 巻
127 分)」(赤林朗(監))として丸善より出版した。
【NPO 研究倫理支援センター】
国内では、各施設の倫理委員会が十分に機能していないことが各種調査から明らかになっている。とり
わけ、治験以外の臨床研究を審査する倫理委員会は、法的・経済的基盤の無い中で、限られた人材を活用
して、数多くの案件をこなさなければならない。加えて、研究倫理の専門家の数は限られているため、医
学研究者や倫理委員会委員に対する研究倫理教育も十分には行われていない。その結果、臨床研究の審査
は、非効率かつ質の低いものになっており、研究の進展を阻害するのみならず、真の意味での被験者保護
にもつながっていないとの指摘がある。そこで、倫理的側面から人を対象とする医学研究が適切に行われ
るように、研究者や研究機関を支援し、社会と調和した医学の発展をうながすことによって、人々の健康・
福祉の維持・改善に寄与することを目的に、特定非営利活動法人・研究倫理支援センターを立ち上げた。
■業務内容
(1)人を対象とする研究の倫理審査の受託事業:独立型の倫理審査委員会による研究の倫理審査の受託を
行う。
(2)臨床研究及び研究倫理に係る教育研修開催事業:研究計画の立案から審査、研究後のケアにわたる
広範な倫理的問題に対処する能力の育成を目的に、研究倫理冬季集中コースを開催する。
(3)研究計画の倫理的側面に係る助言事業:研究計画の作成及び実施に際して、倫理的側面から助言を行
う。
(4)事業を推進・改善する上で必要な調査研究事業:研究倫理に関する調査報告の整理と、助言活動の
見直しによる、問題解決手段の研究を行う。
(5)臨床研究及び研究倫理に係る情報収集及び提供事業:ホームページの運営、臨床研究及び研究倫理に
関する情報を配信するメーリングリストの運営を行う
■沿革
平成 21 年 6 月 23 日 設立総会開催
平成 21 年 6 月 24 日 法人申請書類を提出
平成 21 年 11 月 11 日 認証決定
平成 21 年 11 月 15 日 認証決定通知受領
平成 21 年 11 月 24 日 法人設立登記
67
研究倫理 Guide
No.1 Oct 2009
どちらの指針を参照すべきか
疫学指針と臨床指針
Q:倫理審査のさいに、「疫学研究に関する倫理指針」(以下、疫学指針)と「臨床研
究に関する倫理指針」
(以下、臨床指針)のどちらの指針が適用されるのかわからず困
っています。2 つの指針の適用範囲について明確な基準はありますか?
A:指針の適用範囲については明確な基準が示されているわけではないため、具体的
な適用範囲については、それぞれの倫理委員会が個別に判断し、必要に応じてその根
拠を示せるようにしておくと良いでしょう。
ここでは参考までに両指針の内容を踏まえたフローチャートを示しておきます。基
本的には、「医療機関など臨床の場で行われる研究かフィールドで行われる研究か」、
「介入研究か観察研究か」、
「多数症例を統計解析する定量的研究か少数症例(群)を
記述する定性的研究か」という 3 つの軸に沿って判断すると良いでしょう(なお、介
入研究か観察研究かの区別については、研究倫理ガイドの No.2 を参照してください)
。
このフローチャートに従えば、各施設のカルテ情報などを収集して分析する多施設
共同研究などは、典型的な疫学指針対応の研究となります。
図
臨床指針と疫学指針の適用範囲フローチャート
Start
No
疫学指針
臨床の場
N
Yes
Yes
臨床指針
(食品除く)
介入研究
No
No
臨床指針
Yes
量的研究
疫学指針
注) 「量的研究」とは「多数症例を統計解析する定量的研究」を指す
68
研究倫理 Guide
No.1 Oct 2009
解 説:自分の研究は「臨床研究に関する倫理指針」(以下、臨床指針)を遵守して行えば良い、
と考えていたが、倫理委員会から「疫学研究に関する倫理指針」(以下、疫学指針)を参照するよ
うに、と言われた。倫理委員会事務局として、指針に応じて研究の振り分けを行っているが、判
断に迷うケースが少なくない。
今年の 4 月に新しい臨床指針が施行されて以降、こうした相談を受けることが多くなってきま
した。確かに、新しい臨床指針の本文や Q&A をよく読んでも、疫学指針と臨床指針の適用範囲
については必ずしも明示されていません。加えて、多くの臨床医にとっては、自分は「疫学者」
ではないので、研究計画を作成するさいに「疫学指針」を参照するというのは奇異に感じる、と
いう事情もあるようです。
この問題を考えるさいに、一つの手がかりを与えてくれるのは、疫学指針のQ&Aです。Q&A
の 1-7 では、医療現場において疫学指針の適用となるのは、
「診断・治療等の医療行為について、
当該方法の有効性・安全性を評価するため、診療録等診療情報を収集・集計して行う観察研究」
である、として、具体的に「予後調査(患者コホート研究)
」
、
「副作用研究(症例対照研究)
」、
「診
断研究」の 3 つを挙げています。この規定に従えば、各施設のカルテ情報などを収集して分析す
る多施設共同研究などは、典型的な疫学指針対応の研究である、とさしあたりは言えそうです。
もっとも、疫学指針ができた当初は、こうした理解は一般的ではありませんでした。むしろ、
フィールドで行われる研究は疫学指針、医療機関など臨床の場で行われる研究は臨床指針、とい
うように 2 つの指針の適用は「場」で切り分けられていたからです。しかし、2007 年の疫学指
針改正の際に、疫学とは場のことではなく、多数のデータを統計的に解析するという「手法」の
ことである、という新たな見解が提示され、適用範囲が変化しました 1 。その結果、臨床の場にお
いても、介入研究以外の量的研究は疫学指針の適用とする、ということになったのです 2 。ただし、
このことは疫学指針には示されていますが、後に改正された臨床指針においては、手がかりにな
るような明示的な規定はありません 3 。
そこで現時点では、もしどちらの指針の適用かについて、はっきりさせなければならなくなっ
た場合には、先に挙げた疫学指針のQ&Aの記述を参考にしつつ、個々の研究申請者ないしは倫理
委員会が何らかの基準に基づいて、どちらかの指針に振り分ける、という作業を行うことになり
ます 4 。この場合、ケースごとに個別に判断する、というやり方もあるでしょうし、何らかのフロ
ーチャートを作成する、または既存のフローチャートに依拠する、ということも可能でしょう 5 。
いずれにせよ、判断の根拠については、後に振り分けについて問題となったときに対応できるよ
う、ある程度明示化しておくことが望ましいと考えられます 6 。
なお、今回の臨床指針の改正においては、観察研究に関する規定は、基本的に疫学指針の内容
がそのまま導入されました。ただし、疫学指針のほうがより詳しい規定を含んでいる場合があり
ます 7 ので、観察研究の詳しい規定を知りたければ、疫学指針およびそれに関連した文書を合わせ
て参照すると良いでしょう。
69
研究倫理 Guide
No.1 Oct 2009
脚 注
1
この点については、第 3 回疫学指針の見直しに関する専門委員会における川村委員説明資料「疫
学倫理指針の適用範囲に関する考察」を参考にしてください
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/dl/s1130-8b.pdf)。
2
なお、健康食品等の介入研究は疫学指針の適用ですが、臨床の場における医薬品や医療行為を
伴う介入研究は疫学指針の適用とならないことが、疫学指針の第 1「2 適用範囲」の細則で明
示されています。
3
もっとも、臨床指針の改正の際には、疫学研究との境界についても話題になり、
「集団観察研究」
は疫学指針の適用で、
「観察研究」は臨床指針の適応である、というような文言を盛り込んだ図も
作成されています。この点については、第 8 回臨床研究の倫理指針に関する専門委員会における
資料 2-(4)「臨床研究から見た各指針の範囲のイメージ(案)」を参照してください
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0522-3e.pdf)。なお、ICRweb「臨床研究入
門中級編」において公開されている祖父江友孝氏による講演「疫学研究に関する倫理指針の解説」
は、疫学指針と臨床指針の関係を知るうえで参考になります(http://www.icrweb.jp/icr/)。
4 なお、ここでは医療従事者が行う研究を念頭において議論をしています。近年、医療従事者以
外の研究者が行う医学系研究が増大していますが、そうしたケースの扱いは、指針のなかでは明
確に規定されていません。これらの問題については、また別の機会に扱う予定です。
5
この場合、参考になる指針の振り分けのアルゴリズムとしては、京都大学医の倫理委員会の作
成した「ヒトを対象とした医学研究の分類と対応指針のフローチャート」
(http://office.med.kyoto-u.ac.jp/rinnriiinkai/files/furochato.pdf)や、CITI-JAPANの作成し
た「研究倫理指針・申請書ナビ」
(https://www.citiprogram.org/defaultjapan.asp?language=japanese)などがあります。こ
れらのアルゴリズムは、
「多数症例を統計解析する定量的研究」と「少数症例(群)を記述する定
性的研究」という軸にそって、臨床指針と疫学指針の区別を行うことを推奨しています。
6
どのぐらいから多数になるのか、という点は、臨床指針の改正委員会でも話題になったことが
あり、その際は、研究計画の全体像を見ながら各倫理委員会で判断することになるという見解が、
当時の厚生科学課課長補佐から示されています。この点については、第 2 回臨床研究の倫理指針
に関する専門委員会の議事録を参照してください
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/09/txt/s0913-1.txt)。
7
たとえば、診療情報を利用した観察研究において、個別に同意を受ける代わりに、情報公開を
行えばよい、という規定があります。しかし、情報公開の具体的な手法について手がかりになる
のは、今のところ、疫学指針作成の際に出された「「疫学研究に関する倫理指針」におけるインフ
ォームド・コンセント等の具体的方法について」という文章のみです。
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/04/s0409-2e.html)
研究倫理ガイド No.1
2009(平成 21)年 10 月
東京大学 生命・医療倫理教育研究センター(UT-CBEL)
研究倫理 部門
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 医学部 1 号館 3 階
東京大学グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
Email: [email protected]
70
研究倫理 Guide
No.2 Oct 2009
どこまでが介入なのか
介入研究と観察研究
Q:現在、白血病に関する新しい研究を計画しており、そのさい、入院中の患者さん
から血液を提供して頂く予定です。今回の研究には採血が含まれるのですが、臨床研
究に関する倫理指針(以下「臨床指針」)上では、介入研究に分類されるのでしょうか。
あわせて、指針では、「介入」についてどのように考えているのか教えてください。
A:介入研究ではなく、観察研究に分類されると考えられます。
現行の臨床指針においては、投薬や手術などの医療行為を伴う研究のなかでも、
(1)
通常の診療を超えており、かつ研究目的で行われるもの、あるいは、
(2)通常の診療
と同等であっても、割り付けて群間比較するもの、の 2 点を「介入研究」と定義し、
それ以外の研究を「観察研究」としています。
今回の研究は、あくまでも血液を対象とするものであり、
(1)と(2)のどちらに
も該当しないため、観察研究として扱われると考えられます。なお、下記にフローチ
ャートを作成したので、介入研究と観察研究との区別に迷う際には参考にしてくださ
い(なお、研究と診療の区別については研究倫理ガイドの No. 4 を参照してください)。
図
臨床指針における介入研究と観察研究フローチャート
Start
No
能動的医療介入(治療行為等)を伴う
観察
Yes
No
介入
医学的に確立した診療行為である
Yes
介入
Yes
割り付けて群間比較する
No
観察
71
研究倫理 Guide
No.2 Oct 2009
解 説:
2009 年 4 月から施行された「臨床研究に関する倫理指針」
(以下、臨床指針)改正
の一つの狙いは、被験者リスクの高低に比例させる形で臨床研究を類型化し、その規制に強弱を
つけることにありました 1 。具体的には、医薬品や医療機器の臨床試験のように、一般的にリスク
が高いと考えられるものには治験なみの厳しい規制を課し、診療情報の二次利用などの低リスク
研究に対しては、インフォームド・コンセント要件免除規定などを設けたのです。
そのさい、新しい臨床指針においては、「介入研究と観察研究」と「侵襲性の有無」という 2
つの基準に従って、規制の強弱をつけています。なかでも、
「介入か観察か」という区別は、あら
ゆる振り分けの出発点となっているため、研究者はまず自分の研究が介入研究なのか、観察研究
なのかを判断する必要があります(なお、指針上では「介入」と「侵襲」は異なる意味で使用されて
います。詳しくは研究倫理ガイド No.3 を参考にしてください)
。
もともと、この両者の区別は疫学指針作成のさいに導入されたものであり、疫学指針において
は、
「割り付けがあるかないか」という基準によって介入研究と観察研究の区別が行われていまし
た 2 。これに対して、臨床指針は疫学指針の区別を受け継ぎつつも、そこに新しい要素を加味して
介入研究と観察研究の定義を行っています。指針本文では、介入研究にあたるものとして、①「通
常の診療を超えた医療行為 3 であって、研究目的で実施するもの」、と②「通常の診療と同等の医
療行為であっても、被験者の集団を原則として 2 群以上のグループに分け、……割付けを行って
その効果等をグループ間で比較するもの」という 2 つの定義を示しています。このうち、後者の
定義(介入②)は疫学指針とほぼ同じですが 4 、前者の定義(介入①)は臨床指針に特有のもので
す。そこで以下では介入①の定義について解説していきます。
介入①の定義を理解するポイントは 2 つあります。一つ目は、「通常の診療を超えた」という
文言の意味です。これについては、臨床指針Q&Aの 1-7 が参考になります 5 。ここでは「通常
の診療を超えた医療行為」は「一般的に広く行われている医療行為以外、例えば、医学的に効果
が検証されていない新規の治療法のことなど」である、と規定されています。それゆえ、ここで
いう「通常の診療」とは、医学的に安全性や有効性が検証されている医療行為のことを指してお
り、それを「超えた医療行為」とは、すなわちそうした検証を受けていない、という意味である
と理解できます 6 。もう一つのポイントは、後半に「研究目的で実施するもの」という文言が追加
されている点です。これは、たとえ「通常の診療を超えた医療行為」であっても、
「研究目的で行
わない」ものであれば、必ずしも介入研究、ひいては臨床指針の対象とはみなさない、という意
味を含んでいます。それゆえ、たとえば、外科手術において新しい手技を導入することは、それ
自体で「研究」となるわけではなく、あくまでも研究目的が含まれる場合には介入研究とみなす、
ということになります。
なお、新しい臨床指針では、介入研究でも侵襲性を有しないものに関しては、規制上の規定は
侵襲性を有する観察研究と同じになっています(文書による同意と同意書式への補償の有無の記載
が必要ですが、公的データベースへの登録や厚生労働大臣への有害事象報告は必要ありません)
。この
点で、介入研究とみなされたからといっても、侵襲性を有しないものであれば、必ずしも厳しい
規制を受けるわけではないことを知っておくと良いでしょう。
72
研究倫理 Guide
No.2 Oct 2009
脚 注
1
この点については、指針本文には明示されていないものの、議論の経緯を丹念に追っていくと、
実質的には被験者リスクの高低による類型化を意図していたことが理解できます。たとえば、第
4 回臨床研究の倫理指針に関する専門委員会(以下、専門委員会)における廣橋委員長代理の以
下の発言には、この方向性が端的に表れています。
「より危険の高い介入研究に関して、倫理審査
の体制を厳しくして、フォローアップも十分にして、補償の措置も付けられて、そういう研究が
しっかり進められて、エビデンスが出ていくようにしていこうということでいいと思うのです。」
(第 4 回専門委員会議事録http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/txt/s1213-2.txt)
2
具体的には、日本疫学会が編集した『疫学――基礎から学ぶために』
(南江堂、1996 年)の記
述を元に、介入研究を以下のように定義しています。
「疫学研究のうち、研究対象者等が研究対象
者の手段を原則として 2 群以上のグループに分け、それぞれに異なる治療方法、予防方法その他
の健康に影響を与えると考えられる要因に関する作為又は不作為の割付けを行って、結果を比較
する手法によるものをいう」(疫学指針の第 5(2))。
3
なお、臨床指針 Q&A1-11 では、介入の定義における「医療行為」を以下のように規定してい
ます。「(健康成人、患者を問わず)有効性・安全性等を評価するために、評価目的の医薬品を人
体に投与し若しくは医療機器又は手技等を人体に適用し構造又は機能に影響を及ぼす行為」
。
4
この点を臨床指針に盛り込むことで、たとえ既に効果の確立した治療法同士であっても、その
両者についての臨床試験を行うならば、それは介入研究である、ということが明確に示されまし
た。たとえば、すでに承認されている抗がん剤について、異なるレジメン同士を比較する研究な
どがこの対象となります。
5 なお、
「通常の診療を超えた」という文言に関しては、臨床指針 Q&A の 1-6 にも記載があり
ます。ここでは健康成人対象の臨床研究は治療目的ではないため、介入研究にはあたらないので
はないか、という問いに対して、
「健康成人は治療を必要としていないため、健康成人に対して行
われる上述の医療行為〔医薬品の投与や医療機器の適用、手術等〕は第 1.3(2)①の『通常の診療
を超えた医療行為』に該当し、本指針の介入研究に該当すると考えられます」という回答が提示
されています。ここでは、あくまでも健常成人に対する研究の文脈においてですが、
「通常の診療
を超えた」という文言の意味が、
「治療を必要としないにもかかわらず、医療行為を行う」という
意味で使用されていると考えられます。
6
なお、確立した医療であるかどうか、という基準をどこに置くかは議論の余地があり、その判
断は、当該医療機関の性格や医療チームの力量によっても変化するため、研究計画ごとに倫理委
員会が個別の判断を行う必要があると考えられます。
研究倫理ガイド No.2
2009(平成 21)年 10 月
2010(平成22)年 3 月改訂
東京大学 生命・医療倫理教育研究センター(UT-CBEL)
研究倫理 部門
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 医学部 1 号館 3 階
東京大学グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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73
研究倫理 Guide
No.3 Oct 2009
侵襲性を有する研究とは何か
「侵襲」の 2 つの意味
Q:現在、白血病に関する新しい研究を計画しており、そのさい、入院中の患者さん
から血液を提供して頂く予定です。今回の研究は、臨床研究に関する倫理指針(以下
「臨床指針」)上では、
「侵襲性を有する研究」に分類されるのでしょうか。あわせて、
臨床指針では、
「侵襲性の有無」についてどのように考えているのか教えてください。
A: 今回のように血液を利用した研究の場合、採血が研究目的で行われるものなの
か、診療の一環として行われるものなのかによって答えが変わります。前者ならば「侵
襲性を有する観察研究」、後者ならば「侵襲性を有しない観察研究」となります。
また、指針上の「侵襲性」の定義ですが、臨床指針においては、この言葉が介入研
究と観察研究で意味が異なることに注意してください(介入研究と観察研究の区別につ
いては研究倫理ガイド No.2 を参照してください)
。介入研究においては、投薬や手術等、
被験者に対するリスクが一定程度以上の医療行為を「侵襲性を有する」としています。
これに対し、観察研究においては、研究目的で採血や穿刺等を行うことを「侵襲性を
有する」としています。それゆえ、今回のような人由来試料を利用した研究では後者
の定義が採用されますが、介入研究では前者の定義が採用されることになります。
図
臨床指針における侵襲性の有無フローチャート
Start
Yes
No
介入研究
Yes
投薬
治療医療機器
手術手技
その他治療的介入
Yes
研究目的での採血・
穿刺等
侵襲性を有する研究
No
No
侵襲性を有しない研究
74
研究倫理 Guide
No.3 Oct 2009
解 説:前号(研究倫理ガイド
No2)でも述べたように、2009 年 4 月から施行された臨床
研究に関する倫理指針(以下、臨床指針)の大きな特徴は、「介入研究と観察研究」および「侵襲
性の有無」という 2 つの軸に則して研究を類型化し、それぞれに異なる要件を課した点にありま
す。すなわち、基本的には、
(1)
「侵襲性を有する介入研究」、
(2)
「侵襲性を有しない介入研究」
と「侵襲性を有する観察研究 1 」、(3)「侵襲性を有しない観察研究」という序列に従い、規制に
強弱が付けられています。ただし、以前の臨床指針ではこのような類型化は行われていなかった
ため、多くの現場ではなかなかその意味が理解されず、倫理委員会等でも少なからず混乱が生じ
ているようです。
なかでも、
「侵襲性」概念に関しては、医療現場で通常想定されているような「生体を傷つける」
という意味とは異なる意味が指針では採用されているため、誤解を招きやすくなっています。そ
こでここでは、主に臨床指針 Q&A の記述を参考にして、臨床指針上の「侵襲性の有無」の考え
方を整理してみたいと思います。
臨床指針においては、侵襲性の有無によって規制の要件が変化するものの、指針本文において
「侵襲」という用語の定義はなされていません。そこで、これに答えるために策定されたのが、
臨床指針Q&Aの 2-1 です。ここでは、「侵襲」とは、「①被験者に対する危険性の水準が一定程
度以上の医療行為を行うものとして、投薬、医療機器の埋め込み、穿刺、外科的な治療、手術等」
であるとしています。すなわち、この①では、投薬や手術など、人体の機能や構造に大きな影響
を与える行為そのものを指して、「侵襲」と呼んでいることがわかります 2 。
これに対して、その直後には、
「②被験者から試料等の採取のために行われる採血や穿刺を伴う
行為であれば「侵襲」を伴う」という記述があります。この規定で重要なのは「試料等の採取の
ために」という限定です。すなわち、この②では、血液や組織など人由来試料を利用した研究を
念頭において、その採取が研究目的で行われているかどうかという観点から「侵襲」を定義して
いるのです 3 。これは先にみたように、投薬や手術などによるリスクが一定の水準に達しているか
否かによって「侵襲」を定義するのとは異なる基準です 4 。
以上の規定から、
「侵襲」の定義には異なる 2 つの意味が含まれており、介入研究においては、
「侵襲」とは、主に被験者に身体的リスクを与える投薬や手術等の行為を指しているのに対し(侵
襲性①)
、観察研究における「侵襲」とは、専ら研究目的で生体を傷つける採血や穿刺等の行為を
指している、ということがわかります(侵襲性②) 5 。
このさい、特に混乱が生じやすいのが、後者に関する「侵襲性の有無」です。血液や組織など
人由来組織を採取する場合には、それが診療の一環として行われるのか、
「採取を主目的として単
独で実施されるもの 6 」なのかによって、同じ試料でも指針上の扱いが変わってきます。それゆえ、
研究者はこの点を研究計画上はっきりとさせ、倫理委員会は審査のさい、この点をしっかりとチ
ェックすることが求められます。
75
研究倫理 Guide
No.3 Oct 2009
脚 注
1
研究倫理ガイドの No.2 でも述べたように、指針上は、侵襲性を有しない介入研究と侵襲性を
有する観察研究とは同じ扱いになっています。どちらも、必須条件として求められているのは文
書による同意の取得と補償の有無についての説明です。
2 基本的には、介入研究の文脈においては、診断機器や看護ケアなどに関する研究は、
「侵襲性を
有しない研究」となり、観察研究の文脈においては、治療行為に付随した試料を利用した研究や
診療情報等の収集・分析に関する研究は「侵襲性を有しない研究」として扱われることになりま
す。この点については、第 8 回臨床研究の倫理指針に関する専門委員会における資料 2-(4)「介
入研究における侵襲の整理(案)」および「観察研究における侵襲による同意取得(案)」を参照
してください(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0522-3e.pdf)。
3
この点に関しては、臨床指針 Q&A の 2-2 でも明示されています。すなわち、「試料の採取に
おける「侵襲性」の有無の判断は、当該試料の採取を主目的として単独で実施されるものか、あ
るいは、治療行為の結果として随伴して発生するかどうかで異なります」という記述がそれです。
4 たとえば、第 8 回臨床研究の倫理指針に関する専門委員会における資料 2-(4)「介入研究にお
ける侵襲の整理(案)」
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/dl/s0522-3e.pdf)のな
かでは、このことが「注」として以下のように明記されています。
「「侵襲性を有する介入」とは、
介入の性質において被験者等への侵襲がある治療・予防・診断行為等をいう。観察研究における
侵襲は、治療・予防・診断等医療行為によるものではなく、採血等によるものであるため、
「侵襲
性を有する介入」と観察研究での「侵襲」は異なる」。
5 このような意味のズレが起きた背景には、疫学指針の存在があります。疫学指針では、試料の
採取に関して「侵襲性を有する場合」と「侵襲性を有しない場合」を区別して、前者では文書合
意が必要だが、後者では口頭同意でも良いとしています(疫学指針本文 第 3 の 1(2))。今回の
臨床指針では、観察研究に関しては疫学指針の規定を踏襲したため、侵襲性についても疫学指針
の規定を導入することになりました。なお、疫学指針も本文では「侵襲」の定義をしていません
が、疫学指針 Q&A の 4-1 で、
「試料の採取が侵襲性を有する場合」とは、
「採取を目的とした侵
襲性」を指す、と明示しています。
6 臨床指針 Q&A の 2-2 の表現です。注 3 を参照してください。この観点からすれば、診療用と
して採取した検体の残りを使用する場合などは「侵襲性を有しない研究」とみることができるで
しょう。また、診療用に検体を採取する際に追加で研究用検体を採取する場合は、グレーゾーン
に位置しているため、各倫理委員会での判断が必要になると考えられます。
研究倫理ガイド No.3
2009(平成 21)年 10 月
東京大学 生命・医療倫理教育研究センター(UT-CBEL)
研究倫理 部門
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 医学部 1 号館 3 階
東京大学グローバル COE プログラム「次世代型生命・医療倫理の教育研究拠点創成」
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76
研究倫理 Guide
No.4 Mar 2010
どこから研究になるのか
研究と診療の区別
Q:当診療科では、数年前に新たな術式を導入したのですが、それ以降、格段に患者
さんの予後が良くなってきた、という感触があります。そこで、これらのデータをま
とめて学会に報告しようと思うのですが、倫理委員会の審査は必要ですか?
なお、
この手術は保険診療の範囲内で行われており、世界的にはすでに広く普及しているも
のです。
A:倫理委員会の審査が必要だと思われます。現在の倫理指針においては、基本的に
は、研究と診療の区別は、①「収集・集計された情報に対する解析の複雑さ」
、②「公
表される場」、③「公表の目的」の 3 点から総合的に判断すべき、とされています(よ
り詳細な規程については下記の図を参考にしてください)
。
このケースの場合、現時点では学会に報告するという意図があるので、「公表され
る場」と「公表の目的」という点からは診療の一環ではなく、研究として審査される
べきものである、と考えられます。なお、もし新しい術式を導入した当初から研究成
果の公表を予定していたのでしたら、本来は導入以前に研究計画を倫理委員会に提出
しておくほうが望ましいでしょう。
図
疫学・臨床指針における研究と診療を区別する基準
診療の一環
研究
単純集計
単純な統計処理
解析の複雑さ
複雑な統計処理
年報
機関のHP
機関外の医師同士の勉強会
公表の場
学術論文(として公刊)
学会発表
新聞・雑誌等への発表
患者、他機関(行政機関な
ど)への情報提供
病院の医療評価の基礎資
料作成
公表の意図
他研究者への報告
77
研究倫理 Guide
No.4 Mar 2010
解 説:
いったいどこまでが診療の一環で、どこからが研究になるのか。この問題は、
「そもそ
も倫理審査にかけるべきかどうか」という点をめぐって、しばしば施設の中で対立を引き起こし
てしまいます。実際、現場の医師にとっては、すべてを倫理審査にかけるのはわずらわしい、と
感じてしまうこともあるでしょう。もちろん、投稿条件として倫理審査が定められている学術雑
誌への投稿を考えている場合には問題は生じませんが、そうではない場合も多々あります。では、
日本の倫理指針はこの問題についてどのように規定しているのでしょうか。
ここでまず見るべきなのは、各指針の適用範囲です。たとえば、「臨床研究に関する倫理指針」
(以下、臨床指針)の「適用範囲」においては、①「診断及び治療のみを目的とした医療行為」、
②「他の法令及び指針の適用範囲に含まれる研究 1 」③「試料等のうち連結不可能匿名化された診
療情報(死者に係るものを含む。)のみを用いる研究」の 3 つが指針の対象外とされています。
このうち、倫理審査の必要性との関係でしばしば問題になるのが、①の「診断及び治療のみを目
的とした医療行為 2 」という規程が具体的にはどの範囲の医療行為を含むものなのか、という点で
す3。
この点について参考になるのが、疫学研究に関する倫理指針(以下、疫学指針)のQ&A1-3 で
す 4 。このQ&Aは、研究と診療の区別について具体的な判断基準を提示しており、行為の結果が
公表されない場合には診療の一環であるとしたうえで、公表される場合にも、①「収集・集計さ
れた情報に対する解析の複雑さ」、②「公表される場」、③「公表の目的」の 3 点から総合的に判
断されるべき、としています(なお、臨床指針でも基本的には同じ考え方が踏襲されています 5 )。
この基準に従えば、本ケースは、当初は患者さんの治療を「目的」として行われていた医療行為
が、学会報告のためにデータを収集しようとした時点で、研究として公表するという「目的」を
持った行為へと変化した、とみることができるでしょう 6 。
なお、しばしば研究と診療の区別に関して問題になるのが、研究成果を学会等で公表する意図
はないけれども、「有効性や安全性が確立していない医療行為」を目の前の患者の「診断及び治
療のみを目的」として行う場合です。これらは研究と診療のグレーゾーンに位置しており、
「革新
的治療」や「実験的治療」等の名称で呼ばれています 7 。具体的には、ほかに有効な治療法などが
無い場合に、やむなく行われる医療行為などが考えられるでしょう。
残念ながら、国内の倫理指針は明示的にこの問題を扱っていないため、参考になるような規程
はありませんが、世界医師会のヘルシンキ宣言には関連する条項があります。現行のヘルシンキ
宣言第 35 条は、その医療行為が患者の救命や苦痛緩和等に有益であると判断される限りにおい
て、①患者からのインフォームド・コンセントと②専門家の助言を得たあとであれば、医師はこ
れらの医療行為を実施できるとしたうえで、可能であれば早い段階で研究として行われることを
推奨しています。この規程に従えば、こうした場合には、開始に先立って、適切なインフォーム
ド・コンセントと専門家の助言を得ておくか、なるべく早い段階で研究として行う方向にシフト
して、倫理委員会の審査を受けることが望ましいと言えるでしょう。
78
研究倫理 Guide
No.4 Mar 2010
脚 注
1
なお、他の指針との関係でしばしば問題になるのは、臨床指針と疫学指針の関係ですが、この
点については、研究倫理ガイド No.1 を参考にしてください。
2
なお、
「診断及び治療のみを目的とした医療行為」をすべて指針の対象外とするという考え方は、
「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」および「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関す
る指針」においては採用されていません。両指針においては、ここに「医学的に確立されている」
ないしは「安全性及び有効性が確立しており、一般的に行われている」医療行為に限る、という
条件が付加されており、より厳しい規程となっていることに注意してください。
3
この考え方は、規制対象となる研究を「目的」や「意図」によって定義しようとしたもので、
アメリカの連邦規則をはじめとして、国際的にもしばしば採用されている考え方です。なお一般
的には、
「公表」というよりも、
「一般化可能な知識(generalizable knowledge)の発展」を意
図しているかどうか、という観点から「研究」は定義されています。
4
研究と診療の区別に関しては、もともとの疫学指針の適用範囲の細則において、判断に迷う記
述があったため、疫学指針改正の際に集中的に議論されました。その結果、細則の一部が削除さ
れ、これらの Q&A の項目が追加されたのです。
5
具体的には、臨床指針の Q&A1-2 における以下の文言を指しています。
「いずれの研究におい
ても、その規模(症例数の多寡)、処理内容(単純な集計にとどまるか、複雑な統計処理を行う研
究か)、公表の場(自施設内報告のみか学会等の報告か)、公表対象(患者・関係医療従事者等内
部に限定されるか、一般国民・他の研究者等広く公表されるのか)といった観点で〔指針の適用
範囲に該当するか否かが〕判断されることになります。」ここでは、いわゆる症例報告を念頭に、
「症例数の多寡」という基準が追加されていますが、それ以外は疫学指針の Q&A と同じです。
6
こうした「意図」の変化について、Q&A1-3(1)では以下のような記述があります。
「なお、院
内で行った検討会において検討された事例(例:高血圧に対する薬剤の降圧効果の比較検討など)
で、その時点において公表を意図していなかったものについて、学会発表を意図した場合には、
疫学研究指針等の適用対象に該当する可能性があることに留意して下さい。」
7
古典的には、アメリカの「ベルモント・レポート」
(1979 年)において、その扱いが定式化さ
れています。ベルモント・レポートは、以下のように、実験的な医療行為をすべて「研究」とみ
なすことはできないが、なるべく早い段階で「研究」として行われることが望ましいと述べてい
ます。
「ある処置が新しいものであったり、検証されていなかったり、異なっているという意味に
おいて、『実験的』であるからといって、それが自動的に研究カテゴリーに入るとはかぎらない。
とはいえ、ここで記述したような革新的な処置は、その安全性と有効性を確認するために、その
初期段階で正式な研究対象となるべきである。
」
(http://homepage3.nifty.com/cont/28-3/p559-68.html)
研究倫理ガイド No.4
2010(平成 22)年 3 月
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79
3. 臨床倫理コンサルテーション部門
医療現場では、様々な臨床倫理問題(患者診療・ケアに関して日常的に遭遇する倫理・社会・心理・法
的問題など)が存在しており、医療従事者が困惑する場面が増えている。今日、現場における臨床倫理問
題に適切に対処するために、臨床倫理コンサルテーション(倫理的、法的立場からの助言)を担う人材の
必要性が指摘されている。当部門では、こうした問題を解決するべく、臨床倫理学の実践活動としての「臨
床倫理コンサルテーション」の確立を目指す。臨床倫理コンサルテーション学の教育・研究の土台づくり
のために、倫理コンサルテーション部門では、患者の権利の尊重と、良質で安全な最善の医療の実施の二
つを軸にして、本学医学部附属病院を含む国内外の大学病院等と連携を行っている。
【臨床倫理学・臨床倫理コンサルテーションに関する研究】
臨床倫理コンサルテーションは、
応用倫理学の一つである臨床倫理学の実践活動として位置付けられる。
当部門では、医療従事者の視点から医療現場に相応しい臨床倫理学の理論に関する研究を行う。また、医
療現場に適用性が高い、
倫理コンサルテーションの体制やアプローチ方法などに関する研究も行っている。
【冬期集中・患者相談・臨床倫理コンサルテーションコース】
医療現場で実際に患者相談や臨床倫理の問題に従事する者を主たる対象に、「冬期集中・患者相談・臨
床倫理コンサルテーションコース」を開講した。医療の現場において、患者相談や臨床倫理の問題に理論
的かつ実践的に取り組むことができる人材を養成することを最終的な目的とする。2009 年度はその第一歩
としてパイロット版を無料で提供した。本集中コースは、生命・医療倫理学基礎コースⅠ、Ⅱや、夏期集
中生命・医療倫理集中コースを発展させた専門コースという位置づけのものである。
【臨床倫理コンサルテーションに関する教育】
上記のコース以外にも、医療現場で生じるさまざまな倫理的問題に対処できる人材を養成するために、
本学医学部附属病院を含むさまざまな医療機関で、実践講座やその他の講義を提供している。講演会等で
は総論的・断片的にしか語られない内容が、具体的かつ体系的に学べるよう、講義の内容には工夫を凝ら
した。このほか、本学医学部附属病院内の患者相談・臨床倫理センターにインターンシップの大学院生を
受け入れ、シャドーウィング等の実践的な教育を行い、患者相談・臨床倫理コンサルテーション能力を育
むよう努めている。
■東京大学医学部附属病院(2009 年 7 月 22 日)
「平成 21 年度看護部必修研修(ジェネラリスト 1):看護倫理」
■戸塚診療所(2009 年 10 月 24 日 15:00-18:00)
「臨床倫理(※4 分割表使用)」
■東京大学医学部附属病院(2009 年 10 月 26 日、29 日、11 月 4 日)
「平成 21 年度看護部必修研修(基礎Ⅰ):看護倫理」
■東京大学大学院医学系研究科教育研究棟鉄門講堂&セミナー室(2009 年 11 月 11 日 13:00-17:30)
「患者相談対応ワークショップ」(ファシリテータとして参加、全国の国立大学病院患者相談担当者対象)
80
■東京大学医学部附属病院(2009 年 11 月 20 日、25 日、27 日)
「平成 21 年度看護部必修研修(基礎Ⅱ):看護倫理」
■東京大学医学部附属病院(2009 年 12 月 21 日)
「平成 21 年度看護部必修研修(ジェネラリスト 2):看護倫理」
■東京大学医学部附属病院中央診療棟 2 7F 大会議室(2010 年 2 月 25 日 17:30-19:00)
「患者相談・臨床倫理センター事例発表会」(事例提供、院内職員対象)
【臨床倫理コンサルテーションに関する教材・教育ツールの開発】
臨床倫理に関しては、本学医学部附属病院内の患者相談・臨床倫理センターとの連携を通じて、医療現
場における倫理コンサルテーションのニーズや相談内容を定量的に把握するデータベースを開発した。そ
の知見を元に、実践的な短期集中コースを作成し、全国から募集した受講生と、さまざまな角度から事例
検討をする機会を得た。それらを集約し、『ケースブック患者相談』(2010 年)を出版した。また、広く
臨床倫理コンサルテーションに関する教育を行うために、各現場で使用可能なケースブックやチェックリ
ストなど臨床倫理教育のためのツール開発も行っている。
【臨床倫理コンサルテーション活動】
東京大学医学部附属病院患者相談・臨床倫理センターにおいて、代諾者なき場合の医療の進め方・治療
方針の対立な ど院内で発生する様々な臨床倫理的問題に対処するためのコンサルテーション活動を行っ
ている。倫理コンサルテーションは、医療者からの依頼により行われることが多いが、患者・家族からの
相談が契機となり、コンサルテーションにつながることもある。これらの実践は、上記の教育研究活動と
循環する関係にあり、常に実践と理論化が並行して展開されている。
4. GABEX 部門
GABEX とは、Global Alliance of Biomedical Ethics Centers の略で、生命・医療倫理における海外の主要な
研究機関との国際的な連携を進めるプロジェクトである。当該領域において世界的に著名な秀でた研究所
やシンクタンクの研究者たちを一堂に集め、現在の時点での最高水準の知を集積すべく、国際ネットワー
クの構築を図る。また、若手研究者を中心とした国際的な人材の流動化を促し、研究・教育の国際標準化
を図る。本部門では、GABEX 国際会議、テレビ会議システム、国際フェローシップ制度を創設し、海外の
拠点との密接な連携を図ることにより、国際的な研究活動を推進した。
【GABEX 国際会議】
世界のトップクラスの研究拠点から、所長クラスの研究者と若手研究者を一名ずつ招聘し、これまで二
回の国際会議を東京で開催した。国際間対話を成功裏に終え、生命・医療倫理の実質的な国際ネットワー
クを築くに至っており、本拠点は生命・医療倫理領域におけるハブ拠点としての地位を確立しつつある。
同時に、多国間の対話を通して、生命・医療倫理の領域でも、日本・アジアにおける地域的な価値と、す
81
べての文化圏に通底する普遍的な価値から構成される実践・制度が可能であることが示唆され、次世代型
の国際標準の生命・医療倫理学の創成に向けて大きく前進した。
■第一回 GABEX 国際会議
開催日:2009 年 3 月 13 日(金)・14 日(土)/グランドプリンスホテル高輪(品川)、二階「桜花」
報告者:以下 17 名
赤林朗、松井健志、藤田みさお(東京大学)
Alastair Campbell、Leonard De Castro(国立シンガポール大学、シンガポール)
Josephine Johnston、Jacob Moses(ヘイスティングス・センター、アメリカ)
Autumn Fiester(ペンシルバニア大学、アメリカ)
Marion Danis、Frank Miller(国立衛生研究所、アメリカ)
Justin Oakley、Robert Sparrow(モナシュ大学、オーストラリア)
Mark Aulisio、Nicole Deming(ケース・ウェスタン・リザーヴ大学、アメリカ)
Michael Dunn(オックスフォード大学、英国)
Reidar Lie、Natapong Thanachaiboot(ベルゲン大学、ノルウェー)
その他の参加者:国内研究者約 50 名
会議の内容:世界の主要な生命・医療倫理研究機関から代表者を招へいし、各機関の特色および主な研究
テーマが紹介され、情報交換の場となった。会議の模様は、2009 年に「世界の生命・医療倫理センター国
際ネットワーク会議(全 1 巻(6 DVD discs)296 分)」(赤林朗(監))として丸善より出版した。
82
■第二回堀場 GABEX 国際会議
「グローバルな生命・医療倫理の課題に対応する国際ネットワークの構築」
開催日:2010 年 1 月 10 日(日)・11 日(月)/東京大学医学部教育研究棟 14 階、鉄門記念講堂
口頭発表:以下 16 名
赤林朗、高橋しづこ(東京大学)
Justin Oakley、Robert Sparrow(モナシュ大学、オーストラリア)
Reidar Lie、Allen Alvarez(ベルゲン大学、ノルウェー)
Jacqueline Chin、Lisbeth Nielsen(シンガポール国立大学、シンガポール)
Tony Hope、Michael Dunn(オックスフォード大学、英国)
Nicole Deming(ケース・ウェスタン・リザーヴ大学、米国)
Nancy Berlinger(米国国立衛生研究所、米国)
Polo Black Golde、Joseph Millum(ヘイスティングス・センター、米国)
Arthur Caplan、Autumn Fiester(ペンシルヴァニア大学、米国)
ポスター報告:以下 9 名(東京大学)
秋本祐希、井上彰臣、伊吹友秀、中野浩、中野裕考、福嶋揚、前川健一、丸山空大、森祐介
その他の参加者:二日間のべ約 420 名
会議の内容:世界の主要な生命・医療倫理研究機関の代表者が、「生命倫理と社会」、「生命倫理の境界
領域」、「生命倫理の未来」のテーマに即した研究報告を行った。また、生命倫理政策に関して、パネル・
ディスカッションを行った。
【テレビ会議システム】
円滑な研究協力を進めるために、テレビ会議システムを導入し、これまでに計 20 回の活発な拠点間の
交流を行っている。システム導入により、海外拠点との研究上のやりとりおよび日本からの積極的な情報
発信を日常的に行えるようになった。この成果として、タイのチュラロンコーン大学や国立シンガポール
大学との国際授業や、テレビ会議を通じて得られた知見をもとに、臓器移植法改正に関する論考の海外誌
への投稿等が実現している。
2009 年 4 月 3 日
National University of Singapore, 東京大学
フィリピンの臓器売買に関する研究報告
2009 年 4 月 25 日
University of Pennsylvania, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年4 月 29 日
Case Western Reserve University, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 5 月 1 日
Hastings Center, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 5 月 13 日
Monash University, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 5 月 13 日
Oxford University, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 6 月 3 日
Monash University, 東京大学
留学中の研究指導のあり方について説明
83
2009 年 6 月 8 日
NIH, University of Bergen, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 7 月 15 日
University of München, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 7 月 17 日
University of München, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 7 月 22 日
National University of Singapore, 東京大学
国際シンポジウムの打ち合わせ
2009 年 7 月 23 日
NUS, Chulalongkorn University, 東京大学
国際シンポジウムの打ち合わせ
2009 年 7 月 30 日
University of München, 東京大学
今後の共同研究のあり方について意見交換
2009 年 8 月 19 日
Monash University, 東京大学
共同研究の進捗状況について確認
2009 年 8 月 21 日
NUS, Chulalongkorn University, 東京大学
アジア生命倫理国際授業、参加者約 30 名(うち外国人約 20 名)
2009 年 8 月 21 日
Monash University, 東京大学
ニューロエシックスについて報告
2009 年 8 月28 日
Oxford University, 東京大学
高齢者医療に関する研究報告
2009 年 9 月 2 日
Monash University, 東京大学
留学中の研究指導のあり方について説明
2009 年 9 月 11 日
National University of Singapore, 東京大学
臓器移植に関する研究報告
2009 年 11 月 20
National University of Singapore, 東京大学
新型インフルエンザに関する研究報告
【国際フェローシップ等】
上記のインフラを利用して、国際フェローシップ制度を作り、若手研究者を中心に、研究者の派遣、受入
を行っている。2009 年度はフェローシップ派遣実績 15 名(モナシュ大学、国立シンガポール大学、オッ
クスフォード大学、ペンシルヴァニア大学、ヘイスティングス・センター等)、受入実績 5 名(モナシュ
大学、ペンシルヴァニア大学、ケース・ウェスタン・リザーブ大学等)であった。なお、本拠点に受け入
れた研究者には、UT-CBEL 国際セミナーシリーズでの研究発表を義務付け、また派遣先では当地の研究者
との共同研究を奨励している。
【ブックプロジェクト】
これまで、ややもすると、西洋とは違う東洋的な生命・医療倫理が強調されたり、逆に文化的な差異を
まったく顧慮しない生命・医療倫理の追究がなされたりする向きがあった。しかし、GABEX 国際会議にお
ける多国間の対話を通して、生命・医療倫理の領域でも、日本・アジアにおける地域的な価値と、すべて
の文化圏に通底する普遍的な価値から構成される実践・制度が可能であることが示唆され、それがすなわ
ち世界標準の生命・医療倫理を意味するという知見が得られた。その世界標準を示す一例として、多文化
圏のアジアで使用可能な英語による生命・医療倫理の教科書(Biomedical Ethics in Asia: A Casebook for
Multicultural Learners, McGraw-Hill, 2010)を出版した。さらに、GABEX の一つの研究成果として、21 世紀中盤
までの医療・生命倫理の展開を見据えたブックプロジェクトを検討している(英文著書 Toward Bioethics in
2050: Message to Next Generation『次世代の国際標準となる生命・医療倫理学』(仮題))。
84
5. 広報部門
広報部門ではホームページ(http://cbel.jp)を立ち上げ、本拠点の紹介や、公開講座、シンポジウムにつ
いてのお知らせ、生命・医療倫理関連サイトへのリンク集等を掲載し、専門家のみならず、広く一般人に
向けて生命・医療倫理学に関する情報を分かりやすく伝える活動を行っている。一部は英語での閲覧が可
能である。この他、メディアへの情報発信や取材受付、アウトリーチ活動、ポッドキャスティングやニュ
ースレターによる一般人向け情報発信等を行い、
臨床や医学研究の現場や社会に対する貢献を行っている。
【アウトリーチ活動】
広報部門では、社会貢献の一環としてアウトリーチ活動を行っており、2009 年には都内高校に生命・医
療倫理の出前授業を行い、好評であった。また、地域社会の中核の一つである寺院を通して、地域住民と
の双方向性のコミュニケーション(いのちを考えるシリーズ)を行った。
■東京学芸大学附属高校・出前授業(2009 年 10 月 9 日)(写真左下)
内容:「高校生のためのやさしい医療倫理」(特に脳死と臓器移植に関する倫理的問題について)
講師:有馬斉
■高校教師向け情報誌「地歴・公民科資料」69 号(実教出版株式会社)
内容:「臓器移植法改正」
執筆者:有馬斉、児玉聡、井上悠輔
■浄真寺(檀家・地元住民の方対象)(2010 年 3 月 25 日)(写真右下)
内容:「いのちを考える勉強会」(特に終末期医療について)
講師:田代志門
【ニュースレター】
生命・医療倫理学を専門的に学ぶ研究者ではなく、当該領域に関心を持つ一般人向けに 2009 年度より
これまでに合計 10 号のニュースレターを定期的に配信している。本拠点での活動報告や、本学大学院生の
研究・留学体験等、身近な話題を取り上げ、生命・医療倫理学についてわかりやすく触れた内容は好評を
博し、ニュースレターの配信登録者数は 800 を超えている。
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■Vol.1(2009.9.28 Mon.)
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赤林教授に聞く「CBEL の目指すもの」
-
満足度 120% 2009 年度 夏期集中 生命・医療倫理学入門コース開催
┏● 赤林教授に聞く「UT-CBEL が目指すもの」
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
医療・研究現場と社会とのコミュニケーションを密接にとることの重要性は年々増大しているにもかかわらず、積極的に学び、関わって
いこうという人材はもちろん、専門的に生命・医療倫理について学ぶ場も圧倒的に不足しています。UT-CBEL では、若手研究者、医療従
事者から市民まで幅広い人材養成と研究を試みます。拠点リーダーである赤林朗教授に UT-CBEL がこれから何を目指すのかについて
聞きました。
― 赤林先生が生命・医療倫理の問題について研究を始めたきっかけについて教えて下さい。
もともと医学生だった 1970 年代中頃から医療と倫理の問題に関心がありました。日本とアメリカの学生交流プログラムに医学生として参
加したときに「安楽死やがん告知、遺伝子操作の問題などに関心がある」とアメリカの学生に話すと、それは bioethics という領域だと言わ
れ初めてこのような研究領域があることを知りました。その頃の日本では、今でいう生命・医療倫理の諸問題は「ライフサイエンス」とか
「科学技術と社会」というカテゴリーで議論されていましたが、社会的な関心はそれほど高くはありませんでした。駆け出しの内科医だった
20 年以上前の医療現場では、末期がん患者には延々と生命維持医療が行われていたり、高齢のがん患者に過剰な抗がん剤の投与が行
われていました。それが大学病院の常識だったのです。緩和医療などが発展した現在とはずいぶん考え方がことなっていたようです。そ
の一方で、患者やその家族の立場になると別の考え方があります。私は母をがんで亡くしましたが、駄目だと分かっていても最後まで蘇
生を試みて欲しかったというのが本音です。「医療従事者と患者、その家族の思いをどのように調節すればよいのか。」これが医療倫理学
を更に深めて勉強しようと思ったきっかけです。
― 生命・医療倫理というのは具体的にどのようなものなのでしょうか。
私が考える生命・医療倫理学とは、ライフサイエンスと医療が生み出す倫理的・法的・社会的問題を学際的に研究する、いわゆるELSI
(エルシー)、Ethical, Legal and Social Implications と言われる分野です。そのトピックスを追ってみると、クローン、ES 細胞の研究規制、新型
インフルエンザ・パンデミック時のワクチン配分等の政策の問題、国際共同研究の間の審査体制、脳死臓器移植、利益相反なども大きく取
り上げられています。また臨床の場面では、臓器売買や渡航移植など、医療者のマーケットからさまざまな問題が起きています。ELSIと
いうのは、「学際的に研究する」ということです。これは一つのテーブルを囲んで、一つのテーマについて、バックグラウンドが違う者同士
が議論し合うことです。専門が違う人たちですから、お互いがわかる言語で議論しなければなりません。
― UT-CBEL を日本版ヘイスティングス・センターにしたいとおっしゃっていますが、米国のヘイスティングス・センターとはどのような機
関なのでしょうか。
ヘイスティングス・センターは、1969 年世界に先駆けて設立された生命・医療倫理専門のシンクタンクです。これまで米国政府への政策
提言や国際学術誌の発行などで世界の生命・医療倫理学の議論をリードしてきました。私は 90 年代、このセンターで visiting scholar として
研究しましたが、ここでの議論はまさに私が求めていたものでした。専門や意見が異なるものが同じトピックについて、一つのテーブルを
囲んで、互いに理解できるような言葉で議論しあうのです。ここで行われる学際的な議論に接しているうちに、日本においても問題点を解
きほぐしていくきっかけがつかめたような気がしました。そして、「日本版 ヘイスティングス・センター」を作らなくてはならないというひとつ
の使命のようなものを感じました。私は昨年よりヘイスティングス・センターのフェローの称号をいただき、今年の 6 月、センターの 40 周年
設立記念式典へ招待されました。そこでは、アメリカの bioethics のオールスター戦を観戦してきたような感じでした。大物学者らの講演を
目の前で聞くことができ、将来の bioethics の方向性についても示唆を得ました。visiting scholar の時にお世話になった創立者のダニエル・
カラハン先生と、ウィリアード・ゲイリン先生との写真はお宝物です。
86
― UT-CBEL は今後、どのような活動を展開していくのでしょうか。
UT-CBEL では、お互いに分かる言葉で議論し合う姿勢を基本として、「研究倫理」「公共政策」「倫理コンサルテーション」の 3 本柱の下、
社会への発信に力を入れていきたいと思います。研究倫理部門では、人を対象とする医学研究に係る倫理的問題の研究・教育・実務を行
ったり、医学研究者や倫理委員会委員を対象とした教育プログラムの提供や、研究計画の倫理的側面に対する助言活動を行います。公共
政策部門では、新たな問題が発生したときに、解決の選択肢を整理して1週間以内にホームページでリスポンスする。それをマスコミの方
などがご覧になって、その先に進めてもらうという政策クイック・リスポンスをシンクタンク機能の一つとして実施しようと考えています。
― メディアへ情報を提供するということでしょうか。
メディアに正確な情報を伝えるということと、生命・医療倫理に関しての論点の整理が大切です。たとえば代理出産反対、賛成どちらか
を主張するのではなく、賛成・反対にはそれぞれこういう論点がありますときれいに整理してマスコミに知らせる、これが政策クイック・リス
ポンスです。そういう政策立案や政策研究ができる人などを輩出したいと思っています。倫理コンサルテーション部門では、臨床の現場で
生じている倫理問題に対して助言する人材を養成していきたいと思います。医療関係のバックグラウンドを持っている人が倫理的な、法的
な素養を身につけるのか、あるいは法的な素養、倫理的な素養を持っている人に医療現場で勉強してもらいそういう助言ができるようにし
ます。そして、世界の主要な生命・医療倫理研究拠点と連携し、「国際ネットワーク(GABEX:Global Alliance of Biomedical Ethics Centers)」を
構築します。GABEXを通じて、若手研究者を中心とした国際的な人材の流動化を促し、国際標準の生命・医療倫理学を構築することを目指
します。しかし私たちは、国際ネットワークを構築して全世界になべて使えるような一つの倫理規範や考え方を生み出そうとしているわけ
ではありません。
― 何か例をあげてもらえますか。
例えばインフォームド・コンセントに関して欧米の考え方の主流は、患者対医師というモデルしかないでしょう。一方、日本の中でよく見
る光景は、インフォームド・コンセントという説明と同意のプロセスで、家族が大体かかわってきます。しかし欧米でも家族の協力・判断を必
要とする患者はいるだろうし日本でも一人だけで判断する患者はいます。UT-CBEL では、どちらの選択肢も紹介した上でそれぞれを理論
化していきたいと思います。それによって日本や欧米以外でも世界中の各地域の状況に応じてモデルが使えるようになればいいと思って
います。
― 主に専門家、医療関係者に対して活動を展開していくのでしょうか。
いいえ、医療関係者や研究者だけではなく一般の方へ HP やニューズレター等を通してどんどん情報を発信していきたいと思っていま
す。また、終末期における医療倫理問題などのセミナーやシンポジウム、高校生向けの医療倫理の出前講座なども行っていきたいと思い
ます。そして皆さんとともに「よりよい医療とは何か」「よりよい患者・医療従事者関係とは何か」を考えていきたいと思っています。
(聞き手 広報:平間 千恵)
┏●満足度 120% 2009 年度 夏期集中 生命・医療倫理学入門コース開催
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
去る8月6日~9日、夏期集中 生命・医療倫理学入門コースのセミナーが行われました。本セミナーは2004年以降、大学生・大学院生、
および医療従事者を主とする社会人対象に行われ、これまで 600 名以上の修了生を輩出しています。修了生はその後、倫理委員会の委
員や、倫理コンサルタントして活躍したり、独自にネットワークを結成し、自主的な研究会を定期的に行っています。実際に今回のセミナー
に参加した熊本大学大学院保健学教育部の永田まなみさんに感想を聞きました。
87
夏期集中セミナーに参加して
ハートフルで丁寧なご指導ありがとうございました。勇気を出して行動を起こせば、何か変化が起きるものですね。私の当初の目的は、
模擬倫理委員会および倫理コンサルテーションを体験することでしたが、終了時には、これからの希望“リタイア後にボランティアの倫理コ
ンサルタントになる”を見出していました。というのは、昨年学位(博士)を取得した私は、17 年ナースとして働く中で、本を読みたい!一心
で大学教員に成り下がり?法哲学の社会人学生として 12 年ほど「正義とケア」について学んだものの、所詮は看護学と倫理学の間のコウ
モリ、臨床家・研究者のどちらとしても中途半端、と煩悶していたからです。おかげさまで、これまでの学びや臨床経験の可能性を信じ、自
己の役割を果たすべく “学びたい”ワクワク感が甦りました。
4 日間の入門編の講義では、次世代を担う気鋭の研究者が、普通は一言では言えない難しい内容を易しくかみ砕いてお導き下さり、お
一人お一人の学識の深さに深く感じ入った次第です。 倫理学をかじった人間としては、先生方が初学者にその学問の全体像を描いた地
図をご呈示下さったように受け止めました。この企画には、終了後に参加者自身が会場で配布された教科書を読み、さらに学習を深めて
いくという宿題も暗黙裏にセットされていたようですが、この地図を持って進んでいくなら、迷わない!ということ請け合いです。お目当て
の倫理コンサルテーションは、最初は講義に始まり、最終日にある程度の実践レベルに到達できるよう周到に準備されていました。時間
制限がある中で、法律家・主治医、家族の役割を演じられた先生方と本番さながら直にコミュニケーションし、チームで一応の倫理コンサ
ルテーションの結論を出すという体験は、スリル満点で、こり固まった脳をフル回転させました。
本セミナーでは、終了後も研究会を通じて継続学習を可能とする仕組みも完備されており、まさしく至れり尽くせり・・・だったのですが、
私にとって一番の魅力は、出会いでした。医療は基より幅広い分野の老若男女が苦楽?を共にして、仲間になれました。今後、参加者が
主体的に活動・学習をしていく上で、シンクタンク(よき指導者・相談者)を得たこともまたプライスレスの価値だったのです。価値といえ
ば・・・赤林先生が「5年後には価値が出る・・・かも?」と手渡された修了証書を握りしめ、「ちがいない!」と、次を待っている私がいます。マ
ジにチョー楽しかった!
(熊本大学大学院保健学教育部 永田まなみ)
1:臨床症例の倫理的検討法
目的:臨床現場の具体的な症例における倫理的問題点の検討法の一例を理解する。
概要:ジョンセンらの4分割表の紹介、ダックスのケースを用いた具体的説明を行う。
修了生の声:
○本で読んでもよく分からない点があったのですが、講義と実際にやってみて分かったので良かった。
○歴史的背景、また倫理学との関係について理解できた。
○理由の作り方が明確
2:守秘義務と個人情報保護
目的:倫理的義務としての守秘義務と現在問われている問題を理解する。守秘義務の解除と法の「正当な理由」との関係を理解する。個人
情報保護の仕組みと、医療情報への当てはめを理解する。個人情報保護と医学研究との関係を理解する。
概要:守秘義務に関する倫理綱領・宣言の特徴、守秘義務の倫理的基礎付け、絶対的義務から相対的義務へ(タラソフ事件と守秘義務解
除の要件)、守秘義務に関する法の規定、チーム医療における守秘義務、プライバシーの権利と個人情報保護(保護・開示・利用)
修了生の声:
○現場ですぐ使える。
○法と医療行為、及び社会的概念との違いを理解できた。
○誤解していた部分があることに気づかされ、考えを新たにすることができた。
88
3:倫理コンサルテーション
目的:病院内で行われる臨床問題をめぐる倫理問題の解決のための仕組みと実践を理解・体験する。
概要:Ethics Consultation の現状と課題を、アメリカを例に説明する。
修了生の声:
○多職種のグループで話し合い、1 つの答えを出していく実践を体験できたことが良かった。
○今後の倫理コンサルテーション体制を構築する上で参考となった。
○倫理上のジレンマについて、ディスカッションも交えて考察を深めることができたのが良かった。
●これまで倫理委員会というものについて、漠然とした知識やイメージしか抱いていませんでしたが、実際に模擬でも体験することによっ
て、その重要性や必要性を実感することができて良かったと思います。(医療機関・事務職)
●グループ内に色々なバックグラウンドの方がいて、考え方が異なり面白かった。授業で教えてもらった考え方をすぐ使うことができるの
で分かりやすかったです。(研究者)
●講義が分かりやすかったです。ビーチャムとチルドレスをどれだけ自分で読んでも分からなかったことが、講師の説明であっという間に
理解することができるようになり、目から鱗が落ちる思いがしました。(医療ソーシャルワーカー)
●スケジュールが非常に緻密で、内容もまとまっていました。倫理コンサルテーションについても一回で終わらせず、各講義の内容を生
かせるように日を分けて行われたのがとてもよかったと思います。(臨床医)
●コース全体が画期的であると感じた。スタッフの方々で趣向を凝らして受講しやすいように工夫されているのが感じられた。今回学んだ
ことはエッセンスにすぎないと思われるので、本を読むなどして更に深めていきたいと思う。(学生)
●一方通行の講義に終始するセミナーが多い中、演習を交えた構成は CBEL の教育にかける意欲が感じられました。第一歩を踏みこん
だ気持ちで今後精進したいと思います。(会社員)
●大変充実したプログラムで先生方の熱意が伝わってくるコースでした。それぞれの口語の学習目標がクリアで、しかも他と重複がない
ので最後まで意欲を持って取り組むことができたように思います。(看護師)
■Vol.2(2009.10.9 Fri.)
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生命・医療倫理の世界のハブへ「国際ネットワーク・GABEX」
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留学生日記・博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┏● 生命・医療倫理の世界のハブへ「国際ネットワーク・GABEX」
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
UT-CBEL の活動のひとつに「国際ネットワーク・GABEX」があります。GABEX とは、Global Alliance of Biomedical Ethics Center の略で、生
命・医療倫理における海外の主要な研究機関との国際的な連携を進めるプロジェクトです。今回、UT-CBEL が組んだ拠点は、世界の著名
な、バイオエシックスの秀でた研究所やシンクタンク 9 拠点です。これらの拠点の研究者たちを一堂に集め、現在の時点での最高水準の
知を集積しようというのがこの国際ネットワーク・GABEXプロジェクトです。世界の主要な生命・医療倫理研究拠点と連携することにより、若
手研究者を中心とした国際的な人材の流動化を促し、研究・教育の国際標準化を図ります。GABEX 部門を担当している有馬斉先生(グロ
ーバル COE 特任助教)に実際どのような活動をしているのか話を伺いました。
―GABEX 部門の実際の活動内容について教えて下さい。
GABEX 部門では、主に、生命・医療倫理分野における海外の研究拠点との共同研究を推進する業務を担当しています。特に重要な業務
は、(1)来年 1 月に開催する予定の国際会議の企画と運営、(2)TV 会議システムを利用した国際ミーティングの実施があります。
―TV 会議システムとはどのようなものですか。
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TV 会議システムは、インターネットで海外の研究拠点の研究者と繋ぐことができるシステムです。音声だけでなく、カメラを使ってお互い
の顔が見られ、また、パワーポイント等の資料を共有しながらアカデミック・ミーティングを行うことができます。これまでに 20 回以上の国
際ミーティングを実施しました。
―どのような国際ミーティングを開いているのですか。
たとえば、8 月には、シンガポール国立大学とタイのチュラロンコーン大学を TV 会議システムで繋いで、「アジアにおける生命倫理」と題
した 3 国間での国際ミーティングを実施しました。各大学の先生にそれぞれ 30 分発表してもらい、赤林先生にも「日本における生命医療倫
理の歴史」について、パワーポイントを使用して発表をお願いしました。シンガポール国立大学からは、主に医学部の学生が18人参加し、
東京大学からも 5 人が参加しました。赤林先生の発表についても、日本人の渡航移植の問題が今回の法改正でどのように解決されうるの
かなど、いくつも質問があがりました。非常に盛況な会議で、有意義でした。今後も TV 会議を月に 1 回くらいのペースで実施していきたい
と思っています。
―GABEX 部門では、若手研究者の交流も活発にされているようですが。
GABEX 部門では、国際フェローシップ制度を実施しています。今年 7 月には、医療倫理学分野の博士課程の学生がオーストラリアのモ
ナシュ大学へ留学しました。また諸外国からも若手研究者を特任研究員として受け入れていて今月、モナシュ大学の博士課程の学生が約
3 週間ほどこちらへ来ていました。今後、他の連携拠点からも学生やポスドク数名を受け入れる予定になっています。
―来年 1 月に開催する予定の第 2 回 GABEX 国際会議について詳しく教えて下さい。
第1 回目の大規模な国際会議は昨年3 月に実施されました。生命医療倫理分野の研究をリードする世界の主要な研究拠点から、代表す
る研究者が東京大学に集まり、それぞれの拠点の特色や研究内容について報告してもらいました。その模様を収録した DVDが 10 月に発
売されたばかりです。今年度も 2010 年 1 月により大規模な第 2 回の国際会議を実施する予定です。今回の会議には、米国国立衛生研究
所の生命倫理部門・部長であるエゼキエル・エマニュエル博士や、ペンシルヴァニア大学生命倫理センター所長のアーサー・カプラン教授、
また英国オックスフォード大学生命倫理研究所のトニー・ホープ教授など、影響力の大きな研究者が 16 人集まり報告を予定しています。
現在の生命・医療倫理学を代表する各拠点の研究者が一堂に会する第一セクションは、(1)Frontline、(2)Frontier、(3)Future の三部で構成
し、(1)最喫緊の課題への応答、(2)今後取り組むべき問題の明確化、(3)生命・医療倫理における次世代の世界標準への対応をそれぞれ目
的としています。第 1 セクションは広く一般に公開し、個人発表後にパネル・ディスカッションを実施します。第 2 セクションは、今後の活躍
が確実視される海外の若手研究者を集めたセミナーです。学内及び国内からも関連分野の研究者を招聘し、密接な交流を目的として、中
規模のセミナー室を会場としたセミ・オープンのセミナーを開催する予定です。この国際会議を通じてライフサイエンスや医療をめぐる現
在進行中の問題や今後取り組むべき課題を明確化するだけでなく、次世代の生命・医療倫理の国際標準を発信していきます。そして、東
京大学が生命・医療倫理学の分野で各国拠点をつなぐ「ハブ」として機能し国際的プレゼンスを高めることに大きく貢献したいと考えていま
す。
(聞き手 広報:平間 千恵)
┏●留学生日記・博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
UT-CBEL では、GABEX プロジェクトの一環として国際フェローシップ制度を実施しています。東京大学の若手研究者を海外連携先の研
究拠点に派遣し、諸外国の第一線級の研究者による指導の下、在外研究に従事する機会を提供します。また諸外国からも若手研究者を
特任研究員として受け入れます。この制度を利用し、医療倫理学分野教室・博士課程 3 年の伊吹友秀さんが、現在、GABEX 連携拠点のひ
とつ・モナッシュ大学(オーストラリア)へ留学しています。一体、どんな留学生活を送っているのでしょうか。
90
7 月 15 日、私は真冬のメルボルンへと到着しました。それは、真夏の東京・練馬区江古田を出てから約 1 日後のことでした。メルボルン
と日本の現在の時差は一時間(メルボルンの方が一時間早い)なので、時差ボケというのはあまり気にする必要はありませんでしたが、さ
すがに、かなり疲れました。名物というロングブラック 1)が、やけに美味しく思えたことを覚えています。
どうも、医療倫理学教室の博士課程の伊吹です。 今現在、在外研究のためオーストラリアのメルボルンにありますモナッシュ大学に滞
在しております。今回からこちらでの研究のことや モナッシュ大学生命倫理センターのこと、日常生活のことについて数回に渡ってレポー
トしたいと思います。さて、私のいるオーストラリア第二の都市メルボルンは、日本人にどれぐらい知名度があるでしょうか?私がメルボ
ルンに行くことを友人等に伝えたところ、「ああ、あそこね」という返事をもらいましたが実際にどういうところなのかあまり分からない、名前
は知っているけど、何があるところなのかイメージのない人が 多かったようです。実際、現在のところ東京からメルボルンへの直行便は
ありません。数年前に路線が廃止になったのだそうです。ガイドブックでの紹介もシドニーやケアンズのおまけ程度にしか載っていません。
しかし、メルボルンはイギリスの雑誌が選ぶ世界の住みやすい街ランキング上位の常連の街であり、その住みやすさに惹かれてか、街
には実に様々な国から来たであろう人々が住んでいます。実際に訪れてみると、交通網も発達しているし、公園やカフェなども充実してい
てなるほど素敵な街だと分かります。 中でもカフェの充実っぷりは素晴らしく、本郷に持って帰りたいカフェが町中に溢れかえっています。
メルボルンと同様に、モナッシュ大学も日本での知名度は低いかもしれません。これも私の友人や家族への調査なのでサンプル数の少
なさと偏りは否定しませんが、ほとんど誰も知りませんでした。ただし、そもそもオーストラリアの大学と言われて即座に名前とイメージが
浮かぶ大学もあまりないようでしたが、、、
そんな日本ではなじみの薄い大学かもしれませんが、モナッシュ大学は、オーストラリア最大の学生数と留学生数を誇るだけではなく、
Group of Eight と呼ばれるオーストラリアの名門大学の一つなのです。特に生命・医療倫理については、モナッシュ大学生命倫理センター
を有し、独自の学術誌も発行しており、世界的にもこの分野を牽引する大学の一つと言ってよいでしょう。センターは、1980 年にオーストラ
リアで最も有名な生命倫理学者で、日本でも影響力の大きいピーター・シンガー先生を中心に設立されました。何と来年で 30 周年です。現
在のセンター長は、徳倫理の研究などで有名なジャスティン・オークリー先生です。私も現在この先生のもと、色々な勉強をさせてもらって
います。他の常勤スタッフは、私の研究の専門であるエンハンスメント 2)の倫理についても研究されているロブ・スパロー先生と、こちらの
授業等でお世話になっているリンダ・バークレー先生です。特にスパロー先生とは研究関心が近いこともあって色々と研究のお話をさせ
てもらっています。 センターは通称「メンジー」3)と呼ばれるキャンパス最大のビルディングの Level 94)にあります。メンジーは立派なビル
なのですが、かなり老朽化が進んでいて、一度非常ベルが鳴り止まずに建物内の人がみんな避難する、なんてことがありました。ちょうど
その時一緒に避難したバークレー先生は、年に何度かこんなことがあるのだと言って憤慨されていました。そんなこともあってか、メンジ
ーは立て直しが決まっていて、しばらくしたら同センターも、一時的に引っ越さなくてはいけないのだそうです。ただ、校内にはメンジーの
建て替えを批判するような張り紙もされており、反対派も少なからず存在するようです。 それを見て、何だか東大の駒場寮が取り壊され
るときのゴタゴタを思い出し懐かしくなりました。ともあれ、私がいる間の話ではありませんし、せっかくこのメンジーで 10 月初めまで勉強
させていただく機会をいただきましたので、こちらで色々なものを身に付けて日本に帰りたいと思います。 次回以降は、こちらでの生活や
研究や授業等のことについてもっと詳しく紹介していきたいと思いますので、よろしければお付き合いください。
(東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 医療倫理学分野 伊吹友秀)
1) ロングブラック:オーストラリア版ブラックコーヒー。エスプレッソのダブルにお湯を注いだものらしい。他にも、アイスコーヒーを頼んだ
らコーヒーフロートが出てくるなど、こちらのカフェのメニューの言葉は日本と微妙に違います。
2)エンハンスメント:頭をよくしたい、筋肉を増強したいといった治療とは言えないような目的のために医科学技術を用いることが許される
か、について考える生命・医療倫理の研究領域。
3)メンジー:ビルが建てられた当時のオーストラリアの首相の名前なのだそうです。
4)Level 9:オーストラリアはイギリスと同じで1階のことをグランドレベルとよんで、2 階のことを Level 1 と呼びます。なので、この場合の
Level 9 とは、9 階のことではなく 10 階のことです。窓からの景色がとてもきれいです。
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■Vol.3(2009.11.2 Mon.)
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日本の最先端を走る UT-CBEL・研究倫理部門とは?
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高校生のためのやさしい医療倫理 ~東京学芸大学附属高校・出前授業レポート~
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第二回・留学生日記 博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┏● 日本の最先端を走る UT-CBEL・研究倫理部門とは?
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
UT-CBEL の活動のひとつに研究倫理部門があります。医学研究に関する倫理的問題の研究・教育・実務を行っている部門ですが、一般
の方にとってはいまひとつ馴染みのない分野ではないでしょうか。そこで、研究倫理とは具体的にどんな分野なのか、担当の松井健志先
生、田代志門先生に話を伺いました。
―研究倫理について教えて下さい。
松井:今、皆さんが普段飲んでいる薬、当たり前に受けている治療法や診断法は、医学研究の積み重ねでできているものです。人のため
に役立つ薬や治療法などを開発するには、最終的には実際に生きている人を対象として、本当に効くのか、どのような副作用がどの程度
生じるのか、 何が原因となって病気が起こっているのか、といったことを検証する必要があります。その一方で、研究で使われる人は守
られなければいけません。その際、どういう方法なら社会的に許されるのか、どういった範囲なら研究で使われる人に過度のリスクを負
わすことにならないか、また逆に、どの範囲以上の行為なら倫理的に問題であるのか、といったことを考えるのが研究倫理です。
田代:最近では「根拠に基づく医療」(Evidenced-based medicine: EBM)の必要性が広く認識されるようになりました。実験室での基礎研究や
動物実験などで有用と思われた医薬品が、そのまま人間にとっても有用であるということはできませんし、成人男性にとって標準的な治療
法が、女性や妊婦や子供にも同様に安全であるとは限りません。先ほど松井先生も言われたように、本当にこうした人たちに有用かどう
か、安全に使えるかどうかを検証する必要があります。一般的には「人体実験」というと聞こえが悪いかもしれませんが、安全で有効な医
療の発展を私たちの社会が求める限り、人を対象とする研究が必要ですし、その際には誰かが被験者にならなくてはなりません。被験者
を守りながら、同時に臨床研究を推進していくためにも、倫理的社会的観点からのチェック体制を確立することはとても重要です。研究倫
理の役割は、そのための考え方の枠組みを作っていくことにあると考えています。
―では研究倫理といっても、実験室で行われるような研究の倫理ではないのですね。
松井:そうですね。ここで私たちが研究倫理の対象として扱う研究は動物実験や基礎研究ではなく、主に医学研究において人を使う研究、
もしくは人の身体の一部を採取してそれを使うというような研究で、看護研究なども含まれます。また最近では、医療工学や脳科学分野で
人を使った研究がありますが、そうしたものも対象になります。もちろん、動物実験の倫理性や科学一般に携わる研究者の不正行為やデ
ータ捏造といった科学者倫理の問題も、広い意味での研究倫理のテーマには含まれますが、私たちがここで取り組んでいるのは、あくま
でも人を対象とする研究に関する倫理の問題です。
―今までにどういう研究が倫理的に問題だと言われてきたのでしょうか。
松井:一般的に言えば、被験者の同意がない、もしくは同意が不十分な実験、また、被験者へのリスクが極端に高い実験などがしばしば
問題にされてきました。皆さんも名前はご存知であろうにハンセン病 1)にまつわる実験を例にとりますと、その原因菌を見つけたノルウェ
ーの学者・ハンセン(Armauer Hansen)は、ハンセン病は「人から人へうつる」という仮説を立て、それを証明するために人を使って実験をし
ました。当時、ハンセン病は非常に蔓延していて、患者が差別を受けていて治療法もありませんでした。また、本当に人から人の感染で起
こるのかも分からなかったのです。そうした中で、ハンセン病が感染症だと疑っていたハンセンは、ハンセン病の症状を呈していた患者の
体液を採取して、それを別の入院中の患者に接種し、その患者が本当にハンセン病を発症するかどうか実験をしたのです。この実験では
倫理的な問題が 2 つありました。ひとつは、患者が嫌がったにもかかわらず接種した、つまり、被験者の同意なく実験が行われた点。そし
92
てもうひとつの重要な点は、この実験が被験者に許容できない過度のリスクを負わすものであったということです。仮に被験者の同意が
その時得られていたとしても、被験者が負わされるリスクの面を考えると、その一点でこの実験は倫理的に正しくない、すなわち許容され
ない、ということになります。
― 研究倫理の問題はいつ頃から社会的に認識されるようになったのでしょうか。
松井:ハンセンの例に見るように、問題そのものはすでに 19 世紀からありました。ハンセンはあの実験が問題視されて臨床医の免許を剥
奪されています。しかし、こうした問題が広く医学研究者の間で認識され始めたのは、1960 年代以降で、ここ 40、50 年くらいといえます。た
だ、1960 年代から欧米での認識は進みましたが、日本は少し遅れていて、ここ 20 年のことといえるでしょう。
― 今はどのような形で被験者を保護しているのですか。
田代:医学研究をおこなう施設には倫理委員会や治験審査委員会がおかれていて、そこで研究を行う前に科学性を含めた倫理性を審査し
ています。ただ、倫理委員会の多くは同意書の文言を訂正したり、単に倫理指針の形式的に沿っているかどうかをチェックしたりすること
に終始していることが多く、本来すべき「被験者の保護」という観点からの審査という視点が欠落していることが少なくありません。
― UT-CBEL の研究倫理部門の特徴は何ですか。
田代:そもそも、日本では研究倫理に専門的に取り組んでいる研究者が少ないので、そういった意味では、UT-CBEL は数少ない研究拠点
の一つだといえます。また、海外とのネットワークにも力を入れています。例えば、GABEXの連携先でもある米国国立衛生研究所(NIH)の
生命倫理学部門とは共同で研究や教育に取り組んでいます。教育活動は、国内に加えて、韓国やフィリピン、ベトナム、シンガポールなど
アジア地域でも行っています。
― どういった共同研究をしているのですか。
松井:例えば、2005 年から 2008年にかけては、アメリカ、中国、インド、エジプト、韓国の研究者とともに、人体の一部(ヒト由来試料)を使っ
た研究の倫理性についての国際的な意識調査を行い、ヒト由来試料を使った研究における同意の問題や、ヒト由来試料の所有をめぐる問
題、規制のあり方などについて検討を行いました。同意の問題に関してひとつ興味深かったのは、一般の人よりも専門家のほうが、一種、
過剰反応とも言えるようなより厳しいルールを求める傾向にあることが分かったことです。これは予想に反していました。この他にも、ある
ひとつの実際の医学研究の中で、2 種類の同意書を用いて被験者の理解に対する効果をみる無作為比較対照研究を NIH と共同で行って
いますし、また、理論研究なども共同で進めています。
― 研究倫理教育とは実際にどんなことをしているのですか。
田代:2009 年4 月に新しい臨床研究に関する倫理指針が施行されたのですが、その中で研究者は研究倫理に関する教育を受けなければ
ならないという規定が盛り込まれました。しかし、具体的な内容や誰が教えるのかということについては何も議論されないまま規定だけが
盛り込まれています。東大では、学内の研究者を対象とした東大研究倫理セミナーを実施したり、医療倫理学分野を中心として夏期集中セ
ミナーの中で研究倫理教育をしてきた実績があります。また、松井先生と私は、毎年 6 月頃に長崎大学熱帯医学研究所で開催されている
研究倫理の集中コースの運営にも携わってきました。そうした実績と経験をもとにUT-CBELでは、様々なタイプの教育セミナーを提供して
いきたいと考えています。すでに今年度には、東京女子医科大学や滋賀医科大学などで研究者を対象とした短期セミナーを開催しました
し、他にも数箇所で予定しています。また、12 月にはパイロット版ですが、2 日間のコースを東大で開催する予定です。そこでは研究倫理
の基本的な考え方と重要なトピックについて講義と演習を行います。
― 今後の活動について教えて下さい。
93
松井:研究と教育はこれまで以上に力を入れて続けていきますが、それとは別に研究倫理の問題にかかわっている全国の人々や組織の
支援をしていく活動をしていきたいと思っています。具体的には研究の計画段階から倫理的側面についての助言を行う研究倫理コンサル
テーション活動を行うとともに、質の高い審査を行うことのできる、中立性を保った独立型の倫理委員会を設立したいと考えています。
(聞き手 広報:平間 千恵)
1)ハンセン病:細菌の一種であるらい菌Mycobacterium lepraeによる慢性の感染症で、おもに皮膚と顔や手足などの末梢神経に病変が生
じる。
┏●高校生のためのやさしい医療倫理
~東京学芸大学附属高校・出前授業レポート~
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
去る 10 月9 日(金)東京・世田谷の東京学芸大学附属高校で、脳死と臓器移植に関する倫理的問題についての授業を行いました。脳死と
植物状態の違いや今年 4 月に改正された法案内容、臓器を提供された患者の事例について説明し、その後グループを作りディスカッショ
ンを行いました。普段、医療倫理について考える機会は少ないという1年G組の生徒46名が、「もし自分が脳死になったら臓器を提供する
か」「家族が脳死になったら自分は臓器の提供を承諾するか」等について真剣に話し合いました。15 歳、16 歳の高校生にとって脳死と臓器
提供の倫理的問題とは、どのように捉えられたのでしょうか。
授業を受けての感想

家族の脳死の場合の臓器提供を承諾するかどうかよく考えさせられた。

家族 1 人が死ぬか、誰かが助かるか、と考えたら、家族はもう脳死で回復することはないと分かっているなら提供を承諾すると思う。
しかし、家族の死はなかなか簡単に受け入れられないと思うので早急に判断を求められたらどうするか分からない。

今までは漠然と脳死しているなら困っている人に移植してあげれば良いと思っていたが今回じっくり考えてみて、どこかためらいを
感じたことに驚いた。

実例がたくさん出てきて、説得力があり学校の授業より面白かったです。

脳死の判定が出たら、即臓器を提供すれば良いと今までは思っていたが、家族の気持ちなどを考えると、一概には言えないと思っ
た。医療の倫理というのはとても難しいものだと実感した。それでも僕の場合なら、提供を待っている人のことを考えると脳死したら
提供したいと思った。

身内に臓器を待っている人がいたらその人に提供することを選べるということに驚いた。大切な人のために自殺する人が出るので
はないかと思った。

グループディスカッションを通じて臓器移植に関する考え方は、人それぞれ違うんだなぁと思った。私は、自分だったら目以外なら
誰にあげても良いと思った。移植の時、できれば相手を選びたい。生前から仲が悪かった人には絶対あげたくない。家族から家族
への臓器移植なら良いと思う。

私は移植の是非については迷いがあり、立場が決められないのですが、考えるきっかけになりました。身の回りに起こりうることな
ので、これから考えていきたいと思います。提供することがどうして「嫌」なのかという理由が答えられない問題で難しかったです。

医療にも単に技術だけでなく、道徳心や倫理感が必要とされることが印象に残った。

本当に複雑で難しいことだと思いました。臓器をめぐるごたごたがなくなるよう、人工臓器を作って欲しい。もしくは脳死から復活さ
せる特効薬、臓器提供が必要な人の悪い臓器を治す薬があれば良いのにと思った。
94
┏●第二回・留学生日記 博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
日本を離れて約一カ月、 ようやくオーストラリアの生活にも慣れてきた伊吹さん。北風が吹き荒れるメルボルンでどんな留学生活を送っ
ていたのでしょうか。
冬のメルボルンは風が強い。 私の生まれ育った街・埼玉県狭山市も冬になると山々の方から冷たい北風が吹くので、古い農家には大
概防風林が植えられていました。ただ、私の故郷と違って、(南半球なので当たり前ですが)メルボルンの冷たい風は南から吹いてきます。
そしてこれも当り前ですが、春は北からやってきます。春らしい暖かな北風なんて、生まれて初めての経験です。さらに言えば、今年、日
本は冷夏だったと聞きましたが、それでも、夏のない一年も初めてでした。元高校球児としては夏といえば炎天下での高校野球なのです
が、今年はその時期を、温かな北風が吹き始めるもまだまだ肌寒いメルボルンで過ごしていました。そこで、今回は、夏の甲子園の決勝
の翌日・8 月 25 日に私が過ごした一日を紹介したいと思います。
この頃の私は、大体朝の 7 時ころに起きて、チャンネル 71)のニュースか ABC2)の子供番組を見ながら朝食を食べ、10 分くらいかけて
徒歩で大学まで通っていました。この ABC で放送されていたクマの人形が歌って踊る子供番組は英語の勉強のスタートとして取っ付きや
すく、しかも、子供番組にもかかわらず Disability とか Community といった子供に説明しづらい言葉を一生懸命分かりやすく伝えようとして
おり、意外にも見入ってしまっていました。 大学までの道の途中にはミルクバーと呼ばれる小型の商店やコンビニ(何故かメルボルンの
ほぼすべてのコンビニがセブンイレブンでした)があるので、そこでジ・エイジ 3)かジ・オーストラリアン 4)という新聞を買うのが日課でした。
この日はフッティー5)特集に惹かれてジ・エイジを購入。大学に着くと前回書いたメンジーの 10 階にある研究室で、午前中は自分の研究に
関係する論文や書籍を読んでいました。昼食はサンドイッチなどのお弁当を持っていくことも多かったのですが、この日はメンジーの反対
側にある学生棟の中華バイキングに行くことにしました。ちなみに、オーストラリアの昼ご飯の時間は13時くらいのことが多いようなので、
私も郷に入っては、、、で 13 時から昼食に出かけました。この学生棟には、ハンバーガー中心のカフェ×3、きちんとしたカフェ×2、寿司と
アジア料理のテイクアウト、アジア料理のテイクアウト、フィッシュアンドチップス、変わったものですとピーター・シンガー先生ご用達のベ
ジタリアンのレストランもあります。 どこもお昼にかかる費用は 8 オーストラリアドル~20 オーストラリアドル(1 オーストラリアドル≒80 円)
程度で、600 円前後から 1500 円前後なので日本の大学の学食よりは割高な気がします。
さて、この日は夕方からはオークリー先生の「倫理と法律」の講義でした。この授業は、安楽死やクローンなどの問題を、特に法律と倫
理の違いに注意しながら議論するという授業なのですが、この問題はなかなか難しいものです。「倫理・道徳的に悪いこと・善くないこと」と、
「法律で禁止すべきこと」は違うのかもしれないということが前提となっています。具体的な例で言うと、シルバーシートでお年寄りや体の
不自由な方に席を譲らないのは、倫理的・道徳的に善い行動ではないかもしれません。だからといって、「シルバーシートでは必ず席を譲
らなくてはいけないという法律を私たちは持つべきだ」とは必ずしも言えません。生命・医療倫理の問題でも、たとえ積極的な安楽死やクロ
ーン人間の作製が倫理的に悪いという判断が下されたとしても、その判断と「だから法律によって禁止すべきだ」という判断はいったん切
り離して論じられる必要があるのです(もちろん、無関係ではありません)。ちなみに、この日は、人工授精で作られた胚の性別や遺伝病の
有無などを調べた上で子宮に戻す、いわゆる「出生前診断」を政府は規制すべきなのかが議論のテーマでした。このテーマについて、事
前に渡された参考文献とオークリー先生のレジュメを元に、学生やオークリー先生と熱い議論を交わしました。英語での議論はなかなか
骨が折れますが、できるだけ積極的に発言するよう心がけていました。
この授業が終わると夜 8 時。この日は少し食材が切れていたのでクライトン駅の周辺のコールズという大手スーパーと中国系スーパ
ーで買い物です。ビールも忘れずに買いました。オーストラリアでは、エールビールのおいしいものが多いので、少しだけ奮発してエール
ビールを大量に買いました。この日の夕食では、このビールを 1 キロ 6 オーストラリアドルで買ってきたラムチョップと合わせました。充実
した研究や勉強の後においしいビールを飲むと、ずっとこんな日が続けばいいのにと思ってしまうほど幸せですが、そんなずっと続いて
ほしいほどの充実した日々を送らせていただいていることに感謝して、明日も頑張ろうと誓ったのでした。
( 東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 医療倫理学分野 伊吹友秀)
95
1)チャンネル 7:オーストラリアのテレビ局。メルボルンの支社は今メルボルンで注目のスポットである(らしい)ドックランド呼ばばれる地域
にある。
2)ABC:オーストラリア国営のテレビ局
3)ジ・エイジ:オーストラリアの新聞。メルボルンではタブロイド紙ヘラルドサンに次ぐ発行部数だとか。
4)ジ・オーストラリアン:オーストラリアの新聞。日曜日は休刊。一度知らずに日曜日に買ったら土曜日のもので、売れ残りを売りつけられ
たと勘違いしてしまいました
5)フッティー:オーストラリアでは最も人気のあるスポーツ・オーストラリア式のフットボールの略称。オージールールズとも呼ばれる。日
本ではオージーボールとも呼ばれている。ちなみに、オークリー先生はジロン・キャッツというチームの大ファンです。
■Vol.4(2009.11.20 Fri.)
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医療現場のコミュニケーションの架け橋へ・臨床倫理コンサルテーション部門
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UT-CBEL スタッフが執筆・現代用語の基礎知識 2010 年版「生命倫理」
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第三回・留学生日記 博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┏● 医療現場のコミュニケーションの架け橋へ・臨床倫理コンサルテーション部門
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臨床倫理コンサルテーション部門では、医療現場での様々な臨床倫理問題について適切に対応する人材を育成するため、臨床倫理学・
臨床倫理コンサルテーションに関する研究と臨床倫理コンサルテーションに関する教育と介入ツールの開発、臨床倫理コンサルテーショ
ン活動等を行っています。医療従事者と患者、患者の家族をよりよくつなぐ「臨床倫理」とは、一体、どんな分野なのか、担当の瀧本禎之先
生と吉江悟先生にお話をお伺いしました。
―臨床倫理について教えてください。
瀧本:臨床現場においてよりよい倫理的意思決定を模索することを主目的として、具体的な臨床場面で直面する倫理的問題を分析・解決し、
医療従事者・医学生に倫理教育を行う分野です。一言で表すと、臨床現場の倫理的問題に実際に決定を下すもの、と言えます。
吉江:現場で「倫理」という言葉を使うと、終末期の延命治療、臓器移植、遺伝医療など、誰しもが「倫理的に問題がありそう」と感じるような、
典型的なケースが想起されることが多いです。もちろんそのようなケースへの倫理的対応を検討することも臨床倫理の役割かと思います
が、それにとどまらず、現場で価値の対立が生じているような問題全般について広くその範疇に含めるというのが、臨床倫理についての
現在の一般的な捉え方かと思います。
―そうなると、臨床倫理で扱う範囲は際限がなくなってしまうのでは?
瀧本:実際問題として、それは否めません。
吉江:独立した学問領域としての明確さのみを追い求めていくのであれば、臨床倫理の射程を明確に位置付けていく必要があります。た
だ、先ほど述べた臨床倫理の目的にもあらわれているように、臨床倫理に関わる研究者、実践家の多くは、学問的な精緻化もさることなが
ら、それ以上に臨床現場の医療の質の向上を重視しています。実学的な要素が非常に強いと領域と言えるでしょう。
―臨床倫理コンサルテーションとは?
瀧本:米国生命倫理学会(The American Society for Bioethics and Humanities )では、臨床倫理コンサルテーションを「患者、家族、代理人、
医療従事者、他の関係者が、ヘルスケアの中で生じた価値問題に関する不安や対立を解消するのを助ける、個人やグループによるサー
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ビス」と定義しています。臨床倫理コンサルテーションでは、臨床場面における倫理的問題を相談に応じて分析し、方針について適切な助
言を行うことによって解決に導く作業を行います。
吉江:臨床倫理コンサルテーションには、委員会形式、数名によるチーム形式、個人コンサルタント形式という、大きく 3 つの実践形式があ
ると言われています。それぞれの形式には、下図のような特徴があります。
長所
短所
多角的
機動性が低い
公式的
批判的
チーム形式
機動性が比較的高い
常時人材がいることが前提
個人形式
機動性が高い
多角性が低い
委員会形式
図.各実践形式の特徴(Aulisio, M. Encyclopedia on Bioethics (3rd ed), 2003)
―臨床倫理コンサルテーションはどれくらいの病院で行われているのですか?
瀧本:CBEL のメンバーが 2004 年に実施した全国の臨床研修指定病院を対象とした調査(長尾他, 2005)の結果、倫理コンサルテーション
の必要があると回答した病院は 89.1%に上ったものの、調査時点で倫理コンサルテーション活動が「ある」と回答した病院は 24.7%のみでし
た。一方、米国では、400 床以上の病院の全数に倫理コンサルテーションの体制があるという調査結果があります(Fox, E, et al., 2007)。
2004 年の調査から 5 年が経過していますので、当時に比べれば体制は整備されてきていると思いますが、日本の病院における臨床倫理
コンサルテーションの状況は、米国に比べればまだまだ発展途上にあると言えるでしょう。
―臨床倫理コンサルテーションはどのように行われているのですか?
瀧本:2004 年の調査では、コンサルテーションを担う組織として多く回答されたのは「倫理委員会」でした。しかし、これが本当に各病院に
とって望ましい姿かどうかという点では疑問も残ります。日本の病院の倫理委員会は、一般的に研究倫理審査機関としての機能が強く、臨
床倫理に関する検討を行うための基盤は未整備であることが多いです。現状として研究倫理審査だけでも手一杯の倫理委員会が、追加
業務として臨床倫理コンサルテーションの役割を担えるかどうか、各病院の状況に併せて冷静な判断が必要でしょう。今後の日本の病院
における臨床倫理コンサルテーションのあり方として、いくつかの方向性が考えられると思います。例えば、(1) 既存の倫理委員会に臨床
倫理コンサルテーションの機能を付加する方法、(2) 臨床倫理コンサルテーションの機能をアウトソーシングにより担保する方法、(3) 現状
ほとんどの病院に設置されている患者相談窓口に、臨床倫理コンサルテーションの機能を付加する方法などです。一律にどの形態がよ
いと断言することは難しいですが、各病院の規模や風土、人的資源などに応じて、中長期的に方向性を明確化していくことが重要でしょう。
吉江:なお、東大病院では、全国に先駆けて(3)の形態を整備し、活動を展開しています。
―東大病院の取り組みを教えてください。
吉江:東大病院では、2007 年 4 月より患者相談・臨床倫理センター を設置し、一般的な患者相談対応に加え、臨床倫理に関する相談にも
対応を行っています。米国では主流ですが国内ではまだ珍しい、チーム形式のコンサルテーション体制です。同センターには臨床倫理コ
ンサルテーションチームが設けられており、医療、法律、倫理の専門家が、コンサルテーションチームとして必要に応じて召集されます。
このコンサルテーションチームは、われわれ UT-CBEL 臨床倫理コンサルテーション部門のメンバーが中心的となり、活動を行っています。
97
―なぜこのような形態を採用したのですか?
瀧本:チーム形式を採用した大きな理由は、機動性を確保するためです。東大医学部の倫理委員会は、他大学の医学部倫理委員会と同
様、研究倫理審査に追われ余力がないのが実状です。また、場合によって緊急的な対応を迫られる臨床倫理問題に対して、迅速に対応
できる体制もありません。このような背景から、コンパクトで機動力のあるチーム形式を採用しました。なお、当然ながら患者相談・臨床倫
理センター単独では判断が難しい重大なケースが発生することも予測されますので、必要に応じて倫理委員会への具申等を行うラインも
確保されています。
吉江:通常の患者相談対応の機能と臨床倫理コンサルテーションの機能を1つのセンターの中に包含した理由は、両者がいずれも患者の
権利を守る、広義の臨床倫理に関連する活動として捉えたためです。これにより、通常の患者相談対応を行う際に臨床倫理コンサルテー
ションチームの助言を仰ぐことができたり、逆に通常の苦情対応などが発端となって臨床倫理的な問題が顕在化されたりと、ポジティブな
相互作用が生じています。
―UT-CBEL の臨床倫理コンサルテーション部門の特徴は何ですか?
瀧本:国内では蓄積の浅い臨床倫理コンサルテーションについて、東大病院の患者相談・臨床倫理センターとの強固な連携の下で、実践
と教育、研究を並行しながら進められることは、UT-CBEL 臨床倫理コンサルテーション部門として大きなメリットであると同時に、大きな特
徴と言えると思います。実践と研究教育展開の循環により、応用可能性の高い知見や教育プログラムを創出していきたいと思います。
―今後の活動について教えてください。
吉江:直近では、来年 2 月 6 日~7 日に、「患者相談・臨床倫理コンサルテーション 冬期集中コース」を開講します。これは昨年度も開講し
たコースの第 2 回ということになりますが、今回は演習等をより積極的に取り入れた内容を企画しています。
瀧本:また、年明け以降、臨床倫理コンサルテーションに関する教材開発にも着手する予定です。UT-CBEL では、夏季集中コース等で
Jonsen らによる四分割表(2006)などを用いて事例を捉えることが多いですが、このような手法を用いた検討結果を踏まえ、それを現場に
還元していく方法についてもある程度言及した内容を目指しています。
吉江:臨床倫理コンサルテーションの領域は、海外において実践が先行している一方で、「何をコンサルテーションの成功とみなすか」とい
った評価指標についてはいまだ明確になっていません。UT-CBEL 臨床倫理コンサルテーション部門では、評価の視点を念頭に、実践を
積み重ねていきたいと考えています。
(聞き手 広報:平間 千恵)
┏●UT-CBEL
ス タ ッ フ が 執 筆 ・ 現 代 用 語 の 基 礎 知 識
2010
年 版 「 生 命 倫 理 」
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
自由国民社から毎年発行される現代用語の基礎知識 2010 年版が今月 12 日に発売されました。その中で赤林朗先生と児玉聡先生が
「生命倫理」について執筆しています。2010 年版ではどんな生命倫理に関する問題が注目されたのでしょうか。
●臓器移植 ―― 09年7月、国会で臓器移植法改正がなされた。背景には、渡航移植の自粛を求める国際世論の高まりがあった。09年6
月、脳死を人の死とするとともに、国内での小児移植を可能にする法案が、衆議院で過半数の支持をもって可決された。続く参議院でも、
衆議院で可決された法案が過半数で通過した。十分な社会的コンセンサスがないままに国会審議が進んだという批判もあった。同様の批
判は、生殖補助医療や終末期医療に関する立法の際にも生じる可能性がある。生や死に関する国民の多様な価値観を背景に、どうすれ
98
ば国民の合意形成ができるのか。立法府における生命倫理政策の手法の確立が問われている。
●新型インフルエンザ ―― 09 年5 月、新型インフルエンザの国内発生が確認された。日本政府は同年2 月に行動計画を改訂し、深刻な
被害が生じることを前提に対策を進めていた。だが、メキシコから始まった今回の新型インフルエンザは、予想ほどには毒性が強くなかっ
たため、厳格な水際対策や発熱外来の設置など、行動計画に基づいた政府の対応は柔軟さに欠けているとの指摘もなされた。秋以降に
は第二波が予想されている。効果的な感染症対策を行うには、人権に配慮しつつも、市民の自由を制限する必要がある。バランスの取れ
た公衆衛生政策が求められている。
●生殖補助医療 ―― 09 年 2 月、香川県の病院で受精卵取り違えの事件が報道された。これは、不妊治療中の女性に医師が誤って別の
カップルの受精卵を着床・妊娠させた疑いがあるというものである。今後同様のケースが生じて出産後に取り違えが明るみに出た場合、
生まれた子どもの親子関係が大きな問題になりうる(今回は妊娠途中で取り違えの可能性がわかったために、出産には至らなかった)。医
療現場における安全管理の徹底が必要であると同時に、生殖補助医療における親子関係の決め方を議論しておく必要があるだろう。(児
玉聡)
その他、医療系の生命倫理用語についても執筆されています。現代用語の基礎知識 2010 年版の 868 ページです。ぜひご覧下さい。
┏●第三回・留学生日記 博士課程 3 年 伊吹友秀さん
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
オーストラリアの生活にもすっかり慣れ、オーストラリアで大人気のスポーツ・フッティーの大ファンになった伊吹さん。先生方と共にした
昼食では、フッティーの決勝戦の話から研究の話になり・・・。さて、どんな議論が行われたのでしょうか。
メルボルンの地下鉄や電車は日本の大都市のそれと比べて基本的に空いています。そもそも、人を詰め込めるような構造にはなってい
ません。座れないということはほとんどなく 、自転車を載せたまま乗っている人もいます。そんなメルボルンの地下鉄や電車が唯一混雑
するのが、フッティーの試合がある日です。特に 9 月に入ると最終土曜日に行われるグランドファイナルという決勝戦に向けて、毎週末熱
戦が繰り広げられ、その観戦のために、こんなにたくさん人がいたのかと驚くくらい電車が混み合います。ちなみに、今年のグランドファイ
ナルは、40 年ぶりくらいのチャンピオンを目指すセントキルダ・セインツとオークリー先生の愛してやまないジロン・キャッツの間で行われ、
10 万人弱の観客を集めたそうです。私もその日は、街の様子を見に行こうと、街中にあるクイーンズ・ヴィクトリアマーケットという市場まで
買い物に出かけたのですが、街全体がうきうきした空気に包まれており、日韓 W 杯の時のような非日常的な雰囲気がありました。これが
毎年あるなんて羨ましいものです。試合の方は、手に汗握る緊迫の展開の末に、オークリー先生と、そのオークリー先生によりいつの間
にかキャッツファンに洗脳されていた私の望む結果に終わりました。
さて、その翌週の火曜日にオークリー先生、スパロー先生とお昼ご飯を食べに行くことになったのですが、当然話題はグランドファイナ
ルについてでした。ただ、スパロー先生はあまりフッティーには興味がありません。それでも、どうして、人々があんなにフッティーに夢中
になるのか、という点には興味があるらしく、その点が議論の中心となって行きました。私はパイナップルの乗ったピザを食べながら二人
の議論を聞いていました。オークリー先生が、「人々が、スポーツに熱中するのは自分の力ではどうにもならないものが、自分の願いどお
りになることの面白さがあるからではないか」との自己分析を披露すると、スパロー先生は「それは、まさにコミュニタリアン(共同体主義
者)の発想だ。」とご自分の立場に引きつけての解釈を展開していました。コミュニタリアン 1)というのは、「共同体が個人に与える影響を重
要視する立場 」をとる人々のことです。医療倫理の場面で言えば、自己決定や自己責任を強調しすぎる立場に反対を示すような人々です。
スパロー先生は、このコミュニタリアニズムを支持する学者の一人です。なので、個人の力を超えたものがあることを受け入れて、なおか
つ、それが人々をひきつけているのではないか、との見解には非常に興味深いものがあったようです。対して、オークリー先生の方は、
徳倫理と呼ばれる生命倫理の中でも主要な理論の一つである倫理理論の研究を行っています。徳倫理 2)というのは、「その行為がすぐれ
た性格の人(卓越した人)によってなされたものかどうか 」に着目する理論です。 医療倫理に関して言えば、この徳倫理において特に注目
99
されるのは、一つ一つの行為(例えば、生殖補助技術など)をやっていいかいけないかというところではなく、そのような行為を行う医療従
事者が有徳であるか、どうかというところが議論されることになります。
個人的には、この徳倫理の理論に興味があったことが、今回モナッシュ大学で勉強させていただきたいと思ったきっかけの一つでした。
具体的に私自身の研究にひきつけて言えば、頭を良くしたいとか、もっと速く走れるようになりたいといった欲求を叶えることを医療従事者
が手助けすることは、有徳な医療従事者のするべきことと言えるのだろうか、というところが今の私の研究関心となっています。このように、
モナッシュにいる間、たびたび先生方や院生の方とお昼などを共にさせていただく機会も得ることができ、有意義な議論をさせていただき
ました。授業やご指導いただく中で学ぶことも多々ありましたが、振り返ってみるとこのような日常生活の中の議論の一つ一つが自分にと
っては、楽しく、かつ、勉強になるものであったように思われます。さて、先ほどの議論の結末はというと、スポーツに熱中する人々の中に
コミュニタリアン的な発想が見られると熱く語るスパロー先生に対して、オークリー先生はそれを聞き入り、自分にはなかった意見を真剣
にくみ取っているように見えました。二人のように互いの意見を尊重しながらも真剣に議論を闘わせる姿勢が、きっと有徳な生命倫理学者
の在り方なのだろうな、と二人の先生を見ながらすっかりピザを食べ終えた私は思いました。
(東京大学大学院医学系研究科 医療倫理学教室博士後期課程 伊吹 友秀)
1)詳しく知りたい方は、入門医療倫理Ⅰの 69-71 頁辺りを参考にして下さい。
2)詳しく知りたい方は、入門医療倫理Ⅰの 46-51 頁辺りを参考にして下さい。
■Vol.5(2009.12.7 Mon.)
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開催まで 1 カ月!第 2 回 堀場 GABEX 国際会議 プログラム決定
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東京大学内の医療倫理学の講義に潜入・医療倫理学特論Ⅰ
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留学生日記 キャロル・ボレックさん(豪州・モナシュ大学 修士課程)
┏● 開催まで 1 カ月!第 2 回 堀場 GABEX 国際会議 プログラム決定
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欧米とアジアにおける生命・医療倫理の世界トップクラスの教育研究拠点から多数の専門家を招聘し、ライフサイエンスや医療の領域に
おける、国際的な対応を迫られる倫理的・法的・社会的諸問題に関しての生命・医療倫理の Frontline(最前線)、Frontier(新領域)、Future(未
来)について講演を行います。 また講演後にパネル・ディスカッションを実施します。11 日の第二セクションでは、国内外から今後の活躍
が確実視される海外の若手研究者を集めたセミナーを開催します。密接な交流を目的として、将来も継続的に機能する国際的なネットワ
ーク(GABEX: Global Alliance of Biomedical Ethics Centers)の基盤構築を目指します。
第 2 回 堀場 GABEX 国際会議
「グローバルな生命・医療倫理の課題に対応する国際ネットワークの構築」
2010 年 1 月 10 日(日)~11 日(月) 10:00~18:00
入場料:無料
※本会議には全て同時通訳がつきます。
1 月 10 日(日) 場所:本郷キャンパス 医学部教育研究棟 14 階・鉄門記念講堂
第 1 部 生命・医療倫理と社会(Frontline of Bioethics) 10:00~12:00
「日本の生命・医療倫理の過去と現在」
赤林 朗(東京大学大学院 医学系研究科 医療倫理学分野 教授、UT-CBEL 拠点リーダー)
「生体からの腎提供に対する報酬と、利他主義のなぞ」
ジャクリーン・チン(国立シンガポール大学 生命・医療倫理センター 講師)
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「疾病対策の優先順位における新たな道徳的課題」
ライダー・リー(米国 国立衛生研究所 上級研究員、ノルウェイ王国立ベルゲン大学 エティカ生命倫理センター 所長)
第 2 部 生命・医療倫理の新領域(Frontier of Bioethics) 13:30~15:15
「専門家としての誠実さ、医療の悪徳、透明性の限界」
ジャスティン・オークリー(豪州 モナシュ大学 生命倫理センター 所長)
「終末期におけるケアの質を向上する:倫理指針にどのような善いことができるか?」
ナンシー・ベーリンガー(米国 ヘイスティングス・センター 副所長)
「精神疾患に関する経験的知見に基づいた倫理分析?:拒食症の事例研究」
トニー・ホープ(英国 オックスフォード大学 エソックス生命倫理センター 所長)
第 3 部 生命・医療倫理の未来(Future of Bioethics) 15:45~18:00
「なぜ人と動物のキメラを創造してはならないのか?」
スチュアート・ヤングナー(米国 ケース・ウェスタン・リザーヴ大学 生命倫理学講座 教授)
「生命維持に不可欠な臓器を移植用に確保することについて:臓器売買、市場、倫理」
アーサー・カプラン(米国 ペンシルヴァニア大学 生命倫理センター 所長)
パネル・ディスカッション 17:00~18:00
「次世代型生命・医療倫理のための国際対話:臓器移植、新型インフル、再生医療」
1 月 11 日(月) 場所:本郷キャンパス医学部教育研究棟 14 階・鉄門記念講堂
第 1 部 10:00~12:00
「不妊女性の凍結受精胚処理方法に対する意志決定プロセスについて:胚の『勿体なさ』と不妊への『けじめ』」
高橋しづこ(東京大学大学院 医学系研究科 博士課程)
「極度に資源が不足した状態におけるヘルスケアの配分」
アレン・アルヴァレズ(ノルウェー王国立ベルゲン大学 博士課程)
「生命倫理における自然と自然らしさに関する論争」
リズベス・ニールセン(国立シンガポール大学研究員)
第 2 部 13:50~15:50
「国際間正義と生命倫理」
ジョーゼフ・ミラム(米国 国立衛生研究所 研究員)
「行動障害及び情緒障害のある子どもの診察と治療における倫理的問題」
ポロ・ブラック・ゴルデ(米国 ヘイスティングス・センター 研究員)
「実証的生命倫理における方法論的革新に向けて」
マイケル・ダン(英国 オックスフォード大学 上級研究員)
第 3 部 16:00~18:00
「インフォームド・コンセントとゲノムワイド関連分析(GWAS)」
ニコール・デミング(米国 ケース・ウェスタン・リザーヴ大学 講師)
「人間には性が必要か?:雌雄二型の規範的意義について」
ロバート・スパロウ(豪州 モナシュ大学 生命倫理センター 上級研究員)
「米国において教えられている臨床倫理はなぜ患者を失望させるのか」
オータム・フィースター(米国 ペンシルヴァニア大学 教授)
101
お問い合わせ先:
東京大学 UT-CBEL 事務局
FAX: 03-5841-1107 E-mail: [email protected]
┏●東京大学内の医療倫理学の講義に潜入・医療倫理学特論Ⅰ
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
医学系研究科・医療倫理学分野では、東大在籍中の大学院生を対象に、今年 10 月から 8 回に亘り公衆衛生領域の政策決定や臨床現場
における倫理的判断の基礎となる倫理・哲学的な考え方を教える「医療倫理学特論Ⅰ」を開講しました。医療倫理学総論やインフォームド・
コンセント、研究倫理などを取り上げ、全体講義と少人数でのディスカッションを行いました。今回受講した薬学系研究科・医薬政策学講座
の菊田健太郎さんに感想を伺いました。
倫理学に接して
はじめに
大学の学部時代から今日に至るまで、薬学系に所属しており、分析で修士課程を修了するまで実験系の研究室にいました。現在は実験
系を離れ、薬学系研究科の医薬政策学に所属しています。言葉では IRB、倫理審査委員会など聞いたことがあっても、実際どのようなプロ
セスで、倫理的か否かを判断しているかは、正直、あまり具体的には知りませんでした。審査を通さないと医療関係の情報は使えない、と
いう程度の認識でした。その意味では講義の最終日での模擬倫理審査委員会は、舞台裏を覗けたようで興味深いものでした。
講義の進め方について
入門コースの概略は、「体系的な知識の提供とともに、SGD や模擬倫理委員会をとおして生命・医療倫理学の基礎を学ぶ、現場で倫理
的問題に的確に助言が行えるようになる(ための準備)」(イントロダクション資料より抜粋)ということです。講義の進め方はパワーポイントを
用いた講義が2つあり、そのあとにスモール・グループ・ディスカッション(SGD)がありました(間に少し休憩があります)。SGD とは、小さな
グループに分かれて(6~8 人くらい)、その日のテーマに関する与えられた課題に対して話し合って答えを導くというものです。最後に代表
者がグループの意見を発表し、まとめと解説があるのですが、いろいろな人の意見が聞けて個人的にはこれが一番面白かったです。グ
ループでの話し合いは結構、時間切れのようになることが多く、もう少し時間をとって欲しかった、と思うことが少なくありませんでした。第
1 回のダックスについてのビデオでもこの人はどうなってしまうのだろう・・・と思わせておいて、後日談が用意されているあたりも上手な講
義の設定だと感じました。
講義内容について
「倫理」というものを考えたことはこれまであまりなかったので、講義の内容自体は新鮮でした。簡単に触れますと、方法論の紹介(四原
則、四分割法など)、具体的テーマ(生殖医療、守秘義務、IC、臓器移植など)に関しての背景、問題点などの説明、最終日の模擬倫理審査
委員会、などです。方法論は倫理的な考え方をするためのツールみたいなもので、それを用いれば答えが出るというものではなく、考え
易くなる、話し合い易くなるといった感じのものです。模擬倫理審査委員会もそうでしたが、最終的には参加者による話し合いで合意に至
る、という流れのようです。多数決は使わないみたいです。講義の中には自分で考えて悩むような問題もあり、ケアの倫理であった一例を
あげると、「一人の女性がガンで死にそうな状況で、助かるかもしれない薬があるが、これが非常に高価である。お金がない夫は薬を盗
むが、この行為は許されるのか。」(ハインツのジレンマ)という事例。人の命に重きをおけば、行為は正当化されますが、盗むことは悪いこ
と、ほかに方法があったはず、と考えれば、盗みは正当化されなくなります。どちらも正しい気がしますが、結論を出さなければならない
のが倫理みたいです(刑法の話では普通に窃盗だと思いますが)。
最後に
倫理の分野では論理的に明確に線引きができないことが多いようで、ある種のもどかしさを感じることもありました。講義が自分の将来
に役立つかどうかといった点は未知数なので、正直なところ、現段階では「かもしれない」という程度です。倫理的に考えることができるよ
うになったか、という点に対しては、誰かの発言ではありませんが、 皮と道具があれば簡単に靴をつくれるわけではないのと同様、すぐ
に倫理的な考え方なんてできるわけがない、と私も思います。ただ、多少なりとも自身の変化はあったのではないか、と感じています。あ
りがとうございました。続きも参加する予定なので、よろしくお願いします。
102
(東京大学大学院薬学系研究科 医薬政策学講座 博士課程 菊田健太郎)
菊田さん以外の受講生も、終了後のアンケートに講義を受けての感想を書いてくれました。そこから少しご紹介いたします。

どの回も分かりやすく、かつ興味を持てるやり方で講義が展開され、門外漢の私にも理解ができた。

個々の講義でも具体的な臨床の事例は出てきたが、更にその例を集めて、実際に裁判などになり争われてしまうのはどういうケー
スなのか、集中的に講義する回があっても良かったと思う。

個人的には明確な答えが出ないことに落ち着かない気分になりましたが、だんだんと慣れてきました。でもなかなか納得できませ
ん。

私が今まで受けてきた中で最も興味深い講義のひとつでした。スモール・グループ・ディスカッションがとても面白かったです。ディ
スカッションを講義の前と後の 2 回行うともっと良かったのではないかと思います。

3 時間という時間を感じさせないほど濃い内容の講義が多く、充実していました。自分の身にもいつか起こるかもしれないことが多く
あったので、頭を使って考えさせられました。
┏●留学生日記 キャロル・ボレックさん(豪州・モナシュ大学 修士課程)
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GABEX プロジェクトの一環として行われている国際フェローシップ制度では、東京大学の若手研究者を連携拠点へ派遣する他、連携拠
点からも若手研究者を特任研究員として受け入れています。今年 9 月から 3 か月間、オーストラリア・モナシュ大学生命倫理センターから
キャロル・ボレックさん(修士課程)が UT-CBEL を訪れました。初めて来日したというボレックさん、どんな留学生活を送ったのでしょうか。
I would like to thank the professors, students and staff at the University of Tokyo Center for Bioethics and Law for making my stay in Tokyo so
exceptional. Before I even got on a plane to Japan I was given more than enough attention and support; using the GABEX computers I was able
to video conference with Drs. Satoshi Kodama and Hitoshi Arima, who answered all of my questions, provided insight into things I hadn’t thought
of, and generally calmed my nerves about visiting a country to which I’d never been. Upon my arrival my apprehensions were completely
quelled; I had been given excellent directions out of the airport, and was met at the train station by Kodama-san and Kyoko Takashima, a fellow
master’s student. A short taxi ride later we were on the Todai Hongo campus, where the other graduate students, Akiko Nakada, Mio Shimizu,
Mayuko Takayama and Dr. Shizuko Takahashi were excited for my arrival.
On my first day at Todai, as the University of Tokyo is fondly known, after checking into my accommodation and sleeping off jet lag, I was given a
tour of the campus. I was shown the offices used, the various libraries, the bookstore and, most importantly, all the places one can get a meal on
campus. The campus is lovely; it’s covered in trees and has many beautiful old buildings. Sanshiro pond in the center of campus is a highlight; it is
still and quiet, but full of fish, turtles and frogs. Reading by the pond was one of my favorite ways to spend an afternoon, but bug spray is required.
I was put up at the Sanjo Conference Hall, which is situated between the pond and the sports Arena, and is a short walk to the Medical Buildings
where the CBEL offices are located. At the CBEL offices there is a reference room with a wall full of philosophy books in English, several meeting
rooms, a kitchen and a student study room. I was given my own desk in the student room, where I was connected to the printer and the internet,
and was able to spread out and work comfortably. There are 18 desks in the student room and about nine students who work there, but it is
typically very quiet. The other students work very diligently, and being in a room with that kind of atmosphere is very conducive for productive
study.
The work atmosphere is generally very independent; people typically arrive at 10 am, take lunch at noon, and leave for home between 6pm and
8pm. Aside from presentations and luncheon discussions there are no scheduled work hours. I was give the pass code to the building, so I could
go in and work early in the morning and on weekends when I needed to. I usually wasn’t alone when I was in the study room off-hours; it seems
103
to be not uncommon to work 12 hour days and over weekends, although it certainly isn’t expected. In fact, I spent a fair amount of time at the
office not working but socializing with the other grad students, which helped ease the feelings of intimidation I had about studying at such a
prestigious university.
The University of Tokyo is the most highly regarded university in Japan; secondary students will do just about anything to study there. I was very
fortunate to have to opportunity to spend time working there, but it was a bit nerve-wracking. I had been asked by the department to give a
presentation about my research on science communication, and I was extremely apprehensive about it. However, I had the chance to ask
questions about what was expected for the presentation well in advance of it, which gave me confidence in what I needed to say. I also attended
Kyoko’s presentation, both in Japanese and in English, which gave me the chance to see how an hour long PowerPoint presentation is conducted.
When it came time for me to give my presentation I was a bit anxious, but mostly confident. I spoke before 18 students and professors, some of
whom I’d never met, but many of whom were by that time my friends. I gave my presentation in English only; most people at CBEL have a good
understanding of English, and I included a lot of text in my handouts, at the suggestion of Dr. Akira Akabayashi, the director of the department. I
got some good questions from my audience that pinpointed where there was some confusion in my argument, and in what direction I might take
my conclusion. Creating this presentation I believe will prove to be crucial to writing a well thought out, well structured thesis, so it was well worth
the anxiety.
Aside from gaining help with my work through the presentation, I also had access to the exceptional resources at Todai. There is a good selection
of English books in the CBEL reference room, as well as in the medical library and the main library. However, the best resources are the people.
Although no one at CBEL is directly researching science communication, they had at their fingertips the names and contact information for people
who are. Kodama-san connected me with Dr. Hiromi Yokoyama, who works a public relations communicator for the university’s science
department. Arima-san set up a web meeting with Tomohisa Sumida, who is a Ph.D. student of science communication, and Akabayashi-sensei
and Dr. Hayashi Yoshinori set up a meeting for me with Dr. Osamu Sakura, a biologist and science writer. These meetings were invaluable for my
research; the few hours I spent talking with these experts was worth the entire trip to Japan.
Of course, Japan itself is worth the trip to Japan. The Hongo campus is located near a fantastic part of Tokyo. Within walking distance is Ueno
Park, which houses many museums, temples, a beautiful pond and the zoo. Nearby is Akihabara, or ‘Electric Town’, which is famous as a place to
buy anything electronic, and Tokyo Dome, where you can see a baseball game or ride a roller coaster through a building, if you dare. The campus
is also located very close to a train station, which means that once you figure out the tangle of the subway system, the whole of Tokyo is at your
doorstep.
I didn’t only work during my three weeks in Tokyo; I got a good dose of Japanese culture and fun, thanks to my friends at CBEL. During the first
week of my stay a group of us went out to an Italian restaurant. I was a bit wary of this, since I had only just arrived in Japan and hadn’t eaten
much Japanese food yet, but the restaurant was really an experience. We ate risotto with squid, avocado salad with octopus, sweet potato ice
cream and plenty else that one could only find at an Italian restaurant in Japan. Later that night we all walked down to Tokyo Dome, to view the
lights of the roller coaster, the themed restaurants, the musical fountain and all the people who had just enjoyed a baseball game. A few days
later Dr. Misao Fujita, Mio and Akiko took me out to watch sumo wrestling, the national sport. They told me all about the wrestlers and the sport
is played, and we got to eat chanko, the soup that wrestlers eat to get fat. Food played a large part in my introduction to Japanese culture.
Every day in the study room the other students would share a snack, and tell me about what region of Japan it comes from. Before I left the
graduate students and I went out to have traditional sweets in Ueno, where we ate red bean jelly and agar cubes with ice cream.
Thanks to experiences like these, in only three weeks I took giant leaps forward in my research, made friends and feel that I know Japan, its people
and its culture from the inside.
Thanks to:
The University of Tokyo, Center for Biomedical Ethics and Law (UT-CBEL)
104
Akira Akabayashi, M.D., Ph.D.
Satoshi Kodama, Ph.D.
Hitoshi Arima, Ph.D.
Peter Doshi, Ph.D. Student
The University of Tokyo, Department of Biomedical Ethics
Misao Fujita, M.S., M.P.H., Ph.D.
Yoshinori Hayashi, Ph.D.
Tomohide Ibuki, Ph.D. Student
Akiko Nakada, M. Public Health Student
Mio Shimizu, M. Public Health Student
Kyoko Takashima, M. Public Health Student
■Vol.6(2010.1.21 Thu.)
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研究倫理 冬期集中コース開催
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高校教師向け情報誌にて 「臓器移植法改正」を執筆
┏●研究倫理 冬期集中コース開催
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去る 12 月 12 日~13 日、研究倫理・冬期集中コースが開催されました。研究倫理の重要トピックとそれぞれの倫理的考え方を学ぶととも
に、学んだことを実際の計画立案に活かす技能を身につけることを目的とした集中コースで医学系研究者、臨床医や看護師など計 30 名
が受講しました。集中コースは、6 つの講義と 4 つの演習から構成されており、多くの時間をディスカッションに割きました。初日は臨床試
験など主に介入研究の倫理的問題を、2 日目は主にヒト組織やデータを利用した観察研究を扱いました。UT-CBEL で研究倫理のコースを
開催するのは今回が初めてです。そこで今回はパイロット版と位置づけ、参加者の皆さんには詳細なアンケートの記入をお願いしました。
また、今回セミナーに参加された首都大学東京大学院の志賀加奈子さんが体験記を書いて下さいました。
「研究倫理 冬期集中コース 2009」体験記
「研究倫理…」この言葉を耳にするたび、ずっしりと重々しい気持ちになるのは私だけでしょうか?研究倫理に関する指針がいくつも示
されるようになり、それらが目まぐるしく改訂される現状の中で、私は大雨に見舞われて立ち往生しているような視界の悪さや為す術のな
さを感じていました。「一体どうなっているのか?私はどうすればよいのか?」と。しかし、CBEL「研究倫理 冬期集中コース」を受講させて
いただいたところ、一転して晴れやかな気持ちになり、帰路につく足取りも軽くなっていました。その体験を以下に述べさせていただきま
す。
2009 年12 月12 日土曜日の朝 8:30、私は重い足取りで赤門をくぐり会場にたどり着きました。受付では、私の気持ちと対照的な明るく意
欲に満ちた笑顔の CBEL スタッフが迎えてくれました。会場である医学部3 号館N101 教室に入ると、整然と並べられた机の上に、予めファ
イルした分厚い資料が用意されているのが目に入りました。さらに最後方のテーブルには、温かい飲み物や美しく並べられたお菓子等が
用意され、隅々に受講者に対する細やかな配慮を感じました。しかし、この整い過ぎている学習環境が、かえって私の不安をかき立てまし
た。「これからどんなことが起きるのだろうか?」と。こんな気持ちを想定していたかのように、その後も受講者の学習を促進するべく、
様々な教育的配慮は続いていきました。
一つ一つの講義は、最新のトピックを提示しつつ、被験者の保護と研究の発展という二者関係を対立から共存へ導こうとする強いリーダ
シップが見て取れました。そして、膨大な知識をぎゅぎゅっ!と凝縮したスライドが次々と示されました。私の遅々とした自己学習では到底
辿り着けない域まで足を踏み入れることができたと感じ、いつの間にか不安はかき消され、講義を楽しんでいる自分に気が付きました。講
105
義の中では、CBEL スタッフ同士が熱い議論をぶつけ合う場面もありました。その姿に触発されたのか、どの講義においても講師が「質問
はありませんか?」と穏やかに水を向けると、受講者達は自らの豊かな経験を元に質問や意見を次々とくり出し、そのやりとりを聞いてい
るだけでも私の学びは深まりました。さらには、まだまだ話し足りないのか、休憩時間にも最後方に用意されたテーブルで、お茶を煎れな
がら話し込む受講者達の姿も珍しくありませんでした。
講義の次に行われる演習は、とてもリアルな事例が提供されました。受講者は研究計画を審査する倫理委員会のメンバーとして時間内
に結論を出すことが求められました。5-6人のグループに分かれてみると、メンバーは多様な職域にありつつも、それぞれが研究倫理
と日々深く関わっている方々でした。議論の過程で、様々な立場における苦労と努力があることを具体的に知ることにもなり、日頃は専門
領域の者同士で議論することが多い私は、いつもとは異なる視点から研究倫理を見つめる機会となりました。また、各グループには一人
の CBEL スタッフがファシリテーターとして私達の議論を促し、辛抱強く見守っていたり、脱線を修復したりしてくれたので、議論が行き詰ま
ったままになることはなく、各メンバーがある程度納得できる結論にまとめることができました。
プログラムの最後は、赤林先生の愉快な口上で始まり、「行列のできる研究倫理相談所」なるものが立ち上げられました。ここでは、あ
る受講者を研究倫理について相談に訪れた悩める研究者と見立て、講師はもちろん受講者も相談に応えることが求められました。 幸運
なことに私は悩める研究者役として、以前から心に残っていた問題を相談させていただきました。私のたどたどしいプレゼンに温かく耳を
傾けて下さり、解決するために力を貸して下さった受講者の方々、サポートして下さった講師の皆さまには、この場をお借りして、心から感
謝申し上げたいと思います。どうすればよいのかずっと悩んでいましたが、具体的な方略を教えていただいた私は、向かうべき方向が見
えた!という手応えを感じて、晴れやかな清々しい気持ちで帰路につくことができました。
研究倫理は変動期にあり、もはや研究者個々で全てを解決することは、困難な時代に突入したと感じています。UT-CBEL 「研究倫理
冬期集中コース」は、悩める研究者にとって心強い存在であり、受講の体験は癒し体験とも言えるかもしれません。さて、ここまで読んで下
さった皆さまには大きな疑問が残っていることでしょう。「コースで学んだ具体的な内容は?」と。私は、おもしろかった小説の内容を具体
的に伝えてしまうことは無粋ではないかと考えております。つまり、コースの内容をあまり詳しくお伝えすることは、皆さまの楽しみを奪うこ
とにもなりかねないのではないでしょうか。是非皆さまご自身で UT-CBEL「研究倫理 冬期集中コース」を受講してお楽しみ下さいませ!
(首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士後期課程 志賀加奈子)
その他、セミナーに参加された方が感想を書いて下さいました。その一部をご紹介します。

内容が充実していたため 2 日間であったことを忘れるほど時間が経つのが短かった。(臨床医)

実際の事例を多く取り上げて頂いたので実務に近い考え方ができ参考になりました。ただ演習をするうえで、もう少し情報が多けれ
ば、より深いディスカッションができた部分もあるのではないかと感じた部分もあります。より実際に近い演習のためにも工夫して
頂けたらと期待しております。(製薬企業)

「研究倫理」といっても幅が広く、関与する職種も多く、幅広いレクチャーには良さと限界がつきまとうと思います。職種連携を主目的
とするならば今の形が良いと思いますが、今回のレクチャーより更に具体的な議論を進めるならば、事前にテーマと参加者を絞る
ことも必要かと思います。(臨床医)

現在、臨床研究においては「倫理的配慮」は明らかに過剰と思っています。今後、これをどの程度「ゆるめる」べきか、「ゆるめてい
いのか」についての方向性が出せればよりよいと感じました。(医学系研究者)

講義だけでなく、議論する機会を設けて頂くことで、講義の内容をより理解することができました。身近な事例をもとに議論できたこ
とが良かったと感じています。もう少し宿題が多くても良かったかなという感じです。(看護師)

自らが研究を行う際、少なからず心得ておくべき重要な事項の選定は自分自身では能力不足でできないが、今回のコースを通して
かなり体系的な知識は習得できたと思う。(大学教員・医学系研究者/臨床医)
106

「研究倫理=ヒト対象とした医学系研究」の印象が強い。しかし、人対象の研究は医学だけでなく、家政学部系や理学部、心理学部
など幅広い分野でも行われている。また、動物実験を行うことも研究倫理に関連があるのではと思う。今後は幅広いバックグラウン
ドを対象とした研究倫理セミナーに期待したい。(医学系研究者)
┏●高校教師向け情報誌にて 「臓器移植法改正」を執筆
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実教出版株式会社から発行されている高校教師向け情報誌「地歴・公民科資料」69 号で UT-CBEL スタッフの有馬先生、児玉先生、井上
先生が「臓器移植法の改正 」について執筆しました。改正のポイントと残された論点について書かれています。
臓器移植法の改正 改正のポイントと残された論点
有馬斉 東京大学大学院医学系研究科特任助教(UT-CBEL)
児玉聡 東京大学大学院医学系研究科講師
井上悠輔 東京大学大学院医学系研究科特任助教(UT-CBEL)
はじめに
2009 年7 月、臓器移植法(「臓器の移植に関する法律」)が改正された。改正の主なポイントは幾つかある。第一に、脳死者を死者とみな
すかどうかに関わる法律の文面に変更があった。今後、脳死は人の死であるとする見方がより一般的になっていくと考えられる。第二に、
ドナーカードが残されていなくても、脳死者から臓器を摘出することができるようになった。これからは本人が事前に拒否の意思を示して
いないかぎり、家族の承諾だけで摘出が可能である。第三に、以前は脳死者が 15 歳未満の子どもである場合には、臓器を摘出すること
が許されなかった。今回は、この年齢制限を取り除くことを目的とした法改正がなされた(1)。しかし今回の改正で移植をめぐるすべての問
題が解決されたわけではない。むしろ本質的な問題が多く残されているというべきである。そこで以下では、まず臓器移植と脳死に関する
基本的な事実を説明する(1~2)。その上で、いくつか特に基本的と思われる問題に絞って論点を整理してみたい(3~6)。
1.臓器移植と脳死
脳死とは、脳が機能を失い回復を見込めないにもかかわらず、心臓が拍動している状態を指す。これは、人工呼吸器の登場とともに出
てきた比較的あたらしい現象である。通常であれば、脳が機能しなくなると、心臓も動かなくなる。これは、脳からの指令がないと、まず呼
吸が停止するためである。呼吸が止まり、酸素が補給されなくなると、心臓もすぐに停止してしまう。ところが1950年代から、人工呼吸器が
使われはじめた。事故や病気で脳が機能を失っても、呼吸器によって酸素が送られているかぎり、心臓は動きつづける。これが脳死状態
である。さて、脳死がとくに注目を集めるのは、臓器移植とのかかわりにおいてである。臓器移植の技術も 1950 年代に発達した。 心臓や
腎臓といった臓器が機能障害を起こした人に、他から貰いうけた健康な臓器を移植できるようになった。しかし問題は、誰から臓器を貰い
うけてくるかにある。
臓器の提供者はドナー(donor)と呼ばれるが、ドナーにはいくつかのタイプがある。第一は、生きている人の身体(生体)である。現在ま
で、国内で実施数の最も多いのが生体からの移植である。しかし生体からの移植の場合、摘出できる臓器の数や種類は大きく制限される。
まず、心臓のような生命維持に不可欠の臓器をとることは、逆にドナーを死なせてしまうことになるため、許されない。貰いうけることがで
きるのは、二つある腎臓のうち一方、あるいは、肝臓の一部など、いくつかの種類だけである。しかし、それでもドナーにとっては大きな健
康上の負担となりうるため、提供を希望する人の数は決して多くはない。第二は、心臓が停止している死者の身体である。しかしこの場合
もやはり限られた種類の臓器しか移植に用いることができない。心臓が停止して血液が循環しなくなると、体内の多くの臓器はすぐに障害
を起こしてしまう。そのため、移植には適さない。第三は、脳死者の身体である。脳死者の場合、血流が維持されているため、各臓器は機
能が保たれる。一人の脳死者からの提供によって、腎臓や肝臓だけでなく、心臓や肺また膵臓や小腸などの臓器を待つ多くの病人が移
植を受けられる。臓器移植において脳死者が特に注目を集める理由はここにある。
さてしかし、脳死者からの移植が許されるためには、まず、脳死が人の死でなければならない。これは、原則として、移植用に臓器を摘
出することが、ドナーを死なせる直接の原因になってはならないと考えられるからである。この原則を破ることは、ほとんどの人が共有し
107
ているごく基本的な倫理観に反することであり、また各国の法律の一般的な精神にも抵触することが明らかだと考えられている。では、脳
死は人の死であるといえるだろうか。
2.臓器移植法と死の定義
日本では 1997 年に初めて臓器移植法が制定された。このとき脳死と死の関係は、複雑な仕方で定義された。脳死者が死者とみなされる
のは、移植用に臓器が摘出される場合に限られたのである。つまり、自分の臓器の提供に予め同意していなかった人は、仮に脳死しても
死んだとみなされない(心臓が停止しないかぎり死んでいない)。提供に同意していた人だけ、脳死と判定された時点(二度に渡る判定が
行われる)で死者とみなされることになった。このように条件付きではあったが、脳死は人の死とみなされることになった。脳死体からの臓
器移植は、こうして国内でも合法的に開始された。今回の改正では、脳死者が死者とみなされるのは臓器が摘出される場合にかぎるとし
ていた条件が、法律の文面から削除された。このことが、医療の現場における脳死と人の死との関係を今後どのように変えていくかはま
だ明確にはいえない(2)ものの、その影響で、脳死を一般に人の死とする考え方がより浸透していく可能性はある。しかし、そもそもなぜ脳
死は人の死であるといえるのか。これには幾つか理由が考えられる一方で、誰もが納得のいく決定的な答えは今も出ていないようである。
以下では、法律の前提として論じられるべきこの問題について、論点を整理しておこう。
3.脳死は人の死か
脳死を人の死とする意見を支持する人は少なくない。おそらくこれは、脳の機能の喪失が人の生にとって何か本質的なものを失わせる
と思われているからであろう。さてしかし、脳には様々な機能がある。脳が機能しなくなることによって失われるものは一つではない。で
は、どの機能が人の生にとっての本質を成すと考えられているのか。この問題を専門的に扱う研究者の意見は、これまで大きく二つに分
かれてきた。 第一の意見は、大脳死説と呼ばれる。これは、脳全体の中でも、とくに大脳が機能しなくなれば、人は死ぬとみなす立場で
ある。大脳は、脳のもっとも外側に位置する部位であり、意識や認識また記憶や判断といった精神的な活動を担っている。大脳死説の土
台には、一つの死生観がある。即ち、人の死が意味するのは「精神的な活動が失われること」である、という考え方がここには見て取れる。
第二の意見は、全脳死説と呼ばれる。これは、大脳だけでなく、脳幹や小脳を含む脳の全体が機能しなくなることを人の死とみなす立場
である。日本の臓器移植法は、こちらの説を採用している。土台にあるのは、上に見たのとは異なる死生観である。脳の全体が機能しなく
なると、精神活動だけでなく、自発呼吸や新陳代謝や体温調整など、様々な身体運動もまた同時に失われる。これらの身体活動は、本来
であれば身体の内から自然に生じ、また、一つ一つの活動はバラバラに生じるのではなく、生存や生殖といった同一の目的に沿って、互
いに協調し合いながら機能している。全脳死説の土台にある死生観によれば、人が「生きている」ということは、こうした内発的でかつ統合
的な運動が内側で自然と生じている状態を意味する。反対に、人の死が意味するのは、このような運動が失われることである。脳死者は、
心臓こそ動いてはいるが、呼吸や代謝や体温を内側から自分で調節することができない。呼吸の深さは呼吸器を、体温は呼吸器に備え
付けられた加湿器を、代謝の速度は与えるホルモンの量を、それぞれに医療者が外から調節している。全脳死説が脳死者を死者とみな
すのはこのためである。
いずれも直観に訴えかける意見であろう。さてしかし、どちらの意見にも批判はある。まず、第一の意見についていえば、なぜ精神活動
の消失を死とみなすべきなのか。例えば昆虫や草木であれば、初めから記憶力も判断力も備えていないように見える。それでも虫も植物
もたしかに「生きている」ではないか。人の場合だけ、精神活動が失われたとたんに死を迎えると考えるのはいかにもおかしい。このよう
な反論がありえる。さらに、第一の意見に従えば、「遷延的意識障害」の患者を「死んでいる」とみなさなければならない。遷延的意識障害
とは、脳のうち大脳だけが機能しなくなった状態を指す。脳幹は働いているので、自発呼吸を含む様々な身体機能は内側から自動的に調
節される。(近年は差別的な表現だとしてあまり用いられなくなったが、以前は「植物人間」や「植物状態」と呼ばれていた。)自力で呼吸も
すれば体温も調節する患者を死者とみなすことに対して抵抗のある人も少なくない。事実、どこの国にも、遷延的な意識障害の患者を死
者とみなす法律は存在しない。
また、第二の意見にも批判がある。なぜ呼吸や代謝といった身体運動を、外から医療者に調節されていることが、脳死者の死を意味す
るといえるのか。腎臓や心臓の機能であれば、透析器やペースメーカーを使って外から調節している人がいても、死んでいるとはみなさ
れない。脳の機能だけを特別扱いする理由はないようにみえる。このような反論がある。脳死は人の死か。肯定的な意見の中には直観に
訴えるものがある一方、決定的結論は未だ出ていない。
108
4.ドナーカードがない人から臓器を摘出してもよいか
今回の法改正のもう一つのポイントは、ドナーカード(臓器提供意思表示カード)を残していない人からも臓器が摘出できるようになった
ことである。改正前の法律では、脳死者から臓器を摘出できるための条件が二つあった。第一は、本人がドナーカードに提供の意思を記
していることである。脳死する以前の本人が、自分の臓器を提供してもよいと考えていたことが明らかな場合だけ、臓器の摘出が許されて
いた。このようなルールは、一般に、提供意思表示方式(opt-in system)と呼ばれ、海外ではアメリカ各州やドイツ等で採用されている。条
件の第二は、家族の承諾である。たとえ本人が臓器の提供に同意していても、家族が承諾しないかぎり、臓器を貰い受けることはできな
かった。しかし今回の改正で、いま言った一つめの条件に変更があった。今後は、本人の意思が明らかでない場合でも、家族の承諾があ
れば臓器を摘出できるようになった。ただし、本人が臓器を提供したくないという拒否の意思を明らかにしている場合は、臓器摘出はやは
り許されない。このようなルールは、一般に、反対意思表示方式(opt-out system)と呼ばれ、シンガポールやフランス等で採用されている。
この変更の是非についても幾つか論点がある。まず、今回の改正にはあきらかな良さがある。それは、移植用臓器の数が増えると期待
されることである。現在どこの国においても、移植を希望する人(待機患者)の数は多いが、臓器を提供する人(ドナー)の数は それに見
合っていない。国内では、初めて臓器移植法ができた 1997 年以来、今日までに例えば腎臓の移植を希望してあっせん機関に登録された
人の数は約 30000 である。しかし実際に腎臓を貰い受けることができたのは 4143 人しかいない。既に 2457 人が亡くなっている。(09 年 6
月 30 日現在。(社)日本臓器移植ネットワーク調べ。)移植用臓器の数をもっと増やすことはできないか。臓器移植法の改正が検討されて
きた背景にはこのような問題意識があった。今回ドナーカードによる明示的な意思表示が不要とされたことで、臓器の不足がいくらかでも
解消されることが期待されている。しかし今回の改正には、同時に、以下に述べるような懸念もある。
5.ドナーの意思をどのように尊重するべきか
ドナーカードのそもそもの目的は、臓器の提供について、ドナー本人の意思を尊重することにある。そこで先ず、カードがなくても臓器を
摘出してよいとする反対意思表示方式の下では、ドナーの意思が尊重されなくなるのではないかという懸念がある。例えば、第一に、提供
するつもりのない人の全てが意思表示をするとはかぎらない。人によって、自分が脳死する可能性に現実味がなかったり、面倒だったりし
て、書面を整えていないかもしれない。また第二に、臓器提供についてこれまで関心を持たずに来た人や、 よく考えたことのない人がい
るかもしれない。これらの人々もおそらく書面を用意しないだろう。しかしその中には、考える機会さえ与えられていれば提供を拒んでい
たはずの人もいることが予想される。反対意思表示方式を採用すると、これらの人からも臓器が摘出される可能性が出てくる。一言でいえ
ば、反対意思表示方式でもドナーの意思が尊重されるといえるためには、まず、意思を事前に表明していなかった人は提供に同意してい
たものとみなすことが妥当だといえなければならない。このため、反対意思表示方式は、 別名を「推定同意制」(presumed consent)という。
いちばんの問題は、この「みなし同意」に十分な根拠があるといえるかどうかである。根拠があるといえるためには、臓器提供に対する
人々の関心が高くなければならない。提供について考えたことさえないという人が多くいるようでは、推定同意制は正当化できない。また、
提供したくない人が容易に意思表示できるよう制度を整えることができるかどうかも今後の論点となる。
次に、今述べたことと関連して、もう一つ問題になるのは、家族の役割である。改正後の新ルールでは、脳死者から臓器を摘出する際、
本人が反対していないことに加えて、家族が承諾していることも必要であると定められた。これは妥当だっただろうか。一方で、このルー
ルは、脳死者本人の意思を尊重するのに役立つと考えることができるかもしれない。脳死者の価値観や意思は、大抵は身内がいちばん
よく理解している。「本人は面倒だからと書類を残さなかったが、提供に前向きではなかった。」あるいは、「本人はこの問題に関心を持っ
ていなかったが、考えさえすれば提供を希望したにちがいない。」このように家族が証言するかもしれない。その場合、家族の判断に従う
ことは、結局のところ、 本人の意思を尊重することに繋がるかもしれない。だとすれば、意思表示のない人を全て提供に同意しているも
のと自動的にみなす単純な推定同意制よりも、最終的な判断を家族にゆだねる今回の改正臓器移植法のほうが、臓器移植法本来の理念
にかなう。他方、この考え方は一面的だという見方もある。家族の判断は必ずしも本人の意思に沿うとはかぎらない。事実、改正前の臓器
移植法は、ドナーカードに残された脳死者本人の意思と、家族の希望とが食いちがう場合、前者ではなく後者に従うよう定めていた。本人
の意思を尊重することだけが目的であれば、これは明らかにその目的に合致しない。同じ批判は、改正後の新ルールにも当てはまるだろ
う。
6.子どもはドナーになりうるか
最後に、子どものドナーの問題にも、以上で述べてきた論点が当てはまる。15 歳未満の子どもからも臓器を摘出できるということは、一
方では、移植を待つ子どもにサイズの合う臓器を提供しうることを意味する。これまで国内では移植を受けられなかった子どもの患者を救
109
うことが可能になる。他方、ここにも問題はある。第一に、子どもの脳は成長過程にあるため、機能を失ったように見えても、回復の可能性
がないことを確かめるのが難しい。こうした判定技術上の問題については、今後も研究や厳密なガイドラインの策定が必要である。第二
に、本人同意の有効性の問題がある。幼い子どもには脳死や臓器移植といった事柄について十分に理解したり判断したりできるとは思え
ない場合がある。仮に本人が提供に同意するとしても、同意をそのまま受け入れることが妥当といえるか。これまで子どもからの臓器移
植が控えられてきた背景には、このような懸念もあった。すでに述べたように、改正後の臓器移植法は、反対意思表示方式を採用してい
る。子どもが同意の意思を表明することは必要でなくなった。しかし、反対意思表示方式を採用するということは、本人が同意しているかど
うかに係りなく臓器を摘出することが許されるということではない。反対の意思を書面上に明らかにしていない人は、臓器の提供に同意し
ているものとみなされる、ということにすぎない。事柄を十分に理解していない可能性のある子どもについて、こうした「みなし同意」に十分
な根拠があるといえるかどうか。依然この問題は解消していないというべきであろう。
おわりに
以上、脳死と臓器移植について、特に基本的な論点を挙げた。今回、法はひとまず改正されたが、これらの点は今後も引き続き検討を
要するものと思われる。本稿を参考にこうした問題を授業のディスカッションで取り上げていただければ幸いである。
註 1.もう一つ、ここでは触れないが、ドナーが臓器を提供する相手を指定できるようになった。詳しくは東京大学グローバル COE プログラ
ム UT-CBEL の HP にある Policy Issues, Vol.2 を参照されたい。
註 2.改正後の臓器移植法は、「脳死と判定された者」を死者と定めている。しかし、同法によれば、「判定」が行われるのは、本人又は家族
が臓器の提供を承諾している場合だけである。そのため、実際には既に脳死している場合でも、本人や家族の承諾がないため脳死の「判
定」を受けていない者は、法的には死者とみなされないことになるはずである。従って以前と同じ複雑さが残っているという見方もある。詳
しくは UT-CBEL の HP の Policy Issues, Vol.3 参照。
参考文献
児玉聡、「脳死と臓器移植」、赤林朗編『入門医療倫理I』勁草書房、2005 年、267‐285 頁
東京大学グローバルCOEプログラム UT-CBEL 政策検討チーム、
Policy Issues Vol.2「臓器移植法改正法案の検討(1)」、
Policy Issues Vol.3 「臓器移植法改正法案の検討(2)提供先指定に関する詳細な検討を」、
Policy Issues Vol.4 「脳死臓器提供―法改正で何が変わったのか」
※転載の許諾を頂いて掲載しています。
■Vol.7(2010.2.5 Fri.)
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満員御礼 第 2 回 堀場 GABEX 国際会議 大盛況で終了
┏●満員御礼 第 2 回 堀場 GABEX 国際会議 大盛況で終了
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
去る 1 月 10 日から 11 日、UT-CBEL 主催の第2 回 GABEX 国際会議「グローバルな生命・医療倫理に対応する国際ネットワークの構築」
が開催されました。これまで、海外の主要な研究機関とテレビ会議システムを用いたミーティングや、交換留学制度などをつうじて学術交
流を深めてきました。そしてこの国際会議では、UT-CBEL のネットワーク(通称 GABEX[ギャベックス]:Global Alliance of Biomedical Ethics
Centers)に加盟する 8 つの拠点からそれぞれ 2 名ずつ研究者を招き、報告を依頼しました。会議は 2 日間かけて行われ、一般参加者を含
め、のべ約 400 人の聴衆を集めました。報告の内容は多岐にわたりましたが、このメールマガジンでは(1)臨床倫理、(2)医療資源の配分
と正義、(3)実証的な生命倫理、(4)エンハンスメントの 4 つのテーマにまとめてご紹介します。また、満足度の高かった講演に対する参加
者のコメントをご紹介します。
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第 2 回 堀場 GABEX 国際会議 ― 国内で催された生命・医療倫理の大規模国際会議の記録
有馬斉 東京大学大学院医学系研究科特任助教(UT-CBEL)
伊吹友秀 東京大学大学院医学系研究科博士課程
(1)臨床倫理
報告の多くが、いわゆる臨床倫理にかかわる問題を主題とするものであった。一般に生命倫理学というと、そこで扱われる主題の幅は
広い。たとえば生命科学の技術革新(iPS 細胞の樹立など)が引きおこす倫理問題や、死の定義といった高度に抽象的な概念分析も主題と
なりうる。臨床倫理は、中でもとくに臨床の現場で当事者がつき当たる実践的な問題を主題とする生命倫理の一側面である。たとえば患者
のインフォームド・コンセントはどのような仕方で得られるのが望ましいか。ケガのショックや病気の進行のために患者が判断能力を欠く
場合、治療方針はだれがどのように決めるべきか。また、患者やその家族と医療従事者とのあいだで衝突がおきたとき、病院としてどの
ように対処するべきか。議論の対象となるのはこうした問いである。GABEX 国際会議における諸報告は、これらの問題がじつに多様な角
度から考察されるべきことをあきらかにするものであった。
まず、豪州モナシュ大学の生命倫理センター所長ジャスティン・オークリー(Justin Oakley)教授の報告(演題「専門家としての誠実さ、医
療の悪徳、透明性の限界」)や、東京大学大学院医学系研究科大学院生の高橋しづこ氏の発表(演題「不妊女性の凍結受精胚処理方法に
対する意思決定プロセスについて:胚の『勿体なさ』と不妊への『けじめ』)は、医療従事者や患者など、個人が有する資質や心理を理解す
ることの重要性である。とくに高橋氏によれば、国内で不妊治療を受ける女性が、治療中に凍結保存される胚にたいしてとる態度には、さ
まざまな物のことを「勿体ない」と感じる日本的な見方の影響がみられるという。他方、臨床現場が直面する倫理問題を考えるにあたって、
個人の資質や心理を理解することと同様に重要なのは組織のガイドラインや、道徳の理論および原則の存在である。 この側面から、米
国ヘイスティングス・センター副所長のナンシー・ベーリンガー(Nancy Berlinger)氏は、終末期医療に関する指針を自ら作成した経験にもと
づいた報告を行った(演題「終末期におけるケアの質を向上する:倫理指針にどのような善いことができるか」)。ベーリンガー氏によれば、
指針が現場で活かされるためには、指針にしたがう実践を支持する組織の存在や、個々の医療従事者に指針の適用範囲をよく意識させ
る教育プログラムが重要であるという。また、米国ペンシルヴァニア大学・生命倫理センターのオータム・フィースター(Autumn Fiester)教
授は、臨床倫理の理論として現在もっとも影響力のあるいわゆる四原則主義(Principlism)を批判した(演題「米国において教えられている
臨床倫理はなぜ患者を失望させるのか」)。患者に苦痛や不快を与えたとき、医療従事者は、言葉で謝罪の気持ちを表したり、次からはよ
りよい医療を施せるよう努めたりすべきである。フィースター教授によれば、四原則主義の下では、医療従事者にとってごく当たり前であ
るはずのこうした義務の存在が見落とされてしまう。さらに、 臨床の現場も、医療の進歩や技術革新と無縁ではない。ヘイスティングス・
センター研究員のポロ・ブラック・ゴルデ(Polo Black Golde)氏(演題「行動障害および情緒障害のある子どもの診察と治療における倫理問
題」)と、米国ケース・ウェスタン・リザーヴ大学講師のニコール・デミング(Nicole Deming)氏(演題「インフォームド・コンセントとゲノムワイド
関連分析」)による二つの報告は、いずれも、近年の医療技術の進歩が医療実践の現場に及ぼす影響を考察した。
(2)医療資源の配分と正義
オバマ政権成立以来、米国では国民皆保険によって人々に公平に医療を受ける機会を保証すべきか否かが社会的な問題となっている
こともあってか、本会議において各国の演者が高い関心を寄せていた課題のひとつに医療資源の配分の問題と、それに伴う正義の問題
があった。ノルウェー王国立ベルゲン大学のライダー・リー(Reidar Lie)教授は、医療資源配分の優先順位を決定する従来の方法の問題
点を指摘し、理論的にも政治的にもより有用な代替案の提唱を行った(演題「疾病対策の優先順位における新たな道徳的課題」)。また、同
じベルゲン大学のアレン・アルヴァレズ(Allen Alvarez)氏は、従来の医療資源の配分の議論が、比較的裕福で医療資源の不足がさほど深
刻ではない国における問題を論じてきたことを批判した(演題「極度に資源が不足した状態におけるヘルスケアの配分」)。現代社会にお
ける医療資源の配分を議論するに当たっては、やはり、臓器移植に関する問題の議論を欠くことはできない。日本でも昨年臓器移植法の
改正が大いに話題となった。本会議においても、ペンシルヴァニア大学生命倫理センター所長のアーサー・カプラン(Arthur Caplan)教授
(演題「生命維持に不可欠な臓器を移植用に確保することについて:臓器売買、市場、倫理」)とシンガポール大学のジャクリーン・チン
(Jacqueline Chin)講師(演題「生体からの腎提供に対する報酬と利他主義のなぞ」)の二人の論者がとくにこの問題を論じ、世界的な関心
の高さを垣間見ることができた。特にカプラン氏は、貧困国の人々の臓器を裕福な国の人々が買い漁る臓器売買の問題について発表し、
好評を得た。カプラン氏によれば、世界の 80%の地域では死体からの臓器移植のシステムが整っていないため、こういった地域での死体
からの移植のシステムを整備する方が臓器不足の解消に有効である。しかし、臓器売買が盛んに行われているのはまさにこのような地
111
域であるしかも、臓器売買に従事することによって医療従事者の社会的な信頼が損なわれるなどのさまざまな弊害もあるため、臓器売買
の許容は必ずしも臓器不足解消のための最善の方法とはなりえないことをカプラン氏は指摘した。最後に、米国国立衛生研究所のジョー
ゼフ・ミラム(Joseph Millum)研究員は、一国の中での配分の問題を超えた国際間での正義(グローバル・ジャスティス)の問題に関する意
欲的な発表を行った(演題「国際間正義と生命倫理」)が、これは各国の研究者が参加する本会議にふさわしい内容であった。
(3)エンハンスメント
近代医科学の発展は、人々を病苦から救うだけに留まらず、健康な人の能力を高める(頭を良くする、筋肉を強化する、寿命を延ばす
等)という利用方法の可能性までも示し始めた。このような従来の医療の目的とは異なる目的で医科学技術を利用することは「エンハンス
メント」と呼ばれ、21 世紀の生命倫理学の重要課題と考えられている。シンガポール大学のリズベス・ニールセン(Lisbeth Nielsen)研究員
は、このエンハンスメントの問題の概要を示し、この問題における「自然さ」という概念の重要性を指摘した(演題「生命倫理における自然と
自然らしさに関する論争」)。豪州モナシュ大学のロバート・スパロー(Robert Sparrow)上級研究員は、エンハンスメントの推進を主張する
論者らをユーモアたっぷりに、かつ、痛切に批判した(演題「人間には性が必要か?:雌雄二型の規範的意義について」)。
(4)実証的な生命倫理
近年、生命倫理を自然科学や社会科学と同じ実証的な学問として確立すべきとする意見がよく見られるようになった。従来は、倫理や道
徳に関する研究はほとんどの場合、概念的な分析に頼るのみで、調査や統計とは無縁とみなされてきた。第二回 GABEX 会議には、英国
オックスフォード大学エソックス生命倫理センターから、トニー・ホープ(Tony Hope)教授(演題「精神疾患に関する経験的知見に基づいた
倫理分析:拒食症の事例研究」)と、マイケル・ダン(Michael Dunn)上級研究員(演題「実証的生命倫理における方法論的革新に向けて」)が
参加した。これら二人の研究者による報告は、実証的な仕方で生命倫理を研究するためのモデルとして、いくつかの方法論を具体的に提
示した。どちらも新しい生命倫理学の可能性を模索する刺激的なものであった。ホープ教授は、拒食症の患者を対象とするインタビュー調
査を行った経験から、こうした調査の結果が、道徳的な概念分析にしばしば用いられる「判断能力(capacity)」や「精神(mind)」等の概念に
関する従来の理解に修正を促す可能性を指摘した。また、ダン研究員は、実証的な仕方で生命倫理を研究するためのモデルとして、いく
つかの方法論を具体的に提示した。
終わりに
本会議の初日には、ポスターセッションも同時に開催された。9 名の国内若手研究者による発表は、いずれも生命・医療倫理に関連しつ
つ、研究倫理やエンハンスメントの問題を扱うもの、死生学や宗教学の立場に即したもの、さらには実証的な研究まで、内容はさまざまで
あった。国内外から多数の参加者が、終了時間を延長して、日英両語で熱い議論を交わした。こちらも会議本体と同様、生命倫理の学際性
と国際性を示す好例となった。日本の生命・医療倫理研究の歴史はこれまで、海外から輸入した研究成果にもとづいて独自の展開を見せ
てきた。このことは会議の冒頭、東京大学 UT-CBEL のリーダーである赤林朗教授が、その足跡を詳細に辿って見せたとおりである(演題
「日本の生命・医療倫理の過去と現在」)。さらに近年は、渡航移植に関するルール作りや新型感染症への対策など、国際的な連携にもと
づく対応を迫る問題が数多く現れてきている。したがって今後、生命・医療倫理に携わる各国の研究機関がネットワークを広げていくことは
ますます必要となるであろう。第 2 回堀場 GABEX 国際会議が、今後のネットワーク構築に貢献することを願うものである。
続いて、とくに満足度の高かった講演に対する参加者のコメントをご紹介します。
第 1 日目(1 月 10 日)
アーサー・カプラン「生命維持に不可欠な臓器を移植用に確保することについて:臓器売買、市場、倫理」
●臓器売買について日本の外から見た包括的かつ具体的な解説と主張・展望が良かった。(大学教職員)
●主張が明確で分かりやすかった。(生命倫理学系研究者)
●臓器移植問題、特に臓器不足という論点についての国際的議論、国際的に臓器移植に対応する組織の必要性を感じた。(大学教職員)
●演題の内容とそれに関する説明が一番明瞭で引きつけられるものだった。難解な英単語を使わず、具体例を示しながら臓器違法売買
における“選択”は多くの場合で“強制”であるという点が解りやすく良かった。また、トラフィッキングが間違いであるという結論とその理由
が分かりやすかった。(CBEL 夏期集中コース修了生)
112
トニー・ホープ「精神疾患に関する経験的知見に基づいた倫理分析?:拒食症の事例研究」
●拒食症は精神疾患としても特異なものと考えられ意思決定に際し、色々なステージはあるものの他から見て意思決定できるかどうかの
本人の意思確認が難しい疾患のひとつと考えられ、その意思に対する治療態度についての分析が興味深かった。(医療従事者)
●実例を挙げながら実証研究と倫理学的研究との方法論的連関について明晰に論じていてよかった。(大学教職員)
●意思の確認の困難さ、たとえ倫理原則が明確であっても、その実践がいかに困難であるのか、またそれを乗り越える上で慎重、かつオ
ープンな対話が重要でありそうだということが良い示唆となった。(医療従事者)
ナンシー・ベーリンガー「終末期におけるケアの質を向上する:倫理指針にどのような善いことができるか?
●まだ日本の中で医師とのパターナリズムの中で例えば終末期医療を受けるべき患者がその意思を決定している部分も多くみられると
感じます。日本での臨床試験という大変狭い限られた中での私の考えではありますが、倫理指針のあいまいさも良いが NCCN ガイドライ
ンのような具体的な倫理ガイドラインの構築は、患者の QOL を尊重すると共に患者自らが自身にとって最適な最も望む治療を受けること
を発言できるチャンスを育むことにつながると思っています。(臨床試験コーディネーター)
●ガイドラインについて改めてその重要性と運用の難しさを確認できた。ガイドラインに安易な利用を反省、一考したい。(法学系研究者)
●今回の国際的な視点で生命倫理を語るというテーマに本当に沿った内容で、国際間でどのように倫理的問題が取り扱われるべきかを
具体的に示してくれた。(学生/国際保健 NGO 勤務)
●出生異常における生命倫理と高齢者など、終末期医療は QOL、尊厳に影響した医療ケアの臨床であり、教育が必要であると感じた。
(医療専門大学教職員)
第 2 日目(1 月 11 日)
マイケル・ダン「実証的生命倫理における方法論的革新に向けて」
●新しい臨床倫理の研究法について勉強になりました。(ソーシャルワーカー)
●生命倫理分野の人たちにはとても切実な問題を扱っておられ、多くの人の具体的な研究がされ、統合されていく必要があると思います。
(生命倫理系研究者)
●バイオエシックスにおける実証的研究の重要性を明らかにし、3つの新しい方法論を提示し、有益だった。(大学教職員)
オータム・フィースター「米国において教えられている臨床倫理はなぜ患者を失望させるのか」
●アメリカだけではなく日本でも問題になっていると思った。(医療従事者)
●話が整理されていて好印象。(大学教職員)
●訴訟社会である米国で医師が様々なことを謝りにくくなっているのを感じました。ただそのことについて責めるだけではむしろ医師の態
度を硬化させ反発を招くだけということも起こりうるのではないでしょうか。(医療従事者)
高橋しづこ「不妊女性の凍結受精胚処理方法に対する意志決定プロセスについて:胚の『勿体なさ』と不妊への『けじめ』」
●関心はあってもなかなか入り込めない領域へ果敢に挑戦された研究発表で貴重な情報を得ることができました。 (大学教職員)
●実際の臨床の現場において“不妊症”と診断を受け治療を行った女性患者の凍結受精胚にかける“思い”から取り扱いの方法の考え方
が違い、その選択される“様”を伺うことができた。実際に臨床の現場に身を置くものとして大変興味深い研究であった。不妊治療はとても
長期的な計画のひとつで夫ではなく、対象となった女性患者の精神的負担は大きい、協力者である夫とは性別の違いから倫理的思考が
違う場合もあるため対象となる女性患者の精神的な影響も考えねばならないが先生の実なる研究で更に分類化された取扱い方法が明確
なものになり、今後の不妊治療に輝かしい光が差し込むことを望んでいます。(看護師/臨床試験研究コーディネーター)
その他、会議へ参加された方の感想の一部をご紹介します。
●普段、大変狭く限られた環境の中で倫理的な議論をしているのだと感じました。臨床倫理・医療倫理の奥深さを学ぶと共に、生命倫理学
的視点を持ち、テーマに臨まねばならないと痛感しています。多くの国々の研究者の方より大変貴重な講義を頂き、この会議開催に大変
感謝しております。(看護師/臨床試験コーディネーター)
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●パネルディスカッションは、赤林先生の司会が良かったので、短い時間にたくさんの話を聞くことができた。海外の先生も専門を離れて
も自国の倫理問題について良く知っていることに驚いた。社会的合意形成のプロセスについて重要性は他の問題についても同じであり、
我が国でもそのような方向に進んでほしいと思う。(臨床医)
●1 日目は議論が深められれば、なお有意義だったと思います。しかしカプラン氏など論文を読んでいた方の話が直接伺うことができて
良かったです。多くの問題が日本固有のものでなく、世界的に共通の問題だと理解できました。(大学教職員)
●広い領域の中で生命倫理のどう考えどう取り組もうとしているのか最前線の方々から貴重なお話を伺えて良かったです。ふだん何げな
く思っている程度の漠然とした頭の中がすっきりしたように思います。色々な領域あるいはシチュエーションでの望ましいあり方をこれか
らも問うていきたいと考えます。(治験コーディネーター)
●パネルディスカッションは、参加本命のセッションで大変楽しみにしておりました。いずれも重要な課題で今後の医療に大きく影響を与え
るテーマであるので、いかにして社会にうまく適応していくか、の観点から拝聴致しました。時間的に1時間と短かったのが残念でした。
(一般参加)
●「限られた資源の配分」というテーマが議論のひとつの大きなポイントだと思いました。また、政策決定にむけての「合意形成」の重要性
を改めて確認することができました。(ソーシャルワーカー)
●スピーカーの講演内容を聞かせて頂き、改めて集まった方々がそれぞれの国だけでなくグローバルな面でもリードしているメンバーで
あることが実感できました。まだまだ入門段階にある身にとって指針があったと思います。(臨床医)
●1 日目の会議は、ある程度認知されたバランスの良い講演に対し、2 日目の講演は大学院レベルでの現在進行形の研究発表と、とても
良い企画と選択に感服致しました。今回の会議で海外の生命倫理研究のレベルが解り、我が国発の生命倫理研究も決して遜色なくもっと
国際的に発表すべきと思いました。(大学教職員)
■Vol.8(2010.2.23 Tue.)
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患者相談・臨床倫理コンサルテーション 冬期集中コース 開催
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留学生日記・修士 1 年 高島響子さん
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国際教育フェローシップ・ピーター・ドーシさん (米・マサチューセッツ工科大学 博士候補生)
┏● 患者相談・臨床倫理コンサルテーション 冬期集中コース 開催
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
去る 2 月6 日から 7 日、患者相談・臨床倫理コンサルテーションの 冬期集中コースが開催されました。このコースは、医療の現場におい
て患者相談や臨床倫理の問題に理論的かつ実践的に取り組むことができる人材を養成することを目的としたもので、講義では、患者相談
や臨床倫理コンサルテーションに関する基礎知識と実践方法、対応困難患者に対するアプローチ、法的側面などを学び、事例を用いた演
習も行いました。 今回は来年度以降に向けてのパイロット版と位置付け、 受講料は無料とさせていただきました。今回、セミナーに参加
された神戸大学医学部附属病院看護部・副看護部長の花岡澄代さんに感想をお伺いしました。
「2009 患者相談・臨床倫理コンサルテーション冬期集中コース」体験記
私は現在、大学病院で看護管理者として勤務しています。この冬期集中コースは、CBEL の児玉先生のご紹介により、参加させていただ
きました。本来、看護そのものには倫理的要素が含まれていますが、私の年代で「倫理」は看護学のカリキュラムにはありませんでした。
基礎看護学講座に組み込まれたのはここ 10 年くらいだと思います。看護師として勤務していると、「なんだかすっきりしない、このもやもや
した感じは何?」という問題に多々出合うことがありましたが、それを倫理的な問題と認識できず、ジレンマを感じていながらも声に出せず
悩んでいました。そこで倫理について発言できる組織風土をつくることが必要だと思い、4 年前より様々な場面で、看護倫理の研修を通じ、
倫理的感受性を高め、倫理的問題を声に出して話し合える場をもつことの重要性を伝えてきました。しかし、看護職だけが声をあげても、
実際には問題にされない状況もあり、病院組織としての取り組みが不可欠だと感じ、病院に臨床倫理に対応できる部門の設立を要望しま
した。その結果、病院機能評価 Vol. 6 の更新が後押しとなり、病院内に臨床倫理委員会が去年 10 月に発足されました。それまでは問題が
発生すると関係者が招集され、終末期の患者の昇圧剤の適応、高度先進医療、移植、宗教上の輸血の問題などいずれも医師が治療上苦
慮した問題が検討されていました。今後はこの臨床倫理委員会がその機能を果たすことになります。それゆえ、児玉先生からこのお話を
114
頂いた時は、不安もありましたが、ほんとうにうれしくて、今回の東京行きはいつにも増して、ワクワクした気持ちで新幹線に飛び乗りまし
た。
冬期集中コース第 1 日目の 2 月 6 日は、朝早めにホテルを出ました。風は冷たかったのですが、とてもいいお天気でした。東大本郷キ
ャンパスから見上げた空がとてもきれいで、しばらく眺めてしまいました。そう言えば、久しく空をゆっくり見上げることをしていない自分に
気づき、ゆとりがない生活を送っている現実に反省するひと時でもありました。東大病院前で会場はどこ?と悩んでいたら、偶然にもナイ
トのように児玉先生が声をかけくださり、おかげで遅れずに会場に着くことができました。研修場所は東大病院の7階会議室で、とてもきれ
いな会場でした。お部屋は外の寒さが嘘のようにとても暖かく快適な環境で、迎えて頂いた CBEL のスタッフの皆様の熱意とご配慮には研
修中、ただただ感謝あるのみでした。コースは、プログラムの内容もさることながら演習が多いのにびっくりしました。参加される方がどの
ような背景の方かもわからなかったので、その中で「付いていけるのかしら?」と急に不安が増強し、さっきまでのルンルン気分は一気に
失せてしまいました。全国から医師、歯科医師、看護師、臨床検査技師、臨床心理士、理学療法士、事務職、大学院生等37名が参加して
いました。中には患者相談業務を携わっているベテランの方や臨床倫理の問題に直面し大きな悩みを抱えている方もいて、様々な背景を
お持ちの方が集まっていました。
1日目は自己紹介からはじまり、「コミュニケーションスキル」「患者相談窓口の位置づけと現状」「患者相談演習」では、患者と相談係の
役を交互にロールプレイを行いました。当院では、患者相談は専任の事務職員が行っており、その現状は苦労が絶えません。私が患者相
談に対応するのは、看護職が関係したこじれた事例なので、「対応困難患者へのアプローチ」はたいへん参考になりました。2日目は、私
が最も期待していた臨床倫理コンサルテーションでした。「臨床倫理コンサルテーションの活動と現状の紹介」「臨床倫理4分割法を用いた
事例検討」を行いました。事例に登場する患者・家族、医師、看護師の役を演じてくださったCBELスタッフの方の迫真の演技にはびっくりし
ました。臨床倫理4分割法は、書籍で学び、実際に活用もしてきましたが、演習で具体的に分析してみると、それぞれの価値観の対立をど
のようにすりあわせて何を優先すべきか考えていく方法がより明確になり、現場に持ち帰って実際に活用していきたいと思いました。 こ
の2日間の研修はあっという間に過ぎてしまいましたが、とでも有意義で充実したものでした。しかし、その疲労は想像以上でした。いつも
東京に出ると街を歩くのが楽しみで、いろいろ計画していたのですが、そんな元気はどこへやら・・・ホテルへ戻り即ベッドで寝てしまいま
した。でもこの2日間は疲労には代えがたい内容でしたので、大変満足しています。私は、臨床論理理委員会のメンバーとして、今後臨床
倫理コンサルテーションの役割を担うことになります。その意味においても、今回の冬期集中コースを受講して臨床倫理の事例検討を行っ
たことが、今後の自分の活動に勇気と方向性を示してくださるものになりました。ありがとうございました。
(神戸大学医学部附属病院看護部 副看護部長 花岡 澄代)
満足度の高かった 3 つの講義と修了生の感想をご紹介します。
1:倫理コンサルテーション演習(事例 2)
概要:臨床倫理コンサルテーションにおける一連のプロセスである、依頼内容の確認・ケースの分析と検討・依頼に対する返信と推奨の作
成、を体験する。具体的には、班単位で模擬臨床倫理コンサルテーションチームを形成し、具体的な事例に対して、事前に与えられた情報
を元に症例検討シートへの整理・分析を行った後、関係者への追加情報収集を行い最終的にチームとしての対応方針を決定の上、依頼者
に対するコンサルテーション文案を作成する。
修了生の声:
○「なぜ治療を拒否するのか」をきちんと聞くことも、倫理的義務とお聞きし、なるほど、と思いました。
○実践で学ぶことができたから、机上で分析するだけでなく、チーム内のコンセンサス、伝える能力、まとめる力など、たくさんの能力が必
要と感じ勉強になりました。
○医学的な知識がないため、治療に関して把握するのに少し時間がかかったが、議論が勉強になった。
2.対応困難患者に対するアプローチ
概要:患者相談業務、あるいはそれにとどまらない臨床現場において「対応困難」と捉えられる患者等への対応を概説する。医療現場にお
115
ける「枠」を意識することの重要性に触れるとともに、境界性パーソナリティ障害を例として、「枠」を意識した具体的な対応方法について実
践的な知識を提供する。
修了生の声:
○このようなことに対して学ぶ機会がなかなかないので普段から困っている患者対応の参考になった。
○具体的に理解でき、同じ立場にある方々と共有でき、なぐさめられたような気がしました。
○境界性パーソナリティ障害が疑われるケースが多いため、対応にあたって非常に参考になる講義だった。
3.コミュニケーションスキル
概要:患者相談業務、臨床倫理コンサルテーション業務のいずれにおいても重要となるコミュニケーションスキルについての基礎知識を提
供する。具体的には、患者等の話を聴く上で必要となる受容、繰り返し、要約、質問、共感等の技法や、話し手を理解する上でも重要な非
言語行動について概説する。さらに、要約、質問、共感の各技法について、講義で得た知識をもとに演習を行う。
修了生の声:
○ふだん患者の苦情を聞くとき、患者のよき理解者になろうとすることに必死になってしまい、共感を示そうとするあまり、使っていた言葉
が適切でないことに気付かされ具体的に参考になりました。
○普段何気なく行っているコミュニケーションスキルについて、あらためて確認することができた。
○ふだん何気なく行っているコミュニケーションであるが、非言語的なところにいろいろなサインが入っていることが十分わかった。
その他、修了生の感想を 1 部ご紹介します。
●2 日間ではとてもカバーしきれない内容に思えることを、とても効率よく聴講、体験させていただき信じられない思いです。大満足です。
どのように院内の人を巻き込んでいくか、といつも苦悩しているのですが…。1 人では難しいので、講師の皆さんに助けていただきたいで
す。(看護師)
●豊富な知識をもとに盛りだくさんな内容でした。全体的にとても勉強になりました。(臨床医)
●無料で質の高い講座を受けられ、とても感謝しています。以下感じたことを述べます。
■演習の組み立てが、小グループから大グループへと拡大していくスタイルで、グループダイナミクスに無理のない形で進められ
た。
■すべての講義において、整理された内容と聞きやすい説明で、わかりやすいものでした。演習ともリンクしており、実践につなげ
られやすいと感じました。
■これまでの経験から、整理し確認する内容も一部あったが、臨床倫理について事実を吟味し、原則に基づいて、科学的、論理的に
説明する能力や方法については、これからさらに学んでいきたいと認識できた。明日から意識的に取り組みたい。
■環境、資料への配慮が行き届いていた。かつ、ML 等今後の活動へのサポートまでしていただき、ユニットの質の高さ、雰囲気の
よさを感じた。(看護師)
●グループワークは4人程度が意見を言いやすいのでベストだと思う。無料にも関わらず、非常に濃密な研修で大満足でした。(患者相談
担当者)
●終末期患者や認知症患者の対応についての具体的なケースを考えられるような講義が聴けるといいなと思います。これらの法的側面
の解釈もしていただけると医療従事者としては参考になります。(看護師)
┏●留学生日記・修士 1 年 高島響子さん
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GABEX プロジェクト活動のひとつ・国際教育フェローシップで東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 医療倫理学分野 修士1
年の高島響子さんが 2009 年1 月から米国ペンシルヴァニア大学へ留学しています。渡米して約1 カ月、どんな留学生活を送っているので
しょうか。
116
はじめまして、高島と申します。現在、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻(医療倫理学分野)修士 1 年です。大学院では公
衆衛生学について学びながら、医療倫理学を専攻し、生殖補助医療(特に代理懐胎)に関わる倫理問題等に関心を抱いています。そして今、
生命倫理学発祥の地であるアメリカの University of Pennsylvania(以下、UPenn)Center for Bioethics というところに短期留学しています。こ
れから留学生活についてご紹介していきたいと思います。私がアメリカに到着してから約 1 ヶ月が経過いたしました。この間に、ゴールデ
ン・グローブ賞授賞式、グラミー賞授賞式、スーパーボウルがそれぞれ華やかに開催され、また2週間後にはアカデミー賞の授賞式と、ア
メリカらしいイベントが目白押しです。一方で天候は厳しい snow storm に幾度も見舞われ、私のいるフィラデルフィアは観測史上最も積雪
量の多い冬となっています。すべてが初めての私にとっては、ただただその日をやりこなすだけで精一杯の 1 ヶ月でもありました。
フィラデルフィアについて
前述のとおり UPenn は、アメリカのペンシルヴァニア州フィラデルフィアにあります。フィラデルフィアは 1776 年に独立宣言書が交わさ
れた合衆国建国の地として有名であり、アメリカの歴史と自由を象徴する街でもあります。東海岸のニューヨークとワシントン D.C.の中間に
位置しており(ややニューヨーク寄り)、日本との時差は 14 時間です。観光スポットは、
o
o
Independence Hall:独立宣言書が署名された建物。もとはペンシルヴァニア州の議事堂として 1749 年に建設された。
Liberty Bell:Independence Hall での使用を目的として 1752 年に作成された。以後、アメリカの多数の歴史的局面で鳴らされ、現在
でも自由の象徴の1つである。
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Love Park (正式名称は JFK Plaza):フィラデルフィアの前シティ・プランナーである Edmund Bacon 氏と建築家 Vincent Kling 氏によ
って作られた。アメリカの芸術家 Robert Indiana 作の LOVE の彫刻が有名。新宿にもありますね。
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Philadelphia Museum of Art:所蔵数 30 万点を数えるアメリカ有数の大美術館。映画『ロッキー』で主人公のロッキー(シルヴェスタ・
スタローン)が階段を駆け上り、拳を突き上げるシーンが有名。ちなみに美術館の前にそのシーンのロッキーの銅像が立っている
が、いったんは市や美術関係者が『これは Art ではない』と撤去したが、市民の声により元に戻された経緯があるそう。
o
フィラデルフィアが舞台となった映画は他に、『フィラデルフィア(1993)』、『シックス・センス(1999)』『ナショナル・トレジャー(2004)』
『イン・ハー・シューズ(2005)』等。
などなどです。今後も紹介していきます。
大学について
UPenn は 1740 年に創立されました。創立者の一人にベンジャミン・フランクリンがいます。ベンジャミン・フランクリンは日本では雷の正体
が電気であることを凧揚げで証明した人として聞かれることが多いですが(私だけの認識でしょうか?)、アメリカ独立の立役者であり独立
宣言書に署名したうちの一人です。また Upenn はアメリカで最初に University と名づけられた教育機関(1755)であり、アイビーリーグの 8
校中の1校であるなど、歴史ある名門私立大学です。キャンパスの雰囲気や図書館等の設備の充実もさることながら、私がもっとも驚いた
のは教育および研究分野の豊富さです。UPennのHPによれば現在以下の12学部があります。コミュニケーション学(Annenberg School for
Communication)、教育学(Graduate School of Education)、デザイン学(School of Design)、法学(Law School)、教養学(School of Arts and
Sciences)、歯学(School of Dental Medicine)、工学(School of Engineering and Applied Science)、医学 (School of Medicine)、看護学(School of
Nursing)、公共政策学(School of Social Policy & Practice)、獣医学(School of Veterinary Medicine)、経営学(Wharton School)。School of Arts
and Sciences(SAS と称するようです)には音楽の Department もあり、構内で楽器を持った学生もよく見かけます。図書館の音楽分野のコ
ーナーに行くと、防音の個室が設置されており、PCに表示された楽譜を操作し作業する学生が見えました。一方で医学部は、アメリカの教
育機関において最初に設置された歴史を持っており、所有する病院施設も大きな面積を占めています。ドクターヘリも備えてあり、私が見
ているだけでも出動頻度はかなり多いようです。また小児科の部門が有名で、The Children's Hospital of Pennsylvaniaとして独立した建物に
なっています。日本人の研究者も多く来ているようです。日本人が多いといえば、ウォートン・ビジネススクールもそうですね。
Center for Bioethics について
さて、最後に私が学ばせていただいている、Center for Bioethics について少し述べたいと思います。Center for Bioethics は 1994 年に
Arthur Caplan 教授によって設立された生命倫理の研究機関で、UPenn の Science Center という建物内にあります。1997 年より Master of
Bioethics(以下、MBE)という教育プログラムがスタートしました。私はその MBE のクラスにいくつか参加させていただいています。学生は
117
Bioethics を専門に学ぶ人に加えて、他の学部や仕事をしながらコースを取得している人(あるいは特定の授業のみ参加)が多くいます。
例えば、UPenn やそれ以外の大学の医学部生、法学部の学生、病院の職員、ソーシャルワーカー、IRB(Institutional Review Board)の委員
など様々です。講義形式の授業においても学生がさっと手を挙げて質問する姿が多く見られるのは、さすがアメリカだなと感じます。クラ
スは常に言葉のキャッチボールが繰り広げられているようで、良い刺激をたくさんもらえます。先日、大雪の影響で大学全体が休講となっ
た日がありました。予定を遅らせたくない先生から即日、補講についてのメールが。そこには候補日の提案とともにこんな一文が・・・
『How many folks would come to a pizza and beer make-up session?』
なんと、補講にはもれなくピザとビールが!休講になったのは決して先生の都合ではないのに、なんと素敵な配慮でしょう。これならみ
んな補講に行きたくなる!ということで功利主義的には正しい行為でしょうか。義務論的にはどうだか・・・?でも授業がちょうど、功利主義
についての回だったのでいいかな、などと一人考えていました。ちなみに、決して普段からお酒を飲みながら授業をしているわけではな
いです、念のため。(そして先生は飲んではいませんでした。) 現金なもので、こんなに補講が楽しみだったのは初めてでした。
今回はこの辺で失礼いたします。講義の内容等についてはまた次回ご紹介したいと思います。ここまで長文にお付き合いいただいた方、
どうもありがとうございました。
2010 年 2 月
東京大学大学院医学系研究科
公共健康医学専攻(医療倫理学分野)修士 1 年
高島 響子
┏● 国際教育フェローシップ・ピーター・ドーシさん (米・マサチューセッツ工科大学 博士候補生)
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2008 年 4 月から約 1 年半、米・マサチューセッツ工科大学から科学技術社会論を専攻しているピーター・ドーシさんが UT-CBEL の特任
研究員として滞在しました。東大でどんな研究生活を送っていたのでしょうか。
From April, 2008 to December, 2009, I was a visiting researcher in the Center for Biomedical Ethics and Law at the University of Tokyo (CBEL).
My home department is with the Program in History, Anthropology, and Science, Technology and Society at the Massachusetts Institute of
Technology in the United States where I am a fourth year Ph.D. candidate studying the science and politics of public health policy.
My year and a half affiliation with CBEL was enormously helpful in allowing me to further my research on infectious disease epidemiology and
policy, including carrying out fieldwork as an intern in the Japanese Ministry of Health, Labour, and Welfare and the National Institute of Infectious
Diseases in Tokyo. But more than anything else, my time at the University of Tokyo allowed me to research and write, culminating in five
publications.
In one article I co-authored with Professor Akira Akabayashi of CBEL, we offer an overview of Japanese Childhood Vaccination Policy. This article,
due to be published later this year in the Cambridge Quarterly of Healthcare Ethics, offers a broad outline of Japanese vaccine policy and its history,
and compares this policy to that in the United States. We focus on the question of how Japan has achieved what seems elusive in many other
countries: high vaccination rates (an important goal of public health officials) under a completely voluntary system (a central concern of public
health ethics).
118
In “Calibrated response to emerging infections,” (BMJ 2009;339:b3471) I discuss the sociology of epidemiological understandings of epidemics
using the 2009 influenza pandemic as a case study. I argue that advances in laboratory technology have led to reactions to newly emerging
infectious diseases out of proportion with the morbidity and mortality threat of the disease itself.
Subsequent to this research, I worked on a rapid and urgent Cochrane review update of the evidence base for neuraminidase inhibitors (the most
famous of which is Tamiflu, a popular antiviral medication for influenza). This research had particular relevance in the context of the 2009
influenza pandemic, and was commissioned by both the UK and Australian governments. Our research (BMJ 2009;339:b5106) was part of a
larger investigation carried out by the Cochrane Collaboration, the British medical journal BMJ, and the UK television program Channel 4 News.
Our team found that the manufacturer of this drug has been making claims about the effectiveness of its drug that were not verifiable using open
sources. There claims were rather based on unpublished data that we were unsuccessful in accessing. Given that governments spent billions of
dollars stockpiling this drug over the last few years, our research raises questions about public health policies which invest in interventions for which
the evidence base is not open to independent scrutiny but rather taken on trust. In addition to the Cochrane review, I wrote an analysis article
(BMJ 2009;339:b5164) which explains the background of the story and discusses the possible implications to public health policy.
In an unrelated letter now accepted for publication, I wrote to the Journal of Infectious Diseases that the definition of an influenza pandemic must
include some connotation of severity.
This letter is in response to an historical review article by the director of the National Institute of Allergy
and Infectious Diseases and colleagues which suggested that a pandemic might best be understood as an epidemic with large geographical
spread. The problem with this definition, I point out, is that it implies that influenza is a pandemic each and every year, as are many illnesses such
as the common cold. If the distinction between “pandemic influenza” and “seasonal influenza” is lost, I argue, what further public policy rationale
exists for treating one disease any different than the other?
My year at CBEL was extremely helpful in allowing me to pursue my research and writing. Being affiliated with the University of Tokyo opened
many doors that may otherwise have been closed. But what I really enjoyed was the very friendly and supportive community of scholars with
broad training and research interests that make up CBEL. This interdisciplinary environment helped me think about my own research in different
ways and exposed me to a wide range of literature and scholarship on issues pertinent to my studies, making for a very fun and productive year in
Japan.
■Vol.9(2010.3.9 Tue.)
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政策に臨む倫理・公共政策部門
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東京大学内の医療倫理学の講義に潜入 第 2 弾・医療倫理学特論Ⅱ
┏● 政策に臨む倫理・公共政策部門
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公共政策部門では、医療やバイオサイエンスの分野において日々発生しているさまざまな倫理的問題を政策課題として検討したり、社
会における情報や問題意識の共有が必要と判断した問題について情報発信や提案の発表を行っています。担当の井上悠輔先生に詳し
い活動内容や公共政策部門で発行している「政策レスポンス」等についてお話を伺いました。
― 始めに公共政策部門について教えて下さい。
CBEL は 2003 年に設置され、現在で 7 年目です。「公共政策部門」は、2008 年からのグローバル COE の開始と共に設置されました。
2009 年 1 月から、医学部附属病院から私が着任し、本格的に始動しました。公共政策部門は、医療やバイオサイエンスの分野において
日々発生しているさまざまな倫理的問題を、政策課題として検討しています。また、社会における情報や問題意識の共有が必要と判断し
た問題について、情報発信や提案の発表を行い、政策論の発展に貢献することを目指しています。
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― どうして生命・医療倫理で「政策」なのでしょうか。
バイオサイエンス・医療技術の発展が社会に与える影響はますます大きくなっていますが、日本ではそこで生じる倫理的・法的・社会的
諸問題を政策的課題として検討する基盤が脆弱であるとの指摘が長らくされてきました。クローン技術、再生医療、脳科学、ヒトゲノム研究
や、急増する海外共同治験などの国際的共同研究、また終末期・生殖補助医療、移植医療などによって次々と生み出される倫理的・法的・
社会的諸問題(ELSI 問題:ethical, legal, social implications)への対応は、日本の科学・研究者界が社会の中に位置し、かつ社会に対して責
任ある地位をもつ点からも、喫緊の課題なのです。主要先進国には、この領域を政策上の課題として検討するために、自らの発議と調査
能力、正当性を備えた国家レベルの「生命倫理委員会」を行政または議会に設置したところもあります。CBEL は、こうした動向を意識しつ
つ、政策活動についての機能や可能性の検証の場としてこの「公共政策部門」を設置し、上記のバイオサイエンスおよび医療における現
代的課題について学際的に研究を進め、かつ日本の将来に資する取り組みを目指すことで、対社会発信型の「生命・医療倫理」の成功事
例の実現を目指しています。
― 具体的にはどのような活動をしていますか。
当部門は、グローバル COE において展開されているバイオサイエンス・医療に関する国際的視野からの政策検討の成果を広く社会に
発信する活動を行っており、現在はこの方面の業務が中心ですね。医療やバイオサイエンスの分野におけるさまざまな倫理問題への対
応は、特定の個人間や組織内にとどまりません。一般の方も専門職の方もも、共に考えて答えを出していく、開かれたルールづくりの話で
もあります。しかし、生命倫理政策の展開において、情報の格差や整理は大きな障壁となっています。本部門では、活動の社会的実践の
一形態として、日々起こるさまざまな出来事について、政策情報や検討すべき論点を整理したり、提案を行う活動を行っています。当部門
は、このような時代の要請に応えて、日々の出来事や事件について、国際的、歴史的視点から検討したものをニュースレター形式で発信
しています。現在、「臨床」「研究倫理」「バイオサイエンス」の3つのグループが活動しており、井上がそれぞれの領域の動向に目を配りな
がら、次号の「政策レスポンス」を立案しています。
― 「政策レスポンス」とはどういうものでしょうか。
状況は時々刻々と変化し、その経過を常に追っていないと現在我々がどこにいるのか分からなくなります。過去に照らして、現在を知り、
将来を視野に入れながら問題を整理する、かなりタフな仕事です。この 1 年間で扱ったテーマは、以下の通りです。なお、これらのレスポ
ンスはこちらから見ることができます。
公共政策部門で取り上げたテーマ
・2009 年 2 月 体外受精における「取り違え」が提起する新たな倫理問題
・4 月 臓器移植法改正法案の検討(1)
・6 月 臓器移植法改正法案の検討(2)提供先の指定に関する詳細な検討を
・7 月 脳死臓器提供:法改正で何が変わったのか
・8 月 ワクチン配分の政策と倫理
・10 月 予防接種に関する全国意識調査
・12 月 代理出産をめぐる議論の現在 議論の停滞がもたらす新たな展開
・2010 年 1 月 性転換カップルによる生殖補助技術利用が提起する問題
― 東京大学政策ビジョン研究センターとも連携して活動しているようですが。
当部門は東京大学の全学組織である「政策ビジョン研究センター」と密接に連携して活動しています。東京大学では、これまで教員が個
人として審議会等で政策立案に参加し、政策形成に貢献してきました。しかし、大学の社会貢献が求められる今、「東京大学 アクションプ
ラン 2005-2008」にも述べられているように、国立大学法人としての東京大学が政策形成の知的リソースを提供し、政策の選択肢を提示す
ることは、その役割の一つということができます。そこで、総長室の下に、シンクタンク機能を果たす政策ビジョン研究センターが設置され
120
ました。公共政策部門は、この政策ビジョン研究センターを構成する「研究ユニット」の一つ(「生命・医療倫理政策研究ユニット」)として、こ
のセンターを通じて社会発信を進めています。本研究ユニットでは、グローバル COE および関連教員において展開している活動について、
東京大学、研究者としての社会的責任を果たす観点から、日本が直面しているテーマについての現状の分析、検討素材の提供、議論の
喚起を行い、アセスメントにもとづいた 論点整理・提案についての情報提供を行うと共に、学際的な政策研究の交流の場となることをめざ
しています。こうした成果は、政策ビジョン研究センターの HP からも公開されています。
― この一年の活動を振り返っての感想はいかがでしょうか。
公共政策部門の活動は始まってまだ日が浅いですが、確実に実績を積んでいます。本拠点から発信された政策レスポンスについての
反応は上々であり、「面白かった」「刺激的だった」というものから「次号はまだですか」といった催促のメッセージ等を頂くことも多くなりまし
た。当部門の活動は、実際の政策形成にも貢献しつつあります。夏の臓器移植法改正では国会に招致された参考人の資料作成にかかわ
った関係から、参議院にも行きました。立法府での議論の雰囲気を実際に体験して、色々と考えさせられました。また、春から始まった新
型インフルエンザ・パンデミックについては、新型インフルエンザのワクチンの配分についての政策提言をホームページでアップし、全国
の 10 を超える新聞社に取り上げられました。同時に厚生労働省が開催した意見交換会に CBEL から赤林先生や児玉先生に委員として参
画していただき、コメントが NHK や民放のニュース番組で報道されたりしました。秋には、ワクチン接種についての全国規模での一般市民
の意識調査を実施し、その成果を公表しましたが、これについては厚生労働省から調査結果の提供依頼があるなど、実際の政策立案に
貢献していることを実感できるものもありました。このように政策レスポンスにおける一連のサイクルは、社会的にインパクトを与えつつあ
るといえます。これらの成果は、研究活動にも生かされています。現在、臓器移植や新型インフルエンザに関するワクチンの配分につい
て、複数の論文が英文ジャーナルにアクセプトあるいは投稿されている段階であり、「生命倫理の政策研究」の専門領域としての成長にも
積極的に貢献しています。これからも楽しみですね。
(聞き手 広報:平間 千恵)
┏● 東京大学内の医療倫理学の講義に潜入 第 2 弾・医療倫理学特論Ⅱ
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
医学系研究科・医療倫理学分野では、東大在籍中の大学院生を対象に「医療倫理学特論?」で取り上げた項目をより深く論じた「医療倫理
学特論Ⅱ」を去年 12 月から 7 回に亘り開講しました。政治哲学や資源配分、HIV、ワクチン開発の問題などを取り上げ、全体講義と少人数
でのディスカッションを行いました。今回、受講した公共健康医学専攻の土屋さやかさんに講義の感想を伺いました。
医療倫理学Ⅱを受けて
私は大学で看護学を学び助産師として働いた後に、公共健康医学専攻(公衆衛生大学院)に入学しました。医療倫理学はスモールグルー
プディスカッションが楽しいと聞いて参加したのですが、想像以上に興味深いもので医療倫理学Ⅰに続き医療倫理学Ⅱを受講しました。医
療倫理学Ⅰでは医療倫理学の視点・考え方と特に個人を対象にするケース学びましたが、医療倫理学Ⅱではさらに公共的な意思決定を
する上での実践的・応用的な視点を学びました。医療倫理学Ⅱは少数精鋭で行なわれました(といっても、受講するのに試験がある訳で
はありません)。医療倫理学Ⅰから通して受講している人が多く、特に医療系以外を専門にしている人の割合が上がりました。スモールグ
ループディスカッションでは普段の公共医学専攻の授業では出てこない法律系や社会学系の視点からの意見も多く、大変刺激を受けまし
た。
また、講義参加者も半分くらいが医療倫理の先生方で、医療倫理の専門家の視点(医療倫理の専門家といっても哲学・社会学・医療系な
ど元々のバックグラウンドは異なり、視点も変わってくること)を学ぶこともできました。政治学・哲学・経済学などの理論は私のこれまでの
生活・学習・経験には馴染みのないもので、自分でそれら本を読んでも何が論点であるか、何を主張しているのかが明確に理解できない
ことが多々あります。この医療倫理学Ⅱの前半4回の講義では公衆衛生分野でよく用いられる政治学・哲学・経済学などの規範となる主要
な考え方のエッセンスをわかりやすく紹介して頂きました。また、それらの考え方をスモールグループディスカッションを通して自分たちで
121
使ってみる体験をすることで、実感としての理解に近づけたと思います。
また、この冬に私は社会疫学系の本を何冊か読んでいたので、「健康格差と正義」の講義内容は非常に勉強になり、講義で紹介して頂
いた『健康格差と正義』『新平等主義』の2 冊も読んでさらに学習を深めることができました。そして、社会格差による健康格差のエビデンス
がどれだけ蓄積され健康格差が科学的に重要な問題でも、政策立案(社会で公衆衛生活動の実践)につながるためには倫理的な規範的
思考による橋渡しが必要であることを一連の医療倫理学Ⅱの講義を通して学びました。後半3回の講義では様々な分野のゲストスピーカ
ーが、公衆衛生学的問題を題材にそれぞれの視点から講義して下さいました。「労働、健康と組織的公正」「看護学における研究倫理」「現
代の医療倫理における「宗教」の領分」「脳死・臓器移植問題と宗教倫理-とくに判定基準の整合性をめぐって」「科学的コミュニケーション
とは何か」「代替医療・プラセボ・倫理」という幅広いテーマで、普段は聞けない人文社会学系や理学部の専門家からも講義を受けることが
できました。
特に宗教的視点からの医療倫理の問題、代替医療・プラセボの話は初めての視点で非常に興味深かったです。また、個人的には看護
研究における倫理も私が学生のときは大きな問題ではなかったので、改めて勉強しておかなければならないテーマであると感じました。
将来的に医療倫理学Ⅱの講義がどのように役に立つのかはわかりませんが、議論・意思決定をする上で規範となる理論・考え方を据える
必要性を学びました。医療倫理学Ⅰだけでは様々な考え方があって結論が出ない消化不良の感覚がありましたが、医療倫理学Ⅱで実際
的な意思決定方法を学ぶことで科学的な医療倫理(操作的な方法)を学習できたと思います。また、どの先生もそれぞれの分野の最新の
話題を講義すると共に、興味を持ったときに次に自分で学習を進められるための方向性を示して下さったので、今後の学習・研究を進める
上での指針のようなものを医療倫理学Ⅱの受講により得られたと思います。ありがとうございました。
■Vol.10(2010.3.31 Wed.)
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CBEL 修了生の自主学習の場・生命・医療倫理研究会
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大学院生生活を振り返って・修士 2 年 清水美緒さん
┏● CBEL 修了生の自主学習の場・生命・医療倫理研究会
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
生命・医療倫理研究会は、2006 年 7 月 1 日に発足しました。生命・医療倫理学の知識を深めるための継続的な学習・研究の場として、
UT-CBEL で開催されたセミナーを修了した方々が自主的に運営しています。年に数回行われる研究会では、終末期医療や災害時の医療、
尊厳死の問題や倫理教育についてなど、生命・医療倫理に関わるさまざまなトピックが扱われています。具体的にどのような活動をしてい
るのか、研究会を中心的に運営している世話人の方々に話を伺いました。
‐ どのような経緯から設立されたのですか?
UT-CBELの前身である生命・医療倫理人材養成ユニットで開催していた入門コースの修了生のあいだで、コースが終わっても継続的に
倫理の勉強を続けようという機運があり、年二回開催されていた入門コースの修了生がそれぞれ独立して勉強会を開催していました。し
かし、一緒に勉強をした方が得られるものが多いと考え、2006 年 7 月 1 日にすべての修了生を対象とする生命・医療倫理研究会を正式に
発足させることになったわけです。5 期生からは入門コースの開催中に研究会のアナウンスを行い、勉強を続けたい修了生の受け皿とな
ってきました。
‐ これまでの活動内容を教えてください。
定期的な研究会の開催が活動の中心です。研究会では、会員の研究成果を聞くこともありますが、自ら主体的に議論することを大切に
し、参加者相互のディスカッションを中心としてきました。参加者の人数は回によって異なりますが、だいたい 30 名から 80 名が参加してい
ます。参加者の多くは医療従事者ですが、それ以外にも、製薬企業の方、高校の先生、マスコミの方など、多様なバックグラウンドをもった
人たちが参加しています。もちろん年代もさまざまです。これは CBEL のコースにいろいろな人が参加していたためです。
122
‐ 毎回のテーマはどのように決めているのですか。
会の運営はそれぞれのコースの修了生から選ばれた世話人によって行われていますが、この世話人の中から次回の研究会を企画・運
営する当番世話人をまず決めます。そしてこの当番世話人が、会員の意向、さらにはそのときどきのトピックスを踏まえ、最終的にテーマ
を決定することになります。ちなみにテーマが決定したあとに、そのテーマに関心がある会員に当番世話人のお願いをすることもありま
す。
‐ 研究会の特徴はありますか。
先ほども述べましたが、参加型のスモール・グループ・ディスカッションによる会員相互の意見交換を中心としているところでしょうか。こ
れは今後もぜひ続けていきたいと考えています。
‐ 研究会を続けていてよかったところはありますか。
研究会の特徴とも関連しますが、やはり色々なバックグラウンドをもった人たちと意見を交換することができたという点です。倫理の問題
に関しては、「正解」を求めるあまりついつい独りよがりになってしまいますが、議論の中では自分が考えても見なかった意見を聞くことが
でき、立ち止まって考えるよい機会になります。多くの医療現場は時間との戦いですからいつまでも話しあってはいられませんが、こうす
ることでより多くの人に受け入れられる意見を組み立てることができます。
‐ 研究会を続けていく上で大変なことはありますか。
参加型のディスカッションを中心とする場合、当番世話人は、どのようなことを議論するのか、また、議論をするためにどのような知識を
共有すればよいのかなどを考えなければなりません。一人ひとりが自分の仕事を抱える中でこうした準備をするのはとても大変です。こ
の負担をどのように軽減していくのかは今後の課題だと思っています。
‐ 研究会の今後の展開についてお聞かせ下さい。
一言で言えば、広く社会へ開かれた研究会にしていくということでしょうか。具体的には二つのことを考えています。生殖補助医療や終
末期医療など、生命・医療倫理の問題を、すでにある法律を解釈したり新たに作ることで解決するべきだという意見をよく聞きます。たしか
に法律は重要ですが、法律はあくまでも一般的なことしか述べてくれませんし、その解釈にしても医療の現場と乖離していることがありま
す。法自体を批判的に問い直したり、法と現場との橋渡しをするものとして、生命・医療倫理には独自の意義があります。こうしたことを訴
えていきたいというのが一つ。もう一つは、この研究会をより開かれたものにすることです。たとえば開催場所ですが、これまでは東京大
学や北里大学など東京での開催にとどまっています。会員は全国にいるので、今後は関西などでの開催も検討していきたいと思っていま
す。また、会員資格の緩和も大きな課題です。ディスカッションに参加するにはある程度倫理学の知識をもっている必要があること、また、
事務局の体制が十分ではないことから、いまのところ参加資格を CBEL が主催する教育プログラムの修了生に限定していますが、これま
でも修了生以外の方から参加に関する問い合わせを数多くいただいています。今後はこうした方々にも参加してもらえるような工夫が必
要だと考えています。
┏●大学院生生活を振り返って・修士 2 年 清水美緒さん
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━●
東京大学大学院 医学系研究科・医療倫理学教室では今年3 月、2 名の大学院生が修了を迎えました。他大学で看護学科を卒業後、本学
へ入学し医療倫理について学んできた清水美緒さんに 2 年間の学生生活を振り返っての感想を伺いました。
123
<2 年間の学生生活を振り返って>
はじめまして。この春、医療倫理学教室にて専門職学位課程を修了する院生の清水美緒と申します。今回は、私の 2 年間の学生生活を
皆様にご紹介させていただきます。皆様に少しでも医療倫理学を学ぶことの楽しさや、私の所属する当大学院に関心を抱いていただけれ
ば幸いです。
大学院概要
私が所属しているのは、医学系研究科の公共健康医学専攻という専門職の大学院です。なんとも長い、しかも一読では何を研究し学ぶ
ところなのかわかりにくいところです。公共健康とは、「公衆衛生」という意味です。では「公衆衛生」とは何かというと「人々の健康を守り・
高める」ということです。どうしたら人々の健康を守り、 高めることができるかについて学問するのが、私の所属する大学院なのです。医
療倫理学教室もその公共健康医学専攻の中の一研究室として存在します。この公衆衛生に関する専門職大学院は、日本で 2 番目に東京
大学が 2007 年に設置しました(1 番目は京都大学)。公衆衛生に関する様々な専門的知識が学べるよう、疫学、生物統計学、栄養学、環境
学等々、幅広い講義があります。1 学年は約 30 名で、約 4 割が医師です。その他、医療関係者、工学部出身の方、法学部出身の方など
様々な方がいます。また、社会人経験のある方が多いのも特徴です。いろいろなバックグラウンドの方と、机を並べ、意見を交わし、交流
を深めることは何よりの刺激となります。
学生生活について
院生生活は大きく前半(入学して 1 年目)と、後半(2 年目)に分けられます。前半は、おもに公衆衛生の専門家に必要な知識を身に付け
るための講義が続きます。私が好きだった講義は、医療倫理学の講義はもちろんですが、法医学と疫学の講義です。医療倫理学の講義
についてですが、前半に講師による講義 2 コマ(60 分×2)があり、後半にグループディスカッションがあります。講義では、皆様おなじみ
の医療倫理の四原則など医療倫理を学ぶ上で必要な理論についての学習と、生殖医療や臓器移植などの各トピックにおける倫理問題を
扱います。グループディスカッションでは、その日の授業を踏まえ、直観に頼らずに倫理的問題について議論し考察を深めます。私は、デ
ィスカッションで、自分以外の人の意見を聞くことがこの上なく楽しかったです。うまく自分の意見を伝えられなかったときはとてももやもや
しますが、それがきっかけで自分と対話することができ、とても楽しい時間を過ごすことができました。法医学の講義では、ひたすら解剖
写真(医療関係者以外の方には大変大変刺激の強い写真をこれでもかと!)を見ながら死因について学習したり、栄養学の講義では、世
界中を旅している教授の研究珍事件の話を聞くことができ、たくさん知的刺激を受けました。
院生生活の後半は、おもに研究(専門職学位課程のため課題研究と言います)を行ないます。公共健康医学専攻の研究室は全部で 13
あり、院生の配属先は 1 年目の 9 月ごろ決定します。研究室に配属されると、その研究室でのゼミや勉強会に参加するところから始まり、
さらに自分の研究を始めることになります。私は入学する前から医療倫理学教室で研究したいと考えていたため、1 年目の 5 月ごろから医
療倫理学教室の勉強会やゼミに参加していました。先輩方の発表を聞き、自分も先輩方と同じように研究や発表ができるのだろうかと不
安になったのを覚えています。また、院生はじめ先生方の活発な意見交換は、見ていてハラハラドキドキするくらいでした。それと同時に、
「そうか、そこが問題なのか」「これがこの研究の強み弱みになるのか」と議論全てが私にとって勉強になりました。
研究の方法については、まず研究のテーマを決め、先行研究を概観し、さらに詳細な研究テーマとその方法を決め、実行に移していく、
もちろん倫理委員会には必要であれば申請を行ない・・・と簡単に説明はできますが、やはり道のりは長く険しいものでした。私の場合は、
生殖補助医療に関心があったため、その分野に関する研究がしたいということまではすんなり決めることができました。しかし、実際にど
のような目的で、何に関して、どのような方法で研究を行なうのかということを詳細に決めることはとても大変で、一番苦労したのはそこで
した。2年目の8、9月あたりまで、詳細な研究内容を決めるのに四苦八苦していました。おそらく、先行研究でどこまでが明らかになってい
るのか、何が問題なのか、どこが明らかになっていないのかについて概観するためのスキルを身につけるのに苦労したのだ、と今更な
がら分かります。指導してくださった赤林先生、児玉先生、藤田先生を始め、いつもいつでも相談に乗ってくださった林さんや伊吹さん、お
互いの研究を客観的に評価しあい切磋琢磨した同学年の中田さんや高山さん、たくさんのご指摘をいただいた CBEL のスタッフの先生方、
皆様のおかげで長く険しい研究の道のりを乗り切ることができました。
医療倫理学教室では、学びたいと思ったことをいくらでも学ぶ道があります。先生方がその道を示してくれるだけでなく、同じ院生同士で
忌憚なく意見を述べることができます。そして、迷える子羊になった際には(私は随分と長い間、迷える子羊でしたが)、先生方がきちんと
124
ヒントをくださいます。医療倫理には答えがないと言いますが、答えがない分いくらでも考え迷い勉強できるのだとも思います。その他に、
CBEL の「夏期集中 生命・医療倫理学入門コース」や、「GABEX 国際会議」、「患者相談・臨床倫理コンサルテーション 冬季集中コース」な
どに参加させていただく機会を得られ、より充実した学びの深い院生生活を送ることができました。講義での学びとともに、参加者の皆様
とのつながりは私の一生の財産になると思います。今後もアンテナを張り、つながりを大事に勉学に励みたいと思います。
今後の進路と将来の夢
2 年間の専門職学位課程を修了し、この 4 月より国立成育医療センターで看護師として勤務する予定です。しばらく臨床に身を置くことで、
医療倫理学分野へのさらなる問題意識が芽生えるのではないかと考えています。今までの学びを基に、臨床だから実感する倫理的な問
題やジレンマと向き合ってみたいと思います。そして、また数年後には研究の場へ戻り、小児に関する倫理問題の研究者になりたいと考
えています。まずは、看護師として一人前になるべく、日々勉強!子どもたちの笑顔に癒されつつ、子どもたちを癒せる看護師を目指して
頑張ります!
拙い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。あっという間の 2 年間でした。さらなる飛躍を目指し、しばし旅立ちますが、
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。「りんりりんりで夜も眠れず」、これからも「りんりりんり」と考えていきましょう!!!
(東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 医療倫理学教室 修士 2 年 清水美緒)
125
6.
各種報道記事等
(毎日新聞 2009 年 3 月 13 日)
126
127
128
129
(科学新聞(台湾)2010 年 1 月 22 日)
130
(ミクス Online 2010 年 2 月 17 日)
IV. 活動成果
131
1.
研究業績
【論文】
1.
Akabayashi A, Kodama S, Slingsby BT. Is Asian bioethics really the solution? Camb Q Healthc Ethics 2008; 17(3): 270-2.
2.
Akabayashi A, Slingsby BT, Nagao N, Kai I, Sato H. A five year follow-up national study of ethics committees in medical organizations in Japan.
HEC Forum 2008; 20(1): 49-60.
3.
Akabayashi A. Eyes wide open: Blinded views on ethnic identity. Asian Bioethics Review 2009; 1(1): 65-66.
4.
Akabayashi A. Bioethics in Japan (1980-2009): Importation, development, and the future. Asian Bioethics Review 2009; 1(3): 267-278.
5.
児玉聡.近年の米国における死の定義をめぐる論争.生命倫理 2008; 18(1): 39-46.
6.
児玉聡.治療の差控えと中止について、今何が問題になっているのか.Bioethics Study Network 2008; 7(1): 88-91.
7.
児玉聡.百万人の死は、一人の死の何倍悪いか――道徳心理に関する近年の実証研究が功利主義に持つ含意.倫理学年報 2009; 58:
247-259.
8.
児玉聡,赤林朗.「やさしい生命倫理学講座(1)--生命倫理学とは何か」Biophilia (ビオフィリア) 2009; 20: 48-50.
9.
Matsui K, Lie RK, Kita Y, Ueshima H. Ethics of future disclosure of individual risk information in a genetic cohort study: A survey of donor
preferences. Journal of Epidemiology 2008; 18(5): 217-224.
10.
Matsui K, Tashiro S. Classes of activities in clinical labs: Practice, research, or else? Asian Bioethics Review 2009; 1(3): 281-4.
11.
Matsui K, Abou Zeid A, Zhang X, Krohmal B, Muthuswamy V, Koo YM, Wendler D, Chao J, Kita Y, Lie RK. Informed consent to future research
on stored tissue samples: the views of researchers, ethics review committee members and policy makers in five non-Western countries. Asian
Bioethics Review 2009; 1(4): 401-16.
12.
松井健志,金川里佳,児玉聡,赤林朗.公衆衛生の倫理教育に関する現状とカリキュラムの方向性.医学教育 2009; 40(2): 117-122.
13.
Arima H. Children as organ donors―Is Japan’s new policy on organ procurement in minors justifiable?―. Asian Bioethics Review 2009; 4:
354-366.
14.
Arima H. Disgust and moral censure. Journal of Philosophy and Ethics in Health Care and Medicine 日本医学哲学倫理学会編. 2009; 4 :
88-108.
15.
有馬斉.ケアの倫理と道徳の相対主義―感情移入の経験は道徳判断を正当化するか― ケアの/と倫理.生存学研究センター報告
2010; 11: 226-243.
16.
有馬斉.中立な国家と個人の死ぬ権利.立命館大学生存学研究センター編 生存学 2010; 2: 328-345.
17.
有馬斉,伊吹友秀.第二回 GABEX 国際会議―国内で催された生命・医療倫理の大規模国際会議の記録.Biophilia (ビオフィリア)
2010; 6-1: 56-61.
18.
Inoue Y, Hong H. Cadaveric donation and the family: perspectives from the legal history of Japan. Asian Bioethics Review 2009; 4, 342-353.
19.
井上悠輔.被疑者段階で採取された試料・DNA 型データの保有継続をめぐって ヨーロッパ人権裁判所「S およびMarper 対イギ
20.
Inoue Y, Wada Y, Motohashi Y, Koizumi A. History of blood transfusion before 1990 increases cancer mortality risk independent of liver
21.
井上悠輔,赤林朗.発生学の展開と幹細胞研究の諸問題.Biophilia (ビオフィリア) 2010 ; 6-1: 66-70.
22.
島内明文.スミスの道徳感情説における共同性の問題-ヒュームとの比較を軸にして-.倫理学研究 2009; 39: 3-13.
リス判決」. 医療・生命と倫理・社会 2009; 8: 74-91.
diseases: prospective long-term follow-up, Environmental Health and Preventive Medicine 2010; 15 (in press).
23.
瀧本禎之,赤林朗.プライマリ・ケアにおける医療倫理.治療 2009; 91:28-31.
24.
瀧本禎之,赤林朗.リハビリテーションにおける臨床倫理.総合リハビリテーション 2008; 36:561-566.
25.
瀧本禎之.終末期医療領域のわが国のガイドラインのレビュー.緩和医療学 2009; 11:3-13.
26.
Yoshie, S., Saito, T., Takahashi, M., & Kai, I. Effect of work environment on care managers’ role ambiguity: An exploratory study in Japan. Care
Management Journals 2008; 9(3): 113-121.
27.
吉江悟,穂積登.精神科医・弁護士の関与する介護支援専門員電話相談窓口の試行及びその評価.ケアマネジメント学 2008; 7:
107-119.
28.
藤田みさお.日本家族性腫瘍学会における症例報告に関する規定(案)の検討―国内における法律・行政指針・学会指針の概観
と論点整理―.家族性腫瘍学会 2008; 8: 13-17.
132
29.
藤田みさお.一般化してきた終末期医療での“持続的深い鎮静” The Mainichi Medical Journal 2008; 4: 770-771.
30.
石風呂素子,藤田みさお.緩和ケアにおける精神的サポート.精神科臨床サービス 2008; 8: 283-287.
31.
藤田みさお.医学研究における倫理審査委員会.心理学ワールド 2009; 46: 26-27.
32.
Fujita M, Slingsby BT, Akabayashi A. Transplant tourism from Japan. American Journal of Bioethics 2010; 10(2): 24-6.
33.
Fujita M, Matsui K, Monden M, Akabayashi A. Attitudes of medical professionals and transplant facilities toward living donor liver
transplantation in Japan. Transplantation Proceedings 2010 (in press).
34.
Nagao N, Aulisio MP, Nukaga Y, Fujita M, Kosugi S, Youngner S, Akabayashi A. Clinical ethics consultation: Examining how American and
Japanese experts analyze an Alzheimer'’s case. BMC Medical Ethics 2008; 9: 2.
35.
Nagai H, Nukaga Y, Saeki K, Akabayashi A. Self-regulation of recombinant DNA technology in Japan in the 1970s. Historia Scientiarum 2009;
19: 1-18.
36.
伊吹友秀.ニューロエンハンスメントが医療として行われることの倫理的問題―医療化の問題を中心として.UTCP 脳神経倫理
学ブックレット 2010; 15: 11-135.
37.
伊吹友秀,呉正美,前田正一.医療事故初期対応フローチャート(その 2)未確立の手術の事例.医療事故・紛争対応研究会誌、
医療事故・紛争対応研究会 2008; 2: 53-60.
38.
伊吹友秀.薬物によるニューロエンハンスメント.脳神経倫理学の議論の動向(2008 年度) 2009: 4-29.
【著書】
1.
Akabayashi A, Kodama S, Slingsby BT. Biomedical Ethics In Asia: A Casebook for Multicultural Learners. McGraw-Hill (Asia), Singapore, 2010.
2.
Kodama S, Akabayashi A. Neither a “person” nor a “thing”: The controversy concerning the moral and legal status of human embryos in Japan.
In Bioethics and the Global Politics of Stem Cell Science: Medical Applications in a Pluralistic World (eds: Alastair V. Campbell and Benjamin J.
Capps, Imperial College Press, UK and World Scientific Publishing Co. Pte, Singapore, 2010 (in press).
3.
児玉聡.「第 16 章 医療の倫理」. In:千葉百子,松浦賢長,小林康毅編.『コンパクト公衆衛生学第4 版』,116-121.朝倉書
店;2008.
4.
児玉聡.「第 6 章 患者への説明・謝罪--英米の動向」. In:前田正一編.『医療事故初期対応』,79-87.医学書院;2008.
5.
児玉聡,島内明文.「第 4 章 自分を大切にするとはどういうことか」. In:加藤尚武,草原克豪編.『「徳」の教育論』,101-116.
芙蓉書房出版;2009.
6.
児玉聡(監訳).ノーマン・ダニエルズ,ブルース・ケネディ,イチロー・カワチ.『健康格差と正義』.勁草書房;2008.
7.
前田正一・児玉聡(監訳).D・ミカ・ヘスター.『病院倫理委員会と倫理コンサルテーション』.勁草書房;2009.
8.
慶長直人,松井健志.「臨床研究における倫理」.In:国立国際医療センター臨床研究研修コース編.『初期研修で身につけたい
臨床研究のエッセンス Vol. 2』,96-108.国立国際医療センター;2009.
9.
喜多義邦,岡村智教,松井健志.「コホート研究と個人情報の保護」. In:上島弘嗣編.『NIPPON DATA からみた循環器疾患の
エビデンス』,56-60.日本医事新報社;2008.
10.
洪賢秀,井上悠輔,武藤香織.「ヒト幹細胞研究における規制と倫理についての日本と世界の現状」.In:中辻憲夫,中内啓光監
修.梅澤明弘,末盛博文,高橋淳編.『再生医療の最前線 2010:ES・iPS・組織幹細胞の特性の理解と分化誘導,創薬・臨床応用
に向けた品質管理,安全性の基盤技術』,170-175.羊土社;2010.
11.
12.
井上悠輔.「生殖補助医療」.In:資料集生命倫理と法編集委員会編.『資料・生命倫理と法3』,209-226.信山社;2008.
島内明文(訳).シェリ・アルパート.「医療情報-守秘,アクセス,よい実践-」.In:ケネス・W・グッドマン編(板井孝壱
郎監訳).『医療 IT 化と生命倫理-情報ネットワーク社会における医療現場の変容-』,107-141.世界思想社;2009.
13.
田代志門.「中絶と胎児研究の倫理:全米委員会の議論をてがかりとして」.In:玉井眞理子,平塚志保編.『捨てられるいのち,
利用されるいのち:胎児組織の研究利用と生命倫理』,75-103.生活書院;2009.
14.
田代志門.「受け継がれていく生」.In:清水哲郎監修.岡部健,竹之内裕文編.『どう生き どう死ぬか:現場から考える死生
学』,227-244.弓箭書院;2009.
15.
諸岡了介,田代志門.「見える宗教 見えない宗教:超越性のダイナミズム」.In:早坂裕子,天田城介,広井良典編.『社会学
16.
瀧本禎之.「小児科学に関連した重要事項―インフォームドコンセント」.In:大関武彦,近藤直美総編集.内山聖ほか編.『小
17.
瀧本禎之.「小児科学に関連した重要事項―倫理」.In:大関武彦,近藤直美総編集.内山聖ほか編.『小児科学』,284-286.
のつばさ』,123-141.ミネルヴァ書房;2010.
児科学』,280-283.医学書院;2008.
医学書院;2008.
133
18.
吉江悟.「患者相談窓口の歴史的変遷と現状」.In:赤林朗編.『ケースブック患者相談』.医学書院;2010 (in press).
19.
藤田みさお.「第 11 章(1) 終末期介護における「死」の捉え方」.In:住居広士編.『こころとからだのしくみ(介護福祉士養成
20.
藤田みさお.「第 11 章(2) 終末期介護における「死」に対するこころの理解」.In:住居広士編.『こころとからだのしくみ(介
テキストブック 13)』,268-274.ミネルヴァ書房;2009.
護福祉士養成テキストブック 13)』,268-274.ミネルヴァ書房;2009.
21.
藤田みさお(訳).
「喪失のトラウマ」.In:George Fink 編.ストレス百科事典翻訳刊行委員会訳.
『ストレス百科事典』,1812-1815.
丸善;2010.
22.
伊吹友秀,児玉聡,前田正一.「医療事故被害者(患者・家族)の求め―紛争・訴訟化の要因」.In:前田正一編.『医療事故
初期対応』,71-78.医学書院;2008.
【報告書】
1.
児玉聡,伊吹友秀.iPS 細胞研究の倫理的問題について.平成 19 年度科学研究費補助金・基盤研究B(一般)No. 18320008.続・
生命倫理研究資料集―生命の尊厳をめぐるアメリカ対ヨーロッパの対立状況と対立克服の為の方法論的研究 2008; 276-279.
2.
井上悠輔.経済産業省委託事業((財)バイオインダストリ-協会),バイオ事業化に伴う生命倫理問題等に関する研究(ヒト幹
細胞の適正な活用を促進するための環境整備調査)報告書,2008 年 3 月.
3.
井上悠輔.科学技術試験研究委託事業「先端医科学研究に関する倫理的・法的・社会的課題についての調査研究(臨床応用を視
野に入れたゲノム研究の ELSI に関する調査研究)」(主任研究者:横野恵)2009 年 3 月.
4.
井上悠輔.UNGASS REPORT 等の報告書作成に必要な情報を収集・分析する研究(エイズ対策関連の法制度に関する国際比較研
究:ハームリダクションと薬物規制の刑事罰の運用).平成 20-21 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 報告書
(主任研究者:小池創一),2009 年 3 月.
5.
井上悠輔.UNGASS REPORT 等の報告書作成に必要な情報を収集・分析する研究(エイズ対策関連の法制度に関する国際比較研
究:ハームリダクションと薬物規制の刑事罰の運用).平成 20-21 年度 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 報告書
(主任研究者:小池創一)2010 年(in press).
6.
井上悠輔.経済産業省委託事業(三菱化学テクノリサーチ),バイオ事業化に伴う生命倫理問題等に関する研究(ヒト細胞等の
適正な活用を促進するための環境整備に関する調査研究),2010 年(in press).
7.
吉江悟(共同執筆).平成 19~20 年度東京都介護支援専門員研究協議会調査研究事業: 都内の市区町村におけるケアマネジメン
トサービス資源の実態把握およびニーズの将来予測に関する調査報告 2008 年 3 月.
8.
吉江悟(共同執筆).平成 19 年度神奈川県提案型協働事業 介護支援専門員生涯研修体系構築事業(実施団体: 川崎市介護支援専
9.
吉江悟(共同執筆).平成 20 年度厚生労働省老人保健事業推進費補助金(老人保健健康増進等事業分): 介護支援専門員に対す
10.
吉江悟(共同執筆).平成 21 年度東京都介護支援専門員研究協議会調査研究事業: 平成 21 年度介護報酬改定後の各種加算の請求
門員連絡会)報告書 2008 年 3 月.
るスーパービジョンのあり方に関する研究(実施団体: 日本ケアマネジメント学会) 調査報告書 2009 年 3 月.
実態と加算要件に対する認識に関する調査報告 2010 年 1 月.
11.
吉江悟(共同執筆).平成 21 年度厚生労働省老人保健事業推進費補助金(老人保健健康増進等事業分): 介護支援専門員に対す
るスーパービジョンのあり方に関する研究(実施団体: 日本ケアマネジメント学会) 調査報告書 2010 年 3 月.
12.
吉江悟(分担執筆).困難事例集(編集: 世田谷区地域福祉部介護保険課) 2010 年 3 月.
13.
伊吹友秀,児玉聡.長寿化を目指した先端医療技術の使用がもたらす倫理的・社会的問題―米国大統領生命倫理評議会報告書
『治療を超えて』の紹介と論点整理.平成 19 年度厚生科学研究費補助金(疾病・障害対策研究分野).長寿科学総合研究長寿科
学の推進に係るグランドデザインに関する研究 2008; 285-295.
【その他】
1.
赤林朗監修.DVD『研究倫理セミナー』.丸善;2009.
2.
赤林朗監修.DVD『世界の生命・医療倫理センター国際ネットワーク会議』.丸善;2009.
3.
児玉聡.iPS 細胞研究の倫理的問題について--「生命倫理アセスメント」の必要性.日本生命倫理学会ニューズレター 2009; 39: 2.
4.
児玉聡,前田正一.倫理コンサルテーション.『シルバー新報』(2009 年 2 月 13 日).
5.
田代志門.ホスピス・緩和ケア.In:清水哲郎監修.岡部健,竹之内裕文編.『どう生き どう死ぬか:現場から考える死生学』,
47.弓箭書院;2009.
134
6.
田代志門.安楽死.In:清水哲郎監修.岡部健,竹之内裕文編.『どう生き どう死ぬか:現場から考える死生学』,117.弓箭書
院;2009.
7.
田代志門.死のタブー化.In:清水哲郎監修.岡部健,竹之内裕文編.『どう生き どう死ぬか:現場から考える死生学』,140.
東京:弓箭書院;2009.
8.
田代志門.誰のための〈尊厳死〉? 生と死を考える福島の会 会報 2009; 33: 6-7.
9.
田代志門.レネー・C・フォックス著『生命倫理をみつめて:医療社会学者の半世紀』(文献紹介).In:小林多寿子編.『ライ
フストーリー・ガイドブック』.嵯峨野書院 (in press).
10.
吉江悟.意思決定を支援する 5: ミシガンの SW に学ぶ.『シルバー新報』( 2009 年 2 月 20 日).
11.
吉江悟,宮田裕章.意思決定を支援する 2: 医療行為の「代理決定」.『シルバー新報』(2009 年 1 月 30 日).
12.
吉江悟,有森直子.意思決定を支援する 1: 欧米で広がる「PDA」.『シルバー新報』(2009 年 1 月 23 日).
13.
有馬斉,児玉聡,井上祐輔.臓器移植法の改正―改正のポイントと残された論点―.じっきょう地歴・公民科資料(実教出版)2009;
69: 5-8.
14.
Fujita M, Kodama S, Akabayashi A. Ten years after the organ transplant act: Current situation in Japan. IAB News 2008; 20: 5.
15.
藤田みさお.座談会「ストレス研究における倫理とは」ストレス科学研究 2009; 24: 1-19.
【学会発表】
1.
児玉聡.百万人の死は、一人の死の何倍悪いか--道徳心理に関する近年の実証研究が功利主義に持つ含意.京都生命倫理研究会(京
2.
Kodama S. Neither a “person” nor a “thing”: The Controversy concerning the Moral and Legal Status of Human Embryos in Japan. Intercultural
都).2009 年 3 月 21 日.
perspectives in bioethics/LMU-TODAI Conference. (Munich, Germany) July 16-17, 2009.
3.
Matsui K, Abou-Zeid A, Zhang X, Muthuswamy V, Krohmal B, Kita Y, Wendler D, Lie RK. A multi-country survey of blanket consent for future
research on stored biological samples: What do the research and policy-making communities think? The 9th World Congress of Bioethics, Rijeka,
Croatia, September 3-8, 2008.
4.
高嶋直敬,喜多義邦,松井健志,Tanvir Chowdhury Turin,桂田富佐子,中村保幸,上島弘嗣.地域一般住民集団におけるPWV
5.
Matsui K, Turin TC, Kita Y. Do donors want to re-consent every time to the use of donated samples to a new research? Joint Conference:
と推定塩分摂取量との関連.第 8 回臨床血圧脈波研究会(東京).2008 年 6 月 7 日.
Harmonising Biobank Research: Maximising Value – Maximising Use. Organized by Promoting Hamonisation of Epidemiological Biobanks in
Europe (PHOEBE), Public Population Project in Genomics (P3G), and Biobanking and Biomolecular Resources Research Infrastructure (BBMRI).
(Brussels, Belgium) March 25-27, 2009.
6.
Matsui K, Turin TC, Kita Y. Donors’ views on the future return of individual research results in a population-based genetic cohort study. The
International Conference: New Challenges for Biobanks. Ethics, Law and Governance. Organized by GeneBanc. (Leuven, Belgium) May 18-20,
2009.
7.
松井健志,喜多義邦,高嶋直敬,中村保幸,杉原秀樹.疫学研究におけるヒト由来資料の継承に関するルール整備の必要性.第
8.
Matsui K. Re-framing the structure of ethics for epidemiological studies. Asian Bioethics Research Network Meeting Kyoto. Organized by the
9.
Takashima N, Kita Y, Tabara Y, Turin TC, Miki T, Matsui K, et al. Genotype of C-reactive protein affects Serum high sensitivity C-reactive protein
19 回日本疫学会学術総会(金沢).2009 年 1 月 23 日.
National Institutes of Health of USA, the University of Bergen, Kyoto University and the University of Tokyo (Kyoto, Japan) 13-14 January, 2010.
levels but does not affect the pulse wave velocity: the Takashima Study. The Joint Scientific Meeting of IEA Western Pacific Region and Japan
Epidemiological Association (Saitama, Japan) 9-10 January, 2010.
10.
Hotta Y, Abe A, Matoba K, Arima H. The importance of social support in decision making regarding terminal care―What ALS patients in Japan
11.
安部彰,佐藤静,有馬斉.ケアの社会化を再考する.第 7 回日本福祉社会学会(名古屋).2009 年 6 月 7 日.
12.
佐藤静,有馬斉,安部彰.ケアワークにおける諸問題の再検討―ケアの倫理を手がかりに―.第 7 回日本福祉社会学会(名古屋).
13.
島内明文.スミスの道徳感情説における共同性の問題-ヒュームとの比較を軸にして-.関西倫理学会大会(京都)2008 年 11 月
can teach us―. 11th Congress of the European Association of Palliative Care. (Vienna, Austria) May 9, 2009.
2009 年 6 月 7 日.
2 日.
14.
田代志門.日本の臨床試験をめぐる法と倫理.特別セミナー:臨床試験における患者の思いと DIPEx(東京).2009 年 7 月 23
日.
135
15.
田代志門.お迎え体験と日本人の死生観.第 8 回元気と病気の間研究会(東京).2009 年 8 月 17 日.
16.
田代志門.人間の死生と世代継承性:在宅緩和ケアの現場から.第 14 回生命の哲学研究会(東京).2009 年 10 月 24 日.
17.
Tashiro T. How can we distinguish research from medical practice?: the Belmont Report revisited. Asian Bioethics Network Meeting in Kyoto
(Kyoto, Japan) January 13-14, 2010.
18.
田代志門.死者との邂逅:在宅緩和ケアにおける〈お迎え〉体験の諸相.サファリングとケアの人類学的研究 2009 年度第三回共
同研究会(大阪).2010 年 2 月 13-14 日.
19.
榊原章人,阿部篤子,萩原偉彦,吉江悟,瀧本禎之.文書での謝罪を求める患者への対応.第 4 回医療事故・紛争対応研究会年
20.
Sugawara I, Murayama H, Yoshie S, Wakui T, Arami R. Generational differences of community attachment and community activity
次カンファレンス(神戸). 2009 年 12 月 19 日.
participation: Study in a suburban city of Tokyo. The Gerontological Society of America 62nd Annual Scientific Meeting ( Atlanta, USA)
November 21, 2009.
21.
村山洋史,菅原育子,涌井智子,荒見怜子,吉江悟.ソーシャルキャピタルと居住地区環境―柏市民調査の結果から(第 1 報)―.
22.
涌井智子,荒見怜子,村山洋史,菅原育子,吉江悟.ソーシャルキャピタルと介護意識―柏市民調査の結果から(第 2 報)―.第
第 68 回日本公衆衛生学会総会(奈良).2009 年 10 月 22 日.
68 回日本公衆衛生学会総会(奈良).2009 年 10 月 22 日.
23.
荒見玲子,村山洋史,吉江悟,涌井智子,菅原育子.地域の保健福祉組織への信頼の規定要因―柏市民調査の結果から(第 3 報)
24.
榊原章人,阿部篤子,萩原偉彦,吉江悟,瀧本禎之,前田正一,赤林朗.A 特定機能病院の患者相談・臨床倫理センターにおけ
―.第 68 回日本公衆衛生学会総会(奈良).2009 年 10 月 22 日.
る相談対応 第 1 報―2008 年度対応実績より―.第 47 回日本医療・病院管理学会学術総会(東京).2009 年 10 月 18 日.
25.
吉江悟,瀧本禎之,阿部篤子,榊原章人,萩原偉彦,前田正一,赤林朗.A 特定機能病院の患者相談・臨床倫理センターにおけ
る相談対応 第 2 報―患者相談部門スタッフによる診療場面等への「同席」の意義と課題―.第 47 回日本医療・病院管理学会学術
総会(東京).2009 年 10 月 18 日.
26.
飯塚哲男,奥田亜由子,神谷良子,近藤明美,齊藤眞樹,白木裕子,吉江悟,吉谷敬,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 1 報―スーパービジョンに関する調査項目の作成―.第 8 回日本ケアマネジメン
ト学会研究大会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
27.
吉谷敬,飯塚哲男,奥田亜由子,神谷良子,近藤明美,齊藤眞樹,白木裕子,吉江悟,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 2 報―スーパービジョンに対する重要性の認識―.第 8 回日本ケアマネジメント
学会研究大会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
28.
神谷良子,飯塚哲男,奥田亜由子,近藤明美,齊藤眞樹,白木裕子,吉江悟,吉谷敬,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 3 報―スーパービジョンの提供・受領実態―.第 8 回日本ケアマネジメント学会
研究大会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
29.
齊藤眞樹,飯塚哲男,奥田亜由子,神谷良子,近藤明美,白木裕子,吉江悟,吉谷敬,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 4 報―スーパービジョン技術の習得―.第 8 回日本ケアマネジメント学会研究大
会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
30.
奥田亜由子,飯塚哲男,神谷良子,近藤明美,齊藤眞樹,白木裕子,吉江悟,吉谷敬,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 5 報―熟達者向けフォーカスグループインタビュー―.第 8 回日本ケアマネジメ
ント学会研究大会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
31.
吉江悟,飯塚哲男,奥田亜由子,神谷良子,近藤明美,齊藤眞樹,白木裕子,吉谷敬,野中猛,前沢政次.介護支援専門員に対
するスーパービジョンのあり方に関する研究 第 6 報―スーパービジョンの定義についての認識―.第 8 回日本ケアマネジメント
学会研究大会(横浜).2009 年 6 月 20 日.
32.
吉江悟,宮田裕章,甲斐一郎.一般中高年者とその重要他者の延命治療に対する意向の一致度.第 67 回日本公衆衛生学会総会(福
岡).2008 年 11 月 6 日.
33.
吉江悟,栗原直美,大川潤一,立野麻衣子,牧野雅美.都内の居宅介護支援事業所における指導検査に関する実態調査報告.第 7
回日本ケアマネジメント学会研究大会(熊本).2008 年 7 月 25 日.
34.
真柄予右子,木村綾,齋藤美子,田上真弓,吉江悟.ICU と回復期リハビリテーション病棟の看護業務調査: TNS (Toranomon
Nursing System) 改訂に向けて.第 57 回共済医学会総会(横浜).2008 年 10 月 7 日.
35.
Fujita M. Models of donors’ decision making in living donor liver transplantation in Japan. Young scholars’ workshop on medical ethics/2008
Carnegie Uehiro Oxford Conference. (Oxford, UK) December 10-12, 2008.
136
36.
Fujita M. Terminal care and ethics consultation in Japan. Intercultural perspectives in bioethics/LMU-TODAI Conference. (Munich, Germany)
July 16-17, 2009.
37.
Fujita M. Models of donors’ decision making in living donor liver transplantation in Japan. Intercultural perspectives in bioethics/LMU-TODAI
Conference. (Munich, Germany) July 16-17, 2009.
38.
伊吹友秀,児玉聡.エンハンスメントと医療化に関する生命倫理学的考察.第21回日本生命倫理学会(神奈川).2009年11月
14-15日.
39.
伊吹友秀,児玉聡.長寿エンハンスメントをめぐる近年の医療倫理学上の論争状況についての検討.第 20 回日本生命倫理学会(福
40.
Ibuki T. Conceptual and moral difference between "enhancement" and its related concepts. 2nd Horiba-GABEX International Conference:
岡).2008 年 11 月 29-30 日.
Facing the Global Challenges in Bioethics. (Tokyo, Japan) January 9-10, 2010.
【研究助成】
1.
赤林朗.「BMI を中心とした脳科学研究に対する倫理審査手法の開発」平成20-22 年度 脳科学研究戦略推進プログラム(課題B
研究代表者:赤林朗)77,235 千円
2.
赤林朗.倫理コンサルテーションについての基礎的研究.平成 20-22 年度 科学研究費補助金(基盤研究(C)21590555 研究代
表者:赤林朗)3,600 千円
3.
児玉聡(研究分担者).「生命の尊厳をめぐるアメリカ対ヨーロッパの対立状況と対立克服のための方法論的研究」平成 18 年度
科学研究費補助金(基盤研究(B)18320008 研究代表者:盛永審一郎 12,200 千円)
4.
児玉聡(研究分担者).パブリックヘルス・エシックス(公衆衛生倫理学)についての基礎的研究.」平成 20 年度 科学研究費
補助金(基盤研究(C)18590487 研究代表者:赤林朗 4,160 千円)
5.
児玉聡(研究分担者).生命・環境倫理における「尊厳」・「価値」・「権利」に関する思想史的・規範的研究.平成 20 年度 科
学研究費補助金(基盤研究(B)20320004 研究代表者:盛永審一郎 13,130 千円)
6.
児玉聡.「功利主義 VS 直観主義」論争の変遷と現代倫理学における直観の方法論的意義の解明.平成 21 年度 科学研究費補助
金(若手研究(B)21720005 研究代表者:児玉聡)390 千円
7.
松井健志.医学研究におけるヒト資料・利益・補償負担の公正分配に関する実証的 ELSI 研究.平成 19-22 年度 科学研究費補助
金(基盤研究(C)19602001 研究代表者:松井健志)4,420 千円
8.
松井健志.循環器疾患発症の長期推移と地域のリスク要因の推移との関連に関する研究.平成 20-24 年度 科学研究費補助金(基
盤研究(B)20390184 研究代表者:喜多義邦 20,000 千円)
9.
田代志門.医薬品規制システムの社会学的研究.平成 21-22 年度 科学研究費補助金(若手研究(スタートアップ)21830031 研
究代表者:田代志門)2,078 千円
10.
吉江悟.意思決定支援看護学の体系化に関する基礎的研究.平成 21 年度 文部科学省科学研究費補助金(若手研究(B) 21792170
研究代表者:吉江悟)1,560 千円
11.
吉江悟(連携研究者).女性のリプロダクション健康課題の意思決定支援教育コンソーシアムとプログラム検証.平成 20-21 年度
文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B)90218975 研究代表者:有森直子 10,530 千円)
12.
吉江悟(共同研究者).超高齢社会対応の移動に関する調査研究.平成 20 年度 東京大学 AGS 研究会研究助成(研究代表者: 鎌
田実)
13.
井上悠輔.バイオエシックスの動態把握のための計量書誌手法の導入に関する研究.平成 21-22 年度 科学研究費補助金(若手研
究(B)21790493 研究代表者:井上悠輔)1,500 千円.
14.
井上悠輔.東アジアの生命倫理政策に関する学際的研究.平成 21 年度 サントリー文化財団(研究代表者:井上悠輔)1,000 千
円.
15.
有馬斉.道徳判断の正当化において感情が果たす役割に関する研究. 平成 21-22 年度 科学研究費補助金(若手研究(スタートア
ップ)21820006 研究代表者:有馬斉)2,374 千円
16.
有馬斉.尊厳死・安楽死の規範理論に関する学際的研究.平成 21 年度 ファイザーヘルスリサーチ振興財団研究助成金.国内共
同研究満 39 歳以下 1,000 千円
17.
島内明文.「社交」と「感情」の哲学的・倫理学的総合研究.平成 21-23 年度 科学研究費補助金 (若手研究(B)21720006
18.
藤田みさお.生体肝移植ドナーの予後に関する質的研究.平成 19-20 年度 科学研究費補助金(若手研究(B)19790372 研究代
研
究代表者:島内明文)1,600 千円
表者:藤田みさお) 2,070 千円
137
19.
伊吹友秀.エンハンスメントの普及が「医療の目的」に与える影響に関する医療倫理学的研究.平成 20-21 年度 科学研究費補助
金(特別研究員奨励費 08J56231 研究代表者:伊吹友秀)600 千円
【海外出張】
1.
2.
赤林朗. Intercultural perspectives in bioethics/LMU-TODAI Conference. (ドイツ,ミュンヘン)2009 年 7 月 16-17 日.
児玉聡.生命倫理研究所(Ethox)訪問および今後の共同研究について意見交換.(イギリス,オックスフォード)2009 年 1 月 31 日
-2 月 6 日.
3.
児玉聡.Intercultural perspectives in bioethics/LMU-TODAI Conference. (ドイツ,ミュンヘン)2009 年 7 月 16-17 日.
4.
松井健志.The Workshop of Retreat on Risk Assessment in Biomedical Research.(アメリカ,メリーランド)2009 年 1 月 9-17 日.
5.
松井健志.ヒト資料を利用・保存する医学研究における,ヒト資料から生じる知的財産,ヒト資料の所有権等をめぐる公正な配
6.
松井健志.Workshop on Ethical and Regulatory Issues in Global Pediatric Trials.(アメリカ,ワシントン)2009 年 9 月 16-24 日.
7.
井上悠輔.GENEBANC:Genetic bio and data Banking: Confidentiality and protection of data. Towards a European harmonisation and
分の在り方に関する発展途上国の研究者の意識についての聞き取り調査.
(バングラデッシュ,ダッカ)2009 年 11 月 15 日-26 日.
policy.(ベルギー,リューベン)2009 年 5 月 17-21 日.
8.
田代志門.International Conference on Clinical Research Ethics.(シンガポール)2009 年 4 月 22-24 日.
9.
藤田みさお.Young scholars’ workshop on medical ethics/2008 Carnegie Uehiro Oxford Conference.(イギリス,オックスフォード)2008
10.
藤田みさお.Intercultural perspectives in bioethics/LMU-TODAI Conference.(ドイツ,ミュンヘン)2009 年 7 月 14-20 日.
11.
伊吹友秀.Monash University.(オーストラリア,メルボルン)2009 年 7 月 14 日-10 月 3 日.
年 12 月 10-12 日.
2.
社会・教育活動
【学会における活動】
1.
赤林朗.日本生命倫理学会常務理事
2.
赤林朗.日本医学哲学・倫理学会監事
3.
赤林朗.科学技術・学術審議会,生命倫理・安全部会委員(文部科学省)
4.
Akabayashi A. BMC Medical Ethics, Associate Editor
5.
Akabayashi A. Journal of Medical Ethics (from BMJ Journal Publishing Group)(2000-2009)
6.
Akabayashi A. Cambridge Quarterly of Healthcare Ethics (from Cambridge University Press)
7.
Akabayashi A. Asian Bioethics Review, Consulting Editor
8.
赤林朗.生命倫理(日本生命倫理学会誌),編集委員長
9.
児玉聡.日本生命倫理学会,評議員
10.
児玉聡.日本生命倫理学会,編集委員
11.
児玉聡.日本生命倫理学会,第 20 回大会実行委員
12.
吉江悟.平成 20~21 年度 日本ケアマネジメント学会 介護支援専門員に対するスーパービジョンのあり方に関する研究班 調査
研究部会 委員
13.
藤田みさお.日本心身医学会 代議員,倫理委員会委員
14.
藤田みさお.死の臨床研究会,編集委員
15.
藤田みさお.日本家族性腫瘍学会,「日本家族性腫瘍学会の症例報告投稿規程検討WG」委員(2008年まで)
【社会活動】
1.
Akabayashi A. International Advisory Board, Oxford Uehiro Centre for Practical Ethics
2.
Akabayashi A. The Fellow of The Hastings Center
3.
松井健志.東京女子医科大学,倫理委員会,外部委員
138
4.
松井健志.国立成育医療センター,治験審査委員会, 外部委員
5.
松井健志.The Open Ethics Journal(an Editor)
6.
松井健志.Bio Science Trends(an Editor)
7.
井上悠輔.平成 21 年度 経済産業省委託「生命倫理検討事業」専門家委員会,委員
8.
田代志門.国立病院機構仙台医療センター,治験審査委員会,外部委員
9.
田代志門.国立病院機構仙台医療センター,倫理委員会,外部委員
10.
吉江悟.平成 20-22 年度 特定非営利活動法人,東京都介護支援専門員研究協議会,理事
11.
吉江悟.平成 21 年度 東京都 在宅医療サポート介護支援専門員研修,カリキュラム検討委員会 作業部会,委員
12.
吉江悟.平成 21 年度 世田谷区地域福祉部介護保険課,困難事例集作成研究会,監修
13.
吉江悟.平成 21 年度 財団法人パブリックヘルスリサーチセンター,Japan Public Outreach Program (JPOP) 学術小委員会,委員
14.
藤田みさお.筑波大学 医の倫理委員会(ヒトゲノム・遺伝子解析・疫学研究),委員
【他大学における講義等】
≪2008年≫
1.
Matsui K. Informed consent in research. The 7th International Course on Research Ethics. Organized by Nagasaki Forum on Medical Research
Ethics, in cooperation with The Institute of Tropical Medicine Nagasaki University, The US National Institutes of Health, The University of
Bergen Norway, The University of Tokyo, The Forum for Ethical Review Committees in Asia and the Western Pacific Region (FERCAP), and
World Health Organization/The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (WHO/TDR). Nagasaki, Japan, June 30 –July
2, 2008.
2.
Wendler D, Matsui K. Research with biological samples. The 7th International Course on Research Ethics. Organized by Nagasaki Forum on
Medical Research Ethics, in cooperation with The Institute of Tropical Medicine Nagasaki University, The US National Institutes of Health, The
University of Bergen Norway, The University of Tokyo, The Forum for Ethical Review Committees in Asia and the Western Pacific Region
(FERCAP), and World Health Organization/The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (WHO/TDR). Nagasaki,
Japan, June 30 –July 2, 2008.
3.
Matsui K. Blanket consent: What do guidelines say? What do data show? The International Conference on Clinical Research Ethics in Tokyo
2008. Organized by Research Institute of National Cancer Center Japan. Tokyo, Japan, June 20, 2008.
4.
松井健志.倫理委員の育成.生命倫理学シンポジウム「医学研究における倫理素養の醸成」(東海大学,東京) 2009 年 2 月 22 日.
5.
松井健志.倫理委員育成の試み.第 192 回衛生・公衆衛生合同ゼミナール「社会医学研究と倫理」(順天堂大学,東京)2009 年
2 月 17 日.
6.
松井健志.臨床研究に関する倫理について.平成 20 年度 臨床試験に関する講習会(第 2 回).社会的ニーズに対応した質の高
い医療人養成推進プログラム「大学院融合型 OJT による臨床試験人材養成」,「新たな治験活性化5か年計画」における治験拠
点医療機関事業(群馬大学医学部附属病院,前橋)2009 年 1 月 29 日.
7.
井上悠輔.早稲田大学社会科学部「医療と法」2007-2008 年度.
8.
藤田みさお.横浜労災病院「医療における倫理の ABC」2008 年 5 月 26 日.
9.
藤田みさお.国立循環器病センター「倫理的な研究とは」2008 年 7 月 23 日.
10.
藤田みさお.国立循環器病センター「研究者の責務」2008 年 8 月 27 日.
11.
藤田みさお.横浜労災病院「看護倫理研修」2008 年 9 月 20 日.
12.
藤田みさお.荏原病院「医療倫理研修」2008 年 10 月 23 日.
13.
藤田みさお.富士見市健康管理センター「リラクゼーション講座」2008 年 11 月 17 日,12 月 24 日,2009 年 1 月 14 日,2 月 26
日,3 月 4 日,3 月 30 日.
14.
藤田みさお.埼玉県立大学ホスピスケア認定看護師課程「臨床倫理」2008年10月20日,27日,11月10日.
15.
藤田みさお.東京農工大学大学院技術経営研究科「生命倫理学」2008年10月21日,28日,11月4日.
16.
伊吹友秀.東京厚生年金看護専門学校「公衆衛生」2008 年 9 月 1 日‐2009 年 3 月 31 日.
≪2009 年≫
1.
Matsui K. Attitudes of sample donors towards genetic epidemiological research: Empirical findings in the Takashima study. International
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University Graduate School of Biostudies. Kyoto, Japan, December 7, 2009.
139
2.
Matsui K. Principles of research ethics. Diploma course on research & development of products to meet public health needs. Organized by
Institute of Tropical Medicine (NEKKEN), Center for International Collaborative Research (CICORN), Nagasaki University, Japan and Faulty of
Allied Health Sciences, Thammasat University, Thailand in cooperation with Graduate School of Pharmaceutical Science, University of Tokyo,
Japan, Chulalongkorn University, and Khon Kaen University, Thailand. Supported by Nagasaki University and UNICEF-UNDP-World BankWHO Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (TDR). Nagasaki, Japan, November 12, 2009.
3.
Matsui K. Ethical issues of research on stored samples. The 8th International Course on Research Ethics. Organized by Nagasaki Forum on
Medical Research Ethics, in cooperation with The University of Bergen, The National Institutes of Health of USA, Nagasaki University, The
University of Tokyo Center for Biomedical Ethics and Law, The Forum for Ethical Review Committees in Asia and the Western Pacific Region
(FERCAP), and The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (TDR). Nagasaki, Japan, June 29 –July 1, 2009.
4.
Matsui K. Informed consent in research. The 8th International Course on Research Ethics. Organized by Nagasaki Forum on Medical Research
Ethics, in cooperation with The University of Bergen, The National Institutes of Health of USA, Nagasaki University, The University of Tokyo
Center for Biomedical Ethics and Law, The Forum for Ethical Review Committees in Asia and the Western Pacific Region (FERCAP), and The
Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases (TDR). Nagasaki, Japan, June 29-July 1, 2009.
5.
Matsui K. Research ethics reviews and capacity building attempts in Japan: Existing structures & emerging issues. International Conference on
Clinical Research Ethics, Singapore. Organized by National University of Singapore, The US National Institutes of Health, WHO Southeast Asia
and Western Pacific Regional Offices. Singapore, April 22-24, 2009.
6.
Matsui K. Access to samples and publication rights: Survey results. International Conference on Clinical Research Ethics, Singapore. Organized
by National University of Singapore, The US National Institutes of Health, WHO Southeast Asia and Western Pacific Regional Offices.
Singapore, April 22-24, 2009.
7.
Matsui K. Issues on international access to stored samples: Results of an international opinion survey. International Conference on Clinical
Research Ethics. Organized by The Southeast Asia Infectious Disease Clinical Research Network (SEAICRN). Ho Chi Minh City, Viet Nam, April
20-22, 2009.
8.
Matsui K. Informed consent: Implications from data on a Japanese epidemiological study. International Conference on Clinical Research Ethics.
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9.
Matsui K. Issues on international access to stored samples: Results of an international opinion survey. Workshop on Advanced Clinical
Research Ethics. University of the Philippines, Diliman, Quenzon City, Philippines, April 16-17, 2009.
10.
松井健志. 成育臨床研究セミナー(基礎編)「医師のプロフェッショナリズム」(国立成育医療センター, 東京)2009 年 12 月 18
日.
11.
松井健志. 臨床研究推進セミナー「研究倫理の基本的な考え方」(徳島大学病院,徳島)2009 年 12 月 14 日.
12.
松井健志. 第 4 回臨床研究開発部主催臨床研究セミナー「臨床研究の倫理と研究者の責務」(国立循環器病センター,茨木)2009
13.
松井健志. 第 1 回東京女子医科大学研究倫理セミナー「研究倫理の基本的な考え方」(東京女子医科大学,東京)2009 年 10 月 5
年 10 月 28 日.
日.
14.
松井健志.平成 21 年度医学総合研究特論(大学院特別講義)集中講義/平成 21 年度実験実習支援センター特別講習会「臨床研
究に求められる倫理性とは何か,そしてどのように確保するか(臨床研究倫理指針の改定に合わせて)」(滋賀医科大学,大津)
2009 年 9 月 1 日.
15.
松井健志. 第 1 回研究倫理セミナーin 長崎「研究倫理の基本的な考え方」(長崎大学熱帯医学研究所,長崎)2009 年 6 月 28 日.
16.
有馬斉.東京学芸大学付属高校「脳死と臓器移植に関する倫理的問題について」 2009 年 10 月 9 日.
17.
井上悠輔.滋賀医科大学「ヒト試料の研究利用の倫理に関する諸問題」2009 年 9 月 1 日.
18.
田代志門.国立病院機構仙台医療センター地域医療研修センター講演会「研究倫理ガイドラインの近年の動向」2009 年 2 月 12
日.
19.
田代志門.静岡大学「臨床死生学」2009 年 7 月 10 日.
20.
田代志門.神奈川県立保健福祉大学実践教育センター「高齢者と死への準備」2009 年 9 月 1 日.
21.
田代志門.ノートルダム清心女子大学「倫理学Ⅲ」(集中講義)2009 年 9 月 3-8 日.
22.
田代志門.第 5 回哲学サロン「死生学」って何?「お迎え体験と看取りの文化」(仙台)2009 年 5 月 23 日.
23.
田代志門.生と死を考える福島の会 2009 年度第 1 回定例会「誰のための〈尊厳死〉?」(福島)2009 年 6 月 20 日.
24.
田代志門.第 1 回 研究倫理セミナー in 長崎「研究倫理ガイドラインの近年の動向」(長崎大学熱帯医学研究所,長崎)2009 年
6 月 28 日.
140
25.
Tashiro S. Distinction between research and clinical care. 8th Nagasaki International Course on Research Ethics, Nagasaki, Japan, June 29, 2009.
26.
田代志門.第 1 回東京女子医科大学研究倫理セミナー「研究倫理ガイドラインの近年の動向」(東京女子医科大学,東京)2009
27.
Tashiro S. Case study: Malarone trial in Indonesia, diploma course on research & development of products to meet public health needs,
年 10 月 5 日.
Nagasaki, Japan, November 11-12, 2009.
28.
田代志門.徳島大学病院臨床研究推進セミナー「研究倫理ガイドラインの近年の動向」(徳島大学病院,徳島)2009 年 12 月 14
日.
29.
田代志門.鹿児島大学病院治験推進セミナー「研究倫理ガイドラインの動向:『臨床研究に関する倫理指針』を中心に」(鹿児
島大学,鹿児島)2010 年 2 月 19 日.
30.
吉江悟.目白大学大学院看護学研究科「看護倫理特論」2009 年 9 月~2010 年 2 月(全 15 回).
31.
吉江悟.財団法人東京都保健医療公社 荏原病院「医療倫理に関する概論」2010 年 2 月 17 日.
32.
藤田みさお.埼玉県立大学ホスピスケア認定看護師課程「臨床倫理」2009年10月26日,11月2日,11月9日.
33.
藤田みさお.東京農工大学大学院技術経営研究科「生命倫理学」2009年10月12日,11月10日,12月15日.
34.
藤田みさお.横浜労災病院「医学研究の倫理」2009 年 2 月 2 日.
35.
藤田みさお.平成 21 年度 医療事故・紛争対応人材養成講座「コミュニケーション」2009 年 10 月 12 日.
36.
藤田みさお.富士見市健康管理センター「リラクゼーション講座」2009 年 5 月 25 日,2010 年 1 月 28 日,3 月 3 日.
37.
伊吹友秀.東京厚生年金看護専門学校「公衆衛生」2009 年 9 月 1 日‐2010 年 3 月 31 日.
38.
伊吹友秀.城西国際大学薬学部「医療倫理」2009 年 4 月 1 日‐8 月 31 日.
39.
伊吹友秀.マードック大学インターナショナルスタディセンタージャパン「倫理と法律」2009 年 9 月 1 日‐2010 年 3 月 31 日.
40.
中田亜希子.(財)医薬情報担当者教育センター 第 12 回センターミーティング「MR 継続教育の倫理教育に関する調査結果―セン
ター登録企業 214 社へのアンケート調査から―」2010 年 2 月 16 日(東京),2010 年 2 月 19 日(大阪).
41.
中田亜希子.日本製薬工業協会 プロモーション部会講演会「MR 継続教育の倫理教育に関する調査結果―センター登録企業 214
社へのアンケート調査から―」2010 年 2 月 22 日.
3.
教材開発等
【教科書】
2008-2009 年度は、GABEX 国際会議における多国間の対話を通して、生命・医療倫理の領域でも、
日本・アジアにおける地域的な価値と、すべての文化圏に通底する普遍的な価値から構成される実践・
制度が可能であることが示唆され、それがすなわち世界標準の生命・医療倫理を意味するという知見
が得られた。その世界標準を示す一例として、多文化圏のアジアで使用可能な英語による生命・医療
倫理の教科書(Biomedical Ethics in Asia: A Casebook for Multicultural Learners)を出版した(下図左)。
また、臨床倫理に関しては、本学医学部附属病院内の患者相談・臨床倫理センターとの連携を通じ
て得られた知見と、短期集中コースで全国から集まった受講生との事例検討をもとに、『ケースブッ
ク患者相談』を出版した(下図右)。
141
(左:Biomedical Ethics in Asia: A Casebook for Multicultural Learners 表紙、右:ケースブック患者相談表紙)
【DVD】
世界の生命・医療倫理研究センターとの交流を目的に、2009 年 3 月東京で開催された第 1 回 GABEX
国際会議の模様を、2009 年に「世界の生命・医療倫理センター国際ネットワーク会議(全 1 巻(6 DVD
discs)296 分)」(赤林朗(監))として丸善より出版した(下図左)。
東京大学大学院医学系研究科・医学部でヒトを対象とした研究に係わる者を対象に実施している
「研
究倫理セミナー」の模様を、2009 年 3 月に「研究倫理セミナー―東大における研究倫理教育の実例(全
1 巻 127 分)」(赤林朗(監))として丸善より出版した(下図右)。
(左:世界の生命・医療倫理センター国際ネットワーク会議表紙、右:研究倫理セミナー表紙)
142
次世代型生命・医療倫理学の構築 2008-2009
発行年月
平成 22 年 6 月
連絡先
東京大学大学院 医学系研究科 生命・医療倫理教育研究センター
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
03-5841-1106(電話)/03-5841-1107(FAX)
Ⓒ 生命・医療倫理教育研究センター:The University of Tokyo Center for Biomedical Ethics and Law(CBEL)2010 .
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