アメリカ合衆国における 第三国定住プログラムよって受け入れられた 難民及び庇護申請者等 に対する支援状況調査報告 平成17(2005)年9月 (財)アジア福祉教育財団 −1− 難民事業本部 目 次 調査概要 I.調査の目的 ········································································· 1 Ⅱ.調査の実施概要 ····································································· 1 調査結果 要約 ··················································································· 3 I.難民受入政策 ······································································ 6 1.概要 ············································································· 6 2.米国の難民政策 ··································································· 6 (1)難民の定義 ····································································· 6 (2)米国の難民受入政策の特徴 ······················································· 8 (3)政策立案過程 ··································································· 9 (4)予算措置 ······································································· 10 3.歴史的背景 ∼米国の難民受入政策の歴史的経緯∼ ··································· 11 (1)Displaced Persons Act of 1948(避難民法) ······································ 11 (2)Refugee Relief Act of 1953 ····················································· 11 (3)Hungarian Parole Program (ハンガリー人に対する臨時入国許可プログラム) ····································· 11 (4)Refugee Escapee Act of 1957 ···················································· 12 (5)「移民・国籍法」の改正(1965年) ················································ 12 (6)インドシナ難民問題の深刻化とその対応 ··········································· 12 (7)Refugee Act of 1980 (1980年難民法) ············································· 12 4.米国難民受入事業をめぐる最近の動向 ··············································· 13 (1)2005年度の政策方針 ····························································· 13 (2)今後の政策方針 ································································· 13 Ⅱ.庇護制度 ········································································· 15 1.はじめに ········································································· 15 2.クオータ難民の受入れ ····························································· 15 (1)実施機関 ······································································· 15 (2)受入対象者 ····································································· 17 −2− (3)受入実施過程 ··································································· 18 3.国内認定者の受入れ(国内における庇護審査制度) ··································· 19 (1)実施機関 ······································································· 19 (2)認定手続 ······································································· 20 Ⅲ.庇護申請者に対する支援 ························································· 22 1.概要 ············································································· 22 2.支援内容 ········································································· 22 (1)住居 ··········································································· 22 (2)言語教育 ······································································· 22 (3)就労 ··········································································· 22 (4)法的支援 ······································································· 22 Ⅳ.クオータ難民及び国内認定者等に対する支援 ····································· 23 1.概要 ············································································· 23 2.支援内容 ········································································· 23 (1)到着及び入国直後のプログラム(Resettlement and Placement Program) ············· 23 (2)中・長期的(原則5年以内)定住支援 ············································· 23 3.カリフォルニア州における定住支援 ················································· 26 (1)カリフォルニア州の難民定住概況 ················································· 26 (2)定住支援実施機関及び管轄プログラム ············································· 26 (3)支援内容 ······································································· 27 −3− 調 査 概 要 Ⅰ.調査の目的 アメリカ合衆国における難民受入政策を調査すると共に、第三国定住プログラムによ って受け入れられた難民及び庇護申請者等に対する言語教育や就職斡旋等の具体的措置 とその運用実態を調査し、わが国の難民定住支援策及び難民事業本部の事業に資する事 を目的とした。 Ⅱ.調査の実施概要 1.調査実施期間 平成 17 年5月 23 日(月)∼27 日(金)(5日間) 2.調査対象国 アメリカ合衆国 3.調査員 (1)アジア福祉教育財団 難民事業本部 本部長 福 川 正 浩 (2)アジア福祉教育財団 難民事業本部 援護課職員 廣 野 富美子 (3)国際移住機関 駐日代表補佐 上 野 真由美 (4)葦の会 事務局長(調査当時) 鯉 田 哲 子 以上4名 4.調査方法 調査国の政府機関及びNGO等の事務所及び施設を訪問し、関係者からの聴取及び 視察調査を行った。 5.訪問先及び面談者 5月 23 日(月)①在アメリカ合衆国日本大使館 面談者:山本忠通公使 ②保健・福祉省難民再定住室 (The Office of Refugee Resettlement, Department of Health and Human Services) 面談者:Nguyen Van Hanh 氏(Director) Ron Munia 氏 Paul E. Gleason 氏(Program Specialist, Immigration) 他 ③国務省人口・難民・移住局 (Bureau of Population, Refugees and Migration, Department of State) 面談者:Jessica Warden Yutacom 氏(Program Director)他 24 日(火)①国土安全保障省市民権・移民サービス局 (Citizenship and Immigration Services, Department of Homeland Security) 面談者:Todd E. Gardner 氏(Immigration Officer) −1− Ted Kim 氏(Asylum Officer) ②Arlington Diocese Office of Refugee Resettlement 面談者:Seyoum Berhe 氏(Director) Ahmed. I. Abdalla 氏(Information Specialist) Dawn Kuras 氏(Refugee Housing Coordinator)他 25 日(水)①Refugee Council of USA (RCUSA)構成団体との円卓会議 面談者:Maz Niedzwiecki 氏(Southeast Asia Resource Action Center, RCUSA代表) Berta Romero 氏 (RCUSA事務局) Lynette Engelhardt Stott 氏(Lutheran Immigration and Refugee Service)他 ②国際移住機関(IOM)ワシントン事務所 面談者:Frances E. Sullivan 氏 (ワシントン事務所及び北 米・カリブ地域代表) Mike Gray 氏(ニューヨーク事務所代表) 26 日(木)①Vietnamese Youth Development Center 面談者:Judy Young 氏(Program Director) Suong Vou 氏 (Health Educator) ②在サンフランシスコ日本総領事館 面談者:山中誠総領事 ③Asian Community Mental Health Services 面談者:Ito Ineko 氏(Supervisor) 27 日(金)①Sacramento Lao Family Community, Inc. 面談者:Xia Kao Vang 氏(Executive Director) ②Grant Adult Education Center (Joint Union High School District) 面談者:Srirat McLennan 氏(Program Coordinator) ③カリフォルニア州社会福祉省難民プログラム局 (California Department of Social Services)及び民間難民支 援団体等との円卓会議 面談者:Venus Garth 氏(カリフォルニア州社会福祉省難民 プログラム局 Chief) Daniel Crawford 氏 (同州同省同局 Program Analyst) Laura Hardcastle 氏(カリフォルニア州保健省難民 保健課 Chief) Roy Kim 氏(サクラメント雇用訓練機構 Refugee Service Supervisor) Maurine Huang 氏 (Sacramento Center for New Americans)他 ④Broadway Career Center (Asian Resources, Inc.) 面談者:May Lee 氏 −2− 調 査 結 果 (要約) Ⅰ.難民受入政策 アメリカ合衆国(以下、米国)は、建国以来伝統的に移住者を積極的に受け入れてき た歴史を持つ。難民受入れを規定した最初の法的措置は 1948 年の「避難民法(Displaced Persons Act)」であり、以降、米国は主に共産圏からの難民を中心に個別のグループ毎 の対応(査証発給や臨時入国許可制度)を行ってきた。しかし、1975 年のサイゴン陥 落を契機として激増したインドシナ諸国出身者の流入により、既存の難民受入れの枠組 みは変容を余儀なくされる。そこで、1980 年に「難民法(Refugee Act of 1980)」が 制定された。これは、既存の難民受入施策とインドシナ諸国出身者受入枠組の整合性を 勘案した上で制定されたものであり、現行の米国の難民受入れの法的根拠の基幹をなし ている。 実際の審査及び受入れの実施は、難民法に準拠して整備された米国難民受入事業 (United States Refugee Program)及び米国庇護事業(United States Asylum Program) を通じて行われる。米国難民受入事業は、米国外に身柄がある者が対象で、米国が設定 した受入割当ての中で選定され、入国に至る。この枠組みを通じて受け入れられた者を 「Refugee(以下、クオータ難民)」という。この枠組みで受け入れられたクオータ難民 は 1975 年から 2004 年までに 256 万人を数え、年平均受入数は8万 6,000 人である。主 な受入地域は、アジア地域(但し西アジアを除く)(128 万 1,000 人)及び旧ソビエト 連邦諸国(60 万 5,000 人)である。また、入国直後の定住先として最も多くのクオー タ難民等を受け入れているのは西海岸のカリフォルニア州である。一方、米国庇護事業 は身柄が米国内にある者が対象である。この枠組みを通じて庇護を付与された者を 「Asylee(以下、国内認定者)」と言う。新規庇護申請の年平均件数は4万 6,000 件(世 帯) (2000 年度∼2004 年度)であり、庇護付与の年平均件数は1万 6,000 件(世帯) (2000 年度∼2004 年度)である。2004 年度に庇護を付与された者の国籍の上位5ヵ国はコロ ンビア、ハイチ、中国、エチオピア、ベネズエラ、カメルーンである。 クオータ難民及び国内認定者の定義は同一(「難民法」に拠って「移民・国籍法」に 定められている)で、入国後及び庇護付与後の諸権利についても同等である。なお、米 国の難民の定義は同国が 1968 年に加入した「難民の地位に関する議定書(難民議定書)」 を基にしている。 米国のクオータ難民受入政策の特徴としては、年間受入上限数(Admission Ceiling) の設定(2005 年度の年間受入上限数は5万人である)、World Priority System の採用、 関係省庁と民間の難民支援団体との間の緊密な連携体制などがあげられる。関係省庁と 民間支援団体との積極的な連携体制は、定住支援においても同様に構築されている。な お、これらクオータ難民及び国内認定者の受入れ、庇護審査、再定住支援に関わる 2005 年度の連邦政府(国務省、国土安全保障省、保健・福祉省分)予算の合計は6億 7,150 万ドル(約 732 億 6,737 万円)である。 Ⅱ.庇護制度 クオータ難民の受入れは国務省が調整役となり、各関係機関(国土安全保障省、保健・ 福祉省、国連難民高等弁務官事務所 (以下、UNHCR)、国際移住機関 (IOM)、難 −3− 民支援民間団体等)と連携して実施する。受入対象者は、在外米国大使館等やUNHC Rからの照会による者、米国が「特別な配慮を要する」と定めたグループ、家族再統合 のケースである。審査は国土安全保障省の難民認定担当官が現地に出向いて行う。 国内認定手続は大まかには二つあり、第1には国内に身柄がある場合、第2には不法 入国時に庇護申請をした場合である。国内に身柄がある場合は国土安全保障省の庇護担 当官が審査(再審査を含む)を行う。不法滞在者の場合は司法省移民法廷での審問を受 ける。異議申立ては同省移民控訴委員会で取扱う。不法入国時に庇護申請をした場合は、 国土安全保障省によるプレ・スクリーニングの後、移民法廷での審問を受ける。異議申 立ては移民控訴委員会が取扱う。いずれの場合も庇護が付与されると国内認定者とな る。 クオータ難民も国内認定者も永住権(入国後若しくは庇護付与後米国在住1年で申請 可能)や市民権(入国後若しくは庇護付与後5年米国在住で申請可能)の申請、公的扶 助条件等は同等である。 Ⅲ.庇護申請者に対する支援 庇護申請者に特化したものではないが、米国には地域のNGOや宗教関連団体等によ る、移住者も含む地域住民対象の社会的支援(語学教育、医療サービス等)が数多く存 在しており、これら社会的支援プログラムの受益者として、多くの申請者が対象になっ ている模様である。また、キューバ・ハイチ入国者プログラムによって滞在している者 は、当該プログラム独自の支援を受けることができ、対象者の中に申請者も含まれてい る。申請者は、申請後 180 日を過ぎても最終的な審査結果が出ない場合、就労許可を取 得する可能性がある。申請者は、各審査(一次審査、再審査、異議申立て)段階で弁護 士を雇うことができ、弁護士費用は国費では賄われないが、申請者からの要望があれば 政府は無料弁護士リストを提供する。また、NGOやUNHCRから法的支援を受ける ことができる。 Ⅳ.クオータ難民及び国内認定者等に対する支援 クオータ難民及び国内認定者等に対する支援は、到着及び入国直後の支援と中・長期 的支援に大分される。 連邦政府の主な役割は、支援内容・支援条件別に設けられた複数の資金枠から当該資 金を各州政府に提供することである。具体的なプログラムの実施は、州などの自治体や、 州や郡と契約を結んだ民間難民支援団体が行っている。 到着及び入国直後のプログラム (Resettlement and Placement Program) は、国務省 が管轄する入国後 30 日(最長 90 日まで延長可)の初動支援である。実施は予め国務省 と契約のある難民支援団体(National Voluntary Resettlement Agencies(Volags)) の地域組織がその任にあたる。支援内容は、空港への出迎え、住居確保、日用品の準備、 交通手段や通訳の手配、生活オリエンテーションの実施、健康診断の手続き、学校への 登録、社会保険、医療扶助及び食料券取得等の公的手続の同伴等の支援である。 中・長期的(主に入国後若しくは庇護付与後5年以内)支援は保健・福祉省が管轄す る。低所得者向けの財政支援(生活費支給)や医療扶助(公的医療保険制度)の他に設 けられた社会サービスのほとんどの資金枠は、その最大の目標を「雇用の確保」と定め ている。多くの資金は、州政府や州政府等の自治体関連機関を通じて地域の民間難民支 −4− 援団体へ提供される。言語教育、就職支援等の各定住支援プログラムの枠組み、支給額、 支援内容及びその方法は、各州及び実施団体により様々である。なお、クオータ難民、 国内認定者共に一般福祉制度を利用することが可能である。このように、米国の定住支 援の特徴は官民の協働である。難民を含めた移民を受け入れてきた歴史から派生した、 宗教団体を始めとした社会サービス団体の経験や実績がそれを支えており、加えて、民 族や出身国毎の当事者(難民)による相互扶助団体(Mutual Assistance Associations (MAAs))の活動も大きい。 −5− Ⅰ.難民受入政策 1.概要 アメリカ合衆国(以下、米国)における現行の難民受入システムは、1980 年に制定 された「難民法(Refugee Act)」に準拠して整備されたものである。米国は「米国難 民受入事業(United States Refugee Program(USRP))」という事業の実施を通じ、 年間に平均8万 6,000 人(1980 年∼2004 年)の難民を受入れ、1975 年から 2004 年ま でに 256 万人を超える受入実績がある。主な受入地域は、アジア地域(但し西アジア を除く) (約 128 万 1,000 人)、及び、旧ソビエト連邦諸国(約 60 万 5,000 人)である。 また、別途定めた国内の庇護審査を通しての受入れを「米国庇護事業(United States Asylum Program(USAP))」と言う。新規庇護申請の年平均件数は4万 6,000 件(世 帯)(2000 年度∼2004 年度)であり、庇護付与の年平均件数は1万 6,000 件(世帯) (2000 年度∼2004 年度)である。2004 年度に庇護を付与された者の国籍の上位5ヵ 国はコロンビア、ハイチ、中国、エチオピア、ベネズエラ、カメルーンである。 このように、米国で受け入れられた難民は二つのカテゴリーに分かれ、米国難民受 入事業で受け入れられる「難民(Refugee)」は、米国外にいながら米国政府によって庇 護を必要とする対象として認定された者であり、それに対して、米国内で入国後米国 政府に庇護を求め、米国庇護事業を通じて難民として認められたものを「国内認定者 (Asylee)」という。ともに認定されるにあたって必要とされる要件、認定後に付与さ れる諸権利については 2005 年現在のところ同等であるが1、庇護を求める申請者が既 に米国内に所在しているか米国外に所在しているかによって、庇護システム及び手続 きは全く異なる。 2.米国の難民政策 米国の難民受入れは、純粋な人道支援としての要素のみならず、米国政府にとって 重要な外交政策の実施ツールとしての役割を担っている。従って、その政策及び運営 方針をめぐっては関係省庁及び関係機関の間で綿密な調整のもと、会計年度ごとに議 論され、最終的には大統領の承認を経て、年次更新されるといった仕組みになってい る。 (1)難民の定義―「移民・国籍法」101(a)の(42) 米国が定める難民の定義は、 「1980 年難民法」によって「移民・国籍法」2の 101 項(a)の(42)において規定されている。国際法である「難民の地位に関する議定 書(難民議定書)」(1967 年制定、米国は 1968 年加盟)に若干の修正を加えてい るため、米国の定める難民の定義は国際法で定められている文言と全く同一とい うわけではないが、国際法への整合性という観点から言うと準拠している。 1 2 難民に対しては、米国に受け入れた時点で永住権を付与すべきであるという議論もある。 正式名は「Immigration and Nationality Act」。 −6− 「移民・国籍法」101(a)の(42) (A) any person who is outside any country of such person’s nationality or, in the case of a person having no nationality, is outside any country in which such person last habitually resided, and who is unable or unwilling to return to, and is unable or unwilling to avail himself or herself of the protection of, that country because of persecution or a well-founded fear of persecution on account of race, religion, nationality, membership in a particular social group, or political opinion, or (B) in such circumstances as the President after appropriate consultation (as defined in section 207 (e) of this Act) may specify, any person who is within the country of such person’s nationality or, in the case of a person having no nationality, within the country in which such person is habitually residing, and who is persecuted or who has a well-founded fear of persecution on account of race, religion, nationality, membership in a particular social group, or political opinion. The term “refugee” does not include any person who ordered, incited, assisted, or otherwise participated in the persecution of any person on account of race, religion, nationality, membership in a particular social group, or political opinion. For purposes of determinations under this Act, a person who has been forced to abort a pregnancy or to undergo involuntary sterilization, or who has been persecuted for failure or refusal to undergo such a procedure or for other resistance to a coercive population control program, shall be deemed to have been persecuted on account of political opinion, and a person who has a well founded-fear that he or she will be forced to undergo such a procedure or subject to persecution for such failure, refusal, or resistance shall be deemed to have a well-founded fear of persecution on account of political opinion. (A)については、当該者が国籍国の外にいる状態で申請を行うケースを想定している (=3rd Country Processing)。一方、(B)は、当該申請者が国籍国内にいる状態で申 請を行うケースを想定している(=In-Country Processing)3。同条項は、難民として 認めることができない要件についても定めているほか、人口抑制政策の一環として課 せられる出産制限に従わないために迫害を受けるおそれがあるといったケースについ ても「政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある」として考慮し、難民認定の要 件対象としている。 難民として米国への受入れが許可されるためには、二つのステップを踏まなくては ならない。難民申請者はまず、前述の要件のいずれかを満たしていることを立証した 3 難民申請者が国籍国内に居住した状態で申請が認められるには、米国によって国籍国が「In-Country Processing」対象国と認められていなければならない。 −7− 上で、難民として認定される必要がある。難民として認定されると、次に米国への再 定住の許可についての審査が待っている。難民認定権及び米国への再定住許可を持つ 国土安全保障省(Department of Homeland Security)によって難民として認められ、 米国での再定住が妥当であると認められて初めて、難民は米国へ(再定住のため)入 国することができる。難民は、次の適性基準を満たしている場合、米国への受入れを 許可される。なお、受入れに関して年齢制限はない。また、申請者の米国社会への適 応度は査定要素に含まれない。 適正基準 ―Meet the definition of “refugee” contained in the U.S. Immigration and Nationality Act; ―Be among those refugees determined by the President to be of special humanitarian concern to the United States; ―Subject to certain statutory exceptions and waivers, be otherwise admissible under INA; and ―Not be firmly resettled in any foreign country. (2)米国の難民受入政策の特徴 米国の難民受入政策の特徴として、次の3点について述べる。 (イ)年間受入上限数(Admission Ceiling)の設定 年間受入上限数とは、世界を五つの地域(1.アフリカ、2.東アジア、3. ヨーロッパ及び中央アジア、4.ラテン・アメリカ及びカリブ海諸国、5.極 東及び南アジア)に区切った上で割り当てされる、地域ごとの難民年間受入上 限のことである。数値は会計年度ごとに定められ、受入事業は、これに従い各 会計年度内で定められた上限数を超えないように運営されている。この施策に よって、米国政府は難民の出身地域等の属性に関して、数的にコントロールす ることができる。なお、2001 年9月 11 日に同時多発テロ事件が起こった後、 難民受入数は半減し、2002 年度は2万 7,000 人、2003 年度は2万 8,000 人にと どまったが、2004 年度は5万 3,000 人に回復し、2005 年度の受入枠は5万人に 設定されている。 (ロ)World Priority System の採用 World Priority System とは、潜在的難民申請のケースを、あらかじめ、プ ライオリティ1、プライオリティ2、プライオリティ3という三対象に分類し て、それに応じた窓口(申請アクセスとルート)を供与するといったシステム である(詳細は後述のⅡ.庇護制度を参照)。 −プライオリティ1:国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)或い はNGO、在外の米国大使館からの照会ケース −プライオリティ2:国務省(Department of State)指定による「特別な配 慮を必要とする特定のグループ」 −プライオリティ3:家族呼寄せにかかるケース −8− この分類に従い、難民申請者はそれぞれのプライオリティごとに定められた 難民審査手続へと進む4。 (ハ)NGO、州政府との積極的な連携 米国難民受入事業は、 「NGO・政府共同連携事業」として公的に指定されて いる。連邦政府内の政策担当者とNGO間での政策協議の実施や、NGOが行 う難民支援事業に対して連邦予算から拠出する 5 といった資金の流れを通して 相互に連携しあっている。さらに 2005 年度からは、パイロットベースではある が、米国難民受入事業へ難民ケースを照会するアクセス権がNGOに付与され ることになり、NGOが果たす役割はさらに大きくなっている。 (3)政策立案過程 米国難民受入事業は、会計年度ごとに関係者間で綿密な政策立案及び協議が行 われ、その協議結果を反映しながら実施されている。難民受入れについての最終 的な政策決定は、米国大統領が承認権を掌握している。大統領が翌年の米国難民 受入事業の事業内容を承認するまでの政策協議過程を簡略化すると、以下のとお りである。 国務省=> 関係省庁、NGO、州政府、国際機関など関係者間での協議=>「議会 報告書(Report to Congress)」の作成と議会への提出=> 議会による審議及び 承認=> 大統領承認(Presidential Determination) (イ)議会報告書(Report to Congress) まず、会計年度の始まり(10 月)に国務省がイニシアチブをとり、関係者の 間での翌年の事業内容を方向付けるための政策協議が始まる。この協議プロセ スには、関係省庁(国務省、国土安全保障省、保健・福祉省(Department of Health and Human Services)をはじめ、議会スタッフ、NGOの代表6、州政府及び国 際機関等が参加する。米国難民受入事業に関係する機関全てが関わり、翌年の 難民の受入上限数や地域内の受入割当て、米国難民受入事業にかかる予算編成 等が議論される。 同協議の結果に基づき、次のプロセスでは関係省庁(国務省、国土安全保障 省、保健・福祉省)が議会報告書を共同起草する。議会報告書は、 「移民・国籍 法」の 207 項(e)において作成が義務付けられているものであり、次年度の米 国難民受入事業の骨子として大統領の提案、という形で議会へ提出される。 4 当該システムは難民申請へのアクセス供与を規定しているものであり、難民として認められる要件では ない。また、審査手続へのアクセスが供与されたからといって、自動的に難民としてアメリカに受け入れ られるというわけでもない。米国政府による所定の認定への手続き(書類審査、難民認定担当官によるイ ンタビュー)を経なければならない。 5 NGOへの拠出方法は省庁によって異なる。例えば、国務省はあらかじめ提携契約を結んだNGOに事 業ベースで拠出する(団体に対する助成金ではない)。保健・福祉省は、州政府に予算を割当て、NGO は州政府を通して難民支援事業の運営資金を受け取るといった仕組みになっている。 6 Refugee Council USAやAmerican Council for Voluntary International Action等。 −9− 議会報告書で議論される内容 −世界各地域における現在の難民情勢 −翌会計年度の難民受入上限数と地域ごとの割当数の設定。World Priority System の 政策評価、特に国務省指定によるプライオリティ2「特別な配慮を必要とするある特 定のグループ」の選定対象について議論 −予算編成 −難民の受入れをめぐる国内情勢(難民を受け入れた場合、米国社会が被ると予測され る社会的、経済的、人口的影響の分析等) −難民が米国ではなく、その他の国へ受け入れられた場合の予測 −外交政策上の利益(国益)といった観点から分析した場合の難民受入れについて −その他、他省庁・関係機関との連携や機構改革の提案等 議 会 で は 、 上 院 、 下 院 そ れ ぞ れ の 小 委 員 会 ( House Sub-committee on Immigration and Claims 及び Senate Sub-committee on Immigration)で内容 が審議される。両院が翌会計年度における米国難民受入事業の政策方針を承認 すると、次に国務省とホワイトハウスは大統領承認である「Presidential Determination」の下準備を整えるといった手続きとなっている。大統領が 「Presidential Determination」にサインした時点で次会計年度の米国難民受 入事業の政策が決定するため、大統領は原則的には会計年度末である9月 30 日 24 時までに承認しなければならない。なお、2001 年9月 11 日の同時多発テロ 事件発生時には、2002 年度の受入上限数の設定についての「Presidential Determination」 はいったん保留された。その後、翌会計年度に入ってから改 めて同年の難民受入上限数が、下方修正された上で発表された。 (4)予算措置 米国難民受入事業にかかる費用は連邦政府予算によって賄われているが、関係 省庁(国務省、国土安全保障省、保健・福祉省)が前述の政策協議を経て連邦政 府予算を獲得し、所轄の難民支援団体に拠出するという仕組みになっている。各 団体は事業に対する資金拠出を得て、米国難民受入事業を運営している。 −国務省は、難民の受入れに関わるUNHCR、国際移住機関(以下、IOM)、 国際赤十字委員会(以下、ICRC)等の国際機関や契約を結んでいるNGO (Voluntary Agency)への事業拠出を行う7。 −保健・福祉省は、難民の定住支援を担当する。州政府が運営する難民のための 定住支援事業及び地域レベルで活動する定住支援団体が運営する事業への予算 拠出を担当する。 −国土安全保障省は、海外で実施する難民認定のための審査一般にかかる予算を 管理する。 7 拠出根拠は「The Migration and Refugee Assistance Act of 1962」に規定されている。米国難民受入 事業にかかる予算の大部分は、国務省が管理するMigration and Refugee Assistance Accountから各関係 機関へ支出されている。 −10− 【表1 省 2005 年度連邦予算配分】 事業 国務省 難民の受入れ 国土安全保障省 庇護審査 保健・福祉省 難民の再定住支援 合 計 予算 1億 5,870 万ドル(約 173 億 1,576 万円) 3,960 万ドル(約 43 億 2,076 万円) 4億 7,320 万ドル(約 516 億 3,085 万円) 6億 7,150 万ドル(約 732 億 6,737 万円) (参考:2005 年5月末日の換算レート 1 ドル=109.11 円。以下同じ) 3.歴史的背景 ∼米国の難民受入政策の歴史的経緯∼ 米国は建国以来伝統的に海外からの移住者を積極的に受け入れてきた。難民受入れ を規定した最初の法定措置は 1948 年に制定された「Displaced Persons Act(避難民 法)」であるが、政府は、個別のグループごとに個別に対応したプログラムのもと、査 証発給または臨時入国許可制度を通じた受入措置で難民問題に対応していた。この政 策に転機をもたらすきっかけが、1970 年代に発生したインドシナ難民問題である。既 存の受入措置やアドホック的に講じた施策では対応しきれなくなった米国政府は、 1980 年に難民法を制定することによって、難民受入れに関する包括的な枠組みを設定 するに至った。 (1)Displaced Persons Act of 1948(避難民法) 米国で、最初に難民の受入れを規定した法律が、1948 年制定の避難民法である。 この法律の施行には、第二次世界大戦後に共産圏に戻ることを拒んだ 100 万人以 上の東欧出身者への救済措置として制定されたといった背景事情がある。この 「Displaced Persons Act of 1948」の施行によって、約 40 万人もの東欧出身者 が難民として米国へ移住した。 (2)Refugee Relief Act of 1953 「Displaced Persons Act」の次には、 「Refugee Relief Act of 1953」が制定 される。この法律は、当時急激に溝を深めつつあった米ソ対立の国際情勢を反映 して、旧共産圏からの難民受入れを想定して制定された。本施策によって、国外 へ庇護を求める旧共産圏出身者を対象に 20 万 9,000 の査証発給が可能となった。 1953 年8月7日に施行されてから 1956 年 12 月 31 日の間に、18 万 9,000 人の旧 共産圏出身者が米国へ難民として移住した。 (3)Hungarian Parole Program(ハンガリー人に対する臨時入国許可プログラム) 前述二つの施策に対し、よりはっきりと特定のグループに対する庇護を打ち出 したのが、「Hungarian Parole Program」である。1956 年、ソビエト連邦がハン ガリーへ侵攻した結果、約 20 万人のハンガリー人が隣国オーストリアへ流出する といった事態に及んだ。最終的には本プログラムを通じ、3万 2,000 人のハンガ −11− リー人が 1956 年から 1958 年までの間に米国へ移住した8。このプログラムでは、 従来の査証発給システムではなく、司法長官による「臨時入国許可」を通して難 民を受け入れるという初めての措置が講じられた。 (4)Refugee Escapee Act of 1957 本法律は、「Refugee Relief Act of 1953」において発給された査証 20 万 9,000 のうち使用されなかった残りの査証(1万 8,656 人分)の再運用を目的としてい たが、発給対象者は、旧共産圏出身者或いは中東諸国出身者に限られていた。受 入れにおいてこういった思想的・地理的制限による要件を課すという方針は、後 に、「1980 年難民法」の制定まで米国難民の受入政策を規定していた「移民・国 籍法」203 項(a)の(7)に反映されることになった。 (5)「移民・国籍法」の改正(1965 年) 1965 年の「移民・国籍法」の改正は、難民の受入れについて永続的な法定措置 を提供するものであった。難民については、査証発給の手段を通じてこれを受け 入れることとし9、「移民・国籍法」203 項(a)の(7)においてその対象者を定め た。査証申請における有資格者は、旧共産圏出身者或いは中東諸国出身者で人種、 宗教、政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるため当該常居所を有してい た国に帰ることができないもの、または自然災害による犠牲者である必要があった。 (6)インドシナ難民問題の深刻化とその対応 1975 年、サイゴン陥落によるベトナム戦争の終結とともに、インドシナ難民が 大量に発生し、米国政府のみならず国際社会全体にその対応を迫った。米国政府 はインドシナ難民の大量流出に対応すべく、1975 年から 1980 年まではインドシ ナ難民に臨時入国を許可する方策が取られ、1978 年には「Indochinese Refugee Adjustment Act」の施行といった米国受入れのための措置を講じるが、いずれも 抜本的な対応策とはならなかった。そこで、インドシナ難民問題へのより根本的 な位相での対処、さらに既存の難民受入施策との整合性を勘案した政策立案が求 められることになった。 (7)Refugee Act of 1980 (1980 年難民法) 「Refugee Act of 1980」はそれまで個別に制定された措置を一本に包括すると 同時に、個別の事態において個別の対応策を講じるといった従来の難民受入政策 の立場から一転して、さらに長い射程で捉えた場合の米国の包括的な難民受入れ 8 当時の米国大統領アイゼンハワーは当初、上限2万 1,500 人のハンガリー人の保護(及び米国への受入 れ)を表明した。上限2万 1,500 人については、うち 6,500 人が「Refugee Relief Act of 1953」の下で 発給された査証経由、残り1万 5,000 人に対しては臨時入国を許可するといった措置が講じられていた。 9 1965 年の「移民・国籍法」の改正では、大規模な難民受入れにおける「臨時入国許可」措置を撤廃する ことも目的の一つとされていた。しかし「移民・国籍法」203 項(a)の(7)において規定された難民受入 枠組では現実のニーズに対応しきれず、「臨時入国許可」措置は復活した。1960 年から 1970 年初期にか けては、キューバ出身者、香港・マカオ在住の中国人、チェコ人、ソビエト連邦在住のユダヤ人、ウガン ダ出身者が、1970 年中頃から後半にかけては、チリ、キューバ、ラテン・アメリカ諸国、インドシナ諸 国出身者が「臨時入国許可」措置を通して受け入れられた。 −12− の枠組みを提示することを意図して制定された。本報告書で報告している現行の 「米国難民受入政策及び受入れの枠組み」は、全て「Refugee Act of 1980」に基 づいている。 4.米国難民受入事業をめぐる最近の動向 (1)2005 年度の政策方針 1980 年から開始された米国難民受入事業は 2005 年現在で 25 年を迎える。連邦 政府内では事業の大幅な見直しを求める声も多く、2005 年度の議会報告書では米 国難民受入事業におけるNGOの役割拡大が提案されるなど、様々な新しい取組 みがなされている。主な取組みは以下の通りである。 (イ)Targeted Response Teams の積極的な活用 2004 年度から、ある特定地域の難民現状調査のため、連邦政府関係省庁、U NHCR、IOM、NGO関係者による合同調査ミッション(Targeted Response Teams)が実施されている。2004 年度はモザンビーク、ウガンダ、ギニア、ガ ーナに調査団が派遣され、当該地域居住者が米国へ定住する可能性について実 地調査を行った。実地調査は、今後も引き続き実施される予定である。 (ロ)Refugee Corps の設立 国土安全保障省市民権・移民サービス局内に、難民の審査任務に精通したエ キスパートの集合体「Refugee Corps」を創設することによって、業務の強化を はかる。 (ハ)NGOの役割の拡大 2005 年度から米国難民受入事業へのケース照会アクセス権をNGOに対し ても供与する。従来、アクセス権は米国大使館及びUNHCRに限られていた。 照会任務に携るNGOの能力強化のため、西アフリカ及び東アフリカの2ヵ所 で実地研修を実施した。 (ニ)プライオリティ3の家族呼寄せの対象国を拡大 2005 年は新たに5ヵ国(キューバ、エチオピア、エリトリア、ハイチ、ルワ ンダ)が加わった。 (ホ)In-Country Processing 対象国を拡大 In-Country Processing の適用は、旧ソ連、キューバ、ベトナムの3ヵ国に 限られていたが、2005 年度からは地理的な制限をなくし、あらゆる場所におけ る本プログラム運用を目指す。 (2)今後の政策方針 これまで米国難民受入事業全体の骨組みを支えてきた主要な難民受入個別事業 が 21 世紀に入り次々と終結する事態に加え、2001 年勃発の同時多発テロによる 余波としてその管理が厳格化した入国管理行政の動向も影響して、米国の難民受 −13− 入数は総じて減少傾向に転じている。 こういった現状の中、2005 年度の議会報告書では、前述した方針のほか、成年 に達しない(未成年)難民の保護強化政策や本国外に長期滞留している者への対 応策の強化など、世界の難民問題に対して引き続き積極的に関わってゆく米国政 府の積極的な姿勢が強調されている。 −14− Ⅱ.庇護制度 1.はじめに 国際的な保護を必要とする個人(或いは集団)を対象にした米国政府の庇護制度は、 申請者の身柄の「所在地」によって2種類存在する。一つが米国外に身柄がある者を 対象とした「難民(以下、クオータ難民)」向けの手続き、もう一方は、申請時に身柄 が既に米国内にある者を対象とした「国内認定者」向けの手続きである。 2.クオータ難民の受入れ (1)実施機関 米国難民受入事業は、連邦政府、国際機関及びNGOが相互に連携を行い綿密 な調整を経て実施されている。事業の実施プロセスでは、それぞれの機関がそれ ぞれの役割にのっとって難民申請者及び米国への受入れが決定した難民へサービ スを提供している。事業全般を統括してコーディネートする役目は国務省、難民 を米国難民受入事業へ照会するのが、在外米国大使館並びにUNHCR 10、難民 認定権を持って難民審査を行うのは国土安全保障省である。IOMは米国への受 入れが決定した認定難民のために入国手配を行う。米国へ到着したばかりの難民 のために初動支援を提供する役割はボランタリー・エージェンシー(Volags)、難 民の再定住プロセス全般にかかる公的扶助は保健・福祉省が所轄する。 (イ)国務省 人口・難民・移住局 (Department of States, Office of Population, Refugees and Migration ) −米国難民受入事業のコーディネーター。各アクター間の調整役。 −毎会計年度、関係機関間で開催される政策協議においてイニシアチブを持 つ。特に、難民の年間受入上限数の設定及び難民受入れにかかる予算案作 成では中心的な役割を担う。 −難民の年間受入上限数の設定や世界各地から照会された難民申請にかかる ケースの取りまとめなど、米国難民受入事業にかかる人口フローの統計を 管理する。2002 年より導入されたデータベース「The Worldwide Refugee Admissions Processing System (WRADPS)」は、米国難民受入事業に かかるデータの一元化管理をより容易にした。 (ロ)国土安全保障省 市民権・移民サービス局 (Department of Homeland Security, U.S. Citizenship and Immigration Service) −本国の庇護を欠く難民申請者の審査及び認定を行う 11。クオータ難民の米 国への再定住についても査定権を持つ。 −難民の年間受入上限数の設定に国務省人口・難民・移住局と協働して、深 10 2005 年より、米国難民受入事業の照会アクセスはNGOに対しても開かれるようになり、NGOから の照会も受け付けるようになった。 11 厳密には、 「移民・国籍法」207 項によって難民認定権はAttorney General(司法長官)に与えられてい る。実際には司法長官が当局に権限を委譲する形になっている。 −15− く関与。 −難民が在留地位を変更する場合(永住権、米国市民権を申請・取得する場 合)の審査。 (ハ)保健・福祉省 難民再定住室 ( Department of Health and Human Services, Office of Refugee Resettlement) − 米 国 入 国 後 の 難 民 の 再 定 住 過 程 を 支 援 。 州 政 府 や Community Based Organizations(地域にある難民支援団体)を通じて難民の定住生活の支援 に取組む(支援内容は州ごとに違う)。 (ニ)UNHCR −難民申請者を米国難民受入事業へ照会。 −世界の難民の状況について調査、米国政府と難民問題について協議を行う。 (ホ)IOM −米国への受入れが決まった難民への渡航にかかる手続全般を手配する。渡 航 費 の 貸 付 12 や 渡 航 前 の 健 康 診 断 、 旅 程 の 手 配 。 後 述 す る Overseas Processing Entity として役割を担う場合もある。 (へ)National Voluntary Resettlement Agency (Volags) −国務省との契約に基づいて、米国へ到着したばかりの難民のために初動支 援を提供する。国務省と直接契約関係にあるのは 10 団体(うち9団体は民 間団体、1団体は州政府) 13であるが、全米に散在するその傘下団体がき めの細かい支援を提供する。 −特に Resettlement and Placement Program という、30 日を目安として(最 大限 90 日)空港への出迎え、居所の手配、地域社会へのオリエンテーショ ン等、アメリカでの生活に慣れるまでの当座の支援を担当。 (ト)Overseas Processing Entities(OPE) −国務省人口・難民・移住局が取りまとめた難民申請案件に関して、市民権・ 移民サービス局所属の難民認定担当官による審査が滞りなく行われるよう、 審査に先立ちバックアップ業務を担当14。 12 難民の渡航費は、国務省出資によってIOMが管理している。渡航費貸付(無利子)を受けた難民は、 米国到着後8ヵ月後から返済の義務が生じる。3年半で返却することがのぞましい。 13 1.Church World Service, 2. Episcopal Migration Ministries, 3. Ethiopian Community Development Council, 4. Hebrew Immigration Aid Society, 5. World Relief Refugee Services, 6. U.S. Catholic Conference, 7. Lutheran Immigration & Refugee Service, 8. Immigration & Refugee Service of America, 9. International Rescue Committee及び 10. Bureau of Refugee Programs, Iowa Department of Human Services. 14 例えば、難民申請者に対して申請書の記入法を手ほどきしたり、審査に入用の書類を調える際に手助 けをする。或いは難民認定担当官による申請者へのインタビューにかかるスケジュールのセッティングを 行うなど、米国外における難民認定にかかるロジ業務全般を担当している。 −16− −米国への受入れが決まった難民に対しては、渡米に先立ち課せられる要件15 を満たす過程において支援を提供する。 − 国 務 省 と 契 約 し た 民 間 団 体 が 運 営 。 I O M が Overseas Processing Entities としての役割を担う地域もある。 (2)受入対象者 受入対象者は World Priority System によって、三つに分類される。 (イ)プライオリティ1 在外米国大使館、UNHCR、NGOからの照会によるケース。全国籍の者 がアクセス可能である。 (ロ)プライオリティ2 米国にとって「Groups of Special Concerns(特別な配慮を要する)」特定の グループ。UNHCR、NGO等の関係諸機関との協議結果をもとに国務省に よって指定される。 In-Country Processing 国際法では難民は本国外にいることが要件の一つとされているが、米国の規定では、 特定の国の者については本国内にいながらも難民申請することができる 16 。これを In-Country Processingという。2005 年現在、In-Country Processingの適用対象国はキ ューバ、ベトナム、旧ソ連及び旧ユーゴの4ヵ国となっているが、この適用対象国を拡 大するべきだとの議論もある。 (ハ)プライオリティ3 「Family Reunification(家族再統合、家族呼寄せ)」のケース。既に米国に 居住する難民は、特定の国出身に限り本国から家族を呼び寄せることができる。 2005 年現在までに家族呼寄せが許可された対象国は、ミャンマー(ビルマ)、 ブルンジ、コロンビア、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、イラン、リベリア、 ソマリア、スーダン、キューバ、エチオピア、エリトリア、ハイチ及びルワン ダであり、対象となる国は増加傾向にある。 呼寄せの対象となる家族の範囲は、当該者の両親、配偶者、21 才以下で未婚 状態の子どもである。なお、 「難民の家族」ということで付記すれば、プライオ リティ1、プライオリティ2いずれのケースでもプリンシパル・アプリカント (本国の庇護を欠き、難民申請を行う当該者)の家族は原則として難民として 認定され、Derivative Refugee Status という地位を与えられる。 15 16 健康診断、保証人の請合い等。 「移民・国籍法」101 項(a)の(42)のB参照。 −17− ベトナム人向けの措置―アメラジアン・プログラム 父親がアメリカ人で母親がベトナム人、そして父親が既にアメリカに帰国している場 合、ベトナムに居住するその子どもは、アメラジアン・プログラム(Amerasian Program) を通じてアメリカに移住することができる。このアメラジアン・プログラムを通して入 国したベトナム人は、難民受入数に編入されている。 (3)受入実施過程 (イ)難民認定審査 World Priority System に準拠してケース分類された難民申請案件は、国務 省に報告される。右を受けて国務省は、「The Worldwide Refugee Admissions Processing System (WRAPS)」においてデータを管理すると同時に、 Overseas Processing Entity 等の関連機関に、難民審査実施の準備作業のため に申請案件を紹介する。 Overseas Processing Entity による下準備が整うと、国土安全保障省の難民 認定担当官による審査が実施される運びに移る。難民認定は、書類審査及び国 土安全保障省の難民認定担当官による対面インタビューの実施によって審査さ れる。難民認定担当官は、地域によっては常駐している場合もあるが、常駐オ フィスが存在しない地域では、出張して難民申請者とのインタビューを行う。 (ロ)難民申請却下による異議申立て 難民申請が却下された場合及び難民認定されなかった場合の異議申立てにつ いては、難民性を裏付ける追加資料の提出とともに再検討を依頼することはで きるが17、異議申立てとしての手続きは、事実上、特に確保されていない。 (ハ)難民認定及び受入れにかかる所要時間 難民申請者が難民認定担当官によるインタビューを受けてから実際に米国へ 入国するまでの平均所要期間は6ヵ月である。ただし、案件ごとに所要期間は 異なる。難民認定後、渡航手配にかかる所要期間は約3ヵ月である。渡航手配 は、IOMが米国大使館と協働して実施することになっており、旅券の手配や 渡航前に医師による健康診断、渡航手段の確保(ルートの確定、渡航用飛行便 の予約、旅費の一時立替など)が含まれている。 (ニ)Emergency Cases と Urgent Case 難民申請者の身に危険が差し迫っている等、緊急を要する案件に関しては、 Emergency Cases として優先され、1週間以内に案件を処理するための手続き が確保されている18。ほかに緊急性を要するケースとしてUrgent Caseと呼ばれ 17 2005 年現在、国土安全保障省の難民認定担当官が常駐している地域は、ローマ(イタリア)、ナイロビ (ケニア)、アクラ(ガーナ)、ウィーン(オーストリア)、モスクワ(ロシア)、アテネ(ギリシャ)、バ ンコク(タイ)、ニューデリー(インド)、ハバナ(キューバ)、メキシコシティ(メキシコ)、フランクフ ルト(ドイツ)、ホーチミン(ベトナム)、イスラマバード(パキスタン)の 13 ヵ所。 18 この場合、まず申請案件はUNHCRのフィールド・オフィスから本部(ジュネーブ)へ照会されな ければならない。その後、UNHCR本部から米国政府へ照会するという手順を踏むことによって、緊急 案件として処理される。 −18− るケース・カテゴリーがあるが、迅速な認定作業を喚起する一方、手続きにつ いては通常ルートに従っている。 (ホ)難民認定後の地位 入 国 後 の 地 位 に つ い て は 、 入 国 後 1 年 経 過 す る と 、 永 住 権 (Permanent Resident Status ) へ の 申 請 資 格 が 生 じ 、 5 年 居 住 す る と 、 米 国 市 民 権 (Citizenship)への申請をすることができる。クオータ難民は、米国入国時か ら就労権があらかじめ付与されているので、公的扶助を受けながら、徐々に自 活するというパターンが多い。 (へ)本国への自主帰還(Voluntary Return) クオータ難民として米国に入国した後、本国へ自主帰還した場合は難民とし ての地位は喪失する。ただし、永住権またはアメリカ市民権を取得している場 合は、それぞれの規定に准じる。 3.国内認定者の受入れ(国内における庇護審査制度) (1)実施機関 (イ)国土安全保障省 市民権・移民サービス局 (Department of Homeland Security, U.S. Citizenship and Immigration Service) 国土安全保障省は、2001 年9月 11 日の同時多発テロ事件をきっかけに「テ ロの脅威・攻撃から米国を防衛するための包括的な国家戦略の策定と実施のた めに設置された「国土安全保障室」を基盤として 2003 年1月に設置された。同 省は、運輸省や財務省等、九つの省庁の一部機能が再編されたものであり、現 在の市民権・移民サービス局の主な機能は、元の司法省移民帰化局等のもので ある。 同省市民権・移民サービス局の庇護審査制度における役割は、既に身柄が国 内にあり、退去手続に入っていない庇護申請者の全審査過程及び不法入国時に 庇護申請を申し立てた者のスクリーニングである。 管轄下には全米7ヵ所(ヴァージニア州アーリントン、イリノイ州シカゴ、 テキサス州ヒューストン、フロリダ州マイアミ、ニュージャージー州ニューア ーク、ニューヨーク州ニューヨーク、カリフォルニア州サンフランシスコ)に 庇護事務所 (Asylum Office)があり、その他にもサービスセンター等がある。 (ロ)司法省(Department of Justice) 司 法 省 は 1870 年 に 設 置 さ れ た 。 庇 護 制 度 に 関 わ る の は 移 民 再 審 査 府 (Executive Office for Immigration Review)である。 移民法廷(Immigration Court)では、一次審査で不認定となった身柄が国内 にある不法滞在者の再審査を担当する。また、移民控訴委員会(Board of Immigration Appeals)は再審査結果についての異議申立てを取扱う。 移民法廷はまた、不法入国時に庇護申請をした者であって市民権・移民サー ビス局の庇護担当官のスクリーニングにおいて「迫害のおそれに信憑性がある」 −19− と認められたケースの審査を担当する。移民控訴委員会は移民法廷における結 果についての異議申立てを取扱う。 (2)認定手続 (イ)国内に既に身柄があり、強制退去手続に入っていない場合 a.一次審査 庇護申請は、原則入国後1年以内に最寄りの国土安全保障省市民権・移民 サービス局サービスセンターに対して行う。申請書の提出後、安全調査(諮 問押捺)が行われる。難民性に関する面接は、庇護担当官(Asylum Officer) によって庇護事務所で申請から 43 日以内に行われる。面接は1時間程度で、 供述について反問を受けることはない。面接結果は、面接から2週間以内に 通知される。但し、有効な在留資格がある者についてはそれよりも時間がか かることがある。資格があると判断されれば庇護が供与される。通常、申請 から 60 日以内に決定がなされる。 b.再審査 合法滞在者の場合、却下通知受領後 16 日以内に反証を提出することができ る。この段階で決定を覆す証拠を提出することができない場合は、庇護担当 官から最終却下(Final Denial)が申し渡される。 不法滞在者の場合は退去手続に入るが、同時に司法省移民法廷にケースが 移され、移民判事による審問を受ける。判事は政府側の弁護団(国土安全保 障省入管通関管理弁護団(Immigration & Customs Enforcement Counsel))か らの反証も聞く。結果は当初の申請から 180 日以内に下され、判断の結果、 如何なる救済の余地もない場合は出国命令の対象となる。 c.異議申立て 審査結果について、庇護申請者及び政府側弁護団は司法省移民控訴委員会 に対して 30 日以内に異議申立てをすることができる。更に、移民控訴委員会 の結論に異議がある場合は、連邦裁判所に対して控訴をすることができる。 (ロ)不法入国(入国時に有効な旅行証を所持しない)時に申請する等の場合 a.スクリーニング 迫害のおそれがある旨を申告すると、庇護担当官によってその申告に信憑 性があるかどうかのスクリーニングがなされる。庇護申請者はこのスクリー ニング面接を受けるまでの間拘留されることになる。スクリーニングによっ て庇護担当官が信憑性なしとの判断した場合、移民判事がそれに同意するか 申請者が再審査を望まなければ国外退去処分になる。 b.審査 スクリーニングで庇護担当官が、庇護申請者の申告に信憑性有りと判断す ると、ケースは移民法廷に移り、移民判事による審問(申請者及び政府側弁 護団)の後、如何なる形かの救済がなされ得るかの判断が下される。 −20− c.異議申立て 庇護申請者や政府弁護団は移民控訴委員会に対して 30 日以内に異議申立 てをすることができる。移民控訴委員会の結論に異議がある場合は、連邦裁 判所に対して控訴することができる。 −21− Ⅲ.庇護申請者に対する支援 1.概要 庇護申請者に特化したものではないが、米国には地域のNGOや宗教関連団体等に よる、移住者も含む地域住民対象の社会的支援が数多く存在しており、これら社会的 支援プログラムの受益者の中には、個々人の生活状況や属性(低所得者、移民労働者 等)により、多くの申請者が対象になっている模様である。また、キューバ・ハイチ 入国者プログラム(Cuban/Haitian Entrant Program)によって滞在している者は、当該 プログラム独自の支援(生活費や医療支援)を受けることができる。同プログラムの 対象者の中には申請者も含まれている。 2.支援内容 (1)住居 庇護申請者は親戚等の家に居住する。親戚等を有しない申請者に対しては、ロ ーカルコミュニティ、NGO等が住居の紹介等の支援を行っている。 (2)言語教育 庇護申請者は、教会やボランティア団体の「第二言語としての英語(English as a second language(ESL))」を受講することが可能である。 (3)就労 庇護申請後 180 日を越えても最終的な審査結果が出ない場合、申請者は就労許 可を取得する可能性がある。就労許可申請は庇護申請後 150 日が経過すると行う ことができ、就労許可取得の有無の結果が 30 日以内に出ることになっている。 (4)法的支援 庇護申請者は、各審査(一次審査、再審査、異議申立て)段階で弁護士を雇う ことができる。弁護士費用は国費では賄われないが、申請者から要望があれば政 府は無料弁護士リストを提供する。また、申請者はNGOやUNHCRからの法 的支援を受けることができる。NGOの支援対象には収容中の者も含まれている。 −22− Ⅳ.クオータ難民及び国内認定者等に対する支援 1.概要 クオータ難民及び国内認定者等に対する支援は、到着及び入国直後の支援と中・長 期的支援に大分される。そして、中・長期的支援における最大の目標は「雇用の確保」 である。 連邦政府の主な役割は、支援内容・支援条件別に設けられた複数の資金枠から当該 資金を各州政府に提供することである。具体的なプログラムの実施は州などの自治体 や、州や郡と契約を結んだ民間難民支援団体が行っている。 なお、各州には難民の定住支援を調整する難民コーディネーターが配置されている。 2.支援内容 (1)到着及び入国直後のプログラム(Resettlement and Placement Program) 国務省人口・難民・移住局の管轄において、クオータ難民の入国直後 30 日(90 日まで可)間の初動支援が行われる。支援は National Voluntary Resettlement Agencies(以下、Volags)(注 13 参照)に参加している組織の傘下の地域団体が 行う。 人口・難民・移住局の資金提供は、難民1人につき 800 ドル(約8万 7,288 円) (大人も子どもも同額)で、支援実施団体はその半額以上を管理費用として受け 取ることができない。つまり、難民は 400 ドル(約4万 3,644 円)以上を現金か または現物で支給される。 調査団が訪問したヴァージニア州 19 アーリントン市にあるArlington Diocese Office of Refugee Resettlement 20 では、職員やボランティアによる住居確保や 日用品の準備(難民の入国前に完了)、交通手段や通訳の手配、生活オリエンテー ションの実施、健康診断の手続き、学校への登録、社会保険、医療扶助及び食糧 券取得等の公的手続の同伴を行っていた21。 (2)中・長期的(原則5年以内)定住支援 (イ)概要 中・長期的定住支援は、保健・福祉省難民再定住室が管轄している。資金の 多くは州政府に拠出され、州政府が各種プログラムを管理・実施している。た だし、Volags を始めとする民間難民支援団体が直接契約を結んで実施する場合 19 ヴァージニア州は 1983 年から 2002 年までの累積新規定住者数(アメラジアン等も含む)は約3万 5,000 人で、2003 年度は 796 人のクオータ難民が新規に定住した(全米の約 2.8%)。最も受入数が多い難民の 出身国はベトナムで、以下、ラオス、ソマリア、旧ユーゴスラビア諸国等である。 20 同事務所は、Volagsの一員でもあるU. S. Conference of Catholic Bishops Office of Migration and Resettlement Servicesに属する全米 101 の地域団体の一つである。州内に4ヵ所の分室を持つ。1975 年 の創立以来、1万 6,000 人を超える難民の定住支援を行ってきた。中心となる職員の中には難民としての 経験を持つ者も多い。メインの事務所がある地域は海外滞在経験を持っている住民が比較的多い土地柄で、 難民の受入れには協力的である。2004 年は 127 名がボランティア(協力団体からの派遣)として参加し、 サービスの多くはこれらボランティアを通じて提供された。また、全ボランティアの 45%がESLに関 わっている。 21 2004 年、183 人の難民(うち 93 人はソマリア出身、以下、イラン、アフガニスタン、その他)に対し て支援を行った。 −23− もある。 主に州政府が管理する主な支援プログラムは、生活費支給(Refugee Cash Assistance(RCA))及び医療扶助(Refugee Medical Assistance(RMA)) で、2002 会計年度の難民再定住室による各州に対する総拠出額は約 1,700 万ド ル(約 18 億 5,487 万円)である。 言語教育、就職支援等の具体的な社会サービスプログラムの実施は、入札形 式で運営する団体が決まり、提供されるプログラムの内容や形態は実施団体に よって様々である。しかし、社会サービス分野での最優先事項は一貫して「雇 用の確保」であり、例えば英語クラスは雇用確保のための職業紹介や就職支援 (履歴書記入法、米国の職場習慣に関するオリエンテーション等)と組み合わ せることが求められている。 (ロ)支援内容 a.財政支援 難民(以下、クオータ難民及び国内認定者を指す)に特化した公的な財政 支援は生活費支給である。資金は難民再定住室から各州政府へ提供される。 実際の支給業務は、自治体が行う場合もあるが、自治体と契約を結んだ民間 難民支援団体が行う場合もある。 支給の対象は米国入国後(クオータ難民の場合。国内認定者の場合は庇護 の付与後)8ヵ月以内であり、一般福祉制度(26 頁、e.参照)受給の所得基 準は満たしているが、別の資格要件(家族構成等)を満たさないが故に一般 福祉制度の対象外となる者である(27 頁、(3)(イ)参照)。 b.言語教育 言語教育はあくまでも就職支援の一環という位置付けである。資金は難民 再定住室の社会サービス資金枠(就職支援を含む)や共同出資プログラム資 金枠から、州政府や郡などの自治体を通じて実施団体(主に民間難民支援団 体や学校区)に資金が提供される。教育内容については州政府の基準に沿っ ている。 c.就職 米国の難民の定住支援の柱は「雇用の確保」である。よって、難民再定住 室が管轄する大多数の資金枠は、就職支援を目的としている。 難民再定住室は複数の資金枠を持っているが、代表的なものを以下に上げ る。 ① 特定地域支援(Targeted Assistance(TA) ) 難民の集住地域や公的支援が特に多く支出されている地域について、1 年以内の雇用確保を目的にした特定地域支援資金枠がある。資金を受ける ことができる郡は、過去5年の新規定住者数や難民と全人口との比率を目 安にして難民再定住室が選ぶ。実際のプログラムの内容は職業英語教室、 職業訓練、就職活動支援等である。同資金枠で運営されるプログラムでは −24− 入国後5年以内或いは庇護の付与後5年以内の難民が対象になる。連邦政 府から州政府が承認を取り付けることができれば、個々人の必要に応じて 5年を過ぎてもプログラムに参加することができる(後述のカリフォルニ ア州はこれにあてはまる)。2002 会計年度の難民再定住室による拠出額は 約 4,500 万ドル(約 49 億 995 万円)である。 Arlington Diocese Office of Refugee Resettlement では同資金枠から も資金を得て「Breaking the Barrier Program」を実施している。同プロ グラムは、まず、連続3日間のオリエンテーション(米国の労働市場、労 働倫理、金銭管理、時間管理、面接技術、生活習慣の違い、給与と福利厚 生制度等)を行う。英語を解さない者に対しては主に外部の英語教室に登 録し、別途参加者1人につき家庭教師(ボランティア)を1名手配する。 当該オフィス内では、基礎的なコンピューター技術、看護助手、経理、レ ジ操作等の職業訓練を、ビデオ等を用いて行っている。また、外部での職 業訓練(運転、緊急医療等)費用は同プログラムの中で負担される。履歴 書記入の指導は週2回(夜間)事務所でボランティアが行っている。具体 的な職探しは個人の能力や技術に応じて進められ、就職後も必要であれば 雇用主との調整を行っている。もともと医師等の専門職だった参加者の中 には、最終的にはその専門職に就くことができた者もいる。 2004 年度は 386 人の参加があり、クオータ難民、国内認定者の割合は半々 である。このうち、300 人以上が雇用先(小売店、飲食店、清掃業など) を確保した。家庭教師による(事務所内及び家庭訪問)英語クラスには 180 人が参加した。 なお、ボランティアは他の団体(主にキリスト教関連)からも派遣があ る。 ② 共同出資プログラム 共同出資プログラムは、既述(24 頁、 (ロ)a.)の財政支援を受けるこ となく、難民が早期(入国後或いは庇護の付与後4ヵ月以内)に雇用を確 保することを目的にしたプログラムの資金枠である。同資金を得てプログ ラムを実施するのは Volags に所属する地域団体で、拠出割合は、連邦政府 1人あたり 2,000 ドル(約 21 万 8,220 円)に対して、実施団体1人あたり 最低 1,000 ドル(約 10 万 9,110 円)(ボランティアの稼働時間等も時給換 算して実施団体の拠出額に含む)である。管轄する難民再定住室によれば、 対象者のうち8割は目標通り4ヵ月以内に経済的自立を果たしているとの ことである。 Arlington Diocese Office of Refugee Resettlement でも本資金枠から の資金提供を受けていた。クオータ難民は入国後 30 日以内、国内認定者は 庇護付与後 30 日以内にプログラムに登録した者が支援対象である。支援内 容は、雇用に必要な技術クラス(コンピューター操作や英語教育等)の提 供や現金支給等が含まれる。同プログラムは、公的財政支援の代替なので、 生活費支給を同時に受給することはできないが、参加者の早期雇用確保に 向けた意欲向上のため、プログラムの参加後 30 日以内に就職が決まった場 −25− 合は特別ボーナスが支給されることになっている。2004 年は 18 ヵ国 151 人が同プログラムに参加し、うち 90 人が就職先を確保した。就職先の平均 時給は8ドル 10 セント(約 884 円)である。 d.医療 医療関連の援助は、難民再定住室からの医療扶助資金枠から資金提供が州 政府に対して行われ、主に、低所得者を対象にした公的医療保険制度である Medicaid(州によって別の名称を用いている場合もある)の一環として実施 されている。 また、別途予防医療に特化した資金枠もある。 e.一般福祉制度 難民は一般の福祉制度を利用することが可能である。主だった福祉制度と してあげられるのは、要保護家族一時支援プログラム(Temporary Assistance for Needy Family(TANF))、食糧券(Food Stamps)、補完的保障収入 (Supplemental Security Income(SSI))等である。支給額、所得制限な どの運用の詳細は各州によって違いがある。 3.カリフォルニア州における定住支援 調査団は、難民定住者がもっとも多いカリフォルニア州を訪問したところ、同州に おける定住支援は以下の通り。 (1)カリフォルニア州の難民定住概況 カリフォルニア州が 1975 年以降に受け入れた累積の難民数は 68 万 8,000 人を 超え、1980 年から 2002 年度の難民(国内認定者は除く。アメラジアン等は含む) の新規定住者累積数は米国全 51 州22中最も多く(41 万 5,850 人)、また、2004 年 度のクオータ難民の新規定住数は 6,700 人を越える。州内の定住支援プログラム に参加した国内認定者は過去3年で 3,000∼4,000 人程度である。 2004 年 11 月現在、カリフォルニア州で最も大きい新規受入難民の出身地域は 旧ソビエト連邦、東南アジア、旧ユーゴスラビア諸国である。1990 年以前につい てはベトナム、カンボジア、ラオスからの受入れが最も多かった。 (2)定住支援実施機関及び管轄プログラム 難民定住支援の主な管轄部署はカリフォルニア州社会福祉省難民プログラム局 (Department of Social Services, Refugee Programs Bureau)である。管轄する プログラムは、生活費支給、医療支援のほか、難民雇用・社会サービス(Refugee Employment and Social Services)資金枠及び特定地域支援(Targeted Assistance) 資金枠で実施される各種プログラム等で、全額、連邦政府からの資金提供による ものである。また、医療はカリフォルニア州保健省難民保健課(Department of 22 クオータ難民(キューバ・ハイチ・ベトナムからの特別措置による入国者を含む)を入国直後に最も 多く受け入れているのはカリフォルニア州である。以下、ニューヨーク州(24 万人)、フロリダ州(22 万人)、テキサス州(9万人)、ワシントン州(8万人)である(但し、1983 から 2002 年の累計)。 −26− Health Services, Refugee Health Section) の管轄である。 州内 58 の郡社会福祉部は、州の社会福祉省から監督を受け、各種プログラムの 受付や生活費支給、医療扶助、或いは郡独自の社会福祉支援も行う。社会・雇用 サービス関連のプログラムを実施する団体は、郡などが競争入札を行って選考す る。調査団が訪れたサクラメント郡ではサクラメント雇用訓練機構(Sacramento Employment and Training Agency(SETA))がこれらの管理を行っていた。実 施団体の中には相互扶助団体(Mutual Assistance Associations(MAAs))が 含まれ、現場の支援において言語的、文化的配慮がきめ細かになされることが期 待されている。 このほか、難民に関わる問題を取り扱う諮問委員会として、カリフォルニア州 難民支援サービス諮問委員会(State Advisory Council on Refuge Assistance and Services)、カリフォルニア州合同ボランティア団体委員会(Joint Voluntary Agencies Committee of California)等がある。 (3)支援内容 (イ)生活費支給 a.対象者 他の公的生活費支援の非対象者。具体的には、後述する CalWORKs の所得制 限は越えないもののその他の条件があわない者、つまり、単身者や子どもの いない夫婦等。 b.支給期間 クオータ難民は、米国に入国してから8ヵ月間。国内認定者の場合は、庇 護を付与されてから8ヵ月間。 c.受給中の要件 雇用、教育、若しくは職業訓練のプログラムに参加しなくてはならない。 また、支援金の受給中には仕事を自ら辞めることはできない。また、就職斡 旋を断ることもできない。 d.支給基準23 単身者(稼動可)340 ドル(約3万 7,097 円)。 夫婦 (稼動可)584 ドル(約6万 3,720 円)。 e.支給期間 入国後8ヵ月間。 (ロ)言語教育 a.教育ガイドライン 原則的に「カリフォルニア州成人教育基準(California Adult Education 23 サンタクララ郡資料。 −27− Standards)」に沿うカリキュラムである。同基準と過去の経験に基づいて、 実施団体は独自のプログラムを組むことができる。但し、難民向けには全授 業数の半分は雇用に関わる語彙や技術に関する事項を扱わねばならない。 b.指導者 成人教育指導者の免許を持ち、難民や移民に対する教育に関わった経歴を 持つこと、就職指導技術を持つことが求められている。 c.クラスの規模と頻度 指導者1名あたり平均して 25 人程度である。入学は通年で受け付けており、 授業は週5日、1日4時間である。 d.内容 240 時間(60 日)を修了した時点で、当事者の就職に関する準備状況の評 価を行う。この評価結果によって適切と判断されれば、職業相談員 (job developer)による就職活動支援、履歴書記入の援助、面接の練習等を受ける ことができる。受講者はクラスの途中であっても、就職先が見つかればいつ でも就職することができる。 e.受講期間 プログラムの目標は1年以内に就職することであるが、最長2年受講を継 続することが可能である。なお、実施団体は受講者が就職した後も、30 日後、 90 日後、180 日後にそれぞれの状況を確認し、必要に応じた対応をしなくて はならない。 なお、前述のように調査団が訪れたサクラメント郡においては、サクラメン ト雇用訓練機構が難民の定住支援プログラムを管理しているが、同機構が提供 する言語教育関連資金枠には、就職活動支援を付加した職業英語プログラム、 職業訓練を付加した職業英語プログラム、オン・ザ・ジョブトレーニング (On-the-job training)を付加した職業英語プログラムがある。例として、調 査団が訪問した Sacramento Lao Family Community, Inc.及び Grant Joint Union High School 学校区が運営する Grant Adult Education Center の職業英語ク ラスについて述べる。 ① 職業英語クラス(Sacramento Lao Family Community, Inc.24) 対象者は、それぞれの母語(モン、ラオ、ロシア語)のバイリンガル教 師によって 240 時間の英語の授業を受ける。1日2クラス(1クラス 20 24 Sacramento Lao Family Community, Inc.は、1982 年にサクラメント郡などのラオス人(モン族、ミェ ン族、ラオ族)を支援するために設立され、1990 年以降はラオス人に限らず、東南アジア出身者や旧ソ ビエト連邦出身者への支援も行っている。現在サクラメント市内に2ヵ所の活動拠点を持つ。サクラメン ト雇用訓練機構からの支援を受けているプログラムを含めて、現在 10 のプログラム(高齢者交通支援、 帰化支援等)を実施している。なお、同団体はMAAに種別される。 −28− 人から 30 人)開講している。授業では日常生活を過ごす上で必要な英語力 (書くことも含め)をつけることを目的とし、修了者がごく初歩的な雇用 レベルに応募できるように支援する。 Sacramento Lao Family Community, Inc.の職業英語クラス Sacramento Lao Family Community, Inc.の職業英語クラス・生徒の作品 ② 職業英語クラス(Grant Adult Education Center) クラスは1日6時間、週5日授業が行われる。クラスのレベルは事前に 行われる試験の結果によって四つに分かれている。常時約 500 人(同セン ターは一般の成人学校であり、生徒は難民だけに限っていない)がこの職 業英語クラスを受講しており、1クラスは約 40 人である。 授業はまず、聞き取りに重点が置かれる。その後、読解、書き取りの順 に習得がなされるようにカリキュラムが組まれている。難民については、 特に生活に密着した英語(電話の受け答え、家主とのやり取り等)の習得 に力を入れている。 −29− 指導者は校区に所属した有給職員で、ESLの教員免許を持つ者である。 なお、当該施設は、成人学校なので受講生は 18 歳以上と定められている。 (ハ)就職支援 州政府の難民雇用・社会サービス (Refugee Employment and Social Services (RESS))資金枠などから公的な資金が郡等に提供される。 同資金枠からの拠出は過去5年間に 500 人以上の新規受入れがあった郡が対 象で、2004 年度は 10 郡(州内 58 郡中)が同資金を得ている。各郡には難民コ ーディネーターがおり、プログラムの立案から実施を担当している。拠出額は 各郡内の生活費支給を受けている難民数に応じている。2004 年度の拠出総額は 約 900 万ドル(約9億 8,199 万円)である。 プログラムの対象は原則入国後5年以内のクオータ難民及び庇護の付与後5 年以内の国内認定者である。但し、必要が認められれば5年を過ぎた者もプロ グラムの対象としている。 この資金枠内で実施されているプログラムは実にさまざまで、内容は 27 頁 (ロ)で述べたような職業英語クラスや職業訓練、就職活動支援等である。 例として、調査団が訪問した Grant Joint Union High School 学校区が運営 する Grant Adult Education Center の職業訓練クラスと、Asian Resources, Inc. 等が運営する Sacramento Work Career Center の一つである Broadway Career Center の就職活動支援プログラムについて述べる。 a.職業訓練クラス(Grant Adult Education Center) 2005 年現在、職業訓練クラスは五つあり、技術別に保守、電機、内装、塗 装、配管に分かれる。クラスは受講生がこれらの技術分野(公的部門、民間 部門)で職を得ることを最終的な目標としている。修了に要する時間はクラ スによって違い、保守は 60 時間、内装は 100 時間等である。 2004 年はこれらのクラスを受講した難民 400 人のうち 275 人が就職先を得 た。 なお、開講する技術分野は、その時々の求人傾向に対応するよう配慮して いる。 −30− Grant Adult Education Center の職業訓練クラス教室 b.就職活動支援プログラム(Broadway Career Center) 複数の機関が共同運営する就職活動支援を目的としたワンストップ・サー ビスセンター「Broadway Career Center」では、雇用に関するオリエンテー ション、個別のキャリアのアセスメントを始め、履歴書指導、各種資料提供、 またコンピューター等の通信機器提供を行っている。2003 年度は難民も含め、 約 4,000 人がこのセンターを利用した。2003 年は Asian Resources, Inc.が 運営する2ヵ所のワンストップ・サービスセンターにおいて 300 人の難民が プログラムを利用し、うち 121 人が就職先を確保した。 Broadway Career Center 外観 また、Sacramento Lao Family Community, Inc.においても社会適応及び文 化オリエンテーションプログラム(母語(モン、ラオ、ミェン、ロシア語) −31− を話す職員が個別に対象者に対応し、雇用と社会サービスを活用しつつ自活 を目標にしたカウンセリングを行う)や雇用支援プログラム(個別に就労相 談、履歴書記入の指導、就職後の事後支援を行う)等が実施されている。 (ニ)医療支援(Refugee Medical Assistance(RMA)) カリフォルニア州の公的医療保険制度(MediCal)の一カテゴリーとして位置 づけられている。対象者は低所得者(所得制限は、生活費支給や医療扶助対象 者と同額)で、支給期間は入国後8ヵ月以内である。自己負担額は無料もしく は収入に応じた額である。 また、カリフォルニア州では、以下のような難民に特化した医療支援も行わ れている。 a.健康診断 カリフォルニア州が入国後最初の定住地である難民や移転してきた難民が 健康診断を受けられるよう地域団体に資金援助をしている。訓練された通訳 者が医療制度の説明や医療施設の紹介の援助も行い、健康診断によって判明 した必要な治療に繋いでいる。年間予算は約 4,500 万ドル(約 49 億 995 万円) である。当該プログラムの実施団体は競争入札によって決定する。実施団体 は四半期ごと、半期ごと等に実施報告を提出する。 b.予防医療 プログラムの趣旨の実際は結核蔓延防止であり、クオータ難民、国内認定 者、一時滞在者、二次移動難民が対象である。実施団体はプログラムのフォ ローアップも担当する。年間予算は約 48 万ドル(約 5,237 万円)である。 c.健康教育 さまざまな背景を持つ難民に対して地域社会がよりよい保健サービスを提 供することができるようになることを目標に、健康教育についてのニーズ調 査、難民社会に伝統的な健康法の調査、地域社会の支援の仕組みを構築する ための訓練、情報センターの設置等が行われている。 d.女子割礼に関する活動 女子割礼は主にアフリカ出身の女性の健康において大きな課題となってお り、医療従事者及び難民のコミュニティに対する保健教育プログラムの作成 を行っている。 e.医療通訳 通訳者に関する基準の設定や公的な認定制度を設けるべきであるという理 念の下、全米規模でこれらがなされるように各関係機関に呼びかけを行って いる。連邦政府難民再定住室の資金(Set Aside Fund)により、医療通訳者 の訓練や医療従事者に対して通訳者や難民と関わる際の対応についての訓練 等が提供される予定である。 −32− f.難民保健電子情報システム 地域の難民保健プログラムからの難民の保健に関する情報がインターネッ トを通じて逐次報告されるようになっている。連邦政府難民再定住室への補 助金申請や報告にもデータが活用されている。 (ホ)その他 a.保護者のいない難民児童プログラム 社会福祉省は州内の保護者のいない難民児童に対するプログラム実施の委 託契約を Catholic Charities of San Jose と結んでいる。原則的には 18 歳 になるまでが支援(生活に関わる必要経費の支給等)対象となる。なお、カ リフォルニア州では、養育家庭に入った児童は 21 歳になるまで別プログラム (Independent Living Program)の対象になり、自立支援が提供される。 サクラメント郡雇用訓練機構は以下二つの支援プログラムを実施している が、詳細については本調査では判明していない。 ・タイ国タム・クラボック寺院からのモン族難民 25に対する家族支援と地 域計画 ・公的支援の非受益者に対する雇用支援 (へ)一般の福祉制度 前述した通り、クオータ難民及び国内認定者は一般の福祉制度を利用するこ とも可能である。以下は、カリフォルニア州における一般の福祉制度の代表例 である。 a . CalWORKs(California Work Opportunity and Responsibility to Kids Program) 低所得者に対する生活費支給と雇用確保(職業訓練、保育、交通手段確保 等が支援内容に含まれる)を目的とした制度である。連邦レベルでは要保護 家族一時支援プログラム(Temporary Assistance for Needy Family(TAN F))と呼ばれる。 ・対象者 18 歳以下の子どもがいる家族。 ・所得制限(サンタクララ郡。以下同様) (例)対象者2人で1人稼動 対象者4人で2人稼動 829 ドル(約9万 452 円)。 909 ドル(約9万 9,181 円)。 ・支給基準(月額・最高額)(サンタクララ郡。以下同様) (例)対象者2人で1人稼動(1人親、3歳の子ども) 584 ドル(約6万 3,720 円)。 25 ラオスのモン族はベトナム戦争当時、米国中央情報局に徴用されたが故にラオスの新政権に弾圧を受 けた。多くが米国にも流入したが、タイのタム・クラボック寺院には 90 年代には3万人を超えるモン族 の難民が滞留していた。2003 年にタイ政府がこれらモン族難民の帰還をラオス政府に照会したが、ラオ ス政府はこれを拒否した。同年、米国は1万 5,000 人の同寺院のモン族難民の受入れを表明した。うち 6,000 人はカリフォルニア・セントラルバレー地域に再定住を予定し、そのうち 2,000 人がサクラメント 地域に再定住する。なお、現在サクラメント周辺には約3万人のモン族が居住するとみられる。 −33− 対象者4人で2人稼動(2人親、10 歳と3歳の子ども)862 ドル(約 9万 4,053 円)。 ・支給期間 5年(合計。但し、大人の場合) b.食糧券(Food Stamps) 低所得者に対する食糧供給を目的とする。 ・対象者 低所得者(家族単位)。子どもは 22 歳までが家族とみなされる。 ・所得制限 (例)単身者 月総所得 1,009 ドル(約 11 万 9,092 円) 月純所得 2人家族 776 ドル(約 8万 4,669 円) 月総所得 1,354 ドル(約 14 万 7,735 円) 月純所得 1,041 ドル(約 11 万 3,584 円) 3人家族 月総所得 1,698 ドル(約 18 万 5,269 円) 月純所得 1,306 ドル(約 14 万 2,498 円) 但し、同額から定額・保育料・養育費控除(定額、保育費、養育費) がある。また、別途年齢別に資産制限が設けられている。 ・支給基準(月額・最高額) (例)単身者 149 ドル(約1万 6,257 円) 2人家族 274 ドル(約2万 9,896 円) 3人家族 393 ドル(約4万 2,880 円) c.補完的保障収入・州加算支給 (Supplemental Security Income(SSI)/State Supplementary Payment (SSP)) SSIは連邦政府が管轄するプログラムであるが、カリフォルニア州はそ れに州独自の加算 (SSP)をしている。以下の支給額はSSIとSSPの合 算である。 ・対象者 高齢者(65 歳以上)、障害者、視覚障害者。 非米国籍者(帰化していない難民等)は、入国後7年まで。 ・所得制限 単 身 者 2,000 ドル(約 21 万 8,220 円)の資産、低収入。 2人家族 3,000 ドル(約 32 万 7,330 円)の資産、低収入。 ・支給基準(月額・最高額)(人数、居住状況等に応じる) (例)単身高齢者 812 ドル(約 8万 8,597 円) (4∼12 月) 障害者児童 698 ドル(約 7万 6,159 円) 高齢または障害者夫婦 1,437 ドル(約 15 万 6,791 円) 同上(同居人あり) 1,175 ドル(約 12 万 8,204 円) 視覚障害者夫婦 1,664 ドル(約 18 万 1,559 円) −34−
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